説明

ニュールツリンを用いる糖尿病の予防と治療方法

本発明は一般に、ニュールツリンタンパク質産物を投与することにより、膵臓障害、特に糖尿病に関連する膵臓障害を予防および/または治療する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ニュールツリン産物を投与することにより、膵臓障害、特に糖尿病に関連する膵臓障害を予防および/または治療する方法に関するものである。
【0002】
発明の背景
膵臓は、ホルモンを血流に分泌する内分泌腺であるだけではなく、消化酵素を直接的に消化管に分泌する外分泌腺でもある。その外分泌機能は、種々の消化酵素を介在導管経由で十二指腸に分泌する腺房細胞および房心細胞によって保証される。膵臓内分泌部の機能単位はランゲルハンス島である。ランゲルハンス島は、膵臓外分泌部の中に分散しており、4つの主な細胞型:α細胞、β細胞、δ細胞およびPP(膵ペプチド)細胞で構成される(たとえば、Kim & Hebrok, 2001, Genes Dev. 15: 111-127 でレビューされている)。α細胞がグルカゴンを分泌し、ランゲルハンス島末梢部に分布する一方、β細胞はインスリンを作り、内分泌細胞の大部分を占め、そしてランゲルハンス島中心部を形成する。δ細胞およびPP細胞は比較的に数が少なく、それぞれソマトスタチンおよび膵臓のポリペプチドを分泌する。最近になって、神経ペプチド「グレリン」を作る細胞が膵島内で発見されている(Wierup らの 2002, Regul Pept. 107:63-9)。
【0003】
膵臓の初期発生に関しては、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、およびマウスをはじめとする様々な種において十分に研究されている(詳細レビューは、前出の Kim & Hebrok, 2001 を参照)。膵臓は別個の背側原基および腹側原基から発生する。膵臓発生には、前後軸および背腹軸の両方に沿った膵臓原基の特異化が必要とされる。正常な膵臓発生にとって重要な転写因子がいくつか確認されている(前出の Kim & Hebrok, 2001; Wilson らの 2003, Mech Dev. 120: 65-80 を参照)。
【0004】
ヒトにおける腺房細胞および導管細胞は、ランゲルハンス島細胞がほとんど有糸分裂的に不活性となるのに対して、細胞の更新および成長を確保できるかなり強い増殖力を維持する。これは、β細胞複製が新β細胞の発生において重要な機構であるげっ歯類の場合とは対照的である。胚発育中の膵ランゲルハンス島が、導管細胞または上皮形態の他の細胞の分化に由来することが示唆されている(Bonner-Weir & Sharma, 2002, J Pathol. 197: 519-526; Gu らの 2003, Mech Dev. 120: 35-43)。ヒト成人の新β細胞は、導管の近傍に発生する(Butler らの 2003, Diabetes 52: 102-110; Bouwens & Pipeleers 1998, Diabetologia 41: 629-633)。しかしながら、成人β細胞の前駆細胞が、膵ランゲルハンス島内の位置に発生することや、骨髄由来であることも示唆されている(Zulewski らの 2001, Diabetes 50: 521-533; Ianus らの 2003, J Clin Invest. 111: 843-850)。膵島の形成は動的であり、インスリン要求の変化、たとえば妊娠中または幼児期の体重変化に反応する。成人では、体重と膵ランゲルハンス島の質量との間には優れた相関関係がある(Yoon らの 2003, J Clin Endocrinol Metab. 88: 2300-2308)。
【0005】
膵β細胞は、血糖値に応答してインスリンを分泌する。数あるホルモン中でも、インスリンは燃料代謝の調節に重要な役割を果たす。インスリンは、グリコーゲンおよび中性脂肪の貯蔵と、タンパク質の合成を導く。グルコースの筋肉および脂肪細胞への流入は、インスリンによって促進される。真性糖尿病1型患者またはLADA(緩徐進行型インスリン依存糖尿病)患者(Pozzilli & Di Mario, 2001, Diabetes Care. 8:1460-67)では、自己免疫発作のためにβ細胞が破壊されている。残った膵島細胞によって分泌されるインスリン量は十分でないので、高い血糖値(高血糖症)が結果としてあらわれる。2型糖尿病では、肝細胞および筋細胞には正常範囲の血中インスリン値(濃度)に対して反応する能力がない(インスリン耐性)。高血糖値(さらには高血中脂質値)は次にはβ細胞の機能障害およびβ細胞のアポトーシス増加を引き起こす。興味深いことには、2型糖尿病患者におけるβ細胞新生率は変化しない可能性が高いので(前出 Butler らの 2003)、長い間にはβ細胞総量の低下が引き起こされる。最終的には、2型糖尿病患者に体外からインスリンを補うことが必要となる。
【0006】
β細胞量が臨界閾値以下に低下する前に、血液砂糖および血中脂質値などの代謝パラメータを改善すること(たとえば、食習慣の変更、運動、投薬またはその組み合わせを通じて)は、β細胞機能の比較的急速な回復につながる。しかし、かかる処置の後でも、膵臓の内分泌機能は、その再生率はわずかしか上昇しないため、引き続き損なわれた状態にある。
【0007】
β細胞が自己免疫発作により破壊されるような1型糖尿病患者においては、免疫系を調節する治療法が考案されており、ラ氏島破壊を強く抑えるか、または停止することができる可能性がある(Raz らの 2001, Lancet 358: 1749-1753; Chatenoud らの 2003, Nat Rev 免疫l. 3: 123-132; Homann らの Immunity. 2002, 3:403-15)。しかしながら、比較的に緩慢なヒトβ細胞の再生のため、かかる治療法は、β細胞再生促進することができる薬剤と併用される場合のみに成功し得る。
【0008】
糖尿病は、今日の通常抗糖尿病薬では高低血糖値を正常値に整えるほど十分に血糖値を制御できないため、深刻な障害を引き起こす疾病となっている。正常範囲外の血糖値には毒性があり、たとえば腎臓病、網膜症、末梢神経障害および末梢性血管障害などの長期的な合併症を引き起こす。また、糖尿病患者にとって発症の危険性が極めて高い肥満症、高血圧、心臓病および高脂血症などの多くの関連状態も存在する。
【0009】
糖尿病患者の生活の質低下はもとより、糖尿病治療とその長期合併症は医療制度にとって莫大な財政負担となっており、その傾向はさらに高まっている。したがって、緩徐進行型インスリン依存糖尿病(LADA)の治療のためばかりではなく、1型および2型糖尿病の治療のためにも、膵臓のインスリン産生β細胞再生を誘導する因子を同定することが当分野では強く要求されている。これらの因子は、内分泌機能が損なわれた膵臓の正常機能を回復することができ、1型糖尿病、2型糖尿病、またはLADAの発生または進行を防止することさえできる。
【0010】
本発明では、インスリン産生β細胞の形成または再生を促進するための、これまでは知られていない新規の神経栄養因子ニュールツリンの使用法を開示するものであって、その結果、糖尿病の治療と予防における使用法を開示するものである。
【0011】
神経栄養因子は、生存を調節し、特定の神経細胞集団および/またはグリア細胞集団の表現型分化を維持する成長因子である(Varon らの 1978, Ann. Rev. Neurosience 1: 327-361; Thoenen らの Science, 229:238-242, 1985)。神経成長因子(NGF)が、最初に同定され、そして特徴付けられた神経栄養因子であった(Levi-Montalcini らの 1951, J. Exp. Zool. 116:321)。このファミリーで第2番目に発見されたのは、脳由来の神経栄養因子であった(Leibrock らの 1989, Nature 341:149-152)。
【0012】
構造的にNGFと無関係の神経栄養因子であるグリア由来の神経栄養因子(GDNF)は、パーキンソン病において変性する中脳ドーパミン作動性ニューロンの生存にとって極めて重要な因子の検索中に発見された(Lin らの 1993, Science 260:1130-2)。配列分析によって、該因子は、トランスフォーミング成長因子8(TGF-β)因子のスーパーファミリの遠いメンバーであることが明らかにされた。
【0013】
GDNFに構造的に近縁するがNGFとは無関係である別の神経栄養因子がニュールツリンである(Kotzbauer らの 1996, Nature 384: 467-470)。ニュールツリン、GDNFおよび他の2つの関連因子(アーテミンおよびパーセフィン)は、TGF-β-関連神経栄養因子と呼ばれる神経栄養因子ファミリーを定義する。これらの神経栄養因子は、枢運動神経細胞およびドーパミンニューロンだけではなく、末梢自律神経細胞および感覚神経を含めた種々の神経細胞の生存を促進し、神経変性疾患治療用薬剤として提唱されている(Takahashi, 2001, Cytokine Growth Factor Rev 12(4):361-73 によるレビューを参照。また、たとえば米国特許 6,090,778 および欧州特許(EP)1005358B1 も参照。これら開示文献をここに参照することにより、本明細書の一部となす)。TGF-β-関連神経栄養因子は、グリコシルホスファチジルイノシトール結合型の細胞表面分子、GDNFファミリー受容体α(GFRα)および受容体タンパク質チロシンキナーゼRETからなる独自の2つの受容体複合体を介してシグナルを発する。
【0014】
記載の神経細胞組織の機能のほかに、GDNF/RETシグナル伝達機能は、特定の非神経細胞組織の分化にとって極めて重要な機能である。たとえば、GFRα1および該RETは両方共に、尿管芽の成長と、それに引き続く発達中の腎臓における分岐にとって必要な受容体成分である(Cacalano らの 1998, Neuron 21:53-62; Tang らの 1998, J Cell Biol. 142(5):1337-45)。RET、GFRα1(GDNF受容体)、およびGFRα2(ニュールツリン受容体)は精巣生殖細胞によって発現されるが、GDNFおよびニュールツリンはセルトリ細胞によって発現される。GDNFおよびニュールツリンは両方共に、精原細胞内のDNA合成を促進する。その上、GFRα、GFRαリガンドおよび補助受容体は胚細胞性腫瘍において発現されるので、精子形成におけるパラクリン因子としての役割を果たすことができる(Viglietto らの 2000, Int J Oncol. 16(4):689-94)。
【0015】
ごく最近になって、GDNFシグナル伝達の生物学的研究が、当初憶測されたよりもはるかに複雑であることが明らかになった。また、GDNFファミリーリガンドも、神経細胞接着分子NCAMを介してシグナルを発する。RETに欠ける細胞では、GDNFはNCAMおよびGFRα1複合体に対して高親和性で結合する(Sariola & Saarma, 2003, J Cell Sci. 116(Pt 19):3855-62 によるレビューを参照)。また、c-Met受容体キナーゼを介するシグナル伝達も実証されている(Popsueva らの 2003, J Cell Biol. 161(1):119-29 を参照)。
【0016】
GDNF/RETシグナル伝達が神経細胞組織および特定の非神経細胞組織の分化にとって極めて重要であることは従来の技術において論考されているが、TGF-β-関連神経栄養因子ファミリーメンバーが該再生膵臓組織に関与することは開示されていない。驚いたことに本発明者等は、ニュールツリンが、糖尿病に重要な役割を果たすインスリンを分泌する膵臓β細胞の形成または再生を促進することを見出した。かくして本発明者等は、糖尿病の治療と予防におけるニュールツリンの使用法を本発明において開示するものである。
【0017】
発明の要旨
本発明は、前駆体細胞、たとえば幹細胞のインスリン産生細胞への分化を促進および/または誘導するための新方法、またはニュールツリン産物および/またはニュールツリンタンパク質産物の発現量または機能に影響をおよぼす(具体的には機能を高める)ニュールツリンタンパク質産物の修飾因子/エフェクターを用いて、インスリン産生細胞の保護、生存および/または再生を促進するための新方法に関するものである。
【0018】
したがって、本発明は、膵島細胞、具体的にはインスリン産生β細胞の機能異常および/または該細胞数の減少によって引き起こされる疾患、関連疾患、および/または付随疾患に苦しむ患者を、ニュールツリン発現量または機能に影響をおよぼすニュールツリン産物または化合物の治療有効量を投与することにより治療するための方法を提供する。膵島細胞機能の障害または低下は、たとえば糖尿病1型またはLADAなどにおける自己免疫発作、および/または進行した2型糖尿病などにおける細胞変性に起因し得る。また、本発明の方法を用いて、インスリン産生β細胞の変性を生じる危険のある患者を治療し、かかる過程の開始または進渉を防止することもできる。
【0019】
該ニュールツリン産物またはそのエフェクター/修飾因子は、ニュールツリン産物発現細胞の移植、および/またはを遺伝子療法を介して、たとえば医薬組成物として投与することが可能である。
【0020】
さらに、本発明は、ニュールツリン処理されたインスリン産生細胞またはニュールツリン発現細胞を含む細胞調製に関するものである。
【0021】
本発明の多数のさらなる態様および利点は、以下の好適な実施形態を説明する本発明の図面および詳細な説明の記述を考慮すれば、当業者には明らかとなるであろう。
【0022】
図面の簡単な説明
図1は、インスリン産生細胞の分化のニュールツリン依存型誘導を示す。
【0023】
前述のように、マウス胚性幹(ES)細胞をインスリン産生細胞に分化した(国際公開番号WO02/086107として公表された特許出願PCT/EP02/04362をここに参照することにより、本明細書の一部となす)。分化細胞では、2つの別例において定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を用いてインスリンmRNA存在量(図1Aおよび1B)およびβ細胞グルコーストランスポーターGlut2mRNA存在量(図1Cおよび1D)を定量した。対照としては18S-RNAを用い、基準としてはサイクル数36を用いて、量を規準化した。縦軸の数値は、36サイクルを検出に必要とする存在量に相対して表示される転写物の存在量を表す。「wt-ES」は、無修飾マウスR1胚性幹(ES)細胞を表し、「Pax4ES」は、安定的にCMV-Pax4発現コンストラクトをトランスフェクトされたR1マウス胚性幹(ES)細胞を表し、「ΔCt36に相対するインスリン発現」は、インスリン発現を表し、「ΔCt36に相対するGlut2発現」は、β細胞グルコーストランスポーター発現を表し、「ES」は、実施例1に記載のようにマウス胚性幹細胞を表し、「対照」は、ニュールツリン無添加の実施例2に記載のように分化プロトコルを表し、「EB+NTN」は、ニュールツリンを胚様体に添加した実施例3に記載のように分化プロトコルを表す。
【0024】
図2は、マウスのmDG770トランスジェニックコンストラクト構造を示す。本図では、RIPプロモーター(0.8kbのラットインスリンIIプロモーター)を細線として、マウスDG770のcDNA(mDG770)を白色ボックスとして、ハイブリッド-イントロン構造(ハイブリッド-イントロン)を灰色ボックスとして、およびポリアデニル化シグナル(BGHポリA)を黒色ボックスとしてそれぞれ示した。
【0025】
図3は、異所性mDG770発現を伴うmDG770トランスジェニックマウスの膵島を示す。ラ氏島のTagMan発現解析に基づき、mDG770特異的プライマーとプローブのセットを用いて、cDNAを2頭の野生型同腹仔および2頭の遺伝子導入同腹仔から単離した。本データは、ラ氏島内の野生型mDG770発現に相対したmDG770誘導倍率として表現される。
【0026】
図4は、高脂肪(HF)食を与えた野生型マウス(wt)と比較した、無作為に給餌したDG770トランスジェニックマウス(RIP-mDG770)の血糖値を示す。本図では、無作為に給餌した雄の野生型マウスの血糖値は(◇、N=5)であり、RIP-mDG770トランスジェニックマウスの血糖値は(□、N=6)である。該データは、平均血糖値 +/- 標準偏差として表現されている。血糖値は、DG770トランスジェニックマウスにおいて著しく低下しているが、 それは、哺乳類膵島内のDG770の高発現が血糖値を下げることを意味する。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明を説明する前に、本明細書中で使用したすべての技術用語および科学用語が、本発明の属する技術分野における当業者に一般に理解されている意味と同じ意味を持つことは、当然のことながら通常の認識とする。
【0028】
本発明における用語「β細胞再生」は、機能インスリン分泌β細胞数の増加すること、および/または機能異常β細胞において正常機能を回復することによる、正常β細胞機能の少なくとも部分的な回復を意味する。
【0029】
本明細書中で使用した用語「ニュールツリン産物」には、精製された天然または合成ニュールツリンおよびその変種などのニュールツリンタンパク質産物が含まれる。変異体には、挿入変異体、置換変異体および欠損変異体、および化学修飾した誘導体が含まれる。また、変異体には、組換えタンパク質、たとえば限定するものではないが、ニュールツリンおよび他のTGF-βタンパク質(好ましくはから該GDNF-ファミリー)のハイブリッドも含まれる。また、さらに含まれるのは、GenBankアクセッション番号NP_004549として公表されたアミノ酸配列を有するヒトニュールツリン前駆体タンパク質に対して実質的に相同であるタンパク質またはペプチドである。また、用語「ニュールツリン産物」には、上記のニュールツリンタンパク質産物をコードするポリヌクレオチド(たとえば、mRNA/DNA)も含まれる。また、用語「ニュールツリン産物」には、ニュールツリンタンパク質産物および別のタンパク質のニュールツリンホモ二量体またはヘテロ二量体も含まれており、ここで、他のタンパク質が好ましくはGDNF-ファミリーに属することを特徴とする。
【0030】
本明細書中で使用した用語「生物学的活性」は、ニュールツリン産物がインスリン産生細胞の前駆体、たとえば幹細胞からの分化を誘導および/または促進すること、および/またはインスリン産生細胞、たとえばβ細胞の保護、生存、または再生を促進することを意味する。ニュールツリン産物の生物学的活性は、本出願の実施例に記載のように定量することができる。
【0031】
本明細書中で使用した用語「実質的に相同である」は、GenBankアクセッション番号NP_004549として公表されたアミノ酸配列を有するニュールツリン前駆体の切断によって生じる生物学的活性なヒトニュールツリン産物またはヒトニュールツリン前駆体自体に対してある程度の相同性、すなわち、好ましくは70%を上回り、最も好ましくは80%を上回り、さらに望ましくは90%または95%を上回る相同性を有することを意味する。マウスタンパク質とヒトタンパク質間の相同度は約91%であり、好適な哺乳動物のニュールツリンタンパク質が同様に高い相同度を有するものと考えられる。また、さらに含まれるのは、ニュールツリンと、別のTGFβタンパク質、好ましくは、ニュールツリンにおいて見出される島細胞形成に促進効果をおよぼすGDNF-ファミリーの別メンバーとの間のハイブリッドであるタンパク質である。相同率、またはニュールツリン産物と、そのヒトニュールツリンタンパク質または前駆体または核酸コーディングとの間の同一性は、標準手順、たとえば該BLASTアルゴリズムを用いることによって定量することができる。好ましくは、相同率または同一性は、4つの間隙が、100ヌクレオチドまたはアミノ酸長に導入され、その協調を補助することが可能であるとき、比較されている配列内の同一ヌクレオチドまたはアミノ酸残基と協調する2つの配列のうちの小さいほうに見出されるヌクレオチドまたはアミノ酸残基のパーセントとして計算される。また、実質的に相同であるものとして含まれるのは、ニュールツリンタンパク質産物に対する抗体との交差反応性により単離することができる任意のニュールツリンタンパク質産物、またはその遺伝子が、該遺伝子またはニュールツリンタンパク質産物をコードする該遺伝子のセグメントとのハイブリダイゼーションを通じて単離することができる任意のニュールツリンタンパク質産物である。
【0032】
本発明に関しては、用語「前駆体細胞」は、インスリン産生細胞に分化する能力のある未分化細胞に関連する。本用語には特に、幹細胞、すなわち未分化細胞または未熟胚細胞、成人細胞、または種々の特異性細胞型を作り出すことができる体細胞が含まれる。用語「幹細胞」には、胚性幹細胞(ES)および原始生殖細胞(EG)、哺乳動物細胞、たとえばヒトまたは動物由来細胞を含むことができる。かかる細胞の単離および培養は当業者に公知のものである(たとえば、Thomson らの 1998, Science 282:1145-1147; Shamblott らの 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726-13731; 米国特許 6,090,622; 米国特許 5,914,268; 国際公開番号WO0027995; Notarianni らの 1990, J. Reprod. Fert. 41:51-56; Vassilieva らの 2000, Exp. Cell. Res. 258:361-373 を参照)。成人細胞または体細胞は、幹細胞、腸、筋肉、骨髄、肝臓、および脳などの多数の異なる組織で同定されている。国際公開番号WO03/023018では、治療用に、腸管幹細胞を単離、培養、および分化するための新方法が記述されている。膵臓におけるいくつかの徴候は、幹細胞が成人組織内にも存在していることを示唆する(Gu & Sarvetnick, 1993, Development 118:33-46; Bouwens, 1998, Microsc Res Tech 43:332-336; Bonner-Weir, 2000, J. Mol. Endocr. 24:297-302)。
【0033】
胚性幹細胞は、移植前の胚の内細胞塊(ES細胞)、または移植後の胚の生殖隆起に見出される原始生殖細胞(EG細胞)から単離することができる。撹拌培養または懸滴などの特殊な培養条件で増殖すると、ES細胞およびEG細胞は両方共に、凝集して胚様体(EB)を形成する。EBは、胚発生中に存在する細胞型と同様の種々の細胞型で構成される。適切な培地内で培養されたEBを用いると、胚体外内胚葉、造血細胞、神経細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、および血管細胞などのインビトロ分化表現型を作ることができる。本発明者等は先に、EBがインスリン産生細胞への効率的な分化を成し遂げることができる方法を説明している(それらの方法は、特許出願PCT/EP02/04362に記載の方法、国際公開番号WO02/086107として公表された方法、および Blyszczuk らの 2003, Proc Natl Acad Sci U S A. 100(3):998-1003 における方法などであり、ここに参照することにより本明細書の一部となす)。
【0034】
用語「培養培地」は、幹細胞の増殖と分化を支持する能力のある好適な培地を意味する。用語「分化培地」は、幹細胞のインスリン産生細胞への分化を誘導するための好適な培地を意味する。用語「最終分化培地」は、インスリン産生細胞の最終分化に好適な培地を意味する。好ましい培地例が国際公開番号WO/023018に記載されているが、それらの例をここに参照することにより本明細書の一部となす。
【0035】
本発明では、本発明者等は、インスリン産生細胞の形成または再生を促進および/または誘導するための、これまでは知られていない新規の神経栄養因子ニュールツリンの使用法を開示するものであって、その結果、β細胞機能障害、たとえば限定するものではないが真性糖尿病に伴う疾患(たとえば、合併症、関連疾患または付随疾患)の治療と予防における使用法を開示するものである。より具体的には、該疾患は、1型糖尿病、2型糖尿病またはLADAである。
【0036】
本発明は、ニュールツリンがインビトロでの幹細胞からのインスリン産生細胞の分化を促進するという驚くべき知見に基づく。したがって、ニュールツリン産物の治療有効量を投与して促進該再生膵β細胞を促進すること、またはインビトロまたはインビボでの幹細胞または前駆体細胞からのインスリン産生細胞の形成を促進することが可能である。本発明はさらに、本発明の方法から直接的に発生する医療分野における用途に関するものである。加えて、本発明は、本発明の方法から直接的に発生する治療の医療効果または毒性効果を有する化合物を同定および特徴付けするための用途に関するものでもある。
【0037】
本発明によれば、下記の方法でニュールツリン産物を投与することが可能である。
i)医薬組成物として、たとえば腸内投与、非経口投与または局所投与、好ましくは膵臓への直接投与する方法と、
ii)ニュールツリンタンパク質産物発現細胞の移植による方法、および/または
iii)遺伝子療法を介する方法。
(詳細は下記を参照)
さらに、患者におけるニュールツリン発現量は、下記の方法によって投与されるニュールツリン修飾因子/エフェクターに影響される可能性がある。
i)医薬組成物として、たとえば腸内投与、非経口投与または局所投与、好ましくは膵臓への直接投与する方法と、
ii)細胞ベースの療法を介する方法、および/または
iii)遺伝子療法を介する方法。
(詳細は下記を参照)
ニュールツリン産物またはニュールツリン修飾因子/エフェクター、すなわち、ニュールツリン発現量または機能に影響し、特にそれらを増加させる薬理学的に活性な物質を、単独、またはβ細胞の変性の治療に有用な別の医薬組成物、たとえばホルモン、成長因子または免疫調整剤を併用して、上記方法で投与することが可能である。
【0038】
ニュールツリン産物またはその修飾因子/エフェクターは、β細胞機能障害、たとえば限定するものではないが、1型糖尿病、LADA、または進行した2型糖尿病に伴う疾患に苦しむ患者に投与することが可能である。ニュールツリン産物またはその修飾因子/エフェクターは、β細胞の変性を生じる危険のある患者、たとえば、限定するものではないが、2型糖尿病または初期段階のLADAに苦しむ患者に予防的に投与することが可能であることもさらに考えられる。種々の医薬品製剤および様々な送達技術を下記にさらに詳しく説明する。
【0039】
本発明はまた、インビトロにて前駆体細胞をインスリン産生細胞へ分化させるための、下記を含む方法に関するものでもある。
(a)前駆体、たとえば幹細胞における、1つまたは複数の膵臓遺伝子を活性化させること(任意的な工程、特に胚性幹細胞が使用される場合)、
(b)胚様体を形成するために当該細胞を凝集させること(任意的な工程、特に胚性幹細胞が使用される場合)、
(c)胚様体を培養すること、またはβ細胞分化が大幅に強化されることを特徴とする条件下で、ニュールツリンタンパク質産物および/またはその修飾因子/エフェクターを含有する特定の分化培地で成体幹細胞(たとえば導管細胞)を培養することと、
(d)インスリン産生細胞を同定及び選択すること。
【0040】
膵臓遺伝子の活性化には、発現制御配列、たとえば国際公開番号WO03/023018に記載の好適なトランスフェクションベクター上に動作可能に結合された膵臓遺伝子を用いた細胞のトランスフェクションを含むことが可能であり、該国際公開番号WO03/023018をここに参照することによって本明細書の一部となす。好ましい膵臓遺伝子の例としては、Pdx1、Pax4、Pax6、neurogenin 3(ngn3)、Nkx6.1、Nkx6.2、Nkx2.2、HB9、B2/ニューロD、Isl1、HNF1-α、ヒトまたは動物由来のHNF1-βおよびHNF3が挙げられる。個々の遺伝子は、個々または少なくとも他の1つの遺伝子と併用して使用することができる。Pax4は特に好ましい。
【0041】
ニュールツリン産物、たとえばニュールツリンタンパク質または核酸生成物は、好ましくは組換え技術を介して作られる。その理由は、かかる方法が高量のタンパク質を高い純度で実現する能力を持つと同時に、細菌細胞系、植物細胞系、哺乳動物細胞系、または昆虫細胞系で発現される生成物に限定されないためである。
【0042】
ニュールツリンタンパク質産物
組換え型ニュールツリンタンパク質産物形態には、タンパク質のグリコシル化型および非グリコシル化型が含まれる。一般に、組換え技術に含まれるのは、ニュールツリンタンパク質産物をコードしている遺伝子の単離、好適なベクターおよび/または細胞型における遺伝子のクローニング、所望変異体をコード化する必要がある場合の遺伝子の修飾、およびニュールツリンタンパク質産物を作るための遺伝子の発現である。
【0043】
別法として、所望ニュールツリン産物をコードするヌクレオチド配列を化学的に合成してもよい。ニュールツリン産物は、選択細胞によるタンパク質産物の産生を促進するためになされた遺伝暗号または対立遺伝子変異または改変の変性に起因するコドン使用頻度によって異なるヌクレオチド配列を用いて発現することが可能であると考えられる。
【0044】
Kotzbauer らの Nature 384:467-470 では、ニュールツリンタンパク質の、マウスcDNAおよびアミノ酸配列と、ヒトcDNAおよびアミノ酸配列の同定が記述されている。本発明に係るニュールツリン産物は、種々の手段によって単離または生成することができる。ニュールツリン産物を作るための有用な例示方法は特許出願WO97/08196に記載されているので、ここにその開示を参照することにより、本明細書の一部となす。また、同文書には、種々のベクター、宿主細胞、およびニュールツリンタンパク質の発現のための培養増殖条件、ならびにニュールツリンタンパク質産物バリアントの合成方法も記載されている。大腸菌内におけるニュールツリンタンパク質産物の発現に好適な追加ベクターは、特許番号EP0423980に開示されているので、ここに参照することにより、本明細書の一部となす。
【0045】
精製ニュールツリンの分子量は、生物学的活性型のタンパク質がジスルフィド結合二量体であること指摘する。細菌系における発現後に単離された物質は本質的に生物学的不活性であり、モノマーとして存在する。生物学的活性なジスルフィド結合二量体を作るためにはリフォールディングを行う必要がある。細菌系で発現ニュールツリンのリフォールディングと成熟に好適なプロセスは、国際公開番号WO93/06116に記載の方法と実質的に同様である。また、ニュールツリン活性定量のための標準インビトロアッセイは、国際公開番号WO93/06116および米国特許申請番号08/535,681に記載のようにGDNF活性定量法と実質的に同様であるので、ここに参照することにより、本明細書の一部となす。
【0046】
ニュールツリン産物バリアントは、適切なヌクレオチド変化をポリペプチドをコードするDNAに導入することによって、または所望ポリペプチドのインビトロ化学合成によって調製する。当業者であれば当然のことながら、欠損、挿入、および置換の多くの組み合わせが可能であり、その結果、ニュールツリン生物学的活性を示すタンパク質産物バリアントを得ることができる。
【0047】
1つまたは複数の選択アミノ酸残基の置換、挿入または欠損のための変異誘発技術は、当業者に公知である(たとえば米国特許4,518,584であり、ここにその開示を参照することにより、本明細書の一部となす。)
ニュールツリン置換変異体では、少なくとも1つの、ヒトまたはマウスのニュールツリンアミノ酸配列のアミノ酸残基が除去され、異なる残基がその場所に挿入されている。かかる置換変異体には、種集団における天然ヌクレオチド配列変化を特徴とする対立遺伝子変異体が含まれるが、その結果としてアミノ酸変化が生じるかどうかは分からない。
【0048】
また、ニュールツリンタンパク質産物の化学修飾した誘導体は、本明細書中での開示を所与として、当技術分野技能のうちの1つによって調製することが可能である。誘導体化に最も好適な化学的部分には、水性ポリマーが含まれる。生理環境などの水環境では付着するタンパク質が沈着しないため、水性ポリマーが望ましい。望ましくは、該ポリマーは、治療薬または治療組成物の調製に薬理学的に許容されるであろう。当業者であれば、該ポリマー/タンパク質複合物が治療的に使用できるかどうかを決定し、使用できる場合には、望ましい投与量、循環時間、タンパク質分解(プロテオリシス)耐性、および他の考慮事項などに基づいて所望ポリマーを選択できるであろう。特に本発明でも使用に好適な水溶性ポリマーはポリエチレングリコールである。受容体結合に重要な残基での結合は、受容体結合が望まれる場合には回避する必要がある。N末端が化学修飾されたタンパク質が特に望まれる場合もあろう。
【0049】
本発明では、少なくとも1つのポリエチレングリコール分子に結合する原核生物発現ニュールツリン、またはその変種である誘導体の使用法、ならびに、アシルまたはアルキル結合を介して1つまたは複数のポリエチレングリコール分子に結合するニュールツリン、またはその変種の使用法を検討するものである。ペグ化の実行は、当技術分野で公知の任意のペグ化反応によって行うことができる。たとえば、 Focus on Growth Factors, 3 (2):4-10, 1992 と、 EP0154316(ここにその開示を参照することにより、本明細書の一部となす)と、 EP0401384と、 ペグ化に関係する本明細書で引用した他の刊行物を参照すること。
【0050】
また、本発明は、少なくとも1つの疎水性残基、たとえば脂肪酸分子に結合する原核生物発現ニュールツリン、またはその変種である誘導体の使用法、ならびに、1つまたは複数の疎水性残基に結合するニュールツリン、またはその変種の使用法も開示するものである。たとえば、国際公開番号WO03/010185として公表された特許出願(ここに参照することにより、本明細書の一部となす)では、所望ポリペプチドの前駆体分子を発現することによって、形質転換された宿主細胞内でアシル化ポリペプチドを作るための方法が記述されている(該ポリペプチドは次いで、引き続くインビトロ工程においてアシル化される)。
【0051】
ニュールツリンタンパク質産物をコードするポリヌクレオチド
本発明はさらに、組換え産物であるか天然産物であるかを問わず、ニュールツリンタンパク質産物をコード化するポリヌクレオチドを提供する。
【0052】
ニュールツリンタンパク質産物をコードする核酸配列は、限定するものではないが、たとえば化学合成、cDNAまたはゲノムのライブラリースクリーニング、発現ライブラリースクリーニング、および/またはcDNAのPCR増幅をはじめとする種々の方法で容易に得ることが可能である。これらの方法およびかかる核酸配列の単離に有用な他の方法には、たとえば、Sambrook らによる (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)、Ausubel らによる、版(Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols Press, 1994)、および Berger と Kimmel による(Methods in Enzymology: Guide to Molecular Cloning Techniques, vol. 152, Academic Press, Inc., San Diego, CA, 1987)が挙げられる。また、ニュールツリンタンパク質産物をコード化する核酸配列化学合成を、Engels らによって示された(Angew. Chem. Intl. Ed., 28:716-734, 3 0 1989)などの当技術分野で公知の方法を用いて実現することもできる。
【0053】
本発明の範囲内に含まれるのは、天然シグナル配列および他のプレプロ配列を有するニュールツリン産物ポリヌクレオチド、ならびに、天然シグナル配列が削除され、異種シグナル配列で置換されていることを特徴とするポリヌクレオチドである。選択される異種シグナル配列は、宿主細胞によって認識および処理(すなわちシグナルペプチダーゼによって切断)されるシグナル配列である必要がある。天然ニュールツリンシグナル配列を認識および処理しない原核生物宿主細胞の場合、該シグナル配列は、たとえばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、または熱安定性エンテロトキシン11リーダーからなる群から原核生物のシグナル配列によって置換される。酵母分泌に関しては、天然ニュールツリンシグナル配列を酵母インベルターゼ、α因子、または酸ホスファターゼリーダーによって置換することができる。哺乳動物細胞発現では、他の哺乳動物シグナル配列が好適である場合もあるが、天然シグナル配列で十分である。
【0054】
発現ベクターおよびクローニングベクターには通常、1つまたは複数の選択される宿主細胞内で該ベクターの複製を可能にする核酸配列が含まれる。
【0055】
ニュールツリン産物の医薬組成物
ニュールツリン産物の医薬組成物には通常、1つまたは複数の薬理学的および生理的に許容される製剤との混合物中ニュールツリン産物の治療有効量が含まれる。該活性成分に加えて、ニュールツリン産物の医薬組成物は、該活性化合物を薬理学的に使用できる製剤製造過程を促進する賦形剤および助剤を含む、薬理学的に許容される好適な担体を含有することができる。製剤技術および投与技術に関する詳細は、Remington's Pharmaceutical Sciences の(Maack Publishing Co., Easton, Pa.)の最近版に記載されており、ここにその開示を参照することにより、本明細書の一部となす。
【0056】
製剤された該治療組成物は、溶液、懸濁液、ゲル、エマルジョン、固体、または脱水粉末または凍結乾燥粉末として滅菌瓶に保管することができる。かかる製剤は、すぐにでも使用できる形態、または、たとえば、投与に先立って再構成を必要とする凍結乾燥形態で保管することができる。最適な医薬品製剤は、当業者であれば、投与経路および所望投与量などを考慮して決定できるであろう。かかる製剤は、現ニュールツリンのタンパク質、変異体および誘導体の物理的状態、安定性、インビボ放出速度、およびインビボ・クリアランス速度に影響を及ぼし得る。徐放製剤、噴霧吸入、または経口で有効な製剤などのその他の効果的な投与形態も想定される。
【0057】
たとえば、持続放出製剤では、ニュールツリン産物は、高分子化合物(ポリ乳酸酸、ポリグリコール酸など)またはリポソームの粒子調製に結合されるか、または取り込まれる。
【0058】
ニュールツリン産物の投与と送達
当業者には周知のように、ニュールツリン産物投与は、任意の好適な手段、好ましくは腸投与または非経口投与にまたは膵臓に直接的に局所投与によって行うことが可能である。体重、体表面積または臓器の大きさを考慮して、特定の投与量を算定することもできる。前記製剤のそれぞれに関与して、治療に適切な投与量を決定するために必要な精密計算は、当業者によって日常的に行われており、日常的に行われる作業領域範囲内にある。適切な投与量は、適切投与量反応データと併せて利用される投与量決定のために確立されているアッセイの使用を通して確認することができる。上記状態を治療するための方法に関与する最終投与計画は、薬物作用を修飾する種々の要因、たとえば、患者の年齢、状態、体重、性別および食習慣、感染の重症度、投与時間および他の臨床因子を考慮して、主治医によって決定されるであろう。諸研究が行われるにつれて、種々の疾患および状態を治療するための適切な投与量に関して、さらなる情報が出現するであろう。
【0059】
ニュールツリン産物の連続投与または継続送達が所与の治療に有益であり得ることも想定される。連続投与は、輸液ポンプなどの機械的手段を介して達成することが可能であるが、他方式の連続投与または近連続投与も実践可能であると考えられている。たとえば、化学的誘導体化またはカプセル化により、継続的存在効果を有するタンパク質の持続放出型を、決定された投与計画に基づいて、予測可能な量で得ることが可能である。したがって、ニュールツリンタンパク質産物には、かかる連続投与を達成するために、誘導体化あるいは別の方法で製剤されるタンパク質が含まれる。
【0060】
また、ニュールツリン産物細胞療法、すなわちニュールツリンタンパク質産物を作る細胞の膵臓移植も考えられる。この実施形態では、ニュールツリンタンパク質産物の生物学的活性化型を合成および分泌する能力のある細胞の患者への移植を必要とする。かかるニュールツリンタンパク質産物を作る細胞は、ニュールツリンタンパク質産物の天然生成体であっても良いし、または該タンパク質を発現するために改変される細胞であっても良い。かかる改変細胞には、その発現および分泌の促進に好適なベクター内で、所望ニュールツリンタンパク質産物をコードする遺伝子による形質転換によってニュールツリンタンパク質産物を作る能力が増大されている組換え細胞が含まれる。外来種のニュールツリンタンパク質産物を投与されている患者の免疫学的反応の可能性を最小化するために、該ニュールツリンタンパク質産物を作る細胞がヒト由来であり、そしてヒトニュールツリンタンパク質産物を作ることが好ましい。同様に、該ニュールツリンタンパク質産物を作る組換え細胞がヒトニュールツリンタンパク質産物をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換されることが好ましい。移植細胞をカプセル化して、周囲組織の浸潤を回避することも可能である。ヒトまたは非ヒト動物細胞は、生物学的に適合な重合体の半透過性封入体または、ニュールツリンタンパク質産物の放出を許容するが、患者の免疫系または、周囲組織からの他有害因子による細胞破壊を防止する膜において、患者に移植しても良い。
【0061】
あるいは、ニュールツリンタンパク質産物分泌細胞を、局所麻酔を用いて経皮経肝的アプローチを介して、必要患者の門脈内に導入することも可能である。好ましくは、体重1キログラム当たり3000から100000個に相当する分化したインスリン産生細胞を投与する。かかる外科的技術は当分野で公知であり、can be されたなしで/せずに任意の必要以上の実験なしに適用できるものである。Pyzdrowski らの 1992, New England J. Medicine 327:220-226; Hering らの Transplantation Proc. 26:570-571, 1993; Shapiro らの New England J. Medicine 343:230-238, 2000 を参照。
【0062】
さらなる好適な実施形態では、ニュールツリンタンパク質産物を、インスリン産生細胞の分化を促進するために、前駆体、たとえば幹細胞に直接的に送達することができる。たとえば、タンパク質送達は、ポリカチオンリポソーム(Sells らの (1995) Biotechniques 19:72-76)、Tat媒介タンパク質形質導入(Fawell らの (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. 米国特許 91:664-668)および、B型肝炎ウイルスのPreS2領域に由来する細胞透過性モチーフにタンパク質を融合すること(Oess および Hildt (2000) Gene Ther. 7:750-758)によって実現することができる。かかるタンパク質の細菌、酵母または真核細胞からの調製、産生および精製は、当業者に周知のものである。本発明の実施形態におけるニュールツリンは、好ましくは1〜500ng/ml、より望ましくは10〜100ng/ml、たとえば約50ng/mlの濃度で添加することが可能である。
【0063】
さらに、本発明は、分化した前駆体細胞、たとえばインスリン産生を示す幹細胞、具体的には上記方法によって入手可能なインスリン産生細胞株を含む細胞調製に関するものである。該インスリン産生細胞は、β細胞分化に関与する少なくとも1つの膵臓遺伝子の安定発現または一過性発現を示す。該細胞は、好ましくはヒト幹細胞に由来するヒト細胞である。治療に応用される場合は、患者の成体幹細胞から取り出したヒト自家細胞の産生が特に好ましい。しかしながら、該インスリン産生細胞は非自己細胞由来であっても良い。必要があれば、非所望の免疫反応は、カプセル化、免疫抑制および/または調節によるか、または該細胞の非免疫抗原性に基づいて回避することができる。
【0064】
本発明のインスリン産生細胞は、好ましくは天然β細胞に酷似する特徴を示す。さらに本発明の細胞には、好ましくはグルコースに敏感に反応する能力がある。27.7mMのグルコース添加後、インスリン産生は少なくとも2倍、好ましくは3倍増強される。さらに、本発明の細胞には、マウスへの移植後に、血糖値を正常化させる能力がある。
【0065】
本発明にはさらに、入手可能または本発明に係る方法によって得られる膵機能細胞が包含される。該細胞は、好ましくは哺乳動物、たとえばヒト由来細胞である。好ましくは、当該細胞は、膵β細胞、たとえば成熟膵β細胞または膵β細胞に分化した幹細胞である。かかる膵β細胞は、好ましくはグルコースに反応してインスリンを分泌する。また、本発明は、グルコースに反応してグルカゴンを発現する膵機能細胞を提供する。本発明の細胞を含む製剤は、α細胞、δ細胞および/またはPP細胞などの他の内分泌細胞型の性質を持つ細胞をさらに含有する。これらの細胞は好ましくはヒト細胞である。
【0066】
本発明の細胞調製は、好ましくは、薬理学的に許容される担体、希釈液および/またはアジュバントと共に該細胞を含む医薬組成物である。該医薬組成物は、好ましくは膵臓の疾患、たとえば糖尿病の治療または予防に使用される。
【0067】
本発明によれば、ニュールツリン処理された機能インスリン産生細胞は、好ましくは肝内に、必要とする個々の膵臓に直接的に、または他の方法によって移植することが可能である。あるいは、かかる細胞を、任意の部位、より望ましくは膵臓の近傍、または膀胱、または肝臓、または皮下で個々の体に導入することができる、移植可能なカプセルに封入することも可能である。細胞を個人に導入する方法は、当業者には公知であり、限定するものではないが、注射投与、静脈内投与または非経口投与が含まれる。単回投与、反復投与、連続投与または間欠投与を誘起することができる。該細胞は、いくつかの異なる部位、たとえば限定するものではないが、膵臓、腹腔、腎臓、肝臓、腹腔動脈、門脈または脾臓のいずれかに導入することができる。また、該細胞は個々の膵臓に沈着させることも可能である。
【0068】
生細胞の膜カプセル化方法論は当業者にはよく知られており、カプセル化細胞の調製およびその患者への移植は、必要以上の実験無しに達成することができる。たとえば、特にここに参照することにより、本明細書の一部となす米国特許第4,892,538号、第5,011,472号、および第5,106.627号を参照。生細胞をカプセル化するためのシステムは、Aebischer らのPCT申請番号WO91/10425に記載されているので、ここに参照することにより、本明細書の一部となす。また、特にここに参照することにより、本明細書の一部となす Aebischer らのPCT申請番号WO91/10470、Winn らの、Exper. Neurol. の 1 13:322-329, 1991、Aebischer らの、Exper. Neurol., 11 1:269-275, 1991; Tresco らの、ASAIO, 38:17-23, 1992 も参照のこと。また、リポソーム担体、生体内分解性粒子またはビーズおよび蓄積注射などの種々の他持続送達手段または制御送達手段を処方するための技術も当業者に公知である。
【0069】
別の実施形態では、キソビボでの遺伝子療法も想定されている。すなわち、患者自身の細胞をエキソビボで転換させ、ニュールツリンタンパク質産物またはニュールツリン発現を促進するタンパク質を作り、直接的に再移植することが可能である。たとえば、患者から取り出した細胞を培養し、適切なベクターで形質転換させることが可能である。選択的繁殖/拡大段階後、該細胞を同一患者の体、具体的には、該細胞が所望ニュールツリンタンパク質産物を作り放出する膵臓に移植し直すことができる。トランスフェクションおよびリポソーム注射による送達は、当分野で公知の方法を用いて達成することが可能である。上記治療方法のいずれも、たとえば、哺乳類イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ウサギ、サルなど、および最も好ましくはヒトを含めた任意の好適な被検体に適用することが可能である。
【0070】
また、核酸コンストラクトの局所注射または他の適切な送達方法を介してニュールツリンタンパク質産物を標的膵臓細胞にコードしている遺伝子導入することによって、インビボでのニュールツリン産物遺伝子療法も想定される(Hefti, J. Neurobiol., 25:1418-1435, 1994)。たとえば、ニュールツリンタンパク質産物をコードする核酸配列は、膵臓細胞への送達のために、アデノ関連ウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターに含有されることが可能である。代替ウィルスベクターには、限定するものではないが、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルスおよび乳頭腫ウイルスベクターが含まれる。インビボまたはエキソビボのいずれかの適切な物理的移動も、リポソーム-媒介移動、直接注射(裸のDNA)、受容体媒介移動(リガンド-DNA複合体)、電気穿孔法、リン酸カルシウム沈殿またはマイクロパーティクル(微粒子)照射(遺伝子銃)によって達成することができる。
【0071】
シクロスポリンなどの免疫抑制薬も、必要とする患者に投与して、移植片対宿主反応を抑制することができる。本発明の方法によって得られた細胞を用いた同種移植も、少なくとも部分的な膵臓機能を複数のレシピエントにおいて再生するために1つの健康なドナーが十分な細胞供給し得るという理由から、有用である。
【0072】
ニュールツリン核酸とタンパク質およびそのエフェクター/修飾因子は、単独療法として、または他の薬剤を用いた併用療法としてのいずれの療法によっても投与することが可能である。たとえば、それら(ニュールツリン核酸とタンパク質およびそのエフェクター/修飾因子)は、膵臓の疾患および/または肥満症および/または代謝症候群の治療または予防に好適な他の薬剤、特に、インスリン産生細胞の前駆体細胞からの分化を促進および/または誘導するために好適な他の薬剤と共に投与することが可能である。さらに、それら(ニュールツリン核酸とタンパク質およびそのエフェクター/修飾因子)は、たとえば抗体、ポリペプチドおよび/またはペプチド性または非ペプチド性低分子物質などの免疫抑制活性を有する薬剤と共に投与することも可能である。免疫抑制薬の好ましい例を以下の第1表に記載する。
【0073】
第1表 免疫抑制のための典型的な薬剤
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
該併用療法には、治療期間中の薬物同時投与および/または該治療期間における異なる時間間隔中の単一薬物の分離投与を含むことができる。
【0079】
ニュールツリンタンパク質産物および/または医薬組成物におけるその修飾因子/エフェクターの、それを必要とする被検体、具体的にはヒト患者への投与は、少なくとも部分的な膵臓細胞の再生を引き起こす。好ましくは、これらの細胞は、糖尿病状態の改善に寄与するインスリン産生β細胞である。この組成物の、たとえば、短期間または定期的な投与により、β細胞量の増加を実現することもできる。これは、体が糖尿病状態を部分的または完全に逆転させる上で効果がある。被検体のグルコース恒常性が改善するにつれて、投与製剤の強度を低下させることが可能である。少なくとも一部の事例では、投与を完全に停止することができ、該被検体はさらなる治療を受けることなしに、正常量のインスリンを引き続き産生する。それによって、該被検体を治療することができるばかりでなく、糖尿病状態を完全に治癒することもできる。しかしながら、β細胞量における中程度の改善でさえも、必要な外因性インスリン量の減少、糖血症制御の改善、および引き続く糖尿病合併症の低減をもたらすことができる。別の実施例では、本発明の組成物はまた、β細胞が再生される場合に、膵臓癌、異形成、または膵炎などの他膵臓疾患を有する患者の治療に効力を持つ。
【0080】
さらなる実施形態では、本発明によって、β細胞分化、インスリン分泌および/またはグルコース応答性を促進する化合物、より具体的には、ニュールツリン発現量または機能を増加させる化合物の同定および/または特徴付けのための細胞産生が可能になる。この方法は、特に診断用途および薬物開発またはスクリーニングのためのインビボ試験に好適である。所定の化合物が好適な細胞に加えられ、ニュールツリン発現または機能が定量される。あるいは、所定の化合物が、ニュールツリン処理された細胞に加えられ、細胞分化および/またはインスリン産生への影響が定量される。好ましくは、分化したインスリン産生細胞を使用する。処理された細胞内のインスリン値(濃度)は、たとえば酵素免疫測定法(ELISA)またはラジオイムノアッセイ(RIA)による定量化によって決定できる。この方法を用いると、多数の化合物をスクリーニングすることができ、ニュールツリン発現を誘導するか、またはニュールツリン活性を支持し、結果としてβ細胞分化および/またはインスリン分泌を促進する化合物を容易に同定できる。
【0081】
ハイスループットスクリーニング法では、該細胞は、β細胞分化に関与する遺伝子プロモーター、たとえば好ましくはPax4プロモーターの調節管理下で、DNAコンストラクト、たとえばレポーター遺伝子(たとえばlacZ遺伝子または該GFP遺伝子)を含有するウィルスまたは非ウィルスベクターをトランスフェクトされる。トランスフェクトされた該細胞はアリコットに分かれており、個々のアリコットは試験物質、たとえば候補1、候補2、および候補3と接触する。該レポーター遺伝子活性は、該試験化合物の能力に相当してβ細胞分化を誘導する。
【0082】
さらなる実施形態(上記のようにハイスループットスクリーニングと組み合わせることができる)では、培養液処理量の確認が実行される。その確認では、該試験化合物は培養されている細胞に加えられ、ニュールツリン発現および/またはインスリン産生が定量される。Pax4プロモーターがβ細胞再生のためにマーカーとして使用される、上記で概説した細胞ベースのアッセイなどの初期ハイスループットアッセイに続いて、当該化合物を胚様体の培養培地に加えることを含むバリデーションアッセイでは、β細胞分化を誘導する候補分子の活性が試験される。次いで、化合物の有効性を査定するため、インスリン産生細胞への分化が、野生型および/またはPax4発現細胞に対して比較することによって評価される。
【0083】
実施例
本発明のより良い理解とその多くの利点は、実例として示した以下の実施例から明らかであろう。
【0084】
実施例1 Pax4遺伝子を発現するES細胞の作成。
【0085】
マウスR1ES細胞(Nagy らの (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 90: 8424-8428)を、ホスホグリセラートキナーゼIプロモーター(pGK-1)制御下のCMVプロモーターおよび該ネオマイシン耐性遺伝子の制御下で、Pax4遺伝子を用いて電気穿孔した。
【0086】
ES細胞を、4.5g/lのグルコース、10-4Mのβメルカプトエタノール、2nMのグルタミン、1%非必須アミノ酸、1nMのピルビン酸ナトリウム、15%FCSおよび500U/mlの白血病抑制因子(抑制因子)を含有するダルベッコ変法イーグル培地内で培養した。つまり、0.8mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁された約107個のES細胞を、25μg/mlの線形発現ベクター(Joyner, Gene Targeting: A Practical Approach, Oxford University Press, New York, 1993)を用いた電気穿孔法に供した。電気穿孔法の5分間後、ES細胞を、100μg/mlのマイトマイシンCを用いた処理によって予め不活化された線維芽細胞の支持細胞を含有するペトリ皿にプレーティングした。電気穿孔法の1日後、培養培地を450μg/mlのG418を含有する培地に変更した。耐性クローンを別々に単離して、選択培地を加えた後に14日間培養した。細胞は常に37?℃、5%二酸化炭素にて培養した。これらの未処理および未分化状態のES細胞を、図1に示した実験の対照として使用した(図1では「ES」と呼ぶ)。
【0087】
実施例2 ES細胞のインスリン産生細胞への分化(図1では「対照」と呼ぶ)
Pax4(図1では「Pax4ES」)を恒常的に発現するES細胞株R1(野生型、図1では「wt-ES」)およびES細胞を、ここに参照することによって本明細書の一部となす、国際公開番号WO02/086107として公表された特許出願PCT/EP02/04362、および Blyszczuk らによる 2003, Proc Natl Acad Sci U S A. 100: 998-1003 に記載のように、下記および第2表の培地を用いて、懸滴法によって胚様体(EB)として培養した。該胚様体を2日間懸滴培養して形成せしめ、次いで移動し、ペトリ皿中で3日間懸濁培養した。5日目で、EBを、イスコーブ変法ダルベッコ培地をベースに調製した分化培地を含有するゼラチンコーティングの6cmの細胞培養皿に別々にプレーティングした。解離および14日目での再プレーティング後、ダルベッコ変法イーグル培地:栄養素混合物F-12(DMEM/F12)をベースに調製した分化培地で、細胞を最大で40日間まで培養した。
【0088】
実施例3 ES細胞のインスリン産生細胞への分化後の膵臓特異的遺伝子の発現
膵臓特異的遺伝子の発現量を半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析によって測定した。胚様体形成後、分化した野生型ESおよびPax4ES細胞を回収し、溶解緩衝液(4Mのグラニジウムチオシアナート、25mMのクエン酸ナトリウム、pH7と、0.5%サルコシル、0.1Mのβメルカプトエタノール)中で懸濁した。全RNAを、Chomczynski & Sacchi の 1987, Anal. Biochem. 162: 156-159)によって記述された一段階抽出法によって単離した。ポリTテールプライマーオリゴ(dT)16(Perkin Elmer 社)を用いてmRNAを逆転写し、結果として得られたcDNAを、β細胞グルコーストランスポーターGlut2およびインスリンの転写物と相補的かつ同一のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて増幅した。ハウスキーピング遺伝子βチューブリンを内部標準として使用した。逆転写(RT)を、MuLV逆転写酵素(Perkin Elmer 社)を用いて行った。多重PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を、前出の Wobus らの 1997に記載のように、AmpliTaq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer 社)を用いて実行した。Glut2およびインスリンをコードする遺伝子のmRNAレベルを、製造者の指示に従って Dynalbeads mRNA DIRECT マイクロキット(Dynal 社)を用いて分析した。
【0089】
各PCR反応の3分の1を電気泳動によって分離した。ゲルの臭化エチジウムの蛍光シグナルを、特別ソフトウェア(TINA2.08e)によって分析した。臭化エチジウムの蛍光シグナル強度を各ピークのカーブ下面積から定量し、標的遺伝子データをハウスキーピング遺伝子βチューブリンの発現に対応する変化率としてプロットした。
【0090】
結果は、β細胞分化機能のマーカーが、分化した野生型ES細胞内よりも、Pax4+分化ES細胞内で高いレベルで発現し、膵臓発生調節遺伝子の活性化が、野生型ES細胞に対するよりもより効果的に分化させることを実証することを示す(図1)。分化した幹細胞内のGlut2発現は、ホルモン産生細胞がグルコースに応答する能力のあることを指摘する。分化した幹細胞におけるかなりの量のインスリン発現は、分化した細胞がβ細胞と同様の表現型を示すことを指摘する。
【0091】
実施例4 ニュールツリンによるインスリン産生細胞の分化誘導(図1ではEB+NTNと呼ぶ)
インビトロでβ細胞を分化誘導するニュールツリンの効果を研究するために、本発明者等は、実施例1に記載のようにサイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター/エンハンサー領域制御下で、Pax4を発現する安定したマウス胚性幹(ES)細胞を作った。次いで、Pax4細胞および野生型ES細胞を懸滴または撹拌培養で培養して、胚様体を形成させた。PBS-01%BSA中、50ng/mlのニュールツリン溶液存在下で、胚様体を形成した。引き続いて、胚様体プレーティングし、この場合も12日目まで隔日にニュールツリンを添加し、その後で酵素的に解離し、再プレーティングした。解離後に細胞を、種々の成長因子を含有する分化培地で培養した(詳細は第2表を参照)。ニュールツリンを米国 RDI Research Diagnostics 社から、注文番号 RDI-4511 で取得した。かかる条件下でインスリンの発現を、2つの別例においてニュールツリンによって有意に誘導した(図1Aおよび1B)。加えて、2つの別例における分化培地へのニュールツリンの添加は、グルコーストランスポーターGlut-2の発現を大幅に強化しなかった(図1Cおよび1D)。ちなみに、野生型ES細胞は、同一段階でインスリン産生細胞をまったく含有せず、僅かな数のGlut-2発現細胞のみを含有するにすぎなかった。これらのデータは、ニュールツリンが、野生型ES細胞と比較して、ES細胞のインスリン産生細胞への分化を有意に促進および強化できることを実証する。
【0092】
図1に示した結果は明らかに、ニュールツリンが胚様体に添加される場合の、インスリン分泌(図1Aおよび1B)細胞およびグルコース応答性(図1Cおよび1D)細胞の分化が有意に誘導されることを実証する。したがって、ニュールツリンは、インスリン産生β細胞の分化に強力な誘導作用を持つものである。
【0093】
第2表 ニュールツリンによるインスリン産生細胞の分化誘導プロトコル
培地B1、B2およびB27補充(NA-ニコチン酸アミド)は、Rolletschek らの 2001, Mech. Dev. 105: 93-104 に記載されている。
【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
実施例5 分化したインスリン産生細胞の機能的特徴
1つの重要なβ細胞の性質は、グルコース応答性インスリン分泌である。Pax4由来のインスリン産生細胞がこのグルコース応答性を有していたかどうかを確認するため、インビトロで分化細胞のグルコース応答測定法を行った。該測定法の当日、12または6ウェルプレートの分化培地を除去し、2.8mMのグルコースで補充した Krebs Ringer Bicarbonate Hepes Buffer (KRBH、125mMの塩化ナトリウム、4.7mMの塩化カリウム、1mMの塩化カルシウム、1.2mMのリン酸二水素カリウム、1.2mMの硫酸マグネシウム、5mMの炭酸水素ナトリウム、25mMのHEPES、0.1%BSA)を用いて該細胞を3回洗浄した。プレインキュベーションのため、細胞を、KRBH+2.8mMのグルコース中で2時間、37℃にてインキュベートした。その後細胞を、750μl〜1mlのKRBH+2.8mMのグルコース中で1時間、37℃にてインキュベートした。その上澄みは、基礎インスリン分泌測定のために保存した。インスリン放出を促進するため、16.7mMのグルコースを含有する750μl〜1mlのKRBHを該細胞に添加した。37℃にて1時間のインキュベーション後、グルコース誘導性インスリン分泌を測定するため、KRBHを回収し、該細胞を、酸/エタノールを用いて抽出した(Irminger, J.-C. らの 2003, Endocrinology 144: 1368-1379 も参照)。インスリン値(濃度)を、製造者の提案に従ってマウスインスリンの酵素免疫測定法(ELISA)(Mercodia)によって定量した。適切なインスリン放出のために、非必須アミノ酸(Gibco、原液1:100)および前述の付加因子で補充したグルコース濃度1g/l(Gibco)のDMEMをベースにした代替培地を使用した。かかる培地は、該細胞を使用する1〜6日間前に加えることができる。
【0097】
基礎インスリン分泌は、野生型および細胞ニュールツリン誘導性インスリン産生細胞が両方共に低グルコース濃度(2,8mM)で培養されるときに認められる。しかしながら、ニュールツリン誘導性インスリン産生細胞は、グルコース刺激に対して高度に反応する。高グルコース濃度(16.7mM)存在下では、ニュールツリンES由来のインスリン産生細胞におけるインスリン分泌の増加が認められる。
【0098】
実施例6 STZ糖尿病マウスにおけるPax4ES由来のインスリン産生細胞の移植。
【0099】
糖尿病を改善および治癒するためのニュールツリン誘導性インスリン産生細胞の治療可能性は、該細胞のストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスへの移植によって検討することができる。ストレプトゾトシンは、特定の投与量で投与されると、β細胞に対して細胞毒性を示す抗生物質である(Rodrigues らの Streptozotocin-induced diabetes, McNeill (ed) Experimental Models of Diabetes, CRC Press LLC, 1999 を参照)。その毒性効果は急速であり、48時間以内に重度な糖尿病を動物に与える。
【0100】
非絶食雄BALB/cマウスにSTZを投与して、STZ処理後に高血糖を引き起こさせた。マウスの血糖値が3日間以上連続して10mmol/lを超える場合、該マウスが糖尿病であると見なした。細胞を、動物の腎臓被膜下と脾臓内に移植した。インスリン産生細胞が存在することを、移植組織の免疫組織学的分析によって確認した。結果は、移植細胞が糖尿病動物の血糖値を正常化できることを実証すると期待されるものである。
【0101】
上記諸元で言及したすべての刊行物および特許は、ここに参照することによって本明細書の一部となす。本発明に記載の方法および体系の種々の修正形態および変形形態は、当業者であれば当然のことであり、本発明の範囲および真の趣旨から逸脱することなく行い得る。本発明について説明するにあたり、特定の好適な実施例に関連して説明を行ったが、本発明の特許請求の範囲が、かかる特定の実施例に不当に制限されるべきではないことは当然のことながら共通認識とする。実際に、分子生物学または関連分野における当業者ならば当然のことながら、本明細書に記載した本発明を実施方法の種々の修正形態は以下の特許請求の範囲内にあるものとする。
【0102】
実施例7 mDG770トランスジェニックコンストラクトの作成
mDG770の完全オープンリーディングフレーム(ORF)を、ゲートウェイシステム(Invitrogen 社)を用いて、ラットインスリンプロモーターII(Lomedico らの (1979) Cell 18: 545-558)の制御下でクローニングした。トランスジェニックコンストラクトの構造に関しては、図2も参照。
【0103】
実施例8 RIP-mDG770トランスジェニックマウスの作成
トランスジェニックコンストラクトDNA(実施例7を参照)を、標準技術(たとえば、Brinster らの (1985), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 4438-4442 を参照)を用いて C57/BL6 x CBA 胎仔(Harlan Winkelmann, Borchen, Germany)に注射投与した。mDG770導入遺伝子(実施例7を参照)を、当業者に公知の技術(たとえば、Gunnig らの (1987), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84,4831- 4835 を参照)を用いて、ラットインスリンプロモーターII(前出の Lomedico ら)の制御下で発現させた。この技術を用いて、いくつかの独立した創始系統(founderlines)を作成した。
【0104】
実施例9 RIP-mDG770トランスジェニックマウスの遺伝子型分析
遺伝子型決定法を、該尾端から単離されたゲノムDNAを用いて、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって行った。mDG770導入遺伝子を検出するため、導入遺伝子に特異的なフォーワードプライマー(5` tgc tat ctg tct gga tgt gcc 3`)およびmDG770導入遺伝子に特異的なリバースプライマー(5` aag gac acc tcg tcc tca タグ3`)を使用した。
【0105】
実施例10 TagMan分析を介したmDG770発現解析
該ラ氏島内mDG770導入遺伝子の発現をTagMan分析によって監視した。この分析には、トランスジェニックマウスから単離された膵島RNAに由来する25ngのcDNA、およびそれらの同腹仔、およびmDG770に特異的なプライマー/プローブペアを用いて、内因性、ならびに、遺伝子導入mDG770発現(mDG770-1フォーワードプライマー:5` GCC TAT GAG GAC GAG GTG TCC 3`、mDG770リバースプライマー:5` AGC TCT TGC AGC GTG TGG T 3`、mDG770プローブ:5' TCC TGG ACG TGC ACA GCC GC 3')を検出した。TagMan分析を、当業者に公知の標準技術を用いて行った。異所性導入遺伝子発現を、分析した4つのうちの3つのRIP-mDG770遺伝子導入創始系統(founderlines)から検出した。最も高い導入遺伝子発現量を示す2つの創始系統(founderlines)をさらなる分析に使用した。野生型動物と比較した、遺伝子導入動物のラ氏島内におけるmDG70発現に関しては図3も参照すること。
【0106】
実施例11 mDG770トランスジェニックマウスで行われる分析的操作方法
1ケージあたり3〜6匹のマウスを収容し、適時に給餌した。代謝血液パラメータを、尾静脈から単離された静脈血または眼窩(球)後出血を介して得られる静脈血を用いて決定した。血糖値を、ワンタッチ血糖測定器(LifeScan, Germany)を用いて測定した。mDG770トランスジェニックマウスは、野生型(wt)マウスと比較して、ランダムな低血糖値を示す(RIP-mDG770)。図4も参照のこと。
細胞からインスリン産生細胞の分化を促進および/または誘導する薬物製造のためのニュールツリン産物および/またはその修飾因子/エフェクターの使用法。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1A】インスリン産生細胞の分化のニュールツリン依存型誘導を示す
【図1B】インスリン産生細胞の分化のニュールツリン依存型誘導を示す
【図1C】インスリン産生細胞の分化のニュールツリン依存型誘導を示す
【図1D】インスリン産生細胞の分化のニュールツリン依存型誘導を示す
【図2】マウスのmDG770トランスジェニックコンストラクト構造を示す
【図3】異所性mDG770発現を伴うmDG770トランスジェニックマウスの膵島を示す
【図4】高脂肪(HF)食を与えた野生型マウス(wt)と比較した、無作為に給餌したDG770トランスジェニックマウス(RIP-mDG770)の血糖値を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体細胞からインスリン産生細胞の分化を促進および/または誘導する薬物製造のためのニュールツリン産物および/またはその修飾因子/エフェクターの使用法。
【請求項2】
前駆体細胞が幹細胞であることを特徴とする請求項1の使用法。
【請求項3】
幹細胞が胚細胞または体細胞の幹細胞であることを特徴とする請求項1の使用法。
【請求項4】
該幹細胞が哺乳動物由来、好ましくは、ヒト胎児の使用を除くことを条件に、ヒト由来であることを特徴とする請求項1〜3の任意の一項に記載の使用法。
【請求項5】
該前駆体細胞が膵臓遺伝子、具体的にはPax4遺伝子をトランスフェクトされていることを特徴とする請求項1〜4の任意の一項に記載の使用法。
【請求項6】
インスリン産生細胞の保護、生存および/または再生を促進する薬物製造のためのニュールツリン産物および/またはその修飾因子/エフェクターの使用法。
【請求項7】
該インスリン産生細胞がβ細胞であることを特徴とする請求項6の使用法。
【請求項8】
該インスリン産生細胞が哺乳動物由来、好ましくはヒト由来であることを特徴とする請求項6または7の使用法。
【請求項9】
該インスリン産生細胞が膵臓遺伝子、具体的にはPax4遺伝子をトランスフェクトされていることを特徴とする請求項6〜8の任意の一項に記載の使用法。
【請求項10】
β細胞の機能障害に伴う疾患の予防または治療のための請求項1〜9の任意の一項に記載の使用法。
【請求項11】
1型糖尿病、LADA、または進行した2型糖尿病に苦しむ患者におけるβ細胞変性の治療のための請求項10の使用法。
【請求項12】
β細胞変性を生じる危険のある患者、たとえば、限定するものではないが、1型または2型糖尿病、または初期段階のLADAに苦しむ患者におけるβ細胞変性の予防のための請求項10の使用法。
【請求項13】
ニュールツリン産物の発現量または機能に影響をおよぼすニュールツリン産物またはその修飾因子/エフェクターが下記の形態で患者に投与されることを特徴とする請求項1〜12の任意の一項に記載の使用法。
(i)医薬組成物として、たとえば、腸内投与、非経口投与または膵臓に直接的に局所投与される形態と、
(ii)ニュールツリンタンパク質産物発現細胞の移植を介する形態、および/または
(iii)遺伝子療法を介する形態。
【請求項14】
ニュールツリン産物またはその修飾因子/エフェクターが、β細胞の変性を治療するのに有用な別の医薬組成物、たとえば限定するものではないが、ホルモン、成長因子、または免疫調整剤と併用されることを特徴とする請求項13の使用法。
【請求項15】
ニュールツリン産物が、精製された天然、合成または組換え型のニュールツリンおよびその変種をはじめとするタンパク質であることを特徴とする請求項1〜14の任意の一項に記載の使用法。
【請求項16】
変異体が、挿入変異体、置換変異体、欠損変異体および/または化学修飾した誘導体、たとえば限定するものではないが、好ましくはGDNF-ファミリーからのニュールツリンおよび他のTGF-βタンパク質のハイブリッド選択されることを特徴とする請求項15の使用法。
【請求項17】
ニュールツリン産物が、GenBankアクセッション番号NP_004549として公表されたアミノ酸配列を有するヒトニュールツリン前駆体タンパク質、および/またはGenBankアクセッション番号NP_004549として公表されたニュールツリンタンパク質前駆体の切断によって生じる成熟ニュールツリンタンパク質産物に対して実質的に相同であるタンパク質またはペプチドより選択されることを特徴とする請求項15または16の使用法。
【請求項18】
ニュールツリン産物が、核酸、たとえばニュールツリンタンパク質産物をコードするRNAおよび/またはDNAであることを特徴とする請求項1〜17の任意の一項に記載の使用法。
【請求項19】
ニュールツリン産物が、他のタンパク質が好ましくは該GDNF-ファミリーまたはその核酸コーディングに属するような、ニュールツリンタンパク質産物および別のタンパク質のニュールツリンホモ二量体またはヘテロ二量体より選択されることを特徴とする請求項1〜18の任意の一項に記載の使用法。
【請求項20】
ニュールツリン産物が哺乳動物由来、好ましくはヒト由来であることを特徴とする請求項1〜19の任意の一項に記載の使用法。
【請求項21】
前駆体、たとえば幹細胞のインスリン産生細胞へのインビトロ分化が下記の工程を含むことを特徴とする請求項1〜20の任意の一項に記載の使用法。
a)前駆体細胞内の1つまたは複数の膵臓遺伝子を任意選択で活性化する工程と、
b)当該細胞を任意選択で凝集させ、胚様体を形成させる工程と、
c)ニュールツリンタンパク質産物を含有する特定の分化培地内で当該細胞または胚様体を培養する工程と、
d)インスリン産生細胞を同定するおよび任意選択する工程。
【請求項22】
ニュールツリン処理されたインスリン産生細胞が下記であることを特徴とする請求項21の使用法。
(i)グルコース応答する能力のあること、および/または
(ii)グルカゴンを発現する能力のあること。
【請求項23】
ニュールツリン処理されたインスリン産生細胞が、マウスへの移植後に血糖値を正常化する能力のあることを特徴とする請求項21〜22の任意の一項に記載の使用法。
【請求項24】
インビトロでニュールツリン処理された細胞の有効量が必要患者に移植されることを特徴とする請求項1〜23の任意の一項に記載の使用法。
【請求項25】
ニュールツリン発現の促進作用を含む請求項1〜24の任意の一項に記載の使用法であって、
インビトロでニュールツリンタンパク質産物を産生および分泌するように改変されている必要患者から取り出した細胞が該患者に再移植されることを特徴とし、および/または
必要患者の細胞が改変されて、インビボでニュールツリンタンパク質産物を産生および分泌することを特徴とすることを特徴とする請求項1〜24の任意の一項に記載の使用法。
【請求項26】
少なくとも1つのさらなる他薬剤と併用される、請求項1〜25の任意の一項に記載の使用法。
【請求項27】
膵臓の疾患および/または肥満症および/または代謝症候群の治療または予防に好適な少なくとも1つのさらなる薬剤と併用される、請求項26の使用法。
【請求項28】
前駆体細胞からのインスリン産生細胞の分化を促進および/または誘導に好適な少なくとも1つのさらなる薬剤と併用される、請求項27の使用法。
【請求項29】
免疫抑制活性を持つ少なくとも1つのさらなる薬剤と併用される、請求項26の使用法。
【請求項30】
細胞を機能膵臓細胞に分化または再生するための方法であって、該方法は下記工程を含む。(a)インビトロでニュールツリン有効量の存在下で、膵臓細胞に分化または再生される能力のある細胞を培養する工程、(b)によって、することが可能になる該細胞が成長して分化および/または少なくとも1つの膵臓機能を再生することを可能にする工程と、(c)分化または再生した膵臓細胞の有効量を、その必要患者への移植のために任意選択で調製する工程。
【請求項31】
該必要患者がヒト個体であることを特徴とする請求項30の方法。
【請求項32】
該必要患者が、膵臓細胞の(a)機能異常、(b)数の減少および/または(c)機能異常および数の減少を持つことを特徴とする請求項30または31の方法。
【請求項33】
当該必要患者が、1型糖尿病患者または2型糖尿病患者またはLADA患者であることを特徴とする請求項30〜32に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項34】
該膵臓細胞がインスリン産生細胞であることを特徴とする請求項30〜33に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項35】
該膵臓細胞が該膵島のβ細胞であることを特徴とする請求項30〜34に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項36】
工程(a)の細胞が、胚性幹細胞、成体幹細胞、または体細胞の幹細胞から選択されることを特徴とする請求項30〜35に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項37】
工程(a)の細胞が哺乳動物由来、ヒト胎児の使用を除くことを条件に、好ましくはヒト由来であることを特徴とする請求項31〜36に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項38】
ニュールツリンが1〜500ng/ml、好ましくは10〜100ng/ml、より望ましくは約50ng/mlの濃度で添加されることを特徴とする請求項30〜37に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも1つの膵臓機能が、グルコースおよびグルカゴン発現に反応してインスリン産生より選択されることを特徴とする請求項30〜38に記載の任意の一項に記載の方法。
【請求項40】
細胞を機能膵臓細胞に分化または再生するための方法であって、該方法は下記工程を含む。ニュールツリン産物またはニュールツリン産物を発現する能力のある細胞の有効量を、その必要患者に投与するために調製する工程。
【請求項41】
ニュールツリン産物がニュールツリンタンパク質産物であることを特徴とする請求項40の方法。
【請求項42】
ニュールツリン産物がニュールツリンタンパク質産物をコードする核酸であることを特徴とする請求項40の方法。
【請求項43】
ニュールツリンタンパク質産物を産生および分泌するために細胞が改変されており、該患者の好適な部位に移植するために調製されることを特徴とする請求項40の方法。
【請求項44】
請求項30〜39に記載の任意の一項に記載の方法によって入手可能である、ニュールツリン処理された機能膵臓の細胞を含む細胞調製。
【請求項45】
請求項30〜43に記載の任意の一項に記載の方法によって入手可能であるニュールツリン産物発現細胞を含む細胞調製。
【請求項46】
医薬組成物である請求項44または45の製剤。
【請求項47】
膵臓の疾患、具体的には糖尿病の治療または予防のための、請求項44〜46の任意の一項に記載の製剤。
【請求項48】
移植による投与または医療機器における使用のための請求項44〜47の任意の一項に記載の製剤。
【請求項49】
薬理学的に許容される担体、希釈液、および/または添加物を含有する、請求項44〜48の任意の一項に記載の製剤。
【請求項50】
診断組成物である、請求項44〜49の任意の一項に記載の製剤。
【請求項51】
治療組成物である、請求項44〜50の任意の一項に記載の製剤。
【請求項52】
膵臓組織または細胞、具体的には膵β細胞の再生のための薬剤製造向けの、請求項44〜51の任意の一項に記載の製剤。
【請求項53】
インビボで利用するための、請求項44〜52の任意の一項に記載の製剤。
【請求項54】
インビトロで利用するための、請求項44〜53の任意の一項に記載の製剤。
【請求項55】
細胞の機能膵臓細胞、具体的にはインスリン産生細胞への分化または再生を調節する能力のある化合物を同定および/または特徴付けするための下記工程を含む方法。被検化合物を細胞と接触させる工程であって、該細胞がニュールツリン存在下で膵機能細胞に分化または再生される能力があり、該分化過程で該化合物の効果を定量する能力もあるという条件下で行われることを特徴とする工程。
【請求項56】
該細胞を、β細胞分化に関与する遺伝子の調節管理下でレポーター遺伝子を含有するDNAコンストラクトでトランスフェクトすること、当該トランスフェクション細胞を被検化合物と接触させること、およびレポーター遺伝子の活性を定量することを含む請求項55の方法。
【請求項57】
β細胞分化を強化する分化培地で培養される胚様体を被検化合物と接触させること、およびインスリン産生細胞への分化を定量することを含む請求項54または55の方法。
【請求項58】
細胞の機能膵臓細胞、具体的にはインスリン産生細胞への分化または再生を調節する能力のある化合物を同定および/または特徴付けするための下記工程を含む方法。
被検化合物を細胞と接触させる工程であって、該細胞が膵機能細胞に分化または再生される能力があり、ニュールツリン発現時に該化合物の効果を定量する能力があるという条件下で行われることを特徴とする工程。
【請求項59】
糖尿病の治療と予防のためのニュールツリン発現細胞の製剤使用法。
【請求項60】
膵臓細胞の再生を誘導するための請求項59の使用法。
【請求項61】
膵臓細胞がランゲルハンス島のβ細胞であることを特徴とする請求項60の使用法。
【請求項62】
糖尿病を治療および/または予防するためのニュールツリン処理された細胞の製剤使用法。
【請求項63】
該細胞が、インスリン産生能力を有する分化した前駆体細胞であることを特徴とする請求項62の使用法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2007−512290(P2007−512290A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540406(P2006−540406)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013534
【国際公開番号】WO2005/051415
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506179941)デヴェロゲン アクチエンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】DeveloGen Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Marie−Curie−Strasse 7, D−37079 Goettingen, Germany
【Fターム(参考)】