説明

ヌクレオチド配列ANNについての亜鉛フィンガー結合ドメイン

【課題】
Cys−Hisファミリーの亜鉛フィンガードメインを含み、式5'−(ANN)−3'の標的ヌクレオチドに特異的に結合する新規ポリペプチドを提供すること。
【解決手段】
2〜12個の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ペプチドを含むポリペプチドであって、ペプチドの少なくとも1個が配列番号7〜70および107〜112のいずれかの配列を有するヌクレオチド結合領域を含むポリペプチドを提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の分野は、標的ヌクレオチドに結合する亜鉛フィンガータンパク質である。さらに特定すれば、本発明は、式5'−(ANN)−3'の標的ヌクレオチドに特異的に結合する亜鉛フィンガーのαヘリックスドメイン内におけるアミノ酸残基配列に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工的転写因子の構築は過去何年間にもわたり大いなる興味の対象となっている。遺伝子発現は、調節ドメインに融合されたポリダクチル亜鉛フィンガータンパク質により特異的に調節され得る。
【0003】
Cys−Hisファミリーの亜鉛フィンガードメインは、それらのモジュール構造故に人工的転写因子の構築についてこれまでのところ最も有望視されている。各ドメインは、約30アミノ酸から成り、疎水性相互作用および保存Cys−His残基による亜鉛イオンのキレート化により安定化されたββα構造に折りたたまれる。現在までのところ、この亜鉛フィンガータンパク質ファミリーの中で最も明白に特性確認されているタンパク質は、マウス転写因子Zif268である[Pavletich et al.、(1991)Science252(5007)、809−817、Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180]。Zif268/DNA複合体の分析結果は、DNA結合が、主に3bp DNAサブサイトのそれぞれ3'、中間および5'ヌクレオチドと1、3および6位におけるαヘリックスのアミノ酸残基の相互作用により達成されることを示唆している。1、2および5位は、DNAのリン酸バックボーンと直接的または水媒介による接触をもつことが示されている。ロイシンは、通常4位に見出され、ドメインの疎水性コアへパッケージングされる。αヘリックスの2位は、他のヘリックス残基と相互作用することが示されており、さらに、3bpサブサイト外側のヌクレオチドへの接触をもち得る[Pavletich et al.、(1991)Science252(5007)、809−817、Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180、Isalan,M.et al.,(1997)Proc Natl Acad Sci USA94(11)、5617−5621]。
【0004】
高い特異性および親和力をもつ5'−GNN−3'DNAサブサイトの各々を認識するモジュール亜鉛フィンガードメインの選択および位置指定突然変異導入によるそれらの洗練はこれまでに立証されている。これらのモジュールドメインは、ヒトまたは他のいずれかのゲノム内において特有なものである拡張された18bpDNA配列を認識する亜鉛フィンガータンパク質に組立てられ得る。さらに、これらのタンパク質機能は転写因子として機能し、調節ドメインに融合された場合に遺伝子発現を改変し得、核ホルモン受容体のリガンド結合ドメインへの融合によりホルモン依存的にされることさえあり得る。DNA配列に結合する亜鉛フィンガーに基いた転写因子の迅速な構築を可能にするため、モジュール亜鉛フィンガードメインの既存のセットを拡張して64の可能なDNAトリプレットの各々を認識させることが重要である。この目的は、ファージディスプレイ選択および/または合理的設計により達成され得る。
【0005】
亜鉛フィンガー/DNA相互作用に関する構造データが限られているため、亜鉛タンパク質の合理的設計は多大なる時間の浪費であり、多くの場合可能ではあり得ない。さらに、最も多く天然に存する亜鉛フィンガータンパク質は、DNA配列の5'−GNN−3'型を認識するドメインにより構成される。5'−ANN−3'型の配列に結合する亜鉛フィンガードメインは天然タンパク質からは僅かしか見出されず、例えばGfi−1のフィンガー5(5'−AAA−3')[Zweidler‐McKay et al.,(1996)Mol.Cell.Biol.16(8)、4024−4034]、YY1のフィンガー3(5'−AAT−3')[Hyde‐DeRuyscher,et al.,(1995)Nucleic Acids Res.23(21)、4457−4465]、CF2IIのフィンガー4および6(5'−[A/G]TA−3')[Gogos et al.,(1996)PNAS 93、2159−2164]およびTTKのフィンガー2(5'−AAG−3')[Fairall et al.,(1993)Nature(London)366(6454)、483−7]がある。しかしながら、X線またはNMR試験によるタンパク質/DNA複合体の構造分析では、αヘリックスの6位のアミノ酸残基と5'グアニン以外のヌクレオチドとの相互作用は全く観察されなかった。従って、5'−ANN−3',5'−CNN−3'または5'−TNN−3'型のDNA標的配列に結合する新規亜鉛フィンガードメインの最も有望視されている同定方法は、ファージディスプレイによる選択である。この方法についての限定的工程は、5'アデニン、シトシンまたはチミンの特定化を可能にするライブラリーの構築である。ファージディスプレイ選択は、このタンパク質の種々のフィンガーがランダム化されているZif268に基くものであった[Choo et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91(23)、11168−72、Rebar et al.,(1994)Science(Washington,D.C.,1883−)263(5147)、671−3、Jamieson et al.,(1994)Biochemistry 33、5689−5695、Wu et al.,(1995)PNAS 92、344−348、Jamieson et al.,(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93、12834−12839、Greisman et al.,(1997)Science275(5300)、657−661]。5'−GNN−3'型のDNA配列を認識する16ドメインのセットは、C7のフィンガー2、Zif268の誘導体[米国特許番号6140081、この開示を出典明示で援用する、Wu et al.,(1995)PNAS 92、344−348 Wu,1995#164]がランダム化されたライブラリーから以前に報告されている[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA 96(6)、2758−2763]。かかる戦略において、フィンガー3のAspがフィンガー2サブサイトにおける5'グアニンまたはチミンの相補的塩基と接触するため、選択は5'−GNN−3'または5'−TNN−3'を認識するドメインに限られる[Pavletich et al.、(1991)Science252(5007)、809−817、Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180]。場合によっては3bpサブサイト外側のヌクレオチドを認識し得る、亜鉛フィンガードメインの限られたモジュール性については、充分に検討されている[Wolfe et al.,(1999)Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.3、183−212、Segal et al.,(2000)Curr Opin Chem Biol 4(1)、34−39、Pabo et al.,(2000)J.Mol.Biol.301、597−624、Choo et al.,(2000)Curr.opin.Struct.Biol.10、411−416]。標的部位オーバーラップにより課される限界を克服する一法は、2つの隣接フィンガーにおけるアミノ酸残基のランダム化である[Jamieson et al.,(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93、12834−12839、Isalan et al.,(1998)Biochemistry 37(35)、12026−12033]。第二の、ただし時間のかかる方法は、各フィンガーおよびその周囲フィンガーの個々の構造およびDNA結合方式の説明となる特異的9bp標的部位についてのフィンガー1〜3の逐次選択法である[Greisman et al.,(1997)Science 275(5300)、657−661、Wolfe et al.,(1999)J Mol Biol 285(5)、1917−1934]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本方法は亜鉛フィンガードメインのモジュール性に基いているため、学術的共同体による亜鉛フィンガータンパク質の迅速な構築を可能にするもので、交差サブサイト相互作用により課される限界に関する懸念が生じる事例は限られた数に過ぎないことを立証している。本開示は、5'−ANN−3'型のDNA配列を特異的に認識する亜鉛フィンガードメインの選択についての新たな戦略を紹介している。これらのドメインの特異的DNA結合特性を、16の全5'−ANN−3'トリプレットに対する多重標的ELISAにより評価した。これらのドメインは、様々な数の5'−ANN−3'ドメインを含むポリダクチルタンパク質へ容易に組込まれ得、各々拡張された18bp配列を特異的に認識し得る。さらに、これらのドメインは、調節ドメインに融合されたとき遺伝子発現を特異的に改変し得た。これらの結果は、予め特定されたビルディングブロックからポリダクチルタンパク質を構築する可能性を予告している。さらに、本明細書で特性確認されたドメインは、人工的転写因子によりターゲッティングされ得るDNA配列の数を大きく増加させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の簡単な要約
本開示は、5'−ANN−3'型のDNA配列を認識する亜鉛フィンガードメインの選択を可能にする新規ファージディスプレイライブラリーの構築を教示している。かかるドメインは単離され、それらが選択される3bp標的部位についての鋭敏な結合特異性を示した。これらの亜鉛フィンガードメインを、pM〜低nM範囲の親和力でそれらの18bp標的部位へ特異的に結合する6−フィンガータンパク質へ移植した。調節ドメインに融合されると、5つの5'−ANN−3'および1つの5'−TNN−3'ドメインを含む一人工的6−フィンガータンパク質は、亜鉛フィンガー結合部位およびTATAボックスを含む最小プロモーターの制御下でルシフェラーゼリポーター遺伝子を調節した。さらに、5'−ANN−3'および5'−GNN−3'ドメインから組立てられた6−フィンガータンパク質は、内在性erbB−2およびerbB−3遺伝子の特異的転写調節をそれぞれ示した。これらの結果は、5'−GNN−3'以外の3bp標的部位に結合するモジュール亜鉛フィンガードメインが選択され得ること、およびそれらが人工的転写因子を作製するための追加モジュールとして適切であり、それによって予め規定された亜鉛フィンガードメインから構築されたDNA結合タンパク質によりターゲッティングされ得る配列の数が大きく増加することを示す。
【0008】
すなわち、本発明は、2〜12個の亜鉛フィンガーヌクレオチド結合ペプチドを含み、ペプチドの少なくとも1個が配列番号7〜71および107〜112のいずれかの配列を有するヌクレオチド結合領域を含む、単離および精製されたポリペプチドを提供する。好ましい態様において、ポリペプチドは2〜6個の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ペプチドを含む。かかるポリペプチドは、配列5'−(ANN)−3'(式中、各Nは、A、C、GまたはTであり、nは2〜12である)を含むヌクレオチドに結合する。好ましくは、ペプチドの各々は、異なる標的ヌクレオチド配列に結合する。この発明のポリペプチドは、1個またはそれ以上の転写調節因子、例えばリプレッサーまたはアクチベーターに機能し得るように結合され得る。
【0009】
ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドを含む発現ベクターおよび発現ベクターにより形質転換された細胞もまた提供される。
【0010】
関連した態様において、本発明は、配列(5'−ANN)−3'(式中、nは2〜12の整数である)を含むヌクレオチド配列の発現を調節する方法を提供する。この方法は、ポリペプチドがヌクレオチドの発現調節配列に結合する条件下でこの発明のポリペプチドの有効量にヌクレオチド配列を暴露する工程を包含する。すなわち、配列5'−(ANN)−3'は、ヌクレオチド配列の転写領域、ヌクレオチド配列のプロモーター領域または発現された配列標識内に位置し得る。ポリペプチドは、好ましくは1個またはそれ以上の転写調節因子に機能し得るように結合される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、亜鉛フィンガーファージディスプレイライブラリーの構築を概略的に示す。黒塗りの矢印は、Zif268のx線結晶学により測定された亜鉛フィンガーヘリックスのアミノ酸残基とそれらの結合部位のヌクレオチドとの相互作用を示し、点線は提案された相互作用を示す。
【図2】図2は、選択されたクローンからのフィンガー‐2認識ヘリックスのアミノ酸配列を示す。各DNA標的部位について、第6ラウンドのふるい分け後幾つかの単一クローンを配列決定し、アミノ酸を決定して選択を評価した。フィンガー2のDNA認識サブサイトは、各セットの左に示され、次いで各出現数が示されている。αヘリックス内のアミノ酸残基の位置は、上部に示されている。四角で囲まれた配列は詳細に試験されたもので、各セットの最善のバインダーを表す。星印を付した配列は、追加分析クローンであった。フィンガー3におけるSer〜Cys突然変異を伴うクローン。修飾pMAL−c2ベクターへ第6ラウンドの選択後のDNAプールからの亜鉛フィンガー配列をサブクローニングした後に決定された配列。分析された追加クローン。
【図3−1】図3−1(8パネル:3a−3hに示されている)は、選択されたドメインのDNA結合特性を試験するための多重標的特異性検定を示す。各グラフの上部には、分析された3−フィンガータンパク質のフィンガー‐2ドメインのアミノ酸配列(ヘリックス出発点に関して−2〜6位)が示されている。黒塗りの棒線は、異なるフィンガー‐2サブサイト:AAA、AAC、AAG、AAT、ACA、ACC、ACG、ACT、AGA、AGC、AGT、ATA、ATC、ATGおよびATTを伴う標的オリゴヌクレオチドへの結合を表す。白い棒線はフィンガー‐2サブサイトの5'位のみが異なる一連のオリゴヌクレオチドへの結合を表し、例えば5'−AAA−3'サブサイト(図3a)AAA、CAA、GAA、またはTAAに結合するドメインについて5'認識が評価される。各棒線の高さは、2つの独立した実験での平均をとり、黒または白色棒線間で最高のシグナルに正規化した、各標的についてのタンパク質の相対親和力を表す。誤差の縦線は平均からの偏差を表す。分析されたタンパク質は、図2からの四角で囲まれたヘリックス配列に対応する。位置指定突然変異導入により生成されたフィンガー‐2ドメインを含むタンパク質。
【図3−2】図3−2(8パネル:3i−3pに示されている)は、選択されたドメインのDNA結合特性を試験するための多重標的特異性検定を示す。各グラフの上部には、分析された3−フィンガータンパク質のフィンガー‐2ドメインのアミノ酸配列(ヘリックス出発点に関して−2〜6位)が示されている。黒塗りの棒線は、異なるフィンガー‐2サブサイト:AAA、AAC、AAG、AAT、ACA、ACC、ACG、ACT、AGA、AGC、AGT、ATA、ATC、ATGおよびATTを伴う標的オリゴヌクレオチドへの結合を表す。白い棒線はフィンガー‐2サブサイトの5'位のみが異なる一連のオリゴヌクレオチドへの結合を表し、例えば5'−AAA−3'サブサイト(図3−1の3a)AAA、CAA、GAA、またはTAAに結合するドメインについて5'認識が評価される。各棒線の高さは、2つの独立した実験での平均をとり、黒または白色棒線間で最高のシグナルに正規化した、各標的についてのタンパク質の相対親和力を表す。誤差の縦線は平均からの偏差を表す。分析されたタンパク質は、図2からの四角で囲まれたヘリックス配列に対応する。位置指定突然変異導入により生成されたフィンガー‐2ドメインを含むタンパク質。
【図3−3】図3−3(10パネル:3q−3zに示されている)は、選択されたドメインのDNA結合特性を試験するための多重標的特異性検定を示す。各グラフの上部には、分析された3−フィンガータンパク質のフィンガー‐2ドメインのアミノ酸配列(ヘリックス出発点に関して−2〜6位)が示されている。黒塗りの棒線は、異なるフィンガー‐2サブサイト:AAA、AAC、AAG、AAT、ACA、ACC、ACG、ACT、AGA、AGC、AGT、ATA、ATC、ATGおよびATTを伴う標的オリゴヌクレオチドへの結合を表す。白い棒線はフィンガー‐2サブサイトの5'位のみが異なる一連のオリゴヌクレオチドへの結合を表し、例えば5'−AAA−3'サブサイト(図3−1の3a)AAA、CAA、GAA、またはTAAに結合するドメインについて5'認識が評価される。各棒線の高さは、2つの独立した実験での平均をとり、黒または白色棒線間で最高のシグナルに正規化した、各標的についてのタンパク質の相対親和力を表す。誤差の縦線は平均からの偏差を表す。分析されたタンパク質は、図2からの四角で囲まれたヘリックス配列に対応する。位置指定突然変異導入により生成されたフィンガー‐2ドメインを含むタンパク質。
【図4−1】図4−1は、5'−ANN−3'DNA配列を認識するドメインを含む6‐フィンガータンパク質の構築およびELISA分析を示す。6−フィンガータンパク質pAart、pE2X、pE3YおよびpE3Zは、Sp1Cフレームワークを用いて構築された。α認識ヘリックスの−1〜6位にあるアミノ酸残基は、使用した各フィンガーについて与えられている。
【図4−2】図4−2は、5'−ANN−3'DNA配列を認識するドメインを含む6‐フィンガータンパク質の構築およびELISA分析を示す。タンパク質は、MBP融合タンパク質としてエシェリキア・コリ(E.coli)で発現された。結合特異性を、固定化ビオチニル化オリゴヌクレオチド(E2X、5'−ACC GGA GAA ACC AGG GGA−3'(配列番号72)、E3Y、5'−ATC GAG GCA AGA GCC ACC−3'(配列番号73)、E3Z、5'−GCC GCA GCA GCC ACC AAT−3'(配列番号74)、Aart、5'−ATG−TAG−AGA−AAA−ACC−AGG−3'(配列番号75))への粗ライゼートからの結合活性の測定により分析した。検定をデュプリケイトで遂行し、棒線は標準偏差を表す。黒棒線:pE2X、縞模様の棒線:pE3Y、灰色棒線:pE3Y、白色棒線:pAart。
【図5】図5(2パネル:AおよびBに示されている)は、ルシフェラーゼリポーター検定結果を示す。ヒーラ細胞を、TATA−ボックスおよび亜鉛フィンガー結合部位(A:5×Aart結合部位、B:6×2C7結合部位)を伴う最小プロモーターの制御下示された亜鉛フィンガー発現プラスミド(対照としてpcDNA)およびルシフェラーゼ遺伝子を含むリポータープラスミドにより共トランスフェクションした。細胞抽出物におけるルシフェラーゼ活性を、トランスフェクションの48時間後に測定した。各棒線は、デュプリケイト測定結果の平均値(+/−標準偏差)を表す。Y軸:10で割った光単位。X軸:トランスフェクションされた亜鉛フィンガータンパク質をコードする構築物、対照、リポーター単独。
【図6】図6(2パネル:AおよびBに示されている)は、レトロウイルス仲介遺伝子ターゲッティングを示す。A431細胞を、活性化ドメインVP64または抑制ドメインKRABにそれぞれ融合させたpE2X(A)またはpE3Y(B)をコード化するレトロウイルスにより感染させた。3日後、無傷の細胞を、フィコエリスリン標識二次抗体と組合わせたErbB−1特異的mAb EGFR−1、ErbB−2特異的mAb FSP77、またはErbB−3特異的mAb SGP1により染色した。点線:対照染色(一次抗体省略)、ダッシュ線:模擬感染細胞の特異染色、点/ダッシュ線:亜鉛フィンガータンパク質VP64融合体を発現する細胞、太線:亜鉛フィンガータンパク質‐KRAB融合体を発現する細胞。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な記載
I 亜鉛フィンガーポリペプチド
本発明は、亜鉛フィンガータンパク質から誘導された2〜12個のヌクレオチド結合ドメインペプチドを含む単離および精製ポリペプチドを提供する。ヌクレオチド結合ドメインペプチドは、亜鉛フィンガータンパク質のαヘリックス部分から誘導される。好ましい上記ヌクレオチド結合ドメインペプチドは、配列番号7〜71または107〜112のいずれかのアミノ酸残基配列を有する。好ましくは、ペプチドは、配列番号46〜70のいずれかのアミノ酸残基配列を有する。さらに好ましくは、ペプチドは、配列番号10、11、17、19、21、23〜30、32、34〜36、42、43または45のいずれかのアミノ酸残基配列を有する。ペプチドの各々は、式5'−ANN−3'(式中、Nはいずれかのヌクレオチド(すなわち、A、C、GまたはT)である)に対応するヌクレオチド標的配列と特異的に結合するように設計され、生成されている。すなわち、この発明のポリペプチドは、ヌクレオチド配列5'−(ANN)−3'(ただし、nは2〜12の整数である)に結合する。好ましくは、nは2〜6である。
【0013】
この発明の化合物は、ANNヌクレオチド配列に結合し、そのヌクレオチド配列の機能を変調する単離された亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドである。ポリペプチドは、遺伝子の転写を促進または抑制し得、そしてDNAまたはRNAに結合し得る。亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドは、亜鉛フィンガータンパク質の突然変異形態または遺伝子組換え操作により製造されたものであるポリペプチドをいう。ポリペプチドは、例えば、第2タンパク質の亜鉛フィンガードメイン(複数も可)に結合された一タンパク質からの亜鉛フィンガードメイン(複数も可)を含むハイブリッドであり得る。ドメインは野生型であるかまたは突然変異が導入され得る。ポリペプチドは、野生型亜鉛フィンガータンパク質の切頭化形態を包含する。ポリペプチドが製造され得る亜鉛フィンガータンパク質の例には、TFIIIAおよびzif268が含まれる。
【0014】
この発明の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドは、ポリペプチドのαヘリックスドメイン内に特有の七量体(7アミノ酸残基の配列)を含み、この七量体配列が標的ヌクレオチドの結合特異性を決定する。その七量体配列は、αヘリックスドメイン内のどこにでも位置し得るが、残基には当業界では慣用的に番号付けをしており、それによると、七量体は−1位〜6位に伸長しているのが好ましい。この発明のポリペプチドは、亜鉛フィンガータンパク質の一部として機能することが当業界では知られているβ‐シートおよびフレームワーク配列を含み得る。多数の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドを製造し、ANNトリプレットを含む標的ヌクレオチドに対する結合特異性について試験した。
【0015】
亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチド誘導体は、切頭化または伸展により野生型亜鉛フィンガータンパク質から誘導または製造されるか、または位置指定突然変異導入方法により、またはこれらの手順の組み合わせにより野生型誘導ポリペプチドの変異体として誘導または製造され得る。「切頭化(された)」の語は、天然亜鉛フィンガー結合タンパク質で見出される最大限の数より少ない亜鉛フィンガーを含むかまたは非所望配列が欠失した亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質についていう。例えば、本来は9個の亜鉛フィンガーを含む、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質TFIIIAを切頭化すると、1個から3個の亜鉛フィンガーしか伴わないポリペプチドとなり得る。伸展は、追加の亜鉛フィンガーモジュールが付加された亜鉛フィンガーポリペプチドをいう。例えば、TFIIIAは、3個の亜鉛フィンガードメインを加えることにより12フィンガーに拡張され得る。さらに、切頭化亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドは、複数の野生型ポリペプチドからの亜鉛フィンガーモジュールを含み得るため、「ハイブリッド」亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドとなり得る。
【0016】
「突然変異導入された」の語は、タンパク質をコード化するDNAのランダムまたは位置指定突然変異導入を達成するための公知方法のいずれかを実施することにより得られた亜鉛フィンガー誘導ヌクレオチド結合ポリペプチドについていう。例えば、TFIIIAでは、突然変異を導入することにより共通配列の1個またはそれ以上の反復単位が非保存残基と置換され得る。また、切頭化亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質にも突然変異が導入され得る。
【0017】
本発明に従い切頭化、伸展および/または突然変異導入することにより亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合モチーフを含むヌクレオチド配列の機能が阻害され得る公知亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドの例には、TFIIIAおよびzif268がある。他の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質は、当業者には周知である。
【0018】
この発明のポリペプチドは、当業界で公知の様々な標準技術を用いて製造され得る。亜鉛フィンガータンパク質のファージディスプレイライブラリーを作製し、配列特異的タンパク質の濃化に有利な条件下で選択した。若干の配列を認識する亜鉛フィンガードメインは、ファージ選択データおよび構造情報の両方により導かれる位置指定突然変異導入による洗練を必要とした。以前、我々は、C7、マウス転写因子Zif268の変異体に基いたファージディスプレイ選択により単離され、位置指定突然変異導入により洗練された、5'−GNN−3'型のDNA配列の各々を特異的に認識する16亜鉛フィンガードメインの特性検定について報告した[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763、Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol.303、489−502]。Zif268とその標的DNA 5'−GCG TGG GCG−3'(配列番号76)の分子相互作用は、非常に詳細に特性確認されている。一般に、Cys−His型の亜鉛フィンガードメインの特異的DNA認識は、各αヘリックスのアミノ酸残基−1、3および6により伝達されるが、どの場合においても3つの残基全てが必ずしもDNA塩基と接触しているわけではない。一つの主要な交差サブサイト相互作用が認識ヘリックスの2位から観察された。Aspは、次に続く3bpサブサイトのそれぞれ5'チミンまたはグアニンの相補的アデニンまたはシトシンと直接接触することにより亜鉛フィンガードメインの結合を安定させることが示されている。これらの非モジュール相互作用は、標的部位オーバーラップとして報告されている。さらに、伸展した結合部位を作製するアミノ酸と3bpサブサイト外側のヌクレオチドとの他の相互作用が報告されている[Pavletich et al.、(1991)Science252(5007)、809−817、Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180、Isalan et al.,(1997)Proc Natl Acad Sci USA 94(11)、5617−5621]。
【0019】
グアニンまたはチミン以外の5'ヌクレオチドに結合する亜鉛フィンガードメインについての以前に報告されたファージディスプレイライブラリーの選択からは、フィンガー‐3認識ヘリックスRSD−E−LKRの2位にあるアスパラギン酸からの交差サブサイト相互作用故に満足した成果は得られなかった。人工的転写因子構築についての亜鉛フィンガードメインの利用能を拡大するため、5'−ANN−3'型のDNA配列を特異的に認識するドメインを選択した。他のグループは、4つの5'−ANN−3'サブサイト、5'−AAA−3'、5'−AAG−3'、5'−ACA3'、および5'−ATA−3'を認識するドメインの特性確認に至る逐次選択方法を報告している[Greismanetal.,(1997)Science 275(5300)、657−661、Wolfe et al.,(1999)J Mol Biol 285(5)、1917−1934]。本開示は、標的部位オーバーラップを排除することによる上記部位を認識する亜鉛フィンガードメインの異なる選択方法を使用している。まず、サブサイト5'−GCG−3'に結合するC7(RS−E−RKR)(配列番号3)のフィンガー3を、2位にアスパラギン酸を含まないドメインと交換した(図1)。ヘリックスTS−N−LVR(配列番号6)は、以前にフィンガー2位が高い特異性でトリプレット5'−GAT−3'に結合することが特性確認されており、有望な候補であると思われた。C7のフィンガー1および2およびフィンガー‐3位の5'−GAT−3'認識ヘリックスを含む、この3−フィンガータンパク質(C7.GAT;図1)を、元のC7タンパク質(C7.GCG)と比べた多重標的ELISAにより異なるフィンガー‐2サブサイトを伴う標的でのDNA結合特異性について分析した。両タンパク質とも5'−TGG−3'サブサイトに結合した(ただし、先に報告されたフィンガー3のAspによるチミンまたはグアニンの5'特定化故にC7.GCGは5'−GGG−3'にも結合する)。
【0020】
フィンガー‐2サブサイトの5'ヌクレオチドの認識を、全16の5'−XNN−3'標的部位(X=アデニン、グアニン、シトシンまたはチミン)の混合物を用いて評価した。事実、もとのC7.GCGタンパク質はフィンガー2の5'位におけるグアニンまたはチミンを特定化しており、C7.GATは塩基を特定化しなかったことから、5'チミンに相補的なアデニンへの交差サブサイト相互作用が破壊されたことが示された。同様の効果は、Aspが位置指定突然変異導入によってAlaにより置換されたZif268の変異体についても以前に報告されている[Isalan et al.,(1997)Proc Natl Acad Sci USA 94(11)、5617−5621;Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol.303、489−502]。ゲル移動度変位分析により測定したC7.GATの親和力は、C7.GCGについての0.5nMと比べて約400nMと、比較的低いことが見出されており[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]、これは一つにはフィンガー3にAspが欠如しているためであり得る。
【0021】
3−フィンガータンパク質C7.GATに基き、ライブラリーをファージディスプレイベクターpComb3Hで構築した[Barbas et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、7978−7982;Rader et al.,(1997)Curr.Opin.Biotechnol.8(4)、503−508]。ランダム化は、VNSコドンドーピング戦略(V=アデニン、シトシンまたはグアニン、N=アデニン、シトシン、グアニンまたはチミン、S=シトシンまたはグアニン)を用いることによりフィンガー2のαヘリックスの−1、1、2、3、5および6位を含んでいた。これにより各ランダム化アミノ酸位置について24の可能性が生じ得、芳香族アミノ酸Trp、PheおよびTyr並びに停止コドンはこの戦略から排除された。LeuはCys−His型の亜鉛フィンガードメインの認識ヘリックスの4位から専ら見出されるため、この位置はランダム化されなかった。ER2537細胞(ニューイングランド・バイオラボズ)へのライブラリーの形質転換後、ライブラリーは1.5×10の構成員を含んでいた。これは必要なライブラリーサイズを60倍の割合で越えており、アミノ酸の全組み合わせを含むのに充分であった。
【0022】
非ビオチニル化競合体DNAの存在下、16の5'−GAT−ANN−GCG−3'ビオチニル化ヘアピン標的オリゴヌクレオチドの各々にそれぞれ結合する亜鉛フィンガー‐ディスプレイファージの6ラウンドの選択を遂行した。ビオチニル化標的オリゴヌクレオチドの量を減らし、競合体オリゴヌクレオチド混合物の量を増やすことにより、選択のストリンジェンシーを各ラウンドで増加させた。第6ラウンドでは、標的濃度は通常18nMであり、5'−CNN−3'、5'−GNN−3'、および5'−TNN−3'競合体混合物は各オリゴヌクレオチドプールについてそれぞれ5倍過剰であり、特異的5'−ANN−3'混合物(標的配列を除く)は10倍過剰であった。ストレプトアビジン‐被覆磁気ビーズへの捕獲により、ビオチニル化標的オリゴヌクレオチドに結合するファージを回収した。
【0023】
第6ラウンドの選択後にクローンを普通に分析した。選択されたフィンガー‐2ヘリックスのアミノ酸配列を決定したところ、総じて−1および3位で良好な保存性を示し(図2)、これらの位置で以前に観察されたアミノ酸残基と一致していた[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]。3'ヌクレオチドがアデニンである場合−1位はGlnであったが、Serが強く選択された5'−ACA−3'(PA−D−LTN)(配列番号77)結合ドメインは例外であった。3'シトシンを含むトリプレットはAsp−1(例外は、5'−AGC−3'および5'−ATC−3'結合ドメインであった)を選択し、3'グアニンはArg−1、および5'チミンはThr−1およびHis−1であった。また、His−1による3'チミンの認識は、5'−GAT−3'(IS−N−FCR)(配列番号78)に結合するTKKのフィンガー1で観察された[Fairall et al.,(1993)Nature(London)366(6454)、483−7]。中間アデニンの認識の場合、AspおよびThrを認識ヘリックスの3位で選択した。中間シトシンへの結合については、AspまたはThrを選択し、中間グアニンについては、His(例外は、5'−AGT−3'の認識であり、これは非通常アミノ酸残基His−1故に異なる結合機構を有し得る)および中間チミンについてはSerおよびAlaを選択した。ただし、また、5'−ANG−3'サブサイトに結合するドメインは、フィンガー−1サブサイトにおける5'グアニンの相補的シトシンと接触することにより3−フィンガータンパク質の相互作用を安定化させると思われるAspを含むものとする。認識ヘリックスの5位においてはArgおよびThrが主に選択されたが、1、2および5位は可変であった。
【0024】
最も興味深い観察結果は、3bpサブサイトの5'ヌクレオチドへの結合を決定するαヘリックスの6位におけるアミノ酸残基の選択であった。5'グアニンの認識とは対照的に、直接塩基接触がヘリックスの6位にあるArgまたはLysにより達成される場合、5'位にある他のヌクレオチドについてのタンパク質/DNA複合体における直接相互作用は全く観察されなかった[Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180;Pavletich et al.、(1993)Science(Washington,D.C.,1883−)261(5129)、1701−7;Kim et al.,(1996)Nat Struct Biol 3(11)、940−945;Fairall et al.,(1993)Nature(London)366(6454)、483−7;Houbaviy et al.,(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93(24)、13577−82;Wuttke et al.,(1997)J Mol Biol 273(1)、183−206;Nolte et al.,(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(6)、2938−2943]。5'−GNN−3'型のフィンガー‐2サブサイトに対するドメインの選択により、5'グアニンと直接接触するArgのみを含むドメインが生成した[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]。しかしながら、5'−GNN−3'亜鉛フィンガードメインについての結果とは異なり、5'−ANN−3'型のフィンガー‐2サブサイトに対するファージディスプレイライブラリーの選択により、様々なアミノ酸残基:Ala、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、ThrまたはValを含むドメインが同定された(図2)。さらに、5'−TAG−3'を認識する一ドメインが、アミノ酸配列RED−N−LHT(図3z)(配列番号71)を伴うこのライブラリーから選択された。Thrはまた、Zif268/DNA複合体では直接接触が全く観察されなかった5'−TGG−3'に結合するZif268(RSD−H−LT)(配列番号79)のフィンガー2に存在する。
【0025】
C7.GATのフィンガー‐2変異体を、マルトース結合タンパク質(MBP)との融合体として細菌発現ベクターへサブクローニングし、1mMのIPTGでの誘導によりタンパク質を発現させた(タンパク質(p)は、それらが選択されたフィンガー‐2サブサイトの名称を与える)。5'−GAT ANN GCG−3'型の16フィンガー‐2サブサイトの各々に対する固相酵素免疫測定法(ELISA)によりタンパク質を試験して、それらのDNA結合特異性を調べた(図3、黒色棒線)。さらに、特異的標的オリゴヌクレオチドおよび中間トリプレットの5'ヌクレオチドのみが異なる3つのサブサイトへ亜鉛フィンガータンパク質を暴露することにより、5'−ヌクレオチド認識を分析した。例えば、pAAAを、5'−AAA−3'、5'−CAA−3'、5'−GAA−3'、および5'−TAA−3'サブサイトについて試験した(図3、白色棒線)。試験した3−フィンガータンパク質の多くは、それらが選択されたフィンガー‐2サブサイトについての鋭敏なDNA結合特異性を示した。図2において四角で囲んだ、各セットの中で最も特異的なバインダーであると考えられているドメインの結合特性は、図3の上方パネルに表されており、試験した追加ドメイン(図2で星印が付されている)は図3の下方パネルに要約されている。例外は、そのDNA結合が弱すぎてELISAにより検出され得ないpAGCおよびpATCであった。3'シトシンおよび中間グアニンを特定化する予測通りのアミノ酸Asp−1およびHis、および5'アデニンについてはいずれの場合にも選択されなかったThrを含むpAGC(DAS−H−LHT)(配列番号80)について最も有望なヘリックスを、検出可能なDNA結合を伴わずに分析した。
【0026】
より大型のセットを分析するため、第6ラウンドの選択後、pAGCについてのコーディング配列のプールを、プラスミドpMalへサブクローニングし、DNA結合特異性について18の個々のクローンを試験したところ、どれもELISAにおいて測定可能なDNA結合性を示さなかった。pATCの場合、DNA結合が全く検出され得ないLeu〜Cys突然変異を含む2つのヘリックス(RRS−S−CRKおよびRRS−A−CRR)(配列番号80、81)が選択された。ファージディスプレイによりフィンガー‐2サブサイトと結合するタンパク質は全く生成されなかったため、合理的な設計を適用することによりこれらの5'−AGC−3'または5'−ATC−3'に結合するドメインを見出した。5'−GGC−3'(ERS−K−LAR(配列番号82)、DPG−H−LVR(配列番号83))および5'−GTC−3'(DPG−A−LVR)(配列番号84)に特異的に結合することが以前に立証された認識ヘリックスに基いてフィンガー‐2突然変異体を構築した[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]。pAGCについては、単に5および6位を5'アデニン認識モチーフRAまたはRV(図3a、3bおよび3i)へ交換することにより、2つのタンパク質を構築した(ERS−K−LRA(配列番号85)、DPG−H−LRV(配列番号86))。これらのタンパク質のDNA結合は検出レベル未満であった。pATCの場合には、RVモチーフ(図3b)を含む2つのフィンガー‐2突然変異体(図3b)を構築した(DPG−−LRV(配列番号87)、DPG−−LRV(配列番号88))。3位がALaまたはSerであるかどうかとは関係無く両タンパク質とも非常に低い親和力でDNAと結合した。
【0027】
ELISAによる16のフィンガー‐2サブサイトについての3−フィンガータンパク質の分析結果は、フィンガー‐2ドメインの中には、それらを選択させなかった標的に最もよく結合するものもあることを示した。第1に、5'−AGA−3'について主に選択されたヘリックスはRSD−H−LTN(配列番号63)であり、これは、事実、5'−AGG−3'と結合した(図3r)。これは、−1位にあるArgにより説明され得る。さらに、このタンパク質は、主に選択されたヘリックスpAGG(RSD−H−LAE(配列番号55);図3j)と比べて5'アデニンの明白な相違を示した。第2に、5'−AAG−3'(RSD−N−LKN(配列番号61);図3p)に特異的に結合するヘリックスは、5'−AAC−3'(図2)に対して実際に選択され、そして5'−AAG−3'セットで選択されていた、pAAG(RSD−T−LSN(配列番号48);図3c)よりもフィンガー‐2サブサイト5'−AAG−3'に特異的に結合した。さらに、5'−ANG−3'型の標的部位へ指向したタンパク質は、pAGG(図3jおよび3r)を除き、5'−ANG−3'型の4つの全標的部位と交差反応性を示した。またpAAG(RSD−N−LKN(配列番号61);図3p)は弱い交差反応性しかもたないため、中間プリンの認識は、中間ピリミジンの場合よりも限定的であると思われる。
【0028】
比較すると、タンパク質pACG(RTD−T−LRD(配列番号52);図3g)およびpATG(RRD−A−LNV(配列番号58);図3m)は、全5'−ANG−3'サブサイトとの交差反応性を示す。中間ピリミジンの認識は、5'−GNG−3'配列に結合するドメインについての以前の試験では困難であると報告されている[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763;Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol.303、489−502]。中間ヌクレオチドの認識を改善するため、3位に異なるアミノ酸残基を含むフィンガー‐2突然変異体を位置指定突然変異導入により生成した。pAAG(RSD−−LSN(配列番号48);図3c)の結合は、Thr〜Asn突然変異後中間アデニンについてはより特異的であった(図3o)。5'−ATG−3'(SRD−−LNV(配列番号58);図3m)への結合は、Ala〜Glnの単一アミノ酸交換により改善され(図3w)、pACG(RSD−−LRD(配列番号52);図3g)についてのThr〜AspまたはGln突然変異により、DNA結合は破壊された。さらに、認識ヘリックスpAGT(HRT−T−LN(配列番号56);図3k)は、Leu〜Thr置換により低減化される(図3s)中間ヌクレオチドについての交差反応性を示した。驚くべきことに、中間ヌクレオチドについての識別が改善されることに伴い、5'アデニンの認識についての特異性がある程度失われることが多かった(図3o〜3p、3m〜3w、3k〜3s比較)。
【0029】
3−フィンガータンパク質C7に基いた前記フィンガー‐2ライブラリー[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]からの5'アデニンまたはシトシンを含むサブサイトに結合する亜鉛フィンガードメインの選択は、フィンガー‐2サブサイトの5'位の相補的ヌクレオチドへ交差サブサイト接触させるフィンガー3の2位にあるアスパラギン酸による制限故に(図1)亜鉛フィンガードメインの選択について適切ではなかった。我々は、Aspを欠くドメインとフィンガー3を交換することによりこの接触を排除した。C7.GATのフィンガー2をランダム化し、ファージディスプレイライブラリーを構築した。たいていの場合、5'−ANN−3'型のフィンガー‐2サブサイトに結合する新規3−フィンガータンパク質が選択された。サブサイト5'−GC−3'および5'−TC−3'について、堅固なバインダーは同定されなかった。C7に基くファージディスプレイライブラリーから以前に選択されたサブサイト5'−GC−3'および5'−TC−3'に結合するドメインは、それらの標的部位への優れたDNA結合特異性および40nMの親和力を示したため[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]、これは予想外であった。一つの単純な説明は、芳香族アミノ酸残基を含まないVNSコドンの使用による限定的ランダム化戦略である。5'−GNN−3'サブサイトに結合するドメインについては、ランダム化戦略に含まれるとしても芳香族アミノ酸残基は選択されないため、これらはライブラリーには含まれなかった[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]。しかしながら、芳香族残基を含む亜鉛フィンガードメイン、例えばCFII2(VKD−−LTK(配列番号89);[Gogos et al.,(1996)PNAS 93、2159−2164])のフィンガー2、TFIIIA(KN−K−LQA(配列番号90);[Wuttke et al.,(1997)J Mol Biol 273(1)、183−206])のフィンガー1、TTK(HIS−N−CR(配列番号78)[Fairall et al.,(1993)Nature(London)366(6454)、483−7])のフィンガー1およびGLI(AQ−M−LVV(配列番号91);[Pavletich et al.、(1993)Science(Washington,D.C.,1883−)261(5129)、1701−7])のフィンガー2がこれまでに報告されている。芳香族アミノ酸残基は、サブサイト5'−AGC−3'および5'−ATC−3'の認識にとって重要であり得る。
【0030】
近年、Cys−His亜鉛フィンガードメインの認識ヘリックスは、最適な結合を達成するためにDNAに対し異なる配向を採り得ることが明白になってきた[Pabo et al.,(2000)J.Mol.Biol.301、597−624]。しかしながら、この領域におけるヘリックスの配向は、亜鉛イオン、Hisおよびリン酸バックボーンを巻き込む頻繁に観察される相互作用により部分的に制限され得る。さらに、タンパク質/DNA複合体における相互作用の結合特性を比較したところ、6位のC−α原子は通常DNAサブサイトにおける5'ヌクレオチドの最も近い重原子から8.8±0.8オングストローム離れており、これはArgまたはLysによる5'グアニンの認識にのみ有利であるという結論に達した[Pabo et al.,(2000)J.Mol.Biol.301、597−624]。現在までのところ、他の6位残基とグアニン以外の塩基との相互作用は、タンパク質/DNA複合体からは全く観察されていない。例えば、YY1(QST−N−LK)(配列番号92)のフィンガー4は、5'−AA−3'を認識するが、Serおよび5'シトシン間において接触は全く観察されなかった[Houbaviy et al.,(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93(24)、13577−82]。さらに、5'−TT−3'を認識する、YY1(LDF−N−LR)(配列番号93)のフィンガー3、および5'−T/GGG−3'を特定化する、Zif268(RSD−H−LT)(配列番号79)のフィンガー2におけるThrの場合、5'ヌクレオチドとの接触は全く観察されなかった[Houbaviy et al.,(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93(24)、13577−82;Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180]。最後に、サブサイト5'−AG−3'に結合するトラムトラック(RKD−N−MT)(配列番号94)のフィンガー2のAlaは、5'アデニンとは接触しない[Fairall et al.,(1993)Nature(London)366(6454)、483−7]。
【0031】
異なる状況で5'グアニンと有効に結合することが立証されている[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]、アミノ酸残基Ala、Val、AsnおよびArgまでが、5'−ANN−3'型(図2)のDNAサブサイトについてのC7.GATライブラリーから主に選択された。さらに、6位は、フィンガー‐2標的部位によりThr、GluおよびAspとして選択された。これは、近接フィンガーの位置がランダム化された他のグループによる初期の試験と一致する[Jamieson et al.,(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93、12834−12839;Isalan et al.,(1998)Biochemistry 37(35)、12026−12033]。ファージディスプレイライブラリーのスクリーニングの結果、5'アデニンの認識について、アミノ酸残基Alaではなく、同Tyr、Val、Thr、Asn、Lys、GluおよびLeu、並びにGly、SerおよびArgが選択された。さらに、逐次ファージディスプレイ選択戦略を用いることにより、5'−ANN−3'サブサイトに結合する幾つかのドメインを同定し、標的部位選択により特異性を評価した。ヘリックスの6位におけるArg、AlaおよびThrは、主に5'アデニンを認識することが立証された[Wolfe et al.,(1999)Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.3、183−212]。
【0032】
さらに、サブサイト5'−AAA−3'に結合するGfi−1(QSS−N−LI)(配列番号95)のフィンガー5についての標的部位選択により示されている通り[Zweidler‐McKay et al.,(1996)Mol.Cell.Biol.16(8)、4024−4034]Thrは5'アデニンを特定化する。これらの例は、本結果を含め、6位アミノ酸残基および5'アデニン間には、それらが頻繁に選択されることから、ある関係が存在すると考えられることを示している。これは、グアニン以外の5'ヌクレオチドと_‐ヘリックスの6位の相互作用を決して示さなかった、結晶学試験から得られたデータと一致しない。一つの単純な説明としては、短いアミノ酸残基、例えばAla、Val、ThrまたはAsnは、5'−ANN−3'サブサイトを認識するドメインの結合方式における立体障害ではないことがあり得る。これは、5'−G/ATA−3'サブサイトに結合するヘリックス(QRS−A−LT)(配列番号96)についての6位における位置指定突然変異導入により集められた結果により立証されている[Gogos et al.,(1996)PNAS 93、2159−2164]。本明細書記載のドメインについても見出される、ValをAlaと置換しても、結合特異性または親和力には全く影響が無かった。
【0033】
コンピューターモデリングを用いることにより、5'アデニンと頻繁に選択されるAla、AsnおよびArgの可能な相互作用を調べた。5'アデニンと5'−AAA−3'(QRA−N−LR;図3a)(配列番号46)に結合するヘリックスにおけるAlaからの相互作用の分析は、Zif268変異体からのフィンガー1(QSG−S−LTR)(配列番号97)のタンパク質/DNA複合体の座標に基いていた。QRA−N−LRA(配列番号98)のGln−1およびAsnが規定の方法でそれらの各アデニン塩基と水素結合する場合、これらの相互作用により、Alaのメチル基および5'アデニン間の約8オングストロームおよびAlaのメチル基およびアデニンと塩基対合したチミン間の11オングストロームを越える距離が当然固定されることから、直接的接触はValおよびThrについては提案され得ないことも示唆されている。
【0034】
興味深いことに、α‐ヘリックスの6位にある短いアミノ酸による5'特異性の予測される欠如は、結合データにより部分的に立証されているに過ぎない。ヘリックス、例えばRRD−A−LN(配列番号58)(図3m)およびC7.GATのフィンガー‐2ヘリックスRSD−H−LT(配列番号5)は、事実、本質的には5'特異性を示さなかった。しかしながら、ヘリックスDSG−N−LR(配列番号47)(図3b)は、5'アデニンについて卓越した特異性を示し、TSH−G−LT(配列番号70)(図3y)は5'アデニンまたはグアニンについて特異的であった。短い6位残基を伴う他のヘリックスは、様々な程度の5'特異性を示しており、唯一明らかに一貫しているのは5'チミンが通常は排除されていることであった(図3)。6位残基が特異性に直接寄与し得るとは考えられないため、観察された結合パターンは別の供給源から誘導されるはずである。可能性としては、局在する配列特異的DNA構造および近隣ドメインからの重複する相互作用が含まれる。しかしながら、フィンガー3の2位の残基(近隣部位と接触するのを観察されることが多い)は、親タンパク質C7.GATにおけるグリシンであるため、および5'チミンは上述の2つのヘリックスにより排除されなかったため、後者の可能性は不都合である。
【0035】
アスパラギンはまた6位で選択されることが多かった。ヘリックスHRT−T−LT(配列番号56)(図3k)およびRSD−T−LS(配列番号48)(図3c)は、5'アデニンについて卓越した特異性を示した。しかしながら、Asnはまた、アデニンおよびグアニンの両方についての特異性を付与すると思われ(図3n、3pおよび3r)、両ヌクレオチドに共通したN7との相互作用が示唆された。Zif268/DNA結晶構造(RSD−H−LT(配列番号79);[Elrod-Erickson et al.,(1996)Structure 4(10)、1171−1180])において、5'−TGG−3'に結合する、フィンガー2の座標に基いた、5'−AGG−3'(RSD−H−LT(配列番号90);図3r)に結合するヘリックスのコンピューターモデリングは、AsnのN−δが5'アデニンのN7から約4.5オングストロームであることを示唆していた。規定のドッキング配向の範囲内で考えられる_‐ヘリックスの適度の再配向により[Pabo et al.,(2000)J.Mol.Biol.301、597−624]、アルギニンではなくグルタメートが−1位に現れるときに観察される再配向と同様に、水素結合間隔内にN−δが妥当と思われる状態で導かれ得る。しかしながら、Asnがこの5'−ANN−3'認識セットで選択され、さらに長いGlnが選択されなかった理由を推測するのは興味深いことである。Glnは、さらに可変性であり、ファージディスプレイ中に選択された他の相互作用を安定化させ得た可能性がある。別法として、Asnの短い方の側鎖は、ヘリックスの再配向を伴わずに5'ヌクレオチドと接触し得る規則正しい水分子を適応させ得る。
【0036】
考えるべき最後の残基はArgである。我々の以前の試験では、高い特異性で5'グアニンを認識するものとして異議なく選択されていたため[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]、Argが5'−ANN−3'標的で非常に頻繁に選択されることは幾分驚くべきことであった。しかしながら、最近の試験では、場合によっては5'グアニンの認識に加えて(図3tおよびu)、Argは主として5'アデニンを特定化した(図3e、f、hおよびv)。5'−GCA−3'に結合するZif268変異体のフィンガー1 QSG−S−LTR(配列番号98)の座標に基いた[Elrod-Erickson et al.,(1998)Structure 6(4)、451−464]、5'−ACA−3'(SPA−D−LT(配列番号50);図3e)に結合するヘリックスのコンピューターモデリングは、Argが、5'アデニンと塩基対合したチミンのO4との交差鎖水素結合を可能にする立体配座を容易に採り得ることを示唆していた。事実、Argは、チミンのO4および中間シトシンと塩基対合したグアニンのO6の両方と良好な結合構造で結合し得る。かかる相互作用は、標的配列が5'−ACN−3'であるときArgがほぼ異議なく選択されたという事実と一致する。アルギニンが多重相互作用を促進するという予想は避けられない。TFIIIAにおける幾つかのリシンは、立体配座的に可変性であることがNMRにより観察されており[Foster et al.,(1997)Nat.Struct.Biol.4(8)、605−608]、Gln−1は可変性を示唆する方法で行動する[Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol. 303、489−502]。アルギニンは、リシンまたはグルタミンよりも回転可能な結合および高い水素結合ポテンシャルを有し、Argが5'グアニンの認識に限定されないという予測は興味を引くものである。
【0037】
−1および3位のアミノ酸残基は、2つの例外があるにせよそれらの5'−GNN−3'対応物質と類似した形で一般的に選択された。His−1はpAGTおよびpATTについて選択され、3'チミンを認識し(図3k、3nおよび3y)、Ser−1はpACAについて選択され、3'アデニンを認識した(図3eおよび3t)。Gln−1は5'GNN−3'型のサブサイトにおける3'アデニンを特定化するのに使用されることが多く、3'アデニン認識の新たな構成要素は、3'アデニンと水素結合を形成し得る5'−ACA−3'サブサイトを認識するドメイン(図2)について選択されるSer−1を含むことがこの試験から示唆された。コンピューターモデリングは、ヘリックスSP−D−LTR(配列番号50)(図3e)で共に選択されたAlaが、潜在的に3'アデニンと塩基対合したチミンのメチル基とのファンデルワールス接触をもち得ることを立証している。Alaが含まれ得るということの最善の証拠は、ヘリックスSP−D−LTR(配列番号50)(図3e)が3'アデニンに強い特異性を示し、SH−D−LVR(配列番号65)(図3t)は示さないことである。Gln−1は3'アデニン認識に充分であることが多い。しかしながら、我々の以前の試験から得たデータは、Gln−1の側鎖が、例えば3'チミンの認識を可能にする多重立体配座を採り得ることを示唆していた[Nardelli et al.,(1992)Nucleic Acids Res. 20(16)、4137−44;Elrod-Erickson et al.,(1998)Structure 6(4)、451−464;Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol. 303、489−502]。Ser−1と組合わせたAlaは、3'アデニンを特定化する代替的手段であり得る。
【0038】
5'−GNN−3'試験では観察されない別の相互作用は、His−1および2位の残基による3'チミンの協同的認識である。トラムトラック/DNA複合体の結晶構造のフィンガー1では、ヘリックスIS−N−FCR(配列番号99)は、サブサイト5'−GAT−3'に結合する[Fairall et al.,(1993)Nature(London)366(6454)、483−7]。His−1環は、3'チミン塩基の面と垂直であり、メチル基から約4オングストロームである。Serはさらに3'チミンのO4と水素結合をなす。類似した一連の接触は、ヘリックスHKN−A−LQN(配列番号100)(図3n)による5'−ATT−3'の認識についてのコンピューターモデリングにより予見され得る。このヘリックスにおけるAsnは、3'チミンとだけでなく、チミンと塩基対合したアデニンとも水素結合する可能性を有する。His−1はまた、Thrと組合わせて5'−AGT−3'(RT−T−LLN(配列番号98);図3k)と結合するヘリックスについても見出された。ThrはSerと構造的に類似しており、類似した認識機構に関与し得る。
【0039】
結論として、5'−ANN−3' DNAサブサイトと結合するこの試験で報告された亜鉛フィンガードメインの特性確認の結果は、普遍的認識コードは存在しないという全般的見解と一致しており、そのため追加ドメインの合理的設計が困難となっている。しかしながら、ファージディスプレイ選択が適用され得、予め特定された亜鉛フィンガードメインは人工的転写因子を構築するためのモジュールとしての役割を果たし得る。ここで特性確認されたドメインは、5'−(GNN)−3'以外のDNA配列のターゲッティングを可能にする。G/C濃厚配列は細胞タンパク質についての結合部位を含むことが多く、5'(GNN)−3'配列は必ずしも全プロモーターからは見出され得ないため、これは既存ドメインへの重要な補足である。
【0040】
II.ポリヌクレオチド、発現ベクターおよび形質転換細胞
本発明は、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列を包含する。本発明の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドをコード化するDNA配列は、天然、切頭化および拡張されたポリペプチドを含め、幾つかの方法により入手され得る。例えば、DNAは、当業界で公知のハイブリダイゼーション手順を用いて単離され得る。これらには、(1)共有ヌクレオチド配列を検出するためのゲノムまたはcDNAライブラリーとプローブのハイブリダイゼーション、(2)共有的構造的特徴を検出するための発現ライブラリーの抗体スクリーニング、および(3)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による合成があるが、限定されるわけではない。本発明のRNA配列は、当業界で公知の方法により入手され得る(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel,et al.編(1989)参照)。
【0041】
本発明の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドをコード化する特異的DNAの開発は、(1)ゲノムDNAからの二本鎖DNA配列の単離、(2)DNA配列の化学的製造による、興味の対象であるポリペプチドに必要なコドンの提供、および(3)真核生物ドナー細胞から単離されたmRNAの逆転写による二本鎖DNA配列のインビトロ合成により達成され得る。後者の場合、結局はmRNAの二本鎖DNA相補体が形成され、これは一般にcDNAと称される。組換え技法で使用するための特異的DNA配列を開発するこれら3方法のうち、ゲノムDNAの単離が最も稀である。イントロンの存在故に哺乳類ポリペプチドの微生物発現の達成が望まれる場合、これは特に当てはまる。
【0042】
亜鉛フィンガー誘導DNA結合ポリペプチドを得るには、所望のポリペプチド生成物のアミノ酸残基の全配列が既知である場合、DNA配列の合成は、選抜きの方法であることが多い。所望のポリペプチドのアミノ酸残基の全配列が既知ではないとき、DNA配列の直接合成は不可能であり、選抜きの方法はcDNA配列の形成である。興味の対象であるcDNA配列を単離する標準的手順には、高レベルの遺伝子発現を呈するドナー細胞で豊富にあるmRNAの逆転写から誘導されるプラスミド担持cDNAライブラリーの形成がある。ポリメラーゼ連鎖反応技術と組合わせて使用するとき、稀な発現産物でもクローンであり得る。ポリペプチドのアミノ酸配列のかなりの部分が既知である場合、標的cDNAに存在すると推定される配列を複製する標識一本または二本鎖DNAまたはRNAプローブ配列の製造は、一本鎖形態へ変性されたcDNAのクローン化コピーで実施されるDNA/DNAハイブリダイゼーション手順で使用され得る(Jay et al.,Nucleic Acid Research 11:2325、1983)。
【0043】
この発明のポリペプチドは、1個またはそれ以上の機能的ペプチドに機能し得るように結合され得る。上記機能的ペプチドは当業界では公知であり、転写調節因子、例えばリプレッサーまたは活性化ドメインまたは他の機能を有するペプチドであり得る。具体例としての好ましい上記機能的ペプチドは、ヌクレアーゼ、メチラーゼ、核局在化ドメイン、および制限酵素、例えばエンド‐またはエクトヌクレアーゼである(例えば、ChandrasegaranおよびSmith、Biol.Chem.,380:841−848(1999)参照)。
【0044】
具体例としての抑制(リプレッション)ドメインペプチドは、ets2リプレッサー因子(ERF)のアミノ酸473〜530により特定された、ERFリプレッサードメイン(ERD)(Sgouras,D.N.,Athanasiou,M.A.,Beal,G.J.,Jr.,Fisher,R.J.,Blair,D.G.および Mavrothalassitis,G.J.(1995)EMBO J.14、4781−4793)である。このドメインは、etsファミリーの転写因子の活性に対するERFの拮抗作用を伝達する。合成リプレッサーは、亜鉛フィンガータンパク質のN−またはC−末端へのこのドメインの融合により構築される。第2リプレッサータンパク質は、クルッペル関連ボックス(KRAB)ドメインを用いて製造される(Margolin,J.F.,Friedman,J.R.,Meyer,W.,K.-H.,Vissing,H.,Thiesen,H.-J.および Rauscher III,F.J.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、4509−4513)。このリプレッサードメインは、一般に亜鉛フィンガータンパク質のN−末端で見出され、RINGフィンガータンパク質KAP−1(Friedman,J.R.,Fredericks,W.J.,Jensen,D.E.,Speicher,D.W.,Huang,X.-P.,Neilson,E.G. & Rauscher III,F.J.(1996)Genes & Dev.10、2067−2078)との相互作用により、距離‐および配向‐非依存的方法でTATA依存的転写に対しその抑制活性を発揮すると思われる(Pengue,G. & Lania,L.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93、1015−1020)。我々は、亜鉛フィンガータンパク質KOX1(Margolin,J.F.,Friedman,J.R.,Meyer,W.,K.-H.,Vissing,H.,Thiesen,H.-J.および Rauscher III,F.J.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、4509−4513)のアミノ酸1および97間に見出されるKRABドメインを使用した。この場合、亜鉛フィンガーポリペプチドとのN−末端融合を構築する。最後に、抑制についてのヒストン脱アセチル化の有用性を調査するため、Mad mSIN3相互作用ドメイン(SID)のアミノ酸1〜36を、亜鉛フィンガータンパク質のN−末端に融合させる(Ayer,D.E.,Laherty,C.D.,Lawrence,Q.A.,Armstrong,A.P. & Eisenman,R.N.(1996)Mol.Cell.Biol.16、5772−5781)。この小ドメインは、転写因子MadのN−末端で見出され、mSIN3との相互作用によるその転写抑制の伝達に関与し、これは次に共リプレッサーN−CoRおよびヒストンデアセチラーゼmRPD1と相互作用する(Heinzel,T.,Lavinsky,R.M.,Mullen,T.-M.,Ssderstrsm,M.,Laherty,C.D.,Torchia,J.,Yang,W.-M.,Brard,G.,Ngo,S.D. & al.,e.(1997)Nature 387、43−46)。遺伝子特異的活性化を調べるため、単純ヘルペスウイルスVP16タンパク質(Sadowski,I.,Ma,J.,Triezenberg,S. & Ptashne,M.(1988)Nature 335、563−564)のアミノ酸413〜489、またはVP64と称される、VP16の最小活性化ドメイン(Seipel,K.,Georgiev,O. & Schaffner,W.(1992)EMBO J.11、4961−4968)の人工的四量体反復配列に亜鉛フィンガーポリペプチドを融合することにより、転写アクチベーターを生成する。
【0045】
III.医薬組成物
別の態様において、本発明は、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドの治療有効量または亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドをコード化するヌクレオチド配列の治療有効量を医薬上許容される担体と組合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0046】
本明細書で使用されている「医薬上許容される」、「生理学的に許容される」の語およびそれらの文法的変形は、それらを組成物、担体、希釈剤および試薬についていう場合、互換的に使用され、組成物の投与を禁じる程度である望ましくない生理学的作用、例えば悪心、めまい、胃の不調などを生じること無くそれらの物質がヒトに投与できることを表す。
【0047】
有効成分を溶解または分散した状態で含む薬理学的組成物の製造は当業界では充分に理解されている。典型的には、上記組成物は、滅菌注射可能物質として液体溶液または懸濁液として製造されるが、しかしながら、使用前に液体中で溶液または懸濁液とするのに適切な水性または非水性固体形態も製造され得る。調製物はまた乳化され得る。
【0048】
有効成分は、医薬上許容され、有効成分と適合し得る賦形剤と本明細書記載の治療方法での使用に適切な量で混合され得る。適切な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノールなどおよびそれらの組み合わせである。さらに、所望ならば、組成物は、有効成分の有効性を高めるごく少量の補助物質、例えば湿潤または乳化剤、並びにpH緩衝剤などを含み得る。
【0049】
本発明の治療用医薬組成物は、その中にある成分の医薬上許容される塩類を含み得る。医薬上許容される塩類は、無機酸、例えば塩酸またはリン酸、または有機酸、例えば酢酸、酒石酸、マンデル酸などにより形成される酸付加塩類(ポリペプチドの遊離アミノ基により形成される)を包含する。遊離カルボキシル基により形成される塩類はまた、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは鉄水酸化物、および有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導され得る。
【0050】
生理学的に許容される担体は当業界では公知である。液体担体の例としては、有効成分および水以外の物質を含まないか、または緩衝液、例えば生理学的pH値のリン酸ナトリウム、生理食塩水またはその両方、例えばリン酸緩衝食塩水を含む滅菌水溶液がある。さらになお、水性担体は、複数の緩衝塩、並びに塩類、例えば塩化ナトリウムおよびカリウム、デキストロース、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含み得る。液体組成物はまた、水に加えておよび水を除いて液相を含み得る。上記の追加的液相の例には、グリセリン、植物油、例えば綿実油、有機エステル類、例えばエチルオレエート、および水‐油エマルジョンがある。
【0051】
IV.用途
一態様において、本発明方法は、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合モチーフを含むヌクレオチド配列の発現を変調(阻害または抑制)する方法であって、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合モチーフを、モチーフに結合する亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドの有効量と接触させる工程を含む方法を包含する。ヌクレオチド配列がプロモーターである場合、この方法では、亜鉛フィンガー‐DNA結合モチーフを含むプロモーターの転写活性化(トランスアクチベーション)を阻害する。「阻害する」の語は、例えば、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合モチーフを含む、プロモーターへ機能し得るように結合された構造遺伝子の転写活性化レベルの抑制をいう。さらに、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチド誘導体は、構造遺伝子内またはRNA配列内のモチーフと結合し得る。
【0052】
「有効量」の語は、以前に活性化されたプロモーターの非活性化をもたらす量または亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合モチーフを含むプロモーターの不活化をまねく量、または構造遺伝子の転写またはRNAの翻訳を遮断する量を包含する。必要とされる亜鉛フィンガー誘導ヌクレオチド結合ポリペプチドの量は、既存のタンパク質/プロモーター複合体における天然亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質を置換するのに必要な量、または天然亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質と競合してプロモーター自体との複合体を形成するのに必要な量である。同様に、構造遺伝子またはRNAを遮断するのに必要とされる量は、それぞれ、RNAポリメラーゼに結合し、遺伝子での読み過ごしからそれを遮断する量または翻訳を阻害する量である。好ましくは、この方法は細胞内で遂行される。プロモーターまたは構造遺伝子を機能的に不活化することにより、転写または翻訳が抑制される。亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合タンパク質モチーフを含む細胞ヌクレオチド配列と結合するかまたは「接触する」ための阻害タンパク質の有効量の送達は、本明細書記載の機構の一つ、例えばレトロウイルスベクターまたはリポソーム、または当業界で公知の他の方法により達成され得る。
【0053】
「変調する」の語は、機能の抑制、促進または誘導をいう。例えば、本発明の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドは、プロモーター内のモチーフへ結合することによりプロモーター配列を変調し、それによってプロモーターヌクレオチド配列に機能し得るように結合された遺伝子の転写を促進または抑制し得る。別法として、変調は遺伝子の転写の阻害を包含し得、その場合、亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ポリペプチドが構造遺伝子に結合し、DNA依存的RNAポリメラーゼが遺伝子を読み過ごしするのを遮断することにより、遺伝子の転写が阻害される。構造遺伝子は、正常な細胞性遺伝子または例えば癌遺伝子であり得る。別法として、変調は、転写物の翻訳の阻害を含み得る。
【0054】
遺伝子のプロモーター領域は、典型的には構造遺伝子に対し5'に存する調節エレメントを包含する。遺伝子を活性化すべき場合、転写因子として知られているタンパク質は、遺伝子のプロモーター領域に結合する。この組合わせは、酵素にDNAからRNAへと第2遺伝子セグメントを転写させ得ることによる「オンスイッチ」と似ている。たいていの場合、生成したRNA分子は、特異的タンパク質合成用の鋳型としての役割を果たし、RNA自体が最終生成物となる場合もある。
【0055】
プロモーター領域は、正常な細胞性プロモーターまたは例えばオンコ‐プロモーターであり得る。オンコ‐プロモーターは、一般的にウイルス由来のプロモーターである。例えば、レトロウイルスの長末端反復(LTR)は、本発明の亜鉛フィンガー結合ポリペプチド変異型についての標的であり得るプロモーター領域である。例えばヒトT細胞向性ウイルス(HTLV)1および2、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)1または2といった病原体を含む、レトロウイルス群のメンバーからのプロモーターは、本発明の亜鉛フィンガー結合ポリペプチドにより転写変調についてターゲッティングされ得るウイルスプロモーター領域の例である。
【0056】
5'−ANN−3'DNA配列に特異的に結合する本明細書記載のドメインが上記人工的転写因子の構築に適切であるか否かを調べるため、様々な数の5'−ANN−3'ドメインを含む4種のの6−フィンガータンパク質を組立てた。6−フィンガータンパク質の各々について、Sp1Cフレームワークを用いるPCRオーバーラップ拡張により2種の3フィンガーコーディング領域を生成した[Beerli et al.,(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(25)、14628−14633]。次いで、これらの3−フィンガータンパク質を融合することにより、制限部位を介して6−フィンガータンパク質を作製し(図4a)、DNA結合特異性および親和力を分析するため細菌性発現ベクターpMalへクローン化した。第一に、完全に5'−GNN−3'トリプレットを含まない、不定の18bp標的部位5'−ATG−TAG−AGA−AAA−ACC−AGG−3'を認識するよう設計された、6−フィンガータンパク質pAartを構築した。第二に、5'−GNN−3'および5'−ANN−3'ドメインの両方を含む3種の6−フィンガータンパク質を構築した。以前我々が、内在性遺伝子の調節は、5'−(GNN)−3' DNA配列に結合している、6−フィンガータンパク質pE2CまたはpE3によりそれぞれ特異的に達成されることを示したerbB−2およびerbB−3遺伝子の充分に特性確認されたモデル[Beerli et al.,(2000)Proc Natl Acad Sci USA 97(4)、1495−1500;Beerli et al.,(2000)J.Biol.Chem.275(42)、32617−32627]を試験用に選択した。
【0057】
erbB−2遺伝子の5'非翻訳領域(UTR)の−168〜−151位にある標的部位5'−CC GGA GAA CC GG GGA−3'(配列番号101)に結合する6−フィンガータンパク質pE2Xを構築した(図4a)。さらに、erbB−3遺伝子の5'UTRで結合している2種のタンパク質を生成した。タンパク質pE3Yは、5'UTRの−94〜−111位にある標的部位5'−TC GAG GCA GA GCC CC−3'(配列番号102)に結合し、−79〜−61位にあるpE3Zは5'−GCC GCA GCA GCC CC AT−3'(配列番号103)を認識する(図4a)。次いで、4種の6−フィンガータンパク質についてのコーディング配列を、細菌性発現ベクターpMalにクローン化した。亜鉛フィンガー‐MBP融合タンパク質を含む粗抽出物を、ELISAにおけるDNA結合について試験した(図4b)。4種のタンパク質は全て、それらの標的DNAへの鋭敏な結合特異性を示し、試験した他の標的部位との交差反応性は伴わなかった。精製タンパク質によるゲル移動度変位検定法で親和力を測定した。タンパク質Aartは、7.5pMの親和力でそのDNA標的部位と結合し、pE2Xは15nMの親和力で、pE3Yは同8nMおよびpE3Zは同2nMで結合しており、これは、我々がこれまでに分析されたほとんどの6−フィンガータンパク質について観察した親和力の範囲に含まれる。
【0058】
特異的遺伝子調節についての潜在性を評価するため、Aartについてのタンパク質コーディング配列を、ベクターpcDNAへクローン化し、VP64活性化ドメイン、すなわち単純ヘルペスウイルスタンパク質VP16[Seipel et al.,(1992)EMBO J.11(13)、4961−4968;Beerli et al.,(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(25)、14628−14633]から誘導された最小活性化ドメインの四量体反復に融合した。ヒーラ細胞を、亜鉛フィンガータンパク質についてのみまたはVP64ドメインとの融合体としてコーディングするエフェクター構築物、およびルシフェラーゼリポータープラスミドにより亜鉛フィンガー結合部位およびTATAボックスを含む最小プロモーターの制御下一時的に共トランスフェクションした。Aart結合部位は5コピーに存在し、対照として使用されるプロモーターは6個の2C7結合部位を含んでいた。ルシフェラーゼの発現を、活性化ドメイン不含有の対照と比べてpAart−VP64融合タンパク質により2000倍アップレギュレーションした(図5a)。6×2C7結合部位を含むリポーターの調節は全く観察されなかったため、活性化は特異的であった(図5b)。特異性についての追加対照として、6−フィンガータンパク質p2C7[Wu et al.,(1995)PNAS 92、344−348]についても試験したところ、プロモーターが6×2C7結合部位を含むとき(図5b)のみルシフェラーゼ発現を活性化したが、プロモーターが5×Aart結合を含むとき(図5a)にはしなかった。VP64に融合されたpAartの各半部位の3−フィンガータンパク質は、ルシフェラーゼ発現を活性化し得ず、これは以前の結果と一致している[Beerli et al.,(2000)Proc Natl Acad Sci USA 97(4)、1495−1500;Beerli et al.,(2000)J.Biol.Chem.275(42)、32617−32627]。
【0059】
6−フィンガータンパク質pE2X、pE3YおよびpE3Zが内在性erbB−2およびerbB−3遺伝子をそれぞれ転写調節し得ることを調べるため、コーディング配列をレトロウイルスベクターpMX−IRES−GFPへサブクローニングし、Kox−1のVP64活性化またはKRAB抑制ドメインへ融合した[Margolin et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91、4509−4513; Beerli et al.,(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(25)、14628−14633]。レトロウイルスを用いて、ヒト癌セルラインA431を感染させた。感染の3日後、細胞をフローサイトメトリーにかけて、ErbB−2およびErbB−3の発現レベルを分析した(図6)。GFP発現の測定により、感染効率を測定した。全細胞プールは、pE2X−VP64以外、80%を越える割合で感染していた。ErbB−2およびErbB−3の発現レベルを測定するため、細胞を特異抗体またはErbB−1に特異的な対照抗体で染色した。融合タンパク質pE2X−VP64は、ErbB−2発現をアップレギュレーションし得たが、細胞の50%に過ぎず、このことは低い感染効率に起因すると思われる。pE3Yは、VP64またはKRABにそれぞれ融合されたとき、特異的なアップ‐およびダウン‐レギュレーションを示したことから、以前に報告したpE3と同様に有効であった。pE3Zは3種の生成されたタンパク質のうち最高の親和力を有しているが、pE3Z融合タンパク質はerbB−3の遺伝子発現を改変しなかった。5'−ANN−3' DNA配列を特異的に認識する本明細書記載の亜鉛フィンガードメインは、現時点で構築され得る6−フィンガータンパク質および亜鉛フィンガーに基く転写因子によりターゲッティングされ得るDNA配列の数に大きく寄与する。
【実施例】
【0060】
実施例1:亜鉛フィンガーライブラリーの構築およびファージディスプレイによる選択
亜鉛フィンガーライブラリーの構築は、先に記載したC7タンパク質に基くものであった([Wu et al.,(1995)PNAS 92、344−348];図1)。5'−GCG−3'サブサイトを認識するフィンガー3を、フィンガー3をコーディングするプライマー(5'−GAGGAAGTTTGCCACCAGTGGCAACCTGGTGAGGCATACCAAAATC−3')(配列番号104)およびpMal特異的プライマー(5'−GTAAAACGACGGCCAGTGCCAAGC−3')(配列番号105)を用いるオーバーラップPCR戦略を用いて5'−GAT−3'サブサイト[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]に結合するドメインにより置換した。PCRオーバーラップ拡張による亜鉛フィンガーライブラリーのランダム化は、本質的には報告された通りであった[Wu et al.,(1995)PNAS 92、344−348; Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]。ライブラリーをファージミドベクターpComb3H[Rader et al.,(1997)Curr.Opin.Biotechnol.8(4)、503−508]へライゲーションした。以前に報告された要領[Barbas et al.,(1991)Methods:Companion Methods Enzymol.2(2)、119−124;Barbas et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88、7978−7982; Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]でファージの増殖および沈澱を行った。体積500μlの亜鉛緩衝液A(ZBA:10mMのトリス、pH7.5/90mMのKCl/1mMのMgCl/90μMのZnCl)/0.2%BSA/5mMのDTT/1%ブロット(バイオラッド)/100μl沈澱ファージ(1013コロニー形成単位)含有二本鎖せん断ニシン精液DNA20μg中で結合反応を行わせた。ファージを、4℃で1時間非ビオチニル化競合体オリゴヌクレオチドに結合させた後、ビオチニル化標的オリゴヌクレオチドを加えた。結合は4℃で一晩続いた。1時間50μlのストレプトアビジンコーティング磁気ビーズ(ダイナル;ZBA中5%のブロットにより遮断)とのインキュベーション後、ビーズを500μlのZBA/2%トウィーン20/5mMのDTTで10回、およびトウィーン不含有の緩衝液で1回洗浄した。結合ファージの溶離は、室温で30分間TBS(トリス緩衝食塩水)中25μlトリプシン(10μg/ml)でのインキュベーションにより行った。ヘアピン競合体オリゴヌクレオチドは、配列5'−GGCCGCN'N'N'ATC GAGTTTTCTCGATNNNGCGGCC−3'(配列番号106)(ただし、NNNはフィンガー‐2サブサイトオリゴヌクレオチドを表し、N'N'N'はその相補塩基を表す)(標的オリゴヌクレオチドはビオチニル化されていた)を有していた。標的オリゴヌクレオチドを、通常、最初の3ラウンドの選択では72nMで、次いで第6および最終ラウンドでは36nMおよび18nMに減らして加えた。競合体として5'−TGG−3'フィンガー‐2サブサイトオリゴヌクレオチドを用いることにより、親クローンと競合させた。標的部位を除く、15のフィンガー‐2,5'−ANN−3'サブサイトの当モル混合物、および5'−CNN−3'、5'−GNN−3'、および5'−TNN−3'型の各フィンガー‐2サブサイトの競合体混合物を、各連続的選択ラウンドで量を増加させながら加えた。通常、特異的5'−ANN−3'競合体混合物を第1ラウンドでは加えなかった。
【0061】
多重標的特異性検定法およびゲル移動度変位分析−亜鉛フィンガーコーディング配列を、pComb3Hから修飾細菌性発現ベクターpMal−c2(ニューイングランド・バイオラブズ)へサブクローニングした。XL1−Blue(ストラタジーン)へ形質転換後、1nMのイソプロピルβ‐D−チオガラクトシド(IPTG)を加えた後、亜鉛フィンガー‐マルトース‐結合タンパク質(MBP)融合体を発現させた。これらの細菌培養物の凍結/解凍抽出物を、ストレプトアビジンでコーティングした96ウェルプレート(ピアス)へ1:2希釈率で適用し、それぞれ16の5'−GAT ANN−GCG−3'標的部位の各々に対するDNA結合特異性について試験した。本質的には報告された要領[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763;Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol.303、489−502]でELISA(固相酵素結合免疫測定法)を行った。マウス抗MBP(マルトース結合タンパク質)抗体(シグマ、1:1000)とインキュベーション後、アルカリ性ホスファターゼ(シグマ、1:1000)とカップリングしたヤギ抗マウス抗体を適用した。検出後、アルカリ性ホスファターゼ基質(シグマ)を加え、OD405をSOFTMAX2.35(モレキュラー・ディバイシーズ)で測定した。
【0062】
本質的には報告された要領で精製タンパク質(タンパク質融合および精製システム、ニューイングランド・バイオラブズ)によりゲル変位分析を行った。
【0063】
実施例2:フィンガー2の位置指定突然変異導入
報告された要領[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763; Dreier et al.,(2000)J.Mol.Biol.303、489−502]でフィンガー‐2突然変異体をPCRにより構築した。PCR鋳型として、5'−TGG−3'フィンガー2および5'−GAT−3'フィンガー3を含むライブラリークローンを使用した。突然変異フィンガー2および5'−GAT−3'フィンガー3を含むPCR産物を、C7のフィンガー1との枠におけるNsiIおよびSpeI制限部位を介して修飾pMal−c2ベクター(ニューイングランド・バイオラブズ)へサブクローニングした。
【0064】
ポリダクチル亜鉛フィンガータンパク質の構築−報告された要領[Beerli et al.,(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(25)、14628−14633]で、SP1Cフレームワークを用いるフィンガー‐2縫取り法により、3‐フィンガータンパク質を構築した。この工程で生成されたタンパク質は、5'−GNN−3' DNA配列を認識するヘリックス[Segal et al.,(1999)Proc Natl Acad Sci USA96(6)、2758−2763]、並びに本明細書記載の5'−ANN−3'および5'−TAG−3'ヘリックスを含んでいた。適合し得るXmaIおよびBsrFI制限部位を介して、6種のフィンガータンパク質を組立てた。DNA結合特性の分析を、IPTG誘導凍結/解凍細菌抽出物から遂行した。これらのタンパク質の遺伝子発現調節能力を分析するため、先に報告された要領([Beerli et al.,(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95(25)、14628−14633;Beerli et al.,(2000)Proc Natl Acad Sci USA 97(4)、1495−1500;Beerli et al.,(2000)J.Biol.Chem.275(42)、32617−32627];VP64:単純ヘルペスウイルスのVP16最小活性化ドメインの四量体反復)でそれらをKox−1の活性化ドメインVP64または抑制ドメインKRABに融合し、pcDNA3またはレトロウイルスpMX−IRES−GFPベクター([Liu et al.,(1997) Proc Natl Acad Sci USA 94、10669−10674];IRES、内部リボソーム‐エントリー部位;GFP、緑色蛍光タンパク質)へサブクローニングした。
【0065】
実施例3:一般的方法
トランスフェクションおよびルシフェラーゼ検定法
ヒーラ細胞を、培養飽和密度の40〜60%で使用した。細胞を、24ウェルプレートにおいて160ngのリポータープラスミド(pGL3−プロモーター構築物)および40ngのエフェクタープラスミド(pcDNA3における亜鉛フィンガー‐エフェクタードメイン融合体)によりトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後に細胞抽出物を調製し、MicroLumat LB96Pルミノメーター(EG & バーソルド、ガイザーズバーグ、メリーランド)においてルシフェラーゼ検定試薬(プロメガ)により測定した。
【0066】
レトロウイルス遺伝子ターゲッティングおよびフローサイトメトリー分析
報告された要領[Beerli et al.,(2000)Proc Natl Acad Sci USA 97(4)、1495−1500;Beerli et al.,(2000)J.Biol.Chem.275(42)、32617−32627]でこれらの検定法を遂行した。一次抗体として、ErbB−1特異的mAb EGFR(サンタクルス)、ErbB−2特異的mAb FSP77(Nancy E.Hynesから寄贈;Harwewrth et al.,1992)およびErbB−3特異的mAb SGP1(オンコジーン・リサーチ・プロダクツ)を使用した。蛍光標識ロバF(ab')2抗マウスIgGを二次抗体として使用した(ジャクソン・イムノ‐リサーチ)。
【0067】
コンピューターモデリング
インサイトII(モレキュラー・シミュレーションズ、インコーポレイテッド)を用いてコンピューターモデルを作成した。モデルは、Zif268−DNA(PDB受託1AAY)およびQGSR−GCAC(配列番号107)(1A1H)の共結晶構造の座標に基いていた。これらの構造は、エネルギー最小限化されておらず、提示されてはいても可能な相互作用を示唆しているに過ぎない。重原子間の距離が3(+/−0.3)オングストロームであり、重原子および水素により形成される角度が1200またはそれより大きいとき、水素結合は信頼できそうであるとみなされた。信頼できそうであるファンデルワールス相互作用は、4(+/−0.3)オングストロームのメチル基炭素原子間の距離を必要とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜12個の亜鉛フィンガー‐ヌクレオチド結合ペプチドを含むポリペプチドであって、ペプチドの少なくとも1個が配列番号7〜70および107〜112のいずれかの配列を有するヌクレオチド結合領域を含むポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−159279(P2010−159279A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48162(P2010−48162)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【分割の表示】特願2009−4822(P2009−4822)の分割
【原出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【出願人】(593052785)ザ スクリップス リサーチ インスティテュート (91)
【Fターム(参考)】