ニワトリ型モノクローナル抗体用のオリゴヌクレオチド
【課題】本発明は、遺伝子組換え法による多量生産に適したニワトリ型モノクローナル抗体を製造するための新規なプライマーを提供する。
【解決手段】本発明は、ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひとつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー、及びそれを用いたニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させる方法に関する。
【解決手段】本発明は、ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひとつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー、及びそれを用いたニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させる方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させるためのプライマー、及び当該プライマーを用いた遺伝子の増幅方法に関する。また、本発明は組換えニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーとして使用される新規なオリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、抗原の特定部分だけを認識する単一抗体であり、この技術は遺伝子組換えと並んでバイオテクノロジー分野での基幹技術であり、これを利用した診断薬、治療薬は急速に普及発展している。
モノクローナル抗体については、マウス、ラット型など広く活用されているが、ニワトリ型については、発明者がすでに提案した例がある程度である。このニワトリ型の大きな利点は、マウス等の哺乳動物では作成困難な抗体が作成可能であるということである。
【0003】
ニワトリは系統発生学的に哺乳動物より下等であるが、哺乳動物と同様に極めて精緻な免疫能力を持つ動物であることから、これまでに有用なニワトリ抗体が数多く作成されてきた。一方、ヒトをはじめとする哺乳動物間で高度保存された生体成分を認識できる抗体が哺乳動物を用いて作成できない場合、ニワトリ抗体として作成可能であることも経験されてきた。そのため、ニワトリ抗体を大量調整するひとつの手段として、産卵鶏を特定の抗原で免疫し、その後、卵に移行した抗体を生成して卵黄抗体(ポリクローナル抗体)として利用する方法が開発されているが、この方法によりモノクローナル抗体を製造することはできない。
【0004】
マウスモノクローナル抗体は、極めて広範な基礎・応用領域に活用されているが、マウス型、ラット型以外のモノクローナル抗体については、応用にまで至っている成功例は少ない。マウス型、ラット型以外のモノクローナル抗体での応用の一例としては、本発明者らが開発した細胞融合法によるニワトリ型モノクローナル抗体がすでに報告されている。上述したとおり、ニワトリの大きな利点は、マウスあるいはラットを用いて作成困難な抗体がニワトリ抗体として得られやすいことであり、モノクローナル抗体としても作成可能なことである。
本発明者らによる細胞融合技術を用いたニワトリ型モノクローナル抗体の成功例としては、N−グリコリルノイラミン酸(NeuGc)を認識するニワトリ型モノクローナル抗体や哺乳動物に高度保存されたプリオンタンパク(PrP)を認識するニワトリ型モノクローナル抗体などである。NeuGcは、ヒトのがんマーカーとなる抗原で、ヒトを除くほとんどの哺乳動物に存在しているため、マウス、ラットやウサギなど一般に広く免疫動物として用いる動物では抗体を作ることができない。また、PrPは、その異常型が狂牛病やヒトCJDの病原体となることで知られているが、PrPは哺乳動物間でアミノ酸配列の相同性は90%以上である。一方、哺乳動物とニワトリの間ではその相同性がわずか30%台であるため、これまでに作成された哺乳動物PrPを認識するマウスモノクローナル抗体作成の成功例はわずかである。本発明者らは、すでにNeuGcや哺乳動物PrPを認識できるニワトリ型mAbの作成に成功し、それらをヒトがんの診断や狂牛病・ヒトCJDの研究に活用することができていた。
【0005】
しかしながら、本発明者らが先に開発したニワトリ型モノクローナル抗体の最大の欠点は、その抗体を産生するハイブリドーマ(融合細胞)の抗体産生能力が低いことであった。
このように、ニワトリ型モノクローナル抗体は、他の哺乳動物では作成が困難であるモノクローナル抗体を作成することができるが、その抗体産生細胞(ハイブリドーマ)の抗体産生能力がマウスやラットより低いことが大きな欠点であり、実用化にあたっての大きな障害となっていた。
【0006】
一方、近年になり、遺伝子工学技術を活用して組換え抗体(リコンビナント抗体)をファージ表面に発現させる技術が開発された。このファージディスプレイ抗体技術は1991年に英国MRC研究所のWinterらによって開発されたシステムで(非特許文献1参照)、非免疫ヒト末梢血リンパ球から抗体遺伝子を単離し、人工的にVH、VL遺伝子をシャッフリングさせ多様化したscFv(single chain Fragment of variable region)抗体をファージ融合タンパクとして発現させ、特異抗体を得た(非特許文献2参照)。この技術は、免疫を回避でき、さらに細胞融合法に変わるヒト化抗体作製技術として高く評価された。現在では高度免疫したマウス脾細胞を利用して実用的抗体が数多く作製され、抗PrP抗体も同様に作製されている(非特許文献3参照)。
【0007】
また、ニワトリを利用した例としては、以下に示す国内外の2つのグループからの報告が挙げられる。Daviesらは、非免疫状態のファブリキウス嚢由来抗体遺伝子と、発現ベクターfd−tet−DOG 1から3種の特異抗体を樹立し、哺乳動物以外でも同様にこの技術の適応が可能であり、しかも免疫を回避して作出できることを証明した(非特許文献4参照)。しかしながら、作出された抗体の反応性は極めて低く、また発現ベクターの構造からファージディスプレイ抗体しかできないという欠点があった。一方、山中らは、マウスアルブミン免疫脾細胞由来の抗体V領域遺伝子と、独自に開発した発現ベクターpPDSを利用して十分な反応性を示す特異的ファージディスプレイ抗体の構築を報告し、実用化抗体の作製には、免疫脾細胞由来抗体遺伝子ライブラリーの利用を強調した(非特許文献5参照)。ここで使用したpPDSは、マウス抗体発現用ベクターとして開発されたもの(非特許文献6参照)で、STRATA GENE社から市販されているクローニング用ファージミドベクターのpBluescriptIIをベースとしている。
【0008】
図1に発現ベクターpPDSの構成を示す。pPDSは、そのラクトースオペロン(Lac)プロモーターを利用し組み込んだscFv抗体cDNAの発現を誘導するようになっている。プロモーターの下流には、リボゾーム結合部位(RBS)およびM13 geneIIIのリーダー配列(g3l)を人工的に繋ぎ込み、EagIとBssHIIとからなるクローニングサイトで組み込まれた抗体遺伝子が大腸菌のペリプラズムを経て再構成ファージ体として発現できるよう設計されている。更にその下流にはFab抗体の発現に備えてマウスCκ鎖遺伝子を繋ぎ、cp3の構造部位へとつながり終止コドンとなっている。このCκ鎖は、融合タンパクの発現がうまく行われているかどうかを検証する上でも非常に有効なタグとなる。また、このpPDSベクターは、可溶型scFvもしくはFab抗体の発現にも対応できるように、Cκ鎖とgeneIIIの間にはTAG(アンバー配列)ストップコドンを挿入しており、通常はsupEの大腸菌株を用いることによりファージディスプレイ抗体として発現されるが、ノンサプレッサー株で培養すれば、培地中に可溶型抗体が分泌されるようになる。
このような発現ベクターであるため、可溶型抗体においてはニワトリ抗体遺伝子由来であっても、検出にはマウスCκ鎖に対する抗体を用いなければならず、サンドイッチELISA等におけるマウス抗体併用の場合、ニワトリ抗体の正確な測定が不可能であった。本発明者らは、山中博士よりpPDSの恵与を受け、抗体産生ニワトリハイブリドーマからファージディスプレイ抗体の作出に活用しようとしていることからも、この問題は解決すべき事項であった。
【0009】
【非特許文献1】Winter, G., et al., Nature, 349, 293-299 (1991)
【非特許文献2】Marks, J. D., et al., J. Mol. Biol., 222, 581-597 (1991)
【非特許文献3】Williamson, R. A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99, 7279-7282 (1996)
【非特許文献4】Davis, E. D., et al., J. Immunol. Methods, 186, 125-135 (1995)
【非特許文献5】Yamanaka, H. I., et al., J. Immunol., 157, 1156-1162 (1996)
【非特許文献6】Yamanaka, H. I., et al., J. Biochem., 117, 1218-1227 81995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遺伝子組換え法による多量生産に適したニワトリ型モノクローナル抗体の製造方法を提供するものである。また、本発明は、そのための新規なプラスミドベクター及びそのための新規なプライマーを提供するものである。さらに本発明は、新規なニワトリ型モノクローナル抗体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、遺伝子組換え法によりニワトリ型モノクローナル抗体を製造する方法において、ニワトリCλ鎖(L鎖定常領域)をコードする遺伝子が導入されている発現ベクターに、ニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子を導入した発現ベクターを用いることを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体の新規な製造方法、及びその方法で製造されるニワトリ型モノクローナル抗体に関する。
また、本発明は、前記方法で使用される新規な発現ベクターに関する。
さらに、本発明は、ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひととつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー、及び当該プライマーを使用してニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させる方法に関する。
また、本発明は、ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーとして有用な新規なオリゴヌクレオチドに関する。
【0012】
より詳細には、本発明は、次の(1)〜(11)の事項に関する。
(1) ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひととつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー。
(2) 塩基数が15〜30である前記(1)に記載のプライマー。
(3) 塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖である前記(1)又は(2)に記載のプライマー。
(4) 他方のプライマーの塩基配列が、
5’−ctgatggcggccgtgacgtt−3’
又はその相補鎖である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプライマー。
(5) 他方のプライマーの塩基配列が、
5’−tctgacgtcgcgctgactcagcc−3’
又はその相補鎖である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプライマー。
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載のプライマーを用いて、ニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させる方法。
(7) 可変領域がVL領域である前記(6)に記載の方法。
(8) プライマーが前記(5)に記載のプライマーである前記(7)に記載の方法。
(9) 可変領域がscFvである前記(6)に記載の方法。
(10) プライマーが前記(4)に記載のプライマーである前記(9)に記載の方法。
(11) 塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖であるオリゴヌクレオチド。
【0013】
本発明者らは、プリオン病の病態解析やプリオン変換機構解明へのツールとなりうるニワトリ型抗プリオンタンパク(PrP)パネルモノクローナル抗体の作製とその安定的な利用を目的として、まず細胞融合法によって得られた哺乳動物プリオンタンパク(PrP)25−29残基(RPKPG)を認識する有効性の示されたPrP特異的ニワトリ型モノクローナル抗体HUC2−13を供試材料に、pPDS発現ベクターを用いたファージディスプレイ抗体技術によるリコンビナント化と大量調製の確立を行った。
【0014】
本発明者らは、まず哺乳動物プリオンタンパク(PrP)23−231残基を認識するニワトリモノクローナル抗体を次のようにして調製した。
リコンビナントヒトプリオンタンパク(PrP)23−231(約100μg)を4週齢の近交系ニワトリ白色レグホン種H−B15ニワトリの腹腔内に免疫し、その脾臓を摘出し免疫脾細胞を調製した。これをTK欠損・ウアバイン耐性のニワトリB細胞株であるMuH1とPEG法により融合して、融合細胞(ハイブリドーマ)を得た。
このようにして得られた抗体産生ハイブリドーマあるいは免疫ニワトリの脾臓リンパ球から調整した抗体遺伝子(VHおよびVL領域)をフレキシブルリンカーを介して1本鎖にしたscFv(single chain fragment of V region)を作成した。このscFvを発現させるプラスミドベクターとしては、すでに山中(現ロート製薬)が構築したpPDS(図1参照)があるが、pPDSを用いると、scFvのN末端側にマウス免疫グロブリンL鎖のC領域(Cκ)が発現し、V領域がニワトリでC領域がマウスの組換え抗体となってしまう。
【0015】
抗体の特異性(反応性)はV領域が規定することから、反応性には問題ないが、HUC2−13のようなバックグラウンド染色のない検出はpPDSベクターを使用した場合には得られなかった。リコンビナント抗体作出に使用した発現ベクターpPDSは,山中らによりマウス抗体発現用ベクターとして設計・構築されたものであり、発現するscFv抗体は,変異頻度の極めて高い抗体V領域で構成されており、安定的に検出することが困難であることから、検出用タグとしてマウスCκ鎖が導入されている。したがって、pPDSベクターを使用して作出したリコンビナント抗体は、抗原認識部位がニワトリ抗体由来でありながら検出には抗マウスκ鎖抗体を用いなければならず、その結果として、バックグラウンド染色が生じてきた。リコンビナント抗体において、マウスCκ鎖を検出用タグとする限り、(1)高感度検出や定量実験に汎用されるサンドイッチELISAを実施した場合、キャプチャー抗体にマウス抗体を用いたとすると、その抗体をバックグラウンドとして検出してしまうこと、(2)モデル動物としてマウスを使用した免疫組織化学染色の場合、そのマウスの持つ免疫グロブリンを非特異的に検出してしまう、といった問題点が生じる。
【0016】
そこで、本発明者らは、上述の問題点を解消するとともに、プリオン病解析さらにはより広範な研究にニワトリ型抗体が活用されることを目的として、抗ニワトリIg抗体で検出できるよう、pPDS内のマウスCκ鎖をニワトリCλ鎖(L鎖定常領域)に置換した新規な発現ベクターの構築を試みた。さらに精製を簡便化する目的から、精製用タグ(FLAG)を導入した純ニワトリ型リコンビナント抗体発現用ベクターの構築をおこなった。
図2にニワトリリコンビナント抗体発現用ベクター(pCPDS)の構築の概要を示す。
まず、ニワトリCλ鎖遺伝子をクローニングした。
正常ニワトリ脾細胞から合成したcDNAをもとにPCRでニワトリCλ鎖を増幅させたところ、Cλ鎖遺伝子と思われる約340bpのバンドを得た(図3のA参照)。図3はこれらの結果を示す図面に代わる写真である。図3中の「M1」はpUC118 HinfIで消化を、「M2」はφx174 HaeIIIで消化を示す。
このバンドを制限酵素処理後ライゲーションし、形質転換を行った。翌日ランダムに6クローンをアルカリSDS法でプラスミド調製を行い、インサートの有無を確認したところ、全てにインサートが確認された。6クローンのうちの1クローン(クローン#1)について塩基配列決定を行ったところ、114残基のアミノ酸をコードする既報のCλ鎖と完全一致した(図4参照)。そこで、このクローンをベクター再構築用コンストラクト調製のためのテンプレートとした。
【0017】
塩基配列を決定したクローニング済のニワトリCλ鎖遺伝子をもとに、再構築コンストラクトに使用するニワトリCλ鎖遺伝子をPCR法を用いて調製した。その結果、副生成物も多々みられたが、約360bpの位置にニワトリCλ鎖にFLAG配列の付加したと思われるバンドが検出された(図3のB参照)。このバンドを精製し、geneIII遺伝子とのオーバーラップPCR用テンプレートとした。
【0018】
一方、pPDSからのgeneIII遺伝子の増幅は、PCR法を用いて行った。その結果、約600bpの位置にgeneIII遺伝子と思われるバンドが検出された(図3のC参照)。このバンドを精製し、FLAG配列の付加したニワトリCλ遺伝子とのオーバーラップPCR用テンプレートとした。
【0019】
ニワトリCλ鎖とgeneIII遺伝子のオーバーラップPCRは、ニワトリCλ鎖遺伝子3’側そしてgeneIII遺伝子の5’側に付加されたFLAG配列を介して行った。その結果、約950bpの位置にニワトリCλ鎖とgeneIII遺伝子が連結したと思われるバンドが検出された(図3のD参照)。このバンドを精製し制限酵素処理を行い、EagIとEcoRIで処理されたpPDSにライゲーション、大腸菌へ形質転換した。
【0020】
大腸菌への形質転換後、15クローンをニワトリCλ鎖遺伝子の増幅でインサートチェックした。その結果、12クローンで約360bpの位置にニワトリCλ鎖の増幅が確認できた(図5参照)。図5はこの結果を示す図面に代わる写真である。図5の「M」はpUC118 HinfIで消化を示す。
これらのクローンはそれぞれpCPDS1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12と命名した。これら12クローンはscFv遺伝子を含まない状態でファージ体の調製を行い、発現タンパクの検討を行った。
この12クローン由来のファージ体は、抗マウスIgG(H+L)ならびに抗ニワトリIgG(H+L)をキャプチャー抗体とし、ペルオキシダーゼ標識抗M13抗体を検出用抗体とするサンドイッチELISAでニワトリCλ鎖およびファージ体の発現確認をした。なお、陽性対照としてpPDSから発現させたファージ体を用いた。その結果、pCPDS8と10を除いた残り10クローンで抗ニワトリIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合、ELISA値(OD492)平均0.6の反応性であった(図6)。図6はこの結果を示すものであり、黒塗りはキャプチャー抗体として抗マウスIgG(H+L)を使用した場合を示し、白抜きはキャプチャー抗体として抗ニワトリIgG(H+L)を使用した場合を示す。
これらのクローンは、抗マウスIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合には、平均0.17と低値であり、さらにpPDSでの反応性に比べ明らかに低いことから構成されたベクターは再構築用コンストラクトを正確に発現する再構築ベクターであることがわかった。
【0021】
得られた発現ベクターpCPDSの構成を図7に示す。
上述した実験で、正確なニワトリCλ鎖および再構成ファージの発現が確認された再構築ベクターpCPDS7を用い、図8〜図13に示すニワトリ抗体をコードする遺伝子HUC2−13のファージディスプレイ抗体および可溶型抗体を調製した。調製したリコンビナント抗体は、HUC2−13とあわせてH25ペプチドに対する反応性の確認を試みた。その結果、一次抗体を希釈なしで用いた場合、全ての抗体でELISA値(OD492)が1.5を越えた。希釈した場合、HUC2−13および菌体破壊から調製した可溶型抗体では25倍希釈までほとんどELISA力価の低下はみられなかった。一方、ファージディスプレイ抗体および培養上清からの可溶型抗体では低下傾向にあり、125倍希釈では陽性ELISA力価が得られなかった。菌体破壊から調製した可溶型抗体は、125倍希釈からHUC2−13のELISA力価を上回っていた(図14参照)。
【0022】
図14はこの結果を示したグラフである。図14中の黒四角印はニワトリ型ファージディスプレイ抗体を示し、灰色菱形印はニワトリ型可溶型抗体(培養上清)を示し、灰色丸形印はニワトリ型可溶型抗体(菌体破壊)を示し、灰色三角形印はHUC2−13(ネイティブ抗体)を示す。
【0023】
以上の実験から、純粋なニワトリリコンビナント抗体作製のためのベクターの再構築ができたことがわかった。このベクターから得られた純粋なニワトリリコンビナント抗体は、マウス抗体によるノイズが少なく、検出のS/N比を高くすることができる。
本発明のベクターの構築に当たって、(1)機能的なScFv抗体が発現できる、(2)将来的にFab抗体も作製できるようなベクターにする、(3)簡便に精製できる、の3点に留意した。この3点を考慮し、マウスCκ鎖の代わりにニワトリCλ鎖を、精製用タグとしてFLAG配列と呼ばれる人工配列を選択した。
【0024】
また、再構築ベクターの作製にはpPDSベクターをベースとし、適当な制限酵素部位を利用してコンストラクトの入れ替えという形でできるようにした。pPDSは、scFv抗体クローニングサイト以降geneIII終止コドンの直後のEcoRIまで、位置的にも適当な制限酵素部位がないためEagI−EcoRI間、もしくはBssHII−EcoRI間でコンストラクトを置換せざるを得なかった。ニワトリCλ鎖とScFv抗体遺伝子の連結部位は、自然なVL−Cλアミノ酸配列に近似するよう注意しながら、高切断効率であり、かつベクターやScFv抗体遺伝子を切断しない制限酵素とその設置部位を選定した。この切断位置を検討するために、Vλ領域とCλ領域の結合をまとめた。これを表1として示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1の*は置換可能なアミノ酸であり、イタリックは置換に問題があるアミノ酸を示す。1)で示されるアミノ酸配列に対応する塩基配列はpPDS用のプライマー配列であり、2)で示されるアミノ酸配列に対応する塩基配列は本発明のニワトリ型抗体発現ベクター用のプライマー配列であることを示す。
この結果、ふたたびBssHIIとなったが、BssHII−EcoRI間でコンストラクトの置換を行うと、空ベクター発現時にフレームシフトが生じ正確にタンパク発現されないことから、ベクターの有効性を確認できないことが明らかとなった。そこで、新たなEagI−BssHII間のスペーサーをつけ加えたEagI−EcoRI間コンストラクトを導入することにした。
【0027】
ニワトリCλ鎖はニワトリ脾細胞から、geneIIIはpPDSから遺伝子を準備した。一方、FLAG−アンバー配列はプライマーの一部に導入し、Cλ鎖増幅時に連結させることとしたが、煩雑な脾臓細胞由来cDNA群からCλ鎖増幅時にこの54塩基もあるプライマーを用いるのは危険であると判断し、いったんクローニングしたCλ鎖をテンプレートとしてFLAG−アンバー連結PCRを行うことにした。
EagI−BssHIIのscFv抗体遺伝子クローニングサイト−ニワトリCλ鎖−FLAG−アンバー配列(TAG)−geneIIIまでの再構築用コンストラクトは全てKOD DNAポリメラーゼを用いたPCR法で作製した。EagIとEcoRIで処理したpPDSにライゲーションし、最終的に10クローンのニワトリCλ鎖、再構成ファージ体を発現するベクターが得られた(図6参照)。
【0028】
以上の実験に基づく本発明の純粋なニワトリリコンビナント抗体作製のための概要を図15に示す。これを順に説明する。
(1)抗体V領域遺伝子(VHおよびVL)の調製
抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、RT−PCR(逆転写PCR)により合成したcDNAを元に、下記の表2に示す合成プライマーセット(VH増幅用プライマーセット、VL増幅用プライマーセット)を用いて増幅する。
(2)scFvの構築
(1)の実験で得たVHおよびVLの増幅産物を精製した後、VHおよびVLを、リンカ(scFv linker)(−(Gly−Gly−Gly−Ser)3−)を用いて連結する(アッセンブリー反応)。
(3)scFvの再増幅と制限酵素処理
scFvの再増幅のための下記表2に示すプライマー・セット(CHBとCLF1)を用いて、(2)で構築したscFvの再増幅を行い、scFvを精製した後、プラスミドベクターpCPDSに挿入するため、制限酵素(EagIとBssHII)を用いてscFv挿入遺伝子断片(インサート)を調製する。
【0029】
(4)インサート(scFv)のpCPDSへの挿入(ライゲーション)
pCPDSとインサートを1:1〜10(モル比)に調整し、Ligation Kit ver.1(タカラ社製(TAKARA))を用いてライゲーションを行う。
(5)大腸菌の形質転換
インサートを挿入したpCPDS(10μl)を用いて、大腸菌(XL1−blue,100μl)を形質転換する。
(6)インサートを発現する形質転換大腸菌の選抜
増殖させた大腸菌のコロニーから複数の大腸菌コロニーを任意に取り、プライマー・セットを用いてscFvの増幅を行い、インサートを発現する形質転換大腸菌を選抜する。
(7)ファージ発現抗体の作成
選抜済み大腸菌にヘルパーファージを感染させ、ファージ発現抗体を作成する。
(8)特異的ファージ抗体の選抜のためのパニング
抗原(プリオンタンパク)を固相化したプレートにファージ発現抗体を反応させた後、反応したファージ発現抗体のみを回収し、大腸菌に感染して特異的ファージ抗体を選抜する。
(9)可溶化抗体の作成
特異的ファージ抗体をノンプレッサー大腸菌(SOLAあるいはHB2151)に感染させる。感染24時間後に、大腸菌培養上清および培養菌体を回収し、上清および菌体破壊抽出物を可溶化抗体とする。
(10)可溶化抗体の生成
抗FLAG抗体結合アガロースゲルを用いて可溶化抗体をアフィニティ精製する。
【0030】
このようにして、本発明の発現ベクターpCPDSを用いることにより純粋なニワトリリコンビナント抗体を製造することができる。この本発明のニワトリ型抗体を作成するためのscFvの製造についてさらに詳細に説明する。
哺乳動物と鳥類では、抗体遺伝子の多様性獲得メカニズムが異なっており、哺乳動物抗体遺伝子では多数のV遺伝子のうちの1つが再構築するが、鳥類抗体遺伝子では、機能する抗体遺伝子はただ1つであり、この機能的抗体遺伝子内に偽V遺伝子がランダムに挿入される。
図16は哺乳動物(図16上段)と鳥類(図16下段)における抗体H鎖を模式的に示したものである。哺乳動物抗体遺伝子では多数のV遺伝子のうちの1つが再構築するために、5’側の塩基配列も変動し、抗体の種類によってプライマーを用意しなければならないのであるが、鳥類抗体遺伝子では、機能する抗体遺伝子はただ1つであり、この機能的抗体遺伝子内に抗体の種類に応じた偽V遺伝子がランダムに挿入されるために、どの種類の抗体であったも5’側の塩基配列も基本的に変動しない。
【0031】
したがって、抗体遺伝子を抗体産生細胞からPCRで増幅しようとする場合、哺乳動物V遺伝子は、多数のV遺伝子のどれが用いられているかわからないので、抗体の種類に応じて5’側(V遺伝子側)に多数のプライマーを合成し、準備しなければならない。
一方、鳥類V遺伝子は、ベースとなる機能的V遺伝子が1つであるので、あらかじめその塩基配列がわかっているので、5’側1つ、3’側1つの1ペアのプライマーで、全ての抗体産生細胞に対応できる点も、鳥類の抗体を用いる際の大きな特徴である。
本発明が開示する鳥類用のプライマーを次の表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示されるプライマーセットを使用することにより、基本的にはどのような抗体であっても、鳥類、好ましくはニワトリの抗体遺伝子を増幅させることが可能となる。この中で、CLF1として示されるプライマーは、新規な塩基配列を有するものであり、その途中に制限酵素BssHIIで切断できるサイト(gcgcgc)を有していることを大きな特徴とするものである。この塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
図17は、このプライマーCLF1の使用状況を模式的に示したものであり、図17の上段の左側がVL領域であり、そのすぐ右側がCλ領域である。前記してきたように、発現ベクターpCPDSにおいてはVL領域とCλ領域が制限酵素BssHIIで結合されるために、VL領域の3’末端とCλ領域の5’末端の結合の様子を示している。図17の丸2で示した塩基配列の四角枠で囲った部分が制限酵素BssHIIで切断可能な位置である。
そして、前述してきたように鳥類ではVL領域の末端の塩基配列は抗体の種類により変動しなのであるから、このプライマーCLF1を用いることによりVL領域及びVH−リンカー−VLからなるscFvをも増幅可能となる。
【0034】
以上のように、本発明は純粋なニワトリリコンビナント抗体を製造するための新規なプライマーセット、新規な発現ベクターpCPDS、及びそれを用いて製造される純粋なニワトリリコンビナント抗体を提供するものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、純粋な鳥類型リコンビナント抗体、好ましくはニワトリ型リコンビナント抗体を提供する。
ニワトリ型モノクローナル抗体は、哺乳動物では作成できないモノクローナル抗体を作成することができ、ヒトのがんマーカーとなる抗原であるN−グリコリルノイラミン酸、プリオン病に関連するプリオンタンパクなどを認識するなどの例をはじめ、多くの生体系高分子への応用が可能であり、種々の検査・診断薬などへの展開が期待される。したがって、がん、プリオン病などの種々の診断薬、治療薬への応用が期待される。ところが、ニワトリ型の大きな欠点は、一般にモノクローナル抗体を産生させる融合細胞の手法では、実際に実用するための必要量ができないことである。本発明は、実質上純粋なニワトリ型抗体を、遺伝子組み替え法で、初めて多量に作ることに成功した。即ち、本発明は、新規なプラスミドベクターとプライマーを用いてニワトリ型モノクローナル抗体を効率よく多量に産生することを可能にしたものであり、抗体、その製法、ベクター、プライマー・セット等を提供するものである。
また、鳥類の抗体遺伝子は、3’末端及び5’末端の塩基配列が比較的固定化されており、本発明が提供するプライマーを用いて抗体の種類に関係なく当該遺伝子を増幅することが可能であり、本発明は各種の抗原に対するモノクローナル抗体を遺伝子組換え手段により簡便に作成できる方法を提供するものである。
【0036】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
ニワトリリコンビナント抗体発現用ベクターの設計
ニワトリリコンビナント抗体発現用ベクターの設計は、pPDSベクターをベースに行った。pPDSにすでに挿入されているマウスCκ鎖遺伝子をニワトリCλ鎖遺伝子に置換し、その際VLとCλ連結の配列がgermlineのアミノ酸配列に近似し、使用遺伝子が切断されないようなクローニング用制限酵素部位を選択した(表1参照)。また、インサートのない状態(Mock)でもニワトリCλ鎖の発現でベクター検定できるようEagI以降のスペーサー配列も新たに設計し直した。ニワトリCλ鎖の下流には精製用タグであるFLAG配列(DYKDDDDK)、さらにFLAG配列とgeneIIIの間には可溶型抗体として発現できるようTAG(amber)ストップコドンを挿入した。EagI部位からgeneIIIまで作製したコンストラクトは、EagIとEcoRI処理したpPDSにライゲーションし、ニワトリリコンビナント抗体発現用ベクターとした(図2参照)。
【実施例2】
【0038】
ニワトリCλ鎖遺伝子の単離
(1) ニワトリCλ鎖遺伝子クローニング用プライマーの設計と合成
ニワトリCλ鎖遺伝子クローニング用プライマーは、既報のCλ鎖塩基配列をもとにOLIGO 4.05 Primer Analysis Software(National Bioscinece)を用いて設計し、北海道システムサイエンスに委託して合成した。
(2) ニワトリCλ鎖遺伝子の増幅とクローニング
ニワトリCλ鎖遺伝子の増幅は、正常ニワトリ脾細胞から後記する方法に準じRT−PCR法で行った。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 20μlに再溶解した。その溶液に16U/μlのBamHIと20U/μlのHindIIIをそれぞれ1μlずつ添加し、37℃ 2時間の制限酵素処理し、エタノール沈殿濃縮をした。濃縮後のサンプルは、DW 10μlに再溶解し、1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動後、UltraCleanで精製し、DW 10μlに再溶解した。濃度測定後、pBluescriptII SK(−)とモル比がベクター:インサート=1:3になるように混合し、TAKARA Ligation Kit ver.1で16℃ 3時間ライゲーションした。ライゲーション終了後、その反応液5μlをコンピテントセルに形質転換し、40μlをアンピシリン含有2×YTプレートにプレーティングした。翌日、得られたコロニーを単離しアンピシリン含有2×YT培地で少量培養し、アルカリ−SDS法でプラスミドを調製後、BamHI、HindIIIで制限酵素処理し、インサート有無の確認をした。
定法にしたがって、その塩基配列を決定した(図4参照)。
【実施例3】
【0039】
連結反応用ニワトリCλ鎖遺伝子の調製
(1) ニワトリCλ鎖遺伝子増幅用プライマーの設計と合成
再構築ベクターのコンストラクトとなるニワトリCλ鎖遺伝子の増幅用プライマーは、scFv抗体遺伝子クローニングサイトになるようEagI、BssHIIを組み込み、さらに空ベクターでも発現できるようフレームシフトに留意したセンスプライマーと、FLAG−アンバー−geneIII−5’末端配列を付加してpPDSから単離したgeneIIIと連結できるようにしたアンチセンスプライマーを設計し、その合成した。
(2) ニワトリCλ鎖遺伝子の増幅
塩基配列決定後、データバンクと照会し完全一致したクローンは、塩化セシウム法で大量調製した。調製したサンプルをテンプレートとし、オーバーラップPCR用ニワトリCλ鎖遺伝子を調製した。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 10μlに再溶解した。この反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、UltraCleanで精製、DW 10μlに再溶解し、VCS−M13由来geneIIIとのオーバーラップPCR用サンプルとした。
【実施例4】
【0040】
連結反応用VCS−M13由来geneIIIの調製
(1) geneIII増幅用プライマーの設計と合成
pPDSからのgeneIII増幅には、ニワトリCλ鎖とFLAG−アンバー配列を介して連結できるようなセンスプライマーとgeneIIIの終止コドン直後にEcoRIを導入したアンチセンスプライマーを設計し、合成した。
(2) geneIIIの増幅
VCS−M13由来geneIIIの調製は、pPDSベクターからPCR法で行った。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 10μlに再溶解した。この反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、UltraCleanで精製、DW 10μlに再溶解し、ニワトリCλ鎖とのオーバーラップPCR用サンプルとした。
【実施例5】
【0041】
ニワトリCλ鎖とgeneIIIとの連結反応
ニワトリCλ鎖とgeneIIIとの連結は、モル比1:1で混合したテンプレートをもとにアッセンブリー反応、再増幅反応で行った。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 10μlに再溶解した。この反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、UltraCleanで精製、DW 10μlに再溶解した。
【実施例6】
【0042】
pPDSベクターからのマウスCκ鎖、geneIIIの除去とニワトリCλ鎖−gene3の挿入
pPDSベクターにニワトリCλ鎖−geneIIIを挿入するため、10U/μlのEagIと10U/μlのEcoRIで制限酵素処理し、さらに、分子内ライゲーションを防ぐためBAP処理を行った。BAP処理後の反応液は、1.0%アガロースゲルを用いて電気泳動し、UltraCleanで精製後、DW 10μlに再溶解し、再構築用サンプルとした。また、ニワトリCλ鎖−geneIIIも同様に制限酵素処理、精製して10μlの再構築用サンプルを準備した。調製した再構築用サンプルは濃度測定後、ベクター:インサートのモル比が1:3になるように混合し、TAKARA Ligation Kit ver.1で16℃ 3時間ライゲーションし、その反応液5μlをコンピテントセル50μlに形質転換した。形質転換した大腸菌はアンピシリン含有2×YTプレートに40μlプレーティングし、終夜37℃で培養した。
挿入遺伝子は,コロニーをテンプレートにニワトリCλ鎖のPCR法による増幅で確認した。
【実施例7】
【0043】
再構成ファージ体発現の確認
再構成ファージ体発現の確認は,サンドイッチELISA法で行った.抗ニワトリIgG(H+L)抗体(Kirkegaard and Perry Laboratories)と抗マウスIgG(H+L)抗体(Kirkegaard and Perry Laboratories)を0.5μg/wellで4℃ 終夜固相化し、ブロッキングの後、挿入遺伝子の確認できたコロニーをもとにscFv抗体発現なしの再構成ファージ体を50μl/well添加し、37℃ 1時間反応させた。反応後、3,500倍希釈したHRPO標識抗M13抗体を37℃ 1時間反応させo−フェニレンジアミンを基質として発色させた。10分間の反応後、492nmの吸収をマイクロプレートリーダ MPR−A4iで測定した。
【実施例8】
【0044】
HUC2−13の作成
(1) 供試細胞株
チミジンキナーゼ欠損、ウアバイン耐性のニワトリB細胞株MuH1を親株として、細胞融合で作成された哺乳動物プオリンタンパクPrPの25−29残基を認識する抗PrPニワトリモノクローナル抗体HUC2−13産生ハイブリドーマを使用した。なお、細胞は10%FBS(Fetal bovine serum)(SIGMA)含有IMDM(Iscove's modified Dullbecco's medium)(GIBCO BRL)を用い、38.5℃、5%CO2インキュベーター内で培養維持した。その培養上清は、抗PrPニワトリモノクローナル抗体HUC2−13として利用した。
(2) 抗体V遺伝子のRT−PCRによる増幅
(2−1) RNAの抽出とcDNAの合成
供試細胞のRNAは、ISOGEN−LS(Nippon Gene)を用い、添付のプロトコールに従い単離した。単離したRNAは、ジエチルピロカーボネート処理蒸留水(diethylpyrocarbonate-distilled water、DEPC-DW)20μlに再溶解した。
1st strand cDNAの合成は、Oligo−dTプライマー法を用いて行った。1〜5μgの全RNA溶液に500μg/ml Oligo dT15プライマー(Boehringer Mammheim)を1.0μl加え、蒸留水(D.W)で12μlに調製した。この混合液を70℃で10分間インキュベートし、氷冷後、5×逆転写バッファー(GIBCO BRL)を4.0μl、0.1Mジチオスレイトール(dithiothreitol、DTT)(GIBCO BRL)を2.0μl、5mM dNTPs(GIBCO BRL)を2.0μl加え、42℃で2分間インキュベートした。その後、200U/μl逆転写酵素(SuperscriptII RT)(GIBCO BRL)を1.0μl加え、42℃で50分間、続いて70℃で15分間インキュベートした。合成したcDNAは−20℃で保存した。
(2−2) VH、VL抗体遺伝子ならびにリンカー遺伝子の増幅と精製
PCR(polymerase chain reaction)法によるVH、VL抗体遺伝子の増幅には、(2−1)で合成したcDNAを、リンカー遺伝子の増幅にはリンカー供給用に構築されたプラスミドpLINKをテンプレートとし、それぞれ1ペアのセンスプライマーおよびリバースプライマー、KOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、Cloned Pfu DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer)を用いた。また、陽性対照として、Yamanakaらが作製した抗マウスアルブミンモノクローナル抗体3C8(ニワトリリコンビナント抗体)を供試した。VH、VL抗体遺伝子のPCR反応溶液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/ml グリコーゲン 2μlを加えたエタノール沈殿によって濃縮した後、1.5%アガロースゲル(和光純薬)を用いて電気泳動した。得られたバンドは、Ultra Clean(MO BIO laboratories、 Inc.)で添付プロトコールに従い精製し、DW 20μlで溶出させた。リンカー遺伝子のPCR反応溶液は、VH、VL抗体遺伝子の精製と同様に行った。ただし、電気泳動には3.0%アガロースゲルを用いた。
【0045】
(2−3) scFv抗体遺伝子の増幅と精製
scFv抗体遺伝子合成増幅のためのアッセンブリー反応ならびに再増幅反応は、精製したVH、VL、およびリンカーをそれぞれモル比1:1:1で混合して行った。scFv抗体遺伝子のPCR反応溶液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/ml グリコーゲン 2μl加えたエタノール沈殿によって濃縮した後、1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動した。得られたバンドは、Ultra Cleanで添付プロトコールに従い精製し、DW 20μlで溶出させた。
(3) 発現ベクター(pPDS)の調製
ロート製薬(株)山中八郎博士より分与を受けたファージディスプレイ用発現ベクター(pPDS)(図1)を、Escherichia coli XL1-Blueへ塩化ルビジウム法による形質転換を行い、50μg/mlアンピシリン含有2×YTプレートにプレーティング後、37℃の終夜培養をした。得られたコロニーは選択採取し、50μg/mlアンピシリン含有2×YT培地で大量振盪培養した。培養した大腸菌からのベクター精製は、塩化セシウム密度勾配平衡遠心法により行った。
(4) 制限酵素処理とBAP処理
精製したscFv遺伝子断片2μgとベクターpPDS10μgは、DNA1.0μgに対して4.0UのEagI(New England BioLabs, Inc.)を添加し、37℃で終夜処理した。EagI処理後、同様の比率で反応液にBssHII(New England BioLabs, Inc.)を添加し、50℃で4時間処理した。BssHII処理後,68℃、20分間の酵素失活処理をし、反応液をDWで300μlにメスアップした上でフェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/mlグリコーゲン 2μlを加えたエタノール沈殿をし、DW 30μlに再溶解した。
ベクターは、分子内ライゲーションを防ぐため大腸菌由来アルカリフォスファターゼ(Bacterial alkaline phosphatase、BAP)(TOYOBO)を用いて脱リン酸化処理した。ベクター30μlに5×BAPバッファー10μl、アルカリフォスファターゼ(0.4U/μl)3μl、DW 7μlを加え、37℃ 3時間の処理を行った。処理後の反応液は、DWで300μlにメスアップした上でフェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/ml グリコーゲン 2μl加えたエタノール沈殿をし、DW 30μlに再溶解した。
【0046】
(5) ベクターへのライゲーション
精製したscFv遺伝子断片とベクターpPDSのモル比が3:1になるように調製し、DNA ligation kit ver.1(TAKARA)を用いてライゲーション反応を行った。なお、その方法は添付プロトコールに従った。
(6) 形質転換(塩化ルビジウム法)
形質転換は、−85℃で保存したEscherichia coli XL1-Blueコンピテントセル溶液100μlを氷中で融解し、これにライゲーション溶液を10μl加え、氷中30分間静置した。次に42℃、2分間熱処理し、すばやく氷中に移して2分間静置した。SOC培地を1.0ml加え37℃で1時間振盪培養し、10μlを100μg/mlアンピシリン含有SOBAGプレートにプレーティング、37℃で終夜培養した。
(7) 挿入DNA断片の確認
挿入DNAであるscFv遺伝子の確認は、pPDSベクター由来の配列であり挿入部位を完全に増幅できるように設計したLac Z上流配列のM13−R、およびマウスCκ鎖内配列のSLP−1の1ペアプライマーを用い、コロニーをテンプレートとしたPCR法で行った。
(8) ファージディスプレイ抗体の調製
形質転換後、挿入DNA断片の確認されたコロニーは、50μg/mlアンピシリン含有SOC培地 2mlで30℃、ゆっくりとした終夜振盪培養をした。翌日、培養液 0.8mlに、100μg/mlアンピシリン含有Super Broth培地 0.2ml、および2Mグルコース 37μlを添加した。50mlチューブで37℃、3時間振盪培養した後、5×109pfuのヘルパーファージ(VCS−M13)を加え穏やかに振盪しながら30分間培養しファージを感染させた。さらに30分間強めに振盪培養した後、室温で800×g 10分間の遠心を行い上清を捨てた。沈殿物は、1mlの100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシン含有Super Broth培地で再懸濁した後、同培地9mlを加えて激しく振盪しながら終夜培養した。翌日冷却後、800×g 10分間の遠心で菌体を除き、0.45μmポアフィルター(関東化学)で上清を濾過し、その濾液をファージディスプレイ抗体浮遊液とした。なお、抗体は4℃もしくは−20℃で保存した。
得られたコロニーから10コロニーをランダムに単離し、PCRでインサート(scFv遺伝子断片)の有無を確認した。その結果、10クローン中4クローン(クローン#:1,3,5,および6)でインサートが確認され、これをもとにファージディスプレイ抗体を調製し、これら4種のファージディスプレイ抗体をそれぞれHUC2p1,HUC2p3,HUC2p5およびHUC2p6と命名した。
(9) 可溶型抗体の調製
可溶型抗体は、アンバー配列ノンサプレッサー株であるEscherichia coli XL1-Blue SOLR株(SOLR株)にファージディスプレイ抗体を感染させることにより作成した。SOLR株は25μg/mlカナマイシン含有SOC培地2mlで終夜培養し、その培養液200μlにファージディスプレイ抗体5μlを加えて37℃で1時間感染させた。この培養液を2×YT培地で希釈し、100μg/mlアンピシリン含有2×YTプレートにプレーティングし、37℃で終夜培養した。得られたコロニーをテンプレートとしたPCRでscFv抗体遺伝子断片が確認されたものを50μg/mlアンピシリン含有Super Broth培地2mlで培養した。その培養液500μlにSuper Broth培地4.5mlを加え、さらにアンピシリン、カナマイシンをそれぞれ終濃度100μg/ml、50μg/mlとなるように加え37℃、2時間振盪培養した。その後、終濃度が1mMとなるようにIPTGを加え、さらに4時間振盪培養した。培養液は氷冷後、室温で800×g 10分間遠心し、その上清を回収した。上清はさらに0.45μmポアフィルターで濾過滅菌し、その濾液を可溶型抗体液(培養上清)、また、沈殿物は培養液同容量のPBS 5mlで撹拌後、Handy Sonic model UR−20P(トミー精工)で超音波処理しその濾液を可溶型抗体液(菌体破壊抽出物)として調製した。なお、抗体は4℃もしくは−20℃で保存した。
【実施例9】
【0047】
HUC2−13 ScFv抗体の再構築ベクターを用いた発現
実施例8の(8)で構築したHUC2p3からScFv抗体遺伝子を再構築ベクター用に設計したプライマーを用い、増幅させた。反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後、エタノール沈殿濃縮し、DW 20μlに再溶解した。
塩化セシウム法を用いた大量調製後の再構築ベクターならびにHUC2p3由来ScFv抗体遺伝子は、10U/μlのEagIと10U/μlのBssHIIで制限酵素処理した。さらに、ベクターは分子内ライゲーションを防ぐためBAP処理を行った。処理後の反応液は、1.0%アガロースゲルを用いて電気泳動し、UltraCleanで精製後、DW 10μlに再溶解し、再構築用サンプルとした。調製した再構築用サンプルは濃度測定後、ベクター:インサートのモル比が1:3になるように混合し、TAKARA Ligation Kit ver.1で16℃ 3時間ライゲーションし、その反応液5μlをコンピテントセル50μlに形質転換した。形質転換した大腸菌はアンピシリン含有2×YTプレートに40μlプレーティングし、終夜37℃で培養した。インサートのチェックは、scFv抗体遺伝子増幅用のプライマーを用い、コロニーをテンプレートとするPCRで行った。
インサートの確認できたコロニーは、実施例8に記載した方法に準じてファージディスプレイ抗体を調製した.
【実施例10】
【0048】
可溶型抗体の調製
可溶型抗体の調製は、実施例8に記載した方法に準じて行った。
【実施例11】
【0049】
ELISA
調製したニワトリ型ファージディスプレイ抗体ならびに可溶型抗体の反応性は、H25ペプチドを抗原としてELISAで解析した。一次抗体のリコンビナント抗体ならびにネイティブ抗体は15,625倍までの5倍段階希釈液を用いた。二次抗体に2,000倍希釈したHRPO標識抗ニワトリIgG(H+L)(Kirkegaard and Perry Laboratories)を用いたELISAで解析した。
即ち、5μg/ml濃度のH25ペプチドを96ウェルプレートに50μl/well(0.25μg/well)ずつ添加し、4℃、終夜固相化しこれを抗原プレートとした。抗原プレートはBlockAce(雪印乳業)をPBSで25%に希釈したものを400μl/well加え37℃ 1時間ブロッキングし、PBS−Tween 20(0.05%)で3回洗浄した。一次抗体反応は、リコンビナント抗体を50μl/well加え、37℃、2時間静置して行った。PBS−Tween 20(0.05%)で5回洗浄後、二次抗体反応として10%BlockAceで3,000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗M13抗体(Amersham Pharmacia biotech)を加え、37℃ 1時間静置した。PBS−Tween 20(0.05%)で8回洗浄後、o−フェニレンジアミン(ペルオキシダーゼ標識二次抗体使用時)(SIGMA)もしくはp−ニトロフェニルフォスフェート(アルカリフォスファターゼ標識二次抗体使用時)(Kirkegaard and Perry Laboratories)を用いて20分間の発色を行い、492もしくは405nmの吸収をマイクロプレートリーダ MPR−A4i(TOSOH)で測定した。
【実施例12】
【0050】
抗体V領域遺伝子(VHおよびVL)の調整
抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、RT−PCR(逆転写PCR)により合成したcDNAを元に、表2に示す合成プライマーセット(VH増幅用プライマーセット、VL増幅用プライマーセット)を用いて、VH及びVL領域を増幅する。
(VH増幅条件)
10x KOD buffer 1 5μl
25mM MgCl2 3μl
2.0mM dNTPS 4μl
プライマーCHB(10nmol/ml)* 5μl
プライマーCHSF(10nmol/ml)* 5μl
cDNA 1μl
KOD polymerase 0.5μl
DW 26.5μl
*VL増幅条件はプライマーCLSBとCLF1を用いる。
以上のPCR混合物を作り、サーマルサイクラーにセットして、以下のPCRサイクル条件でVHとVLの増幅を行う。
(PCRサイクル条件)
・98℃10秒x1回
・(98℃15秒、60℃7秒、74℃20秒)x30回
・74℃30秒
・4℃
【実施例13】
【0051】
scFvの構築
実施例12で得たVHおよびVLの増幅産物を精製した後、VHおよびVLを、リンカ(scFv linker)を用いて連結する(アッセンブリー反応)。
(連結条件)
10x KOD buffer 1 2.5μl
25mM MgCl2 2.1μl
2.0mM dNTPs 10μl
VH(0.125pmol/μl) 1μl
VL(0.125pmol/μl) 1μl
scFv linker(0.125pmol/μl) 1μl
KDO polymerase 0.3μl
DW 7.1μl
以上のPCR 混合物を作り、サーマルサイクラーにセットして、以下のPCRサイクル条件でVHとVLの連結を行う。
・98℃10秒x1回
・(98℃15秒、65℃30秒)x7回
・74℃30秒x1回
・4℃
【実施例14】
【0052】
scFvの再増幅と制限酵素処理
scFvの再増幅のための表2に示すプライマー・セット(CHBとCLF1)を用いて、実施例13で構築したscFvの再増幅を行い、scFvを精製した後、プラスミドベクターpCPDSに挿入するため、制限酵素(EagIとBssHII)を用いてscFv挿入遺伝子断片(インサート)を調製する。
(再増幅反応)
10xKOD buffer 1 2.5μl
2.0mM dNTPs 4μl
scFvプライマーCHB(10nmol/ml) 3μl
scFvプライマーCLF1(10nmol/ml) 3μl
KOD polymerase 0.3μl
DW 12.2μl
(PCR温度条件)
・98℃10秒x1回
・(98℃15秒、65℃7秒、74℃20秒)x30回
・74℃30秒x1回
・4℃
(制限酵素処理)
・scFvの制限酵素処理
scFv fragment 20μl
10xNEBuffer3 5μl
DWで 48μl
EagI(50units/μl) 37℃で一晩処理
・pCPDS vectorの制限酵素処理
pCMDS vector(5μg) xμl
10xNEBuffer3 9μl
DWで 88μl
EagI(50units/μl) 37℃で一晩処理
・電気泳動でベクターの消化が完全に行われたことを確認した後、2μlのBssII(20units/μl)を加え、50℃3〜4時間消化する。
・68℃20分間処理し、酵素を失活させる。
・scFvの精製
・pCPDSはセルフライゲーションを防ぐためにBAP処理し、精製する。
【実施例15】
【0053】
インサート(scFv)のpCPDSへの挿入(ライゲーション)
pCPDSとインサートを1:1〜10(モル比)に調整し、Ligation Kit ver.1(タカラ社製(TAKARA))を用いてライゲーションを行う。
ベクター Xμl
インサート Yμl
5 x ligation buffer 1μl
DWで 5μl
A buffer 20μl
B buffer 5μl
16℃で4〜終夜処理。
【実施例16】
【0054】
大腸菌の形質転換
インサートを挿入したpCPDS(10μl)を用いて、大腸菌(XL1−blue,100μl)を、実施例8に記載の方法に準じて順形質転換する。
インサートを発現する形質転換大腸菌を、増殖させた大腸菌のコロニーから複数の大腸菌コロニーを任意に取り、プライマー・セットを用いてscFvの増幅を行い、インサートを発現する形質転換大腸菌を選抜する。
【実施例17】
【0055】
ファージ発現抗体の作成
選抜済み大腸菌にヘルパーファージを感染させ、実施例8に記載の方法に準じてファージ発現抗体を作成する。
【実施例18】
【0056】
特異的ファージ抗体の選抜のためのパニング
抗原(プリオンタンパク)を固相化したプレートにファージ発現抗体を反応させた後、反応したファージ発現抗体のみを回収し、大腸菌に感染して特異的ファージ抗体を選抜する。
パニングは、抗原抗体反応を利用した高親和性抗体選抜法である。例えば、次のようにして行う。5μg/ml濃度のマルトース結合タンパク融合リコンビナントヒトPrP23−231(MBP−HuPrP)を96ウェルプレートに50μl/well(0.25μg/well)ずつ加え、4℃、終夜固相化しこれを抗原コートプレートとした。抗原コートプレート16ウェルに25%BlockAce 400μl/well加え37℃ 1時間ブロッキングし、PBS−Tween 20(0.05%)で3回洗浄した。洗浄後、ファージディスプレイ抗体浮遊液 1.6ml、BlockAce 704μl、5M NaCl 96μlで混合したものを150μl/well添加し、37℃ 2時間反応させ、PBS−Tween20(0.05%)で15回洗浄した。洗浄後のウェルには、溶出液50μl/wellを添加し、15分間 室温の反応後、2M トリス3μl/wellで中和した。中和後、反応液を回収しOD600=0.5〜1.0に培養したXL1−Blue 2mlに37℃ 1時間感染させた。感染後の溶液の一部は力価測定のために、100μg/mlアンピシリン含有SOBAGプレートにプレーティングし、溶出ファージ力価を測定した。さらにPCRによるインサートチェック後、そのインサート率を溶出ファージ力価に積し陽性溶出ファージ力価を求めた。残りの感染溶液には50μg/mlアンピシリン含有SuperBroth培地 400μlと2M グルコース37μl加え、37℃ 2時間の培養後、5×109pfuのヘルパーファージ(VCS−M13)を1時間感染させた。感染後、800×g 10分間遠心して上清を除き、100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシン、25μg/mlテトラサイクリン含有SuperBroth培地 10mlで終夜培養した。翌日冷却後、800×g 10分間の遠心で菌体を除き、0.45μmポアフィルターで上清を濾過し、その濾液を一次パニング済ファージディスプレイ抗体浮遊液とし、次回のパニングサンプルとした。
【実施例19】
【0057】
可溶化抗体の作成
実施例8に記載の方法に準じて、特異的ファージ抗体をノンプレッサー大腸菌(SOLAあるいはHB2151)に感染させる。感染24時間後に、大腸菌培養上清および培養菌体を回収し、上清および菌体破壊抽出物を可溶化抗体とする。
抗FLAG抗体結合アガロースゲルを用いて可溶化抗体をアフィニティ精製する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、純粋な鳥類型リコンビナント抗体、好ましくはニワトリ型リコンビナント抗体を製造するためのプライマー・セット等を提供するものである。ニワトリ型モノクローナル抗体は、哺乳動物では作成できないモノクローナル抗体を作成することができ、ヒトのがんマーカーとなる抗原であるN−グリコリルノイラミン酸、プリオン病に関連するプリオンタンパクなどを認識するなどの例をはじめ、多くの生体系高分子への応用が可能であり、種々の検査・診断薬などへの展開が期待される。したがって、がん、プリオン病などの種々の診断薬、治療薬への応用が期待される。ところが、ニワトリ型の大きな欠点は、一般にモノクローナル抗体を産生させる融合細胞の手法では、実際に実用するための必要量ができないことである。本発明は、実質上純粋なニワトリ型抗体を、遺伝子組み替え法で、初めて多量に作ることに成功し、本発明は、新規なプラスミドベクターとプライマーを用いてニワトリ型モノクローナル抗体を効率よく多量に産生することを可能にしたものであり、本発明はそのためのプライマー・セット等を提供するものである。
したがって、本発明は、がん、プリオン病などの種々の診断薬、治療薬等のためのニワトリ型モノクローナル抗体のために有用なプライマー・セット等を提供するものであり、産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、公知の発現ベクターpPDSの構成を示すものである。
【図2】図2は、本発明のニワトリリコンビナント抗体発現用ベクター(pCPDS)の構築の概要を示す。
【図3】図3は、ニワトリCλ鎖遺伝子と思われる約340bpのバンド(図3のA)、約360bpの位置にニワトリCλ鎖にFLAG配列の付加したと思われるバンド(図3のB)、約600bpの位置のgeneIII遺伝子と思われるバンド(図3のC)、約950bpの位置のニワトリCλ鎖とgeneIII遺伝子が連結したと思われるバンド(図3のD)が検出されたことを示す、図面に代わる写真である。図3中の「M1」はpUC118 HinfIで消化を、「M2」はφx174 HaeIIIで消化を示す。
【図4】図4は、114残基のアミノ酸をコードするニワトリCλ鎖遺伝子の塩基配列と、本発明の方法で得られたCλ鎖の塩基配列を比較したものである。
【図5】図5は、インサートして得られた12クローンで約360bpの位置にニワトリCλ鎖の増幅が確認できたことを示す、図面に代わる写真である。図5の「M」はpUC118 HinfIで消化を示す。
【図6】図6は、本発明の方法で得られた12クローンのリコンビナント抗体について、抗ニワトリIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合、及び抗マウスIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合のELISA値(OD492)を示すものである。黒塗りはキャプチャー抗体として抗マウスIgG(H+L)を使用した場合を示し、白抜きはキャプチャー抗体として抗ニワトリIgG(H+L)を使用した場合を示す。
【図7】図7は、本発明の発現ベクターpCPDSの構成を示す。
【図8】図8は、ニワトリ抗体のV領域重鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図8のNはDセグメントの塩基配列を示し、:は欠失を示す。
【図9】図9は、ニワトリ抗体のV領域重鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図9のNはDセグメントの塩基配列を示し、:は欠失を示す。
【図10】図10は、ニワトリ抗体のV領域重鎖の塩基配列、及びV領域軽鎖のアミノ酸配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図10のNはDセグメントの塩基配列を示し、:は欠失を示す。
【図11】図11は、ニワトリ抗体のV領域軽鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図11の:は欠失を示す。
【図12】図12は、ニワトリ抗体のV領域軽鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図12の:は欠失を示す。
【図13】図13は、HUC2−13L鎖における多様性獲得機構をHUC2VLと共に比較して示したものである。図13の?は突然変異を示し、:は欠失を示し、PVは偽遺伝子を示す。
【図14】図14は、本発明の方法により調製されたリコンビナント抗体のH25ペプチドに対する反応性の確認を試みたELISA値(OD492)の結果を示すものである。図14中の黒四角印はニワトリ型ファージディスプレイ抗体を示し、灰色菱形印はニワトリ型可溶型抗体(培養上清)を示し、灰色丸形印はニワトリ型可溶型抗体(菌体破壊)を示し、灰色三角形印はHUC2−13(ネイティブ抗体)を示す。
【図15】図15は、本発明の純粋なニワトリリコンビナント抗体作製のための概要を示したものである。
【図16】図16は、哺乳動物(図16上段)と鳥類(図16下段)における抗体H鎖遺伝子の構成を模式的に示したものである。
【図17】図17は、本発明のプライマーCLF1の使用状況を模式的に示したものであり、図17の上段の左側がVL領域であり、そのすぐ右側がCλ領域である。
【配列表フリーテキスト】
【0060】
本発明のプライマーの塩基配列を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させるためのプライマー、及び当該プライマーを用いた遺伝子の増幅方法に関する。また、本発明は組換えニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーとして使用される新規なオリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、抗原の特定部分だけを認識する単一抗体であり、この技術は遺伝子組換えと並んでバイオテクノロジー分野での基幹技術であり、これを利用した診断薬、治療薬は急速に普及発展している。
モノクローナル抗体については、マウス、ラット型など広く活用されているが、ニワトリ型については、発明者がすでに提案した例がある程度である。このニワトリ型の大きな利点は、マウス等の哺乳動物では作成困難な抗体が作成可能であるということである。
【0003】
ニワトリは系統発生学的に哺乳動物より下等であるが、哺乳動物と同様に極めて精緻な免疫能力を持つ動物であることから、これまでに有用なニワトリ抗体が数多く作成されてきた。一方、ヒトをはじめとする哺乳動物間で高度保存された生体成分を認識できる抗体が哺乳動物を用いて作成できない場合、ニワトリ抗体として作成可能であることも経験されてきた。そのため、ニワトリ抗体を大量調整するひとつの手段として、産卵鶏を特定の抗原で免疫し、その後、卵に移行した抗体を生成して卵黄抗体(ポリクローナル抗体)として利用する方法が開発されているが、この方法によりモノクローナル抗体を製造することはできない。
【0004】
マウスモノクローナル抗体は、極めて広範な基礎・応用領域に活用されているが、マウス型、ラット型以外のモノクローナル抗体については、応用にまで至っている成功例は少ない。マウス型、ラット型以外のモノクローナル抗体での応用の一例としては、本発明者らが開発した細胞融合法によるニワトリ型モノクローナル抗体がすでに報告されている。上述したとおり、ニワトリの大きな利点は、マウスあるいはラットを用いて作成困難な抗体がニワトリ抗体として得られやすいことであり、モノクローナル抗体としても作成可能なことである。
本発明者らによる細胞融合技術を用いたニワトリ型モノクローナル抗体の成功例としては、N−グリコリルノイラミン酸(NeuGc)を認識するニワトリ型モノクローナル抗体や哺乳動物に高度保存されたプリオンタンパク(PrP)を認識するニワトリ型モノクローナル抗体などである。NeuGcは、ヒトのがんマーカーとなる抗原で、ヒトを除くほとんどの哺乳動物に存在しているため、マウス、ラットやウサギなど一般に広く免疫動物として用いる動物では抗体を作ることができない。また、PrPは、その異常型が狂牛病やヒトCJDの病原体となることで知られているが、PrPは哺乳動物間でアミノ酸配列の相同性は90%以上である。一方、哺乳動物とニワトリの間ではその相同性がわずか30%台であるため、これまでに作成された哺乳動物PrPを認識するマウスモノクローナル抗体作成の成功例はわずかである。本発明者らは、すでにNeuGcや哺乳動物PrPを認識できるニワトリ型mAbの作成に成功し、それらをヒトがんの診断や狂牛病・ヒトCJDの研究に活用することができていた。
【0005】
しかしながら、本発明者らが先に開発したニワトリ型モノクローナル抗体の最大の欠点は、その抗体を産生するハイブリドーマ(融合細胞)の抗体産生能力が低いことであった。
このように、ニワトリ型モノクローナル抗体は、他の哺乳動物では作成が困難であるモノクローナル抗体を作成することができるが、その抗体産生細胞(ハイブリドーマ)の抗体産生能力がマウスやラットより低いことが大きな欠点であり、実用化にあたっての大きな障害となっていた。
【0006】
一方、近年になり、遺伝子工学技術を活用して組換え抗体(リコンビナント抗体)をファージ表面に発現させる技術が開発された。このファージディスプレイ抗体技術は1991年に英国MRC研究所のWinterらによって開発されたシステムで(非特許文献1参照)、非免疫ヒト末梢血リンパ球から抗体遺伝子を単離し、人工的にVH、VL遺伝子をシャッフリングさせ多様化したscFv(single chain Fragment of variable region)抗体をファージ融合タンパクとして発現させ、特異抗体を得た(非特許文献2参照)。この技術は、免疫を回避でき、さらに細胞融合法に変わるヒト化抗体作製技術として高く評価された。現在では高度免疫したマウス脾細胞を利用して実用的抗体が数多く作製され、抗PrP抗体も同様に作製されている(非特許文献3参照)。
【0007】
また、ニワトリを利用した例としては、以下に示す国内外の2つのグループからの報告が挙げられる。Daviesらは、非免疫状態のファブリキウス嚢由来抗体遺伝子と、発現ベクターfd−tet−DOG 1から3種の特異抗体を樹立し、哺乳動物以外でも同様にこの技術の適応が可能であり、しかも免疫を回避して作出できることを証明した(非特許文献4参照)。しかしながら、作出された抗体の反応性は極めて低く、また発現ベクターの構造からファージディスプレイ抗体しかできないという欠点があった。一方、山中らは、マウスアルブミン免疫脾細胞由来の抗体V領域遺伝子と、独自に開発した発現ベクターpPDSを利用して十分な反応性を示す特異的ファージディスプレイ抗体の構築を報告し、実用化抗体の作製には、免疫脾細胞由来抗体遺伝子ライブラリーの利用を強調した(非特許文献5参照)。ここで使用したpPDSは、マウス抗体発現用ベクターとして開発されたもの(非特許文献6参照)で、STRATA GENE社から市販されているクローニング用ファージミドベクターのpBluescriptIIをベースとしている。
【0008】
図1に発現ベクターpPDSの構成を示す。pPDSは、そのラクトースオペロン(Lac)プロモーターを利用し組み込んだscFv抗体cDNAの発現を誘導するようになっている。プロモーターの下流には、リボゾーム結合部位(RBS)およびM13 geneIIIのリーダー配列(g3l)を人工的に繋ぎ込み、EagIとBssHIIとからなるクローニングサイトで組み込まれた抗体遺伝子が大腸菌のペリプラズムを経て再構成ファージ体として発現できるよう設計されている。更にその下流にはFab抗体の発現に備えてマウスCκ鎖遺伝子を繋ぎ、cp3の構造部位へとつながり終止コドンとなっている。このCκ鎖は、融合タンパクの発現がうまく行われているかどうかを検証する上でも非常に有効なタグとなる。また、このpPDSベクターは、可溶型scFvもしくはFab抗体の発現にも対応できるように、Cκ鎖とgeneIIIの間にはTAG(アンバー配列)ストップコドンを挿入しており、通常はsupEの大腸菌株を用いることによりファージディスプレイ抗体として発現されるが、ノンサプレッサー株で培養すれば、培地中に可溶型抗体が分泌されるようになる。
このような発現ベクターであるため、可溶型抗体においてはニワトリ抗体遺伝子由来であっても、検出にはマウスCκ鎖に対する抗体を用いなければならず、サンドイッチELISA等におけるマウス抗体併用の場合、ニワトリ抗体の正確な測定が不可能であった。本発明者らは、山中博士よりpPDSの恵与を受け、抗体産生ニワトリハイブリドーマからファージディスプレイ抗体の作出に活用しようとしていることからも、この問題は解決すべき事項であった。
【0009】
【非特許文献1】Winter, G., et al., Nature, 349, 293-299 (1991)
【非特許文献2】Marks, J. D., et al., J. Mol. Biol., 222, 581-597 (1991)
【非特許文献3】Williamson, R. A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99, 7279-7282 (1996)
【非特許文献4】Davis, E. D., et al., J. Immunol. Methods, 186, 125-135 (1995)
【非特許文献5】Yamanaka, H. I., et al., J. Immunol., 157, 1156-1162 (1996)
【非特許文献6】Yamanaka, H. I., et al., J. Biochem., 117, 1218-1227 81995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遺伝子組換え法による多量生産に適したニワトリ型モノクローナル抗体の製造方法を提供するものである。また、本発明は、そのための新規なプラスミドベクター及びそのための新規なプライマーを提供するものである。さらに本発明は、新規なニワトリ型モノクローナル抗体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、遺伝子組換え法によりニワトリ型モノクローナル抗体を製造する方法において、ニワトリCλ鎖(L鎖定常領域)をコードする遺伝子が導入されている発現ベクターに、ニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子を導入した発現ベクターを用いることを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体の新規な製造方法、及びその方法で製造されるニワトリ型モノクローナル抗体に関する。
また、本発明は、前記方法で使用される新規な発現ベクターに関する。
さらに、本発明は、ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひととつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー、及び当該プライマーを使用してニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させる方法に関する。
また、本発明は、ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーとして有用な新規なオリゴヌクレオチドに関する。
【0012】
より詳細には、本発明は、次の(1)〜(11)の事項に関する。
(1) ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひととつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー。
(2) 塩基数が15〜30である前記(1)に記載のプライマー。
(3) 塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖である前記(1)又は(2)に記載のプライマー。
(4) 他方のプライマーの塩基配列が、
5’−ctgatggcggccgtgacgtt−3’
又はその相補鎖である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプライマー。
(5) 他方のプライマーの塩基配列が、
5’−tctgacgtcgcgctgactcagcc−3’
又はその相補鎖である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のプライマー。
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載のプライマーを用いて、ニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させる方法。
(7) 可変領域がVL領域である前記(6)に記載の方法。
(8) プライマーが前記(5)に記載のプライマーである前記(7)に記載の方法。
(9) 可変領域がscFvである前記(6)に記載の方法。
(10) プライマーが前記(4)に記載のプライマーである前記(9)に記載の方法。
(11) 塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖であるオリゴヌクレオチド。
【0013】
本発明者らは、プリオン病の病態解析やプリオン変換機構解明へのツールとなりうるニワトリ型抗プリオンタンパク(PrP)パネルモノクローナル抗体の作製とその安定的な利用を目的として、まず細胞融合法によって得られた哺乳動物プリオンタンパク(PrP)25−29残基(RPKPG)を認識する有効性の示されたPrP特異的ニワトリ型モノクローナル抗体HUC2−13を供試材料に、pPDS発現ベクターを用いたファージディスプレイ抗体技術によるリコンビナント化と大量調製の確立を行った。
【0014】
本発明者らは、まず哺乳動物プリオンタンパク(PrP)23−231残基を認識するニワトリモノクローナル抗体を次のようにして調製した。
リコンビナントヒトプリオンタンパク(PrP)23−231(約100μg)を4週齢の近交系ニワトリ白色レグホン種H−B15ニワトリの腹腔内に免疫し、その脾臓を摘出し免疫脾細胞を調製した。これをTK欠損・ウアバイン耐性のニワトリB細胞株であるMuH1とPEG法により融合して、融合細胞(ハイブリドーマ)を得た。
このようにして得られた抗体産生ハイブリドーマあるいは免疫ニワトリの脾臓リンパ球から調整した抗体遺伝子(VHおよびVL領域)をフレキシブルリンカーを介して1本鎖にしたscFv(single chain fragment of V region)を作成した。このscFvを発現させるプラスミドベクターとしては、すでに山中(現ロート製薬)が構築したpPDS(図1参照)があるが、pPDSを用いると、scFvのN末端側にマウス免疫グロブリンL鎖のC領域(Cκ)が発現し、V領域がニワトリでC領域がマウスの組換え抗体となってしまう。
【0015】
抗体の特異性(反応性)はV領域が規定することから、反応性には問題ないが、HUC2−13のようなバックグラウンド染色のない検出はpPDSベクターを使用した場合には得られなかった。リコンビナント抗体作出に使用した発現ベクターpPDSは,山中らによりマウス抗体発現用ベクターとして設計・構築されたものであり、発現するscFv抗体は,変異頻度の極めて高い抗体V領域で構成されており、安定的に検出することが困難であることから、検出用タグとしてマウスCκ鎖が導入されている。したがって、pPDSベクターを使用して作出したリコンビナント抗体は、抗原認識部位がニワトリ抗体由来でありながら検出には抗マウスκ鎖抗体を用いなければならず、その結果として、バックグラウンド染色が生じてきた。リコンビナント抗体において、マウスCκ鎖を検出用タグとする限り、(1)高感度検出や定量実験に汎用されるサンドイッチELISAを実施した場合、キャプチャー抗体にマウス抗体を用いたとすると、その抗体をバックグラウンドとして検出してしまうこと、(2)モデル動物としてマウスを使用した免疫組織化学染色の場合、そのマウスの持つ免疫グロブリンを非特異的に検出してしまう、といった問題点が生じる。
【0016】
そこで、本発明者らは、上述の問題点を解消するとともに、プリオン病解析さらにはより広範な研究にニワトリ型抗体が活用されることを目的として、抗ニワトリIg抗体で検出できるよう、pPDS内のマウスCκ鎖をニワトリCλ鎖(L鎖定常領域)に置換した新規な発現ベクターの構築を試みた。さらに精製を簡便化する目的から、精製用タグ(FLAG)を導入した純ニワトリ型リコンビナント抗体発現用ベクターの構築をおこなった。
図2にニワトリリコンビナント抗体発現用ベクター(pCPDS)の構築の概要を示す。
まず、ニワトリCλ鎖遺伝子をクローニングした。
正常ニワトリ脾細胞から合成したcDNAをもとにPCRでニワトリCλ鎖を増幅させたところ、Cλ鎖遺伝子と思われる約340bpのバンドを得た(図3のA参照)。図3はこれらの結果を示す図面に代わる写真である。図3中の「M1」はpUC118 HinfIで消化を、「M2」はφx174 HaeIIIで消化を示す。
このバンドを制限酵素処理後ライゲーションし、形質転換を行った。翌日ランダムに6クローンをアルカリSDS法でプラスミド調製を行い、インサートの有無を確認したところ、全てにインサートが確認された。6クローンのうちの1クローン(クローン#1)について塩基配列決定を行ったところ、114残基のアミノ酸をコードする既報のCλ鎖と完全一致した(図4参照)。そこで、このクローンをベクター再構築用コンストラクト調製のためのテンプレートとした。
【0017】
塩基配列を決定したクローニング済のニワトリCλ鎖遺伝子をもとに、再構築コンストラクトに使用するニワトリCλ鎖遺伝子をPCR法を用いて調製した。その結果、副生成物も多々みられたが、約360bpの位置にニワトリCλ鎖にFLAG配列の付加したと思われるバンドが検出された(図3のB参照)。このバンドを精製し、geneIII遺伝子とのオーバーラップPCR用テンプレートとした。
【0018】
一方、pPDSからのgeneIII遺伝子の増幅は、PCR法を用いて行った。その結果、約600bpの位置にgeneIII遺伝子と思われるバンドが検出された(図3のC参照)。このバンドを精製し、FLAG配列の付加したニワトリCλ遺伝子とのオーバーラップPCR用テンプレートとした。
【0019】
ニワトリCλ鎖とgeneIII遺伝子のオーバーラップPCRは、ニワトリCλ鎖遺伝子3’側そしてgeneIII遺伝子の5’側に付加されたFLAG配列を介して行った。その結果、約950bpの位置にニワトリCλ鎖とgeneIII遺伝子が連結したと思われるバンドが検出された(図3のD参照)。このバンドを精製し制限酵素処理を行い、EagIとEcoRIで処理されたpPDSにライゲーション、大腸菌へ形質転換した。
【0020】
大腸菌への形質転換後、15クローンをニワトリCλ鎖遺伝子の増幅でインサートチェックした。その結果、12クローンで約360bpの位置にニワトリCλ鎖の増幅が確認できた(図5参照)。図5はこの結果を示す図面に代わる写真である。図5の「M」はpUC118 HinfIで消化を示す。
これらのクローンはそれぞれpCPDS1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12と命名した。これら12クローンはscFv遺伝子を含まない状態でファージ体の調製を行い、発現タンパクの検討を行った。
この12クローン由来のファージ体は、抗マウスIgG(H+L)ならびに抗ニワトリIgG(H+L)をキャプチャー抗体とし、ペルオキシダーゼ標識抗M13抗体を検出用抗体とするサンドイッチELISAでニワトリCλ鎖およびファージ体の発現確認をした。なお、陽性対照としてpPDSから発現させたファージ体を用いた。その結果、pCPDS8と10を除いた残り10クローンで抗ニワトリIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合、ELISA値(OD492)平均0.6の反応性であった(図6)。図6はこの結果を示すものであり、黒塗りはキャプチャー抗体として抗マウスIgG(H+L)を使用した場合を示し、白抜きはキャプチャー抗体として抗ニワトリIgG(H+L)を使用した場合を示す。
これらのクローンは、抗マウスIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合には、平均0.17と低値であり、さらにpPDSでの反応性に比べ明らかに低いことから構成されたベクターは再構築用コンストラクトを正確に発現する再構築ベクターであることがわかった。
【0021】
得られた発現ベクターpCPDSの構成を図7に示す。
上述した実験で、正確なニワトリCλ鎖および再構成ファージの発現が確認された再構築ベクターpCPDS7を用い、図8〜図13に示すニワトリ抗体をコードする遺伝子HUC2−13のファージディスプレイ抗体および可溶型抗体を調製した。調製したリコンビナント抗体は、HUC2−13とあわせてH25ペプチドに対する反応性の確認を試みた。その結果、一次抗体を希釈なしで用いた場合、全ての抗体でELISA値(OD492)が1.5を越えた。希釈した場合、HUC2−13および菌体破壊から調製した可溶型抗体では25倍希釈までほとんどELISA力価の低下はみられなかった。一方、ファージディスプレイ抗体および培養上清からの可溶型抗体では低下傾向にあり、125倍希釈では陽性ELISA力価が得られなかった。菌体破壊から調製した可溶型抗体は、125倍希釈からHUC2−13のELISA力価を上回っていた(図14参照)。
【0022】
図14はこの結果を示したグラフである。図14中の黒四角印はニワトリ型ファージディスプレイ抗体を示し、灰色菱形印はニワトリ型可溶型抗体(培養上清)を示し、灰色丸形印はニワトリ型可溶型抗体(菌体破壊)を示し、灰色三角形印はHUC2−13(ネイティブ抗体)を示す。
【0023】
以上の実験から、純粋なニワトリリコンビナント抗体作製のためのベクターの再構築ができたことがわかった。このベクターから得られた純粋なニワトリリコンビナント抗体は、マウス抗体によるノイズが少なく、検出のS/N比を高くすることができる。
本発明のベクターの構築に当たって、(1)機能的なScFv抗体が発現できる、(2)将来的にFab抗体も作製できるようなベクターにする、(3)簡便に精製できる、の3点に留意した。この3点を考慮し、マウスCκ鎖の代わりにニワトリCλ鎖を、精製用タグとしてFLAG配列と呼ばれる人工配列を選択した。
【0024】
また、再構築ベクターの作製にはpPDSベクターをベースとし、適当な制限酵素部位を利用してコンストラクトの入れ替えという形でできるようにした。pPDSは、scFv抗体クローニングサイト以降geneIII終止コドンの直後のEcoRIまで、位置的にも適当な制限酵素部位がないためEagI−EcoRI間、もしくはBssHII−EcoRI間でコンストラクトを置換せざるを得なかった。ニワトリCλ鎖とScFv抗体遺伝子の連結部位は、自然なVL−Cλアミノ酸配列に近似するよう注意しながら、高切断効率であり、かつベクターやScFv抗体遺伝子を切断しない制限酵素とその設置部位を選定した。この切断位置を検討するために、Vλ領域とCλ領域の結合をまとめた。これを表1として示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1の*は置換可能なアミノ酸であり、イタリックは置換に問題があるアミノ酸を示す。1)で示されるアミノ酸配列に対応する塩基配列はpPDS用のプライマー配列であり、2)で示されるアミノ酸配列に対応する塩基配列は本発明のニワトリ型抗体発現ベクター用のプライマー配列であることを示す。
この結果、ふたたびBssHIIとなったが、BssHII−EcoRI間でコンストラクトの置換を行うと、空ベクター発現時にフレームシフトが生じ正確にタンパク発現されないことから、ベクターの有効性を確認できないことが明らかとなった。そこで、新たなEagI−BssHII間のスペーサーをつけ加えたEagI−EcoRI間コンストラクトを導入することにした。
【0027】
ニワトリCλ鎖はニワトリ脾細胞から、geneIIIはpPDSから遺伝子を準備した。一方、FLAG−アンバー配列はプライマーの一部に導入し、Cλ鎖増幅時に連結させることとしたが、煩雑な脾臓細胞由来cDNA群からCλ鎖増幅時にこの54塩基もあるプライマーを用いるのは危険であると判断し、いったんクローニングしたCλ鎖をテンプレートとしてFLAG−アンバー連結PCRを行うことにした。
EagI−BssHIIのscFv抗体遺伝子クローニングサイト−ニワトリCλ鎖−FLAG−アンバー配列(TAG)−geneIIIまでの再構築用コンストラクトは全てKOD DNAポリメラーゼを用いたPCR法で作製した。EagIとEcoRIで処理したpPDSにライゲーションし、最終的に10クローンのニワトリCλ鎖、再構成ファージ体を発現するベクターが得られた(図6参照)。
【0028】
以上の実験に基づく本発明の純粋なニワトリリコンビナント抗体作製のための概要を図15に示す。これを順に説明する。
(1)抗体V領域遺伝子(VHおよびVL)の調製
抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、RT−PCR(逆転写PCR)により合成したcDNAを元に、下記の表2に示す合成プライマーセット(VH増幅用プライマーセット、VL増幅用プライマーセット)を用いて増幅する。
(2)scFvの構築
(1)の実験で得たVHおよびVLの増幅産物を精製した後、VHおよびVLを、リンカ(scFv linker)(−(Gly−Gly−Gly−Ser)3−)を用いて連結する(アッセンブリー反応)。
(3)scFvの再増幅と制限酵素処理
scFvの再増幅のための下記表2に示すプライマー・セット(CHBとCLF1)を用いて、(2)で構築したscFvの再増幅を行い、scFvを精製した後、プラスミドベクターpCPDSに挿入するため、制限酵素(EagIとBssHII)を用いてscFv挿入遺伝子断片(インサート)を調製する。
【0029】
(4)インサート(scFv)のpCPDSへの挿入(ライゲーション)
pCPDSとインサートを1:1〜10(モル比)に調整し、Ligation Kit ver.1(タカラ社製(TAKARA))を用いてライゲーションを行う。
(5)大腸菌の形質転換
インサートを挿入したpCPDS(10μl)を用いて、大腸菌(XL1−blue,100μl)を形質転換する。
(6)インサートを発現する形質転換大腸菌の選抜
増殖させた大腸菌のコロニーから複数の大腸菌コロニーを任意に取り、プライマー・セットを用いてscFvの増幅を行い、インサートを発現する形質転換大腸菌を選抜する。
(7)ファージ発現抗体の作成
選抜済み大腸菌にヘルパーファージを感染させ、ファージ発現抗体を作成する。
(8)特異的ファージ抗体の選抜のためのパニング
抗原(プリオンタンパク)を固相化したプレートにファージ発現抗体を反応させた後、反応したファージ発現抗体のみを回収し、大腸菌に感染して特異的ファージ抗体を選抜する。
(9)可溶化抗体の作成
特異的ファージ抗体をノンプレッサー大腸菌(SOLAあるいはHB2151)に感染させる。感染24時間後に、大腸菌培養上清および培養菌体を回収し、上清および菌体破壊抽出物を可溶化抗体とする。
(10)可溶化抗体の生成
抗FLAG抗体結合アガロースゲルを用いて可溶化抗体をアフィニティ精製する。
【0030】
このようにして、本発明の発現ベクターpCPDSを用いることにより純粋なニワトリリコンビナント抗体を製造することができる。この本発明のニワトリ型抗体を作成するためのscFvの製造についてさらに詳細に説明する。
哺乳動物と鳥類では、抗体遺伝子の多様性獲得メカニズムが異なっており、哺乳動物抗体遺伝子では多数のV遺伝子のうちの1つが再構築するが、鳥類抗体遺伝子では、機能する抗体遺伝子はただ1つであり、この機能的抗体遺伝子内に偽V遺伝子がランダムに挿入される。
図16は哺乳動物(図16上段)と鳥類(図16下段)における抗体H鎖を模式的に示したものである。哺乳動物抗体遺伝子では多数のV遺伝子のうちの1つが再構築するために、5’側の塩基配列も変動し、抗体の種類によってプライマーを用意しなければならないのであるが、鳥類抗体遺伝子では、機能する抗体遺伝子はただ1つであり、この機能的抗体遺伝子内に抗体の種類に応じた偽V遺伝子がランダムに挿入されるために、どの種類の抗体であったも5’側の塩基配列も基本的に変動しない。
【0031】
したがって、抗体遺伝子を抗体産生細胞からPCRで増幅しようとする場合、哺乳動物V遺伝子は、多数のV遺伝子のどれが用いられているかわからないので、抗体の種類に応じて5’側(V遺伝子側)に多数のプライマーを合成し、準備しなければならない。
一方、鳥類V遺伝子は、ベースとなる機能的V遺伝子が1つであるので、あらかじめその塩基配列がわかっているので、5’側1つ、3’側1つの1ペアのプライマーで、全ての抗体産生細胞に対応できる点も、鳥類の抗体を用いる際の大きな特徴である。
本発明が開示する鳥類用のプライマーを次の表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示されるプライマーセットを使用することにより、基本的にはどのような抗体であっても、鳥類、好ましくはニワトリの抗体遺伝子を増幅させることが可能となる。この中で、CLF1として示されるプライマーは、新規な塩基配列を有するものであり、その途中に制限酵素BssHIIで切断できるサイト(gcgcgc)を有していることを大きな特徴とするものである。この塩基配列を配列表の配列番号1に示す。
図17は、このプライマーCLF1の使用状況を模式的に示したものであり、図17の上段の左側がVL領域であり、そのすぐ右側がCλ領域である。前記してきたように、発現ベクターpCPDSにおいてはVL領域とCλ領域が制限酵素BssHIIで結合されるために、VL領域の3’末端とCλ領域の5’末端の結合の様子を示している。図17の丸2で示した塩基配列の四角枠で囲った部分が制限酵素BssHIIで切断可能な位置である。
そして、前述してきたように鳥類ではVL領域の末端の塩基配列は抗体の種類により変動しなのであるから、このプライマーCLF1を用いることによりVL領域及びVH−リンカー−VLからなるscFvをも増幅可能となる。
【0034】
以上のように、本発明は純粋なニワトリリコンビナント抗体を製造するための新規なプライマーセット、新規な発現ベクターpCPDS、及びそれを用いて製造される純粋なニワトリリコンビナント抗体を提供するものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、純粋な鳥類型リコンビナント抗体、好ましくはニワトリ型リコンビナント抗体を提供する。
ニワトリ型モノクローナル抗体は、哺乳動物では作成できないモノクローナル抗体を作成することができ、ヒトのがんマーカーとなる抗原であるN−グリコリルノイラミン酸、プリオン病に関連するプリオンタンパクなどを認識するなどの例をはじめ、多くの生体系高分子への応用が可能であり、種々の検査・診断薬などへの展開が期待される。したがって、がん、プリオン病などの種々の診断薬、治療薬への応用が期待される。ところが、ニワトリ型の大きな欠点は、一般にモノクローナル抗体を産生させる融合細胞の手法では、実際に実用するための必要量ができないことである。本発明は、実質上純粋なニワトリ型抗体を、遺伝子組み替え法で、初めて多量に作ることに成功した。即ち、本発明は、新規なプラスミドベクターとプライマーを用いてニワトリ型モノクローナル抗体を効率よく多量に産生することを可能にしたものであり、抗体、その製法、ベクター、プライマー・セット等を提供するものである。
また、鳥類の抗体遺伝子は、3’末端及び5’末端の塩基配列が比較的固定化されており、本発明が提供するプライマーを用いて抗体の種類に関係なく当該遺伝子を増幅することが可能であり、本発明は各種の抗原に対するモノクローナル抗体を遺伝子組換え手段により簡便に作成できる方法を提供するものである。
【0036】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
ニワトリリコンビナント抗体発現用ベクターの設計
ニワトリリコンビナント抗体発現用ベクターの設計は、pPDSベクターをベースに行った。pPDSにすでに挿入されているマウスCκ鎖遺伝子をニワトリCλ鎖遺伝子に置換し、その際VLとCλ連結の配列がgermlineのアミノ酸配列に近似し、使用遺伝子が切断されないようなクローニング用制限酵素部位を選択した(表1参照)。また、インサートのない状態(Mock)でもニワトリCλ鎖の発現でベクター検定できるようEagI以降のスペーサー配列も新たに設計し直した。ニワトリCλ鎖の下流には精製用タグであるFLAG配列(DYKDDDDK)、さらにFLAG配列とgeneIIIの間には可溶型抗体として発現できるようTAG(amber)ストップコドンを挿入した。EagI部位からgeneIIIまで作製したコンストラクトは、EagIとEcoRI処理したpPDSにライゲーションし、ニワトリリコンビナント抗体発現用ベクターとした(図2参照)。
【実施例2】
【0038】
ニワトリCλ鎖遺伝子の単離
(1) ニワトリCλ鎖遺伝子クローニング用プライマーの設計と合成
ニワトリCλ鎖遺伝子クローニング用プライマーは、既報のCλ鎖塩基配列をもとにOLIGO 4.05 Primer Analysis Software(National Bioscinece)を用いて設計し、北海道システムサイエンスに委託して合成した。
(2) ニワトリCλ鎖遺伝子の増幅とクローニング
ニワトリCλ鎖遺伝子の増幅は、正常ニワトリ脾細胞から後記する方法に準じRT−PCR法で行った。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 20μlに再溶解した。その溶液に16U/μlのBamHIと20U/μlのHindIIIをそれぞれ1μlずつ添加し、37℃ 2時間の制限酵素処理し、エタノール沈殿濃縮をした。濃縮後のサンプルは、DW 10μlに再溶解し、1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動後、UltraCleanで精製し、DW 10μlに再溶解した。濃度測定後、pBluescriptII SK(−)とモル比がベクター:インサート=1:3になるように混合し、TAKARA Ligation Kit ver.1で16℃ 3時間ライゲーションした。ライゲーション終了後、その反応液5μlをコンピテントセルに形質転換し、40μlをアンピシリン含有2×YTプレートにプレーティングした。翌日、得られたコロニーを単離しアンピシリン含有2×YT培地で少量培養し、アルカリ−SDS法でプラスミドを調製後、BamHI、HindIIIで制限酵素処理し、インサート有無の確認をした。
定法にしたがって、その塩基配列を決定した(図4参照)。
【実施例3】
【0039】
連結反応用ニワトリCλ鎖遺伝子の調製
(1) ニワトリCλ鎖遺伝子増幅用プライマーの設計と合成
再構築ベクターのコンストラクトとなるニワトリCλ鎖遺伝子の増幅用プライマーは、scFv抗体遺伝子クローニングサイトになるようEagI、BssHIIを組み込み、さらに空ベクターでも発現できるようフレームシフトに留意したセンスプライマーと、FLAG−アンバー−geneIII−5’末端配列を付加してpPDSから単離したgeneIIIと連結できるようにしたアンチセンスプライマーを設計し、その合成した。
(2) ニワトリCλ鎖遺伝子の増幅
塩基配列決定後、データバンクと照会し完全一致したクローンは、塩化セシウム法で大量調製した。調製したサンプルをテンプレートとし、オーバーラップPCR用ニワトリCλ鎖遺伝子を調製した。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 10μlに再溶解した。この反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、UltraCleanで精製、DW 10μlに再溶解し、VCS−M13由来geneIIIとのオーバーラップPCR用サンプルとした。
【実施例4】
【0040】
連結反応用VCS−M13由来geneIIIの調製
(1) geneIII増幅用プライマーの設計と合成
pPDSからのgeneIII増幅には、ニワトリCλ鎖とFLAG−アンバー配列を介して連結できるようなセンスプライマーとgeneIIIの終止コドン直後にEcoRIを導入したアンチセンスプライマーを設計し、合成した。
(2) geneIIIの増幅
VCS−M13由来geneIIIの調製は、pPDSベクターからPCR法で行った。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 10μlに再溶解した。この反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、UltraCleanで精製、DW 10μlに再溶解し、ニワトリCλ鎖とのオーバーラップPCR用サンプルとした。
【実施例5】
【0041】
ニワトリCλ鎖とgeneIIIとの連結反応
ニワトリCλ鎖とgeneIIIとの連結は、モル比1:1で混合したテンプレートをもとにアッセンブリー反応、再増幅反応で行った。PCR反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後エタノール沈殿濃縮し、DW 10μlに再溶解した。この反応液を1.5%アガロースゲルで電気泳動後、UltraCleanで精製、DW 10μlに再溶解した。
【実施例6】
【0042】
pPDSベクターからのマウスCκ鎖、geneIIIの除去とニワトリCλ鎖−gene3の挿入
pPDSベクターにニワトリCλ鎖−geneIIIを挿入するため、10U/μlのEagIと10U/μlのEcoRIで制限酵素処理し、さらに、分子内ライゲーションを防ぐためBAP処理を行った。BAP処理後の反応液は、1.0%アガロースゲルを用いて電気泳動し、UltraCleanで精製後、DW 10μlに再溶解し、再構築用サンプルとした。また、ニワトリCλ鎖−geneIIIも同様に制限酵素処理、精製して10μlの再構築用サンプルを準備した。調製した再構築用サンプルは濃度測定後、ベクター:インサートのモル比が1:3になるように混合し、TAKARA Ligation Kit ver.1で16℃ 3時間ライゲーションし、その反応液5μlをコンピテントセル50μlに形質転換した。形質転換した大腸菌はアンピシリン含有2×YTプレートに40μlプレーティングし、終夜37℃で培養した。
挿入遺伝子は,コロニーをテンプレートにニワトリCλ鎖のPCR法による増幅で確認した。
【実施例7】
【0043】
再構成ファージ体発現の確認
再構成ファージ体発現の確認は,サンドイッチELISA法で行った.抗ニワトリIgG(H+L)抗体(Kirkegaard and Perry Laboratories)と抗マウスIgG(H+L)抗体(Kirkegaard and Perry Laboratories)を0.5μg/wellで4℃ 終夜固相化し、ブロッキングの後、挿入遺伝子の確認できたコロニーをもとにscFv抗体発現なしの再構成ファージ体を50μl/well添加し、37℃ 1時間反応させた。反応後、3,500倍希釈したHRPO標識抗M13抗体を37℃ 1時間反応させo−フェニレンジアミンを基質として発色させた。10分間の反応後、492nmの吸収をマイクロプレートリーダ MPR−A4iで測定した。
【実施例8】
【0044】
HUC2−13の作成
(1) 供試細胞株
チミジンキナーゼ欠損、ウアバイン耐性のニワトリB細胞株MuH1を親株として、細胞融合で作成された哺乳動物プオリンタンパクPrPの25−29残基を認識する抗PrPニワトリモノクローナル抗体HUC2−13産生ハイブリドーマを使用した。なお、細胞は10%FBS(Fetal bovine serum)(SIGMA)含有IMDM(Iscove's modified Dullbecco's medium)(GIBCO BRL)を用い、38.5℃、5%CO2インキュベーター内で培養維持した。その培養上清は、抗PrPニワトリモノクローナル抗体HUC2−13として利用した。
(2) 抗体V遺伝子のRT−PCRによる増幅
(2−1) RNAの抽出とcDNAの合成
供試細胞のRNAは、ISOGEN−LS(Nippon Gene)を用い、添付のプロトコールに従い単離した。単離したRNAは、ジエチルピロカーボネート処理蒸留水(diethylpyrocarbonate-distilled water、DEPC-DW)20μlに再溶解した。
1st strand cDNAの合成は、Oligo−dTプライマー法を用いて行った。1〜5μgの全RNA溶液に500μg/ml Oligo dT15プライマー(Boehringer Mammheim)を1.0μl加え、蒸留水(D.W)で12μlに調製した。この混合液を70℃で10分間インキュベートし、氷冷後、5×逆転写バッファー(GIBCO BRL)を4.0μl、0.1Mジチオスレイトール(dithiothreitol、DTT)(GIBCO BRL)を2.0μl、5mM dNTPs(GIBCO BRL)を2.0μl加え、42℃で2分間インキュベートした。その後、200U/μl逆転写酵素(SuperscriptII RT)(GIBCO BRL)を1.0μl加え、42℃で50分間、続いて70℃で15分間インキュベートした。合成したcDNAは−20℃で保存した。
(2−2) VH、VL抗体遺伝子ならびにリンカー遺伝子の増幅と精製
PCR(polymerase chain reaction)法によるVH、VL抗体遺伝子の増幅には、(2−1)で合成したcDNAを、リンカー遺伝子の増幅にはリンカー供給用に構築されたプラスミドpLINKをテンプレートとし、それぞれ1ペアのセンスプライマーおよびリバースプライマー、KOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、Cloned Pfu DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer)を用いた。また、陽性対照として、Yamanakaらが作製した抗マウスアルブミンモノクローナル抗体3C8(ニワトリリコンビナント抗体)を供試した。VH、VL抗体遺伝子のPCR反応溶液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/ml グリコーゲン 2μlを加えたエタノール沈殿によって濃縮した後、1.5%アガロースゲル(和光純薬)を用いて電気泳動した。得られたバンドは、Ultra Clean(MO BIO laboratories、 Inc.)で添付プロトコールに従い精製し、DW 20μlで溶出させた。リンカー遺伝子のPCR反応溶液は、VH、VL抗体遺伝子の精製と同様に行った。ただし、電気泳動には3.0%アガロースゲルを用いた。
【0045】
(2−3) scFv抗体遺伝子の増幅と精製
scFv抗体遺伝子合成増幅のためのアッセンブリー反応ならびに再増幅反応は、精製したVH、VL、およびリンカーをそれぞれモル比1:1:1で混合して行った。scFv抗体遺伝子のPCR反応溶液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/ml グリコーゲン 2μl加えたエタノール沈殿によって濃縮した後、1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動した。得られたバンドは、Ultra Cleanで添付プロトコールに従い精製し、DW 20μlで溶出させた。
(3) 発現ベクター(pPDS)の調製
ロート製薬(株)山中八郎博士より分与を受けたファージディスプレイ用発現ベクター(pPDS)(図1)を、Escherichia coli XL1-Blueへ塩化ルビジウム法による形質転換を行い、50μg/mlアンピシリン含有2×YTプレートにプレーティング後、37℃の終夜培養をした。得られたコロニーは選択採取し、50μg/mlアンピシリン含有2×YT培地で大量振盪培養した。培養した大腸菌からのベクター精製は、塩化セシウム密度勾配平衡遠心法により行った。
(4) 制限酵素処理とBAP処理
精製したscFv遺伝子断片2μgとベクターpPDS10μgは、DNA1.0μgに対して4.0UのEagI(New England BioLabs, Inc.)を添加し、37℃で終夜処理した。EagI処理後、同様の比率で反応液にBssHII(New England BioLabs, Inc.)を添加し、50℃で4時間処理した。BssHII処理後,68℃、20分間の酵素失活処理をし、反応液をDWで300μlにメスアップした上でフェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/mlグリコーゲン 2μlを加えたエタノール沈殿をし、DW 30μlに再溶解した。
ベクターは、分子内ライゲーションを防ぐため大腸菌由来アルカリフォスファターゼ(Bacterial alkaline phosphatase、BAP)(TOYOBO)を用いて脱リン酸化処理した。ベクター30μlに5×BAPバッファー10μl、アルカリフォスファターゼ(0.4U/μl)3μl、DW 7μlを加え、37℃ 3時間の処理を行った。処理後の反応液は、DWで300μlにメスアップした上でフェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、10mg/ml グリコーゲン 2μl加えたエタノール沈殿をし、DW 30μlに再溶解した。
【0046】
(5) ベクターへのライゲーション
精製したscFv遺伝子断片とベクターpPDSのモル比が3:1になるように調製し、DNA ligation kit ver.1(TAKARA)を用いてライゲーション反応を行った。なお、その方法は添付プロトコールに従った。
(6) 形質転換(塩化ルビジウム法)
形質転換は、−85℃で保存したEscherichia coli XL1-Blueコンピテントセル溶液100μlを氷中で融解し、これにライゲーション溶液を10μl加え、氷中30分間静置した。次に42℃、2分間熱処理し、すばやく氷中に移して2分間静置した。SOC培地を1.0ml加え37℃で1時間振盪培養し、10μlを100μg/mlアンピシリン含有SOBAGプレートにプレーティング、37℃で終夜培養した。
(7) 挿入DNA断片の確認
挿入DNAであるscFv遺伝子の確認は、pPDSベクター由来の配列であり挿入部位を完全に増幅できるように設計したLac Z上流配列のM13−R、およびマウスCκ鎖内配列のSLP−1の1ペアプライマーを用い、コロニーをテンプレートとしたPCR法で行った。
(8) ファージディスプレイ抗体の調製
形質転換後、挿入DNA断片の確認されたコロニーは、50μg/mlアンピシリン含有SOC培地 2mlで30℃、ゆっくりとした終夜振盪培養をした。翌日、培養液 0.8mlに、100μg/mlアンピシリン含有Super Broth培地 0.2ml、および2Mグルコース 37μlを添加した。50mlチューブで37℃、3時間振盪培養した後、5×109pfuのヘルパーファージ(VCS−M13)を加え穏やかに振盪しながら30分間培養しファージを感染させた。さらに30分間強めに振盪培養した後、室温で800×g 10分間の遠心を行い上清を捨てた。沈殿物は、1mlの100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシン含有Super Broth培地で再懸濁した後、同培地9mlを加えて激しく振盪しながら終夜培養した。翌日冷却後、800×g 10分間の遠心で菌体を除き、0.45μmポアフィルター(関東化学)で上清を濾過し、その濾液をファージディスプレイ抗体浮遊液とした。なお、抗体は4℃もしくは−20℃で保存した。
得られたコロニーから10コロニーをランダムに単離し、PCRでインサート(scFv遺伝子断片)の有無を確認した。その結果、10クローン中4クローン(クローン#:1,3,5,および6)でインサートが確認され、これをもとにファージディスプレイ抗体を調製し、これら4種のファージディスプレイ抗体をそれぞれHUC2p1,HUC2p3,HUC2p5およびHUC2p6と命名した。
(9) 可溶型抗体の調製
可溶型抗体は、アンバー配列ノンサプレッサー株であるEscherichia coli XL1-Blue SOLR株(SOLR株)にファージディスプレイ抗体を感染させることにより作成した。SOLR株は25μg/mlカナマイシン含有SOC培地2mlで終夜培養し、その培養液200μlにファージディスプレイ抗体5μlを加えて37℃で1時間感染させた。この培養液を2×YT培地で希釈し、100μg/mlアンピシリン含有2×YTプレートにプレーティングし、37℃で終夜培養した。得られたコロニーをテンプレートとしたPCRでscFv抗体遺伝子断片が確認されたものを50μg/mlアンピシリン含有Super Broth培地2mlで培養した。その培養液500μlにSuper Broth培地4.5mlを加え、さらにアンピシリン、カナマイシンをそれぞれ終濃度100μg/ml、50μg/mlとなるように加え37℃、2時間振盪培養した。その後、終濃度が1mMとなるようにIPTGを加え、さらに4時間振盪培養した。培養液は氷冷後、室温で800×g 10分間遠心し、その上清を回収した。上清はさらに0.45μmポアフィルターで濾過滅菌し、その濾液を可溶型抗体液(培養上清)、また、沈殿物は培養液同容量のPBS 5mlで撹拌後、Handy Sonic model UR−20P(トミー精工)で超音波処理しその濾液を可溶型抗体液(菌体破壊抽出物)として調製した。なお、抗体は4℃もしくは−20℃で保存した。
【実施例9】
【0047】
HUC2−13 ScFv抗体の再構築ベクターを用いた発現
実施例8の(8)で構築したHUC2p3からScFv抗体遺伝子を再構築ベクター用に設計したプライマーを用い、増幅させた。反応液は、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出後、エタノール沈殿濃縮し、DW 20μlに再溶解した。
塩化セシウム法を用いた大量調製後の再構築ベクターならびにHUC2p3由来ScFv抗体遺伝子は、10U/μlのEagIと10U/μlのBssHIIで制限酵素処理した。さらに、ベクターは分子内ライゲーションを防ぐためBAP処理を行った。処理後の反応液は、1.0%アガロースゲルを用いて電気泳動し、UltraCleanで精製後、DW 10μlに再溶解し、再構築用サンプルとした。調製した再構築用サンプルは濃度測定後、ベクター:インサートのモル比が1:3になるように混合し、TAKARA Ligation Kit ver.1で16℃ 3時間ライゲーションし、その反応液5μlをコンピテントセル50μlに形質転換した。形質転換した大腸菌はアンピシリン含有2×YTプレートに40μlプレーティングし、終夜37℃で培養した。インサートのチェックは、scFv抗体遺伝子増幅用のプライマーを用い、コロニーをテンプレートとするPCRで行った。
インサートの確認できたコロニーは、実施例8に記載した方法に準じてファージディスプレイ抗体を調製した.
【実施例10】
【0048】
可溶型抗体の調製
可溶型抗体の調製は、実施例8に記載した方法に準じて行った。
【実施例11】
【0049】
ELISA
調製したニワトリ型ファージディスプレイ抗体ならびに可溶型抗体の反応性は、H25ペプチドを抗原としてELISAで解析した。一次抗体のリコンビナント抗体ならびにネイティブ抗体は15,625倍までの5倍段階希釈液を用いた。二次抗体に2,000倍希釈したHRPO標識抗ニワトリIgG(H+L)(Kirkegaard and Perry Laboratories)を用いたELISAで解析した。
即ち、5μg/ml濃度のH25ペプチドを96ウェルプレートに50μl/well(0.25μg/well)ずつ添加し、4℃、終夜固相化しこれを抗原プレートとした。抗原プレートはBlockAce(雪印乳業)をPBSで25%に希釈したものを400μl/well加え37℃ 1時間ブロッキングし、PBS−Tween 20(0.05%)で3回洗浄した。一次抗体反応は、リコンビナント抗体を50μl/well加え、37℃、2時間静置して行った。PBS−Tween 20(0.05%)で5回洗浄後、二次抗体反応として10%BlockAceで3,000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗M13抗体(Amersham Pharmacia biotech)を加え、37℃ 1時間静置した。PBS−Tween 20(0.05%)で8回洗浄後、o−フェニレンジアミン(ペルオキシダーゼ標識二次抗体使用時)(SIGMA)もしくはp−ニトロフェニルフォスフェート(アルカリフォスファターゼ標識二次抗体使用時)(Kirkegaard and Perry Laboratories)を用いて20分間の発色を行い、492もしくは405nmの吸収をマイクロプレートリーダ MPR−A4i(TOSOH)で測定した。
【実施例12】
【0050】
抗体V領域遺伝子(VHおよびVL)の調整
抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、RT−PCR(逆転写PCR)により合成したcDNAを元に、表2に示す合成プライマーセット(VH増幅用プライマーセット、VL増幅用プライマーセット)を用いて、VH及びVL領域を増幅する。
(VH増幅条件)
10x KOD buffer 1 5μl
25mM MgCl2 3μl
2.0mM dNTPS 4μl
プライマーCHB(10nmol/ml)* 5μl
プライマーCHSF(10nmol/ml)* 5μl
cDNA 1μl
KOD polymerase 0.5μl
DW 26.5μl
*VL増幅条件はプライマーCLSBとCLF1を用いる。
以上のPCR混合物を作り、サーマルサイクラーにセットして、以下のPCRサイクル条件でVHとVLの増幅を行う。
(PCRサイクル条件)
・98℃10秒x1回
・(98℃15秒、60℃7秒、74℃20秒)x30回
・74℃30秒
・4℃
【実施例13】
【0051】
scFvの構築
実施例12で得たVHおよびVLの増幅産物を精製した後、VHおよびVLを、リンカ(scFv linker)を用いて連結する(アッセンブリー反応)。
(連結条件)
10x KOD buffer 1 2.5μl
25mM MgCl2 2.1μl
2.0mM dNTPs 10μl
VH(0.125pmol/μl) 1μl
VL(0.125pmol/μl) 1μl
scFv linker(0.125pmol/μl) 1μl
KDO polymerase 0.3μl
DW 7.1μl
以上のPCR 混合物を作り、サーマルサイクラーにセットして、以下のPCRサイクル条件でVHとVLの連結を行う。
・98℃10秒x1回
・(98℃15秒、65℃30秒)x7回
・74℃30秒x1回
・4℃
【実施例14】
【0052】
scFvの再増幅と制限酵素処理
scFvの再増幅のための表2に示すプライマー・セット(CHBとCLF1)を用いて、実施例13で構築したscFvの再増幅を行い、scFvを精製した後、プラスミドベクターpCPDSに挿入するため、制限酵素(EagIとBssHII)を用いてscFv挿入遺伝子断片(インサート)を調製する。
(再増幅反応)
10xKOD buffer 1 2.5μl
2.0mM dNTPs 4μl
scFvプライマーCHB(10nmol/ml) 3μl
scFvプライマーCLF1(10nmol/ml) 3μl
KOD polymerase 0.3μl
DW 12.2μl
(PCR温度条件)
・98℃10秒x1回
・(98℃15秒、65℃7秒、74℃20秒)x30回
・74℃30秒x1回
・4℃
(制限酵素処理)
・scFvの制限酵素処理
scFv fragment 20μl
10xNEBuffer3 5μl
DWで 48μl
EagI(50units/μl) 37℃で一晩処理
・pCPDS vectorの制限酵素処理
pCMDS vector(5μg) xμl
10xNEBuffer3 9μl
DWで 88μl
EagI(50units/μl) 37℃で一晩処理
・電気泳動でベクターの消化が完全に行われたことを確認した後、2μlのBssII(20units/μl)を加え、50℃3〜4時間消化する。
・68℃20分間処理し、酵素を失活させる。
・scFvの精製
・pCPDSはセルフライゲーションを防ぐためにBAP処理し、精製する。
【実施例15】
【0053】
インサート(scFv)のpCPDSへの挿入(ライゲーション)
pCPDSとインサートを1:1〜10(モル比)に調整し、Ligation Kit ver.1(タカラ社製(TAKARA))を用いてライゲーションを行う。
ベクター Xμl
インサート Yμl
5 x ligation buffer 1μl
DWで 5μl
A buffer 20μl
B buffer 5μl
16℃で4〜終夜処理。
【実施例16】
【0054】
大腸菌の形質転換
インサートを挿入したpCPDS(10μl)を用いて、大腸菌(XL1−blue,100μl)を、実施例8に記載の方法に準じて順形質転換する。
インサートを発現する形質転換大腸菌を、増殖させた大腸菌のコロニーから複数の大腸菌コロニーを任意に取り、プライマー・セットを用いてscFvの増幅を行い、インサートを発現する形質転換大腸菌を選抜する。
【実施例17】
【0055】
ファージ発現抗体の作成
選抜済み大腸菌にヘルパーファージを感染させ、実施例8に記載の方法に準じてファージ発現抗体を作成する。
【実施例18】
【0056】
特異的ファージ抗体の選抜のためのパニング
抗原(プリオンタンパク)を固相化したプレートにファージ発現抗体を反応させた後、反応したファージ発現抗体のみを回収し、大腸菌に感染して特異的ファージ抗体を選抜する。
パニングは、抗原抗体反応を利用した高親和性抗体選抜法である。例えば、次のようにして行う。5μg/ml濃度のマルトース結合タンパク融合リコンビナントヒトPrP23−231(MBP−HuPrP)を96ウェルプレートに50μl/well(0.25μg/well)ずつ加え、4℃、終夜固相化しこれを抗原コートプレートとした。抗原コートプレート16ウェルに25%BlockAce 400μl/well加え37℃ 1時間ブロッキングし、PBS−Tween 20(0.05%)で3回洗浄した。洗浄後、ファージディスプレイ抗体浮遊液 1.6ml、BlockAce 704μl、5M NaCl 96μlで混合したものを150μl/well添加し、37℃ 2時間反応させ、PBS−Tween20(0.05%)で15回洗浄した。洗浄後のウェルには、溶出液50μl/wellを添加し、15分間 室温の反応後、2M トリス3μl/wellで中和した。中和後、反応液を回収しOD600=0.5〜1.0に培養したXL1−Blue 2mlに37℃ 1時間感染させた。感染後の溶液の一部は力価測定のために、100μg/mlアンピシリン含有SOBAGプレートにプレーティングし、溶出ファージ力価を測定した。さらにPCRによるインサートチェック後、そのインサート率を溶出ファージ力価に積し陽性溶出ファージ力価を求めた。残りの感染溶液には50μg/mlアンピシリン含有SuperBroth培地 400μlと2M グルコース37μl加え、37℃ 2時間の培養後、5×109pfuのヘルパーファージ(VCS−M13)を1時間感染させた。感染後、800×g 10分間遠心して上清を除き、100μg/mlアンピシリン、50μg/mlカナマイシン、25μg/mlテトラサイクリン含有SuperBroth培地 10mlで終夜培養した。翌日冷却後、800×g 10分間の遠心で菌体を除き、0.45μmポアフィルターで上清を濾過し、その濾液を一次パニング済ファージディスプレイ抗体浮遊液とし、次回のパニングサンプルとした。
【実施例19】
【0057】
可溶化抗体の作成
実施例8に記載の方法に準じて、特異的ファージ抗体をノンプレッサー大腸菌(SOLAあるいはHB2151)に感染させる。感染24時間後に、大腸菌培養上清および培養菌体を回収し、上清および菌体破壊抽出物を可溶化抗体とする。
抗FLAG抗体結合アガロースゲルを用いて可溶化抗体をアフィニティ精製する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、純粋な鳥類型リコンビナント抗体、好ましくはニワトリ型リコンビナント抗体を製造するためのプライマー・セット等を提供するものである。ニワトリ型モノクローナル抗体は、哺乳動物では作成できないモノクローナル抗体を作成することができ、ヒトのがんマーカーとなる抗原であるN−グリコリルノイラミン酸、プリオン病に関連するプリオンタンパクなどを認識するなどの例をはじめ、多くの生体系高分子への応用が可能であり、種々の検査・診断薬などへの展開が期待される。したがって、がん、プリオン病などの種々の診断薬、治療薬への応用が期待される。ところが、ニワトリ型の大きな欠点は、一般にモノクローナル抗体を産生させる融合細胞の手法では、実際に実用するための必要量ができないことである。本発明は、実質上純粋なニワトリ型抗体を、遺伝子組み替え法で、初めて多量に作ることに成功し、本発明は、新規なプラスミドベクターとプライマーを用いてニワトリ型モノクローナル抗体を効率よく多量に産生することを可能にしたものであり、本発明はそのためのプライマー・セット等を提供するものである。
したがって、本発明は、がん、プリオン病などの種々の診断薬、治療薬等のためのニワトリ型モノクローナル抗体のために有用なプライマー・セット等を提供するものであり、産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、公知の発現ベクターpPDSの構成を示すものである。
【図2】図2は、本発明のニワトリリコンビナント抗体発現用ベクター(pCPDS)の構築の概要を示す。
【図3】図3は、ニワトリCλ鎖遺伝子と思われる約340bpのバンド(図3のA)、約360bpの位置にニワトリCλ鎖にFLAG配列の付加したと思われるバンド(図3のB)、約600bpの位置のgeneIII遺伝子と思われるバンド(図3のC)、約950bpの位置のニワトリCλ鎖とgeneIII遺伝子が連結したと思われるバンド(図3のD)が検出されたことを示す、図面に代わる写真である。図3中の「M1」はpUC118 HinfIで消化を、「M2」はφx174 HaeIIIで消化を示す。
【図4】図4は、114残基のアミノ酸をコードするニワトリCλ鎖遺伝子の塩基配列と、本発明の方法で得られたCλ鎖の塩基配列を比較したものである。
【図5】図5は、インサートして得られた12クローンで約360bpの位置にニワトリCλ鎖の増幅が確認できたことを示す、図面に代わる写真である。図5の「M」はpUC118 HinfIで消化を示す。
【図6】図6は、本発明の方法で得られた12クローンのリコンビナント抗体について、抗ニワトリIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合、及び抗マウスIgG(H+L)をキャプチャー抗体とした場合のELISA値(OD492)を示すものである。黒塗りはキャプチャー抗体として抗マウスIgG(H+L)を使用した場合を示し、白抜きはキャプチャー抗体として抗ニワトリIgG(H+L)を使用した場合を示す。
【図7】図7は、本発明の発現ベクターpCPDSの構成を示す。
【図8】図8は、ニワトリ抗体のV領域重鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図8のNはDセグメントの塩基配列を示し、:は欠失を示す。
【図9】図9は、ニワトリ抗体のV領域重鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図9のNはDセグメントの塩基配列を示し、:は欠失を示す。
【図10】図10は、ニワトリ抗体のV領域重鎖の塩基配列、及びV領域軽鎖のアミノ酸配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図10のNはDセグメントの塩基配列を示し、:は欠失を示す。
【図11】図11は、ニワトリ抗体のV領域軽鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図11の:は欠失を示す。
【図12】図12は、ニワトリ抗体のV領域軽鎖の塩基配列を、HUC2−13と共に比較して示したものである。図12の:は欠失を示す。
【図13】図13は、HUC2−13L鎖における多様性獲得機構をHUC2VLと共に比較して示したものである。図13の?は突然変異を示し、:は欠失を示し、PVは偽遺伝子を示す。
【図14】図14は、本発明の方法により調製されたリコンビナント抗体のH25ペプチドに対する反応性の確認を試みたELISA値(OD492)の結果を示すものである。図14中の黒四角印はニワトリ型ファージディスプレイ抗体を示し、灰色菱形印はニワトリ型可溶型抗体(培養上清)を示し、灰色丸形印はニワトリ型可溶型抗体(菌体破壊)を示し、灰色三角形印はHUC2−13(ネイティブ抗体)を示す。
【図15】図15は、本発明の純粋なニワトリリコンビナント抗体作製のための概要を示したものである。
【図16】図16は、哺乳動物(図16上段)と鳥類(図16下段)における抗体H鎖遺伝子の構成を模式的に示したものである。
【図17】図17は、本発明のプライマーCLF1の使用状況を模式的に示したものであり、図17の上段の左側がVL領域であり、そのすぐ右側がCλ領域である。
【配列表フリーテキスト】
【0060】
本発明のプライマーの塩基配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひととつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー。
【請求項2】
塩基数が15〜30である請求項1に記載のプライマー。
【請求項3】
塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖である請求項1又は2に記載のプライマー。
【請求項4】
他方のプライマーの塩基配列が、
5’−ctgatggcggccgtgacgtt−3’
又はその相補鎖である請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー。
【請求項5】
他方のプライマーの塩基配列が、
5’−tctgacgtcgcgctgactcagcc−3’
又はその相補鎖である請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のプライマーを用いて、ニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させる方法。
【請求項7】
可変領域がVL領域である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プライマーが請求項5に記載のプライマーである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
可変領域がscFvである請求項6に記載の方法。
【請求項10】
プライマーが請求項4に記載のプライマーである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖であるオリゴヌクレオチド。
【請求項1】
ニワトリ型モノクローナル抗体のVL又はscFvをコードする遺伝子を増幅させるためのプライマーのひととつが、制限酵素BssHIIで切断できる塩基配列を有することを特徴とするニワトリ型モノクローナル抗体のscFvをコードする遺伝子増幅用のプライマー。
【請求項2】
塩基数が15〜30である請求項1に記載のプライマー。
【請求項3】
塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖である請求項1又は2に記載のプライマー。
【請求項4】
他方のプライマーの塩基配列が、
5’−ctgatggcggccgtgacgtt−3’
又はその相補鎖である請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー。
【請求項5】
他方のプライマーの塩基配列が、
5’−tctgacgtcgcgctgactcagcc−3’
又はその相補鎖である請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のプライマーを用いて、ニワトリ型モノクローナル抗体の可変領域をコードする遺伝子を増幅させる方法。
【請求項7】
可変領域がVL領域である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プライマーが請求項5に記載のプライマーである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
可変領域がscFvである請求項6に記載の方法。
【請求項10】
プライマーが請求項4に記載のプライマーである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
塩基配列が、
3’−ttgggactggcaggatccgcgcgggttc−5’
又はその相補鎖であるオリゴヌクレオチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−25799(P2006−25799A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291975(P2005−291975)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【分割の表示】特願2000−54875(P2000−54875)の分割
【原出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【分割の表示】特願2000−54875(P2000−54875)の分割
【原出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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