説明

ニューロピリン−1阻害剤

本発明は血管新生および癌治療の過程においてニューロピリン-1の機能に干渉する分子に関する。本発明は血管新生、腫瘍への血管の侵入、または特定腫瘍細胞の転移可能性を低減、阻害ないし治療するために有効な分子、ポリペプチド、抗体、組成物および方法を提供し、更にニューロピリン-1の機能に干渉する分子を識別する方法を提供する。更に本発明は自然発生的腫瘍細胞の浸潤性または転移可能性が機能性ニューロピリン-1に依存するかどうかを決定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管新生および癌治療の過程においてニューロピリン-1の機能に干渉する分子に関する。本発明は血管新生、腫瘍への血管の侵入、または特定腫瘍細胞の転移可能性を低減、阻害ないし治療するために有効な分子、ポリペプチド、抗体、組成物および方法を提供し、更にニューロピリン-1の機能に干渉する分子を識別する方法を提供する。更に本発明は自然発生的腫瘍細胞の浸潤性または転移可能性が機能性ニューロピリン-1に依存するかどうかを決定する方法を提供する。
【0002】
発明の背景
悪性腫瘍は、新しい組織に移動し二次的な腫瘍を形成する細胞を放出する。この二次的腫瘍形成の過程は転移と呼ばれ、一次的腫瘍から離れた場所に腫瘍細胞が集積する複雑な過程である。最近行われている、転移に関係する蛋白質を特定するための研究は、診断ないし治療計画をより有効なものとするための基礎となり得る。転移の過程には、細胞間または細胞とマトリックスの接着を媒介する細胞接着分子 (CAM) が関与しているとの説が提唱されている。正常細胞の接着においては多数の細胞表面蛋白質が相互作用する。この相互作用には、細胞を囲む物質(たとえばフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなどの細胞外マトリックス分子)と細胞外接着受容体との相互作用が含まれることが知られている。また細胞接着分子は更に複雑な機能を果たしており、その結果細胞が増殖し宿主組織を侵す能力を獲得する場合があることが明らかになりつつある。
【0003】
Liotta (1986) Cancer Res. 46, 1-7 は転移の過程に関して3段階仮説を提唱した。第1段階では腫瘍細胞が細胞表面受容体を介して付着し、次にこの付着した腫瘍細胞が加水分解酵素を分泌するか、または宿主細胞に加水分解酵素を分泌させ、これによってマトリックスが局所的に分解される。マトリックスの分解は、腫瘍細胞表面に近い極めて局在化した領域で最も起こりやすいものと思われる。第3段階では蛋白質分解で変質したマトリックスの部分に腫瘍細胞が移動する。したがってマトリックスへの浸潤は単に成長圧力によって受動的に起こるのではなく、能動的な生化学的機構を必要とする。周囲の正常な組織の分解は悪性腫瘍の浸潤性の中心的な特徴である。
【0004】
腫瘍の成長または転移は、急速に分裂し三次元的に拡張して新しい組織塊を形成する、未分化細胞の成長の過程として記述することもできる。この組織塊内の細胞は酸素と栄養素を要求する。腫瘍が成長するに従って、内部の細胞の多くは直近の血管からの距離が遠くなり、適切な酸素濃度を維持できなくなる。酸素濃度の減少(低酸素と呼ばれる条件の出現)によって、ある種の遺伝子が活性化されるが、その一つである低酸素誘導因子 1 (HIF-1) は血管内皮成長因子 (VEGF) 遺伝子と結合し、VEGF 遺伝子の発現の活性化を助ける。腫瘍細胞内の VEGF を活性化する因子は低酸素状態以外にも存在する。たとえばある種のホルモンや成長因子が VEGF の発現を活性化することが示されており、またある種の腫瘍遺伝子の活性化ないしある種の腫瘍抑制遺伝子の不活化によって VEGF 遺伝子が発現する可能性を示唆する研究も存在する。
【0005】
VEGF 蛋白質は腫瘍細胞から分泌され、血管内皮細胞上の VEGF 受容体を活性化する。これらの細胞は腫瘍内に新しい血管を形成し始め、これによって腫瘍細胞の成長に必要な酸素と栄養素が供給される。
【0006】
このように既存の血管系から新たな血管が成長する過程を血管新生と呼び、一般にあらゆる組織の成長において起こる現象である。
【0007】
ここでは血管新生には更に新しい血管の増殖をも含むものとする。この増殖は内皮細胞の増殖や移動に依存し、発達・成長の特定の時点、たとえば胚の発生や傷の治癒の過程において起こる (Folkman et al. (1987) Sicence 235, 442-447; Folkman (1991) J. Natl. Cancer Inst. 82, 4-6)。
【0008】
更に血管新生が新しい血管の成長に依存する障害の病因となっていることも示されており、今の場合に関係が深いのは腫瘍の成長および転移の成長である (Hanahan et al. (1996) Cell 86, 353-364)。
【0009】
血管内皮成長因子 (VEGF) は生理的・病理的いずれの血管新生に対しても主要な制御因子であると考えられ、内皮細胞上の VEGF 受容体を通じて作用し、血管新生信号を媒介する (Dvorak et al. (1999) Curr. Top. Microbiol. Immunol. 237, 97-132; Neufeld et al. (1999) FASEB J. 13, 9-22)。
【0010】
血管新生は本質的に内皮細胞の成長と新しい血管の形成を刺激する血管内皮細胞成長因子の発現に依存する。これらの蛋白質は6種(VEGF A〜E および PIGF)を含むが、そのうち VEGF-A が血管新生に関して最も重要である。VEGF-A には7つのスプライスバリアントが知られており、そのうち6つが血管新生促進的である。VEGF の各アイソフォームは9つのエクソンを含む単一の遺伝子の異なったスプライシングによって形成される (Ferrara et al., Endocr. Rev. 13: 18-32 (1992); Tischer et al., J. Biol. Chem. 806: 11947-11954 (1991); Ferrara et al., Trends Cardio. Med. 3: 244-250 (1993); Polterak et al., J. Biol. Chem. 272: 7151-7158 (1997))。ヒト VGEF のアイソフォームはアミノ酸数がそれぞれ 121, 145, 165, 189, 206 のモノマーから成り、各々が活性ホモダイマーを形成し得る (Polterak et al., J. Biol. Chem. 272: 7151-7158 (1997); Houck et al., Mol. Endocrinol. 8: 1806-1814 (1991))。最も存在量が多いのは VEGF121 および VEGF165 アイソフォームである。
【0011】
前述したように VEGF は VEGF 受容体を特異的に刺激することによって VEGF 受容体チロシンキナーゼ KDR/Flk-1 または Flt-1 を誘導する。これらは多くの場合内皮細胞 (EC) によって発現される (Terman et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 187: 1579-1586 (1992); Shibya et al., Oncogene 5: 519-524 (1990); De Vries et al., Science 265: 989-991 (1992); Gitay-Goran et al., J. Biol. Chem. 287: 6003-6096 (1992); Jakerman et al., J. Clin. Invest. 89: 244-253 (1992))。
【0012】
VEGF の分裂促進性、走化性、形態的変化の誘発などの活性は KDR/Flk-1 によって媒介されるらしく思われるが Flk-1 によっては媒介されない(両受容体とも VEGF の結合によってホスホリル化されるにも拘らず)(Millauer et al., Cell 72: 835-846 (1993); Waltenberger et al., J. Biol. Chem. 269: 26988-26995 (1994); Seetharam et al., Oncogene 10: 135-147; Yoshida et al., Growth Factors 7: 131-138 (1996))。最近 Soker らは新しい VEGF 受容体を見出した。これは EC および各種の腫瘍由来細胞、たとえば乳癌由来の MDA-MB-231 (23 1) 細胞で発現する (Soker et al., J. Biol. Chem. 271: 5761-5767 (1996))。
【0013】
この受容体は VEGF アイソフォームがエクソン 7 でコードされる部分を含むことを要求する。たとえば VEGF121 も VEGF165 も KDR/Flk-1 と Flt-1 の両者に結合するが、新しい受容体に結合するのは VEGF165 のみである。
【0014】
したがってこの新しい受容体はアイソフォームに対して特異的な受容体と考えられ、VEGF165 受容体 (VEGF165R) と名づけられている。189 および 206 アイソフォームも結合する。VEGF165R の分子量は約 130 kDa であり、Kd が約 2×10-10 M の VEGF165 と結合する。これに対して KDR/Flk-1 の場合は約 5×10-12 M である。構造機能解析によって、VEGF165 がエクソン 7 によりコードされた部分(VEGF121には存在しない)を介して VEGF165R に結合することが直接に証明された (Soker et al., J. Biol. Chem. 271, 5761-5767)。
【0015】
VEGF165 に関連する DNA の単離により、この新しい VEGF 受容体は Flt-1 あるいは KDR/Flk-1 と構造的に無関係であり、また内皮細胞に限らず他の細胞、たとえば腫瘍細胞においても発現することが見出されている。
【0016】
さらに VEGF165R の機能の研究において、この受容体は細胞表面において神経細胞ガイダンスを媒介するものとして同定されており、ニューロピリンと呼ばれるものであることが判明した (Kolodkin et al., Cell 90: 753-762 (1997))。
【0017】
ニューロピリン-1は分子量約 130 kDa の膜貫通性糖蛋白質であり、多機能性である。Fujisawa et al., Cur. Opin. Neurobiol. 8: 587-592 (1998) によれば、ニューロピリン-1は神経細胞ガイダンスを媒介するセマフォリン/コラプシンファミリーの受容体として働く。更にニューロピリン-1の内皮細胞における発現により、VEGF165 の VEGFR-2 への結合、および VEGF165 に誘起される走化性が強化される。Gagnon et al. および WO 99/29729 によれば、ニューロピリン-1は VEGFR-2 の活性を増強する共受容体として働く (Gagnon et al., PNAS 97: 2573-2578 (2000))。
【0018】
ニューロピリン-1はある種の外胚葉起源の腫瘍細胞、たとえば前立腺や乳房の腫瘍、あるいは黒色腫由来の細胞にも発現する。乳癌細胞を用いた実験において、VEGF165 は乳癌細胞の自動運動性を刺激した (WO 99/29729)。ラットの前立腺腫瘍細胞 AT2.1 と AT3.1 の2種の比較から、運動性の高い AT3.1 細胞の方が運動性の低い AT2.1 より多くのニューロフィリン-1 を発現させることが示された。ニューロフィリン-1 のリガンドの一つであるコラプシン-1 は、ニューロピリン-1の過剰発現のためにブタ大動脈内皮細胞(PAE 細胞)にニューロピリン-1 cDNAをトランスフェクトしたとき、細胞の基本的移動を阻害する。これらの現象すべては、WO 99/29729 の発明者によって、ニューロピリン-1の発現が腫瘍細胞の運動性表現型に関連することを示唆するものと解釈されている。しかし蛋白質が過剰発現している実験に基づいてその生理学的役割を推断することは危険であり、過剰発現の結果の解釈に慎重を要することは斯界の常識である。
【0019】
WO 99/29729 および Soker et al., Cell 92: 735-745 (1998) に論じられているように、ニューロピリン-1は生理的および病理的血管新生において、VEGF165 が VEGFR-2 の効果を媒介する際にその共受容体として働くことができる。VEGFR-2 が発現するのは内皮および造血前駆体、内皮細胞、発生期の造血幹細胞、臍帯支質のみである(Robinson & Stringer, J. Cell Sci. 114: 853-865 (2001) の総説参照)。ニューロピリン-1の癌に関連する機能が WO 99/29729 などの示唆するように VEGF の信号発生に依存するならば、この機能は VEGF の存在下でニューロピリン-1と VEGFR-2 を共に発現させる組織のみに関連するはずである。しかし VEGFR-2 の発現はいくつかの組織に限られており、VEGFR-2 を発現しない他の組織でニューロピリン-1が癌に関連する何らかの役割を演じているかどうかは明らかでない。WO 99/29729 の発明者は VEGF165 が量に依存して 231 乳癌細胞の自動運動性を刺激することから、VEGF 受容体 KDR または Flt-1 を発現させない組織もニューロピリン-1を介して VEGF165 に応答すると推論している。
【0020】
ある蛋白質の機能への干渉が疾病治療の手がかりになるかどうかを知るためには、その生理学的役割を決定することが前提となる。生理学的環境、たとえば患者の自然発生的主要細胞内においてニューロピリン-1と共に、その役割を変化させる可能性のある他の蛋白質も過剰発現することは常に念頭に置かなければならない。ニューロピリン-1の生理学的役割は他の蛋白質との相互作用によって定まるのである。
【0021】
以上のことから本発明は、ニューロピリン-1と結合してその機能を変化させる、したがってニューロピリン-1の機能の特性づけに利用できるのみならず、治療の場において積極的にニューロピリン-1の機能に干渉してこれを変化させるために使用できるような、他の分子を発見し提供することを目的としてなされたものである。
【0022】
発明の概要
内皮細胞の血管新生、および腫瘍細胞の侵入ないし接着を阻害する分子を探索する偏りのないスクリーニングにおいて、意外にもあるポリペプチド、特にニューロピリン-1の細胞外領域に結合する抗体断片がそのような阻害剤として見出された。
【0023】
本発明はニューロピリン-1の細胞外領域に特異的に結合しニューロピリン-1の機能を阻害する、ポリペプチド、抗体、抗体断片、単鎖抗体 (scFv) あるいはバイオコンジュゲートなどのニューロピリン結合剤に関する。
【0024】
ある実施例においては、このニューロピリン結合剤 (NPB) は更に、ニューロピリン関連の機能を改変または抑止し得るが、VEGF とニューロピリン-1との相互作用には干渉し得ないことを特徴とする。
【0025】
本発明のニューロピリン結合剤は SEQ ID No: 1, 2, 5〜38 の配列から選択することができる。
更に本発明のニューロピリン結合剤は必要に応じて検出可能なグループによって標識することができる。
【0026】
本発明は更に、前記ニューロピリン結合剤を含む医薬品組成物または本発明によるニューロピリン結合剤を含むバイオコンジュゲートに関する。
【0027】
本発明は一つの実施例において、本発明のニューロピリン結合剤をコードする核酸分子、そのような核酸を含むベクター、およびそのようなベクターを含む宿主細胞に関する。
【0028】
他の実施例においては、本発明は浸潤性あるいは転移可能性がニューロピリン-1の機能に依存するような自然発生的な、たとえば中胚葉由来の癌細胞の浸潤または転移を治療または予防する医薬品を製造するためのニューロピリン-1阻害性を有する分子としてのニューロピリン結合剤の使用に関する。
【0029】
本発明は他の実施例において、浸潤性あるいは転移可能性がニューロピリン-1の機能に依存するような癌細胞の、患者体内における浸潤あるいは転移を治療または予防する方法に関する。
【0030】
本発明は更に他の実施例において、ニューロピリン-1と VEGF165 との相互作用への干渉または阻害作用を持たない本発明のニューロピリン結合剤の、特に腫瘍に関連するニューロピリン-1依存性血管新生および非生理学的血管成長を治療または予防するための医薬品としての使用、または本発明のニューロピリン結合剤の医薬品製造への利用に関する。
【0031】
本発明は他の実施例において、自然発生的癌細胞の浸潤性および/または接着性のニューロピリン-1の機能への依存性を決定する方法に関する。
【0032】
本発明は他の実施例において、自然発生的癌細胞の浸潤性および/または接着性を阻害するために有効なリガンド、特にニューロピリン-1の細胞外領域に結合するリガンドを同定する方法に関する。
【0033】
本発明は更に他の実施例において、内皮細胞の血管新生を阻害するために有効なリガンド、特にニューロピリン-1の細胞外領域に結合するリガンドを同定する方法に関する。
【0034】
本発明の詳細な説明
本発明が示すとおり、本発明の分子を使用することにより、ニューロピリン-1依存性の血管新生、浸潤、または接着を阻害することができる。ヒト肉腫細胞の一種である HT1080 細胞への VEGF165 による刺激は、意外にも細胞の浸潤性には影響しないことが見出された。HUVEC 細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞)が VEGF165 で刺激されるのに対して、腫瘍細胞(HT1080 などの)の浸潤性を刺激するには FCS の存在が必須である。
【0035】
更に、本発明の分子のいくつかは、血管新生の研究に利用される試験法である HUVEC 細胞による管形成を阻害することが見出されている。本発明によって初めて、血管新生を阻害するある種のニューロピリン結合剤 (NPBs) が ニューロピリン-1/VEGF165 の相互作用に対して干渉も阻害もしないことが示された。更にこれらのニューロピリン結合剤が VEGF165 と異なったニューロピリン-1の抗原決定基と結合することも示された。
【0036】
この結果は、ニューロピリン-1が転移癌細胞の浸潤あるいは接着に対する活性な媒介物として作用し、更には血管新生の機能を有することを示すもので、ニューロピリン結合剤がニューロピリン-1/VEGF165 相互作用に対して干渉も阻止もしないのはこのためである。このことから、腫瘍細胞、特に現行の抗癌剤ではほとんど治癒不可能な転移肉腫の転移を阻害し得る医薬品の開発の可能性が初めて開かれた。なぜなら、転移の可能性を左右する血管新生、浸潤、及び/又は接着がニューロピリン-1に影響されるからである。
【0037】
ここに述べる本発明が十分に理解されるため、以下に詳細な説明および定義を記載する。本発明においては特に断らない限り下記の定義を適用する。
【0038】
本発明に言う「ポリペプチド」とは、アミノ酸10個以上、好ましくは20個以上、更に好ましくは30個以上、かつ10000個以下、好ましくは2500個以下、更に好ましくは1000個以下から成る分子である。実質的なアミノ酸配列を有するポリペプチド、修飾または非天然アミノ酸を含むポリペプチドも含まれる。
【0039】
本発明における用語法においては、一般に抗体、抗体断片、単鎖抗体 (scFv) も含めてポリペプチドと称する。
【0040】
本発明に言う「抗体」および「免疫グロブリン」とは、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を含めすべての免疫的結合体を指す。抗体は重鎖の定常部の種類によって IgA, IgD, IgE, IgG, IgM の5種に大別される。そのうちのあるものは更に IgG1, IgG2, IgG3, IgG4 等々のサブクラス(アイソタイプ)に細分される。上記各種の免疫グロブリンの重鎖の定常部はそれぞれ a, d, e, g, m と名づけられる。各種免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元配列は周知である。
【0041】
抗体はまた修飾された免疫グロブリン、たとえば化学的に、あるいは遺伝子組み替えにより製造された抗体、CDR(相補性決定領域)を融合した抗体またはヒト化抗体、CDR 領域、特に CDR3 領域に、これに対応する本発明の抗体断片と実質的なアミノ酸配列を持ち、それら抗体断片と実質的に等しいニューロピリン-1結合の親和性を有する部位特異的突然変異抗体などから選ぶこともできる。
【0042】
抗体の CDR(相補性決定領域)は、抗体の特異性を決定すると共に特定のリガンドと接触する部分である。CDRは分子内で最も可変性を持つ部分であり、これら分子の多様性に寄与している。ヒト IgG の CDR は軽鎖のアミノ酸 24〜41 (CDR-L1)、50〜57 (CDR-L2)、90〜101 (CR-L3)、および重鎖のアミノ酸 26〜38 (CDR-H2)、51〜70 (CDR-H2)、100〜125 (CDR-H3) として構造的に定義される (Kabat et al. (1987), 4th ed. US Department of Health and Human Services, Public Health Service, NIH, Bethesda を参照)。抗体断片の CDR は当業者に周知の方法により前記ヒト IgG とのアラインメントをとることで容易に決定することができる。たとえば NCBI の Blast プログラムを用い、2つの配列のアラインメントをとり、ヒト IgG の CDR に対応する抗体断片のアミノ酸配列を求める。
【0043】
ここで言う実質的なアミノ酸配列が同一とは、2つのアミノ酸配列、特にアラインメントされた CDR のアミノ酸の70%以上、好ましくは75%, 80%, 85%, 90% 以上が同一、更に好ましくは異なるアミノ酸が5個以内、より一層好ましくは3個以内、最も好ましくは1個のみであることを意味する。
【0044】
本発明に言う「抗体断片」とは、抗体様分子の断片で抗原結合領域を有するものを指し、scFv, dsFv, Fab', Fab, F(ab)2, Fv, 単一領域抗体 (DAB)、二重特異性抗体などの抗体断片を含む。各種の抗体由来構成体および断片の調製法・使用法は当業者に周知であり、 (Kabat et al., J. Immunol. 147: 1709-19 (1991) を参照)参照として、特別にここに組み込まれている。
【0045】
「scFv」抗体断片はポリペプチド単鎖に存在する VH および VL 領域を含み、また一般に VH 領域と VL 領域とを結合するポリペプチドリンカーを具え、抗原結合のために望ましい構造を形成することができる。
【0046】
「Fv」断片は完全な抗原結合部位を持つ最小の抗体断片である。
【0047】
「dsFv」 はジスルフィドで安定化された Fv である。
【0048】
「Fab」断片は、重鎖である VH および CH1 ドメインで軽鎖と対をなす抗原結合断片である。
【0049】
「Fab」断片は縮約された F(ab')2 断片である。
【0050】
「F(ab')2」断片は2つの Fab 断片がヒンジ領域でジスルフィド橋により結合された構造を持つ二価の断片である。
【0051】
「単一領域抗体」(DAB) は、抗体構造の一方の領域に由来する、(2本でなく)1本の蛋白質鎖から成る抗体である。これはある種の抗体において分子の半分が分子全体とほとんど同様に標的抗原に結合するという知見 (Davies et al., Protein Eng. 9: 531-537 (1996))を利用したものである。
【0052】
「二重特異性抗体」は二価または二重特異性の抗体であって、VH 領域と VL 領域がポリペプチド単鎖上にあるが、その間のリンカーが短いため各領域が他の鎖の相補的部分と対を作らざるを得ず、その結果2つの抗原結合部位を持つものである (Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448)。
【0053】
「標識」は検出可能なマーカーまたはその分子内への組み込み、たとえば蛍光性、発色性若しくは放射性標識アミノ酸の組み込み、または蛍光性、発色性若しくは放射性標識のポリペプチドとの結合、あるいは光学的方法または測色法で検出し得る蛍光性マーカーまたは酵素活性部位を含む第二の標識分子によって検出可能な成分の結合などを指す。最後に挙げた二段階検出法の例としてはビオチン・アビジン系がよく知られている。ポリペプチドや糖蛋白質の種々の標識方法は当業者には周知であり、いずれも利用することができる(たとえば Lobl et al., Anal. Biochem. 170: 502-511 (1988) を参照)。
【0054】
「抗原決定基」は、免疫グロブリンまたは抗体断片と特異的に結合し得る、蛋白質のすべての決定基を含む。抗原決定基は通常化学的に活性な表面分子群、たとえば露出アミノ酸、アミノ糖またはその他の炭水化物側鎖であり、多くは固有の三次元構造特性および電荷を有する。
【0055】
本発明に言う「自然発生的癌細胞」とは、トランスフェクション、形質導入その他の実験的方法で遺伝子組み替えを行ったものでない細胞を指す。そのような細胞はベクターなどの人工的 DNA 配列や、通常その細胞の由来する種には天然に見られず他の種のみに存在する DNA 配列を含まない。ただし自然発生的癌細胞も、それが由来する個体に突然変異と選択の過程によって、あるいは継代培養の結果として、本来その種には見られない配列を含むことはあり得る。
【0056】
本発明において用いる癌細胞の種類としては、中胚葉由来の腫瘍細胞、好ましくは軟質組織腫瘍および肉腫、線維腫性新生物、粘液腫性新生物、脂肪腫性新生物、筋腫、複合混合および支質新生物、滑膜様新生物、中皮新生物、リンパ管腫瘍、骨および軟骨新生物、巨細胞腫、各種骨腫瘍、歯原性腫瘍、Hodgkin および非 Hodgkin リンパ腫、形質細胞腫瘍、マスト細胞腫瘍、免疫増殖疾患、および白血病から成る新生物群に由来する腫瘍細胞、特に軟質組織腫瘍および肉腫、線維腫性新生物、粘液腫性新生物、脂肪腫性新生物、筋腫、複合混合および支質新生物、滑膜様新生物、中皮新生物、リンパ管腫瘍、骨および軟骨新生物、巨細胞腫、各種骨腫瘍、歯原性腫瘍から成る新生物群に由来する腫瘍細胞、特に肉腫、特に骨または軟質組織に由来する腫瘍細胞である。新生物はまた脳、中枢神経形、肺、胃、大腸、結腸、肝臓、腎臓、前立腺、膵臓に由来するものでもよい。
【0057】
1つの実施例においては、肉腫は脈管腫および血管腫を除いていかなるものであってもよい。
【0058】
本発明に言う「転移腫瘍の治療」または「微小転移の治療」とは、本発明の分子を単独の薬物として使用し、あるいは他の薬物と併用することにより、腫瘍の転移が安定化、防止、遅延、または阻害されることを指す。少なくとも4週間にわたって転移に変化がないか、減少が 50% 以内または増大が 25% 以内であるとき、症状は「変化なし」(NC) とされる。防止とはたとえば治療開始後に新しい転移が観察されないことである。これにより治療を受けた患者の生存期間中央値及び/又は生存率は、治療を受けない患者の2〜3倍に達することがある。遅延は治療開始後8週間、3ヶ月、6ヶ月あるいは1年間にわたって新しい転移が観察されないことである。阻害とは、本発明の分子による治療を受けた患者における新しい転移の平均寸法または総数が治療を受けない患者のそれに比べて少なくとも 30%, 40%, 50%, 60%, 70%, 80% あるいは 90% 低いことを意味する。転移の数、大きさ、および分布は、腫瘍学に通じた者により、転移の検出のための一般的な方法あるいは診断手順により知ることができる。そのような方法はたとえば Harrison's Principles of Internal Medicine, 15th ed., 2001, McGraw-Hill に記載されている。
【0059】
本発明に言う「転移腫瘍」とは、原発部位にある転移可能な腫瘍と、二次的部位に転移した腫瘍との両方を含む。そのような転移腫瘍は、脳、中枢神経系、肺、胃、大腸、肝臓、腎臓、膵臓などあらゆる器官または組織、特に骨、脾臓、甲状腺、子宮内膜、卵巣、類リンパ組織などの中皮由来の組織に発生し得る。
【0060】
微小転移とは寸法 2 mm 以下の腫瘍細胞の集積をいい、通常は組織学的方法によってのみ検出される。
【0061】
本発明に言う「血管新生」とは、内皮細胞が管を形成し、終極的には複雑な血管系を形成する能力を指す。細胞の血管新生能力あるいは血管新生阻害能力は、たとえば実施例16に記載のいわゆる管形成試験により評価することができる。血管新生の阻害は細胞が閉じた多角形を形成する、あるいは形成しない能力、および細胞の凝集状態に関連して判定される。実施例16および図14に示すように、細胞の凝集が著しく閉じた多角形が形成されないことは、内皮細胞の管形成に強い相関を示す。
【0062】
本発明に言う「浸潤性」とは、細胞が他の細胞の層を通過して移動する能力、あるいは細胞外マトリックスを通過して移動する能力を指す。浸潤性は実施例8または実施例9に示す Matrigel 試験によって評価することができる。一定時間のインキュベーションの後にフィルタ下面に到達した細胞の数が浸潤性の尺度となり、実施例8または実施例9に示すように、自然発生的癌細胞の40%以上が6〜12時間でフィルタを通過してコロニを形成するとき、この細胞は浸潤性であるとする。これに対して対照細胞は同じ時間内に5%以下のコロニを形成するにすぎず、非浸潤性と判定される。
【0063】
本発明に言う「接着性」とは、細胞が成長したマトリックスを離れて分離した細胞(液中で細胞同士が直接接触しない)として分散状態となり、付着可能なマトリックスに再結合する能力を指す。実施例11または実施例12に示す試験法により、30〜120分の間に40%以上が接着する細胞は接着性と判定される。これに対して対照細胞は同じ時間内に5%以下が接着するにすぎない。
【0064】
本発明に言う「転移可能性」とは、腫瘍細胞が自らの由来する原発腫瘍から離れた部位に新しい腫瘍を形成する(転移)能力を指す。転移可能性はたとえば Huang et al., Oncogene 13, 2339-2347 (1996) の「腫瘍細胞の注射」の項(2346ページ)、または Radinsky et al., Oncogene 9: 1877-1883 (1994) の「動物と腫瘍の発生」および「石灰化マトリックスの組織化学的分析」の項(1882ページ)に記載されているように、たとえば 1×106 個の細胞を無胸腺ヌードマウスの外側尾静脈に注射し、そのたとえば2ヶ月後の腫瘍結節の数を測定することにより評価される。この試験において肺に腫瘍結節が4個以上、好ましくは9個以上、更に好ましくは21個以上形成する細胞株は転移性と判定される。
【0065】
治療的に有効な量とは、患者の腫瘍による負荷を除去あるいは軽減する量、あるいは転移を防止、遅延または阻害する量である。投与量は腫瘍の種類、患者の病歴、患者の身体状況、併用する細胞毒性物質の有無と種類、投与方法など多くの要因に依存する。投与方法の一つは注射(腸管外、皮下、静脈内、腹腔内など)であり、このためにはニューロピリン-1機能阻害性の分子を医薬品として適切な無毒の賦形剤に含ませて使用する。適切な賦形剤および希釈剤としては一般に、結合剤の生物学的活性(結合の特異性、親和性、安定性など)を著しく損なわないもの、たとえば水、食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、ヒト血清アルブミン 5% 溶液、不揮発性油、オレイン酸エチル、リポソームなどが選択される。賦型剤は生体適合性、不活性または生体吸収性の塩、緩衝剤、オリゴ糖または多糖、ポリマ、粘弾性化合物(ヒアルロン酸など)、粘度調節剤、保存剤などを含んでいてもよい。また医薬品組成物は更に他の賦型剤、助剤、あるいは無毒・無薬効で免疫的にも不活性な安定剤などを含んでいてもよい。典型的な用量は約 0.01〜20 mg/kg、特に約 1〜10 mg/kg である。
【0066】
ニューロピリン-1の機能を阻害する分子を用いた治療法は、腫瘍の種類、患者の身体的状況、その他健康上の問題点など各種の要因によっては化学療法、外科治療、放射線治療などと組み合わせて使用することもできる。またニューロピリン-1機能阻害性分子を組成物中の唯一の有効成分とすることもできる。
【0067】
「ニューロピリン-1機能阻害性分子」とは、ニューロピリン-1の生物学的活性を阻害する分子である。活性阻害の評価は、ニューロピリン-1に依存する血管新生、ニューロピリン-1に依存する浸潤、ニューロピリン-1に依存する接着など、ニューロピリン-1の生物学的活性の指標を1つ以上測定することによって行うことができる。これらの指標を測定する in vitro および in vivo 試験法がいくつか存在する(実施例8または9、実施11または12、実施例16を参照)。分子のニューロピリン-1機能阻害能力の評価は、ヒト肉腫細胞、特に実施例8および9、実施例11および12、または実施例19に使用される細胞の、ニューロピリン-1により誘導される浸潤または接着の阻害によって評価することが好ましい。分子のニューロピリン-1機能阻害能力の評価は、HUVEC 細胞の、ニューロピリン-1により誘導される浸潤または接着の阻害によって、特に実施例16の方法により評価することが好ましい。
【0068】
本発明に言う「ニューロピリン-1機能阻害性分子」は、蛋白質機能全般の阻害剤、たとえばプロテアーゼ、変性剤(尿素、塩酸グアニジニウムなど)、重金属原子、あるいは生体分子(脂質、蛋白質、糖)と非特異的に共有結合的に反応する低分子(アルデヒドやイソシアナートなど)ではない。ニューロピリン-1機能阻害性分子の特徴は、インスリン受容体の機能(たとえば抗ホスホチロシンウェスタンブロット法で測定される、B. Cariou et al., J. Biol.Chem. 277: 4845-52 (2002) を参照)、アセチルコリン受容体の機能(たとえばカルシウム流入の測定により決定される、M. Montiel et al., Biochem. Pharmacol. 63: 337-42 (2001) を参照)、B-CAM 細胞表面の糖蛋白質(たとえばヘモグロビン A 赤血球 (AA RBC) の固定化ラミニンへの結合により測定される、Udani et al., J. Clin. Invest. 101: 2550-2558 (1998) の「フローチャンバー試験」の項(2551ページ)を参照)を阻害しない濃度において、ニューロピリン-1の機能を阻害し得ることである。ニューロピリン-1の機能を阻害すると共に、同じ濃度で上記3種の受容体の機能に著しい影響を及ぼさない分子のみが、本発明で用いるニューロピリン-1機能阻害性分子である。阻害とは、前記の浸潤性または接着性試験法においてニューロピリン-1の機能として定義された機能が、本発明の分子を含まないこと以外には同一の実験条件における陰性対照分子と比較して、少なくとも15%、好ましくは20%、更に好ましくは25%, 30%, 40%, 50%, 更には60%減少することを意味する。前記他の3種の受容体の機能への影響が10%未満、好ましくは5%未満であるとき、その分子はこれら受容体の機能に顕著な影響を及ぼさないと判定される。
【0069】
更に、ニューロピリン-1の発現を阻害する本発明の分子の場合、b チューブリン10 nM〜100 mM、好ましくは約 1 mM の存在下で、2つの同一試料の一方で本発明の分子がニューロピリン-1の発現を阻害するようにして、存在する b チューブリンの量に対して規格化した定量的ウェスタンブロット法により、両試料中のニューロピリン-1の量を比較したとき、ニューロピリン-1の発現は50%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上阻害される。同じ実験において本発明による分子は、細胞1個あたりの b チューブリンの量を 20% 以上減少させることはなく、またインスリン受容体および B-CAM 細胞表面の糖蛋白質も 20% 以上減少させることはない。
【0070】
更に、本発明によるポリペプチド、特に本発明による抗体または抗体断片の場合、実施例8または9、あるいは実施例11または12に示した実験において、濃度 1 nM〜50 mM、好ましくは約 20 mM において、自然発生的な浸潤性癌細胞の浸潤性及び/又は接着性を減少させ、前記定義によるニューロピリン-1の機能の減少が15%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは25%、30%、40%、50%、更には60%であるとき、ニューロピリン-1の生物学的活性を阻害するものと判定される。
【0071】
更に、本発明による低分子化合物の場合、実施例8または9、あるいは実施例11または12に示した実験において、濃度 10 nM〜100 mM、好ましくは約 1 mM において、自然発生的な浸潤性癌細胞の浸潤性及び/又は接着性を減少させ、前記定義によるニューロピリン-1の機能の減少が15%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは25%、30%、40%、50%、更には60%であり、かつ細胞の形状、細胞周期の進行(ヨウ素酸プロピジウム染色および FACS 分析により細胞集団の DNA 含有量を分析して決定される)に影響を及ぼさず、アポトーシスの徴候を示す細胞数(いわゆるトンネル試験法などにより DNA の断片化を示す細胞の比率を測定して決定される)を増加させないとき、ニューロピリン-1の生物学的活性を阻害するものと判定される。本発明に言う低分子化合物とは、分子量 50〜10000 Da、好ましくは 100〜4000 Da、更に好ましくは150〜2000 Da の分子、または生理学的に許容されるその塩である。
【0072】
本発明に言う「同定」とは、所望の性質を有する生体分子を、これと関連するが異なる、僅かに異なった性質を持つ生体分子の混合物内において識別することを意味する。
【0073】
本発明に言う「リガンド」とは、増幅可能なリガンド表示ユニット (ALDU) で表示可能な分子である。リガンドは ALDU の一部であって、これを介して ALDU が標的に結合する。リガンドは好ましくは上に定義した意味でのポリペプチド、RNA オリゴヌクレオチド、DNA オリゴヌクレオチド(すなわち20個を超え10000個未満、好ましくは1000個未満の塩基単位からなるヌクレオチド)である。リガンドは抗原の細胞外領域に結合することができるが、ある抗原に対しては親和性が高く、関連の低い抗原に対してはそれより低い(たとえば1/10、1/50または1/200)親和性を示すという形で特異性を持つことがある。関連の低い抗原とは、細胞外領域におけるアミノ酸のうち同一のものが30%以下であるものをいう。
【0074】
本発明に言う「ニューロピリン-1に特異的に結合する」リガンドとは、たとえば実施例2および3に述べる緩衝条件においてニューロピリン-1に結合するリガンドである。
リガンドとニューロピリン-1の解離定数を、たとえばいわゆる BIACORE システムを用いて測定することができ(たとえば Fivash et al., Curr. Opin. Biotechnol. 9: 97-101 (1998) を参照)、この場合「特異的に結合する」とは、標準状態、たとえば 20°C、常圧、適切な緩衝液中(たとえば Tris 20 mM、NaCl 100 mM、EDTA 0.1 mM、総 pH 7.0)で測定したリガンドとニューロピリン-1との解離定数が 10 mM 未満、好ましくは 1 mM 未満、更に好ましくは 500, 400, 300, 200, 100, 50, 20 nM 未満、最も好ましくは 0.1〜20 nM であることを意味する。更に、ニューロピリン類の一つでありニューロピリン-1と 47% の相同性を持つニューロピリン-2 には、この分子は結合せず、リガンドとニューロピリン-2 との解離定数は 100 mM 以上、好ましくは 1 mM 以上、あるいはニューロピリン-1との解離定数の 1/50 以下、好ましくは 1/200, 1/1000, あるいは 1/5000 以下である。
【0075】
本発明に言う「少なくとも1つ」は「1つまたは2つ以上」、すなわち 1、2、3、4、5個等々を意味する。
【0076】
本発明はニューロピリン-1の細胞外領域に特異的に結合して、血管新生、浸潤または転移におけるニューロピリン-1の機能を阻害し得るポリペプチド、抗体、抗体断片または単鎖抗体に関する。本発明においては、そのようなポリペプチド、抗体、抗体断片または単鎖抗体を一般に「ニューロピリン結合体 (NPB)」と総称する。これらニューロピリン結合剤は SEQ ID NO. 1 と SEQ ID NO. 2 から、または SEQ ID NO.5〜SEQ ID NO. 38 からなる群から選ばれた配列を含む。
【0077】
一つの好ましい実施例においては、本発明のポリペプチドは抗体断片、特に scFv, dsFv, Fab', Fab, F(ab')2, Fv, 単一領域抗体断片、単一領域抗体または二重特異性抗体、更に限定的には scFv、dsFv、Fv、単一領域抗体または二重特異性抗体、一層好ましくは scFv 単一領域抗体または二重特異性抗体、更に一層好ましくはscFVである。
【0078】
本発明のポリペプチドは他の好ましい実施例においては抗体、一つの好ましい実施例においては scFv 抗体断片に由来する抗体、他の好ましい実施例においてはポリクローナルまたはモノクローナル抗体、特にヒトモノクローナル抗体である。
【0079】
抗ヒトニューロピリン-1結合性抗体は、CDR 領域、特に CDR3 領域において対応する本発明の抗体断片と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、対応する抗体断片と実質的に同一のニューロピリン-1への親和性を有する修飾免疫グロブリン、たとえば化学的に、あるいは遺伝子組替により製造された抗体またはヒト化抗体、部位特異的突然変異抗体から選択することができる。
【0080】
他の好ましい実施例においては、本発明のポリペプチドは IgA, IgD, IgE, IgG, IgM から成る群、特に IgG および IgM、より特定的には IgG1, IgG2a, IgG2b, IgG3, IgG4 からなる群から選択される。
【0081】
他の好ましい実施例においては、抗体または抗体断片の CDR3 領域は図10に示す CDR3 領域の一つに等しい。
【0082】
本発明の他の好ましい実施例においては、本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体断片または抗体は検出可能な標識を付与される。標識の例としては放射性同位体、発色団、蛍光発生基、酵素などがあり、これらから選択することができる。
【0083】
他の実施例においては、本発明のポリペプチドは共有的または非共有的に他の蛋白質、固体マトリックス(ビーズなど)、自己自身(多量体を形成)、標的細胞への毒性を強化する細胞毒性物質、細胞増殖抑制剤、プロドラッグ、あるいはニューロピリン-1を発現する細胞を修飾または免疫細胞を補充するエフェクター分子と抱合ないし結合することができる。これらの抱合体を本発明では「バイオコンジュゲート」と総称する。
【0084】
細胞毒性物質としては、ダウノルビシン、タキソール、アドリアマイシン、メトトレキセート、5 FU、ビンブラスチン、アクチノマイシン D、エトポシド、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲニステイン、リボソーム阻害剤(トリコサンチンなど)、あるいは各種
細菌毒素(Pseudomonas エキソトキシン、Staphilococcus aureus 蛋白質 A など)の例があるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体断片または抗体と前記細胞毒性成分を含むバイオコンジュゲートは、種々の二機能性蛋白質結合剤を用いて製造することができる。そのような試薬の例としては、3-(2-ピリジルチオ)プロピオン酸 N-サクシンイミジル (SPDP)、アジポイミド酸ジメチル塩酸塩などのイミドエステルの二価誘導体、スベリン酸ジサクシンイミジルなどの活性エステル、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド、ビス(R-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなどのビスアジド化合物、ビス(R-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミンなどのビスジアゾニウム誘導体、トルエン 2,6-ジイソシアナートなどのジイソシアナート類、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼンなどのビス活性化フッ素化合物などが挙げられる。バイオコンジュゲートの製造に有用な方法は March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure, 5th Edition, Wiley-Interscience あるいは Bioconjugate Techniques, ed. Greg Hermanson, Academic Press に詳述されている。
【0086】
本発明によるバイオコンジュゲートまたはポリペプチド、特に本発明による抗体または抗体断片を用いれば、転移に関連するニューロピリン-1抗原の発現を検出することができる。試料は被験者から、たとえば腫瘍の転移の疑いのある患者からの生検試料として取得する。試料は一般に試験実行に先立って前処理する。用い得る試験法としては ELISA, RIA, EIA, ウェスタンブロット分析、免疫組織学的染色法などがある。用いる試験方法に応じて、抗原あるいは抗体を酵素、蛍光発生基、あるいは放射性同位体で標識することができる(たとえば Coligan et al., Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons Inc., New York, New York (1994); Frye et al., Oncogene 4: 1153-1157 (1987) を参照)。
【0087】
このように、本発明の一つの実施例は、ニューロピリン-1の検出のための本発明の少なくとも一つのポリペプチド、少なくとも一つの標識ポリペプチド、少なくとも一つのバイオコンジュゲートの少なくともいずれか一つの使用に関する。たとえば本発明のポリペプチド1種、または本発明の標識ポリペプチド1種、または本発明のバイオコンジュゲート1種をニューロピリン-1の検出に使用することも、あるいは標識ポリペプチド1種とバイオコンジュゲート1種を併用すること、2種または3種のポリペプチドを使用すること、2種の標識ポリペプチドを使用することも可能である。
【0088】
他の実施例においては、本発明は診断キットを含む。そのようなキットは少なくとも1種の本発明のバイオコンジュゲート、少なくとも1種の本発明の標識ポリペプチド、少なくとも1種の本発明のポリペプチド特に抗体断片または抗体またはそれらを標識したものの少なくともいずれかを含み、更に標準的な競争的あるいはサンドイッチ試験を行うために必要な試薬および材料を含む。上記診断キットは生体試料、特にある種の癌細胞のの浸潤性を決定するのに使用することができる。またキットには更に容器が含まれる。
【0089】
本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体断片または抗体を用いて、抗イディオタイプ抗体を製造し、これを用いて抗体をスクリーニングし本発明によるヒトモノクローナル抗体と同等の結合特異性を持つかどうかを判定することができる。また能動的免疫のために使用することもできる (Herlyn et al., Science 232: 100 (1986))。このような抗イディオタイプ抗体は周知のハイブリドーマ法により製造することができる (Kohler et al., Nature 256: 495 (1975))。抗イディオタイプ抗体は、特定の抗体上の固有な決定基を認識する抗体である。これらの決定基は抗体の超可変部に存在する。与えられた抗原決定基に結合し、したがって抗体の特異性を決定するのはこの領域である。抗イディオタイプ抗体は、問題とするポリペプチド、特に抗体断片または抗体で動物を免疫化することにより調製できる。免疫化された動物は用いられた抗体のイディオタイプ決定基を認識・応答して、これらの決定基に対する抗体を産生する。抗イディオタイプ抗体を用いれば、同じ抗原決定基特異性を持つモノクローナル抗体を発現させる他のハイブリドーマを同定することができる。
【0090】
この抗イディオタイプ技術は、抗原決定基と同様な挙動をするモノクローナル抗体の製造に用いることもできる。たとえばあるモノクローナル抗体に対して製造した抗イディオタイプ抗体の超可変部に存在する結合領域は、第一のモノクローナル抗体が結合し得る抗原決定基の「像」である。この抗イディオタイプモノクローナル抗体の結合領域は有効な抗原として働くので免疫化に使用できる。
【0091】
他の実施例においては、本発明による修飾ポリペプチドまたはバイオコンジュゲートはヒトニューロピリン-1に結合して、浸潤性または接着性試験(実施例8または9、実施例11または12を参照)において浸潤性ヒト肉腫の浸潤性または接着性を15〜70%、好ましくは15〜30%、20〜40%、更には50%以上減少させる。
【0092】
他の実施例においては、本発明の抗体断片はニューロピリン-1の抗原決定基、保存されたニューロピリン-1の変異形の抗原決定基、またはニューロピリン-1のペプチド断片を認識する。
【0093】
他の実施例においては、本発明は本発明の分子、特に本発明の低分子化合物、ニューロピリン-1の遺伝子発現を阻害する分子、バイオコンジュゲート、またはポリペプチドから選択された分子の、医薬品としての利用に関する。
【0094】
他の実施例においては、本発明は1種以上、特に1種の本発明の分子、特に少なくとも本発明のバイオコンジュゲートまたはニューロピリン-1の遺伝子発現を阻害する分子1種以上、より限定的には本発明の抗体断片または抗体の有効な量と、薬学的に適切な賦型剤または希釈剤とから成る医薬品組成物に関する。
【0095】
この医薬品組成物は、ヒトニューロピリン-1の過剰発現または転移的発現に関連する症状の治療、特に転移腫瘍の治療、特に12ページに列挙された癌細胞から選ばれた群に由来する転移腫瘍の治療に用いられる。
【0096】
本発明による医薬品組成物は更に腫瘍または転移の治療に用いて、腫瘍に栄養を形成する血管の新生および延長を含まれるニューロピリン結合剤により阻害し、腫瘍を殺すことができる。
【0097】
他の実施例においては本発明は、薬学的に適切な賦型剤と、治療的に有効な量の少なくとも1種のニューロピリン-1機能阻害性分子、特にニューロピリン-1の細胞外領域に結合し得る分子、より限定的には本発明の低分子化合物または修飾ポリペプチドまたはバイオコンジュゲート、更に好ましくは本発明の修飾 scFv または本発明のそのような scFv から誘導された修飾抗体から成る医薬品組成物を提供する。
【0098】
他の実施例においては、本発明はニューロピリン-1に媒介される浸潤または接着の治療、すなわち阻害、遅延または防止に有効な量のニューロピリン-1機能阻害性分子を含む、薬学的に適当な組成物を投与することによる、腫瘍または転移の治療方法に関する。このニューロピリン-1機能阻害性分子は特にはニューロピリン-1の細胞外領域に結合し得る分子であり、この結合はニューロピリン-1に特異的に結合するリガンドを同定する下記の方法により同定することができる。前記分子はより限定的には本発明の低分子化合物または抗体または抗体断片または修飾ポリペプチド、または本発明のバイオコンジュゲートであり、更に限定的には本発明の修飾 scFv または本発明のそのような scFv から誘導された修飾抗体である。転移を治療または予防する前記方法は中皮細胞由来の癌細胞、特に肉腫由来の癌細胞、特に骨または軟組織の肉腫に由来する癌細胞の浸潤または転移を低減または阻止するのに有効である。癌細胞は12ページに列挙された癌細胞群から選ばれたものであってよい。
【0099】
本発明は更に、遺伝子組替法によって本発明のポリペプチドを製造する方法に関する。この技術は当業者には周知である (Skerra et al., Curr. Opin. Immunol. 5: 256-262 (1993); Chadd et al., Curr. Opin. Biotechnol. 12: 188-194 (2001))。
【0100】
たとえば本発明のポリペプチド、特に抗体断片または抗体をコードする核酸配列(たとえば図10の抗体断片またはその抗体をコードする遺伝子)を単離しクローニングして1つ以上のポリヌクレオチド発現ベクターを得、このベクターを適当なホスト細胞に入れて本発明の組み替えポリペプチドを発現させることができる。本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の発現によって、ポリペプチドの収量が増加し、また本発明の抗体断片の結合特異性やニューロピリン-1阻害機能を大きく損なうことなく、可変部にも定常部にも、アミノ酸の置換、除去、追加などの修飾、たとえばヒト化修飾 (Rapley, Mol. Biotechnol. 3* 139-154 (1995)) を加える日常的な手段が提供される (Skerra et al., Curr. Opin. Immunol. 5: 256-262 (1993)。
【0101】
本発明はしたがって、本発明のポリペプチドのいずれか、特に本発明の抗体断片、更に限定的には本発明の scFv, dsFv, Fv, 単一領域抗体または二重特異性抗体、より一層限定的には scFv、単一領域抗体、二重特異性抗体、または本発明の scFv から誘導される抗体、更に好ましくは本発明の scFv または本発明の scFv から誘導される抗体をコードする、前記の単離された核酸配列に関する。
【0102】
1つの好ましい実施例においては、本発明は SEQ ID NO. 1 および SEQ ID NO.2、または SEQ ID NO. 5〜SEQ ID NO. 38 からなる群から選ばれた配列を含む NBP をコードする核酸分子に関する。
【0103】
本発明は更に、本発明の核酸を含むベクターに関する。同ベクターは特にプラスミド、ファージミド、またはコスミドである。
【0104】
たとえば本発明の核酸分子を適当な方法でクローニングして原核または真核発現ベクターを得ることができる (Sambrook et al., "Molecular cloning: a laboratory manual", 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))。このような発現ベクターは少なくとも1つのプロモーター、少なくとも1つの翻訳開始信号、少なくとも1つの本発明の核酸配列、および原核発現ベクターの場合には翻訳停止信号、真核発現ベクターの場合には好ましくは更に転写停止およびポリアデニル化信号を含む。
【0105】
原核発現ベクターの例としては、Escherichia coli で発現するものとして米国特許第4,952,496号に記載されている T7 RNA ポリメラーゼにより認識されるプロモーターに基づく発現ベクター、真核発現ベクターの例としては Saccharomyces cerevisiae で発現するものとして p426Met25 または 526GAL1 ベクター (Mummberg et al., Nucl. Acids Res. 22: 5767-5768 (1994))、昆虫細胞で発現するものとして EP-B1-0 127 839 または EP-B1-0 549 721 に記載されている Baculovirus ベクター、哺乳類細胞で発現するものとして市販の Rc/CMV および Rc/RSV ベクターまたは SV40 ベクターなどがある。
【0106】
これらの発現ベクターを製造する分子生物学的方法、ホスト細胞へのトランスフェクションの方法、トランスフェクトされたホスト細胞の培養方法、そのようにして形質転換されたホスト細胞から本発明のポリペプチドを得る方法はいずれも当業者に周知である。
【0107】
本発明は更に、本発明の核酸または本発明のベクター、特に酵母菌またはその他の菌(Escherichia coli, Bacillus subtilis など)のような微生物をホスト細胞とするベクターに関する。ホスト細胞はまた昆虫細胞、好ましくはウイルスに感染した昆虫細胞、より好ましくは Baculovirus 感染昆虫細胞のような、より高等な真核生物起源のものでもよく、あるいは HeLa、COS、MDCK 293-EBNA1、NS0、またはハイブリドーマ細胞のような哺乳類細胞でもよい。
【0108】
本発明は更に、本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体をコードする DNA を含む組み替えベクターにより形質転換した微生物を培養し、前記本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体断片またはそれを含む融合蛋白質を培地から回収することによる、本発明のポリペプチド、特に本発明の抗体断片の製造方法に関する。
【0109】
ニューロピリン-1の機能を阻害することにより、12ページに列挙した癌細胞群から選ばれた癌細胞の浸潤または接着を阻害し得ること、特にヒト肉腫細胞、リンパ腫細胞、中皮新生物、特にヒト肉腫細胞に由来する癌細胞の浸潤または接着を阻害し得ることが本発明により示される。
【0110】
このようにして本発明の一つの実施例は、浸潤性あるいは転移可能性がニューロピリン-1の機能に依存する自然発生的癌細胞、特に中皮細胞由来の腫瘍細胞または12ページに列挙した癌細胞群から選ばれた癌細胞の浸潤または転移を治療または防止するための医薬品の製造への、ニューロピリン-1機能阻害性分子の少なくとも1つ、特に1つの使用に関する。
【0111】
他の好ましい実施例においては、ニューロピリン-1阻害性分子は発現したニューロピリン-1の機能を阻害する。ここに言う発現したニューロピリン-1とは、何らかの治療を開始する前に自然発生的癌細胞上に既に存在するニューロピリン-1蛋白質を意味する。
【0112】
これらの分子は特に、ニューロピリン-1の細胞外領域に結合する分子である。
【0113】
ニューロピリン-1の細胞外領域は、ニューロピリン-1蛋白質のうち細胞膜外部にある部分と定義され、a1, a2, b1, b2, c の5つの領域から成る。これらのうち細胞の接着に特異的に関与するのは b1 と b2 である。ニューロピリン-1は糖蛋白質であるから、ニューロピリン-1の細胞外領域には前記アミノ酸のみならず修飾糖分子も含まれることに注意しなければならない。
【0114】
この分子はより限定的には、低分子化合物、ニューロピリン-1に対する抗体、ニューロピリン-1に対する抗体断片、本発明のポリペプチド、本発明の抗イディオタイプ抗体または本発明のバイオコンジュゲートからなる群から選ばれ、特に本発明のポリペプチドまたはバイオコンジュゲートである。
【0115】
他の好ましい実施例においては、血管新生、浸潤、接着あるいは転移の可能性がニューロピリン-1の機能に依存する自然発生的癌は、腺肉腫、肉腫、ホジキン(Hodgkin) 病、高度および低度悪性非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、脳の悪性腫瘍、頭部および頚部腫瘍、甲状腺癌、中皮腫、白血病、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝臓原発癌、胆管および胆嚢癌、結腸直腸癌、基底細胞癌、悪性黒色腫、骨肉腫、悪性神経膠腫、ユーイング(Ewing) 癌、軟組織肉腫、カポジ(Kaposi) 肉腫、腎芽細胞腫、神経芽細胞腫、腎臓癌、睾丸癌、前立腺癌、膀胱癌、悪性卵巣腫瘍、子宮内膜癌、副腎腫瘍から成る新生物群、特に悪性組織球腫、脂肪肉腫、線維肉腫、滑膜腫、骨肉腫(傍骨性骨肉腫、骨膜性骨肉腫、小細胞骨肉腫)、軟骨肉腫、ユーイング(Ewing) 肉腫、骨の巨細胞腫瘍、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、黄紋筋肉腫、中皮腫、リンパ管肉腫、粘液肉腫、内皮肉腫、脊索腫、カポジ(Kaposi) 肉腫、リンパ管内皮肉腫から成る新生物群に由来する癌細胞に起因するいずれの癌であってもよい。
【0116】
本発明は更に、投薬可能な標的としてのニューロピリン-1抗体に関する。本発明の他の側面は、高い中和能力を持つヒトニューロピリン-1に結合する抗体断片に関する。
【0117】
本発明の他の実施例においては、少なくとも1種の本発明のポリペプチドまたは本発明のバイオコンジュゲートを、特にスクリーニング試験において、ヒトニューロピリン-1に特異的に結合する他の分子の同定に用いる。この方法では、標準の抗ニューロピリン-1抗体断片を、競合すると考えられる試験用結合剤の存在下でニューロピリン-1領域を含む標的種に接触させる。この接触過程は、試験用結合剤が存在しない場合の標準抗体断片と標的種との複合体形成に有利な条件で行われる。試験用結合剤の存在下での標準抗体断片と標的種との複合体形成が検出されれば、試験用結合剤とニューロピリン-1との特異的結合性が示されたことになる。このスクリーニング法は、更に「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」を同定し特徴づけるために他の抗体ライブラリ、抗体断片ライブラリ、アンチセンスオリゴヌクレオチドのライブラリ、ペプチドおよび低分子化合物のライブラリなどを高効率でスクリーニングするのに有用である。競合反応は、標準抗体断片とニューロピリン-1領域を含む標的種との結合を、前記抗体断片またはその他の試験対象結合剤によって実質的に阻害する試験によって検出することができる。このためにはたとえば、標準抗体断片とニューロピリン-1領域を含む標的種との結合を、競合すると考えられる試験用結合剤、すなわち複合体形成に適した条件で「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」の存在する状態と存在しない状態とで測定すればよい。競争的結合の試験法としては種々のものが知られており、たとえば US 4,376,110 に記載されているように、本発明の枠内において日常的に実行できる。典型的な方法では、ニューロピリン-1領域を含む標的種(精製ニューロピリン-1、ニューロピリン-1を発現させる細胞株など)、標識しない「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」、および標識した標準抗体断片またはその他の結合剤を使用し、「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」の存在下で標的種に結合した標識を定量することにより競争的阻害を測定する。通常は「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」は過剰に存在する。この競合試験により測定される「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」(競争的結合剤)としては、抗体、抗体断片、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子、標準抗体断片の結合する抗原決定基または結合部位に結合するその他の「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」、更に標準抗体断片の結合する抗原決定基に十分近い抗原決定基または結合部位に結合する「ニューロピリン-1に特異的に結合する分子」を含む。本発明の競争的結合剤は、過剰に存在するとき、標準抗体断片のいくつかの標的種への特異的結合を好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、更に好ましくは少なくとも50%、より一層好ましくは少なくとも75〜90%ないしそれ以上減少させる。
【0118】
本発明のポリペプチド、特に本発明の修飾抗体断片または修飾抗体のほか、天然または人工リガンド、ペプチド、アンチセンス、その他ヒトニューロピリン-1を特異的に標的とする低分子化合物も使用することができる。本発明に基づいて、ヒトニューロピリン-1に結合またはその他の形で相互作用し、これを阻害する医薬品を設計することができる。このためには X 線結晶学、コンピュータ支援分子モデリング (CAMM)、定量的または定性的構造活性相関 (QSAR) など医薬品設計のための理論的手段が利用でき、蛋白質またはその特定の部分に結合する分子を予測して、そのような分子は化学合成するか、あるいは生体系で発現させることが可能である。低分子は当業者に周知の有機合成化学的方法で製造することができる。ペプチド、半ペプチド化合物あるいはペプチド以外の有機化合物を多数合成し、これらをスクリーニングして中和能力の大きいニューロピリン-1に結合する化合物、特にニューロピリン-1に関係する浸潤を阻害する化合物を探索することも可能である。一般的記載としては Scott & Smith, "Searching for Peptide Ligands with an Epitope Library", Science 249: 386-390 (1990) および Devlin et al., "Random Peptide libraries: A Source of Specific Protein Binding Molecules", Science 249: 404-407 (1990) を参照されたい。
【0119】
本発明はまた in vitro または in vivo で修飾抗体または修飾抗体断片を用いてヒトニューロピリン-1の活性を阻害あるいは癌細胞、好ましくは肉腫細胞内のヒトニューロピリン-1を検出する方法を提供する。好ましい実施例においては、抗原を発現させる細胞を1種以上の修飾抗体断片で処理することにより、ヒト癌細胞、特にヒト肉腫細胞の浸潤性または接着性を低減または阻害する。
【0120】
腫瘍細胞の組織への移動は転移の重要な段階である。接着・浸潤の過程は経内皮モデルを用いて研究することができる (Woodward et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 43: 1708-14 (2002); Vachula et al., Invasion Metastasis 12: 66-81 (1992))。経内皮モデルは浸潤の過程における細胞間相互作用の研究に便利な ex vivo(in vitro を含む)システムを提供する。
【0121】
このようにして本発明は更に、自然発生的浸潤性癌細胞の浸潤性とニューロピリン-1の機能との関係を決定する ex vivo 法(in vitro 法を含む)を提供する。この方法は下記の3段階から成る。
a.ニューロピリン-1の機能を阻害する分子に細胞を接触させる。
b. 癌細胞をその成長に有利な条件のもとでゲル状マトリックスに接触させる。
c. 前記ゲル状マトリックスを通しての前記癌細胞の移動を測定する。
【0122】
ここに言う「ゲル状マトリックス」とは含水量 90% 以上の半固形物質を意味し、これによって癌細胞をマトリックスと接触した状態で培養することができ、浸潤性の癌細胞は厚さ 0.1〜1 mm、好ましくは 0.3 mm の前記「ゲル状マトリックス」の板を通過して移動するが、非浸潤性の細胞はこれを通過しない。そのようなゲル状マトリックスの例としては、蛋白質および炭水化物の細胞外マトリックスに類似した物質、特に市販の Matrigel が挙げられる。前記ゲル状マトリックスは特に、タイプ IV コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンからなる群から選ばれた蛋白質の一つを含む。より好ましくは、ゲル状マトリックスはタイプ IV コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ニドゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの各蛋白質、またはタイプ IV コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ニドゲン、エンタクチン、ビトロネクチンの各蛋白質を含む。
【0123】
好ましい実施例においては、前記段階 a)に関与する分子はニューロピリン-1の細胞外抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド、特に本発明の修飾ポリペプチド、より限定的には本発明の修飾抗体または修飾抗体断片、更に限定的には修飾抗体断片、より一層限定的には修飾 scFv, dsFv, Fv, 単一領域抗体または二重特異性抗体、特に修飾 scFv、単一領域抗体または二重特異性抗体、一層好ましくは修飾 scFv である。
【0124】
このようにして本発明は更に、自然発生的浸潤性癌細胞の接着性とニューロピリン-1の機能との関係を決定する ex vivo 法(in vitro 法を含む)を提供する。この方法は下記の3段階から成る。
a.ニューロピリン-1の機能を阻害する分子に細胞を接触させる。
b. 癌細胞をその成長に有利な条件のもとで ECM 蛋白質に接触させる。
c. ECM 蛋白質層への前記癌細胞の接着を測定する。
【0125】
ここに言う ECM 蛋白質層とは蛋白質溶液の半乾燥層を意味し、癌細胞をこの層に接触した状態で培養して、浸潤性の癌細胞を層に付着させることができる。この ECM 蛋白質層の厚さは 0.1〜1 mm、好ましくは 0.3 mm である。ECM 蛋白質の例としては細胞外マトリックス物質が挙げられ、特にはコラーゲン、エンタクチン、ニドゲン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニンからなる群から選ばれた蛋白質、更に限定的には コラーゲン S タイプ I、コラーゲンタイプ IV、フィブロネクチン、ラミニンからなる群から選ばれた蛋白質である。
【0126】
好ましい実施例においては、前記の段階 a)に関与する分子はニューロピリン-1の細胞外領域に特異的に結合するポリペプチド、特に本発明の修飾ポリペプチド、より限定的には本発明の修飾抗体または修飾抗体断片、更に限定的には修飾抗体断片、より一層限定的には修飾 scFv、dsFv、Fv、単一領域抗体または二重特異性抗体、特に修飾 scFv、単一領域抗体または二重特異性抗体、更に好ましくは修飾 scFv である。
【0127】
本発明は更に、ニューロピリン-1の細胞外領域に特異的に結合するリガンドをナイーブライブラリまたは免疫ライブラリ、好ましくはファージディスプレイライブラリのスクリーニングによって同定する方法を提供する。この場合前記リガンドはニューロピリン-1の機能に干渉し、特に血管新生、内皮細胞の管形成、あるいは腫瘍細胞の浸潤または接着を阻害し得るものとする。この方法は下記の段階から成る。
a) リガンドのファージライブラリを癌細胞または内皮細胞と接触させる。
b) 前記細胞を分離する。
c) 前記細胞と非特異的に結合したファージを、たとえば前記細胞が溶解しない条件で細胞を緩衝洗剤溶液で洗浄することにより除去する。
d) 前記細胞に結合したファージを溶離する。
e) 前記溶離ファージの表現するリガンドを同定する。
a) リガンドのニューロピリン-1機能への干渉能力を生化学的または生物学的に試験する。
【0128】
段階 e) で得られたリガンドを表現するファージは、リガンドが抗体または抗体断片であるときはリガンドをコードする DNA の配列決定によって決定することができる。グリッドまたは番号つきファージを含む商用リガンドライブラリの場合は、グリッド位置またはファージの番号を決定し、それを用いてそのファージが表すリガンドを知ることができる。
【0129】
段階 d) 以後はファージのプールにニューロピリン-1と結合するファージが加わる。これらニューロピリン-1と結合するファージは最終的には当業者に周知の各種の方法で同定することができる。ファージを単離して個別のクローンを形成することができ、そのようなファージのクローンに対するプローブとして、標識したニューロピリン-1蛋白質またはニューロピリン-1蛋白質の一部(たとえばニューロピリン-1の細胞外領域のアミノ酸7個以上の長さのペプチド)をプローブとして用いることができる。そのようなプローブに結合したクローンがニューロピリン-1結合剤として識別される。また精製ニューロピリン-1蛋白質または組替ニューロピリン-1によりファージをアフィニティー法で精製することができる。
【0130】
別の方法として、リガンドがたとえば抗体または抗体断片である場合、前記ファージの加わったプールから、この抗体または抗体断片をコードするオープン読み取りフレームを際クローニングして発現ベクターを得、他のホスト細胞のクローン中で抗体または抗体断片を発現させ、ニューロピリン-1に特異的に結合する抗体または抗体断片をコードする発現ベクターを含む、このホスト細胞のクローンを、たとえば前記ファージクローンの同定法、実施例2または3の方法、あるいは組替ニューロピリン-1のアフィニティー精製法により同定することができる。
【0131】
この方法の特に有利な点は、ニューロピリン-1の細胞外領域の接近可能な部分に特異的なリガンドが得られることである。これは最初の選択がナイーブ細胞からなされるため、ニューロピリン-1の細胞外領域の接近可能な部分が利用できるためである。
【0132】
本発明の他の好ましい実施例においては、この方法は組替ニューロピリン-1蛋白質によるスクリーニングのための追加的な段階を含む。この方法については実施例 3.2に更に具体的に記載する。
この方法では前記段階 e) の代わりに次の段階を用いる。
e) 単離されたファージを組替ニューロピリン-1に接触させる。
f) 前記ニューロピリン-1を緩衝洗剤または高塩濃度溶液で洗浄する。
g) 前条によりニューロピリン-1に結合したファージを溶離する。
h) 前記溶離ファージが提示するリガンドを同定する。
【0133】
ある種の実施例においては、ファージ上に発現させるリガンドは、scFv、dsFv、Fab'、Fab、F(ab')2、Fv、単一領域抗体または二重特異性抗体から成る群、より限定的には scFv、dsFv、Fv、単一領域抗体または二重特異性抗体から成る群、一層限定的には scFv、単一領域抗体または二重特異性抗体からなる群から選ばれた抗体または抗体断片、より好ましくは scFv である。
【0134】
段階 c) および f) で用いる「洗剤」とは、好ましくは緩衝された洗剤溶液であり、たとえば Tween の 0.001〜0.5%、特に 0.01〜0.1% 溶液である。段階 f) の「高塩濃度溶液」とは、好ましくは緩衝された、イオン強度 10 mM〜1 M、特に 20〜500 mM、更に限定的には 50〜350 mM、より好ましくは 80〜250 mM の高塩濃度溶液である。有効なアニオンの代表的なものとしては、たとえばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが挙げられる。
【0135】
前記の緩衝溶液の pH は典型的には 7〜8 である。緩衝液としては FCSを特に 1〜20%、更に限定的には 5〜15%、より好ましくは約 10% 含有する DMEM または PBS が使用できる。
【0136】
ファージの結合した細胞を分離するには g 値 200〜300 の温和な条件での遠心分離を 3〜20 分、特に 5〜10 分行う。細胞および固定化ニューロピリン-1に結合したファージを溶離するには、pH 0〜2.5、特に 1〜2.5、より限定的には 1.5〜2.5 のグリシン 2〜100 mM 溶液、特に 4〜50 mM、より限定的には 5〜20 mM、更に好ましくは約 10 mM 溶液により洗浄する。
【0137】
これらのリガンド、特に抗体または抗体断片のニューロピリン-1干渉または阻害機能は、前記の in vivo または細胞培養試験によって評価することができる。細胞培養試験には、実施例8および9、実施例19、または実施例11および12に記載の浸潤性または接着性試験、または実施例16に記載の内皮細胞の管形成試験により本発明のリガンドの阻害効果を決定する方法が含まれる。各種試験の結果は図に示されている。
【0138】
この方法は細胞表面への結合に基づくスクリーニングと、ニューロピリン-1機能干渉または阻害性リガンドを同定する機能性試験とを結合している点で有利である。
【0139】
好ましい実施例においては、リガンドはニューロピリン-1の生物学的機能を阻害することができる。ニューロピリン-1の生物学的機能とは浸潤、接着、血管新生などである。浸潤と接着については既に説明した。
【0140】
浸潤性試験は細胞の浸潤性を測定する。浸潤性試験の一例は実施例8および9に示す試験である。
【0141】
接着性試験は、標的たとえば細胞の、他のもの、たとえば別の細胞、ウイルス、あるいは細胞由来のビヒクル集団や基底膜などの複雑な生物学的混合物への接着性を測定する。接着性試験の一例は実施例11および12に示す試験である。
【0142】
「血管新生」は、細胞がその近傍での血管の形成を誘発する過程である。血管新生は悪性腫瘍の成長に伴って起こることがあり、したがって悪性腫瘍の一性質と考えることができる。すなわち悪性細胞は血管新生を誘発する性質を持つことがある。血管新生試験は、悪性細胞の成長に通常伴う過程である血管形成を細胞が誘発する能力を測定する。血管新生試験の一方法は Kanda et al., J. Natl. Cancer Inst. 94: 1311-1319 (2002) に開示されている。実施例16には血管新生試験の一例であるいわゆる管形成試験が示されている。
【0143】
他の好ましい実施例においては、ニューロピリン-1の細胞外領域に特異的に結合するリガンドの同定方法は更に、同定されたリガンドを治療用、予防用または診断用組成物に含有させる過程を含む。このためにはたとえば、治療的に有効な量の同定されたリガンドを、当業者に既知である薬学的に適切な賦型剤と混合する。
【0144】
他の好ましい実施例においては、本発明はニューロピリン-1に特異的に結合するリガンドの同定方法と、同定されたリガンド乃至その修飾または標識された形を当業者に既知の薬学的に適切な賦型剤と混合する段階とを含む、医薬品組成物の製造方法に関する。修飾されたリガンドとは、共有結合的に修飾されたリガンドである。修飾されたリガンドの一例は標識されたリガンドである。
【0145】
本発明は更に、既に同定されたリガンドの活性を機能的に増強する各種方法の有利な組み合わせを提供する。このためにはニューロピリン-1に干渉するリガンドの同定方法と CALI(Chromophore-Assisted Laser Inactivation, レーザー分子機能不活性化)法とを組み合わせる。
【0146】
CALI 法の原理は、局所的に光化学反応を開始させて短寿命の反応種を生成させ、この反応種と標的分子との選択反応によって機能を不活性化することである。特異性が高く阻害性のないリガンド(抗体、抗体断片、低分子など)を適当な発色団(マラカイトグリーン、フルオレセイン、メチレンブルー、エオシンなど)で標識し、標的分子(たとえば蛋白質)と複合体を形成させた後、発色団を励起できる波長のレーザー光を照射する。励起によって光化学反応が開始され、短寿命の反応種(たとえばヒドロキシルラジカル、または反応性の高い含酸素反応種)が生成し、これによって蛋白質が反応種発生点近傍の小部分のみ修飾される。反応種の寿命が短いため移動距離は極めて短く、このため蛋白質中のアミノ酸残基の変化はリガンドの結合点の近傍に限られ、損傷を受ける範囲は半径 15〜40Å程度であって、細胞内の2つの蛋白質の間の平均距離 80Å(細胞質ゾルの平均蛋白質濃度 300 mg/ml、平均サイズ 50 kDa と仮定)より十分小さいから、極めて高い空間的分解能が得られる。この原理を図13に図解する。たとえばある蛋白質に対する修飾抗体は、通常では阻害機能を示さないものでも CALI の後はその蛋白質に対して選択的に阻害作用を示すことが屡々認められる。リガンドの結合位置が蛋白質の重要な機能領域の直近または内部にあると、この修飾によって蛋白質は永久的に不活性化される。蛋白質の機能的不活性化は適当な読み出し試験によって測定され、細胞の浸潤、接着、細胞信号、アポトーシスなど疾病に関係する生理学的機能との関連で評価される。
【0147】
CALI による蛋白質の不活性化は各蛋白質に対して極めて特異性が高いことが知られている。Linden らによれば、b-ガラクトシダーゼはマラカイトグリーンで標識した抗 b-ガラクトシダーゼ抗体により、同一溶液内にアルカリホスファターゼが存在する場合でも効果的に不活性化され、レーザー照射の10分後には b-ガラクトシダーゼの不活性化が95%に及ぶがアルカリは全く影響されない (Linden et al., Biophys. J. 61: 956-962 (1992))。Jay はアセチルコリンステレアーゼが色素で標識した抗体の単一の抗原決定基への結合のみによって不活性化されることを示した (Jay, Proc. Natl. Acad. sci. USA 85: 5454-5458 (1988))。
【0148】
Henning らは各種の蛋白質に対する CALI の有効性を述べている (Henning et al., Innovations in Pharmaceutical Technology, 62-72 (2002))。これらの蛋白質には膜蛋白質(T 細胞受容体の a-, b-, e-鎖、b1 インテグリン、エフリン A5、FAS 受容体など)、信号伝達分子(カルシニューリン、シクロフィリン A、PKC など)、細胞骨格蛋白質(アクチン、エズリン、キネシンなど)、転写因子が含まれる。Henning らは更に CALI が薬物の標的としての新規な蛋白質の同定や、特定の生物学的文脈におけるその機能の解明にも有効であると述べている (Henning et al., Current Drug Discovery, May 2002, 17-19)。
【0149】
特異的であるが阻害活性を持たないリガンドを CALI によってブロック剤に転換し得ることは、CALI のいくつかの応用例によって示されるとおりである。したがってそのようなリガンドを利用して阻害的リガンドの作用を調節することができる。CALI はまた既にそれ自体阻害効果を持つリガンドの阻害効果を強化するためにも利用できる。実施例9および実施例12は CALI をそれぞれ浸潤性試験および接着性試験に利用した例である。
【0150】
本発明の他の実施例においては、リガンドを修飾することができる。
【0151】
リガンドの化学的修飾の一つは発色団の付加である。発色団とは分子の一部であって、光と相互作用する可動性電子のため高い光学的活性を有するものをいう。発色団の例としては、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、クマリン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、エオシン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、アクリジン誘導体などが挙げられる。生体分子の化学的修飾に便利な発色団のリストが Sigma Aldrich Handbook of Stains and Dyes, Ed. F. J. Green (1990), ISBN 0-941633-22-5 に掲載されている。
【0152】
本発明によるリガンドの同定方法には更にリガンドを試験する少なくとも1つの段階、たとえばリガンドの生化学的または生物学的性質に基づく試験を追加することができる。そのような追加的試験段階としては、たとえばフローサイトメトリー、ELISA、免疫沈降法、結合試験、免疫組織学的実験、親和力試験、免疫ブロット法、蛋白質アレイからなる群から選ばれた選ばれた一つの方法を含むことができる。リガンドの生化学的性質は大きさ、形状、密度、電荷密度、疎水性、結合の特異性などで決定される。このリガンドの生化学的性質が前記諸方法の適用可能性の基礎をなす。
【0153】
本発明の他の好ましい実施例においては、本発明のリガンドの同定方法は更に減算的選択段階を含む。減算的選択段階とは好ましくない性質を持つリガンドを除去する段階である。たとえば対照細胞への結合が好ましくない場合に、対照細胞に結合する可能性のあるリガンドを除去する。一例を挙げれば、癌細胞に対して特異的なリガンドを選択したい場合、まず癌細胞に結合するリガンドを選び出し、結合したリガンド(たとえばファージ)を溶離し、ついで癌細胞以外の細胞と結合する可能性の或るリガンドを除くため、たとえば溶離したリガンドのプールを非癌細胞と接触させて、これに結合したリガンドを除去する。上澄液に残ったリガンドは癌細胞に特異的に結合し得るものであり、本発明のリガンド同定方法による機能スクリーニングに用いることができる。
【0154】
同定されたニューロピリン-1結合性リガンドないし抗体断片、特に scFv のニューロピリン-1阻害活性は既述のとおり in vivo で、あるいは細胞培養試験により評価することができる。
【0155】
細胞培養試験には、実施例16、8または9および実施例11または12に述べる血管新生、浸潤または接着性試験によって、本発明の抗体断片の阻害活性を決定する試験が含まれる。血管新生試験の結果を図14に、浸潤性試験の結果を図2に、接着性試験の結果を図3および図4にそれぞれ示す。
【0156】
本発明のこの部分においては、血管新生との関連に限定せずニューロピリン-1 (NP-1) の機能を改変するニューロピリン-1結合剤 (NPB) について述べる。既に述べたようにニューロピリン-1は血管生成のために本質的であり強力な活性化剤である VEGF の共活性化剤であることが知られている。したがって本発明の目的は ニューロピリン-1/VEGF の相互作用に干渉することによりニューロピリン-1の機能を改変または阻害するニューロピリン結合剤を提供することである。
【0157】
本発明のニューロピリン結合剤は好ましくはポリペプチド、抗体、抗体断片またはバイオコンジュゲートであり、好ましくは単鎖抗体 (scFv)、または scFv に対して特異的な配列を IgG 発現ベクター内にクローニングして得られる対応 IgG である。更に他の実施例によれば、これらのニューロピリン結合剤は前記の検出可能な標識によって標識される。
【0158】
本発明のニューロピリン結合剤は好ましくはニューロピリン-1の細胞外の抗原決定基に結合する。NP-2 またはその他のニューロピリン類との交差反応性は排除されない。
【0159】
本発明のニューロピリン結合剤はニューロピリン-1の細胞外領域の種々の抗原決定基に結合する。1つの実施例においては、VEGF が結合する、したがって血管新生に関与する抗原決定基にニューロピリン結合剤も結合する。このようなニューロピリン結合剤は VEGF/ニューロピリン-1の相互作用に対する干渉または阻害能力を有し、したがって更に VEGF に依存する血管新生に対する干渉または阻害能力を有する。このようなニューロピリン結合剤は医薬品として血管新生の治療に特に有効である。
【0160】
VEGFの各種スプライスバリアントもニューロピリン-1のやや異なった抗原決定基に結合することが知られている。本発明はそれらの抗原決定基に結合するニューロピリン結合剤をも提供する。そのようなニューロピリン結合剤は VEGF のスプライスバリアントとニューロピリン-1との相互作用をブロックし阻害する能力を有し、したがって更に VEGF に依存する血管新生に対する干渉または阻害能力を有する。このようなニューロピリン結合剤は医薬品として血管新生の治療に特に有効である。
【0161】
本発明において、既知の VEGF 結合性の抗原決定基のいずれとも結合せず、しかも血管新生に対する影響ないし阻害作用を持つニューロピリン結合剤が同定されたことは予想外の新規な事実である。このようなニューロピリン-1の機能を改変・阻害するが VEGF/ニューロピリン-1 相互作用に干渉しないニューロピリン結合剤は、ある好ましい実施例により得られる。このようなニューロピリン結合剤は血管新生の誘導に対する干渉または阻害能力を有し、医薬品として血管新生の治療に特に有効である。
【0162】
本発明のニューロピリン結合剤のキャラクタリゼーションのため、一例としていわゆる管形成試験を行った。この試験では通常ニューロピリン-1を発現させる内皮細胞を各種ニューロピリン結合剤と共にインキュベートし、管形成または細胞凝集に対する結合の影響を分析する(実施例16、図14、図15を参照)。
【0163】
これと並行して VEGF/ニューロピリン-1 相互作用の生化学的試験も実施した(実施例17を参照)。ここでは競合 ELISA 法を用い、VEGF と各種ニューロピリン結合剤との結合を定性的・定量的に測定した。
【0164】
これら種々の方法で同定されるニューロピリン結合剤は他の好ましい実施例により提供される。たとえばある実施例によれば管形成を阻害するニューロピリン結合剤、特に scFv と対応 IgG が得られる。この実施例においては scFv 7, 8, 11, 12, 13, 15, 18, 21, 23, 25, 26, 27, 28, 29, 31, 33, 36 およびそれらの対応 IgG が特に好ましい。
【0165】
この実施例において特に予想外であり興味深い点は、いずれのニューロピリン結合剤も強い管形成阻害作用を持つが、必ずしもすべてが VEGF の結合する抗原決定基と結合あるいは交差反応しないことである。このことは ニューロピリン-1/VEGF 相互作用ないし結合に対する本発明の各種ニューロピリン結合剤の阻害作用を試験した実施例17の競合 ELISA 法により明示される。
【0166】
いくつかのニューロピリン結合剤は明らかに NP-V/VEGF 相互作用に対して干渉・阻害作用を有する。このような結合剤の大部分は管形成に対して強い阻害作用を示す。この実施例の好ましい例は scFv8 または対応する IgG である。他の実施例によれば、このようなニューロピリン結合剤は医療、特に腫瘍および転移に関係する血管新生の防止または治療に極めて有用である。このため他の実施例においては、ニューロピリン-1依存性血管新生、特に好ましくは腫瘍に関連する血管新生の治療用として、そのようなニューロピリン結合剤を含む組成物および製剤が提供される。
【0167】
他の実施例において本発明は、ニューロピリン-1/VEGF の相互作用に対して干渉・阻害効果を持たず、しかも管形成を阻害するニューロピリン結合剤を提供する。この実施例の好ましい例は scFv13 または対応する IgG である。更に scFv13 と同じ抗原決定基に結合するニューロピリン結合剤も好ましく、また VEGF165 と同じ抗原決定基に結合しないニューロピリン結合剤も好ましい。scFv13 と同じ、または VEGF165 と別の抗原決定基に結合するニューロピリン結合剤を同定するには実施例18に記載の実験が特に有用である。
実施例
【0168】
実施例1:免疫ライブラリの構築
BALB/c マウス2頭をそれぞれパラホルムアルデヒド固定化 HT1080 細胞(ヒト線維肉腫細胞株 ATCC, CCL-121)2×107 個の皮内注射により免疫化した。最初の免疫化の後、39日間に2回の注射を行った。マウスを屠殺し脾臓を分離して液体窒素中で凍結した。この免疫化処理は Charles River Germany GmbH (Kiesslegg) で実施された。
【0169】
RNeasy Midi キット (Qiagen #71542) を用いて全 RNA を分離した。製造者の説明に従い、各脾臓標本の半分を使用した。RNA の濃度と純度はホルムアルデヒドゲルによる変性と光度測定により決定した。
【0170】
調製直後の RNA 8.9 mg とプライマー混合物 (IgG1-c, IgG2a-c, IgG2b-c, IgG3-c, VLL-c, VLK-c) 10 pmol を用い、SuperscriptTM II キット (GibcoBRL Life Technologies #18064-014) を使用して cDNA を合成した。これらのプライマーは IgG 重鎖遺伝子および κ, λ ファミリーの軽鎖遺伝子をコードする RNA にアニールされる。VH 遺伝子は 1 ml の cDNA から、制限部位を持たない順方向プライマー9種 (MVH1, M+VH2, MVH3, MVH4, MVH5, MVH6, MVH7, MVH8, MVH9) および逆方向プライマー4種 (MJH1, M-JH2, M-JH3, M-JH4) の組み合わせ36種を用いて PCR 増幅した。VL 遺伝子は制限部位を持たないプライマー混合物 (M-VK1, M-VK2, M-VK3, M-VK4, M-VL1, M-JK1, M-JK2, M-JK3, M-JL1) を用いて PCR 増幅した。PCR 産物はゲル精製し (QIAquick Gel Extraction Kit #28706)、VH については制限部位を有する順方向プライマー9種 (MVH1 SfiI, M+VH2 SfiI, MVH3 SfiI, MVH4 SfiI, MVH5 SfiI, MVH6 SfiI, MVH7 SfiI, MVH8 SfiI, MVH9 SfiI) および逆方向プライマー4種 (MJH1 SalI, M-JH2 SalI, M-JH3 SalI, M-JH4 SalI) の組み合わせ、VL については制限部位を有するプライマー混合物 (M-VK1 ApaLI, M-VK2 ApaLI, M-VK3 ApaLI, M-VK4 ApaLI, M-VL1 ApaLI, M-JK1 NotI, M-JK2 NotI, M-JK3 NotI, M-JL1 NotI)で再増幅した。PCR 産物をゲル精製し (QIAquick Gel Extraction Kit #28706)、VH については制限部位 SfiI/SalI, VL については制限部位 A;aLI/NotI を用いてファージディスプレイベクター pXP10 にクローニングし、ライゲーション混合物を電気穿孔法により E. coli TG-1 にトランスフェクトして、独立のクローン 107 個のサイズのライブラリを得た。
【0171】
実施例2:scFv の選択とスクリーニング(固定細胞上での選択)
固定 HT1080 細胞で免疫化したマウスを用いて構築したファージライブラリから単鎖 Fv を選択した。ライブラリはファージディスプレイベクター pXP10 を用いて生成させたものである。
【0172】
HT1080 細胞は 0.05% EDTA を用いて回収し、パラホルムアルデヒドで固定し、PBS 中 1×107 個まで希釈した後、96 ウェルの UV 架橋プレート (Corning Costar) のウェルに固定化した。UV 架橋プレートのウェルはスキムミルク粉末 (#70166, Fluka) 5% を含む PBS (MPBS) でブロックした。細胞 106 個に対して 1012 cfu(コロニ形成単位)のファージライブラリを MPBS で 25°C で1時間予備ブロックし、室温で1.5時間インキュベートした。UV 架橋プレートのウェルを PBS + 0.05% Tween-20 で6回、ついで PBS で6回洗浄し、10 mM グリシン (pH 2.2) を加えて結合したファージを溶離し、1 M Tris/HCl (pH 7.4) で中和した。選択の第1回ラウンドでは 103〜106 cfu が溶離されるのが典型的であり、したがって富化されたレパートリーでは元のレパートリーに比べて多様性が減少している。指数的に増殖する E. coli TG1 を加えて富化されたレパートリーを含む溶離物を増幅し、E. coli を含むファージミドを選択し、アンピシリン 100 mg/ml、蔗糖 1% を加えた LB 寒天プレート上で 30°C で1晩増殖させた。この段階以後は、富化したレパートリーをポリクローナルプールとして増幅して次の選択ラウンドに使用し、希望する性質が得られるまで逐次反復することもでき、あるいは空間的に単離して単クローンレベルでスクリーニングを行うこともできる。選択ラウンドで得られた、指数的に成長する培養にヘルパーファージ VCS-M13 (Strantagene, La Jolla, CA) を重複感染させ、アンピシリン 100 mg/ml、カナマイシン 50 mg/ml を加えた 2xTY 中で 20°C で1晩増殖させることにより、次回の選択ラウンドに使用するファージ粒子を製造し、清澄させた細菌上澄液から 0.5 M NaCl/4% PEG-6000 を用いて選択用ファージを沈殿させ、PBS 中に再分散させた。各選択ラウンドに続いて単クローンレベルでのスクリーニングを行った。
【0173】
実施例2.1:scFv の選択とスクリーニング(懸濁細胞上での選択)
ファージ上にディスプレイされた、1011 個の独立クローンを含むヒト由来の大規模非免疫レパートリー(Cambridge Antibody Technology Ltd., Cambridge UK 提供)から単鎖 Fv を選択した。
【0174】
選択のため 0.05% EDTA を用いて HT1080 細胞(ヒト線維肉腫株 ATCC, CCL-121)を回収し、DMEM + 10% FCS 中 1×107 個まで希釈した。細胞 107 個あたり 2×1012 cfu のファージライブラリを DMEM + 10% FCS で 25°C で1時間予備ブロックし、DMEM + 10% FCS で予備ブロックしたエッペンドルフチューブに入れ、反転させながら回転しつつ 25°C で1.5時間インキュベートした。第1回の選択ラウンドには 3×107 個、第2回のラウンドには 1×107 個の細胞を用いた。220xg、5分間の遠心により細胞を洗浄した後、上澄液を除いて洗浄緩衝液に再分散させた。洗浄は洗浄緩衝液として DMEM + 10% FCS + 0.05% Tween-20 を用いて5回、DMEM + 10% FCS を用いて5回行った。10 mM グリシン (pH 2.2) を加えて結合したファージを溶離し、1 M Tris/HCl (pH 7.4) で中和した。選択の第1回ラウンドでは 103〜106 cfu が溶離されるのが典型的であり、したがって富化されたレパートリーでは元のレパートリーに比べて多様性が減少している。指数的に増殖する E. coli TG1 を加えて富化されたレパートリーを含む溶離物を増幅し、E. coli を含むファージミドを選択し、アンピシリン 100 mg/ml、蔗糖 1% を加えた LB 寒天プレート上で 30°C で1晩増殖させた。この段階以後は、富化したレパートリーをポリクローナルプールとして増幅して次の選択ラウンドに使用し、希望する性質が得られるまで逐次反復することもでき、あるいは空間的に単離して単クローンレベルでスクリーニングを行うこともできる。選択ラウンドで得られた、指数的に成長する培養にヘルパーファージ VCS-M13 (Stratagene, La Jolla, CA) を重複感染させ、アンピシリン 100 mg/ml、カナマイシン 50 mg/ml を加えた 2xTY 中で 20°C で1晩増殖させることにより、次回の選択ラウンドに使用するファージ粒子を製造し、清澄させた細菌上澄液から 0.5 M NaCl/4% PEG-6000 を用いて選択用ファージを沈殿させ、PBS 中に再分散させた。この実施例においては2回の選択ラウンドを実施した後、単クローンレベルでのスクリーニングを行った。
【0175】
実施例3:scFv の選択とスクリーニング(固定細胞上での選択)
スクリーニングのため、ファージディスプレイベクターに含まれる、選択された scFv をコードする遺伝子を発現ベクター pXP14 に再クローニングした。このベクターは Strep タグおよび E タグと融合した scFv の発現を制御し、繊維状ファージ遺伝子 3 を含まない。単一コロニからの発現ベクター含有 E. coli TG1 をマイクロタイタープレートの各ウェルで増殖させ、各ウェルにただ1つの scFv クローンが含まれるようにした。菌は96ウェルのマイクロタイタープレート (#9297, TPP) で、アンピシリン100 mg/ml、蔗糖 1% を加えた LB 寒天プレート上で OD600 が 0.7 になるまで増殖させた。発現は最終濃度 0.5 mM で IPTG により誘導し、25°C で1晩継続した。鶏卵リゾチーム (#L-6876, Sigma) を 25°C で1時間にわたり最終濃度 50 mg/ml まで加え、3000 x g で15分間遠心して単鎖 Fv を含む透明なライセートを得た。ELISA によるスクリーニングに先立って透明なライセートに等量の DMEM + 10% FCS を1時間にわたり添加してブロックした。ELISA のためには、HT1080細胞は、0.05%EDTAを加えて回収され、パラフォルムアルデヒドで固定し、PBSで細胞1×107個/ml に希釈し、96 ウェルの紫外線クロスリンクプレート(Corning Costar) のウェルに固着した。この紫外線クロスリンクプレートのウェルは、MPBSでブロックされ、scFvは、scFv含有のブロックされた透明なライセートを25℃で1.5時間加えた。プレートを PBS + 0.1% Tween-20 で2回、PBS で1回洗浄し、HRP 抱合 a-E タグ(#27-9413-01, Pharmacia Biotech、PBS 中スキムミルク粉末 (#70166, Fulka) 5% 中で 0.1% Tween-20 で1:5000 に希釈)と共に1時間インキュベートし、PBS + 0.1% Tween-20 で3回、PBS で3回洗浄し、POD (#1 484 281, Roche) で展開して 370 nm で信号を読み取った。陽性クローンは HT1080 細胞および対照のヒト線維芽細胞 Hs-27 (ATCC CRL-1634)に対して、上記の ELISA スクリーニング法を用いて再試験した。
【0176】
典型的なスクリーニング例としては、2760 (= 30×92) 個のクローンを HT1080 細胞への結合についてスクリーニングした結果、5%が陽性(バックグラウンドを差し引いた信号値が > 0.1 であるものと定義する)であった。155個の陽性クローンを HT1080 細胞への特異的結合について、Hs-27 を対照として再試験した結果は28%が陽性(HT1080 細胞上の信号が Hs-27 上の2倍以上と定義する)であった。scFv2 はこの選択とスクリーニング法で同定された。
【0177】
実施例3.1:scFvの選択およびスクリーニング(adherent細胞上のスクリーニング)
スクリーニングのため、ファージディスプレイベクターに含まれる、選択された scFv をコードする遺伝子を発現ベクター pXP14 に再クローニングした。このベクターは Strep タグおよび E タグと融合した scFv の発現を制御し、繊維状ファージ遺伝子 3 を含まない。単一コロニからの発現ベクター含有 E. coli TG1 をマイクロタイタープレートの各ウェルで増殖させ、各ウェルにただ1つの scFv クローンが含まれるようにした。菌は 96 ウェルのマイクロタイタープレート (#9297, TPP) で、アンピシリン 100 mg/ml、蔗糖 1% を加えた LB 寒天プレート上で OD600 が 0.7 になるまで増殖させた。発現は最終濃度 0.5 mM で IPTG により誘導し、25°C で1晩継続した。鶏卵リゾチーム (#L-6876, Sigma) を 25°C で1時間にわたり最終濃度 50 mg/ml まで加え、3000 x g で15分間遠心して単鎖 Fv を含む透明なライセートを得た。ELISA によるスクリーニングに先立って透明なライセートに等量の DMEM + 10% FCS を1時間にわたり添加してブロックした。ELISA のためには96 ウェルのマイクロタイタープレート (#9296, TTP) に密度 3×104個/ウェルの HT1080 細胞を 37°C で1晩接種し、ウェルを DMEM + 10% FCS で 37°C で1時間ブロックし、scFv を含む、ブロックされた透明なライセートを 25°C で1.5時間にわたり添加した。プレートを PBS + 0.1% Tween-20 で2回、PBS で1回洗浄し、HRP 抱合 a-E タグ(#27-9413-01, Pharmacia Biotech、PBS 中スキムミルク粉末 (#70166, Fulka) 5% 中で 0.1% Tween-20 で1:5000 に希釈)と共に1時間インキュベートし、PBS + 0.1% Tween-20 で3回、PBS で3回洗浄し、POD (#1 484 281, Roche) で展開して 370 nm で信号を読み取った。陽性クローンは HT1080 細胞および対照のヒト線維芽細胞 Hs-27 (ATCC CRL-1634)に対して、上記の ELISA スクリーニング法を用いて再試験した。
【0178】
典型的なスクリーニング例としては、1472 (= 16×92) 個のクローンを HT1080 細胞への結合についてスクリーニングした結果、16%が陽性(バックグラウンドを差し引いた信号値が > 0.1 であるものと定義する)であった。238個の陽性クローンを HT1080 細胞への特異的結合について、Hs-27 を対照として再試験した結果は28%が陽性(HT1080 細胞上の信号が Hs-27 上の2倍以上と定義する)であった。scFv2 はこの選択・スクリーニング法で同定された。
【0179】
実施例3.2:機能阻害性抗体の生成
ファージディスプレイされたヒト由来のナイーブ抗体の大規模ライブラリ(Cambridge Antibody Technology Ltd., Cambridge, UK 提供)を用いて、組替ニューロピリン-1上で更にニューロピリン-1抗体を選択した。選択は Vaughan TJ et al., Nat. Bioctechnol. 14: 309 (1996) に示された方法で行った。2ラウンドの選択の後、各クローンを ELISA における組替ニューロピリン-1の、および ELISA および FACS における細胞表面のニューロピリン-1の特異的認識能力に基づいてスクリーニングした。
【0180】
実施例4a:配列決定および大規模発現
すべての scFv 遺伝子の配列決定は Sequiserve GmbH, Vaterstetten, Germany によりプライマー pXP2 Seq2 (5'-CCCCACGCGGTTCCAGC-3') および pXP2 Seq1 (5'-TACCTATTGCCTACGGG-3') を用いて行われた。このアミノ酸配列を図10に、ヌクレオチド配列を図11に示す。
【0181】
配列決定により同定された個別のクローンをグリセリンストックから LB/Amp (100 mg/ml)/1% 蔗糖寒天プレートにストリークし、200 rpm で振盪しつつ 30°C で1晩インキュベートした。翌朝培養を氷上に置いた後、2 l 三角フラスコ中で 1 l の2xTY 培地にアンピシリン 100 mg/ml、蔗糖 0.1% を加えたものに接種した。培養を 25°C で振盪しつつ OD600 が 0.5〜0.6 になるまで成長させ、ついで最終濃度 0.1 mM の IPTG で誘導した。新鮮なアンピシリンを 50 mg/ml 加え、22°C で振盪しつつ1晩インキュベートを継続し、翌朝培養を 4°C において 5000 x g で15分間遠心し、上澄液を捨てた後、プロテアーゼ阻害剤 Complete (#L-6876, Sigma) を含む PBS-0.5 M Na 緩衝液 10 ml にペレットを、ピペットを用いて注意深く再分散させた。再分散の終了後、菌懸濁液を 20 ml のオークリッジ遠沈管に移し、氷上で鶏卵リゾチーム (#L-6876, Sigma) を最終濃度 50 mg/ml まで1時間にわたり添加した。得られた細菌溶解液を 4°C において 20000 x g で15分間遠心し、上澄液(溶解液)を 15 ml のプラスチック管に移した。アフィニティー精製のため、1 ml の StrepTactin (#2-1505-010, IBA) カラムをカラム容積 (CV)の10倍の PBS-0.5 M Na 緩衝液で平衡化し、並行蛋白質精製システム(自製)を通して分解液を 1 ml/min でロードした。10 CV の PBS で洗浄した後、5 CV の PBS/5 mM デスチオビオチン (#D-1411, Sigma) で溶離し、フラクション 1 ml を捕集した。このフラクションを UV280 で測定し、蛋白質を含むフラクションをプールし、Amicon 超遠心濾過装置 10.000 MWCO (#UFC801024, Millipore) で 4700 x g で濃縮した。濃縮 scFv はクーマシーブルーで染色した 12% Bis-Tris SDS-PAGE ゲルで純度をチェックし、20% グリセリンを加えて小分けし -80°C で凍結した。
【0182】
実施例4b:scFv の IgG フォーマットへのクローニングと発現
scFv は可変的な軽鎖および重鎖がリンカー配列で結合されたものである。制限部位を含むプライマーを用いてこれら可変的軽鎖および可変的重鎖を別個に PCR で増幅した。これらの制限部位は、重鎖および軽鎖に対する適切な定常部を持つベクターにも存在する。増幅した可変部を制限酵素で切り出し、切断したベクターにクローニングし、配列決定法によって正確な配列を確認した。
【0183】
ベクターは4種類を用いた。1つは IgG1 フォーマットに対する重鎖の定常部を含み、第2は IgG4 フォーマットに対する重鎖の定常部を含み、2つはそれぞれλおよびκ軽鎖の定常部を含むものである。各々異なる制限部位を利用してベクターを切断し、可変部をベクターに連結した。
【0184】
哺乳類細胞に IgG を発現させるため、ベクターは Epstein-Barr ウイルスの複製開始領域 (oriP 配列)を含んでおり、EBNA 蛋白質によりエピソームベクターが複製されるため 293-EBNA-HEK 細胞の転写レベルが向上する。
【0185】
重鎖のベクターと軽鎖のベクターの同時トランスフェクションにより両鎖を細胞中に発現させた。IgG は小胞体内に集合し、ついで培地中へ分泌された。トランスフェクションは燐酸カルシウム法で行い、燐酸カルシウムと DNA の沈殿を形成して細胞に包含させた。トランスフェクションの後、培地を無血清培地に交換した。各 IgG を3日ごとに3回回収し、上澄液(培地)は滅菌濾過して 4°C で保存した。
【0186】
IgG の精製のため上澄液をプロテイン A セファロースで、重力流または HPLC により精製した。この選択は液の容量により、200 ml 以下であれば重力流を採用した。いずれの場合も上澄液をプロテイン A カラムにロードし、50 mM Tris(pH 7) 緩衝液で洗浄した後 0.1 M クエン酸 (pH〜2) で溶離し、溶離したフラクションに 0.25 M Tris (pH 9) を加えて pH を 5.5〜6.0 とした。IgG は以後の用途によっては更に PBS 緩衝液を用いて透析し、-20°C で保存した。
【0187】
実施例5:腫瘍細胞への特異的結合の FACS 分析
精製された抗 HT1080 単鎖 Fv が標的細胞に特異的に結合する能力を試験するため、HT1080 細胞 (ATCC CCL-121)、KHOS 細胞 (ATCC CRL-1544)、PC-3 細胞 (ATCC CRL-1435)、BT-474 細胞 (ATCC HTB-20)、HeLa 細胞 (DSMZ ACC-57)、HL60 細胞 (DSMZ ACC-3)、Jurkat 細胞 (DSMZ ACC-282)、MCF7 細胞 (DSMZ ACC-115)、Chang 肝細胞 (DSMZ ACC-57、HeLa 細胞を不純物として含有)(すべて細胞 106個/ml)および対照として Hs-27 細胞(細胞 106個/ml)に対して蛍光抗体法 (FACS) による試験を行った(図5参照)。細胞を 10 mg/ml の純 scFv と共に CellWash (BD (Becton, Dickinson & Co.) #349524) 中 4°C で20分インキュベートし、洗浄して、FITC 標識抗 E タグ mAb (Amersham #27-9412-01) で結合した scFv を検出した。資料を洗浄した後 Becton Dickinson FACSscan で分析した。scFv1 と反応する細胞における蛍光強度の対数 (FL1-H、x 軸)と相対細胞数(個、y 軸)との関係を図5に示す。細線は対照細胞株 (HS-27)、太線は腫瘍細胞または Chang 肝細胞に対応する。scFv1 および scFv2 は特異的に腫瘍細胞を染色し、対照細胞に比べて最大10倍の信号強度を示す。
【0188】
実施例6:FACS による競合分析
精製した抗ニューロピリン-1 scFv が標的細胞上のニューロピリン-1の通常の抗原決定基をブロックする能力を試験するため、HT1080 の単細胞懸濁液を 0.5 mM EDTA/PBS で回収し、約 1×106 個の細胞を 10 mg/ml の scFv と共に CellWash (BD, #349524) 中 4°C で20分間インキュベートした。他のニューロピリン-1結合剤の予備インキュベーションを行った場合と行わない場合の、結合した FITC 標識 scFv の信号を Becton Dickinson FACSscan を用いて分析した。
【0189】
実施例7:FITC による抗体断片の標識
scFv をイソチオシアン酸フルオレセイン (FITC) (Molecular Probes, Eugene, USA, #F1906) で次の方法で標識した。PBS/0.5 M NaHCO3 (pH 9.5) に溶解した scFv1 100 mg にジメチルスルホキシド中 FITC 10 mg/ml の溶液を FITC:scFv1 = 30:1 の割合で加え、室温で攪拌しつつ2時間インキュベートした後、脱塩カラム(Micro Spin G-25 (Pharmacia 27-5325-01、2本)を用いて遊離 FITC を分離した。標識の比率を質量分析および UV/VIS 分光により測定した。蛋白質濃度は 280 nm で、FITC 濃度は 494 nm で測定した。
【0190】
実施例8:阻害性抗体断片を同定するための浸潤性試験
ディスポーザブル走化性/細胞移動チャンバーとして 96 ウェル、8 mm フィルタ(トラックエッチポリカーボネート、各サイト径 5.7 mm)の ChemoTx (登録商標)システム (Neuro Probe Inc. #106-8, Gaithersburg) を用いた。
【0191】
Dulbecco PBS (Gibco #14040-091) で希釈した 0.3 mg/ml の Matrigel(細胞外マトリックス蛋白質を多く含む腫瘍細胞である Engelbreth-Holm-Swarm (EHS) マウス肉腫から抽出した可溶化基底膜調製品。主成分はラミニン、その他コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン、ニドゲンを含む。EHS 主要内に天然に存在する TGF 線維芽細胞成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子その他の成長因子も含む)(Becton Dickinson BD #356234) の 13.3 ml を 96 ウェルプレートの列 B〜H のメンブレンフィルタに塗布し、列 A の各ウェルではそれぞれ 1.2 mg のコラーゲン S タイプ I (Roche #10982929) を 0.05 M HCl (Sigma #945-50) で希釈し、デシケーター中 20°C で1晩インキュベートしてゲル化した。HT1080 細胞は Glutamax I (862 mg/l, Gibco #31966-021) および 10% FCS (Gibco #10270106) を含む DMEM 中で集密状態の 70〜80%まで増殖させた。ついで DMEM/Glutamax I/0.1% BSA (Sigma #A-7030) で2回洗浄し、in situ でビスベンズイミド H 33342 (Sigma #B-2261) で標識し、DMEM/Glutamax I/0.1% BSA により 37°C, 7.5% CO2 で15分にわたり 1:100 に希釈し、更に DMEM/Glutamax I/0.1% BSA で2回洗浄し、37°C, 7.5% CO2 でDMEM/Glutamax I/0.1% BSA を15分間負荷して回収した。Ca2+, Mg2+ 不含 PBS (Gipco, 10010-015) で2回洗浄後、0.5 mM EDTA (Sigma #E8008) により細胞を分離し、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES (Gibco #15630-056) により捕集し、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES で2回洗浄後 Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES に分散させ、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES で細胞 6.7×106 個/ml まで希釈した。この 6.7×106 個/ml の細胞を、浸潤阻害に関する陰性対照としての 40 mg/ml の対照 scFv、および HT1080 に特異的な scFv と 1:1 で氷上で1時間インキュベートした。DMEM/Glutamax I/0.1% BSA で細胞 6.7×105 個/ml まで希釈した後、HT1080 細胞および HT1080 細胞/scFv 希釈液をピペットで3回ずつ走化性チャンバー(列 B〜H)に密度 3.4×104 個で移し、37°C, 7.5% CO2 で6時間インキュベートした。走化性誘引物質としては 5% FCS を加えた DMEM/Glutamax I を下側チャンバーに入れて使用した。コラーゲン S タイプ I を被覆した走化性チャンバーの列 A で各サイト 1×104〜4×104 個の標準曲線を作成した。下側チャンバーには DMEM/Glutamax I/0.1% BSA を用いた(細胞は移動しない)。メンブレン上から移動しなかった細胞を剥離し(列 A の標準曲線を除く)、メンブレンを通過した細胞(標準曲線の場合は通過しない細胞)の蛍光を Fluostar Galaxy (bMG) マイクロプレートリーダーで、励起/発光波長 370/460 nm で測定した。
【0192】
実施例8.1:HT1080 細胞の浸潤性に対する VEGF の影響
浸潤性試験の方法は実施例8に述べたものと同一である。浸潤膜 (Neuroprobe #106-8, Gaithersburg, MD) を Matrigel (0.3 mg/ml; BD #356234, Bedford, MA) で1晩被覆し、集密状態の 80% に達した HT1080 細胞をビスベンズイミド H33342 で染色した後 0.05% EDTA で剥離した。細胞(7×106 個/ml、最終的に 35,000 個/ウェル)は下記と共に 4°C で1時間予備インキュベートした。
a. 抗ヒト VEGF 抗体 (R&D Systems #AF-293-NA) 20 mg/ml の存在下または非存在下において、0, 25, 50 または 100 ng/ml の組替ヒト VEGF (R&D Systems #293-VE, Minneapolis)。メンブレン下のウェルに入れた DMEM 中 5% FCS を走化性誘引物質として使用。
b. 抗ヒト VEGF 抗体 20 mg/ml の存在下または非存在下において、走化性誘引物質として 25, 50 または 100 ng/ml の 5% FCS。
c. 抗ヒト VEGF 抗体 20 mg/ml の存在下または非存在下において、0, 25, 50 または 100 ng/ml の VEGF。メンブレン下のウェルに DMEM 中 1% BSA (Sigma #A7030, St. Louis, MO) を使用。
d. 抗ヒト VEGF 抗体 20 mg/ml の存在下または非存在下において、走化性誘引物質として 1% BSA 含有 DMEM 中 25, 50 または 100 ng/ml の VEGF を使用。
【0193】
予備インキュベートした細胞懸濁液 (a〜d) の 50 ml をピペットでメンブレン上に移し、浸潤プレートを 37°C, 7.5% CO2 で6時間インキュベートした。浸潤試験結果の読み取りは実施例8に示したのと同様に行った。細胞を種々の濃度の組替 VEGF と共に予備インキュベートした場合 (a) には、浸潤の有意な増加は認められなかった。また抗ヒト VEGF 抗体を添加した場合も、実施例8の実験と比べて HT1080 細胞の浸潤に対する影響はなかった (a)。走化性誘引物質 FCS への組替 VEGF の添加 (b) も HT1080 細胞の浸潤を増加させることはなく、VEGF 濃度の変化の影響もなかった。この場合 (b) も抗ヒト VEGF 抗体の添加の影響は見られなかった。VEGF との予備インキュベーションにおいて、BSA を走化性誘引物質に用いた場合には HT1080 細胞の浸潤は生じなかった (c)。走化性誘引物質に DMEM と 1% BSA を用いた場合 (d) も HT1080 細胞の浸潤性は刺激されなかったが、5% FCS を走化性誘引物質とした場合には浸潤が誘発された(図2aの左から4番目の棒線)。
【0194】
実施例9:CALI による標的識別を用いた浸潤試験
本実施例は全体的には実施例8と同一であり、FITC で標識した scFv(標識法については実施例7を参照)を用いたことと、CALI 法を浸潤試験に組み込んだことのみが異なる。
【0195】
ディスポーザブル走化性/細胞移動チャンバーとして 96 ウェル、8 mm フィルタ(トラックエッチポリカーボネート、各サイト径 5.7 mm)の ChemoTx (登録商標)システム (Neuro Probe Inc. #106-8, Gaithersburg) を用いた。
【0196】
Dulbecco PBS (Gibco #14040-091) で希釈した 0.3 mg/ml の Matrigel(実施例8参照)の 13.3 ml を 96 ウェルプレートの列 B〜H のメンブレンフィルタに塗布し、列 A の各ウェルではそれぞれ 1.2 mg のコラーゲン S タイプ I (Roche #10982929) を 0.05 M HCl (Sigma #945-50) で希釈し、デシケーター中 20°C で1晩インキュベートしてゲル化した。HT1080 細胞は Glutamax I (862 mg/l, Gibco #31966-021) および 10% FCS (Gibco #10270106) を含む DMEM 中で集密状態の 70〜80%まで増殖させた。ついで DMEM/Glutamax I/0.1% BSA (Sigma #A-7030) で2回洗浄し、in situ でビスベンズイミド H 33342 (Sigma #B-2261) で標識し、DMEM/Glutamax I/0.1% BSA により 37°C, 7.5% CO2 で15分にわたり 1:100 に希釈し、更に DMEM/Glutamax I/0.1% BSA で2回洗浄し、37°C, 7.5% CO2 でDMEM/Glutamax I/0.1% BSA を15分間負荷して回収した。Ca2+, Mg2+ 不含 PBS (Gibco, 10010-015) で2回洗浄後、0.5 mM EDTA (Sigma #E8008) により細胞を分離し、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES (Gibco #15630-056) により捕集し、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES で2回洗浄後 Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES に分散させ、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES で細胞 6.7×106 個/ml まで希釈した。この 6.7×106 個/ml の細胞を、CALI 後の浸潤阻害に関する対照としての 40 mg/ml の FITC 標識抗 b1 インテグリンモノクローナル抗体 (JB1, Chemicon #MAB1963)、および HT1080 に特異的な FTIC 標識 scFv と 1:1 で氷上で1時間インキュベートした。1.3×105 個の HT1080 細胞または HT1080 細胞/Fv または Ab 希釈液をピペットで3回ずつ2枚の 96 ウェルプレート(黒色、超薄型透明平底特殊光学系、Costar #3615)に移し、1枚は暗所で氷上に保存、他の1枚は氷上で連続波レーザーにより 488 nm (0.5 W, 30 s) 照射した。DMEM/Glutamax I/0.1% BSA で細胞 6.7×105 個/ml まで希釈した後、HT1080 細胞および HT1080 細胞/scFv 希釈液をピペットで3回ずつ(照射、未照射各々)走化性チャンバー(列 B〜H)に密度 3.4×104 個で移し、37°C, 7.5% CO2 で6時間インキュベートした。走化性誘引物質としては 5% FCS を加えた DMEM/Glutamax I を下側チャンバーに入れて使用した。コラーゲン S タイプ I を被覆した走化性チャンバーの列 A で各サイト 1×104〜4×104 個の標準曲線を作成した。下側チャンバーには DMEM/Glutamax I/0.1% BSA を用いた(細胞は移動しない)。メンブレン上から移動しなかった細胞を剥離し(列 A の標準曲線を除く)、メンブレンを通過した細胞(標準曲線の場合は通過しない細胞)の蛍光を Fluostar Galaxy (bMG) マイクロプレートリーダーで、励起/発光波長 370/460 nm で測定した。一般的な実験では移動細胞 100% に対応する値は 45000 であった。
【0197】
HT1080 細胞の浸潤性表現型は、前記 Transwell 培養システムで腫瘍細胞外マトリックス (Matrigel) へ浸潤する相対的能力の比較により評価した。CALI 後の scFv1 は HT1080 細胞の浸潤に対して25%の阻害効果を示した。浸潤試験に CALI を用いた場合と用いない場合(実施例8参照)との結果を図2に示した。図2から CALI によって scFv1 が阻害性抗体断片に転換されることがわかる。
【0198】
実施例10:MTS 生存率試験
生存細胞の検出はテトラゾリウム染料 MTS (CellTiter AQueous One, Promega #G4000) のホルマザンへの転換を測定することにより行った。HT1080 細胞および HT1080 細胞/scFv 希釈液(浸潤試験で作成した希釈液から得られる)をピペットで3回ずつ96 ウェルプレート(黒色、超薄型透明平底特殊光学系、Costar #3615)に密度 3.4×104 個/ウェルで移し塗布した。各ウェルに 10 ml の MTS を加え、37°C, 7.5% CO2 で1時間インキュベートした後、Fluostar Galaxy (bMG) マイクロプレートリーダーで 492 nm における吸光度を測定した。試験に供したすべての scFv は細胞の生存率に影響を及ぼさなかった(データはここには示さない)。
【0199】
実施例11:阻害性抗体断片の同定のための細胞-マトリックス接着性試験
96 ウェル平底プレート (Costar #3614) の21個のウェルを、コラーゲン S タイプ I (Roche #10982929) 1 mg/ウェル、コラーゲンタイプ IV (Rockland 009-001-016) 1 mg/ウェル、フィブロネクチン (Sigma F2518) 1 mg/ウェル、ラミニン (Roche 1243217) 1 mg/ウェルのいずれかを加えた Dulbecco PBS (G9bco #14040-091) により 4°C で1晩にわたり被覆し、同時にブランクとして列 A の3つのウェルを 2% BSA (Sigma #A-7030)/Dulbecco PBS で被覆した。ウェルを Dulbecco PBS で2回洗浄し、2% BSA (Sigma #A-7030)/Dulbecco PBS で 37°C で1時間ブロックし、Dulbecco PBS で洗浄した。HT1080 を回収し、最終濃度 2.5 mM の Calcein AM (Molecular Probes C-3099) で染色し、CaCl2, MgCl2 不含 PBS (Gibco 10010-015) で2回洗浄し、緩衝液 (0.5% BSA (Sigma #A-7030) + 10 mM HEPES + DMEM (Gibco 31966-02)) で 1.5×105 個/ml に希釈した。HT1080 細胞を 10 mg/ml の scFv と混合し、氷上で30分インキュベートし、HT1080 細胞単独および HT1080/scFv 希釈液をピペットで3回、密度 1.5×104 個/ウェルでプレートに移し、37°C, 7.5% CO2 で1時間インキュベートし、Dulbecco PBS で2回洗浄して接着しない細胞を洗い流した後、列 A で Dulbecco PBS 希釈染色細胞 3.7×103〜1.5×104 個の範囲で3回標準曲線を測定した。洗浄したウェルに 100 ml の Dulbecco PBS を入れ、Fluostar Galaxy (bMG) を用いて励起/発光波長 485/520 nm で接着細胞および標準曲線の吸光度を測定した。scFv1 は HT1080 細胞のコラーゲン S タイプ I、コラーゲンタイプ IV、フィブロネクチン、ラミニンへの接着に対して約 20% の阻害効果を示した。scFv2 は HT1080 細胞のラミニンへの付着に対しては 27%、コラーゲンタイプ IV およびフィブロネクチンへの接着に対しては比較的弱い阻害効果を示し、コラーゲン S タイプ IV への接着に対しては阻害効果を示さなかった。scFv1 および scFv2 に対する結果を図4に示す。
【0200】
実施例12:CALI による標的同定を用いた細胞-マトリックス接着性試験
96 ウェルプレート (TPP #9296)(細胞培養処理)の列 B〜H を Dulbecco PBS (Gibco #14040-091) に溶解したコラーゲン S タイプ I (Roche #10982929) 1 mg/ウェルで、また列 A のウェル 10〜12 を2% BSA (Sigma #A-7030)/Dulbecco PBS で、4°C で1晩にわたり被覆した。プレートを Dulbecco PBS で洗浄し、列 B〜H および列 A のウェル 10〜12 を 2% BSA/Dulbecco PBS で 37°C で1時間ブロックし、再度 Dulbecco PBS で洗浄した。HT1080 細胞を Glutamax I (862 mg/l, Gibco #31966-02) と 10% FCS (Gibco #10270106) を加えた DMEM 中で集密状態の 70〜80% まで増殖させ、DMEM/Glutamax I/0.1 % BSA (Sigma #A-7030) で2回洗浄した後、in situ でビスベンズイミド H 33342 (Sigma #B-2261) で標識し、DMEM/Glutamax I/0.1% BSA により 37°C, 7.5% CO2 で15分にわたり 1:100 に希釈し、更に DMEM/Glutamax I/0.1% BSA で2回洗浄し、37°C, 7.5% CO2 でDMEM/Glutamax I/0.1% BSA を15分間負荷して回収した。Ca2+, Mg2+ 不含 PBS (Gibco, 10010-015) で2回洗浄後、0.5 mM EDTA (Sigma #E8008) により細胞を分離し、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES (Gibco #15630-056) により捕集し、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES で2回洗浄後 Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES に分散させ、Dulbecco PBS/0.1% BSA/10 mM HEPES で細胞 6.7×106 個/ml まで希釈した。この 6.7×106 個/ml の細胞を、CALI 後の浸潤阻害に関する対照としての 40 mg/ml の FITC 標識抗 b1 インテグリンモノクローナル抗体 (JB1, Chemicon #MAB1963)、および HT1080 に特異的な FTIC 標識 scFv と 1:1 で氷上で1時間インキュベートした。1.3×105 個の HT1080 細胞または HT1080 細胞/Fv または Ab 希釈液をピペットで3回ずつ2枚の 96 ウェルプレート(黒色、超薄型透明平底特殊光学系、Costar #3615)に移し、1枚は暗所で氷上に保存、他の1枚は氷上で連続波レーザーにより 488 nm (0.5 W, 30 s) 照射した。DMEM/Glutamax I/0.1% BSA で細胞 6.7×105 個/ml まで希釈した後、HT1080 細胞および HT1080 細胞/scFv 希釈液をピペットで3回ずつ(照射、未照射各々)被覆およびブロックされたプレートに移した。列 A のウェル 10〜12 には DMEM/Glutamax I/0.1% BSA 中細胞 6.7×105個/ウェルをバックグラウンド対照として入れた。プレートを 37°C, 7.5% CO2 で1時間インキュベートし、Dulbecco PBS で2回洗浄して接着していない細胞を洗い流した。列 A のウェル 1〜9 では細胞 1×104〜4×104 個/ウェルの範囲で標準曲線を作成し、他のすべてのウェルには Dulbecco PBS 50 ml をピペットで入れた。コラーゲン S タイプ I に接着した細胞(標準曲線の場合は接着しない)の蛍光を Fluostar Galaxy (bMG) マイクロプレートリーダーで励起/発光波長 370/460 nm で測定した。scFv1 は CALI の後 HT1080 細胞のコラーゲン S タイプ I への接着に対して 30% の阻害効果を示した。scFv2 は CALI の後 HT1080 細胞のコラーゲン S タイプ I への接着に対して約 10% の阻害効果を示した。ある実験では scFv2 は CALI なしでも既に HT1080 細胞のコラーゲン S タイプ I への接着に対して 5% の阻害効果を示した。CALI を用いた場合と用いない場合の接着性試験の結果を図3に示す。
【0201】
実施例13:免疫沈降法
50 mM Tris-HCl (pH 8.0), 150 mM NaCl, 1% Triton X-100 (v/v) を含むプロテアーゼ阻害剤カクテル(緩衝液 50 ml に1錠)(Boehringer Mannheim, Cat. No. 1697498) 3 ml および 100 mM Pefablock (Roth, Cat. No. A154.1) で HT1080 および Hs-27 細胞 (108) を溶解した。分解液を StrepTactin Sepharose (IBA, #2-1201-010) と共に 4°C で2時間予備インキュベートし、上澄液を免疫沈降反応に使用した。HT1080 に特異的な scFv(50 mg/l 細胞抽出物)を透明分解液に加え、試料を4°C で2時間回転し、700 g で穏やかに遠心して StrepTactin Sepharose をペレット化し、ペレットを PBS + 0.1% Tween 緩衝液 1 ml で4回洗浄した後、10 mM D-デスチオビオチンを加えた PBS + 0.1% Tween 50 ml による溶離でペレットから複合体を分離した。SDS-PAGE で免疫複合体を分離し銀染色して MS 分析を行った。
【0202】
scFv1 および scFv2 は蛋白質を分解し、SDS-PAGE で銀染色により分子量約 130 kDa のバンドとして検出される。このバンドは HT1080 細胞抽出物に対してのみ認められ、Hs-27 細胞(対照細胞)に対しては認められない(図6参照)。
【0203】
実施例14:質量分析による蛋白質の同定
免疫沈降法と SDS-PAGE で得られたゲルバンドについて 37°C で1晩ゲル内トリプシン消化を行い、5% 蟻酸を用いてペプチドを抽出し、得られたペプチド混合物を ZipTip mC18 (Millipore) で脱塩した後、まず 30% ACN/0.1% TFA 2 ml、ついで 70% ACN/0.1% TFA 2 ml で溶離した。2つのフラクションをプールし、得られたペプチド混合物の 1 ml を a-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸 (3 mg/ml) と 1:1 で混合し、テフロン被覆ステンレス標的上に共析出させて MALDI-TOF 装置で分析し、m/z 800〜3000 の範囲でペプチド質量フィンガープリント (PMF) を得た。この PMF を用いて NCBI および SwissProt データベースの Homo sapiens に関するすべてのエントリーを検索した。いずれの場合も所与の蛋白質と質量偏差 10 ppm 以下で適合するもののみを一致とした。
【0204】
scFv1 または scFv2 を用いて得られた約 130 kDa のバンドはニューロピリン-1にマッチするペプチドピークを最大17本生じ(同一 scFv を用いた異なる実験において)、蛋白質の最大重複率は 22%(残基923個中206個)であった。ニューロピリン-1の同一性は3種のペプチド、すなわちペプチド断片 659〜672, 680〜702, 776〜787 によって明らかに支持される。ニューロピリン-1のスプライス変種である可溶性ニューロピリン-1は、アミノ酸923個のニューロピリンに比べるとアミノ酸 645〜923 が欠如している。したがって得られた質量スペクトルは scFv1 および scFv2 によって完全な長さを持つニューロピリン-1が免疫沈降したことを明らかに示している。スペクトルの一例を図12に示す。
【0205】
実施例15:抗原決定基のマッピング
抗原決定基のマッピングは下記のいずれかの方法によって行うことができる。
【0206】
実施例15.1:「古典的」抗原決定基マッピング
関心のある抗原に対する cDNA の一定の断片を組替(融合)蛋白質として発現させ、ウェスタンブロット法、ELISA などで試験する。
【0207】
実施例15.2:ファージディスプレイ法
ランダムペプチド・ファージディスプレイ・ライブラリを用いる抗原決定基のマッピング法は、関心のある抗原に対する cDNA のランダムな小断片を繊維状ファージのファージ蛋白質 pIII にクローンしてファージ表面にディスプレイするために開発されたものである (Fack et al., J. Immunol. Methods 7: 43-52 (1997))。抗原決定基をディスプレイするファージは biopanning と呼ばれる方法で抗体によって捕捉することができる。対応するファージのインサートの配列決定により抗原決定基に関するある程度の情報が得られる。この方法は原理的には立体的抗原決定基を識別することができる。
【0208】
実施例15.3:ペプチドスキャン法
この方法は Fmoc 化学によって活性化された膜上に固定化されたペプチドを合成する技術に基づいている。活性化した膜にアミノ酸を塗布し、膜上のアミノ基と塗布したアミノ酸の活性カルボニル基との間にペプチド結合を形成させる(膜は PEG で活性化する)。各サイクルの後、洗浄、アセチル化、保護解除、遊離アミノ基の検出の各操作を行う。in vivo での蛋白質合成と異なり、膜に結合したオリゴペプチド鎖は C 末端から N 末端へ向けて段階的に合成される。天然アミノ酸、修飾アミノ酸を問わずアミノ酸20個までの長さのオリゴペプチドが合成可能である。合成の後、膜を平衡化し、非特異的結合部位をブロックする。関心のある抗体と共にインキュベートし数回洗浄した後 HRP と結合した二次抗体と ECL システムの組み合わせにより検出を行う。膜は抗体の種類によっては剥離・再生して10回まで再使用することができる。互いに重なる小型のオリゴペプチドが支持固体上に形成でき、理想的には問題の抗体の全アミノ酸配列を被うことができる。この方法によれば線状の抗原決定基をアミノ酸レベルで同定することができ、また突然変異の迅速研究法としても利用できる。
【0209】
実施例16:管形成の阻害
ゼラチン(Ca2+/Mg2+ 不含 HBSS 中ゼラチン 0.2%)で被覆した 150 cm2 のフラスコで HUVEC 細胞 (Cell Line Service, Heidelberg, #0170 HU) を集密状態の 80〜90% まで増殖させ(室温で1時間)、継代数 2〜10 の細胞のみを使用した。試験には血管新生アッセイキット (Chemicon #ECM625) を使用した。
【0210】
資材:
96 ウェル MTP、ハーフウェル、組織培養処理、黒色・透明底、Corning #3882
HUVEC 細胞用トリプシン、0.25 mg/ml、Clonetics #CC-5012
ゼラチン、2%、Sigma #G1393
Biospin P6 カラム、Biorad #7326200
【0211】
緩衝液:
Dulbecco PBS, Invitrogen #14040-091
Ca2+/Mg2+ 不含 HBSS, Invitrogen #14170-088
【0212】
培地:
内皮細胞成長用培地、HUVEC 細胞用 (CLS Heidelberg)、2% FCS, 0.4% ECGS/H, 0.1 ng/ml EGF, 1.0 mg/ml ヒドロコーチゾン、ゲンタマイシン/アンフォテリシン B を含有
【0213】
scFv の精製
scFv は Biospin P6 カラム (Biorad) で精製し、デスチオビオチン、エンドトキシン、グリセリンを除去し、氷上 PBS 中で1晩保存した。精製 scFv の蛋白質濃度は 280 nm における吸光度測定により決定した。scFv 溶液は PBS の添加によりすべて同一濃度に調整した。
【0214】
管形成試験用 MTP の準備
ECMatrixTM に必要量の緩衝液を加え(両者とも血管新生キットに含まれている)、96 ウェル MTP(ハーフウェルプレート)の各ウェルに希釈した ECMatrix を入れ、37°C で1時間以上インキュベートしてマトリックス溶液を固化させた。分離した内皮細胞は scFv または適当な IgG と共に室温で30分予備インキュベートした。
【0215】
細胞の接種と抗体のインキュベーション
細胞培地を除き、10 ml の Ca2+/Mg2+ 不含 HBSS で1回洗浄して HUVEC 細胞をフラスコから分離し、トリプシン (Clonetics) 5 ml を添加して 37°C で2〜3分インキュベートし、細胞培養培地 5 ml と FCS を添加してトリプシン反応を停止させた。上澄液を併せ、240 x g で室温で5分間遠心し、上澄液を注意深く取り除いて細胞を培地 5 ml に再分散させ、Neubauer 細胞計数チャンバーで計数した。必要な数の細胞を適当な量の培地に再分散させ、抗体溶液を加えた後の濃度が1ウェル当たり 50 ml 中に 10,000 個となるようにして、マスター細胞混合液とした。ウェル中の最終濃度は通常 scFV は 10 mg/ml、IgG は 50 mg/ml である。各結合剤について3つのプレミックスを作成した。マトリックス蛋白質と接触する前にニューロピリン-1と結合させるため、接種前に各結合剤の3つのプレミックス(細胞 3×10,000 個、総容積 150 ml)を適当な量の scFv1 または IgG と共に室温で30分予備インキュベートした。固化 ECMatrix 25 ml で被覆した MTP の各ウェルに細胞・抗体混合物 50 ml を入れ、各実験ごとに適当な対照をも含めた(scFV 試料と同濃度の PBS、マウス IgG、市販の抗ニューロピリン-1抗体 (R&D Systems, #AF566)、抗 a2 インテグリン、非特定的対照 scFv など)。管形成の程度は光学顕微鏡観察により決定し、閉じた多角形を形成する能力、多角形の数と面積、分岐点の数、閉じた管(たとえば分岐点管の連結)を形成する能力に基づいて定量化した。閉じた多角形を形成する能力、分岐点の数、および分岐点間の閉じた連結を形成する能力が減少すれば scFv を陽性と判定した。阻害効果の定量化は陰性対照との比較により、0〜3 の評点(0〜1 = 阻害効果なし、2〜3 = 強い阻害効果)で表した。数種の scFv は IgG1 フォーマットに変換して再試験した。この管形成試験で得られた代表的な像を図14a〜cに示す。いくつかの scFv は顕著な(2.2 以上)管形成阻害効果を示している。表1(図15)はすべての管形成試験の結果を総括したものである。いくつかの scFv が顕著な管形成阻害効果を示すのに対して、市販の抗ニューロピリン-1抗体は管形成をほとんど阻害しない。
【0216】
実施例17: NP-1/VEGF 相互作用の阻害の ELISA による測定
scFv が組替ニューロピリン-1と VEGF との相互作用を阻害する能力を試験するため、VEGF165 (R&D Systems, #293-VE/CF) を PBS 中 50 nM の濃度で Maxisorp マイクロタイタープレート (Nunc, #430341) に被覆した。組替 ニューロピリン-1-Fc (R&D Sytstems, #566-NNS) を濃度 50 ng/ml で NP-1 scFv (25 mg/ml) と共に室温で1時間予備インキュベートし、マイクロタイタープレートに被覆されている VEGF165 に添加した。結合したニューロピリン-1は抗 Fc-HRP (Jackson Immuno Research, #H909-035-098) および BM ブルー POD 基質 (Roche, #11484281) との反応で検出した。吸光度は 370 nm で測定した。28種の scFv について組替ニューロピリン-1と VEGF との相互作用に対する阻害能力を試験した結果、12種が顕著な阻害効果を示した。この結果を実施例16の結果と比較すると、scFv8 はニューロピリン-1と VEGF165 の相互作用を阻害し、HUVEC 細胞による管形成をも阻害する。scFv13 はニューロピリン-1と VEGF165 の相互作用を阻害しないが HUVEC による管形成は阻害する。scFv24 はニューロピリン-1と VEGF165 の相互作用を阻害するが HUVEC による管形成は阻害しない。
【0217】
実施例18:ニューロピリン-1の抗原決定基の決定
scFv をイソチアン酸フルオレセイン (Molecular Probes, #F-1906) で製造者の指示に従って標識した。HT1080 細胞を対照 scFv、ニューロピリン-1結合性 scFv(たとえば scFv8, scFv13, scFv22)(いずれも 25 mg/ml)または VEGF165 (R&D Systems, #293-VE/CF) と共に 0°C で2時間予備インキュベートし、フルオレセイン標識ニューロピリン-1結合性 scFv (5 mg/ml) を 0°C で30分にわたって加えた。結合したフルオレセイン標識 scFv をフローサイトメトリーで検出し、蛍光強度の幾何平均を記録した。ニューロピリン-1結合性 scFv と VEGF が細胞表面のニューロピリン-1に結合する共通の抗原決定基を持つか否かを決定するため、直接標識した scFv との競合的 FACS を行った。VEGF の競合的 ELISA の結果と同じく scFv8 はニューロピリン-1と VEGF165 の相互作用を阻害し、HUVEC 細胞による管形成をも阻害する。scFv13 はニューロピリン-1と VEGF165 の相互作用を阻害しないが HUVEC による管形成は阻害する。scFv24 はニューロピリン-1と VEGF165 の相互作用を阻害するが HUVEC による管形成は阻害しない。更に scFv8 および scFv24 は相互に重複する抗原決定基を持つが、scFv13 は scFv8 および scFv24 とは異なる抗原決定基を有する。
【0218】
実施例19:HT1080 細胞による経内皮浸潤試験
内皮細胞単層の作成:
Neuroprobe 膜に 50 ml/ウェルの 0.2% ゼラチン (Sigma G-1393) を被覆し、Ca2+/Mg2+ 不含 HBSS (Gibco 14170-088) で希釈し、ヒュームフード内で室温で1時間インキュベートした。集密状態まで増殖させた HUVEC 細胞をトリプシン (Cambrex CC-5012) および ECGM(CLS 内皮細胞培養用培地)により回収し、ECGM で 2×105 ml まで希釈した。被覆膜状に残った液はシリンジで除去した。下側チャンバーには 28.5 ml/ウェルの HBSS を入れ、上から膜を置いた。HUVEC 細胞懸濁液 50 ml (1×104) を膜の各ウェルに滴下し、37°C, 5% CO2 で48時間インキュベートした。
【0219】
HT1080 細胞の準備:
150 cm2 のフラスコ6個に 5×105 個の細胞を接種し、37°C, 5% CO2 で48時間インキュベートした。
【0220】
HT1080 細胞の染色:
Calcein AM (Molecular Probes C3099) を 0.1% BSA (Sigma A-7030) 含有 Glutamax を含む DMEM 90 ml で 1:1000 に希釈した。HT1080 細胞から培地を除去し、各フラスコに Calcein 溶液 15 ml を加え、37°C, 5% CO2 で15分インキュベートした。溶媒を除去し、Ca2+/Mg2+ 不含 HBSS で2回洗浄し、EDTA および 0.1% BSA (Sigma A-7030) 含有 Glutamax を含む DMEM で細胞を分離し、0.1% BSA (Sigma A-7030) 含有 Glutamax を含む DMEM で 7×105 個/ml に希釈した。
【0221】
細胞浸潤の阻害:
実験はすべて3回ずつ行った。HT1080 細胞懸濁液 170 ml をピペットで 96 ウェル V )字底プレートの各ウェルに入れ、17 ml の scFv(最小 10 ml)と 0.25 mg/ml Cytochalasin D (CCD) (Sigma C-8273) を加えて15分インキュベートした。陰性対照として非特異的抗体を使用した。
標準曲線:1×104 個 細胞 46.8 ml + DMEM-Glutamax/0.1% BSA 133.2 ml
2×104 個 細胞 93.6 ml + DMEM-Glutamax/0.1% BSA 86.4 ml
4×104 個 細胞 57.2 ml を直接滴下
【0222】
浸潤用膜システムの準備:
膜を下側チャンバーから外し、溶媒を膜下部から除去し、下側チャンバーのウェル内の溶媒も除去する。下側チャンバーには試験試料(列 B〜H)に対しては 30 ml/ウェルの ECGM/20% FCS (Invitrogen 10270106)、標準曲線およびバックグラウンドに対しては列 A のすべてのウェルに 30 ml/ウェルの ECM を入れ、膜を上から置いた。
55 ml (3.5×104) の HT1080 試料をピペットで HUVEC 細胞層上に置き、全体を 37°C, 5% CO2 で12〜16時間インキュベートした。列 B〜H の細胞を細胞スクレーパーにより剥離し、膜を Dulbecco PBS により洗浄した。列 B〜H のウェルを綿棒(予め PBS に浸した)で拭い、膜を再度 PBS で洗浄した後注意深く乾燥し、485/520 nm で蛍光を測定した (Fluostar Galaxy)。4種の単鎖により浸潤が 6〜10% 阻害された。結果の総括を表2(図18)に示す。
【0223】
実施例20:HUVEC 細胞の移動試験
HUVEC 移動試験を製造者 (BD Biosciences, Bedford/MA, Cat. No. 354143) の指示に従って行った。概要を述べれば、EGF 1 ng/l、ヒドロコーチゾン 1 mg/ml、FCS 0.4%、アンフォテリシン B 50 ng/ml、ゲンタマイシン 50 mg/ml(いずれも Cambrex, East Rutherford/NJ) を含む基礎培地 (Promocell, Heidelberg, Germany, Cat. No. 22210) 250 ml 中で 2×104 個の HUVEC を抗体 (50 ml/ml) と共に室温で30分インキュベートし、24 ウェルインサート上側の、フィブロネクチンを被覆した孔径 3 mm の FluoroBlok 膜を底部に入れたウェルに接種した。下側チャンバーには同一培地に更に VEGF165 (R&D Systems, Minneapolis/MN) を加えたものを入れた。プレートを 37°C, 5% CO2 で22時間インキュベートした後、Calcein-AM (Molecular Probes, Engene/OR) の HBSS (Invitrogen, Carlsbad/CA) 中 4 mM 溶液を入れた別のプレートに 24 ウェルインサートを移し、90分のインキュベーション後に BMG FluoStar プレートリーダー (BMG Lab Technologies, Offenburg, Germany) を用い励起波長 485 nm、発光波長 520 nm で読み取った。Kruskal-Wallis 検定による統計解析を有意水準 p < 0.05 と仮定して行った結果の一部を図19に示す。同図には例として HUVEC の移動に対して 20〜60% の阻害効果を示した7種の IgG を示してある。scFv8*, scFv25*, scFv26*, scFv31* の阻害効果は統計的に有意である。HUVEC 細胞の移動性に対する VEGF165 濃度の影響も図19に示した(左側3本の棒線)。濃度依存性は 0〜5 ng/ml の濃度範囲で測定した。HUVEC 細胞の移動性は VEGF165 の濃度と共に増加した。
【0224】
以下の実施例は、行った実験とその結果を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものと解してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】図1は Matrigel の 8 m 被覆を施したフィルタを通じての染色した HT1080 細胞の浸潤を示す。37°C で6時間インキュベートした後に蛍光を定量測定した。データは n = 3 ウェルの平均値 ± 標準偏差で示した。
【図2】図2は HT1080 細胞の浸潤に対する scFv1 の阻害効果を示す。浸潤の測定は Matrigel 被覆を施した細胞移動チャンバーを用いた走化性試験により行った。浸潤の測定をレーザー照射(CALI、灰色の棒線)後およびレーザー照射なし(CALI なし、暗灰色の棒線)で行い、阻害分子の存在しない場合の HT1080 細胞の浸潤を対照とした(左側の2本の棒線)。
【図2a】図2aは HT1080 細胞の浸潤性に対する VEGF の影響を示す。浸潤の測定は Matrigel 被覆を施した細胞移動チャンバーを用いた走化性試験により行った。浸潤を刺激したのは FCS のみであった(左から1番目と4番目の棒線)。細胞を予め組替 VEGF と共にインキュベートした場合、浸潤性の顕著な増加は認められなかった(左から2番目の棒線)。抗ヒト VEGF 抗体 (aVEGF) の添加は結果に影響を及ぼさなかった(左から3番目の棒線)。化学誘引物質として BSA を用いても浸潤は刺激されず(左から6番目の棒線)、抗ヒト VEGF 抗体 (aVEGF) の添加もこの結果に影響を及ぼさなかった(左から7番目の棒線)。
【図3】図3は HT1080 細胞の接着性に対する scFv1 および scFv2 の阻害効果を示す。コラーゲン S タイプ I への接着性をレーザー照射(CALI、灰色の棒線)後およびレーザー照射なし(CALI なし、暗灰色の棒線)で行い、阻害分子の存在しない場合の HT1080 細胞のコラーゲン S タイプ I への接着性を対照とした(左側の2本の棒線)。
【図4】図4は HT1080 細胞の各種マトリックス蛋白質への接着性に対する scFv1 および scFv2 の阻害効果を示す。阻害性分子の存在しない場合の HT1080 細胞の各種マトリックス蛋白質への接着性を対照として用いた(左側の棒線群)。
【図5】図5は各種細胞株(太線)および対照としての HS-27 細胞(点線)を用いた scFv1 および scFv2 の FACS 分析結果である。
【図6】図6は免疫沈降法の試験結果を示す。scFv1 と HT1080 細胞を用いた試験結果を、対照として HS-27 細胞を用いた場合と比較した。免疫複合体は SDS-PAGE で分離し銀染色した。130 kDa のバンドがニューロピリン-1として同定された。
【図7】図7aおよび7bは scFv ディスプレイベクター pXP10 のベクターマップおよび配列を示す。
【図8】図8aおよび8bは scFv 発現ベクター pXP14 のベクターマップおよび配列を示す。
【図9】図9はマウスライブラリのための構成プライマーの配列を示す。
【図10】図10は scFv1〜scFv36 のアミノ酸配列である。各配列において CDR3 を下線で示す。対応する SEQ ID 番号も示した。
【図11】図11はポリペプチド scFv1〜scFv36 をコードするヌクレオチド配列を示す。
【図12】図12は scFv1 で免疫沈降した約 130 kDa のバンドから得られたペプチド混合物の MALDI-MS スペクトルを示す。T で示した2本のトリプシン自己消化ピークを内部較正に使用した。アステリスクで示した合計17本のピークがニューロピリン-1 (SwissProt, O14786) と一致し、質量偏差は 10 ppm 以下であった。一致したペプチドは蛋白質の 22%(残基923個中206個)を占めた。
【図13】図13はレーザー分子機能不活性化法 (CALI) の原理を示す図である。
【図14】図14は管形成試験の結果を示す。管形成の程度は光学顕微鏡によって決定し、細胞が閉じた多角形を形成する能力、多角形の数と面積、分岐点の数、および細胞が閉じた管(たとえば分岐点間の連結)を形成する能力に基づいて定量化した。阻害効果は陰性対照との比較によって定量化し、0 から 3 までの評点を与えた(0〜1 は阻害効果なし、2〜3 は強力な阻害効果を示す)。図14aは阻害性抗体を加えない対照実験で、管形成の阻害効果 = 0、閉じた多角形が生じており、多数の分岐点が認められる。分岐点は連結されており、細胞の顕著な凝集は見られない。図14bは 50 ml/ml の scFv25* と共にインキュベートした後の状態を示し、管形成阻害効果 = 3.0 で閉じた多角形は形成されず、分岐点は極めて少数であり、かつ連結されていない。記号 * は当該 scFv(図10に示すように番号によって識別される)が試験前に IgG1 フォーマットにクローニングされていることを示す。図14cは 100 ml/ml の対照抗体(抗 a2 インテグリン抗体)と共にインキュベートした後の状態を示し、管形成阻害効果 = 3.0 で閉じた多角形は形成されず、分岐点も認められない。
【図15】図15は管形成試験のすべての結果を総括した表である。管形成の程度は光学顕微鏡によって決定し、図14の方法で定量化した。記号 * は当該 scFv(図10に示すように番号によって識別される)が試験前に IgG1 フォーマットにクローニングされていることを示す。市販の抗ニューロピリン-1抗体は管形成に対して顕著な阻害効果を示さなかった。PBS 10% は抗体を添加しない対照実験を示す。
【図16】図16は VEGF165:NP-1 の相互作用の阻害効果を競合 ELISA 法により試験した結果である。* は p < 0.01 を意味する。28種中12種の scFv がニューロピリン-1と VEGF165 との相互作用を顕著に阻害することが見出された。
【図17】図17は細胞表面のニューロピリン-1の scFv に対する抗原決定基の測定を示す。凡例に示すとおり、HT1080 細胞を対照 scFv、各種ニューロピリン-1結合性 scFv または VEGF と共に予備インキュベートし、フルオレセインで標識した scFv の結合を測定した。データによれば scFv8 と scFv24 および VEGF が相互に重複する抗原決定基を持つのに対して、scFv13 は scFv8, scFv24, VEGF とは明らかに異なる抗原決定基を有する。
【図18】図18は HT1080 細胞を用いた経内皮浸潤試験の結果を示す表である。scFv26, scFv27, scFv34, scFv35 が HT1080 細胞の浸潤に対する阻害作用を示した。浸潤の程度は浸潤細胞に対する阻害の百分率で示した。浸潤の値の欄の + 記号は 1〜10% の阻害を示す。
【図19】図19は HUVEC 細胞を用いた移動試験の結果を示す。HUVEC 細胞の移動に対して、scFv8*, scFv25*, scFv26*, scFv38* が統計的に有意な阻害効果を示した。記号 * は当該 scFv(図10に示すように番号によって識別される)が試験前に IgG1 フォーマットにクローニングされていることを示す。左側の3本の棒線は HUVEC 細胞の移動が VEGF165 の濃度に依存することを示す。試験した濃度範囲は 0〜5 ng/ml であり、VEGF165 の濃度の増加に伴って HUVEC 細胞の移動が増加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド、抗体、scFv、抗体断片またはバイオコンジュゲートであり、ニューロピリン-1 (NP-1) の機能を改変するか、またはニューロピリン-1に結合してニューロピリン-1の機能を改変することによりニューロピリン-1に依存する内皮細胞の血管新生及び/又は腫瘍細胞の転移を阻害することを特徴とするニューロピリン結合剤 (NPB)。
【請求項2】
SEQ ID No.1 および SEQ ID No.2 からなる群から選ばれた配列を具えることを特徴とする請求項1に記載のニューロピリン結合剤 。
【請求項3】
SEQ ID No.5〜SEQ ID No.38 からなる群から選ばれた配列を具えることを特徴とする請求項1に記載のニューロピリン結合剤。
【請求項4】
VEGF/ニューロピリン-1の相互作用に対して結合、干渉または阻害効果を示さないことを特徴とする請求項3に記載のニューロピリン結合剤。
【請求項5】
SEQ ID No.73〜SEQ ID No.108 からなる群から選ばれた少なくとも一の配列を有する一の CDR3(相補性決定領域3)を含むポリペプチド、抗体、scFv、抗体断片またはバイオコンジュゲートであることを特徴とする請求項1に記載のニューロピリン結合剤。
【請求項6】
検出可能な標識により標識されており、特に前記検出可能な標識が放射性同位体、酵素、発色団からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1乃至5に記載のいずれかのニューロピリン結合剤。
【請求項7】
ニューロピリン-1の発現検出するためであることを特徴とする請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤の使用。
【請求項8】
ニューロピリン-1の機能の改変、特にニューロピリン-1に依存する細胞、好ましくは腫瘍細胞の浸潤または接着を改変または阻害するためであることを特徴とする請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤の使用。
【請求項9】
請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤と容器とを具えることを特徴とする診断キット。
【請求項10】
請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤と薬学的に適切な賦型剤を具えることを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤をコードすることを特徴とする単離された核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸を具えることを特徴とするベクター。
【請求項13】
ニューロピリン依存性の血管新生および非生理学的血管成長、特に腫瘍に関連する成長の治療または防止のための医薬品の製造への、請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤の使用。
【請求項14】
ニューロピリン-1に関連する浸潤または接着に依存する、癌及び/又は腫瘍細胞、特に中皮細胞由来の腫瘍細胞の転移の治療または防止のための医薬品の製造への、請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤の使用。
【請求項15】
前記ニューロピリン結合剤が発現したニューロピリン-1の機能を阻害し、特に同分子がニューロピリン-1の細胞外領域に結合することを特徴とする請求項13または14に記載のニューロピリン結合剤の使用。
【請求項16】
自然発生的な浸潤性癌細胞の浸潤性のニューロピリン-1の機能への依存性を ex vivo で決定する方法であって:
b) 癌細胞をニューロピリン-1の機能を阻害する分子に接触させるステップと;
c) 前記癌細胞を、当該癌細胞の成長に適当な条件の下でゲル状マトリックスに接触させるステップと;
c) 前記癌細胞の前記ゲル状マトリックスを通じての移動を測定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項17】
自然発生的な浸潤性癌細胞の接着性のニューロピリン-1の機能への依存性を ex vivo で決定する方法であって:
a) 癌細胞をニューロピリン-1の機能を阻害する分子に接触させるステップと;
b) 前記癌細胞を、当該癌細胞の成長に適当な条件の下で細胞外マトリックス (ECM) 蛋白質の層に接触させるステップと;
c) 前記癌細胞の前記 ECM 蛋白質層への接着性を測定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項18】
前記 ECM 蛋白質層がコラーゲン S タイプ I、コラーゲン VI、フィブロネクチン、ラミニン、ニドゲン、エンタクチン、ビトロネクチンからなる群から選択された1つの蛋白質を具えることを特徴とする請求項17に記載のの方法。
【請求項19】
ニューロピリン-1の細胞外領域に特異的に結合する、血管新生、内皮細胞の管形成、及び/又は、腫瘍細胞の浸潤または接着を阻害する能力を有するリガンドを同定する方法であって:
a) リガンドのファージライブラリを癌細胞または内皮細胞と接触させるステップと;
b) 前記細胞を分離するステップと;
c) 前記細胞に非特異的に結合した、及び/又は、結合しなかったファージを除去するステップと;
d) 前記細胞に結合したファージを溶離するステップと、および任意的に
e) 前記ニューロピリン-1との結合により表現されるリガンドを同定するステップと;
f) 前記リガンドがニューロピリン-1の機能に干渉する能力を生化学的または生物学的方法によって試験するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項20】
前記段階 e) の代わりに、更に:
e) 溶離したファージを固定化されたニューロピリン-1に接触させるステップと;
f) 前記ニューロピリン-1を洗剤、及び/又は、高塩濃度溶液で洗浄するステップと;
g) ニューロピリン-1に結合したファージを溶離するステップと;
h) 前記溶離したファージで表現されるリガンドを同定するステップと;
を具えることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ニューロピリン-1により媒介される浸潤及び/又は接着を有効に阻害し得る量の、請求項1乃至6のいずれかのニューロピリン結合剤、請求項10に記載の組成物、請求項11に記載の核酸配列、または請求項19または20に記載の方法によって同定し得るリガンドを投与することを具える、患者における癌または転移を治療または防止することを特徴とする方法。
【請求項22】
腫瘍に関連するニューロピリン-1依存性の血管新生を有効に阻害し得る量の、請求項1乃至6に記載のいずれかのニューロピリン結合剤、請求項10に記載の組成物、請求項11に記載の核酸配列、または請求項19または20に記載の方法によって同定し得るリガンドを投与することを具える、患者における癌または転移を治療または防止することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図9】
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【図10】
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【図10】
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【図10】
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【図10】
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【図10】
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【図10】
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【図11】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−524343(P2007−524343A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502562(P2005−502562)
【出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014756
【国際公開番号】WO2004/056874
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503289746)メダレックス, インク. (10)
【氏名又は名称原語表記】MEDAREX, INC.
【住所又は居所原語表記】707 State Road, Princeton, NJ 08540 (US)
【出願人】(501247131)タフツ・ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】