説明

ニーマンピック病のシャペロンに基づく治療方法

本発明は、ニーマンピック病の酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損形態(すなわち、ニーマンピック病A型又はB型)に罹患した個体を治療する方法であって、この疾病に関連する欠損酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)酵素に対し、特異的な分子「シャペロン」として低分子を投与することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニーマンピック病の酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損形態(すなわち、ニーマンピック病A型又はB型)に罹患した個体を治療する方法であって、この疾病に関連する欠損酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)酵素に対し、特異的な分子「シャペロン」として低分子を投与することを含む方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ニーマンピック病(NPD)A型及びB型は、酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)の活性欠損によるライソゾーム貯蔵障害であって、その結果、罹患した個体の細胞及び組織内にスフィンゴミエリン、コレステロール及び他の脂質が蓄積する(Schuchman and Desnick, Niemann-Pick disease types A and B: acid sphingomyelinase deficiencies. In: The metabolic and molecular bases of inherited disease. Edited by Schriver CR, Beaudet AL, Valle D, Sly WS; New York. McGraw Hill Inc 3589-3610 2001)。NPD A型の患者は、通常、幼少期の早い段階で臓器肥大症と診断され、その後、神経変性過程が急速に進行し、約3歳までに死亡する。対照的に、NPD B型の患者は、中枢神経系障害をほとんど有さず、しばしば成人期まで生き延びる。しかし、NPDのB型形態は、臨床的に多様であり、肝脾腫大、成長遅延、頻発する呼吸器感染、疲労、及び血液学的異常(例えば、LDLコレステロール及びトリグリセリドの増加、HDLコレステロールの減少、及び血小板の減少など)を含み得る様々な所見を示すことができる。加えて、NPD B型患者の中には、神経変性に影響を与える中間表現型を有するものがいると報告されている(Elleder and Cihula, Eur J Pediatr 1983; 140: 323-328; Elleder et al., J Inherit Metab Dis 1986; 9: 357-366)。
【0003】
最も報告されているNPD A型の症例は、アシュケナージ系ユダヤ人個体間で生じたものだが、NPDの両方の形態は全ての民族に起こる。対照的に、NPD B型には、北アフリカ人、アラブ人、及びトルコ人集団が最も罹患しているようである。今日まで、ASM遺伝子上の70を超える変異が、NPD A型及びB型の原因として報告されている(Simonaro et al., Am J Hum Gen. 2002, 71:1413-1419)。これらのうち、特定の表現型が予測される共通の変異はわずかである。例えば、デルタR608変異(608番目の残基であるアルギニンが欠損している(ΔR608))は、北米及び西欧人の全てのNPD患者のうち約10〜15%で発見されており、この疾病の非神経型(すなわち、NPD B型)を常に伴う(Lervan et al., J Clin Invest. 1991; 88: 806-810)。この変異はまた、北アフリカのNPD B型患者の約90%で発見されている(Vanier et al., Hum Genet. 1993; 92: 325-330)。ΔR608変異とは対照的に、3種類のさらなる変異、L302P(302番目のアミノ酸残基であるロイシンがプロリンに置き換わったもの)、R496L(496番目のアミノ酸残基であるアルギニンがロイシンに置き換わったもの)、及びfsP330(330番目のアミノ酸残基であるプロリンの下流に未成熟終始コドンが導入されたもの)が、アシュケナージ系ユダヤ人集団のNPD A型患者のうち90%以上で発見されている(Lervan et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1991; 88:3748-3752; Lervan et al., Blood. 1992; 80: 2081-2087; Lervan et al., Hum Mut. 1993; 2: 317-319)。アシュケナージ系ユダヤ人コミュニティーでの、これら3種類の変異のキャリアー頻度は、約1:80〜1:100である(Li et al. Am J Hum Genet. 1997; 61 (suppl): A24)。
【0004】
最近、ヒトASM遺伝子の3種類のアイソフォームがクローニングされ、いくつかの変異が同定され、これらは、アシュケナージ系ユダヤ人集団のNPD A型及びB型に必須のヘテロ接合体を測定診断する際に信頼できるものとして使用され得る(Schuchmanらによる米国特許第5,773,278号及び同第5,686,240号参照)。
【0005】
対症療法は、多くのLSD患者にとって利用可能な唯一の治療方法である。酵素補充療法(ERT)が、いくつかのLSD(ゴーシェ病、ファブリー病、及びムコ多糖症I型(MPS I)を含む)に対して開発されており、又は現在開発中であるが(Desnick and Schuchman, Nat Rev Genet. 2002; 3: 954-966)、この酵素は、静脈注射後、血液脳関門を通過しないので、重度の神経系障害(すなわち、NPD A型)の患者に対して有用な方法ではない。病原となる基質の合成を抑制する低分子阻害剤を用いた基質枯渇療法も、いくつかのLSDに対して開発されており、又は評価段階にあり、欧米ではゴーシェ病に対して条件付きでマーケティングが認可されている(Butters et al., Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2003; 358: 927-945)。ERTと比較して、この方法の利点の1つは、低分子阻害剤は脳血液関門を通過し、脳での基質の蓄積を抑制する可能性があることである。
【0006】
最近開発された別の低分子方法として、ケミカルシャペロン療法又は活性部位特異的シャペロン(ASSC)療法が知られている(Fan et al Nat Med. 1999; 5: 112-115; Fan, Trends Pharmacol Sci. 2003; 24: 355-360)。ASSCでは強力な酵素阻害剤を低濃度で使用し、特定のLSDでの変異タンパク質のフォールディング及び活性を強める。この方法は、ファブリー病で初めて評価され、アルファ−ガラクトシダーゼAの低分子阻害剤である、1−デオキシ−ガラクトノジリマイシン(DGJ)を用いると、ファブリー病患者由来の細胞株で残存アルファ−ガラクトシダーゼ活性が強められた(Fanらによる米国特許第6,274,597号参照)。Fanらによる米国特許第6,583,158号では、さらに、多数の他のライソゾーム貯蔵障害(ゴーシェ病及びGM1ガングリオシドーシスを含む)に対するASSC療法が例証されており、患者の細胞の残存酵素活性を強めるためにケミカルシャペロンとして強力な競合的阻害剤を使用するこの療法は、ファブリー病患者に限定されず、多数の酵素欠損病、特にLSDに適用され得ることが実証されている。
【0007】
ASSC療法は、現在、ゴーシェ病を含むいくつかのLSDに対して開発中であり、ERT又は基質枯渇療法よりも有利な点がいくつか提示されている。最も注目すべきは、ASSCで用いられる活性部位阻害剤は、病原となる酵素に対して特異的であるので、全ての合成経路を阻害する基質枯渇療法とは異なり、この治療は、単一のタンパク質及び代謝経路に向けられる。基質枯渇療法と同様に、ASSCの低分子阻害剤も血液脳関門を通過する可能性があり、神経型のLSDを治療するために用いることができるだろう。
【0008】
LSDに関連する欠損酵素の活性を強めることに加えて、ASSCはまた、対応する野生型酵素の活性を強めることも実証されており(Fanらによる米国特許第6,589,964号参照)、従って、LSD患者に対する酵素補充療法との併用療法として有効である。
【特許文献1】米国特許第6583158号明細書
【特許文献2】米国特許第6274597号明細書
【特許文献3】米国特許第6589964号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
NPD A型は、ASSCの重要な候補である。第1に、全てのNPD A型患者は、重度の神経的表現型を発現しており、約3歳までに死亡する。現在、この障害の神経機構に対する治療方法は存在しない。しかし、ASMノックアウトマウスモデルを用いた研究により、通常活性の約5%まで残存ASM活性を強めると、脳疾患の発生を完全に抑制でき、平均寿命まで生存できることが示されており、低レベルの機能的ASMがNPD A型患者の神経変性を抑制することが示唆されている(Marthe et al., Hum Mol Genet. 2000; 9: 1967-1976)。加えて、多くのアシュケナージ系ユダヤ人のNPD A型患者の原因となるこれら3種類の変異のうち2種類(L302P及びR496L)は、ポイントミューテーションであり、ASSCに適しているかもしれない。さらに、世界中のNPD B型患者の約15%が、少なくとも1つのΔR608変異コピーを伝える。従って、この形態の低分子療法の必要性が高い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[発明の要旨]
本発明は、NPD A型又はB型に罹患した患者を治療する方法であって、活性部位特異的シャペロン(ASSC)として、低分子セラミドアナログ、又はホスホ含有スフィンゴミエリン若しくはヌクレオチドアナログを投与することを含む方法を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、ASSCは、ヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)遺伝子上にL302P変異を有する個体に投与される。
【0012】
別の実施態様では、ASSCは、ヒト酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)遺伝子上にR496L変異を有する個体に投与される。
【0013】
別の実施態様では、ASSCは、デルタR608変異を有する個体に投与される。
【0014】
別の実施態様では、前記低分子はスフィンゴミエリンアナログであって、下記式:
【0015】
【化1】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3、好ましくは2である]
を有する。
【0016】
別の実施態様では、前記低分子はスフィンゴミエリンアナログであって、下記式:
【0017】
【化2】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する。
【0018】
好ましい実施態様では、前記スフィンゴミエリンアナログは下記の構造:
【0019】
【化3】

を有する。
【0020】
さらに別の実施態様では、前記低分子はセラミドアナログであって、下記式:
【0021】
【化4】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する。
【0022】
特定の実施態様では、前記ASSCはD−MAPPである(図1参照)。
【0023】
さらに別の実施態様では、前記低分子アナログが、ホスホヌクレオチドアナログであり、例えば下記式を有する。
【0024】
【化5】

しかし、他のホスホヌクレオチド、例えば、これに限定されないが、アデノシンモノホスフェート、シトシンモノホスフェート、及びアデノシンジホスフェートなども考えられる。
【0025】
1つの実施態様では、前記低分子アナログは、単療法として投与され得る。
【0026】
別の実施態様では、前記低分子アナログは、酵素補充療法として投与される野生型のリコンビナントASMとともに投与され得る。従って、内因性ASMタンパク質の安定性、すなわち活性が、投与され補充される機能的ASMタンパク質の安定性が増加されるのと同時に強められるだろう。
【0027】
さらに別の実施態様では、前記低分子アナログは、機能的ASMをコードするリコンビナントベクター(すなわち遺伝子治療)とともに投与される。
【0028】
本発明はさらに、本発明の低分子アナログを含む媒体中で非哺乳動物宿主細胞を接触させることにより、非哺乳動物宿主細胞によるリコンビナントASMタンパク質の産生を増加させる方法を提供する。
【0029】
本発明はまた、前記低分子アナログ及び医薬として許容可能なキャリアーを含む組成物も提供する。
【0030】
本発明はさらに、医薬として許容可能なキャリアー中に、本明細書に記載の精製ASMタンパク質及び低分子アナログシャペロンを含む組成物を提供する。
【0031】
本発明はまた、NPDと診断されている対象、又はNPDを遺伝的に発現しやすい対象に、低分子アナログを単独で投与するか、又は酵素補充療法若しくは遺伝子治療と組み合わせて投与することにより、予防する方法又は治療する方法も提供する。
【0032】
[発明の詳細な説明]
本発明は、部分的には、NPDのASSCとしてセラミドアナログ、スフィンゴミエリンアナログ又はホスホヌクレオチドアナログを使用することに基づいている。R496L変異の2コピーを含むNPD A型患者由来の培養皮膚線維芽細胞を、D−MAPP(5〜50μM)の存在下で3日間インキュベートすると、残存ASM活性が、3倍まで、つまり正常の約3%まで(正常の1%未満の初期活性から。図5参照)強められた。同様に、スフィンゴミエリンアナログ(20μM)を正常線維芽細胞とともに5日間培養すると、正常のASM活性の90%を阻害したことから、ASMに対するシャペロンとして有効であると示唆される。
【0033】
Fanらによって以前に記載されているASSC(グルコシダーゼ阻害剤として既知の、グルコース及びガラクトースのイミノ糖アナログである)(米国特許第6,274,597号;同第6,583,158号;同第6,589,964号及び同第6,599,919号)とは異なり、本発明で記載されている低分子アナログはイミノ糖ではない。本発明の化合物は、約50〜100μMの範囲の濃度でASMを阻害する。これはまた、Hannunらによって米国特許第5,830,916号に記載されているものとは正反対であり、そこでは、セラミダーゼを阻害することによってセラミドの蓄積を増加させるために、アルカリ性セラミダーゼ阻害剤として、本明細書に記載のセラミドアナログの1つであるD−MAPPを使用することが開示されている。セラミダーゼは、セラミドをスフィンゴシンと脂肪酸へと加水分解する反応を触媒する酵素である。Hannunはまた、D−MAPPが、内因性のスフィンゴミエリンレベルに影響を及ぼさないことを示し、全細胞スフィンゴミエリナーゼ(スフィンゴミエリンを分解する酵素)への効果に異を唱えている。同様の効果の欠如が、β−グルコシダーゼ(グルコシダーゼ酵素は、in vitroにおいてアリール及びアルキルベータ−D−グルコシドを加水分解する反応を触媒する(全細胞を使用))でも見られる。
【0034】
様々な脂質関連酵素の阻害剤である化合物もまた、Daganらによる米国特許出願公開第2003/0133004号に記載されている。この出願公開では、スフィンゴリピドの合成又は代謝を調節するいくつかの化合物が記載されている。詳細には、スフィンゴミエリンアナログがスフィンゴミエリンの合成を阻害し、それにより細胞内でのセラミド濃度を上昇させ、アポトーシスが誘導されると記載されている。この出願公開はまた、NPDなどのいくつかのLSDで蓄積する病原性脂質であるスフィンゴミエリンを阻害することによる、これらの阻害剤を用いた糖脂質貯蔵障害の治療にも言及している。これは、基質枯渇又は基質減少の例である。この出願公開に記載されている1つの化合物が、酸性及び中性のスフィンゴミエリナーゼを阻害することが示されている。
【0035】
[定義]
本明細書で用いられる、「活性部位特異的シャペロン(ASSC)」という用語は、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物などの任意の分子であって、特異的に、タンパク質の活性部位と可逆的に相互作用し、安定した分子コンフォメーションの形成を強める分子を意味する。本明細書で用いられる、「活性部位特異的シャペロン」は、Bip、カルネキシン、若しくはカルレティキュリンなどの、細胞内のERに存在する一般的な内因性シャペロンを含まず、又は、重水、DMSO、若しくはTMAOなどの一般的な非特異的ケミカルシャペロンを含まない。本発明では、ASSCは、セラミドアナログ、スフィンゴミエリンアナログ、又はヌクレオチドアナログであって、それらが相互作用するタンパク質はASMである。
【0036】
酸性スフィンゴミエリナーゼ、すなわちASMは、米国特許第6,541,218号に記載のとおりのヌクレオチド及びアミノ酸配列を有する。ASMアミノ酸配列を、配列番号1として以下に記載する。この用語はまた、ASMの相同分子種及び変種も含む。
【0037】
本明細書で用いられる、「活性部位」という用語は、基質又は結合パートナーと結合するタンパク質領域であって、化学結合の形成及び切断に直接関与するアミノ酸残基を提供するタンパク質領域を意味する。本発明では、活性部位は、ASM酵素の触媒ドメインを包含する。
【0038】
D−MAPPは、D−エリトロ−2−(N−ミリストイルアミノ)−1−フェニル−1−プロパノールを意味する。D−MAPPは、米国特許第5,369,030号にさらに記載されており、本明細書の図1に示されている。
【0039】
「適切なコンフォメーションを安定化する」という用語は、野生型ASMタンパク質のコンフォメーションと機能的に同一となるように、変異ASMタンパク質のコンフォメーションを誘導する本発明化合物の能力を意味する。「機能的に同一」という用語は、コンフォメーションに軽微な変化があってよいが(実際に、ほとんど全てのタンパク質が、生理状態でいくらかのコンフォメーションの柔軟性を示す)、コンフォメーションの柔軟性が(1)タンパク質の凝集、(2)小胞体関連分解経路を介した排除、(3)ASMの機能障害、及び/又は(4)細胞内での不適切な輸送をもたらさないことを意味する。この用語はまた、ERTのために産生されたASMなどの、野生型ASM又は機能的ASMの安定化を意味する。
【0040】
「野生型活性」という用語は、細胞におけるASMの正常な生理的機能を意味する。このような機能性は、タンパク質の機能性を証明する既知の任意の手段によって試験され得る。ある種の試験は、実際のin vivoでの機能と一致するかどうかわからないASMの特性を評価できるが、いずれにせよ、タンパク質機能性の代理となるものの総計であり、このような試験での野生型挙動は、本発明のタンパク質フォールディング救助技術の許容可能な結果となる。本発明のこのような活性の1つは、小胞体からライソゾームへのASMの適切な輸送である。
【0041】
「機能的ASMタンパク質」という用語は、適したコンフォメーションでフォールディングされ、細胞内の固有部位に局在し、かつスフィンゴミエリン及び他の脂質基質に対して異化活性を有する能力を有するASMタンパク質を意味する。機能的ASMタンパク質には、野生型ASMタンパク質(以下の定義を参照)、例えば、配列番号1で表されるものなど、及び野生型活性を有するASMタンパク質が含まれる。
【0042】
ASMの「活性を強める」という用語は、機能的ASMタンパク質(すなわち、適したコンフォメーションでフォールディングされ、細胞内の固有部位に局在し、かつスフィンゴミエリン及び他の脂質基質に対して異化活性を有するタンパク質)となるように変異ASMタンパク質の適切なコンフォメーションを安定化させることを意味する。この用語はまた、体外から投与されたASMタンパク質の野生型活性を増加させること、すなわち、野生型ASMの安定性を増加させ、その半減期を延長させることで活性を持続させることを意味する。
【0043】
「ASMの阻害剤」という用語は、薬理用量未満の濃度で、スフィンゴミエリン合成に関与する酵素を含む他の酵素よりもASMを阻害するために、高い特異性を示す化合物を意味する。この阻害剤は、特異的にASMを阻害しなければならない。本明細書で用いられる阻害剤には、活性部位で結合し得る化合物を含まないが、個体に投与することにつながらない非常に高濃度な場合を除いて、それ自体では阻害活性を有さない。
【0044】
「ASMを阻害するために必要とされる濃度未満」という用語は、ASM活性を阻害することなく、その活性を強める本発明の化合物の濃度を意味する。本発明では、この濃度は、約5〜50μMの範囲となるだろう。
【0045】
本明細書で用いられる、「変異ASMタンパク質」という用語は、遺伝子変異(1つ又は複数)を含む遺伝子から翻訳されたASMを意味し、結果として、そのASMが、ERに通常存在する状況下で本来のコンフォメーションとならない変性タンパク質配列となることを意味する。本来のコンフォメーションを達成できなかったことにより、ASMは、タンパク質輸送システム内の通常経路を介してライソゾームへと輸送されるよりもむしろ、分解される。
【0046】
1つの実施態様では、本発明の方法によって救われるASM変異は、R496L(配列番号2)であり、1487番目のコドンヌクレオチドがGからTへとトランスバージョンされている。より疎水性のロイシン残基のアルギニン塩基への置換が、酵素の触媒活性、酵素の安定性、又はその両方を変えるかどうかは未だ知られていない。
【0047】
別の特定の実施態様では、本方法によって救われるASM変異は、905番目のヌクレオチドのTからCへの転移であり、その結果として、ロイシンのプロリンへの置換が生じる(L302P−配列番号3)。
【0048】
さらに別の特定の実施態様では、本発明の方法のASSCによって救われるASM変異は、R608の欠損変異である(ΔR608−配列番号4)。
【0049】
[分子生物学定義]
本発明では、当分野において慣習的な分子生物学技術、細菌学技術、及びリコンビナントDNA技術を使用してもよい。このような技術は、文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (本明細書では、「Sambrook et al., 1989」); DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait ed. 1984); Nucleic Acid Hybridization; B. D. Hames & S. J. Higgins eds. (1985); Transcription And Translation; [B. D. Hames & S. J. Higgins, eds. (1984); Animal Cell Culture; R. I. Freshney, ed. (1986); Immobilized Cells And Enzymes; IRL Press, (1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); F. M. Ausubel et al. (eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)。
【0050】
本明細書で用いられる、「単離された」という用語は、参照される物質が、通常存在する環境から取り除かれることを意味する。従って、単離された生物学的物質は、細胞成分、すなわち、その物質が存在する、又は産生される細胞の構成成分から解放され得る。核酸分子の場合、単離された核酸には、PCR産物、単離されたmRNA、cDNA、又は制限断片が含まれる。別の実施態様では、単離された核酸は、好ましくは、その核酸が存在し得る染色体から切り出されたものであり、より好ましくは、染色体上に核酸が存在する場合、単離された核酸分子によって含まれる遺伝子の上流又は下流に位置する、非調節領域、非コーディング領域、又は他の遺伝子ともはや結合していない。さらに別の実施態様では、単離された核酸は、1以上のイントロンを欠失している。単離された核酸分子は、プラスミド、コスミド、人工染色体などに挿入された配列を含む。従って、特定の実施態様では、リコンビナント核酸は単離された核酸である。単離されたタンパク質は、細胞内で、又は膜結合性のタンパク質である場合には細胞膜で、他のタンパク質若しくは核酸、又はその両方と関連していてもよい。特定の実施態様では、単離されたASMタンパク質は、発現ベクターから発現しているリコンビナントASMタンパク質である。単離された物質は、必要ではないが、精製されてもよい。
【0051】
本明細書で用いられる、「精製された」という用語は、関係のない物質、すなわち混入物質を低減又は除去する条件下で単離されている物質を意味する。例えば、精製されたASMタンパク質は、好ましくは、ASMが通常細胞内で関連する他のタンパク質又は核酸から実質的に解放されている。本明細書で用いられる、「実質的な解放」という用語は、その物質の分析的試験との関連で操作上使用される。好ましくは、混入物質から実質的に解放されている精製されたASMは、少なくとも50%純粋であり、より好ましくは少なくとも90%純粋であり、さらに好ましくは少なくとも99%純粋である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、免疫学的検定、組成分析、生物学的検定、及び当分野で公知の他の方法によって評価され得る。
【0052】
「約(about)」及び「およそ(approximately)」という用語は、測定の性質又は精度を考慮した上で、測定された量に対して許容可能な誤差の程度を通常意味するだろう。通常は、誤差の一般的な程度は、得られた値、又は値の範囲に対して、20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。あるいは、特に生物学的システムにおいて、「約(about)」及び「およそ(approximately)」という用語は、得られた値の1オーダー以内、好ましくは10倍以内又は5倍以内、より好ましくは2倍以内の値を意味する。本明細書に記載の数量は、特記のない限り概算値であり、明確に記載されていなくても「約(about)」又は「およそ(approximately)」という用語を暗示できることを意味する。
【0053】
「宿主細胞」という用語は、細胞による物質の産生、例えば、ヒトASM遺伝子(DNA又はRNA配列を含む)、又はASM酵素の細胞による発現などのために、任意の方法を用いて選択され、修飾され、トランスフォームされ、成長させられ、又は使用され若しくは操作された任意の生物の任意の細胞を意味する。宿主細胞はさらに、ASSCコンセプトの他のアッセイの予備的評価においても使用され得る。「リコンビナントDNA分子」は、分子生物学的操作又は工学技術操作を受けているDNA分子である。本発明の1つの実施態様では、宿主細胞は線維芽細胞である。
【0054】
「遺伝子」は、「遺伝子産物」をコードするヌクレオチド配列である。通常、遺伝子産物とはタンパク質である。しかし、遺伝子産物はまた、細胞内の他のタイプの分子、例えばRNA(例えば、tRNA又はrRNA)などでもあり得る。本発明では、遺伝子産物はまた、細胞内に存在してよいmRNA配列をも意味する。本明細書では、遺伝子は、野生型ASM又は変異ASMをコードするヌクレオチド配列を意味する。
【0055】
「野生型ASM遺伝子」は、in vivoにおいて機能的な生物活性を有し得るASMタンパク質をコードする核酸配列を意味する。野生型ASM核酸配列は、公知の、刊行されている配列、例えば、米国特許第6,541,218号などに記載の配列とは異なるヌクレオチド変化を含んでもよく、その場合、その変化によって生じるアミノ酸置換は、生物活性にほとんど影響しないものである。本明細書で用いられる、野生型という用語はまた、内因性又は天然のASMタンパク質と比較して、その活性が増加され得る、又は強められ得るASMタンパク質をコードするために処理されたASM核酸配列を含んでもよい。
【0056】
「野生型ASMタンパク質」は、in vivoで発現している、又は導入されている場合に機能的な生物活性を有し得る野生型遺伝子によってコードされる任意のタンパク質を意味する。このような機能性は、タンパク質の機能性を証明する既知の任意の方法によって試験され得る。
【0057】
「発現する」及び「発現」という用語は、ASM遺伝子又はDNA配列中の情報が現れるようにすることを可能にする、又は引き起こすことを意味し、例えば、ASM遺伝子又はDNA配列、すなわちASMをコードする配列に対応する転写及び翻訳に関与する細胞の機能を活性化することによってRNA(例えば、rRNA又はmRNA)又はASMタンパク質を産生することなどを意味する。ASMのDNA配列は、細胞によって発現され、「発現産物」、例えばASMのRNA(例えば、mRNA又はrRNA)、又はASMタンパク質などが形成される。発現産物そのもの、例えば、結果として生じるASMのRNA又はタンパク質などはまた、細胞によって「発現される」と称されてもよい。
【0058】
「トランスフェクション」又は「トランスフォーメーション」という用語は、「外来の」、すなわち、外因性又は細胞外の、遺伝子、DNA配列、又はRNA配列を宿主細胞へ導入することを意味し、これにより、所望の物質を産生するために導入された遺伝子又は配列を宿主細胞が発現するだろうことを意味する。本発明において、前記の物質とは、通常、導入される遺伝子又は配列によってコードされるRNAであり、導入される遺伝子又は配列によってコードされる酵素タンパク質である。導入される遺伝子又は配列はまた、「クローニングされた」又は「外来の」遺伝子又は配列と称されてもよく、調節塩基配列又は制御配列(例えば、細胞の遺伝子機構によって用いられるスタート、ストップ、プロモーター、シグナル、分泌、又は他の配列)を含んでもよい。遺伝子又は配列は、非機能的配列、又は機能すると知られていない配列を含んでもよい。導入されるDNA又はRNAを受け取り、かつ発現する宿主細胞は、「トランスフォームされ」又は「トランスフェクトされ」ており、「形質転換細胞」又は「クローン」である。宿主細胞へ導入されるDNA又はRNAは、宿主細胞と同一の種若しくは属の細胞、又は異なる種又は属の細胞を含む、任意の供給源に由来し得る。本明細書では、トランスフェクション又はトランスフォーメーションには、変異した内因性のASM遺伝子を有する個体に、機能的ASMをコードする配列を導入することが含まれるだろう。
【0059】
「ベクター」、「クローニングベクター」、及び「発現ベクター」という用語は、ASMのDNA配列又はRNA配列(例えば、外来の遺伝子)を宿主細胞に導入できるビヒクルを意味し、その結果、導入される配列が宿主にトランスフォームされ、発現(例えば、転写及び翻訳)が促進される。ベクターには、任意の遺伝的要素、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどが含まれ、遺伝的要素は適切な制御要素と関連する場合に複製可能であり、細胞間でASM遺伝子配列を移動させることができる。従って、この用語には、クローニング及び発現ビヒクル、並びにウイルスベクターが含まれる。
【0060】
「発現系」という用語は、適切な条件下、例えば、ベクターによって運ばれ、宿主細胞に導入される外来のDNAによりコードされたASMタンパク質の発現のための、宿主細胞及び適合性ベクターを意味する。一般的な発現系には、E.coli宿主細胞及びプラスミドベクター、昆虫宿主細胞(例えば、Sf9、Hi5、又はS2細胞など)及びバキュロウイルスベクター、及び発現系、並びに哺乳類宿主細胞及びベクターが含まれる。
【0061】
「遺伝子治療」という用語は、外因性の遺伝子、すなわちASM遺伝子の投与によって内因性遺伝子の発現を変化させる方法を意味する。本明細書では、遺伝子治療はまた、欠損又は欠失ASM遺伝子に対応する機能遺伝子又は遺伝子の一部を、必要としている個体の体細胞又は幹細胞に導入することによって、欠損ASM遺伝子を補充し、欠失ASM遺伝子を補充することも意味する。遺伝子治療は、「ex vivo」方法で達成され得、この方法では、分化した、又は体細胞の幹細胞が個体の体から取り出され、続いて、欠損遺伝子の正常コピーが、遺伝子導入ビヒクルであるウイルスベクターにより、移植された細胞へと導入される。加えて、in vivoにおける導入は、治療結果を達成するために、広範囲のウイルスベクター、リポソーム、タンパク質DNA複合体、又は裸のDNAを用いた、個体のin situ細胞内への直接的な遺伝子導入である。
【0062】
「リコンビナントタンパク質」という用語は、ベクターにより運ばれる治療用ASM遺伝子によってコードされるASMタンパク質(遺伝子産物)を意味する。通常、ベクターを受け取る細胞は、リコンビナントタンパク質に対応する内因性ASMタンパク質のいずれもがその発現及び/又は活性を失っているか、又はこのような内因性のASMタンパク質の発現が存在する場合には、その発現は変異であるか、若しくは非常に低いレベルであるだろう。1つの実施態様では、リコンビナントタンパク質は、実験的目的及び治療目的での組織培養の細胞によって産生される。別の実施態様では、リコンビナントタンパク質は、ベクターとともにトランスフォームされた細胞からin vivoで産生され、そこでは、ベクター及びベクターを含む細胞が、対象に投与されている(すなわち、遺伝子治療)。リコンビナントASMタンパク質は、正常個体、すなわち、このタンパク質を欠損していない個体の野生型タンパク質とは区別できないだろう。
【0063】
[治療への適用]
本発明はさらに、NPD A型及びNPD B型の予防又は治療方法を提供しており、本方法は、変異ASM酵素の発現若しくは活性を増加させること、又はリコンビナントな野生型補充ASM酵素の活性を増加させることを含み、このような治療を必要とする対象又は患者に対して行われる。
【0064】
「対象」又は「患者」は、NPDを発現している、又は発現しそうなヒト又は動物であり、より詳細には哺乳動物、好ましくはげっ歯類又は霊長類であり、より好ましくはヒトである。1つの実施態様では、患者は、アシュケナージ系ユダヤ人集団の一員であって、NPDを発現していると診断されているか、又はASM遺伝子の遺伝的変異によりNPDを発現するリスクが高いと確認されているアシュケナージ系ユダヤ人である。別の実施態様では、患者は、ノバスコシア州のフランス系カナダ人集団の一員、北アフリカのマグレブ地域(チュニジア、モロッコ、アルジェリア)の住民(B型)、又は南部のニューメキシコ州及びコロラド州のスペイン系アメリカ人集団の一員である。しかし、ニーマンピック病は、全ての民族で起こり、対象という用語には、NPDを有する世界中の誰もが、又は遺伝的にNPDを発現するリスクを有する誰もが含まれる。
【0065】
「予防」という用語は、病気の発現を予防することを意味し、病気をもたらす病的メカニズムに予防的に干渉することを意味する。本発明に関連して、このような病的メカニズムは、ASMの変異タンパク質のフォールディング及び発現を増加させることができる。
【0066】
「治療」という用語は、この病気の症状を示す対象の病気の進行に対して治療的に干渉することを意味する。本発明に関連して、これらの症状には、これに限定されないが、例えば、網内系のライソゾーム中のスフィンゴミエリンの蓄積が挙げられ、その結果、肝脾腫大症、精神運動遅延、肺の異常、進行性神経変性を生じる。場合によっては、治療により、NPDによる死を防ぐことができるだろう。
【0067】
本明細書で用いられる、「治療上有効な量」という用語は、変異ASM発現レベルを増加させるのに十分なASSC(すなわち、スフィンゴミエリンアナログ、セラミドアナログ、又はヌクレオチドアナログ)の量又は用量を意味し、例えば、正常細胞で認められるレベルに対して約3〜5%まで、好ましくは約10%まで、より好ましくは約30%まで増加させる量又は用量を意味する。好ましくは、治療上有効な量は、対象のASM活性の臨床的に重大な欠損を改善できる、又は予防できる。あるいは、治療上有効な量は、対象の臨床的に重大な状況、例えば、NPD B型患者の進行性神経変性などの改善をもたらすのに十分な量である。
【0068】
本発明では、「治療上有効な量」はまた、ASMタンパク質の活性を阻害することなくその活性を強める低分子アナログの量も意味し、すなわち、有効な量が、阻害することよりも増強し、最終的な効果が増強されることを意味する。これは、通常、ASMに対する阻害剤のIC50値未満に位置し、又は約50μM未満となるだろう。
【0069】
変異ASMの発現又は活性を増加させる低分子アナログは、医薬として許容可能なキャリアーとともに、医薬組成物として有利に製剤化されている。これに関連して、低分子アナログは、活性成分又は治療剤である。
【0070】
活性成分の濃度又は量は、以下に記載したとおりの、所望の用量及び投薬計画によって決まる。低分子アナログの適切な用量範囲は、1日当たり、体重1kg当たり、約1mg〜約100mgを含んでよい。
【0071】
[併用療法]
ASSC及びタンパク質補充
本発明の医薬組成物はまた、スフィンゴミエリンアナログ、セラミドアナログ、又はヌクレオチドアナログに加えて、他の生物活性化合物を含んでもよい。例えば、1つの実施態様では、低分子アナログが、補充療法の酵素注入の間に、補充物である野生型(又は別の機能的な)リコンビナントASMとともに溶液として投与されてもよい。タンパク質補充療法は、注入によって、野生型又は生物学的な機能を持つタンパク質を外因的に導入することにより、タンパク質の量を増加させる。この治療法は、ゴーシェ病及びファブリー病を含む多くの遺伝的障害のために開発されている。野生型酵素は、リコンビナント細胞発現系(例えば、哺乳類細胞又は昆虫細胞、Desnickらによる米国特許第5,580,757号;Seldenらによる同第6,395,884号及び同第6,458,574号;Calhounらによる同第6,461,609号;Miyamuraらによる同第6,210,666号;Seldenらによる同第6,083,725号;Rasmussenらによる同第6,451,600号;Rasmussenらによる同第5,236,838号;Ginnsらによる同第5,879,680号参照)、ヒトプラセンタ、又は畜乳(Reuserらによる米国特許第6,188,045号参照)から精製される。
【0072】
注入後、外因性のASM酵素は、非特異的又はレセプター特異的メカニズムを介して組織に取り込まれることが期待される。一般的に、取り込み効率は高くなく、外因性タンパク質の循環時間は短い(Ioannu et al., Am. J. Hum. Genet. 2001; 68: 14-25)。加えて、外因性のASMは、循環に不安定であり、急速な細胞内分解を受ける。従って、低分子アナログである、ASMに対するASSCとの共投与が、外因的に投与されたASMの安定性を高め、その分解を抑制するだろうと期待される。
【0073】
別の実施態様では、低分子アナログはまた、同一の組成物中である必要はないが、リコンビナントな機能的ASMタンパク質と組み合わせて投与されてもよい。この実施態様では、補充ASMタンパク質及び低分子アナログは、分離した組成物として製剤化されている。低分子アナログ及び補充ASMは、同じ経路(例えば、静脈内注射)に従って投与されてもよく、異なる経路(例えば、補充タンパク質を静脈内注射で投与し、ASSCを経口投与する)に従って投与されてもよい。
【0074】
ASSC及び遺伝子治療
加えて、本発明の低分子アナログ組成物は、野生型、又は他の機能的ASM遺伝子をコードするリコンビナントベクターと組み合わせて(すなわち、遺伝子治療に関連するもの)投与されてもよい。最近、リコンビナント遺伝子治療法は、ライソゾーム貯蔵障害の治療に対して(例えば、米国特許第5,658,567号参照)、ファブリー病に対するリコンビナントアルファ−ガラクトシダーゼA治療に対して(米国特許第5,580,757号参照)、融合タンパク質として生物活性α−ガラクトシダーゼAのクローニング及び発現に対して(米国特許第6,066,626号参照)、ライソゾーム貯蔵障害に対する治療組成物及び方法に対して(米国特許第6,083,725号参照)、ヒトアルファ−ガラクトシダーゼAタンパク質を発現しているトランスフェクトされたヒト細胞に対して(米国特許第6,335,011号参照)、ライソゾーム貯蔵障害を治療するための、リコンビナントアデノ関連ウイルスを用いた筋細胞へのDNAの導入方法に対して(Bishop, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1986; 83: 4859-4863; Medin, J. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996; 93: 7917-7922; Novo, F. J., Gene Therapy 1997; 4: 488-492,; Ohshima, T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1997; 94: 2540-2544; Sugimoto Y. et al., Human Gene Therapy 1995; 6: 905-915; Sly et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2002; 99(9): 5760-2; Raben et al., Curr. Mol. Med. 2002; 2(2): 145-66; Eto et al., Curr. Mol. Med. 2002; 2(1): 83-9; Vogler et al., Pediatr. Dev. Pathol. 2001; 4(5): 421-33; Barranger et al., Expert Opin. Biol. Ther. 2001; 1(5): 857-67; Yew et al., Curr. Opin. Mol. Ther. 2001; 3(4): 399-406; Caillaud et al., Biomed. Pharmacother. 2000; 54(10): 505-12、及び Ioannu et al., J. Am. Soc. Nephrol. 2000; 11(8):1542-7)、臨床開発中又は前臨床開発中である。
【0075】
発現したASM酵素を安定化させることに加えて、低分子アナログはまた、ER中で適切なフォールディング及びプロセッシングを抑制する変異の結果として欠損となるいずれの内因性の変異ASMの発現も、安定化し強めるだろうことに注意しなくてはいけない。
【0076】
[製剤化及び投与]
「医薬として許容可能な」という用語は、多くのヒトに投与した場合に、生理学的に耐性であり、異常亢進や目眩などのアレルギー性又は同様の有害反応を一般的に産生しない分子的実体及び組成物を意味する。好ましくは、本明細書で用いられる「医薬として許容可能な」という用語は、動物、特にヒトへの使用に対して、連邦政府若しくは州政府の管理機関から認可を受けているか、アメリカ合衆国の薬局方若しくは他の一般的に承認される薬局方に収載されていることを意味する。「キャリアー」という用語は、本化合物とともに投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを意味する。このような医薬品キャリアーは、水及び油などの滅菌した液体であることができ、油には、石油、動物油、植物油、又は合成起源油が含まれ、例えば、ラッカセイ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などである。水又は水溶液には、食塩水並びにデキストロース及びグリセロール水溶液をキャリアーとして用いることが好ましく、特に注射剤として用いられる。適した医薬品キャリアーは、E. W. Martinによって「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0077】
本発明では、本発明の医薬品組成物、例えばD−MAPPなどは、非経口的に、経粘膜的に(例えば、経口的に(口から)、経鼻的に、又は経直腸的に)、又は経皮的に導入され得る。非経口経路には、静脈内投与、細動脈内投与、筋内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、脳室内投与、及び頭蓋内投与が含まれる。
【0078】
タンパク質補充との併用療法に関して、ASSCを補充ASM酵素と同一組成物で投与する場合の実施態様において、製剤は、非経口投与(静脈内投与、皮下投与、及び腹腔内投与を含む)に適していることが好ましいが、経口投与(例えば、カプセル化酵素)、経鼻投与、又は経皮投与などの他の投与経路に適した製剤も検討される。
【0079】
1つの実施態様では、経皮投与は、リポソームによって達成される。脂質二重層小胞とは、極性部分(親水性)及び非極性部分(親油性)を有する個々の分子から主に形成される、閉鎖し、液体で満たされた微小な球体である。親水性部分は、ホスファト、グリセリルホスファト、カルボキシ、サルファト、アミノ、ヒドロキシ、コリン、又は他の極性基を含んでもよい。脂質基の例としては、飽和若しくは不飽和炭化水素、例えばアルキル、アルケニル、又は他の脂質基である。ステロール(例えば、コレステロール)及び他の医薬として許容可能なアジュバント(アルファ−トコフェノールなどの抗酸化物質を含む)もまた、小胞の安定性を高めるためか、又は他の所望の特性を与えるために含まれてもよい。
【0080】
リポソームは、これらの二重層小胞の一部であり、脂肪酸鎖からなる2つの疎水性尾部を含むリン脂質分子から主に構成されている。水に暴露するとすぐに、これらの分子は球状の二分子膜を形成するために自然に配置するが、ここで二分子膜とは、膜の中心に集まる各層の分子の親油末端と、二分子膜(1又は複数)のそれぞれ内外表面を形成する反対の極性末端とを有するものである。従って、膜の各面には、親水性表面が存在する一方で、膜の内側は親油性の媒体を含む。これらの膜は、タマネギの層と異ならない形で、内部の水性空間のまわりに、薄い層状水によって分離される一連の同心球状の膜で調製されてもよい。これらの多重膜小胞(MLV)は、剪断力を適用することによって単層小胞(UV)へと転換され得る。本発明の方法に従ってセラミドアナログ及びスフィンゴミエリンアナログを導入するためにリポソームを使用する利点とは、リポソームが血液脳関門を通過し得ることである。NPD A型は、スフィンゴミエリンの蓄積に起因する神経変性によって特徴付けられるので、脳への効果的なターゲティングが、A型治療のいずれにおいても重要となる。
【0081】
注射剤としての使用に適した医薬品製剤には、滅菌水溶液(水溶性)又はディスパージョン、及び滅菌注射用溶液又はディスパージョンをその場で調製するための滅菌粉末が含まれる。全ての場合において、その形態は無菌でなければならず、容易に注入可能である程度まで流動的でなければならない。その形態は、製造及び保存条件下において安定でなければならず、バクテリア及び菌類などの微生物の汚染作用を受けずに保存されなければならない。キャリアーは、溶媒又はディスパージョンであることができ、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコールなど)、適したそれらの混合物、及び植物油などを含む。適した流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを用いることにより、ディスパージョンの場合は必要とされる粒径を維持することにより、及び界面活性剤を用いることにより維持され得る。微生物作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによってもたらされる。多くの場合、等張剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。吸収を遅らせる作用剤、例えば、アルミニウムモノエステル及びゼラチンの組成物を使用することによって、注射用組成物の吸収を持続させることができる。
【0082】
滅菌注射用溶液は、精製したASM酵素と低分子アナログとを、必要に応じて、上記で列挙した様々なほかの成分とともに、適した溶媒中に所要量で組み込み、それに続いて、濾過滅菌又は終末殺菌を行うことにより調製される。一般に、ディスパージョンは、様々な滅菌活性成分を、ベーシックな分散媒体と上記で列挙した所要の他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に任意の所望の追加成分を加えた粉末を、それらを含む滅菌濾過した溶液から産生する真空乾燥技術及び凍結乾燥技術である。
【0083】
好ましくは、製剤は賦形剤を含む。製剤に含まれてもよい、医薬として許容可能な賦形剤は、シトレートバッファー、ホスフェートバッファー、アセテートバッファー、バイカーボネートバッファーなどのバッファー;アミノ酸;尿素;アルコール;アスコルビン酸;リン脂質;セラムアルブミン、コラーゲン、及びゼラチンなどのタンパク質;EDTA又はEGTAなどの塩類及び塩化ナトリウム;リポソーム;ポリビニルピロリドン;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、及びグリセロールなどの糖類;プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(例えば、PEG−4000、PEG−6000);グリセロール;グリシン又は他のアミノ酸;並びに脂質。製剤に使用されるバッファー系には、シトレート;アセテート;バイカーボネート;及びホスフェートバッファーが含まれる。ホスフェートバッファーが好ましい実施態様である。
【0084】
製剤はまた、好ましくはノニオン性界面活性剤も含む。好ましいノニオン性界面活性剤には、Polysorbate 20、Polysorbate 80、Triton X−100、Triton X−114、Nonidet P−40、Octyl α−glucoside、Octyl β−glucoside、Brij 35、Pluronic、及びTween 20が含まれる。
【0085】
ASM酵素及び低分子ASSC調製において凍結乾燥する場合、酵素の濃度は、0.1〜10mg/mLであり得る。グリシン、マンニトール、アルブミン、及びデキストランなどの充填剤を、この凍結乾燥混合物に添加できる。さらに、二糖類、アミノ酸、及びPEGなどの抗凍結剤となり得るものを、この凍結乾燥混合物に添加できる。上記のバッファー、賦形剤、及び界面活性剤はいずれも添加できる。
【0086】
吸入投与用の低分子アナログ(ASMを添加又は無添加)の製剤は、ラクトース若しくは他の賦形剤を含んでもよく、又はポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、グリココーレート、若しくはデオキシココーレートを含んでもよい水溶液であってよい。好ましい吸入エアロゾルは、低密度及び大きなサイズの粒子を有することによって特徴付けられる。0.4g/cc未満の密度、及び5μmを超える平均粒径を有する粒子は、吸入された治療剤を循環系へと効果的に運搬する。このような粒子は、肺深くへ吸い込まれ、肺本来の排除メカニズムを免れ、その後、吸入粒子はその治療用ペイロードを運搬する(Edwards et al., Science. 1997; 276: 1868-1872)。本発明の補充タンパク質調製物は、エアロゾル形態で投与されることができ、例えば、それぞれが参照として本明細書で援用する、米国特許第5,654,007号、同第5,780,014号、及び同第5,814,607号に記載の調製方法及び製剤化方法が用いられる。経鼻投与用の製剤は、点鼻薬の形態で投与するために油性溶液を含んでもよく、又はゲルとして経鼻的に適用されてもよい。
【0087】
皮膚表面への低分子アナログの局所投与用の製剤は、ローション、クリーム、オイントメント、又はソープなどの皮膚に対して許容可能なキャリアーと本組成物を分散させることによって調製されてもよい。局所的に適用するため、及び除去を防ぐために、皮膚上に膜又は層を形成できるキャリアーが特に有用である。内部組織表面に局所投与するために、組織表面への吸着を強めることで知られている、液体の組織接着剤又は他の物質中に本組成物を分散してもよい。別法として、組織コーティング溶液、例えばペクチン含有製剤などを使用してもよい。
【0088】
好ましい実施態様において、本発明の製剤は、所定の調製物用量を簡便に投与する装置中の液剤又は粉剤のどちらかで供給され、このような装置の例には、皮下注射又は筋内注射のどちらかのための無針注射器、及び定量エアロゾルデリバリー装置が含まれる。他の例として、本調製物は、持続放出に適した形態で供給されてもよく、例えば、経皮投与のために皮膚へと適用されるパッチ若しくは包帯、又は経粘膜投与のための侵食可能な装置を介してもよい。D−MAPP又は他の低分子アナログなどの製剤が、錠剤又はカプセル剤の形態で経口投与される場合、本調製物は、除去可能なカバーを有したボトル、又はブリスターパックに入れて供給されてもよい。
【0089】
低分子アナログが独立して投与されるか、又はASSCが単療法として単独で投与される実施態様では、低分子アナログは、任意の投与経路に適した形態であることができ、限定はされないが、上記の全ての形態を含み、例えば、滅菌水溶液、鼻孔吸入、経皮投与、又は投与前のin vitroでの凝集を防ぐために、再構成の間若しくは再構成後すぐに補充タンパク質の製剤へと添加される乾燥状の凍結乾燥粉末形態などである。別法として、好ましい実施態様では、低分子アナログは、以下に例を挙げる医薬として許容可能な賦形剤とともに常法により調製される錠剤又はカプセル剤の形態で、経口投与のために製剤化され得る:結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);フィラー(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、又はリン酸水素カルシウム);滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、又はシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)。錠剤は、当分野で公知の方法でコーティングされてもよい。
【0090】
低分子アナログの経口投与用の液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、若しくは懸濁液の形態であってよく、又はそれらは乾燥産物として存在してもよく、その場合、乾燥産物は、使用前に水若しくは他の適したビヒクルと構成される。このような液体調製物は、以下に例を挙げる医薬として許容可能な添加剤とともに常法により調製されてよい:懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、又は水素化食用脂);乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油状エステル、エチルアルコール、又は分別植物油);及び保存料(例えば、メチル−p−ヒドロキシベンゾアート、プロピル−p−ヒドロキシベンゾアート、又はソルビン酸)。本調製物はまた、必要に応じて、バッファー塩類、香料、着色料、及び甘味料を含んでもよい。経口投与用の調製物は、活性化合物の放出を制御できるように、適切に製剤化されてもよい。
【0091】
遺伝子治療との併用療法(又は単療法として)に関して、低分子アナログASSCは、例えば、経口経路、非経口経路、経皮経路、又は経粘膜経路による投与用に独立して製剤化されてもよく、この経路には、上記の経路が含まれるがこれに限定されるものではない。好ましい実施態様では、低分子アナログは、上述したような、医薬として許容可能な賦形剤とともに常法により調製された錠剤又はカプセル剤(1つ又は複数)として経口投与される。別法として、低分子アナログは、注射、例えば、静脈内ボーラス又は持続注入などによる非経口用に製剤化されてもよい。注射用製剤は、添加された保存料とともに、ユニット用量形態、例えば、アンプル又は複数用量コンテナの形態で存在してもよい。本組成物は、油状ビヒクル又は水性ビヒクル中で、懸濁液、溶液、又はエマルションの形態であってもよく、懸濁化剤、分解防止剤、及び/又は分散剤などの処方剤(formulatory agent)を含んでもよい。別の実施態様では、低分子アナログは、適したビヒクル、例えばピロゲンを含まない滅菌水などとともに使用前に構成するための粉末形態であってよい。
【0092】
低分子アナログはまた、例えば、カカオバター又は他のグリセリドなどの一般的な座剤の基剤を含む座薬又は停留浣腸などの直腸用組成物として製剤化されてもよい。
【0093】
上記の製剤化に加えて、低分子アナログは、持効性調製物として製剤化されてもよい。このような長時間作用型の製剤は、注入(例えば、皮下又は筋内に)、又は筋内注射によって投与されてもよい。従って、例えば、低分子アナログは、適したポリマー物質、疎水性物質(例えば、許容可能な油中のエマルションとして)又はイオン交換樹脂とともに、又は難溶性の塩などの難溶性の誘導体として、製剤化されてもよい。
【0094】
[タイミング]
補充ASMタンパク質及び低分子アナログが、独立した製剤である場合、投与は同時であってよく、又は低分子アナログをASM補充タンパク質投与の前若しくは後に投与してもよい。例えば、ASM補充タンパク質が静脈内に投与された場合、低分子アナログは、0〜6時間後の間に投与されてもよい。あるいは、低分子アナログをタンパク質投与の0〜6時間前に投与してもよい。
【0095】
好ましい実施態様では、低分子アナログ及び補充タンパク質が別々に投与され、循環半減期が短い場合(例えば、低分子)、低分子アナログは、連続して、例えば毎日経口投与されてよく、それにより循環の一定レベルが維持される。このような一定レベルは、患者にとって毒性がないと判断されるレベルであり、非抑制性の治療効果を与えるための投与期間中、標的の補充タンパク質と相互作用することに関して最適であるだろう。
【0096】
別の実施態様では、低分子アナログは、補充ASMタンパク質のターンオーバーに必要とされる期間中投与される(低分子アナログの投与により延長されるだろう)。
【0097】
タイミングに関わらず、ASMタンパク質及び低分子アナログの濃度は、低分子アナログが、in vivoにおけるタンパク質活性を安定化させるけれども、抑制又は阻害しないようなものでなければならず、そのように投与されなければならない。補充ASMタンパク質及び低分子アナログが、同一製剤で投与される場合にもこれが適用される。
【0098】
低分子アナログ及び遺伝子治療との併用療法に関して、本発明の低分子アナログの投与は、一般に、標的細胞/組織によってリコンビナントASM酵素を発現させるための、ASM遺伝子の導入に続いて行われる。ASM遺伝子の発現は、期間中、遺伝子が発現可能である限りは維持されるので、低分子アナログは、リコンビナントASM酵素に対するシャペロン及び安定剤としての効果を保持するだろう。従って、低分子アナログの投与は、遺伝子発現と同時期であることが必要となるだろう。
【0099】
好ましい実施態様では、低分子アナログの循環半減期は短いので、循環中での一定レベルを維持するために、低分子アナログが頻繁に、例えば毎日経口投与されることが好ましい。このような一定レベルは、患者にとって毒性がないと判断されるレベルであり、非抑制性の治療効果を与えるための、連続して産生されるだろうタンパク質との相互作用に関して最適であるだろう。
【0100】
本発明では、治療用のASM遺伝子が、内因性の変異ASM遺伝子の不十分な活性を補完した後は、低分子アナログの有効量が内因性の変異ASMの活性を強め、治療用ASM遺伝子産物の効率を高めることができるので、低分子アナログ導入のタイミングは重要でなくなる。
【0101】
投与されたASM遺伝子によってコードされるASM酵素に対するASSC(例えばD−MAPP)の存在は、ERでの合成期間中、タンパク質のプロセッシングの効率を高め(すなわち、凝集を防ぐことによって)、循環及び組織におけるASM酵素の半減期を延長し、それにより、より長い期間にわたって効果的なレベルを維持するという利点を有するだろう。この結果、臨床上影響を受けている組織での発現が増加するだろう。これにより、NPD患者の苦痛を和らげることを強め、治療の頻度を減少させ、及び/又はASM遺伝子投与の量を減らすというような患者に対する有益な効果をもたらすだろう。これにより、治療費も減少するだろう。
【0102】
[遺伝子治療]
本ASSC発明との併用治療で用いられるASM核酸は、当分野で使用可能な遺伝子治療方法を含む、任意の既知の方法によって投与されてもよい。その際、同定され単離された遺伝子は、適切なクローニングベクターへと挿入される。遺伝子治療に適したベクターには、ウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、ワクシニア、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、及びレトロウイルス)、パルボウイルス、レンチウイルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター、及び他のリコンビネーションビヒクルであり、これは、様々な真核生物宿主及び原核生物宿主で発現すると記載されている、当分野で一般的に使用されるものである。
【0103】
好ましい実施態様では、前記ベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクター、特にアデノウイルスベクターは、カチオン性両親媒性物質、例えば、カチオン性脂質、ポリL−リジン(PLL)、及びジエチルアミノエチルデキストラン(DELAE−デキストラン)などと複合体を形成でき、これは、標的細胞のウイルス感染効率を増加させる(参照として本明細書に援用する、1997年11月20日出願のPCT/US97/21496参照)。本発明で用いられる好ましいウイルスベクターには、ワクシニア、ヘルペスウイルス、AAV、及びレトロウイルス由来のベクターが含まれる。詳細には、ヘルペスウイルス、特に、単純ヘルペスウイルス(HSV)が、神経細胞へのトランスジーンの導入に特に有用である(例えば、米国特許第5,672,344号で開示されており、この開示は、参照として本明細書に援用する)。AAVベクターもまた有用であり、その理由としては、これらのベクターが、最小限必要なベクターの反復投与で、宿主染色体に組み込まれるからである(例えば、米国特許第5,139,941号、同第5,252,479号及び同第5,753,500号、並びにPCT出願 WO 97/09441などで開示されており、この開示は参照として本明細書に援用する)。遺伝子治療におけるウイルスベクターに関しては、Mah et al., Clin. Pharmacokinet. 2002; 41(12): 901-11; Scott et al., Neuromuscul. Disord. 2002; 12 Suppl 1: S23-9を参照のこと。さらに、米国特許第5,670,488号も参照のこと。
【0104】
導入される遺伝子のコード配列は、発現制御配列、例えば、遺伝子発現を導くプロモーターなどと実施可能に連結されている。本明細書で用いられる、「実施可能に連結される」という句は、ヌクレオチドの調節塩基配列及びエフェクター配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、転写停止部位及び翻訳停止部位、並びに他のシグナル配列などと、ポリヌクレオチド/遺伝子との機能的関係を表す。例えば、核酸とプロモーターとの実施可能な連結とは、プロモーターを特異的に認識し結合するRNAポリメラーゼによってそのプロモーターからDNAの転写が開始され、このプロモーターによってポリヌクレオチドからRNAへの転写が導かれるというような、ポリヌクレオチド及びプロモーターとの物理的及び機能的関係を表す。
【0105】
1つの実施態様において、ベクターを使用することで、コード配列及びその他の所望する配列の全てが、ゲノム上の所望する部位での相同組み換えを促進する領域に隣接し、それにより、ゲノム上に導入されている核酸分子由来の構築物が発現する(Koller and Smithies, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1989, 86: 8932 8935; Zijlstra et al., Nature 1989, 342: 435 438)。
【0106】
特定の実施態様では、ベクターは、in vivoに直接投与され、それにより、生物の細胞中に入り、構築物の発現を媒介する。これは、当分野で公知の多数の方法のどんなものによっても達成され得、また上述したように、例えば、適切な発現ベクターの一部として構築され、それが以下に例を挙げるような方法によって細胞内に入り込むように投与されることにより達成され得る:欠損又は弱毒化レトロウイルス又は他のウイルスベクターを用いた注射(米国特許第4,980,286号参照)、裸のDNAの直接注射、微粒子照射の使用(例えば、遺伝子銃;Biolistic,Dupont);脂質、細胞表面レセプター、又はトランスフェクション試薬のコーティング、バイオポリマーのカプセル化(例えば、ポリ−β−1−64−N−アセチルグルコサミンポリサッカライド;米国特許第5,635,493号参照)、リポソームのカプセル化、微粒子のカプセル化(マイクロカプセル);細胞核へ入りこむことが公知のペプチド又は他のリガンドと連結した形態での投与;又はエンドサイトーシスを媒介する受容体に対するリガンドと連結した形態での投与(例えば、Wu and Wu, J. Biol. Chem. 1987, 62: 4429 4432参照)など。別の実施態様では、核酸リガンド複合体は、リガンドがエンドソームを崩壊させる融合性ウイルスペプチドを含み、核酸がリソソーム分解を受けないようなものとして形成されるか、又はカチオン性の12 merペプチド、例えばアンテナペディア由来であって、治療用DNAを細胞内へ輸送するために使用され得るものとして形成され得る(Mi et al., Mol. Therapy. 2000, 2:339 47)。さらに別の実施態様では、核酸が、特異的な受容体を標的とすることによる細胞特異的な取り込み及び発現のために、in vivoで標的化され得る(例えば、PCT出願 WO 92/06180、WO 92/22635、WO 92/20316、及びWO 93/14188を参照)。最近、マグネトフェクション(magnetofection)と称される技術が、ベクターを哺乳動物へ導入するために使用されている。この技術は、磁場の影響下で導入するために、ベクターを超常磁性微粒子と結合させる。この適用は、導入時間を短縮させ、ベクターの効率を高める
(Scherer et al., Gene Therapy 2002; 9: 102-9)。
【0107】
特定の実施態様では、核酸は脂質キャリアーを用いて投与され得る。脂質キャリアーは、細胞膜の通過を容易にするために、裸のDNA(例えば、プラスミドDNA)と結合し得る。カチオン性、アニオン性、又は中性の脂質がこの目的で使用され得る。しかし、好ましいのはカチオン性であり、なぜなら、カチオン性脂質は、一般に、負に帯電しているDNAとよく結合することが示されているからである。カチオン性脂質はまた、プラスミドDNAの細胞内への導入を媒介することも示されている(Felgner and Ringold, Nature. 1989; 337: 387)。カチオン性脂質−プラスミド複合体をマウスへ静脈注射することにより、肺においてそのDNAが発現したことが示されている(Brigham et al., Am. J. Med. Sci. 1989; 298: 278)。さらに以下も参照されたし:Osaka et al., J. Pharm. Sci. 1996; 85(6):612-618; San et al., Human Gene Therapy 1993; 4: 781-788; Senior et al., Biochemica et Biophysica Acta. 1991; 1070: 173-179); Kabanov and Kabanov, Bioconjugate Chem. 1995; 6: 7-20; Liu et al., Pharmaceut. Res. 1996; 13; Remy et al., Bioconjugate Chem. 1994; 5:647-654; Behr, J-P., Bioconjugate Chem. 1994; 5: 382-389; Wyman et al., Biochem. 1997; 36: 3008-3017; Marshallらによる米国特許第5,939,401号; Scheuleらによる米国特許第6,331,524号。
【0108】
代表的なカチオン性脂質には、例えば、米国特許第5,283,185号及び同第5,767,099号で開示されているものが含まれ、この開示を本明細書に参照として援用する。好ましい実施態様では、カチオン性脂質は、米国特許第5,767,099号で開示されている、N4−スペルミンコレステリルカルバマート(GL−67)である。好ましい脂質を追加すると、脂質には、N4−スペルミジンコレステリルカルバマート(GL−53)及び1−(N4−スペルミン)−2,3−ジラウリルグリセロールカルバマート(GL89)が含まれる。
【0109】
好ましくは、ウイルスベクターのin vivoでの投与に際し、適切な免疫抑制治療が、ウイルスベクター、例えばアデノウイルスベクターなどに関連して実施され、ウイルスベクター及びトランスフェクトされた細胞の免疫不活性化を避ける。例えば、免疫抑制性サイトカイン(例えば、インターロイキン−12(IL−12)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、又は抗CD4抗体など)が、ウイルスベクターに対する液性又は細胞性免疫反応を阻害するために投与され得る。その際、最少の抗原数を発現するように設計されたウイルスベクターを用いることが有利である。
【0110】
[用量]
投与されるASMタンパク質及び/又は内因性のASM変異タンパク質を安定化させるために効果的な低分子アナログの量が、当業者により決定され得る。補充ASMタンパク質及び低分子アナログの両方における、半減期(t1/2)、ピーク血漿濃度(Cmax)、ピーク血漿濃度の時間(tmax)、濃度曲線下面積(AUC)として測定される暴露、及び組織分布、並びに低分子アナログ−補充AMPタンパク質結合のデータ(親和定数、結合定数、解離定数、及び結合価)などの、薬物動態学及び薬物薬理学を、当業者に公知の一般的方法によって得ることができ、それにより、補充ASMタンパク質の活性を阻害せずに補充ASMタンパク質を安定化するために必要な適合量が決定され、治療効果が得られることとなる。
【0111】
本組成物の毒性及び治療有効性は、標準的な薬学的手法、例えば、LD50及びED50を決定するための細胞培養アッセイ又は実験動物の使用などにより決定され得る。パラメータであるLD50及びED50は、当分野で既知であり、それぞれ、集団の50%が死に至る化合物の用量、及び集団の50%に治療的効果をもたらす化合物の用量を意味する。毒性効果と治療効果との用量割合は、治療指数と称され、LD50/ED50の割合で表現されてもよい。治療上有効な用量は、IC50を含む循環濃度の範囲を得るために、細胞培養アッセイから初めは概算され、動物系で策定されてもよい。化合物のIC50濃度とは、症状の最大阻害の半分を得る濃度である(例えば、細胞培養アッセイから決定されるもの)。特定の個体、例えばヒト患者などに使用される適切な用量は、これらの情報を用いて、その後より正確に決定されてもよい。
【0112】
血漿中の化合物の測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はガスクロマトグラフィーなどの技術を用いて、患者などの個体に対して定期的に測定されてもよい。
【0113】
いずれの治療においても、使用される特定の用量は、実施される特定用量の形態、用いられる投与経路、個体(例えば、患者など)の条件などの因子に応じて、この範囲内で変動し得る。
【0114】
現行の手法に従って、補充ASMタンパク質の濃度は、体重1kg当たり0.05〜5.0mgであり、通常は、週に1度又は2週間に1度投与される。このタンパク質は、体重1kg当たり0.1μg〜約10mg、好ましくは約0.1mg〜約2mgの範囲の用量で投与され得る。例えば、ファブリー病の治療に際し、臨床上認められるリコンビナントα−Gal Aの投与用量は、通常は、体重1kg当たり0.1〜0.3mgであり、週に1度又は2週間に1度投与される。このタンパク質の規則的に繰り返される投与が、患者の生涯にわたって必要である。皮下注射は、薬剤への全身暴露を長期間維持する。皮下用量は、2週間に一度又は週に一度、体重1kg当たり0.1〜5.0mgのα−Gal Aであることが好ましい。ASMは、好ましくは静脈内に投与され、例えば、静脈内ボーラス注射、穏やかな圧力での静脈注射、又は持続静脈注射によって投与される。持続IV注入(例えば、2〜6時間にわたって)により、血中で特定レベルが維持される。
【0115】
低分子アナログの最適な濃度は、リコンビナントASMタンパク質活性を阻害することなく、in vivo、組織又は循環において、このタンパク質を安定化するために必要な量に従って、組織又は循環における低分子アナログの生体利用効率に従って、及び組織又は循環における低分子アナログの代謝に従って決定されるだろう。例えば、低分子アナログD−MAPPの濃度は、ASMに対するD−MAPPのIC50値を測定することによって決定され、すなわち50μM未満であった。本化合物の生体利用効率及び代謝を考慮すると、ほぼIC50値となる濃度又はIC50値をわずかに超える濃度が、ASM活性への影響に基づき評価され得、例えば、ASM活性量を増加させるため、又は補充ASMのASM活性を持続させるために必要とされる低分子アナログの量に基づき評価され得る。
【0116】
(実施例)
以下に示す実施例を用いて、本発明をさらに説明する。このような実施例は、例証に用いるだけであり、本発明又は例示された項目のいずれにおいても、その範囲又は意味を限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書に記載される特定の好ましい実施態様のいずれにも限定されない。実際に、本明細書を読むとすぐに、本発明に多くの修正又は変更を加えることが当業者に理解されるだろうし、それらの修正又は変更は、発明の精神及び範囲から逸脱することなくなされ得るだろう。従って、本発明は、添付の請求項の項目、並びに添付の請求項に与えられる権利と等価な全範囲によってのみ限定される。
【0117】
(実施例1:D−MAPPを用いたASM活性の回復)
低分子である、D−MAPPとして知られるセラミドアナログ(構造は図1を参照)を、NPDに対する、可能性あるASSCとして評価した。
【0118】
[材料及び方法]
D−MAPPは、Matreya社(Pleasant Gap、PA、カタログ番号1859)から購入し、2mMの濃度のエタノールで再構成した。
【0119】
リコンビナントASM
シャペロンASMに使用され得るD−MAPPの非抑制濃度の範囲を決定するために、精製した野生型ASMのKを測定した。リコンビナント ヒトASM(rASM)を、既報の方法(He et al., Biochem et Biophys Acta. 1999; 1432: 251-264)によりチャイニーズハムスター卵巣細胞を過剰発現している媒体から精製した。簡単に述べると、これは、DEAE Sephacel、Concanvalin A、及びSuperose 12を介したクロマトグラフィーを用いることにより得られた。D−MAPPは、Matreya Incより購入した(Pleasant Gap、カタログ番号1859)。
【0120】
阻害アッセイ
純粋な酵素を用いたin vitroでの研究のために、原液の一定分量を窒素下で乾燥させ、次いで蛍光ASM基質であるBODIPY Sphingomyelin(Molecular Probes、Eugene OR)を含む酢酸ナトリウムバッファーに再懸濁した。この溶液を超音波処理し、純粋なrASMの一定分量を添加した。本アッセイでの基質の最終濃度は、100マイクロモーラー(μM)であり、D−MAPPの濃度は、10〜500μMまで変動させた。アッセイは、以前に記載されたとおりに実施した(He et al., Biochem. 2003; 314: 116-120)。
【0121】
R496L変異の2コピーを有するNPD A型の皮膚線維芽細胞及び正常な皮膚線維芽細胞を(インフォームドコンセントのもと)取得し、10%の熱不活性化ウシ胎仔血清を含む標準組織培養メディウム(culture medium)(DMEM、GIBCO)で培養した。様々な濃度(5〜50μM)のD−MAPPを培養メディウムに添加し、細胞を様々な期間でインキュベートした。インキュベーションの終わりに、細胞をトリプシン処理し、ラバーポリスマンを用いて細胞を回収し、生理食塩水で洗浄し、10mMのTrisバッファー(pH7.0)中に再懸濁した。細胞抽出物を超音波処理により調製し、細胞片を超音波処理し、上清を、以前に記載されているとおり(He et al., Biochem. 2003; 314: 116-120)、BODIPI Sphingomyelinを用いたASM活性測定に使用した。
【0122】
結果
図4に、D−MAPPが、約50μMのKで純粋なASMの活性を阻害したことを示す。図5には、R496L変異の2コピーを有するNPD A型患者由来の培養皮膚線維芽細胞をD−MAPPの存在下(5〜50μM)で3日間インキュベートした場合に、残存ASM活性が3倍まで、すなわち通常の3%まで(通常の1%未満の初期活性から)強められたことを示す。最大増強が約10μMで認められ、この濃度での、細胞の成長又は生存性に対する有害な効果は全く認められなかった。従って、D−MAPP(野生型ASM活性の低分子阻害剤)は、NPD治療におけるASSCとして有用であり得る。
【0123】
(実施例2:新規スフィンゴミエリンアナログを用いたASM活性の回復)
材料及び方法
本明細書に記載されるスフィンゴミエリンアナログがNPD線維芽細胞に投与された場合に、これらの化合物は競合的ASM阻害剤(すなわち、これらが基質結合を減少させる−データは示していない)であることから、正常ASMの活性を強め、変異ASM活性を助けることが期待される。このようなスフィンゴミエリンアナログが、図2B〜Dに表されている。好ましい化合物は、図2Dで表されるアナログである。
【0124】
リコンビナントASM
図2DのスフィンゴミエリンアナログのKは、D−MAPPについて上述したとおり、野生型リコンビナントASMに対して測定された。
【0125】
線維芽細胞アッセイ
正常線維芽細胞におけるASM阻害のKも、NPD線維芽細胞におけるD−MAPPについて上述したとおりに測定された。
【0126】
さらに、R496L変異の2コピーを有するNPD A型の皮膚線維芽細胞及び正常皮膚線維芽細胞は、約0.5〜50μMの図2B〜Dで表されるスフィンゴミエリンアナログとともに、D−MAPPについて上述した条件下で5日間治療されるだろう。
【0127】
結果
スフィンゴミエリンアナログは、約70μMのKで、純粋なリコンビナントASM活性を阻害したが、正常線維芽細胞では、20μMで約90%のASMを阻害した。
【0128】
これらのアナログは、上述のD−MAPPで示された結果と同様に、野生型活性を強めるだろうと期待される。これらのアナログは、変異線維芽細胞において変異ASM活性を助けるだろうことも期待される。
【0129】
(実施例3:酵素補充治療又は遺伝子治療を用いて治療されたニーマンピック病マウスに対する低分子アナログの併用療法)
材料及び方法、並びに結果
ASM欠損マウス(NPD KOマウス)は以前から作製されている(Dhami et al., Lab Invest. 2001; 81(7): 987-99)。これらのマウスは、10週齢までに、肺のエアースペース中に正常マウスよりも著しく多い細胞(拡大化し、しばしば多核化したマクロファージで主に構成されている)数を有することにより特徴づけられる。低分子セラミド、スフィンゴミエリンアナログ、又はヌクレオチドアナログを単独で、又は遺伝子治療若しくは酵素補充治療との組み合わせとして使用することが、NPD患者の治療に対して有用であり得ることを実証するために企図される実験で、これらのマウスを用いることができる。
【0130】
いくつかのライソゾーム貯蔵障害に対する酵素補充療法が、Genzyme Corporation、及びTranskaryotic Therapies(TKT)によって開発されている。補充酵素を注入することによって治療されたASMノックアウトマウスに対する、D−MAPP、若しくは他のセラミドアナログ、スフィンゴミエリンアナログ、又はホスホヌクレオチドアナログ(すなわち、ASSC)、例えば本明細書に記載されているものなど、の併用療法は、ASSCが酵素を安定化し分解を抑制することから、in vivoにおける補充酵素の安定性、例えば半減期などを増加させるだろう。本低分子アナログは、ファブリー病KOマウスにおいて以前に記載されたプロトコル(Ioannu et al., Am J Hum Genet. 2001; 68: 14-25)と同様のプロトコルに従って、野生型ASMを注入した後、KOマウスに経口投与される。心臓、腎臓、脾臓、肝臓及び肺を含む様々な組織、並びに血清におけるASM活性は、期間中測定され、ASSC投与されていないコントロールマウスのASM活性、及び酵素を投与されず低分子アナログのみを投与されているマウスのASM活性と比較される。長期間では、ASSCの併用療法が酵素補充療法の効果を高めることができることが示されるだろう。
【0131】
遺伝子治療を施されたASM KOマウスへの低分子アナログの併用療法は、治療用遺伝子産物の発現を著しく高め、詳細には、標的細胞のER中での凝集を抑制することによって、遺伝子治療の効率を高めるだろう。このKOマウスは、遺伝子治療プロトコルの後に、本明細書に記載の、D−MAPP、スフィンゴミエリンアナログ、又はヌクレオチドアナログ(飲用水で溶解したもの)を投与され、心臓、腎臓、脾臓、肝臓及び肺を含む様々な組織、並びに血清における低分子アナログ活性が、期間中測定され、低分子アナログを投与されていないコントロールマウスの活性、及び遺伝子治療を受けずに低分子アナログを投与されたマウスの活性と比較される。高い酵素活性及び長時間の維持は、低分子アナログの併用療法が、遺伝子治療の効果を高めることができることを示している。
【0132】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施態様によって範囲を限定されるものではない。実際に、本明細書に記載されている変形に加えて本発明に様々な変形を施すことは、前述の説明及び添付した図から、当業者に明らかであると理解されるだろう。このような変形は、添付の請求項の範囲内に収まるように企図される。
【0133】
特許、特許出願、刊行物及び手順などは、本出願を通じて引用され、これらの開示は、その全体を参照として本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の好ましいASSCの1つであるD−MAPPの構造を表した図である。
【図2A】本発明で使用され得るセラミドアナログの構造を表した図である。
【図2B】本発明を実施するために使用され得るスフィンゴミエリンアナログの構造を表した図である。
【図2C】本発明を実施するために使用され得るスフィンゴミエリンアナログの構造を表した図である。
【図2D】NPD ASSCの候補である、好ましい実施態様でのスフィンゴミエリンアナログの構造を表した図である。
【図3】ASMの阻害剤及びASSCである、ヌクレオチドアナログの構造を表した図である。
【図4】野生型ASM活性におけるD−MAPP阻害のKを示した図である。
【図5】NPD A型を有する個体由来の細胞におけるASM活性に対するD−MAPPの効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)タンパク質の活性を強める方法であって、医薬として許容可能なキャリアー中で前記タンパク質を、セラミドアナログ若しくはスフィンゴミエリンアナログである化合物の有効量、又はホスホヌクレオチドアナログである化合物の有効量と接触させることを含む方法。
【請求項2】
前記スフィンゴミエリンアナログ化合物が、下記式(I):
【化1】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3である]
を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スフィンゴミエリンアナログ化合物が、下記式(II):
【化2】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記セラミドアナログ化合物が、下記式(III):
【化3】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、酸素、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、下記の構造:
【化4】

によって表されるD−MAPPである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、下記の構造:
【化5】

を有するヌクレオチドアナログである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ASMタンパク質が、変異ASMタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記変異タンパク質が、L302P(配列番号3)である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記変異タンパク質が、R496L(配列番号2)である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記変異タンパク質が、デルタR608(配列番号4)である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記ASMタンパク質が、野生型ASMタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記ASMが、全長ASMである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記ASMが、酵素活性を有する、切断されたASMである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
医薬として許容可能なキャリアー中の精製されたASMタンパク質を投与された個体での、前記ASMタンパク質のin vivoでの半減期を延長し、その活性を持続させる方法であって、セラミドアナログ若しくはスフィンゴミエリンアナログである化合物の有効量、又はヌクレオチドアナログである化合物の有効量に、前記ASMタンパク質を接触させることを含み、前記化合物がASM阻害剤である、方法。
【請求項15】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(I):
【化6】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3である]
を有する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(II):
【化7】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記化合物が、セラミドアナログであって、下記式(III):
【化8】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、酸素、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記化合物が、D−MAPPであって、下記の構造:
【化9】

によって表される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記化合物が、ヌクレオチドアナログであって、下記の構造:
【化10】

を有する、請求項14記載の方法。
【請求項20】
前記ASMタンパク質が、前記化合物と共投与される、請求項14記載の方法。
【請求項21】
前記共投与が、同一の製剤で行われる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記共投与が、別々の製剤で行われる、請求項20記載の方法。
【請求項23】
宿主細胞によるリコンビナントASMタンパク質の産生を増加させる方法であって(ここで、前記宿主細胞は、前記リコンビナントASMタンパク質をコードする核酸配列を含む発現ベクターを含んでいる)、セラミドアナログ若しくはスフィンゴミエリンアナログの有効量、又はヌクレオチドアナログである化合物の有効量を含有する媒体中で前記宿主細胞を培養することを含み、前記化合物がASM阻害剤である、方法。
【請求項24】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(I):
【化11】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3である]
を有する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(II):
【化12】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記化合物が、セラミドアナログであって、下記式(III):
【化13】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、酸素、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記化合物が、D−MAPPであって、下記の構造:
【化14】

によって表される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記化合物が、ヌクレオチドアナログであって、下記の構造:
【化15】

を有する、請求項23記載の方法。
【請求項29】
ニーマンピック病に罹患した個体を治療する方法であって、精製した野生型ASM、及びセラミドアナログ若しくはスフィンゴミエリンアナログである化合物のASM活性増進量、又はヌクレオチドアナログである化合物のASM活性増進量を含む組成物を、個体に共投与することを含み、前記化合物がASM阻害剤である、方法。
【請求項30】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(I):
【化16】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3である]
を有する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(II):
【化17】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記化合物が、セラミドアナログであって、下記式(III):
【化18】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、酸素、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する、請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記化合物が、D−MAPPであって、下記の構造:
【化19】

によって表される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記化合物が、ヌクレオチドアナログであって、下記の構造:
【化20】

を有する、請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記個体が、ニーマンピック病A型に罹患している、請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記個体が、ニーマンピック病B型に罹患している、請求項29記載の方法。
【請求項37】
前記個体が、変異ASMタンパク質をコードする変異ASM遺伝子を有する、請求項29記載の方法。
【請求項38】
前記変異タンパク質が、L302P(配列番号3)である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記変異タンパク質が、R496L(配列番号2)である、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前記変異タンパク質が、デルタR608(配列番号4)である、請求項37記載の方法。
【請求項41】
個体の細胞の、in vivoでのリコンビナントASMタンパク質の発現レベルを増加させる方法であって(ここで前記タンパク質は、前記細胞へと導入されている発現ベクターから発現している)、セラミドアナログ若しくはスフィンゴミエリンアナログである化合物の有効量、又はヌクレオチドアナログである化合物の有効量を個体に投与することを含み、前記化合物がASM阻害剤である、方法。
【請求項42】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(I):
【化21】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3である]
を有する、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(II):
【化22】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する、請求項41記載の方法。
【請求項44】
前記化合物が、セラミドアナログであって、下記式(III):
【化23】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、酸素、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する、請求項41記載の方法。
【請求項45】
前記化合物が、D−MAPPであって、下記の構造:
【化24】

によって表される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
前記化合物が、ヌクレオチドアナログであって、下記の構造:
【化25】

を有する、請求項41記載の方法。
【請求項47】
前記ベクターがウイルスベクターである、請求項41記載の方法。
【請求項48】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項41記載の方法。
【請求項49】
前記個体が、変異ASMタンパク質をコードする変異ASM遺伝子を有する、請求項41記載の方法。
【請求項50】
前記変異タンパク質が、L302(配列番号3)である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記変異タンパク質が、R496L(配列番号2)である、請求項49記載の方法。
【請求項52】
前記変異が、デルタR608(配列番号4)である、請求項48記載の方法。
【請求項53】
ニーマンピック病に罹患している個体、又は遺伝的にニーマンピック病を発現しやすい個体を治療する方法であって、セラミドアナログ若しくはスフィンゴミエリンアナログである化合物のASM活性増進量、又はヌクレオチドアナログである化合物のASM活性増進量を含む組成物を前記個体に投与することを含み、前記化合物がASM阻害剤である、方法。
【請求項54】
前記シャペロンが、スフィンゴミエリンアナログ化合物であって、下記式(I):
【化26】

[式中、Rが存在する場合には、Rは、それぞれ独立に、任意に置換されていてもよいC1〜10アルキル、ハロ、NO、CN、OH、C1〜6アルコキシであり;R、R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;nは0〜5であり、mは1〜3である]
を有する、請求項53記載の方法。
【請求項55】
前記化合物が、スフィンゴミエリンアナログであって、下記式(II):
【化27】

[式中、R、R、R及びmは、上記で定義されたとおりであり;RはC10〜20アルキルであり;R及びRは、独立に、H、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルである]
を有する、請求項53記載の方法。
【請求項56】
前記化合物が、セラミドアナログであって、下記式(III):
【化28】

[式中、Rは上記で定義されたとおりであり;RはH又はOHであり;Rは、H、酸素、C1〜10アルキル、アリール、又はアラルキルであり;RはC10〜20アルキルである]
を有する、請求項53記載の方法。
【請求項57】
前記化合物が、D−MAPPであって、下記の構造:
【化29】

によって表される、請求項56記載の方法。
【請求項58】
前記化合物が、ヌクレオチドアナログであって、下記の構造:
【化30】

を有する、請求項53記載の方法。
【請求項59】
前記変異タンパク質が、L302(配列番号3)である、請求項53記載の方法。
【請求項60】
前記変異タンパク質が、R496L(配列番号2)である、請求項53記載の方法。
【請求項61】
前記変異タンパク質が、デルタR608(配列番号4)である、請求項53記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−514661(P2007−514661A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541513(P2006−541513)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/041345
【国際公開番号】WO2005/051331
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(502375437)マウント シナイ スクール オブ メディスン オブ ニューヨーク ユニバーシティー (11)
【Fターム(参考)】