説明

ニューロトロフィン受容体結合阻害剤

【課題】ニューロトロフィンと、その受容体との結合を阻害する、ニューロトロフィン受容体結合阻害剤を提供する。
【解決手段】センブリの抽出物を有効成分とすることを特徴とするニューロトロフィン受容体結合阻害剤である。好適には、β-NGFとp75NTRとの結合を阻害するニューロトロフィン受容体結合阻害剤である。また、好適には、BDNFとTrkBとの結合を阻害するニューロトロフィン受容体結合阻害剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センブリの抽出物を有効成分とするニューロトロフィン(神経栄養因子)とその受容体との結合を阻害する、ニューロトロフィン受容体結合阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロトロフィン(Neurotrophin、神経栄養因子)は、神経系細胞等から分泌されるタンパク質であり、主なものとして、NGF(Nerve Growth Factor、神経成長因子)、BDNF(Brain-derived Neurotrophic Factor、脳由来神経栄養因子)、NT−3(ニューロトロフィン−3)、NT−4/5(ニューロトロフィン−4/5)がある。これらのニューロトロフィンファミリーは、神経細胞の分化促進や生存維持、再生促進、機能維持に関与するが、それぞれ異なる生理活性が報告されている。
【0003】
一方、ニューロトロフィンの受容体としては trkファミリーの遺伝子産物であるTrkA、TrkB、TrkCが同定されており、NGFはTrkAに、BDNFとNT-4/5はTrkBに、NT-3はTrkCに高い親和性を有している。また、NGFの低親和性の受容体としてp75NTRが同定されている。これらの受容体との結合を通じて、ニューロトロフィンの神経系に対する複雑な作用が奏されていると考えられている。例えば、Trk受容体(TRK receptor)はニューロトロフィンに結合すると通常は正の信号を神経細胞に送って生存や成長を促すのに対して、p75NTRにNGFが結合すると、細胞死(アポトーシス)が誘導される。
【0004】
アルツハイマー病、脳卒中、ガンなどによる神経障害は、ニューロトロフィンの量の異常な増減や誤作用が一因となって神経が損傷を受けることにより起こりうると考えられている。これらの疾患に対する治療法として、神経機能の損失制御を助けるニューロトロフィンを加えることが検討されている。
【0005】
NGFは、脳内に投与すると記憶、学習能力が高まり、脳虚血によるニューロンの死滅を防ぐことが動物実験にて確認され、アルツハイマー病患者の痴呆症状の改善に寄与しうることが示唆されている。さらに、動物実験においてNGF投与により糖尿病性神経障害の病態が改善されることも報告されている。これらの知見をもとに、NGFはガン化学療法や糖尿病によって起こる末梢神経障害の治療剤として検討されている。その他、NGFは、生理的な痛みと病理的な痛みの伝達において重要な役割を果たすことが示されており、ヒトにNGFを静脈内注入すると全身的な筋肉痛が生じるのに対して、局所投与すると、全身的な効果に加えて、注射部位に痛覚過敏と異痛症が誘発されることがわかっている。これまでに、変形性関節症や慢性関節炎患者の疼痛緩和のために複数の抗NGFモノクローナル抗体が開発されている(タネズマブ、AMG403)。
【0006】
BDNFは、運動・末梢神経疾患として筋萎縮性側索硬化症(LS)、糖尿病や化学療法剤による末梢神経障害など、また中枢神経系疾患としてアルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、網膜関連疾患などの治療薬としての開発が期待されている。例えば、BDNFを遺伝的に運動神経変性を起こすマウスの筋肉内に投与すると神経変性を抑制することができることなどが知られている。
また、BDNFは、触刺激でも痛みを感じるアロディニア(異痛症)の発現に関与することも示唆されている。あらかじめ抗BDNF抗体で処置しておくと、伝達物質放出や軸索発芽が阻止されアロディニアが減弱する。これらのことから炎症初期のBDNFの作用を抑制する事が、アロディニアや種々の慢性疼痛の治療に有効である可能性が指摘されている(非特許文献1)。また,BDNFは摂食調節やエネルギー代謝調節にも関与していることが知られている。BDNFを室傍核へ投与すると,代謝が促進するとの報告がある。
【0007】
その他、ニューロトロフィンが関与する可能性が指摘されている疾病としては、ガン化学療法等によるその他の末梢神経障害、糖尿病性心筋症、神経変性疾患、多発性硬化症、脳虚血性疾患、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、炎症性腸疾患、分裂病等がある。
【0008】
近年、β-NGFやBDNFが、脱毛症の発症において、脱毛因子として関与していることが報告されている(非特許文献2および3参照)。β-NGFやBDNFは、成長期(Anagen)の後期に毛包に作用し、毛包細胞のアポトーシスを惹起して毛包の退縮を引き起こす。その結果、毛包は退行期(Catagen)、休止期(Telogen)に移行していく。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. of Physiol. (London), 2005, 569.2,685-695,
【非特許文献2】FASEB J., 1999, 13:395-410
【非特許文献3】Am. J. Pathol., 2004, 165:259-271
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ニュートロフィンは多くの役割が報告されており、遺伝子欠損、発現抑制、抗体等によりニューロトロフィンそのものの作用を抑制ないし欠損させてしまうと、影響が広範囲に渡ってしまう。その為、治療においては重大な副作用の危険性を生じ、作用機序の解明や治療薬の探索などの研究においては、個別の経路ごとのメカニズムの解明や治療効果の検討には適さない。
【0011】
シグナル伝達因子、神経伝達物質等の研究や創薬においては、アゴニストやアンタゴニストを用いて受容体との結合を阻害することが行われている。これにより、他の経路への影響を抑えつつ、その受容体を通しての経路のみを遮断することが可能となり、個別の生理現象の解明や副作用を抑えた治療の実現が期待される。
【0012】
そこで本発明の目的は、ニューロトロフィンと、その受容体との結合を阻害する、ニューロトロフィン受容体結合阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、生薬として知られているセンブリの抽出物が、ニューロトロフィンと受容体との結合を阻害しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、センブリの抽出物を有効成分とすることを特徴とするものである。
【0015】
本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、β-NGFとp75NTRとの結合を阻害するものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、BDNFとTrkBとの結合を阻害するものであることが好ましい。
【0017】
また、本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、育毛剤以外に用いられることが好ましい。
【0018】
また、本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、前記センブリの抽出物がエチルアルコール抽出物であることが好ましい。
【0019】
本発明のニューロトロフィン受容体結合活性測定方法は、ニューロトロフィン受容体が表面上に固定されたELISA用プレートに対して、被検試料液を接触させる工程と、前記ELISA用プレートに対して、ビオチンが結合した抗ニューロトロフィン抗体を接触させる工程と、前記ELISA用プレートに対して、アビジン又はストレプトアビジンが結合したペルオキシダーゼを接触させる工程と、前記ELISA用プレートに対して、発色用基質を接触させる工程とを、含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ニューロトロフィンと、その受容体との結合を強く阻害する、ニューロトロフィン受容体結合阻害剤を提供することができる。また、生薬として既に広く利用されているセンブリの抽出物を有効成分とすることから、高い安全性を備えたニューロトロフィン受容体結合阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のニューロトロフィン受容体結合活性測定方法の一例を表す模式図である。
【図2】実施例のBDNF受容体結合試験結果を表すグラフである。
【図3】実施例のβ-NGF受容体結合試験結果を表すグラフである。
【図4】実施例のBDNF受容体結合試験結果を表すグラフである。
【図5】実施例のβ-NGF受容体結合試験結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
本発明はニューロトロフィン受容体結合阻害剤に関するものであり、特に、β-NGFとp75NTRとの結合、BDNFとTrkBとの結合を強く阻害するものである。
【0023】
センブリとは、リンドウ科(Gentianaceae)のセンブリ(Swertia japonica Makino)のことであり、特に全草を用いるのが好ましく、開花期のものを用いるのが好ましい。また、早生品種よりも晩生品種のセンブリから得られる抽出物の方がニューロトロフィン受容体結合阻害効果が高いため好ましい。センブリの抽出物(センブリエキス)は、苦味健胃薬として用いられている他、末梢血管拡張作用があることから、育毛剤として用いられているが、ニューロトロフィンの受容体結合に対する作用は全く知られていなかった。
【0024】
本発明で用いるセンブリの抽出物は、抽出方法は特に限定されず、公知の方法によりセンブリの成分を抽出したものを用いることができる。例えば、センブリを乾燥し、又は、乾燥することなく粉砕した後、常温又は加温下に、溶剤により抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、あるいはその乾燥末が挙げられる。好ましくは溶媒抽出液である。
【0025】
センブリの抽出に使用される溶媒は特に限定されず、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール、酢酸エチル等の低級アルキルエステル、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素、ジエチルエーテル、アセトン等の公知の溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でもエチルアルコールが特に好ましい。なお、センブリの抽出は常法で行なうことができる。例えば、エチルアルコールにて浸漬撹拌抽出することにより抽出を行うことができる。得られたセンブリ抽出物はそのまま用いてもよいが、さらに必要により濃縮、濾過等の処理をしたものを用いることができる。
【0026】
また、センブリ抽出物を、酢酸エチル/水で分配処理して得られた画分、n−ブタノール/水で分配処理して得られた画分や、上記いずれかの画分を、ODSカラムを中心とした液体クロマトグラフィーにかけ得られた溶出画分等も使用できる。これらの分配処理は、組み合わせて行ってもよい。
【0027】
本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、既に生薬として広く利用されているセンブリ抽出物を有効成分とするものであり、優れたニューロトロフィン受容体結合阻害効果を有し、かつ安全性も高いので、剤型は限定されない。例えば、抽出物をそのまま使用してもよく、抽出物を精製したものを用いてもよい。また、適当な基剤、薬剤などと混合した皮膚外用剤や頭髪化粧料等の外用形態とすることができ、錠剤、カプセル剤、散剤、内服液、細粒剤、顆粒剤等の経口投与剤の形態となすこともできる。具体的には、ローション、乳液、軟膏、湿布、クリーム、ジェル、オイル、パック、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアートニック、ヘアーリキッド等の形態を採ることができる。さらに上記のような外用剤の他にも、例えば、石鹸、入浴剤といったものに配合して用いてもよい。
【0028】
センブリ抽出物を適当な基剤等と混合した組成物として使用する場合、センブリの配合量は、添加形態および投与形態によっても異なるが、外用剤では、全組成物中0.0001〜90質量%配合することが好ましく、0.001〜50質量%配合することがより好ましく、0.001〜10質量%配合することがさらに好ましい。また、経口投与剤の場合には、センブリ抽出物の投与量が成人1日あたり0.001〜100gになるようにするのが好ましい。
【0029】
本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤には、さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品や医薬品等に一般に用いられている保湿剤、油性成分、界面活性剤、ビタミン類、蛋白分解酵素、増粘剤、防腐剤、粉体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、乳化剤、アルコール類、色素、水性成分、脂肪酸類、香料、キレート剤、pH調整剤、精製水等の添加成分を配合することができる。
【0030】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール、ソルビット、マンニット等の糖アルコール、ヒアルロン酸塩、コンドロイチン硫酸塩、キトサン等の水溶性高分子、尿素、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸塩等が挙げられる。
【0031】
油性成分としては、例えば、大豆油、コメヌカ油、アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等の合成グリセリド、ジグリセリド等の油脂類、ホホバ油、カルナウバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等のロウ類、流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、プリスタン等の炭化水素類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸類、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール、ホホバアルコール等の高級アルコール類、オクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール等のエステル類、精油類およびシリコーン油類が挙げられる。
【0032】
界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、高級脂肪酸アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加したアルキルエーテルカルボン酸塩又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、アミノ酸型界面活性剤、リン酸エステル型界面活性剤、タウリン型界面活性剤、アマイドエーテルサルフェート型界面活性剤等の陰イオン性界面活性剤、カルボキシベタイン型、アミノカルボン酸、スルホベタイン型等の両性界面活性剤および4級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0033】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK、ビタミンP、ビタミンU、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、リポ酸、オロット酸及びその誘導体等が挙げられる。蛋白分解酵素としては、例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン、パパイン、ブロメライン、フィシン及び細菌、酵母、カビ由来のプロテアーゼ等が挙げられる。
【0034】
増粘剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ポリアクリル酸塩等の水溶性高分子化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩が挙げられる。防腐剤としては、例えば、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。粉体としては、例えば、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、ベントナイト、バーミキュライト、亜鉛華、雲母、雲母チタン、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、ベンガラ、酸化鉄、群青等が挙げられる。その他の成分としては、香料、色素、殺菌剤等を挙げることができる。
【0035】
また、本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、他の成分を併用せずにセンブリ抽出物だけで用いてもよいが、さらに血行促進剤、局所刺激剤、角質溶解剤、抗脂漏剤、抗菌剤、抗炎症剤、毛包賦活剤、抗男性ホルモン剤、保湿剤等の他の成分と併用してもよい。
【0036】
本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、センブリ抽出物および任意成分を組み合わせて、常法に従って製造することができる。
【0037】
本発明のニューロトロフィン受容体結合活性測定方法は、ニューロトロフィン受容体が表面上に固定されたELISA用プレートに対して、被検試料液を接触させる工程と、前記ELISA用プレートに対して、ビオチンが結合した抗ニューロトロフィン抗体を接触させる工程と、前記ELISA用プレートに対して、アビジン又はストレプトアビジンが結合したペルオキシダーゼを接触させる工程と、前記ELISA用プレートに対して、発色用基質を接触させる工程とを、含むことを特徴とするものである。本発明のニューロトロフィン受容体結合活性測定方法の一例を表す模式図を図1に示す。図1を用いて本発明のニューロトロフィン受容体結合活性測定方法の概要を説明すると、まず、ELISA用プレート4上に、ニューロトロフィン受容体3が固定されたものに対して、ニューロトロフィン2を含む被検試料液1を接触させる(STEP1)。被検試料液1を接触させた後、インキュベーションを行い、ニューロトロフィン受容体3にニューロトロフィン2を結合させる(STEP2)。次に、ビオチン5が結合した抗ニューロトロフィン抗体6をELISA用プレートに接触させる(STEP3)。ニューロトロフィンが結合した受容体7に対して、前記ビオチン5が結合した抗ニューロトロフィン抗体6が結合する。その後、前記ELISA用プレートに対して、アビジン又はストレプトアビジンが結合したペルオキシダーゼ8を接触させる(STEP4)。ニューロトロフィンが結合した受容体7に対して、ビオチン5が結合した抗体6が、ニューロトロフィンを介して結合していれば、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとの相互作用により、ペルオキシダーゼがELISA用プレート4に保持される。次に、ペルオキシダーゼと発色用基質との反応により、発色反応が起こり、そのような発色スポット9をプレートリーダーにより検出する(STEP5)。
【0038】
上記ニューロトロフィン受容体とは、trkファミリーの遺伝子産物であるTrkA、TrkB、TrkCの他、p75NTRのいずれか1種以上である。TrkBは、オールタナティブスプライシングにより2種類のサブタイプができる。一つは、細胞内にチロシンキナーゼを持つTrkB-TK+(TK+)、もう一つは、細胞内にチロシンキナーゼを欠いたTrkB-T1 (T1)であるが、そのいずれでもよい。
【0039】
上記ELISA用プレートは、公知のいずれを用いてもよい。一般的には、96-wellのマイクロタータープレートである。各ウェルに、ニューロトロフィン受容体が固定(固相化)されたものを用いる。固定方法は、公知の方法を用いることができ、株式会社免役生物研究所(ELISA plate preparation kit, IBL)、AbD serotec社(Plate stabilizer)、Zepto metrix社(Immuno-TEKELISA construction system)等の市販されている固相化キットを用いてもよい。
【0040】
上記被検試料液を接触させる工程は、具体的には、ELISAプレートのWellに被検試料液を導入する工程である。好ましくは、導入後、インキュベーションを行う。被検試料液を導入する前に、ブロッキングを行ってもよい。また、被検試料液のインキュベーション後、PBSTなどのバッファーにより洗浄することが好ましい。インキュベーションは、0〜30℃、好ましくは4〜25℃で、1〜5時間行う。
【0041】
上記ビオチンが結合した抗ニューロトロフィン抗体は、NGF(Nerve Growth Factor、神経成長因子)、BDNF(Brain-derived Neurotrophic Factor、脳由来神経栄養因子)、NT−3(ニューロトロフィン−3)、NT−4/5のいずれに対する抗体でもよい。また、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、生物種も限定されない。好適な抗体は、R&D systems社製, biotinylated anti-human BDNF antibody catalogNo.BAM648およびR&D systems社製, biotinylated anti-human β-NGF antibody catalog No.BAF256である。抗体は、PBST等の適当なバッファーに希釈され、ELISA用プレートに導入される。インキュベーション後、プレートが洗浄されることが好ましい。インキュベーションは、0〜30℃、好ましくは4〜25℃で、1〜5時間行う。
【0042】
上記ペルオキシダーゼとしては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)が好ましい。アビジン又はストレプトアビジンが結合したペルオキシダーゼは、適当なバッファーに希釈され、ELISA用プレートに導入される。インキュベーション後、プレートが洗浄されることが好ましい。インキュベーションは、0〜30℃、好ましくは4〜25℃で、10分〜2時間行う。
【0043】
発色用基質は、ペルオキシダーゼを用いた発色反応に用いられる基質であればいずれでもよい。例えば、ABTS(2、2'-アジノ-ジ-〔3-エチルベンツチアゾリンスルホン酸〕)、BM-Blue、DAB(ジアミノベンジジン)等が挙げられる。好ましくはABTSである。発色用基質を0〜30℃、好ましくは4〜25℃で、1分〜1時間、好ましくは5分〜30分間反応させた後、必要に応じて反応停止液を加えた後に吸光度を測定する。プレート上の受容体にニューロトロフィンが結合し、さらにそこに抗ニューロトロフィン抗体が結合したwellは、400〜420、好ましくは405nmの波長の吸光度をマイクロプレートリーダー等を用いて測定する。
【0044】
被検試料を接触させる工程において、結合阻害活性を調べたい物質もWellに混入させることにより、ニューロトロフィンの受容体結合阻害効果を評価することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0046】
センブリの全草1kgをエチルアルコール10Lに、室温にて一昼夜浸漬した後、ろ過することによりセンブリ抽出液を得た。
【0047】
センブリ抽出液を水/酢酸エチルで分配し、酢酸エチル画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC、機器:(株)島津製LC-6Aシリーズ、カラム:ODSカラム、溶媒:水/メチルアルコール)にかけて分画した。各フラクションについて、後述するBDNF受容体結合試験、β-NGF受容体結合試験を行った。
【0048】
(BDNF受容体結合試験)
Trk B(R&D systems社製)を96well ELISA プレートに10ng/100μL/well添加し、4℃で一晩コーティングした。室温で1時間ブロッキングを行い(ブロッキング液:5% Tween 20, 5% Sucrose含有PBS-)、洗浄用バッファー(0.05% Tween 20含有PBS-)にて各wellを洗浄した。PBS-を80μL、200ng/mL のBDNF(R&Dsystems社製, recombinant human BDNF)を10μL、被検試料液(上記のHPLCにおける各フラクションを乾燥させて、洗浄用バッファーに溶解したもの)10μLを加えて混合し、3時間室温でインキュベートした。洗浄用バッファーで洗浄後、ビオチン化抗BDNF抗体(R&Dsystems社製, biotinylated anti-human BDNF antibody, 終濃度250ng/mL)を100μL加え室温で2時間インキュベートした。洗浄後、アビジン標識ペルオキシダーゼ(Sigma社製, 終濃度200ng/mL)を加え30分室温でインキュベートし、各wellを洗浄し、発色基質であるABTSを加え15分インキュベートした。反応停止液(1M 硫酸)を添加後、405nmの吸光度を測定した。
受容体結合の抑制率(%)は、被検試料非存在下における吸光度=A、被検試料存在下における吸光度=B、BDNF非存在下の吸光度=Cとすると、
抑制率 (%)={1-(B-C)/(A-C)}×100により算出した。
得られた結果を下記表1および図2に示す。下記表1中の吸光度の値は、被検試料存在下における吸光度=Bに当たるものである。図2は表1の抑制率をグラフ化したものである。縦軸が抑制率、横軸がフラクション番号を表す。各フラクション番号のうち左の番号が共通のものは同じフラクション由来のもので、HPLCにおける各フラクションを乾燥させたものの濃度が異なるものである。例えば、Fr.1-1〜1-5は同じフラクションのものであり、Fr.1-1は0.3mg/mL(フラクション乾燥物/バッファー)、Fr.1-2は0.1mg/mL、Fr.1-3は0.03mg/mL、Fr.1-4は0.01mg/mL、Fr.1-5は0.003mg/mLである。
【0049】
【表1】

【0050】
(β-NGF受容体結合試験)
p75NTR(R&D systems社製)を96well ELISA プレートに10ng/100μL/well添加し、4℃で一晩コーティングした。室温で1時間ブロッキングを行い(ブロッキング液:5% Tween 20, 5% Sucrose含有PBS-)、洗浄用バッファー(0.05% Tween 20含有PBS-)にて各wellを洗浄した。PBS-を80μL、200ng/mL のβ-NGF (R&Dsystems社製, recombinant human β-NGF))10μL、被検試料液(上記のHPLCにおける各フラクションを乾燥させて洗浄用バッファーに溶解したもの)10μLを加えて混合し、3時間室温でインキュベートした。洗浄用バッファーで洗浄後、ビオチン化抗β-NGF 抗体(R&Dsystems社製, biotinylated anti-human β-NGF antibody, 終濃度250ng/mL)を100μL加え室温で2時間インキュベートした。洗浄後、アビジン標識ペルオキシダーゼ(Sigma社製, 終濃度200ng/mL)を加え30分室温でインキュベートし、各wellを洗浄し、発色基質であるABTSを加え15分インキュベートした。反応停止液(1M 硫酸)を添加後、405nmの吸光度を測定した。
受容体結合の抑制率(%)は、被検試料非存在下における吸光度=A、被検試料存在下における吸光度=B、β-NGF非存在下の吸光度=Cとすると、
抑制率 (%)={1-(B-C)/(A-C)}×100により算出した。
得られた結果を下記表2および図3に示す。下記表2中の吸光度の値は、被検試料存在下における吸光度=Bに当たるものである。図3は表2の抑制率をグラフ化したものである。縦軸が抑制率、横軸がフラクション番号を表す。各フラクション番号のうち左の番号が共通のものは同じフラクション由来のもので、HPLCにおける各フラクションを乾燥させたものの濃度が異なるものである。例えば、Fr.1-1〜1-5は同じフラクションのものであり、Fr.1-1は0.3mg/mL(フラクション乾燥物/バッファー)、Fr.1-2は0.1mg/mL、Fr.1-3は0.03mg/mL、Fr.1-4は0.01mg/mL、Fr.1-5は0.003mg/mLである。
【0051】
【表2】

【0052】
上記表1および表2,図2および図3から明らかなように、センブリ抽出物は、BDNFとTrkBとの結合、β-NGFとp75NTRとの結合を阻害した。また、センブリ抽出物の濃度を下げるのに伴って、結合阻害能も減少した。
【0053】
(センブリの品種による比較)
市場品、晩生(みまき3号)、早生(みまき1号)のセンブリの全草を使用し、上記と同様にセンブリ抽出液を製造し、水/酢酸エチルで分配し、酢酸エチル画分をHPLCを行わずに乾燥させて、乾燥物を上記洗浄バッファーに溶解したものを用いて(濃度600μg/ml)、BDNF受容体結合試験、β-NGF受容体結合試験を行った。
得られた結果を図4(BDNF受容体結合試験)、図5(β-NGF受容体結合試験)に示す。縦軸が抑制率を表す。図4および図5から明らかなように、晩生のセンブリから得られた抽出物の結合阻害効果が最も高かった。
【0054】
上記のように、本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、ニューロトロフィンと受容体の結合を阻害することができる。本発明のニューロトロフィン受容体結合阻害剤は、その受容体結合阻害作用を利用して、上記したような疾病の治療、予防剤の他に、例えば、かゆみ抑制剤や局所的な鎮痛剤として利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 被検試料液
2 ニューロトロフィン
3 ニューロトロフィン受容体
4 ELISA用プレート
5 ビオチン
6 抗ニューロトロフィン抗体
7 ニューロトロフィンが結合した受容体
8 アビジン又はストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ
9 発色スポット
10 ELISA用プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センブリの抽出物を有効成分とすることを特徴とするニューロトロフィン受容体結合阻害剤。
【請求項2】
β-NGFとp75NTRとの結合を阻害する請求項1記載のニューロトロフィン受容体結合阻害剤。
【請求項3】
BDNFとTrkBとの結合を阻害する請求項1記載のニューロトロフィン受容体結合阻害剤。
【請求項4】
育毛剤以外に用いられる請求項1〜3のいずれか一項記載のニューロトロフィン受容体結合阻害剤。
【請求項5】
前記センブリの抽出物がエチルアルコール抽出物である請求項1〜4のいずれか一項記載のニューロトロフィン受容体結合阻害剤。
【請求項6】
ニューロトロフィン受容体が表面上に固定されたELISA用プレートに対して、被検試料液を接触させる工程と、
前記ELISA用プレートに対して、ビオチンが結合した抗ニューロトロフィン抗体を接触させる工程と、
前記ELISA用プレートに対して、アビジン又はストレプトアビジンが結合したペルオキシダーゼを接触させる工程と、
前記ELISA用プレートに対して、発色用基質を接触させる工程とを、
含むことを特徴とする、ニューロトロフィン受容体結合活性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−40121(P2013−40121A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177309(P2011−177309)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(308040638)株式会社バスクリン (12)
【Fターム(参考)】