説明

ニューキノロン剤含有水性組成物

【課題】 本発明の目的は、乾燥後の析出物発生が抑制された、ニューキノロン剤を含有する水性組成物を提供することである。
【解決手段】 (A)ニューキノロン剤と共に、(B)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、並びに(C)アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を組み合わせて、水性組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューキノロン剤を含有する水性組成物に関する。より詳細には、ニューキノロン剤を含有する水性組成物でありながら、乾燥後の析出物の発生が抑制された水性組成物に関する。また本発明は、ニューキノロン剤を含有する水性組成物が乾燥した場合の析出物発生を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューキノロン剤は、広い抗菌スペクトルと強力な抗菌力を併せ持ち、更に安全性をも兼ね備えた極めて優れた合成抗菌剤として、現在、医療分野において内服剤や、眼科用剤、耳科用剤、皮膚外用剤に幅広く使用されている。そしてこれまでに、ニューキノロン剤の光安定性を改善する方法などが検討されている(特許文献1)。
【0003】
ところで一般に、水性組成物は、開口部を備えた容器に充填されており、使用時に該開口部から水性組成物を出すことにより繰り返し使用されている。その際、開口部に付着した水性組成物が乾燥し析出物を発生させることがあり、様々な問題を引き起こすことが知られている。例えば、開口部における析出物の蓄積は、該開口部だけでなくその周辺、さらには蓋やキャップの内側にも付着し、使用者に不快な印象を与えるだけでなく、繰り返し使用される場合には該開口部の開閉を困難にする場合がある。また、とりわけ点眼剤の場合には、開口部である抽出口の口径が非常に小さいことが多く、ほんの僅かな析出物の付着であっても水性組成物の通路が塞がれて正確な液量が滴下されなくなる惧れがある。更に、点眼剤の抽出口に析出固形物が蓄積した場合、点眼する際に析出固形物が一緒に眼に入ってしまうことも懸念される。その他、眼粘膜に適用させる水性組成物の場合、適用後眼外へ漏出する液が乾燥して析出し、まぶたやまつ毛、眼の下などの目の周辺部位に白色固形物が付着したようになることから、外観、美容の観点からも問題である。
【0004】
しかしこれまで、ニューキノロン剤を含有する水性組成物について、乾燥後の析出物発生については報告されていない。そして当然ながら、その乾燥後の析出物発生を抑制する手段についても一切検討されていない。
【0005】
一方、クロルフェニラミン及び/又はその塩は、抗ヒスタミン作用の付与等を目的としてこれまでにも水性組成物に用いられている。また、アミノ酸及び/又はその塩は、栄養供給や抗炎症作用、収斂作用等を目的としてこれまでも水性組成物に使用されている。しかし、これらの成分が、水性組成物からの乾燥後の析出物発生に対して如何なる影響を及ぼすかについては、これまで全く知られていない。
【0006】
そしてこれまで、ニューキノロン剤と、クロルフェニラミン及び/又はその塩と、アミノ酸及び/又はその塩という三種類の成分を同時に含有する水性組成物は知られていない。従って、これら三種類の成分を組み合わせて水性組成物に配合した場合に、該水性組成物に如何なる影響が及ぼされるかについては皆目見当がつかないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−209069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、ニューキノロン剤を含有する水性組成物について種々検討を行っていたところ、ニューキノロン剤を配合した水性組成物が乾燥すると、白残りと呼ばれる白色固形物が析出してしまう問題があることを確認した。更に、本発明者は、ニューキノロン剤を含有する水性組成物に、クロルフェニラミン及び/又はその塩(以下、クロルフェニラミン類ということもある)を組み合わせた場合、或いはアミノ酸及び/又はその塩(以下、アミノ酸類ということもある)を組み合わせた場合には、前述の白色固形物の析出は抑制されないどころか、反って悪化する傾向があるという全く新たな問題を確認した。とりわけ、ニューキノロン剤とアミノ酸類とを組み合わせた場合に、この傾向は顕著である。このような著しい析出物の発生は、見た目に不快な印象を与えるだけでなく、該水性組成物を充填した容器の開口部周辺に析出固形物が付着・蓄積して弊害をもたらすおそれがある。また、水性組成物が点眼剤である場合には、細い抽出口が固形析出物で塞がれてしまうことにより正確な液量が滴下されなくなる惧れがあるのみならず、点眼時に眼内に入ってしまうことも懸念される。更に、使用時に適用部位周辺(例えば、まぶたやまつ毛、眼の下などの部位)で白色析出物を生じさせる惧れもあり、外観・美観の観点からも問題である。
【0009】
そこで、本発明は、ニューキノロン剤を含有する水性組成物でありながら、乾燥後の析出物の発生が抑制された水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン類と、(C)アミノ酸類とを組み合わせて水性組成物を調製することにより、該水性組成物が乾燥した場合に生じる析出物発生を著しく抑制できることを見出した。(A)ニューキノロン剤に(B)クロルフェニラミン類のみを組み合わせた場合、或いは(A)ニューキノロン剤に(C)アミノ酸類のみを組み合わせた場合には、白色固形物の析出量が反って悪化する傾向も認められたことから、これらの成分を組み合わせて配合することにより認められた乾燥後の白色固形物の消失は全く予想外の結果である。
【0011】
すなわち、本発明は下記に掲げる水性組成物を提供する。
項1. (A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、水性組成物。
項2. (A)成分として、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、ナジフロキサシン、エノキサシン、シプロフロキサシン、スパルフロキサシン、フレロキサシン、パズフロキサシン、シタフロキサシン、プルリフロキサシン、ガレノキサシン、トロバフロキサシン及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1に記載の水性組成物。
項3. (C)成分として、イプシロンアミノカプロン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1又は2に記載の水性組成物。
項4. 眼科用である、項1〜3のいずれかに記載の水性組成物。
項5. 点眼剤である、項1〜4のいずれかに記載の水性組成物。
【0012】
また、本発明は下記に掲げる、乾燥後の析出物の発生を抑制する方法をも包含する。
項6. (A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて水性組成物に配合することを特徴とする、該水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニューキノロン剤を含有する水性組成物でありながら、乾燥後の析出物発生が顕著に抑制された水性組成物を提供することができる。従って、本発明により、ニューキノロン剤を含有する水性組成物において懸念される、該水性組成物を充填した容器の開口部周辺における析出物の発生や、適用部位(まぶたやまつ毛、眼の下などの部位等)の周辺に付着し発生する析出物を防ぐことができる。これらの効果は、ニューキノロン剤を含有する水性組成物をより快適且つより安全に使用者が使用することを可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】試験例1において、各試験液(実施例1〜4及び比較例1〜12)の乾燥後の状態を撮影した写真である。
【図2】参考試験例1において、各試験液(比較例13〜16)の乾燥後の状態を撮影した写真である。
【図3】参考試験例1において、各試験液(比較例17〜20)の乾燥後の状態を撮影した写真である。
【図4】参考試験例2において、試験液(比較例21)の乾燥後の状態を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.水性組成物
本発明の水性組成物は、ニューキノロン剤(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0016】
ニューキノロン剤は、ピリドンカルボン酸骨格(オールドキノロン骨格とも呼ばれる)にフッ素原子やピペラジニル基などの種々の置換基が導入された抗菌剤として公知の物質である。ニューキノロン剤は、市販品を用いても良く、また公知の方法により合成してもよい。
【0017】
本発明に用いられるニューキノロン剤としては、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、ナジフロキサシン、エノキサシン、シプロフロキサシン、スパルフロキサシン、フレロキサシン、パズフロキサシン、シタフロキサシン、プルリフロキサシン、ガレノキサシン、トロバフロキサシン及びそれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。乾燥後により一層高い白残り抑制効果を獲得できるという観点から、好ましくは、本発明の水性組成物には、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン及びそれらの塩が用いられる。
【0018】
本発明で使用される(A)成分のうち、塩の形態としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩]等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは、無機酸塩及び/又は有機酸塩が挙げられ、より好ましくは塩酸塩及び/又はトシル酸塩が用いられる。これらの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0019】
また、ニューキノロン剤は、溶媒和物(例えば、水和物)の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0020】
ニューキノロン剤の中でも、乾燥後により一層高い白残り抑制効果を獲得できるという観点から、好ましくは、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン及び/又はそれらの塩が挙げられ、特に好ましくは塩酸ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、及び/又はレボフロキサシン水和物を挙げることができる。
【0021】
本発明の水性組成物において、(A)成分の配合割合は、(A)成分の種類、他の配合成分の種類、水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、水性組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.01〜2.5w/v%、好ましくは0.03〜1.5w/v%、更に好ましくは0.1〜0.8w/v%となる配合割合が例示される。
【0022】
本発明の水性組成物は、上記(A)成分に加えて、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。
【0023】
クロルフェニラミンは、3−(4−クロロフェニル)−N,N−ジメチル−3−ピリジン−2−イル−プロピルアミンとも称される公知の化合物である。
【0024】
クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、(A)成分がとり得る塩と同形態のものが例示される。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩及び/又は無機酸塩、より好ましくは有機酸塩、更に好ましくは多価カルボン酸塩、更により好ましくはマレイン酸塩及び/又はフマル酸塩、特に好ましくはマレイン酸塩が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0025】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、溶媒和物(例えば、水和物)の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0026】
クロルフェニラミン及びその塩の中でも、乾燥後により一層高い白残り抑制効果を発揮できるという観点から、好ましくは、クロルフェニラミン及び/又はその有機酸塩、より好ましくはクロルフェニラミン及び/又はその多価カルボン酸塩、更に好ましくはクロルフェニラミン、そのマレイン酸塩及び/又はそのフマル酸塩、特に好ましくはクロルフェニラミンのマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。
【0027】
本発明の水性組成物において、(B)成分の配合割合は、(B)成分の種類、他の配合成分の種類、水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、水性組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.0005〜0.5w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.005〜0.06w/v%となる配合割合が例示される。
【0028】
また、本発明の水性組成物における、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、乾燥後の白残りをより一層効果的に改善するという観点から、(A)成分の総量100質量部当たり、(B)成分の総量が0.25〜250質量部、好ましくは0.5〜50質量部、更に好ましくは2.5〜30質量部となる範囲が例示される。
【0029】
本発明の水性組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(C)成分と表記することもある)を更に含有する。
【0030】
アミノ酸は、分子内にカルボキシル基とアミノ基とを含有する化合物の総称である。
アミノ酸は、カルボキシル基とアミノ基が結合する炭素原子の位置が遠ざかるにつれて、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸、ε−アミノ酸、ζ−アミノ酸、η−アミノ酸などと称され、本発明にはいずれのアミノ酸も用いることができる。乾燥後により一層高い白残り抑制効果を発揮できるという観点から、好ましくは、本発明の水性組成物には、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸、及び/又はε−アミノ酸が用いられ、特に好ましくはε−アミノ酸が用いられる。
【0031】
より具体的には、本発明の水性組成物に用いられるアミノ酸の例として、アスパラギン酸、イプシロンアミノカプロン酸等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0032】
アミノ酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、(A)成分がとり得る塩と同形態のものが例示される。これらの塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩及び/又は有機塩基との塩、より好ましくは無機塩基との塩、更に好ましくはアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩、特に好ましくはカリウム塩及び/又はマグネシウム塩が挙げられる。これらの塩の形態は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
また、アミノ酸及びその塩は、溶媒和物(例えば、水和物)の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0034】
アミノ酸及びその塩の中でも、乾燥後により一層高い白残り抑制効果を発揮できるという観点から、好ましくは、アミノ酸及び/又はその無機塩基との塩、より好ましくはアスパラギン酸、イプシロンアミノカプロン酸及び/又はそれらの無機塩基との塩、更に好ましくはアスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、及び/又はイプシロンアミノカプロン酸、特に好ましくはイプシロンアミノカプロン酸を挙げることができる。
【0035】
本発明の水性組成物において、(C)成分の配合割合は、(C)成分の種類、他の配合成分の種類、水性組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、水性組成物の総量に対して、(C)成分が総量で0.1〜10w/v%、好ましくは0.25〜7.5w/v%、更に好ましくは0.5〜5.0w/v%となる配合割合が例示される。
【0036】
また、本発明の水性組成物における、(A)成分に対する(C)成分の比率については、特に制限されるものではないが、乾燥後の白残りをより一層効果的に改善するという観点から、(A)成分の総量100質量部当たり、(C)成分の総量が50〜5000質量部、好ましくは125〜3750質量部、更に好ましくは250〜2500質量部となる範囲が例示される。
【0037】
本発明の水性組成物は、更に緩衝剤を含有してもよい。本発明の水性組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。
【0038】
ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0039】
乾燥後の白残り抑制効果をより一層有効に発揮させ易くなるという観点から、本発明では、好ましくはホウ酸緩衝剤及び/又はリン酸緩衝剤が用いられ、より好ましくはホウ酸緩衝剤が用いられ、更に好ましくはホウ酸とホウ酸のアルカリ金属塩とを組み合わせた緩衝剤が用いられ、特に好ましくはホウ酸とホウ砂とを組み合わせた緩衝剤が用いられる。
【0040】
本発明の水性組成物に緩衝剤を配合する場合、緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、水性組成物の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、水性組成物の総量に対して、緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0041】
本発明の水性組成物は、更に等張化剤を含有してもよい。本発明の水性組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、多価アルコール(例えば、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ショ糖、ブドウ糖、乳糖、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、ポリデキストロース、デキストリン)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、及び硫酸マグネシウム等が挙げられる。好ましくは、多価アルコール、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び/又は塩化マグネシウムが挙げられ、より好ましくは、グリセリン、プロピレングリコール、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び/又は塩化マグネシウムが挙げられ、更に好ましくは、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、及び/又は塩化マグネシウムが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明の水性組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該水性組成物の総量に対して、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0043】
本発明の水性組成物は、更にキレート剤を含有してもよい。本発明の水性組成物に配合できるキレート剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかるキレート剤の具体例として、例えば、エチレンジアミン酢酸(例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA))、アスコルビン酸、クエン酸、及びそれらの塩等が挙げられる。好ましくはエチレンジアミン酢酸及び/又はその塩が挙げられ、より好ましくはエチレンジアミン四酢酸及び/又はその塩が挙げられ、更に好ましくはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム・二水和物、及び/又はエチレンジアミン四酢酸二カリウムが挙げられ、特に好ましくはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム及び/又はエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム・二水和物が挙げられる。これらのキレート剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0044】
本発明の水性組成物にキレート剤を配合する場合、該キレート剤の配合割合については、使用するキレート剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該水性組成物の総量に対して、該キレート剤が総量で0.001〜0.5w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%となる割合が例示される。
【0045】
本発明の水性組成物は、更に界面活性剤を含有してもよい。本発明の水性組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0046】
本発明の水性組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POEヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE−POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。
また、本発明の水性組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。
また、本発明の水性組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、α−オレフィンスルホン酸等が例示される。
また、本発明の水性組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。
本発明の水性組成物において、これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
本発明の水性組成物に界面活性剤を配合する場合、好ましくは非イオン性界面活性剤、より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POEヒマシ油類及び/又はPOE・POPブロックコポリマー類、更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、及び/又はPOE・POPブロックコポリマー類、特に好ましくは、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、及び/又はポロクサマー407が用いられる。
【0048】
本発明の水性組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該水性組成物の用途等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、水性組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.5w/v%、更に好ましくは0.01〜0.3w/v%が例示される。
【0049】
本発明の水性組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、好適なpHの一例として、pH4.0〜9.0、さらに好ましくはpH5.0〜8.0、さらにより好ましくはpH5.0〜7.5、特に好ましくはpH5.0〜7.0となる範囲が挙げられる。
【0050】
また、本発明の水性組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の水性組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)に従って測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0051】
また、本発明の水性組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。具体的には、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、フマル酸ケトチフェン、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アズレンスルホン酸、アラントイン、トラネキサム酸、ベルベリン、リゾチーム等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0052】
また、本発明の水性組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
香料又は清涼化剤:例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0053】
本明細書において水性組成物とは、水を含有する組成物を意味し、通常は、組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含有するものを意味する。本発明の水性組成物に含有される水は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等を使用できる。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。
【0054】
本発明の水性組成物は、所望量の上記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分、必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製され、目的に応じて種々の製剤形態をとることができる。例えば、本発明の水性組成物の形態として、液剤、半固形剤(軟膏等)等が挙げられる。好ましくは液剤である。
【0055】
本発明の水性組成物の製剤形態としては、具体的には、点眼剤[但し、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む]、人工涙液、洗眼剤[但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む]、眼軟膏剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等の眼科用組成物;点鼻剤、鼻洗浄液等の鼻腔用組成物;シロップ剤、エキス剤等の内服用組成物;口腔咽頭薬、含嗽薬(含嗽用剤)等の口腔用組成物;点耳薬;注射剤等の皮下投与用組成物等が挙げられる。乾燥されやすい条件で使用され、より一層高い白残り抑制効果が求められるという観点から、中でも好ましくは眼科用組成物であり、更に好ましくは点眼剤及び洗眼剤であり、特に好ましくは点眼剤である。
【0056】
また、本発明の水性組成物は、任意の開口部を備えた容器に充填して提供され得る。容器の形態は特に制限されないが、開口部が比較的小さい容器の場合には乾燥後に析出した固形物が目詰まりを起こし易いという問題がある。然るに、本発明によれば、乾燥後の固形物の析出を効果的に抑制できるので、このような目詰まりを気にする必要がない。かかる観点に鑑みると、本発明の水性組成物を充填する容器として、開口部の内径が、1.5〜3.0mm程度、更には1.7〜2.5mm程度に細い容器を好適な例として挙げることができる。また、このような開口部を備えた容器として、具体的には、点眼剤、洗眼剤、人工涙液、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤等の眼科用組成物を収容する容器;点鼻剤、鼻洗浄液等の鼻腔用組成物を収容する容器;点耳薬を収容する容器等が例示される。
【0057】
また、水性組成物を収容した容器の開口部(抽出口)の内壁に析出物が生じた場合、当該析出物が水性組成物と共に粘膜や皮膚に投与されることが懸念される。特に、眼粘膜は、バリア機能が弱く、固形物による違和感や刺激を感受し易いため、眼科用水性組成物(特に点眼剤)の使用に当たり、析出した固形物が眼粘膜に適用されないことが強く求められている。そこで、従来、析出物が生じやすい水性組成物では、当該析出物が投与時に水性組成物に混入して適用されるのを防ぐ目的で、液体のみを通して固形物は通さないフィルターを抽出口に装着した容器が使用されることがある。一方、本発明によれば、乾燥後の固形析出物発生が効果的に抑制されるので、このようなフィルターを抽出口に備える容器を使用する必要が無く、より低コストの容器を使用することができる。かかる観点に鑑みれば、本発明の水性組成物(好ましくは眼科用水性組成物、特に点眼剤)である場合の一実施態様として、抽出口にフィルターを備えていない容器に充填して提供されることもできる。
【0058】
本発明の水性組成物は、上記(A)成分に基づいて、抗菌作用を発揮できるので、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、ミクロコッカス属、モラクセラ属、コリネバクテリウム属、バシラス属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、ヘモフィルス・エジプチウス(コッホ・ウィークス菌)、シュードモナス属、緑膿菌、バークホルデリア・セパシア、ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア、アシネトバクター属、フラボバクテリウム属、アクネ菌等の細菌感染に起因する感染症症状の改善に有用である。このような感染症症状の具体例としては、例えば、眼瞼炎(瞼のただれ)、涙嚢炎、麦粒腫(ものもらい)、結膜炎(はやり目)、目のかゆみ、瞼板腺炎、角膜炎、角膜潰瘍等が挙げられる。また、本発明の水性組成物は、上記(B)成分に基づいて、抗ヒスタミン作用を発揮することもできるので、アレルギー症状の予防乃至緩和剤としても有用である。更に本発明の水性組成物は、上記(C)成分に基づいて、身体に対する栄養補給作用、抗炎症作用、及び/又は収斂作用などを発揮することもできる。
【0059】
2.水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法
前述したように、本発明者の検討により、上記(A)〜(C)成分を組み合わせて用いることによって、これらの成分を含有する水性組成物の乾燥後の析出物発生が顕著に抑制されることが分かっている。
【0060】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて水性組成物に配合することを特徴とする、該水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法をも提供する。
【0061】
これらの方法において、使用する(A)〜(C)成分の種類や配合割合、その他に配合される成分の種類や配合割合、水性組成物の製剤形態や用途等については、前記「1.水性組成物」と同様である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0063】
試験例1:白残り評価(1)
下記表1に記載の各試験液について、乾燥後に発生する白残りの程度に関し評価を行った。
【表1】

具体的な試験手法は以下の通りである。先ず、表1に記載の各試験液を調製した。次いで、各試験液30μLをスライドグラス上に滴下し、25℃のインキュベーター内で2時間静置して乾燥させた。2時間後、乾燥後の各試験液の状態を目視にて観察し、以下の評価基準に従って白残りの程度について評価を行った。また、乾燥後の各試験液の状態について写真撮影を行った。
【0064】
<白残り評価基準>
白残りが激しい :++
白残りが認められる :+
白残りが認められない:−
【0065】
上記基準に従って評価した白残りの程度(白残り評価)を、上記表1に併せて示す。また、各試験液の乾燥後の状態を写真撮影したものを図1に示す。これらの結果から明らかなように、4種のいずれのニューキノロン剤を用いた場合でも、乾燥後に白残りと呼ばれる白色固形物の発生が認められた(比較例1、4、7、10)。更に、ニューキノロン剤に対して、クロルフェニラミン類又はアミノ酸類を併用すると、白残りは抑制されないどころか、反って悪化してしまう場合すらあることが認められた(比較例2〜3、5〜6、8〜9、11〜12)。一方、全く予想外のことに、(A)ニューキノロン剤と(B)クロルフェニラミン類と(C)アミノ酸類の三成分を同時に含有させた場合には、乾燥後の白残りがほぼ完全に抑制された(実施例1〜4)。従って、これら三成分を同時に組み合わせて水性組成物を調製することにより、乾燥後の白残りが著しく抑制され、より快適且つより安全に使用され得る水性組成物を提供できることが明らかとなった。
【0066】
参考試験例1:白残り評価(2)
下記表2及び3に記載の各試験液について、上記試験例1と同様にして、乾燥後に発生する白残りの程度に関し評価を行った。
【表2】

【表3】

【0067】
試験例1と同様の評価基準に従って評価した白残りの程度の結果を、上記表2及び3に併せて示す。また、乾燥後の状態を撮影した写真を図2及び3に示す。これらの結果に示されるように、(B)成分又は(C)成分に代えて他の成分を組み合わせた場合には、白残りが発生し、上記試験例1で認められたような白残り抑制効果は認められなかった。
【0068】
参考試験例2:白残り評価(3)
下記表4に記載の試験液について、上記試験例1と同様にして、乾燥後に発生する白残りの程度に関し評価を行った。
【表4】

【0069】
試験例1の評価基準に従って評価した白残りの程度の結果を、上記表4に併せて示す。また、乾燥後の写真を図4に示す。これらの結果に示されるように、(A)成分を含まずに、(B)成分と(C)成分の二成分だけを組み合わせた場合では、乾燥後の白残り抑制効果は認められなかった。
【0070】
総合考察:
以上の結果から、水性組成物からの乾燥後の白残り発生を高度に抑制するためには、(A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン類と、(C)アミノ酸類の三成分を選択して組み合わせることが必要であることが明らかとなった。
【0071】
製剤処方例:
本発明の水性組成物の製剤処方例(処方例1〜18、いずれも点眼剤)を、下記表5に示す。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、水性組成物。
【請求項2】
(A)成分として、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、ナジフロキサシン、エノキサシン、シプロフロキサシン、スパルフロキサシン、フレロキサシン、パズフロキサシン、シタフロキサシン、プルリフロキサシン、ガレノキサシン、トロバフロキサシン及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
(C)成分として、イプシロンアミノカプロン酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
眼科用である、請求項1〜3のいずれかに記載の水性組成物。
【請求項5】
点眼剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の水性組成物。
【請求項6】
(A)ニューキノロン剤と、(B)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(C)アミノ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて水性組成物に配合することを特徴とする、該水性組成物からの乾燥後の析出物発生を抑制する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250918(P2012−250918A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122845(P2011−122845)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】