説明

ニトロセルロース溶液およびその製造方法、蛍光体スラリーおよびその製造方法、蛍光体被膜、蛍光ランプ

【課題】蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着させることが可能であり、かつ、蛍光体スラリーにおける蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができるニトロセルロース溶液およびその製造方法、このニトロセルロース溶液を用いた蛍光体スラリーおよびその製造方法、この蛍光体スラリーを用いて形成された蛍光体被膜、この蛍光体被膜が設けられた蛍光ランプを提供する。
【解決手段】本発明のニトロセルロース溶液は、ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液であって、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度が2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロセルロース溶液およびその製造方法、蛍光体スラリーおよびその製造方法、蛍光体被膜、蛍光ランプに関し、さらに詳しくは、蛍光体スラリーに適度な粘性を付与することが可能なニトロセルロース溶液およびその製造方法、このニトロセルロース溶液を用いた蛍光体スラリーおよびその製造方法、この蛍光体スラリーを用いて形成された蛍光体被膜、この蛍光体被膜が設けられた蛍光ランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶モニタ、液晶テレビなどの液晶表示装置(LCD)の光源としては、冷陰極型蛍光放電管(冷陰極型蛍光ランプ、CCFL)が用いられている。
この冷陰極型蛍光放電管は、例えば、ガラス管の両端が封止された透光性封止管の内面に蛍光体からなる発光層(蛍光体被膜)を形成し、この透光性封止管内の両端部側にそれぞれ電極を設け、この透光性封止管内の任意の部分、例えば電極などに酸化セシウムなどの電子線放射性物質を付着させ、さらに、この透光性封止管内に水銀およびアルゴンなどの希ガスを封入したものである。
透光性封止管内面への蛍光体被膜の形成方法としては、透光性封止管をなすガラス管を垂直に保持し、その下端を、蛍光体を含有するスラリー(蛍光体スラリー)に浸漬して、その下端からガラス管内に吸い上げることにより、ガラス管内面に蛍光体スラリーを塗布する方法が公知である。
【0003】
ところで、近年、液晶表示装置の薄型化、大画面化の志向に応じて、冷陰極型蛍光放電管もより細径かつ長尺にする必要がある。しかしながら、上記の蛍光体スラリーをガラス管内に吸い上げる方法では、蛍光体スラリーがガラス管内に詰まるか、あるいは、ガラス管内に形成された蛍光体被膜の膜厚が不均一となり、その結果として、冷陰極型蛍光放電管の輝度のばらつきや色差が大きくなるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、垂直に保持したガラス管の上端からその内部に蛍光体スラリーを流下させた後、ガラス管の上端からその内部に加圧気体を流入して、ガラス管内に詰まった蛍光体スラリーを強制的に排出する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、垂直に保持したガラス管の内面に蛍光体スラリーを塗布した後、ガラス管の下端に空気を吹き付けて、ガラス管の下端に横方向に高速で空気を流動させることにより、この高速空気流がガラス管内の空気を吸引し、その下端から吸引される空気流でガラス管の下端に詰まる蛍光体スラリーを除去する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、ガラス管の内面に蛍光体スラリーを塗布した後、このガラス管をその管長方向の中心軸を回転軸として回転させることにより、ガラス管の内面に、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
さらに、蛍光体スラリーに粘性付与剤として配合されるニトロセルロースの配合量を増大させることにより、蛍光体被膜の均一性および蛍光ランプの輝度を改善する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平04−312741号公報
【特許文献2】特開平06−349405号公報
【特許文献3】特許第3381688号公報
【特許文献4】特許第3336598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のガラス管内部に加圧気体を流入して、蛍光体スラリーを強制排出する方法、ガラス管の下端に横方向に高速で空気を流動させて、下端に詰まる蛍光体スラリーを除去する方法、および、ガラス管を回転させて、ガラス管の内面に膜厚の均一な蛍光体被膜を形成する方法では、製造装置の改造が必要であることや、蛍光体スラリーの配合を変更する度に製造条件も検討し直さなければならないという問題があった。
また、蛍光体スラリーにおけるニトロセルロースの配合量を増大させて、蛍光体被膜の均一性および蛍光ランプの輝度を改善する方法では、ニトロセルロースの配合量を増大させると、蛍光体スラリーの粘度も増大し、ガラス管内に蛍光体スラリーを吸い上げることが困難になるだけではなく、この蛍光体スラリーを焼成して形成された蛍光体被膜には残留有機物が多く含まれるため、蛍光ランプの輝度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着させることが可能であり、かつ、蛍光体スラリーにおける蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができるニトロセルロース溶液およびその製造方法、このニトロセルロース溶液を用いた蛍光体スラリーおよびその製造方法、この蛍光体スラリーを用いて形成された蛍光体被膜、この蛍光体被膜が設けられた蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、酢酸ブチルにニトロセルロースを十分に溶解させてニトロセルロース溶液を調製し、このニトロセルロース溶液を用いて蛍光体スラリーを調製することにより、この蛍光体スラリーに適度な粘性を付与して、この蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着することができるとともに、この蛍光体スラリーにおいて、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができるため、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のニトロセルロース溶液は、ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液であって、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明のニトロセルロース溶液の製造方法は、ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液の製造方法であって、前記ニトロセルロースと前記酢酸ブチルを混合して混合溶液とし、該混合溶液を超音波処理することを特徴とする。
【0011】
本発明の蛍光体スラリーは、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の蛍光体スラリーの製造方法は、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーの製造方法であって、前記ニトロセルロース溶液と前記蛍光体を混合して混合物とし、該混合物を超音波処理することを特徴とする。
【0013】
本発明の蛍光体被膜は、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の蛍光ランプは、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成した蛍光体被膜が、透光性封止管の内部に設けられてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のニトロセルロース溶液によれば、ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液であって、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるので、酢酸ブチルにニトロセルロースが十分に溶解することで、本発明のニトロセルロース溶液と蛍光体を含有してなる蛍光体スラリーの粘度が適度となり、この蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着(塗布)することができる。また、この蛍光体スラリーにおいて、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができるので、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができ、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができる。
【0016】
本発明のニトロセルロース溶液の製造方法によれば、前記ニトロセルロースと前記酢酸ブチルを混合して混合溶液とし、該混合溶液を超音波処理するので、酢酸ブチルにニトロセルロースが十分に溶解し、ニトロセルロース溶液の粘度が低下するので、このニトロセルロース溶液と蛍光体を配合してなる蛍光体スラリーにおいて、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができ、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができる。
【0017】
本発明の蛍光体スラリーによれば、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなるので、適度な粘度となって、ガラス管の内面に十分に付着(塗布)することができる。また、蛍光体にニトロセルロースが十分に吸着しているので、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができ、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができる。
【0018】
本発明の蛍光体スラリーの製造方法によれば、前記ニトロセルロース溶液と前記蛍光体を混合して混合物とし、該混合物を超音波処理するので、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができ、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができる。
【0019】
本発明の蛍光体被膜によれば、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成してなるので、膜厚が均一となり、この蛍光体被膜を設けた蛍光ランプは十分な輝度が得られる。
【0020】
本発明の蛍光ランプによれば、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成した蛍光体被膜が、透光性封止管の内部に設けられてなるので、蛍光体被膜は膜厚が均一であるから、蛍光ランプとして十分な輝度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のニトロセルロース溶液およびその製造方法、蛍光体スラリーおよびその製造方法、蛍光体被膜、蛍光ランプの最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0022】
「ニトロセルロース溶液」
本発明のニトロセルロース溶液は、ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液であって、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下の溶液である。
【0023】
本発明のニトロセルロース溶液において、ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下であり、好ましくは600以上かつ1000以下である。
ニトロセルロースの平均重合度を400以上かつ2000以下とした理由は、ニトロセルロースの平均重合度が400未満では、ニトロセルロース溶液の粘度が低く、蛍光体スラリーに十分な粘性を付与できず、ガラス管への蛍光体付着量が不十分となるからであり、一方、平均重合度が2000を超えると、ニトロセルロース溶液の粘度が高いために蛍光体スラリーの流動性が低下し、ガラス管への塗布が困難となるからである。
【0024】
また、本発明のニトロセルロース溶液において、ニトロセルロースの含有率は、1重量%以上かつ2重量%以下であり、好ましくは1重量%以上かつ1.5重量%である。
ニトロセルロースの含有率が1重量%未満では、本発明のニトロセルロース溶液と蛍光体を含有してなる蛍光体スラリーは十分な粘度が得られず、この蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着(塗布)することができない。加えて、この蛍光体スラリーにおいて、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができず、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができないため、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができない。一方、ニトロセルロースの含有率が2重量%を超えると、本発明のニトロセルロース溶液と蛍光体を含有してなる蛍光体スラリーは粘度が高くなり過ぎて、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができないため、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができない。
【0025】
また、本発明のニトロセルロース溶液において、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であり、好ましくは10mPa・s以上かつ20mPa・s以下である。
ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度を2mPa・s以上かつ20mPa・s以下とした理由は、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度が2mPa・s未満では、蛍光体スラリーに十分な粘性を付与できず、ガラス管への蛍光体付着量が不十分となるからであり、一方、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度が20mPa・sを超えると、ニトロセルロースが十分に溶解しなくなり、本発明のニトロセルロース溶液と蛍光体を含有してなる蛍光体スラリーは、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができないため、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができないからである。
【0026】
本発明のニトロセルロース溶液によれば、ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるので、酢酸ブチルにニトロセルロースが十分に溶解しているから、本発明のニトロセルロース溶液と蛍光体を含有してなる蛍光体スラリーは適度な粘度が得られ、この蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着(塗布)することができる。また、この蛍光体スラリーにおいて、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができるので、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができ、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができる。
【0027】
「ニトロセルロース溶液の製造方法」
本発明のニトロセルロース溶液の製造方法は、ニトロセルロースと酢酸ブチルを所定の割合で配合し、攪拌混合して混合溶液とし、この混合溶液を超音波処理することにより、酢酸ブチルにニトロセルロースを十分に溶解させて、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度が2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液を調製する。
【0028】
ニトロセルロースと酢酸ブチルの混合溶液の超音波処理としては、ニトロセルロース100gに対して周波数20kHz〜200kHzにて、10秒間〜1000秒間行うことが好ましく、周波数20kHz〜50kHzにて、30秒間〜300秒間行うことがより好ましい。
【0029】
また、ニトロセルロースと酢酸ブチルの混合溶液の超音波処理は、酢酸ブチルにニトロセルロースを溶解する際、あるいは、本発明のニトロセルロース溶液を用いて蛍光体スラリーを製造する直前に行う。
【0030】
本発明のニトロセルロース溶液の製造方法によれば、ニトロセルロースと酢酸ブチルを混合して混合溶液とし、この混合溶液を超音波処理するので、酢酸ブチルにニトロセルロースが十分に溶解し、ニトロセルロース溶液の粘度が低下して、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下となるから、このニトロセルロース溶液と蛍光体を含有してなる蛍光体スラリーにおいて、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができ、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができる。なお、ニトロセルロース溶液において、酢酸にニトロセルロースが十分に溶解していないと、ニトロセルロース分子間の絡まりにより、ニトロセルロースの見かけ上の分子量が大きくなり、結果として、ニトロセルロース溶液の粘度が高くなる。すると、このニトロセルロース溶液と蛍光体を配合してなる蛍光体スラリーにおいて、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができなくなる。
【0031】
「蛍光体スラリー」
本発明の蛍光体スラリーは、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなるスラリーである。
【0032】
本発明の蛍光体スラリーにおいては、ニトロセルロース溶液は、上述の本発明のニトロセルロース溶液が用いられる。
【0033】
蛍光体としては、Y:Euなどの赤色系発光蛍光体、(SrCaBaMg)(POCl:Euなどの青色系発光蛍光体、LaPO:Ce,Tbなどの緑色系発光蛍光体の混合物が用いられる。
【0034】
本発明の蛍光体スラリーにおいて、ニトロセルロース溶液の含有率は、10重量%以上かつ90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上かつ50重量%である。
ニトロセルロース溶液の含有率が10重量%以上かつ90重量%以下であることが好ましい理由は、ニトロセルロース溶液の含有率が10重量%未満では、蛍光体スラリーは十分な粘性が得られず、この蛍光体スラリーをガラス管の内面に十分に付着(塗布)することができなくなる上に、この蛍光体スラリーにおいて、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができず、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができないため、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができなくなるおそれがあるからであり、一方ニトロセルロース溶液の含有率が90重量%を超えると、蛍光体スラリーは粘性が高くなり過ぎて、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができなくなるため、この蛍光体スラリーを用いて、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができなくなるおそれがあるからである。
【0035】
本発明の蛍光体スラリーにおいて、蛍光体の含有率は、10重量%以上かつ90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上かつ50重量%である。
蛍光体の含有率が10重量%以上かつ90重量%以下であることが好ましい理由は、蛍光体の含有率が10重量%未満では、この蛍光体スラリーを用いて形成された蛍光体被膜を有する蛍光ランプは十分な輝度が得られないからであり、一方、蛍光体の含有率が90重量%を超えると、蛍光体スラリー中におけるニトロセルロース溶液の含有量が相対的に低下し、スラリーに十分な粘性が付与できないからである。
【0036】
本発明の蛍光体スラリーには、用途や仕様に応じて、結着剤、溶媒、分散剤などを含有していてもよい。
結着剤としては、酸化アルミニウム(Al)粒子を酢酸ブチルに分散してなる分散液、低融点ガラス粒子の酢酸ブチル分散液などが用いられる。
【0037】
溶媒としては、水および/または有機溶媒であるが、その他、高分子モノマーやオリゴマーの単体、もしくはこれらの混合物などの有機高分子も好適に用いられる。
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
本発明の蛍光体スラリーによれば、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなるので、本発明の蛍光体スラリーは、適度な粘度となって、ガラス管の内面に十分に付着(塗布)することができる。また、蛍光体にニトロセルロースが十分に吸着しているので、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができ、膜厚の均一な蛍光体被膜を形成することができる。
【0039】
「蛍光体スラリーの製造方法」
本発明の蛍光体スラリーの製造方法は、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを所定の割合で配合し、攪拌混合して混合物とし、この混合物を超音波処理することにより、ニトロセルロース溶液に蛍光体を十分に分散させ、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させて、蛍光体スラリーを調製する。
【0040】
ニトロセルロースと酢酸ブチルの混合溶液を超音波処理は、ニトロセルロース100gに対して周波数20kHz〜200kHzにて、10秒間〜1000秒間行うことが好ましく、周波数20kHz〜50kHzにて、30秒間〜300秒間行うことがより好ましい。
【0041】
本発明の蛍光体スラリーの製造方法によれば、ニトロセルロース溶液と蛍光体を混合して混合物とし、この混合物を超音波処理するので、蛍光体にニトロセルロースを十分に吸着させることができ、蛍光体の安定した懸濁状態を保つことができる。
【0042】
「蛍光体被膜」
本発明の蛍光体被膜は、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成してなる被膜である。
【0043】
本発明の蛍光体被膜においては、蛍光体スラリーは、上述の本発明の蛍光体スラリーが用いられる。
【0044】
本発明の蛍光体被膜を製造するには、基材上に、本発明の蛍光体スラリーを塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を、大気中にて乾燥または乾燥・熱処理する。
基材としては、熱処理温度に耐える基材であればよく、ガラス基材、透光性のセラミックス基材などが好適に用いられる。
特に、この蛍光体被膜を蛍光ランプに適用する場合には、蛍光ランプの仕様に適合可能なガラス管が好適に用いられる。
【0045】
蛍光体スラリーの塗布に際しては、形成された後の蛍光体被膜の膜厚が0.1μm〜10μm、特に好ましくは0.3μm〜3μmとなるような塗布量とすることが好ましい。
蛍光体スラリーの塗布方法としては、平面バックライトでも使用できることから、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、メニスカスコート法、吸上げ塗工法、フローコート法など、通常のウエットコート法を用いることができる。特に、蛍光ランプのようにガラス管の内面に蛍光体被膜を形成する場合、吸上げ塗工法、フローコート法などが好適に用いられる。
【0046】
塗布膜の乾燥温度は、蛍光体スラリーに含まれる溶媒が充分に散逸する温度であればよく、例えば、常温〜150℃とする。
この乾燥工程では、塗布膜が充分乾燥すればよく、加熱だけの乾燥でもよく、空気を吹き付けてもよい。具体的には、常温のエアブローでも、熱風を吹き付けてもよい。
塗布膜の熱処理は、300℃〜1000℃の範囲の温度にて、蛍光体被膜に不具合が生じない範囲で所定時間行う。
また、この熱処理は、基材上に保護膜および本発明の蛍光体被膜を順次形成した場合には、保護膜と同時に行ってもよい。
このようにして本発明の蛍光体被膜が得られる。
【0047】
本発明の蛍光体被膜によれば、ニトロセルロースと酢酸ブチルとを配合してなり、ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成したものであるので、膜厚が均一となり、この蛍光体被膜を設けた蛍光ランプは十分な輝度が得られる。
【0048】
「蛍光ランプ」
図1は、本発明の蛍光ランプの一実施形態を示し、蛍光ランプの長手方向に沿う概略断面図である。図2は、図1のA−A線に沿う概略断面図である。
【0049】
この実施形態の蛍光ランプ10は、本発明の蛍光体スラリーを用いて形成した蛍光体被膜13が、透光性封止管11の内部に設けられてなるものである。
透光性封止管11は、ガラス管16と、その両端を封止している封止部材17,17とから構成されている。
保護膜12は、透光性封止管11の内壁全体(内面)に形成されており、電子放射機能を有している。
【0050】
蛍光体被膜13は、保護膜12上に形成されている。
電極14は、透光性封止管1内の両端部側にそれぞれ設けられている。
また、リード線15は、それぞれの電極14に電気的に接続されている。
封入ガスGは、透光性封止管1内に封入されたガスであり、この封入ガスGは、水銀、アルゴンなどの希ガス、および、窒素などの不活性ガスから構成されている。
【0051】
この蛍光ランプ10は、本発明の蛍光体スラリーを用いて形成した蛍光体被膜13が、透光性封止管11の内部に設けられてなるので、蛍光体被膜13は膜厚が均一であるから、蛍光ランプとして十分な輝度を有する。
【0052】
なお、この実施形態の蛍光ランプ10では、透光性封止管11の内壁全体に電子放射機能を有する保護膜12を成膜し、この電子放射機能を有する保護膜12上に蛍光体被膜13を成膜した構成としたが、この蛍光体被膜13上にさらに電子放射機能を有する保護膜12を成膜した3層構造としてもよく、また、透光性封止管11の内壁全体に蛍光体被膜13を成膜し、この蛍光体被膜13上に電子放射機能を有する保護膜12を成膜した構成としてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
「実施例1」
(ニトロセルロース溶液の調製)
ニトロセルロース(平均重合度約800、HI−2000、旭化成社製)1重量部、酢酸ブチル99重量部を配合し、24時間、攪拌混合してニトロセルロース溶液を調製した。
このニトロセルロース溶液100gを、超音波発生器により20kHzにて30秒間、超音波処理した。
【0055】
(蛍光体スラリーの調製)
蛍光体35重量部、上記のニトロセルロース溶液55重量部、結着剤10重量部を配合し、攪拌混合して蛍光体スラリーを調製した。
蛍光体としては、赤色系発光蛍光体:Y:Eu、青色系発光蛍光体:(SrCaBaMg)(POCl:Eu、緑色系発光蛍光体:LaPO:Ce,Tbの混合物を用いた。
結着剤としては、酸化アルミニウム(Al)粒子10重量部を、酢酸ブチル90重量部に分散してなる分散液(住友大阪セメント社製)を用いた。
【0056】
(蛍光体被膜付きガラス管の作製)
内径2mm、外径4mm、長さ100mmの直管ガラスを用意し、このガラス管の下端を上記の蛍光体スラリーに浸漬した後、ガラス管内に蛍光体スラリーを吸い上げることにより、ガラス管の内面に蛍光体スラリーを塗布した。
次いで、自重により余分な蛍光体スラリーがガラス管外に排出された後、焼成炉中で600℃にて60分間焼成し、蛍光体被膜付きガラス管を得た。
【0057】
「実施例2」
超音波発生器によるニトロセルロース溶液の超音波処理時間を45秒間とした以外は実施例1と同様にして、蛍光体被膜付きガラス管を得た。
【0058】
「実施例3」
超音波発生器によるニトロセルロース溶液の超音波処理時間を60秒間とした以外は実施例1と同様にして、蛍光体被膜付きガラス管を得た。
【0059】
「実施例4」
超音波発生器によるニトロセルロース溶液の超音波処理時間を300秒間とした以外は実施例1と同様にして、蛍光体被膜付きガラス管を得た。
【0060】
「比較例1」
超音波発生器によるニトロセルロース溶液の超音波処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、蛍光体被膜付きガラス管を得た。
【0061】
「比較例2」
超音波発生器によるニトロセルロース溶液の超音波処理時間を2000秒間とした以外は実施例1と同様にして、蛍光体被膜付きガラス管を得た。
【0062】
[評価]
実施例1〜4および比較例1、2の各々について、ニトロセルロース溶液の粘度、蛍光体被膜付きガラス管における蛍光体被膜の膜厚の均一性を、下記の方法により評価した。
(1)ニトロセルロース溶液の粘度
ウベローデ粘度計によりニトロセルロース溶液の動粘度を測定し、浮秤法によりニトロセルロース溶液の比重を測定した後、これらの動粘度および比重を用いて、ニトロセルロース溶液の粘度を算出した。
【0063】
(2)蛍光体被膜の膜厚の均一性
ガラス管の内面に形成された蛍光体被膜の膜厚の均一性を目視により確認した。
これらの評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
これらの評価結果によれば、実施例1〜4は、ニトロセルロース溶液の粘度が適度な範囲(2mPa・s以上かつ20mPa・s以下)内にあるので、このニトロセルロース溶液を用いて調製した蛍光体スラリーでは蛍光体にニトロセルロースが十分に吸着されているから、この蛍光体スラリーにより形成された蛍光体被膜は、膜厚が均一であることが分かった。
一方、比較例1は、ニトロセルロース溶液の粘度が23mPa・sであるため、このニトロセルロース溶液を用いて調製した蛍光体スラリーでは蛍光体にニトロセルロースが十分に吸着されていないから、この蛍光体スラリーにより形成された蛍光体被膜は、膜厚が均一でないことが分かった。
また、比較例2は、ニトロセルロース溶液の粘度が1.5mPa・sであるため、このニトロセルロース溶液を用いて調製した蛍光体スラリーでは蛍光体にニトロセルロースが十分に吸着されていないから、この蛍光体スラリーにより形成された蛍光体被膜は、膜厚が均一でないことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の蛍光ランプの一実施形態を示し、蛍光ランプの長手方向に沿う概略断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う概略断面図である。
【符号の説明】
【0067】
10 蛍光ランプ
11 透光性封止管
12 電子放射機能を有する保護膜
13 蛍光体層
14 電極
15 リード線
16 ガラス管
17 封止部材
G 封入ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液であって、
前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であることを特徴とするニトロセルロース溶液。
【請求項2】
ニトロセルロースと、酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液の製造方法であって、
前記ニトロセルロースと前記酢酸ブチルを混合して混合溶液とし、該混合溶液を超音波処理することを特徴とするニトロセルロース溶液の製造方法。
【請求項3】
ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなることを特徴とする蛍光体スラリー。
【請求項4】
ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーの製造方法であって、
前記ニトロセルロース溶液と前記蛍光体を混合して混合物とし、該混合物を超音波処理することを特徴とする蛍光体スラリーの製造方法。
【請求項5】
ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成してなることを特徴とする蛍光体被膜。
【請求項6】
ニトロセルロースと酢酸ブチルとを含有してなり、前記ニトロセルロースの平均重合度は400以上かつ2000以下、前記ニトロセルロースの含有率が1重量%のときの粘度は2mPa・s以上かつ20mPa・s以下であるニトロセルロース溶液と、蛍光体とを含有してなる蛍光体スラリーを用いて形成した蛍光体被膜が、透光性封止管の内面に設けられたことを特徴とする蛍光ランプ。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−303238(P2008−303238A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149189(P2007−149189)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】