説明

ニトロ化反応器への水相のリサイクルによるニトロアルカン回収法

炭化水素原料と含水硝酸との反応によりニトロアルカン類を合成するための方法と装置が開示される。水相の大部分を反応器にリサイクルすることにより、エネルギーと資本コストを低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロアルカン類を合成するための方法に関する。さらに詳しくは本発明は、水相がニトロ化反応器にリサイクルして戻されることを特徴とする、改良されたニトロアルカン回収法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素のニトロ化は、油相と水相の両方の蒸留を含む。しかしこの方法は、多量のエネルギーと資本支出を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
米国特許第3,780,115号及び3,869,253号に記載された従来の蒸気相ニトロ化スキームでは、反応器流出液は急速にクエンチされ、クエンチされた混合物は分離器に送られる。次に気相は精製とリサイクルのために取り出され、デカンテーションにより水相と油相が分離され、同時に処理されて蒸留により所望のニトロパラフィンが回収される。新しい高圧相ニトロ化法は、低濃度硝酸を使用し、多量の水相を与える。多量の水相と油相を処理することは、非常に多くのエネルギーを消費する。従ってニトロアルカン類の製造のためのより経済的でエネルギー効率の良い方法に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
簡単な要約
ある態様において、少なくとも1つのニトロアルカンの合成法が提供される。この方法は、反応器中で反応器圧力と反応温度で炭化水素原料に含水硝酸を反応させて、ニトロ化化合物と副産物とを含む生成物流を生成させ、生成物流を少なくとも油相、気相、及び水相とに分離し、ここで油相と水相はニトロ化化合物を含有し、水相を第1の水相流と第2の水相流とに分割し、第1の水相流を反応器に戻し、そして油相と第2の水相流との少なくとも1つから少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、ことを含んでなる。
【0005】
別の態様において、少なくとも1つのニトロアルカンの合成法は、反応器中で反応器圧力と反応温度で炭化水素原料に含水硝酸を反応させて、ニトロ化化合物と副産物とを含む生成物流を生成させ、生成物流をクエンチして生成物流を少なくとも油相、気相、及び水相とに分離し、水相を第1の水相流と第2の水相流とに分割し、第1の水相流を反応器に戻し、気相からの脂溶性成分と水溶性成分とをそれぞれ油相と第2の水相流とに吸収させて、気体回収混合物を生成させ、気体回収混合物から気体回収水相を分離し、そして油相と第2の水相流との少なくとも1つから少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、ことを含んでなる。
【0006】
さらに別の態様において、少なくとも1つのニトロアルカンを合成するための装置が提供される。この装置は、炭化水素原料に含水硝酸を反応させて、反応生成物流を生成させるための反応器と、反応生成物流をクエンチして、これを少なくとも気相、油相、及び水相に相分離させるための冷却システムと、水相を第1の水相流と第2の水相流とに分割するための分割器、第1の水相流を反応器に戻すためのリサイクルシステム、及び油相と第2の水相流との少なくとも1つから少なくとも1つのニトロアルカンを回収するための回収システムを含んでなる。
【0007】
前記要約は単に例示するのみであり、決して限定するものではない。例示した態様、実施態様、及び上記特徴以外に、さらなる態様、実施態様、及び特徴は、図面と以下の詳細な説明を参照することにより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例に従って、少なくとも1つのニトロアルカンを合成するための装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記したように、ある態様において少なくとも1つのニトロアルカンの合成法が提供される。この方法の1つの重要な利点は、水相の大部分をさらに処理することなく、反応器中の硝酸希釈物としてリサイクルできることである。このリサイクルは、反応器生成物流を、油相、気相、及び水相に分割した後に起きる。ニトロプロパン類(2-ニトロプロパンと1-ニトロプロパン)の水中の溶解度は低く、ニトロプロパン類はプロパンより顕著に反応性が低い。すなわち反応器に戻される水相中の2-ニトロプロパン(低濃度)の存在は、反応器の性能に大きな影響を与えない。
【0010】
図1は、少なくとも1つのニトロアルカンを合成するための装置100を例示する。炭化水素原料101と含水硝酸102は反応器103に導入される。炭化水素原料101と含水硝酸102は反応器の圧力と反応温度で反応し、その結果ニトロ化化合物を副産物とを含む生成物流104が生成される。
【0011】
炭化水素原料101と含水硝酸102は混合されるか又は部分的に混合されて、次に反応器103に入るか、あるいはこれらは個々に添加されて反応器103内で混合が起きる。さらに炭化水素原料101と含水硝酸102は、一緒にもしくは別々に添加されて、あらかじめ加熱された後、反応器103に入れられる。
【0012】
ある例では、炭化水素原料101は、基本的にプロパンと酢酸とからなる。他の例では、炭化水素原料101は、特に限定されないが、以下の1つ以上を含む:アルカン類とシクロアルカン類(アルキル置換シクロアルカン類を含む)、例えばプロパン、イソブタン、n-ブタン、イソペンタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、2,3-ジメチルブタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、及びメチルシクロヘキサン;アリールアルカン類、例えばエチルベンゼン、トルエン、キシレン、イソプロピルベンゼン;1-メチルナフタレンと2-メチルナフタレンと4-メチルビフェニル;縮合シクロアルカン類;アルキル置換縮合アリール化合物;縮合シクロアルカン−アリール化合物(アルキル置換誘導体を含む)、例えばテトラリン、デカリン、及びメチルナフタレン;及びカルボン酸類、例えば酢酸、プロパン酸、ブタン酸、及びヘキサン酸。反応物がまだ利用可能な水素を有する場合は、すでに1つ以上のニトロ置換基を有する反応物のニトロ化も企図される。
【0013】
含水硝酸102は、少なくとも約10重量%、好ましくは少なくとも約15重量%、さらに好ましくは少なくとも約20重量%の酸を含有する水溶液の形で、反応器103に供給される。さらにこの溶液は、約50重量%未満の、好ましくは約40重量%未満の、さらに好ましくは約35重量%未満の酸を含有する。他の実施態様において硝酸溶液は、約15〜約40重量%の酸を含有する。さらなる実施態様において硝酸溶液は、約18〜約35重量%の酸を含有する。
【0014】
炭化水素原料101と含水硝酸102のモル比は、少なくとも約0.3:1、さらに好ましくは少なくとも約0.5:1である。
【0015】
反応圧は少なくとも約500psi(34atm)、好ましくは少なくとも約1000psi(68atm)、さらに好ましくは少なくとも約1200psi(82atm)である。ある実施態様において圧力は、約1600psi(109atm)又はそれ以下、好ましくは約1500psi(102atm)又はそれ以下、さらに好ましくは約1400psi(95atm)又はそれ以下である。別の実施態様において、圧力は約1000psi(68atm)〜1400psi(95atm)である。例えば背圧調整器の使用により、圧力を所望の範囲に維持するために、当該分野で公知の種々の方法が使用される。
【0016】
反応器内の反応温度は、少なくとも約140℃で約325℃未満になるように制御される(例えば、熱交換液を用いて、又は反応から発生する熱を使用して)。他の実施態様において温度は、少なくとも約215℃で約325℃未満である。ある実施態様において温度は少なくとも約180℃、少なくとも約200℃、少なくとも約230℃より高く、又は少なくとも240℃である。他の実施態様において温度は、約290℃未満、約280℃未満、約270℃未満、又は約250℃未満である。さらなる実施態様において温度は、約200〜250℃である。さらに別の実施態様において温度は、約215〜280℃、又は約220〜約270℃である。
【0017】
反応器103中の反応物の滞留時間は、好ましくは少なくとも約30秒、さらに好ましくは少なくとも約90秒である。滞留時間は、例えば反応器の長さ及び/もしくは幅、又は充填材料の使用を含む種々の方法により制御される。滞留時間は、反応器の容積を入り口流速で割ることにより決定される。
【0018】
反応器103は、下向構成の反応器でもよい。すなわち、長円形で細長い(例えばチューブ型)反応器が、入り口を通って又は反応器の上部の近くで反応物が添加され、次に反応が起き所望の生成物が生成するのに充分な滞留時間の間、反応器を流れるように配置される。生成物混合物は、出口を通って又は反応器の底の近くで採取される。
【0019】
下向構成の反応器の操作は、一般に水平の、上向の、コイル状の、又はバッチ型のオートクレーブ型の装置を利用する先行技術のシステムに対していくつかの利点を提供する。特に本発明の下向構成は、そのような先行技術のシステムと比較して、比較的低レベルの酸化副産物を含有するニトロ化化合物を提供する。
【0020】
特定の理論に拘束されるつもりはないが、下向反応器の利点は、反応器内の液相の量と滞留時間を最小にする能力により得られると考えられる。一般に液相は、低モル比の炭化水素対硝酸を含む。この低モル比は、ニトロ化を犠牲にして酸化作用を促進し、従って酸化は主に液相で起きる。下向反応器(細流床反応器とも呼ばれる)では、気体は連続相であり、液体は反応器の壁又は充填物に沿ってしたたる。従って下向構成反応器中の液相の量は低レベルで維持され、従って酸化作用は最小となる。
【0021】
これに対して、上向反応器(気泡カラムとも呼ばれる)では、液体は連続相である(及び気泡は連続液相に沿って急速に上昇する)。すなわち上向反応器は、液体の滞留を最大にする。上記したように酸化は主に液相で起きるため、上向反応器は酸化副産物の生成を最大にする。同様に、コイル型及び水平型反応器構成はまた、液体の滞留時間を上昇させ、従って下向反応器と比較して酸化作用を上昇させる。コイル型反応器のさらなる欠点は、この形での大規模反応器の作成が困難なため、工業的規模の製造にあまり適していないことである。
【0022】
反応物の混合と熱伝達を改良するために、及び/又は反応器の容積を変化させるために、反応器103はまた充填材料を充填される。反応器の充填は、例えばプロパンニトロ化系が好ましく、ここで生成物流中の2,2-ジニトロプロパンの濃度を上げることが好ましい。適切な充填材料には、例えば、ガラスビーズ、ランダム充填物、又は組織化充填物(例えば、蒸留装置中で一般的に使用されるような充填物)がある。他の充填材料は当該分野で公知であり、使用される。反応器103はまた、未充填反応器でもよい。
【0023】
次に生成物流104は、冷却システム105に入る。第1の冷却システム105では生成物流104はクエンチされ、従ってこれは、少なくとも気相106、油相107、及び水相108に分かれる。気相106、油相107、及び水相108の1つ以上は、ニトロ化化合物を含んでよい。水相108は分割器109に入り、これは水相108を第1の水相流110と第2の水相流111に分割する。分割器109は、少なくとも1つの流量計を含み、第1の水相流110と第2の水相流111中の水相108の量を制御する。次に第1の水相流110はリサイクルシステム112に入る。リサイクルシステム112は第1の水相流110と含水硝酸102とを混合し、その結果第1の水相流110は含水硝酸102を希釈し、次に反応器103に入る。水相108の約65〜85%はリサイクルシステム112を介して反応器103に戻される。実施態様において、水相108の80%を反応器103に戻すことにより、非常に好ましいエネルギー的及び資本的利益が得られる。
【0024】
気相106、油相107、及び第2の水相流111に対してさらなる処理(例えば、蒸留)が行われて、少なくとも1つのニトロアルカンが回収される。例えば気相106、油相107、及び第2の水相流111は、油相107及び第2の水相流111の少なくとも1つから少なくとも1つのニトロアルカンを回収するために、回収システム113に入る。回収システム113は、吸収器114、分離器117、及びストリッピング装置120とを含む。気相106、油相107、及び第2の水相流111は、気相106から水溶性及び脂溶性成分を油相107中に吸収するために吸収器114に入り、炭化水素気体流115と第1の気体回収混合物116とを生成するために第2の水相流111に入る。第1の気体回収混合物116から気体回収水相118を分離して第2の気体回収混合物119を生成するために、第1の気体回収混合物116は分離器117に入る。第2の気体回収混合物119から、又は気体回収水相118から、又はその両方から、少なくとも1つのニトロアルカンが回収される。少なくとも1つのニトロアルカンは、2-ニトロプロパン、2,2-ジニトロプロパン、又は1-ニトロプロパンである。
【0025】
実施態様において、気体回収水相118はまた、少なくとも1つのニトロアルカンを回収するためにストリッピング装置120中に導入される。ストリッピング装置120は、気体回収水相流を少なくとも第1の上部生成物121と第1の下部生成物122とに分割する。第1の上部生成物121は第2の冷却システム123に導入されて、少なくとも第2の上部生成物124と第2の下部生成物125とを与える。次に第2の上部生成物124は第3の冷却システム126に導入されて、少なくとも第3の上部生成物127と第3の下部生成物128とを与える。第2の下部生成物125と第3の下部生成物128とは一緒にされて、第4の下部生成物129を生成する。第4の下部生成物129は第4の冷却システム130に入って、少なくとも第4の上部生成物131、中間部生成物132、及び第5の下部生成物133を生成する。第4の上部生成物131は第3の上部生成物127と一緒になって第5の上部生成物134を生成する。中間部生成物132は第2の気体回収混合物119と一緒になって第3の気体回収混合物135を生成する。第3の気体回収混合物135は、少なくとも1つのニトロアルカン、例えば、2-ニトロプロパン、2,2-ジニトロプロパン、又は1-ニトロプロパンを含む。第5の下部生成物133は気体回収水相118と一緒にされて、ストリッピング装置120に導入される。
【0026】
ある実施態様においてプロパンは含水硝酸と反応されて、本明細書に記載の具体的なプロセス条件下で、2-ニトロプロパンと他のニトロ化パラフィンを生成する。プロパンと硝酸の反応は、腐食耐性反応器(例えば、チタン反応器)中で行われる。反応器は場合により、熱伝達液を反応器に供給するための入口と出口とを有するシェルに囲まれる。熱伝達液(これは例えば油でもよい)は、反応の温度を所望のパラメータ内に制御することを可能にする。
【0027】
しかし、硝酸とプロパンとの反応は発熱性であるため、シェルと熱伝達液の使用は必要ではないことに注意されたい。反応物の添加速度及び/又は濃度を単に制御することにより、反応の温度を所望のパラメータ内に制御することができる。
【実施例】
【0028】
コンピューターシミュレーション(実施例1〜2)及びラボスケール反応器(実施例3と4)を使用して種々の例を示す。
【0029】
ラボスケール反応器は単一チューブのシェルアンドチューブ熱交換器であり、反応器の長さに沿って温度プロフィールを測定するために、反応器の中央に沿って軸方向にサーモウェルが位置する。反応器は46インチの長さであり、外径1.25インチの304ステンレスのシェルを有し、このシェルは外径1/2インチ(内径0.37インチ)の2型チタンプロセスチューブと外径1/8インチ(内径0.093インチ)の2型チタンサーモウェルを有する。温度プロフィール測定のために、非常に細い可動性の熱電対がサーモウェルに挿入される。サーモウェルは取り出すことができ、反応器に充填剤を充填できる。反応器は縦に設置される。硝酸とプロパン反応物流は、Swagelok(登録商標)「T」取付具中で室温で混合した後、反応器に入る。反応物への反応器シェル向流に熱油が供給される。反応器流出液(反応生成物)は、シェルアンドチューブ熱交換器で水を冷却液として使用して冷却される。次に流出液は気体で減圧され、液体が採取され、測定、分析される。
【0030】
以下の実施例3と4では、気体、水溶液、ニトロパラフィン油、及びスクラバー液はGC/MSにより、水分含量はカールフィッシャー力価測定により、強酸/弱酸定量は電位差滴定により、そして弱酸の同定と定量はHPLCにより、ニトロ化反応の物質収支が測定される。
【0031】
後述の表に示す計量値は以下のように計算される:
硝酸変換率(%)=100 ×(流入硝酸−流出硝酸)/流入硝酸;
プロパン変換率(%)=100 ×(流入プロパン−流出プロパン)/流入プロパン;
硝酸収率=消費された硝酸g数/生成したニトロパラフィンg数;
有機物収率=消費されたプロパンと酢酸g数/生成したニトロパラフィンg数;
1-ニトロプロパン選択性(%)=100 × 1-ニトロプロパンg数/生成したニトロパラフィンg数;
2-ニトロプロパン選択性(%)=100 × 2-ニトロプロパンg数/生成したニトロパラフィンg数。
ニトロメタン選択性(%)=100 × ニトロメタンg数/生成したニトロパラフィンg数;
ニトロエタン選択性(%)=100 × ニトロエタンg数/生成したニトロパラフィンg数;
【0032】
消費された硝酸のg数は、供給原料中の硝酸のモル数から反応生成物中の酸化窒素のモル数を引き、次に硝酸の分子量を使用してモル数をグラム数に変換することにより算出される。
ニトロパラフィンのグラム数は、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、及び2-ニトロプロパンを含む。
【0033】
[実施例1:水性リサイクルの無いニトロ化スキーム]
ニトロ化剤として30重量%希硝酸水溶液を以下のプロセス条件下で使用してプロパンをニトロ化する:1380psiの反応器圧力、281.6℃の反応器温度、120秒の滞留時間、及びプロパン対硝酸のモル比が約1.5:1。反応器からの典型的な生成物流の組成を表1に要約する。
【表1】

【0034】
次に生成物流は、後部冷却器で38℃にクエンチし、次に気相、水相、及び油相にフラッシュする。水相は有機酸とともに水のすべてを含み、油相はプロパンやアセトンとともにニトロアルカン類を含む。構成分子種の水相/油相分配係数を表2に示す。
【表2】

【0035】
次に気相、水相、及び油相は吸収器に供給され、ここで気相は中圧蒸気を使用して蒸気ストリッピングされ、未反応プロパンと気体副産物はカラムオーバーヘッドを介してプロパン回収部に送られる。油相は水相中に吸収され、吸収器から得られる流れはニトロパラフィン回収カラムに供給される。吸収器は、下流のプロパン回収カラムの操作圧力と等しい147psi(10atm)で操作される。ニトロパラフィン回収カラムは22psi(1.5atm)の圧力で操作され、ここでほとんどすべてのニトロパラフィン(約3000lb/hの混合物とともに)は、オーバーヘッドとして得られる。ニトロパラフィン回収カラムからの下部流れは、基本的に水と溶解した酢酸、プロピオン酸、及び硝酸である。この流れは吸収器から出る流れと熱交換した後、中間の水保存部に送られ、ここから硝酸希釈物としてリサイクルされる。ニトロパラフィン類、水、及び反応凝縮物を含むニトロパラフィン回収カラムからの上部流れは、一連の冷却器−デンカンター装置を介して凝縮隔離ニトロパラフィンに送られ、これは次にニトロプロパン回収部に送られる。上部流れから回収される水は、ニトロパラフィン回収カラムにリサイクルして戻される。ニトロパラフィン回収カラムの上部流れから少量のプロパンが回収される。得られる気体流は約10 lb/hの2-ニトロプロパンを含み、これはリサイクル水でスクラブ洗浄することによりテールガス(tail-gas)カラムに回収される。テールガスカラムからの上部流れは147psi(10atm)の圧力まで圧縮され、プロパン回収部に送られる。テールガスカラムからのスクラブ水溶液はリサイクルされて吸収器に戻される。
【0036】
高圧法は15〜30%の希硝酸を使用する。ニトロ化法は約3700 lb/hの水を生成し、これは、硝酸の希釈に使用されるものに加えて、水の量が約52000 lb/hとなる。水性流の組成を表3に示す。
【表3】

【0037】
[実施例2:水性リサイクルを用いるニトロ化スキーム]
実施態様において、実施例1とほぼ同じプロセス条件で、後反応器フラッシュから出て着る水性流の75〜85%は、硝酸希釈物としてニトロ化反応器にリサイクルされる。油相は16℃まで冷却され、次に吸収器に供給されてオーバーヘッド中のニトロプロパン類の喪失を減少させる。気体流は、44.1〜73.5psi(3〜5atm)の圧力ですべての揮発物を除去した流れであり、得られる流れ(これは基本的に未反応のプロパンと気体副産物である)は次に、2段階圧縮機で147psi(10atm)の圧力まで圧縮された後、プロパン回収部に送られる。吸収器からの下部流れは冷却され、水相と油相とに相分離される。水相はさらにニトロプロパン回収カラムに送られ、これは14.7psi(1atm)で操作されて、溶解したニトロパラフィン類が回収される。水、有機酸、及び硝酸は下部流れとして得られ、奥部流れは冷却、デカントされてニトロパラフィン類が得られる。従来法のスキームと比較して、非凝縮性流れは小さく、ごくわずかのプロパンと2-ニトロプロパンを含有するのみであり、従ってタールガス回収カラムの必要性が排除される。
【0038】
5065.25 lb/hの2-ニトロプロパン産生速度について予測されるエネルギーと資本必要量が、リサイクルの無いスキームと水性リサイクルスキームの両方で推定される。水性リサイクルの場合は、油相流中でほとんど同様の2-ニトロプロパン回収が達成され、ニトロプロパン回収カラム中でエネルギー節約が4.3 MMBTU/hで、熱交換器中で2.12 MMBTU/hであり、テールガス回収カラムの排除を可能にする。さらに従来法のスキームのカラム(直径3.5ft)と比較して、水性リサイクルスキームではより小さいサイズのニトロパラフィン回収カラム(直径2.1ft)が必要である。
【表4】

【0039】
[実施例3:反応器原料中にニトロパラフィン類の無いプロパンニトロ化]
上記反応器を用いて1400psi(96.7atm)の反応器圧力、285℃の反応温度、153秒の滞留時間、及びプロパン対硝酸のモル比1.81:1で、プロパンに20重量%の含水硝酸を反応させる。原料の組成と反応生成物蒸気の組成を表5に要約する。
【表5】

【0040】
この反応の主要な性能計量値を表6に要約する。
【表6】

【0041】
[実施例4:反応器原料中にニトロパラフィン類の有るプロパンのニトロ化]
上記反応器を用いて1400psi(96.7atm)の反応器圧力、285℃の反応温度、153秒の滞留時間、及びプロパン対硝酸のモル比1.82:1で、プロパンに20重量%の含水硝酸を反応させる。原料の組成と反応生成物蒸気の組成を表7に要約する。
【表7】

【0042】
この反応の主要な性能計量値を表8に要約する。
【表8】

【0043】
表6(反応器原料中にニトロパラフィン類無し)と表8(反応器原料中にニトロパラフィン類有り)の比較は、反応器原料中にニトロパラフィン類が存在する時は水性リサイクルスキームを使用する時のように、2-ニトロプロパン対2,2-ジニトロプロパンの重量比があまり変化しないことを示す。これは、反応器中の2-ニトロプロパンがさらに反応して多量の2,2-ジニトロプロパンを生成することは無いことを示す。硝酸とプロパンもまた反応器しない(測定精度の範囲内で)。実施例3と4は、反応器原料中のニトロパラフィン類の存在は水性リサイクル法のように、2-ニトロプロパン選択性を大きく変化させることは無いことを示す。
【0044】
好適な実施態様に従って上記で本発明を説明したが、本開示の本質と範囲内で修飾が可能である。すなわち本出願は、本明細書に開示した一般的原理を使用して本発明の任意の変更、利用、又は改変を包含するものである。さらに本出願は、本発明に関する分野の既知のもしくは一般的な慣習内の、かつ以下の請求項の範囲内にある、本開示から展開されるものも包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのニトロアルカンの合成方法であって、以下のステップ:
反応器中で一定の反応器圧力と反応温度で炭化水素原料に含水硝酸を反応させて、ニトロ化化合物と副産物とを含む生成物流を生成させ、
該生成物流を少なくとも油相、気相、及び水相とに分離し、ここで該油相と該水相は該ニトロ化化合物を含有し、
該水相を第1の水相流と第2の水相流とに分割し、
該第1の水相流を該反応器に戻し、そして
該油相と該第2の水相流の内の少なくとも1つから該少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、
を含む方法。
【請求項2】
以下のステップ:
前記気相からの水溶性成分と脂溶性成分とを吸収させて、気体回収混合物を生成させ、
該気体回収混合物から気体回収水相を分離し、そして
該気体回収水相をストリッピング装置に導入して、前記少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前期水相の約65〜85%は、前記第1の水相流に分割される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記含水硝酸は、10〜50重量%溶液で前記反応器に添加される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記含水硝酸は、15〜40重量%溶液で前記反応器に添加される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記含水硝酸は、18〜35重量%溶液で前記反応器に添加される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
炭化水素対硝酸のモル比は、少なくとも約1.2:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応器圧力は、少なくとも約1000psiである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応温度は、約215〜325℃である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応温度は230℃より高い、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応温度は、290℃以下である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応器は下向構成の反応器である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記反応器は充填された反応器である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記反応器は充填されていない反応器である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのニトロアルカンは、2-ニトロプロパンである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのニトロアルカンは、2,2-ニトロプロパンである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのニトロアルカンの合成方法であって、以下のステップ:
反応器中で一定の反応器圧力と反応温度で炭化水素原料に含水硝酸を反応させて、ニトロ化化合物と副産物とを含む生成物流を生成させ、
該生成物流をクエンチして該生成物流を少なくとも油相、気相、及び水相とに分離し、
該水相を第1の水相流と第2の水相流とに分割し、
該第1の水相流を該反応器に戻し、
該油相、該気相、及び該第2の水相流を吸収器中で一緒にし、
該気相からの水溶性成分と脂溶性成分を、該油相と該第2の水相流に吸収させて、気体回収混合物を生成させ、
該気体回収混合物から気体回収水相を分離し、そして
該油相と該第2の水相流の内の少なくとも1つから前記少なくとも1つのニトロアルカンを回収する、
を含む方法。
【請求項18】
少なくとも1つのニトロアルカンを合成するための装置であって、
炭化水素原料に含水硝酸を反応させて、反応生成物流を生成させるための反応器と、
該反応生成物流をクエンチして、これを少なくとも気相、油相、及び水相に相分離させるための冷却システムと、
該水相を第1の水相流と第2の水相流とに分割するための分割器と、
該第1の水相流を該反応器に戻すためのリサイクルシステムと、
該油相と該第2の水相流の内の少なくとも1つから前記少なくとも1つのニトロアルカンを回収するための回収システムとを、
を含む装置。
【請求項19】
前記反応器は下向構成反応器である、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記気相からの水溶性成分と脂溶性成分を、前記油相と前記第2の水相流に吸収させて、気体回収混合物を生成するための吸収器をさらに含む、請求項18又は19に記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2013−508365(P2013−508365A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535207(P2012−535207)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/048487
【国際公開番号】WO2011/049683
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【出願人】(591252611)アンガス ケミカル カンパニー (32)
【Fターム(参考)】