説明

ニトリル化合物水素化用パラジウム含有触媒および該触媒を用いた第一級アミンの製造方法

【課題】ニトリル化合物の水素化反応に用いた場合に、常温常圧に近い穏和な条件下で高い原料転化率と優れた第一級アミン選択性とを示し、且つ空気雰囲気下で安定に取り扱うことができるパラジウム含有触媒および該触媒を用いたニトリル水素化による第一級アミンの製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物と、該金属酸化物に担持されたパラジウムとを有してなり、該金属酸化物に担持された金を更に含みまたは含まず、ニトリル化合物から第一級アミンを高選択率で得ることのできるニトリル化合物水素化用触媒;上記触媒の存在下、ニトリル化合物を水素雰囲気中にて湿式で水素化し、第一級アミンを高選択率で得ることを含む第一級アミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニトリル化合物から第一級アミンを高選択率で製造するためのパラジウム含有触媒および第一級アミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第一級アミンは、有機溶剤、医薬、農薬、及び合成樹脂原料としての用途を有し、工業的に極めて重要な物質である。故に、有機ニトリル化合物の接触水素化による第一級アミンへの変換反応は、種々のアミンを製造する手法として古くより用いられている重要な反応である。この反応は、通常、種々の金属触媒(Co、Ni、Rh、Pd、Pt等)を用いて、多くの場合液相中にて行なわれており、例えば、ナイロンの原料として重要な化合物であるヘキサメチレンジアミンの製造は、Co触媒またはNi触媒を使用してアジポニトリルの水素化により製造されている。
【0003】
しかしながら、有機ニトリル化合物の水素化では、第一級アミンの生成に伴って、対応する第二級アミン及び第三級アミンも容易に生成することが知られている。これら第二級アミン及び第三級アミンは下記式に示すようにして生成する。即ち、有機ニトリル化合物が水素化されて生成するアルドイミンに第一アミンが反応して、アンモニアが脱離するとアゾメチンが生成する。アゾメチンは水素化されて第二級アミンとなる。また、第二級アミン自身もアルドイミン中間体に付加することができ、これにより第三級アミンが生成する。
【0004】
【化1】

【0005】
生成するアミンの割合は触媒、pH、温度、圧力、溶媒などの反応条件によって大きく異なり、第一級アミンを選択的に得るためには触媒及び反応条件の選択が重要となる。一般に、第一級アミンを主に得るためには、アンモニア等の強アルカリ剤、あるいは塩酸等の強酸の共存下で、高温高圧条件で反応を行なう必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1では、アジポニトリルの水素化によるヘキサメチレンジアミンの製造において、アンモニア共存下でラネーコバルト触媒を用いて水素圧6.9〜21 MPa(=68〜207 atm)、反応温度120℃で行なわれる製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2または3では、アンモニア共存下でラネーニッケル触媒あるいは他の金属元素がドープされたラネーニッケル触媒を用いてニトリルの水素化が行われている。
【0008】
さらに、近年では、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属炭酸水素塩で変性せしめたラネーニッケル触媒を用いることで、アンモニア非共存下で水素圧1 MPa(=9.9 atm)、反応温度125℃の条件でラウロニトリルから対応する第一級アミンを選択的に合成する製造例も報告されている(特許文献4)。
【0009】
また、第二級アミンおよび第三級アミンの生成反応が比較的起こりにくい芳香環に直接シアノ基が結合したニトリル化合物に関しては、塩化アンモニウムおよびアンモニアの存在下でラネーニッケル触媒を用いて、水素圧0.88 MPa(=8.7 atm)、反応温度40℃という比較的穏和な条件下で対応する第一級アミンを選択的に与える反応例も報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2166183号明細書
【特許文献2】米国特許第3574754号明細書
【特許文献3】特開1994−032767号公報
【特許文献4】特開2010−209092号公報
【特許文献5】特開1995−138209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来から知られている有機ニトリル化合物の水素化による第一級アミンへの選択的変換は、第二級アミンおよび第三級アミンの生成を抑制するために、多くの場合、高温高圧条件、アンモニアの共存といった過酷な反応条件を要する。そのため、製造に使用する設備には高温高圧条件に耐え得る材質の反応容器を使用する必要があり、また、安全面での厳重な対策が不可欠である。さらには、従前の方法で広く用いられているコバルト触媒またはニッケル触媒は、空気雰囲気下で極めて不安定であり、触媒の取扱いが困難である点も課題の一つであるといえる。これに対して、空気雰囲気下で安定に取り扱うことができる固体触媒を用いて、常温常圧に近い穏和な反応条件で該反応を実施できれば、工業的に有用である。
【0012】
従って、本発明の目的は、ニトリル化合物の水素化反応に用いた場合に、常温常圧に近い穏和な条件下で高い原料転化率と優れた第一級アミンへの選択性とを示し、且つ空気雰囲気下で安定に取り扱うことができるパラジウム含有触媒および該触媒を用いたニトリル水素化による第一級アミンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、下記の触媒および製造方法により上記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は第一に、金属酸化物と、該金属酸化物に担持されたパラジウムとを有してなり、該金属酸化物に担持された金を更に含みまたは含まず、ニトリル化合物から第一級アミンを高選択率で得ることのできるニトリル化合物水素化用触媒を提供する。
本発明は第二に、上記触媒の存在下、ニトリル化合物を水素雰囲気中にて湿式で水素化し、第一級アミンを高選択率で得ることを含む第一級アミンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のパラジウム含有触媒によれば、穏和な反応条件の下、高い転化率かつ優れた選択性でニトリル化合物から第一級アミンを製造することができる。本発明のパラジウム含有触媒は、パラジウムに加えて金が担持されていると、より高い選択性を発揮しやすい。本発明のパラジウム含有触媒は空気雰囲気下で安定であり、取り扱いが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、ニトリル化合物の転化率とは、水素化反応において基質として使用した全ニトリル化合物に対する、該反応で消費されたニトリル化合物のモル比をいい、第一級アミンの選択率とは、全反応生成物における第一級アミンのモル比をいう。
【0016】
本発明のパラジウム含有触媒(以下、「本発明の触媒」と略すこともある。)は、ニトリル化合物から第一級アミンを高選択率で得ることのできるニトリル化合物水素化用触媒である。本発明において「第一級アミンを高選択率で得る」とは、第一級アミンを、通常、65〜100%、好ましくは70〜100%、より好ましくは75〜100%、更により好ましくは80〜100%、特に好ましくは85〜100%の選択率で得ることを意味する。
【0017】
[担体]
本発明の触媒において、金属酸化物は担体として用いられるものであり、例えば、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカ、マグネシア、アルミナが挙げられ、好ましくはアルミナである。金属酸化物は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
金属酸化物の比表面積は300m2/g以下が好ましく、50〜200m2/gが特に好ましい。なお、本明細書において、比表面積はBET法で測定した値である。
【0019】
金属酸化物の粒径は、特に限定されないが、メジアン径が0.5〜500μmの範囲であることが好ましく、10〜100μmが特に好ましい。本明細書において、メジアン径はレーザー散乱法により測定した体積基準の値である。
【0020】
[触媒成分]
本発明の触媒においてパラジウムの担持量は、該触媒が金を含まない場合には、好ましくは7重量%以上(例えば、7〜50重量%)、より好ましくは10重量%以上(例えば、10〜50重量%)である。
該触媒が金を含む場合には、パラジウムの担持量を該触媒が金を含まない場合に比べてほぼ半減させても、第一級アミンへの選択性を該触媒が金を含まない場合と同等レベルに維持することが容易である。よって、該触媒においてパラジウムの担持量は、該触媒が金を含む場合には、好ましくは3重量%以上(例えば、3〜30重量%)、より好ましくは5重量%以上(例えば、5〜30重量%)である。
該担持量が上記範囲内であると、本発明の触媒を用いてニトリル化合物から第一級アミンを高選択率で得ることが容易である。
【0021】
本発明の触媒に含まれるパラジウムの比表面積は、副反応の抑制の観点から、好ましくは40m/g以上220m/g以下、より好ましくは50m/g以上200m/g以下、更により好ましくは50m/g以上180m/g以下である。パラジウムの比表面積が前記範囲内であると、得られる触媒による反応速度および選択性が向上しやすい。
【0022】
上記のとおりにパラジウムの比表面積を制御する方法としては、本発明の実施例に記載の還元方法の他、焼成工程を加え温度を制御する方法、焼成時の雰囲気の還元性または酸化性を制御する方法、パラジウム塩溶液またはパラジウム塩溶液と金塩溶液を金属コロイド状にする方法、パラジウム原料またはパラジウム原料と金原料としてパラジウムの有機化合物またはパラジウムの有機化合物と金の有機化合物を用いる方法、還元処理工程の時間を調整して金属原子の凝集度合いを制御する方法、パラジウム塩溶液またはパラジウム塩溶液と金塩溶液のpHを調整して金属成分の凝集度合いを制御する方法、パラジウム塩溶液またはパラジウム塩溶液と金塩溶液の熟成時間を調整して金属成分の凝集度合いを制御する方法、担体である金属酸化物の表面積を大きくして金属成分の分散性を向上させてパラジウムの比表面積を大きくする方法、担体である金属酸化物の表面積を小さくして金属成分の分散を抑制してパラジウムの比表面積を小さくする方法、スラリー中の金属酸化物成分の濃度を調整する方法、還元剤の濃度を調整する方法、還元剤および貴金属塩溶液(即ち、パラジウム塩溶液またはパラジウム塩溶液と金塩溶液)の一方または両方の投入速度を調整して貴金属粒子(即ち、パラジウム粒子またはパラジウム粒子と金粒子)の成長を制御する方法などが挙げられる。
【0023】
本発明の触媒に含まれるパラジウムの粒子径は2.3nm以上であることが好ましく、2.8nm以上であることがより好ましい。パラジウムの粒子径は一酸化炭素吸着量の測定データより算出することができる。なお、パラジウムの粒子径の上限は10nm程度であることが好ましい。パラジウムの粒子径の上限が10nm程度であれば、得られる触媒による反応速度および選択性が向上しやすい。
【0024】
本発明の触媒の一酸化炭素吸着量は、パラジウム1g当たり50ml以下であることが好ましく、より好ましくは45ml以下、更に好ましくは40ml以下である。
【0025】
本発明の触媒は、金属酸化物に担持された金を更に含むことが好ましい。これにより、第一級アミンへの選択性が飛躍的に向上するため、パラジウムの節約に有効であり、効果的に省資源化を図ることができる。触媒中のパラジウム1モルに対する金のモル数、即ち、金とパラジウムのモル比は0.005〜1が好ましく、0.01〜0.5がより好ましく、0.05〜0.2が特に好ましい。
【0026】
[触媒の調製方法]
金属酸化物へのパラジウムもしくはパラジウムと金の固定は、該金属酸化物にパラジウムもしくはパラジウムと金を含む溶液を接触させることにより行うことができる。
【0027】
具体的には、本発明の触媒は、例えば、パラジウム化合物もしくはパラジウム化合物と金化合物を溶媒に溶解して得た溶液を、金属酸化物の懸濁液中に、投入量および投入時間を調整して投入し、パラジウム化合物もしくはパラジウム化合物と金化合物を吸着または含浸することにより得ることができる。パラジウムもしくはパラジウムと金を上記の吸着または含浸などの方法で金属酸化物に担持した触媒に対しては、必要に応じて還元処理を実施してもよい。湿式で還元する場合には、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸などの還元剤のほか、ガス状水素を用いることができる。乾式で還元する場合にはガス状水素を用いて行うが、水素ガスを窒素等の不活性ガスで希釈して使用することも可能である。こうして、パラジウムもしくはパラジウムと金が金属酸化物に固定されたパラジウム含有触媒が得られる。パラジウムと金を金属酸化物への固定は、おのおの独立して行なってもよいが、同時に行うことが好ましい。
【0028】
また、本発明の触媒の調整方法において還元処理を行う場合には、金属酸化物と貴金属塩溶液との混合物中に還元剤を投入する方法、貴金属塩溶液と還元剤との混合物中に金属酸化物を投入する方法、還元剤と金属酸化物の懸濁液との混合物中に貴金属塩溶液を投入する方法、金属酸化物の懸濁液と還元剤との混合スラリー中に貴金属塩溶液を投入する方法、貴金属塩溶液と還元剤の一部もしくは全てとを混合して貴金属成分前駆体をつくった後に担体である金属酸化物および残りの還元剤(残存するならば)と混合して該金属酸化物に貴金属粒子を担持させる方法などがある。
【0029】
また、このような還元処理を行う触媒の調製方法では、未還元の貴金属塩が残っていれば更に還元剤を投入してもよい。更に、これらの製法において担体として使用される金属酸化物には、あらかじめ還元剤もしくは貴金属塩溶液またはその両方の一部もしくは全てを含浸させておいてもよい。
なお、本発明の触媒の調製方法において、貴金属塩溶液の投入順序、投入速度、使用される塩の種類、温度、撹拌速度、pHなどの反応条件は当業者が適宜設定することができるが、最終的に出来上がる触媒におけるパラジウムの比表面積および粒子径は本明細書記載の好ましい範囲になるように調整することが好ましい。
【0030】
触媒調製に用いる溶媒は、パラジウム化合物あるいはパラジウム化合物と金化合物を溶解するものであれば特に制限されないが、これらの化合物が水溶性である場合には水が好ましく、これらの化合物が非水溶性で有機溶媒に可溶である場合には、エタノール、アセトン、クロロホルム等の有機溶媒であって該化合物を溶解するものが好適である。
【0031】
パラジウム化合物としては、触媒調製工程に使用する溶媒に可溶性であれば特に限定されないが、例えば、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、テトラアンミンパラジウム臭化物、テトラアンミンパラジウム硝酸塩、テトラアンミンパラジウム硫酸塩、塩化パラジウム酸等の水溶性パラジウム化合物;ビス(2,4−ペンタンジオナト)パラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム等の有機溶媒可溶性パラジウム錯体が使用でき、硝酸パラジウム、塩化パラジウム酸、塩化パラジウム酸ナトリウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムが好ましい。パラジウム化合物は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。パラジウム塩溶液中のパラジウム濃度は、パラジウム塩が溶媒に完全溶解していれば特に限定されないが、例えば、1〜1000mmol/Lが挙げられ、5〜100mmol/Lが好ましい。
【0032】
金の化合物としては、触媒調製工程に使用する溶媒に可溶性であれば特に限定されないが、例えば、塩化金(III)、四塩化金酸、四塩化金酸ナトリウムおよびそれらの混合物が使用でき、四塩化金酸、四塩化金酸ナトリウムが好ましい。金化合物は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。金塩溶液中の金濃度は、金塩が溶媒に完全溶解していれば特に限定されないが、例えば、0.1〜100mmol/Lが挙げられ、0.5〜10mmol/Lが好ましい。
【0033】
パラジウム塩溶液と金塩溶液とからなる貴金属塩溶液を金属酸化物に含浸させる場合、パラジウム塩溶液と金塩溶液は、おのおの別に金属酸化物に含浸させてもよく、パラジウム塩および金塩の混合溶液として金属酸化物に含浸せてもよい。
【0034】
[基質]
本発明の触媒による水素化の基質となるニトリル化合物としては、例えば、下記一般式(I):
R1-CN (I)
(式中、R1は非置換もしくは置換のアルキル基または非置換もしくは置換のアリール基を表す。)
で表されるニトリル化合物が挙げられる。ニトリル化合物は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等の炭素原子数1〜20、好ましくは3〜10のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜20のアリール基;これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、水酸基、アミノ基、カルボニル基、オキソ基(即ち、=O)、アルコキシ基、アリロキシ基、チオール基等で置換した基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、p−クロロフェニル基等が挙げられる。
【0036】
ニトリル化合物は、好ましくは有機ニトリル化合物であり、より好ましくは脂肪族ニトリル化合物である。脂肪族ニトリル化合物としては、例えば、上記一般式(I)で表されるニトリル化合物であって、R1が非置換または置換のアルキル基であるものが挙げられる。
【0037】
[反応生成物]
本発明の触媒による水素化により得られる第一級アミンとしては、例えば、下記一般式(II):
R1-CH2-NH2 (II)
(式中、R1は前記と同様である。)
で表される第一級アミンが挙げられる。第一級アミンは、用いるニトリル化合物に応じ、1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0038】
用いるニトリル化合物が脂肪族ニトリル化合物である場合には、第一級アミンは脂肪族第一級アミンとなる。脂肪族第一級アミンとしては、例えば、上記一般式(II)で表される第一級アミンであって、R1が非置換または置換のアルキル基であるものが挙げられる。
【0039】
[ニトリル化合物の水素化による第一級アミンの製造方法]
本発明の触媒の存在下、ニトリル化合物を水素雰囲気中にて湿式で水素化することにより、第一級アミンを高選択率で生成させることができる。本発明の製造方法において、本発明の触媒は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記製造方法において本発明の触媒は、反応物であるニトリル化合物に対して、パラジウムとして、好ましくは0.01〜20モル%、より好ましくは0.1〜10モル%、更により好ましくは0.5〜5モル%の範囲で用いられる。
【0041】
本明細書において「湿式にて」とは、通常、「溶媒の存在下で」を意味し、好ましくは「溶媒中で」を意味する。上記の水素化に用いる溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、メタノール、酢酸などの極性有機溶媒またはこれらの組み合わせが挙げられ、酢酸などのプロトン性溶媒が特に好ましい。溶媒は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の製造方法において、水素雰囲気、即ち、分子状水素を含む雰囲気の水素圧は、好ましくは0.10MPa以上1.0MPa未満(1.0atm以上9.9atm未満)、より好ましくは0.10MPa以上0.50MPa以下(1.0atm以上5.0atm以下)、更に好ましくは0.10MPa以上0.20MPa以下(1.0atm以上2.0atm以下)である。水素圧が前記範囲内であると、転化率および第一級アミン選択率が向上しやすく、また、反応系に対する安全対策が不要な場合があり、製造コストを抑えることができる場合がある。なお、反応圧力が1.0MPa以上の場合、消防法上の高圧ガス設備に該当するため、設備の仕様および設置環境への規制が厳しくなる。
【0043】
また、本発明の製造方法における水素化の反応温度は、好ましくは20〜100℃、より好ましくは20〜80℃、更に好ましくは20〜60℃である。反応温度が前記範囲内であると、反応速度および第一級アミン選択率が向上しやすく、また、反応系の圧力が増大しにくいので安全性の確保が容易である。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(1)パラジウム担持アルミナ触媒の調製
純水を用い、担体となるアルミナを分散させて調製した懸濁液に、還元剤を添加して均一な担体懸濁液を得た。別に、塩化パラジウム酸ナトリウムを溶解したパラジウム塩の溶液を調製した。次に前記担体懸濁液にパラジウム塩の溶液を滴下して新たに懸濁液を得た。この懸濁液を60℃に加熱して還元を行った。
こうして、担体であるアルミナの表面にパラジウムの粒子を担持した。
反応液を冷却後、固形物をろ過し洗浄した。その後、乾燥を約70℃の大気中で行い、担体であるアルミナ上にパラジウムを担持した触媒を得た。
本調製ではパラジウムの理論含有量は触媒重量に対して25重量%であり、ICP分析法によるパラジウムの担持比率は触媒重量に対して25重量%であった(実施例1)。
【0046】
更に、同担持比率が10重量%(実施例2)または5重量%(比較例1)である触媒も同様に調製した。
【0047】
なお、実施例1、実施例2および比較例1において、触媒に含まれるパラジウムの比表面積は、それぞれ149、198および234m/gであった。
【0048】
(2)パラジウム−金担持アルミナ触媒の調製
純水を用い、担体となるアルミナを分散させて調製した懸濁液に、還元剤を添加して均一な担体懸濁液を得た。別に、塩化パラジウム酸ナトリウムを溶解したパラジウム塩の溶液と、四塩化金酸を溶解した金塩の溶液とを混合し、適宜pHを調整して、パラジウム塩および金塩の混合溶液を調製した。次に前記担体懸濁液にパラジウム塩および金塩の混合溶液を滴下して新たに懸濁液を得た。この懸濁液を60℃に加熱して還元を行った。
こうして、担体であるアルミナの表面にパラジウムおよび金の粒子を担持した。
反応液を冷却後、固形物をろ過し洗浄した。その後、乾燥を約70℃の大気中で行い、担体であるアルミナ上にパラジウム−金を担持した触媒を得た。
本調製ではパラジウムと金との理論量比はモル比で9:1であり、ICP分析法による担持比率は触媒重量に対してパラジウム25重量%および金5重量%であった(実施例3)。
【0049】
更に、同モル比にて、同担持比率がパラジウム10重量%および金2重量%(実施例4)、または、パラジウム5重量%および金1重量%(実施例5)である触媒も同様に調製した。
【0050】
なお、実施例3、4および5において、触媒に含まれるパラジウムの比表面積は、それぞれ65、104および120m/gであった。
【0051】
(3)吉草酸ニトリルの水素化反応
オートクレーブに吉草酸ニトリル20 mmolと酢酸50 mLを投入し溶解させた。この溶液にパラジウムに換算して0.2 mmolの触媒を投入し、水素雰囲気下(水素圧0.15 MPa=1.48 atm)、50℃で5時間撹拌して反応を行った。反応後、触媒をろ過分離し、得られたろ液に氷冷下で水酸化ナトリウム溶液を溶液がアルカリ性を示すまで加えた。これにクロロホルムを加えて抽出し、最後に、クロロホルム層に内部標準物質であるニトロベンゼンを適当量添加し、サンプリングした。サンプリング試料をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。表1に、用いた触媒、転化率および対応する第一級アミンの選択率の測定結果を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
まず始めに、Pd含有量が25重量%、10重量%または5重量%であるPd/アルミナ触媒を用いて水素化反応を実施した。その結果、いずれの触媒でも基質である吉草酸ニトリルは完全に消費された。一方で、第一級アミンの選択率は、25重量% Pd /アルミナにおいては80%を超える良好な値を示し(実施例1)、10重量% Pd /アルミナにおいては70%を超える良好な値を示したが(実施例2)、5重量% Pd /アルミナでは大幅に低下した(比較例1)。
さらに、30重量%Pd/カーボンを用いて水素化反応を実施したところ、第一級アミンの選択率は5重量%Pd/アルミナ(比較例1)での結果をも下回る低い値を示した(比較例2)。
【0054】
次に、Pd含有量が25重量%、10重量%または5重量%であり、パラジウムと金とのモル比が9:1であるPd - Au/アルミナ触媒を用いて水素化反応を実施した。その結果、25重量% Pd - 5重量% Au/アルミナでは、第一級アミン選択率は90%という優れた値を示した(実施例3)。この値は、Pd含有量が同等の25重量%Pd/アルミナ(実施例1)に比べ優れている。10重量% Pd - 2重量% Au/アルミナは、Pd含有量が同等の10重量%Pd/アルミナ(実施例2)に比べ優れた第一級アミン選択率を示しただけでなく、Pd含有量が2.5倍の25重量%Pd/アルミナ(実施例1)と同レベルの良好な第一級アミン選択率を示した(実施例4)。5重量% Pd - 1重量% Au/アルミナは、Pd含有量が同等の5重量%Pd/アルミナ(比較例1)に比べ優れた第一級アミン選択率を示しただけでなく、Pd量が2倍の10重量%Pd/アルミナ(実施例2)と同レベルの良好な第一級アミン選択率を示した(実施例5)。
さらに、25重量% Pd - 5重量% Au/カーボンを用いて水素化反応を実施したところ、PdとAuの組成が同等である25重量% Pd - 5重量% Au/アルミナに比べて、第一級アミンの選択率が著しく低下したばかりか、5重量%Pd/アルミナ(比較例1)にも劣る結果を与えた(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物と、該金属酸化物に担持されたパラジウムとを有してなり、該金属酸化物に担持された金を更に含みまたは含まず、ニトリル化合物から第一級アミンを高選択率で得ることのできるニトリル化合物水素化用触媒。
【請求項2】
請求項1に係る触媒であって、該触媒中のパラジウムの担持量が、該触媒が金を含まない場合には7重量%以上であり、該触媒が金を含む場合には3重量%以上である請求項1に係る触媒。
【請求項3】
金とパラジウムのモル比が0.005〜1である請求項1または2に係る触媒。
【請求項4】
パラジウムの比表面積が40m/g以上220m/g以下である請求項1〜3のいずれか1項に係る触媒。
【請求項5】
金属酸化物がアルミナである請求項1〜4のいずれか1項に係る触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の存在下、ニトリル化合物を水素雰囲気中にて湿式で水素化し、第一級アミンを高選択率で得ることを含む第一級アミンの製造方法。
【請求項7】
ニトリル化合物が脂肪族ニトリル化合物である請求項6に係る製造方法。
【請求項8】
前記水素雰囲気の水素圧が0.10MPa以上1.0MPa未満である請求項6または7に係る製造方法。
【請求項9】
前記水素化の反応温度が20〜100℃である請求項6〜8のいずれか1項に係る製造方法。

【公開番号】特開2012−179501(P2012−179501A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42011(P2011−42011)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】