説明

ニトロチオフェノールの製造方法

【課題】 ニトロチオフェノールを高純度で得ることができるニトロチオフェノールの製造方法を提供する。
【解決手段】 ニトロチオフェノールの製造方法は、ニトロチオフェノール生成工程と、精製工程とを含む。ニトロチオフェノール生成工程では、特定のハロメチルチオニトロベンゼンを加水分解して、ニトロチオフェノールを含む混合物を得る。精製工程では、前記混合物を、アルカリ化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下でアルカリ処理した後、水相と有機溶媒相とを分液し、前記水相に対して、酸化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下で酸処理を行い、混合物からニトロチオフェノールを単離して精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤等の種々の医薬品の製造用中間体として有用なニトロチオフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトロチオフェノールは、例えば、抗癌剤等の種々の医薬品の製造用中間体として有用である。そのため、ニトロチオフェノールの製造方法の開発が精力的に行われている。
【0003】
ニトロチオフェノールの製造方法としては、例えば、下式に示すように、クロロニトロベンゼンに硫化ナトリウムを反応させることによりニトロチオフェノールのナトリウム塩を得た後、後処理として、水酸化ナトリウム水溶液とエタノールとの混合溶液中に生成する不溶物を濾別し、塩酸水で中和して、ニトロチオフェノールを得る方法を挙げることができる(非特許文献1参照)。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Org.Chem.1994,59,3294−3300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の方法では、ニトロチオフェノールのナトリウム塩を生成する反応において、副反応で多量のジスルフィド化合物が生成されるが、当該ジスルフィド化合物は、後処理で除去されにくく、ニトロチオフェノールの精製効率が低い。そのため、得られる製品中に多量のジスルフィド化合物が含有されてしまい、ニトロチオフェノールを高純度で得ることができない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ニトロチオフェノールを高純度で得ることができるニトロチオフェノールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記式(1);
【化2】

(式中、nは1または2の整数であり、Xはハロゲン原子を示す。nが2のときのXで示されるハロゲン原子は、同一であってもよく、異なるものであってもよい。)
で表されるハロメチルチオニトロベンゼンを加水分解し、
下記式(2);
【化3】

で表されるニトロチオフェノールを含む混合物を得るニトロチオフェノール生成工程と、
前記混合物を、アルカリ化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下でアルカリ処理した後、水相と有機溶媒相とを分液し、前記水相に対して、酸化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下で酸処理を行い、前記混合物からニトロチオフェノールを単離して精製する精製工程とを含むことを特徴とするニトロチオフェノールの製造方法である。
【0009】
また本発明のニトロチオフェノールの製造方法では、前記アルカリ化合物は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0010】
また本発明のニトロチオフェノールの製造方法では、酸化合物は、塩酸および硫酸の少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0011】
また本発明のニトロチオフェノールの製造方法は、前記ニトロチオフェノール生成工程では、
前記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンとして、ハロメチルチオ2−ニトロベンゼンを用い、
前記式(2)で表されるニトロチオフェノールとして2−ニトロチオフェノールを含む混合物を得ることを特徴とする。
【0012】
また本発明のニトロチオフェノールの製造方法は、前記ニトロチオフェノール生成工程では、
前記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンとして、ハロメチルチオ4−ニトロベンゼンを用い、
前記式(2)で表されるニトロチオフェノールとして4−ニトロチオフェノールを含む混合物を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニトロチオフェノールの製造方法は、ニトロチオフェノール生成工程と、精製工程とを含む。ニトロチオフェノール生成工程では、前記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンを加水分解し、前記式(2)で表されるニトロチオフェノールを含む混合物を得る。精製工程では、前記混合物を、アルカリ化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下でアルカリ処理した後、水相と有機溶媒相とを分液し、前記水相に対して、酸化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下で酸処理を行い、前記混合物からニトロチオフェノールを単離して精製する。これによって、ニトロチオフェノールを高純度で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のニトロチオフェノールの製造方法は、ニトロチオフェノール生成工程と、精製工程とを含む。
【0015】
<ニトロチオフェノール生成工程>
ニトロチオフェノール生成工程では、下記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンを加水分解する。
【0016】
【化4】

(式中、nは1または2の整数であり、Xはハロゲン原子を示す。nが2のときのXで示されるハロゲン原子は、同一であってもよく、異なるものであってもよい。)
【0017】
この加水分解によって、下記式(2)で表されるニトロチオフェノールを含む混合物が得られる。
【0018】
【化5】

【0019】
前記混合物には、ニトロチオフェノール以外の化合物として、反応副生成物などの不純物が含有されている。不純物としては、ビス−ニトロフェニルスルファニルメタン、ジニトロフェニルジスルフィド、ニトロフェニルスルファニルメタノール等が挙げられる。
【0020】
上記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンの具体例としては、p−クロロメチルチオニトロベンゼン、m−クロロメチルチオニトロベンゼン、o−クロロメチルチオニトロベンゼン、p−ジクロロメチルチオニトロベンゼン、m−ジクロロメチルチオニトロベンゼン、o−ジクロロメチルチオニトロベンゼン、p−ブロモメチルチオニトロベンゼン、m−ブロモメチルチオニトロベンゼン、o−ブロモメチルチオニトロベンゼン、p−ジブロモメチルチオニトロベンゼン、m−ジブロモメチルチオニトロベンゼンおよびo−ジブロモメチルチオニトロベンゼン等が挙げられる。
【0021】
これらのハロメチルチオニトロベンゼンのうち、ハロメチルチオ2−ニトロベンゼンである、o−クロロメチルチオニトロベンゼン、o−ジクロロメチルチオニトロベンゼン、o−ブロモメチルチオニトロベンゼン、o−ジブロモメチルチオニトロベンゼンを用いるのが好ましい。ハロメチルチオニトロベンゼンとしてハロメチルチオ2−ニトロベンゼンを用いた場合、ニトロチオフェノールとして2−ニトロチオフェノールを製造することができる。
【0022】
また、ハロメチルチオニトロベンゼンのうち、ハロメチルチオ4−ニトロベンゼンである、p−クロロメチルチオニトロベンゼン、p−ジクロロメチルチオニトロベンゼン、p−ブロモメチルチオニトロベンゼン、p−ジブロモメチルチオニトロベンゼンを用いるのが好ましい。ハロメチルチオニトロベンゼンとしてハロメチルチオ4−ニトロベンゼンを用いた場合、ニトロチオフェノールとして4−ニトロチオフェノールを製造することができる。
【0023】
なお、ハロメチルチオニトロベンゼンのうち、ハロメチルチオ3−ニトロベンゼンである、m−クロロメチルチオニトロベンゼン、m−ジクロロメチルチオニトロベンゼン、m−ブロモメチルチオニトロベンゼン、m−ジブロモメチルチオニトロベンゼンを用いた場合には、ニトロチオフェノールとして3−ニトロチオフェノールを製造することができる。
【0024】
本発明のニトロチオフェノールの製造方法において用いられるハロメチルチオニトロベンゼンは何れの製造方法によって得られたものでも使用可能であるが、例えば、ハロニトロベンゼンとメチルメルカプタンとを、塩基と4級アンモニウム塩触媒との存在下、水中または、水と疎水性有機溶媒中、不均一系で反応させることにより、メチルチオニトロベンゼンを得て、これをハロゲン化することにより、ハロメチルチオニトロベンゼンを得ることができる。
【0025】
上記式(1)で表わされるハロメチルチオニトロベンゼンを加水分解する際に用いる水の使用割合は、特に限定されるものではないが、ハロメチルチオニトロベンゼン1モルに対して、好ましくは1モル以上100モル以下であり、より好ましくは3モル以上50モル以下である。前記水の使用割合が、1モル未満の場合、加水分解が不十分になるおそれがあり、100モルを超える場合、添加量に見合う効果がなく、容積効率が悪くなるおそれがある。
【0026】
加水分解における反応温度は、好ましくは0℃以上200℃以下であり、より好ましくは30℃以上100℃以下である。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が遅く、経済的でないおそれがあり、200℃を超える場合、副反応によって生成される副生成物の量が増加し、ニトロチオフェノールの収率の低下の原因となるおそれがある。
【0027】
加水分解における反応時間としては、通常、約1〜10時間である。
前記加水分解は、水のみでも可能であるが、有機溶媒を併用するのが好ましい。有機溶媒を併用することによって、ハロメチルチオニトロベンゼンの撹拌状態が良好となるので、ハロメチルチオニトロベンゼンと、反応触媒である酸化合物との接触効率が向上し、反応速度を上げることができる。
【0028】
前記有機溶媒としては、例えば、メタノールおよびエタノール等の低級アルコール類、ヘキサン、シクロヘキサンおよびヘプタン等の炭化水素類、ジクロロエタン、ジクロロメタンおよびクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類を挙げることができる。これら有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
前記有機溶媒を併用する場合、その使用量は特に限定されるものではないが、ハロメチルチオニトロベンゼン100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下であることが好ましい。また、前記水と前記有機溶媒との割合は、1:100〜100:1であることが好ましく、1:10〜10:1であることがより好ましい。
【0030】
<精製工程>
精製工程では、ニトロチオフェノール生成工程において得られた、ニトロチオフェノールを含む混合物から、ニトロチオフェノールを単離して精製する。
【0031】
精製工程では、まず、前記混合物を、アルカリ化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下でアルカリ処理する。
【0032】
アルカリ処理は、前記混合物を、アルカリ化合物の水溶液および疎水性有機溶媒とともに撹拌することで行われる。アルカリ処理を行うことによって、ニトロチオフェノールからニトロチオフェノール塩が生成され、ニトロチオフェノール塩は水相に溶解し、副生成物などの不純物は有機溶媒相に溶解する。
【0033】
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウム等を挙げることができる。アルカリ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特にこれらの中でも、経済性の観点から水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム、または水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの混合物が好ましい。
【0034】
アルカリ化合物の使用割合は、ハロメチルチオニトロベンゼン1モルに対して、好ましくは1モル以上200モル以下であり、より好ましくは2モル以上100モル以下である。アルカリ化合物の使用割合が1モル未満の場合、ニトロチオフェノール塩の水相への溶解性が充分でなく、収率が低下するおそれがある。アルカリ化合物の使用割合が200モルを超える場合、添加量に見合う効果がなく経済的でない。
【0035】
アルカリ化合物の水溶液の濃度は、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、好ましくは1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。アルカリ化合物の水溶液の濃度が1質量%未満の場合、容積効率が悪化して生産性が低下するので経済的でない。アルカリ化合物の水溶液の濃度が30質量%を超える場合、ニトロチオフェノール塩が析出し、操作性が困難となるおそれがある。
【0036】
アルカリ処理に用いられる疎水性有機溶媒としては、生成するニトロチオフェノール塩に対して不活性で、かつ疎水性であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ジクロロエタン、ジクロロメタンおよびクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ならびにクロロベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。
【0037】
これらの疎水性有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
アルカリ処理に用いられる疎水性有機溶媒の使用量としては、ハロメチルチオニトロベンゼン100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがより好ましい。なお、前記ニトロチオフェノール生成工程において、有機溶媒を用いる場合、当該有機溶媒の使用量を、前記アルカリ処理における疎水性有機溶媒に加えた使用量とするのが好ましい。
【0039】
アルカリ処理の温度としては、0℃以上50℃以下であることが好ましい。アルカリ処理の時間としては、通常、0.5時間以上3時間以下である。
【0040】
アルカリ処理の後、ニトロチオフェノール塩が溶解された水相と、副生成物などの不純物が溶解された有機溶媒相とを分液し、ニトロチオフェノール塩が溶解された水相に対して、酸化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下で酸処理を行う。酸処理を行うことによって、ニトロチオフェノール塩が中和されてニトロチオフェノールとなる。
【0041】
なお、アルカリ処理し、水相と有機溶媒相とを分液した後、水相に有機溶媒を加えて、分液する洗浄工程を追加してもよい。
【0042】
洗浄工程に用いる有機溶媒としては、アルカリ処理において用いることのできる疎水性有機溶媒と同様の有機溶媒を挙げることができる。
【0043】
洗浄工程を行う場合、有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、操作性を向上させる観点、および経済性の観点から、通常、ハロメチルチオニトロベンゼン100質量部に対して10質量部以上10000質量部以下である。
【0044】
酸処理は、ニトロチオフェノール塩が溶解された水相を、酸化合物の水溶液および疎水性有機溶媒とともに撹拌することで行われる。
【0045】
酸化合物としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、酢酸、シュウ酸および安息香酸等の有機カルボン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。酸化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、経済性の観点から塩酸あるいは硫酸、または塩酸および硫酸の混合物が好ましい。
【0046】
酸化合物の使用割合は、アルカリ処理に用いたアルカリ化合物の使用割合を超えて、酸性となる必要があるとともに、収率を向上させる観点および経済性の観点から、前記アルカリ化合物1等量に対して、好ましくは1等量を超えて200等量以下、より好ましくは1.1等量以上100.0等量以下である。酸化合物の使用割合が1等量以下の場合、ニトロチオフェノール塩が中和されずに水相に溶解したままの状態となり、ニトロチオフェノールの収率が低下するおそれがある。酸化合物の使用割合が200等量を超える場合、添加量に見合う効果がなく経済的でない。
【0047】
酸化合物の水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、好ましくは1質量%以上35質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。酸化合物の水溶液の濃度が1質量%未満の場合、容積効率が悪化して生産性が低下するので経済的でない。酸化合物の水溶液の濃度が35質量%を超える場合、無機塩等が析出し、操作性が困難となるおそれがある。
【0048】
酸処理に用いられる疎水性有機溶媒としては、生成するニトロチオフェノールに対して不活性で、疎水性あれば、特に限定されるものではなく、例えば、ジクロロエタン、ジクロロメタンおよびクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、ならびにクロロベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。これら有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
酸処理に用いられる疎水性有機溶媒の使用量としては、ハロメチルチオニトロベンゼン100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがより好ましい。
【0050】
酸処理の温度としては、0℃以上50℃以下であることが好ましい。酸処理の時間としては、通常、0.5時間以上3時間以下である。
【0051】
酸処理の後、水相と、ニトロチオフェノールが溶解された有機溶媒相とを分液し、ニトロチオフェノールが溶解された有機溶媒相に対して、通常の晶析、蒸留、カラム精製等により容易に精製を行う。これらの中でも、工業的に適しており、ニトロチオフェノールが高純度で得られる観点から、晶析によってニトロチオフェノールを精製することが好ましい。
【0052】
晶析に用いられる有機溶媒としては、ニトロチオフェノールに対して貧溶媒であれば、特に限定されず、例えば、ヘプタン、ヘキサンおよびシクロヘキサン等が挙げられる。
【0053】
晶析を行う際の温度は、ニトロチオフェノールの収率を向上させるために、たとえば−5℃以下が好ましい。
【0054】
本発明のニトロチオフェノールの製造方法によれば、ニトロチオフェノール生成工程で得られた混合物から、効率よくニトロチオフェノールを単離して精製することができるので、ニトロチオフェノールを簡便に高純度(純度98%以上)で製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0056】
(ハロメチルチオニトロベンゼンの製造例1)
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備え付けた1リットルの四つ口フラスコに、4−クロロニトロベンゼン173.4g(1.1モル)、モノクロロベンゼン165.0g(1.46モル)、および相間移動触媒として50%テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド水溶液14.3g(0.022モル)を仕込んだ。引き続き、撹拌下、約60℃で、30質量%メチルメルカプチドナトリウム塩水溶液283g(1.21モル)を2時間かけて滴下し、1時間撹拌した。これを分液後、塩素142g(2.1モル)を、50℃で1時間かけて吹き込み、1時間撹拌した。反応終了後、モノクロロベンゼンを留去し、p−ジクロロメチルチオニトロベンゼン212.6gを得た。
【0057】
(実施例1)
上記ハロメチルチオニトロベンゼンの製造例1で得られたp−ジクロロメチルチオニトロベンゼンの190.5g(0.8モル)を、撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた2リットル四つ口フラスコに仕込み、水500g(27.8モル)およびモノクロロベンゼン400g(3.56モル)を加え、100℃で3時間撹拌して加水分解を行い、4−ニトロチオフェノールを含む混合物を得た。
【0058】
この混合物に、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液640g(1.6モル)およびモノクロロベンゼン165g(1.46モル)を加え、20℃で30分間撹拌した。これを分液後、洗浄工程として、水相にモノクロロベンゼン165g(1.46モル)を添加し、再度、分液した。得られた水相に35質量%の塩酸水200.2g(1.9モル)およびモノクロロベンゼン400gを加え、20℃で30分間撹拌した。これを分液後、有機溶媒相にヘプタンを添加して4−ニトロチオフェノールの晶析を行い、4−ニトロチオフェノール72.0gを得た。この4−ニトロチオフェノールの純度は、高速液体クロマトグラフィーによる分析で98%であった。また、4−ジクロロメチルチオニトロベンゼンに対する4−ニトロチオフェノールの収率は58%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1);
【化6】

(式中、nは1または2の整数であり、Xはハロゲン原子を示す。nが2のときのXで示されるハロゲン原子は、同一であってもよく、異なるものであってもよい。)
で表されるハロメチルチオニトロベンゼンを加水分解し、
下記式(2);
【化7】

で表されるニトロチオフェノールを含む混合物を得るニトロチオフェノール生成工程と、
前記混合物を、アルカリ化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下でアルカリ処理した後、水相と有機溶媒相とを分液し、前記水相に対して、酸化合物の水溶液と疎水性有機溶媒との存在下で酸処理を行い、前記混合物からニトロチオフェノールを単離して精製する精製工程とを含むことを特徴とするニトロチオフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ化合物は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のニトロチオフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記酸化合物は、塩酸および硫酸の少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のニトロチオフェノールの製造方法。
【請求項4】
前記ニトロチオフェノール生成工程では、
前記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンとして、ハロメチルチオ2−ニトロベンゼンを用い、
前記式(2)で表されるニトロチオフェノールとして2−ニトロチオフェノールを含む混合物を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のニトロチオフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記ニトロチオフェノール生成工程では、
前記式(1)で表されるハロメチルチオニトロベンゼンとして、ハロメチルチオ4−ニトロベンゼンを用い、
前記式(2)で表されるニトロチオフェノールとして4−ニトロチオフェノールを含む混合物を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のニトロチオフェノールの製造方法。

【公開番号】特開2012−51842(P2012−51842A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196243(P2010−196243)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】