説明

ニューマチックケーソンおよびニューマチックケーソンの沈下方法

【課題】硬質地盤に対しケーソン躯体を沈下させる場合、1回当たりの沈下量を少なくしたりして振動発生を防止するようにしていたので、作業性が悪い。また、振動により作業を中断することがある。軟弱地盤ではケーソン躯体が傾いたり、急激沈下や過沈下が生ずるといった課題があった。
【解決手段】下方に刃口を有する側壁と、この側壁の下部に設けられた作業室スラブとを有し、この作業室スラブの下方が作業室となるケーソン躯体において、前記作業室スラブの適位置に、伸縮自在であって先端部に、伸長時に作業室内の地山と当接可能な支圧板が設けられた複数本のケーソン躯体沈下調整用のジャッキ装置を設けたニューマチックケーソンを用い、ケーソン躯体を徐々に沈下させることができるようにし、硬質地盤での振動発生、軟弱地盤でのケーソン躯体の傾き、急激沈下や過沈下を防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ケーソン沈設時にその沈下を調整する装置を備えたニューマチックケーソンおよびこのニューマチックケーソンの沈下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューマチックケーソン施工時、ケーソンの沈下荷重と沈下抵抗力の関係から、軟弱地盤では急激沈下または過沈下が発生し、その過沈下により作業室内の空間保持が困難になったり、不等沈下によりケーソンの傾斜がより大きくなり修正が困難になるほか、固い地盤ではケーソンの沈下で振動が発生し近隣に迷惑をかける場合がある。
【0003】
従来においては、ケーソン沈下等の振動対策としては、沈下深さを小さくしたり、サンドルを組立てて1回当たりの沈下量を少なくすることで振動を抑えているが、地山との強度の関係で沈下量の制御が難しく、振動を抑えることは困難であることから、近隣からの苦情で工事が中断することが発生したり、サンドル組立て等で長時間の高気圧作業が発生している。
【0004】
軟弱地盤での傾斜修正では、サンドルを組んで沈下抵抗を増したり、刃口付近の掘り残し、付け刃口、敷板、ローラー等を使用して調整を実施している。サンドルを組む先行例としては特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−037203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法では高気圧の中に作業員が入っての作業等が必要となるため、作業効率が悪く工程に悪影響を及ぼしていた。また、急激な沈下の防止および過沈下の防止に対する調整機能がないため、調整が困難な状況であった。
【0007】
この発明は上記のことに鑑み提案されたもので、その目的とするところは、急激沈下または過沈下、ケーソン躯体の傾斜および振動等を防止し得るジャッキ装置を備えたニューマチックケーソンおよびその沈下方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、下方に刃口2aを有する側壁2と、この側壁2の下部に設けられた作業室スラブ3とを有し、この作業室スラブ3の下方が作業室4となるケーソン躯体1において、前記作業室スラブ3の適位置に、伸縮自在であって先端部に、伸長時に作業室内の地山Gと当接可能な支圧板5cが設けられた複数本のケーソン躯体沈下調整用のジャッキ装置5を設けたことを特徴とするニューマチックケーソンである。
請求項2に係る発明は、請求項1記載のニューマチックケーソンにおいて、前記ジャッキ装置5の先端部と前記支圧板5cとの接続をヒンジ構造とし、支圧板5cを回動自在としたことを特徴とするニューマチックケーソンである。
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載のニューマチックケーソンを用い、硬質地盤に対しては、前記ジャッキ装置5を伸ばし、前記支圧板5cを押し付け、前記作業室4内の地山Gを掘削し、かつ前記刃口下部の地山Gを掘削して前記ジャッキ装置5に沈下荷重を預けながら前記ジャッキ装置5を少しずつ縮め前記ケーソン躯体1を徐々に沈下させていくことを特徴とするニューマチックケーソンの沈下方法である。
請求項4に係る発明は、請求項1または2記載のニューマチックケーソンを用い、軟弱地盤に対しては、沈下が進行している側の前記ジャッキ装置5を伸長し、前記支圧板5cを地山Gに押し当て、地盤への前記ケーソン躯体1の接地面を増加させて前記ケーソン躯体1の過沈下を抑制しつつ前記ケーソン躯体1を徐々に沈下させていくことを特徴とするニューマチックケーソンの沈下方法である。
請求項5に係る発明は、請求項1または2記載のニューマチックケーソンを用い、沈下が進行しているか、沈下が進行するおそれがある側のジャッキ装置5を伸長し、支圧板5cを地山Gに押し当て沈下抵抗力を増してケーソン躯体1の沈下を抑制し、傾斜を修正または防止しつつ前記ケーソン躯体1を沈下させていくことを特徴とするニューマチックケーソンの沈下方法である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜4に係る本発明によれば、ケーソン躯体の沈下荷重と沈下抵抗力の関係から沈下荷重が大きい場合であってもジャッキ装置を適宜伸縮させケーソン躯体を支えながら徐々にケーソン躯体を沈下させることができるため、急激沈下、過沈下を抑制することができる。
また、硬質地盤でも、ケーソン躯体を徐々に沈下さることができるため、刃口と硬い地盤との衝突を防止できるので、振動の発生を防止することができ、作業が中断するようなことはない。
また、請求項5に係る本発明では、ケーソン躯体の傾斜に対し、沈下が進行している側のジャッキ装置を伸長して支圧板を地山に押し当て沈下抵抗力を増すことにより、沈下の進行を抑制し、傾斜を修正したり、傾斜の発生を防止することができる。
本発明によれば以上の作業を作業員が作業室に入らなくとも安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例の要部の部分断面説明図を示す。
【図2】同上の動作説明図。
【図3】図1A−A線断面であって、ジャッキの配置例を示す説明図。
【図4】(a)はジャッキの外観測面図、(b)はジャッキの内部構造を示す部分断面説明図。
【図5】掘削状態を示す説明図。
【図6】本発明による掘削状態の説明図。
【図7】作業室スラブにジャッキ装置を設ける他の例。
【図8】本発明の第2実施例の要部の部分断面説明図を示す。
【図9】本発明の第3実施例の要部の部分断面説明図を示す。
【実施例1】
【0011】
図1は本発明の一実施例を示す。図において、1はケーソン躯体で、このケーソン躯体1は、筒状の側壁2を有し、側壁2の下部内側はテーパに形成され、刃口2aとなっている。また、側壁下部には作業室スラブ3が形成され、刃口2aと作業室スラブ3とによって作業室4が区画形成されている。
【0012】
本発明においては、作業室スラブ3に急激沈下、過沈下、傾斜調整手段、硬質地盤の振動防止手段としてのジャッキ装置5を設けたことに特徴を有している、。
【0013】
ジャッキ装置5は作業室スラブ3に複数本設けられ、このため、作業室スラブ3は、ジャッキ装着により予測される荷重に対し必要な強度を持たせて設計されている。
【0014】
ジャッキ装置5は、作業室スラブ3内に埋設された外筒5aと、外筒5aに対し伸縮自在な内筒5bとを有し、内筒5bの先端部に適形状の鋼板からなる支圧板5cが設けられ構成されている。
【0015】
ジャッキ装置5はケーブル6を介し地上の遠隔操作室7と接続され、作業員8による遠隔操作により必要に応じ内筒5bを地山Gに向って伸長可能に構成されている。
【0016】
図2は、内筒5bを伸長させ、地山Gに対し支圧板5cを当接させジャッキ装置5の力を伝達してケーソン躯体1を支えている状態を示す。
【0017】
図3は、図1A−A線断面を示し、作業室スラブ3に対するジャッキ装置5の配置例を示す。ジャッキ装置5はケーソン躯体1を均等に支持できるよう適位置に配置されている。したがって、ジャッキ装置5の位置、数は図示例に限定されるものでなく、ケーソン躯体1の形状、大きさ等により最適な位置、数が選択される。
【0018】
図4はジャッキ装置5の一構成例を示す。(a)はジャッキ装置5の外観側面図、(b)はジャッキ装置5の内部構成例を示す。
【0019】
図4(b)に示すように、ジャッキ装置5の有底円筒状の外筒5a内には伸縮操作用ジャッキ5dが内設され、そのピストンロッド5eを伸長または縮小させるに伴い有底円筒状の内筒5bが伸縮し、所望の長さに設定できるように構成されている。
【0020】
なお、内筒5bの先端部に設けた支圧板5cは軸5fを介しヒンジ構造とし、回動自在とすると、地山Gが傾斜している場合、それに対応して当接させることができ好ましい。ヒンジ構造自体は周知の適構造のものを採用すれば良い。
【0021】
また、図1および図2においては特に図示しないが、周知のように、作業室スラブ3にマンロック、マテリアルロック等のシャフト接続されている。また、作業室4内を圧気したり排気したりする圧気設備がケーソン躯体1に設けられる。
【0022】
さらに、特に図示しないがケーソン躯体1の適位置には傾斜計が設けられ、ケーソン躯体1の沈設過程でのケーソン躯体1の傾斜を検出し、それを遠隔操作室7で監視できるようになっている。ケーソン躯体1の傾斜を監視するには、作業室スラブ3の適箇所に監視カメラを設置し、かつ作業室4の周壁にマーキングを施し、その状態をモニターで監視し、把握するようにしても良い。
【0023】
ケーソン躯体1の沈下は次のようにして行われる。
【0024】
作業室4内は圧気状態に置かれ、図5に示すように、掘削機9を介し地山Gを掘削していく。図中10は作業室スラブ3の天井面に敷設された掘削機走行用のレールである。
【0025】
ケーソン躯体1の沈下荷重と沈下抵抗力の関係から沈下荷重が適切である場合や地盤の固さが適切な場合、特にジャッキ装置5を用いることなく、通常のように作業を進め、ケーソン躯体1を所定位置まで沈降させていけば良い。
【0026】
硬質地盤の場合、図2に示すように、まずジャッキ装置5を伸ばし、支圧板5cを地山Gに押し付ける。地盤が傾斜している場合、支圧板5cとジャッキ装置5の接続箇所をヒンジ構造としておけば支圧板5cは傾斜に対応させることができる。すべてのジャッキ装置5を同様の状態にする。
【0027】
次に、図6に示すように、作業室4内の地山Gを掘削機9を用いて掘削し、刃口2aの下部の地山Gを掘削し、刃口2aの部分の支持力を取り除き、ジャッキ装置5に沈下荷重を預ける。
【0028】
しかる後、ジャッキ装置5を少しずつ縮めケーソン躯体1を徐々に沈下させていく。
【0029】
以上により、ケーソン躯体1の急激沈下を防ぎ、ケーソン躯体1の急激沈下に伴う地盤と刃口2aとの衝突により発生する振動を防止することができる。
【0030】
軟弱地盤の傾斜防止の場合、ケーソン躯体1に設けた傾斜計およびもしくは監視カメラを介し遠隔操作室7において、沈下が進行し、傾斜している側のジャッキ装置5を伸ばして支圧板5cを地山Gに押し当て、地盤へのケーソン躯体1の接地面積を増加させ、沈下抵抗力を増すことでケーソン躯体1の沈下を抑制し、傾斜の発生を防止する。
【0031】
また、軟弱地盤のため、ケーソン躯体1が沈下し、作業室4内の空間が確保できない場合、ジャッキ装置5を伸ばし支圧板5cを地山Gに押し付け、地盤の支持面積を増すことで過沈下を防止することができる。
【0032】
なお、上記実施例では、ジャッキ装置5の外筒5aを作業室スラブ3に埋設した例について示したが、図7に示すように、作業室スラブ3の上面から突出する長大ストローク用のものを用いても良い。
【実施例2】
【0033】
図8は本発明の第2実施例を示す。この実施例では支圧板5cの形状を大とし、他のジャッキ装置5の内筒5bと接続し、支圧板5cを地山Gに押し当てた際の接地面積を増加させたことに特徴を有する。この場合、大型のケーソン躯体や軟弱地盤の施工に適する。他の構成は前述の実施例と同様である。
【実施例3】
【0034】
図9は本発明の第3実施例を示す。この実施例では、既存のケーソン躯体1の作業室スラブ3の天井面にジャッキ取付板11を介しジャッキ装置5を後付けで設けた構成としている。
【0035】
この場合も作業室スラブ3には必要な強度を持たせている。
【0036】
ジャッキ装置5やケーソン躯体1の構造は前述の実施例と基本的に同様のため、同一部材は同じ符号で示し、説明は省略する。
【0037】
また、沈下方法も前述の実施例と同様である。
【符号の説明】
【0038】
1 ケーソン躯体
2 側壁
2a 刃口
3 作業室スラブ
4 作業室
5 ジャッキ装置
5a 外筒
5b 内筒
5c 支圧板
5d 伸縮操作用ジャッキ
5e ピストンロッド
5f 軸
6 ケーブル
7 遠隔操作室
8 作業員
9 掘削機
10 レール
11 ジャッキ取付板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に刃口(2a)を有する側壁(2)と、この側壁(2)の下部に設けられた作業室スラブ(3)とを有し、この作業室スラブ(3)の下方が作業室(4)となるケーソン躯体(1)において、
前記作業室スラブ(3)の適位置に、伸縮自在であって先端部に、伸長時に作業室内の地山(G)と当接可能な支圧板(5c)が設けられた複数本のケーソン躯体沈下調整用のジャッキ装置(5)を設けた
ことを特徴とするニューマチックケーソン。
【請求項2】
請求項1記載のニューマチックケーソンにおいて、前記ジャッキ装置(5)の先端部と前記支圧板(5c)との接続をヒンジ構造とし、支圧板(5c)を回動自在としたことを特徴とするニューマチックケーソン。
【請求項3】
請求項1または2記載のニューマチックケーソンを用い、硬質地盤に対しては、前記ジャッキ装置(5)を伸ばし、前記支圧板(5c)を押し付け、前記作業室(4)内の地山(G)を掘削し、かつ前記刃口下部の地山(G)を掘削して前記ジャッキ装置(5)に沈下荷重を預けながら前記ジャッキ装置(5)を少しずつ縮め前記ケーソン躯体(1)を徐々に沈下させていくことを特徴としたニューマチックケーソンの沈下方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のニューマチックケーソンを用い、軟弱地盤に対しては、沈下が進行している側の前記ジャッキ装置(5)を伸長し、前記支圧板(5c)を地山(G)に押し当て、地盤への前記ケーソン躯体(1)の接地面を増加させて前記ケーソン躯体(1)の過沈下を抑制しつつ前記ケーソン躯体(1)を徐々に沈下させていくことを特徴としたニューマチックケーソンの沈下方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のニューマチックケーソンを用い、沈下が進行しているか、沈下が進行するおそれがある側のジャッキ装置(5)を伸長し、支圧板(5c)を地山(G)に押し当て沈下抵抗力を増してケーソン躯体(1)の沈下を抑制し、傾斜を修正または防止しつつ前記ケーソン躯体(1)を沈下させていくことを特徴としたニューマチックケーソンの沈下方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−46902(P2012−46902A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187771(P2010−187771)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000207780)大豊建設株式会社 (77)