説明

ニトロソアミンフリーの高速加硫可能なゴム組成物

【課題】ニトロソアミン問題に対応した高速加硫促進剤とその加硫促進剤を用いたゴム組成物の提供。
【解決手段】トリス(ジベンジルジチオカルバミン酸)ビスマスの化合物またはトリス(ジ2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸)ビスマスの化合物を加硫促進剤として用いることで、ニトロソアミンフリーかつ高速加硫可能なゴム組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴムの加硫活性を高め、物性を向上させるために必須となっている加硫促進剤に関し、更に詳しくは安全衛生面(ニトロソアミンフリー)と生産性(高速加硫)の両立を可能とする加硫促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジアルキルジチオカルバミン酸塩類(以下ジチオカルバミン酸塩類と略す)は、一般にゴム用加硫促進剤として使用されており、加硫剤やその他加硫促進剤の加硫反応に対する活性を向上させることを特徴としている。
【0003】
現在、加硫促進剤として使用されている主なジチオカルバミン酸塩類は、発がん性を有するニトロソアミンを発生させることから、ドイツ法のTRGS552で規制されている(非特許文献1)。
【0004】
一方で、アルキル基が嵩高いジベンジルアミン由来のニトロソアミンについてはTRGS552において発がん性が認められないとされ、また、ジ−2−エチルヘキシルアミン由来のニトロソアミンについては不揮発性であることから規制対象外とされており、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、テトラベンジルチウラムジスルフィド、及びテトラ−2−エチルヘキシルチウラムジスルフィドが上市されている(特許文献1)。
【0005】
しかしこれらのニトロソアミンフリー加硫促進剤は一般的な加硫条件において、従来の加硫促進剤よりも分子量が大きいために、加硫活性が低く、加硫速度も遅いという欠点がある。
【0006】
化1で表わされるトリス(ジベンジルジチオカルバミン酸)ビスマスに関しては既知物質ではあるものの、ゴム用加硫促進剤としての用途を見出した文献は見られない(非特許文献2)。
【0007】
一方、Robinson Brothers Ltd.からニトロソアミンフリー加硫促進剤として、C5〜C18の分岐アルキル基を有するアミン由来のジチオカルバミン酸金属塩に関する特許が出願されているが、実施例に記載されているのはジイソノニルジチオカルバミン酸塩類のみであり、化2に係る2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸塩類に関しては実施例として何ら記載されていない(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−256603号公報
【特許文献2】特開平6−184363号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】TRGS552(N−Nitrosoamine)
【非特許文献2】J.Radioanal.Nucl.Chem.117(3),145−154
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ニトロソアミン問題に対応した高速加硫促進剤とその加硫促進剤を用いたゴム組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、現在使用されているニトロソアミンフリー加硫促進剤を、化1および/または化2で表わされる特定のジチオカルバミン酸塩類へ代替または併用することにより、上記課題を解決し、本発明を完成するに至ったものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従えば、ゴム100重量部に対して化1および/または化2で表わされる化合物を0.01〜10重量部配合することで、ニトロソアミンフリーかつ従来より高速加硫可能なゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1〜4および比較例1におけるスコーチタイムと加硫速度の関係を示す。
【図2】実施例5〜7および比較例2におけるスコーチタイムと加硫速度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施形態にてより詳しく説明する。
本発明におけるベースとなるゴム成分とは天然ゴム(NR)をはじめ、合成ゴム例えばブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)等を指し、これら単独もしくは複数の混合物を指す。
【0017】
加硫可能なゴム組成物を得るためには、加硫剤(A)、及び加硫速度や加硫ゴム物性を向上させる加硫促進剤(B)が添加される。
【0018】
加硫剤(A)においては、例えば硫黄を指し、硫黄には粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄などが挙げられ、何れを用いても構わない。本発明においては0.1〜2重量部添加が好ましい。
また、硫黄の他、チウラムポリスルフィド化合物、ジアルキルジポリスルフィド化合物があり、硫黄と任意な添加量で併用しても構わないが、ニトロソアミンフリーな化合物であることに限定される。
【0019】
加硫促進剤(B)においては、化1および/または化2で示される化合物が0.01〜10重量部添加され、2−ベンゾチアゾールジスルフィド(MBTS)やN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)等のチアゾール類や、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)やテトラ−2−エチルヘキシルチウラムジスルフィド(TEHTD)等のチウラム類、及びジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBzDC)等のジチオカルバミン酸塩類等のニトロソアミンフリーである加硫促進剤を任意の量併用しても構わない。
【0020】
その他配合剤については、用途および性能に応じて、一般的にゴム製品に使用されるカーボンブラックやシリカ等の補強剤の他、加硫促進助剤である酸化亜鉛、プロセスオイル及びステアリン酸等を含有させることができる。
【0021】
以上、少なくともゴムに(A)及び(B)が含有され、その他については適宜選定することで、本発明における性能が発揮される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明が実施例によって何ら限定されないことは勿論である。
最初に、化1及び化2で表わされる化合物の合成例を示す。
【0023】
化1で表わされるトリス(ジベンジルジチオカルバミン酸)ビスマスの合成例
ジベンジルアミン14.21g(72mmol)と3%NaOH水溶液100.5gを、室温にて混合・撹拌した。その水溶液に二硫化炭素6.00g(79mmol)を20分かけて滴下した。その後、1時間撹拌を行い、65℃まで昇温した。そこに、3%NaOH水溶液55gを添加した後、酸化ビスマス4.66g(10mmol)を12wt%HCl水溶液31.2gに溶解させたものを1時間かけて滴下した。滴下終了後、更に30分撹拌させた。室温まで冷却し、ろ過・水洗した後、乾燥し、トリス(ジベンジルジチオカルバミン酸)ビスマス18.3g(収率89.3%,濃緑色結晶,m.p.139℃)を得た。
【0024】
化2で表わされるトリス(ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸)ビスマスの合成例
ジ−2−エチルヘキシルアミン17.50g(72mmol)と29.7%NaOH9.88g(73mmol)を水29.30gに仕込んだ。二硫化炭素5.80g(76mmol)を室温で50分かけて滴下・撹拌した後、THF17.7gを添加し、反応物を溶解した(A)。更に1時間撹拌を行った。続いて、酸化ビスマス5.27g(11mmol)と水105.1gを仕込み、65℃に昇温し、73.3%硫酸5.20g(41mmol)を添加すると白色スラリー状の硫酸ビスマスが生成した。冷却後、30.9%(A)溶液75.1g(68mmol)を1.3時間かけて滴下し、室温で2.5時間撹拌を行った。有機層を分液・水洗し、トルエン100gを添加し油状の反応物を溶解させ、濾過を行った。トルエン溶液を濃縮し、トリス(ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸)ビスマス25.8g(収率98.9%,橙色油状物質)を得た。
【0025】
次に、ゴム試験結果について示す。
表1に試験1のゴム組成物の配合内容を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
試験1における各ゴム組成物は密閉型混合機およびオープンロールミルによる一般的な混練り方法に従って作製し、詳しくはバンバリーミキサーにおいてゴム、充てん剤などA工程までの薬品を投入し、混練りを行い、その後にオープンロールミルにてB工程の薬品を添加し、各ゴム組成物を得た。
実施例1〜4は本発明における化1及び化2で示される化合物が含まれたニトロソアミンフリーの加硫系である。一方、比較例1においては従来のニトロソアミンフリーの加硫系である。
【0028】
得られた各組成物の未加硫ゴム物性はJIS K6300未加硫ゴム試験方法に記載されているムーニースコーチ試験及び振動式加硫試験機による加硫試験を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2、図1を見て分かるように、本発明における化1、化2の化合物を用いた実施例1〜4の加硫系の方が、比較例1と比較して最適加硫時間(t’c(90))が短く、すなわち加硫速度が速いことが確認された。
【0031】
各ゴム組成物の加硫物性及び老化特性を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
加硫ゴム物性及び耐熱老化性においては、実施例1〜4は比較例1と同等以上であり、更に耐圧縮永久歪においては、比較例1を上回る結果が得られた。また、ゴムの意匠性に関わる耐ブルーム性も良好であった。
【0034】
表4に試験2のゴム組成物の配合内容を示す。
【0035】
【表4】

【0036】
試験2における各ゴム組成物は試験1と同様にして作製し、ゴム組成物を得た。
実施例5〜7は本発明における化1で示される化合物が含まれたニトロソアミンフリーの加硫系である。一方、比較例2においてはニトロソアミンフリーではない従来の加硫系である。
得られた各組成物の未加硫ゴム物性は試験1と同様に測定を行った。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
表5、図2を見て分かるように、本発明における化1で示される化合物を含む実施例5〜7は、ニトロソアミンフリーではない従来の加硫系である比較例2と比較して、最適加硫時間(t’c(90))が短く、すなわち加硫速度が速いことが示された。
【0039】
各ゴム組成物の加硫物性及び老化特性を表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
表6を見て分かるように、実施例5〜7は加硫ゴム物性、耐熱老化性、耐圧縮永久歪において、比較例2と比較し良好な結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表わされるゴム用加硫促進剤。
【化1】

【請求項2】
化2で表わされるゴム用加硫促進剤。
【化2】

【請求項3】
ゴム100重量部に対して、請求項1記載の化1で表わされる化合物および/または請求項2記載の化2で表わされる化合物を0.01〜10重量部配合することを特徴とするゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87278(P2013−87278A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241653(P2011−241653)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000199681)川口化学工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】