説明

ニューカッスル病ウイルスの新規クローン、その作製及び癌治療への応用

ニューカッスル病ウイルスの新規クローンは、インターフェロン非感受性であり、1.2〜2.0のICPIを有し、癌及び他の疾患の治療に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年11月30日出願の欧州特許出願第09075536.4号及び2009年11月30日出願の米国仮出願第61/283,154号の優先権をパリ条約に基づき主張する。
【背景技術】
【0002】
ニューカッスル病ウイルス(NDV)は、本技術分野においてよく知られているウイルスである(Diseases of poultry(家禽類の疾患)、第10版、B.W.Calnek編、Mosby International、Iowa State University Press、Ames、Iowa、1997)。本ウイルスは、家禽産業に甚大な経済的損失を招くものである。また、NDVには多数の株が存在し(欧州特許第0770397 B1号)、家禽類における疾病の重症度及び型が広範囲にわたることが知られている。ニューカッスル病ウイルス(NDV)は、モノネガウイルス目、パラミクソウイルス科のメンバーである、トリパラミクソウイルス−1(APMV1)に分類される。この科のメンバーは、直鎖状一本鎖RNAを有し、楕円対称形状を有する。全ゲノムはおおよそ16,000のヌクレオチドからなる。ウイルスの複製は、宿主細胞の細胞質内で起こる。
【0003】
この科は、パラミクソウイルス亜科及びニューモウイルス亜科の2つの亜科に分けられる。1993年に、ウイルスの分類学に関する国際委員会は、パラミクソウイルス及びルブラウイルス属に位置付けされるNDVを再編成した。NDVを除くほとんどのルブラウイルスのゲノムは、他のパラミクソウイルスには存在しない、小型疎水性(SH)タンパク質遺伝子を有する。各ウイルスタンパク質の予測されるアミノ酸配列に基づき、NDVクローンは、ルブラウイルスから分離するクレードとして系統的に分類される。NDVの配列を編集する多シストロン性リンタンパク質(P)遺伝子及び推定遺伝子産物は、レスピロウイルス及びモルビリウイルスに属するウイルスにおける発現パターンにさらに類似する。また、ヌクレオカプシドタンパク質の構造は、レスピロウイルスにさらに近似している。本来鳥類のみに感染するトリパラミクソウイルスとして、9つの血清型が知られている。これらのウイルス型は、系統的にNDVと区別されるが、他のパラミクソウイルスからNDVと共にクレードとして分離される。この関係は、全長ゲノム配列の系統的分析によっても確認された。
【0004】
多くの他の鳥類ウイルスの状況と同様に、NDVは、哺乳類の相当物から分離し、鳥類の間で進化したため、遺伝子及び予測されるアミノ酸配列を含むいくつかの主要因子に基づき、パラミクソウイルス亜科の中で、トリパラミクソウイルスはトリパラミクソウイルス自身の属を命名するに値する。
【0005】
ニューカッスル病(ND)は、鳥類のみに影響を及ぼす伝染性のウイルス性疾病である。臨床徴候は、ウイルスの株、鳥の種及び年齢、併発する疾病及び既存の免疫性により著しく異なる。
【0006】
ワクチンは、家禽類のニューカッスル病(ND)の制御に中心的な役割を果たしている。これは、一部には、いくつかの天然由来の、病原性の弱い弱毒化した生ウイルス株が同定され、早くも1940年代の後半にこの目的に使用できるようになったという事実による(Lancasterによる報告、1964)。
【0007】
異なるNDウイルスクローンの毒性の著しい変動及び生ワクチンの広範な使用により、臨床徴候を示す鳥からNDウイルスのクローンを同定してもNDの診断を確認できないため、クローンの毒性の評価も必要になっている。
【0008】
NDV株は、著者及び施設それぞれの方法で分類されている。初期の分類では、病原性に基づいて、株を短潜伏期性、亜病原性、長潜伏期性及び非病原性群に分けている(Hanson及びBrandly、1955)。
【0009】
世界中の多くのグループが、病原性の分子基盤に通常関連している毒性を立証するインビトロ試験について研究している。現行の国際獣疫事務局(OIE)の定義では、毒性の分子的評価を認めているが、現在、ウイルス毒性の最終的評価は通常以下のインビボ試験の1つまたは複数に基づいてなされている。
【0010】
1.NDV株のプラークサイズと毒性の関係について、G.M.Schloer及びR.P.Hansonが報告した(J.Virol.1968,January,2(1):40−47)。Schloer及びHansonは、NVDのプラークサイズがニワトリに対する毒性と関連することを見出した。亜病原性(中間毒性)株では、小さなプラークがみられるのに対し、短潜伏期性(高毒性)株は明らかに大きなプラークを形成する。この方法は、プラークの大きさを測定してNDV株を分類する方法として過去に使用されていた。
【0011】
2.卵における平均致死時間(MDT)。MDTは、NDウイルス株を短潜伏期性(60時間以内に致死)、亜病原性(60〜90時間に致死)及び長潜伏期性(致死までに90時間以上)に分類するために使用されていた。
【0012】
3.脳内病原性指数(ICPI)。ほとんどの毒性ウイルスは最大スコア2.0に近い指数を示すが、長潜伏期性株は0.0に近い値であり、亜病原性株では0.7〜1.5の値である。
【0013】
4.静脈病原性指標(IVPI)。長潜伏期性株及び亜病原性株の一部のIVPI値は0であるが、毒性株では3.0に近い。
【0014】
5.病原性の分子基盤。複製において、NDウイルス粒子が前駆体糖タンパク質F0により作成され、これが感染能を有するウイルス粒子になるためにはF1とF2に開裂される必要がある。この翻訳後開裂は、宿主細胞のタンパク分解酵素により仲介される。トリプシンは、全てのNDウイルス株のF0を開裂することができる。ニワトリに対して毒性を示すウイルスのF0分子は、細胞や組織の広い範囲に見出され、宿主中に広がって存在する宿主の複数のタンパク分解酵素により開裂されるので、重要な臓器に障害をもたらすが、低毒性のウイルスのF0分子では、ウイルスの宿主タンパク分解酵素に対する感受性が制限され、これらのウイルスの成長はある種の宿主細胞のみに制限される結果となる。ニワトリに対して病原性であるNDウイルスのほとんどが、F2タンパク質のC−末端に112R/K−R−Q−K/R−R116配列を、F1タンパク質のN−末端である残基117としてF(フェニルアラニン)を有するが、低毒性のウイルスは、同じ領域の配列が112G/E−K/R−Q−G/E−R116であり、残基117がL(ロイシン)である。ウイルスがニワトリに毒性を示すためには、少なくとも、残基116及び115に一対の塩基性アミノ酸、残基117にフェニルアラニン及び残基113に塩基性アミノ酸(R)を有する必要があるように見える。これらの分子的所見に基づけば、NDウイルスの獣医学上の分類はもはや3分類ではなく、病原性と非病原性の2分類である。
【0015】
鳥類の大部分は、ニワトリに対して高毒性及び低毒性の両NDウイルスの感染に感受性であるが、NDウイルスに感染した鳥にみられる臨床徴候は大きく異なり、ウイルス、宿主種、宿主の年齢、他の細菌の感染、環境的ストレス、免疫状態などの因子に左右される。環境によっては、非常に毒性の高いウイルスによる感染が、ほとんど臨床症状を示さない突然の死亡を高率にもたらすことがある。このように、臨床徴候は変化しやすく、他の因子に影響されるので、疾病に特徴的であると認められるものはない。
【0016】
ニューカッスル病は、以下に示す毒性の基準の1つを満たすトリパラミクソウイルス血清型1(APMV−1)のウイルスに起因する鳥の感染症として定義される。
A)ウイルスが0.7以上の初生ひな(ニワトリ)の脳内病原性指数(ICPI)を有する。
B)複数の塩基性アミノ酸、F2タンパク質のC−末端及びF1タンパク質のN−末端である残基117のフェニルアラニンがウイルス中に(直接または演繹的に)確認されている。用語「複数の塩基性アミノ酸」とは、残基113と残基116との間の少なくとも3つのアルギニンまたはリジン残基を意味する。上述のようなアミノ酸残基の特徴的パターンを確認できない場合には、クローン化されたウイルスをICPI試験により特徴付けすることが必要となることがある。この定義では、アミノ酸残基は、F0遺伝子のヌクレオチド配列から演繹されたアミノ酸配列のN−末端から番号付けされ、113〜116は開裂部位から残基−4から残基−1に対応する。
【0017】
過去80年間にクローン化されたNDV株の遺伝子解析により、地域特異性及び宿主種との関連だけでなく、その時間的な分布も明らかである、少なくとも9つの遺伝子型(及びその亜型)の存在が解明された(Lomniczi es Czegledi、2005)。1960年代以前に流行した初期の遺伝子型[II〜IV及びHerts’33(W)]は、ワクチン接種の導入後に最近の遺伝子群(V〜VIII)に取って代わられた。近年、極東の遺伝子型VIIの亜系統が他の地理的に離れた地域、例えば、ヨーロッパに広がっている(既知NDVウイルス株の系図(図31)を参照)。遺伝子型の代替は、NDV株の分布における無作為の疫学的事象というよりもむしろ、進化の過程のようである。新規毒性遺伝子型の出現は、ワクチン接種の応用の信頼性を損なうように思われるが、実験的感染は、免疫されたニワトリ集団が新規毒性ウイルスの保有宿主になる過程を明らかにした。
【0018】
生態学上、NDV株の主な保有宿主が自然界に2つ存在する。始原保有宿主は野生の水鳥類であり、潜伏原始(非病原性)ウイルスは、驚くべきことに、野生では2つの遺伝系統のみ、すなわち、クラスI及び(クラスIIに属する)遺伝子型Iが知られている。一方、残り(遺伝子型II〜VIII)は、毒性株を有し、ニワトリの二次(人工)保有宿主に保持されている。ニワトリ集団が非病原性ウイルスの播種を受け、病原性株がニワトリ宿主に出現したという仮説がたてられている。免疫期間前に、少なくとも2つの独立した(遺伝子型I及びIIで)コロニー形成が起こったかもしれない。
【0019】
最初のヨーロッパのクローン、Herts’33(1933年英国においてクローン化された)、の真正サンプルの遺伝子解析により、それが大きく分岐した新規初期系統であることが解明された。最も成功した初期ワクチンの1つである、卵継代によるHerts’33(W)由来のH株について報告している英国での1940年の発表に対して、遺伝子解析はそれらの関係を排除した。
【0020】
NDV株の遺伝子解析はまた、長期に継代を繰り返しても遺伝的に著しく安定なNDV株をもたらした。遺伝的安定性は、自然界においてウイルスの組み換えが起こらないことによって証明される。Toyodaらは、50年間にわたってクローン化されたNDVの複数の株のNH及びF遺伝子配列を分析した。3つの系統の世代における組み換えによる遺伝子変化はなかった(T.Toyoda:ニューカッスル病ウイルスの進化II,毒性及び無毒性株発生における遺伝子組み換えの欠如,Virology,169:273−282,1989)。
【0021】
NDVは通常鳥類ウイルスであると考えられているが、ヒトに感染することもできる。NDVは、鳥類に対しては潜在的には致命的な、非癌性疾病(ニューカッスル病)を引き起こすが、ヒトにおいては(従来から、主に実験室研究者において見られる)軽いインフルエンザ様の症状または結膜炎として現れる軽症疾患のみを引き起こす。
【0022】
1971年に、科学的刊行物である「The Lancet」に、Laszlo Csatary博士は、ニューカッスル病ウイルスの非開示株での癌治療の病歴について発表している(The Lancet,1971,7728,p.825)。この発表に続いて、L.Csatary博士及び共同研究者は、「MTH−68/H」と称するウイルス株を使っての科学的研究に基づき、多数の科学的文献や特許出願(下記参照)を公表した。しかし、これらの参考文献のいずれにも、ウイルス株の正確な性質の記載はなく、またウイルス株は市販もウイルスライブラリーへの寄託もされていない。したがって、これらの刊行物のいずれについても当業者による再現は可能でない。さらに、L.Csatary博士以外の研究者による「MTH−68/H」と称されるウイルス組成での科学的研究も存在するが、使用されたウイルス組成が上記Lancetに記載されているものと同一であるかどうか、全く不明である。
【0023】
Csatary博士の研究は、明らかに医学界を刺激し、欧州特許第EP696326 B1号(Wellstat Biologics社)や下記に挙げた研究などが発表された。しかし、73−TやMK−107株などの使用されている株は同様に公開されていないので、開示された科学的研究を当業者が再現することはできない。
【0024】
NDVは、非腫瘍性細胞に影響することなく、多くの種類の癌細胞を選択的に殺すことが見出され、NDVを癌治療に使用する可能性について意義深い関心が進展した。NDVが癌治療として有用であるかもしれないということを示す報告は、1960年代初頭に開示された。それ以後、多数の研究が報告されている。
【0025】
多くのNDV株は、癌細胞に対して細胞毒性を示すことが見出されている。株によっては、正常細胞に影響することなく、癌細胞内で複製し、癌細胞を破壊するものもある。これらの株は、腫瘍溶解性と呼ばれている。癌細胞破壊性の程度は株によって異なり、感受性を示すNDVの株種は癌の細胞種によって異なる。これらの性質は、株の腫瘍溶解性能を定義する。腫瘍溶解性能は、治療に必要な用量に応じて臨床的相互関係を有すると考えられる。実験的条件下では、1つの癌細胞型に対する株の腫瘍溶解効力が高い程、腫瘍溶解性効果を確認するために必要な、細胞1個当たりの感染ウイルス粒子の数(MOI)は少なくなる。臨床上は、治療効果を得るためのウイルス量が低いことが必要である。NDVは、臨床試験で使用された、非常に高用量で非経口的に治療投与しても、ヒトでは重篤な疾患を引き起こすことはないが、低血圧や高熱などの副作用を引き起こす可能性があり、高用量を投与する前に、患者を脱感作するための用法の代替法を見出す必要がある(WO00/62735参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】欧州特許第1032269号明細書
【特許文献2】欧州特許第1297121号明細書
【特許文献3】欧州特許第1314431号明細書
【特許文献4】欧州特許第1486211号明細書
【特許文献5】欧州特許第1905304号明細書
【特許文献6】欧州特許第2009119号明細書
【特許文献7】米国特許第5124148号明細書
【特許文献8】米国特許第5215745号明細書
【特許文献9】米国特許第5602023号明細書
【特許文献10】米国特許第6153199号明細書
【特許文献11】米国特許第7056689号明細書
【特許文献12】米国特許公開第2003/0044384号明細書
【特許文献13】米国特許公開第2003/0165465号明細書
【特許文献14】米国特許公開第2006/0018836号明細書
【特許文献15】米国特許公開第2006/0018884号明細書
【特許文献16】米国特許公開第2006/0216310号明細書
【特許文献17】米国特許公開第2008/0206201号明細書
【特許文献18】国際特許公開第86/00529号明細書
【特許文献19】国際特許公開第86/00811号明細書
【特許文献20】国際特許公開第89/07946号明細書
【特許文献21】国際特許公開第90/06131号明細書
【特許文献22】国際特許公開第93/18790号明細書
【特許文献23】国際特許公開第96/12808号明細書
【特許文献24】国際特許公開第97/49826号明細書
【特許文献25】国際特許公開第99/18799号明細書
【特許文献26】国際特許公開第99/66045号明細書
【特許文献27】国際特許公開第00/15853号明細書
【特許文献28】国際特許公開第00/62735号明細書
【特許文献29】国際特許公開第00/67786号明細書
【特許文献30】国際特許公開第00/77218号明細書
【特許文献31】国際特許公開第02/00169号明細書
【特許文献32】国際特許公開第02/36617号明細書
【特許文献33】国際特許公開第03/022202号明細書
【特許文献34】国際特許公開第2004/000209号明細書
【特許文献35】国際特許公開第2004/043222号明細書
【特許文献36】国際特許公開第2005/013920号明細書
【特許文献37】国際特許公開第2005/018580号明細書
【特許文献38】国際特許公開第2005/051330号明細書
【特許文献39】国際特許公開第2005/051433号明細書
【特許文献40】国際特許公開第2005/113013号明細書
【特許文献41】国際特許公開第2005/113018号明細書
【特許文献42】国際特許公開第2006/050984号明細書
【特許文献43】国際特許公開第2007/011601号明細書
【特許文献44】国際特許公開第2007/025431号明細書
【特許文献45】国際特許公開第2007/064802号明細書
【特許文献46】国際特許公開第2008/038845号明細書
【特許文献47】国際特許公開第2008/065053号明細書
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Hanson,Science,122(1955),156ff.
【非特許文献2】Wheelock,New England Journal of Medicine,271(1964),645ff.
【非特許文献3】Csataryら,Acta Microbiologica Hungarica,31(1984),153−158
【非特許文献4】Lorence,Journal of the National Cancer Institute,80(1988),1305ff.
【非特許文献5】Csataryら,Journal of Cancer Research and Clinical Oncology,116,Suppl.(1990),1ff.
【非特許文献6】Reichardら,Journal of Surgical Research,52(1992),448−453
【非特許文献7】Reichardら,Pediatric Surgery Forum,43(1992),603ff.
【非特許文献8】Reichardら,Reichard et al., Journal of Pediatric Surgery,28(1993),1221−1226
【非特許文献9】Csataryら,Cancer Detection and Prevention,17(1993),619−627
【非特許文献10】Sinkovics,Intervirology 36(1993),193−214
【非特許文献11】Nelson,Journal of the National Cancer Institute, 91(1999),1708−1710
【非特許文献12】Csataryら,JAMA,281(1999),1588ff.
【非特許文献13】Csataryら,Anticancer Research,19(1999),635−638
【非特許文献14】Csatary,Journal of the National Cancer Institute,92(2000),493
【非特許文献15】Krishnamurthyら,Virology,278(2000),168−182
【非特許文献16】Sinkovicsら,Journal of Clinical Virology,16(2000),1−15
【非特許文献17】Fabianら,Anticancer Research,21(2001),125−136
【非特許文献18】Skiadopoulosら,Virology,297(2002),136−152
【非特許文献19】Washburn,International Journal of Oncology,21(2002),85−93
【非特許文献20】Engel−Herbertら,Journal of Virological Methods,108(2003),19−28
【非特許文献21】Lomnicziら,Avian Pathology,32(2003),271−276
【非特許文献22】Csataryら,Journal of Neuro−Oncology,67(2004),83−93
【非特許文献23】Csataryら,Focus on Brain Cancer Research(Andrew Yang編集),ISBN 1−59454−973−7,pp.69−82
【非特許文献24】Wagnerら,APMIS,114(2006),731−743
【非特許文献25】Fabianら,Journal of Virology,81(2007),2817−2830
【非特許文献26】Apostolidisら,Int.J.Oncology,31(2007),1009ff.
【非特許文献27】Jarahianら,Journal of Virology,83(2009),8108ff.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
したがって、本発明は、腫瘍溶解性で従来の株と比較して改良された性質を有する新規のNDVを提供することを目的とする。
【0029】
インターフェロン非感受性で、ICPIが1.2〜2.0であるNDVの新規クローンは、当業者に自明ではない性質を有する癌治療に特に有用であることが見出された。
【0030】
癌治療に特に有用なNDV株は、「MTH−68H/VB」と称され、他のNDV株やその製剤を含む他の癌治療が効かない場合に、本NDVクローンが腫瘍を破壊することに成功する可能性があることが研究により示された。その特有の有効性により、MTH−68/H−VBは低用量で効果を有し、より侵襲性の低い非静脈内投与により投与することが可能である。MTH−68/H−VBは、正常細胞への細胞保護効果を示しながら、他の癌治療方法、特に放射線療法との顕著な相乗効果を有することが実証されている。したがって、癌治療の単剤形だけでなく、他の従来の治療法の補助として使用される腫瘍治療としての理想的な候補となることができる。
【課題を解決するための手段】
【0031】
驚くべきことに、インターフェロン非感受性で、ICPIが1.2〜2.0(好ましくは1.2〜1.5)であるニューカッスル病ウイルスクローンは、従来の株に比較して腫瘍溶解性が優れていることが見出された。
【0032】
さらに具体的には、そのようなニューカッスル病ウイルスクローンの一例として、配列番号1のDNAヌクレオチド配列を有するニューカッスル病ウイルスクローンを見出した。さらに、欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC)に受入番号06112101で寄託されたウイルスをそのようなニューカッスル病ウイルスクローンの一例として見出した。
【0033】
当技術分野で使用される従来のウイルス組成物が遺伝的に不均一であることが見出されたが、ここで使用されるクローンとは、遺伝的に均一なウイルスを指す。
【0034】
驚くべきことに、特に、MTH−68/H−VBと名付けられたNDVの新規クローンは優れた腫瘍溶解性を有することが認められた。新規NDVクローンは、以下により特徴付けされる。
(a)融合(F)タンパク質遺伝子のヌクレオチド及び予測されるアミノ酸配列。F2タンパク質のC−末端のタンパク質配列及びF1タンパク質のN−末端。アミノ酸残基は、F0遺伝子のヌクレオチド配列から演繹されるアミノ酸配列のN−末端から番号付けされ、113〜116は開裂部位から残基−4から残基−1に対応する。
(b)プラークの大きさ、形及び外観
(c)クローンのICPI
(d)独特の著しいインターフェロン誘発能
(e)独特のインターフェロン非感受性
(f)異なる状態の腫瘍細胞を破壊する能力
(g)癌に関連する痛みを低減する性質
(h)化学療法及び放射性療法を含む癌治療の他の形態を相乗的に増強する効果
(i)化学療法及び放射性療法の有害な副作用を下げる能力により、これら従来の腫瘍治療様式をさらに適用可能にする
(j)配列番号1(添付)に開示されている全長ヌクレオチド配列
(k)欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC)に受入番号06112101として2006年11月21日に寄託したクローン化された培養物
【0035】
本発明の目的
当業者であれば、本明細書により、読む者の便宜のために本節にまとめた以下の本発明の目的は容易に確認できる。ただし、以下の列挙は本明細書に含まれる目的を限定するものではない。
1)インターフェロン非感受性であり、かつ1.2〜2.0のICPIを有するニューカッスル病ウイルスクローン。
2)インターフェロン非感受性であって、1.2〜1.5のICPIを有する目的1に記載のニューカッスル病ウイルスクローン。
3)配列番号1のDNAヌクレオチド配列を有する目的1に記載のニューカッスル病ウイルスクローン。
4)欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC)に受入番号06112101として2006年11月21日に寄託された、目的1に記載のニューカッスル病ウイルスクローン。
5)腫瘍細胞死を誘導することによる癌の治療用薬剤の製造、または発生期あるいは残留癌細胞を破壊または転移巣の発達のリスクを低減する予防的生物学的癌治療剤のための目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンの使用。
6)ヒト腫瘍細胞がp53陰性ヒト腫瘍細胞である、目的5に記載の使用。
7)ヒト腫瘍細胞が子宮頸部癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌、ウィルムス腫瘍、前立腺癌、肺癌(気管支癌を含む)、リンパ腫、白血病、中枢神経腫瘍(髄膜腫、髄芽腫、神経膠芽腫、星状細胞種、神経芽細胞腫を含む)、膵癌、皮膚癌(黒色腫を含む)、大腸癌、骨癌(一次及び転移性病巣)、乳癌、胃癌、食道癌、甲状腺癌、肉腫、中皮腫、頭頸部癌(口咽頭、鼻咽頭、副甲状腺を含む)、血液系腫瘍、外陰部、膣及び子宮内膜癌、睾丸癌、肛門直腸癌、肝及び肝外(胆管)癌、肉腫(ユーイング肉腫を含む)、眼癌(網膜芽細胞腫を含む)、胸腺癌、尿道癌、カルチノイド腫瘍及び副腎皮質癌から選択される、目的5に記載の使用。
8)投与経路が、静脈内、動脈内、腸内、腸管外、髄腔内、腹腔内、胸内、胸腔内、口腔内、舌下、頬粘膜、鼻腔内、嚢内、尿道内、直腸内、膣皮下、腫瘍内、腫瘍周囲、局所、筋肉内、気管支内、動脈内、頭蓋内及び/または外用適用である、目的5に記載の使用。
9)患者に投与する1回量が1×10〜1×1012ウイルス粒子、好ましくは1×10〜1×1010ウイルス粒子、最も好ましくは1×10〜1×10ウイルス粒子を含む、目的5に記載の使用。
10)1日に3回から1ヶ月に1回の頻度で、1×10〜1×1012ウイルス粒子相当またはその複数倍、好ましくは1×10〜1×1010ウイルス粒子相当またはその複数倍、最も好ましくは1×10〜1×10ウイルス粒子相当またはその複数倍を患者に投与する、目的5に記載の使用。
11)ウイルス療法を化学療法、放射線療法(α、βまたはγ線照射、X線照射、粒子照射など)、免疫治療または外科手術と組み合わせる、目的5に記載の使用。
12)ウイルス療法を化学療法、放射線療法(α、βまたはγ線照射、X線照射、粒子照射など)、免疫治療または外科手術の前、同時または後に行う、目的11に記載の使用。
13)インターフェロン感受性腫瘍性疾患、特に黒色腫、(非ホジキン)リンパ腫、白血病(慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病)、乳癌、膀胱癌、腎細胞癌、頭頸部癌、カルチノイド腫瘍、胆管癌、膵癌、多発性骨髄腫若しくはカポジ肉腫、または多発性硬化症、尖圭コンジローマ、肝炎、ヘルペス、リウマチ性関節炎、ベーチェット病、特発性肺疾患、アフタ性口内炎、重症悪性骨粗しょう症、頸部癌若しくはSARSなどの非腫瘍性インターフェロン感受性自己免疫、またはウイルス性状態の治療のための薬剤の製造における、目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンの使用。
14)ニューカッスル病ウイルスを癌患者に投与することを有する、癌患者の痛みを低減する方法。
15)目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、目的14に記載の癌患者の痛みを低減する方法。
16)化学療法剤の投与の前、同時または投与の後にニューカッスル病ウイルスを癌患者に投与することを有する、化学療法剤による治療を受けた癌患者の化学療法による副作用を低減する方法。
17)化学療法剤の投与の前、同時または投与の後に、目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、目的16に記載の化学療法剤による治療を受けた癌患者の化学療法による副作用を低減する方法。
18)副作用が吐き気、嘔吐、脱毛、倦怠感、食欲不振、腸の疾患、食欲不振と体重変化から選択される、目的16または17に記載の化学療法剤による治療を受けた癌患者の化学療法による副作用を低減する方法。
19)放射線療法の前、同時または放射線療法の後に、ニューカッスル病ウイルスを癌患者に投与することを有する、放射線療法を受けた癌患者の放射線壊死を低減する方法。
20)放射線療法の前、同時または放射線療法の後に、目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、放射線療法を受けた癌患者の放射線壊死を低減する方法。
21)放射線療法の前、同時または放射線療法の後に、目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、放射線療法を受けた癌患者の放射線療法による急性または慢性続発症を含む副作用を低減する方法。
22)放射線療法による副作用が、倦怠感、食欲不振、皮膚の変化(または照射臓器に応じて他の急性症状)、下痢、失禁、排尿時痛、頻尿、嚥下困難、口腔乾燥、圧痛、潰瘍形成、咳、息切れ、咽頭痛、嗄声、脳組織または脊髄の放射線壊死、軟部組織壊死、骨放射線壊死、皮下線維症、委縮症、毛細血管拡張、慢性壊死、非吸収性潰瘍形成、狭窄形成、唾液形成を著しい低下、口腔内乾燥症、局所脊髄症、軟骨壊死、食道の潰瘍または狭窄形成、線維症、肺炎及び腸または直腸の慢性的炎症から選択される、目的21に記載の放射線療法を受けた癌患者の放射線療法による副作用を低減する方法。
23)ニューカッスル病ウイルスを癌患者に投与することを有する、激しい食欲不振、エネルギー損失、うつ病、無力症、吐き気または倦怠感を改善することによる癌患者の生活の質を向上する方法。
24)目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、目的23に記載の癌患者の生活の質を向上する方法。
25)ニューカッスル病ウイルスを癌患者に投与することを有する、進行癌患者の姑息的治療の方法。
26)目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、進行癌患者の姑息的治療の方法。
27)目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを有効成分として生理学的に許容される添加物と共に有する、癌の治療のための医薬組成物。
28)目的1〜4の少なくともいずれかに記載のニューカッスル病ウイルスクローンを有効成分として生理学的に許容される添加物と共に凍結乾燥状態で有する、癌の治療のための医薬組成物。
29)目的27または28に記載の医薬組成物及び化学療法剤を含有する医薬組成物を有する、目的5に記載の癌の治療のための薬剤キット。
30)化学療法剤がアルキル化剤、代謝拮抗剤、抗癌性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、標的治療剤及び分化誘導剤から、特に、三酸化ヒ素、アドリアマイシン、BCNU、ベキサロテン、ブレオマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、デカルバジン、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、タキソール、テモゾロミド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、アザシチジン、アザチオプリン、カペシタビン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イマチニブ、メクロレタミン、メルカプトプリン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ソラフェニブ、テニポシド、チオグアニン、トレチノイン、バルルビシン、ビンデシン、ビノレルビン、イミタニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、スニチニブ及びボルテゾミブから選択される、目的29に記載の癌の治療のための薬剤キット。
31)I.精製純系ウイルスクローンを生成する(例えば、複数回のプラーク精製)、
II.該純系クローンを特定の病原体を含まない(SPF)ニワトリの卵へ播種する、
III.該SPF卵を培養する、
IV.該SPF卵を冷却する、
V.該SPF卵から尿膜液を採取する、
VI.必要に応じて濾過及び/または遠心分離により、該尿膜液から破砕物を除去する、
VII.該尿膜液を超遠心分離する、
ステップを有する、目的1〜4に記載のNDVウイルスクローンの作製方法。
32)VIII.製剤して各容器に詰める、
IX.完成した産物の凍結真空乾燥及び凍結乾燥を行う、
ステップをさらに有する、目的31に記載のNDVウイルス組成物の作製方法。
33)精製及び凍結乾燥されたニューカッスル病ウイルス。
34)ニューカッスル病ウイルスが
a)インターフェロン非感受性であり、かつ1.2〜2.0のICPI、好ましくは1.2〜1.5のICPIを有する、または
b)配列番号1のDNAヌクレオチド配列を有する、または
c)欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC)に受入番号06112101として2006年11月21日に寄託されたウイルスと同一のものである、目的33に記載のニューカッスル病ウイルス。
【0036】
本発明の別の目的は、1.4以上、好ましくは1.6以上、最も好ましくは1.75以上のICPI(最大値は2.0)を有するニューカッスル病ウイルスクローンを使用する癌の治療である。
【0037】
このようなICPI値を有するニューカッスル病株は本技術分野において公知であり、Central Veterinary Laboratory,New Haw Addlestone,United Kingdomなど、複数の供給者から入手可能である。
【0038】
上記の確定された特性(ICPIスコア)の株として、Mukteswar、Roakin、Beaudette C、GB Texas、NY Parrot 70181 1972、Italien、Milano及びHerts’33/56が挙げられる。これらの株は、ユーゴスラビア、インド、米国、ポルトガル及びイタリアの供給源から入手可能である。
【0039】
上述のように、これらの株は公知であり、公共の供給源から入手可能である。これらの株は、実験目的(特に動物の疾患)及び家禽類のワクチン接種に使用されていた。
【0040】
しかし、これらの株が癌などのヒトの疾患の治療用薬剤の製造のために使用されたことはなかった。インターフェロン非感受性の株が好ましい。「インターフェロン非感受性」とは、細胞増殖がインターフェロンの不存在下と比較すると存在下では変化しないことを意味する。
【0041】
1.4以上のICPIを有するニューカッスル病ウイルス(NDV)株の使用が、ヒト癌の治療に非常に有用であることが判明した。1.4以上のICPIを有するニューカッスル病ウイルスNDV株は、腫瘍細胞を死滅させ、癌の治療に有用である。さらに、予防的生物学的癌治療にも効果的であり、発生期または残留癌細胞を破壊し、転移巣の発達のリスクを低減する。
【0042】
本ウイルス株は、本明細書に上記した種々の癌(上記、No.13参照)の治療に使用することができる。これらの株は単独で、または化学療法、放射線療法、免疫治療または外科手術と組み合わせて使用することができる。本明細書に上記したように(上記、No.7参照)投与することができる。患者に投与する1用量は、通常、1×10〜1×1012のウイルス粒子、好ましくは1×10〜1×1010のウイルス粒子、最も好ましくは1×10〜1×10のウイルス粒子を含む。患者は本相当量または複数倍の用量の投与(1日に3回から1ヶ月に1回の頻度)を受ける(上記、No.9及び10参照)。
【0043】
上述のウイルス株での患者治療は、それぞれの癌を改良した。また、該治療は通常癌患者の痛みを和らげ、さらに化学療法剤の副作用(化学療法剤と組み合わせて投与した場合、吐き気、嘔吐、脱毛、倦怠感、食欲不振、腸の疾患及び体重変化)を抑える(上記、No.14〜26参照)。
【0044】
投与剤型、製造過程及び医薬組成物の詳細は、本明細書に記載される。ここで記載した方法は、1.4以上のICPIを有するニューカッスル病ウイルス株の要求に容易に適合する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】F遺伝子の配列を示す。
【図2】MTH−68H/VB株によるCEF培養でのプラーク形成を示す。
【図3】プラーク精製前のプラークを示す。
【図4】様々なNDV株の毒性及び細胞病理の比較を示す。
【図5】MDV株によるインターフェロンの誘発を示す。
【図6】実験AでのHEK293細胞の成長に対するIFNβの効果を示す。
【図7】実験BでのHEK293細胞の成長に対するIFNβの効果を示す。
【図8】実験AでのHEK293細胞におけるMTH−68H/VB(MTH)の細胞毒性に対するIFNβの効果を示す。
【図9】実験BでのHEK293細胞におけるMTH−68H/VB(MTH)の細胞毒性に対するIFNβの効果を示す。
【図10】実験CでのF11一次ヒト線維芽細胞の成長に対する抗−IFNβの効果を示す。
【図11】実験DでのF11一次ヒト線維芽細胞におけるMTH68の細胞毒性に対する抗−IFNβの効果を示す。
【図12】実験CでのF11一次ヒト線維芽細胞におけるMTH68の細胞毒性に対する抗−IFNβの効果を示す。
【図13】実験DでのF11一次ヒト線維芽細胞におけるMTH68の細胞毒性に対する抗−IFNβの効果を示す。
【図14】異なる細胞系に対するMTH−68H/VBの細胞毒性効果を示す。
【図15】異なる細胞系に対するMTH−68H/VBの細胞毒性効果を示す。
【図16】異なるNDV株(H−線維芽細胞系)の細胞毒性効果を示す。
【図17】異なるNDV株(HeLa細胞系)の細胞毒性効果を示す。
【図18】異なるNDV株(H−線維芽細胞)の細胞毒性効果を示す。
【図19】異なるNDV株(293細胞系)の細胞毒性効果を示す。
【図20】BC−1、HT−3及び203細胞におけるMTH−68H/VBの細胞毒性効果を示す。
【図21】DAOY、SK−N−FI及びIMR−32細胞におけるMTH−68H/VBの効果を示す。
【図22】C−41細胞におけるMTH−68H/VBの効果を示す。
【図23】皮下GI261腫瘍の成長に対するMTH−68H/VB治療(毎週投与)の効果を示す。
【図24】皮下GI261腫瘍の成長に対するMTH−68H/VB治療(毎日投与)の効果を示す。
【図25】皮下GI261腫瘍の成長に対するMTH−68H/VB治療と腫瘍放射線照射の組み合わせ効果を示す。
【図26】MTH−68H/VB治療及び腫瘍放射線照射の組み合わせ治療後の担癌マウスの生存率を示す。
【図27】実験1における放射線照射、テモゾロミド及びMTH−68H/VBの組み合わせ治療後の腫瘍成長率を示す。
【図28】実験2における放射線照射、テモゾロミド及びMTH−68H/VBの組み合わせ治療後の腫瘍成長率を示す。
【図29】担癌マウスの腫瘍サイズに対するMTH−68H/VB、放射線照射、BCNU治療の効果を示す。
【図30】担癌マウスの生存率を示す。
【図31】公知NDVウイルス株の系図を示す。
【図32】遺伝子の詳細を示す。
【図33】オープンリーディングフレームの詳細を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明に関する1つのNDVクローンを以下に説明する。
【0047】
1.配列決定によるMTH−68H/VBウイルス株のゲノムの特徴付けされた新規クローンの説明
ゲノムの5箇所の重複部分を増幅した。3つの配列特異的プライマーをRTに使用し、ゲノムの94%を包含する内部領域の増幅のための3つのプライマー対により5箇所の重複部分を増幅した。
【0048】
MTH−68/VBのゲノムRNA配列は15186ヌクレオチドからなる。ゲノムの3’及び5’末端は、リーダー領域及びトレーラー領域を有する。MTH−68/VBにおいて、リーダー配列は55ヌクレオチドからなり、トレーラー配列は113ヌクレオチドからなる。NDV株は、通常114ヌクレオチドトレーラー領域を有する。
【0049】
MTH−68/VBのマイナス鎖RNAゲノムは、3’→5’方向に6つの主要な構造タンパク質(3’NP−P−M−F−HN−L5’)及び2つの付加的非構造タンパク質(V及びW)をコードする6つの遺伝子を含有する。構造タンパク質は、それぞれNP:489aa(アミノ酸)、P:395aa、M:364aa、F:553aa、HN:571aa及びL:2204aaである。
【0050】
転写の間に、1つまたは2つの非鋳型G残基をP遺伝子内の保存された転写エディティング部位(UUUUUCCC)に挿入することができ、2つの代替ORFが作成される。リンタンパク質、V(+1フレーム)及びW(+2フレーム)はアミノ末端を共有し、カルボキシ末端のアミノ酸長及び組成が異なる[Stewardら、1993]。MTH−68/VBの転写エディティング部位の配列は、2281UUUUUCCC2288である。Vタンパク質のORFは、ゲノムRNA配列のヌクレオチド位置1888から2607の717ヌクレオチド長であり、MTH−68/VB株の239アミノ酸残基のタンパク質をコードする。Wタンパク質のORFは、ゲノムRNA配列のヌクレオチド位置1888から2571の681ヌクレオチド長であり、MTH−68/VB株の227アミノ酸鎖のタンパク質をコードする。
【0051】
MTH−68/VBの遺伝子間領域の長さは、1〜47の範囲である。NP−P、P−M及びM−F接合は、1つのヌクレオチドのみであり、F−HN遺伝子間の遺伝子間配列は、31ヌクレオチドからなり、HN−L接合は47ヌクレオチド長である。
【0052】
遺伝子及びオープンリーディングフレームの詳細を図32及び33にまとめる。MTH−68/VBの完全なゲノムRNAのマップはST.25フォーマットのデータ担体と共にハードコピーとして添付した配列表(配列番号1)に記載する。
【0053】
したがって、本発明の1つの目的は、配列番号1のDNAヌクレオチド配列を有するニューカッスル病ウイルスクローンである。
【0054】
2.融合(F)タンパク質遺伝子のヌクレオチド及び予測されるアミノ酸配列の決定による新クローンの毒性及び病原性の説明
新規クローンMTH−68H/VBは、融合(F)タンパク質遺伝子、F2タンパク質のC−末端のタンパク質配列及びF1タンパク質のN−末端のヌクレオチド及び予測されるアミノ酸配列により特徴付けられる。アミノ酸残基は、F0遺伝子のヌクレオチド配列から演繹されるアミノ酸配列のN−末端から番号付けされ、113〜116は開裂部位から残基−4から残基−1に対応する。
【0055】
複製において、NDウイルス粒子が前駆体糖タンパク質F0により作成され、これが感染能を有するウイルス粒子になるためにはF1とF2に開裂される必要がある。この翻訳後開裂は、宿主細胞のタンパク分解酵素により仲介される。トリプシンは、全てのNDウイルス株のF0を開裂することができる。
【0056】
(ニワトリに対して)毒性を示すウイルスのF0分子は、細胞や組織の広い範囲に見出され、宿主中に広がって存在する宿主の1つ以上のタンパク分解酵素により開裂されるので、重要な臓器に障害をもたらすが、低毒性のウイルスのF0分子では、その開裂能がある種の宿主タンパク分解酵素に制限され、これらのウイルスの成長はある種の宿主細胞のみに制限される結果となる。
【0057】
(ニワトリに対して病原性)毒性のあるNDウイルスのほとんどが、F2タンパク質のC−末端に112R/K−R−Q−K/R−R116配列を、F1タンパク質のN−末端である残基117としてF(フェニルアラニン)を有するが、低毒性のウイルスは、同じ領域の配列が112G/E−K/R−Q−G/E−R116であり、残基117がL(ロイシン)である。ウイルスが[ニワトリに毒性を示す(OIEマニュアル)]短潜伏期性であるためには、少なくとも、残基116及び115に一対の塩基性アミノ酸、残基117にフェニルアラニン及び残基113に塩基性アミノ酸(R)を有する必要があるように見える。
【0058】
ヌクレオチド位置47〜420間の融合遺伝子(F)の部分配列に基づいて、MTH−68H/VB株は、二塩基性モチーフと117位置のFアミノ酸による、タンパク質分解開裂部位の毒性配列を有する(赤の部分参照)。開裂は116及び117アミノ酸間に起こる。
【0059】
したがって、本発明の1つの目的は、二塩基性モチーフと117位置のFアミノ酸を有するタンパク質分解開裂部位の毒性配列を有するニューカッスル病ウイルスクローンを提供することである。より具体的には、本発明の1つの目的は、残基116及び115に少なくとも一対の塩基性アミノ酸を有し、残基117がフェニルアラニンで残基113が塩基性アミノ酸である配列を有するニューカッスル病ウイルスを提供することである。
【0060】
(図1)F遺伝子の配列
【0061】
【表1】

【0062】
3.Schloer及びHanson(Journal of Virology,2(1968),p.40−47)に記載の試験によるプラーク形成及び大きさの決定による新クローンの毒性及び病原性の説明
本刊行物の著者らは、1968年には、ニューカッスル病ウイルス株が大きなプラークを作成する能力は、ニワトリでの毒性に関連していると信じていた。彼らは、ニワトリ胚線維芽細胞単層中で標準条件下におけるプラークサイズを比較した。短潜伏期性(高毒性)株は明らかに大きなプラークを形成した。亜病原性(中間毒性)株は小さなプラークのみを作成し、長潜伏期性(低毒性)株ではプラーク形成はほとんど見られなかった。
【0063】
この試験は、他のパラメーターの測定に比べて、NDVウイルス株の説明における基準として科学社会では受け入れられなかったが、本発明者らは、本発明の新規NDVクローンのプラーク形成能も検討した。
【0064】
プラークアッセイに使用するニワトリ胚線維芽細胞(CEF)の単層培養物は、10日齢SPFニワトリ胚から調製した。細胞単層を直径5cmのペトリ皿(Anumbra)(3.5×10細胞/皿)で生育し、SPFニワトリ胚で繁殖させたクローンウイルスで感染させた。MTH−68H/VB株によるCEF培養でのプラーク形成を図2に示す。クローン株により48〜72時間以内に形成されたプラークを「大プラーク」とみなした。株のプラークは輪郭のはっきりした円形であった。まず、感染後36〜48時間でプラークは現れ、接種後5日目に2.5〜4.9mmの大きさになった。顕微鏡的にはその輪郭ははっきりしていなかった。Schloer及びHansonが最初に記述した特定の試験の結果によれば、新規クローンは短潜伏期性NDVとみなすことができ、亜病原性株とは認められない。
【0065】
4.新規クローンの起源及び新規クローンと親ウイルス系統との相違に関する説明
MTH−68H/VB株の親株は、著しく不均質な(1940年代に)英国に由来する「古代」NDV家禽類ワクチンであった。生成物の均質性を高め、不完全な粒子を除去するために、プラーク精製工程を複数回繰り返した。プラーク精製は、プラークの大きさ、形、外観に代表される所望の特徴を有する、純系ウイルスクローンを得るために当業者が通常使用する方法である(例えば、Massaabら,Plotkin及びMortimer編,Vaccines,Philadelphia:WB Saunders社,1994,78−801)。最初の部分精製で外見上均質なウイルス集団が得られる。CEFでの繁殖の間、「精製された」ウイルス系統により形成されたプラークはなお高い変動性を示した(図3)。ニワトリ線維芽細胞単層組織培養により繁殖したこのウイルス集団の、なお様々なプラークのいくつかから所望の特徴を有する1つのプラークを選択、分離し、さらに増殖させる。後日、この均質なウイルス集団を再度CEF内で増殖し、形及び外観に基づいて単一のプラークをさらに選択(第3の単離)するプラーク精製を再び行い、SPFニワトリ胚内で増殖する。厳格な品質コントロールの後、得られたウイルス懸濁液をMTH−68H/VBの新規マスターシードを作製するために使用した。
【0066】
5.脳内病原性指数(ICPI)の決定による新規クローンの毒性及び病原性の説明
ニューカッスル病ウイルスは、脳内病原性指数(ICPI)により特徴付けられる異なる3つの病原性に分類される。
【0067】
長潜伏期性(低毒性)株のICPIは、0〜0.7である。亜病原性株は、中程度の病原性(ICPI:0.7〜1.5)NDVであり、短潜伏期性(高病原性)株はICPI>1.5により特徴付けされる。最大ICPIは2.0である。
【0068】
ICPIは、50μLのウイルス希釈液(赤血球凝集力価は少なくとも24)を初生ひなに脳内注射して測定する。動物を8日間観察し、毎日1回評価する(健常=0、病気=1、死亡=2)。ICPIは合計を評価数で割って求める。
【0069】
1.2〜2.0、好ましくは1.2〜1.5のICPIを有するニューカッスル病ウイルスの腫瘍溶解性が、特にインターフェロン非感受性である場合に改良されていることを見出した(下記参照)。
【0070】
従来の方法により、MTH−68/H−VBのICPIは1.2〜1.5であり、毒性が高まる傾向にあることが分かった。
【0071】
6.クローンの独特なインターフェロン誘発性の説明
インターフェロン(IFN)は、ウイルス、寄生菌、腫瘍細胞などの攻撃に対する反応として、ほとんどの脊椎動物の免疫系細胞により作製される自然細胞シグナリングタンパク質である。インターフェロンは、ウイルス感染の主要な指標である二本鎖RNAの存在に反応して、多様な細胞により作製される。
【0072】
インターフェロンの作製は、ポリオーマやニワトリ肉腫ウイルスなどの発癌性を有するものを含む、様々なRNA及びDNA含有ウイルスにより促進される。
【0073】
異なるNDV株(図4に列記)のインターフェロン誘発を検討するものとして、3つの系が使用された。
【0074】
ニワトリ胚(尿膜腔)またはニワトリ胚線維芽細胞(CEF)培養物のウイルス内容物は、熱(65℃、30分)により不活化し、攻撃ウイルス(シンドビス)の細胞変性効果の低下に基づくアッセイにより培養物のインターフェロンの存在を試験した。
【0075】
ヒト及び豚細胞株におけるインターフェロン誘発を同じ方法で測定した(Falcoffらによる記載、1966)が、攻撃ウイルス(シンドビス)の細胞変性効果の低下に基づくアッセイでは羊膜(ヒト)及びPK−15(豚)を使用した。
【0076】
本発明者らのデータでは、検討した非不活化ウイルス株の全てが大量のインターフェロン産生を誘発できたと結論づけられる。最もはっきりしたインターフェロン産生は、PK−15(豚腎)及びヒト(羊膜)細胞系に見られた(図5)。これらの結果は、NDVによるインターフェロン誘発にはビリオンの成分が関与していることを示唆している。
【0077】
新規クローンのMTH−68H/VBのインターフェロン誘発は、いくつかの異なる細胞系を異なる条件下で、毒性の異なるいくつかのNDV株を含む試験系の全てにおいて著しく高く、より生じ易かった。
【0078】
本発明の1つの目的は、細胞中でインターフェロンを著しく誘発するNDVウイルスクローンを提供することである。この挙動により、NDVクローンは、多発性硬化症、尖圭コンジローマ、肝炎、ヘルペス、リウマチ性関節炎、ベーチェット病、特発性肺疾患、アフタ性口内炎、重症悪性骨粗しょう症、頸部癌または重症急性呼吸器症候群(SARS)などの非腫瘍性インターフェロン感受性自己免疫及びウイルス性状態と同様、黒色腫、(非ホジキン)リンパ腫、白血病(慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病)、乳癌、膀胱癌、腎細胞癌、頭頸部癌、カルチノイド腫瘍、胆管癌、膵癌、多発性骨髄腫、カポジ肉腫などのインターフェロン感受性を示す疾患の治療に成功裏に使用することができるのかもしれない。
【0079】
本発明のNDVクローン(特に、MTH−68/HVB)の腫瘍溶解性及び顕著なインターフェロン誘発性のために、患者の自己腫瘍細胞と結合させて癌ワクチン型治療の一部として使用する理想的な候補となることができ、目的の免疫腫瘍治療の一部として他の免疫調製因子と組み合わせて使用することができる。
【0080】
7.クローン独特のインターフェロン非感受性の説明
主なNDV株を含むウイルスの多くがインターフェロンβ(IFNβ)に感受性である。IFNβは、感受性細胞でのインターフェロン感受性NDVの増殖を阻害する。IFN濃度の上昇に従って、インターフェロン感受性NDV株の細胞毒性効果が低減することが期待できる。
【0081】
本発明者は、MTH−68H/VBクローンがインターフェロンβに感受性であるか否か、インターフェロンβの存在によりMTH−68H/VB感染に感受性である様々な細胞系でウイルスの複製を修飾できるかどうか、検討した。
【0082】
第1の実験では、MTH−68H/VB感受性HEK293細胞系を異なるIFNβ濃度の存在下に、種々の感染多重度(MOI、ウイルス/細胞)でMTH−68H/VBを感染させた。
【0083】
第2の実験では、MTH−68H/VB耐性一次ヒト線維芽細胞を、抗IFNβの存在下に、異なる濃度のウイルスで処理した。これらの条件下では、IFNβがウイルス複製に影響するならば、MTH−68H/VBの細胞毒性効果は増加するはずである。
【0084】
検討には、HEK293細胞系(アデノウイルス5型で形質転換したヒト胚腎臓)及びF11(一次ヒト線維芽細胞)細胞系を使用した。両細胞系を抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン及びアンフォテリシンB)及び胎児牛血清(HEK293及びF11細胞に対してそれぞれ10%及び20%)を含有するダルベッコ変法イーグル培地中で培養した。2×10個の細胞を最終容量100μLで96ウェル培養皿に蒔き、24時間後に、異なる感染多重度(MOI)でMTH−68H/VBを感染させた。細胞をさらにIFNβ(R及びD系)またはIFNβ(R及びD系)に対する抗体で処理した。NDV感染の72時間後に、20μLのWST−1試薬(ロッシュ)を添加し、2時間後にマルチウェル光度計でOD490値を測定することにより細胞毒性を求めた。
実験A.HEK293細胞を0日目に蒔き、20、200または2000U/mLのIFNβで0、1、2及び3日目に処理した。MTH−68H/VB感染を1日目に0.001または0.01のMOIで行い、細胞毒性を4日目に測定した。
実験B.実験条件は実験Aと同様であるが、細胞の感染は0.01または0.1のMOIで行った。
実験C.F11細胞を0日目に蒔き、2、10または20μg/mLの抗IFNβで0、1、2及び3日目に処理した。MTH−68H/VB感染を1日目に0.001または0.01のMOIで行い、細胞毒性を4日目に測定した。
実験D.実験条件は実験Cと同様であるが、細胞の感染は1または10のMOIで行った。抗IFNβの最終濃度は、2及び15μg/mLであった。
【0085】
MTH−68H/VBの細胞毒性効果に対するIFNβ処理の効果:結果を分析すると、以下のようにまとめられた。
・IFNβは細胞増殖に影響しなかった(図6及び7)。
・IFNβはMTH−68H/VBの細胞毒性効果を阻害しない。
MTH−68H/VBの細胞毒性に対するIFNβの効果はHEK293細胞により検討し、二重に行った(実験A及びB)。両検討において、MTH−68H/VBは低MOI(1未満のMOI)でHEK293細胞に対して細胞毒性を示し、MTH−68H/VBはこの細胞系で複製を作製できることが示された(図8及び9、縦棒1−3)。結論として、本発明者らは、IFNβは、非常に高濃度のIFNβであっても、MTH−68H/VBの細胞毒性効果を阻害しないことを証明した(図9、縦棒4−12)。
【0086】
したがって、本発明の1つの目的は、インターフェロン、特にインターフェロンβに非感受性のNDVウイルスクローンを提供することである。インターフェロン非感受性とは、インターフェロンの存在下における細胞増殖が、インターフェロン非存在下に比較して変化しないことを意味する。
【0087】
一次ヒト線維芽細胞におけるMTH−68H/VBの細胞毒性に対するIFNβ抗体処理の効果
次に、本発明者らは、F11一次ヒト線維芽細胞におけるMTH−68H/VBの細胞毒性効果に対するIFNβに対する抗体の効果を分析した。抗IFNβは2つの独立した実験の両者でF11細胞の増殖に影響を与えなかった(実験C及びD、図10及び11)。MTH−68H/VBの2つの異なる系統を使用して、本発明者らは、線維芽細胞に対する細胞毒性効果を検出できなかった(図12及び13、縦棒1−3)。低及び高濃度の抗IFNβ処理のいずれにおいても、MTH−68H/VBの細胞毒性効果を高めなかった(図12、縦棒4−12及び図13、縦棒4−9)。
【0088】
ニューカッスル病ウイルス(NDV)の細胞毒性効果が細胞系のインターフェロン作製に依存することが認められた。この示唆によれば、強いインターフェロン応答を示すことができる細胞(通常、正常細胞)はNDV感染に耐性であるが、IFN応答性を失っている腫瘍細胞はNDVの細胞毒性効果に感受性である。この仮説が正しいとすれば、腫瘍細胞にIFNβを添加すれば、NDVに対する耐性を回復すると考えられる。一方、正常細胞(例えば、線維芽細胞)の近傍または培養培地からIFNβを除去することにより、NDV感染への感受性を高めると考えられる。本発明者らのデータは、少なくともMTH−68H/VBの場合、上述の実験的モデルにおいて、この仮説を否定するものである。
【0089】
MTH−68H/VBのIFNβ処理感受性HEK293細胞は、MTH−68H/VB感染に対する耐性が改善されなかった。これに加えて、一次ヒト線維芽細胞の培養培地から抗体処理によりIFNβを除いても、MTH−68H/VBに対する感受性は高められなかった。本発明者らのデータは、MTH−68H/VBの細胞毒性効果は感染細胞によるインターフェロンの産生に影響されないことを示している。
【0090】
8.(ヒト及びげっ歯類脳腫瘍細胞系及び正常一次ヒト線維芽細胞を含む)様々な細胞系のインビトロ成長に対する、MTH−68/VB及び他のNDV株の細胞毒性効果の比較研究
8.1.異なる細胞系におけるMTH−68/H−VBの複製
8.1.1.MTH−68H/VBの細胞毒性効果を異なる一次及び樹立細胞系において20%胎児牛血清を使用し、インビトロ条件下で検討した。
本検討では、以下の細胞系を使用した。
・293N3S:アデノウイルス5型で形質転換したヒト胎児腎、浮遊培養での成長に適する(ATCCから購入)
・HeLa:子宮頸部腫瘍から樹立したヒト上皮細胞系(ATCCから購入)
・9L:樹立されたラット神経膠腫細胞系(ECACCから購入)
・H−一次ヒト線維芽細胞系(皮膚生検から樹立)
・V−一次ヒト線維芽細胞系(皮膚生検から樹立)
・A−一次ヒト線維芽細胞系(皮膚生検から樹立)
【0091】
細胞は、一次ヒト線維芽細胞にとって最適血清濃度である、20%胎児牛血清の存在下に成長した。この高血清濃度で、MTH−68H/VBは正常ヒト線維芽細胞に対して細胞毒性効果を示さず、ラット(9L)神経膠腫細胞に対して中程度の効果を示しただけであった(図8、MOI50で約50%生存)。これに対し、293N3S及びHeLa細胞はMTH−68H/VB処理に対して高い感受性を示した。さらに、非常に低いMOI(0.005)での感染であっても、全ての細胞がウイルスにより死滅した。
【0092】
細胞毒性アッセイは、MTH−68H/VBが293N3S及びHeLa細胞内で複製できたことを示唆したが、感染ウイルス粒子は他の検討細胞系では形成されなかった。
【0093】
8.1.2.10%胎児牛血清を有するインビトロ条件下での異なる細胞系に対するMTH−68H/VBの細胞毒性効果
ウイルス複製の可能性をさらに検討するために、以下の細胞系を使用した。
・293:アデノウイルス5型で形質転換したヒト胎児腎(ATCCから購入)
・HeLa:子宮頸部腫瘍から樹立したヒト上皮細胞系(ATCCから購入)
・H−一次ヒト線維芽細胞系(皮膚生検から樹立)
・961107:NINSで樹立された一次ヒト線維性髄膜腫細胞
・960612:NINSで樹立された一次ヒト線維性髄膜腫細胞
・980128/2:NINSで樹立された一次ヒト多形膠芽腫細胞
【0094】
5×10個の細胞を最終容量100μLで96ウェル培養皿に蒔き、24時間後に、対応するウイルスを含有する50μLの完全培地を加え、異なる感染多重度(MOI:ウイルス/細胞比=0,0.01,0.1,1,10,100)でウイルス感染させた。72時間後に、15μLのWST−1試薬(ロッシュ)を添加し、1時間後にマルチウェル光度計でOD450値を測定することにより細胞毒性を求めた。OD450値は、生存率(%)に変換した。
【0095】
血清濃度が高いと、ある種のウイルス(例えば、アデノウイルス)の感染力を阻害する可能性のあることはよく知られている。したがって、これらの実験では、10%胎児牛血清だけを細胞培養培地に加えた。この血清濃度は、一次線維芽細胞を除く全ての細胞系に最適であるが、一次ヒト線維芽細胞もこの培地中で成長することができる。10%の血清の存在では、MTH−68H/VBは、高いMOI(10及び100)で全ての細胞に対して毒性を示すが、一次ヒト線維芽細胞に対する毒性はわずかである(H−線維芽細胞、図15)。様々な一次ヒト脳腫瘍細胞系(980128/2、960612及び961107)は、MTH−68H/VBに対して一次線維芽細胞よりもはるかに高い感受性を示した。
【0096】
脳腫瘍及び線維芽細胞系に加えて、本発明者らは、HeLa細胞のMTH−68H/VB処理に対する感受性を検討した。HeLa細胞もまた、293細胞と同様の感受性を示し、ウイルスがこれらの細胞内でも同様に複製できることが示唆された。
【0097】
8.2.異なる細胞系におけるMTH−68H/VB及び他のNDVの細胞毒性
この比較検討では、異なるNDV株の細胞毒性とMTH−68H/VBの細胞毒性とを比較した。本検討では、NDV株は以下のものである。
・H/W:Hertfordshire株のWeybridge系
・Mukteswar(Veterinarski Zavodからの「亜病原性」株、Subotica)
・LaSota:標準家禽類ワクチン株
・VP:「無毒性」標準ワクチン株
【0098】
比較細胞毒性を293、HeLa及びH−線維芽細胞系で検討した。
・293:アデノウイルス5型で形質転換したヒト胎児腎(ATCCから購入)
・HeLa:子宮頸部腫瘍から樹立したヒト上皮細胞系(ATCCから購入)
・H−一次ヒト線維芽細胞系(皮膚生検から樹立)
【0099】
アッセイのために、5×10個の細胞を最終容量100μLで96ウェル培養皿に蒔き、24時間後に、対応するウイルスを含有する50μLの完全培地を加え、異なる感染多重度(MOI:ウイルス/細胞比=0,0.01,0.1,1,10,100)でウイルス感染させた。72時間後に、15μLのWST−1試薬(ロッシュ)を添加し、1時間後にマルチウェル光度計でOD450値を測定することにより細胞毒性を求めた。OD450値は、生存率(%)に変換した。
【0100】
8.2.1.H−線維芽細胞系に関する比較検討
これらの実験では、10%胎児牛血清を細胞培養培地に加えた。この血清濃度は、一次線維芽細胞を除く全ての細胞系に最適であるが、一次ヒト線維芽細胞もこの培地中で成長することができる。10%の血清の存在では、MTH−68H/VBは、非常に高いMOI(10及び100、図16)以外は、線維芽細胞に対する毒性はわずかであった。
【0101】
公知である効果のほとんどがMTH−68H/VB処理細胞で観察された。弱いけれども知覚できる効果がH/W株により引き起こされたが、その他では細胞毒性効果はなかった。
【0102】
正常環境下では、すなわち、非常に高い感染度を与えられていない限り、検討したNDV株は正常ヒト細胞に細胞毒性を示さないと結論付けることができる。
【0103】
8.2.2.HeLa細胞系(子宮頸部腫瘍から樹立されたヒト上皮細胞系)に対する比較検討
これらの実験でも、10%胎児牛血清を細胞培養培地に加えた。この血清濃度は全ての細胞系に最適である。10%の血清の存在では、MTH−68H/VBは、非常に低いMOIでも(図11)、HeLa細胞に対する毒性が高かった。MTH−68H/VBの細胞毒性効果は、特に低MOI(0.01及び0.1)でいずれの他の検討ウイルスよりも著しく高かった。
【0104】
HeLa細胞の感受性は、NDウイルス株の一部のみがこれらの細胞内で複製可能であることを示唆している。検討した株の中でMTH−68H/VBが最も効果的である。
【0105】
8.2.3.293(アデノウイルス5型で形質転換したヒト胎児腎)細胞系に関する比較検討
前記実験と同様に、10%の血清の存在では、MTH−68H/VBは、非常に低いMOIでも(図12)、293細胞に対する毒性が高かった。MTH−68H/VBの細胞毒性効果は、特に低MOI(0.01及び0.1)でいずれの他の検討ウイルスよりも著しく高かった。
【0106】
293細胞の感受性は、NDウイルス株の一部のみがこれらの細胞内で複製可能であることを示唆している。検討した株の中でMTH−68H/VBが最も効果的である。
【0107】
8.3.ヒト腫瘍起源の異なる細胞系におけるMTH−68H/VB株の細胞毒性効果及び複製可能性
細胞系
脳腫瘍:
HTB−186(Daoy)小脳髄芽腫、4歳小児
CCL−127(IMR−32)脳神経芽細胞種、この細胞系は、ヘルペス、コクサッキー、ワクチンウイルスに感受性である。13ヶ月小児
CRL−2142(SK−N−FI)神経芽細胞腫、11歳小児
カポジ肉腫:
CRL−2230(BC−1)EBV及びKSHVを含むBリンパ球リンパ腫
子宮頸部腫瘍:
CRL−1594(C−4I)HPV−18を含有、発現する上皮子宮頸部腫瘍
HTB−32(HT−3)リンパ節転移からクローン化された上皮頸部、HPV陰性、p53+、Rb+
卵巣腫瘍:
OVCAR、卵巣癌
胚腎臓:
293:アデノウイルス5型で形質転換したヒト胎児腎
【0108】
細胞毒性アッセイ
5×10個の細胞を最終容量100μLで96ウェル培養皿に蒔き、その1日後に、異なる感染多重度(MOI:100/1,10/1,1/1,1/10及び1/100)でMTH−68H/VBにより形質転換した。72時間後にロッシュのWST−1キットにより細胞毒性効果を評価した。
【0109】
異なる一次樹立細胞系におけるMTH−68H/VBの細胞毒性効果を、インビトロ条件下に検討した。293細胞は、この細胞内でMTH−68H/VBが複製することが確立されているので、陽性コントロールとして使用した。MTH−68H/VBは、BC−1(リンパ腫)やHT−3(子宮頸部腫瘍)細胞に対して細胞毒性を示した。細胞毒性は、293細胞に観察されたものと同様であった(図19)。ウイルスは、これらの細胞への感染度が非常に低い場合でさえ、毒性が非常に高かった。
【0110】
同様の強い細胞毒性効果が、DAOY(髄芽腫)、IMR−32(神経芽細胞腫)及びSK−N−FI(神経芽細胞腫)細胞でも観察された(図20)。OVCAR(卵巣腫瘍)細胞でも他より低いながらかなりの毒性が検出された(図21)。C−4I子宮頸部腫瘍細胞は高い感染多重度においてのみ、MTH−68/H−VBにより死滅した(図22)。
【0111】
MTH−68H/VBは、感染多重度が低い状態であっても、BC−1、HT−3、DAOY、IMR−32、SK−N−FI及びOVCAR細胞を効果的に死滅させた。同様な効果が293細胞でも観察された。本発明者らは、以前、293細胞においてMTH−68H/VBの高い毒性をウイルスの複製により説明した。したがって、これらのデータは、BC−1、HT−3、DAOY、IMR−32、SK−N−FI及びOVCAR細胞内でMTH−68H/VBが効果的に複製できることを示唆している。C−4I細胞では、細胞毒性は感染多重度が高い場合のみに検出された。これはこの細胞系ではウイルスが複製しないことを示唆する。
【0112】
本発明の重要な目的は、現在入手可能なウイルス調製物に比較して腫瘍溶解性が改良されたNDVウイルスクローンを提供することである。
【0113】
9.化学療法剤及びインビボ放射線療法を含む腫瘍治療方法とともに使用される増強剤としてのMTH−68H/VBの説明
他の癌治療方法は既に使い尽くされた癌進行期患者を単独で治療することができる治療剤として、ウイルス療法の腫瘍溶解性活性を観察すると同時に、化学療法または放射線療法との有効な組み合わせでのMTH−68H/VBの使用効果を、実験的にさらに調査した。本発明者らの実験では、患者治療の実際の経過を正確に描写することを試み、脳腫瘍を有する患者などの場合、具体的には神経膠腫をモデルとして使用して、実際の投与についての目安を得た。外科治療後の現在の標準的治療方法では、まず放射線療法で治療した後、適切な化学療法、すなわちBCNUまたはテモゾロミドが投与される。
【0114】
本発明の1つの目的は、化学療法、放射線療法、外科治療などの他の治療方法と組み合わせて治療上有効なNDVウイルスクローンを提供することである。
【0115】
9.1.MTH−68H/VBのみまたは照射との組み合わせによるインビボ応用
検討の目的はMTH−68H/VB単独での、または他の治療方法との組み合わせによるインビボでの抗腫瘍効果を検討することである。MTH−68H/VB用量及び投与スケジュールの影響も調査した。
【0116】
ウイルス原料を1mLのPBSに溶解した。原料を200μLずつのアリコートに分け、−70℃で保存した。研究上、アリコートの一部について凍結融解を繰り返した。
【0117】
GI261:樹立されたマウス神経膠腫細胞系(NCI、USA)を使用した。細胞を10%胎児牛血清及び抗体を含有するDME培地に保持した。
【0118】
GI261細胞を採取し、PBSで一回洗浄後、少量のPBSに懸濁した(1−2×10個/mL)。1−2×10個のGI261細胞を最終容量200μLのPBSにてC57BI/6マウスの右肢に移植して、皮下腫瘍を樹立した。皮下腫瘍の直径を3〜4日毎にキャリパーで測定し、腫瘍体積を長さ×幅×高さ×π/6として算出した。マウスが瀕死の状態になったら、または腫瘍誘導の100日後に屠殺し、全てのマウスを注意深く剖検した。各処理群で5匹のマウスを使用した。
【0119】
第1のプロトコルでは、腫瘍を2×10個のGI261細胞を皮下注射することにより誘発した。1週間後に腫瘍は明らかに触知可能(腫瘍径:約3−4mm)であり、最終容量50μLのMTH−68H/VBを腫瘍内注射する腫瘍治療を開始した。腫瘍内分布を確実にするために、いくつかの箇所から注射針を刺して各回の投与を行った。コントロールとして、何も投与しないマウスとPBSのみを腫瘍内注射したマウスを使用した。
治療プロトコルI
グループ1:非治療コントロール
グループ2:PBSを毎日注射して治療
グループ3:PBSを週1回注射して治療
グループ4:1×10個のMTH−68H/VBを毎日注射して治療
グループ5:1×10個のMTH−68H/VBを毎日注射して治療
グループ6:1×10個のMTH−68H/VBを週1回注射して治療
グループ7:1×10個のMTH−68H/VBを週1回注射して治療
治療は2週間行った。
【0120】
第2のプロトコルでは、腫瘍を1×10個のGI261細胞を皮下注射することにより誘発した。2週間後に腫瘍は明らかに触知可能(腫瘍径:約1−2mm)であり、最終容量50μLのMTH−68を上述のように腫瘍内注射する腫瘍治療を開始した。
治療プロトコルII
グループ1:非治療コントロール
グループ2:PBSを毎日注射して治療
グループ3:PBSを週2回注射して治療
グループ4:1×10個のMTH−68H/VBを毎日注射して治療
グループ5:1×10個のMTH−68H/VBを週2回注射して治療
グループ6:グループ2と同様であるが、最初のPBS治療の前にマウスの担癌肢に4GyのX線照射を行った。
グループ7:グループ4と同様であるが、最初のMTH−68H/VB治療の前にマウスの担癌肢に4GyのX線照射を行った
治療は2週間行った。
【0121】
腫瘍照射
麻酔したマウスの担癌右肢を4GyのX線で照射した(THX−250治療用X線源、Medicor、ブダペスト、ハンガリー、線量率:1.003Gy/分)。鉛管で他の身体部分を遮蔽し、照射から保護した。
【0122】
結果
第1の実験では、やや大きな腫瘍が2つの異なる用量のMTH−68H/VB(1×10及び1×10ウイルス粒子/注射)を週1回または毎日腫瘍内注射することにより治療された(それぞれ図23及び24)。
【0123】
腫瘍内PBS注射による偽の治療では、腫瘍の成長をわずかに遅らせた。しかし、MTH−68H/VBの腫瘍内注射は明らかに優れた腫瘍成長遅延効果を示した。また、毎日のウイルス療法は、週1回のウイルス注射よりもはるかに効果的であることが明らかであり、高ウイルス量は低用量よりも優れていた。
【0124】
治療時の腫瘍が小さい場合には、通常抗腫瘍プロトコルははるかに効果的である。そのような可能性についてのモデルが第2の実験である。腫瘍をより少ないGI261腫瘍細胞を移植して誘発した。加えて、第2のプロトコルでは、大用量のMTH−68H/VB(1×10個)のみを適用し、週1回の治療を週2回の腫瘍内ウイルス注射に置き換えた。この場合も、MTH−68H/VBの腫瘍内注射は、偽の治療コントロールに比較して腫瘍成長を遅らせ、毎日の治療は週2回のウイルス注射よりも優れていた(図25)。
【0125】
非常に興味深いことに、腫瘍内または腫瘍の周囲へのMTH−68H/VB注射は、数種の動物において腫瘍の成長を抑制した(図25)。ここで、最初の腫瘍成長曲線は各治療グループの5個の腫瘍の平均体積である。腫瘍体積の突然の降下は、大きな腫瘍を有する瀕死の1または2匹のマウスを倫理にかなった理由で麻酔下に屠殺したことを意味する。腫瘍成長曲線が基準値近くに戻っているのは、MTH−68H/VB治療によりマウスの腫瘍が治癒したことを意味する(図25)。MTH68/H治療を繰り返すことにより小さな腫瘍が完全に消失することが、担癌マウスの生存を示している図26によりさらに明らかである。
【0126】
結論
MTH−68H/VB治療と局部腫瘍照射の組み合わせ効果の分析では、照射のみでは少数の動物の腫瘍成長のみを排除したと結論した。興味深いことに、MTH−68H/VB腫瘍内注射と局部腫瘍照射の組み合わせは全ての腫瘍の成長を排除した(図25及び26)。
【0127】
高用量のMTH−68H/VB腫瘍内注射は少なくとも大きな腫瘍の進行を遅らせ、小さな腫瘍はMTH−68H/VBにより完全に消失することがあると結論付けた。腫瘍内MTH−68H/VB治療は、局部腫瘍照射と組み合わせが非常に効果的であるかもしれない。最も確からしい説明は、MTH−68H/VBの直接的細胞毒性効果である。この特定の細胞系におけるMTH−68H/VBと放射線療法の併用の劇的効果は、(本明細書中で前述したように)試験した他の細胞系に比較すると、MTH−68H/VBに対するこの特定の細胞系の相対的な非感受性に関わりなく認められ、ウイルス療法と放射線療法の正の相乗効果を証明している。
【0128】
9.2.テモゾロミド化学療法及び放射線療法との組み合わせによる、MTH68−H/VB治療の抗腫瘍効果
神経膠腫は、通常外科的に治療され、その後放射線照射と化学療法を行うことが多い。使用される化学療法剤の中で、BCNU(ビス−クロロニトロソウレア、カルムスチン)に取って代わるテモゾロミド(テモダール)の投与は治療の標準的方法になりつつある。本研究の目的は、テモゾロミド化学療法などの化学療法や放射線療法にMTH−68H/VBウイルス療法を組み合わせた場合の抗腫瘍効果の検討であった。
【0129】
9.2.1.腫瘍モデル
インビトロで成長するGI261細胞を採取し、PBSで2回洗浄後、少量のPBSに懸濁した(1−2×10個/mL)。1−2×10個のGI261細胞を最終容量100μLのPBSにてC57BI/6雌マウスの右肢に移植して、皮下腫瘍を樹立した。GI261マウス神経膠腫細胞系を上述のようにダルベッコ変法イーグル最小必須培地(DME)中で培養した(T.Szatmari,K.Lumniczky,S.Desaknai,S.Trajcevski,EJ.Hidvegi,H.Hamada,G.Safrany.神経膠芽腫治療のためのマウス神経膠腫261腫瘍モデルの詳細な特徴付け,Cancer Science,97,546−553,2006)。
【0130】
腫瘍の成長を追跡するために、皮下腫瘍の直径を3〜4日毎にキャリパーで測定し、腫瘍体積を長さ×幅×高さ×π/6として算出した。マウスが瀕死の状態になった場合には屠殺した。全てのマウスを注意深く剖検した。
【0131】
動物試験は、動物実験に関する国家機関の許可のもとに、ハンガリーの規制に従って行った。各処理群で5匹のマウスを使用した。
【0132】
9.2.2.MTH−68H/VB、局所的腫瘍照射及びテモダールの併用による皮下腫瘍の治療
腫瘍の治療は、腫瘍細胞の移植後7日目に開始した。下記の方法を様々な組み合わせで適用した。
1.局所腫瘍にMTH−68H/VB(最終容量50μLで1×10ウイルス粒子/注射)の注射を毎日2週間(計10回注射、5回注射/週)。併用プロトコルでは、放射線照射及び/またはテモダール(100mgテモゾロミド/カプセル、シェーリング社、Kenilworth、NJ 07033)治療後直ちにMTH−68H/VB注射を行った。カプセルは滅菌ブレードで開け、中身を2.5mLのジメチルスルホキシドに音波処理により懸濁させた。音波処理後、均質な懸濁液の最終容量をPBSで20mLに調整し、最終濃度が5mg/mLのテモダールを得た。この溶液を4℃で3〜5日間保存した。
2.腹腔(ip)テモダール注射(100mgテモダール/体重1kg)連続3日間。
3.放射線照射療法を連続3日間行った。麻酔下のマウスの担癌右肢を2GyのX線で照射した(THX−250治療用X線源、Medicor、ブダペスト、ハンガリー、線量率:1.003Gy/分)。放射線照射をテモダール治療と併用した場合には、照射は化学療法の1時間後に行った。
【0133】
2つの異なる治療スケジュールを適用した。第1のプロトコルでは、腫瘍を1×10個のGI261細胞を皮下注射することにより誘発した。1週間後に腫瘍は触知可能(腫瘍径:約1−2mm)であった。第2のプロトコルでは、腫瘍を2×10個のGI261細胞を皮下注射することにより誘発した。1週間後に腫瘍は明らかに触知可能(腫瘍径:約3−4mm)であった。
スケジュールI治療群(マウス5匹/群)
グループ1:非治療コントロール
グループ2:偽(PBS)治療コントロール
グループ3:MTH−68H/VB治療(1×10個のMTH−68H/VBを10日間注射)
グループ4:局所腫瘍を3×2Gy照射
グループ5:MTH−68H/VB(10日間)+照射(3×2Gy)
グループ6:腹腔内テモダール治療(3×)
グループ7:MTH−68H/VB(10日間)+テモダール(3×)
グループ8:MTH−68H/VB(10日間)+照射(3×2Gy)+テモダール(3×)
スケジュールII治療群(マウス5匹/群)
グループ1をMTH−68H/VBを10回腹腔内注射とした以外は、プロトコルIと同じである。
【0134】
結果
第1の実験では、小さな腫瘍を治療した。PBSの腫瘍内注射による偽の治療では、非治療担癌マウスと同様な腫瘍成長が見られた(図25)。
【0135】
MTH−68H/VBの腫瘍内注射は、明らかに腫瘍の進行を遅らせた。テモダールの単剤治療及び局所腫瘍放射線照射後にわずかに抗腫瘍効果が強くなった。テモダールまたは放射線照射とのMTH−68H/VBの併用は、単剤プロトコルよりも優れていた。テモダールと腫瘍照射との併用後に非常に強い抗腫瘍効果が観察され、これはMTH−68H/VBの腫瘍内注射によりさらに促進された(図27)。
【0136】
第2の実験では、より大きな腫瘍を上述の抗腫瘍併用療法により治療した。MTH−68H/VBの抗腫瘍効果を説明するには2つの可能性がある。一つは、ウイルスの直接的な細胞毒性効果である。ウイルスが抗腫瘍免疫攻撃を誘導することも可能である。第2の選択肢を試験するために、担癌マウスを腹腔内MTH68/H/VB注射により治療した。第1の実験の結果に反して、腫瘍内MTH68/H/VB治療は腫瘍の進行を止めなかった(図28)。
【0137】
テモダール治療のみでも中程度の腫瘍の成長を阻止したが、これは腫瘍内MTH68/H/VB注射との併用でさらに改善された。放射線照射単独でも腫瘍の成長を抑制したが、放射線照射療法と併用するMTH68/H/VBウイルスの適用は特に、照射のみよりも明らかに優れていた。この併用は、腫瘍放射線照射とテモダール治療との併用よりも優れていた。3つの作用因子の全てを適用した場合に、腫瘍成長が最も強く抑制された(図28)。
【0138】
結論
腫瘍体積が小さい場合には、MTH−68H/VB注射液の腫瘍内注射により腫瘍の進行が遅くなった。
【0139】
本発明者らのデータによれば、MTH−68H/VB処理は、局所腫瘍放射性照射と組み合わせることにより効果的となる。MTH68/H/VBと放射線照射療法の組み合わせによる抗腫瘍効果は、テモダールと腫瘍放射線照射の組み合わせによる効果と類似している。放射線照射療法と組み合わせてMTH−68H/VBを使用することの大きな利点は、化学療法の効果は短及び長期毒性副作用が重篤であるのに対し、ウイルス療法としてのMTH68/H/VBは、強力なMTH−68/H/VB株で効果を得るために必要と思われる用量の最低量で長期間にわたって投与しても、非毒性であることである。
【0140】
MTH−68HVB治療はまたテモダールの腫瘍成長阻害効果を増強し、標準的な癌治療における非常に有用な付加物となる。
【0141】
3つの作用因子、MTH−68H/VBウイルス療法、化学療法、放射線照射の全てを間隔をあけることなく組み合わせて適用した場合に、最も劇的な治療効果が得られる。これらの所見は、全ての癌種において最も致死率の高い、神経膠腫、特に神経膠芽腫の発生率及び致死率が増加するに従って特に重要となる。
【0142】
9.3.MTH−68H/VB、局所腫瘍放射線照射及びBCNUの併用による皮下腫瘍の治療
本研究では、BCNUの抗腫瘍効果に対する、MTH−68H/VB治療及び/または放射線照射の効果について検討した。BCNU(有効成分:カルムスチン、一般名:BCNU、BiCNU、カルムスチン、分類:アルキル化剤、ニトロソウレア)。BCNUは長年にわたって一次脳腫瘍の単剤化学療法剤として使用され、多形膠芽腫に対する標準的な化学療法において30年以上にわたって重要な役割を担ってきた。
【0143】
腫瘍治療は、腫瘍細胞移植後7日目に開始した。下記の方法を様々な組み合わせで適用した。
1.局所腫瘍にMTH−68H/VB(最終容量50μLで1×10ウイルス粒子/注射)の注射を毎日2週間(計10回注射、5回注射/週)。併用プロトコルでは、放射線照射及び/またはBCNU治療後直ちにMTH−68H/VB注射を行った。
2.腹腔内(ip)BCNU治療。
3.放射線照射療法を連続3日間行った。麻酔下のマウスの担癌右肢を2GyのX線で照射した。腫瘍放射線照射をBCNU治療と併用した場合には、照射は化学療法の1時間後に行った。
【0144】
本プロトコルでは、腫瘍を2×10個のGI261細胞を皮下注射することにより誘発した。1週間後に腫瘍は明らかに触知可能(腫瘍径:約3−4mm)であった。
スケジュールI治療群(マウス5匹/群)
グループ1:非治療コントロール
グループ2:偽(PBS)治療コントロール
グループ3:MTH−68H/VB治療(1×10個のMTH−68H/VBを10日間注射)
グループ4:局所腫瘍を3×2Gy照射
グループ5:MTH−68H/VB(10日間)+照射(3×2Gy)
グループ6:腹腔内BCNU治療
グループ7:MTH−68H/VB(10日間)+BCNU
グループ8:MTH−68H/VB(10日間)+照射(3×2Gy)+BCNU
【0145】
BCNU治療のみでは中程度の腫瘍の成長を阻止したが、これは腫瘍内MTH68/H/VB注射との併用でさらに改善された。放射線照射単独では腫瘍の成長をある程度抑制した。特に、放射線照射療法と併用するMTH−68H/VBウイルスの適用は、明らかに照射のみよりも優れていた。この併用は、腫瘍放射線照射とテモダール治療との併用よりも優れていた。3つの作用因子の全てを適用した場合に、腫瘍成長が最も強く抑制された(図29及び30)。
【0146】
興味深いことに、腫瘍内MTH−68H/VB注射は、数種の動物において腫瘍の成長を抑制した(図30)。ここで、最初の腫瘍成長曲線は各治療グループの5個の腫瘍の平均体積である。腫瘍体積の突然の降下は、大きな腫瘍を有する瀕死の1または2匹のマウスを倫理にかなった理由で麻酔下に屠殺したことを意味する。図29において、一部の線が50日目前に途切れているのは、そのグループの全てのマウスが死亡したこと意味する。腫瘍成長曲線が基準値近くに戻っているのは、治療により腫瘍が治癒したことを意味し(図30)、担癌マウスの生存を示している。
【0147】
結論
本発明者らのデータによれば、MTH−68H/VB処理は、局所腫瘍放射性照射及び化学療法と組み合わせることにより効果的となる。放射線照射療法と組み合わせてMTH−68H/VBを使用することの大きな利点は、ウイルス療法としてのMTH68/H/VBは、長期間にわたって投与されても、非毒性であることである。
【0148】
MTH−68HVB治療はまたBCNU治療の腫瘍成長阻害効果を増強する。
【0149】
3つの作用因子、MTH−68H/VBウイルス療法、化学療法、放射線照射の全てを間隔をあけることなく組み合わせて適用した場合に、最も劇的な治療効果が得られる。これらの所見は、全ての癌種において最も致死率の高い、神経膠腫、特に神経膠芽腫の発生率及び致死率が増加するに従って特に重要となる。
【0150】
本出願の第9節に記載の実験データは本発明に記載のNDVクローンの例であることを理解されるべきであり、使用されている特定のクローンに限定されることなく、例としてこれらクローンの特定の性質を説明するためのものである。
【0151】
10.薬物治療のためのMTH−68H/VBの使用
本発明に記載のNDVクローンを腫瘍性疾患の治療に使用してもよい。治療は、以下のように定義される。
1.腫瘍の退縮。退縮は、理学的検査または公知の造影法により客観的に測定することができる、占拠性病変を含む腫瘍の大きさの減少だけでなく、その他、限定的ではない例として、白血病などの血液疾患における悪性細胞の減少や、転移性疾患の兆候の減少、と定義することができる。
2.MTH−68/HVBウイルスクローンと他の癌治療法との同時適用。他の癌治療法として、それぞれの抗腫瘍効果を相乗的に増強するために、化学療法や放射線照射が挙げられるが、これらに限定されない。
3.MTH−68/H−VBウイルスクローンと他の負の副作用を減らすための癌関連方法との同時適用。副作用としては、吐き気、嘔吐、脱毛、倦怠感、食欲不振、放射線壊死などが挙げられるが、これらに限定されない。
4.癌による痛みの軽減。痛みとして、特に転移性疾患または占拠性病変による痛みが挙げられるが、これらに限定されない。痛みの軽減により、コデインやモルフィネなどの鎮痛薬の必要量を下げることができる。
5.従来の治療方法を全て受けた末期癌患者の治療。ウイルス療法により、腫瘍の退縮が二次的に期待でき、それによる延命が期待できる場合がある。
6.腫瘍退縮の直接的証拠が得られない場合においても、癌関連症状を軽減することにより癌患者または末期癌患者の生活の質を改良する。癌関連症状は、例えば、倦怠感、痛み、食欲不振(極端な場合、悪液質として現れる)、気力減退、幸福感の減退、性欲減退、と定義してもよい。
【0152】
ここで説明したクローンの薬剤的に許容できる製剤を使用して成功裏に治療可能であると思われる癌種の非限定的な例として、子宮頸部癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌、ウィルムス腫瘍、前立腺癌、肺癌(気管支癌を含む)、リンパ腫、白血病、中枢神経腫瘍(髄膜腫、髄芽腫、神経膠芽腫、星状細胞種、神経芽細胞腫を含む)、膵癌、皮膚癌(黒色腫を含む)、大腸癌、骨癌(一次及び転移性病巣)、乳癌、胃癌、食道癌、甲状腺癌、肉腫、中皮腫、頭頸部癌(口咽頭、鼻咽頭、副甲状腺を含む)、血液系腫瘍、外陰部、膣及び子宮内膜癌、睾丸癌、肛門直腸癌、肝及び肝外(胆管)癌、肉腫(ユーイング肉腫を含む)、眼癌(網膜芽細胞腫を含む)、胸腺癌、尿道癌、カルチノイド腫瘍及び副腎皮質癌を挙げることができる。さらに、これらの転移性病巣、腫瘍随伴症状や非限定的な例として、上記の腫瘍性疾患の進行期の結果である衰弱性期を挙げることができる。
【0153】
本発明の有利な実施例では、強力な腫瘍退縮性のウイルスクローンを治療的に投与し、癌を治療する。
【0154】
以下に記載の製造及び精製段階は、汚染物質を含まない、純粋な、非アレルギー性の、標準化された、均質で、安定な、温度耐性の高い、携帯可能で、実用的な、使いやすい、ヒトの疾病を治療するためのウイルス療法薬品を保証することができる。ヒト疾患とは、特に癌及びそれに伴う又は結果として起こる症状であり、単独でまたは他の癌治療法に付加して使用してよい。その投与も様々な経路に適応でき、例えば、それに限定されないが、非経口投与を挙げることができ、接種に使用した卵由来の卵タンパク質などのアレルギー性物などの汚染物質を防止または除去する。製造、精製及び凍結乾燥のための以下の方法を成功裏に適用した。
I.精製純系ウイルスクローンを生成する(例えば、複数回のプラーク精製)。
II.該純系クローンを特定の病原体を含まない(SPF)ニワトリの卵へ播種する。
III.該SPF卵を培養する。
IV.該SPF卵を冷却する。
V.該SPF卵から尿膜液を採取する。
VI.必要に応じて濾過及び/または遠心分離により、該尿膜液から破砕物を除去する。
VII.該尿膜液を超遠心分離する。
VIII.製剤して各容器に詰める。
IX.完成した産物を凍結真空乾燥及び凍結乾燥を行う。
X.品質管理試験、クローンの中和及び細胞系、動物モデル、PCRの使用を含む方法により可能である。
【0155】
当業者により、ウイルス由来の卵の製造及び精製の他の方法が可能である。(さらに、ウイルスの製造と精製の詳細は、ワクチンマニュアル、開発途上国での使用のための家畜ワクチンの製造と品質コントロール、FAO Animal Production and Health Series,1997;ニューカッスル病ワクチン、その製造と使用、FAO Animal Health Series No.10,1978;Development in Veterinary Virology:ニューカッスル病,1988,D.J. Alexander編、Kluver Academic Publisherに記載されている)。
【0156】
治療の目的では、ウイルスクローンを、安定な産物とするためにデンプン及び/または糖などの安定化剤と共に標準化された用量で成型し、医薬品として製剤する。産物をさらに凍結乾燥し、相対熱安定性を確保する。各バイアルに特定の容量を含有するように添加して、携帯可能とし、病院内で使用可能なだけでなく外来患者が治療用に使用可能なようにする。これにより、経済的な妥当性が上昇し、長期治療に利用しやすくなる。これは維持療法及び予防の場合に特に意義深い。外来患者の長期治療に対するコンプライアンスが得られ、経済的妥当性を高める。
【0157】
治療の目的では、ウイルスクローンを次のように適用する。その可能性によって、MTH−68/H/VBなどの本発明のNDVクローンは、侵襲的な非経口な経路による投与だけでなく、液滴、スプレー、舌下または噴霧器を使用するエアロゾル製剤などの非侵襲的投与経路を利用して、治療的に有効に適用できる。
【0158】
投与経路に従って、用量は変化することがある。治療には、1日当たりの用量として10〜10ウイルス粒子で既に有効であり、1回に投与しても、数回に分けて投与してもよい。用量は増量してもよく、単回用量の数倍、例えば、各用量当たり10〜10ウイルス粒子の2倍、5倍または10倍でさえも有効であることが証明されるであろう。または1日に何回も投与してもよい。また、治療サイクルの最初は、例えば、最初の何週間かまたは何ヶ月はより大きな負荷量で投与し、その後、用量を低減するか、または1バイアル当たりのウイルス粒子量を変えずに投与回数を減らして実質的に用量を低減しいてもよい。例えば、1日複数回投与を1日1回投与に替える、あるいは毎日投与を1日おきにする。代表的には、本発明によるウイルスは、各バイアル当たり標準化したウイルス粒子量、例えば、1×10、2.5×10、5×10、1×10、2.5×10、5×10、1×10、2.5×10、5×10または1×1010ウイルス粒子を含むバイアルとして提供する。用量プロトコルに基づいて、所定の数のウイルスをある時点において患者に投与する。通常の治療は、ある標準量(例えば、1日当たり1×10または1×10ウイルス粒子)を毎日適用することに基づいている。通常、標準量は毎日1回適用する単一のバイアルにより提供する。しかし、種々の理由により、より多量または少量の適用が必要な個人における環境があり得る。個々の用量は、本技術分野において公知の方法によりそのような個人に適合させることが可能である。高用量が必要な場合には、例えば、1日当たり2または3倍の標準用量を患者に投与してもよい。低用量が求められる場合には、標準量を1日おき、週に1回または月に1回、患者に投与してもよい。ボーラス適用に対するものとして、標準量をある期間にわたって点滴することもできる。当業者であれば、各人の要求(特に、特定の疾病及びその進行)に従って、適用法に基づいて用量プロトコルを適合させることができる。治療用量プロトコルは、まずウイルス療法に対する特定の腫瘍種の感受性に基づいて決定、調整し、さらに患者の臨床反応に従って調整してよい。最初の用量を最終的に漸減してもよい。所望の治療効果が見られた後に、その有効性を維持するスケジュールを毎週、1ヶ月毎または毎月の投与スケジュールで長期間にわたって行う。何年にも及ぶ長期維持療法も可能であり、蓄積毒性にみられるような禁忌は知られていない。
【0159】
その有効性のために、感受性腫瘍種に対して治療効果を得るために必要なMTH−68/H/VBの用量は比較的低く、非侵襲的投与経路による治療を適用する可能性が非常に高く、投与期間が長引く患者のコンプライアンスとともに特に外来患者の治療状況に合わせた治療を可能にする。有益な治療効果を得るために必要な用量が比較的小さいので、患者は、非常に多い用量が適用される他の高用量の集中的NDV静脈内ウイルス癌治療に見られるような脱感作治療スケジュールを行う必要がない。
【0160】
急性処置に対して長期治療では、他の可能なウイルス療法と同様、MTH−68/H/VBを予防的生物学的癌治療剤として使用することができ、発生期または残留癌細胞を破壊し、それによって再発のリスクを低減するとともに転移巣の発達のリスクを低減する。よって最終的に、MTH−68/H/VBウイルス療法及び他の腫瘍治療を、特定のウイルス感受性腫瘍の発生高リスクと同定された患者の予防的治療方法として使用することができる。
【0161】
ウイルス投与は異なる方法及び投与経路で行うことができる。すなわち、吸入、静脈内、動脈内、腸内、腸管外、髄腔内、腹腔内、胸内、胸腔内、口腔内、舌下、頬粘膜、鼻腔内、嚢内、尿道内、直腸内、膣皮下、腫瘍内、腫瘍周囲、局所、筋肉内、気管支内、動脈内、頭蓋内及び/または外用適用または他の方法により投与できる。ウイルスクローンは内視鏡、カテーテル、噴霧器、点滴器、シリンジ、スプレーまたは他の効果的に治療的投与に必要な補助器具を使用して投与してもよい。長期または静脈内治療を維持する必要がある患者では、中心静脈カテーテルによる投与(例えば、Hickman、Neostar、Broviac)も採用でき、ウイルスを直接腫瘍内に投与するためには、動脈カテーテルが必要になる。患者によっては、皮膚パッチにより経皮的に投与することも有利に働く。
【0162】
ウイルスクローンは、短期間にボーラス投与してもよい。または、数時間にわたる注入、または口、頬、舌下あるいは鼻腔内投与では、噴霧器を使って液滴、スプレーあるいはエアロゾルとして、特に肺または気管支腫瘍の場合に、投与してもよい。直腸内または膣内投与の場合には、坐薬の形態により投与してもよい。
【0163】
本発明の他の態様は、本発明のウイルスを1つ以上の化学療法剤と組み合わせて使用する組み合わせ治療である。ウイルス療法と化学療法剤との殺細胞相乗効果を採用する増強アジュバント剤としても使用することができる。化学療法剤としては、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗癌性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、有糸分裂阻害剤、標的治療剤及び分化誘導剤を挙げることができる。化学療法剤としては、三酸化ヒ素、アドリアマイシン、BCNU、ベキサロテン、ブレオマイシン、カルボプラチン、シスプラチン、デカルバジン、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、タキソール、テモゾロミド、ビンブラスチン及びビンクリスチンを挙げることができるが、これらに限定されない。他の実施形態では、アザシチジン、アザチオプリン、カペシタビン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イマチニブ、メクロレタミン、メルカプトプリン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ソラフェニブ、テニポシド、チオグアニン、トレチノイン、バルルビシン、ビンデシン、ビノレルビン、イミタニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、スニチニブ及びボルテゾミブが挙げられる。
【0164】
そのような投与方法では、ウイルスは、同じ投薬計画内で、同日内で20分から24時間の間のいつでも化学療法剤と同時に投与してもよく、または化学療法と異なる時点で投与してもよく、例えば、ウイルス療法期間に先立ってまたは続いて行われる化学療法のサイクル(日間または週間で測定)の始めまたは完了後に、または化学療法剤の投与を中断して、断続的に投与してもよい。本発明の他の態様では、ウイルスを上記の投与経路のいずれか、すなわち、経鼻的に(スプレーまたは液滴)、舌下または静脈内に、化学療法剤と一緒に同時に投与してもよく、または標的部位(例えば、腫瘍内)に投与してもよい。
【0165】
MTH−68/H/VBはまた、大きな手術不可能または放射線照射不可能な腫瘍に対処する場合に、補助療法として検討することもできる。化学療法を腫瘍サイズの縮小目的に使用して、外科的な切除を可能にするか、または放射線照射療法の限局性を向上させることがある。MTH−68/H/VBは、転移病巣を縮小または除去することが可能であり、大きな一次病巣を有する患者に外科的治療の選択肢を与え、手術不可能との判断に対して、手術可能区分に該患者を入れることができる。したがって、MTH−68/H/VB治療の使用を、治癒の可能性のある外科的処置の補助的治療として考慮してもよい。
【0166】
本発明の他の実施形態は、放射線療法との組み合わせにおけるウイルスの適用である。そのような場合、腫瘍を放射線照射する(α、βまたはγ線照射、X線照射、プロトン照射などの粒子照射を、例えば、これらに限定されないが、外部ビーム照射、腔内照射治療、組織内照射、小線源治療などにより行う)。
【0167】
そのような実施形態では、放射線照射によりまず腫瘍細胞を感作し、次いでウイルスを投与してもよい。放射線照射療法の1周期を行って、その後MTH−68/H/VB治療を行ってもよい。しかし、ある環境下では、まずウイルスを投与し、その後腫瘍を放射線照射してもよい。あるいは、両治療法を平行して同時に行う場合、相乗効果が認められる場合もある。化学療法と放射線療法を同時に行う治療計画にMTH−68/H/VBを加えることは、例えば、進行頭頸部癌で治療周期と同時または交互に行うことは、有益である。化学療法を放射線照射と同時に行い、放射線照射療法の効果を上げることが多い。化学療法はいろいろな方法で行われる。例えば、低用量を毎日、中程度の用量を週1回または比較的高用量を3〜4週毎に投与してもよい。この増強治療計画を使用する場合には、MTH−68/H/VBは化学療法と同時にまたは化学療法の前または後に投与してもよい。本発明者らの研究により得られたデータにより、これら3つの治療方法の組み合わせが動物実験において著しい正の相乗治療効果が得られ、(部分寛解とは対照的に)治癒の率が高まることが証明された。単回または限定された用量の治療的放射線照射の後に化学療法及びウイルス療法を行っても、腫瘍細胞を著しく感作して、ウイルス療法と併用した化学療法の効果が増強される。
【0168】
NDVの他の系での治療とは対照的に、本発明によるクローンで治療した患者では、痛みの症状が劇的に低減する。これは以前の発表では小さな特徴とされていたが、MTH−68/H/VBでは顕しく重要で、非常に有用である。これは、他の癌治療に勝る改善であり、他のウイルスによる治療でさえも、患者の痛みに直接対処していない。MTH−68/H/VBのこの効果は、特に、痛みと苦痛の程度が非常に高い、骨癌において注目される。典型的な骨癌患者では、その痛みを緩和するために、大量のモルヒネなどの鎮痛剤の投与が必要であるが、鎮痛剤の投与は痛みをある程度まで抑えるが、完全に緩和することはなく、よく知られているように、そのような麻薬は最終的には耐性の問題が起こり、治療効果を得るためには用量を増やす必要がある。またよく知られているように、高用量の麻薬は、癌に伴う鎮痛剤であっても、耐性の上昇を含む副作用を引き起こし、それに続く耐性を引き起こし、致死的なリスクを上昇させるにもかかわらず、治療効果の低下をもたらす。本発明によるMTH−68/H/VBウイルス療法での治療は、癌患者の痛みの知覚を著しく低減する。多くの患者が鎮痛薬の摂取量を著しく低減でき、また患者によっては鎮痛薬の一切の使用を止めることができる。
【0169】
本発明に記載されたようなウイルス療法での治療を受けた患者ではまた、生活の質に反映されるように、臨床的症状の著しい改善がみられた。腫瘍関連症状としては、例えば、これらに限定されないが、激しい食欲不振、エネルギー損失、うつ病、無力症、吐き気、倦怠感が挙げられ、ほとんどの癌患者において癌の臨床経過のある時期に現れる。MTH−68/H/VBウイルス療法を使用する患者の生活の質の改善は、他の従来の方法がもはや適用できない進行癌患者においても認められ、また、治療計画にMTH−68/H/VBウイルス療法を加えることによって、目的の腫瘍退縮が限定されたり、もはや得られなかったり、または期待されていても既に認められなかったりする患者であっても、生活スタイル及び、期待される生存時間の延長として表現される延命に加えて、生活の質の顕著な改善が得られる。このように、本発明に従って、MTH−68/H/VBは、長期間の寛解の期待を超えて、疾患がかなり進行した段階にある患者の治療の候補となることができ、進行性腫瘍性疾患の存在における機能及び生活の質の改善が得られる。
【0170】
本発明のさらに他の態様は、化学療法、例えば、小児血液腫瘍に使用されるようにある種の癌の有効な治療的処置に必要な、特に高用量の化学療法の結果として見られる可能性のある副作用の顕著な軽減である。回避される可能性のある副作用としては、吐き気や嘔吐、激しい倦怠感、腸の疾患、食欲不振や体重変化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0171】
同様なことが放射線照射療法とウイルス療法を組み合わせることによって観察された。すなわち、最も頻繁に起こる倦怠感や食欲不振などの一般的な副作用が低減された。
【0172】
MTH−68/H/VBのこの驚くべき効果は、通常予期されるよりも死亡率及び不快感を大幅に減少させて、毒性の、非常に辛い癌治療を患者が耐えられるようにできる可能性がある。これにより、患者が従来の癌治療法を受けながらでも日常の活動を再開できるとともに、より治療に適合させることができる可能性がある。したがって、これらの癌治療を受けた患者によく見受けられる、無活動及び急性障害による経済的、精神的負担が軽減される。本発明のさらなる態様は、放射線照射された細胞器官の治癒に加えて、MTH−68/H/VBの放射線防護の役割である。したがって、放射線療法の短及び長期副作用を抑制、または治癒を促進する。放射線療法の急性副作用は通常、放射線照射療法中に現れる倦怠感や食欲不振のような上述の症状の本質的に一時的なものであるが、皮膚の変化などのように急性の短期的局所の変化が起こることがあり、また照射臓器により他の急性症状が起こり、その重篤度の範囲も非常に広い。例えば、下痢、失禁、排尿時痛、頻尿、嚥下困難、口腔乾燥、圧痛、潰瘍形成、咳、息切れ、咽頭痛、嗄声があるが、これらに限定されない。これらの症状は関連する臓器の組織の放射線照射の局所的病理学的効果により引き起こされ、例えば、炎症反応、乾燥性及び湿性落屑または初期の壊死を引き起こす。また長期の続発症の症状もあり、一般的ではないが、治療患者の約10%において重篤な長期の衰弱が起こり、上記のような変化が長期に解決されず、放射線照射後、数週間から数ヶ月、場合によっては数年に及ぶ慢性または長期続発症となることがある。放射線照射の長期効果は、照射臓器の損傷をもたらすことがあり、致死的転帰を有する不可逆的工程を起こす可能性がある。例えば、脳または脊髄の腫瘍などのCNS腫瘍治療では、脳組織の壊死や重篤な脊髄の損傷を起こす。長期続発症の他の例としては、口咽頭間質放射線治療に見られる軟部組織壊死、下顎の壊死変化に見られる骨放射線壊死、皮膚障害に見られる皮下線維症、委縮症、毛細血管拡張、慢性壊死、非吸収性潰瘍形成などの長期副作用が挙げられる。さらに例えば、頭頸部癌の放射線照射療法に見られるような、嚥下困難を起こす狭窄形成、咀嚼や嚥下を非常に困難にする、唾液の形成を著しく低減する口腔内乾燥症、虫歯の形成、また、照射された筋組織には局所脊髄症が起こることがあり、喉頭への放射線照射による軟骨の損傷としては軟骨壊死がみられ、食道の潰瘍形成や狭窄により嚥下障害や嚥下困難が起こる。肺の放射線照射では線維症及び/または肺炎が起こることがあり、大腸の放射線照射療法の長期続発症には、慢性の下痢及び不快感を起こす腸または直腸の慢性的炎症があり、外科的処置が必要となる閉塞狭窄を起こす。
【0173】
放射線照射療法による上述の短及び長期副作用の例は、安全であると思われる最大用量に大きく影響する。それにより、放射線照射の処方として可能な治癒的または治療的放射線照射量が実質上制限される。したがって、医学的に治療の危険度と受益度との割合を考慮して、放射線照射の治療用量が厳しく制限される。
【0174】
放射線照射療法との同時投与、先行してまたは後にMTH−68/H/VBウイルス療法を行うと、前述のようにそれぞれの治療の殺腫瘍細胞能の相乗効果を引き起こすだけでなく、MTH−68/H/VBウイルス療法は、健常細胞への細胞保護効果を有するため、放射線療法をより安全にし、かつその腫瘍細胞選択性を高める。この範囲を超えて、MTH−68/H/VBはその細胞保護機構を介して、MTH−68/H/VBを放射線照射の影響を受けた粘膜に局所的に口腔内に投与することにより、頭頸部癌の放射線照射治療後に見られる壊死潰瘍性粘膜組織の長期続発症の治癒が観察され、放射線照射を受けた健常な非腫瘍細胞の治癒を実際に促進すると思われる。
【0175】
本発明はまた、例えば、治療上必要となることも多い強度の放射線治療による放射線壊死にも使用され得る。放射線壊死は新しい腫瘍の生成と間違われることも多く、実際、放射線壊死の進行中の拡張過程は致命的な結果を引き起こす占拠性病変に似ているので、区別することは難しい。そのような場合に、MTH−68/H/VBを投与して、致死的な結果を避ける。
【実施例】
【0176】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明をいかなる意味においても限定するものではない。
【実施例1】
【0177】
クローンの製造
MTH68H/VBマスターシードの調製
【0178】
MTH68−H/VBマスターシードは、親株のプラーク精製により選択した単一の独特なプラークから抽出した。
【0179】
マスターシードを、SPFフロックから得た胚形成したニワトリの卵中で繁殖させる。厳密な試験により、マスターシードがニューカッスル病ウイルス以外の好気性または嫌気性細菌、マイコプラズマ、菌類、ウイルスなどで汚染されていないことを明らかにした。尿膜液を非スキムミルクベースのウイルス保護溶液で希釈し、ガラスアンプル内に凍結乾燥した。
【0180】
MTH68H/VB試験処方の作製
・−70℃の冷凍庫から再構成したマスターシードの一定量を取り出し、融解する。融解したウイルス懸濁液をさらに希釈し、各卵が1.0mL当たり103.0EID50、好ましくは105.0EID50の力価の、少なくとも0.1mLの希釈ウイルス懸濁液で接種されたことを確認する(EID50は本技術分野で公知の方法に従って決定する)。
・9〜11日齢、好ましくは10日齢のSPFニワトリ胚の尿膜腔に0.1mLの希釈ウイルスシードを常法に従って接種する。
・接種の24時間後に卵に光を当てて調べ、死んだ胚を廃棄する。
・接種の4日後に、胚をインキュベーターから取り出し、少なくとも2時間、好ましくは一晩冷やす。
・尿膜液を卵から滅菌容器、好ましくは遠心分離可能な滅菌容器に回収する。
・滅菌性を検査した後、ウイルス懸濁液を集め、遠心分離により予備精製する。
・超遠心分離により濃縮とさらに精製を行う。
・滅菌容器に一定量を調製することにより、1回の凍結乾燥に適切な最大量を調製できる。
・次の工程まで−70℃で保存する。
・次の工程は、好ましくは1.0mL当たり109.2EID50の力価及び保護剤を有する精製ウイルス懸濁液からなる凍結乾燥バルクの作製である。
・保護剤と混合したウイルスを凍結乾燥する。
【0181】
NDVウイルスの医薬品を大量生産するために、バルク製品を凍結乾燥してもよく、得られた塊を各容器に分割して詰めてもよい。
【実施例2】
【0182】
クローンの製剤化
【0183】
MTH68−H/VB含有ウイルス懸濁液を滅菌ガラスバイアルに凍結乾燥し、ゴム栓で密閉する。凍結乾燥ウイルスを含有する塊が無菌食塩水に解ける前に、ゴム栓は滅菌する。
【0184】
1mLの無菌食塩水をバイアルに導入し、使用準備完了製品の最終剤型を得る。
【実施例3】
【0185】
患者の治療
【0186】
症例A:痛み、延命、生活の質、副作用
3年前に第IV期乳癌と診断された年配の女性患者は、その後の数年にわたって局部放射線療法とともに数サイクルの複数の化学療法を受け、脊椎、大腿骨、骨盤に見られた転移病巣を含む広範囲に広がった有痛性の骨への転移による痛みに対する経口鎮痛剤が処方されていた。突然、臨床症状が悪化し、食欲不振、体重減少、衰弱により寝たきりとなり、起き上がれず、咳がおさまらず、重篤な呼吸困難により継続的酸素補給が必要となった。患者は転移性肺障害と診断され、いずれの腫瘍学的治療ももはや効かないと判断された。患者はホスピスケアを勧められ、延命の僅かな期待をもって酸素とモルヒネを処方した。患者にMTH−68/H/VB治療を開始した。毎日6回まで、1バイアルに10ウイルス粒子を含有するバイアルを1回に1バイアル鼻腔用スプレーを使用して点鼻した。ウイルス療法開始1週間で、咳が少なくなり、最終的には完全に寛解した。患者は、起き上がって、1回の投与分10ウイルス粒子の投与を吸入器を使って断続的に受けることができるまでに一度は回復した。最終的には、介護者の助けを借りて歩行できるまでになり、酸素補給も必要なくなった。食欲が回復し、喜んで食事をし、体重も増えた。転移による骨の痛みに対する鎮痛剤の処方量も少なくなった。1ヶ月後、患者はX線を再度開始し、肺の転移巣が消失していることが示された。2ヶ月後、担当医は、追加の化学療法を再開することを検討し、低用量の経口化学療法治療を開始した。上述のウイルス療法は10ウイルス粒子の投与を1日2〜3回に減らして点鼻または噴霧器を使用して継続した。患者は食欲もよく、吐き気や倦怠感もなかった。歩行も可能で、理学療法も再開し、生活の質も向上した。転移骨病巣による痛みや不快感を感じることもなくなり、全ての鎮痛剤の投与を取りやめた。骨のスキャンでは骨の転移病巣は消えていなかったが、進行を示す兆候は認められなかった。患者は1年後、脳卒中で突然亡くなった。患者はクマジン(進行転移条件により凝固亢進のリスクが高まる)を4年前に第IV期と最初に診断された時から継続して服用していたが、最近その予防的用量の投与を止めていた。
【0187】
症例B:化学療法、副作用、延命、生活の質
患者は膀胱癌と診断された中年男性である。病理により、筋肉壁を侵している高悪性度移行上皮癌であることが確認され、重篤なリンパ節転移も認められた。患者は第IV期と診断された。手術後、患者は組み合わせ化学療法の積極的な治療方式を受けたが、危険なほどに低WBCを含む重篤な副作用のため、化学療法の全行程を行うことはできなかった。数ヶ月後、画像診断により、新たに手術不可能な骨盤腔内腫瘤が発見された。患者は余命2年以下と告げられた。患者は化学療法プロトコルによる緩和療法を希望した。化学療法開始後、患者は同時に、1日1回10ウイルス粒子を静脈内投与するMTH−68/H/VB補助ウイルス療法を開始した。患者は直ぐに化学療法による副作法の全てにおいて目覚ましい低減を認め、化学療法治療の間中、セイリングや乗馬を含む以前の活発なライフスタイルを再び行うことができた。患者は、処方された化学療法治療方式を、不快感を最少に抑えながら、完了することができた。その完了後、CTによる追跡調査では、骨盤腔内腫瘤の大きさが小さくなっていることが認められ、1年後にはほとんど転移性疾患の兆候は見られなかった。患者はMTH−68/H/VBウイルス療法を中止した。1年以上の後、患者は再び骨盤腔内腫瘤がCTにより発見され、その時に化学療法のコースと上述と同様のMTH−68/H/VBウイルス療法を補助として再開した。患者は化学療法による副作用を経験することはなかった。化学療法治療の完了後、患者はMTH−68/H/VBウイルス療法を1日当たり107.4ウイルス粒子の舌下投与に切り替えて続け、無症状のままである。
【0188】
症例C:放射線壊死
口腔の扁平上皮癌と診断された中年女性患者である。局所の発症のみで転移巣はないと判断され、第二期と診断された。患者は切除術を受け、化学療法は受けなかったが、手術後に集中的な放射線照射治療を受けた。放射線照射治療後に、味覚異常、潰瘍形成、痛み及び出血があり、粘膜炎の症状により、おしゃべりが影響を受け、飲食、経口剤の投与に影響が出たため、ストローの使用のみとなり、体重減が甚だしかった。患者の症状は6ヶ月以上続き、軽減されなかった。一過性急性症状であることを期待していた症状は、放射線壊死による慢性的な障害であることが明らかになった。患者はまた、抜歯が激しく美観が大きく損なわれた。患者は、1日2回、各108.7MTH−68/H/VBウイルス粒子をうがい薬として局所適用による口腔治療と、1日1回の108.7MTH−68/H/VBウイルス粒子の鼻腔内スプレーによる投与を開始した。毎日の治療の1週間後、患者の症状が緩和し始め、1ヶ月後には、不快感を感じることはなくなり、出血、痛みもなく、経口栄養の摂取が可能になった。粘膜は治癒したが、患者は不可逆的粘膜損傷により、治療後の歯科インプラントはまだ考えられなかったが、痛みや不快感は感じなくなった。
【0189】
症例D:放射線壊死
大きな脳腫瘤を有する12歳男子である。減量手術により腫瘍を広範囲にわたって取り除いた。病理診断は多形神経膠芽腫であった。患者は強力な焦点放射線照射治療単位全部を受けた。患者の容態は安定し、治療を終了した。9ヶ月後、患者は持続性頭痛を訴え、MRIにより腫瘍の再発が認められた。集中的な化学療法を開始したが、治療中に腫瘍がどんどんと大きくなった。患者は臨床的に急速に衰弱し続け、その後の5ヶ月で末梢的な衰弱の増加及び失語症とともに、寝たきりとなった。患者の余命は短いと告げられ、全ての治療を中止したが、大きくなった脳浮腫の姑息的治療としてステロイドの静脈内注射だけを行った。MRIの再調査によって、活動性腫瘍との判断に対して、同様なイメージが放射線壊死においても見られ、その区別が難しいので、イメージは実際には慢性放射線壊死を反映している可能性があると考えられた。頭蓋骨の骨構造の接近している領域での放射線壊死の広がりと空間占有特性のために、脳腫瘍の壊死性炎後の放射線壊死は致死的なことがあるが、患者の臨床症状及び病変の位置のために、生検することができなかった。患者は毎日3回まで107.4MTH−68/H/VBウイルス粒子の静脈内投与を開始した。患者の臨床症状が改善され、「腫瘍」が治療の6ヶ月で小さくなり始め、1年後には完全に消失した。患者は、噴霧器を使って週に1回、用量108.0ウイルス粒子のウイルス療法の維持スケジュールを続けた。GBMに対して、放射線壊死の存在を証明することはできないが、患者の劇的な、急速な改善及び表面上の回復により、癌専門医は最初のGBM診断に疑問を感じ、症状を放射線壊死の反映であると真剣に考えている。
【0190】
症例E:化学療法、副作用
扁桃周囲瘤を有する少年である。生検によりB細胞非ホジキンリンパ腫と診断された。患者に転移病巣はなく、第I−II期と判断された。患者は、4ヶ月の積極的な多剤化学療法治療を受けるとともに、局部的な放射線照射治療を受けた。退院の3週間後に新たな唾液腺腫瘍が現れ、中咽頭瘤が再発した。この時点で医師は患者の家族に長期生存の可能性は低いことを告げた。患者は積極的な多剤静脈内投与による化学療法の複数サイクルを開始し、同時に、毎日1回10ウイルス粒子を噴霧器により吸入するMTH−68/H/VBウイルス療法を化学療法治療とともに1年間にわたって行った。多剤及び積極的な高用量化学療法治療を数回の入院時に行った。注目すべきは、小児病棟の同じ宿命を有する他の子供とは正反対に、通常の吐き気、食欲不振、倦怠感を引き起こすことなく処方された積極的な化学療法剤治療を受けられたことである。患者の複数回の入院を通して、身体的な活発さを維持し、非常に陽気で、食欲もあった。治療は成功し、患者は回復段階のままであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロン非感受性であって、1.2〜2.0のICPIを有するニューカッスル病ウイルスクローン。
【請求項2】
インターフェロン非感受性であって、1.2〜1.5のICPIを有する請求項1に記載のニューカッスル病ウイルスクローン。
【請求項3】
配列番号1のDNAヌクレオチド配列を有する請求項1に記載のニューカッスル病ウイルスクローン。
【請求項4】
欧州細胞カルチャーコレクション(ECACC)に受入番号06112101として2006年11月21日に寄託された、請求項1に記載のニューカッスル病ウイルスクローン。
【請求項5】
腫瘍細胞死を誘導することによる癌の治療用薬剤の製造、または発生期あるいは残留癌細胞を破壊または転移巣の発達のリスクを低減する予防的生物学的癌治療のための、請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンの使用。
【請求項6】
ウイルス療法を化学療法、放射線療法(α、βまたはγ線照射、X線照射、粒子照射など)、免疫治療または外科手術と組み合わせる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
インターフェロン感受性腫瘍性疾患、特に黒色腫、(非ホジキン)リンパ腫、白血病(慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病)、乳癌、膀胱癌、腎細胞癌、頭頸部癌、カルチノイド腫瘍、胆管癌、膵癌、多発性骨髄腫若しくはカポジ肉腫、ならびに多発性硬化症、尖圭コンジローマ、肝炎、ヘルペス、リウマチ性関節炎、ベーチェット病、特発性肺疾患、アフタ性口内炎、重症悪性骨粗しょう症、頸部癌若しくはSARSなどの非腫瘍性インターフェロン感受性自己免疫およびウイルス性状態の治療のための薬剤の製造における、請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンの使用。
【請求項8】
請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、癌患者の痛みを低減する方法。
【請求項9】
化学療法剤の投与の前、同時または投与の後に、請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、化学療法剤による治療を受けた癌患者の化学療法による副作用を低減する方法。
【請求項10】
放射線療法の前、同時または放射線療法の後に、請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、放射線療法を受けた癌患者の放射線壊死を低減する方法。
【請求項11】
放射線療法の前、同時または放射線療法の後に、請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、放射線療法を受けた癌患者の放射線療法による急性または慢性続発症を含む副作用を低減する方法。
【請求項12】
請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンを癌患者に投与することを有する、癌患者の生活の質を向上する方法。
【請求項13】
請求項1〜4の少なくともいずれか一項に記載のニューカッスル病ウイルスクローンを有効成分として生理学的に許容される添加物と共に有する、癌の治療のための医薬組成物。
【請求項14】
I.精製純系ウイルスクローンを生成する(例えば、複数回のプラーク精製)、
II.該純系クローンを特定の病原体を含まない(SPF)ニワトリの卵へ播種する、
III.該SPF卵を培養する、
IV.該SPF卵を冷却する、
V.該SPF卵から尿膜液を採取する、
VI.必要に応じて濾過及び/または遠心分離により、該尿膜液から破砕物を除去する、
VII.該尿膜液を超遠心分離する、
VIII.製剤して各容器に詰める、
IX.完成した産物を凍結真空乾燥及び凍結乾燥を行う、
ステップを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のNDVウイルスクローンの作製方法。
【請求項15】
精製及び凍結乾燥されたニューカッスル病ウイルス。
【請求項16】
腫瘍細胞死を誘導することによる癌治療のための薬剤、または
発生期または残留癌細胞を破壊し、または転移巣の発達のリスクを低減する予防的生物学的癌治療剤の
の製造における、1.4以上のICPIを有するニューカッスル病ウイルスの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公表番号】特表2013−511975(P2013−511975A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540503(P2012−540503)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2010/002227
【国際公開番号】WO2011/064630
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512072924)
【Fターム(参考)】