説明

ニンニクの水耕栽培法

【課題】ニンニクの根の効率よく収穫できる栽培方法を提供する。
【解決手段】ニンニクの水耕栽培において、鱗片または鱗茎の下端と水面との間に所定の間隔をあけ、光の照射下、培養液中に酸素を供給する。この場合において鱗片または鱗茎の下端と水面との間の間隔が4〜10cmであったり、ニンニクの鱗片または鱗茎がフィルムで被覆される場合も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ニンニクの水耕栽培法に関するものであり、より詳しくは、ニンニクの根部分の収量増大に適した水耕栽培法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニンニクは、ユリ科ネギ属の多年生草本(Allium sativum)であり、その鱗茎は4〜10ほどの鱗片からなり、その中に含まれる硫黄含有物質アリインは、アリイナーゼの作用によりアリルスルフェン酸となり、これが重合してアリシンとなり、さらに重合が進んでアホエンとなることが知られている。
【0003】
アホエンは、ジスルフィド化合物、4,5,9−トリチアドデカ−1,6,11−トリエンのEおよびZ異性体の混合物であり、抗酸化作用、抗血栓作用、抗菌作用などの生理活性を有することが知られている。
【0004】
ニンニクは、通常、その鱗茎部分が利用されているが、ニンニクの葉を野菜として利用することも試みられており、ニンニクの球根を暗黒条件下に温度5〜40℃、湿度50〜100%で水耕栽培して、黄白色のニンニク茎葉野菜を得る方法、および同様にして上部が黄色で下方が白色の長いニンニク茎葉野菜を得る方法が知られている(特許文献1および2)。
【0005】
また、温室内の水槽に浮かべた発泡スチロール製育苗トレイ上で、40%以上の遮光ネット下に10〜40℃で、ニンニクの鱗片を水耕栽培して葉ニンニク野菜を得る方法も知られている(特許文献3)。
【0006】
一方、水耕栽培では、根が必要とする酸素を培養液に供給するために、溶存酸素濃度を富化する方法と装置が知られている(特許文献4)。
また、栽培作物の成長時期、日照時間、水温等により変化する酸素消費量に応じて培養液中の溶存酸素濃度を制御する水耕栽培システムも提案されている(特許文献5)。
【0007】
しかしながら、ニンニクの根を有効利用すること、および水耕栽培によりニンニクの根を収量よく得る方法は、知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平6−233625号公報
【特許文献2】特開平9−215447号公報
【特許文献3】特開2006−174744号公報
【特許文献4】特開2004−337077号公報
【特許文献5】特開2007−6859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の発明者らは、ニンニクの鱗茎から得られる生理活性成分であるアホエンが、ニンニクの根にも豊富に含まれている点に着目し、ニンニクをある条件下に水耕栽培すれば、ニンニクの根が収量よく得られることを見出し、この発明を完成した。
したがって、本発明は、ニンニクの根を収量よく得るための水耕栽培法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方法は、ニンニクの鱗片または鱗茎の下端を水に浸して発根させたのち、ニンニクの鱗片または鱗茎の下端と水面との間に所定の間隔をもたせ、光の照射下、培養液中に酸素を供給しながら水耕栽培することにより行われる。
【発明の効果】
【0011】
ニンニクを本発明の方法により水耕栽培すると、ニンニクの根の部分が短期間に著しく生長し、その根の部分から鱗茎と同程度にアホエンが得られるため、アホエンの供給源としての利用が期待される。
その上、成長した根を100%採取して有効に利用できるので、土壌中に根の大半が収穫されないまま残る土壌栽培に比べて、有利である。
しかも、ニンニクを通年栽培できるため、アホエンの供給源としてのニンニクの根を安定的にかつ大量に生産できるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の方法は、ニンニク鱗片または鱗茎の下端の発根部分を水に浸して発根させたのち、ニンニク鱗片または鱗茎の下端と水面との間に所定の間隔をもたせ、光の照射下、培養液中に酸素を供給しながら水耕栽培することにより行われる。
【0013】
本発明の方法を実施するのに適した水耕栽培システムの一例を図1に示す。
図1は、ニンニクが成長したときの水耕栽培システムの断面を模式的に示した図であり、水槽(1)、棚板(2)、酸素供給手段(3)および光照射手段(4)から主に構成されている。
【0014】
水槽(1)は、培養液(5)を収容するためのものであり、その材質は特に限定されず、実験室規模では遮光性のプラスチック製であるのが好ましいが、大量生産にはコンクリート製の水槽が適している。
棚板(2)の材質も特に限定されないが、軽量の発泡スチロール製であるのが好ましい。この棚板(2)には、ニンニクの鱗片または鱗茎を安定的に載置でき、かつ該鱗片または鱗茎から伸びた根が水面に到達できるように、複数の孔(2a)が設けられている。
【0015】
孔(2a)の大きさは、ニンニクの鱗茎を安定的に載置できて、かつニンニクの根が通過できる大きさであればよく、特に限定されないが、通常、直径1〜5cmほどが適当である。孔(2a)の数およびそれらの配置は任意であるが、ニンニクの鱗茎が成長したときに備えて、一つの孔(2a)の中心と隣の孔(2a)の中心との間隔は、5〜10cmほどあるのが好ましい。
棚板(2)は、適当な手段(図示略)により、上下に段階的に平行移動して、水面からの高さを調節できるようになされている。
【0016】
酸素供給手段(3)は、培養液中に酸素を供給するためのものであり、水槽(1)の外に置かれたエアポンプ(3a)、水槽(1)内の底部に置かれた気泡発生パイプ(3b)およびこれら両者を連結するエアパイプ(3c)からなっている。
エアポンプ(3a)は、培養液中の溶存酸素濃度を飽和状態またはそれに近い状態に維持できる能力を有するものが望ましい。
また、気泡発生パイプ(3b)に開けられる細孔の孔径は、水耕栽培中に詰まらない程度に小さいのが好ましい。
【0017】
光照射手段(4)は、水槽(1)の上方に設けられ、栽培中のニンニクに光を照射するためのものであり、複数の蛍光灯(4a)を備えている。
光照射手段(4)における光源は特に限定されず、例えば蛍光ランプのほか、LEDなども光源として用いることができる。照度も特に限定されないが、通常、2万ルクス程度で十分である。
【0018】
上記の水耕栽培システムを用いて行われる本発明の水耕栽培法を以下に説明する。
本発明の方法が適用されるニンニクの種類は、特に限定されず、いわゆるホワイトニンニク、ジャンボニンニクなどが例示される。
ニンニクの鱗片または鱗茎(6)は、そのまま発根させてもよいが、例えば図1に示されるように、発泡スチロールのビーズ(6a)で鱗片または鱗茎(6)を覆い、かつ該鱗片または鱗茎の発根部分が露出するように合成樹脂製のフィルム(6b)で包んで発根させると、鱗片または鱗茎(6)の乾燥を防ぐことができて好ましい。
【0019】
鱗片または鱗茎の発根部分を水に浸すと、2〜3日ほどで発根が見られる。発根した鱗片または鱗茎をそのまま水に浸しておくと、根が徐々に生長する。
根が10cmほどに生長した段階で棚板(2)を5cmほど上げ、以後、水面上に露出している根の部分、すなわち鱗茎の下端から水面までの間隔が所定の間隔、例えば10cmほどになるまで、根の生長に合わせて棚板(2)を上方へ移動させるのが好ましい。
【0020】
上記の所定の間隔とは、限定的ではなく、根の生長に伴って変動し得るものであり、具体的にはニンニクが根の先端部分から水分および養分を吸収するのに十分なだけ、根の先端部分が培養液中に浸っているかぎり、該間隔は大きければ大きいほど好ましい。
意外なことに、本発明者らは、上記の間隔が根の成長および根に含まれるアホエンの濃度に大きく影響していることを見出した。
【0021】
培養液には、培養液中の溶存酸素の飽和度が約60〜100%、好ましくは約80〜100%に維持されるように、酸素供給手段(3)により酸素が供給される。
また、培養液(5)には、ニンニクの生育に必要な養分が適宜加えられる。養分としては、市販の液体肥料をそのまま用いることができる。
【0022】
なお、本発明の水耕栽培法では、後記の実施例で説明するように、昼間も含めて終日、光を照射した場合に最も好ましい結果が得られるが、自然光の下で昼間だけ光を照射して本発明の方法を実施することもでき、その場合には、光照射手段(4)を省略することができる。
【0023】
以下、実施例により、本発明の水耕栽培法をより詳細に説明するが、本発明の方法はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1
上方に40wの蛍光灯(6本)からなる光照射手段を備え、底部に酸素供給手段を備えた、長さ60cm、幅30cm、深さ30cmのプラスチック製容器に、深さ25cmになるように水道水を入れた。
直径5cmの円形孔を15cm間隔で8個設けた発泡スチロール製の棚板を上記の水面上に載せ、その各孔に発泡スチロールのビーズで覆われ、ビニル製の遮光フィルムで包まれた鱗片を載せた。
3日経過後に発根が見られ、根が10cmほどに生長した段階で棚板を上方へ平行移動させ、発根部分から水面までの間隔を約8cmとして、発根してから8週間水耕栽培した。
この間、水面上の温度を29〜30℃に保ち、水中温度を30℃に保った。酸素供給量は3L/分とした。
【0025】
1日の光照射時間は昼間の12時間とし、酸素供給時間は次のとおりとした。
グループ1:夜間の12時間
グループ2:昼間の12時間
グループ3:24時間
グループ4(対照):0時間
【0026】
各グループの8週間にわたる溶存酸素の推移を図2のグラフに示し、各グループの発根後25日目のニンニクの根の成長度合いを比較した写真を図3に示す。
図2に示すように、グループ2およびグループ3では、培養液中の昼間の溶存酸素濃度は8週間にわたって殆ど変動しなかった。
また、図3に示すように、グループ3のニンニクで根の成長が最も大きかった。
水耕栽培を8週間続けた後、各グループのニンニクを収穫し、後記の試験を行った。
【0027】
実施例2
鱗茎の発根部分から水面までの間隔を4.5cm(グループ5)、6.5cm(グループ6)、8.5cm(グループ7)、0cm(グループ8、対照)と変えた以外は、実施例1のグループ4と同様にして、ニンニクをそれぞれ2か月間水耕栽培した。
【0028】
試験例1
実施例1で得られた各グループのニンニクについて、葉部分、鱗茎部分および根部分のニンニク1個当たりの平均乾燥重量を測定した。その結果を図4のグラフに示す。
図4から明らかなように、グループ3で成長度合いが最も大きく、各グループとも根部分の重量は葉部分の重量に匹敵していた。
【0029】
試験例2
実施例1で得られた各グループのニンニクについて、その鱗茎部分(生のまま約10g)を厚さ3〜4mmにスライスし、米ぬか油(40ml)中でホモゲナイズし、80℃で4時間加熱した。加熱終了後、酢酸エチルで抽出し、抽出液中のE−アホエンおよびZ−アホエンの含量をHPLCで測定した。
また、実施例1で得られた各グループのニンニクについて、根部分(生のまま約10g)を長さ約1cmに切断し、上記と同様にしてE−アホエンおよびZ−アホエンの含量をHPLCで測定した。
その結果を図5の表に示す。
図5から明らかなように、グループ3のニンニクの根においてアホエンの含量が際立って大きかった。
【0030】
試験例3
実施例2で得られた各グループのニンニクについて、葉部分、鱗茎部分および根部分の生重量および乾燥重量を測定した。その平均重量を図6の表に示す。
図6から明らかなように、間隔を8.5cmとしたときに、根、葉、鱗茎部分いずれも収量が最も大きかった。
【0031】
試験例4
実施例2で得られた各グループのニンニクについて、鱗茎部分および根部分に含まれるE−アホエンおよびZ−アホエンの含量を、試験例2と同様にして測定した。その結果を図7の表に示す。
図7から明らかなように、間隔を8.5cmとしたときに、根、鱗茎部分ともにアホエンの含量が最も大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
ニンニクを本発明の方法により水耕栽培すると、ニンニクの根の部分が短期間に著しく生長し、その根の部分からアホエンが豊富に得られるため、アホエンの供給源としての利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の方法を実施するのに適した水耕栽培システムの模式断面図である。
【図2】実施例1における各グループの水中溶存酸素(mg/L)の推移を示すグラフである。
【図3】実施例1における各グループの25日目のニンニクの根の成長度合いを示す写真である。
【図4】実施例1における各グループのニンニクの葉部分、鱗茎部分および根部分の平均重量(g/個体)を示すグラフである。
【0034】
【図5】実施例1の各グループで得られたニンニクの鱗茎部分および根部分に含まれるアホエンの含量(μg/g)を示す表である。
【図6】実施例2における各グループのニンニクの葉部分、鱗茎部分および根部分の平均生重量(g/個体)および平均乾燥重量(g/個体)を示す表である。
【図7】実施例2の各グループで得られたニンニクの鱗茎部分および根部分に含まれるE−アホエンおよびZ−アホエンの含量(μg/g)を示す表である。
【符号の説明】
【0035】
1:水槽
2:棚板
3:酸素供給手段
4:光照射手段
5:培養液
6:ニンニクの鱗茎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニクの水耕栽培において、鱗片または鱗茎の下端と水面との間に所定の間隔をあけ、光の照射下、培養液中に酸素を供給しながら水耕栽培することを特徴とするニンニクの水耕栽培法。
【請求項2】
鱗片または鱗茎の下端と水面との間の間隔が4〜10cmである、請求項1に記載の水耕栽培法。
【請求項3】
ニンニクの鱗片または鱗茎がフィルムで被覆されている、請求項1または2に記載の水耕栽培法。
【請求項4】
培養液が遮光されている、請求項1〜3のいずれかに記載の水耕栽培法。
【請求項5】
ニンニクの根を収穫する、請求項1〜4のいずれかに記載の水耕栽培法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−63414(P2010−63414A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233511(P2008−233511)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月21日 日本農業気象学会主催の「International Symposium on Agricultural Meteorology(ISAM2008)」において発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】