説明

ニップロール

【課題】ニップロールの軸方向におけるニップ圧の差異を小さくすることができ、ニップロールの表面を研磨または再研磨するときには外形が直線的であるから精度が得やすく加工費が少なくて済むニップロールを提供する。
【解決手段】胴部の中心から端部にかけて直径が一定の金属材料でできたロール芯と、そのロール芯を被覆しヤング率が前記胴部の中心から端部にかけて漸次減少するゴム弾性材料でできた胴部表面層とを備えるようにしたニップロール。また胴部表面層の外径が胴部の中心から端部にかけて一定であるようにしたニップロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウェブを挟持して移送するニップロールの技術分野に属する。特に、ニップロールの軸方向におけるニップ圧の差異を小さくすることができるニップロールに関する。
【背景技術】
【0002】
用紙やプラスチックフィルム等のウェブを取扱う機械においてウェブを一対のロールで挟持して移送することが一般に行われている。具体的には、機械のインフィードユニット、アウトフィードユニット、ラミネート加工ユニット、エンボス加工ユニット、等において適用される。多くの事例において、ウェブを挟持する一対のロールの一方には表面層がゴム弾性材料のロール(ゴムロール)が使用され、他方には金属材料のロール(金属ロール)が使用される。
なお、ウェブを挟持(ニップ)する目的のこれらゴムロールと金属ロールの中で、ゴムロールのことを、ここでは、ゴムロールまたはニップロールと呼ぶ。
【0003】
図4に矢印で示すように、ゴムロールの左右端部に存在する軸に作用する力がゴムロールによって金属ロールを加圧する力となる。このとき、金属ロールからの反作用の力がゴムロールの中央部に存在する胴の部分に加わる。ゴムロールの左右端に作用する力と、ゴムロールの中央部に作用する力は逆方向の力であるから、当然、ゴムロールは撓むことになる。その結果、従来の一般的なゴムロール(ニップロール)においては、その胴の周辺部においてはニップ圧が高く、中心部においてはニップ圧が低くなる。そのため、たとえば2枚以上のフィルムを貼り合せるラミネータに適用するとシワが発生したり、接着強度ムラ、フィルム肉厚ムラの原因となっていた。
【0004】
このニップロールの軸方向におけるニップ圧の差異を小さくするために、以下の方法が提案されている。
(1)ニップロールの胴の中央部の外径を膨らませたクラウン形状にする方法(特許文献1)。この方法では、ゴムの摩耗に伴い性能が維持できなくなる。また外形の再研磨が必要なときには、クラウン形状を得るために加工費が大となる。
(2)ニップロール背後に撓みの少ないバックアップロールを配置する方法(特許文献2)。この方法では、バックアップロールを追加することから設備費が大となる。
(3)上記の2方法を組合わせる方法(特許文献3)。この方法では上述の両方の問題を有する。
【特許文献1】特開平8−11204号公報
【特許文献2】特開2003−305393号公報
【特許文献3】特開平5−241466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解決するために成されたものである。その目的は、ニップロールの軸方向におけるニップ圧の差異を小さくすることができ、ニップロールの表面を研磨または再研磨するときには外形が直線的であるから精度が得やすく加工費が少なくて済むニップロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係るニップロールは、胴部の中心から端部にかけて直径が一定の金属材料でできたロール芯と、そのロール芯を被覆しヤング率が前記胴部の中心から端部にかけて漸次減少するゴム弾性材料でできた胴部表面層とを備えるようにしたものである。
また本発明の請求項2に係るニップロールは、請求項1に係るニップロールにおいて、前記胴部表面層の外径は前記胴部の中心から端部にかけて一定であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に係るニップロールによれば、ロール芯が胴部の中心から端部にかけて直径が一定の金属材料でできており、胴部表面層がそのロール芯を被覆しヤング率が胴部の中心から端部にかけて漸次減少するゴム弾性材料ででている。すなわち、胴部の中心ではゴム弾性材料のヤング率が最も大きく胴部の中心から端部にかけてゴム弾性材料のヤング率がが漸次減少する。したがって、ニップロールの軸方向におけるニップ圧の差異を小さくすることができる。
また本発明の請求項2に係るニップロールによれば、胴部表面層の外径は前記胴部の中心から端部にかけて一定であるようにしたものである。したがって、ニップロールの表面を研磨または再研磨するときには外形が直線的であるから精度が得やすく加工費が少なくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明のニップロールの構成を断面図で示した図である。図1において、1a,1bは軸、2はロール芯、3は胴部表面層である。ニップロールは軸部と胴部とから構成され軸部は軸1a,1b、胴部はロール芯2と胴部表面層3から成る。
軸1a,1bはニップロールを回転自在に支持するため胴部の左右端面に結合した軸である。軸1a,1bの軸受けは、通常は、アームや直線移動機構によって支持され機械のフレームに対して可動である。ニップロールに対向して設けられ、ウェブを挟持する他方のロール(図4参照)の軸受けは、通常は、フレームに対して固定されている。ニップロールをその軸1a,1bにおいて変位させニップロールと対向するロールとを接触させウェブを挟持する。そのときのニップ圧は軸1a,1bに作用する力に起因している。
【0009】
ロール芯2はニップロールの芯であり鉄、アルミニウム、合金、等の金属材料でできている。ロール芯2は軸1a,1bと強固に結合している。図1において断面を示すように、ロール芯2はニップロールの胴部の中心においても端部においても直径が一定である。
【0010】
胴部表面層3はロール芯2を被覆するゴム弾性材料でできている。ゴム弾性材料とはゴム状の弾性(Rubberlike Elasticity)を有する材料である。たとえば、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(Si)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、二トリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FPM)、ブチルゴム(IIR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等の材料である。なお括弧の中はASTM略号である。
【0011】
胴部表面層3の外径は、図1に示すように、胴部の中心においても端部においても一定である。この外径は、必ずしも一定とする必要性はない。しかし、ニップロールの表面を研磨または再研磨するときには外形が直線的であるから精度が得やすく、また加工費が少なくて済むため好適である。
【0012】
胴部表面層3は、図1に示すように、a〜eの複数種類のゴム弾性材料から構成される。それらゴム弾性材料a〜eの各々はヤング率が異なっている。ゴム弾性材料a〜eの材料名、たとえば上述したクロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム(Si)、等の材料名は異なっていても同一であってもよい。ゴム弾性材料a〜eの物理的な特性であるヤング率において各々は異なっている。ヤング率の大小関係は(ゴム弾性材料a)<(ゴム弾性材料b)<(ゴム弾性材料c)<(ゴム弾性材料d)<(ゴム弾性材料e)となっている。すなわち、胴部表面層3のヤング率は胴部の左右端部から中央部にかけて漸次増大するゴム弾性材料ででている。言い換えると、胴部表面層3のヤング率は胴部の中心部から左右端部にかけて漸次減少するゴム弾性材料ででている。
【0013】
以上の構成において、次に本発明のニップロールを使用したときの動作態様について図を参照して説明する。図2は鉄ロールに本発明のニップロール(ゴムロール)を接触させて加圧した状態を断面図として示す図である。図2において図1と同一部分には同一符号を付してある。
図2においても図4におけると同様でニップロールは撓むことになる。すなわち、図2に矢印で示すように、ニップロールの左右端部に存在する軸に作用する力がニップロールによって金属ロールを加圧する力となる。このとき、金属ロールからの反作用の力がニップロールの中央部に存在する胴の部分に加わる。ニップロールの左右端に作用する力と、ニップロールの中央部に作用する力は逆方向の力であるから、当然、ニップロールは撓むことになる。
【0014】
その撓みの方向としては、図2においてニップロールの軸1a,1bは鉄ロールに近付く方向に撓み、ニップロールの胴部の中央部が相対的に鉄ロールから遠退く方向に撓むことになる。ニップロールの軸1a,1bが鉄ロールに近付く方向に撓むということは、胴部の左右端部が鉄ロールに近付く方向に撓むことと同じである。したがって、ニップロールの胴部の左右端部が鉄ロールに近付く方向に撓み、中央部が相対的に鉄ロールから遠退く方向に撓むことになる。また、このときニップロール(ゴムロール)だけが撓むのではなく、鉄ロールも同様にニップロールに対して撓むことになる。その結果、ニップロールの胴部の中央においては胴部表面層3の厚さの変形量(圧縮量)が小さく、ニップロールの胴部の端部においては胴部表面層3の厚さの変形量が大きくなる。
【0015】
ここで胴部表面層3の厚さをL、変形量をδL、ヤング率をEとすると、応力(F/S)は(F/S)=E×(δL/L)の関係がある。図2示すように、ニップロールの胴部の左右端部においては胴部表面層3のヤング率が小さく、胴部の中央部においては胴部表面層3のヤング率が大きい。そこで胴部表面層3の左右端部におけるヤング率を同一のEe、その変形量をδLeとする。また、胴部表面層3の中央部におけるヤング率をEcとし、その変形量をδLcとする。
【0016】
上述の撓みによってδLc<δLeの関係がある。また図2に示す本発明のニップロールにはE c>Eeの関係がある。そこで、E c×δLc=Ee×δLeの関係が成立するようにE cとEeとを決めれば、応力(F/S)=Ec×(δLc/L)=Ee×(δLe/L)となる。すなわち、胴部の中央部においても左右端部においても同一のニップ圧が得られることになる。
なお、図4に示した従来の一例においては、撓みによってδLc<δLeの関係があるのは同じであるが、図4に示すニップロール(ゴムロール)ではEc=Ee=Eの関係があるため、E×(δLc/L)<E×(δLe/L)となり胴部の中央部と左右端部においてニップ圧が異なる。
【0017】
上述においては、説明を簡明とするため、変形が一次元変形だけであるかのように説明したが、実際のニップロールと鉄ロールは、三次元変形を行うため、撓みや応力の計算方法が極めて複雑となる。実際のその計算には有限要素法を適用してコンピュータ解析を行う必要性がある。胴部表面層3の厚さ、実使用時においてニップロールに印加する力、ニップロールの外径寸法、等が決められた後に、胴部の中心でのヤング率が最大で胴部の中心から端部にかけてヤング率が漸次減少する胴部表面層3の物理的な特性を決定する必要性がある。そのためには、有限要素法を適用してコンピュータ解析を行うことが好適である。
【0018】
次に、コンピュータ解析の一例について説明する。表1は、解析条件として胴部表面層3のヤング率の一例を示す表である。その胴部表面層3を有するニップロールは図1に構成の一例を示したニップロールであり、胴部表面層3はゴム弾性材料a〜eから構成されている。
(表1)
(領域名) (ヤング率(MPa))(左右端部からの位置(mm))
ゴム弾性材料a 6.0 0〜50
ゴム弾性材料b 6.25 50〜00
ゴム弾性材料c 6.5 100〜285
ゴム弾性材料d 7.0 285〜470
ゴム弾性材料e 7.5 470〜中央
【0019】
胴部表面層3のヤング率以外の条件は次のとおりである。
胴部表面層3の厚さ : 15mm
ロール面長 : 1680mm
ゴムロール径 : 240mmφ
鉄ロール径 : 240mmφ
負荷 : 1トン/全幅
【0020】
計算結果は、下記の表2のとおりとなる。表1において上から1番目の行はゴムロールの中心軸と鉄ロールの中心軸を含む面とゴムロールの周面とが交差する位置を原点(0mm)としたときのゴムロールの胴部表面層3における接線方向の座標(mm)である。また表2において2番目の行はその位置に付した番号である。また表2において左から1番目の列はゴムロールの胴部表面層3における軸方向の位置に付した番号である。また表2において左から2番目の列はその軸方向の位置の座標(mm)である。また表2において左から8番目の列はその軸方向の位置のヤング率である。
【表2】

【0021】
図3は、表2を図として示したものであって、データは同一であり。表2、図3に示すように、接触圧力の最大値(中央部)は673kPaであり、最小値(左右端部)は629Paであり、その比率(最小値/最大値)が93.5%である。
同様の条件で胴部表面層3のヤング率を均一としたときには、接触圧力の最大値(左右端部)は609kPaであり、最小値(中央部)は523Paであり、その比率(最小値/最大値)が85.9%である。
このように本発明のニップロールにおいては、ニップロールの軸方向におけるニップ圧の差異を小さくすることができる。
【0022】
上述の実施の形態においては、表1に示す一例のとおりの胴部表面層3の分割数(相違するゴム弾性材料の数)、分割する位置とした。しかし、本発明のニップロールはこの一例に限定されるものではなく、胴部表面層3の分割数や分割する位置は任意である。
また、図1においては複数あるゴム弾性材料の各々の境界は胴部の表面に対して直角方向の境界となっている。しかし、本発明のニップロールはこの一例に限定されるものではなく、境界を斜め方向の任意の角度とすることができる。それにより、境界においてヤング率が急変することによる悪影響を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のニップロールの構成の一例を断面図で示した図である。
【図2】鉄ロールに本発明のニップロール(ゴムロール)を接触させて加圧した状態を断面図として示す図である。
【図3】胴部表面層3の接触圧力の一例を位置ごとに示す図である。
【図4】ゴムロールの左右端部に存在する軸に作用する力がゴムロールによって金属ロールを加圧する力となることを示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1a,1b 軸
2 ロール芯
3 胴部表面層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部の中心から端部にかけて直径が一定の金属材料でできたロール芯と、そのロール芯を被覆しヤング率が前記胴部の中心から端部にかけて漸次減少するゴム弾性材料でできた胴部表面層とを備えることを特徴とするニップロール。
【請求項2】
請求項1記載のニップロールにおいて、前記胴部表面層の外径は前記胴部の中心から端部にかけて一定であることを特徴とするニップロール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−29494(P2006−29494A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211345(P2004−211345)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】