説明

ニトロサミン類に選択的なモレキュラーインプリントポリマーおよびその使用方法

ニトロサミン類の分析および生体流体からのニトロサミン類の分離に有用なニトロサミン類を特異的に認識し、結合する一群のモレキュラーインプリントポリマー。またこれらモレキュラーインプリントポリマーは、タバコ製品およびタバコ材料の処理および製造方法にも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連のモレキュラーインプリントポリマーおよびニコチン代謝体の生体分析および分離にこのポリマーを使用することに関する。さらに本発明は、処理タバコ、タバコ代替え品およびそれらの誘導体中の目的化合物の量を減少させるためにこのモレキュラーインプリントポリマーを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、栄養学、環境科学および化学の分野では同族物質の複合的な混合物から特定の物質を選択的に分離する必要性が増大している。その目的は、特定の化合物の量的抽出、それら化合物の濃度の測定または多成分混合物からの目的化合物の選択的除去などがある。
【0003】
より厳しい健康管理によって、日々広く使用されている特定の物質から有害な生成物および代謝物の綿密且つ選択的に定量できる方法の要求が高まっている。特に注目されているのはタバコ系の生成物の使用に関連した化合物であり、これら化合物は、未処理のタバコ葉に元来存在する、または喫煙時に発生する化合物である。ニトロサミン類などのニトロソ含有化合物は、この点に関して特別な意義のあるものと考えられている。
【0004】
喫煙に関連する有毒物の発生を減少させる目的で、喫煙材の依存性の原因であるとされている化学物質である神経刺激性物質のニコチンのみを含む医薬品が製造されている。
【0005】
禁煙セラピーのためのニコチン処方において、ニコチンチューインガムが最も広く利用されている。このような医薬品の製造時の品質管理としては、ニコチン量(ガム1つ当たり2または4mg)の監視およびコチニン、ミオスミン、ニコチン−シス−N−オキシド、ニコチン−トランス−N−オキシドおよびベータ−ニコチリンなどの主要なニコチン酸化生成物の監視などがある。またノルニコチン、アナタビンおよびアナバシンの定量も望まれている。アメリカ薬局方(the United States Pharmacopeia (U.S.P))によると、ガムの処方は、ラベルに表示されているニコチンの量の95%乃至110%を含まなければならず、各酸化生成物の量はニコチン量の0.1%を超えてはならないとされている。
【0006】
このような紙巻タバコの代替え品を使用しても、ニトロサミンニコチン代謝物がニコチンが体内組織に存在する間に自然な代謝工程によって体内で生成される場合がある。これらの代謝物の量は、殆どの定量的な分析操作法が行われる濃度未満のレベルのままである。従ってこれら代謝物の量と同様に他のニコチン代謝物の量を監視できる方法の必要性は、重要になっている。通常、このような監視は、人間の尿サンプルで行われるが、その中の発ガンの疑いのある物質の量は、極めて低い。
【0007】
タバコまたはタバコ煙から定量、減少または除去される標的化合物は、知られており、タバコ特有のニトロサミン類(TSNAs)およびそれらのアルカロイド前駆体などがあり、具体的にはNNK、4−(メチルニトロサミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン、NNA、4−(メチルニトロサミノ)−4−(3−ピリジル)ブタナール、NNN、N-ニトロソノルニコチン、NAB、N-ニトロソアナバシン、NAT、N-ニトロソアナタビン、NNAL、4−(メチルニトロスアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノール、イソ−NNAL、4−(メチルニトロスアミノ)−4−(3−ピリジル)−1−ブタノール、イソ−NNAC、4−(メチルニトロスアミノ)−4−(3−ピリジル)ブタン酸などがある。
【0008】
どの程度これら標的化合物が人体の生体流体中に存在するかを適切に定量化するためにタバコに含まれるアルカロイド類、特にニトロシル化された分解生成物および代謝物を分析するための方法が開発されている。このような分析に使用される既存のクロマトグラフ分離または抽出は、一般的な個体群をスクリーニングする際に発生する多数のサンプルを処理するのに要求される強度、厳密さおよび速度に欠ける。これら既存の方法では、通常1ミリリットル当たりピコグラム単位で存在するニトロサミン類の濃度が低いので、分析の前に検体の多段階抽出による多数のサンプル調製および場合によっては化学的誘導体化(例えば質量分析の前の重水素化)を必要とする。このような複雑さの要因の1つとして、既存の分離材料が、例えば抗体または生体受容体が問題の代謝物のためのものであっても分離性状として代謝体の電荷または疎水性のような物理化学的特性に依存しているので選択的ではないということが挙げられる。これらの物理化学的特性は、サンプル中の多くの他の無関係な分子と共有されている場合がある。
【0009】
通常の方法は、遠心分離、pH調整、酵素処理などの最大でで7つの作業工程を必要とし、これによりサンプル1つの調製時間に数時間または時には数日かかる場合がある。このような面倒な工程により、これらの工程の間に材料が失われ、元のサンプル濃度の概算に誤差が生じ、よってサンプルの元来の濃度を得るために直接的な測定によるのではなく、最終的な測定値から外挿する必要がある。従って、タバコ特有のニトロサミン類の分析を素早く、かつ、簡単に行える方法は、医学的な分析のニーズに充分答えるものはない(Byrd & Ogden, Journal of Mass Spectrometry, 2003, 38, 98-107およびWu et al. Anal. Chem. 2003, 75,4827-4832参照)。
【0010】
近年、モレキュラーインプリンティングによって調製された材料(モレキュラーインプリントポリマーまたはMIP)で小さな分子を選択的に認識することについて多くの報告がされている。例えば、Wulff, G. Andrew, Chemie. Int. Ed. Engl. 1995 (34) 1812参照。MIPは、標的化合物に選択的に結合するように適合した反応部位を有するポリマーである。非共有的に調整されたモレキュラーインプリント材料は、治療薬、糖類、ヌクレオチド塩基およびプレスチシド並びにステロイドおよびペプチドホルモンなどの種々の小型分子の不斉認識に使用されている。このようなモレキュラーインプリント材料は、例えばSellergren, B. Trends Anal. Chem. 1997 (16) 310に説明されている。いくつかのインプリント材が示す標的検体に対する高度な親和性および選択性は、対応する免疫親和(immuno-affinity、(IA))相との比較によって証明されている。しかしながら免疫親和相とは対照的にMIP材は、調整が簡単で、殆どの媒体に対して安定しており、長期間に亘って再利用可能である。
【0011】
従ってクロマトグラフィー、分離(連続式またはバッチ式)、化学的増感または特定の評価分析などのMIP材の用途が研究されている。
【0012】
また別の用途として生体サンプルまたは複合マトリックスに低濃度で存在する検体の固相抽出(SPE、Mayes, A.G..; Mosbach, K. Trends Anal. Chem. 1997, 16, 321参照)がある。SPEは、既存の方法では達成し得ないレベルに検体を選択的濃縮および浄化することができる。またモレキュラーインプリント固相抽出(MIPSE)が生物学的分析、食品分析および環境分析に使用されている。これらの例では検体が選択的に濃縮および浄化され、その後のクロマトグラフ(例えば、高性能液体クロマトグラフ、HGLC)または質量分析定量化の正確性が増し、検出限界が小さくなる(LOD)。
【0013】
標的分子または一群の標的分子に対する良好な親和性と高度な選択性により、MIPは食品業界から食品の品質を向上させる手段としてかなり注目されている。この場合、食品母体から望ましくない成分を選択的に除去するためにMIPを必要とする。これらの成分は、低濃度で存在する場合があるので、MIPの飽和容量は、通常限定的要因とはならない。
【0014】
本発明で特別に設計された好ましいMIPは、尿素などの複合マトリックスから最も一般的なニトロシル化されたニコチン誘導体を選択的に吸収することができ、定量的に回収することができるので、このような有害な化学物質の濃度の測定において誤差が小さくなる。
【0015】
定量化の他に標的化合物の量を減少させることによってタバコ、タバコ代替え品またはこれらの混合物を含む材料を消費する際の悪影響を減少させる試みも知られている。このように悪影響を減少させることは、材料の抽出物などの材料そのものまたはその誘導体中で行うことができる。また材料の熱分解生成物、即ち燃焼によって得られる主流煙および副流煙または材料をその燃焼温度未満の温度に加熱することによって生じるエアロゾル中で減少させることも可能である。
【0016】
このように減少させるためのよく知られている方法の1つとして、材料の熱分解性生物をフィルターと接触させて分解生成物から望ましくない成分を吸着することが挙げられる。またこれとは別に例えば米国特許明細書第5601097号に開示されているように材料を溶剤抽出する方法もある。この米国特許明細書によれば、タバコ材の蛋白質含有量をポリペプチドを抽出するために界面活性材を含む溶液でタバコを処理し、溶液を分離し、この溶液から界面活性剤とポリペプチドを取り除き、溶液をタバコ材に再結合させることによって減少させている。国際特許明細書WO01/65954号は、タバコを超臨界二酸化炭素などの超臨界抽出流体と接触させてニトロサミンを選択的に減少または除去する方法が開示されている。
【0017】
これらの方法は、タバコおよびタバコ代替え品、即ちタバコと同様に喫煙、噛む、吸入などに関係なく、消費される天然タバコに類似の特性を有する天然または合成材料に等しく利用可能である。
【0018】
MIPを使用してタバコ煙からニコチンを除去することがLiu, Y等によるMolecularly imprinted Solid-Phase Extraction Sorbent for Removal of Nicotine from Tobacco Smoke, Analytical Letters, Vol. 36, No. 8, pp1631-1645 (2003)に報告されているように試みられている。この文献に記載されているMIPは、ニコチンに結合するように構成されており、ニトロサミン類のようなより有毒なニコチン代謝物とは結合しない。またMIPが実際にニコチンに選択的であるかどうかは、データを供する科学的方法にキーとなる対照−観察要素(control-checking elements)に欠けるので定かではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って依然として当業界において新規のMIPおよびこれを使用する方法が特にニコチンおよびニコチン代謝物の分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
広義には本発明は、ニトロサミン含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマー(MIP)を提供する。
【0021】
本発明の好ましいMIPは、ニトロサミン類、特にTSNA類または喫煙材の熱分解生成物の蒸気相に見られる揮発性のニトロサミン類に選択的である。本発明の好ましい別のMIPは、ニコチンのニトロシル化された誘導体またはタバコに見られるアルカロイド類、即ちノルニコチン、アナバシンおよびアナタビンの1つ以上に選択的である。
【0022】
本発明のMIPは、例えば1つ以上の機能性モノマーと架橋剤をニトロサミンの構造的類似物の存在下で遊離基開始剤を含む重合媒体中で共重合し、MIPからテンプレートを除去することによって得られる。
【0023】
本発明は、本発明のモレキュラーインプリントポリマーを分析サンプル予備処理のクロマトグラフィー、化学センサーでの分析および予備抽出のためにまたはニコチン含有物質または装置からニコチンニトロサミンを抽出するための固相フィルターとして使用することも含む。
【0024】
さらに本発明は、タバコ製品の標的成分の量を減少させる方法を含み、この方法ではタバコ製品は、少なくとも1つのニトロソ含有化合物に選択的なMIPで処理される。さらに本発明は、ニトロソ含有化合物に選択的なMIPの使用を含む喫煙材の製造方法を提供する。
【0025】
本発明は、タバコ製品に含まれるニトロソ含有化合物の量を減少させるためにタバコ製品をMIPで処理することも含む。
【0026】
本明細書中、「タバコ生成物」とはタバコ(タバコ葉またはタバコ茎を含む)、タバコ代替え品またはタバコとタバコ代替え品とのブレンドを含む材料、この材料の抽出物、この材料の熱分解によって発生する煙生成物およびこの材料をその燃焼温度未満に加熱して発生するエアロゾルなどの派生物を意味する。
【0027】
このタバコ生成物がタバコまたはタバコ代替え品を含む材料の燃分解によって発生する派生物である場合、分解は、従来の紙巻きタバコのように材料の燃焼によって、または喫煙者によって吸引されるエアロゾルを発生するためにいくつかの別のタバコ製品に使用される方法に従って材料をその燃焼温度未満に加熱することによって行ってもよい。
【0028】
これとは別にタバコ生成物は、タバコまたはタバコ代替え品を含む材料を溶媒と接触させて製せられる派生物であってもよい。特に本発明は、喫煙材を溶媒によって抽出する工程と、少なくとも1つのニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーでこの抽出物を処理してそれに含まれるニトロソ含有化合物の量を減少させる工程と、この処理された抽出物と喫煙材を組み合わせる工程とを含む喫煙材の製造法を提供する。
【0029】
この方法では喫煙材は、例えば微粉、ステム、くず、裁断された葉身、刻まれたステムまたはこれらいずれかの組み合わせなどの形状であってもよい。溶媒は、メタノール、エタノールまたは超臨界二酸化炭素液などの超臨界流体抽出媒体のような水溶性または非水溶性のものであってもよい。抽出は、タバコから窒素含有化合物の抽出に都合のよい条件下で行ってもよい。
【0030】
また本発明は、タバコまたはタバコ代替え品および少なくとも1つのニトロソ含有化合物の熱分解生成物からそのニトロソ含有化合物の除去に選択的なモレキュラーインプリントポリマーを含む喫煙品も含む。
【0031】
本発明の喫煙品は、例えば紙巻きタバコ、葉巻またはシガリロなどのあらゆる従来の形態のものであってもよい。特に本発明の喫煙品は、フィルター付きまたはフィルターなしの任意にラッパーに包まれるタバコ材ロッドを含んでもよい。このラッパーは、紙、タバコ葉、再生タバコまたはタバコ代替え品であってもよい。これとは別に例えば喫煙品が副流煙の発生を低下させることを意図するものである場合または主流煙の熱分解生成物の量を低下させることを意図するものである場合、そのラッパーは、セラミック材などの非燃焼性無機材から構成されてもよい。フィルターは、繊維性セルロースアセテート、ポリプロピレンもしくはポリエチレンまたは紙などのあらゆる好適な材料から構成される。
【0032】
喫煙材は、好ましくはタバコであるが、非タバコ喫煙材などのタバコ代替え品であってもよい。非タバコ材としては、果実材などの乾燥および硬化された植物材、アルギネートから製せられる合成喫煙材およびグリセロールなどのエアロゾル発生物質などが挙げられる。喫煙品は、タバコと非タバコ材とのブレンドであってもよい。喫煙品がタバコから構成される場合、空気、火、煙または日光で硬化された葉柄またはステムなどのあらゆる種類のものまたはこれらのブレンドであってもよく、あらゆる好適な方法で処理されていてもよい。例えばタバコは、裁断、刻み、膨張または再生処理されたものであってもよい。また喫煙材は、改良剤、着色料、湿潤剤(グリセロールおよびプロピレングリコール)、不活性充填剤(チョークなど)および風味剤(砂糖、甘草およびココア)などの従来の添加剤を含んでもよい。
【0033】
本発明は、喫煙以外の吸引、噛むまたは鼻からの摂取による経口または経鼻消費されることを意図したタバコにも利用してもよい。このようなタバコ製品としては嗅ぎタバコ、スヌース(snus)および紙タバコなどがある。
【0034】
モレキュラーインプリント材は、本発明の喫煙材に組み込んでもよい。また本発明は、喫煙材の熱分解生成物からの少なくとも1つのニトロソ含有化合物を選択的に除去するモレキュラーインプリントポリマーを含む喫煙材を含む。
【0035】
これとは別に喫煙品がラッパーに包まれた喫煙材ロッドを含む場合、モレキュラーインプリント材をラッパーに組み込んでもよい。従って本発明は、喫煙材の熱分解生成物からの少なくとも1つのニトロソ含有化合物を選択的に除去するモレキュラーインプリントポリマーを含む喫煙品用ラッパーを含む。このラッパーは、紙などのセルロース系材料または再生タバコなどのタバコ系材料であってもよい。
【0036】
本発明の好ましい喫煙品は、タバコのロッドと、ラッパーと喫煙材の熱分解生成物からの少なくとも1つのニトロソ含有化合物を選択的に除去するモレキュラーインプリントポリマーを含むフィルターとを含む紙巻きタバコである。
【0037】
また本発明は、喫煙材の熱分解生成物からの少なくとも1つのニトロソ含有化合物を選択的に除去するモレキュラーインプリントポリマーを含む煙用フィルターを含む。この煙フィルターは、例えば紙巻きタバコまたはシガーホルダーの形状で喫煙品と別個に製してもよく、フィルターチップ付き紙巻タバコの形状で喫煙品に組み込んでもよい。
【0038】
フィルターチップ状の煙フィルターは、あらゆる従来の構造のものであってもよい。例えば、セルロースアセテートなどの繊維性フィルター材からなるセクションを含む「ダルメシアン」型フィルター形状であってもよく、粒子状のモレキュラーインプリントポリマーをそのセクション全体に配してもよい。またフィルターは、「キャビティー」型フィルターであってもよく、このフィルターは、モレキュラーインプリントポリマーを2つの隣接する繊維フィルター材のセクションの間に配される複数のセクションを含む。この煙フィルターは、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカ、アルミナまたはアンバーライトなどの他の吸着材を含んでもよい。
【0039】
使用の際、煙はフィルターを通過し、モレキュラーインプリントポリマーが煙から標的化合物を選択的に吸着保持し、ろ過された煙は、喫煙者に送られる。
【0040】
本発明による煙フィルター及び喫煙品は、使用時にモレキュラーインプリントポリマーを煙から保護するまたは煙に晒されないようにするための手段を含む。これは複数の異なる方法で行ってもよい。例えば煙フィルターを煙の蒸気相または粒状相から物質を吸着するフィルターエレメントで構成してもよい。このようなフィルターエレメントは、糸状、粒状、顆粒状、布状または紙などのあらゆる従来の形状の活性炭などの一般的な吸着材で構成されてもよい。またフィルターエレメントは、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカ、アルミナまたはアマーライト(amerlite)などの選択的吸着材であってもよい。触媒を保護する手段は、例えばセルロースアセテートからなる第1フィルターエレメントと活性炭からなる第2フィルターエレメントのように異なる組成の2つ以上のフィルターエレメントを含んでもよい。煙フィルターに複数のフィルターエレメントの設けることはよく知られており、あらゆる従来の形状のフィルターおよびその製造方法を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
図中、類似の特徴のものには同じ符号を付してある。
【0042】
通常、モレキュラーインプリントは、次の工程からなる、(1)標的分子またはそれと構造的に類似したものであるテンプレート化合物を溶液中で選択された1つ以上のモノマーと相互作用させてテンプレート−モノマーコンプレックスを形成する、(2)テンプレート−モノマーコンプレックスを架橋モノマーと共重合させてテンプレート化合物を組み込んだ高分子マトリックスを得る、(3)テンプレート化合物を高分子マトリックスから抽出し、標的分子を選択的に結合するために使用可能なMIPを形成する。工程(3)の前にMIPが固体ポリマー(またはモノリス(monolith))として調製された場合、それは所望の大きさの粒状材のフラクションを形成するために通常粉砕され、篩にかけられる。MIPが懸濁重合またはエマルジョン重合のいずれかで調製された場合、この重合工程中に粒径を所望の範囲内に調整することができるので、このような粉砕および篩い分けをする必要がない。上述の方法で調整された粒状材は、クロマトグラフカラムまたは固相抽出カラム内に詰め込むことができ、類似の構造または機能性を有する分子を含む混合物の他の成分からテンプレートをクロマトグラフ分離するために用いられる。
【0043】
テンプレート化合物の除去によって晒されるモレキュラーインプリントポリマー上の反応部位は、標的分子の新鮮な分子との反応に適した立体化学構造をとる。その結果ポリマーは、標的分子の選択的結合に使用することができる。
【0044】
モレキュラーインプリント結合部位を発生させる現在最も広く利用されている方法は、「非共有」ルートを介している。これはテンプレート化合物と機能性モノマーの非共有自己組織化を利用してテンプレート−モノマーコンプレックスを形成し、その後架橋モノマーの存在下でフリーラジカル重合を行い、最終的にテンプレート化合物が抽出される。テンプレート分子および好適な1つ以上のモノマーが重合前に互いに共有結合する共有インプリントは、公知の方法で実施することができる。上記いずれかの方法で形成されたMIPの結合特性は、テンプレート分子を再結合させることによって調べることができる。
【0045】
重合は、ポロゲン(porogen)と呼ばれる孔形成溶媒の存在下で行われる。機能性モノマーとテンプレート化合物との静電的相互作用を安定化させるためにポロゲンが低から中極性の非プロトン性溶媒の中からしばしば選択される。理想的にはテンプレート化合物は、重合媒体に中または高溶解度を示し、従ってこれらテンプレート化合物またはその構造類似物は、この標準的な方法を利用して直接使用することができる。
【0046】
標的分子それ自体をテンプレートとして使用することが可能であるが、標的分子の構造的類似物の方が好ましい、なぜなら(a)標的分子は、重合条件下で不安定になりやすい、または重合を阻害する可能性がある、(b)標的分子は、その合成の複雑さもしくははコストまたはその両方のために充分な量を入手できない場合がある、(c)テンプレートは、予備重合混合物に不溶性または溶けにくい場合がある、(d)MIPは、使用中にMIPから流れ出るポリマーマトリックスの採取しにくい領域に残存する少量の標的分子によて汚染された状態で残る場合がある、および/または(e)標的検体が顕著な健康上のリスクを示し、テンプレートとして使用できないからである。
【0047】
ニトロソ化合物の場合、特に後述するTSNAとして知られている化合物の場合、その機能的類似物質をテンプレート化合物として使用するほうがより都合がよい。例えばTSNAのグルコース誘導体は、図2に示すようにテンプレート化合物として特に有用である。
【0048】
MIPが標的化合物の機能的類似物質から得られる場合、その類似物質は、等配性(isosteric)でなければならず、好ましくは標的化合物と等電性でなければならず、またはその類似物質は、強い相互作用が起こりやすい場合、標的化合物の基礎構造(substructure)を含んでいてもよい。
【0049】
ニトロソ含有化合物、特に一般式O=N−N(R)(R)で表されるニトロサミン類は、喫煙者に悪影響を与えると示唆されているタバコおよびタバコ煙の多くの構成要素のうちのいくつかである。
【0050】
本発明を適用できるある特定の類のニトロソ化合物は、「タバコ特有ニトロサミン(TSNA)」として知られているタバコに自然発生するニトロサミン類であり、これらニトロサミン類は、タバコに自然発生するアルカロイド、即ちニコチン、ノルニコチン、アナバシンおよびアナタビンから誘導される。TSNAとしては、以下のものが挙げられる。
【0051】
4−(メチルニトロサミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン(NNK)
【化1】

【0052】
N’−ニトロソノルニコチン(NNN)
【化2】

【0053】
N’−ニトロソアナバシン(NAB)
【化3】

【0054】
N’−ニトロソアナタビン(NAT)
【化4】

【0055】
4−(メチルニトロスアミノ)−4−(3−ピリジル)ブタノール(NNA)
【化5】

【0056】
さらに揮発性ニトロサミンとして知られている一群の化合物もタバコ煙の蒸気相に見られる。これらの化合物のとしては次の化合物が挙げられる。
【0057】
N’−ニトロソジメチルアミン(NDMA)
【化6】

【0058】
N’−ニトロソジエチルアミン(NDEA)
【化7】

【0059】
N’−ニトロソエチルメチルアミン(NP)
【化8】

【0060】
N−ニトロソジエタノールアミン
【化9】

【0061】
その他のニトロソ含有化合物もまたタバコまたはタバコ煙の化学的研究によって特定されており、その例としては、以下のものが挙げられる。
【0062】
N−ニトロソピロリジン(NYRP)
【化10】

【0063】
N’−ニトロソメチルブチルニトロスアミン(BMNA)
N’−ニトロソ−n−ブチルアミン(NBA)
【0064】
N’−ニトロソピペリジン(NIPI)
【化11】

【0065】
ニトロサミンの標的化のための可能な等配性類似物質を図3に示す。図3に示した分子は、親アミンの全ての誘導体であり、第2級アミンおよび対応するアルデヒドまたは酸塩化物から1つのの工程で合成することができる。エナミンの分子モデル(図4A参照)は、当該ニトロサミンの1つであるNNALと良好な立体相補性を示す。
【0066】
標的検体NNALのための好適なテンプレート化合物の設計の際、ある1つの興味深いテンプレートを特定した。このテンプレートは、ピリジンカルビノール構造に対応するが驚くことにニトロサミン残基(moiety)に欠けるものであった(図4B参照)。このような基礎構造的テンプレートに充分な結合親和性(binding affinity)および選択性を得ることができれば、これは好ましい方法となる。実際、このピリジンカルボニルMIPで得られる結合親和性、選択性および回収率は、より複雑なエナミンテンプレートで得られるMIPより優れている。したがって、本発明は、標的の特定の重要な特徴に欠けるが、ピリジン−メタノール残基を含む標的ニトロサミンと効果的に結合する単純なテンプレートを含む驚異的に効果的なMIPを提供する。
【0067】
NNAL MIPの調製
【0068】
機能性モノマーメタクリル酸(MAA)と、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)またはトリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)の2つの架橋剤のいずれか1つと、テンプレートとして4−(メチルプロペニル−アミノ)−1−ピリジン−3−イル−ブタン−1−オル(4MPAPB、図4A)またはピリジンカルビノール(図4B)の2つのNNAL類似物質のいずれか1つを使用して、有機水溶性溶媒環境でNNALに対して強い親和性と選択性を示す2つの異なるポリマーを得る。
【0069】
本発明は、ニコチン類似物であるNNALの定量的回収のための抽出方法を含み、この方法は、NNALに選択的なMIPをクロマトグラフィー材料フォーマットで調製する工程と、カラムの前処理(conditioning)と、尿サンプルを使用する工程と、阻害化合物を除去する工程と、NNAL検体を最終的に選択的に溶出する工程とを伴う。
【0070】
本発明をいくつかの実施例を参照してさらに詳述するが、これはあくまで例示を目的としており、本発明を限定するものではない。ここでは本発明は、テンプレート分子、ニコチン由来であり有機または水溶性系に存在するニトロサミンを結合するように構成されたポリマー材料、そして最後にこのポリマー材料を例えば分析サンプルの予備処理のためのクロマトグラフィーおよび化学センサーでの分析的または予備的分離に使用することを参照している。
【0071】
特に記載がない場合、実施例で使用される材料は市販されているか、または従来の方法で合成することができる。例えば、「B. Sellergren (Ed.) Molecularly-imprinted Polymers: Man made mimics of antibodies and their application in analytical chemistry, part of the series Techniques and Instrumentation in Analytical Chemistry, Elsevier Science, Amsterdam, Netherlands, 2001」を参照されたい。
【実施例1】
【0072】
エナミンテンプレートの合成(MPAPB)
【0073】
無水トルエン(ナトリウムで乾燥したての)2mlを4−メチルアミン−1−(3−ピリジル)−1−ブタノール(100mg)を含むガラス瓶に加えた。この混合物を窒素雰囲気下で1時間、撹拌した。この混合物に100μlのプロピオンアルデヒドを加えた。そして55℃で4時間撹拌した。1時間半後、高性能液体クロマトグラフィーで反応を観察した。生成物の色は、トルエンの中でオレンジ系の黄色であった。トルエン中の粗生成物は、精製せずにろ過した後、MIPの合成にそのまま使用することができた。テンプレートMPAPBの収率は、約90%であった。
【実施例2】
【0074】
テンプレートとしてピリジンカルボニルを使用したMIPの合成
【0075】
ピリジンメタノール(97μl)に3.74mlのTRIM(塩基性アルミナで精製された)、機能性モノマーMAA(1020μl)、ポロゲントルエン溶媒(7.1ml)および最後に開始剤ABDV(63mg)を加え、透明な溶液が得られるまで撹拌した。その溶液をガラス瓶に移し、5分間窒素でパージし、火炎密閉(flame sealed)した。熱重合を45℃で24時間行った。そのポリマー混合物をさらに24時間、70℃で硬化させた。
【0076】
粗MIP材の処理を次のように行った。まずMIPを粗く粉砕し、ソクスレトシンブル(Soxhlet thimble)に移した。このMIPを最初にメタノールで12時間、それから酢酸で12時間洗浄して、残存したテンプレートおよび他の未反応のモノマーを除去した。これら最初の抽出工程の後、ポリマーを真空乾燥させ、粉砕し、篩い分けして20乃至90μmのサイズの微粉を得た。最終的な抽出工程として、このように微粉化されたMIPを抽出溶液として蟻酸を使用して溶媒抽出しながら、40分間、マイクロ波に晒した。乾燥後、MIPを使用する準備が整った。
【実施例3】
【0077】
固相抽出(SPE)において選択的吸着剤としてのMIPの使用
【0078】
本発明の1つの態様において、生物マトリックスからNNALを選択的に抽出するためにMIPを固相抽出カラムに詰め込むことができる。最初にポリプロピレンフリット(frit)を好適な固相抽出カラム(通常、分析に使用する場合10ml容量である)に入れ、25mgのMIPをその上から加えてMIP床を形成し、第2のフリットをMIP床の表面上に強く押し込んだ。カラムの前処理を1mlのDCM、1mlのMeOHおよび最後に1mlの蒸留水をこの順番で使用して行った。
【0079】
サンプル、即ち少量の検体を含む人間の尿(5ml)を上記で調整したMIPの固相抽出カラムに通過させた。その後カラムを真空状態にし、その中の物質が乾燥するまで水を除去した。MIPに非特異的に関連する可能性のある極性妨害物質(polar interfering substances)を1mlの蒸留水による洗浄で溶出させた。再度、数分間の真空を利用した乾燥を行い、いわゆる「フェーズ−スイッチ(phase-switch)」(環境を水溶性から有機的環境に変える)させた。この時点で非極性妨害物質をそれぞれ1mlのトルエン、トルエン:DCM(9:1)およびトルエン:DCM(4:1)で洗浄して除去した。NNALの最終的な選択的溶出を3回の溶出工程においてそれぞれ1mlのDCMを使用して行った。
【0080】
溶媒を蒸発させた後、サンプルを移動相で再構成し、ベータ−ベーシックC18カラム、5μm、150x2.1mm+プレカラム10x2.1mmを用いたMerck−Hitachi(L−7000システム)のHPLCシステムで分析した。流量は0.25mL/分、注入量は100μL、温度は30℃、262nmの紫外線で検出した。移動相は、50mMのpH3のNHPO、5mMのオクタンスルホン酸および20%のメタノールからなる。
【0081】
これらの条件下で、NNALは、8から10分で溶出する明確に識別可能な2つのピークとして得られた(0.25μgのNNALが混ざった人間の尿の1mlのサンプルをNNALを含まない尿と比較した図6を参照されたい)。この2つのピークは、2つの回転異性体に対応するようにNNALの特徴である。NNALの構造からピリジンリングの側鎖が異なる立体配座状態を持ち得ることを立証することができる。好ましい立体配座は、回転異性体と呼ばれ、NNALの場合、2つの主要な立体配座がある。HPLCカラム上でのこれら2つの立体配座の保持は、異なる。図6に示すようにNNALのピークは、妨害物質からきれいに離れている。したがって容易かつ正確に定量化することができる。NNALの回収率(回収された量/充填された量x100で表される)は、生体サンプル中のNNALの初期の量によるが、通常最大で90%である。NNALをそれぞれ50pg/mL、500pg/mL含むサンプルでは100%の近い回収率を示した(図5参照)。
【実施例4】
【0082】
ニコチンの存在下で固相抽出における選択的吸着剤としてのMIPの使用
【0083】
本発明の別の用途は、多量のニコチンが存在するNNALに選択的に吸着する吸着剤としての使用がある。この実施例は、MIP材の広い範囲の用途およびMIPの選択性が特定のサンプルに対してどのように微調整されるかを例示している。
【0084】
固相抽出カラムを実施例3と同じように調製した。この固相抽出カラムは、1mlのDCM、1mlのMeOH、1mlのpH4.5の50mM(NH)HPOをこの順番で使用して前処理した。少量の検体を含む5mLの人間の尿であるこの実施例のサンプルを前処理されたMIP固相抽出カラムに通過させた。その後、カラムを中度の真空状態(例えば10から80kPa)にし、その中の物質が乾燥するまで水を取り除いた。MIPに非特異的に関連する可能性のある極性妨害物質を1mlのpH4.5の50mM(NH)HPOによる洗浄で溶出させた。さらに数分間の真空を利用した乾燥を行った。さらに1mlのトルエン、1mlのトルエン:DCM(9:1)および1mlのトルエン:DCM(4:1)の順で洗浄を行った。NNALの最終的な選択的溶出を3回の溶出工程においてそれぞれ1mlのDCMを使用して行った。
【0085】
溶媒を蒸発させた後、サンプルを移動相で再構成し、実施例3で使用したHPLCシステムで分析した。クロマトグラムの一例を図7に示す。この図は、ニコチンを緩衝液(buffer)洗浄で除去しても、どのようにNNALがMIPに選択的に保持されているかを例示している。
【実施例5】
【0086】
MIPを組み込んだ喫煙品
【0087】
図8および9は、ラッパー2で包まれたタバコロッド1とこれにチッピング紙4によって装着される煙フィルター3を有する紙巻きタバコ形状の喫煙品を例示する。明確にするためにチッピング紙4をラッパー2から離して示しているが、実際はチッピング紙とラッパーは接触する。
【0088】
図8に示した紙巻タバコのフィルター3は、3つの円筒状のフィルターエレメント3a、3b、3cを含む。フィルターの吸い口端に位置する第1のフィルターエレメント3aは、長さが7mmで、7重量%のトリアセチン可塑剤で含浸され、全長に亘って25mmWGの圧力降下を有するセルロースアセテートトウで構成されている。フィルターの中央に位置する第2フィルターエレメントは、長さ5mmのキャビティーであり、150mgの活性炭粒子を含む。ロッド1に隣接する第3フィルターは、長さが15mmで、その長さに亘って90mmWGの圧力降下を有し、80mgのセルロースアセテートトウを含む。このセルロースアセテートトウは、4重量%のトリアセチンで含浸され、下記実施例6で製せられる揮発性ニトロサミンに特有のMIPを80mg含み、このMIPは、「ダルメシアン」方式で均一に分配されている。
【0089】
図9に示した紙巻タバコは、図8の紙巻きタバコと類似しているが、フィルター3が4つの同軸の円筒状フィルターエレメント3a、3b、3cおよび3dを有するという点で異なる。紙巻タバコの吸い口端に位置する第1フィルターエレメント3aは、5mmの長さを有し、7重量%のトリアセチン可塑剤で含浸されたセルロースアセテートトウから構成されている。第1フィルターエレメント3aに隣接して位置する第2フィルターエレメント3bは、下記実施例6で製せられる揮発性ニトロサミンに特有のMIPを200mg含む長さ5mmのキャビティーである。第2フィルターエレメント3bに隣接する第3フィルターエレメント3cは、10mmの長さを有し、7重量%のトリアセチンで含浸されたセルロースアセテートトウで構成されている。フィルターエレメント3cとロッドとの間に位置する第4フィルターエレメント3dは、7mmの長さを有し、80mgの活性炭粒子を含む。換気孔5がリング状にチッピング紙のラジアル平面A−Aに形成されており、これらの換気孔は、煙が紙巻きタバコを介して吸入される際に第4フィルターエレメント3dと第3フィルターエレメントとの接合部から約3mm下流のフィルターエレメント3c内に空気を送る。
【0090】
次の実施例は、本発明の紙巻きタバコについてさらに例示する。
【実施例6】
【0091】
揮発性ニトロサミン類のテンプレート類似物質
【0092】
【化12】

【0093】
2当量の好適な第2級アミン、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ピロリジン、ピペリジンまたはモルホリンを無水エーテルに溶解し、新鮮な乾燥したモレキュラーシーブ(50g/モルアミン)を加えた。この混合物を−5℃に冷却し、撹拌した。1当量のプロピオンアルデヒドをこの冷却した混合物に滴下し、0±5℃に保持した。さらにこの混合物を一晩、冷却槽内で放置した後、ろ過した。生成物がその沸点にもよるが減圧下でろ液を蒸留することによって約50%の収率で得られた。一例として構造と沸点を図10に示す(Brannock, et. Al., J. Org. Chem., 1964, 29, 801-812参照)。
【0094】
強酸機能性モノマーを使用してエナミンに陽子を付加し、インプリント工程中に必要な非共有相互作用を生じさせる。窒素に結合したカーボン原子に正電荷が留まり、イミニウムイオンを供する非局在化により構造が安定する。これにより以後の揮発性ニトロサミンの認識のために強酸機能性モノマーが正しく位置せしめられる。正電荷を非局在化する機会が存在しないので、エナミン窒素の陽子付加は疎外される(Cook, et al., J. Org. Chem., 1995, 60, 3169-3171参照)。
【0095】
MAA(メタクリル酸)より強い酸性の機能性モノマーを使用したほうが好ましい場合もある。さらなる態様は、機能性モノマーとして4−ビニル安息香酸または4−ビニルベンゼンスルホン酸を含む。
【実施例7】
【0096】
エナミンをテンプレートとして使用したMIPの合成
【0097】
所望のエナミン(1mmol)、酸性機能性モノマー(4mmol)、架橋モノマー(20mmol)および遊離基開始剤(全モノマーの1%w/w)を好適なポロゲン溶媒に溶かして予備重合溶液を調製する。機能性モノマーは、MAAまたはトリフルオロメタクリル酸(TFMAA)のいずれかであり、架橋剤は、EDMAまたはTRIMのいずれかであり、ポロゲン溶媒は、クロロホルム、トルエン、アセトニトリルまたはアセトニトリル/トルエン(1/1v/v)のいずれか1つである。得られた溶液を重合容器へ移し、0℃に冷却し、5分間窒素でパージし、その後容器を火炎密閉する。重合を45℃で開始し、この温度で24時間続ける。得られたポリマーを70℃で24時間、硬化させた。
【0098】
得られた粗MIP材を処理する。MIP材を粗く粉砕し、ソクスレトシンブル(Soxhlet thimble)に移した。このMIPを(i)メタノールで12時間、そして(ii)酢酸で12時間洗浄し、残存したテンプレートおよび他の未反応のモノマーを除去する。これら最初の抽出工程の後、ポリマーを真空乾燥させ、粉砕し、篩い分けして25乃至36μmのサイズの微粉を得た。最終的な抽出工程として、このように微粉化されたMIPを抽出溶液として蟻酸を使用して溶媒抽出しながら、40分間、マイクロ波に晒した。さらにMIPを24時間、真空乾燥する。
【0099】
これとは別に標的TSNAをエナミンの代わりに使用してもよい。標準大気圧での選択された揮発性ニトロサミンの沸点を図11に示す。
【実施例8】
【0100】
タバコ抽出物の処理における実施例2および/または実施例7のMIP材の使用
【0101】
実施例2または実施例3の方法に従って製せられたポリマーを固相抽出カラムに組み込み、このカラムをジクロロメタン(DCM)、メタノールおよび最後に蒸留水に通過させて前処理する。
【0102】
刻まれたバーリータバコ葉を60℃の温度の水で15分間、抽出する。タバコ葉をろ過によって溶液から分離し、乾燥させる。溶液をカラムに通過させ、抽出物からTSNAを吸着させる。カラムから溶液を流し、溶液をフィルム蒸発によって濃縮し、この濃縮物を抽出されたタバコと再結合させ、空気乾燥させる。
【0103】
ポリマーによって吸着されたTSNAは、DCMを用いてカラムから溶出させることができる。
【実施例9】
【0104】
タバコ抽出物の処理における実施例2または実施例7のMIP材の使用
【0105】
フルー硬化された(flue-cured)タバコ葉を水で15分間、60℃の温度で抽出する。タバコ葉をろ過によって溶液から分離し、乾燥させる。この溶液を実施例2または実施例7のMIPと混合し、その間ポリマーが溶液から選択的にTSNAを吸着する。それからMIPをろ過または遠心分離によって抽出物から機械的に分離させる。溶液を蒸発により濃縮し、得られた濃縮物を抽出されたタバコに再結合させ、空気乾燥させる。
【0106】
MIPは、DCM、メタノールそして最後に脱イオン水またはpH4のバッファで溶出させることによって再利用可能になる。
【実施例10】
【0107】
タバコ抽出物の処理における実施例2または実施例7のMIP材の使用
【0108】
連続抽出法を用いてUSブレンドの刻みタバコ葉を第1抽出チャンバーに充填し、超臨界二酸化炭素をその中に供給する。タバコと接触した後、二酸化炭素を実施例2または実施例7で説明したように製せられたMIPを含む第2抽出チャンバー内に供給する。ポリマーと接触した後、二酸化炭素を第1抽出チャンバーに戻し、再度タバコと接触させる。このサイクルをタバコのTSNA含有量が所望のレベルになるまで続け、その後二酸化炭素がシステムから排出され、タバコは第1チャンバーから取り除かれる。第2チャンバー内のMIPは、DCM、メタノールおよび酢酸を用いて再生される。
【実施例11】
【0109】
4−メチルニトロソアミノ−1−(3−ピリジル)−1−ブタノール(NNAL)用に開発されたモレキュラーインプリントポリマーのNNALおよびニコチン含有溶液処理における使用
【0110】
実施例2の方法に従って製せられたポリマーを固相抽出カラムに組み込み、そのカラムをリン酸緩衝液に通過させて前処理した。
【0111】
NNALおよびニコチンの水溶性標準溶液をpH3.0から7.5の範囲のリン酸緩衝液中で調製した。緩衝標準溶液をカラムに通過させ、その吸収物を集め、NNALおよびニコチン含有量を分析した。緩衝洗浄溶液をカラムに通過させ、その収集物のNNALおよびニコチン含有量も分析した。
【0112】
溶液をUV検出でHPLCによって分析した。NNALを保持し、ニコチンを回収するMIPの最適条件は、4.0から4.5の範囲のpHで観察される。低いpH値ではニコチンは陽子化され、ポリマーと殆ど相互せず、水溶性緩衝液と共に運ばれる。
【実施例12】
【0113】
4−メチルニトロソアミノ−1−(3−ピリジル)−1−ブタノール(NNAL)用に開発されたMIP材のNNALおよびニコチン含有溶液処理における使用
【0114】
実施例2の方法に従って製せられたポリマーを固相抽出カラムに組み込み、そのカラムをジクロロメタン(DCM)、メタノールおよび最後に蒸留水に通過させて前処理した。
【0115】
NNALおよびTSNA(NAB、NAT、NNKおよびNNN)の水溶性標準溶液を氷酢酸でpH3に酸化させた。この標準溶液をカラムに通過させ、氷酢酸溶液で3回洗浄し、その収集物のNNALおよびTSNA含有量をGC−TEAによって分析した。カラムをジクロロメタン洗浄液で3回洗浄し、この収集物のNNALおよびTSNA含有量を分析した。
【0116】
MIPは、91%のNNAL、65%のNNKを保持し、他のTSNA(構造的に類似していない)については約20から30%の効率を保持した。
【0117】
上記の開示は、本発明を単に例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明の要旨を組み込んだ開示した態様の変更は、当業者によってなしえるので、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれと同等のものの範囲内の全てを包含するものと解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】インプリントポリマーの合成方法の概要を示す図。
【図2】ニトロサミン官能基およびニコチンに関連するニトロサミン標的を示す。
【図3】ニトロサミンの等配性(isosteric)類似物を示す。
【図4A】アミドおよびスルホンアミド系標的類似物を示す。
【図4B】NNALの抽出のためのMIPを調整するためにテンプレートとして使用されるエナミン標的類似物(MPAPB)を示す。
【図4C】NNALの抽出のためのMIPを調整するためにテンプレートとして使用されるピリジンカルビノールを示す。
【図5A】NNALに選択的なMIPを使用した際のNNALの回収率を示す。
【図5B】NNALに選択的なMIPを使用した際のNNALの回収率を示す。
【図6】0.25μgのNNALを含む1mLの人間の尿(実線で示した)となにも混ざっていない1mLの人間の尿(太線で示した)を分析した後に得られたクロマトグラムを示す。
【図7】ニコチンの存在下でサンプル分析した後得られたクロマトグラムのオーバーレイを示し、実線は、NNALおよびニコチンが混ざったサンプルを表し、破線は、1mLのNNALおよびニコチンが混ざったサンプルの充填から集められた溶出液を表し、長破線は、(NH)HPO、pH4.5の洗浄液を表す。
【図8】本発明による煙フィルターを有する喫煙品の側面図であり、一部を長手方向の断面図であり、一部切り欠き図である。
【図9】本発明による別の煙フィルターを有する喫煙品の図8の類似の図。
【図10】実施例6で説明した3つの生成物の化学構造および沸点を示す。
【図11】選択した揮発性ニトロサミンの化学構造および沸点を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマー。
【請求項2】
ニコチン、ノルニコチン、アナバシンまたはアナタビン由来のニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマー。
【請求項3】
ニコチン由来のニトロサミン、NNALに選択的なモレキュラーインプリントポリマー。
【請求項4】
等配性テンプレート類似物質を使用して調整された請求項1記載のポリマー。
【請求項5】
テンプレートとしてニコチンニトロサミンの等配性類似物質を使用して調整された請求項1記載のポリマー。
【請求項6】
テンプレートとして4−(メチルプロペニル−アミノ)−1−ピリジン−3−イル−ブタン−1−オールを使用して調整された請求項1記載のポリマー。
【請求項7】
テンプレートとしてピリジンカルビノールを使用して調整された請求項1記載のポリマー。
【請求項8】
ニトロソ含有化合物の基礎構造を含む化合物を使用して調整された請求項1記載のポリマー。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれか1項記載のモレキュラーインプリントポリマーとサンプル中のニトロサミンを検出、定量化および分離する内の少なくとも1つを行うように前記モレキュラーインプリントポリマーを使用するためのインストラクションとを含むキット。
【請求項10】
ニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーの調製方法であって、
ニトロサミンの構造的類似物質に結合したモレキュラーインプリントポリマーを製するために少なくとも1つの遊離基開始剤を含む重合媒体中で少なくとも1つのニトロサミンの構造的類似物質の存在下で少なくとも1つの機能性モノマーと少なくとも1つの架橋剤とを共重合する工程と、
前記モレキュラーインプリントポリマーから前記ニトロサミンの構造的類似物質を除去する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記機能性モノマーが酸性の機能性を示すことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記機能性モノマーがメタクリル酸(MAA)、TFMAA、ビニル安息香酸およびイタコン酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記架橋剤がエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、ペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる群から選択されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記構造的類似物質が4−(メチルプロピレン−アミノ)−1−ピリジン−3−イル−ブタン−1−オール(4MPAPB)およびピリジンカルビノールからなる群から選択されることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項15】
ニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーの調製方法であって、
均一な反応媒体中で重合混合物と少なくとも1つのニトロサミンの構造的類似物質を共重合する工程と、
前記反応媒体から懸濁した粒子を回収する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
ニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーの調製方法であって、
不均一反応媒体中で重合混合物と少なくとも1つのニトロサミンの構造的類似物質を共重合する工程と、
前記不均一反応媒体から重合した材料を回収する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項10乃至16いずれか1項記載の方法で調製されたモレキュラーインプリントポリマー。
【請求項18】
サンプルがニトロサミンを含有するかどうかを判断する方法であって、
サンプル中に存在するニトロサミン類をニトロサミン類に選択的なモレキュラーインプリントポリマーに結合させる条件下でサンプルをモレキュラーインプリントポリマーと反応させる工程と、
ニトロサミン類に結合したモレキュラーインプリントポリマーが観察されたという評価は、サンプルがニトロサミン類を含むことを示す前記モレキュラーインプリントポリマーがニトロサミン類のいずれかに結合したか否かを評価する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
サンプル中のニトロサミン類の量を定量化する方法であって、
サンプル中に存在するニトロサミン類をニトロサミン類に選択的なモレキュラーインプリントポリマーに結合させる条件下でサンプルをモレキュラーインプリントポリマーと反応させる工程と、
モレキュラーインプリントポリマーに結合したニトロサミンの量を測定する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
少なくとも1つのニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーでタバコ生成物を処理することを含むタバコ生成物中の標的化合物の量を減少させるためにタバコ生成物を処理する方法。
【請求項21】
前記タバコ生成物が、タバコ、タバコ代替え品またはこれらの混合物を含む材料の熱分解によって製せられることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記タバコ生成物が前記材料をその燃焼温度より低い温度に加熱して製せられることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記タバコ生成物が前記材料の燃焼によって製せられることを特徴とする請求項20または21記載の方法。
【請求項24】
前記タバコ生成物が、タバコ、タバコ代替え品またはこれらの混合物を含む材料を溶媒と接触させることによって製せられることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項25】
タバコ材を製する方法であって、
タバコ、タバコ代替え品またはこれらの混合物を含む材料を溶媒で抽出する工程と、
その抽出物を少なくとも1つのニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーと接触させて抽出物中のニトロソ含有化合物の量を減少させる工程と、
抽出されたタバコ材と処理された抽出物を組み合わせる工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
前記モレキュラーインプリントポリマーが少なくとも1つのニトロサミンに選択的であることを特徴とする請求項20乃至25いずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記モレキュラーインプリントポリマーが少なくとも1つのタバコ特有のニトロサミンに選択的であることを特徴とする請求項20乃至25いずれか1項記載の方法。
【請求項28】
喫煙材と、
喫煙材の熱分解生成物中に見られる少なくとも1つのニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーとを含む喫煙品。
【請求項29】
前記モレキュラーインプリントポリマーが喫煙材の熱分解生成物中の蒸気相に見られる少なくとも1つの揮発性ニトロサミンに選択的であることを特徴とする請求項28記載の喫煙品。
【請求項30】
少なくとも1つのニトロソ含有化合物に選択的なモレキュラーインプリントポリマーを含む煙用フィルター。
【請求項31】
前記モレキュラーインプリントポリマーがタバコまたはタバコ代替え品の熱分解生成物中の蒸気相に見られる少なくとも1つの揮発性ニトロサミンに選択的であることを特徴とする請求項30記載のフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−500442(P2008−500442A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527126(P2007−527126)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000773
【国際公開番号】WO2005/112670
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(505271976)エムアイピー テクノロジーズ アーベー (2)
【出願人】(500252844)ブリティッシュ アメリカン タバコ (インヴェストメンツ) リミテッド (111)
【氏名又は名称原語表記】BRITISH AMERICAN TOBACCO (INVESTMENTS) LIMITED
【Fターム(参考)】