説明

ニューロン生存因子およびその使用

本発明は、薬学上許容される担体と、(i)RdCVF2遺伝子のヒト(Homo sapiens)における長鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号10)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、(iii)該ポリヌクレオチドを含むベクター、および(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞、からなる群から選択される化合物とを含む医薬組成物;このような組成物の、被験体において神経変性疾患を治療および/または予防するための薬剤の製造のための使用;ならびに神経変性疾患を有する、またはその素因を有すると思われる被験体を試験する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2007年6月5日に出願された特許出願EP07109652.3の優先権を主張するものであり、これは引用することにより本明細書の一部とされる。
【0002】
発明の分野
本発明は、神経変性疾患に関し、より詳しくは、神経変性疾患を治療および/または予防するための医薬組成物に関する。
【0003】
発明の背景
神経変性疾患は、基礎研究と臨床の両側面で長年の挑戦であった。
【0004】
このような神経変性疾患の一例として、色素性網膜炎(RP)は、桿体と錐体の光受容体に相当するニューロン集団の一連の変性を特徴とする、遺伝学的に異種の網膜変性である。RPの最初の臨床徴候は夜盲症と周辺視野が狭くなることであり、この視野が徐々に悪くなって「トンネル様」となる。やがて、中心の視野が少なくなり、ほとんどの場合で完全な失明に至る。細胞レベルでは、夜間視野と側方視野に関与する網膜桿体光受容体が徐々に変性する。その後、色覚および高コントラスト視野、視力、細部知覚および通常光視野を担う錐体光受容体も同様に影響を受ける。網膜変性1(rd1)マウスは色素性網膜炎に関して最も研究されている動物モデルである。これは、桿体特異的cGMPホスホジエステラーゼβサブユニットに劣性突然変異を有しており、アポトーシスによって桿体光受容体の死滅に至り(CARTER-DAWSON et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., vol. 17(6), p:489-498, 1978; PORTERA-CAILLIAU et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, vol.91(3), p:974-978, 1994)、その後、おそらくは栄養供給の欠如によって錐体細胞死が起こる(MOHAND-SAID et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, vol.95(14), p:8357-8362, 1998)。
【0005】
よって、本発明の基礎にある技術的問題は、神経栄養活性を有する新規な化合物を提供することであり、これらの化合物は、現時点では治療法が無い色素性網膜炎などの神経変性疾患の治療に好適である。
【0006】
RdCVF遺伝子は、チオレドキシン様6(Txnl6)またはヌクレオレドキシン様1(Nxnl1)とも呼ばれ、Q8VC33 UniProt[6]タンパク質をコードし、このタンパク質は、チオレドキシンスーパーファミリーと限られた類似性を有し、錐体光受容体に対して栄養活性を示す(LEVEILLARD et al, Nat. Genet, vol. 36(7), p:755-759, 2004)。チオレドキシン(TXN)は、通常、酸化還元制御、アポトーシスおよびサイトカイン活性の調節などの多面発現活性に関与する可能性のある小さなタンパク質である(HOLMGREN, Annu. Rev. Biochem., vol. 54, p:237-271, 1985; HOLMGREN, J. Biol. Chem., vol.264(24), p:13963-13966, 1989; ARNER and HOLMGREN, Eur. J. Biochem., vol.267(20), p:6102-6109, 2000)。TXNの保存されている活性部位には、チオールオキシドレダクターゼ活性に関与する2つの異なるシステイン(CXXC)が含まれ(ARNER and HOLMGREN, 2000, 上記; POWIS and MONTFORT, Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol, vol.41, p:261-295, 2001)、複数の基質タンパク質においてジスルフィド結合の還元を触媒する(HOLMGREN, J. Biol. Chem., vol.254(18) , p:9113-9119, 1979; HOLMGREN, J. Biol. Chem., vol.254(19), p:9627-9632, 1979)。RdCVF遺伝子は選択的スプライシングを介し、TRX80との類似性を共有している全長タンパク質とC末端転写後末端切断型タンパク質の2つの産物をコードしている。ヒトチオレドキシン−1(Txn)の後者の形態(PEKKARI et al, J. Biol Chem., vol.275(48), p:37474-37480, 2000; PEKKARI et al, Blood, vol.l05(4),: 1598-1605, 2005; LIU et al, Blood, vol.105(4): 1606-1613, 2005)はチオール−レダクターゼ活性は持たないが、末梢単核血液細胞の増殖の制御に関与している(PEKKARI et al, 2000, 上記; PEKKARI et al, FEBS Lett., vol.539(1-3):143-148, 2003)。Txnと同様に、RdCVFは、推定チオールオキシドレダクターゼ活性を有する長鎖型(RdCVF−L,217aa,Q8VC33)(JEFFERY, Trends Biochem. Sci., vol.24(1:8-11, 1999; JEFFERY, Trends Genet., vol.19(8) :415-417, 2003)と錐体に対して栄養活性を有するが、酸化還元活性は持たない短鎖型(RdCVF−S,109aa,Q91W38)の双方をコードしていることから、二機能性遺伝子のように見える。
【0007】
発明の概要
本発明は、薬学上許容される担体と、
(i)RdCVF2遺伝子のヒト(Homo sapiens)において短鎖アイソフォーム(short isoform)のアミノ酸配列(配列番号1)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物とを
含んでなる医薬組成物に関する。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、神経変性疾患を治療および/または予防するための、
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおいてアイソフォームのアミノ酸配列(配列番号1)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物の使用に関する。
【0009】
さらに別の実施形態では、本発明は、神経変性疾患を予防および/または治療する方法であって、神経変性疾患を示す、または示すと予測される被験体に、
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおける短鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号1)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物を含んでなる有効量の組成物を提供することを含んでなる方法に関する。
【0010】
最後に、さらに別の実施形態において、本発明は、神経変性疾患を有する、またはその素因を有すると思われる被験体を試験する方法であって、該被験体由来の生体サンプルにおいてRdCVF2遺伝子および/またはその関連プロモーターにおける突然変異の存在を検出することを含んでなる方法に関する。
【0011】
詳細な説明
本発明は、RdCVFに対してパラログの遺伝子として新規な遺伝子RdCVF2が、錐体光受容体および臭覚ニューロンなどのニューロンの生存能を高める該遺伝子によりコードされているタンパク質とともに発見されたことに基づく。
【0012】
よって、第1の態様において、本発明は、薬学上許容される担体と、
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおける短鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号1)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物と
を含む医薬組成物を提供する。
【0013】
本明細書において「ポリペプチド」とは、錐体光受容体または臭覚ニューロンなどのニューロンの生存能を高めるアミノ酸の分子鎖を意味する。このポリペプチドは、必要であれば、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、例えば、グリコシル化、ミリストイル化、アミド化、カルボキシル化またはリン酸化により修飾することができ、また、例えば当技術分野で公知の合成または組換え技術によって得ることもできる。
【0014】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、薬学上許容される担体と、
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおける長鎖アイソフォーム(long isoform)のアミノ酸配列(配列番号10)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物を含む。
【0015】
本明細書において「オーソログ」とは、共通の祖先遺伝子から種分化により進化したヒトにおける配列番号1および配列番号10のタンパク質とは異なる種のタンパク質を意味する。このようなオーソログの一例としては、ハツカネズミ(Mus musculus)(配列番号2)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)(配列番号3)、チンパンジー(Pan troglodytes) (配列番号4)、ウシ(Bos Taurus)(配列番号5)、ニワトリ(Gallus gallus)(配列番号6)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)(配列番号7)、ミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)(配列番号8)およびゼブラフィッシュ(Danio rerio)(配列番号9)のRdCVF2−Sに相当するタンパク質が挙げられる。
【0016】
本明細書において「誘導体」とは、配列番号1、配列番号10またはそのオーソログと少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、一例としては少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性パーセンテージを有するポリペプチドを意味する。
【0017】
ヒトにおけるRdCVF2の短鎖型はヒトにおけるRdCVFの短鎖型と40%未満の同一性を有することを述べておかなければならない。
【0018】
本明細書において「断片」とは、少なくとも25個のアミノ酸、好ましくは少なくとも50個のアミノ酸、一例としては少なくとも75または85個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも100個のアミノ酸の長さを有するポリペプチドを意味する。
【0019】
本明細書において、2つのアミノ酸配列間の「同一性パーセンテージ」とは、比較する配列の最良のアライメントによって得られた2つの配列間の同一のアミノ酸のパーセンテージを意味し、このパーセンテージは純粋に統計学的なものであり、これらの2配列間の違いはそのアミノ酸配列にランダムに分散している。本明細書において「最良のアライメント」または「最適なアライメント」とは、決定された同一性パーセンテージ(下記参照)が最も高いアライメントを意味する。2つのアミノ酸配列間の配列比較は通常、最良のアライメントに従って予め整列(アライン)させたこれらの配列を比較することにより明らかとなり、この比較は、類似性のある部分領域を同定および比較するための比較セグメントにおいて明らかになる。比較を行うための最良のアライメントは、手動による他、SMITH および WATERMAN(Ad. App. Math., vol.2, p:482, 1981)により開発されたグローバル・ホモロジー・アルゴリズムの使用によるか、NEDDLEMAN および WUNSCH (J. Mol. Biol., vol.48, p:443, 1970)により開発された局所ホモロジー・アルゴリズムの使用によるか、PEARSON および LIPMAN(Proc. Natl. Acd. Sci. USA, vol.85, p:2444, 1988)により開発されたものと類似の方法の使用によるか、アルゴリズム(the Wisconsin Genetics software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI USAのGAP、BESTFIT、BLAST P、BLAST N、FASTA、TFASTA)を用いるコンピューターソフトウエアの使用によるか、MUSCLEマルチプル・アライメント・アルゴリズム(Edgar, Robert C., Nucleic Acids Research, vol. 32, p:1792, 2004)の使用によって明らかにすることができる。最良の局所アライメントを得るには、好ましくはBLASTソフトウエアを、BLOSUM 62マトリックスまたはPAM 30マトリックスとともに使用することができる。2つのアミノ酸配列間の同一性パーセンテージは、最適に整列されたこれら2つの配列を比較することにより決定され、これらのアミノ酸配列は、これらの2配列間の最適アライメントを得るために、参照配列に対しての付加または欠失を含み得る。同一性パーセンテージはこれらの2配列間で同一である位置の数を求め、この数を比較した位置の総数で割り、得られた結果に100をかけて、これらの2配列間の同一性パーセンテージを得ることで計算される。
【0020】
「薬学上許容される」とは、生理学上許容され、一般に、ヒトに投与した際に、胃の不快感、めまいなどのアレルギー性または類似の不適当な反応を生じない分子存在および組成物を意味する。好ましくは、本明細書において「薬学上許容される」とは、連邦政府または州政府の規制局によって認可されているか、または米国薬局方、あるいは動物、より詳しくはヒトでの使用に関して一般に認知されている他の薬局方に挙げられていることを意味する。
【0021】
「担体」とは、それとともに化合物が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを意味する。このような製薬担体は、水、ならびに例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物または合成起源のものを含む油といった無菌の液体である。好ましくは、水または水溶液、生理食塩水、ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液が、特に注射用の担体として用いられる。好適な製薬担体は、E.W. Martinにより"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。
【0022】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAまたはDNA、好ましくはDNAを意味する。該DNAは二本鎖であっても一本鎖であってもよい。
【0023】
好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号11の配列を含んでなる。
【0024】
好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号10の配列をコードする配列を含んでなる。
【0025】
本発明のポリヌクレオチドはまた、これまでに定義したポリペプチドのコード配列、リーダー配列もしくはプロタンパク質配列などの付加のコード配列、および/またはイントロンもしくは5’および/または3’UTR配列などの付加の非コード配列を含むことができる。
【0026】
本明細書において「ベクター」とは発現ベクターを指し、例えばプラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態である。
【0027】
このようなベクターとしては、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAの組合せに由来するベクター、ワクシニア、アデノウイルス、鶏痘ウイルスおよび偽性狂犬病などのウイルスDNAが挙げられる。当業者には多数の好適なベクターが知られ、市販されてもいる。例として、以下のベクターが挙げられる。細菌:pQE70、pQE60、pQE−9(QIAGEN)、pbs、pD10、ファージスクリプト、psiX174、pbluescript SK、pbsks、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(STRATAGENE)、ptrc99a、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、pRIT5(PHARMACIA)。真核生物:pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、pSG(STRATAGENE)、pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL(PHARMACIA)。しかしながら、宿主内で複製可能であり、生存能がある限り、他のいずれのベクターを用いてもよい。
【0028】
ベクター中のポリヌクレオチド配列、好ましくはDNA配列は、mRNAの合成を命令するのに適当な発現制御配列(プロモーター)と作動可能なように連結されている。このようなプロモーターの代表例としては、CMV前初期、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルス由来LTRおよびマウスメタロチオネイン−Iなどの原核生物または真核生物プロモーターが挙げられる。発現ベクターはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位および転写ベクターも含む。このベクターはまた、発現を増幅するのに適当な配列を含んでもよい。
【0029】
さらに、このベクターは好ましくは、真核細胞の培養に関するジヒドロ葉酸レダクターゼもしくはネオマイシン耐性、または大腸菌ではテトラサイクリンもしくはアンピシリン耐性などの、形質転換宿主細胞の選択のための表現型形質をもたらす1以上の選択マーカー遺伝子を含む。
【0030】
本明細書において「遺伝学的に操作された宿主細胞」とは、これまでに記載されたポリヌクレオチドまたはベクターを用いて形質導入された、形質転換された、またはトランスフェクトされた宿主細胞を意味する。
【0031】
適当な宿主細胞の代表例としては、大腸菌、放線菌(Streptomyces)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)などの細菌細胞、酵母などの真菌細胞、Sf9などの昆虫細胞、CHOまたはCOSなどの動物細胞、植物細胞などが挙げられる。適当な宿主の選択は、本明細書における教示から、当業者の範囲内であると思われる。
【0032】
好ましくは、該宿主細胞は動物細胞であり、最も好ましくはヒト細胞である。
【0033】
これまでに記載されているポリヌクレオチドまたはベクターの、宿主細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクションまたはエレクトロポレーションなどの当業者に周知の方法によって達成することができる。
【0034】
本発明の組成物は1以上の添加剤(例えば、安定剤、保存剤)を含んでもよい。一般に、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th Ed. (various editors, 1989-1998, Marcel Dekker);およびPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems (ANSEL et al, 1994, WILLIAMS & WILKINS)を参照。
【0035】
さらなる態様において、本発明は、神経変性疾患を治療および/または予防するための
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおける短鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号1)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物の使用を提供する。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、神経変性疾患を治療および/または予防するための、
(v)RdCVF2遺伝子のヒトにおける長鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号10)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(vi)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(vii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(viii)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物の使用を提供する。
【0037】
一般に、該薬剤は、哺乳類、特にヒトに相当する被験体の治療的または予防的処置のために用いることができる。
【0038】
本明細書において「神経変性疾患」とは、好ましくはプルキンエ(Purkinje)細胞の変性を含む中枢神経系の変性疾患、光受容体の変性疾患または臭覚ニューロンの変性疾患などのニューロンの変性に関連する疾病を意味する。
【0039】
中枢神経系の変性疾患の例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病/舞踏病が挙げられる。
【0040】
光受容体の変性疾患の例としては、錐体ジストロフィ(cone dystrophy)(例えば色素性網膜炎)が挙げられる。
【0041】
臭覚ニューロンの変性疾患の例としては、嗅覚消失症が挙げられる。
【0042】
該ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞はこれまでに記載されている。
【0043】
好ましい実施形態によれば、該薬剤は、光受容器の変性疾患または臭覚ニューロンの変性疾患を治療および/または予防するために用いることができる。
【0044】
また、神経変性疾患を示す、または示すと予測される被験体に、
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおける短鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号1)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物を含んでなる有効量の組成物を提供することを含んでなる、神経変性疾患を予防および/または治療する方法も提供される。
【0045】
本発明によれば、「有効量」の組成物とは、所望の生体作用を果たす、この場合にはニューロンの生存能を高めるのに十分な量である。この有効用量は、レシピエントの年齢、性別、健康および体重、もしあれば同時処置の種類、処置の頻度および望まれる採用の性質によって異なると理解される。以下に示される有効用量の範囲は本発明の限定を意図するものではなく、好ましい用量範囲を表す。しかしながら、この好ましい用量は、当業者に理解され、過度な検討を行わずに決定可能であることから、個々の被験体に対して調整することができる。
【0046】
該ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞はこれまでに記載されている。
【0047】
また、神経変性疾患を有する、またはその素因を有すると思われる被験体を試験する方法であって、
(i)RdCVF2遺伝子および/またはその関連プロモーターにおける突然変異の存在を検出するため、かつ/または
(ii)RdCVF2遺伝子の発現を分析するために
該被験体由来の生体サンプルを分析する工程を含んでなる方法も提供される。
【0048】
本明細書において「生体サンプル」とは、血液または血清などの被験体に由来する任意のサンプルを意味する。
【0049】
本明細書において「神経変性疾患」とは、中枢神経系の変性疾患、光受容体の変性疾患または臭覚ニューロンの変性疾患などのニューロンの変性に関連する疾病を意味する。
好ましくは、神経変性疾患は、錐体ジストロフィ(例えば色素性網膜炎)などの光受容体の変性疾患である。
【0050】
RdCVF2遺伝子における突然変異を検出するための典型的な技術としては、制限断片長多型、ハイブリダイゼーション技術、DNAシーケンシング、エキソヌクレアーゼ耐性、マイクロシーケンシング、ddNTPを用いる固相伸張、ddNTPを用いる液相伸張、オリゴヌクレオチドアッセイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーションなどの一塩基多型検出法、連結連鎖反応、ミニシーケンシング、DNA「チップ」、PCRまたはモレキュラービーコンを併用する一重または二重標識プローブを用いる対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションなどが挙げられる。
【0051】
RdCVF2遺伝子の発現の分析は、転写された核酸または翻訳されたタンパク質の発現を検出するための周知の多様な方法のいずれかを用いて評価することができる。
【0052】
好ましい実施形態では、RdCVF2遺伝子の発現は、該遺伝子の、初期RNAなどの、mRNA転写物またはmRNA前駆体の発現を分析することにより評価される。該分析は、被験体由来の生体サンプル中の細胞からmRNA/cDNAを調製すること、およびこのmRNA/cDNAと参照ポリヌクレオチドをハイブリダイズさせることによって評価することができる。調製されたmRNA/cDNAは、限定されるものではないが、サザンまたはノーザン分析、定量的PCR(TaqMan)などのポリメラーゼ連鎖反応分析、およびGeneChip(商標)DNAアレイ(AFFYMETRIX)などのプローブアレイを含むハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイにおいて使用することができる。
【0053】
有利には、RdCVF2遺伝子から転写されたmRNAの発現レベルの分析は、例えば、RT−PCR(米国特許第4,683,202号で示される実験実施形態)、リガーゼ連鎖反応(BARANY, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.88, p: 189-193, 1991)、自己持続的配列複製(GUATELLI et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.87, p: 1874-1878, 1990)、転写増幅系(KWOH etal.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.86,p:1173-1177,1989)Q−βレプリカーゼ(LIZARDI et al., Biol. Technology, vol.6, p: 1197, 1988)、ローリングサイクル複製(米国特許第5,854,033号)または他のいずれかの核酸増幅法による核酸増幅の工程の後に、当業者に周知の技術を用いて増幅核酸を検出することを含む。これらの検出スキームは、このような分子が極めて少数でしか存在しない核酸分子に特に有用である。本明細書において、増幅プライマーは、遺伝子の5’または3’領域にアニーリングすることができる1対の核酸分子(それぞれプラス鎖とマイナス鎖またはその逆)として定義され、その間に短い領域を含む。一般に、増幅プライマーは約10〜30ヌクレオチドの長さであり、約50〜200ヌクレオチドの長さの領域に隣接している。適当な条件下で、適当な試薬を用い、このようなプライマーは、プライマーが隣接したヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅を可能とする。
【0054】
本願により、当業者は、被験体において遺伝子RdCVF2の配列を簡単に同定することができる。
例として、ヒトにおいてRdCVF2の短鎖アイソフォームをコードするcDNA配列は、配列番号11の配列を有する。
【0055】
別の好ましい実施形態では、RdCVF2遺伝子の発現は、該遺伝子から翻訳されたタンパク質の発現を分析することにより評価される。該分析は、抗体(例えば、放射性標識、発色団標識、蛍光団標識または酵素標識抗体)、抗体誘導体(例えば、基質、またはタンパク質/リガンド対のタンパク質のタンパク質もしくはリガンド(例えば、ビオチン−ストレプトアビジン)との抗体コンジュゲート)、あるいはRdCVF2遺伝子から翻訳されたタンパク質と特異的に結合する抗体フラグメント(例えば、単鎖抗体、単離された抗体超可変ドメインなど)を用いて評価することができる。
【0056】
該分析は、限定されるものではないが、酵素イムノアッセイ(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ウエスタンブロット解析および酵素結合免疫吸着検定法(RIA)を含む当業者に周知の種々の技術によって評価することができる。
【0057】
ポリクローナル抗体は、マウス、ウサギまたはヤギなどの好適な動物を、RdCVF2遺伝子によりコードされているタンパク質またはその断片で免疫することにより作製することができる。免疫された動物の抗体力価は、固定化ポリペプチドを用いた酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いるなど、標準的な技術によって経時的にモニタリングすることができる。免疫後の適当な時点、例えば、特定の抗体力価が最高になった際に、抗体生産細胞は動物から得られることができ、KOHLER および MILSTEIN (Nature, vol.256, p:495-497, 1975)により最初に記載されたハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(KOZBOR et al, Immunol, vol.4, p: 72, 1983)、EBV−ハイブリドーマ技術(COLE et al, In Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss,Inc, p: 77-96, 1985)またはトリオーマ技術などの標準的な技術によってモノクローナル抗体(mAb)を作製するために使用することができる。ハイブリドーマを生産するための技術は周知である(一般に、Current Protocols in Immunology, COLIGAN et al. ed., John Wiley & Sons, New York, 1994参照)。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えば標準的なELISAアッセイを用いるなど、ハイブリドーマ培養上清を目的のポリペプチドと結合する抗体に関してスクリーニングすることによって検出される。
【0058】
本発明の方法は、被験体由来の生体サンプルにおけるRdCVF2遺伝子の発現レベルを対照における該遺伝子の正常な発現レベルと比較することを含むことができる。被験体の生体サンプルにおける該遺伝子の発現レベルが正常な発現レベルと比較して有意に弱ければ、その患者が神経変性疾患を有する、またはそれを発症する素因があることを示す。
【0059】
RdCVF2遺伝子の発現の「正常な」レベルは、神経変性疾患に罹患していない、好ましくは色素性網膜炎に罹患していない被験体の生体サンプルにおける該遺伝子の発現レベルである。好ましくは、該正常な発現レベルは、対照サンプル(例えば、神経変性疾患に罹患していない健康な被験体由来のサンプル)で評価され、好ましくは、いくつかの対照サンプルにおける該遺伝子の平均発現レベルである。
【0060】
以下、アミノ酸配列、核酸配列および実施例を参照して本発明をさらに詳細に記載する。しかしながら、これらの実施例の詳細により、本発明は何ら限定されるものではない。むしろ、本発明は、本明細書の実施例には明示されていない詳細を含むいずれの実施形態にも関するが、これらは特に労力無く、当業者に見出される。
【実施例】
【0061】
1)RdCVFに対してパラログの遺伝子であるRdCVF2の同定
マウスRdCVF遺伝子は第8染色体に位置し、3つのエキソンを含み、それぞれRdCVF−L(長鎖(long))とRdCVF−S(短鎖(short))に相当する2つの異なるスプライス変異体に転写される。
【0062】
両RdCVFスプライス変異体の構造は図1のパネルaに記載されている。RdCVF−L mRNA(NM_145598、マウス第8染色体、マイナス鎖、70’033’763〜70’027’717)は、348、687および1751bpの3つのエキソン(1〜3)からなる。RdCVF−S mRNA(BC017153、70’033’785〜70’032’615)は、1つのエキソン(1172bp)からなる。コード領域および非コード領域はそれぞれ濃いグレーと薄いグレーで示されている。第一のコーディングエキソンの末端にある停止コドンの周囲のゲノム領域および12の他の脊椎動物ゲノムにおける対応するオーソログ配列がアラインされている。黒三角は第一のRdCVF−Lコーディングエキソンの末端を示す。保存されている停止コドンは赤で示される。下には、コード領域(CDS)と末端非翻訳領域(UTR)の長さが示されている。
【0063】
RdCVF−Lスプライス変異体は3つのエキソンからなり、この変異体は、最後の109のアミノ酸が「キャップ(cap)」と呼ばれるタンパク質をコードしている。
【0064】
RdCVF−Sスプライス変異体は、そのコード配列が1つのコドンが延長された長鎖型の第一のエキソンと同じである1つのエキソン、その後に停止コドン(TGA)、最後に3’非翻訳領域(UTR)からなる。
【0065】
結果として、RdCVF−Lの「キャップ」(すなわち、最後の109のアミノ酸)はRdCVF−Sを欠いている。
【0066】
データベースでのblast検索により、RdCVF2と呼ばれるパラログ遺伝子の同定が可能であった。
【0067】
両RdCVF2スプライス変異体の構造は、図1のパネルbに記載されている。RdCVF2−L mRNA(AK015847、マウス第13染色体、プラス鎖、50’202’630〜50’206’797)は、603bpと564bpの2つのエキソン(1〜2)からなる。RdCVF2−S mRNA(BC016199、50’202’667〜50’205’571)は、1つのエキソン(2904bp)からなる。コード領域および非コード領域はそれぞれ濃いグレーと薄いグレーで示されている。第一のコーディングエキソンの末端にある停止コドンの周囲のゲノム領域および12の他の脊椎動物ゲノムにおける対応するオーソログ配列がアラインされている。黒三角は第一のRdCVF2−Lコーディングエキソンの末端を示す。保存されている停止コドンは赤で示される。下には、コード領域(CDS)と末端非翻訳領域(UTR)の長さが示されている。
【0068】
この分析により第13染色体においてRdCVF2遺伝子の位置を特定し、RdCVFとRdCVF2の配列と遺伝子構造が双方の間で極めて類似していることを証明することができる。実際、RdCVF2はまた、それぞれRdCVF2−LおよびRdCVF2−Sと呼ばれるチオレドキシン様タンパク質(156aa、配列番号12)および短鎖型(101aa、配列番号2)の双方をコードすることが明らかである。
【0069】
最後に、この配列分析は、RdCVFとRdCVF2の間の相同性の程度が、長鎖アイソフォームでは58.0%、短鎖アイソフォームでは53.5%であることを明らかにした。
【0070】
2)進化におけるRdCVFおよびRdCVF2の遺伝子構造の保存
錐体の生存能は、RdCVF−S型の生産、ひいては、そのアイソフォームを得るのに必要な第一のエキソンの末端における停止コドンの存在に関連する。
【0071】
その停止コドンの保存性をさらに評価するため、UCSCゲノムブラウザBLAT(HINRICHS et al, Nucleic Acids Res., vol.34 (Database issue):D590-598, 2006; KENT, Genome Res., vol.12(4):656-664, 2002)セーバーを用いて、得られる総ての脊椎動物ゲノムに対してマウスRdCVFおよびRdCVF2遺伝子をマッピングし、対応するゲノム配列を抽出した。
【0072】
結果は、13の脊椎動物に両遺伝子座が見られたことを示した。これらの生物は、トラフグ(Takifugu rubripes)とミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)を除いた総てが両遺伝子を示し、これらではRdCVFが同じ染色体の場所で倍加し(RdCVF aおよびb)、この遺伝子座の第一のコーディングエキソンにさらにイントロンが挿入されていた。注目すべきは、この第一のエキソンの末端にある停止コドンは大多数のものにおいて厳密に保存されていることである(図1パネルaおよびb)。
【0073】
最後に、この知見は、ニワトリ(Gallus gallus)およびゼブラフィッシュ(Brachydanio rerio)RdCVF;ミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)およびトラフグ(Takifugu rubripes)RdCVFbを除いたほとんどの脊椎動物にRdCVF短鎖アイソフォームが存在する可能性があることを意味する。
【0074】
3)RdCVFおよびRdCVF2タンパク質配列の分析
候補RdCVFおよびRdCVF2オーソログタンパク質を同定するため、UniProt(WU et al, Nucleic Acids Res., vol.34(Database issue), p :D187-191, 2006)およびEMBL(COCHRANE et al, Nucleic Acids Res., vol.34(Database issue):D10-15, 2006)公開配列データベースにて、BLASTプログラム(ALTSCHUL et al, J. Mol. Biol, vol.215(3):403-410, 1990 ; ALTSCHUL et al, Nucleic Acids Res., vol.25(17):3389-3402, 1997)を用い、ホモロジー検索を行った。
【0075】
両RdCVF遺伝子の長鎖アイソフォームを表すRdCVF(−L/2−L)に対してオーソログのタンパク質は、タンパク質またはゲノムデータベース検索に従い、脊椎動物(ドブネズミ(Rattus norvegicus)、ヒト(Homo sapiens)、チンパンジー(Pan troglodytes)、ウシ(Bos taurus)、イヌ(Canis familiaris)、ニワトリ(Gallus gallus)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)、ミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)、ゼブラフィッシュ(Brachydanio rerio)において同定または推定した。
【0076】
次に、TBA(BLANCHETTE et al, Genome Res., vol.14(4):708-715, 2004)およびPipeAlign(PLEWNIAK et al, Nucleic Acids Res., vol.31(13):3829-3832, 2003)プログラムをデフォルトパラメーターとともに用い、ゲノム配列およびタンパク質配列それぞれのマルチプルアライメントを作製した。タンパク質アライメントには、場合により、タンパク質の二次構造の保存と合わせて手動調整を含んだ。
【0077】
図2(パネルa)は、RdCVF、RdCVF2、トリパレドキシン(TRYX)、ヌクレオレドキシン(NXN)およびチオレドキシン(TXN)の配列アライメントを示す。各タンパク質配列の名称、生物および受託番号(括弧内)を示す(左)。同一(黒地に白の文字)、小さい(A、D、G、P、S、T;緑地に白の文字)、疎水性(A、C、F、G、I、L、M、S、T、V、W、Y;黄色地に黒の文字)、極性(D、E、H、K、N、Q、R、S;青の文字)および電荷を有する(D、E、K、R;赤地に白の文字)、保存された残基を、保存閾値85%に従って示す。コンセンサス配列はマルチプルアライメントの下に示され、s、h、pおよびcはそれぞれ小さい、疎水性、極性および電荷を有する残基に相当する。クリチディア・ファシキュラータ(Crithidia fasciculata)トリパレドキシンI構造(1EWX)の二次構造(βシートおよびαヘリックス)をコンセンサス配列の下に示す。青の破線の四角は、3つのRdCVF(2)特異的挿入を示す。緑の破線の四角は、RdCVF(2)−Sには存在しない「キャップ」領域を示す。ヒトチオレドキシン切断産物(TRX80)の位置が示されている(赤の三角)。パネルbは、クリチディア・ファシキュラータTRYX−I(1EWX)(左)、マウスRdCVF−L(中央)およびマウスRdCVF2−L(右)モデルの構造を示す。RdCVF(2)−Lにおいて保存されているTRYX−I主鎖の領域が赤で示されている。「キャップ」領域および3つの特異的挿入がそれぞれ緑および青で示されている。推定触媒部位(C44XXC47)は、黄色でスペースを埋めるように示されている。
【0078】
TXNスーパーファミリー間の系統発生的分析によりRdCVFタンパク質とRdCVF2タンパク質はTRYXメンバーおよびNXNメンバーと近縁であることが確認された(MICOSSI et al, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr., vol.58(Pt 1):21-28, 2002; KRUMME et al, Biochemistry, vol.42(50): 14720-14728, 2003; ALPHEY et al, J. Biol Chem., vol.274(36):25613-25622, 1999; EKLUND et al, Proteins, vol.11(1):13-28, 1991; KUROOKA et al, Genomics, vol.39(3):331-339, 1997; LAUGHNER et al, Plant Physiol, vol.118(3):987-996, 1998)。クリチディア・ファシキュラータトリパレドキシンI(O96438、TRYX−I)(ALPHEY et al, 1999,前掲)などの遠縁ホモログでさえ、マウスRdCVF(−L/2−L)タンパク質と42.5%および45.4%の配列類似性を示す。マルチプルアライメントにおける3つの挿入(1、2および3と呼ぶ)はこれらの系統発生的タンパク質ファミリーの識別を可能とする(図2パネルa)。
【0079】
挿入3(残基87〜110)は、保存モチーフWLALP[W108(L,V)(A,F)(L,V,I)P112]を含み、これによりTRYXファミリー[TRYX,NXN,RdCVFおよびRdCVF2]とTXNスーパーファミリーを明確に識別することができる。
【0080】
挿入2(63〜72)と挿入3の2つの付加的残基(96〜97)により、RdCVFおよびRdCVF2タンパク質と残りのTRYXファミリーを識別することができる。
【0081】
最後に、挿入1(16〜21)は、RdCVFと、RdCVF2を含む他の総てのTXNスーパーファミリーメンバーを明確に分ける。チオレドキシン活性部位C44XXC47はRdCVFおよびRdCVF2脊椎動物タンパク質の、それぞれ44.4%(4/9)および72.7%(8/11)でしか保存されていないことを述べておかなければならない。
【0082】
4)RdCVFおよびRdCVF2の構造モデリング
RdCVFの、TRYXタンパク質とのこの高い配列類似性は、本発明者らに、クリチディア・ファシキュラータTRYX−I結晶構造(PDB受託番号:1EWX、1.7Å解像構造(ALPHEY et al, 1999,前掲)を鋳型として用い、RdCVF(−L/2−L/−S/2−S)構造モデルを構築させた。ヒトTXNおよびTRX80モデル(PEKKARI et al, 2000,前掲)との類似性により、RdCVF(−S/2−S)構造モデルは、全体的な同じ折りたたみを維持するものと推測された。それぞれ最初の155および147の残基を用いたマウスRdCVFおよびRdCVF2(S型およびL型の双方)の構造モデルを、Builderホモロジーモデリングパッケージ(KOEHL and DELARUE, J. Mol. Biol, vol.239(2):249-275, 1994; KOEHL and DELARUE, Nat. Struct. Biol, vol.2(2):163-170, 1995; KOEHL and DELARUE, Curr. Opin. Struct. Biol, vol.6(2):222-226, 1996)を用いて構築した。最終的なモデルを、ENCAD(LEVITT et al, Computer Physics Comm., vol.91:215-231, 1995)を用いたエネルギー最小化によりさらに精密化した。各モデルに対し、1000ステップの共役勾配最小化を適用した。E146(1EWX)→P146(RdCVF−L)突然変異により、鋳型構造におけるこの部分的主鎖コンフォメーションはプロリンに一致させるために適用される。自己無撞着平均場アプローチを用い、Builderサンプルを同時に、5つの挿入/欠失部とE→P突然変異領域におけるループのコンフォメーションおよび側鎖のコンフォメーション。PyMOL(www.pymol.org)を用い、最終的な構造とした。
【0083】
図2(パネルb)は、TRYX−I(1EWX)およびRdCVF(−L/2−L)の構造を示す。
【0084】
図2は、マルチプルアライメントの下(パネルa)およびTRYX−I三次元構造(パネルb)中に1EWX二次構造(β−シートおよびα−ヘリックス)を示す。
【0085】
この構造のモデル化は、挿入1、2および3がそれぞれ、β1.1−β1.2シートの大きさの増大、αヘリックスにおける1つのターンの延長、ならびにTRYX特異的αsup−βsupおよびα延長を含むより大きな構造領域に相当する。RdCVFタンパク質の挿入3に属す2つの残基(96〜97)はストランドβsupの前のより大きな拘束ループに相当し、これらのタンパク質をTRYXメンバーから識別することが可能となる。RdCVFにおいて、3つの挿入が同時に存在する折りたたまれたタンパク質上の位置が、推定触媒部位(C44XXC47)とは反対側にある((図2パネルb)ことは大変価値あることである。
【0086】
最後に、RdCVF(−S/2−S)タンパク質には存在しないC末端領域(以下、「キャップ」と呼び、図2のパネルbに緑で示されている)は、触媒部位と相対的に位置決定されている。TXNタンパク質の「キャップ」領域は、循環酵素であるチオレドキシンレダクターゼ[7、13]と相互作用し、それが存在しないと、TRX80およびRdCVF(−S/2−S)のチオレドキシン活性を損なう可能性がある[4、13]。
【0087】
これらの構造モデルの著しい特徴は、3つの挿入部の残基が明らかに空間的に近接していることである。この一致は、RdCVF(−L/2−L)における可能性のある新規な相互作用部位を示す。予測されたように、RdCVF(−S/2−S)の精密化モデルの主鎖コンフォメーションは、非「キャップ」領域と「キャップ」領域との境界の側鎖に微細な改変が見られるものの、長鎖型のその対応物と同じである。「キャップ」が存在しないことでRdCVF(−S/2−S)表面に主要な疎水性パッチが現れることを強調しなければならない。結果として、RdCVFタンパク質の、この接近可能な表面領域の疎水性部分は長鎖型の2394Åから短鎖型の3157Åに増える。
【0088】
4)RdCVF−S、RdCVF2−SおよびRdCVF2−Lは網膜で桿体依存的に発現する
8、15および35日齢の野生型(C57BL/6@N)およびrd1突然変異型(C3H/He@N)マウスの神経網膜から、また、臭覚上皮(Balb/c)から、セシウム勾配(CHIRGWIN et al, Biochemistry, vol.18(24):5294-5299, 1979)により全RNAを精製した。
【0089】
Superscript Choice System (INVITROGEN)を用い、5μgの全RNAから二本鎖cDNAを合成した。cDNAはランダムプライミングにより作製し、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAに対してノーマライズした。第一鎖cDNA(0.2μl)を、2μMの特異的プライマーを用いて3回増幅した。RdCVF2−Sに対してはプライマー5’−CATCACCAACAAAGGGCGGAAG−3’(配列番号13)および5’−CATTCCTCAGCAGAGAAGGGAAC−3’(配列番号14)を用い、RdCVF2−Lに対してはプライマー5’−CCGTGCTATTGTTTCAGAGCCCTTAACTTTCTATC−3’(配列番号15)および5’−CTGACACTCCAATCGTAAAAGGCAGAAAACGC−3’(配列番号16)を用いた。ロドプシンに対してはライトサイクラー(Roche, Basel, Switzerland)にて、プライマー5’−AAGCCGATGAGCAACTTCC−3’(配列番号17)および5’−TCATCTCCCAGTGGATTCTT−3’(配列番号18)を用いた。
【0090】
ノーザンブロット法分析では、2μgのポリA mRNAを用い、その膜を、標準的な方法を用い、RdCVF2遺伝子のエキソン1に相当するプローブとハイブリダイズさせた。
【0091】
DNA混入が無いことは、逆転写酵素を除くことにより確認した。結果は、最低の発現と比較して何倍違うかで示した。
【0092】
図3のパネルaは、RdCVF2の短鎖アイソフォーム(RdCVF2−S、176pb断片)と長鎖アイソフォーム(RdCVF2−L、170pb断片)に関する、生後35日の野生型およびrd1マウスでのRT−PCRの結果を示す。
【0093】
図3のパネルbは、脳、精巣、正常網膜(wt)、変性網膜(rd1)、および胚発生12.5日(ED12.5)の全マウス胚におけるRdCVF2転写物の発現を示す。
【0094】
これらの結果により、RdCVF2−Sおよび−Lは野生型マウス網膜で発現することが確認された(図3パネルa)。興味深いことに、RdCVF2−Sおよび−Lの発現は、桿体光受容体変性後のrd1マウスの網膜には存在しない。これらの結果はまた、網膜での、最も可能性が高くは、その発現が変性網膜(rd1)には見られないことから桿体光受容器による発現の他、脳および精巣においてもRdCVF2の弱い発現が見られることも示す。さらに、これらの結果は、短鎖アイソフォーム(RdCVF2−S)および長鎖アイソフォーム(RdCVF2−L)に相当する2つのメッセンジャーRNAの発現が臭覚上皮でも検出されることを示した。最後に、胚発生12.5日の全マウス胚では、発現が検出されなかった。
【0095】
網膜および臭覚上皮におけるRdCVF2−Sおよび−L mRNAの発現は、ジゴキシゲニン(DIG)標識ネズミアンチセンスリボプローブとのin situハイブリダイゼーションにより分析した。
【0096】
マウスRdCVF2−SおよびRdCVF2−Lは、以下のプライマー:RdCVF2−Sに対してはプライマー5’−GTAGCTTTGTACTTTGCGGCG−3’(配列番号19)および5’−GTCATCAGAAAATGTATCACCTCCATAGG−3’(配列番号20);RdCVF2−Lに対してはプライマー5’−GCCATCTCTGCGACTTATTTTTACC−3’(配列番号21)および5’−AATTAGTGCCACCAGCACCATC−3’(配列番号22)を用い、PCRにより増幅した。PCR産物をPGEMイージーベクター(PROMEGA)にクローニングした。SP6またはT7プロモーターから生成し、ジゴキシゲニン−UTP(ROCHE)で標識したセンスおよびアンチセンスRdCVF2 mRNAプローブを製造業者の説明書に従って作製した。
【0097】
室温で解凍および乾燥させた後、網膜および臭覚上皮切片を氷上、4%パラホルムアルデヒド中で10分間、後固定し、室温で10分間、PBS中で洗浄した。網膜切片を、SP6またはT7プロモーターから生成し、ジゴキシゲニン−UTPで標識したセンスおよびアンチセンスRdCVF2 mRNAプローブとハイブリダイズさせた。in situハイブリダイゼーションおよびジゴキシゲニン標識プローブ検出をこれまでに記載されているように行った(ROGER et al., Dev. Biol., vol.298(2):527-539, 2006)。染色の特異性は、センスプローブとのハイブリダイゼーションシグナルが無いことで示された。
【0098】
図3のパネルcは、野生型およびrd1マウス網膜の切片上でのジゴキシゲニン標識RdCVF2−SおよびLリボプローブ(AS:アンチセンス、S:センス)とのin situハイブリダイゼーションの結果を示す。原倍率:40倍。
【0099】
これらの結果は、RdCVF2−Sおよび−Lの転写物が光受容体層で検出されたことを示す。センス対照プローブでは染色は見られず、RdCVF2−SおよびLプローブの特異性を裏付けた。最後に、桿体変性後のrd1網膜において発現は検出されなかった(結果は示されていない)。さらに、これらの結果は、臭覚上皮における標識細胞の局在が、基底細胞、未熟ニューロンおよび成熟ニューロンがRdCVF2 mRNAを強く発現すること、および支持細胞の細胞質の頂端部分にはRdCVF2 mRNAの発現は見られなかったことを示した。発生期(E12.5)にも、特に鼻発生に限って、RdCVF2 mRNAの小さな発現が見られたことを述べておかなければならない。
【0100】
最後に、桿体変性過程でRdCVF2−SおよびRdCVF2−Lの発現を分析した。
【0101】
図3のパネルdは、生後8日、15日および31日(PN8、PN15およびPN35)の野生型(wt)およびrd1マウスにおけるRdCVF2アイソフォームおよびロドプシン転写物の双方の発現タイムコースを示す。
【0102】
これらの結果により、桿体欠損の発生前の生後8日(PN8)に、RdCVF2−Sは、桿体光色素遺伝子ロドプシンと同様に、野生型およびrd1網膜で同等のレベルで発現する。PN15〜PN35で、桿体の変性(ロドプシン発現の低下によって測定)はRdCVF2−S発現の低下と相関している。結論として、これらの結果は、RdCVF2−Sが桿体依存的に発現することを示す。同じ結果がRdCVF2−Lでも見られた(データは示されていない)。
【0103】
5)RdCVF2 mRNAは網膜および臭覚上皮で発現するだけでなく、他の組織でも発現する
RdCVFアイソフォームおよびRdCVF2アイソフォーム(LおよびS)の双方に関連するマウスmRNAおよびEST配列を用い、各メッセンジャーの組織特異性を評価した。結果を下表に示す。
【0104】
【表1】


【0105】
これまでに報告されているように(LEVEILLARD et al., 2004,前掲)、結果は、RdCVF−LおよびRdCVF−S mRNAは、眼および網膜にそれぞれ20/23および4/4系列が見られたことから、これらの組織で特異的に発現することが確認された。これらの結果は、マウスRdCVF2−L mRNAは網膜で優先的に発現する(10/24)だけでなく、腫瘍(2)、精巣(2)、幹細胞(2)、羊膜(1)、胎盤(1)、卵管(1)、胎児(1)、胸腺(1)および乳腺(1)などの他の組織種にも存在することを示す。これらの結果により、精巣および脳で見られるRdCVF2の発現が確認された(図4パネルb)。最後に、ESTおよびCVF2−Sに相当するmRNA配列はもっぱら網膜で発現する(3/4)。
【0106】
6)RdCVF2錐体生存効果
遺伝子の組成、配列の保存性および桿体依存的発現に関するRdCVF遺伝子座とRdCVF2遺伝子座の間の強い類似性から、本発明者らは、RdCVF2タンパク質が、RdCVF−Sに関してこれまでに報告されているように(LEVEILLARD et al, 2004,前掲)、錐体の生存能も増進することができる可能性があるとの仮説に至った。
【0107】
RdCVF(−S/2−S/2−L)アイソフォームを発現プラスミドpcDNA3にクローニングし、COS−1細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後に、COSトランスフェクト細胞からの細胞馴化培地を採取し、ニワトリ胚由来の錐体富化一次細胞培養系(錐体60〜80%)とともにインキュベートした(FINTZ et al, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., vol.44(2):818-825 2003)。
【0108】
インキュベーション7日後(これらの有糸分裂後の細胞が退化する期間)、培養細胞の生存能はLive/Deadアッセイ(MOLECULAR PROBES)とこれまでに記載されているような[4]細胞計数プラットフォームを用いてスコアリングした。3回の独立したアッセイに相当する生存能を、陰性対照として用いたpcDNA3に対する倍数として表す。
【0109】
図4は、空ベクター(pcDNA3)と比較した際のRdCVF−SおよびRdCVF2−Sの救済活性を示す。統計分析(チューキー検定)は、これらの結果が統計学的に有意であることを示す(p<0.001)。
【0110】
これらの結果は、RdCVF−Sの存在下での生細胞数が対照(pcDNA3)の2倍であることを示す。RdCVF2−Sでは、著しくはないが、統計学的有意な錐体生存能の増加(1.6倍)が見られる。これらの知見により、RdCVF2−SもRdCVF−Sと同様に(LEVEILLARD et al., 2004,前掲)、錐体生存因子であることが確認される。重要なこととしては、RdCVF−SとRdCVF2−Sの双方がCOS−1細胞に同時にトランスフェクトされた際には錐体に対する相乗的栄養効果は見られず、両因子により同じ経路が用いられていることが指摘される(データは示されていない)。
【0111】
7)RdCVF2のOSN生存効果
RdCVF2は臭覚ニューロンでも発現することから、臭覚感覚ニューロン(OSN)の培養物に対するRdCVF2の生存活性を分析した。
【0112】
成体マウスを断頭により犠牲にした。鼻腔から鼻中隔の後部を切り離し、すぐに、50μg/mlゲンタマイシン(EUROBIO; GIBCO)および10%(v/v)ウシ胎児血清(EUROBIO)を含有する氷冷ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)に入れた。この中隔の軟骨を取り除き、臭覚粘膜を2.4ユニット/mlのディスパーゼII溶液(ROCHE)中、37℃で30分間インキュベートした。臭覚上皮を、解剖顕微鏡下で注意深く、下にある基底膜から分離し、約20回、穏やかに粉砕して細胞を分離した。得られた細胞懸濁液を50mlコニカル管に移し、カルシウムとマグネシウムを除いたHBSS40mlを加えることでディスパーゼを失活させた。この細胞懸濁液を700rpmで5分、遠心分離した。上清を吸引し、細胞を含むペレットを、インスリン(10μg/ml、SIGMA)、トランスフェリン(10μg/ml、SIGMA)、セレン(10μg/ml、SIGMA)、ウシ胎児血清(5%)、アスコルビン酸(200μM)を含有するDMEMからなる媒体に再懸濁させた。細胞を、5μg/cmのヒトコラーゲンIV(SIGMA)でコーティングした12mmの無菌カバーガラス上に細胞/cmの密度でプレーティングした。
【0113】
これまでに記載されているRdCVF(−S/2−S/2−L)アイソフォームをコードする発現ベクターをCOS−1細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後に、COSトランスフェクト細胞から細胞馴化培地を採取し、OSN培養物とともにインキュベートした。培養4日後、細胞を固定し、チューブリンIIIで標識し、計数した。
【0114】
図5に示されている結果により、OSN細胞の生存能は、対照に比べ、RdCVF2−Sアイソフォームの存在下でより重要であったことが確認された。RdCVF2−Lでは、保護作用が見られた。
【0115】
8)RdCVF2のプルキンエ細胞生存効果
生後1〜3日のマウスを断頭した後、脳を切除し、5mg/mlのグルコースを含有する冷却したGeyの平衡塩溶液に入れ、髄膜を取り除いた。小脳の側矢状方向切片(350または250μm厚)をMcIlwain組織チョッパーで切り取り、孔径0.4μmの30mm MILLIPOREカルチャーインサート(MILLICELL; MILLIPORE, Bedford, MA)メンブラン上に移した。切片は、35℃、加湿5%CO雰囲気下、培地1mlを含む6穴プレートまたは培地3mlを含む10cm培養皿で培養維持した。培地はイーグルの塩(INVITROGEN)、25%HBSS(INVITROGEN)、25%ウマ血清(INVITROGEN)、L−グルタミン(1mM)および5mg/mlグルコースを含む50%基本培地からなった(Stoppini et al, J. Nenrosci. Methods., vol.37(2), p: 173-82, 1991)。
【0116】
これまでに記載されているRdCVF(−S/2−S/2−L)アイソフォームをコードする発現ベクターをCOS−1細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後に、COSトランスフェクト細胞からの細胞馴化培地を採取し、プルキニエ細胞培養物とともにインキュベートした。培養4日後、細胞を固定し、計数した。
【0117】
9)RdCVF2の皮質ニューロン生存効果
生後1日のマウスで、マウス皮質一次培養物の血清不含調製を行った。髄膜を取り除いた後、2価の陽イオンを加えないリン酸緩衝生理食塩水グルコース溶液(100mM NaCl、3mM KCl、1.5mM KHPO、7.9mM NaHPO、33mMグルコース、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン)中で皮質全体を機械的に剥離し、2%B27添加物(GIBCO)、0.5mMグルタミンおよび25μMグルタミン酸塩を含有するNeurobasal-medium(GIBCO-INVITROGEN)に再懸濁させた。その後、細胞をポリオルニチンをコーティングしたカバーガラス上で培養し、ニューロンが極めて富化された培養物を作製した。
【0118】
これまでに記載されているRdCVF(−S/2−S/2−L)アイソフォームをコードする発現ベクターをCOS−1細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後に、COSトランスフェクト細胞からの細胞馴化培地を採取し、皮質ニューロン培養物とともにインキュベートした。培養4日後、細胞を固定し、計数した。
【0119】
最後に、これらに結果より、錐体の生存、より一般にはニューロンの生存のための新規な栄養因子が同定されたことが確認された。この因子は神経保護および酸化ストレスに対する応答に重要な可能性のある二機能性タンパク質の新規なファミリーを定義する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】RdCVF遺伝子およびRdCVF2遺伝子の構造保存を示す。
【図2】マウスRdCVFおよびRdCVF2タンパク質とチオレドキシンスーパーファミリーメンバーとの配列および構造類似性を示す。
【図3】網膜におけるRdCVF2発現の検証を示す。
【図4】RdCVF−SおよびRdCVF2−Sの存在下での錐体生存能アッセイを示す。
【図1a】

【図1b】

【図2a】

【図2b】

【図2c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学上許容される担体と、
(i)RdCVF2遺伝子のヒト(Homo sapiens)における長鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号10)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物と
を含んでなる、医薬組成物。
【請求項2】
誘導体が、配列番号10と少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%の同一性パーセンテージを有するポリペプチドまたはそのオーソログからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記断片が、少なくとも25個のアミノ酸、好ましくは少なくとも50個のアミノ酸の長さを有するポリペプチドである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ポリヌクレオチドが、RNAまたはDNAからなる群から選択され、好ましくは前記ポリヌクレオチドがDNAである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号10の配列をコードする配列を含んでなる、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ベクターが、プラスミド、ウイルス粒子およびファージからなる群から選択される発現ベクターである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
宿主細胞が、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、動物細胞および植物細胞からなる群から選択され、好ましくは宿主細胞が動物細胞である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
神経変性疾患を治療および/または予防するための
(i)RdCVF2遺伝子のヒトにおける長鎖アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号10)、そのオーソログ、誘導体および断片からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド;
(ii)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(iii)該ポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および
(iv)該ポリペプチドを発現する、遺伝学的に操作された宿主細胞
からなる群から選択される化合物の使用。
【請求項9】
神経変性疾患が、中枢神経系の変性疾患、光受容体の変性疾患および臭覚ニューロンの変性疾患からなる群から選択されるニューロンの変性に関連する疾病である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
中枢神経系の変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病/舞踏病からなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
光受容体の変性疾患が、錐体ジストロフィからなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
神経変性疾患を有する、またはその素因を有すると思われる被験体を試験する方法であって、
(i)RdCVF2遺伝子および/またはその関連プロモーターにおける突然変異の存在を検出するため、および/または
(ii)RdCVF2遺伝子の発現を分析するために
該被験体由来の生体サンプルを分析する工程を含んでなる、方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−529958(P2010−529958A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510812(P2010−510812)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057031
【国際公開番号】WO2008/148860
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(500025477)アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム) (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA    RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
【Fターム(参考)】