説明

ニトリル化合物の製造方法

【課題】高収率且つ高純度なニトリル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】塩基存在下、アルコール化合物とアクリロニトリルとを反応させてニトリル化合物を製造するにあたり、反応液の温度が15℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とするニトリル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリル化合物は、医薬、農薬、機能性色素や機能性ポリマー等の各種機能性材料又はそれらの中間体として有用な化合物である。このようなニトリル化合物は、一般に、塩基存在下でアルコール化合物とアクリロニトリルとを反応させて合成することができる。例えば、2価以上の多価アルコールをアクリロニトリル及び触媒と反応させシアノアルキル化ニトリル化合物を合成する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法は無溶媒反応であるため、大スケールでの合成では反応制御が困難である。また、アルコール類とアクリロニトリルとの反応を有機溶媒/アルカリ水溶液2相系で行う方法も提案されている(特許文献2)。しかしながら、この方法では水とアクリロニトリルとの反応により、副生成物が生じる。さらに、これらの方法は目的のニトリル化合物の収率および純度において、未だ満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第2437905号明細書
【特許文献2】特開2009−149595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、目的のニトリル化合物を高収率且つ高純度で得られるニトリル化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、ニトリル化合物の製造方法について鋭意検討を行った。その結果、塩基存在下でのアルコール化合物とアクリロニトリルとの反応において、反応液を15℃以下に冷却した後に反応停止剤を加えることで、得られるニトリル化合物の収率と純度が向上することを見出した。本発明はこの知見に基づき完成されたものである。
【0006】
すなわち、上記課題は下記の手段により解決された。
<1> 塩基存在下、アルコール化合物とアクリロニトリルとを反応させてニトリル化合物を製造するにあたり、反応液の温度が15℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とするニトリル化合物の製造方法。
<2> 前記反応液の温度が−20℃以上15℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とする前記<1>項記載の製造方法。
<3> 前記反応液の温度が−10℃以上10℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とする前記<1>又は<2>項記載の製造方法。
<4> 前記アルコール化合物とアクリロニトリルとの反応を、15℃を超える温度で行うことを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の製造方法。
<5> 実質的に水を含まない条件下で反応を行うことを特徴とする前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の製造方法。
<6> 反応溶媒として有機溶媒を用いることを特徴とする前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の製造方法。
<7> 前記有機溶媒がアセトニトリル又はエーテル系溶媒であること特徴とする前記<6>項記載の製造方法。
<8> 前記アルコール化合物が2価以上の多価アルコール化合物であることを特徴とする前記<1>〜<7>のいずれか1項に記載の製造方法。
<9> 前記アルコール化合物のヒドロキシル基に対し、前記アクリロニトリルを1.0〜2.0モル当量用いることを特徴とする前記<1>〜<8>のいずれか1項に記載の製造方法。
<10> 前記塩基として、第3級アルコキシドのアルカリ金属塩を使用することを特徴とする前記<1>〜<9>のいずれか1項に記載の製造方法。
なお、本発明において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、高収率且つ高純度でニトリル化合物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法は、出発原料であるアルコール化合物とアクリロニトリルとを塩基存在下で反応させ、目的のニトリル化合物を得る。本発明は、当該ニトリル化合物の生成反応が平衡反応且つ発熱反応であることを見出してなされたものであり、反応系を15℃以下に保って一定時間反応を行った後、反応液に反応停止剤を加えて反応を停止させることを特徴とする。
【0009】
出発原料のアルコール化合物は、ヒドロキシル基を1つ以上有する化合物であれば特に限定されず、低級アルコールであっても高級アルコールであってもよい。また、第一級、第二級及び第三級アルコールのいずれであってもよく、1価アルコールでも2価以上の多価アルコールでもよい。
1価アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、または2−エチル−1−ヘキサノール等の脂肪族アルコール類、フェノール、クレゾール、または1−ナフトール等のフェノール類、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエタノール、2−フェノキシエタノールが挙げられる。
2価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4,4’−イソプロピリデンジシクロヘキサノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ビフェノール、ビスフェノールAが挙げられる
3価以上の多価アルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、1,3,5−シクロヘキサントリオール、トリエタノールアミン、1,2,3−ベンゼントリオール、1,2,4−ベンゼントリオール、1,3,5−ベンゼントリオール、2,3,5,6,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンが挙げられる。
本発明で用いるアルコール化合物は、好ましくは2価以上の多価アルコール化合物であり、より好ましくは2〜6価の多価アルコール化合物であり、さらに好ましくは3又は4価の多価アルコール化合物である。
【0010】
本発明の製造方法において出発原料であるアルコール化合物及びアクリロニトリルの使用量は特に限定されない。平衡反応では収率向上のため原料の一方を過剰量使用することもあるが、本発明では冷却工程により収率を向上させることができるため、原料を必ずしも過剰量用いる必要はない。そのため原料コスト等を考慮して、アクリロニトリルの使用量を、アルコール化合物のヒドロキシル基1モルに対し、1.0〜2.0モル当量用いることが好ましく、1.0〜1.5モル当量用いることがより好ましく、1.1〜1.3モル当量用いることがさらに好ましい。
【0011】
[塩基]
本発明の方法に用いる塩基は特に限定されず、有機塩基及び無機塩基を使用できる。具体的には、有機塩基としては、DBU(1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene)またはDBN(1,5‐ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン‐5)が挙げられる。無機塩基としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルコキシド、アミド、水素化物等が挙げられ、これらを2種類以上併用してもよい。
好ましくは無機塩基であり、より好ましくはアルカリ金属アルコキシド、さらに好ましくはアルカリ金属の第三級アルコキシド、特に好ましくはカリウムtert-ブトキシド、又はナトリウムtert-ブトキシドである。
塩基の使用量は、出発原料であるアルコール化合物のヒドロキシル基に対し、0.0001〜10モル%であればよく、好ましくは0.001〜1モル%であり、より好ましくは0.01〜0.1モル%である。
【0012】
[媒体]
上記アルコール化合物とアクリロニトリルとの反応は、無溶媒で行うことも、有機溶媒中で行うこともできる。本発明においては、目的生成物の純度を向上させるため、上記反応が実質的に水を含まない条件下で行われることが好ましい。なお、本発明において「実質的に水を含まない条件下で反応を行う」とは、原料アルコール化合物のヒドロキシル基に対して、反応系中の水が3モル%未満であることを言う。反応系中に水が混入すると水由来の副生成物である3,3’−オキシジプロピオニトリルが生じ、目的のニトリル化合物の純度低下の原因となる。
【0013】
さらに本発明では、反応熱及び反応速度制御の観点から、当該反応を有機溶媒中で行うことがより好ましい。無溶媒で反応を行う場合(アクリロニトリルを溶媒量使用する場合)と比べ、アクリロニトリルが過剰に付加した副生物が生成しないため、高い純度が得られ好ましい。
有機溶媒は、アルコール化合物の溶解性の観点から溶解度パラメータが9.0以上であることが好ましく、溶媒溜去の観点から沸点が150℃未満であることが好ましい。
有機溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、t−ブチルメチルエーテル、モノグリム、ジグリム等のエーテル系溶媒、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−アセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。なかでも、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、ニトリル系溶媒を用いることが好ましく、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、モノグリム、t−ブチルアルコール、アセトニトリルを用いることがより好ましい。さらに好ましくは、テトラヒドロフラン、モノグリム、アセトニトリルであり、特に好ましくは、テトラヒドロフラン又はアセトニトリルである。
【0014】
有機溶媒の使用量は、反応熱および反応速度を制御できる量であればよい。好ましくは、出発原料であるアルコール化合物の重量に対して、1〜100倍量であり、より好ましくは2〜30倍量であり、特に好ましくは3〜10倍量である。
【0015】
本発明の反応は下記の反応式で例示できる。なお、下記反応式中、Rはn価の有機基を表し、nは整数を表す。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明の方法は、塩基存在下でのアルコール化合物とアクリロニトリルとの反応であり、当該反応において、反応系を15℃以下に保って一定時間反応を行う冷却工程と、冷却工程を経た15℃以下の反応液に反応停止剤を加えて反応を停止させる反応停止工程とを有することを特徴とする。上記反応は平衡反応であり、ニトリル化合物の生成反応が発熱反応であるため、反応系の温度を低下させることで平衡を生成物側に傾け、収率を向上させることができる。
冷却工程の温度は15℃以下であればよく、好ましくは−30℃以上15℃以下、より好ましくは−20℃以上15℃以下、さらに好ましくは−10以上10℃以下、特に好ましくは−5℃以上5℃以下である。冷却工程の時間は特に制限されないが、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜8時間、特に好ましくは3〜6時間である。
【0018】
反応停止工程に用いる反応停止剤は、触媒として用いた塩基を中和して反応を停止できる化合物であれば特に限定はない。反応停止剤は、pKa値が−10〜13のプロトン供与体が好ましく、−7〜12のものがより好ましく、−4〜11のものがさらに好ましい。なお、pKa値は、文献:F. G. Bordwell Acc. Chem. Res. 1988, 21, 456, 463等を参考にできる。
具体的な反応停止剤としては、塩化水素、硫酸、硫酸水素ナトリウム、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、二酸化炭素、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化アンモニウム、塩化ピリジニウム、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ぎ酸、酢酸、安息香酸、スチレンスルホン酸樹脂、アクリル酸樹脂等が挙げられる。
【0019】
本発明の方法は、反応停止工程の前に冷却工程が設けられ、その冷却状態を維持したまま反応を停止することができればよく、冷却工程の前段階において15℃よりも高い温度で反応が行っても、反応を終始一貫して15℃以下で行ってもよい。反応時間短縮の観点から、冷却工程の前段階で15℃を越える温度で反応を行うことが好ましい。
反応は、例えば、反応器にアルコール化合物、塩基、及び必要により溶媒を仕込んだ後、攪拌しながらアクリロニトリルを滴下することにより行うことができる。反応は大気中で行ってもよいが、塩基の失活を抑制するため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
反応により生成したニトリル化合物は、通常の方法により反応液から単離・精製することができ、例えば、晶析、蒸留、溶媒溜去等の方法を用いることができる。
【0020】
本発明の方法では、原料アルコール化合物として融点が高く、溶解性に乏しい多価アルコール化合物を用いても、目的のニトリル化合物を高収率且つ高純度で得ることができる。この場合、反応を促進するために、まず加熱条件下で反応を行い(加熱工程)、その後上記冷却工程及び反応停止工程を行うことが好ましい。加熱工程の温度条件は特に限定されないが、好ましくは30〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃、特に好ましくは45〜65℃である。加熱時間も特に制限はないが、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは20分〜6時間、特に好ましくは30分〜4時間である。
加熱工程の後に、冷却工程及び反応停止工程を設けることで、ヒドロキシル基を複数含む多価アルコールを原料に用いても、全てのヒドロキシル基をシアノエチル化することができ、高純度の生成物を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
実施例1〜17及び比較例1〜3では、原料アルコール化合物として下記のアルコール化合物1〜7を用いた。
【0022】
【化2】

【0023】
実施例1 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、水浴下、内温15℃に保って4時間攪拌した後、内温15℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0024】
実施例2 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、冷水浴下、内温10℃に保って4時間攪拌した後、内温10℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0025】
実施例3 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0026】
実施例4 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
実施例1にておいて、水浴下、内温15℃に保って4時間攪拌した後、内温15℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止する代わりに、冷却したメタノール浴下、内温−5℃に保って4時間攪拌した後、内温−5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止したこと以外は、上記実施例1と同様にして、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0027】
実施例5 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
実施例1にておいて、水浴下、内温15℃に保って4時間攪拌した後、内温15℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止する代わりに、冷却したメタノール浴下、内温−10℃に保って4時間攪拌した後、内温−10℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止したこと以外は、上記実施例1と同様にして、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0028】
実施例6 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
実施例1にておいて、水浴下、内温15℃に保って4時間攪拌した後、内温15℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止する代わりに、冷却したメタノール浴下、内温−20℃に保って4時間攪拌した後、内温−20℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止したこと以外は、上記実施例1と同様にして、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0029】
実施例7 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0030】
実施例8 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
実施例3にておいて、固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、1時間攪拌する代わりに、固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル6.4g(120mmol)を添加して、1時間攪拌したこと以外は、上記実施例3と同様にして、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0031】
実施例9 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
実施例3にておいて、固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、1時間攪拌する代わりに、固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を添加して、1時間攪拌したこと以外は、上記実施例3と同様にして、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0032】
実施例10 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、テトラヒドロフラン200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で加熱還流させたまま、2時間攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、3時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0033】
実施例11 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
実施例10にておいて、固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、3時間攪拌する代わりに、固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル6.4g(120mmol)を添加して、3時間攪拌したこと以外は、上記実施例10と同様にして、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0034】
実施例12 −アルコール化合物2のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにエチレングリコール12.4g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、アクリロニトリル21.2g(400mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、室温で40分攪拌し、水浴で冷却して、アクリロニトリル4.2g(80mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物2の水酸基がシアノエチル化された2官能シアノエチル化合物を得た。
【0035】
実施例13 −アルコール化合物3のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにグリセリン18.4g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、室温で40分攪拌し、水浴で冷却して、アクリロニトリル6.4g(120mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物3の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0036】
実施例14 −アルコール化合物4のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにペンタエリスリトール27.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル42.5g(800mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、60分攪拌した。その後、水浴で冷却し、アクリロニトリル8.5g(160mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物4の水酸基がシアノエチル化された4官能シアノエチル化合物を得た。
【0037】
実施例15 −アルコール化合物5のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリメチロールプロパン26.8g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、60分攪拌した。その後、水浴で冷却し、アクリロニトリル6.4g(120mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物5の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0038】
実施例16 −アルコール化合物6のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにソルビトール36.4g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル63.8g(1200mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、60分攪拌した。その後、水浴で冷却し、アクリロニトリル12.8g(240mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物6の水酸基がシアノエチル化された6官能シアノエチル化合物を得た。
【0039】
実施例17 −アルコール化合物7のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコに1−ブタノール14.8g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、アクリロニトリル10.6g(200mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、室温で40分攪拌し、水浴で冷却して、アクリロニトリル2.1g(40mmol)を添加して、1時間攪拌した。その後、氷浴下、内温5℃に保って4時間攪拌した後、内温5℃にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物7の水酸基がシアノエチル化された単官能シアノエチル化合物を得た。
【0040】
比較例1 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、室温下(約25℃)5時間攪拌した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0041】
比較例2 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、アセトニトリル200mL、t‐ブトキシナトリウム19.2mg(0.2mmol)を加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌することで、固体で溶解していなかったトリスヒドロキシメチルアミノメタンが溶解し、均一系となった。固体が溶解した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル6.4g15.9g(300mmol)を添加して、室温下(約25℃)5時間攪拌した。その後、室温(約25℃)にて酢酸120mgを添加して反応を停止した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0042】
比較例3 −アルコール化合物1のシアノエチル化−
攪拌子を備えた300mL容の三口フラスコにトリスヒドロキシメチルアミノメタン24.2g(200mmol)、トルエン160mL、40%水酸化カリウム溶液40mLを加えて、窒素気流下、温浴で内温60℃まで加熱した後、アクリロニトリル31.9g(600mmol)を10分かけて滴下した。滴下した後、温浴で内温60℃に加熱したまま、40分攪拌した後、水浴で冷却し、アクリロニトリル15.9g(300mmol)を添加して、室温下(約25℃)5時間攪拌した。得られた反応溶液を減圧下、溶媒留去することにより、アルコール化合物1の水酸基がシアノエチル化された3官能シアノエチル化合物を得た。
【0043】
[評価]
上記実施例1〜17及び比較例1〜3の合成反応において、得られたシアノエチル化合物の収率及び純度を下記の基準により評価した。結果を表1に示す。
【0044】
1.収率
A …95%以上
B …80%以上95%未満
C …80%未満
【0045】
2.純度
純度の評価はHPLC測定により行った。検出器には、荷電化粒子検出器 Corona CAD(登録商標、ダイオネクス社製)を使用した。

A+…95%以上
A …90%以上95%未満
B+…85%以上90%未満
B …80%以上85%未満
C …80%未満
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から明らかなように、反応系を15℃以下に冷却した状態で反応停止剤を加えた実施例1〜17では、高収率且つ高純度で目的のニトリル化合物が得られた。一方、反応系を15℃以下に冷却しなかった比較例1〜3では、目的のニトリル化合物の純度が低く、比較例1では収率も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基存在下、アルコール化合物とアクリロニトリルとを反応させてニトリル化合物を製造するにあたり、反応液の温度が15℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とするニトリル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応液の温度が−20℃以上15℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応液の温度が−10℃以上10℃以下の状態で反応液に反応停止剤を加えることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール化合物とアクリロニトリルとの反応を、15℃を超える温度で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
実質的に水を含まない条件下で反応を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
反応溶媒として有機溶媒を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒がアセトニトリル又はエーテル系溶媒であること特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール化合物が2価以上の多価アルコール化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルコール化合物のヒドロキシル基に対し、前記アクリロニトリルを1.0〜2.0モル当量用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記塩基として、第3級アルコキシドのアルカリ金属塩を使用することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−75837(P2013−75837A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215368(P2011−215368)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】