ニューロキニン2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための化合物
ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための化合物、医薬組成物、および方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の参照
本願は、2009年9月4日に出願した米国仮出願61/240,014号の利益を主張するものであり、該出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための化合物、医薬組成物、および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
抑うつ性気分障害
抑うつ性気分障害は抑うつ感を特徴とする一群の気分障害である。抑うつ性気分障害には、大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害のうつ状態、認知症または統合失調性障害に関連するうつ病などの一般的病状によるうつ病、物質誘発性うつ病、産後うつ病、および季節性情動障害が含まれる。
【0004】
大うつ病性障害(大うつ病、臨床的うつ病、単極性うつ病および単極性障害としても知られている)は、一般集団において非常に多く見られる。最近の北米のデータによれば、成人における大うつ病の生涯リスクは14.5%であり、1年間の発症率は8.1%であった(2004年薬物使用と健康に関する全米調査の結果による:全米調査結果;2005年9月8日改訂;米国保健社会福祉省薬物乱用・精神衛生管理庁応用研究室)。
【0005】
最新の治療を行った場合、うつ病エピソードの平均持続期間は約16週間であり、これよりも長い約6〜8ヶ月を示唆するデータもあるが、それでも治療に抗うつ薬を使用するようになる前の時代の約18ヶ月と比べるとはるかに短くなっている(Kendler,McLeod,Patten)。
【0006】
抗うつ薬は、大うつ病性障害の治療や患者の苦痛の軽減に影響を与えてきたが、それは好ましい影響ばかりではなかった。大うつ病性障害の患者は、機能障害を有することが多く、根底にある大うつ病性障害に起因し得る薬物乱用のような共存症的障害を有する場合も多い。大うつ病性障害は保健サービスの利用増大につながり、社会構造および社会経済に壊滅的な影響を及ぼし得る。
【0007】
大うつ病性障害の原因は完全には解明されていない。過去数十年間にわたって、モノアミン合成およびモノアミン活性の異常がうつ病の原因であるという病因学的理論が優位にあり、モノアミン活性、特にセロトニン活性および/またはノルアドレナリン活性を増強する薬物投与による効果が、この理論の裏付けを強めてきた。しかしながら、どの抗うつ薬も、うつ病患者の一部にしか効かず、しかもその効果も部分的であることが多い。学術研究の場で行われる、厳選した標本を用いた比較対照試験においても、現行の治療が効果を示すのは患者の約60%のみであり、症状の完全寛解に至るのはその約半数に過ぎない。残遺症状が再発の強い予兆であることを考えると、この事実は重大である。また、大うつ病性障害に関連して他にも生理学的変化が生じるが、これは、膜結合過程と細胞内過程との橋渡しをするセカンドメッセンジャーの役割を含む複数の病因学的要素がさらに複雑に相互作用していることを示唆している。このようなことから、視床下部−脳下垂体−副腎(HPA)系(大うつ病性障害の在宅患者の20〜40%でこの系の活性化がみられる)、甲状線系(大うつ病性障害と判定された患者の5〜10%は、未発見の甲状線機能障害を有する)、成長ホルモン、プロラクチン、テストステロンなどのホルモン系経路の研究、ならびに炎症過程の役割およびインターロイキン1(IL−1)、IL−6、腫瘍壊死因子などの炎症性マーカーの役割に関する研究が行われるようになった。
【0008】
大うつ病性障害の患者の多くは、ある程度の症状の再発を経験し、20〜30%は、慢性(定義は、症候群レベルのうつ症状が2年以上続くこと「慢性うつ病の治療(論説)」)経過をたどる。
【0009】
うつ病の患者は皆、回復と再発予防を目的とした継続的な薬物療法を必要としている。また、かなり多くのうつ病患者が、再発を予防しさらに心理社会的な回復を確かなものにするために、薬物による維持療法を必要としている。しかしながら、抗うつ薬による治療を効果的に行う上で、患者が適切な量の薬物の服用を適切な期間継続することが重要な1要素であるにもかかわらず、これは往々にして容易ではない。多くの患者が、服用によって実際に身体的作用が起こることや、身体的作用が起こるかもしれないという想像から、現行の抗うつ薬の服用に恐怖感を抱いている。また、いわゆる天然の健康増進物質や非薬物療法を好む患者もいる。抗うつ薬を服用する覚悟をしている患者でも、様々な副作用を経験することで、服用を遵守しなくなったり、治療を完全に拒否したりする場合もある。例えば、選択的セロトニン再吸収阻害剤(SSRI)には、多くの副作用があり、一般的に胃腸障害、頭痛、睡眠障害、深刻な性機能障害などを引き起こす。ほとんどの抗うつ薬には、少なくともいくつかの深刻な副作用があるので、臨床医が多くの患者を効果的に治療するには限界がある。
【0010】
大うつ病性障害は、脳や神経系の障害、不安障害(全般性不安障害、パニック障害、恐怖症、強迫神経障害、心的外傷後ストレス障害、分離不安、社会恐怖症としても知られる社会不安障害、双極性障害、痴呆などを含む)、性機能不全、薬物乱用、摂食障害、および甲状腺機能障害、性腺機能低下症、更年期障害等のホルモン障害等、他の障害および/または症候群と関連している場合がある。大うつ病性障害の治療は、このような関連する障害および症候群の改善につながることも多い。
【0011】
また、うつ病の治療に使用される治療薬の中には、さらに他の疾患の治療に有効なものもある。たとえば、更年期障害に伴うのぼせやほてり、疼痛、および禁煙の治療に抗うつ薬が有効であることが実証されている。
【0012】
不安障害
不安障害は、行動、思考、感情、および身体的健康に影響を及ぼす一群の障害である。不安障害は、生物学的要因と個人的な状況との組合せによって引き起こされると考えられる。不安障害に苦しむ人々は、はっきりとした理由もなく、強い恐怖や苦痛の感情に持続的にさらされる。このような状況が、患者の生活を不安と恐怖が連続する旅に変え、家族や友人、同僚との関係を妨げることもある。
【0013】
不安障害は、あらゆる精神的健康問題の中で最も多いものの1つであり、およそ10人に1人がかかると推測されている。男性よりも女性に多く、成人だけでなく小児にも見られる。不安障害のカテゴリーに含まれる2種以上の不安に悩まされる人も多く、また不安障害にうつ病、摂食障害、および/または薬物乱用が伴うことも多い。
【0014】
不安障害のカテゴリーに入る不安の種類としては、パニック障害(前触れなくパニック発作が起こり、突然の恐怖感や胸痛、動悸、息切れ、めまい、腹部不快感、非現実感および死の恐怖を含む身体症状が伴う)、社会恐怖症や特定の恐怖症(前者は社会的な状況に関する不合理な自意識過剰(麻痺が生じる)を含み、後者は飛行機や血液、高所等に対する不合理な恐怖等、特定の恐怖症を含む)等が挙げられる。
【0015】
また別種の不安障害として外傷後ストレス障害が挙げられるが、これは、重大な身体的危害が生じたりその脅威にさらされたりするといった恐ろしい経験によって引き起こされ得るものである。レイプ、児童虐待、戦争、あるいは自然災害の生存者は、外傷後ストレス障害を発症する可能性がある。多く見られる症状として、恐ろしい経験を追体験するフラッシュバック、悪夢、うつ病、怒りや興奮等の感情が挙げられる。
【0016】
強迫神経障害は、また別種の不安障害である。これは、意志とは関係なく浮かぶ執拗な考え(強迫観念)や儀式(衝動強迫)に苦しむ状態を言う。典型的な強迫観念は、汚染、疑念(電化製品のスイッチを切っていないのではないかと心配するような)、不穏な性的または宗教的考えに関するものである。衝動強迫には、洗浄、確認、整頓、および計数が含まれる。
【0017】
全般性不安障害もまた別種の不安障害であり、日常生活上の出来事や活動についての過剰な不安が続くものである。この障害は何か月も持続することが多く、その間、通常より長い日数、極度の不安に苛まれる状態が続く。患者は最悪の事態を予感し、その予感に理由がないことを他人がいくら言っても解消されない。身体症状としては、悪心、震え、疲労、筋肉の緊張および/または頭痛が挙げられる。
【0018】
不安障害の治療には、2つの主要な医学的アプローチ、すなわち(1)薬物治療および(2)認知行動療法(CBT)がある。2種類の治療を組み合わせることも有効であり得る。ほとんどの不安障害に少なくとも何らかの生物学的要素があるため、一般に抗うつ薬と抗不安薬とが処方される。
【0019】
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)は、結腸および小腸における一群の炎症状態を指す。IBDの主な種類としては、クローン病と潰瘍性大腸炎がある。IBDは、腹痛、嘔吐、下痢、血便(便に鮮血が混じる)、および体重減少といった症状のいずれかを示すことがある。一般に、診断は、病理学的病変部位の生検を伴う結腸内視鏡検査によって行われる。
【0020】
IBDは、疼痛、嘔吐、下痢、その他社会的に受け入れ難い症状によって生活の質を制限することはあるが、それ自体が命にかかわることはほとんどない。中毒性巨大結腸症、腸穿孔、外科合併症等の合併症による死亡もまれである。IBD患者は結腸直腸癌リスクが高いが、一般にその発見のためのモニタリングを定期的に受けるため、通常、一般集団よりもかなり早期に発見される。
【0021】
IBDの治療は、特有の状態の重症度によって決められ、免疫抑制またはある種のメサラミンを必要とすることもある。疾患の再燃をコントロールするために、しばしばステロイド剤が使用される。TNF阻害剤もまた、クローン病患者および潰瘍性大腸炎の患者いずれにも使用することができる。重症の場合、腸切除、狭窄形成術、または一時的もしくは永久的な人工肛門造設術もしくは回腸造瘻術等の外科手術を必要とすることもある。
【0022】
治療の目標は寛解を達成することであり、通常、寛解後は、副作用の可能性がより少ない、作用の弱い薬剤に切り替えられる。時には、元の症状の急性の再燃が見られることもある。状況によって、自然に消失する場合もあれば、薬物治療が必要となることもある。そのような再燃の間隔は、数週間のこともあれば数年の場合もあり、患者によって大きく異なる。
【0023】
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、痙攣、腹痛、膨満、便秘、および/または下痢を最も一般的な特徴とする障害である。IBSはかなりの不快感と苦痛を引き起こすが、永続的に腸を害するものではなく、癌のような深刻な病気につながるわけではない。食事療法、ストレス管理、処方薬により症状のコントロールが可能である人も多い。しかしながら、IBSが日常生活に支障を来している人もあり、働くことや、社会的なイベントへの参加や、近距離の旅行すらできない場合がある。
【0024】
成人人口の20%もの人がIBSの症状を有し、医師に診断される障害の中では最もありふれたものの1つとなっている。男性よりも女性に多く、患者の約50%が35歳になる前に発症している。数か月間症状が治まっていた後に再発することもあるが、時間の経過につれて一定して悪化していると報告する人もある。
【0025】
IBSのための特別な診断テストは存在しないが、他の問題(他の病気の可能性)を除外するために複数の診断テストを行ってもよい。診断テストとしては、便サンプル検査、血液検査、X線検査等が行われる。一般的に、医師はS状結腸鏡検査または結腸内視鏡検査を行う。医師は、過去1年間における腹痛や腹部の不快感の頻度、腸機能に関連して痛みがいつ始まっていつ治まったか、排便の頻度や便の硬さがどのように変化したか等、患者の症状に基づいてIBSの診断を行う。
【0026】
残念ながら、医療を受けようとするまでに長期間IBSに苦しむ人が多い。IBSを抱える人々の70パーセント近くが、症状があっても治療を受けていない。薬物療法は、IBSの症状を軽減する上で重要な部分を占める。このような薬物には、便秘のための食物繊維補助食品や緩下剤、下痢を減らす薬、結腸筋痙攣をコントロールし、腹痛を軽減するための鎮痙剤が含まれる。さらに、抗うつ薬が、IBSのいくつかの症状を和らげることもある。
【0027】
炎症性呼吸器疾患症候群
炎症性呼吸器疾患症候群には、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)が含まれる。喘息は、気道(気管支)に可逆性狭窄が起こる肺の慢性炎症である。喘息の有症率は集団の7%であり、世界には3億人の患者がいる。喘息の発作が起こると、気管支の平滑筋細胞が収縮し、気道が炎症を起こして腫れ上がる。その結果呼吸困難が生じる。
【0028】
米国では、喘息による死亡は年間約4,000件起きている。喘息の発作は、誘因の回避と薬物療法によって予防することができる。急性の発作には、吸入β2アゴニスト等の薬物がしばしば使用される。より重症の場合には、長期的な予防を目的として、まず吸入コルチコステロイドが使用され、必要であれば次いで長時間作用型β2アゴニストが使用される。コルチコステロイドの代わりに、ロイコトリエンアンタゴニストを使用することもできる。メポリズマブ(mepolizumab)やオマリズマブ(omalizumab)等のモノクローナル抗体も時には有効である。
【0029】
COPDには、慢性気管支炎や肺気腫等、いくつかの肺疾患が含まれる。COPDを患う人々の多くが、これら2つの疾患の両方を有している。COPDの症状には、息切れ、肺の中の粘液の増加、および咳が含まれる。COPDの主な治療は、禁煙、気管支拡張薬やコルチコステロイドによる薬物療法、および肺リハビリテーションである。
【0030】
尿失禁
尿失禁は、膀胱からの尿の排出をコントロールできない状態を言う。時々少量の尿漏れを経験する人もあれば、衣服を頻繁に濡らしてしまう人もある。尿失禁の種類には、緊張性尿失禁、切迫性尿失禁、および溢流性尿失禁が含まれる。尿失禁の治療は、失禁の種類、問題の深刻度、および根本的な原因によって決まる。治療には、たとえば、行動療法、理学療法、ならびに/または抗コリン作用薬、局所エストロゲン、およびイミプラミン等の薬物療法が含まれることがある。
【0031】
上述したように効果が限定的であること、多くの場合受け入れ難い副作用があること、および障害や疾患を引き起こしたりその経過に影響を及ぼしたりする可能性のある生理学的要因が存在することから、これらの障害や疾患に対処するためには、新規な薬理作用を有する新規化合物を継続して探索する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、下記の構造を有する式(1)の化合物および該化合物の薬学的に許容される塩を特徴とする。
【0033】
【化1】
(式中、
(i)AおよびBは独立して−OHまたは−SHであり、
(ii)VおよびWは独立して酸素原子または硫黄原子であり、かつVおよびWのうち少なくとも1つは酸素原子であり、
(iii)R1は−(CH2)pCH3または−Hであり、
(iv)pは0〜3の整数であり、かつ
(A)Xが−(CH2)m−であり、
(B)Yが−Hであり、
(C)Zが−(CH2)n−であり、
(D)mおよびnが整数であり、
(E)m=1〜5、
(F)n=4〜14、
(G)あらゆるm、nについて6≦m+n≦14であり、
(H)任意に2つ以下の炭素‐炭素二重結合を有してもよく、該炭素‐炭素二重結合が2つ存在する場合、式(1)の隣接するメチレン基間に形成された二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
(I)Xが
【0034】
【化2】
であり、
(J)Yが存在せず、CAがCBとともに二重結合を形成し、
(K)Zが−(CH2)r−であり、
(L)qおよびrが整数であり、
(M)q=0〜4、
(N)r=1〜13、
(O)あらゆるq、rについて5≦q+r≦13であり、
(P)任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
(Q)Xが−(CH2)t−であり、
(R)Zが
【0035】
【化3】
(S)Yが存在せず、CAがCCとともに二重結合を形成し、
(T)R1が−(CH2)vCH3または−Hであり、
(U)tおよびuが整数であり、
(V)t=1〜5、
(W)u=0〜12、
(X)あらゆるt、uについて5≦t+u≦13であり、
(Y)任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する。)
【0036】
本発明の一態様において、AおよびBはいずれも−OHである。
【0037】
VおよびWはいずれも酸素原子であってよい。
【0038】
好ましくは、R1は−(CH2)pCH3である。pの値は0〜2であってよく、より好ましくは、pは0または1であり、最も好ましくは、pは0である。
【0039】
nの値が2〜12かつ7≦m+n≦13、またはnが3〜11かつ8≦m+n≦12、またはnが4〜10かつ9≦m+n≦11であってよく、より好ましくはnが5〜9かつm+n=10である。mの値は2〜4であってよく、好ましくは3である。
【0040】
rの値が2〜12かつ6≦q+r≦12であってよく、より好ましくはrが3〜11かつ7≦q+r≦11であり、より好ましくはrが4〜10かつ8≦q+r≦10であり、最も好ましくはrが5〜9かつq+rは9である。
【0041】
qの値は1〜3であってよく、好ましくはqは2である。
【0042】
uの値が1〜11かつ6≦t+u≦12であってよく、より好ましくはuが2〜10かつ7≦t+u≦11であり、より好ましくはuが3〜9かつ8≦t+u≦10であり、最も好ましくはuが4〜8かつt+uは9である。
【0043】
tの値は2〜4であってよく、好ましくは3である。
【0044】
先述の項(H)の2つの炭素‐炭素二重結合のいずれかまたは両方が化合物中に存在する場合、該結合はそれぞれZのメチレン基間に形成されていてもよい。メチレン基とは、−(CH2)−である。このような結合は、存在するとしても1つのみであることが好ましい。
【0045】
項(P)の第2の二重結合が存在する場合、該結合は好ましくはZのメチレン基間に形成される。
【0046】
項(H)および(P)の二重結合は、1つも存在しないことが最も好ましい。
【0047】
好ましい一化合物として式(I)の化合物が挙げられ、該化合物は4つの立体異性体すべての混合物である。本明細書中の立体異性体は、式(I)の化合物に見られるような2つのキラル中心の存在に因るものであり、以下でさらに説明する。
【0048】
【化4】
【0049】
好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0050】
【化5】
【0051】
また別の好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0052】
【化6】
【0053】
また別の好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0054】
【化7】
【0055】
また別の好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0056】
【化8】
【0057】
本明細書を通じて、式(I)をしばしば6−メチルミリスチン酸モノグリセリドと呼び、さらに頻繁に6−MMAMと呼ぶ。本発明の化合物が他の記載なく単に式(I)を有する化合物と呼ばれる場合、これは、該化合物が上述の4つの立体異性体の混合物であることを意味する。
【0058】
本発明は、グリセロール部分のキラル炭素がRとSの立体化学構造の混合物でありかつミリスチン酸部分のC−6炭素がRである式(I)の化合物を含む。さらにまた、グリセロール部分のキラル炭素がRとSの立体化学構造の混合物でありかつミリスチン酸部分のC−6炭素がS構造を有する式(I)の化合物も含まれる。さらに、本発明は、グリセロール部分のキラル炭素がS構造を有しかつミリスチン酸部分のC−6炭素がRとSとの混合物である式(I)の化合物を含む。さらにまた、グリセロール部分のキラル炭素がR構造を有しかつミリスチン酸部分のC−6炭素がRとSとの混合物である式(I)の化合物も含まれる。
【0059】
本発明は、上述の化合物のいずれかを含む医薬組成物を含む。
【0060】
該医薬組成物は、経口送達、非経口送達、局所送達、経直腸送達、経膣送達、経口吸入による投与または経鼻送達に適用できる。
【0061】
本発明は、先の化合物のいずれかを様々な形態で含む。具体的な製剤としては、液剤、懸濁剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、軟膏剤、クリーム剤またはロゼンジ剤が挙げられるが、錠剤が好ましい。
【0062】
本発明は、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための方法を含む。該方法は、先の化合物のうちのいずれかを治療上の有効量で投与する工程を含む。本明細書中、本発明の化合物と言えば、明記されているか否かにかかわらず薬学的に許容される塩も含まれるものと理解されるべきである。
【0063】
本発明の方法によって治療される前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患は、抑うつ性気分障害、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患または尿失禁であってもよい。前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患は、特には抑うつ性気分障害、または大うつ病性障害であってもよい。
【0064】
対象または患者は、本発明の方法と同時に精神療法による治療を受けてもよく、受けなくてもよい。
【0065】
当然のことながら、本発明の化合物は、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬製剤に含まれてもよい。
【0066】
本明細書で説明する化合物の投与に伴って、別の治療薬の治療上有効量を投与することができる。
【0067】
一般に、本発明の使用により治療される対象はヒトの患者である。
【0068】
本発明の別の方法は、抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群の治療のためのものである。該方法は、その必要のある対象に本発明の化合物を治療上の有効量で投与する工程を含む。該疾患または症候群は、脳または神経系の疾患、不安障害、性機能不全、薬物乱用、摂食障害またはホルモン障害であってもよい。
【0069】
別の態様では、本発明は、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための方法である。該方法は、その必要のある対象に本発明の化合物を治療上の有効量で投与することを含む。抗うつ薬によって治療可能な該障害または状態は、更年期障害に関連するのぼせやほてり、疼痛、または禁煙であってもよい。
【0070】
本発明の別の方法は、NK2受容体活性を調節するための方法であり、該NK2受容体を本発明の化合物の有効量と接触させることを含む。該方法はインビボの方法であってもインビトロの方法であってもよい。
【0071】
本発明は、本発明の様々な方法に関連して上述した、障害または疾患等を治療するための化合物またはその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【0072】
本発明の化合物の進歩的な使用として、さらにこのような障害または疾患等を治療するための薬剤の製造における使用も挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
当業者であれば、以下で説明する図が単に例示のみを目的とするものであることを理解するであろう。これらの図は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0074】
【図1】本発明の実施形態による受精卵分離物のHPLCクロマトグラムを示す。
【0075】
【図2】本発明の実施形態による受精卵分離物の分析結果を示す。
【0076】
【図3】ニューロキニンA(NKA)のヒトNK2受容体への結合に対する種々の濃度(μg/mL)の受精卵分離物サンプル#20上層分離物の効果(%特異的結合として測定)を示すグラフ、ならびにNKAおよびサンプル#20上層分離物のIC50およびKiを示す。
【0077】
【図4】製剤Aの様々な画分(HPLCから溶出)および対照試料のヒトNK2受容体への結合活性を示す棒グラフである。結合活性は、リガンドNKAによる結合の阻害率として測定した。
【0078】
【図5】製剤Aの画分171のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は210nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0079】
【図6】製剤Aの画分185のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は210nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0080】
【図7】製剤Aの画分171のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は190nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0081】
【図8】製剤Aの画分185のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は190nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0082】
【図9】ニューロキニンA(NKA)とヒトNK2受容体との結合に対する種々の濃度の6−メチルミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルの効果(%特異的結合として測定)を示したグラフ、ならびにNKAおよび6−メチルミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを示す。
【0083】
【図10】ニューロキニンA(NKA)とヒトNK2受容体との結合に対する種々の濃度のミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルの効果(%特異的結合として測定)を示したグラフ、ならびにNKAおよびミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを示す。
【0084】
【図11】ヒトNK2受容体の細胞内/機能性Ca2+アゴニストアッセイにおけるbAla8−NKA(4−10)(対照)、化合物#2(ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)および化合物#3(6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)の効果を示すグラフである。X軸は化合物の濃度(M)の対数、Y軸は%最大応答(RFU)を示す。エラーバーは2つの値の範囲を示す。
【0085】
【図12】ヒトNK2受容体の細胞内/機能性Ca2+アンタゴニストアッセイにおけるbAla8−NKA(4−10)(対照)、GR159897(対照)、化合物#2(ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)および化合物#3(6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)の効果を示すグラフである。X軸は化合物の濃度(M)の対数、Y軸は%最大応答(RFU)を示す。エラーバーは2つの値の範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0086】
本発明に従って、本発明の化合物、およびニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための使用について説明する。
【0087】
本明細書中、「薬学的に許容される塩」とは、本発明の構造式を有する化合物の塩基性基と酸から形成される塩を言う。例として挙げられる塩は当業者には知られており、塩酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩(gentisinate)、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩(glucaronate)、糖酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸)塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明によれば、本明細書に示す化学構造は、本発明の化合物を含め、対応する化合物のエナンチオマーおよび立体異性体をすべて包含する。すなわち、立体異性的に純粋な(たとえば、幾何異性的に純粋、エナンチオマー的に純粋、ジアステレオマー的に純粋な)形態であっても、エナンチオマー的、ジアステレオマー的、幾何異性的な混合物であっても、すべて本発明の化合物であると言える。1つのエナンチオマーを別のエナンチオマーから分離する方法は、当業者には既知である。1つのエナンチオマー、ジアステレオマー、または幾何異性体が、他と比較して優れた活性や動態プロファイルを有したり、毒性が改善されていたりする場合がある。このような場合、本発明の化合物のそのようなエナンチオマー、ジアステレオマー、および幾何異性体が好ましい。
【0089】
本発明の化合物は、そのエナンチオマーを含め、実質的に純粋であってよい。化合物が自然に付随する構成要素から分離されているとき、その化合物は「実質的に純粋」と言える。したがって、たとえば、受精卵分離物から単離された式(I)の化合物は、受精卵分離物の他の構成要素から分離されていれば、一般に実質的に純粋であると言える。一般に、試料の全量に対し、ある化合物が重量で少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%存在する場合、その化合物は実質的に純粋である。実質的に純粋な化合物は、たとえば、受精卵分離物等の天然物からの抽出や、または化学合成によって得ることができる。純度の測定は、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)等の、任意適切な方法によって行うことができる。
【0090】
本発明の化合物はNK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するために使用することができる。本発明の化合物は、その必要のある対象に治療上の有効量で投与される。
【0091】
「治療」とは、本発明の化合物の投与を受けている患者の障害または疾患が改善されることを言う。「治療可能」とは、本発明の化合物の投与を受けている患者の障害、疾患または状態が改善可能であることを言う。これらの用語には、有益な効果を得ることによって該障害、疾患または状態を改善することが含まれるが、このような改善は、当該技術分野における標準的な試験を用いて判定できるものである。これらの用語にはさらに、予防療法または維持療法のように、該障害または疾患の発生または再発を予防することが含まれる。
【0092】
本明細書中、「NK2受容体活性に関連する障害または疾患」とは、NK2受容体活性が適正でない、すなわち正常な状態と比べて高いまたは低いことに関連する障害または疾患を言う。NK2受容体活性が正常な状態よりも高くなることは、対象において正常数のNK2受容体の活性が高まること、またはNK2受容体活性に関連する障害または疾患を有する対象においてNK2受容体の数が正常数よりも多くなることが原因であるかもしれない。NK2受容体活性が正常な状態よりも低くなることは、対象において正常数のNK2受容体の活性が低下すること、またはNK2受容体活性に関連する障害または疾患を有する対象においてNK2受容体の数が正常数よりも少なくなることが原因であるかもしれない。NK2受容体に関連する障害または疾患としては、たとえば、大うつ病性障害、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患、および尿失禁が挙げられる。NK2の受容体に関連する障害または疾患は、少なくとも部分的にNK2受容体を介する障害または疾患を含んでいてもよい。
【0093】
「有効量」とは、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を有する対象に投与した場合に有益な結果が達成される化合物の量、あるいはインビボまたはインビトロで所望の活性を有する化合物の量を言う。NK2受容体活性に関連する障害または疾患の場合、有益な結果としては、治療を行わなかった場合と比較して該障害または疾患に関連する症状の重症度が低下すること、および/または対象の生活の質が向上することが挙げられる。たとえば、大うつ病性障害を有する対象の場合、「有益な結果」としては、いずれも当業者には既知であるハミルトンうつ病評価尺度、ハミルトン不安評価尺度、モントゴメリー−アスベルグうつ病評価尺度、ベックうつ評価尺度、アリゾナ性体験尺度、または一般健康調査票に基づく評点法(簡易版36項目)において、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して点数が下がることが挙げられる。これについては、本明細書中でさらに詳しく説明する。
【0094】
不安障害を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、ハミルトン不安評価尺度における点数の低下、苦痛や恐怖の感情を感じる程度や頻度の低下、パニック発作の回数および/または持続時間の減少、社会的な状況の回避の減少、特定の恐怖症に関連する恐怖感の減少、外傷後ストレス障害に関連するフラッシュバック、悪夢、うつ病、怒りや興奮等の頻度や持続時間の減少、ならびに強迫観念および/または衝動強迫の頻度の減少が挙げられる。
【0095】
炎症性腸疾患を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、腹痛、嘔吐、下痢、血便、および/または体重減少が軽減されることが挙げられる。
【0096】
過敏性腸症候群を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、痙攣、腹痛、膨満、便秘、および/または下痢が軽減されることが挙げられる。
【0097】
炎症性気道疾患を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、息切れ、肺の中の粘液の増加、ならびに/または咳発作の頻度および/もしくは持続時間の低減することが挙げられる。
【0098】
尿失禁を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、尿漏れおよび/または衣服の濡れの減ることが挙げられる。
【0099】
対象に投与される化合物の正確な量は、障害または疾患の種類および重症度、ならびに対象の特性、たとえば全身状態、年齢、性別、体重および薬物耐性等によって決まる。当業者であれば、これらやその他の要因に基づき、適切な用量を決定できるであろう。
【0100】
本明細書中、「対象」「患者」および「動物」はほぼ同じ意味で用いられ、ウシ、サル、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、およびヒトを含むが、これらに限定されない。一実施形態では、該対象、患者、または動物は、哺乳動物である。別の一実施形態では、好ましい対象、患者、または動物は、ヒトである。
【0101】
本発明の化合物を単離する方法:
式(I)で表される構造を有する化合物は、下記のように、受精卵分離物から単離することができる。
【0102】
受精卵分離物−調製
式(I)の化合物を単離することができる受精卵分離物の調製では、少なくとも1個の受精卵を、受精した日から約3〜15日間、より好ましくは約3〜5日間または約6〜12日間、さらに好ましくは約7〜9日間の範囲で培養する。一般的に、受精卵は、血管形成が始まり、かつ/または胚が発達して肉眼で確認できるようになるまでの期間培養する。受精卵は、例えば鳥類や爬虫類などの様々な種類に由来してもよく、または卵生哺乳類に由来してもよい。一般的に、胚または胚に付随する血管を摘出することが可能であれば、いずれの卵も適当である。卵は、鳥類の卵が好ましく、ニワトリ、ガチョウ、アヒルなど、卵の生産を目的として飼育されている任意の鳥から得ることができる。入手のしやすさや大量生産が可能であることなどから、ニワトリの卵が好ましい。胚が発達できるような温度で卵を長期間維持することができれば、どのような環境下で培養を行ってもよい。培養に好適な温度は、約20〜60℃、より好ましくは約25〜55℃、さらに好ましくは約35〜45℃の範囲である。卵を一定期間培養した後、任意の適当な方法により、卵殻表面に存在する微生物相を減らすための処理を行うか、または殺菌を行ってもよい。その方法としては、エタノールなどの溶媒、例えば約50〜95%のエタノール溶液で卵殻を洗浄した後放置して、溶媒を蒸発または乾燥させる方法、または紫外線(UV)源の下で適当な時間卵を回転させる方法などが挙げられる。いずれの溶媒も、卵に対してさらに別の操作を加える前に蒸発していることが好ましい。次いで、卵内の内容物を得るために卵を割る。卵は、無菌環境下において、手作業でまたは適当な機器を用いて割ってもよい。この操作、および/または以上や以下に記載の操作の大部分もしくは全操作は、例えば5℃程度の冷却下で行ってもよい。
【0103】
卵内容物は、ステンレス製容器などの容器、好ましくは滅菌および/または冷却した容器に回収する。容器に回収された卵内容物、または卵内にある内容物を、例えばメッシュ上に載せて濾過工程を行ってもよい。メッシュの目開きは、約0.5〜4ミリメートルであるのがよく、より好ましくは約1ミリメートルである。メッシュは滅菌されていることが好ましい。
【0104】
卵内容物および/または割れた卵殻の一部もしくは全部を直接メッシュ上に載せてもよい。卵内容物および/または割れた卵殻の一部もしくは全部を上記のメッシュ上に載せて、メッシュから液が実質的に落ちなくなるまで、一定時間濾過する。濾過工程前、その工程中またはその工程後に、卵内容物から割れた卵殻を取り除いてもよい。濾過工程後、固形残渣、または固形物および半固形物の混合した残渣は、胚、血管結合組織、卵白の大部分または全量、カラザの大部分または全量、および透明な嚢を含み得る。半固形残渣は、固形物だけでなく、例えば卵白のようなゼラチン状物質などの粘性物質を含み得る。残渣または半固形残渣を、緩衝液、滅菌脱イオン水または任意の適当な塩溶液などの好適な溶媒で少なくとも1回洗浄してもよい。例えば、滅菌リン酸緩衝液(PBS)を用いることができる。
【0105】
残渣は、1個の卵から回収した後に本明細書に記載の方法に従って凍結乾燥してもよいが、1個以上の卵から回収してまとめた残渣を本明細書に記載の方法に従って凍結乾燥してもよい。
【0106】
卵白部分および/または胚を、他の卵内容物から実質的に分離することができる。卵白部分は、デカンテーションなどの任意の適当な方法、または吸引により他の卵内容物から実質的に分離してもよい。胚は、手作業または当業者が選択する他の適当な方法によって、卵白部分から実質的に分離することができる。当業者は、胚を一度に卵白部分や他の卵内容物から実質的に分離できることを理解するであろう。例えば、ピンセットなどの適当な器具を用いて、胚を卵白部分や他の卵内容物から手作業で分離することができる。場合によっては、胚を他の卵内容物の一部である卵黄嚢から手作業で剥がしてもよい。
【0107】
胚を卵白部分や他の卵内容物から実質的に分離した後、胚を緩衝液、滅菌脱イオン水または任意の適当な塩溶液などの好適な溶媒で少なくとも1回洗浄してもよい。たとえば、滅菌リン酸緩衝液(PBS)を用いることができる。
【0108】
卵内容物が濾過工程に供されている場合、下記方法における卵内容物に関する記載が実際には残渣に関する記載でもあることは理解されるであろう。また、上述または後述の操作のいずれかに従って、1個の受精卵全体を割って卵殻を取り除き、卵殻内の卵全体を凍結および凍結乾燥することによって受精卵分離物を調製できることも理解されるであろう。さらに、上述または後述の操作のいずれかに従って、2個以上の受精卵全体を割って卵殻を取り除き、卵殻内の受精卵全体を合わせて混合することによってスラリーを調製し、これを凍結および凍結乾燥することも可能である。
【0109】
得られた卵内容物または胚を、少なくとも1つの凍結可能な容器に入れる。容器は、たとえば、試験管、ペトリ皿、ビーカー、ステンレストレーまたはプラスチック容器であってよい。卵殻から取り出した卵内容物または胚は、速やかに、たとえば約2時間以内、より好ましくは約1時間以内、さらに好ましくは約0.5時間以内、またはできるだけ速やかに凍結することが好ましい。卵内容物または胚の凍結に要する時間にもよるが、凍結温度は、約−50〜10℃、より好ましくは約−40〜5℃、さらに好ましくは約−35〜−25℃の範囲にあるべきである。卵内容物または胚は、少なくとも約6時間、より好ましくは少なくとも約12時間、さらに好ましくは少なくとも約24時間凍結することが好ましい。一定時間経過した後に、凍結した卵内容物または凍結胚を凍結乾燥してもよい。卵内容物または胚は、凍結乾燥工程前に完全に凍結していてもよい。
【0110】
あるいは、ビーカーやプラスチック容器などの好適な容器に、凍結したまたは凍結していない卵内容物または胚をプールし、これを混合するか、必要であれば適当な溶媒を加えて混合し、スラリーを調製してもよい。溶媒は、混合した卵内容物または胚を湿らせることができ、かつ実験室にある標準の冷凍庫で凍結が可能な水性溶媒が好ましい。溶媒としては、水や水性緩衝液等が好ましい。スラリー状にするには、卵内容物および/または胚を混合することが好ましい。卵内容物または胚は、たとえばハンドミキサーその他の好適な手段を用いて、混合またはホモジナイズすることができる。次いで、得られたスラリーを上記と同様に凍結して凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、終温度が好ましくは約−80〜−10℃、より好ましくは約−65〜−15℃、さらに好ましくは約−40〜−20℃の範囲内となるように、かつ約500ミリトルまたは当業者が設定する他の好適な値の圧力下で行う。凍結乾燥工程において、上記の終温度が約1〜6時間、より好ましくは約2〜5時間、さらに好ましくは約3〜4時間維持されることが好ましい。凍結乾燥工程全体は、一般的に約15〜45時間、より一般的には約25〜35時間、さらに一般的には約28〜32時間かけて行われる。
【0111】
凍結乾燥した卵内容物、胚またはスラリーは、必要であれば分散および/または粉砕し、実質的に均質な粉末とする。実質的に均質な粉末を得るために、1個ずつまたは小グループで凍結乾燥した卵内容物を合わせてから粉砕工程を行ってもよいが、先に粉砕工程を行ってから凍結乾燥物を合わせてもよい。粉砕は、たとえばコーヒーミルやハンマーミルなどの適当な機器を使用して機械的に、またはガラス棒などの適当な器具を使用して手作業で、行うことができる。滅菌は、凍結乾燥した構成成分に悪影響を及ぼすことのない方法が好適である。
【0112】
本明細書に記載のいずれの方法に関しても、調製した粉末または濃縮物を保存する前に、微生物の増殖を抑制するための防腐剤をこれらに混合してもよい。またこの粉末または濃縮物への添加に加えて、あるいはその代わりに、凍結乾燥段階前や濃縮段階前を含む製造の別の段階において防腐剤を添加してもよい。好適な防腐剤としては、0.5(w/w)%安息香酸ナトリウムや0.2(w/w)%ソルビン酸カリウム等の一般的な食品防腐剤が挙げられる。その他にも適当な防腐剤が当業者によって選択されるであろう。
【0113】
本明細書に開示された方法によって調製した粉末は、実質的に気密性を有する好適な容器に保存してもよい。好適な容器としては、ビニール袋、樽、プラスチック容器、ボトル、およびこれらの組み合せ等が挙げられる。たとえば、粉末は、制御管理下にある無菌環境下で、不正開封防止セキュリティシール付の滅菌ポリエチレン/ポリプロピレンボトルに詰めることができる。窒素などの実質的に乾燥した不活性ガス存在下で粉末を保存してもよい。粉末は、室温以下の温度、たとえば約10〜25℃、より好ましくは約15〜20℃の範囲の温度で保存することが好ましい。長期間保存する場合は、粉末を約−10℃以下、より好ましくは−20℃以下の温度で保存することが好ましい。粉末を実質的に乾燥した環境下で一定期間保存してもよい。粉末を真空パックしてもよい。
【0114】
スラリーは、少なくとも1個の受精卵の内容物または胚を卵殻から分離し、好適な容器にプールすることによって調製することもできる。この工程の間、分離した卵内容物または胚を冷却することもできる。たとえば、冷却を促進するために、容器を氷上に置いてもよい。卵内容物または胚を上記の方法で混合することにより、スラリーを調製することができる。スラリーは、上記のように凍結乾燥できるが、スラリーの一部または全量を以下の抽出操作に供してもよい。
【0115】
スラリーは、水溶液と一定時間混合してもよい。水溶液は、水、水性緩衝液またはその他の水性溶媒を含んでもよい。水溶液が水を含む場合、その水は使用前に蒸留されていることが好ましく、さらに脱イオン化されていることがより好ましい。たとえば、逆浸透(RO)を用いて水を処理してもよい。スラリーと水溶液を、たとえば約5〜60分間、より好ましくは約10〜45分間、さらに好ましくは約15〜40分間の範囲における一定時間撹拌することにより、これらを混合できる。実質的に親水性の分子がすべて水溶液に溶解するように、水溶液がスラリーの成分と十分に接することが望ましい。水溶液はスラリーと実質的に同量であってもよいが、スラリーの1.5倍量、2倍量、さらに3倍量を用いてもよい。混合工程の間、混合液を多少温めてもよい。混合後、遠心分離や濾過などの好適な手段を用いて、混合液中の固形分を実質的にすべて除去することにより、水溶液を実質的に清澄化できる。次いで、清澄化した水性部分を凍結および凍結乾燥して粉末を得るが、必要に応じて本明細書に記載の方法に従ってこの粉末を滅菌してもよい。
【0116】
上述のいずれかの方法によって調製したスラリーを、実質的に疎水性の溶媒と混合してもよい。この実質的に疎水性の溶媒は冷却されていることが好ましい。疎水性溶媒としては、たとえば、エーテル、クロロホルム、ヘキサン、石油エーテル、アセトニトリルなどが好ましい。たとえばエーテル、特にジエチルエーテルを使用することができる。スラリーをこのような疎水性溶媒と、上記と同様に一定時間混合する。当業者には理解されるであろうが、実質的に疎水性の溶媒を使用する方法においては、工程はいずれもドラフトまたはこれと同様の装置内で行い、溶媒を直火や熱源から遠ざけておく必要がある。混合終了後、遠心分離や濾過等の好適な方法によって、混合液の固形部分を溶媒部分から実質的に取り除くことができる。溶媒部分は、実質的に疎水性溶媒部分を含むが、水性部分を含んでいてもよい。溶媒部分を分液漏斗またはこれと本質的に同等の装置に移して、水性部分を疎水性溶媒部分から分離することができる。上層が疎水性溶媒部分である場合は、上層を上部からサイフォンで吸い上げるか、または下層である水層を除去した後分液漏斗から回収することができる。あるいは、下層である水性部分を凍結させ、上層であるエーテルベース層のデカンテーションを行うこともできる。水性部分に対し、疎水性溶媒を用いて複数回、たとえば3回程度抽出してもよい。このとき、疎水性溶媒は水性部分と実質的に同量であってもよいが、水性溶媒の1.5倍量、2倍量、または3倍量であってもよい。これ以外の比率が好適な場合もある。
【0117】
抽出後、疎水性の分離物をすべてプールし、好適な方法によって濃縮することもできる。濃縮した分離物は、密封バイアル瓶などの、実質的に外気を遮断する好適な容器に入れ、室温より低い温度、たとえば5℃程度で保存してもよい。
【0118】
上記のいずれかの方法によって調製したスラリーを抽出操作の前に清澄化することもできる。好ましい清澄化工程には、ふるい、濾紙、フィルターパッドなどのフィルターを使用した濾過方法が含まれる。清澄化工程には、他に遠心分離法も含まれる。濾過工程で得られた濾液にSuperflow DE(登録商標)などの濾過助剤を加え、さらに清澄化を行うこともできる。得られた濾液の一部を凍結乾燥に適した容器に入れて凍結させることができる。また、得られた濾液の一部を上記と同様に疎水性溶媒と混合し、水層と疎水性層とが形成されるようにすることもできる。この水層と疎水性層とを本明細書の記載に従って分離、濃縮し、保存することができる。
【0119】
本明細書に記載の様々な方法により調製された受精卵分離物は、水性溶媒および/または疎水性溶媒による抽出を繰り返すことによって濃縮することができる。
【0120】
式(I)で表される構造を有する化合物は、たとえば標準的なカラムクロマトグラフィー技術等を用いて、受精卵分離物から単離することができる。たとえば、受精卵分離物のスラリーを上記と同様に調製し、凍結乾燥することができる。次いで、凍結乾燥品を粉砕機で粉砕し、所望により、安息香酸ナトリウム(たとえば0.5(w/w)%)および/またはソルビン酸カリウム(たとえば0.2(w/w)%)等の1以上の防腐剤と混合してもよい。次いで、出来上がった粉末を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムにロードし、好適な溶媒、たとえば様々な濃度のメタノール、アセトニトリル、またはこれらの溶媒の混合物を用いて溶出することができる。溶出液のうち該化合物の含まれる画分は、回収後、所望により脱水するか、またはたとえば別のカラム、別の溶媒、もしくは異なる濃度の溶媒を使用して、さらにカラムクロマトグラフィーに供してもよい。
【0121】
所望の画分の純度は、たとえば、HPLCまたは当業者に既知である他の方法を用いてモニターすることができ、所望により当業者に既知である技術を用いてさらに精製することができる。
【0122】
1つの画分または組み合わせた画分の純度が十分なレベルに達したところで、該活性化合物の構造及びその生物学的活性を、当業者に既知である方法を用いて確認することができる。たとえば、該活性化合物の生物学的活性は、当業者に既知であるNK2受容体結合アッセイおよび/またはNK2受容体活性アッセイを用いて評価することができる。
【0123】
本発明の化合物の合成
本発明の好ましい化合物である6−メチルミリスチン酸モノグリセリドの立体異性体混合物を、スキームAに従って合成した。
【0124】
ラセミ2−メチルデカナール[19009−56−4]とトリフェニルホスホニウムブタン酸臭化物[17857−14−6]とを反応させた後、精製を行い、6−メチル−4−エン−テトラデカン酸を得た。この酸の塩化物を、塩化チオニルを用いて調製し、ラセミイソプロピリデングリセロールを直接作用させて処理した後、水素添加に供した。HClを用いてイソプロピリデンを除去し、6−メチルミリスチン酸1−グリセリドを立体異性体混合物として得た。
【0125】
【化9】
【0126】
1.工程IIIのジオキソランはシグマアルドリッチ社(米国ミズーリ州、セントルイス)から入手可能であるが、スキームBの経路に従って調製することもできる。
2.簡略化のため、本明細書中、6‐メチルミリスチン酸モノグリセリドを6−MMAMと呼ぶ。6−MMAMは、6−メチルミリスチン酸1−グリセリドおよび6−メチルグリシジルミリステートとしても知られている。
【0127】
【化10】
【0128】
6−MMAMは2つのキラル中心を有し、そのために4つの立体異性体が存在する。
【0129】
【化11】
【0130】
スキームAで示した合成経路は、4つの立体異性体がすべて含まれる混合物を生成するが、6−MMAMの立体異性体が得られるよう改変することができる。
【0131】
スキームAの工程IIIは、図示した2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランあるいは他の好適な1,3−ジオキソランの立体異性体(C*におけるR‐異性体またはS‐異性体)のいずれかを使用することによって、改変することができる。樋上らによる米国特許第6,143,908号には、スキームCによる1,3−ジオキソラン−4−メタノール化合物の調製方法が記載されている。
【0132】
【化12】
【0133】
樋上らは、スキームCにおける化合物(1)の好ましい例が3−クロロ−1,2−プロパンジオールおよび3−ブロモ−1,2−プロパンジオールであること、ならびに化合物のR1およびR2が同一または異なって水素原子、C1−C4アルキル、またはフェニルであり得ることを述べている。スキームAの工程IIIで導入されたジオキソランは、スキームCにおけるR1およびR2がいずれもメチル基であるものに相当する。言いかえれば、スキームCの工程Aでアセトンを使用することによって、スキームAに示すジオキソランが形成される。樋上らは、スキームCにおける出発化合物として(R)−3−クロロ−1,2−プロパンジオールを使用することによって(S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールが調製できることを示している。
【0134】
(R)−3−クロロ−1,2−プロパンジオール(CAS No. 57090−45−6)および(S)−3−クロロ−1,2−プロパンジオール(CAS No. 60827−45−4)は、TCIアメリカ社(米国97203オレゴン州ポートランド市ノースハーバーゲートストリート9211)から入手可能であり、これらを使用して(S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールおよび(R)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを生産することができる。
【0135】
(R)−4−クロロメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン(CAS No. 57044−27−3)および(S)−4−クロロメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン(CAS No. 60456−22−6)は、アイビーファインケミカル社(米国08034ニュージャージー州チェリーヒル・スイート23・オールドカスバートロード1879)から入手可能である。これらのいずれかを樋上らの方法におけるR1=R2=メチルの場合のスキームCの工程Bに導入することによって、スキームCの工程Aが不要となる。
【0136】
穏和な条件下での1,3−ジオキソランの加水分解すなわちスキームAの工程IIIの例は、たとえば、J.Sun,Y.Dong,L.Cao,X.Wang,S.Wang,Y.Hu,J.Org.Chem.,2004,69:8932−8934およびR.Dalpozzo,A.De Nino,L.Maiuolo,A.Procopio,A.Tagarelli,G.Sindona,G.Baroli,J.Org.Chem.,2002,67:9093−9095等に記載されている。
【0137】
スキームA、2−メチルデカナールの最初の工程において、6−MMAM中の第2のキラル中心(C+)が導入される。
【0138】
スキームDに示されるように、スキームAの合成は、式(1)の他の化合物が得られるよう種々に改変することができる。
【0139】
【化13】
【0140】
AおよびBがそれぞれ−OHであり、VおよびWがそれぞれ酸素原子であり、Xが−(CH2)4−(m=3)であり、Yが−Hであり、Zが−(CH2)6−(n=7)である、式(1)の構造を有する本発明の化合物を得るための原料は、スキームDに示した一般式に従って選択することができる。当業者であれば、選択した個々の原料に合わせて、各工程の反応条件を変えるであろう。
【0141】
本発明の好ましい化合物である6−メチルミリスチン酸モノグリセリドは、たとえばスキームEに従って合成することもできる。
【0142】
【化14】
【0143】
1.工程VIIIのジオキソランはスキームBの経路に従って調製することができる。
2.R. O. Adlof, W. E. Neff, E.A. Emken, and E. H. Pryde, Journal of the American Oil Chemists’ Society, 1977, 54(10):414−416.
【0144】
スキームEで示した合成経路は、4つの立体異性体がすべて含まれる混合物を生成するが、4つの立体異性体のそれぞれが得られるよう改変することができる。
【0145】
スキームEの工程VIIIは、スキームAの工程IIIおよびスキームCに関する記載と同様に改変することができる。
【0146】
スキームEの工程Xにおける二重結合の還元によって、6−MMAM中の第2のキラル中心(C+)が導入される。スキームEの工程Vの産物である化合物(6)は、図示したウィッティヒ反応で例示されるように、長いアルキル鎖同士がトランスとなる条件下で調製される。C=C結合の不斉水素化の結果、6−MMAMのC−6がR構造またはS構造のいずれか一方であるものが形成されることになる。C=C結合の不斉水素化はよく知られている。たとえば、de Pauleらによる米国特許第6,878,665号を参照のこと。
【0147】
【化15】
【0148】
AおよびBがそれぞれ−OHであり、VおよびWがそれぞれ酸素原子であり、R1が−(CH2)pCH3または−Hであり、pが0〜3の整数であり、Xが−(CH2)m−であり、Yが−Hであり、Zが−(CH2)n−であり、mおよびnが、m=1〜5かつn=4〜14を満たす整数である、式(1)の構造を有する本発明の化合物を得るための原料は、スキームFに示した一般式に従って選択することができる。当業者であれば、選択した個々の原料に合わせて、各工程の反応条件を変えるであろう。
【0149】
立体化学的に純粋な本発明の化合物とは、少なくとも90%が所望の立体化学構造(たとえば、C+がRでC*がS、またはC+がR,SでC*がS)を有する化合物を言う。より好ましくは92%、さらにより好ましくは94%、さらにより好ましくは96%、さらにより好ましくは98%、最も好ましくは99%以上が所望の立体化学構造を有する化合物である。立体化学的に実質上純粋な化合物とは、少なくとも96%が所望の光学活性立体異性体である化合物を言う。
【0150】
式A6または式A7の化合物を調製する方法をスキームGに示す。この方法は、化合物A1と化合物A2とを反応させてアルケニル化合物A3を形成することを含む。次いで、A3の酸ハロゲン化物を形成し、ジオキソランA4と反応させることによってA5を形成する。これを加水分解してA6を形成するか、またはA5のC=C二重結合を還元した後ジオキソランを加水分解してA7を形成する。
【0151】
【化16】
【0152】
式中、aは1〜3の整数であり、bは1〜11の整数であり、4≦a+b≦12であり、R1は−(CH2)pCH3であり、pは0〜3の整数である。好ましくは、pは0である。R2およびR3は同一または異なって、反応に適した任意適当な基であってよい。具体的な基としては、樋上によって開示された水素原子、C1−C4アルキル、またはフェニルが挙げられる。
【0153】
所望により、ジオキソランA4のRまたはS立体異性体を用いて、グリセロール部分のC−2が立体化学的に純粋であるA6またはA7を得ることができる。
【0154】
式(I)の化合物の機能類似体:
式(I)の化合物の機能類似体は、当業者に既知の方法で作製することができる。たとえば、上記の方法に従って単離および同定、または合成された式(I)の化合物に対し、特異的またはランダムな化学修飾を施して該化合物の構造類似体を製造もよい。このような化学修飾としては、ハロゲンによる水素の置換、別のアルキルによるアルキルの置換、アルキルによるアルコキシの置換、アルコキシによるアルキルの置換、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等が挙げられる。類似体の生物活性(たとえば、NK2受容体への結合、あるいは受容体活性による細胞内のカルシウム濃度の変化)は、本明細書に記載の方法または当業者に既知である他の方法を用いて試験することができる。
【0155】
式(I)の化合物の機能類似体を得る別の方法としては、合理的設計によるものがある。これは、構造情報およびコンピュータモデリングによって実現される。標的分子と化合物の一方または双方をわずかに変化させた場合の両者の相互作用を、分子モデリングソフトウェアと計算集約的コンピュータとを使用して予測することができる。分子モデリングシステムの例としては、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)のプログラムであるCHARMmおよびQUANTAが挙げられる。CHARMmはエネルギーの最小化および分子動力学機能を実行する。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリング、および分析を実行する。QUANTAによれば、他の分子との相互作用状態にある分子の挙動についての構造、修飾、可視化、および分析が可能になる。化学物質をスクリーニングして図示するためのその他のコンピュータプログラムは、当業者には既知である。合理的薬物設計によって得られた機能類似体についても、その生物活性(たとえば、NK2受容体への結合、あるいは受容体活性による細胞内のカルシウム濃度の変化)は、本明細書に記載の方法または当業者に既知である他の方法を用いて試験することができる。
【0156】
本発明の化合物の治療用途:
PCT国際公開第2009/086634号パンフレットは、参照によりその教示内容全体が本明細書中で援用されるが、該公報に記載されているように、受精卵分離物は、大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害のうつ状態、認知症または統合失調性障害に関連するうつ病などの一般的病状によるうつ病、物質誘発性うつ病、および季節性情動障害等の抑うつ性気分障害;全般性不安障害、社会不安障害、およびパニック障害等の不安障害;ならびに性機能不全を含む精神的健康障害の患者を治療するために用いることができる。
【0157】
さらに、PCT国際公開第2009/086634号パンフレットに記載されているように、本明細書に記載する受精卵分離物に、特定のリガンドとそれらの受容体との結合相互作用と拮抗する作用のあることが判明している。具体的には、受精卵分離物に、神経伝達物質であるニューロキニンA(NKA)をその受容体であるニューロキニン2(NK2)受容体から解離させる能力のあることがわかっている。
【0158】
多くの疾患および症状が、NK2受容体の調節に関連するものとして知られている。このような疾患または症状としては、大うつ病性障害等の抑うつ性気分障害(たとえば、Dableh、Ahlstedt、Michale、Louis、Steinberg、Salome、Holmes、Steinberg、Husumを参照)、不安(たとえば、Ahlstedt、Michale、Louis、Greibel、Steinberg、Stratton、Teixeira、Walsh、Salome、Holmesを参照)、過敏性腸症候群および炎症性腸疾患(たとえば、Ahlstedt、Lecci、Evangelista、Toulouseを参照)、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の炎症性気道疾患(たとえばBai、Pinto、Khawajaを参照)、ならびに尿失禁(たとえば、Ahlstedt,Rizzoを参照)が挙げられる。さらに、saredutant(SR 48964)などのNK2受容体のアンタゴニストは、抗うつ薬様作用(Salome、Dableh、Steinberg、Michale、Louis)および抗不安作用(Teixeira、Salome、Griebel、Michale、Louis)の増強に利用できることが動物モデルにおいて示されており、ヒトに対する試験も行われている。NK2受容体の活性化を、NK2の内因性リガンド(たとえばNKA)と受容体との結合を阻害することによって調節すると、NK2受容体活性に関連する障害または疾患が軽減または解消される。
【0159】
式(I)で表される構造を有する化合物は、本明細書に記載の通り受精卵分離物から単離されたものであり、神経伝達物質であるニューロキニンA(NKA)をそのヒトNK2受容体から解離させる能力を有している。式(I)の化合物は合成もされており、神経伝達物質であるニューロキニンA(NKA)をそのヒトNK2受容体から解離させ、細胞内カルシウムレベルを下げることがわかっている。したがって、式(1)、式(I)の化合物、さらにはそれらの機能類似体や薬学的に許容される塩類は、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するために使用することができる。
【0160】
したがって、本発明の別の態様は式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩を使用してNK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療する方法を特徴とし、該方法は式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩を治療上の有効量でその必要のある患者に投与する工程を含む。NK2受容体活性に関連する障害または疾患とは、たとえば、大うつ病性障害等の抑うつ性気分障害、不安、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、炎症性気道疾患または尿失禁等であり得る。
【0161】
当業者には理解できることであるが、式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩は、うつ病に関連する障害または状態、たとえば、脳や神経系の障害、薬物乱用、摂食障害、および甲状腺機能障害、性腺機能低下症、更年期障害等のホルモン障害等、を治療するために使用することができる。また、このような化合物またはその類似体、またはそれらの薬学的に許容される塩は、抗うつ薬が有効であることが実証されているその他の状態、たとえば更年期障害に伴うのぼせやほてり、疼痛、および禁煙の治療に使用することができる。
【0162】
NK2受容体活性に関連する障害、疾患、または状態を治療する方法において、患者は本発明の方法と同時に精神療法による治療を受けていてもよく、受けていなくてもよい。
【0163】
本発明の化合物は、経口(バッカル、舌下、および経口吸入を含む)、経鼻、局所(バッカル、舌下、および経皮を含む)、または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、もしくは皮内)経路による投与に適した様々な製剤に製剤化し、投与することができる。特に、経口経路による投与に適した製剤が特に好ましい。その他の好ましい製剤としては、坐薬等の、経膣または経直腸経路による投与に適した製剤が挙げられる。
【0164】
医薬組成物:
本発明は、抑うつ性気分障害(たとえば大うつ病性障害)、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患または尿失禁等の、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための組成物を提供する。一実施形態では、該組成物は、1以上の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む。別の一実施形態では、本発明の組成物は、1以上の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩と、1以上の予防薬または治療薬とを含む。また別の一実施形態では、該組成物は、本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤とを含む。また別の一実施形態では、該組成物は血液脳関門を通過するよう製剤化される。
【0165】
本発明の組成物は医薬組成物であってもよく、単位用量製剤であってもよい。本発明の医薬組成物および製剤は、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するために使用できるような相対量で1以上の有効成分を含み、その目的に適合するよう製剤化される。医薬組成物および製剤は、好ましくは、任意に1以上の別の有効な薬剤とともに、式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩を含む。
【0166】
本発明の単位用量製剤は、患者への経口、経粘膜(たとえば、経鼻、舌下、経膣、バッカル、もしくは経直腸)、非経口(皮下、静脈内、ボーラス注入、筋肉内、もしくは動脈内)、または経皮投与に適している。製剤としては、錠剤;カプレット剤;軟質弾性ゼラチンカプセル剤等のカプセル剤;カシェ剤;トローチ剤;ロゼンジ剤;分散剤;坐剤;軟膏剤;パップ剤(湿布剤);ペースト剤;散剤;被覆剤;クリーム剤;硬膏剤;液剤;貼付剤;エアゾール剤(たとえば鼻腔用スプレーまたは吸入剤);ゲル剤;患者への経口投与または経粘膜投与に適した、懸濁剤(たとえば水性または非水性の懸濁液剤、水中油型乳剤または油中水型乳剤)、液剤、およびエリキシル剤を含む液体製剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0167】
本発明の組成物、形状および製剤の種類は、一般には使用法によって異なる。たとえば、経粘膜投与に適した製剤においては、同じ兆候に対する治療に用いられる経口製剤よりも有効成分の量が少なくてもよい。本発明のこの態様は、当業者に容易に理解できるであろう。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990) 18th ed., Mack Publishing,Easton,PAを参照のこと。
【0168】
典型的な医薬組成物および製剤は、1以上の賦形剤を含む。好適な賦形剤は、薬学および/または製剤化学の当業者には周知であり、本明細書中に例示しているが、限定を目的とするものではない。特定の賦形剤が医薬組成物または製剤での使用に適しているか否かは、当技術分野で周知の様々な要因によって決まる。要因として、患者への投与方法が挙げられるが、これに限定されない。たとえば、錠剤等の経口製剤は、非経口製剤での使用には適さない賦形剤を含んでいてもよい。
【0169】
本発明は、有効成分の分解速度を低下させる1以上の化合物を含む医薬組成物および製剤をさらに包含する。そのような化合物を本明細書では「安定化剤」と呼ぶが、アスコルビン酸等の酸化防止剤、pH緩衝剤、塩緩衝剤等に限定はされない。
【0170】
経口製剤:
経口投与に適した本発明の医薬組成物は、個別の製剤として示すことができ、錠剤(たとえばチュアブル錠)、カプレット剤、カプセル剤および液剤(たとえば風味付けされたシロップ剤)等が挙げられるが、これらに限定はされない。このような製剤には所定量の有効成分が含まれ、当業者に周知の薬学的方法によって調製されてもよい。概要についてはRemington’s Pharmaceutical Sciences(1990)18th ed.,Mack Publishing,Easton,PAを参照のこと。
【0171】
本発明の典型的な経口製剤は、有効成分を従来の医薬配合技術によって少なくとも1つの賦形剤を含む混合物と組み合わせることにより調製される。賦形剤は、投与のための望ましい製剤形態によって、様々な形態となり得る。たとえば、経口の液剤またはエアロゾル剤での使用に適した賦形剤としては、水、グリコール、油、アルコール、着香剤、防腐剤および着色剤が挙げられるが、これらに限定はされない。固形経口製剤(たとえば、散剤、錠剤、カプセル剤、およびカプレット剤)での使用に適した賦形剤としては、デンプン、糖類、微晶質セルロース、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤および崩壊剤が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0172】
投与の容易さから、錠剤およびカプセル剤が経口単位用量製剤として最も好都合であり、この場合、固形の賦形剤が使用される。所望により、水性または非水性の標準的な技術によって錠剤を被覆してもよい。このような製剤は、任意の薬学的方法によって調製することができる。一般に、医薬組成物及び製剤は、有効成分と、液状の担体、微細化した固体担体、またはその両方とを均質かつ十分に混合し、次いで必要に応じてその産物を所望の形状に成形することにより調製される。
【0173】
たとえば、錠剤は打錠または成形によって調製することができる。打錠剤は、粉末又は顆粒等、自由流動可能な形態にある有効成分を、任意に賦形剤と混合し、好適な機械を用いて打錠することにより調製することができる。成形錠は、不活性希釈液で湿潤させた粉末状化合物の混合物を好適な機械で成形することにより調製することができる。
【0174】
本発明の経口製剤に使用可能な賦形剤としては、たとえば結合剤、増量剤、崩壊剤および滑沢剤が含まれるが、これらに限定はされない。医薬組成物および製剤において好適に用いられる結合剤としては、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、その他のデンプン、ゼラチン、アラビアゴム等の天然ゴム及び合成ゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、他のアルギン酸塩、粉末トラガカントゴム、グアーガム、セルロースおよびその誘導体(たとえばエチルセルロース、酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、αデンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(たとえば、No.2208、2906、2910)、微結晶性セルロース、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。
【0175】
好適な微結晶性セルロースの形態としては、AVICEL−PH−101、AVICEL−PH−103、AVICEL RC−581、AVICEL−PH−105〔FMC Corporation、アメリカンビスコ−ス部門、Avicel販売部(ペンシルベニア州マーカスフック)から入手可能〕として市販されているのもの、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。結合剤の具体例としては、AVICEL RC−581として市販されている、微結晶性セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの混合物が挙げられる。好適な無水または低含水性の賦形剤又は添加剤としては、AVICEL−PH−103JおよびStarch 1500LMが挙げられる。
【0176】
本明細書で開示される医薬組成物および製剤における使用に好適な増量剤としては、タルク、炭酸カルシウム(たとえば細粒または粉末)、微結晶性セルロース、粉末セルロース、デキストレート、カオリン、マンニトール、ケイ酸、ソルビトール、デンプン、αデンプン、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。本発明の医薬組成物中の結合剤または増量剤は、典型的には医薬組成物または製剤の約50〜99重量パーセントである。
【0177】
本発明の組成物に崩壊剤を用いることによって、水性環境に曝露された際に崩壊する錠剤を得ることができる。崩壊剤の含有量が過剰である錠剤は保管中に分解することがあるが、一方含有量が少なすぎると、所望の速度であるいは所望の条件下で分解しないことがある。したがって、本発明の固形経口製剤を調製する際には、有効成分の放出に支障をきたすことのないよう過不足のない適切な量の崩壊剤を用いるべきである。崩壊剤の使用量は製剤の種類によって異なるが、当業者には容易に判断することができる。一般的な医薬組成物は崩壊剤を約0.5〜15重量パーセント、好ましくは約1〜5重量パーセント含有する。
【0178】
本発明の医薬組成物および製剤において使用可能な崩壊剤としては、寒天、アルギン酸、炭酸カルシウム、微結晶性セルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポラクリリンカリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、αデンプン、その他のデンプン、粘土、その他のアルギン、その他のセルロース、ゴム類、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。
【0179】
本発明の医薬組成物および製剤において使用可能な滑沢剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油、軽鉱物油、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール、その他のグリコール、ステアリン酸、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク、硬化植物油(たとえば落花生油、綿実油、ヒマワリ油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油)、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸エチル、ラウリン酸エチル、寒天、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。さらなる滑沢剤としては、たとえば、シロイド(syloid)シリカゲル〔AEROSIL 200、W.R.Grace社(メリ−ランド州ボルティモア)製造〕、合成シリカの凝結エアゾール〔デグサ社(テキサス州プラーノ)販売〕、CAB−O−SIL〔火成二酸化ケイ素製品、Cabot社(マサチューセッツ州ボストン)販売〕、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。滑沢剤を使用する場合、典型的には医薬組成物または製剤の約1重量パーセント未満の量で配合する。
【0180】
放出制御製剤:
本発明の有効成分は、当業者に周知の放出制御手段または放出制御送達デバイスにより投与することができる。例として、米国特許第3,845,770号明細書;米国特許第3,916,899号明細書;米国特許第3,536,809号明細書;米国特許第3,598,123号明細書;及び米国特許第4,008,719号明細書、米国特許第5,674,533号明細書、米国特許第5,059,595号明細書、米国特許第5,591,767号明細書、米国特許第5,120,548号明細書、米国特許第5,073,543号明細書、米国特許第5,639,476号明細書、米国特許第5,354,556号明細書、および米国特許第5,733,566号明細書に記載のものが挙げられる(上記文献の各々を引用により本明細書に援用する)が、これらに限定されない。このような製剤において、たとえばヒドロプロピルメチルセルロース、その他のポリマーマトリクス、ゲル、浸透膜、浸透系、多層被膜、微粒子、リポソーム、マイクロスフェア、またはこれらの組み合わせを用いることによって1以上の有効成分の放出を遅延させたり制御したりすることが可能となり、様々な割合での所望の放出プロファイルを提供することができる。本明細書に記載されたものを含む当業者に公知の好適な放出制御製剤は、容易に選択して本発明の化合物とともに使用することができる。このように、本発明は経口投与に好適な単位用量製剤を包含し、例としてたとえば放出制御に適合させた錠剤、カプセル剤、ジェルカプセル剤およびカプレット剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0181】
放出制御される医薬品はすべて、制御されない医薬品の場合と比較してより良い薬物治療効果を得るという共通の目的を有している。最適設計された放出制御製剤を医療に用いることによって、必要最低限の製剤原料物質を使用して最短の時間で状態を治癒させたり制御したりすることが理想である。放出制御製剤の利点としては、薬剤活性がより長く続くこと、投与の頻度を低減できること、患者のコンプライアンスの向上等が挙げられる。
【0182】
ほとんどの放出制御製剤は、所望の治療効果を迅速にもたらす量の薬剤(有効成分)を最初に放出し、その後徐々にかつ持続的に残りの薬剤を放出することによって、長時間にわたり一定レベルの治療効果または予防効果が維持されるように設計されている。体内での薬剤濃度をこの一定レベルに維持するためには、代謝されて体外に排出される薬剤の量を補う速度で薬剤が製剤から放出される必要がある。有効成分の放出制御は様々な条件に影響される可能性があり、条件としては、たとえばpH、温度、酵素、水、その他の生理的条件、または化合物等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0183】
非経口製剤:
非経口製剤は、様々な経路により患者に投与することができる。そのような経路としては、皮下、静脈内(ボーラス注入を含む)、筋肉内、および動脈内が挙げられるが、これらに限定はされない。典型的に、このような投与においては、患者が生来持つ汚染物質に対する防御機構を通らないため、非経口製剤が滅菌されていること、または患者への投与前に滅菌可能であることが好ましい。非経口製剤としては、たとえば、注射可能な状態にある溶液、薬学的に許容される注射用ビヒクル中に溶解または懸濁させることが可能な状態にある乾燥品、注射可能な状態にある懸濁液、および乳剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0184】
本発明の非経口製剤に用いることのできる好適なビヒクルは、当業者には周知である。そのようなビヒクルとしては、たとえば、米国薬局方注射液用水;水性ビヒクル(塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液、デキストロース注射液、デキストロース・塩化ナトリウム注射液、および乳酸加リンガー注射液等が挙げられるが、これらに限定されない);水混和性ビヒクル(エチルアルコール、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない);ならびに、非水性ビヒクル(トウモロコシ油、綿実油、落花生油、胡麻油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、および安息香酸ベンジル等が挙げられるが、これらに限定されない)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0185】
本明細書中に開示された1以上の有効成分の可溶性を向上させる化合物もまた、本発明の非経口製剤に配合可能である。
【0186】
経皮、局所、および経粘膜製剤:
本発明の経皮、局所、および経粘膜製剤としては、点眼用液剤、スプレー剤、エアゾール剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤、ゲル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、または当業者に公知のその他の製剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980 & 1990)16th and 18th eds.,Mack Publishing, Easton,PA.およびIntroduction to Pharmaceutical Dosage Forms(1985)4th ed.,Lea & Febiger,Philadelphia,PA.を参照のこと。口腔内の粘膜組織の治療に好適な投与形態としては、口内洗浄液または経口ゲルが挙げられる。経皮投与形態としてはさらに、皮膚に貼り付け、一定時間その状態に置くことによって所望量の有効成分を浸透させる「リザーバー型」または「マトリクス型」のパッチが挙げられる。
【0187】
本発明に包含される経皮、局所、および経粘膜製剤に使用できる好適な賦形剤(たとえば担体および希釈剤)などは、薬学分野の当業者には周知であり、医薬組成物または製剤の投与対象となる具体的な組織によって異なる。これを念頭に置きつつ、無毒で薬学的に許容されるローション剤、チンキ剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、または軟膏剤を形成するための代表的な賦形剤として、水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱物油、およびこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定はされない。所望により、保湿剤または湿潤剤もまた、医薬組成物および製剤に添加することができる。そのようなさらなる成分の例は、当技術分野では周知である。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980 & 1990)16th and 18th eds., Mack Publishing, Easton, PAを参照のこと。
【0188】
1以上の有効成分の送達性を改善するために、医薬組成物もしくは製剤のpH、または医薬組成物もしくは製剤の投与対象となる組織のpHを調整してもよい。同様に、送達性を改善するために、溶媒担体の極性、イオン強度または張度を調整してもよい。ステアリン酸塩等の化合物を医薬組成物または製剤に添加することによって、1以上の有効成分の親水性または親油性を有利に変化させ、送達性を改善することもできる。この点において、ステアリン酸塩は、製剤の脂質ビヒクルとして、乳化剤または界面活性剤として、さらには送達促進剤または浸透促進剤として作用し得る。有効成分以外の塩、水和物、または溶媒和物を用いることにより、生成する組成物の特性をさらに調整することができる。
【0189】
投与の用量と頻度:
NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状の治療に有効な本発明の化合物または組成物の量は、該障害もしくは疾患の性質および重症度、ならびに有効成分を投与する経路によって異なる。頻度および用量は、実施される個別の治療(たとえば治療薬または予防薬の投与)ごとの、患者個人に特有の因子、障害、疾患または症状の重症度、投与経路、さらに患者の年齢、体重、反応性および既往症によっても異なる。有効投与量は、インビトロでの測定や動物モデル試験系によって得られた用量反応曲線から推定してもよい。適切な投与計画は、このような因子を考慮しつつ、たとえば文献で報告されたり、またPhysician’s Desk Reference(PDR:医師用添付文書集)(62nd ed.,2008))で推奨されたりしている用量に従って、当業者により選択される。
【0190】
一般に本明細書に記載した障害または疾患のための本発明の化合物の1日あたりの推奨用量の範囲は、1日あたり約0.01mg〜約2000mgであり、1日1回の単回投与または1日を通じた分割投与が行われる。一実施形態では、1日用量を等分し、2回に分けて投与する。好ましくは、1日用量の範囲は、1日あたり約5mg〜約1000mg、より具体的には約10mg〜約500mgである。患者の管理において、治療は約1mg〜約25mgといった低用量から開始すべきであり、患者の全身反応によって必要に応じて1日あたり約200mg〜約1000mgまで増加させ、これを単回または分割にて投与する。当業者には明らかなことであるが、場合によっては、本明細書で開示した範囲の外にある有効成分の用量を用いることが必要となるかもしれない。さらに、臨床医または治療担当医師は、個々の患者の反応に合わせて、治療の中断、調節、または終了をいつどのように行うかを理解しているであろう。
【0191】
本発明の化合物以外の、NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状の治療にこれまでにまたは現在使用されている予防薬または治療薬は、本発明の併用療法において使用することができる。たとえば、本発明の化合物は、モノアミンオキシダーゼ阻害薬等のセロトニンの分解を阻害し得る他の抗うつ薬とともに処方することができる。一実施形態では、前記さらなる治療薬は、グルタミン酸受容体、たとえばAMPA受容体、カイニン酸受容体、NMDA受容体のアゴニスト部位、またはNMDA受容体のストリキニーネ非感受性グリシン部位に結合するものである。
【0192】
うつ病を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、アミトリプチリン、アモキサピン、ブプロピオン、クロミプラミン、デシプラミン、ドキセピン、イミプラミン、マプロチリン、ネファゾドン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、トラドゾン、トリミプラミン、およびベンラファクシン等の三環系抗うつ薬;フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、およびセルトラリン等の選択的セロトニン再取り込み阻害薬;イソカルボキサジド、パルギリン、フェネルジン、およびトラニルシプロミン等のモノアミンオキシダーゼ阻害薬;ならびにデキストロアンフェタミンおよびメチルフェニデート等の精神刺激薬等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0193】
その他の有用な抗うつ薬としては、ビネダリン、カロキサゾン、シタロプラム、ジメタザン、フェンカミン、インダルピン、塩酸インデロキサジン、ネホパム、ノミフェンシン、オキシトリプタン、オキシペルチン、チアゼシム、ベンモキシン、イプロクロジド、イプロニアジド、ニアラミド、オクタモキシン、フェネルジン、コチニン、ロリシプリン、ロリプラム、メトラリンドール、ミアンセリン、ミルタゼピン、アジナゾラム、アミトリプチリンオキシド、ブトリプチリン、デメキシプチリン、ジベンゼピン、ジメタクリン、ドチエピン、フルアシジン、イミプラミンN−オキシド、イプリンドール、ロフェプラミン、メリトラセン、メタプラミン、ノキシプチリン、オピプラモール、ピゾチリン、プロピゼピン、キヌプラミン、チアネプチン、アドラフィニル、ベナクチジン、ブタセチン、ジオキサドロール、デュロキセチン、エトペリドン、フェバルバメート、フェモキセチン、フェンペンタジオール、ヘマトポルフィリン、ヒペリシン、レボファセトペラン、メジホキサミン、ミルナシプラン、ミナプリン、モクロベミド、ネファゾドン、オキサフロザン、ピベラリン、プロリンタン、ピリスクシデアノール、リタンセリン、ロキシンドール、塩化ルビジウム、スルピリド、タンドスピロン、ソザリノン、トフェナシン、トロキサトン、L−トリプトファン、ビロキサジン、およびジメリジン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0194】
不安障害を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、アルプラゾラム、ブロチゾラム、クロルジアゼポキシド、クロバザム、クロナゼパム、クロラゼペート、デモキセパム、ジアゼパム、エスタゾラム、フルマゼニル、フルラゼパム、ハラゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム、ニトラゼパム、ノルダゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、クアゼパム、テマゼパム、およびトリアゾラム等のベンゾジアゼピン;ブスピロン、ゲピロン、イプサピロン、チオスピロン、ゾルピコン、ゾルピデム、およびザレプロン等の非ベンゾジアゼピン系薬物;バルビツール酸塩(たとえばアモバルビタール、アプロバルビタール、ブタバルビタール、ブタルビタール、メフォバルビタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、セコバルビタール、およびチオペンタール)等の精神安定薬;ならびにメプロバメートおよびチバメート等のプロパンジオール・カルバミン酸塩等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0195】
炎症性腸疾患を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、抗コリン薬、ジフェノキシレート、ロペラミド、脱臭アヘンチンキ、コデイン;メトロニダゾール、スルファサラジン、オルサラジン、メサラミン、プレドニゾン、アザチオプリン、メルカプトプリン、およびメトトレキサート等の広域抗生物質等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0196】
過敏性大腸症候群を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、プロパンテリン;ピレンゼピン、メトクトラミン、イプラトロピウム、チオトロピウム、スコポラミン、メトスコポラミン、ホマトロピン、ホマトロピン臭化メチル、およびメタンテリン等のムスカリン受容体アンタゴニスト;ならびにジフェノキシレートおよびロペラミド等の抗下痢薬等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0197】
尿失禁を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、プロパンテリン、イミプラミン、ヒヨスチアミン、オキシブチニン、およびジサイクロミン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0198】
炎症性気道疾患を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、コルチコステロイド等の抗炎症薬;ロイコトリエン修飾薬;肥満細胞安定化薬;ならびにベータアドレナリンアゴニスト、抗コリン薬、およびメチルキサンチン等の気管支拡張薬等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0199】
本発明の併用療法における用量は、NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状の治療にこれまでにまたは現在使用されている用量よりも少ないことが好ましい。NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状を予防、治療、管理、または緩和するためにこれまでにまたは現在使用されている薬剤の推奨用量は、当技術分野における任意の文献から得ることができる。このような文献としては、Hardman et al., eds., 1996, Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis Of Basis Of Therapeutics 9.sup.th Ed, Mc−Graw−Hill, New York; Physician’s Desk Reference (PDR) 62nd Ed., 2008, Medical Economics Co., Inc., Montvale, NJ等が挙げられ、これらは引用によりその全体が本明細書に援用されるが、文献はこれらに限定されない。
【0200】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物が別の療法と並行して投与される場合、それらの療法(たとえば予防薬または治療薬の投与)は、本発明の投与と同時にまたはそれとは別に、たとえば30分未満、1時間、3時間、5時間、10時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、または72時間あけて実施される。
【0201】
本発明の別の態様は、NK2受容体活性を調節するための方法であって、該方法は、該NK2受容体を本発明の化合物の有効量と接触させることを含む。
【0202】
NK2受容体の活性は、NK2受容体の活性を高めたり低下させたりする(すなわち阻害する)ことによって調節することができる。NK2受容体の活性は、NK2の内因性リガンド(たとえばNK2受容体のNKA)またはsaredutant等の市販の外因性リガンドによって、受容体における結合を阻害することによって、低下させる、すなわち阻害することができる。このような結合相互作用を阻害する方法およびこのような結合阻害を検出する方法は、当業者には公知であり、本明細書においても説明されている。NK2受容体の活性は、100%、または100%未満(たとえば、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、もしくは10%)、減少させることができる。NK2受容体活性の阻害は、たとえば、式(1)または式(I)の化合物が内因性リガンドの結合部位に結合し、結果として該内因性リガンドとの結合が減少するによって起こる。NK2受容体活性の阻害はまた、式(1)または式(I)の化合物が、NK2受容体において内因性リガンドが結合する部位とは異なる部位に結合し、それによってNK2受容体の内因性リガンドとの相互作用における活性を変化(たとえば減少)させる(たとえば該受容体のアロステリック修飾)ことによっても起こる。NK2受容体の活性は、5%、または5%を超えて(たとえば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%、または100%を超えて)、増加させることができる。NK2受容体の活性を調節する方法は、インビトロ(たとえば、細胞内、細胞溶解物内、または細胞の一部(たとえば関連する受容体)を含むサンプル中)でも、インビボ(たとえばヒト患者において)でも実施することができる。
【0203】
その他の実施形態
本発明の化合物は、研究用ツールとして、たとえば、新規薬剤の作用機序を評価するために、アフィニティークロマトグラフィーを用いて創薬の標的を単離するために、ELISAもしくはELISAに類似したアッセイにおける抗原として、またはインビトロもしくはインビボアッセイにおける標準として使用することができる。このような本発明の化合物および組成物の上記した使用および実施形態だけでなく、それ以外の使用および実施形態も、当業者には明らかであろう。
【0204】
本発明は、本発明の化合物の調製について詳細に説明する以下の実施例を参照することにより、さらに明確になる。多くの修正が、物質および方法のいずれにおいても、本発明の目的および範囲から逸脱することなくなされ得ることは、当業者には明白であろう。以下の実施例は、本発明を理解するための一助として示すものであり、本明細書で説明し主張する本発明を具体的に限定するものと解釈されるべきではない。そのような本発明の変化形は、現在公知であるか今後開発され、当業者の視野に入るであろうすべての等価物との置き換え、および剤形の変更または実験設計における小規模な変更等を含むが、これらはすべて本明細書に包含された本発明の範囲内にあるものと考える。
【実施例】
【0205】
実施例1
受精卵分離物Aの調製
受精卵分離物Aを調製するために、産卵から8〜9日目のニワトリ受精卵を殻ごと70%エタノールで殺菌し、ドラフト内にてエタノールを蒸発させた。次いで卵を割り、内容物を滅菌済みの1.0mmメッシュに受けた。卵殻とメッシュを通過した濾液は廃棄した。メッシュ上の残渣は胚、嚢、および卵白の全部または大部分を含み、固体、半固体および/または液体から成っていたが、これを氷上で冷却し、5℃でホモジナイズした。このホモジネート(スラリー)を滅菌したステンレス製トレーに注ぎ、凍結乾燥した。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕し、分離物Aを得た。この分離物Aに、防腐剤である0.5%w/w安息香酸ナトリウムおよび0.2%w/wソルビン酸カリウムを加えて混合した。完成した粉末は2〜8℃(短期)または−20℃(長期)で保存した。
【0206】
HPLC分析
受精卵分離物Aを含む完成した粉末を、高速(または高圧)液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。分析結果は、多波長吸光検出器を使用して定量した。215nmの吸光度を測定した。ファルマシア社製スーパーデックス200 10/300 GL サイズ排除カラム(内径10mm×300mm)を用いて分画を行った。カラムの分離範囲は10〜600kDaであった。カラムの平衡化は、20mMリン酸塩+0.3M NaCl、pH 7.5で行った。流速0.5mL/分で試料の分析を行った。図1に代表的なクロマトグラムを示す。
【0207】
分析証明書
分離物Aを含む完成した粉末に対して標準分析を実施し、純度、ならびにタンパク質、脂質、灰分、水分および様々な不純物の含量を測定した。図2に代表的な結果を示す。
【0208】
製剤Aカプセル剤
製剤Aのカプセル剤を調製するために、幾何級数的希釈を用いて、分離物Aを含む完成した粉末4000.0g(+/−2%)、安息香酸ナトリウム(0.5%w/w)およびソルビン酸カリウム(0.2%w/w)をヒュームドシリカ40g(+/−2%)と混合した。この混合物をふるいにかけ、さらに混和とふるい分けを繰り返して製剤Aを得た。Mini−Cap300#0の白色カプセルを用いて、製剤A混合物が1カプセルあたり505mg充填されるようにカプセル化し、製剤Aカプセル剤を調製した。
【0209】
実施例2
大うつ病性障害(MDD)およびそれに関連する障害/症状の治療における製剤Aの検討
固定用量の製剤Aを用いて、MDDなどの精神障害、ならびにそれに関連した障害および症状の治療における効果および安全性を検討した。本検討は、不安症状の軽減、生活の質の改善、および性機能不全症状の改善における製剤Aの効果の評価を含むものであった。
【0210】
評価方法の説明
ハミルトンうつ病評価尺度−17項目−「HAM−D」または「HAM−D 17」
この尺度は、北米で患者に対して用いられる代表的なうつ病評価尺度である。合計点は以下のように解釈される:非常に重度>23点;重度、19〜22点;中程度、14〜18点;軽度、8〜13点;うつ病とは言えない、0〜7点。
【0211】
ハミルトン不安評価尺度−14項目−「HAM−A」
この評価尺度は、患者の不安レベルを評価するものである。点数レベルは以下のように解釈される:<17点、軽度;18〜24点、軽度〜中程度;25〜30点、中程度〜重度。
【0212】
モントゴメリー/アスベルグうつ病評価尺度−「MADRS」
この尺度は、北米で患者に対して用いられる代表的なうつ病の評価尺度である。ある研究によれば、以下の平均点は、全般重症度と関連している:非常に重度、44点;重度、31点;中程度、25点;軽度、15点;回復済、7点。
【0213】
ベックうつ評価尺度−「BDI」
この尺度は、自己評価ツールとして一般的に用いられている抑うつ症状の評価尺度である。合計点は、21項目の各点数の単純な総和である。通常、<9点はうつ病ではないか、または極微のうつ病であることを示し、10〜18点は軽度から中程度のうつ病を示し、19〜29点は中程度から重度のうつ病を示し、>30点は重度のうつ病を示す。しかし、0〜4点の場合、うつ病の否認が示唆され、40〜63点の場合、うつ病の誇張または演技性もしくは境界性人格障害が示唆される。
【0214】
アリゾナ性経験尺度−「ASEX」
この尺度は、性衝動を数値化した5項目からなる評価尺度であり、性的興奮度、膣潤滑/ペニス勃起、オルガスムへの到達能力およびオルガスムからの充足感を評価する。
【0215】
合計点の範囲は5〜30点であり、点数が高いほど重度の性機能不全であることを示す。
【0216】
一般健康調査票に基づく評点法−「GHQ」
生活の質の程度の評価には、簡易版36項目(SF−36)を用いてもよい。この調査票は、集中力、不安感、自信のなさ、自尊心の低さ、不幸感、うつ病などの問題を評価するものである。点数は以下の通りである:
左から右へ0、1、2、3と表示するリッカート尺度を用いて、12項目を各項目0〜3点で評価した。
点数の範囲は0〜36点。点数は集団調査(study of population)ごとに変化する。
11〜12点程度は標準的な点数である。
>15点は苦痛を感じていることを裏付けるものである。
>20点は深刻な問題および精神的ストレスを示唆する。
【0217】
精神障害の診断・統計マニュアル第4版−「DSM−IV TR」
このマニュアルは、北米でメンタルヘルスの専門家が用いる標準的な診断マニュアルであり、精神障害を包括的に分類するとともに、入手できる経験的な証拠に基づいてそれらの障害を診断するために、広く認められている基準を提供するものである。
【0218】
HAM−Dの点数を結果変数として反復測定分散分析を行うことにより主要効果を求めた。副次効果の尺度としては、CGI−SおよびCGI−I、MADRS、SF36、BDI、HAMA、ASEX等を用いた。
【0219】
試験内容の説明
カナダのオンタリオ州のトロントにあるマウント・サイナイ病院(MSH)にて非盲検試験を行った。メディア広告を通じて、またMSHの外来患者プログラムや他の臨床施設からの紹介により患者を募集した。
【0220】
このプロトコールは、製剤Aの潜在的抗うつ活性を検討する非盲検の予備的研究を説明するものである。この予備的研究の目標は、製剤Aに、他の試験で十分にその存在が立証されているプラセボ効果のレベルを越えてMDDを有意に改善する効果があること、ならびに製剤Aが本研究の患者集団において許容できる治療であることを証明することである。また、この予備的研究の第2の目的は、不安障害の症状の軽減および生活の質の改善における製剤Aの効果を評価することである。
【0221】
各患者に対し、DSM−IV TRの基準およびHAM−Dを用いてMDDのスクリーニングを行った。エントリーした患者に対して8週間の製剤A非盲検試験を実施した。さらに、患者に対して、全般的な基準であるCGI重症度(GCI−S)およびCGI改善度(CGI−I)による評価も行った。副作用については、Udvalg for Kliniske Undersogelser(UKU)副作用評価尺度(Lingjaerde)を用いて体系的に評価した。抑うつ症状の副次的な尺度として、モントゴメリー/アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)およびベックうつ評価尺度(BDI)を自己評価ツールとして用いた。生活の質の程度については、簡易版36項目(SF−36)を用いて評価した。不安については、14項目からなるHAM−Aを用いて評価した。
【0222】
この固定用量による非盲検試験において、患者はうつ病の標準的な治療プロトコールに基づく治療を受けた。治験責任医師は、ベースラインおよび2、4、6、8週目(W)の診察時に前記評価尺度を用いてうつ病の重症度を判定した。患者は、診察と診察の間の週にも来院し、うつ病および薬の忍容性を評価するための簡単な臨床評価を受けた(V)。
【0223】
製剤Aの投与量
製剤Aの投与量は、1日あたり約2,000mg(約500mgの製剤Aのカプセル剤を2カプセルずつ、1日2回服用)であった。
【0224】
患者の組入れ基準
本試験に参加する患者は、下記の基準(i)〜(vi)を含むいくつかの組入れ基準を満たす必要があった。
(i)DSM−IV TRにおける単一エピソードまたは再発性の大うつ病基準を満たす臨床診断がなされること。
(ii)17項目からなるハミルトンうつ病評価尺度(HAM−D 17項目)におけるベースラインの合計点が18点以上であること。
(iii)既に大うつ病と診断され、薬物治療の追加または変更が必要である18〜65才の男女。
治療内容は、臨床医が患者ごとに適切な医療基準を判断し、もっぱらそれに基づいて決定された。
ただし、8週間の試験中、用量の増加は認めないものとした。
(iv)英語の読み書き能力があること。
(v)書面のインフォームド・コンセントに署名が得られていること。
(vi)スクリーニング時の妊娠検査結果が陰性であること。
【0225】
除外基準
患者が下記の基準(i)〜(xiii)を含むいくつかの除外基準に該当する場合、本試験から除外した。
(i)DSM−IV TRにおいて、MDD以外のうつ病を含む他の臨床診断がなされた場合(単一エピソード/再発性ではなく、例えば、慢性うつ病および/または難治性うつ病の場合は除外した)。
(ii)自殺のリスクが有意である(HAMDの自殺に関する項目において>1点)と判断された場合、または有意な自傷行為の可能性を示唆する病歴を有する場合。
(iii)製剤A以外の抗うつ薬による薬物治療を受けている場合。
(iv)被験者が、うつ病に用いられる天然の健康製品を摂取しており、摂取の中止ができないまたは摂取の中止を望まない場合。
(v)妊娠中の女性、授乳中の女性、12か月以内に妊娠する予定のある女性、または避妊が不十分であった女性。
(vi)臨床的に深刻な臓器疾患(例えば心血管疾患、肝疾患、腎疾患、内分泌系疾患、消化器疾患、代謝系疾患や他の全身性疾患)を患っている場合。
(vii)観察期間中に電気ショック療法(ECT)を受ける予定がある場合。
(viii)重大な神経疾患(すなわちパーキンソン病、ハンチントン舞踏病)、脳血管疾患(すなわち脳卒中)、代謝系疾患(すなわちビタミンB12欠乏症)、自己免疫疾患(すなわち全身性エリテマトーデス)、ウイルスなどによる感染症(すなわち肝炎、単核球症、ヒト免疫不全症)または癌を患っている場合。
(ix)臨床的または無症状性の甲状腺機能低下症/甲状腺機能亢進症(例えば、TSHレベルの上昇)である場合。
(x)鶏肉アレルギーまたは卵アレルギーを有する場合。
(xi)被験者が精神療法を受けているか、試験期間中に精神療法を始めた場合。
(xii)被験者が血液検査や尿検査によるスクリーニングにおいて、臨床的に重大な意味を持つ異常値を示した場合。
(xiii)被験者の症状が休薬期間に著しく悪化した場合。
【0226】
試験デザイン
本試験は、製剤Aによる単独療法の効果および安全性を実証する目的で設計された非盲検無作為試験であり、23人の患者が参加し(うち20人について分析可能な結果が得られた)、1ヶ所で実施された。
【0227】
この試験は、8週間の評価期間から構成されており、必要な場合、これに先立って2週間の抗うつ薬休薬期間を設けた。
【0228】
スクリーニング
医師および/または治験コーディネーターが、被験者に対して試験、治療の特徴、およびその他の選択肢について十分に説明した後、被験者がインフォームド・コンセントの書面に署名し、医師がDSM−IV TRを用いた臨床診断およびHAM−D 17を実施した。次いで、基準を満たした被験者は、精神疾患の病歴および併用療法に関する医学的審査を受けた後、健康診断を受けた。さらに、治験コーディネーターによって、ベースラインの臨床検査が行われ、尿(通常検査および顕微鏡検査)、CBC(全血算)、白血球数および血小板数、電解質、ビリルビン、BUN、クレアチニン、TSH、肝臓機能検査、血清クレアチニンおよびECGなどが測定された。女性患者に対する妊娠判定はhCG血液検査により行われた。妊娠している患者および臨床検査で臨床的に重大な意味を持つ異常値を示した患者は除外された。
【0229】
0週目
ベースラインの診察(0週目)のために再来院した患者は、医師によって製剤A単剤療法に割り当てられた。うつ病であり、効果のない現行の抗うつ薬を服用中である患者には、製剤Aへの切り換えを提案した。
【0230】
翌週以降
初回評価と製剤A療法の開始(V1とV2)に続いて、患者は8週間(W2〜W8、V3〜V6)を通して毎週決められた通りに来院した。別の抗うつ薬を服用中に試験への参加を決めた患者には、8週間の治験を始める前に1〜2週間の休薬期間を設けた。休薬期間の長さは医師の臨床上の判断に従った。この間、患者は、休薬開始1週間後に来院して精神科医の診察を受け、週の半ばには治験コーディネーターからの電話によるモニタリングを受けた。休薬期間中にうつ病が悪化する可能性があることは認識されている。しかし、以前の薬に効果がないか部分的にしか効果がない場合、この休薬期間中、被験者を注意深く観察し、必要に応じて適切な治療が行われる限りにおいては、1〜2週間の遅れにより抑うつ的な落ち込みが顕著に誘導されるといったリスクは、本試験のプロトコールによって通常の治療より実質的に大きくなることはない。製剤Aが特定の患者にとって有効な抗うつ薬でなかった場合、うつ病を不必要に長びかせるリスクがある。しかし、うつ病は通常、うつ病と診断されるあるいは治療が開始される何か月も前から発症している慢性疾患であり、引き続いて行われる8週間の製剤Aによる治療(潜在的に有効な薬物治療)は、患者を注意深く観察していれば、標準的な治療と実質的に異なるものではない。さらに、既に述べた通り、標準的な治療は約60%の患者にしか有効でないため、同様に再評価や薬物の変更を必要とすることが多い。
【0231】
V2(V1(W0)と組み合わせてもよい)〜V6(W8)において、監督精神科医(治験責任医師)および/または治験コーディネーターにより以下の測定が行われた。
− 体重
− 身長
− バイタルサイン
− ハミルトンうつ病評価尺度(17項目)(HAM−D 17)(Hamilton 1967)
− 臨床全般印象尺度(CGI−S、CGI−I)(Guy)
− モントゴメリー/アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)(Montgomery)
− ベックうつ評価尺度(BDI)(10)
− 生活の質(SF−36)(Ware)
− ハミルトン不安評価尺度(HAMA)(Hamilton 1959)
− Udvalg for Kliniske Undersogelser(UKU)評価尺度(Lingjaerde)(副作用の報告)(V2以外)
− 服薬遵守(V2以外)
【0232】
試験期間中の診察時間は約1時間で、ベースラインの来院時のみ2時間を要する場合があった。
【0233】
試験期間中、被験者の抑うつ状態が悪化した場合、治験責任医師が判定して最善の臨床的アプローチを決定した。必要と判断された場合は、製剤Aの服用を中止して、別の抗うつ薬による治療を行った。これは、もっぱらうつ病の治療におけるベストプラクティス、および患者にとっての臨床上の最善の利益に基づいてなされた臨床的決断であった。
【0234】
医師および治験コーディネーターが患者に対し一般的なサポートを行うためにコンタクトを取ることは認められていたが、このような患者へのコンタクトは、病気の経過および治療に関する患者側からの質問に答えることに限定されていた。正式な精神療法を行うことは認められていなかった。
【0235】
統計的手法
HAM−D 17の点数を結果変数として反復測定分散分析を行うことにより主要効果を調べた。有意な経時的効果により、仮説が裏付けられる。予測されるサンプルサイズは患者25人で、これは標準偏差の0.65倍に相当するHAM−D 17の点数の変化を検出できるサイズであった(1標本両側検定、P<0.05)。HAM−D 17の点数の標準偏差は、4.5〜6.5であると報告されているため、本試験デザインにおいては、52点の点数幅に対して検出力80%で平均4.3点程度の小さな変化も検出できる。組入れ基準により、参加者のHAM−D 17の点数は、それぞれ17点を超えていた。フランクによる寛解基準では、HAM−D 17の点数は9点以下であった。本試験では、より堅実で一般に認められている7点以下を基準として用いた。4.3点という効果量は、17点を超える点数が10点未満に変化するような臨床上の改善を十分に検出できる精度であった。うつ病の治験においてプラセボ反応の出現率は30〜50%と予想されており、良好な結果は統計的にこれに基づくものであった。試験では、プラセボ反応の出現率は40%であると仮定した。必要に応じて、反応のあった被験者および寛解した被験者の分析を行った。
【0236】
結果
計23人の患者が試験に参加した。3人の被験者(#104、#105および#118)には治療が施されなかったため、この3人の結果は分析可能でないと考えた。製剤Aを少なくとも1用量服用した20人の被験者のうち、16人は8週間の試験を完了した。残り4人の被験者は8週間の試験を完了はしなかったものの、製剤Aを少なくとも1用量服用したため、この4人の結果は分析可能と見なした。4人の被験者が試験を完了しなかった理由には、服薬および/または診察時間を遵守できなかったこと、結果に対する苛立ちが抑えられなかったこと、および被験者が国外へ移動したことが挙げられる。
【0237】
製剤Aを少なくとも1用量服用した被験者20人の結果を、以下の表に示す。
【0238】
【表1】
【0239】
【表2】
【0240】
【表3】
【0241】
【表4】
【0242】
【表5】
【0243】
【表6】
【0244】
反応率および反応強度
以下の定義を用いて、製剤Aを用いた治療に対する各被験者の反応を評価した。「反応した被験者」すなわち「反応したことのある被験者」とは、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM−Dの点数)において、ベースラインの点数と比べて少なくとも50%の改善が試験期間中のいずれかの時点で見られた被験者である。「臨床的に反応が見られた被験者」は、「反応した被験者」の基準を満たし、治験責任医師によって良好な臨床結果を有すると判断された被験者である。「試験完了時に反応の見られた被験者」は、試験の終了時(最後の診断時)に反応基準を満たした被験者である。「寛解」とは、HAM−Dの点数が8点未満に低下することを言う。
【0245】
上記の試験において、製剤Aを少なくとも1用量服用した被験者20人のうち15人(75%)が「反応したことのある被験者」であり、14人(70%)が「臨床的に反応が見られた被験者」であった。さらに、8週間の試験を完了した被験者16人のうち、「反応したことのある被験者」は13人(81.3%)であり、「臨床的に反応が見られた被験者」は12人(75%)であった。さらに、試験を完了した被験者16人(「反応しなかった被験者」を含む)全体のHAM−D点数は、56.08%という顕著な低下率を示した。8週間の試験を完了した「反応したことのある被験者」のHAM−Dの点数の低下率はこれよりも高い68.1%であり、「反応したことのある被験者」に必須の少なくとも50%という値を十分に越えていた。
【0246】
被験者2人の反応が周囲の環境の影響を受けたことは、注目に値する。被験者#114は、「臨床的に反応が見られた被験者」に含まれないが、2週目までに反応を示し、このときのHAM−Dの点数は、製剤Aの服用により50%を超える低下を示していた。しかし、外部要因が介入した。被験者#114は、健康上の問題(製剤Aとの関連性はない)から身体障害保険を申請したが、このとき職場で困難な状況に遭遇した。このような環境要因は、製剤Aに対する被験者#114の良好な情動反応を完全に打ち消すものであった。
【0247】
HAM−Dの点数が50%低下するという厳格な基準では、被験者#106は8週目の時点では「反応した被験者」と判断されなかった。8週目の時点でこの被験者の点数は12点であり、開始時の点数である21点から50%の低下は達成していなかったからである。しかし、8週間の試験期間における被験者#106の点数は、4点(2週目)、8点(4週目)および10点(6週目)であり、試験期間を通じて確かに反応を示していた。実際、試験期間中、被験者#106は治験責任医師により「臨床的に反応が見られた被験者」であると判断されており、延長試験(実施例3を参照)にも参加し、その際にも1点、11点、7点および9点が記録されている。延長試験の開始後、被験者#106は、製剤Aに対する良好な反応を打ち消すような家庭内の大混乱に直面した。この混乱が収まった時点で、この被験者の製剤Aに対する反応性は維持されていた。どのような薬物治療も、周囲の環境による衝撃を完全には相殺できない。しかし、製剤Aは、被験者#106に対し、このような環境による心的外傷を緩和した可能性がある。
【0248】
寛解率
「反応したことのある被験者」すべてが寛解したわけではなく、「寛解した被験者」すべてが8週間の試験終了時までその状態を維持していたわけではなかった。「反応したことのある被験者」15人のうち9人(60%)は、8週間の試験期間中いずれかの時点で寛解していた。この寛解を達成した被験者9人のうち7人(77.8%;すべての試験参加者に対する割合としては46.7%)は、8週間の試験終了時まで寛解を維持した。
【0249】
以下の表は、寛解した試験参加者、および寛解を維持した試験参加者をすべて示したものである。チェックマークは、被験者が寛解したか寛解を維持したことを示し、Xマークは、被験者が寛解しなかったか、試験開始後8週目まで寛解を維持していなかったことを示す。
【0250】
【表7】
【0251】
さらに、1人を除いてすべての「反応したことのある被験者」が主な副次的効果(不安感の減少)を体感した。これらの結果は、製剤Aが大うつ病性障害および不安障害の治療に有効であることを示す。さらに、この薬物に起因する重大な副作用はなかった。また、試験に参加した被験者において体重の増加や性機能の減退は見られなかった。
【0252】
実施例3
実施例2の試験において有効性および安全性を示す結果が得られたことにより、延長試験が必要となった。実施例2の試験の被験者のうち10人が延長試験に参加した。延長試験は、実施例2の試験の被験者のうち、8週間の試験終了時に「臨床的に反応が見られた被験者」のみを対象とした。製剤Aを実施例1と同様に投与し、延長試験の被験者の分析は10ヶ月間にわたって1ヶ月毎に実施された。以下の表は、延長試験の被験者のHAM−Dの点数を示す。
【0253】
【表8】
w/d:延長試験から離脱
【0254】
被験者10人のうち4人は、除外基準に該当したため延長試験から離脱した。延長試験の結果より、試験の被験者がすべて定義に違うことなく、製剤Aに「反応した被験者」であることがわかった。「臨床的に反応が見られた被験者」10人のうちの6人(60%)は、延長試験の開始時に寛解状態にあった。この10人のうち8人(80%)は、最終評価日に寛解状態にあった。うち2人は、先の8週間の試験においては「臨床的に反応が見られた被験者」であったものの延長試験の開始までは寛解に至らない被験者であった。「臨床的に反応が見られた被験者」と判断されて延長試験に参加した被験者のうち1人(#113)だけが、延長試験に参加後再発を見た。
【0255】
実施例4
実施例3の試験において有効性および安全性を示す結果が得られたことにより、第2の延長試験が必要となった。実施例3に記載の延長試験の被験者のうち4人が第2の延長試験に参加した。第2の延長試験は、最初の延長試験の被験者のうち、製剤Aの服用継続を希望した被験者のみを対象とした。製剤Aは、実施例2および3と同様に投与した。第2の延長試験は12か月継続するよう予定され、参加した4人の被験者は現在、試験の8か月または9か月を終えた段階にある。被験者はそれぞれ1か月毎に分析を受けており、今後もその予定である。以下の表は、該延長試験における被験者のHAM−Dの点数を示す。
【0256】
【表9】
【0257】
第2の延長試験の結果、進行中である試験の実施済み期間全体を通じて、試験の被験者全員(来診5における被験者#106を除く)が寛解(すなわち、HAM−Dの点数が8点未満)を維持していた。最終評価日には被験者全員が寛解状態にあった。
【0258】
実施例5
上述の実施例に記載の通り、製剤Aは、実証に基づく治療的効果を有する。PCT国際公開第2009/086634号パンフレットに記載されているように、製剤Aの作用機序を調べるための検討を行った。具体的には、製剤Aが放射性リガンドとその受容体との結合を阻害する効果、または製剤Aが放射性標識酵素の関連標的タンパク質に対する作用を阻害する効果を判定するための検討を行った。製剤Aによる阻害の程度(製剤Aによる各受容体における特異的結合の阻害率(%))を求めた。結合能および酵素活性の阻害試験は、製剤Aの濃度が異なる2つの試料(1.0μg/mLおよび10.0μg/mL)を用いて二重測定(duplicate)で行った。これらの濃度の試料は、製剤Aのカプセル剤の内容物をジメチルスルホキシドに溶解し、製剤Aの濃度が1.0μg/mLまたは10.0μg/mLになるよう希釈することにより調製した。これらの希釈溶液を分離物Aと呼ぶ。次いで、60種類を超える受容体および酵素を用いて、放射性リガンド結合アッセイを行った(アッセイの詳細はPCT国際公開第2009/086634号パンフレットに記載されている)。各濃度における分離物Aの特異的結合平均阻害率(%)を求めた。
【0259】
試験を行った60種類を超える受容体および酵素のうち、5つの受容体に対する結合阻害活性が見られた。試験の結果から、分離物A(約10μg/mL)の存在下、ニューロキニンAとヒトNK2受容体との結合が32.15%阻害されたことがわかった。解離定数(Kd)は5×10−10Mであり、対照化合物であるニューロキニンAの阻害定数(Ki)は2.53×10−10Mであった。さらに、上記の結合試験から、分離物Aが主要な4つのイオンチャネル型グルタミン酸受容体においてグルタミン酸と置き換わることがわかった。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識AMPAとAMPA受容体との結合は29.05%阻害された。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識カイニン酸とカイニン酸受容体との結合は22.38%阻害された。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識CGP 39653とNMDA受容体のアゴニスト部位との結合は34.59%阻害された。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識MDL−105,519とNMDA受容体のグリシン部位(ストリキニーネ非感受性)との結合は27.45%阻害された。
【0260】
NK2受容体を用いて、さらなる受容体結合アッセイを行った。単一濃度で比較対照実験を行い、製剤Aのカプセル剤の内容物から調製された様々な分離物の、NK2受容体のリガンド結合に拮抗する能力を評価した。製剤Aのカプセル剤の内容物を種々の溶媒に溶解し、以下に詳細に説明する4つの異なる方法で抽出を行った。この抽出操作によって複数の分離物を得た。それぞれを、サンプル#19上層分離物、サンプル#19下層分離物、サンプル#20上層分離物、サンプル#20下層分離物、画分X分離物およびサンプル#2分離物と呼ぶ。これらの分離物それぞれを放射性リガンド結合アッセイに供した。分析における結合活性の判定を容易にするために、高濃度(たとえば約100μg/mL)の分離物を使用した。放射性リガンド結合アッセイは、BurcherとRegoliの方法に基づいて実施した。概して言えば、組み換えヒトNK2受容体を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を対照(ニューロキニンA)または各分離物の存在下、[125I]ニューロキニンA(終濃度1.0μM)とともに培養した。反応は、25℃で4時間、0.02%のウシ血清アルブミンと1mMのMnCl2を含む20mMのHEPES(pH 7.4)中で進められた。次いで、ガラス繊維フィルターを用いた急速真空濾過によって反応を停止させた。フィルター上の放射能を測定して対照の値と比較し、分離物とNK2受容体のニューロキニンA結合部位との間に相互作用があるかどうかを確認した(%特異的結合として測定)。
【0261】
製剤Aのカプセル剤から内容物103mgを量り取り、サンプル#19を調製した。水(10.3mL)を加え、ボルテックスミキサーで1分間攪拌した。次いで、この溶液に酢酸エチル30mLを加えて、さらに1分間攪拌した。次いで、これをBeckman製の卓上遠心機で遠心した。その結果、3つの画分が形成された。上層(有機相)および下層(水相)画分をそれぞれ回収し、中間の画分は廃棄した。上層と下層の画分をそれぞれ乾燥させた。下層(水相)画分を水2.06mLで再構成した。透明でないこのサンプルを、微量遠心機を用いて10,000rpmで10分間遠心した。上清を回収し、これをサンプル085426−4(サンプル#19下層分離物)として受容体結合試験に用いた。上層(有機相)画分を20%アセトニトリル水溶液1.245mLで再構成した。透明でないこのサンプルを、微量遠心機を用いて10,000rpmで10分間遠心した。上清を回収し、これをサンプル085426−3(サンプル#19上層分離物)として受容体結合試験に用いた。サンプル#19に対するコントロール液も調製した。コントロール液は20%アセトニトリル水溶液から成り、これをサンプル085426−5として受容体結合試験に用いた。
【0262】
製剤Aのカプセル剤から内容物249.7mgを量り取り、サンプル#20を調製した。これにメタノール:ジクロロメタン(1:1)10mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。次いで、この溶液にジクロロメタン10mLを加え、さらに攪拌した。次いで、Beckman製の卓上遠心機を用い、サンプルを3,500rpmで15分間遠心した。その結果、3つの画分が形成された。上層と下層の有機相画分をそれぞれ回収し、中間の画分を廃棄した。上層と下層の画分をそれぞれ乾燥させた後、100%メタノール水溶液2.49mLで再構成した。上層のメタノール画分は半透明であり、下層のジクロロメタン画分は溶解しなかった。2つのサンプルをいずれも微量遠心機を用いて10,000rpmで10分間遠心した。各サンプルの上清を回収した。上層のメタノール画分から得られた上清をサンプル085426−6(サンプル#20上層分離物)として受容体結合試験に用いた。下層のジクロロメタン画分から得られた上清をサンプル085426−7(サンプル#20下層分離物)として受容体結合試験に用いた。サンプル#20に対するコントロール液も調製した。コントロール液は10%メタノール水溶液から成り、これをサンプル085426−9として受容体結合試験に用いた。
【0263】
サンプル画分Xは以下のように調製した。製剤Aのカプセル剤から内容物121mgを量り取り、水10mLを加えた。次いで、この溶液にジクロロメタン10mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。水性画分と有機性画分をそれぞれ回収した。この水性画分にジクロロメタン10mLを加えてボルテックスミキサーで攪拌することにより、再度液液分離を行った。再度、水性画分と有機性画分をそれぞれ回収した。2回の液液分離で得られた有機性画分と水性画分をそれぞれ合わせ、有機性画分と水性画分を乾燥させた後、重量を測定した。水性画分は116.4mg、有機性画分は1.3mgであった。有機性画分を10%メタノール水溶液1.3mLで再構成し(0.1mg/mLに相当)、これをサンプル085426−8(画分X分離物)として結合試験に用いた。サンプル画分Xに対するコントロール液も調製した。コントロール液は10%メタノール水溶液から成り、これをサンプル085426−9(サンプル#20のコントロール液と同一)として受容体結合試験に用いた。
【0264】
サンプル#2は以下のように調製した。製剤Aのカプセル剤の内容物から一部(1.8mg)を量り取った。次いで、0.25%Tween80を含む40%PEG水溶液(3.6mL)を加え(0.5mg/mLに相当)、ボルテックスミキサーで攪拌した。この調製物をサンプル085426−1(サンプル#2分離物)として受容体結合試験に用いた。サンプル#2に対するコントロール液も調製した。コントロール液は0.25%Tween80を含む40%PEG水溶液から成り、これをサンプル085426−2として受容体結合試験に用いた。
【0265】
受容体結合試験の結果(各分離物の最大濃度における二重(duplicate)サンプルを用いて測定した)を以下の表に示す。
【0266】
【表10】
太字は、試験を行った濃度で50%を超える阻害率であったことを示す。
【0267】
画分Xの分離物はニューロキニンAとNK2受容体との結合を55%阻害し、サンプル#20上層分離物はニューロキニンAとNK2受容体との結合を53%阻害した。
【0268】
さらに、NK2受容体への結合および該受容体の活性化が、上記のように調製されたサンプル#20上層分離物により拮抗されるかどうかを確認するために、用量応答試験を行った。以下の各濃度、すなわち0.1、0.3、1.0、3.0、10、30、100および300μg/mLにおける#20上層分離物(抽出前のサンプル#20に含まれる製剤Aの量に基づく)の存在下、NK2受容体の結合がどの程度阻害されるかを評価した。
【0269】
図3に、NK2受容体を用いて行われたアッセイの結果を示す。サンプル#20上層分離物は、濃度依存的にニューロキニンAの、NK2受容体への結合能を阻害した。すなわち、サンプル#20上層分離物の濃度が高いほど結合が阻害され、濃度が低ければ阻害の程度も低かった。ニューロキニンAのIC50は6.84×10−10μg/mLであり、Kiは5.76×10−10Mであった。サンプル#20上層分離物のIC50は4.15×102μg/mLであり、Kiは3.49×102Mであった。
【0270】
実施例6
NK2受容体と相互作用する化合物は、以下のように単離した。製剤Aの粗抽出物(1.91g、オフホワイト色非晶質)を水(HPLC等級、J.T. Baker)に懸濁し、WP C18カラム(40μm、J.T. Baker)にロードした。充填したカラムに対し、水、30%メタノール、85%メタノールおよび100%メタノール(HPLC用溶媒、J.T.Baker)の順に用いて溶出を行った。次いで、等量ずつ回収したメタノールを含む画分を、上述の通りヒトNK2受容体放射性リガンド結合アッセイに供した。その結果、85%メタノールおよび100%メタノールで溶出された画分による結合阻害が最も大きいことがわかった。これらの2つの画分はいずれも、0.1mg/mLの濃度で使用された時、NK2に対して98.2%の阻害活性を示した。メタノールを含む活性画分(すなわち85%と100%のメタノールで溶出された画分)から真空下でメタノールを除去し、残った水は凍結乾燥(Labconco)によって除去した。乾燥した画分は、−20℃で保存した。
【0271】
0.599gの活性画分(85%と100%のメタノールで溶出された乾燥画分を合わせたもの)は、0.1mg/mLの濃度でヒトNK2受容体に対して98.2%の阻害活性を示したが、これをWP C18カラム(Ф2.1×50cm、40μm、J.T.Baker)にアプライした。アセトニトリルの20%、50%、70%ステップ勾配を適用して、有効成分を溶出した。(Optima(登録商標)LC/MS等級 Fisher Scientific)。次いで、等量ずつ回収した画分(それぞれ10〜15mLの溶出液を含む)を、再度上記のヒトNK2受容体放射性リガンド結合アッセイに供した。図4に、画分25、51、65、115、135、155、161、171、185、191および対照(溶離液(0.05%メタノール)のみを含む)の結合試験の結果を示す。画分171および185は、放射性標識NKAの結合を、それぞれ99.8%および100.8%阻害した。溶媒を除去し、乾燥した画分を−20℃で保存した。
【0272】
最も活性の高い画分171(NK2に対して99.8%)および185(NK2に対して100.8%)の純度は、当業者に知られている標準的な条件の下、HPLC−UVを用いて求められた。その結果を図5〜8に示す。図5は画分171のクロマトグラム、図6は画分185のクロマトグラムを示す。これらはいずれも210nmで検出した。図7は画分171のクロマトグラム、図8は画分185のクロマトグラムを示す。これらはいずれも190nmで検出した。
【0273】
600MHzの1H NMR(Bruker)を用いて、画分171および185をさらに評価した。その結果、2つの画分がいずれも純粋であり、同一の化合物を含んでいることがわかった。画分170、171、172、173および174を合わせて1つのサンプルとし、サンプル中の化合物(すなわちNK2受容体と結合する化合物)の構造を決定するために600MHzにおける1H NMR HR質量分析に供した。
【0274】
一次元NMR分光分析から、計14個(結果的には36)のプロトンおよび18個の炭素に起因する典型的な−1H共鳴および13C共鳴が示された。NMRの帰属は、以下の通りである。
1H−:4.23(1H,dd,11.74,4.70),4.17(1H,dd,11.74,5.87),3.95(1H,m),3.72(1H,dd,11.44,4.11),3.62(1H,dd,11.44,5.87),2.37(2H,dd,8.78,7.62),1.65(2H,m),1.35−1.25(重複),1.13(1H,m),0.88(3H,重複)and0.86(3H,重複);13C−:174.1(C=O),70.2(OCH),65.1(OCH2),63.2(OCH2),36.5(CH2),34.3(CH),34.0(CH2),29.9(CH2),29.5(CH2),29.5(CH2),29.4(CH2),29.3(CH2),29.1(CH2),29.0(CH2),27.0(CH2),24.8(CH2),19.1(CH3),11.3(CH3)
CHおよびCH3の帰属は、DEPT(Distortionless Enhancement by Polarization Transfer:分極移動による無歪増強)NMR法を使用して確認した。DEPT−90(中間)およびDEPT−135(トップ)の実験から、2つのCH3および2つのCHの存在がさらに確認された。DEPT−90では見られないDEPT−135における正のピークはすべてCH3である。
【0275】
多次元NMR分光分析法によって原子団や官能基の結合様式を立証したが、それが最終的な2次元構造の解明につながった。
【0276】
これらの研究により、NK2受容体に結合する活性化合物が式(I)で表される化学構造を有することが示されたが、単離された化合物のキラル中心の立体化学は決定されていない。
【0277】
最初に、異種核単量子相関(HSQC、H−C)によって、一次元の実験から得られたCH、CH2およびCH3単位の帰属がさらに確認された。
【0278】
2量子フィルターCOSY(DQFCOSY)および全相関分光(TOCSY、別名同種核ハートマン・ハーン分光(HOHAHA))を用いた実験によって、グリセリン単位の骨格構造の連結性が解明された。DQFCOSYは隣接したプロトンの連結性を測定するものであるが、TOSCYはさらに離れて存在するプロトンの連結性をも測定できる。
【0279】
より長距離の(グリセリンを越えた)連結性については、異種核間の相関、すなわちHMBC(異種核多重結合相関)を使用して解明した。この方法により、グリセリンの(C1−H)とミリスチン酸のカルボニルがカルボキシル(エステル)結合によって連結していることがわかった。また、C−αプロトンとC−βプロトンとの間において、カルボキシル基のカルボニルと結合していることがわかった。C−αプロトンとC−βプロトンとの連結性は、隣接するミリスチン酸のCH2基のいくつかにも及ぶかもしれない。
【0280】
NMR分析の結論として、NK2受容体と結合する化合物は式(I)の化合物であることが確認された。この帰属の結果、分子量約316に相当する分子式C18H36O4が提示され、これは次いでAccuTOF実験により確認された。
【0281】
実施例7
上述の通り、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを合成し、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを入手した。これらの化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。実施例5に記載のヒトNK2受容体結合アッセイにおける、様々な濃度の6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルおよびミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルの影響を調べた。図9に、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(図9では化合物107236−1と表示)の存在下、NK2受容体を用いて実施されたアッセイの結果を示す。概して、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルは、ニューロキニンAのNK2受容体に結合する能力を濃度依存的に阻害した。ニューロキニンAおよび6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを図9に示す。
【0282】
図10に、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(図10では化合物107236−2と表示)の存在下、NK2受容体を用いて実施された放射性リガンド結合アッセイの結果を示す。ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルもまた、ニューロキニンAのNK2受容体に結合する能力を阻害した。ニューロキニンAおよびミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを図10に示す。
【0283】
実施例8
上述の通り、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを合成し、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを入手した。これらの化合物にジメチルスルホキシド(DMSO)を濃度10mMとなるまで加え、それぞれ溶液として調製した。次いで、これらの化合物を細胞/機能的カルシウムフラックス・アゴニスト/アンタゴニストアッセイに使用し、細胞内カルシウムの変化を測定することによって、ヒトNK2受容体活性に対する該化合物の影響を判定した。これらのアッセイはGerardらの方法に基づいて実施された。
【0284】
簡単に言えば、NK2受容体アゴニストアッセイは以下のように行われた。組み換えヒトNK2受容体を安定して発現するチャイニーズハムスター卵巣−K1(CHO−K1)細胞を、完全培地中、細胞外マトリックスの混合物上で一晩培養した。アッセイの1時間前に、培地を0.1%のウシ血清アルブミンを含むハンクス緩衝塩液(HBSS)と交換した。次いで、細胞内カルシウムを測定するための色素を細胞にロードし、細胞内のカルシウムのベースライン測定を行った。次いで、対照(濃度が1×10−11M〜3×10−7Mであるアゴニスト[bAla8]−NKA(4−10))または化合物(濃度が各々3×10−7M〜1×10−4Mであるミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物3))を、適切なウェル内の細胞に添加した。485nmで励起され515nmで発光する蛍光を、2秒毎に少なくとも2分間測定した。化合物2または化合物3を添加した個々のウェルにおける蛍光のピーク高さを記録し、対照を添加したウェルにおける蛍光のピーク高さと比較した。このアッセイの結果を図11に示す。これは、横軸に対照に対する化合物すなわちミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#3)の濃度(log(化合物)(M))、縦軸に対照である[bAla8]−NKA(4−10)の最大値に対するパーセント(%最大応答)を表したグラフである。
【0285】
NK2受容体アンタゴニストアッセイは本質的に以下のように行われた。組み換えヒトNK2受容体を安定して発現するCHO−K1細胞を、完全培地中、細胞外マトリックスの混合物上で一晩培養した。アッセイの1時間前に、培地を0.1%のウシ血清アルブミンを含むハンクス緩衝塩液(HBSS)と交換した。次いで、細胞内カルシウムを測定するための色素を細胞にロードし、細胞内のカルシウムのベースライン測定を行った。対照(濃度が3×10−8M〜1×10−5MのアンタゴニストGR159897または濃度が1×10−11M〜3×10−7Mの[bAla8]−NKA(4−10))([bAla8]−NKA(4−10)のカルシウム効果は時間の経過とともに消失することから、[bAla8]−NKA(4−10)はアンタゴニストアッセイにおいて、[bAla8]−NKA(4−10)のさらなる効果を阻害することにより、アンタゴニストに似た働きをする)またはサンプル(濃度が各々3×10−7M〜1×10−4Mであるミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物3))を、適切なウェル内の細胞に添加した。10分後、アゴニスト[bAla8]−NKA(4−10)(終濃度0.3nM)を添加した。485nmで励起され515nmで発光する蛍光を、2秒毎に少なくとも2分間測定した。対照、化合物2または化合物3を添加した個々のウェルにおける蛍光のピーク高さを記録し、アゴニストのみのウェルにおける蛍光のピーク高さと比較した。このアッセイの結果を図12に示す。これは、横軸に対照に対する化合物すなわちミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#3)の濃度(log(化合物)(M))、縦軸に対照である[bAla8]−NKA(4−10)の最大値に対するパーセント(%最大応答)を表したグラフである。図12からわかるように、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルおよび6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルはいずれも、この機能的NK2受容体アンタゴニストアッセイにおいて、アンタゴニスト活性を示した。
【0286】
式(1)に包含される個々の化合物を含む本発明の化合物の調製および使用は、例示した実施形態に関する先の記載から明白であり、ゆえに本発明の請求の範囲に包含される。当分野における通常の知識を有する者にとっては、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更および修正が可能であることは明白であろう。
【0287】
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【技術分野】
【0001】
関連する出願の参照
本願は、2009年9月4日に出願した米国仮出願61/240,014号の利益を主張するものであり、該出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための化合物、医薬組成物、および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
抑うつ性気分障害
抑うつ性気分障害は抑うつ感を特徴とする一群の気分障害である。抑うつ性気分障害には、大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害のうつ状態、認知症または統合失調性障害に関連するうつ病などの一般的病状によるうつ病、物質誘発性うつ病、産後うつ病、および季節性情動障害が含まれる。
【0004】
大うつ病性障害(大うつ病、臨床的うつ病、単極性うつ病および単極性障害としても知られている)は、一般集団において非常に多く見られる。最近の北米のデータによれば、成人における大うつ病の生涯リスクは14.5%であり、1年間の発症率は8.1%であった(2004年薬物使用と健康に関する全米調査の結果による:全米調査結果;2005年9月8日改訂;米国保健社会福祉省薬物乱用・精神衛生管理庁応用研究室)。
【0005】
最新の治療を行った場合、うつ病エピソードの平均持続期間は約16週間であり、これよりも長い約6〜8ヶ月を示唆するデータもあるが、それでも治療に抗うつ薬を使用するようになる前の時代の約18ヶ月と比べるとはるかに短くなっている(Kendler,McLeod,Patten)。
【0006】
抗うつ薬は、大うつ病性障害の治療や患者の苦痛の軽減に影響を与えてきたが、それは好ましい影響ばかりではなかった。大うつ病性障害の患者は、機能障害を有することが多く、根底にある大うつ病性障害に起因し得る薬物乱用のような共存症的障害を有する場合も多い。大うつ病性障害は保健サービスの利用増大につながり、社会構造および社会経済に壊滅的な影響を及ぼし得る。
【0007】
大うつ病性障害の原因は完全には解明されていない。過去数十年間にわたって、モノアミン合成およびモノアミン活性の異常がうつ病の原因であるという病因学的理論が優位にあり、モノアミン活性、特にセロトニン活性および/またはノルアドレナリン活性を増強する薬物投与による効果が、この理論の裏付けを強めてきた。しかしながら、どの抗うつ薬も、うつ病患者の一部にしか効かず、しかもその効果も部分的であることが多い。学術研究の場で行われる、厳選した標本を用いた比較対照試験においても、現行の治療が効果を示すのは患者の約60%のみであり、症状の完全寛解に至るのはその約半数に過ぎない。残遺症状が再発の強い予兆であることを考えると、この事実は重大である。また、大うつ病性障害に関連して他にも生理学的変化が生じるが、これは、膜結合過程と細胞内過程との橋渡しをするセカンドメッセンジャーの役割を含む複数の病因学的要素がさらに複雑に相互作用していることを示唆している。このようなことから、視床下部−脳下垂体−副腎(HPA)系(大うつ病性障害の在宅患者の20〜40%でこの系の活性化がみられる)、甲状線系(大うつ病性障害と判定された患者の5〜10%は、未発見の甲状線機能障害を有する)、成長ホルモン、プロラクチン、テストステロンなどのホルモン系経路の研究、ならびに炎症過程の役割およびインターロイキン1(IL−1)、IL−6、腫瘍壊死因子などの炎症性マーカーの役割に関する研究が行われるようになった。
【0008】
大うつ病性障害の患者の多くは、ある程度の症状の再発を経験し、20〜30%は、慢性(定義は、症候群レベルのうつ症状が2年以上続くこと「慢性うつ病の治療(論説)」)経過をたどる。
【0009】
うつ病の患者は皆、回復と再発予防を目的とした継続的な薬物療法を必要としている。また、かなり多くのうつ病患者が、再発を予防しさらに心理社会的な回復を確かなものにするために、薬物による維持療法を必要としている。しかしながら、抗うつ薬による治療を効果的に行う上で、患者が適切な量の薬物の服用を適切な期間継続することが重要な1要素であるにもかかわらず、これは往々にして容易ではない。多くの患者が、服用によって実際に身体的作用が起こることや、身体的作用が起こるかもしれないという想像から、現行の抗うつ薬の服用に恐怖感を抱いている。また、いわゆる天然の健康増進物質や非薬物療法を好む患者もいる。抗うつ薬を服用する覚悟をしている患者でも、様々な副作用を経験することで、服用を遵守しなくなったり、治療を完全に拒否したりする場合もある。例えば、選択的セロトニン再吸収阻害剤(SSRI)には、多くの副作用があり、一般的に胃腸障害、頭痛、睡眠障害、深刻な性機能障害などを引き起こす。ほとんどの抗うつ薬には、少なくともいくつかの深刻な副作用があるので、臨床医が多くの患者を効果的に治療するには限界がある。
【0010】
大うつ病性障害は、脳や神経系の障害、不安障害(全般性不安障害、パニック障害、恐怖症、強迫神経障害、心的外傷後ストレス障害、分離不安、社会恐怖症としても知られる社会不安障害、双極性障害、痴呆などを含む)、性機能不全、薬物乱用、摂食障害、および甲状腺機能障害、性腺機能低下症、更年期障害等のホルモン障害等、他の障害および/または症候群と関連している場合がある。大うつ病性障害の治療は、このような関連する障害および症候群の改善につながることも多い。
【0011】
また、うつ病の治療に使用される治療薬の中には、さらに他の疾患の治療に有効なものもある。たとえば、更年期障害に伴うのぼせやほてり、疼痛、および禁煙の治療に抗うつ薬が有効であることが実証されている。
【0012】
不安障害
不安障害は、行動、思考、感情、および身体的健康に影響を及ぼす一群の障害である。不安障害は、生物学的要因と個人的な状況との組合せによって引き起こされると考えられる。不安障害に苦しむ人々は、はっきりとした理由もなく、強い恐怖や苦痛の感情に持続的にさらされる。このような状況が、患者の生活を不安と恐怖が連続する旅に変え、家族や友人、同僚との関係を妨げることもある。
【0013】
不安障害は、あらゆる精神的健康問題の中で最も多いものの1つであり、およそ10人に1人がかかると推測されている。男性よりも女性に多く、成人だけでなく小児にも見られる。不安障害のカテゴリーに含まれる2種以上の不安に悩まされる人も多く、また不安障害にうつ病、摂食障害、および/または薬物乱用が伴うことも多い。
【0014】
不安障害のカテゴリーに入る不安の種類としては、パニック障害(前触れなくパニック発作が起こり、突然の恐怖感や胸痛、動悸、息切れ、めまい、腹部不快感、非現実感および死の恐怖を含む身体症状が伴う)、社会恐怖症や特定の恐怖症(前者は社会的な状況に関する不合理な自意識過剰(麻痺が生じる)を含み、後者は飛行機や血液、高所等に対する不合理な恐怖等、特定の恐怖症を含む)等が挙げられる。
【0015】
また別種の不安障害として外傷後ストレス障害が挙げられるが、これは、重大な身体的危害が生じたりその脅威にさらされたりするといった恐ろしい経験によって引き起こされ得るものである。レイプ、児童虐待、戦争、あるいは自然災害の生存者は、外傷後ストレス障害を発症する可能性がある。多く見られる症状として、恐ろしい経験を追体験するフラッシュバック、悪夢、うつ病、怒りや興奮等の感情が挙げられる。
【0016】
強迫神経障害は、また別種の不安障害である。これは、意志とは関係なく浮かぶ執拗な考え(強迫観念)や儀式(衝動強迫)に苦しむ状態を言う。典型的な強迫観念は、汚染、疑念(電化製品のスイッチを切っていないのではないかと心配するような)、不穏な性的または宗教的考えに関するものである。衝動強迫には、洗浄、確認、整頓、および計数が含まれる。
【0017】
全般性不安障害もまた別種の不安障害であり、日常生活上の出来事や活動についての過剰な不安が続くものである。この障害は何か月も持続することが多く、その間、通常より長い日数、極度の不安に苛まれる状態が続く。患者は最悪の事態を予感し、その予感に理由がないことを他人がいくら言っても解消されない。身体症状としては、悪心、震え、疲労、筋肉の緊張および/または頭痛が挙げられる。
【0018】
不安障害の治療には、2つの主要な医学的アプローチ、すなわち(1)薬物治療および(2)認知行動療法(CBT)がある。2種類の治療を組み合わせることも有効であり得る。ほとんどの不安障害に少なくとも何らかの生物学的要素があるため、一般に抗うつ薬と抗不安薬とが処方される。
【0019】
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)は、結腸および小腸における一群の炎症状態を指す。IBDの主な種類としては、クローン病と潰瘍性大腸炎がある。IBDは、腹痛、嘔吐、下痢、血便(便に鮮血が混じる)、および体重減少といった症状のいずれかを示すことがある。一般に、診断は、病理学的病変部位の生検を伴う結腸内視鏡検査によって行われる。
【0020】
IBDは、疼痛、嘔吐、下痢、その他社会的に受け入れ難い症状によって生活の質を制限することはあるが、それ自体が命にかかわることはほとんどない。中毒性巨大結腸症、腸穿孔、外科合併症等の合併症による死亡もまれである。IBD患者は結腸直腸癌リスクが高いが、一般にその発見のためのモニタリングを定期的に受けるため、通常、一般集団よりもかなり早期に発見される。
【0021】
IBDの治療は、特有の状態の重症度によって決められ、免疫抑制またはある種のメサラミンを必要とすることもある。疾患の再燃をコントロールするために、しばしばステロイド剤が使用される。TNF阻害剤もまた、クローン病患者および潰瘍性大腸炎の患者いずれにも使用することができる。重症の場合、腸切除、狭窄形成術、または一時的もしくは永久的な人工肛門造設術もしくは回腸造瘻術等の外科手術を必要とすることもある。
【0022】
治療の目標は寛解を達成することであり、通常、寛解後は、副作用の可能性がより少ない、作用の弱い薬剤に切り替えられる。時には、元の症状の急性の再燃が見られることもある。状況によって、自然に消失する場合もあれば、薬物治療が必要となることもある。そのような再燃の間隔は、数週間のこともあれば数年の場合もあり、患者によって大きく異なる。
【0023】
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、痙攣、腹痛、膨満、便秘、および/または下痢を最も一般的な特徴とする障害である。IBSはかなりの不快感と苦痛を引き起こすが、永続的に腸を害するものではなく、癌のような深刻な病気につながるわけではない。食事療法、ストレス管理、処方薬により症状のコントロールが可能である人も多い。しかしながら、IBSが日常生活に支障を来している人もあり、働くことや、社会的なイベントへの参加や、近距離の旅行すらできない場合がある。
【0024】
成人人口の20%もの人がIBSの症状を有し、医師に診断される障害の中では最もありふれたものの1つとなっている。男性よりも女性に多く、患者の約50%が35歳になる前に発症している。数か月間症状が治まっていた後に再発することもあるが、時間の経過につれて一定して悪化していると報告する人もある。
【0025】
IBSのための特別な診断テストは存在しないが、他の問題(他の病気の可能性)を除外するために複数の診断テストを行ってもよい。診断テストとしては、便サンプル検査、血液検査、X線検査等が行われる。一般的に、医師はS状結腸鏡検査または結腸内視鏡検査を行う。医師は、過去1年間における腹痛や腹部の不快感の頻度、腸機能に関連して痛みがいつ始まっていつ治まったか、排便の頻度や便の硬さがどのように変化したか等、患者の症状に基づいてIBSの診断を行う。
【0026】
残念ながら、医療を受けようとするまでに長期間IBSに苦しむ人が多い。IBSを抱える人々の70パーセント近くが、症状があっても治療を受けていない。薬物療法は、IBSの症状を軽減する上で重要な部分を占める。このような薬物には、便秘のための食物繊維補助食品や緩下剤、下痢を減らす薬、結腸筋痙攣をコントロールし、腹痛を軽減するための鎮痙剤が含まれる。さらに、抗うつ薬が、IBSのいくつかの症状を和らげることもある。
【0027】
炎症性呼吸器疾患症候群
炎症性呼吸器疾患症候群には、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)が含まれる。喘息は、気道(気管支)に可逆性狭窄が起こる肺の慢性炎症である。喘息の有症率は集団の7%であり、世界には3億人の患者がいる。喘息の発作が起こると、気管支の平滑筋細胞が収縮し、気道が炎症を起こして腫れ上がる。その結果呼吸困難が生じる。
【0028】
米国では、喘息による死亡は年間約4,000件起きている。喘息の発作は、誘因の回避と薬物療法によって予防することができる。急性の発作には、吸入β2アゴニスト等の薬物がしばしば使用される。より重症の場合には、長期的な予防を目的として、まず吸入コルチコステロイドが使用され、必要であれば次いで長時間作用型β2アゴニストが使用される。コルチコステロイドの代わりに、ロイコトリエンアンタゴニストを使用することもできる。メポリズマブ(mepolizumab)やオマリズマブ(omalizumab)等のモノクローナル抗体も時には有効である。
【0029】
COPDには、慢性気管支炎や肺気腫等、いくつかの肺疾患が含まれる。COPDを患う人々の多くが、これら2つの疾患の両方を有している。COPDの症状には、息切れ、肺の中の粘液の増加、および咳が含まれる。COPDの主な治療は、禁煙、気管支拡張薬やコルチコステロイドによる薬物療法、および肺リハビリテーションである。
【0030】
尿失禁
尿失禁は、膀胱からの尿の排出をコントロールできない状態を言う。時々少量の尿漏れを経験する人もあれば、衣服を頻繁に濡らしてしまう人もある。尿失禁の種類には、緊張性尿失禁、切迫性尿失禁、および溢流性尿失禁が含まれる。尿失禁の治療は、失禁の種類、問題の深刻度、および根本的な原因によって決まる。治療には、たとえば、行動療法、理学療法、ならびに/または抗コリン作用薬、局所エストロゲン、およびイミプラミン等の薬物療法が含まれることがある。
【0031】
上述したように効果が限定的であること、多くの場合受け入れ難い副作用があること、および障害や疾患を引き起こしたりその経過に影響を及ぼしたりする可能性のある生理学的要因が存在することから、これらの障害や疾患に対処するためには、新規な薬理作用を有する新規化合物を継続して探索する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、下記の構造を有する式(1)の化合物および該化合物の薬学的に許容される塩を特徴とする。
【0033】
【化1】
(式中、
(i)AおよびBは独立して−OHまたは−SHであり、
(ii)VおよびWは独立して酸素原子または硫黄原子であり、かつVおよびWのうち少なくとも1つは酸素原子であり、
(iii)R1は−(CH2)pCH3または−Hであり、
(iv)pは0〜3の整数であり、かつ
(A)Xが−(CH2)m−であり、
(B)Yが−Hであり、
(C)Zが−(CH2)n−であり、
(D)mおよびnが整数であり、
(E)m=1〜5、
(F)n=4〜14、
(G)あらゆるm、nについて6≦m+n≦14であり、
(H)任意に2つ以下の炭素‐炭素二重結合を有してもよく、該炭素‐炭素二重結合が2つ存在する場合、式(1)の隣接するメチレン基間に形成された二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
(I)Xが
【0034】
【化2】
であり、
(J)Yが存在せず、CAがCBとともに二重結合を形成し、
(K)Zが−(CH2)r−であり、
(L)qおよびrが整数であり、
(M)q=0〜4、
(N)r=1〜13、
(O)あらゆるq、rについて5≦q+r≦13であり、
(P)任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
(Q)Xが−(CH2)t−であり、
(R)Zが
【0035】
【化3】
(S)Yが存在せず、CAがCCとともに二重結合を形成し、
(T)R1が−(CH2)vCH3または−Hであり、
(U)tおよびuが整数であり、
(V)t=1〜5、
(W)u=0〜12、
(X)あらゆるt、uについて5≦t+u≦13であり、
(Y)任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する。)
【0036】
本発明の一態様において、AおよびBはいずれも−OHである。
【0037】
VおよびWはいずれも酸素原子であってよい。
【0038】
好ましくは、R1は−(CH2)pCH3である。pの値は0〜2であってよく、より好ましくは、pは0または1であり、最も好ましくは、pは0である。
【0039】
nの値が2〜12かつ7≦m+n≦13、またはnが3〜11かつ8≦m+n≦12、またはnが4〜10かつ9≦m+n≦11であってよく、より好ましくはnが5〜9かつm+n=10である。mの値は2〜4であってよく、好ましくは3である。
【0040】
rの値が2〜12かつ6≦q+r≦12であってよく、より好ましくはrが3〜11かつ7≦q+r≦11であり、より好ましくはrが4〜10かつ8≦q+r≦10であり、最も好ましくはrが5〜9かつq+rは9である。
【0041】
qの値は1〜3であってよく、好ましくはqは2である。
【0042】
uの値が1〜11かつ6≦t+u≦12であってよく、より好ましくはuが2〜10かつ7≦t+u≦11であり、より好ましくはuが3〜9かつ8≦t+u≦10であり、最も好ましくはuが4〜8かつt+uは9である。
【0043】
tの値は2〜4であってよく、好ましくは3である。
【0044】
先述の項(H)の2つの炭素‐炭素二重結合のいずれかまたは両方が化合物中に存在する場合、該結合はそれぞれZのメチレン基間に形成されていてもよい。メチレン基とは、−(CH2)−である。このような結合は、存在するとしても1つのみであることが好ましい。
【0045】
項(P)の第2の二重結合が存在する場合、該結合は好ましくはZのメチレン基間に形成される。
【0046】
項(H)および(P)の二重結合は、1つも存在しないことが最も好ましい。
【0047】
好ましい一化合物として式(I)の化合物が挙げられ、該化合物は4つの立体異性体すべての混合物である。本明細書中の立体異性体は、式(I)の化合物に見られるような2つのキラル中心の存在に因るものであり、以下でさらに説明する。
【0048】
【化4】
【0049】
好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0050】
【化5】
【0051】
また別の好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0052】
【化6】
【0053】
また別の好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0054】
【化7】
【0055】
また別の好ましい一化合物として、立体化学的に実質上純粋な、以下の構造を有する式(I)の化合物が挙げられる。
【0056】
【化8】
【0057】
本明細書を通じて、式(I)をしばしば6−メチルミリスチン酸モノグリセリドと呼び、さらに頻繁に6−MMAMと呼ぶ。本発明の化合物が他の記載なく単に式(I)を有する化合物と呼ばれる場合、これは、該化合物が上述の4つの立体異性体の混合物であることを意味する。
【0058】
本発明は、グリセロール部分のキラル炭素がRとSの立体化学構造の混合物でありかつミリスチン酸部分のC−6炭素がRである式(I)の化合物を含む。さらにまた、グリセロール部分のキラル炭素がRとSの立体化学構造の混合物でありかつミリスチン酸部分のC−6炭素がS構造を有する式(I)の化合物も含まれる。さらに、本発明は、グリセロール部分のキラル炭素がS構造を有しかつミリスチン酸部分のC−6炭素がRとSとの混合物である式(I)の化合物を含む。さらにまた、グリセロール部分のキラル炭素がR構造を有しかつミリスチン酸部分のC−6炭素がRとSとの混合物である式(I)の化合物も含まれる。
【0059】
本発明は、上述の化合物のいずれかを含む医薬組成物を含む。
【0060】
該医薬組成物は、経口送達、非経口送達、局所送達、経直腸送達、経膣送達、経口吸入による投与または経鼻送達に適用できる。
【0061】
本発明は、先の化合物のいずれかを様々な形態で含む。具体的な製剤としては、液剤、懸濁剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、軟膏剤、クリーム剤またはロゼンジ剤が挙げられるが、錠剤が好ましい。
【0062】
本発明は、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための方法を含む。該方法は、先の化合物のうちのいずれかを治療上の有効量で投与する工程を含む。本明細書中、本発明の化合物と言えば、明記されているか否かにかかわらず薬学的に許容される塩も含まれるものと理解されるべきである。
【0063】
本発明の方法によって治療される前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患は、抑うつ性気分障害、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患または尿失禁であってもよい。前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患は、特には抑うつ性気分障害、または大うつ病性障害であってもよい。
【0064】
対象または患者は、本発明の方法と同時に精神療法による治療を受けてもよく、受けなくてもよい。
【0065】
当然のことながら、本発明の化合物は、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬製剤に含まれてもよい。
【0066】
本明細書で説明する化合物の投与に伴って、別の治療薬の治療上有効量を投与することができる。
【0067】
一般に、本発明の使用により治療される対象はヒトの患者である。
【0068】
本発明の別の方法は、抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群の治療のためのものである。該方法は、その必要のある対象に本発明の化合物を治療上の有効量で投与する工程を含む。該疾患または症候群は、脳または神経系の疾患、不安障害、性機能不全、薬物乱用、摂食障害またはホルモン障害であってもよい。
【0069】
別の態様では、本発明は、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための方法である。該方法は、その必要のある対象に本発明の化合物を治療上の有効量で投与することを含む。抗うつ薬によって治療可能な該障害または状態は、更年期障害に関連するのぼせやほてり、疼痛、または禁煙であってもよい。
【0070】
本発明の別の方法は、NK2受容体活性を調節するための方法であり、該NK2受容体を本発明の化合物の有効量と接触させることを含む。該方法はインビボの方法であってもインビトロの方法であってもよい。
【0071】
本発明は、本発明の様々な方法に関連して上述した、障害または疾患等を治療するための化合物またはその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【0072】
本発明の化合物の進歩的な使用として、さらにこのような障害または疾患等を治療するための薬剤の製造における使用も挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
当業者であれば、以下で説明する図が単に例示のみを目的とするものであることを理解するであろう。これらの図は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0074】
【図1】本発明の実施形態による受精卵分離物のHPLCクロマトグラムを示す。
【0075】
【図2】本発明の実施形態による受精卵分離物の分析結果を示す。
【0076】
【図3】ニューロキニンA(NKA)のヒトNK2受容体への結合に対する種々の濃度(μg/mL)の受精卵分離物サンプル#20上層分離物の効果(%特異的結合として測定)を示すグラフ、ならびにNKAおよびサンプル#20上層分離物のIC50およびKiを示す。
【0077】
【図4】製剤Aの様々な画分(HPLCから溶出)および対照試料のヒトNK2受容体への結合活性を示す棒グラフである。結合活性は、リガンドNKAによる結合の阻害率として測定した。
【0078】
【図5】製剤Aの画分171のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は210nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0079】
【図6】製剤Aの画分185のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は210nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0080】
【図7】製剤Aの画分171のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は190nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0081】
【図8】製剤Aの画分185のHPLC−UVで得られたクロマトグラムを示す。UV検出器は190nmに設定した。X軸の単位は時間(分)、Y軸の単位は吸光度単位(AU)である。
【0082】
【図9】ニューロキニンA(NKA)とヒトNK2受容体との結合に対する種々の濃度の6−メチルミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルの効果(%特異的結合として測定)を示したグラフ、ならびにNKAおよび6−メチルミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを示す。
【0083】
【図10】ニューロキニンA(NKA)とヒトNK2受容体との結合に対する種々の濃度のミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルの効果(%特異的結合として測定)を示したグラフ、ならびにNKAおよびミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを示す。
【0084】
【図11】ヒトNK2受容体の細胞内/機能性Ca2+アゴニストアッセイにおけるbAla8−NKA(4−10)(対照)、化合物#2(ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)および化合物#3(6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)の効果を示すグラフである。X軸は化合物の濃度(M)の対数、Y軸は%最大応答(RFU)を示す。エラーバーは2つの値の範囲を示す。
【0085】
【図12】ヒトNK2受容体の細胞内/機能性Ca2+アンタゴニストアッセイにおけるbAla8−NKA(4−10)(対照)、GR159897(対照)、化合物#2(ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)および化合物#3(6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル)の効果を示すグラフである。X軸は化合物の濃度(M)の対数、Y軸は%最大応答(RFU)を示す。エラーバーは2つの値の範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0086】
本発明に従って、本発明の化合物、およびニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための使用について説明する。
【0087】
本明細書中、「薬学的に許容される塩」とは、本発明の構造式を有する化合物の塩基性基と酸から形成される塩を言う。例として挙げられる塩は当業者には知られており、塩酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩(gentisinate)、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩(glucaronate)、糖酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩およびパモ酸塩(すなわち1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸)塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明によれば、本明細書に示す化学構造は、本発明の化合物を含め、対応する化合物のエナンチオマーおよび立体異性体をすべて包含する。すなわち、立体異性的に純粋な(たとえば、幾何異性的に純粋、エナンチオマー的に純粋、ジアステレオマー的に純粋な)形態であっても、エナンチオマー的、ジアステレオマー的、幾何異性的な混合物であっても、すべて本発明の化合物であると言える。1つのエナンチオマーを別のエナンチオマーから分離する方法は、当業者には既知である。1つのエナンチオマー、ジアステレオマー、または幾何異性体が、他と比較して優れた活性や動態プロファイルを有したり、毒性が改善されていたりする場合がある。このような場合、本発明の化合物のそのようなエナンチオマー、ジアステレオマー、および幾何異性体が好ましい。
【0089】
本発明の化合物は、そのエナンチオマーを含め、実質的に純粋であってよい。化合物が自然に付随する構成要素から分離されているとき、その化合物は「実質的に純粋」と言える。したがって、たとえば、受精卵分離物から単離された式(I)の化合物は、受精卵分離物の他の構成要素から分離されていれば、一般に実質的に純粋であると言える。一般に、試料の全量に対し、ある化合物が重量で少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%存在する場合、その化合物は実質的に純粋である。実質的に純粋な化合物は、たとえば、受精卵分離物等の天然物からの抽出や、または化学合成によって得ることができる。純度の測定は、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)等の、任意適切な方法によって行うことができる。
【0090】
本発明の化合物はNK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するために使用することができる。本発明の化合物は、その必要のある対象に治療上の有効量で投与される。
【0091】
「治療」とは、本発明の化合物の投与を受けている患者の障害または疾患が改善されることを言う。「治療可能」とは、本発明の化合物の投与を受けている患者の障害、疾患または状態が改善可能であることを言う。これらの用語には、有益な効果を得ることによって該障害、疾患または状態を改善することが含まれるが、このような改善は、当該技術分野における標準的な試験を用いて判定できるものである。これらの用語にはさらに、予防療法または維持療法のように、該障害または疾患の発生または再発を予防することが含まれる。
【0092】
本明細書中、「NK2受容体活性に関連する障害または疾患」とは、NK2受容体活性が適正でない、すなわち正常な状態と比べて高いまたは低いことに関連する障害または疾患を言う。NK2受容体活性が正常な状態よりも高くなることは、対象において正常数のNK2受容体の活性が高まること、またはNK2受容体活性に関連する障害または疾患を有する対象においてNK2受容体の数が正常数よりも多くなることが原因であるかもしれない。NK2受容体活性が正常な状態よりも低くなることは、対象において正常数のNK2受容体の活性が低下すること、またはNK2受容体活性に関連する障害または疾患を有する対象においてNK2受容体の数が正常数よりも少なくなることが原因であるかもしれない。NK2受容体に関連する障害または疾患としては、たとえば、大うつ病性障害、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患、および尿失禁が挙げられる。NK2の受容体に関連する障害または疾患は、少なくとも部分的にNK2受容体を介する障害または疾患を含んでいてもよい。
【0093】
「有効量」とは、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を有する対象に投与した場合に有益な結果が達成される化合物の量、あるいはインビボまたはインビトロで所望の活性を有する化合物の量を言う。NK2受容体活性に関連する障害または疾患の場合、有益な結果としては、治療を行わなかった場合と比較して該障害または疾患に関連する症状の重症度が低下すること、および/または対象の生活の質が向上することが挙げられる。たとえば、大うつ病性障害を有する対象の場合、「有益な結果」としては、いずれも当業者には既知であるハミルトンうつ病評価尺度、ハミルトン不安評価尺度、モントゴメリー−アスベルグうつ病評価尺度、ベックうつ評価尺度、アリゾナ性体験尺度、または一般健康調査票に基づく評点法(簡易版36項目)において、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して点数が下がることが挙げられる。これについては、本明細書中でさらに詳しく説明する。
【0094】
不安障害を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、ハミルトン不安評価尺度における点数の低下、苦痛や恐怖の感情を感じる程度や頻度の低下、パニック発作の回数および/または持続時間の減少、社会的な状況の回避の減少、特定の恐怖症に関連する恐怖感の減少、外傷後ストレス障害に関連するフラッシュバック、悪夢、うつ病、怒りや興奮等の頻度や持続時間の減少、ならびに強迫観念および/または衝動強迫の頻度の減少が挙げられる。
【0095】
炎症性腸疾患を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、腹痛、嘔吐、下痢、血便、および/または体重減少が軽減されることが挙げられる。
【0096】
過敏性腸症候群を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、痙攣、腹痛、膨満、便秘、および/または下痢が軽減されることが挙げられる。
【0097】
炎症性気道疾患を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、息切れ、肺の中の粘液の増加、ならびに/または咳発作の頻度および/もしくは持続時間の低減することが挙げられる。
【0098】
尿失禁を有する対象の場合、「有益な結果」としては、本発明の化合物による治療を受けていない対象と比較して、尿漏れおよび/または衣服の濡れの減ることが挙げられる。
【0099】
対象に投与される化合物の正確な量は、障害または疾患の種類および重症度、ならびに対象の特性、たとえば全身状態、年齢、性別、体重および薬物耐性等によって決まる。当業者であれば、これらやその他の要因に基づき、適切な用量を決定できるであろう。
【0100】
本明細書中、「対象」「患者」および「動物」はほぼ同じ意味で用いられ、ウシ、サル、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、およびヒトを含むが、これらに限定されない。一実施形態では、該対象、患者、または動物は、哺乳動物である。別の一実施形態では、好ましい対象、患者、または動物は、ヒトである。
【0101】
本発明の化合物を単離する方法:
式(I)で表される構造を有する化合物は、下記のように、受精卵分離物から単離することができる。
【0102】
受精卵分離物−調製
式(I)の化合物を単離することができる受精卵分離物の調製では、少なくとも1個の受精卵を、受精した日から約3〜15日間、より好ましくは約3〜5日間または約6〜12日間、さらに好ましくは約7〜9日間の範囲で培養する。一般的に、受精卵は、血管形成が始まり、かつ/または胚が発達して肉眼で確認できるようになるまでの期間培養する。受精卵は、例えば鳥類や爬虫類などの様々な種類に由来してもよく、または卵生哺乳類に由来してもよい。一般的に、胚または胚に付随する血管を摘出することが可能であれば、いずれの卵も適当である。卵は、鳥類の卵が好ましく、ニワトリ、ガチョウ、アヒルなど、卵の生産を目的として飼育されている任意の鳥から得ることができる。入手のしやすさや大量生産が可能であることなどから、ニワトリの卵が好ましい。胚が発達できるような温度で卵を長期間維持することができれば、どのような環境下で培養を行ってもよい。培養に好適な温度は、約20〜60℃、より好ましくは約25〜55℃、さらに好ましくは約35〜45℃の範囲である。卵を一定期間培養した後、任意の適当な方法により、卵殻表面に存在する微生物相を減らすための処理を行うか、または殺菌を行ってもよい。その方法としては、エタノールなどの溶媒、例えば約50〜95%のエタノール溶液で卵殻を洗浄した後放置して、溶媒を蒸発または乾燥させる方法、または紫外線(UV)源の下で適当な時間卵を回転させる方法などが挙げられる。いずれの溶媒も、卵に対してさらに別の操作を加える前に蒸発していることが好ましい。次いで、卵内の内容物を得るために卵を割る。卵は、無菌環境下において、手作業でまたは適当な機器を用いて割ってもよい。この操作、および/または以上や以下に記載の操作の大部分もしくは全操作は、例えば5℃程度の冷却下で行ってもよい。
【0103】
卵内容物は、ステンレス製容器などの容器、好ましくは滅菌および/または冷却した容器に回収する。容器に回収された卵内容物、または卵内にある内容物を、例えばメッシュ上に載せて濾過工程を行ってもよい。メッシュの目開きは、約0.5〜4ミリメートルであるのがよく、より好ましくは約1ミリメートルである。メッシュは滅菌されていることが好ましい。
【0104】
卵内容物および/または割れた卵殻の一部もしくは全部を直接メッシュ上に載せてもよい。卵内容物および/または割れた卵殻の一部もしくは全部を上記のメッシュ上に載せて、メッシュから液が実質的に落ちなくなるまで、一定時間濾過する。濾過工程前、その工程中またはその工程後に、卵内容物から割れた卵殻を取り除いてもよい。濾過工程後、固形残渣、または固形物および半固形物の混合した残渣は、胚、血管結合組織、卵白の大部分または全量、カラザの大部分または全量、および透明な嚢を含み得る。半固形残渣は、固形物だけでなく、例えば卵白のようなゼラチン状物質などの粘性物質を含み得る。残渣または半固形残渣を、緩衝液、滅菌脱イオン水または任意の適当な塩溶液などの好適な溶媒で少なくとも1回洗浄してもよい。例えば、滅菌リン酸緩衝液(PBS)を用いることができる。
【0105】
残渣は、1個の卵から回収した後に本明細書に記載の方法に従って凍結乾燥してもよいが、1個以上の卵から回収してまとめた残渣を本明細書に記載の方法に従って凍結乾燥してもよい。
【0106】
卵白部分および/または胚を、他の卵内容物から実質的に分離することができる。卵白部分は、デカンテーションなどの任意の適当な方法、または吸引により他の卵内容物から実質的に分離してもよい。胚は、手作業または当業者が選択する他の適当な方法によって、卵白部分から実質的に分離することができる。当業者は、胚を一度に卵白部分や他の卵内容物から実質的に分離できることを理解するであろう。例えば、ピンセットなどの適当な器具を用いて、胚を卵白部分や他の卵内容物から手作業で分離することができる。場合によっては、胚を他の卵内容物の一部である卵黄嚢から手作業で剥がしてもよい。
【0107】
胚を卵白部分や他の卵内容物から実質的に分離した後、胚を緩衝液、滅菌脱イオン水または任意の適当な塩溶液などの好適な溶媒で少なくとも1回洗浄してもよい。たとえば、滅菌リン酸緩衝液(PBS)を用いることができる。
【0108】
卵内容物が濾過工程に供されている場合、下記方法における卵内容物に関する記載が実際には残渣に関する記載でもあることは理解されるであろう。また、上述または後述の操作のいずれかに従って、1個の受精卵全体を割って卵殻を取り除き、卵殻内の卵全体を凍結および凍結乾燥することによって受精卵分離物を調製できることも理解されるであろう。さらに、上述または後述の操作のいずれかに従って、2個以上の受精卵全体を割って卵殻を取り除き、卵殻内の受精卵全体を合わせて混合することによってスラリーを調製し、これを凍結および凍結乾燥することも可能である。
【0109】
得られた卵内容物または胚を、少なくとも1つの凍結可能な容器に入れる。容器は、たとえば、試験管、ペトリ皿、ビーカー、ステンレストレーまたはプラスチック容器であってよい。卵殻から取り出した卵内容物または胚は、速やかに、たとえば約2時間以内、より好ましくは約1時間以内、さらに好ましくは約0.5時間以内、またはできるだけ速やかに凍結することが好ましい。卵内容物または胚の凍結に要する時間にもよるが、凍結温度は、約−50〜10℃、より好ましくは約−40〜5℃、さらに好ましくは約−35〜−25℃の範囲にあるべきである。卵内容物または胚は、少なくとも約6時間、より好ましくは少なくとも約12時間、さらに好ましくは少なくとも約24時間凍結することが好ましい。一定時間経過した後に、凍結した卵内容物または凍結胚を凍結乾燥してもよい。卵内容物または胚は、凍結乾燥工程前に完全に凍結していてもよい。
【0110】
あるいは、ビーカーやプラスチック容器などの好適な容器に、凍結したまたは凍結していない卵内容物または胚をプールし、これを混合するか、必要であれば適当な溶媒を加えて混合し、スラリーを調製してもよい。溶媒は、混合した卵内容物または胚を湿らせることができ、かつ実験室にある標準の冷凍庫で凍結が可能な水性溶媒が好ましい。溶媒としては、水や水性緩衝液等が好ましい。スラリー状にするには、卵内容物および/または胚を混合することが好ましい。卵内容物または胚は、たとえばハンドミキサーその他の好適な手段を用いて、混合またはホモジナイズすることができる。次いで、得られたスラリーを上記と同様に凍結して凍結乾燥することができる。凍結乾燥は、終温度が好ましくは約−80〜−10℃、より好ましくは約−65〜−15℃、さらに好ましくは約−40〜−20℃の範囲内となるように、かつ約500ミリトルまたは当業者が設定する他の好適な値の圧力下で行う。凍結乾燥工程において、上記の終温度が約1〜6時間、より好ましくは約2〜5時間、さらに好ましくは約3〜4時間維持されることが好ましい。凍結乾燥工程全体は、一般的に約15〜45時間、より一般的には約25〜35時間、さらに一般的には約28〜32時間かけて行われる。
【0111】
凍結乾燥した卵内容物、胚またはスラリーは、必要であれば分散および/または粉砕し、実質的に均質な粉末とする。実質的に均質な粉末を得るために、1個ずつまたは小グループで凍結乾燥した卵内容物を合わせてから粉砕工程を行ってもよいが、先に粉砕工程を行ってから凍結乾燥物を合わせてもよい。粉砕は、たとえばコーヒーミルやハンマーミルなどの適当な機器を使用して機械的に、またはガラス棒などの適当な器具を使用して手作業で、行うことができる。滅菌は、凍結乾燥した構成成分に悪影響を及ぼすことのない方法が好適である。
【0112】
本明細書に記載のいずれの方法に関しても、調製した粉末または濃縮物を保存する前に、微生物の増殖を抑制するための防腐剤をこれらに混合してもよい。またこの粉末または濃縮物への添加に加えて、あるいはその代わりに、凍結乾燥段階前や濃縮段階前を含む製造の別の段階において防腐剤を添加してもよい。好適な防腐剤としては、0.5(w/w)%安息香酸ナトリウムや0.2(w/w)%ソルビン酸カリウム等の一般的な食品防腐剤が挙げられる。その他にも適当な防腐剤が当業者によって選択されるであろう。
【0113】
本明細書に開示された方法によって調製した粉末は、実質的に気密性を有する好適な容器に保存してもよい。好適な容器としては、ビニール袋、樽、プラスチック容器、ボトル、およびこれらの組み合せ等が挙げられる。たとえば、粉末は、制御管理下にある無菌環境下で、不正開封防止セキュリティシール付の滅菌ポリエチレン/ポリプロピレンボトルに詰めることができる。窒素などの実質的に乾燥した不活性ガス存在下で粉末を保存してもよい。粉末は、室温以下の温度、たとえば約10〜25℃、より好ましくは約15〜20℃の範囲の温度で保存することが好ましい。長期間保存する場合は、粉末を約−10℃以下、より好ましくは−20℃以下の温度で保存することが好ましい。粉末を実質的に乾燥した環境下で一定期間保存してもよい。粉末を真空パックしてもよい。
【0114】
スラリーは、少なくとも1個の受精卵の内容物または胚を卵殻から分離し、好適な容器にプールすることによって調製することもできる。この工程の間、分離した卵内容物または胚を冷却することもできる。たとえば、冷却を促進するために、容器を氷上に置いてもよい。卵内容物または胚を上記の方法で混合することにより、スラリーを調製することができる。スラリーは、上記のように凍結乾燥できるが、スラリーの一部または全量を以下の抽出操作に供してもよい。
【0115】
スラリーは、水溶液と一定時間混合してもよい。水溶液は、水、水性緩衝液またはその他の水性溶媒を含んでもよい。水溶液が水を含む場合、その水は使用前に蒸留されていることが好ましく、さらに脱イオン化されていることがより好ましい。たとえば、逆浸透(RO)を用いて水を処理してもよい。スラリーと水溶液を、たとえば約5〜60分間、より好ましくは約10〜45分間、さらに好ましくは約15〜40分間の範囲における一定時間撹拌することにより、これらを混合できる。実質的に親水性の分子がすべて水溶液に溶解するように、水溶液がスラリーの成分と十分に接することが望ましい。水溶液はスラリーと実質的に同量であってもよいが、スラリーの1.5倍量、2倍量、さらに3倍量を用いてもよい。混合工程の間、混合液を多少温めてもよい。混合後、遠心分離や濾過などの好適な手段を用いて、混合液中の固形分を実質的にすべて除去することにより、水溶液を実質的に清澄化できる。次いで、清澄化した水性部分を凍結および凍結乾燥して粉末を得るが、必要に応じて本明細書に記載の方法に従ってこの粉末を滅菌してもよい。
【0116】
上述のいずれかの方法によって調製したスラリーを、実質的に疎水性の溶媒と混合してもよい。この実質的に疎水性の溶媒は冷却されていることが好ましい。疎水性溶媒としては、たとえば、エーテル、クロロホルム、ヘキサン、石油エーテル、アセトニトリルなどが好ましい。たとえばエーテル、特にジエチルエーテルを使用することができる。スラリーをこのような疎水性溶媒と、上記と同様に一定時間混合する。当業者には理解されるであろうが、実質的に疎水性の溶媒を使用する方法においては、工程はいずれもドラフトまたはこれと同様の装置内で行い、溶媒を直火や熱源から遠ざけておく必要がある。混合終了後、遠心分離や濾過等の好適な方法によって、混合液の固形部分を溶媒部分から実質的に取り除くことができる。溶媒部分は、実質的に疎水性溶媒部分を含むが、水性部分を含んでいてもよい。溶媒部分を分液漏斗またはこれと本質的に同等の装置に移して、水性部分を疎水性溶媒部分から分離することができる。上層が疎水性溶媒部分である場合は、上層を上部からサイフォンで吸い上げるか、または下層である水層を除去した後分液漏斗から回収することができる。あるいは、下層である水性部分を凍結させ、上層であるエーテルベース層のデカンテーションを行うこともできる。水性部分に対し、疎水性溶媒を用いて複数回、たとえば3回程度抽出してもよい。このとき、疎水性溶媒は水性部分と実質的に同量であってもよいが、水性溶媒の1.5倍量、2倍量、または3倍量であってもよい。これ以外の比率が好適な場合もある。
【0117】
抽出後、疎水性の分離物をすべてプールし、好適な方法によって濃縮することもできる。濃縮した分離物は、密封バイアル瓶などの、実質的に外気を遮断する好適な容器に入れ、室温より低い温度、たとえば5℃程度で保存してもよい。
【0118】
上記のいずれかの方法によって調製したスラリーを抽出操作の前に清澄化することもできる。好ましい清澄化工程には、ふるい、濾紙、フィルターパッドなどのフィルターを使用した濾過方法が含まれる。清澄化工程には、他に遠心分離法も含まれる。濾過工程で得られた濾液にSuperflow DE(登録商標)などの濾過助剤を加え、さらに清澄化を行うこともできる。得られた濾液の一部を凍結乾燥に適した容器に入れて凍結させることができる。また、得られた濾液の一部を上記と同様に疎水性溶媒と混合し、水層と疎水性層とが形成されるようにすることもできる。この水層と疎水性層とを本明細書の記載に従って分離、濃縮し、保存することができる。
【0119】
本明細書に記載の様々な方法により調製された受精卵分離物は、水性溶媒および/または疎水性溶媒による抽出を繰り返すことによって濃縮することができる。
【0120】
式(I)で表される構造を有する化合物は、たとえば標準的なカラムクロマトグラフィー技術等を用いて、受精卵分離物から単離することができる。たとえば、受精卵分離物のスラリーを上記と同様に調製し、凍結乾燥することができる。次いで、凍結乾燥品を粉砕機で粉砕し、所望により、安息香酸ナトリウム(たとえば0.5(w/w)%)および/またはソルビン酸カリウム(たとえば0.2(w/w)%)等の1以上の防腐剤と混合してもよい。次いで、出来上がった粉末を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムにロードし、好適な溶媒、たとえば様々な濃度のメタノール、アセトニトリル、またはこれらの溶媒の混合物を用いて溶出することができる。溶出液のうち該化合物の含まれる画分は、回収後、所望により脱水するか、またはたとえば別のカラム、別の溶媒、もしくは異なる濃度の溶媒を使用して、さらにカラムクロマトグラフィーに供してもよい。
【0121】
所望の画分の純度は、たとえば、HPLCまたは当業者に既知である他の方法を用いてモニターすることができ、所望により当業者に既知である技術を用いてさらに精製することができる。
【0122】
1つの画分または組み合わせた画分の純度が十分なレベルに達したところで、該活性化合物の構造及びその生物学的活性を、当業者に既知である方法を用いて確認することができる。たとえば、該活性化合物の生物学的活性は、当業者に既知であるNK2受容体結合アッセイおよび/またはNK2受容体活性アッセイを用いて評価することができる。
【0123】
本発明の化合物の合成
本発明の好ましい化合物である6−メチルミリスチン酸モノグリセリドの立体異性体混合物を、スキームAに従って合成した。
【0124】
ラセミ2−メチルデカナール[19009−56−4]とトリフェニルホスホニウムブタン酸臭化物[17857−14−6]とを反応させた後、精製を行い、6−メチル−4−エン−テトラデカン酸を得た。この酸の塩化物を、塩化チオニルを用いて調製し、ラセミイソプロピリデングリセロールを直接作用させて処理した後、水素添加に供した。HClを用いてイソプロピリデンを除去し、6−メチルミリスチン酸1−グリセリドを立体異性体混合物として得た。
【0125】
【化9】
【0126】
1.工程IIIのジオキソランはシグマアルドリッチ社(米国ミズーリ州、セントルイス)から入手可能であるが、スキームBの経路に従って調製することもできる。
2.簡略化のため、本明細書中、6‐メチルミリスチン酸モノグリセリドを6−MMAMと呼ぶ。6−MMAMは、6−メチルミリスチン酸1−グリセリドおよび6−メチルグリシジルミリステートとしても知られている。
【0127】
【化10】
【0128】
6−MMAMは2つのキラル中心を有し、そのために4つの立体異性体が存在する。
【0129】
【化11】
【0130】
スキームAで示した合成経路は、4つの立体異性体がすべて含まれる混合物を生成するが、6−MMAMの立体異性体が得られるよう改変することができる。
【0131】
スキームAの工程IIIは、図示した2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランあるいは他の好適な1,3−ジオキソランの立体異性体(C*におけるR‐異性体またはS‐異性体)のいずれかを使用することによって、改変することができる。樋上らによる米国特許第6,143,908号には、スキームCによる1,3−ジオキソラン−4−メタノール化合物の調製方法が記載されている。
【0132】
【化12】
【0133】
樋上らは、スキームCにおける化合物(1)の好ましい例が3−クロロ−1,2−プロパンジオールおよび3−ブロモ−1,2−プロパンジオールであること、ならびに化合物のR1およびR2が同一または異なって水素原子、C1−C4アルキル、またはフェニルであり得ることを述べている。スキームAの工程IIIで導入されたジオキソランは、スキームCにおけるR1およびR2がいずれもメチル基であるものに相当する。言いかえれば、スキームCの工程Aでアセトンを使用することによって、スキームAに示すジオキソランが形成される。樋上らは、スキームCにおける出発化合物として(R)−3−クロロ−1,2−プロパンジオールを使用することによって(S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールが調製できることを示している。
【0134】
(R)−3−クロロ−1,2−プロパンジオール(CAS No. 57090−45−6)および(S)−3−クロロ−1,2−プロパンジオール(CAS No. 60827−45−4)は、TCIアメリカ社(米国97203オレゴン州ポートランド市ノースハーバーゲートストリート9211)から入手可能であり、これらを使用して(S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールおよび(R)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを生産することができる。
【0135】
(R)−4−クロロメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン(CAS No. 57044−27−3)および(S)−4−クロロメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン(CAS No. 60456−22−6)は、アイビーファインケミカル社(米国08034ニュージャージー州チェリーヒル・スイート23・オールドカスバートロード1879)から入手可能である。これらのいずれかを樋上らの方法におけるR1=R2=メチルの場合のスキームCの工程Bに導入することによって、スキームCの工程Aが不要となる。
【0136】
穏和な条件下での1,3−ジオキソランの加水分解すなわちスキームAの工程IIIの例は、たとえば、J.Sun,Y.Dong,L.Cao,X.Wang,S.Wang,Y.Hu,J.Org.Chem.,2004,69:8932−8934およびR.Dalpozzo,A.De Nino,L.Maiuolo,A.Procopio,A.Tagarelli,G.Sindona,G.Baroli,J.Org.Chem.,2002,67:9093−9095等に記載されている。
【0137】
スキームA、2−メチルデカナールの最初の工程において、6−MMAM中の第2のキラル中心(C+)が導入される。
【0138】
スキームDに示されるように、スキームAの合成は、式(1)の他の化合物が得られるよう種々に改変することができる。
【0139】
【化13】
【0140】
AおよびBがそれぞれ−OHであり、VおよびWがそれぞれ酸素原子であり、Xが−(CH2)4−(m=3)であり、Yが−Hであり、Zが−(CH2)6−(n=7)である、式(1)の構造を有する本発明の化合物を得るための原料は、スキームDに示した一般式に従って選択することができる。当業者であれば、選択した個々の原料に合わせて、各工程の反応条件を変えるであろう。
【0141】
本発明の好ましい化合物である6−メチルミリスチン酸モノグリセリドは、たとえばスキームEに従って合成することもできる。
【0142】
【化14】
【0143】
1.工程VIIIのジオキソランはスキームBの経路に従って調製することができる。
2.R. O. Adlof, W. E. Neff, E.A. Emken, and E. H. Pryde, Journal of the American Oil Chemists’ Society, 1977, 54(10):414−416.
【0144】
スキームEで示した合成経路は、4つの立体異性体がすべて含まれる混合物を生成するが、4つの立体異性体のそれぞれが得られるよう改変することができる。
【0145】
スキームEの工程VIIIは、スキームAの工程IIIおよびスキームCに関する記載と同様に改変することができる。
【0146】
スキームEの工程Xにおける二重結合の還元によって、6−MMAM中の第2のキラル中心(C+)が導入される。スキームEの工程Vの産物である化合物(6)は、図示したウィッティヒ反応で例示されるように、長いアルキル鎖同士がトランスとなる条件下で調製される。C=C結合の不斉水素化の結果、6−MMAMのC−6がR構造またはS構造のいずれか一方であるものが形成されることになる。C=C結合の不斉水素化はよく知られている。たとえば、de Pauleらによる米国特許第6,878,665号を参照のこと。
【0147】
【化15】
【0148】
AおよびBがそれぞれ−OHであり、VおよびWがそれぞれ酸素原子であり、R1が−(CH2)pCH3または−Hであり、pが0〜3の整数であり、Xが−(CH2)m−であり、Yが−Hであり、Zが−(CH2)n−であり、mおよびnが、m=1〜5かつn=4〜14を満たす整数である、式(1)の構造を有する本発明の化合物を得るための原料は、スキームFに示した一般式に従って選択することができる。当業者であれば、選択した個々の原料に合わせて、各工程の反応条件を変えるであろう。
【0149】
立体化学的に純粋な本発明の化合物とは、少なくとも90%が所望の立体化学構造(たとえば、C+がRでC*がS、またはC+がR,SでC*がS)を有する化合物を言う。より好ましくは92%、さらにより好ましくは94%、さらにより好ましくは96%、さらにより好ましくは98%、最も好ましくは99%以上が所望の立体化学構造を有する化合物である。立体化学的に実質上純粋な化合物とは、少なくとも96%が所望の光学活性立体異性体である化合物を言う。
【0150】
式A6または式A7の化合物を調製する方法をスキームGに示す。この方法は、化合物A1と化合物A2とを反応させてアルケニル化合物A3を形成することを含む。次いで、A3の酸ハロゲン化物を形成し、ジオキソランA4と反応させることによってA5を形成する。これを加水分解してA6を形成するか、またはA5のC=C二重結合を還元した後ジオキソランを加水分解してA7を形成する。
【0151】
【化16】
【0152】
式中、aは1〜3の整数であり、bは1〜11の整数であり、4≦a+b≦12であり、R1は−(CH2)pCH3であり、pは0〜3の整数である。好ましくは、pは0である。R2およびR3は同一または異なって、反応に適した任意適当な基であってよい。具体的な基としては、樋上によって開示された水素原子、C1−C4アルキル、またはフェニルが挙げられる。
【0153】
所望により、ジオキソランA4のRまたはS立体異性体を用いて、グリセロール部分のC−2が立体化学的に純粋であるA6またはA7を得ることができる。
【0154】
式(I)の化合物の機能類似体:
式(I)の化合物の機能類似体は、当業者に既知の方法で作製することができる。たとえば、上記の方法に従って単離および同定、または合成された式(I)の化合物に対し、特異的またはランダムな化学修飾を施して該化合物の構造類似体を製造もよい。このような化学修飾としては、ハロゲンによる水素の置換、別のアルキルによるアルキルの置換、アルキルによるアルコキシの置換、アルコキシによるアルキルの置換、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等が挙げられる。類似体の生物活性(たとえば、NK2受容体への結合、あるいは受容体活性による細胞内のカルシウム濃度の変化)は、本明細書に記載の方法または当業者に既知である他の方法を用いて試験することができる。
【0155】
式(I)の化合物の機能類似体を得る別の方法としては、合理的設計によるものがある。これは、構造情報およびコンピュータモデリングによって実現される。標的分子と化合物の一方または双方をわずかに変化させた場合の両者の相互作用を、分子モデリングソフトウェアと計算集約的コンピュータとを使用して予測することができる。分子モデリングシステムの例としては、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)のプログラムであるCHARMmおよびQUANTAが挙げられる。CHARMmはエネルギーの最小化および分子動力学機能を実行する。QUANTAは分子構造の構築、グラフィックモデリング、および分析を実行する。QUANTAによれば、他の分子との相互作用状態にある分子の挙動についての構造、修飾、可視化、および分析が可能になる。化学物質をスクリーニングして図示するためのその他のコンピュータプログラムは、当業者には既知である。合理的薬物設計によって得られた機能類似体についても、その生物活性(たとえば、NK2受容体への結合、あるいは受容体活性による細胞内のカルシウム濃度の変化)は、本明細書に記載の方法または当業者に既知である他の方法を用いて試験することができる。
【0156】
本発明の化合物の治療用途:
PCT国際公開第2009/086634号パンフレットは、参照によりその教示内容全体が本明細書中で援用されるが、該公報に記載されているように、受精卵分離物は、大うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害のうつ状態、認知症または統合失調性障害に関連するうつ病などの一般的病状によるうつ病、物質誘発性うつ病、および季節性情動障害等の抑うつ性気分障害;全般性不安障害、社会不安障害、およびパニック障害等の不安障害;ならびに性機能不全を含む精神的健康障害の患者を治療するために用いることができる。
【0157】
さらに、PCT国際公開第2009/086634号パンフレットに記載されているように、本明細書に記載する受精卵分離物に、特定のリガンドとそれらの受容体との結合相互作用と拮抗する作用のあることが判明している。具体的には、受精卵分離物に、神経伝達物質であるニューロキニンA(NKA)をその受容体であるニューロキニン2(NK2)受容体から解離させる能力のあることがわかっている。
【0158】
多くの疾患および症状が、NK2受容体の調節に関連するものとして知られている。このような疾患または症状としては、大うつ病性障害等の抑うつ性気分障害(たとえば、Dableh、Ahlstedt、Michale、Louis、Steinberg、Salome、Holmes、Steinberg、Husumを参照)、不安(たとえば、Ahlstedt、Michale、Louis、Greibel、Steinberg、Stratton、Teixeira、Walsh、Salome、Holmesを参照)、過敏性腸症候群および炎症性腸疾患(たとえば、Ahlstedt、Lecci、Evangelista、Toulouseを参照)、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の炎症性気道疾患(たとえばBai、Pinto、Khawajaを参照)、ならびに尿失禁(たとえば、Ahlstedt,Rizzoを参照)が挙げられる。さらに、saredutant(SR 48964)などのNK2受容体のアンタゴニストは、抗うつ薬様作用(Salome、Dableh、Steinberg、Michale、Louis)および抗不安作用(Teixeira、Salome、Griebel、Michale、Louis)の増強に利用できることが動物モデルにおいて示されており、ヒトに対する試験も行われている。NK2受容体の活性化を、NK2の内因性リガンド(たとえばNKA)と受容体との結合を阻害することによって調節すると、NK2受容体活性に関連する障害または疾患が軽減または解消される。
【0159】
式(I)で表される構造を有する化合物は、本明細書に記載の通り受精卵分離物から単離されたものであり、神経伝達物質であるニューロキニンA(NKA)をそのヒトNK2受容体から解離させる能力を有している。式(I)の化合物は合成もされており、神経伝達物質であるニューロキニンA(NKA)をそのヒトNK2受容体から解離させ、細胞内カルシウムレベルを下げることがわかっている。したがって、式(1)、式(I)の化合物、さらにはそれらの機能類似体や薬学的に許容される塩類は、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するために使用することができる。
【0160】
したがって、本発明の別の態様は式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩を使用してNK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療する方法を特徴とし、該方法は式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩を治療上の有効量でその必要のある患者に投与する工程を含む。NK2受容体活性に関連する障害または疾患とは、たとえば、大うつ病性障害等の抑うつ性気分障害、不安、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、炎症性気道疾患または尿失禁等であり得る。
【0161】
当業者には理解できることであるが、式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩は、うつ病に関連する障害または状態、たとえば、脳や神経系の障害、薬物乱用、摂食障害、および甲状腺機能障害、性腺機能低下症、更年期障害等のホルモン障害等、を治療するために使用することができる。また、このような化合物またはその類似体、またはそれらの薬学的に許容される塩は、抗うつ薬が有効であることが実証されているその他の状態、たとえば更年期障害に伴うのぼせやほてり、疼痛、および禁煙の治療に使用することができる。
【0162】
NK2受容体活性に関連する障害、疾患、または状態を治療する方法において、患者は本発明の方法と同時に精神療法による治療を受けていてもよく、受けていなくてもよい。
【0163】
本発明の化合物は、経口(バッカル、舌下、および経口吸入を含む)、経鼻、局所(バッカル、舌下、および経皮を含む)、または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、もしくは皮内)経路による投与に適した様々な製剤に製剤化し、投与することができる。特に、経口経路による投与に適した製剤が特に好ましい。その他の好ましい製剤としては、坐薬等の、経膣または経直腸経路による投与に適した製剤が挙げられる。
【0164】
医薬組成物:
本発明は、抑うつ性気分障害(たとえば大うつ病性障害)、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患または尿失禁等の、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための組成物を提供する。一実施形態では、該組成物は、1以上の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む。別の一実施形態では、本発明の組成物は、1以上の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩と、1以上の予防薬または治療薬とを含む。また別の一実施形態では、該組成物は、本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤とを含む。また別の一実施形態では、該組成物は血液脳関門を通過するよう製剤化される。
【0165】
本発明の組成物は医薬組成物であってもよく、単位用量製剤であってもよい。本発明の医薬組成物および製剤は、NK2受容体活性に関連する障害または疾患を治療するために使用できるような相対量で1以上の有効成分を含み、その目的に適合するよう製剤化される。医薬組成物および製剤は、好ましくは、任意に1以上の別の有効な薬剤とともに、式(1)、式(I)の化合物、またはそれらの機能類似体もしくは薬学的に許容される塩を含む。
【0166】
本発明の単位用量製剤は、患者への経口、経粘膜(たとえば、経鼻、舌下、経膣、バッカル、もしくは経直腸)、非経口(皮下、静脈内、ボーラス注入、筋肉内、もしくは動脈内)、または経皮投与に適している。製剤としては、錠剤;カプレット剤;軟質弾性ゼラチンカプセル剤等のカプセル剤;カシェ剤;トローチ剤;ロゼンジ剤;分散剤;坐剤;軟膏剤;パップ剤(湿布剤);ペースト剤;散剤;被覆剤;クリーム剤;硬膏剤;液剤;貼付剤;エアゾール剤(たとえば鼻腔用スプレーまたは吸入剤);ゲル剤;患者への経口投与または経粘膜投与に適した、懸濁剤(たとえば水性または非水性の懸濁液剤、水中油型乳剤または油中水型乳剤)、液剤、およびエリキシル剤を含む液体製剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0167】
本発明の組成物、形状および製剤の種類は、一般には使用法によって異なる。たとえば、経粘膜投与に適した製剤においては、同じ兆候に対する治療に用いられる経口製剤よりも有効成分の量が少なくてもよい。本発明のこの態様は、当業者に容易に理解できるであろう。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990) 18th ed., Mack Publishing,Easton,PAを参照のこと。
【0168】
典型的な医薬組成物および製剤は、1以上の賦形剤を含む。好適な賦形剤は、薬学および/または製剤化学の当業者には周知であり、本明細書中に例示しているが、限定を目的とするものではない。特定の賦形剤が医薬組成物または製剤での使用に適しているか否かは、当技術分野で周知の様々な要因によって決まる。要因として、患者への投与方法が挙げられるが、これに限定されない。たとえば、錠剤等の経口製剤は、非経口製剤での使用には適さない賦形剤を含んでいてもよい。
【0169】
本発明は、有効成分の分解速度を低下させる1以上の化合物を含む医薬組成物および製剤をさらに包含する。そのような化合物を本明細書では「安定化剤」と呼ぶが、アスコルビン酸等の酸化防止剤、pH緩衝剤、塩緩衝剤等に限定はされない。
【0170】
経口製剤:
経口投与に適した本発明の医薬組成物は、個別の製剤として示すことができ、錠剤(たとえばチュアブル錠)、カプレット剤、カプセル剤および液剤(たとえば風味付けされたシロップ剤)等が挙げられるが、これらに限定はされない。このような製剤には所定量の有効成分が含まれ、当業者に周知の薬学的方法によって調製されてもよい。概要についてはRemington’s Pharmaceutical Sciences(1990)18th ed.,Mack Publishing,Easton,PAを参照のこと。
【0171】
本発明の典型的な経口製剤は、有効成分を従来の医薬配合技術によって少なくとも1つの賦形剤を含む混合物と組み合わせることにより調製される。賦形剤は、投与のための望ましい製剤形態によって、様々な形態となり得る。たとえば、経口の液剤またはエアロゾル剤での使用に適した賦形剤としては、水、グリコール、油、アルコール、着香剤、防腐剤および着色剤が挙げられるが、これらに限定はされない。固形経口製剤(たとえば、散剤、錠剤、カプセル剤、およびカプレット剤)での使用に適した賦形剤としては、デンプン、糖類、微晶質セルロース、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤および崩壊剤が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0172】
投与の容易さから、錠剤およびカプセル剤が経口単位用量製剤として最も好都合であり、この場合、固形の賦形剤が使用される。所望により、水性または非水性の標準的な技術によって錠剤を被覆してもよい。このような製剤は、任意の薬学的方法によって調製することができる。一般に、医薬組成物及び製剤は、有効成分と、液状の担体、微細化した固体担体、またはその両方とを均質かつ十分に混合し、次いで必要に応じてその産物を所望の形状に成形することにより調製される。
【0173】
たとえば、錠剤は打錠または成形によって調製することができる。打錠剤は、粉末又は顆粒等、自由流動可能な形態にある有効成分を、任意に賦形剤と混合し、好適な機械を用いて打錠することにより調製することができる。成形錠は、不活性希釈液で湿潤させた粉末状化合物の混合物を好適な機械で成形することにより調製することができる。
【0174】
本発明の経口製剤に使用可能な賦形剤としては、たとえば結合剤、増量剤、崩壊剤および滑沢剤が含まれるが、これらに限定はされない。医薬組成物および製剤において好適に用いられる結合剤としては、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、その他のデンプン、ゼラチン、アラビアゴム等の天然ゴム及び合成ゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、他のアルギン酸塩、粉末トラガカントゴム、グアーガム、セルロースおよびその誘導体(たとえばエチルセルロース、酢酸セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム)、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、αデンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(たとえば、No.2208、2906、2910)、微結晶性セルロース、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。
【0175】
好適な微結晶性セルロースの形態としては、AVICEL−PH−101、AVICEL−PH−103、AVICEL RC−581、AVICEL−PH−105〔FMC Corporation、アメリカンビスコ−ス部門、Avicel販売部(ペンシルベニア州マーカスフック)から入手可能〕として市販されているのもの、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。結合剤の具体例としては、AVICEL RC−581として市販されている、微結晶性セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの混合物が挙げられる。好適な無水または低含水性の賦形剤又は添加剤としては、AVICEL−PH−103JおよびStarch 1500LMが挙げられる。
【0176】
本明細書で開示される医薬組成物および製剤における使用に好適な増量剤としては、タルク、炭酸カルシウム(たとえば細粒または粉末)、微結晶性セルロース、粉末セルロース、デキストレート、カオリン、マンニトール、ケイ酸、ソルビトール、デンプン、αデンプン、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。本発明の医薬組成物中の結合剤または増量剤は、典型的には医薬組成物または製剤の約50〜99重量パーセントである。
【0177】
本発明の組成物に崩壊剤を用いることによって、水性環境に曝露された際に崩壊する錠剤を得ることができる。崩壊剤の含有量が過剰である錠剤は保管中に分解することがあるが、一方含有量が少なすぎると、所望の速度であるいは所望の条件下で分解しないことがある。したがって、本発明の固形経口製剤を調製する際には、有効成分の放出に支障をきたすことのないよう過不足のない適切な量の崩壊剤を用いるべきである。崩壊剤の使用量は製剤の種類によって異なるが、当業者には容易に判断することができる。一般的な医薬組成物は崩壊剤を約0.5〜15重量パーセント、好ましくは約1〜5重量パーセント含有する。
【0178】
本発明の医薬組成物および製剤において使用可能な崩壊剤としては、寒天、アルギン酸、炭酸カルシウム、微結晶性セルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポラクリリンカリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、αデンプン、その他のデンプン、粘土、その他のアルギン、その他のセルロース、ゴム類、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。
【0179】
本発明の医薬組成物および製剤において使用可能な滑沢剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油、軽鉱物油、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール、その他のグリコール、ステアリン酸、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク、硬化植物油(たとえば落花生油、綿実油、ヒマワリ油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油)、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸エチル、ラウリン酸エチル、寒天、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。さらなる滑沢剤としては、たとえば、シロイド(syloid)シリカゲル〔AEROSIL 200、W.R.Grace社(メリ−ランド州ボルティモア)製造〕、合成シリカの凝結エアゾール〔デグサ社(テキサス州プラーノ)販売〕、CAB−O−SIL〔火成二酸化ケイ素製品、Cabot社(マサチューセッツ州ボストン)販売〕、およびこれらの混合物が挙げられるが、ここに挙げた例に限定はされない。滑沢剤を使用する場合、典型的には医薬組成物または製剤の約1重量パーセント未満の量で配合する。
【0180】
放出制御製剤:
本発明の有効成分は、当業者に周知の放出制御手段または放出制御送達デバイスにより投与することができる。例として、米国特許第3,845,770号明細書;米国特許第3,916,899号明細書;米国特許第3,536,809号明細書;米国特許第3,598,123号明細書;及び米国特許第4,008,719号明細書、米国特許第5,674,533号明細書、米国特許第5,059,595号明細書、米国特許第5,591,767号明細書、米国特許第5,120,548号明細書、米国特許第5,073,543号明細書、米国特許第5,639,476号明細書、米国特許第5,354,556号明細書、および米国特許第5,733,566号明細書に記載のものが挙げられる(上記文献の各々を引用により本明細書に援用する)が、これらに限定されない。このような製剤において、たとえばヒドロプロピルメチルセルロース、その他のポリマーマトリクス、ゲル、浸透膜、浸透系、多層被膜、微粒子、リポソーム、マイクロスフェア、またはこれらの組み合わせを用いることによって1以上の有効成分の放出を遅延させたり制御したりすることが可能となり、様々な割合での所望の放出プロファイルを提供することができる。本明細書に記載されたものを含む当業者に公知の好適な放出制御製剤は、容易に選択して本発明の化合物とともに使用することができる。このように、本発明は経口投与に好適な単位用量製剤を包含し、例としてたとえば放出制御に適合させた錠剤、カプセル剤、ジェルカプセル剤およびカプレット剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0181】
放出制御される医薬品はすべて、制御されない医薬品の場合と比較してより良い薬物治療効果を得るという共通の目的を有している。最適設計された放出制御製剤を医療に用いることによって、必要最低限の製剤原料物質を使用して最短の時間で状態を治癒させたり制御したりすることが理想である。放出制御製剤の利点としては、薬剤活性がより長く続くこと、投与の頻度を低減できること、患者のコンプライアンスの向上等が挙げられる。
【0182】
ほとんどの放出制御製剤は、所望の治療効果を迅速にもたらす量の薬剤(有効成分)を最初に放出し、その後徐々にかつ持続的に残りの薬剤を放出することによって、長時間にわたり一定レベルの治療効果または予防効果が維持されるように設計されている。体内での薬剤濃度をこの一定レベルに維持するためには、代謝されて体外に排出される薬剤の量を補う速度で薬剤が製剤から放出される必要がある。有効成分の放出制御は様々な条件に影響される可能性があり、条件としては、たとえばpH、温度、酵素、水、その他の生理的条件、または化合物等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0183】
非経口製剤:
非経口製剤は、様々な経路により患者に投与することができる。そのような経路としては、皮下、静脈内(ボーラス注入を含む)、筋肉内、および動脈内が挙げられるが、これらに限定はされない。典型的に、このような投与においては、患者が生来持つ汚染物質に対する防御機構を通らないため、非経口製剤が滅菌されていること、または患者への投与前に滅菌可能であることが好ましい。非経口製剤としては、たとえば、注射可能な状態にある溶液、薬学的に許容される注射用ビヒクル中に溶解または懸濁させることが可能な状態にある乾燥品、注射可能な状態にある懸濁液、および乳剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0184】
本発明の非経口製剤に用いることのできる好適なビヒクルは、当業者には周知である。そのようなビヒクルとしては、たとえば、米国薬局方注射液用水;水性ビヒクル(塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液、デキストロース注射液、デキストロース・塩化ナトリウム注射液、および乳酸加リンガー注射液等が挙げられるが、これらに限定されない);水混和性ビヒクル(エチルアルコール、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない);ならびに、非水性ビヒクル(トウモロコシ油、綿実油、落花生油、胡麻油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、および安息香酸ベンジル等が挙げられるが、これらに限定されない)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0185】
本明細書中に開示された1以上の有効成分の可溶性を向上させる化合物もまた、本発明の非経口製剤に配合可能である。
【0186】
経皮、局所、および経粘膜製剤:
本発明の経皮、局所、および経粘膜製剤としては、点眼用液剤、スプレー剤、エアゾール剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤、ゲル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、または当業者に公知のその他の製剤等が挙げられるが、これらに限定はされない。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980 & 1990)16th and 18th eds.,Mack Publishing, Easton,PA.およびIntroduction to Pharmaceutical Dosage Forms(1985)4th ed.,Lea & Febiger,Philadelphia,PA.を参照のこと。口腔内の粘膜組織の治療に好適な投与形態としては、口内洗浄液または経口ゲルが挙げられる。経皮投与形態としてはさらに、皮膚に貼り付け、一定時間その状態に置くことによって所望量の有効成分を浸透させる「リザーバー型」または「マトリクス型」のパッチが挙げられる。
【0187】
本発明に包含される経皮、局所、および経粘膜製剤に使用できる好適な賦形剤(たとえば担体および希釈剤)などは、薬学分野の当業者には周知であり、医薬組成物または製剤の投与対象となる具体的な組織によって異なる。これを念頭に置きつつ、無毒で薬学的に許容されるローション剤、チンキ剤、クリーム剤、乳剤、ゲル剤、または軟膏剤を形成するための代表的な賦形剤として、水、アセトン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,3−ジオール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、鉱物油、およびこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定はされない。所望により、保湿剤または湿潤剤もまた、医薬組成物および製剤に添加することができる。そのようなさらなる成分の例は、当技術分野では周知である。たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980 & 1990)16th and 18th eds., Mack Publishing, Easton, PAを参照のこと。
【0188】
1以上の有効成分の送達性を改善するために、医薬組成物もしくは製剤のpH、または医薬組成物もしくは製剤の投与対象となる組織のpHを調整してもよい。同様に、送達性を改善するために、溶媒担体の極性、イオン強度または張度を調整してもよい。ステアリン酸塩等の化合物を医薬組成物または製剤に添加することによって、1以上の有効成分の親水性または親油性を有利に変化させ、送達性を改善することもできる。この点において、ステアリン酸塩は、製剤の脂質ビヒクルとして、乳化剤または界面活性剤として、さらには送達促進剤または浸透促進剤として作用し得る。有効成分以外の塩、水和物、または溶媒和物を用いることにより、生成する組成物の特性をさらに調整することができる。
【0189】
投与の用量と頻度:
NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状の治療に有効な本発明の化合物または組成物の量は、該障害もしくは疾患の性質および重症度、ならびに有効成分を投与する経路によって異なる。頻度および用量は、実施される個別の治療(たとえば治療薬または予防薬の投与)ごとの、患者個人に特有の因子、障害、疾患または症状の重症度、投与経路、さらに患者の年齢、体重、反応性および既往症によっても異なる。有効投与量は、インビトロでの測定や動物モデル試験系によって得られた用量反応曲線から推定してもよい。適切な投与計画は、このような因子を考慮しつつ、たとえば文献で報告されたり、またPhysician’s Desk Reference(PDR:医師用添付文書集)(62nd ed.,2008))で推奨されたりしている用量に従って、当業者により選択される。
【0190】
一般に本明細書に記載した障害または疾患のための本発明の化合物の1日あたりの推奨用量の範囲は、1日あたり約0.01mg〜約2000mgであり、1日1回の単回投与または1日を通じた分割投与が行われる。一実施形態では、1日用量を等分し、2回に分けて投与する。好ましくは、1日用量の範囲は、1日あたり約5mg〜約1000mg、より具体的には約10mg〜約500mgである。患者の管理において、治療は約1mg〜約25mgといった低用量から開始すべきであり、患者の全身反応によって必要に応じて1日あたり約200mg〜約1000mgまで増加させ、これを単回または分割にて投与する。当業者には明らかなことであるが、場合によっては、本明細書で開示した範囲の外にある有効成分の用量を用いることが必要となるかもしれない。さらに、臨床医または治療担当医師は、個々の患者の反応に合わせて、治療の中断、調節、または終了をいつどのように行うかを理解しているであろう。
【0191】
本発明の化合物以外の、NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状の治療にこれまでにまたは現在使用されている予防薬または治療薬は、本発明の併用療法において使用することができる。たとえば、本発明の化合物は、モノアミンオキシダーゼ阻害薬等のセロトニンの分解を阻害し得る他の抗うつ薬とともに処方することができる。一実施形態では、前記さらなる治療薬は、グルタミン酸受容体、たとえばAMPA受容体、カイニン酸受容体、NMDA受容体のアゴニスト部位、またはNMDA受容体のストリキニーネ非感受性グリシン部位に結合するものである。
【0192】
うつ病を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、アミトリプチリン、アモキサピン、ブプロピオン、クロミプラミン、デシプラミン、ドキセピン、イミプラミン、マプロチリン、ネファゾドン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、トラドゾン、トリミプラミン、およびベンラファクシン等の三環系抗うつ薬;フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、およびセルトラリン等の選択的セロトニン再取り込み阻害薬;イソカルボキサジド、パルギリン、フェネルジン、およびトラニルシプロミン等のモノアミンオキシダーゼ阻害薬;ならびにデキストロアンフェタミンおよびメチルフェニデート等の精神刺激薬等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0193】
その他の有用な抗うつ薬としては、ビネダリン、カロキサゾン、シタロプラム、ジメタザン、フェンカミン、インダルピン、塩酸インデロキサジン、ネホパム、ノミフェンシン、オキシトリプタン、オキシペルチン、チアゼシム、ベンモキシン、イプロクロジド、イプロニアジド、ニアラミド、オクタモキシン、フェネルジン、コチニン、ロリシプリン、ロリプラム、メトラリンドール、ミアンセリン、ミルタゼピン、アジナゾラム、アミトリプチリンオキシド、ブトリプチリン、デメキシプチリン、ジベンゼピン、ジメタクリン、ドチエピン、フルアシジン、イミプラミンN−オキシド、イプリンドール、ロフェプラミン、メリトラセン、メタプラミン、ノキシプチリン、オピプラモール、ピゾチリン、プロピゼピン、キヌプラミン、チアネプチン、アドラフィニル、ベナクチジン、ブタセチン、ジオキサドロール、デュロキセチン、エトペリドン、フェバルバメート、フェモキセチン、フェンペンタジオール、ヘマトポルフィリン、ヒペリシン、レボファセトペラン、メジホキサミン、ミルナシプラン、ミナプリン、モクロベミド、ネファゾドン、オキサフロザン、ピベラリン、プロリンタン、ピリスクシデアノール、リタンセリン、ロキシンドール、塩化ルビジウム、スルピリド、タンドスピロン、ソザリノン、トフェナシン、トロキサトン、L−トリプトファン、ビロキサジン、およびジメリジン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0194】
不安障害を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、アルプラゾラム、ブロチゾラム、クロルジアゼポキシド、クロバザム、クロナゼパム、クロラゼペート、デモキセパム、ジアゼパム、エスタゾラム、フルマゼニル、フルラゼパム、ハラゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム、ニトラゼパム、ノルダゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、クアゼパム、テマゼパム、およびトリアゾラム等のベンゾジアゼピン;ブスピロン、ゲピロン、イプサピロン、チオスピロン、ゾルピコン、ゾルピデム、およびザレプロン等の非ベンゾジアゼピン系薬物;バルビツール酸塩(たとえばアモバルビタール、アプロバルビタール、ブタバルビタール、ブタルビタール、メフォバルビタール、メトヘキシタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、セコバルビタール、およびチオペンタール)等の精神安定薬;ならびにメプロバメートおよびチバメート等のプロパンジオール・カルバミン酸塩等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0195】
炎症性腸疾患を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、抗コリン薬、ジフェノキシレート、ロペラミド、脱臭アヘンチンキ、コデイン;メトロニダゾール、スルファサラジン、オルサラジン、メサラミン、プレドニゾン、アザチオプリン、メルカプトプリン、およびメトトレキサート等の広域抗生物質等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0196】
過敏性大腸症候群を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、プロパンテリン;ピレンゼピン、メトクトラミン、イプラトロピウム、チオトロピウム、スコポラミン、メトスコポラミン、ホマトロピン、ホマトロピン臭化メチル、およびメタンテリン等のムスカリン受容体アンタゴニスト;ならびにジフェノキシレートおよびロペラミド等の抗下痢薬等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0197】
尿失禁を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、プロパンテリン、イミプラミン、ヒヨスチアミン、オキシブチニン、およびジサイクロミン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0198】
炎症性気道疾患を治療または予防するための有用な治療薬としては、たとえば、コルチコステロイド等の抗炎症薬;ロイコトリエン修飾薬;肥満細胞安定化薬;ならびにベータアドレナリンアゴニスト、抗コリン薬、およびメチルキサンチン等の気管支拡張薬等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0199】
本発明の併用療法における用量は、NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状の治療にこれまでにまたは現在使用されている用量よりも少ないことが好ましい。NK2受容体活性に関連する障害もしくは疾患またはその1以上の症状を予防、治療、管理、または緩和するためにこれまでにまたは現在使用されている薬剤の推奨用量は、当技術分野における任意の文献から得ることができる。このような文献としては、Hardman et al., eds., 1996, Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis Of Basis Of Therapeutics 9.sup.th Ed, Mc−Graw−Hill, New York; Physician’s Desk Reference (PDR) 62nd Ed., 2008, Medical Economics Co., Inc., Montvale, NJ等が挙げられ、これらは引用によりその全体が本明細書に援用されるが、文献はこれらに限定されない。
【0200】
いくつかの実施形態において、本発明の化合物が別の療法と並行して投与される場合、それらの療法(たとえば予防薬または治療薬の投与)は、本発明の投与と同時にまたはそれとは別に、たとえば30分未満、1時間、3時間、5時間、10時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、または72時間あけて実施される。
【0201】
本発明の別の態様は、NK2受容体活性を調節するための方法であって、該方法は、該NK2受容体を本発明の化合物の有効量と接触させることを含む。
【0202】
NK2受容体の活性は、NK2受容体の活性を高めたり低下させたりする(すなわち阻害する)ことによって調節することができる。NK2受容体の活性は、NK2の内因性リガンド(たとえばNK2受容体のNKA)またはsaredutant等の市販の外因性リガンドによって、受容体における結合を阻害することによって、低下させる、すなわち阻害することができる。このような結合相互作用を阻害する方法およびこのような結合阻害を検出する方法は、当業者には公知であり、本明細書においても説明されている。NK2受容体の活性は、100%、または100%未満(たとえば、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、もしくは10%)、減少させることができる。NK2受容体活性の阻害は、たとえば、式(1)または式(I)の化合物が内因性リガンドの結合部位に結合し、結果として該内因性リガンドとの結合が減少するによって起こる。NK2受容体活性の阻害はまた、式(1)または式(I)の化合物が、NK2受容体において内因性リガンドが結合する部位とは異なる部位に結合し、それによってNK2受容体の内因性リガンドとの相互作用における活性を変化(たとえば減少)させる(たとえば該受容体のアロステリック修飾)ことによっても起こる。NK2受容体の活性は、5%、または5%を超えて(たとえば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくは100%、または100%を超えて)、増加させることができる。NK2受容体の活性を調節する方法は、インビトロ(たとえば、細胞内、細胞溶解物内、または細胞の一部(たとえば関連する受容体)を含むサンプル中)でも、インビボ(たとえばヒト患者において)でも実施することができる。
【0203】
その他の実施形態
本発明の化合物は、研究用ツールとして、たとえば、新規薬剤の作用機序を評価するために、アフィニティークロマトグラフィーを用いて創薬の標的を単離するために、ELISAもしくはELISAに類似したアッセイにおける抗原として、またはインビトロもしくはインビボアッセイにおける標準として使用することができる。このような本発明の化合物および組成物の上記した使用および実施形態だけでなく、それ以外の使用および実施形態も、当業者には明らかであろう。
【0204】
本発明は、本発明の化合物の調製について詳細に説明する以下の実施例を参照することにより、さらに明確になる。多くの修正が、物質および方法のいずれにおいても、本発明の目的および範囲から逸脱することなくなされ得ることは、当業者には明白であろう。以下の実施例は、本発明を理解するための一助として示すものであり、本明細書で説明し主張する本発明を具体的に限定するものと解釈されるべきではない。そのような本発明の変化形は、現在公知であるか今後開発され、当業者の視野に入るであろうすべての等価物との置き換え、および剤形の変更または実験設計における小規模な変更等を含むが、これらはすべて本明細書に包含された本発明の範囲内にあるものと考える。
【実施例】
【0205】
実施例1
受精卵分離物Aの調製
受精卵分離物Aを調製するために、産卵から8〜9日目のニワトリ受精卵を殻ごと70%エタノールで殺菌し、ドラフト内にてエタノールを蒸発させた。次いで卵を割り、内容物を滅菌済みの1.0mmメッシュに受けた。卵殻とメッシュを通過した濾液は廃棄した。メッシュ上の残渣は胚、嚢、および卵白の全部または大部分を含み、固体、半固体および/または液体から成っていたが、これを氷上で冷却し、5℃でホモジナイズした。このホモジネート(スラリー)を滅菌したステンレス製トレーに注ぎ、凍結乾燥した。得られた乾燥物を粉砕機を用いて粉砕し、分離物Aを得た。この分離物Aに、防腐剤である0.5%w/w安息香酸ナトリウムおよび0.2%w/wソルビン酸カリウムを加えて混合した。完成した粉末は2〜8℃(短期)または−20℃(長期)で保存した。
【0206】
HPLC分析
受精卵分離物Aを含む完成した粉末を、高速(または高圧)液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。分析結果は、多波長吸光検出器を使用して定量した。215nmの吸光度を測定した。ファルマシア社製スーパーデックス200 10/300 GL サイズ排除カラム(内径10mm×300mm)を用いて分画を行った。カラムの分離範囲は10〜600kDaであった。カラムの平衡化は、20mMリン酸塩+0.3M NaCl、pH 7.5で行った。流速0.5mL/分で試料の分析を行った。図1に代表的なクロマトグラムを示す。
【0207】
分析証明書
分離物Aを含む完成した粉末に対して標準分析を実施し、純度、ならびにタンパク質、脂質、灰分、水分および様々な不純物の含量を測定した。図2に代表的な結果を示す。
【0208】
製剤Aカプセル剤
製剤Aのカプセル剤を調製するために、幾何級数的希釈を用いて、分離物Aを含む完成した粉末4000.0g(+/−2%)、安息香酸ナトリウム(0.5%w/w)およびソルビン酸カリウム(0.2%w/w)をヒュームドシリカ40g(+/−2%)と混合した。この混合物をふるいにかけ、さらに混和とふるい分けを繰り返して製剤Aを得た。Mini−Cap300#0の白色カプセルを用いて、製剤A混合物が1カプセルあたり505mg充填されるようにカプセル化し、製剤Aカプセル剤を調製した。
【0209】
実施例2
大うつ病性障害(MDD)およびそれに関連する障害/症状の治療における製剤Aの検討
固定用量の製剤Aを用いて、MDDなどの精神障害、ならびにそれに関連した障害および症状の治療における効果および安全性を検討した。本検討は、不安症状の軽減、生活の質の改善、および性機能不全症状の改善における製剤Aの効果の評価を含むものであった。
【0210】
評価方法の説明
ハミルトンうつ病評価尺度−17項目−「HAM−D」または「HAM−D 17」
この尺度は、北米で患者に対して用いられる代表的なうつ病評価尺度である。合計点は以下のように解釈される:非常に重度>23点;重度、19〜22点;中程度、14〜18点;軽度、8〜13点;うつ病とは言えない、0〜7点。
【0211】
ハミルトン不安評価尺度−14項目−「HAM−A」
この評価尺度は、患者の不安レベルを評価するものである。点数レベルは以下のように解釈される:<17点、軽度;18〜24点、軽度〜中程度;25〜30点、中程度〜重度。
【0212】
モントゴメリー/アスベルグうつ病評価尺度−「MADRS」
この尺度は、北米で患者に対して用いられる代表的なうつ病の評価尺度である。ある研究によれば、以下の平均点は、全般重症度と関連している:非常に重度、44点;重度、31点;中程度、25点;軽度、15点;回復済、7点。
【0213】
ベックうつ評価尺度−「BDI」
この尺度は、自己評価ツールとして一般的に用いられている抑うつ症状の評価尺度である。合計点は、21項目の各点数の単純な総和である。通常、<9点はうつ病ではないか、または極微のうつ病であることを示し、10〜18点は軽度から中程度のうつ病を示し、19〜29点は中程度から重度のうつ病を示し、>30点は重度のうつ病を示す。しかし、0〜4点の場合、うつ病の否認が示唆され、40〜63点の場合、うつ病の誇張または演技性もしくは境界性人格障害が示唆される。
【0214】
アリゾナ性経験尺度−「ASEX」
この尺度は、性衝動を数値化した5項目からなる評価尺度であり、性的興奮度、膣潤滑/ペニス勃起、オルガスムへの到達能力およびオルガスムからの充足感を評価する。
【0215】
合計点の範囲は5〜30点であり、点数が高いほど重度の性機能不全であることを示す。
【0216】
一般健康調査票に基づく評点法−「GHQ」
生活の質の程度の評価には、簡易版36項目(SF−36)を用いてもよい。この調査票は、集中力、不安感、自信のなさ、自尊心の低さ、不幸感、うつ病などの問題を評価するものである。点数は以下の通りである:
左から右へ0、1、2、3と表示するリッカート尺度を用いて、12項目を各項目0〜3点で評価した。
点数の範囲は0〜36点。点数は集団調査(study of population)ごとに変化する。
11〜12点程度は標準的な点数である。
>15点は苦痛を感じていることを裏付けるものである。
>20点は深刻な問題および精神的ストレスを示唆する。
【0217】
精神障害の診断・統計マニュアル第4版−「DSM−IV TR」
このマニュアルは、北米でメンタルヘルスの専門家が用いる標準的な診断マニュアルであり、精神障害を包括的に分類するとともに、入手できる経験的な証拠に基づいてそれらの障害を診断するために、広く認められている基準を提供するものである。
【0218】
HAM−Dの点数を結果変数として反復測定分散分析を行うことにより主要効果を求めた。副次効果の尺度としては、CGI−SおよびCGI−I、MADRS、SF36、BDI、HAMA、ASEX等を用いた。
【0219】
試験内容の説明
カナダのオンタリオ州のトロントにあるマウント・サイナイ病院(MSH)にて非盲検試験を行った。メディア広告を通じて、またMSHの外来患者プログラムや他の臨床施設からの紹介により患者を募集した。
【0220】
このプロトコールは、製剤Aの潜在的抗うつ活性を検討する非盲検の予備的研究を説明するものである。この予備的研究の目標は、製剤Aに、他の試験で十分にその存在が立証されているプラセボ効果のレベルを越えてMDDを有意に改善する効果があること、ならびに製剤Aが本研究の患者集団において許容できる治療であることを証明することである。また、この予備的研究の第2の目的は、不安障害の症状の軽減および生活の質の改善における製剤Aの効果を評価することである。
【0221】
各患者に対し、DSM−IV TRの基準およびHAM−Dを用いてMDDのスクリーニングを行った。エントリーした患者に対して8週間の製剤A非盲検試験を実施した。さらに、患者に対して、全般的な基準であるCGI重症度(GCI−S)およびCGI改善度(CGI−I)による評価も行った。副作用については、Udvalg for Kliniske Undersogelser(UKU)副作用評価尺度(Lingjaerde)を用いて体系的に評価した。抑うつ症状の副次的な尺度として、モントゴメリー/アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)およびベックうつ評価尺度(BDI)を自己評価ツールとして用いた。生活の質の程度については、簡易版36項目(SF−36)を用いて評価した。不安については、14項目からなるHAM−Aを用いて評価した。
【0222】
この固定用量による非盲検試験において、患者はうつ病の標準的な治療プロトコールに基づく治療を受けた。治験責任医師は、ベースラインおよび2、4、6、8週目(W)の診察時に前記評価尺度を用いてうつ病の重症度を判定した。患者は、診察と診察の間の週にも来院し、うつ病および薬の忍容性を評価するための簡単な臨床評価を受けた(V)。
【0223】
製剤Aの投与量
製剤Aの投与量は、1日あたり約2,000mg(約500mgの製剤Aのカプセル剤を2カプセルずつ、1日2回服用)であった。
【0224】
患者の組入れ基準
本試験に参加する患者は、下記の基準(i)〜(vi)を含むいくつかの組入れ基準を満たす必要があった。
(i)DSM−IV TRにおける単一エピソードまたは再発性の大うつ病基準を満たす臨床診断がなされること。
(ii)17項目からなるハミルトンうつ病評価尺度(HAM−D 17項目)におけるベースラインの合計点が18点以上であること。
(iii)既に大うつ病と診断され、薬物治療の追加または変更が必要である18〜65才の男女。
治療内容は、臨床医が患者ごとに適切な医療基準を判断し、もっぱらそれに基づいて決定された。
ただし、8週間の試験中、用量の増加は認めないものとした。
(iv)英語の読み書き能力があること。
(v)書面のインフォームド・コンセントに署名が得られていること。
(vi)スクリーニング時の妊娠検査結果が陰性であること。
【0225】
除外基準
患者が下記の基準(i)〜(xiii)を含むいくつかの除外基準に該当する場合、本試験から除外した。
(i)DSM−IV TRにおいて、MDD以外のうつ病を含む他の臨床診断がなされた場合(単一エピソード/再発性ではなく、例えば、慢性うつ病および/または難治性うつ病の場合は除外した)。
(ii)自殺のリスクが有意である(HAMDの自殺に関する項目において>1点)と判断された場合、または有意な自傷行為の可能性を示唆する病歴を有する場合。
(iii)製剤A以外の抗うつ薬による薬物治療を受けている場合。
(iv)被験者が、うつ病に用いられる天然の健康製品を摂取しており、摂取の中止ができないまたは摂取の中止を望まない場合。
(v)妊娠中の女性、授乳中の女性、12か月以内に妊娠する予定のある女性、または避妊が不十分であった女性。
(vi)臨床的に深刻な臓器疾患(例えば心血管疾患、肝疾患、腎疾患、内分泌系疾患、消化器疾患、代謝系疾患や他の全身性疾患)を患っている場合。
(vii)観察期間中に電気ショック療法(ECT)を受ける予定がある場合。
(viii)重大な神経疾患(すなわちパーキンソン病、ハンチントン舞踏病)、脳血管疾患(すなわち脳卒中)、代謝系疾患(すなわちビタミンB12欠乏症)、自己免疫疾患(すなわち全身性エリテマトーデス)、ウイルスなどによる感染症(すなわち肝炎、単核球症、ヒト免疫不全症)または癌を患っている場合。
(ix)臨床的または無症状性の甲状腺機能低下症/甲状腺機能亢進症(例えば、TSHレベルの上昇)である場合。
(x)鶏肉アレルギーまたは卵アレルギーを有する場合。
(xi)被験者が精神療法を受けているか、試験期間中に精神療法を始めた場合。
(xii)被験者が血液検査や尿検査によるスクリーニングにおいて、臨床的に重大な意味を持つ異常値を示した場合。
(xiii)被験者の症状が休薬期間に著しく悪化した場合。
【0226】
試験デザイン
本試験は、製剤Aによる単独療法の効果および安全性を実証する目的で設計された非盲検無作為試験であり、23人の患者が参加し(うち20人について分析可能な結果が得られた)、1ヶ所で実施された。
【0227】
この試験は、8週間の評価期間から構成されており、必要な場合、これに先立って2週間の抗うつ薬休薬期間を設けた。
【0228】
スクリーニング
医師および/または治験コーディネーターが、被験者に対して試験、治療の特徴、およびその他の選択肢について十分に説明した後、被験者がインフォームド・コンセントの書面に署名し、医師がDSM−IV TRを用いた臨床診断およびHAM−D 17を実施した。次いで、基準を満たした被験者は、精神疾患の病歴および併用療法に関する医学的審査を受けた後、健康診断を受けた。さらに、治験コーディネーターによって、ベースラインの臨床検査が行われ、尿(通常検査および顕微鏡検査)、CBC(全血算)、白血球数および血小板数、電解質、ビリルビン、BUN、クレアチニン、TSH、肝臓機能検査、血清クレアチニンおよびECGなどが測定された。女性患者に対する妊娠判定はhCG血液検査により行われた。妊娠している患者および臨床検査で臨床的に重大な意味を持つ異常値を示した患者は除外された。
【0229】
0週目
ベースラインの診察(0週目)のために再来院した患者は、医師によって製剤A単剤療法に割り当てられた。うつ病であり、効果のない現行の抗うつ薬を服用中である患者には、製剤Aへの切り換えを提案した。
【0230】
翌週以降
初回評価と製剤A療法の開始(V1とV2)に続いて、患者は8週間(W2〜W8、V3〜V6)を通して毎週決められた通りに来院した。別の抗うつ薬を服用中に試験への参加を決めた患者には、8週間の治験を始める前に1〜2週間の休薬期間を設けた。休薬期間の長さは医師の臨床上の判断に従った。この間、患者は、休薬開始1週間後に来院して精神科医の診察を受け、週の半ばには治験コーディネーターからの電話によるモニタリングを受けた。休薬期間中にうつ病が悪化する可能性があることは認識されている。しかし、以前の薬に効果がないか部分的にしか効果がない場合、この休薬期間中、被験者を注意深く観察し、必要に応じて適切な治療が行われる限りにおいては、1〜2週間の遅れにより抑うつ的な落ち込みが顕著に誘導されるといったリスクは、本試験のプロトコールによって通常の治療より実質的に大きくなることはない。製剤Aが特定の患者にとって有効な抗うつ薬でなかった場合、うつ病を不必要に長びかせるリスクがある。しかし、うつ病は通常、うつ病と診断されるあるいは治療が開始される何か月も前から発症している慢性疾患であり、引き続いて行われる8週間の製剤Aによる治療(潜在的に有効な薬物治療)は、患者を注意深く観察していれば、標準的な治療と実質的に異なるものではない。さらに、既に述べた通り、標準的な治療は約60%の患者にしか有効でないため、同様に再評価や薬物の変更を必要とすることが多い。
【0231】
V2(V1(W0)と組み合わせてもよい)〜V6(W8)において、監督精神科医(治験責任医師)および/または治験コーディネーターにより以下の測定が行われた。
− 体重
− 身長
− バイタルサイン
− ハミルトンうつ病評価尺度(17項目)(HAM−D 17)(Hamilton 1967)
− 臨床全般印象尺度(CGI−S、CGI−I)(Guy)
− モントゴメリー/アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)(Montgomery)
− ベックうつ評価尺度(BDI)(10)
− 生活の質(SF−36)(Ware)
− ハミルトン不安評価尺度(HAMA)(Hamilton 1959)
− Udvalg for Kliniske Undersogelser(UKU)評価尺度(Lingjaerde)(副作用の報告)(V2以外)
− 服薬遵守(V2以外)
【0232】
試験期間中の診察時間は約1時間で、ベースラインの来院時のみ2時間を要する場合があった。
【0233】
試験期間中、被験者の抑うつ状態が悪化した場合、治験責任医師が判定して最善の臨床的アプローチを決定した。必要と判断された場合は、製剤Aの服用を中止して、別の抗うつ薬による治療を行った。これは、もっぱらうつ病の治療におけるベストプラクティス、および患者にとっての臨床上の最善の利益に基づいてなされた臨床的決断であった。
【0234】
医師および治験コーディネーターが患者に対し一般的なサポートを行うためにコンタクトを取ることは認められていたが、このような患者へのコンタクトは、病気の経過および治療に関する患者側からの質問に答えることに限定されていた。正式な精神療法を行うことは認められていなかった。
【0235】
統計的手法
HAM−D 17の点数を結果変数として反復測定分散分析を行うことにより主要効果を調べた。有意な経時的効果により、仮説が裏付けられる。予測されるサンプルサイズは患者25人で、これは標準偏差の0.65倍に相当するHAM−D 17の点数の変化を検出できるサイズであった(1標本両側検定、P<0.05)。HAM−D 17の点数の標準偏差は、4.5〜6.5であると報告されているため、本試験デザインにおいては、52点の点数幅に対して検出力80%で平均4.3点程度の小さな変化も検出できる。組入れ基準により、参加者のHAM−D 17の点数は、それぞれ17点を超えていた。フランクによる寛解基準では、HAM−D 17の点数は9点以下であった。本試験では、より堅実で一般に認められている7点以下を基準として用いた。4.3点という効果量は、17点を超える点数が10点未満に変化するような臨床上の改善を十分に検出できる精度であった。うつ病の治験においてプラセボ反応の出現率は30〜50%と予想されており、良好な結果は統計的にこれに基づくものであった。試験では、プラセボ反応の出現率は40%であると仮定した。必要に応じて、反応のあった被験者および寛解した被験者の分析を行った。
【0236】
結果
計23人の患者が試験に参加した。3人の被験者(#104、#105および#118)には治療が施されなかったため、この3人の結果は分析可能でないと考えた。製剤Aを少なくとも1用量服用した20人の被験者のうち、16人は8週間の試験を完了した。残り4人の被験者は8週間の試験を完了はしなかったものの、製剤Aを少なくとも1用量服用したため、この4人の結果は分析可能と見なした。4人の被験者が試験を完了しなかった理由には、服薬および/または診察時間を遵守できなかったこと、結果に対する苛立ちが抑えられなかったこと、および被験者が国外へ移動したことが挙げられる。
【0237】
製剤Aを少なくとも1用量服用した被験者20人の結果を、以下の表に示す。
【0238】
【表1】
【0239】
【表2】
【0240】
【表3】
【0241】
【表4】
【0242】
【表5】
【0243】
【表6】
【0244】
反応率および反応強度
以下の定義を用いて、製剤Aを用いた治療に対する各被験者の反応を評価した。「反応した被験者」すなわち「反応したことのある被験者」とは、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM−Dの点数)において、ベースラインの点数と比べて少なくとも50%の改善が試験期間中のいずれかの時点で見られた被験者である。「臨床的に反応が見られた被験者」は、「反応した被験者」の基準を満たし、治験責任医師によって良好な臨床結果を有すると判断された被験者である。「試験完了時に反応の見られた被験者」は、試験の終了時(最後の診断時)に反応基準を満たした被験者である。「寛解」とは、HAM−Dの点数が8点未満に低下することを言う。
【0245】
上記の試験において、製剤Aを少なくとも1用量服用した被験者20人のうち15人(75%)が「反応したことのある被験者」であり、14人(70%)が「臨床的に反応が見られた被験者」であった。さらに、8週間の試験を完了した被験者16人のうち、「反応したことのある被験者」は13人(81.3%)であり、「臨床的に反応が見られた被験者」は12人(75%)であった。さらに、試験を完了した被験者16人(「反応しなかった被験者」を含む)全体のHAM−D点数は、56.08%という顕著な低下率を示した。8週間の試験を完了した「反応したことのある被験者」のHAM−Dの点数の低下率はこれよりも高い68.1%であり、「反応したことのある被験者」に必須の少なくとも50%という値を十分に越えていた。
【0246】
被験者2人の反応が周囲の環境の影響を受けたことは、注目に値する。被験者#114は、「臨床的に反応が見られた被験者」に含まれないが、2週目までに反応を示し、このときのHAM−Dの点数は、製剤Aの服用により50%を超える低下を示していた。しかし、外部要因が介入した。被験者#114は、健康上の問題(製剤Aとの関連性はない)から身体障害保険を申請したが、このとき職場で困難な状況に遭遇した。このような環境要因は、製剤Aに対する被験者#114の良好な情動反応を完全に打ち消すものであった。
【0247】
HAM−Dの点数が50%低下するという厳格な基準では、被験者#106は8週目の時点では「反応した被験者」と判断されなかった。8週目の時点でこの被験者の点数は12点であり、開始時の点数である21点から50%の低下は達成していなかったからである。しかし、8週間の試験期間における被験者#106の点数は、4点(2週目)、8点(4週目)および10点(6週目)であり、試験期間を通じて確かに反応を示していた。実際、試験期間中、被験者#106は治験責任医師により「臨床的に反応が見られた被験者」であると判断されており、延長試験(実施例3を参照)にも参加し、その際にも1点、11点、7点および9点が記録されている。延長試験の開始後、被験者#106は、製剤Aに対する良好な反応を打ち消すような家庭内の大混乱に直面した。この混乱が収まった時点で、この被験者の製剤Aに対する反応性は維持されていた。どのような薬物治療も、周囲の環境による衝撃を完全には相殺できない。しかし、製剤Aは、被験者#106に対し、このような環境による心的外傷を緩和した可能性がある。
【0248】
寛解率
「反応したことのある被験者」すべてが寛解したわけではなく、「寛解した被験者」すべてが8週間の試験終了時までその状態を維持していたわけではなかった。「反応したことのある被験者」15人のうち9人(60%)は、8週間の試験期間中いずれかの時点で寛解していた。この寛解を達成した被験者9人のうち7人(77.8%;すべての試験参加者に対する割合としては46.7%)は、8週間の試験終了時まで寛解を維持した。
【0249】
以下の表は、寛解した試験参加者、および寛解を維持した試験参加者をすべて示したものである。チェックマークは、被験者が寛解したか寛解を維持したことを示し、Xマークは、被験者が寛解しなかったか、試験開始後8週目まで寛解を維持していなかったことを示す。
【0250】
【表7】
【0251】
さらに、1人を除いてすべての「反応したことのある被験者」が主な副次的効果(不安感の減少)を体感した。これらの結果は、製剤Aが大うつ病性障害および不安障害の治療に有効であることを示す。さらに、この薬物に起因する重大な副作用はなかった。また、試験に参加した被験者において体重の増加や性機能の減退は見られなかった。
【0252】
実施例3
実施例2の試験において有効性および安全性を示す結果が得られたことにより、延長試験が必要となった。実施例2の試験の被験者のうち10人が延長試験に参加した。延長試験は、実施例2の試験の被験者のうち、8週間の試験終了時に「臨床的に反応が見られた被験者」のみを対象とした。製剤Aを実施例1と同様に投与し、延長試験の被験者の分析は10ヶ月間にわたって1ヶ月毎に実施された。以下の表は、延長試験の被験者のHAM−Dの点数を示す。
【0253】
【表8】
w/d:延長試験から離脱
【0254】
被験者10人のうち4人は、除外基準に該当したため延長試験から離脱した。延長試験の結果より、試験の被験者がすべて定義に違うことなく、製剤Aに「反応した被験者」であることがわかった。「臨床的に反応が見られた被験者」10人のうちの6人(60%)は、延長試験の開始時に寛解状態にあった。この10人のうち8人(80%)は、最終評価日に寛解状態にあった。うち2人は、先の8週間の試験においては「臨床的に反応が見られた被験者」であったものの延長試験の開始までは寛解に至らない被験者であった。「臨床的に反応が見られた被験者」と判断されて延長試験に参加した被験者のうち1人(#113)だけが、延長試験に参加後再発を見た。
【0255】
実施例4
実施例3の試験において有効性および安全性を示す結果が得られたことにより、第2の延長試験が必要となった。実施例3に記載の延長試験の被験者のうち4人が第2の延長試験に参加した。第2の延長試験は、最初の延長試験の被験者のうち、製剤Aの服用継続を希望した被験者のみを対象とした。製剤Aは、実施例2および3と同様に投与した。第2の延長試験は12か月継続するよう予定され、参加した4人の被験者は現在、試験の8か月または9か月を終えた段階にある。被験者はそれぞれ1か月毎に分析を受けており、今後もその予定である。以下の表は、該延長試験における被験者のHAM−Dの点数を示す。
【0256】
【表9】
【0257】
第2の延長試験の結果、進行中である試験の実施済み期間全体を通じて、試験の被験者全員(来診5における被験者#106を除く)が寛解(すなわち、HAM−Dの点数が8点未満)を維持していた。最終評価日には被験者全員が寛解状態にあった。
【0258】
実施例5
上述の実施例に記載の通り、製剤Aは、実証に基づく治療的効果を有する。PCT国際公開第2009/086634号パンフレットに記載されているように、製剤Aの作用機序を調べるための検討を行った。具体的には、製剤Aが放射性リガンドとその受容体との結合を阻害する効果、または製剤Aが放射性標識酵素の関連標的タンパク質に対する作用を阻害する効果を判定するための検討を行った。製剤Aによる阻害の程度(製剤Aによる各受容体における特異的結合の阻害率(%))を求めた。結合能および酵素活性の阻害試験は、製剤Aの濃度が異なる2つの試料(1.0μg/mLおよび10.0μg/mL)を用いて二重測定(duplicate)で行った。これらの濃度の試料は、製剤Aのカプセル剤の内容物をジメチルスルホキシドに溶解し、製剤Aの濃度が1.0μg/mLまたは10.0μg/mLになるよう希釈することにより調製した。これらの希釈溶液を分離物Aと呼ぶ。次いで、60種類を超える受容体および酵素を用いて、放射性リガンド結合アッセイを行った(アッセイの詳細はPCT国際公開第2009/086634号パンフレットに記載されている)。各濃度における分離物Aの特異的結合平均阻害率(%)を求めた。
【0259】
試験を行った60種類を超える受容体および酵素のうち、5つの受容体に対する結合阻害活性が見られた。試験の結果から、分離物A(約10μg/mL)の存在下、ニューロキニンAとヒトNK2受容体との結合が32.15%阻害されたことがわかった。解離定数(Kd)は5×10−10Mであり、対照化合物であるニューロキニンAの阻害定数(Ki)は2.53×10−10Mであった。さらに、上記の結合試験から、分離物Aが主要な4つのイオンチャネル型グルタミン酸受容体においてグルタミン酸と置き換わることがわかった。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識AMPAとAMPA受容体との結合は29.05%阻害された。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識カイニン酸とカイニン酸受容体との結合は22.38%阻害された。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識CGP 39653とNMDA受容体のアゴニスト部位との結合は34.59%阻害された。分離物A(約10μg/mL)の存在下、放射性標識MDL−105,519とNMDA受容体のグリシン部位(ストリキニーネ非感受性)との結合は27.45%阻害された。
【0260】
NK2受容体を用いて、さらなる受容体結合アッセイを行った。単一濃度で比較対照実験を行い、製剤Aのカプセル剤の内容物から調製された様々な分離物の、NK2受容体のリガンド結合に拮抗する能力を評価した。製剤Aのカプセル剤の内容物を種々の溶媒に溶解し、以下に詳細に説明する4つの異なる方法で抽出を行った。この抽出操作によって複数の分離物を得た。それぞれを、サンプル#19上層分離物、サンプル#19下層分離物、サンプル#20上層分離物、サンプル#20下層分離物、画分X分離物およびサンプル#2分離物と呼ぶ。これらの分離物それぞれを放射性リガンド結合アッセイに供した。分析における結合活性の判定を容易にするために、高濃度(たとえば約100μg/mL)の分離物を使用した。放射性リガンド結合アッセイは、BurcherとRegoliの方法に基づいて実施した。概して言えば、組み換えヒトNK2受容体を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を対照(ニューロキニンA)または各分離物の存在下、[125I]ニューロキニンA(終濃度1.0μM)とともに培養した。反応は、25℃で4時間、0.02%のウシ血清アルブミンと1mMのMnCl2を含む20mMのHEPES(pH 7.4)中で進められた。次いで、ガラス繊維フィルターを用いた急速真空濾過によって反応を停止させた。フィルター上の放射能を測定して対照の値と比較し、分離物とNK2受容体のニューロキニンA結合部位との間に相互作用があるかどうかを確認した(%特異的結合として測定)。
【0261】
製剤Aのカプセル剤から内容物103mgを量り取り、サンプル#19を調製した。水(10.3mL)を加え、ボルテックスミキサーで1分間攪拌した。次いで、この溶液に酢酸エチル30mLを加えて、さらに1分間攪拌した。次いで、これをBeckman製の卓上遠心機で遠心した。その結果、3つの画分が形成された。上層(有機相)および下層(水相)画分をそれぞれ回収し、中間の画分は廃棄した。上層と下層の画分をそれぞれ乾燥させた。下層(水相)画分を水2.06mLで再構成した。透明でないこのサンプルを、微量遠心機を用いて10,000rpmで10分間遠心した。上清を回収し、これをサンプル085426−4(サンプル#19下層分離物)として受容体結合試験に用いた。上層(有機相)画分を20%アセトニトリル水溶液1.245mLで再構成した。透明でないこのサンプルを、微量遠心機を用いて10,000rpmで10分間遠心した。上清を回収し、これをサンプル085426−3(サンプル#19上層分離物)として受容体結合試験に用いた。サンプル#19に対するコントロール液も調製した。コントロール液は20%アセトニトリル水溶液から成り、これをサンプル085426−5として受容体結合試験に用いた。
【0262】
製剤Aのカプセル剤から内容物249.7mgを量り取り、サンプル#20を調製した。これにメタノール:ジクロロメタン(1:1)10mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。次いで、この溶液にジクロロメタン10mLを加え、さらに攪拌した。次いで、Beckman製の卓上遠心機を用い、サンプルを3,500rpmで15分間遠心した。その結果、3つの画分が形成された。上層と下層の有機相画分をそれぞれ回収し、中間の画分を廃棄した。上層と下層の画分をそれぞれ乾燥させた後、100%メタノール水溶液2.49mLで再構成した。上層のメタノール画分は半透明であり、下層のジクロロメタン画分は溶解しなかった。2つのサンプルをいずれも微量遠心機を用いて10,000rpmで10分間遠心した。各サンプルの上清を回収した。上層のメタノール画分から得られた上清をサンプル085426−6(サンプル#20上層分離物)として受容体結合試験に用いた。下層のジクロロメタン画分から得られた上清をサンプル085426−7(サンプル#20下層分離物)として受容体結合試験に用いた。サンプル#20に対するコントロール液も調製した。コントロール液は10%メタノール水溶液から成り、これをサンプル085426−9として受容体結合試験に用いた。
【0263】
サンプル画分Xは以下のように調製した。製剤Aのカプセル剤から内容物121mgを量り取り、水10mLを加えた。次いで、この溶液にジクロロメタン10mLを加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。水性画分と有機性画分をそれぞれ回収した。この水性画分にジクロロメタン10mLを加えてボルテックスミキサーで攪拌することにより、再度液液分離を行った。再度、水性画分と有機性画分をそれぞれ回収した。2回の液液分離で得られた有機性画分と水性画分をそれぞれ合わせ、有機性画分と水性画分を乾燥させた後、重量を測定した。水性画分は116.4mg、有機性画分は1.3mgであった。有機性画分を10%メタノール水溶液1.3mLで再構成し(0.1mg/mLに相当)、これをサンプル085426−8(画分X分離物)として結合試験に用いた。サンプル画分Xに対するコントロール液も調製した。コントロール液は10%メタノール水溶液から成り、これをサンプル085426−9(サンプル#20のコントロール液と同一)として受容体結合試験に用いた。
【0264】
サンプル#2は以下のように調製した。製剤Aのカプセル剤の内容物から一部(1.8mg)を量り取った。次いで、0.25%Tween80を含む40%PEG水溶液(3.6mL)を加え(0.5mg/mLに相当)、ボルテックスミキサーで攪拌した。この調製物をサンプル085426−1(サンプル#2分離物)として受容体結合試験に用いた。サンプル#2に対するコントロール液も調製した。コントロール液は0.25%Tween80を含む40%PEG水溶液から成り、これをサンプル085426−2として受容体結合試験に用いた。
【0265】
受容体結合試験の結果(各分離物の最大濃度における二重(duplicate)サンプルを用いて測定した)を以下の表に示す。
【0266】
【表10】
太字は、試験を行った濃度で50%を超える阻害率であったことを示す。
【0267】
画分Xの分離物はニューロキニンAとNK2受容体との結合を55%阻害し、サンプル#20上層分離物はニューロキニンAとNK2受容体との結合を53%阻害した。
【0268】
さらに、NK2受容体への結合および該受容体の活性化が、上記のように調製されたサンプル#20上層分離物により拮抗されるかどうかを確認するために、用量応答試験を行った。以下の各濃度、すなわち0.1、0.3、1.0、3.0、10、30、100および300μg/mLにおける#20上層分離物(抽出前のサンプル#20に含まれる製剤Aの量に基づく)の存在下、NK2受容体の結合がどの程度阻害されるかを評価した。
【0269】
図3に、NK2受容体を用いて行われたアッセイの結果を示す。サンプル#20上層分離物は、濃度依存的にニューロキニンAの、NK2受容体への結合能を阻害した。すなわち、サンプル#20上層分離物の濃度が高いほど結合が阻害され、濃度が低ければ阻害の程度も低かった。ニューロキニンAのIC50は6.84×10−10μg/mLであり、Kiは5.76×10−10Mであった。サンプル#20上層分離物のIC50は4.15×102μg/mLであり、Kiは3.49×102Mであった。
【0270】
実施例6
NK2受容体と相互作用する化合物は、以下のように単離した。製剤Aの粗抽出物(1.91g、オフホワイト色非晶質)を水(HPLC等級、J.T. Baker)に懸濁し、WP C18カラム(40μm、J.T. Baker)にロードした。充填したカラムに対し、水、30%メタノール、85%メタノールおよび100%メタノール(HPLC用溶媒、J.T.Baker)の順に用いて溶出を行った。次いで、等量ずつ回収したメタノールを含む画分を、上述の通りヒトNK2受容体放射性リガンド結合アッセイに供した。その結果、85%メタノールおよび100%メタノールで溶出された画分による結合阻害が最も大きいことがわかった。これらの2つの画分はいずれも、0.1mg/mLの濃度で使用された時、NK2に対して98.2%の阻害活性を示した。メタノールを含む活性画分(すなわち85%と100%のメタノールで溶出された画分)から真空下でメタノールを除去し、残った水は凍結乾燥(Labconco)によって除去した。乾燥した画分は、−20℃で保存した。
【0271】
0.599gの活性画分(85%と100%のメタノールで溶出された乾燥画分を合わせたもの)は、0.1mg/mLの濃度でヒトNK2受容体に対して98.2%の阻害活性を示したが、これをWP C18カラム(Ф2.1×50cm、40μm、J.T.Baker)にアプライした。アセトニトリルの20%、50%、70%ステップ勾配を適用して、有効成分を溶出した。(Optima(登録商標)LC/MS等級 Fisher Scientific)。次いで、等量ずつ回収した画分(それぞれ10〜15mLの溶出液を含む)を、再度上記のヒトNK2受容体放射性リガンド結合アッセイに供した。図4に、画分25、51、65、115、135、155、161、171、185、191および対照(溶離液(0.05%メタノール)のみを含む)の結合試験の結果を示す。画分171および185は、放射性標識NKAの結合を、それぞれ99.8%および100.8%阻害した。溶媒を除去し、乾燥した画分を−20℃で保存した。
【0272】
最も活性の高い画分171(NK2に対して99.8%)および185(NK2に対して100.8%)の純度は、当業者に知られている標準的な条件の下、HPLC−UVを用いて求められた。その結果を図5〜8に示す。図5は画分171のクロマトグラム、図6は画分185のクロマトグラムを示す。これらはいずれも210nmで検出した。図7は画分171のクロマトグラム、図8は画分185のクロマトグラムを示す。これらはいずれも190nmで検出した。
【0273】
600MHzの1H NMR(Bruker)を用いて、画分171および185をさらに評価した。その結果、2つの画分がいずれも純粋であり、同一の化合物を含んでいることがわかった。画分170、171、172、173および174を合わせて1つのサンプルとし、サンプル中の化合物(すなわちNK2受容体と結合する化合物)の構造を決定するために600MHzにおける1H NMR HR質量分析に供した。
【0274】
一次元NMR分光分析から、計14個(結果的には36)のプロトンおよび18個の炭素に起因する典型的な−1H共鳴および13C共鳴が示された。NMRの帰属は、以下の通りである。
1H−:4.23(1H,dd,11.74,4.70),4.17(1H,dd,11.74,5.87),3.95(1H,m),3.72(1H,dd,11.44,4.11),3.62(1H,dd,11.44,5.87),2.37(2H,dd,8.78,7.62),1.65(2H,m),1.35−1.25(重複),1.13(1H,m),0.88(3H,重複)and0.86(3H,重複);13C−:174.1(C=O),70.2(OCH),65.1(OCH2),63.2(OCH2),36.5(CH2),34.3(CH),34.0(CH2),29.9(CH2),29.5(CH2),29.5(CH2),29.4(CH2),29.3(CH2),29.1(CH2),29.0(CH2),27.0(CH2),24.8(CH2),19.1(CH3),11.3(CH3)
CHおよびCH3の帰属は、DEPT(Distortionless Enhancement by Polarization Transfer:分極移動による無歪増強)NMR法を使用して確認した。DEPT−90(中間)およびDEPT−135(トップ)の実験から、2つのCH3および2つのCHの存在がさらに確認された。DEPT−90では見られないDEPT−135における正のピークはすべてCH3である。
【0275】
多次元NMR分光分析法によって原子団や官能基の結合様式を立証したが、それが最終的な2次元構造の解明につながった。
【0276】
これらの研究により、NK2受容体に結合する活性化合物が式(I)で表される化学構造を有することが示されたが、単離された化合物のキラル中心の立体化学は決定されていない。
【0277】
最初に、異種核単量子相関(HSQC、H−C)によって、一次元の実験から得られたCH、CH2およびCH3単位の帰属がさらに確認された。
【0278】
2量子フィルターCOSY(DQFCOSY)および全相関分光(TOCSY、別名同種核ハートマン・ハーン分光(HOHAHA))を用いた実験によって、グリセリン単位の骨格構造の連結性が解明された。DQFCOSYは隣接したプロトンの連結性を測定するものであるが、TOSCYはさらに離れて存在するプロトンの連結性をも測定できる。
【0279】
より長距離の(グリセリンを越えた)連結性については、異種核間の相関、すなわちHMBC(異種核多重結合相関)を使用して解明した。この方法により、グリセリンの(C1−H)とミリスチン酸のカルボニルがカルボキシル(エステル)結合によって連結していることがわかった。また、C−αプロトンとC−βプロトンとの間において、カルボキシル基のカルボニルと結合していることがわかった。C−αプロトンとC−βプロトンとの連結性は、隣接するミリスチン酸のCH2基のいくつかにも及ぶかもしれない。
【0280】
NMR分析の結論として、NK2受容体と結合する化合物は式(I)の化合物であることが確認された。この帰属の結果、分子量約316に相当する分子式C18H36O4が提示され、これは次いでAccuTOF実験により確認された。
【0281】
実施例7
上述の通り、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを合成し、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを入手した。これらの化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。実施例5に記載のヒトNK2受容体結合アッセイにおける、様々な濃度の6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルおよびミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルの影響を調べた。図9に、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(図9では化合物107236−1と表示)の存在下、NK2受容体を用いて実施されたアッセイの結果を示す。概して、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルは、ニューロキニンAのNK2受容体に結合する能力を濃度依存的に阻害した。ニューロキニンAおよび6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを図9に示す。
【0282】
図10に、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(図10では化合物107236−2と表示)の存在下、NK2受容体を用いて実施された放射性リガンド結合アッセイの結果を示す。ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルもまた、ニューロキニンAのNK2受容体に結合する能力を阻害した。ニューロキニンAおよびミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルのIC50およびKiを図10に示す。
【0283】
実施例8
上述の通り、6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを合成し、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルを入手した。これらの化合物にジメチルスルホキシド(DMSO)を濃度10mMとなるまで加え、それぞれ溶液として調製した。次いで、これらの化合物を細胞/機能的カルシウムフラックス・アゴニスト/アンタゴニストアッセイに使用し、細胞内カルシウムの変化を測定することによって、ヒトNK2受容体活性に対する該化合物の影響を判定した。これらのアッセイはGerardらの方法に基づいて実施された。
【0284】
簡単に言えば、NK2受容体アゴニストアッセイは以下のように行われた。組み換えヒトNK2受容体を安定して発現するチャイニーズハムスター卵巣−K1(CHO−K1)細胞を、完全培地中、細胞外マトリックスの混合物上で一晩培養した。アッセイの1時間前に、培地を0.1%のウシ血清アルブミンを含むハンクス緩衝塩液(HBSS)と交換した。次いで、細胞内カルシウムを測定するための色素を細胞にロードし、細胞内のカルシウムのベースライン測定を行った。次いで、対照(濃度が1×10−11M〜3×10−7Mであるアゴニスト[bAla8]−NKA(4−10))または化合物(濃度が各々3×10−7M〜1×10−4Mであるミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物3))を、適切なウェル内の細胞に添加した。485nmで励起され515nmで発光する蛍光を、2秒毎に少なくとも2分間測定した。化合物2または化合物3を添加した個々のウェルにおける蛍光のピーク高さを記録し、対照を添加したウェルにおける蛍光のピーク高さと比較した。このアッセイの結果を図11に示す。これは、横軸に対照に対する化合物すなわちミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#3)の濃度(log(化合物)(M))、縦軸に対照である[bAla8]−NKA(4−10)の最大値に対するパーセント(%最大応答)を表したグラフである。
【0285】
NK2受容体アンタゴニストアッセイは本質的に以下のように行われた。組み換えヒトNK2受容体を安定して発現するCHO−K1細胞を、完全培地中、細胞外マトリックスの混合物上で一晩培養した。アッセイの1時間前に、培地を0.1%のウシ血清アルブミンを含むハンクス緩衝塩液(HBSS)と交換した。次いで、細胞内カルシウムを測定するための色素を細胞にロードし、細胞内のカルシウムのベースライン測定を行った。対照(濃度が3×10−8M〜1×10−5MのアンタゴニストGR159897または濃度が1×10−11M〜3×10−7Mの[bAla8]−NKA(4−10))([bAla8]−NKA(4−10)のカルシウム効果は時間の経過とともに消失することから、[bAla8]−NKA(4−10)はアンタゴニストアッセイにおいて、[bAla8]−NKA(4−10)のさらなる効果を阻害することにより、アンタゴニストに似た働きをする)またはサンプル(濃度が各々3×10−7M〜1×10−4Mであるミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物3))を、適切なウェル内の細胞に添加した。10分後、アゴニスト[bAla8]−NKA(4−10)(終濃度0.3nM)を添加した。485nmで励起され515nmで発光する蛍光を、2秒毎に少なくとも2分間測定した。対照、化合物2または化合物3を添加した個々のウェルにおける蛍光のピーク高さを記録し、アゴニストのみのウェルにおける蛍光のピーク高さと比較した。このアッセイの結果を図12に示す。これは、横軸に対照に対する化合物すなわちミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#2)または6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピル(化合物#3)の濃度(log(化合物)(M))、縦軸に対照である[bAla8]−NKA(4−10)の最大値に対するパーセント(%最大応答)を表したグラフである。図12からわかるように、ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルおよび6−メチル−ミリスチン酸2,3−ジヒドロキシプロピルはいずれも、この機能的NK2受容体アンタゴニストアッセイにおいて、アンタゴニスト活性を示した。
【0286】
式(1)に包含される個々の化合物を含む本発明の化合物の調製および使用は、例示した実施形態に関する先の記載から明白であり、ゆえに本発明の請求の範囲に包含される。当分野における通常の知識を有する者にとっては、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更および修正が可能であることは明白であろう。
【0287】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造を有する式(1)の化合物および該化合物の薬学的に許容される塩。
【化1】
(式中、
AおよびBは独立して−OHまたは−SHであり、
VおよびWは独立して酸素原子または硫黄原子であり、かつVおよびWのうち少なくとも1つは酸素原子であり、
R1は−(CH2)pCH3または−Hであり、
pは0〜3の整数であり、かつ
Xが−(CH2)m−であり、
Yが−Hであり、
Zが(CH2)n−であり、
mおよびnが整数であり、
m=1〜5、
n=4〜14、
あらゆるm、nについて6≦m+n≦14であり、
任意に2つ以下の炭素‐炭素二重結合を有してもよく、該炭素‐炭素二重結合が2つ存在する場合、式(1)の隣接するメチレン基間に形成された二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
Xが
【化2】
であり、
Yが存在せず、CAがCBとともに二重結合を形成し、
Zが−(CH2)r−であり、
qおよびrが整数であり、
q=0〜4、
r=1〜13、
あらゆるq、rについて5≦q+r≦13であり、
任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
Xが−(CH2)t−であり、
Zが
【化3】
Yが存在せず、CAがCCとともに二重結合を形成し、
R1が−(CH2)vCH3または−Hであり、
tおよびuが整数であり、
t=1〜5、
u=0〜12、
あらゆるt、uについて5≦t+u≦13であり、
任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する。)
【請求項2】
AとBとがいずれも−OHであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
VとWとがいずれも酸素原子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
R1が−(CH2)pCH3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
pが0〜2であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
pが0または1であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
pが0であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
n=2〜12、かつ7≦m+n≦13であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
n=3〜11、かつ8≦m+n≦12であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
n=4〜10、かつ9≦m+n≦11であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
n=5〜9、かつm+n=10であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
m=2〜4であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
m=3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項14】
r=2〜12、かつ6≦q+r≦12であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項15】
r=3〜11、かつ7≦q+r≦11であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
r=4〜10、かつ8≦q+r≦10であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項17】
r=5〜9、かつq+r=9であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項18】
q=1〜3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項19】
q=2であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項20】
u=1〜11、かつ6≦t+u≦12であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項21】
u=2〜10、かつ7≦t+u≦11であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項22】
u=3〜9、かつ8≦t+u≦10であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項23】
u=4〜8、かつt+u=9であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項24】
t=2〜4であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項25】
t=3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項26】
前記2つ以下の炭素‐炭素二重結合が存在するとき、該結合がそれぞれZのメチレン基間に形成されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項27】
前記2つ以下の炭素‐炭素二重結合が1つの該結合であることを特徴とする、請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
前記第2の二重結合が存在するとき、該結合がZのメチレン基間に形成されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項29】
前記2つ以下の炭素‐炭素二重結合および前記第2の二重結合が存在しないことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項30】
下記式を有する、請求項1に記載の化合物。
【化4】
【請求項31】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化5】
【請求項32】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化6】
【請求項33】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化7】
【請求項34】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化8】
【請求項35】
先行する請求項のいずれかに記載の化合物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項36】
経口送達、非経口送達、局所送達、直腸送達、経膣送達、経口吸入による投与または経鼻送達に適した、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
請求項1〜34のいずれかに記載の化合物を含む剤形。
【請求項38】
液剤、懸濁剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、軟膏剤、クリーム剤またはロゼンジ剤である、請求項37に記載の剤形。
【請求項39】
カプセル剤である、請求項38に記載の剤形。
【請求項40】
錠剤である、請求項39に記載の剤形。
【請求項41】
その必要のある対象に、請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含む、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための方法。
【請求項42】
その必要のある対象に、請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための方法。
【請求項43】
前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患が、抑うつ性気分障害、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患または尿失禁であることを特徴とする、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患が、抑うつ性気分障害であることを特徴とする、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患が大うつ病性障害であることを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記対象が、前記治療と並行する精神療法を受けていないことを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記対象が、前記治療と並行する精神療法を受けていることを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記化合物が、薬学的に許容される担体を含む医薬製剤に含まれていることを特徴とする、請求項41〜47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記化合物を治療上の有効量で投与する工程が、別の治療剤を投与することをさらに含む、請求項41〜48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記対象がヒトであることを特徴とする、請求項41〜49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
その必要のある対象に、請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含む、抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための方法。
【請求項52】
その必要のある対象に、請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための方法。
【請求項53】
前記障害または症候群が脳または神経系の疾患、不安障害、性機能不全、薬物乱用、摂食障害またはホルモン障害であることを特徴とする、請求項51または52に記載の方法。
【請求項54】
その必要のある対象に、請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含む、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための方法。
【請求項55】
その必要のある対象に、請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、抗うつ薬によって治療可能な該障害または状態を治療するための方法。
【請求項56】
抗うつ薬によって治療可能な前記障害または状態が、更年期障害に関連するのぼせやほてり、疼痛、または禁煙であることを特徴とする、請求項54または55に記載の方法。
【請求項57】
NK2受容体を請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量と接触させることを含む、NK2受容体活性を調節するための方法。
【請求項58】
NK2受容体を請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量と接触させることを含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、NK2受容体活性を調節するための方法。
【請求項59】
インビボの方法であることを特徴とする、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
インビトロの方法であることを特徴とする、請求項57または58に記載の方法。
【請求項61】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項62】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項63】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項64】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項65】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項66】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項67】
請求項57、59、および60のいずれかによって定義されるNK2受容体活性調節のための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項68】
請求項57、59、および60のいずれかによって定義されるNK2受容体活性調節のための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項69】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項70】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項71】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項72】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項73】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項74】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項75】
請求項57または59によって定義されるNK2受容体活性調節のための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項76】
請求項57または59によって定義されるNK2受容体活性調節のための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項1】
下記の構造を有する式(1)の化合物および該化合物の薬学的に許容される塩。
【化1】
(式中、
AおよびBは独立して−OHまたは−SHであり、
VおよびWは独立して酸素原子または硫黄原子であり、かつVおよびWのうち少なくとも1つは酸素原子であり、
R1は−(CH2)pCH3または−Hであり、
pは0〜3の整数であり、かつ
Xが−(CH2)m−であり、
Yが−Hであり、
Zが(CH2)n−であり、
mおよびnが整数であり、
m=1〜5、
n=4〜14、
あらゆるm、nについて6≦m+n≦14であり、
任意に2つ以下の炭素‐炭素二重結合を有してもよく、該炭素‐炭素二重結合が2つ存在する場合、式(1)の隣接するメチレン基間に形成された二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
Xが
【化2】
であり、
Yが存在せず、CAがCBとともに二重結合を形成し、
Zが−(CH2)r−であり、
qおよびrが整数であり、
q=0〜4、
r=1〜13、
あらゆるq、rについて5≦q+r≦13であり、
任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する;または
Xが−(CH2)t−であり、
Zが
【化3】
Yが存在せず、CAがCCとともに二重結合を形成し、
R1が−(CH2)vCH3または−Hであり、
tおよびuが整数であり、
t=1〜5、
u=0〜12、
あらゆるt、uについて5≦t+u≦13であり、
任意に式(1)の隣接するメチレン基間に形成された第2の二重結合を有してもよく、該二重結合の炭素原子それぞれが少なくとも1つの水素原子に結合する。)
【請求項2】
AとBとがいずれも−OHであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
VとWとがいずれも酸素原子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
R1が−(CH2)pCH3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
pが0〜2であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
pが0または1であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
pが0であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
n=2〜12、かつ7≦m+n≦13であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
n=3〜11、かつ8≦m+n≦12であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
n=4〜10、かつ9≦m+n≦11であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
n=5〜9、かつm+n=10であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
m=2〜4であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
m=3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項14】
r=2〜12、かつ6≦q+r≦12であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項15】
r=3〜11、かつ7≦q+r≦11であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項16】
r=4〜10、かつ8≦q+r≦10であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項17】
r=5〜9、かつq+r=9であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項18】
q=1〜3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項19】
q=2であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項20】
u=1〜11、かつ6≦t+u≦12であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項21】
u=2〜10、かつ7≦t+u≦11であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項22】
u=3〜9、かつ8≦t+u≦10であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項23】
u=4〜8、かつt+u=9であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項24】
t=2〜4であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項25】
t=3であることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項26】
前記2つ以下の炭素‐炭素二重結合が存在するとき、該結合がそれぞれZのメチレン基間に形成されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項27】
前記2つ以下の炭素‐炭素二重結合が1つの該結合であることを特徴とする、請求項26に記載の化合物。
【請求項28】
前記第2の二重結合が存在するとき、該結合がZのメチレン基間に形成されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項29】
前記2つ以下の炭素‐炭素二重結合および前記第2の二重結合が存在しないことを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の化合物。
【請求項30】
下記式を有する、請求項1に記載の化合物。
【化4】
【請求項31】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化5】
【請求項32】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化6】
【請求項33】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化7】
【請求項34】
下記式を有し、立体化学的に実質上純粋な、請求項1に記載の化合物。
【化8】
【請求項35】
先行する請求項のいずれかに記載の化合物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項36】
経口送達、非経口送達、局所送達、直腸送達、経膣送達、経口吸入による投与または経鼻送達に適した、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
請求項1〜34のいずれかに記載の化合物を含む剤形。
【請求項38】
液剤、懸濁剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、軟膏剤、クリーム剤またはロゼンジ剤である、請求項37に記載の剤形。
【請求項39】
カプセル剤である、請求項38に記載の剤形。
【請求項40】
錠剤である、請求項39に記載の剤形。
【請求項41】
その必要のある対象に、請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含む、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための方法。
【請求項42】
その必要のある対象に、請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、ニューロキニン2(NK2)受容体活性に関連する障害または疾患を治療するための方法。
【請求項43】
前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患が、抑うつ性気分障害、不安障害、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、炎症性気道疾患または尿失禁であることを特徴とする、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患が、抑うつ性気分障害であることを特徴とする、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記NK2受容体活性に関連する障害または疾患が大うつ病性障害であることを特徴とする、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記対象が、前記治療と並行する精神療法を受けていないことを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記対象が、前記治療と並行する精神療法を受けていることを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記化合物が、薬学的に許容される担体を含む医薬製剤に含まれていることを特徴とする、請求項41〜47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記化合物を治療上の有効量で投与する工程が、別の治療剤を投与することをさらに含む、請求項41〜48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記対象がヒトであることを特徴とする、請求項41〜49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
その必要のある対象に、請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含む、抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための方法。
【請求項52】
その必要のある対象に、請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための方法。
【請求項53】
前記障害または症候群が脳または神経系の疾患、不安障害、性機能不全、薬物乱用、摂食障害またはホルモン障害であることを特徴とする、請求項51または52に記載の方法。
【請求項54】
その必要のある対象に、請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含む、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための方法。
【請求項55】
その必要のある対象に、請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩を治療上の有効量で投与する工程を含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、抗うつ薬によって治療可能な該障害または状態を治療するための方法。
【請求項56】
抗うつ薬によって治療可能な前記障害または状態が、更年期障害に関連するのぼせやほてり、疼痛、または禁煙であることを特徴とする、請求項54または55に記載の方法。
【請求項57】
NK2受容体を請求項1〜34のいずれかに記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量と接触させることを含む、NK2受容体活性を調節するための方法。
【請求項58】
NK2受容体を請求項1に記載の本発明の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量と接触させることを含み、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、NK2受容体活性を調節するための方法。
【請求項59】
インビボの方法であることを特徴とする、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
インビトロの方法であることを特徴とする、請求項57または58に記載の方法。
【請求項61】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項62】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項63】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項64】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項65】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項66】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項67】
請求項57、59、および60のいずれかによって定義されるNK2受容体活性調節のための、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項68】
請求項57、59、および60のいずれかによって定義されるNK2受容体活性調節のための、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項69】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項70】
請求項41および43〜50のいずれかによって定義される障害または疾患を治療するための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項71】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項72】
請求項51または53によって定義される抑うつ性気分障害に関連する障害または症候群を治療するための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項73】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項74】
請求項54または56によって定義される、抗うつ薬によって治療可能な障害または状態を治療するための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【請求項75】
請求項57または59によって定義されるNK2受容体活性調節のための薬剤の製造における、請求項1〜34のいずれかに記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項76】
請求項57または59によって定義されるNK2受容体活性調節のための薬剤の製造における、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用であって、該化合物においてAおよびBがそれぞれ−OH、VおよびWがそれぞれ酸素原子、R1がH、Xが−(CH2)m−、Zが−(CH2)n−、mが3、nが7であり、かつC=C二重結合が存在しないことを特徴とする、使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−503908(P2013−503908A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528118(P2012−528118)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/048006
【国際公開番号】WO2011/029099
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(509103576)ユナイテッド パラゴン アソシエイツ インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/048006
【国際公開番号】WO2011/029099
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(509103576)ユナイテッド パラゴン アソシエイツ インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】
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