説明

ニトリルの接触水素化方法

アミンおよび触媒の存在下でニトリルを接触水素化するための方法であって、触媒が、触媒をアミンと接触させる前に水酸化物と接触した液体洗浄されたラネー型触媒である方法。本発明の方法は、ジニトリルからのジアミンの形成において高い選択性をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、アミンと、水酸化物と、新たに調製し、かつ液体で洗浄したラネー型触媒との存在下でニトリルを接触水素化するための方法に関する。
【0002】
そのような方法が米国特許第5,777,166号から知られている。この知られている方法では、触媒は、元素周期表の第IVb族から選択される少なくとも1つのさらなる金属元素を有するラネーニッケル型触媒(この場合、このラネーニッケル型触媒はNi/Al/ドープ元素の冶金学的前駆体合金に由来し、ドープ元素/Niの重量比が0.05%〜10%の間である)であり、水酸化物と一緒にニトリルを溶解する液体反応媒体中でニトリルにさらされ、それにより前記ニトリルを水素化する。米国特許第5,777,166号における水酸化物は、LiOH、NaOH、KOH、RbOHおよびCsOHからなる群から選択される少なくとも1つの無機塩基である。液体反応媒体は、少なくとも部分的に水性の反応媒体が好都合であると記載され、そして、前記方法の好ましい特徴によれば、この方法によって目的のアミンもまた反応媒体に含まれる。米国特許第5,777,166号に開示された実施例には、ヘキサメチレンジアミン(HMD)の、HMD/エタノール/水の混合物におけるアジポニトリルの水素化による調製が記載される。最初に、触媒は、反応装置に導入される前に水で洗浄する。その後、ジアミンおよび水を含む液体反応媒体を加える。次いで、水酸化物を、要求される水分パーセントを調節するために必要な水の量とともに導入する。この知られている方法では、ジアミン形成について改善された選択性を有し、かつ、他方では不純物をできる限り減少させることが主張されている。
【0003】
この知られている方法の不都合な点は、ジアミン形成に対する選択性、および不純物の減少が依然として最適でないということであり、スクシノニトリルが水素化されるニトリルである場合には特にそうである。
【0004】
本発明の目的は、アミン、および、水酸化物と接触させる、液体で洗浄したラネー型触媒の存在下でニトリルを接触水素化する方法であって、知られている方法と比較して、ジアミン形成に対する選択率がさらに改善され、かつ、不純物の形成がさらに減少している方法を提供することである。
【0005】
これは、新たに調製し、かつ液体で洗浄したラネー型触媒を、触媒をアミンと接触させる前に水酸化物の少なくとも一部と接触させる本発明による方法を用いて達成される。
【0006】
本発明の方法の利点は、本発明の方法では、先行技術による方法よりも、出発ジニトリルに対するジアミン形成の選択性が高く、かつ、不純物の量が少ない、ジニトリルの水素化からのジアミンの形成が可能であるということである。さらに、ニトリルを対応するアミンおよび副生成物に変換するための反応速度が、先行技術による方法と比較して増大している。
【0007】
本出願に関連して、ニトリルの反応速度とは、1秒あたり形成される、対応するアミンおよび副生成物を含む反応生成物の量と、水素化プロセスが行われる反応媒体に存在するニトリルのその時の量との比率と理解される。
【0008】
本出願に関連して、用語「新たに調製した触媒」とは、洗浄される前に触媒プロセスで使用されていない触媒と理解される。新たに調製した触媒は、短い期間にわたって、または、長い期間にわたって貯蔵されていた可能性がある。貯蔵の後、新たに調製した触媒は、本発明による方法におけるさらなる使用の前に洗浄することができる。
【0009】
本出願に関連して、用語「副生成物」とは、水素化プロセスにおけるニトリルの変換によって形成される目的のアミンとは異なる任意の生成物と理解される。
【0010】
本出願に関連して、水素化プロセスの選択性とは、水素化プロセスにおいて形成される目的のアミンと、他の生成物との間の比率に関係するものと理解される。選択性は、目的のアミンおよび副生成物が形成されるそれぞれの量の間のモル濃度として表すことができる。
【0011】
本発明による方法において使用され得る好適なニトリルは、例えば、ニトリル置換された脂肪族化合物およびニトリル置換された芳香族モノニトリルである。脂肪族化合物における脂肪族基は直鎖状または分枝状であり得る。ニトリルは、例えば、モノニトリル、すなわち、1つのニトリル基を含む化合物およびジニトリル、すなわち、2つのニトリル基を含む化合物であり得る。
【0012】
好適なモノニトリルは、例えば、式R−CNのニトリル(式中、Rは、1個〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキルラジカル基である)であり、例えば、メチルニトリル(C1−アルキルラジカル基を含む)、エチルニトリル(C2−アルキルジラジカル基を含む)、ブチルニトリル(C4−アルキルラジカル基を含む)、ペンチルニトリル(C2−アルキルジラジカル基を含む)およびヘキシルニトリル(C6−アルキルラジカル基を含む)などである。
【0013】
好適なジニトリルは、例えば、式NC−R−CNのジニトリル(式中、Rは、1個〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキルジラジカル基である)であり、例えば、スクシノニトリル(C2−アルキルジラジカルを含む)およびアジポニトリル(C4−アルキルジラジカルを含む)などである。
【0014】
好ましくは、ニトリルはジニトリルである。ジニトリルは、副生成物がはるかに形成しやすく、ジニトリルの水素化は一般に、環化生成物および/または高次オリゴマーの形成を伴う。ジニトリルの水素化を含む本発明による方法に関して、ニトリル基をアミン基に変換し、かつ、それにより、目的のジアミンを形成することの選択性が、モノアミンに対する場合よりもさらに大きい。
【0015】
より好ましくは、ジニトリルはスクシノニトリルである。一般に、スクシノニトリルは、対応する環化生成物(この場合には、ピロリジン(PRD))を形成する傾向が(すべてではないが)ほとんどの他のジニトリルよりも大きく、ジアミン形成(この場合には、ジアミノブタン)に対する選択性が非常に低い。例えば、ラネーNi触媒が水酸化物およびアミンの非存在下で使用される水素化プロセスでは、ジアミノブタン(DAB)形成に対する選択性はPRDの選択性のほぼ半分にすぎない(例えば、F.Devred他、Applied Catalysis A:General、6454(2002)1−1を参照のこと)。水素化プロセスが特定の環状ウレア化合物の存在下で行われる状況の場合、変換されたSNのモル百分率として表されるDAB変換が45%〜74%であり、これに対して、対応するPRD変換は約25%〜14%であることが報告されている(特開2001−172229)。しかしながら、知られている方法の場合では、DABに対する選択性は約76%のDAB変換レベルにまでしか改善されず、PRDを含む副生成物の形成は約18%のレベルと見積もられている。SNの水素化を含む本発明による方法では、対応するジアミンに対する選択性はさらに大きく改善されている。
【0016】
本発明による方法では、ニトリルの水素化がアミンの存在下で行われる。この目的のために使用され得る好適なアミンは、モノアミン、ジアミンおよび高次アミンである。
【0017】
好適なモノアミンは、例えば、式R−NHのアミン(式中、Rは、1個〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキルラジカル基である)であり、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミンおよび2−エチルヘキシルアミンなどである。
【0018】
好適なジアミンは、例えば、式HN−R−NHのジアミン(式中、Rは、1個〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキルラジカル基である)であり、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンなどである。
【0019】
好ましくは、アミンは、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンからなる群から選ばれるジアミンである。これは、これらのジアミンが、ポリアミドなどのポリマーを調製するための非常に好適な前駆体であるという利点を有するからである。
【0020】
より好ましくは、アミンは、水素化プロセスによってその調製が目的のアミンである。
【0021】
より好ましい実施形態において、水素化プロセスはスクシノニトリルの水素化を含み、ジアミンがジアミノブタンである。
【0022】
水素化触媒として好適であるラネー型触媒は、一般には、アルミニウムが多いアルミニウム−金属合金(この場合、金属は、ニッケル、コバルト、鉄、銅、白金、パラジウムおよび/またはルテニウムなどの金属である)から調製し、その際、アルミニウムを、水酸化物化合物を含む強アルカリ性溶液(例えば、水酸化アルカリ(LiOH、NaOH、KOH、RbOHおよび/またはCsOH)のいずれかの溶液、水酸化アルカリ土類(例えば、Ca(OH)および/またはMg(OH)など)のいずれかの溶液、あるいは水酸化アンモニウムの溶液など)を用いた処理によって合金から少なくとも部分的に溶出させている。好ましくは、アルカリ性溶液は、水酸化アルカリの溶液、または水酸化アルカリの混合物の溶液である。前記溶液は典型的には5重量%〜30重量%の水酸化アルカリを含む。前記溶出によって、金属残分の微結晶の凝集物(例えば、Al/Ni合金から出発したときにはNi凝集物、および、Al/Co合金から出発したときにはCo凝集物)からなる、非常に多孔性で、表面積が大きい活性化された触媒が形成される。金属合金はまた、二次的な金属元素からなるドープ元素を含むことができる。ドープ元素として使用され得る金属元素は典型的には遷移金属であり、これには、Fe、Cr、Mn、V、Mo、Zr、TaおよびTiが含まれる。ドープ元素は、アルミニウム−金属の合金の溶融物に導入されることが好都合であり、ラネー触媒の構造的および電気的な要因を変更させる。アルミニウム−金属合金のタイプ、ドープ元素のタイプおよび量、ならびに、溶出プロセスの条件(すなわち、温度、水酸化アルカリの濃度、プロセスの持続期間)、および、ラネー金属触媒における残留アルミニウム含有量はすべてが、触媒の活性、選択性および安定性に対する効果を有する変数を構成する。
【0023】
本発明の方法において都合よく使用されるラネー型触媒は、ラネーNi触媒およびラネーCo触媒またはそれらの組合せである。
【0024】
より好ましくは、Feおよび/またはCrがドープされたラネーNi触媒またはラネーCo触媒を使用する。このより好ましい実施形態の利点は、本発明による方法におけるニトリルの水素化での目的のアミンの形成に対する選択性がより大きいことである。
【0025】
溶出プロセス後、触媒は、一般に、前記溶出プロセスのときに形成された水酸化アルミニウムおよびアルミニウム微結晶を除くために徹底的に洗浄される。洗浄は、典型的には、水またはアルカリ性水溶液を用いて行われ、しかし、他の液体も、それらが効果的である限り、同様に使用することができ、洗浄は典型的には数回行われる。洗浄ステップの後、触媒は、一般に、薄いアルカリ性溶液、または、前記触媒を貯蔵するために好適な別の媒体中で貯蔵する。一般的な実施において、触媒は、水素化プロセスにおいて使用する前に、水で洗浄し、その後、反応媒体と接触させる。
【0026】
本発明による方法では、触媒は、アルカリ性溶液または触媒を貯蔵するために好適な別の媒体中で貯蔵した後、洗浄用液体で洗浄し、次いで、触媒をアミンと接触させる前に水酸化物と接触させる。この洗浄ステップは、触媒を貯蔵していたアルカリ性溶液または他の媒体の、すべてではないがほとんど(最も好ましくは、すべて)を除くために行う。
【0027】
好適な洗浄用液体は、例えば、水または水/メタノール混合物であり、好ましくは水である。水を洗浄用液体として使用することの利点は、より再現性のある結果が触媒のさらなる使用において得られるということである。
【0028】
本発明による方法において使用され得る好適な水酸化物は、LiOH、NaOH、KOH、RbOHおよびCsOHの水酸化アルカリである。好ましくは、水酸化物は、KOH、RbOH、CsOH、またはそれらの混合物である。この群から選ばれる水酸化物の利点は、アミン形成に対する選択性がより大きいことである。
【0029】
より好ましくは、最大の反応速度をもたらすので、KOHおよび/またはRbOHが水酸化物として選ばれる。
【0030】
最も好ましくは、最大の反応速度をもたらすので、KOHを使用する。
【0031】
水酸化物は、典型的には、ラネー触媒の重量に対して1重量%〜20重量%の間の量で使用する。1重量%よりも少ない量で使用することができるが、これらの量はあまり効果的ではない。20重量%よりも大きい量も同様に使用することができるが、これは触媒のさらなる性能に寄与しないので、これもまた、あまり効果的ではない。
【0032】
好ましくは、水酸化物は、ラネー触媒の重量に対して1重量%〜15重量%の間の量で、より好ましくは2重量%〜12重量%の間の量で、最も好ましくは4重量%〜10重量%の間の量で使用する。最小量が大きいと、ニトリルの反応速度およびアミン形成に対する選択性がより大きくなるという利点を有し、これに対して、最大量が少ないと、触媒の安定性が改善され、したがって、触媒再生頻度をより少なくすることができるという利点を有する。
【0033】
水酸化物としてKOHが用いられる場合、最適な量は、ラネー触媒の重量に対して6重量%前後である。
【0034】
本発明による方法では、新たに調製したラネー型触媒は、液体洗浄が行われる前に、アルカリ性溶液のもとで貯蔵されていてもよい。
【0035】
好ましくは、触媒は、触媒が洗浄後に接触する水酸化アルカリとは異なる水酸化アルカリを含むアルカリ性溶液のもとで貯蔵されている。このことは、触媒の選択性が高まるという利点を有する。より好ましくは、触媒を洗浄後に接触させる水酸化アルカリは、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムからなる群から選ばれる。最も好ましくは、新たに調製したラネー型触媒は、液体洗浄が行われる前に、水酸化ナトリウムを含むアルカリ性溶液のもとで貯蔵されており、触媒をアミンと接触させる前に水酸化カリウムと接触する。
【0036】
本発明による方法では、触媒をアミンと接触させる前に、触媒を水酸化物の少なくとも一部と接触させる。
【0037】
好ましくは、この一部は、触媒を接触させる水酸化物の総重量に対して、水酸化物の少なくとも10重量%である。より好ましくは、この一部は少なくとも20%であり、より好ましくは少なくとも50%であり、最も好ましくは水酸化物のすべてである。触媒をアミンと接触させる前に触媒を接触させる水酸化物の一部がより多いことの利点は、ニトリルの反応速度およびアミン形成に対する選択性がより大きくなるということである。
【0038】
本発明の好ましい様式において、触媒を水酸化物の少なくとも一部と接触させた後、触媒は、アミンと接触する前に、いくらか長い期間にわたってそのままで保たれる。好ましくは、その期間は少なくとも15分であり、より好ましくは少なくとも1時間であり、さらにより好ましくは少なくとも6時間であり、最も好ましくは少なくとも24時間である。本発明のこの好ましい様式による期間がより長いことの利点は、アミン形成に対する選択性がさらにより大きくなり、かつ/または、反応速度がさらに大きくなるということである。
【0039】
本発明による方法におけるスクシノニトリルの水素化は、好ましくは、水素化されるニトリルを溶解することができる液体反応媒体において行われる。前記液体反応媒体は、少なくとも1つの液体成分と、場合によっては、本発明による方法における水素化ステップの条件のもとで前記少なくとも1つの液体成分に可溶である少なくとも1つの他の成分とを含む。液体反応媒体は、少なくとも1つの液体成分として、液体アミン、水または別の溶媒を含むことができる。
【0040】
液体反応媒体に存在させることができる好適な溶媒は液体アルコールおよび液体アミドである。好適なアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、グリコール(例えば、エチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールなど)、液体ポリオール類、および/または前記化合物の混合物である。好適なアミドは、例えば、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドである。
【0041】
好都合な実施形態において、液体反応媒体は、アミンの他に水を含む少なくとも部分的に水性の液体反応媒体である。水が液体反応媒体に含まれる場合、水は、典型的には、反応媒体全体の重量に対して最大でも50重量%(好都合には最大でも20重量%)の量で存在する。より好ましくは、反応媒体の水分含有量は、反応媒体全体の重量に対して0.1重量%〜15重量%の間であり、さらにより好ましくは4重量%〜10重量%の間である。水の量がより狭い範囲にあることの利点は、より大きい反応速度がより大きい選択性と組み合わさっているということである。
【0042】
本発明による方法は、最初に触媒を水酸化物の少なくとも一部と接触させ、その後、場合により、反応媒体を補う必要に応じて使用される他の成分の前に、またはそのような成分と同時に、またはそのような成分の後で、触媒をアミンと接触させ、したがって、触媒および反応媒体の反応混合物を形成し、その後、反応混合物を、水素化が行われることになる選択された反応温度またはその近くに加熱することによって行うことができる。加熱ステップ、および、優先的には、前記反応混合物を形成するための調製ステップもまた、典型的には不活性ガス雰囲気下で行われ、例えば、窒素ガス雰囲気下で行われる。
【0043】
反応混合物は、典型的には、触媒を0.5重量%〜30重量%(好ましくは1重量%〜20重量%、より好ましくは2重量%〜15重量%)の間の濃度で含む(この場合、重量%は反応混合物の総重量に対する)。
【0044】
反応媒体におけるアミン(好ましくは、目的のアミン)の濃度は、好都合には、前記反応媒体における全液体成分に関して50重量%〜99重量%の間であり、より優先的には、60重量%〜99重量%の間であり、さらにより優先的には70重量%〜96重量%の間である。最小量が大きいと、ニトリルのアミンへの目的とする変換に対する選択性がより大きいという利点を有し、これに対して、最大量がより少ないと、改善された選択性をもたらすより大きい水分含有量を可能にし、かつ/または、反応容器容積のより良好な使用をもたらすより大きいニトリル含有量を可能にする。
【0045】
反応温度は、一般に、室温(約20℃)と高くとも150℃の間である。好ましくは、反応温度は高くとも120℃であり、より好ましくは高くとも100℃である。同様に好ましくは、反応温度は低くとも40℃であり、より好ましくは低くとも60℃である。非常に好適には、温度は70℃〜90℃の間である。最低反応温度がより高いことの利点は、反応速度がより大きくなるということである。最高反応温度がより低いことの利点は、目的のアミンへのニトリルの変換に対する選択性がより大きくなるということである。
【0046】
反応混合物を加熱する前に、または加熱と同時に、または加熱に続いて、水素ガス圧力を加えることによって水素ガスが前記反応混合物に導入される。適切には、加えられる水素ガス圧力は1MPa〜100MPaの間である。より高い水素ガス圧力を加えることができる。好適には、水素ガス圧力は50MPa〜90MPaの間である。窒素ガスまたは別の不活性ガスが依然として存在する場合、示される水素ガス圧力は水素ガスの分圧と一致する。より高い最低水素圧力が、好都合には、より大きい反応速度を得るために加えられる。最高水素圧力がより低いことは、費用のかからない装置を、水素化プロセスを行うために使用できるということである。
【0047】
ニトリルは、水素ガス圧力下にある反応混合物に加える。ニトリルは、典型的には、1リットルの反応混合物あたり最大でも300gの量で導入される。好ましくは、この量は1リットルの反応混合物あたり10g〜200gの間であり、より好ましくは、1リットルの反応混合物あたり20g〜150gの間であり、最も好ましくは、1リットルの反応混合物あたり40g〜100gの間である。最大量が少ないと、選択性がより大きくなるという利点を有し、これに対して、最小量が大きいと、反応容器容積のより良好な使用という利点を有する。
【0048】
同様に好ましくは、ニトリルは、0.2:1〜5:1の間の、触媒の重量に対する重量比で、より好ましくは、0.5:1〜2:1の間の重量比で反応混合物に加えられる。
【0049】
本発明の好ましい様式において、本発明の方法は、
(a)水酸化物と接触させる触媒の反応混合物を不活性ガス雰囲気のもとで液体反応媒体において調製するステップであって、反応混合物は反応混合物の総重量に対して0.5重量%〜30重量%の触媒を含み、かつ、液体反応媒体は液体反応媒体の総重量に対して50〜100重量%のアミンおよび0〜50重量%の水を含むステップ;
(b)1〜100barの間で水素圧力を加えるステップ;および
(c)ニトリルを触媒の重量に対して0.1:1〜10:1の間の重量比で前記反応混合物に加え、それにより、ニトリルを対応するアミンに変換するステップ;
を含む。
【0050】
本発明による方法は、好適には、回分プロセスおよび連続プロセスとして行うことができる。
【0051】
上記の順序は、本発明による方法の好ましい非限定的な形態に対応するにすぎない。上述した好都合な配置によって、本発明による方法は、選択的で、迅速かつ都合のよい経済的な様式でニトリルをアミンに水素化することを可能にする。本発明の方法は、スクシノニトリルを、ポリアミド−4,6の前駆体であるジアミノブタンに変換するために完全に適している。
【0052】
本発明は下記の実施例とともにさらに例示されるが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0053】
材料
触媒A FeおよびCrでドープしたRaNi触媒、水におけるスラリー
触媒B FeおよびCrでドープしたRaNi触媒、水酸化ナトリウム溶液におけるスラリー
エチレンジアミン:工業規格(99%の純度)
スクシノニトリル:工業規格(99%の純度)
水素ガス: 工業規格(99.99の純度)
窒素ガス: 工業規格(99.9の純度)
【0054】
装置
実験は、ハステロイC金属から作製した100mlの実験室規模のPremexオートクレーブ反応装置を使用して行った。反応装置は、220barまでの圧力および250℃までの温度での実験を可能にするハウジングの中に納めた。反応装置は、水素ガス供給機に接続した水素供給口、2000rpmの攪拌速度まで使用することができる、駆動モーターに接続した攪拌機(ex Lenz)、成分を反応容器に加えるための注入槽(そのような注入槽を介して、サンプルを採取することができる)、ならびに、冷却水用マントルおよび加熱素子からなる温度制御システムを備えていた。
【0055】
液体洗浄した触媒の調製
7gの触媒の量と対応する量の触媒スラリーAをガラスビーカーに量り取り、放置して触媒を沈殿させた。その後、上清の液体をできる限り十分にデカンテーションし、残留する湿った沈降物(濃縮された触媒スラリーからなる)を反応装置に入れた。その後、約50mlの量の水を加えて、水および沈降物を攪拌した。その後、触媒を沈降させ、上清の水をデカンテーションした。水の添加、攪拌、沈降およびデカンテーションからなるこの操作をさらに4回繰り返した。このようにして、液体洗浄した触媒の濃縮物を得た。
【0056】
実施例I
液体洗浄した触媒を上記の一般的な手順に従って調製した後、水酸化カリウム水溶液を0.1のKOH/触媒比率に対応するような量で液体洗浄した触媒に加えることによって触媒を水酸化カリウムと接触させた。得られた混合物を十分に攪拌した。その後、エチレンジアミン(EDA)を加えることによって触媒を洗浄し、余分な水を除いた。エチレンジアミンと、水における水酸化物接触触媒のスラリーとを攪拌によって混合し、続いて、エチレンジアミン/水の混合物を触媒沈降物からデカンテーションした。その後、反応装置内容物に、新しい溶媒とともに82gの総反応装置内容物にまで新しいエチレンジアミンを補充し、その後、反応装置をオートクレーブハウジングの中に入れ、システムを閉じた。反応容器に窒素ガスを充填し、次いでガス圧力を放出し、空気を反応装置、注入槽および配管区域から追い出すことによって、反応装置を約20MPaの圧力にした。窒素ガス圧力を増大させ、ガス圧力を放出するこのサイクルをさらに2回繰り返した。3回目の間、セットアップ状態での起こり得る漏れを検出するために、圧力を最初に40MPに増大し、次いで60MPaとする。その後、20MPaの水素ガスを窒素ガスの代わりに使用して、最初のサイクルを繰り返した。その後、攪拌を1800rpmに設定し、反応装置温度を80℃の選択された反応温度に設定した。その後、反応温度を達成するために反応装置を放置した。反応装置の条件を整える間に、7gのスクシノニトリルを注入槽に装入した。その後、注入槽を水素ガスで70MPaの圧力にした。反応装置におけるプロセス条件が15分間にわたって安定化したとき、反応装置と注入槽との間のバルブを開けた(その瞬間がt=0として記録された)。注入槽における過圧によってスクシノニトリルを反応装置中に投入し、これにより、スクシノニトリルの水素化反応を生じさせることを可能にした。反応期間中、反応によって消費される水素ガスを補充するため、反応装置への水素ガス供給は開かれたままであった。液体の反応装置内容物からサンプルを定期的な時間間隔で採取し、サンプルの組成をGCによって分析することによって、スクシノニトリルの変換を追跡した。反応が完了した後、すなわち、スクシノニトリルが100%変換された後、反応装置を室温に冷却した。その間、攪拌速度を500rpmに下げた。反応装置が25℃に冷えた後、攪拌機を止め、圧力を反応装置から放出する。その後、反応装置をハウジングから取り出し、液体の反応装置内容物を触媒沈降物からデカンテーションした。液体の反応装置内容物は、HO、アクリロブチロニトリル(ABN)、ジアミノブタン(DAB)およびピロリドン(PRD)の含有量に関して分析した。分析結果を表1に示す。
【0057】
実施例II
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、0.1の代わりに0.04のKOH/触媒比率に対応する量で水酸化カリウム溶液と触媒を接触させた。分析結果を表1に示す。
【0058】
実施例III
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、触媒を水酸化カリウム溶液と接触させた後、4日間放置し、その後、余分な水を除くためにエチレンジアミンで触媒を洗浄した。分析結果を表1に示す。
【0059】
実施例IV
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、0.05のKOH/触媒比率に対応する第1の量の水酸化カリウム溶液と触媒を接触させ、続いて、実施例1と同様にエチレンジアミンで触媒を洗浄し、デカンテーションし、触媒にエチレンジアミンを再び加え、その後、0.05のKOH/触媒比率に対応する第2の量の水酸化カリウム溶液を加えた。分析結果を表1に示す。
【0060】
比較実験A
実験Iを繰り返したが、この実験では、触媒をエチレンジアミンで洗浄し、デカンテーションし、触媒にエチレンジアミンを再び加えた後、0.1のKOH/触媒比率と対応する水酸化カリウム溶液を加えた。分析結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例V
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、0.1の水酸化セシウム/触媒比率と対応する量で水酸化セシウム溶液と触媒を接触させた。分析結果を表2に示す。
【0063】
実施例VI
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、0.1の水酸化ルビジウム/触媒比率と対応する量で水酸化ルビジウム溶液と触媒を接触させた。分析結果を表2に示す。
【0064】
実施例VII
同じ量の水酸化カリウムを使用して、実施例Iを繰り返した。分析結果を表2に示す。
【0065】
実施例VIII
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、0.1の水酸化ナトリウム/触媒比率と対応する量で水酸化ナトリウム溶液と触媒を接触させた。分析結果を表2に示す。
【0066】
実施例IX
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、0.1の水酸化リチウム/触媒比率と対応する量で水酸化リチウム溶液と触媒を接触させた。分析結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
実施例X
実施例Iを繰り返したが、本実施例では、触媒Aの代わりに、触媒B(すなわち、水酸化ナトリウム溶液のもとで貯蔵された触媒)を使用した。ジアミン形成に対する反応の選択性が改善され、その選択性は47のDAB/PRD比率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンと、水酸化物と、新たに調製し、かつ液体で洗浄したラネー型触媒との存在下でニトリルを接触水素化するための方法であって、触媒をアミンと接触させる前に、触媒を水酸化物の少なくとも一部と接触させることを特徴とする方法。
【請求項2】
ニトリルがジニトリルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミンがジアミンである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
触媒がRa−Ni型触媒またはRa−Co型触媒である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
水酸化物が、水酸化カリウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウムからなる群から選ばれる請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
水酸化物を、触媒の重量に対して1重量%〜15重量%の間の量で使用する請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
触媒をアミンと接触させる前に触媒を接触させる水酸化物の一部が、触媒を接触させる水酸化物の総重量に対して少なくとも10重量%である請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
洗浄後に触媒を接触させる水酸化アルカリとは異なる水酸化アルカリを含むアルカリ性溶液のもとで、洗浄前に触媒を貯蔵する請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
触媒を水酸化物の少なくとも一部と接触させた後、触媒をアミンと接触させる前に少なくとも15分の期間にわたり、触媒をそのまま維持する請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
水素化が、少なくとも部分的に水性の液体反応媒体において行われる請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
(a)水酸化物と接触させる触媒の反応混合物を不活性ガス雰囲気のもとで液体反応媒体において調製するステップであって、ここで、反応混合物の総重量に対して0.5重量%〜30重量%の触媒を反応混合物は含み、かつ、液体反応媒体の総重量に対して50〜100重量%のアミンおよび0〜50重量%の水を液体反応媒体は含む、ステップ;
(b)1〜100barの水素圧力を加えるステップ;および
(c)触媒の重量に対して0.1:1〜10:1の間の重量比でニトリルを反応混合物に加え、それにより、前記ニトリルを対応するアミンに変換するステップ;
を含む請求項1から10のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2006−516992(P2006−516992A)
【公表日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502727(P2006−502727)
【出願日】平成16年1月21日(2004.1.21)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000050
【国際公開番号】WO2004/066703
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505220217)デーエスエム アイピー アセッツ ベー. ヴェー. (29)
【Fターム(参考)】