説明

ニワトリ貧血因子ワクチン

【課題】ワクチン接種したニワトリにおいて免疫反応を誘導することができる、生の及び不活性化したニワトリ貧血因子(CAA)ワクチンを提供すること。
【解決手段】ワクチンのCAAウイルスは孵化卵内における連続継代により弱毒化する。この発明はまた、このような新規のCAAウイルスおよび該ウイルスの製造方法も提供する。インビトロにおいてCAAウイルスを高力価に増殖させることができ、得られたウイルスは免疫原性を保持し且つ病原性も極めて低い。これにより、該ワクチンは、CAAに対する家禽類の保護に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニワトリ貧血因子(CAA)に対する家禽類の保護のための、生のもしくは不活性化されたワクチン、このようなワクチンの製造方法、CAAウイルス産物の製造方法、並びに、CAAウイルスの微生物学的に純粋な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニワトリ貧血因子(CAA)は鳥類の感染性貧血の原因となる因子であり、最初にYuasaらにより1979年に記載された(Avian Diseases 23巻、366‐385ページ、1979年)。幼若で感受性であるニワトリにおいて、CAAは骨髄の形成不全症/減形成症及び胸腺の萎縮を伴う顕著な貧血を引き起こす。
【0003】
ニワトリは、CAAに起因する実験的に誘導した疾患に対して年令抵抗性を発現する。これは主に2週令までに完了するが、それより年上の鳥もやはり感染に対して感受性である(Yuasa、N.ら、1979年、上掲;Yuasa、N.ら、Avian Diseases 24巻、202‐209ページ、1980年)。しかしながら、ニワトリがCAAと免疫抑制剤(IBDV、MDV等)で2重に感染される場合には、疾患に対する年令抵抗性は遅延する(Yuasa、N.ら、1979年及び1980年、上掲;Bulow von V.ら、J. Veterinary Medicine 33巻、93‐116ページ、1986年)。CAAを接種したニワトリにおける疾病率及び死亡率は、接種に使用されたCAAの用量と強く関連しており、つまり、用量が多ければ疾患の重症度が高くなる(Yuasa、N.ら、1979年、上掲)。
【0004】
CAAは、腎臓、胸腺、ファブリシウスの粘液嚢、骨髄もしくは白血球細胞に由来するニワトリ胚の線維芽細胞(CEF)、ニワトリ胚の脳細胞、ニワトリ胚の肝細胞、及び、ニワトリ細胞のような様々なニワトリ及びニワトリ胚の組織から誘導される標準的な培養単層細胞中においては増殖せず(Yuasa、N.ら、1979年、上掲;Yuasa、N.、Natl. Inst. Anim. Health Q.、23巻、13‐20ページ、1989年)、あるいは、VERO、CRFK、MDCK及びA‐72のような一般的に用いられる種々の哺乳類細胞系においても増殖しない(Rosenberger、J.K.及びCloud、S.S.、Avian Diseases 33巻、707‐713ページ、1989年)。CAAは、マレック病から樹立されたある種のリンパ芽球細胞系及びリンパ系白血症リンパ腫の中、特にMDCC‐MSB1細胞培養物中において増殖する(Yuasa、N.ら、1983年、上掲)。しかしながら、都合の悪いことに、CAAはMDCC‐MSB1細胞中においては比較的低い力価でしか増殖できない。すなわち、MDCC‐MSB1細胞中においては、105.0 〜106.0 TCID50/0.1mlの力価が得られたにすぎなかった。更に、CAAは、MDCC‐MSB1細胞中において、接種用量の約10倍までしか増殖しないことが判明している(Yuasa、N.ら、1983年、上掲、Bulow von V.ら、Zentralblatt Vet. Med. 32巻、679‐693ページ、1985年)。
【0005】
ニワトリに加え、CAAは、ニワトリ胚中においても増殖することができる(Yuasa、N.及びYoshida、I.、Natl. Inst. Anim. Health Q. 23巻、99‐100ページ、1983年;Bulow von V.及びWitt、M.、J. Vet. Med. 33巻、664‐669ページ、1986年)。しかしながら、これらの胚については致死的もしくは病理学的作用は何ら観察されず、CAAは孵化卵内において、胚に影響を与えるほど充分大量には増殖しないことが示された。胚全体から取得できたCAAの最高力価は、MDCC‐MSB1細胞中においてアッセイした場合には105.0 〜106.5 TCID50/mlの間で変化し、これは、実験的に感染させたニワトリの肝臓抽出物から取得された力価に等しい。
【0006】
Bulow von V.及びWitt、M.(上掲)は、ウイルスの弱毒化を必要としない親貯蔵株(parent stock)を投与することができる生ワクチンの製造のための手段として、孵化卵内における発病性CAAの増殖を研究した。しかしながら、ウイルスの弱毒化は、免疫原性の損失を引き起こすことがあるという理由から、それを避けなければならないことが下記の文献中に記載されている(Bulow von、 V.及びFuchs、B.、J. Vet. Med. 33巻、568‐573ページ、1986年)。
【0007】
Bulow及びFuchs(J. Vet. Med. 33巻、568‐573ページ、1986年)は、CAA株Cux‐1の病原性はMDCC‐MSB1細胞内での12回連続の継代の後に低減することを報告しているが、これらの病原性の弱い株の免疫原性に関するデータはその文献中に何ら開示されていない。実際のところ、病原性の低減を伴う免疫能力の減少がBulow及びFuchsにより予想されている。
【0008】
Yuasa(1983年、上掲)またはGoryoら(Avian Pathology 16巻、149‐163ページ、1987年)またはOtakiら(Avian Pathology 17巻、333‐347ページ、1988年)のいずれもが、それぞれ、Gifu‐1株の19回の継代後、TK‐5803株の40回の継代後、及び、CAA82‐2株の40回の継代後のMDCC‐MSB1細胞における弱毒化に関する証拠を見出していない。
【0009】
Vielitz E.ら(J. Vet. Med. 34巻、533‐557ページ、1987年)は、Cux‐1株に由来するCAA生ワクチンの評価を報告している。しかしながら、その文献中では弱毒化したCAA株を使用していない。発病性CAAを含むこのワクチンを9〜15週令のニワトリに投与したが、接種した鳥において何ら病原性を示さなかった。CAAに起因する実験的に誘導した疾患に対する年令抵抗性は2週令までに本質的に完了するというこの公知の年令抵抗性の点で、接種される鳥自身のための生ワクチンの弱毒化のレベルは、この場合あまり重要でない。しかしながら、CAA生ワクチンとの接触後の幼若なニワトリにおける病理学的兆候を予防するために、CAA生ワクチンウイルスを大いに弱毒化するべきである。
【0010】
CAA生ワクチンの代替物、不活性化し、アジュバントを加えたワクチンであろう。このような不活化ワクチンを、ニワトリ中に存在する免疫性を増強するために使用することができる。しかしながら、インビトロ(in vitro)においてCAAウイルスを高力価にまで増殖させることが現在不可能であることによりこのアプローチを複雑なものにするという理由から、現在までに不活化CAAワクチンは報告されていない(McNulty、M.S.、Avian Pathology 20巻、187‐203ページ、1991年)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのため、本発明の第1の目的は、インビトロにおいて高力価にまで増殖することができるCAAウイルスを提供することである。
【0012】
更に、本発明の目的は、野生種の単離体に関して、幼若ニワトリにおいて病原性の著しい低下を示しかつその免疫原性を保持するCAAウイルス株から誘導されたCAAワクチンを提供することである。
【0013】
更に、本発明の目的は、ワクチン接種後にニワトリにおける免疫反応を引き起こすために十分高い量のCAA抗原を含む不活化CAAワクチンを提供することである。
【0014】
更に、本発明の目的は、CAAウイルス株の弱毒化のための一般的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、新しいCAAウイルス、すなわち、ニワトリ胚において病変を誘発することができるCAAウイルスに関する。CAAに起因する病変は、死亡、青白い胚、及び、出血、特に頭部の出血、を含む。これらの種類のCAAウイルスは、様々な有利な特性を示す。本発明のCAAウイルスの好ましい特性のうちの一つは、詳細を下記に述べてあるように、それらがインビトロにおいて高力価にまで増殖することができるということである。
【0016】
当該CAAウイルスの更に別の利点は、これらのウイルスは、ニワトリ胚に対してより強い発病性を示すものの、CAA野生型ウイルスと比較した場合1日令のヒナに対しては低減された病原性を有し、かつ、それらの免疫原性特性を保持しているということである。
【0017】
本発明はパスツール研究所のCNCMに寄託してあるI‐1141株のCAAウイルスに関する(19回目の継代レベル)。これらのウイルスを少なくとも108.4 TCID50/mlの力価にまで孵化卵内で培養することができ、更に、これらは親の野生型株よりも1日令のヒナに対してより低い病原性を示しかつ親株同様の免疫原性を示す。
【0018】
新しい種類のCAAを、以下及び実施例において記載するように、孵化卵内において入手できる任意のCAAウイルスを継代することにより取得することができる。
【0019】
CAAに対する家禽類の保護のための新規のワクチンは、そのワクチンが、ニワトリ胚において病変を誘発することができるCAAウイルスを含み、好ましくは、それらのウイルスが孵化卵内における継代の手法により取得されるという特徴を有する。
【0020】
ニワトリ組織、例えば肝臓からの入手できるCAA株の単離後、組織ホモジネートを多段階の弱毒化過程に使用することができる。まず最初に、所望ならば、卵内への接種前に、MDCC‐MSB1細胞内のような、CAAに適する組織もしくは細胞内でCAAウイルスを継代及び増殖させることができる。このウイルスストックをその後、孵化卵に感染させ、更に、その後の増殖、及び孵化卵内でのウイルスの継代のために、この目的について当業者に公知の方法により使用することができる。
【0021】
より具体的には、標準方法に従い、卵当たり少なくとも104.5 TCID50で卵黄嚢を通して卵をCAAで感染する。感染された胚を、接種後約13日後に取り出し、ホモジナイズし、更に、例えばトリプトース2.5%(1:20 v/v)で希釈する。その後、新鮮な孵化卵に、各卵継代段階において、卵当たり0.2mlのホモジネートを接種した。最後の卵継代の後、ウイルスを増殖させ、その後取り出し、更に、CAA感染に対する免疫化活性を有するワクチンに加工する。最終継代のウイルスを、孵化卵、または、MDCC‐MSB1細胞のようなCAAに対して感受性である細胞もしくは組織培養内で増殖させることができる。孵化卵の場合には、胚および/または膜および/または尿膜液を取り出す。
【0022】
好ましい増殖及び弱毒化された性質を有するCAAウイルスを取得するために必要な卵継代の回数は、特に、特有のCAA株、及び、弱毒化および/または所望のインビトロでの力価に依存する。
【0023】
本発明の生ワクチンを製造するのに適する、病原性の顕著な減少を有するウイルスを結果として生じるCAAウイルスの卵継代の典型的な合計回数は、18回もしくはそれ以上の回数であり、34回もしくはそれ以上の回数であることが好ましい。
【0024】
特に、本発明のワクチンはインターベット(Intervet)CAA株26P4のウイルスに由来する。この株は、元々、貧血を患う野生のニワトリの肝臓から単離された。単離後、この株をMDCC‐MSB1細胞内で5回継代し、更にその後、孵化卵内で19回継代した。この株のサンプルは受託番号I‐1141としてフランスのパスツール研究所のCollection Nationale de Cultures de Micro‐organismes(CNCM)に寄託してある。19回目の継代レベルのCAAウイルスのみが本発明のワクチンの製造に使用できるだけでなく、この株のその後の継代レベルのウイルスも非常に適切なものである。
【0025】
この弱毒化された株は、卵を適用させなかったこの株のウイルスに関してウイルス中和(VN)テストを用いて測定する場合、その病原性の著しい低下を示す一方、この株のウイルスの免疫原特性は何の影響も受けない。
【0026】
上述の方法に従って取得することができる新規のCAA生ウイルスは、いくつかの他と異なる特性を有しており、特に、
‐これまでに開示されている全てのCAA株に対立するものとして、そのCAAウイルスは胚中において致死的または病理学的作用を含む、CAAに特異的な病変を誘導する。(Yuasa、N.ら、1979年、上掲;Yuasa、N.及びYoshida、I.、1983年、上掲;Bulow von、V.及びWitt、M.、1986年、上掲)。他の好ましい特性は、
‐このCAAウイルスは弱毒化され、つまり、1日令のSPFニワトリに投与する場合、野外から単離したCAAに関して顕著に低い病原的兆候を誘発するにすぎない、
‐このCAAウイルスは、孵化卵中において高力価にまで増殖するのに適合している。
【0027】
生の弱毒化されたCAAを含む本発明のワクチンを、それ自体公知の方法で懸濁液の形態もしくは凍結乾燥物として製造し、かつ、市販することができる。
【0028】
生ワクチンについて、ヒナ当たりの用量割合は弱毒化ウイルスの101.0 〜107.0 TCID50の範囲であることができる。
【0029】
特に、乾燥組成物を凍結乾燥により製造する場合には、安定剤を添加すると都合がよい。適切な安定剤は、例えば、SPGA(Bovarnikら、J. Bacteriology 59巻、509ページ、1950年)、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ショ糖、デキストランもしくはグルコース)、蛋白質類(例えば、アルブミンもしくはカゼイン)、あるいは、それらの分解産物、及び、バッファー(例えば、リン酸アルカリ金属塩)である。所望ならば、アジュバント活性を有する1種類もしくはそれ以上の化合物を添加することができる。この目的に適する化合物は、例えば、ビタミンEアセテートのo/w(油中水型)乳化液、水酸化アルミニウム、リン酸塩もしくは酸化物、鉱物油(例えば、Bayol F(登録商標)、Marcol 52(登録商標))及びサポニン類である。
【0030】
本発明の他の重要な態様は、この病原体により引き起こされるニワトリにおける疾患の予防のための、不活性化したCAAワクチンの使用である。現在までに、接種されるニワトリにおいて免疫反応を誘導する不活性化CAAワクチンは製造されていない。
【0031】
最初に本発明は、CAAウイルスの有効量を含む不活性化CAAワクチンを提供するが、このワクチンは、ワクチン接種後ニワトリ内でCAAウイルス中和抗体の産生を誘起することができる。
【0032】
特に不活性化ワクチンは、本発明の新しい種類のCAAウイルスから誘導される。
【0033】
本発明の好ましい不活性化CAAワクチンは、上述したように、連続した継代により孵化卵内において弱毒化された不活性化CAAの1種類もしくはそれ以上の単離物を含む。所望ならば、卵を適応させたCAAを、不活性化過程の前に、MDCC‐MSB1細胞のような感受性の細胞もしくは組織培養内において増殖させることができる。
【0034】
MDCC‐MSB1細胞上でアッセイする場合、この不活性化ワクチンが、用量当たり約107.5 TCID50を上回る、好ましくは用量当たり約108.0 TCID50を上回る、更に、より好ましくは用量当たり約109.0 TCID50を上回る、前不活性化ウイルス力価を有するCAAを含むことが好ましい。
【0035】
不活性化CAA液を、アミコン濃縮器のような有効な技術、ポリエチレングリコールを用いるような沈殿技術、超遠心の方法による濃縮、あるいは、アジュバント濃縮技術のうち任意の数の技術を用いて濃縮することができる。
【0036】
CAAウイルスの不活性化の目的は、ウイルスの再生をなくすことである。一般的には、これを化学的もしくは物理学的方法により行うことができる。化学的不活性化は、ウイルスを、例えば、酵素、フォルムアルデヒド、β‐プロピオラクトン、エチレンイミンもしくはそれらの誘導体で処理することにより実施することができる。必要ならば、この不活性化用化合物をその後中和するが、例えば、フォルムアルデヒドで不活性化された材料をチオ硫酸で中和することができる。物理学的不活性化は、好ましくは、紫外線、X線照射もしくはγ線照射のような高エネルギー照射にウイルスを供することにより実施することができる。所望ならば、pHを処理後に約7の値に戻すことができる。
【0037】
通常は、1種類のアジュバント(例えば上述したようなもの)、及び、所望ならば、さらに、Tween(登録商標)及びSpan(登録商標)のような1種類以上の乳化剤を不活性化した材料に添加する。
【0038】
本発明のワクチンを、ウイルス材料の有効用量、すなわち、CAAに対するニワトリ内の免疫反応を誘導するウイルス材料の量で投与する。
【0039】
本発明のワクチンを、任意の年令において、噴霧、点眼、点鼻、経口的(例えば、飲料水)、あるいは、筋肉内もしくは非経口的な注射により投与することができる。
【0040】
生であれ不活性化物であれ、本発明のワクチンを、この病原体での感染に冒されているニワトリから入手できるもしくは取得できる任意のCAA株から製造することができる。多数のCAA単離物が従来の技術において既に記載されており、それらは例えば、Cux‐1株(Bulow von、V.ら、J. Veterinary Medicine 30巻、742‐750ページ、1983年)、Gifu‐1株(Yuasa、N.ら、1979年、上掲)、TK‐5803株(Goryo、M.ら、1987年、上掲)及びCAA82‐2株(Otakiら、1988年、上掲)である。
【0041】
生であれ不活性化物であれ、本発明のワクチンは、受託番号I‐1141としてCNCMに寄託してあるインターベットCAA株26P4のウイルスから誘導される。
【0042】
本発明のワクチン、好ましくは不活性化したCAAを含むワクチンは、CAA成分と1種類もしくはそれ以上の無関係な鳥類ウイルスとの組合せ物を含むことができ、その鳥類ウイルスは、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、伝染性粘液嚢疾患ウイルス(IBDV)、マレック病ウイルス(MDV)、七面鳥のヘルペルウイルス(HVT)、伝染性喉頭気管炎、もしくは他の鳥類のヘルペスウイルス、レオウイルス、エッグドロップ(Egg Drop)症候群ウイルス、鳥類の脳脊髄膜炎ウイルス、細網内膜症ウイルス、白血症(Leucosis)ウイルス、伝染性上皮腫ウイルス、七面鳥の鼻気管支炎ウイルス(TRTV)、もしくはアデノウイルスである。
【0043】
本発明の他の重要な態様は、CAAウイルス生成物のための新しい生産系である。得られたウイルス生成物を、家禽類におけるCAA感染の撲滅のためのワクチン組成物を処方するために使用することができる。本発明の完成以前は、インビトロの増殖から取得できる最高力価は約106.0 〜107.0 TCDI50/mlの範囲であった。手頃な値段で、本生産系によるCAA抗原を充分なレベル取得することが不可能であったことを、従来の技術においてはまだ克服できなかった。更に、CAAウイルスを高力価にまで増殖させることが現在不可能であることが、高濃度の抗原を必要とする不活性化CAAワクチンの製造を妨げてきた。
【0044】
本発明のCAAウイルス生成物の製造方法は、ニワトリ胚において病変を誘発することができるCAAウイルス、特に孵化卵内で弱毒化されたCAAウイルスを感受性の基体(substrate)接種し、CAAを増殖させ、更に、CAAを含有する物質を取り出す段階を含む。
【0045】
これらのCAAウイルスが増殖する基体はSPF孵化卵であることが好ましい。孵化卵に、例えば、卵当たり少なくとも104.5 TCID50を含むCAA含有懸濁液もしくはホモジネート0.2mlを接種することができる。卵に約106.0 TCID50で接種し、更にその後、100°Fで13日間インキュベートすることが好ましい。13日後、CAAウイルス生成物を、胚および/または膜および/または尿膜液を採取することにより取り出すことができ、更にこの物質を適切にホモジナイズする。このホモジネートを、その後10分間、2500gで遠心することができ、その後上清をフィルター(100μm)を通して濾過する。
【0046】
あるいは、上述のCAAウイルスを、例えばMDCC‐MSB1細胞のような、感受性の細胞培養上へ接種することができ、その後、その細胞を培養し、更に、増殖したウイルスを回収する。
【0047】
MDCC‐MSB1細胞内においてアッセイする場合、少なくとも約108.0 TCID50/mlの、通常は少なくとも約108.4 TCID50/mlの手取可能なウイルス力価を、接種後10から18日後、好ましくは接種後13日後に取得することができる。取り出した液体を、最終生成物をそのまま充填および/または塊状に凍結するかあるいは凍結乾燥する前に、前述したウイルス安定剤と配合することができる。
【0048】
あるいは、取り出した液体を不活性化することができる。CAA液を、二成分エチレンイミン、アセチルエチレンイミンのような不活性化用試薬の数々のもので不活性化することができるが、その試薬はこれらに限定されることはなく、0.1から0.5%の濃度のβ‐プロピオラクトンが好んで用いられる。この不活性化用試薬を、ホモジネートもしくはその濾液中に含まれるウイルスに添加することができる。
【0049】
水酸化ナトリウムもしくは重炭酸ナトリウム溶液で調整しながらpHを酸性側に逆シフトさせて、β‐プロピオラクトンをウイルス液に添加する。配合された不活性化用試薬‐ウイルス液を、4℃から37℃の温度でインキュベートする。1から72時間のインキュベーション時間を用いることができる。
【0050】
更に、本発明は、孵化卵内で弱毒化したCAA株のウイルスから製造したワクチンを投与することを含む、家禽類においてCAA感染を制御するための方法を含む。この方法は生もしくは不活性化したワクチンの投与を含む。
【実施例】
【0051】
実施例1
孵化卵内でのCAAの弱毒化
親株であるインターベット株26P4を、貧血を患っている野生のニワトリの肝臓から単離した(exp. VIM‐CA‐89‐4‐153)。単離後、その株を、卵内に接種する前にMDCC‐MSB1細胞内で5回継代した。卵の卵黄嚢内に、0.2mlのCAA株26P4もしくはGifu(Yuasa、N.ら、Avian Diseases 23巻、366‐385ページ、1979年)を接種した。13日間の100°Fでのインキュベーションの後(湿度:55%)、胚を取り出し、更に、ホモジナイズした。このホモジネートを2500gで10分間遠心した。上清を集め、更に、100μmのフィルターを通して濾した。このホモジネートをトリプトース2.5%で20倍に希釈し、更に、卵当たり0.2mlを接種した。同様に処理することにより、19回より多い回数の継代を、株26P4に施した。この株の19回目の卵継代の試料(CAAの種親(master seed)18‐09‐1990;1ml/fl)を、受託番号I‐1141として、パスツール研究所(パリ、フランス)のCNCMに寄託した。Gifu株を、孵化卵内で14回継代することにより弱毒化した。
【0052】
実施例2
2種類の高卵継代CAAウイルスと低卵継代CAAウイルスの孵化ニワトリ卵内における増殖特性の比較
30から60個のSPF卵の卵黄嚢内に、様々な卵継代レベルのウイルスを接種した。100°Fでの7日間のインキュベーションの後(湿度55%)、卵に燭光をあて、死んだ孵化卵もしくは未受精卵は廃棄した。接種後(p.i.)7日目から、卵を毎日燭光をあて、胚死亡率を記録した。CAAに起因する胚死の記録は、接種後10日後、つまり11日目に開始した。接種後13日目に胚を取り出し、ホモジナイズし、更に、2500gで10分間遠心した。上清を集め、MDCC‐MSB1細胞内でウイルス感染を測定した。
【0053】
表1及び2は、胚病変および/または胚死を誘導することができる高卵継代CAAウイルスが、低卵継代ウイルスと比較して高い力価にまでインビトロで増殖することができることを示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
胚を接種後13日目に取り出した。3回目の卵継代の26P4株を接種した胚は全く胚病変を示さなかった。17回目の卵継代株を接種した胚は青白く、数個の胚(特に死んだ胚)は頭部の出血を示した。
【0057】
実施例3
CAA生ワクチンでの実験的ワクチン接種
CAAウイルスの弱毒化及び、孵化卵を通してのウイルスの継代による免疫原性の維持を測定するために実験を行った。
【0058】
‐CAA生ワクチンの病原性
実験1においては、以下に示すインターベット株の継代レベルを使用した:
* 1回目の卵継代レベル(低卵継代レベル)
* 18回目の卵継代レベル(高卵継代レベル)
* 未感染のSPF孵化卵からの胚ホモジネート(13日間インキュベーシンしたもの)。
【0059】
実験2においては、以下に示すインターベット株の継代レベルを使用した:
* 4回目の卵継代レベル(低卵継代レベル)
* 19回目の卵継代レベル(高卵継代レベル)
19回目の継代レベルのCAAウイルスを「種親」として貯蔵した。
【0060】
* 未感染のSPF孵化卵からの胚ホモジネート(13日間インキュベーシンしたもの)。
【0061】
0.2mlの希釈したCAA株が約106.0 TCID50を含むようにウイルスを希釈した。1日齢のSPFニワトリに、筋肉内経路により、0.2mlのワクチンを接種した。
【0062】
実験3においては、以下に示すGifu株の継代レベルを使用した:
* 1回目の卵継代レベル
* 14回目の卵継代レベル
107羽の1日齢のニワトリを35〜46羽の3つの群に分けた(上述を参照せよ)。3番目の群はワクチン接種しなかった(対照群)。ワクチン接種後10及び14日目に、群当たり10羽の鳥を、ヘマトクリット値測定及び検死のため隔離室(isolator)から取りだした。ワクチン接種後3週間後に鳥を脱血し、更に、間接免疫蛍光法テスト(IIFT)によりCAA抗体について血清を調べた。ワクチン接種は、実験1及び2について記載したように行った。
【0063】
実験1及び2においては、150羽の1日齢のSPFニワトリを各50羽の3つの群に分け、更に、各群を陰圧隔離室内に入れた。群当たり40羽の鳥に、上述のウイルスの内の1種類をワクチン接種し、更に、群当たり10羽の鳥はワクチン接種せず、接触対照として利用した。ワクチン接種後10、14及び21日目に、群当たり4もしくは8羽の鳥を、ヘマトクリット値測定及び検死のため隔離室から取り出した。ワクチン接種後5週間目に鳥を脱血し、更に、VNテストによりCAA抗体について調べた。
【0064】
ウイルス滴定
96穴マイクロプレート(組織培養グレード)を用いて、MDCC‐MSB1細胞内でウイルスを滴定した。ウイルスの連続した10倍希釈液を、10%のウシ胎児血清及び抗生物質を補充したRPMI1640培地内で調整した。96穴マイクロプレートの10穴を、各ウイルス希釈液の穴当たり100μlで満たした。その後、100μlのMDCC‐MSB1細胞(終濃度は1ml当たり6×105 細胞である)を添加した。その細胞を2、3日毎に二次培養し、更に、10回の二次培養後に終点を読み取った。感染力価をReed及びMuench(Reed、L.J.及びMuench、H.、Am. J. Hyg. 27巻、493‐497ページ、1938年)に従い計算した。
【0065】
血清学的テスト
CAAに対する抗体を、96穴のマイクロプレートを使用し、MDCC‐MSB1細胞及び従来の定常ウイルスを用いてVNテスト、改良した血清法により測定した。(Kunitoshi、I.、及びYuasa、N.、Jpn. J. Vet. Sci. 52巻、873‐875ページ、1990年)。IIFTは、標準的な方法に従って行った(Yuasa、N.ら、Avian Pathology 14巻、521‐530ページ、1985年)。
【0066】
ヘマトクリット値
血液は、羽の血管からヘパリン処理マイクロヘマトクリット毛細管内へ採取した。ヘマトクリット値(%)は、12,000rpmで5分間の遠心の後読み取った。ニワトリは、27.0%を下回るヘマトクリット値を示す場合に貧血であると見なされる(Yuasa、N.ら、1979年、上掲)。
【0067】
実験1〜3からの、SPFニワトリ内に誘導された主な病理学的病変を、表3〜5にそれぞれ要約した。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
影響を受けた鳥の総数ばかりでなく、平均Ht値の差により証明される病理学的変化の重症度においても、CAA単離物の低卵継代ウイルスと高継代ウイルスとの間の病理学的変化に著しい差異が存在する。また、高卵継代ウイルスにより誘導される骨髄及び胸腺の病変全般は、低卵継代ウイルスにより誘導される病変に比較して重症度はより低かった。
【0072】
‐CAA生ワクチンの免疫原性
表5は、Gifu株の免疫原性はCAAウイルスの弱毒化の結果として悪影響を受けなかったことを証明している。表6は、実験1及び2の血清学の結果を示している。高継代ウイルスの病原性の低下にも拘わらず、このウイルスの免疫原性の低下は何ら認められなかった。
【0073】
【表6】

【0074】
実施例4
配合生ワクチンでのワクチン接種
レオウイルスワクチン:市販の(インターベット インターナショナル B.V.、オランダ)レオ生ワクチン Nobilis(登録商標)(バッチ 016901)。このワクチンを製造元の推奨により希釈剤で希釈した。
【0075】
CAAワクチン:インターベット株の19回目の卵継代レベルのCAA生ワクチンを、1羽の鳥用量(0.2ml)が102.6 TCID50を含むように希釈剤で希釈した。
【0076】
4週齢のSPFニワトリを、1羽の鳥用量のレオ生ワクチン、1羽用量のCAA生ワクチン、あるいは、1羽用量の配合したレオ及びCAA生ワクチン、のいずれかで筋肉内注射でワクチン接種した。接種後4及び6週目に血液試料を採取し、更に、その血清を、CAAとレオウイルスに対する抗体の存在について、ウイルス中和テストでテストした(表7)。
【0077】
【表7】

【0078】
上の表から、配合したワクチンは生の形態で両方の種類のウイルスを含むけれども、それらの免疫原性の負の相互干渉(妨害)は観察されないことが明らかである。
【0079】
実施例5
不活性化CAAワクチンでの実験的ワクチン接種
4週齢のSPFニワトリに、油中水型の乳化剤(w/o)中で不活性化したCAAワクチンを筋肉内注射によりワクチン接種した。そのワクチンは、インターベット株の19回目の卵継代レベルの胚ホモジネートから調製した。そのウイルスをβ‐プロピオラクトンで、37℃で3時間不活性化した。50%の不活性化したCAA‐卵材料と50%の鉱物油‐乳化液を含むw/o乳化液を調製した。
【0080】
感染力価に基づく、ニワトリ当たり107.5 TCID50ウイルス抗原を含むw/o乳化液0.5mlを、筋肉内に注射した。その鳥は、ワクチン接種後8週間目に、筋肉内注射により同一の不活性化ワクチンで2回目のワクチン接種を受けた。第1及び第2ワクチン接種後の様々な時間に、血液試料を採取し、更に、その血清を、VNテストでCAA‐抗体の存在についてテストした(表8)。107.5 TCID50ウイルス抗原を含む不活性化ワクチンは接種した動物内において免疫反応を誘導することができることが証明された。
【0081】
他のワクチン接種実験においては、ワクチンの用量が1mlの油中水型乳化液中あたり108.0 及び109.0 TCID50であることを除き、上述してあるものと同一の方法に従った(表9)。
【0082】
【表8】

【0083】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニワトリ胚において病変を誘発することができるニワトリ貧血因子(CAA)ウイルス。
【請求項2】
ウイルスがパスツール研究所のCNCMに寄託してあるI‐1141株のものであることを特徴とする、請求項1に記載のCAAウイルス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のCAAウイルスの微生物学的に純粋な組成物。
【請求項4】
組成物が1ml当たり少なくとも108.0 TCID50を含むことを特徴とする、請求項3に記載の微生物学的に純粋な組成物。
【請求項5】
弱毒化した生きているCAAウイルスを含む、CAAに対する家禽類の保護のためのワクチンであって、それが請求項1または2に記載のCAAウイルスを含むことを特徴とするワクチン。
【請求項6】
CAAウイルスが孵化卵内において弱毒化されることを特徴とする、請求項5に記載のワクチン。
【請求項7】
CAAに対する家禽類の保護のためのワクチンであって、それが不活性化したCAAウイルスの有効量を含み、そのワクチンはワクチン接種後にニワトリ内においてCAAウイルス中和抗体の産生を誘導することができることを特徴とするワクチン。
【請求項8】
CAAウイルスの前不活性化量が用量当たり少なくとも約107.5 TCID50であることを特徴とする、請求項7に記載のワクチン。
【請求項9】
前不活性化量が用量当たり少なくとも約108.0 TCID50であり、好ましくは少なくとも約109.0 TCID50であるという特徴を有する、請求項8に記載のワクチン。
【請求項10】
ワクチンが請求項1または2に記載のCAAウイルスを含むことを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項11】
ワクチンが更にアジュバントを含むことを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一項に記載のワクチン。
【請求項12】
ワクチンが更に1種類またはそれ以上の無関係の鳥類の病原体の抗原を含むことを特徴とする、請求項5または7に記載のワクチン。
【請求項13】
CAAウイルス生成物の製造方法であって、
a)感受性基体に請求項1または2に記載のCAAウイルスを接種し、
b)CAAウイルスを増殖させ、および、
c)CAAウイルスを含有する物質を取り出す
段階を含む方法。
【請求項14】
基体が孵化卵であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2007−125039(P2007−125039A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25127(P2007−25127)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【分割の表示】特願平4−251374の分割
【原出願日】平成4年9月21日(1992.9.21)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】