説明

ネガティブスプリング式緊急ブレーキ

【課題】空気圧による作動遅れを解消し簡素な構造の強力なネガティブスプリングによりカムシャフトの作動方向への直接的かつ円滑で迅速な緊急ブレーキ動作を可能にする。
【解決手段】空圧室9へのエアー圧供給によりカムシャフト11に形成したウェッジカム10のカム作用によりブレーキ動作を行い、エアーシリンダ2に対して軸方向の他端側に対向して補助ピストン17を収容した補助シリンダ3を配置し、該補助シリンダに緊急停止指令信号を受けた際に補助ピストンを介して前記カムシャフトをブレーキ動作方向に移動させるネガティブスプリング22を配設したことで、後付けでネガティブスプリングを配設した補助シリンダを対向配置して、簡素な構造にて空気圧による作動遅れを解消して、強力なネガティブスプリングのばね力がカムシャフトの作動方向に直接的かつ円滑に作用し、迅速で効率的な緊急ブレーキ動作を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーシリンダの空圧室への空気の供給に伴うウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動によって前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動させてブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキのネガティブスプリング式緊急ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキを搭載する車両、特に鉄道車両用のディスクブレーキでは、一対のブレーキアームの基端部を拡開してそれらの開放端部に設けられたパッドアッセンブリをブレーキロータ(ディスクロータ)の両側から挟圧してブレーキ動作を行う梃子式のキャリパブレーキが知られている。例えば下記特許文献1により提案されたブレーキシリンダに記載された梃子式のキャリパブレーキがある。図示は省略するが、この梃子式のキャリパブレーキにおいて、ブレーキアームの基端部を拡開するために、これらブレーキアームの基端部間に、軸方向に相対移動するシリンダ本体とピストンが配設され、圧力室内への空気圧供給によって、ピストンを軸動させてブレーキアームを拡開・揺動させてブレーキ動作を行うように構成されている。
【0003】
しかしながら、このような鉄道用エア−ディスクブレーキでは、圧縮空気が作動源であることから、ブレーキ動作の初動においてブレーキの作用力が立ち上がるまでに要する時間が長くなるため、ブレーキ作動信号を受けてからブレーキ力が作用するまでの時間(空走時間)が長くなってしまう問題が生じ、停止するまでの制動距離が延びてしまう課題があった。そのようなことから、下記特許文献2に開示された車両の二重事故防止装置のように、加速度を検知して火薬を爆発させることで、後続車による追突時の前方への車両に対する二重事故を防止するために緊急パーキングブレーキを動作させるように構成したものも提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−164159号公報(公報要約書参照)
【特許文献2】特開平9−175353号公報(公報要約書参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献2に開示された車両の二重事故防止装置は、必ずしもエアー圧により作動するものではないが、図4に示すように、自動車が停止中等に追突されたとき、パーキングブレーキが自動的に掛かるようにして、前方の車両に対する二重事故の発生を防止することを目的として、ブレーキケーブル108に連係したパーキングレバー101を引くことによりパーキングブレーキが作動するように構成された車両において、車両が追突されたときに、その加速度をGセンサ126にて検出し、Gセンサ126の出力信号で火薬122を爆発させ、その容量拡大で動作するシリンダ119内のピストン120で、ピストンロッド124、リンク118およびアーム116を介してパーキングレバー101を引く方向に移動させる(2点鎖線101’)ように構成したものである。
【0006】
このように構成したことによって、緊急を要する場合にブレーキ動作に作動遅れをなくすことが可能となったものの、Gセンサ126の出力信号で火薬122を爆発させてブレーキ動作を行わしめるのは、複雑な中間部材を介在させて構成されたものである。すなわち、火薬122が設置されるのは、パーキングブレーキにおけるブレーキレバー101の基部103に端部が軸支されたアーム116の端部に、さらにリンク118等を介して設置されたシリンダ119の内部であり、火薬122の爆発力が直接にブレーキケーブル108には伝達されないので、火薬122の爆発力の分散や時間的遅れが発生したり、介在部品が多くて故障の機会も多くなるのは避けられないものであった。
【0007】
そこで本発明では、前記従来の空気圧を作動源としてブレーキ動作を行う特にウェッジカム式ブレーキの緊急ブレーキにおける諸課題を解決して、簡素な構造にて空気圧による作動遅れを解消して、強力なネガティブスプリングによるカムシャフトの作動方向への直接的かつ円滑な作用による迅速な緊急ブレーキ動作を可能にしたネガティブスプリング式緊急ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明は、エアーシリンダの空圧室への空気の供給に伴うウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動によって前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動させてブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキにおいて、前記エアーシリンダに対して軸方向の他端側に対向して補助ピストンを収容した補助シリンダを配置するとともに、該補助シリンダに緊急停止指令信号を受けた際に補助ピストンを介して前記カムシャフトをブレーキ動作方向に移動させるネガティブスプリングを配設したことを特徴とする。また本発明は、前記補助シリンダに収容した補助ピストンに対して前記ネガティブスプリングと対向させて補助空圧室を配置するとともに、該補助空圧室に大気開放バルブと加圧ブレーキ開放用バルブを臨設し、通常サービスブレーキ動作時に加圧ブレーキ開放用バルブを介して補助空圧室に供給されたエアーにより圧縮されたネガティブスプリングを、緊急停止指令信号を受けた際に前記大気開放バルブによる補助空圧室のエアー開放により前記ネガティブスプリングを動作させることを特徴とする。また本発明は、前記緊急停止指令信号を受けた際の大気開放バルブの動作後に、前記加圧ブレーキ開放用バルブの加圧制御を加圧時間が漸減するパルス制御としたことを特徴とする。また本発明は、前記カムシャフトの先端部と補助ピストンとの間に、補助シリンダにおけるネガティブスプリングの動作時にのみ、前記カムシャフトがブレーキ動作方向に連動・牽引される連動部を形成したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、請求項1の構成要件である、エアーシリンダの空圧室への空気の供給に伴うウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動によって前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動させてブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキにおいて、前記エアーシリンダに対して軸方向の他端側に対向して補助ピストンを収容した補助シリンダを配置するとともに、該補助シリンダに緊急停止指令信号を受けた際に補助ピストンを介して前記カムシャフトをブレーキ動作方向に移動させるネガティブスプリングを配設したことにより、サービスブレーキ側の構造改変を伴うことなく、エアーシリンダに対して軸方向の他端側に、後付けでネガティブスプリングを配設した補助シリンダを対向配置して、簡素な構造にて空気圧による作動遅れを解消して、強力なネガティブスプリングのばね力がカムシャフトの作動方向に直接的かつ円滑に作用し、迅速で効率的な緊急ブレーキ動作を可能にするので、従来のもののような複雑な部品を介在させたことによる効率ロスや損傷の機会も少なく、ブレーキ力の発生を瞬時に行えて空走時間も殆どなく、安全性の向上が図れる。
【0010】
また、請求項2の構成要件である、前記補助シリンダに収容した補助ピストンに対して前記ネガティブスプリングと対向させて補助空圧室を配置するとともに、該補助空圧室に大気開放バルブと加圧ブレーキ開放用バルブを臨設し、通常サービスブレーキ動作時に加圧ブレーキ開放用バルブを介して補助空圧室に供給されたエアーにより圧縮されたネガティブスプリングを、緊急停止指令信号を受けた際に前記大気開放バルブによる補助空圧室のエアー開放により前記ネガティブスプリングを動作させる場合は、強力な圧縮型のネガティブスプリングを補助シリンダ側に配置して、通常のサービスブレーキモードでは、加圧エアーを補助空圧室に供給してネガティブスプリングを圧縮しておくとともに、通常サービスブレーキ動作時にはエアーシリンダへの加圧空気の供給によりサービスブレーキ動作を行い、万一の緊急時には、圧縮されたネガティブスプリングの開放による強大なばね力を利用して迅速で効率的な緊急ブレーキ動作を可能にする。
【0011】
さらに、請求項3の構成要件である、前記緊急停止指令信号を受けた際の大気開放バルブの動作後に、前記加圧ブレーキ開放用バルブの加圧制御を加圧時間が漸減するパルス制御とした場合は、緊急停止指令信号によるネガティブスプリングの強大なばね力による緊急ブレーキが作動した後には緊急ブレーキアシスト力が漸減するので、通常のサービスブレーキによるエアーブレーキ力が作用する頃に、ブレーキ力が大き過ぎてブレーキがロックするような事態が避けられる。さらにまた、請求項4の構成要件である、前記カムシャフトの先端部と補助ピストンとの間に、補助シリンダにおけるネガティブスプリングの動作時にのみ、前記カムシャフトがブレーキ動作方向に連動・牽引される連動部を形成した場合は、通常のサービスブレーキ動作時には、カムシャフトの軸動がネガティブスプリングが配設された補助ピストン側に影響を及ぼすことがなく、緊急時のネガティブスプリングの作動による補助ピストン側のばね力が有効にカムシャフト側を迅速に牽引・軸動させて瞬時にブレーキ動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキの1つの実施例の要部概略平断面図である。
【図2】本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキを備えた梃子式ディスクブレーキの全体斜視図である。
【図3】本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキのブレーキ力の変化図である。
【図4】従来の車両の二重事故防止装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキを実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキは、図1に示すように、エアーシリンダ2の空圧室9への空気の供給に伴うウェッジカム10を形成したカムシャフト11の軸動によって、前記ウェッジカム11のカム作用によりブレーキアーム(図2の符号4)の基端部を拡開揺動させてブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキにおいて、前記エアーシリンダ2に対して軸方向の他端側に対向して補助ピストン17を収容した補助シリンダ3を配置するとともに、該補助シリンダ3に緊急停止指令信号を受けた際に補助ピストン17を介して前記カムシャフト11をブレーキ動作方向に移動させるネガティブスプリング22を配設したことを特徴とするもので、サービスブレーキ側の構造改変を伴うことなく、エアーシリンダ2に対して軸方向の他端側に、後付けでネガティブスプリング22を配設した補助シリンダ3を対向配置して、簡素な構造にて空気圧による作動遅れを解消して、強力なネガティブスプリング22のばね力がカムシャフト11の作動方向に直接的かつ円滑に作用し、迅速で効率的な緊急ブレーキ動作を可能にするので、従来のもののような複雑な部品を介在させたことによる効率ロスや損傷の機会も少なく、ブレーキ力の発生を瞬時に行えて空走時間も殆どなく、安全性の向上が図れる。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキの第1実施例について説明する。図2に示すように、適宜のサポートを介してボディ1が車体静止部に固定され、該ボディ1の下部両側に一対のブレーキアーム4、4の中間部がブレーキアーム軸5、5によって揺動自在に軸支される。ブレーキアーム4、4の各開放端にはブレーキホルダを介してパッドアッセンブリ6、6が装着される。そして、ブレーキアーム4、4の各基端部には、後述する図1に示すような、リンク式倍力装置のローラアーム13に球面ブッシュ14により連結・支持された出力軸を構成するリンクロッド15の外側端が球面ブッシュ16により支持される。
【0015】
図1に示すように、エアーをエアー供給口7から導入してエアーピストン(主ピストン)8をチャンバスプリング(図示省略、図1でエアーピストン8をブレーキ非作動の右方向へ復帰させる付勢力を生じさせるスプリング。エアーピストン8のウェッジカム10側の背面に介設される)の復元力に抗してブレーキ動作側の軸方向他方側(図面左側)に作動させるエアーシリンダ2が、カムシャフト11の一方側(図面右側)に配設される。カムシャフト11の軸方向他方側への移動に伴い、カムシャフト11に取り付けられて形成されたウェッジカム10の傾斜面に乗り上げるカムローラ12、12が配設される。
【0016】
カムローラ12、12は、例えば、リンク式倍力装置を構成する、ストラット19の両端部に他端部がそれぞれベアリング18、18によって軸支された一対のローラアーム13、13の一端部にそれぞれ軸支されている。ウェッジカム10の傾斜面へのカムローラ12、12の乗上げによって、ローラアーム13、13は拡開方向に揺動して、ローラアーム13、13の略中間部に球面ブッシュ14により連結・支持されたリンクロッド15、15を梃子の原理によって倍力して外方(図面上下方向)へ軸動させる。これによって、図2に示したブレーキアーム4、4の各基端部を球面ブッシュ16、16を介して拡開方向に揺動させて、ブレーキアーム4、4の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ6、6を図示省略のブレーキロータに挟圧させてブレーキ動作が行われる。
【0017】
図1に示すように、本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキの最も特徴的な構造として、前記エアーシリンダ2に対して軸方向の他端側に対向して補助ピストン17を収容した補助シリンダ3を配置するとともに、該補助シリンダ3に緊急停止指令信号を受けた際に補助ピストン17を介して前記カムシャフト11をブレーキ動作方向に移動させるネガティブスプリング22を配設した。図1の例では、ネガティブスプリング22は圧縮スプリング型を採用して、常時は加圧ブレーキ開放用バルブSV1からの加圧空気の供給を受けてネガティブスプリング22をエアーシリンダ2側に圧縮して緊急ブレーキの動作を抑制する構成を採用しているが、ネガティブスプリングとして補助ピストン17の反耐側(エアーシリンダ2と対向側)に配置される引張りスプリング型を採用して、ネガティブスプリングによりブレーキ動作側に牽引勝手とした補助ピストン17を、通常は負圧によりブレーキ非動作側(エアーシリンダ2側)に牽引しておくようにすることを排除するものではない。
【0018】
前記カムシャフト11の先端部(エアーシリンダ2とは反対側)と補助ピストン17との間には、補助シリンダ3におけるネガティブスプリング22の動作時にのみ、前記カムシャフト11がブレーキ動作方向に連動・牽引される連動部11A、20Aが形成される。つまり、連動部11A、20Aについては、例えば、サービスブレーキ側であるカムシャフト11の先端側(ブレーキ動作方向側)に径大部を設けてこれを先端連動部11Aとし、補助シリンダ3における補助ピストン17からエアーシリンダ2側に向けて軸方向に延設した筒状のスリーブ部材20の先端側に、径小部を設けてこれを先端連動部20Aとしたものである。これらは互いを引き合う方向には移動を規制されるストッパ形態の機能を有し、互いが近づく方向の相対移動を許容するように係止・嵌合される。このように構成されていることによって、通常のサービスブレーキ動作時には、カムシャフト11の軸動がネガティブスプリング22が配設された補助ピストン17側に影響を及ぼすことがなく、緊急時のネガティブスプリング22のばね力による補助ピストン17側の強力な牽引力が有効にカムシャフト11側を迅速に連動牽引・軸動させて瞬時にブレーキ動作を行うことができる。
【0019】
補助シリンダ3におけるネガティブスプリング22の反対側には補助ピストン17により区画される補助空圧室23が形成され、該補助空圧室23に、地震等の緊急ブレーキを必要とする際には、別途、車両に設置されたGセンサ等により、所定の加速度を検出して緊急停止指令信号を受けて補助空圧室23の空気を大気に開放する大気開放バルブSV2と、通常サービスブレーキモードの時、補助空圧室23に加圧空気を供給する加圧ブレーキ開放用バルブSV1を臨設・設置する。緊急停止指令信号を受けた際には、サービスブレーキ動作に先立って、大気開放バルブSV2により補助空圧室23のエアーが開放され、ネガティブスプリング22の強力なばね力によるブレーキ力が補助ピストン17、スリーブ部材20、連動部20A、11Aを介してカムシャフト11をブレーキ動作方向に牽引して、ウェッジカム10の傾斜面を介してリンクロッド15を拡開方向に移動させ、ブレーキアーム4、4の各基端部を球面ブッシュ16、16を介して拡開方向に揺動させて、ブレーキアーム4、4、の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ6、6を図示省略のブレーキロータに挟圧させて強力な緊急ブレーキ動作が行われる。該緊急ブレーキ動作に続いて、サービスブレーキ動作がエアーシリンダ2のエアー供給口7からの加圧空気の供給により行われる。
【0020】
かくして、本発明では、エアーシリンダ2に対して軸方向の他端側に対向して補助ピストン17を収容した補助シリンダ3を配置すればよいので、サービスブレーキ側の構造改変を伴うことなく、エアーシリンダ2に対して軸方向の他端側に、後付けでネガティブスプリング22を配設した補助シリンダ3を対向配置して、簡素な構造にて空気圧による作動遅れを解消して、強力なネガティブスプリング22のばね力がカムシャフト11の作動方向に直接的かつ円滑に作用し、迅速で効率的な緊急ブレーキ動作を可能にするので、従来のもののような複雑な部品を介在させたことによる効率ロスや損傷の機会も少なく、ブレーキ力の発生を瞬時に行えて空走時間も殆どなく、安全性の向上が図れる。
【0021】
特に図1の例では、緊急時には、緊急停止指令信号を受けてネガティブスプリング22が瞬時にブレーキ操作力を得ることができるので、簡素な構造にて、空気圧によるサービスブレーキの動作に先立って、強力なネガティブスプリング22のばね力、ウェッジカム10の傾斜面そしてリンク式倍力装置を構成するローラアーム13、さらには梃子式ブレーキアーム4の各倍力機構を通じて、瞬時に強力なブレーキ力が作用して空走距離も少なく効果的に安全にブレーキ動作が行われる。
【0022】
図3は本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキのブレーキ力の変化図である。空圧室9へのエアー圧の供給による通常のサービスブレーキ動作時には、運転手等の操作者によるブレーキ動作によって、時刻T3(ここまでは空走時間)からエアー供給口7を介して空圧室9にエアー圧が供給され始め、エアー圧の上昇とともにエアーブレーキ力が発生する。時刻T4に到ってエアー圧とエアーブレーキ力が所定値に到達して適度のサービスブレーキ動作がなされる。本発明では、時刻T1の早い段階にて、地震等の緊急ブレーキを必要とする所定の加速度をGセンサ等により検出した緊急停止指令信号(図3では緊急ブレーキ信号がオン)を受けて大気開放バルブSV2が開放されると、時刻T2までにネガティブスプリング22のばね力による緊急ブレーキアシスト力を瞬時に立ち上げることができる。この緊急ブレーキアシスト力は、時刻T3における運転手等の操作者による通常のサービスブレーキの動作時まで続き、該緊急ブレーキアシスト力はサービスブレーキのブレーキ力の立上げに伴い、減少するように構成されるとよい。
【0023】
そのためには、詳細は省略するが、時刻T1にて緊急停止指令信号と同時に開放される(オン信号)加圧ブレーキ開放バルブSV1については、時刻T3における運転手等の操作者による通常のサービスブレーキの動作時T3に、大気開放バルブSV2の動作後すなわち大気開放バルブSV2が閉じられると同時に、補助空圧室23からの空気の開放について、加圧ブレーキ開放用バルブSV1の加圧制御を加圧時間が漸減するパルス制御とすることを示している。つまり、加圧ブレーキ開放バルブSV1を徐々に閉じていくことによって、緊急停止指令信号によるネガティブスプリング22の強大なばね力による緊急ブレーキが作動した後には緊急ブレーキアシスト力を漸減させる。かくして、加圧ブレーキ開放バルブSV1のパルス制御による加圧制御を適切に行うことにより、緊急ブレーキの解除コントロールを適正に行え、通常のサービスブレーキによるエアーブレーキ力が作用する頃に、ブレーキ力が大き過ぎてブレーキがロックするような事態が避けられる。
【0024】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、傾斜面角度(円錐状、曲線傾斜面等)を含むウェッジカムの形状、およびそのカムシャフトへの形成形態、ウェッジカムとブレーキアーム基端部との関連構成(カムシャフトの両側に配置した実施例のような一対のリンク式倍力装置を介してリンクロッドを介在させたものや、リンク式倍力装置を介さずに、ウェッジカムがカムローラを軸支したリンクロッドを拡開させたり、さらには、ウェッジカムが直接にブレーキアーム基端部を拡開させるように構成することもできる。)、リンク式倍力装置における倍力比率、エアーシリンダの形状、エアー供給口のエアーシリンダへの設置形態、ネガティブスプリングの形状、形式(圧縮型を好適とするが、引張り型を排除しない)およびその補助シリンダへの設置形態、補助シリンダの形状、およびそれに収容される補助ピストンの形状、形式、補助シリンダにおける加圧ブレーキ開放バルブの加圧制御形態、カムシャフトおよびスリーブ部材における先端連動部の形状、形式等については適宜選定できる。また、実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のネガティブスプリング式緊急ブレーキは、好適には鉄道車両のキャリパ型エアーディスクブレーキに適用されるが、自動車等の車両や産業用ディスクブレーキ等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0026】
2 エアーシリンダ
3 補助シリンダ
7 エアー供給口
8 エアーピストン(主ピストン)
9 空圧室
10 ウェッジカム
11 カムシャフト
11A 先端連動部
12 カムローラ
13 ローラアーム
14 球面ブッシュ
15 リンクロッド
18 ベアリング
19 ストラット
20 スリーブ部材
20A 先端連動部
22 ネガティブスプリング
23 補助空圧室
SV1 加圧ブレーキ開放用バルブ
SV2 大気開放バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアーシリンダの空圧室への空気の供給に伴うウェッジカムを形成したカムシャフトの軸動によって前記ウェッジカムのカム作用によりブレーキアームの基端部を拡開揺動させてブレーキ動作を行うウェッジカム式ブレーキにおいて、前記エアーシリンダに対して軸方向の他端側に対向して補助ピストンを収容した補助シリンダを配置するとともに、該補助シリンダに緊急停止指令信号を受けた際に補助ピストンを介して前記カムシャフトをブレーキ動作方向に移動させるネガティブスプリングを配設したことを特徴とするネガティブスプリング式緊急ブレーキ。
【請求項2】
前記補助シリンダに収容した補助ピストンに対して前記ネガティブスプリングと対向させて補助空圧室を配置するとともに、該補助空圧室に大気開放バルブと加圧ブレーキ開放用バルブを臨設し、通常サービスブレーキ動作時に加圧ブレーキ開放用バルブを介して補助空圧室に供給されたエアーにより圧縮されたネガティブスプリングを、緊急停止指令信号を受けた際に前記大気開放バルブによる補助空圧室のエアー開放により前記ネガティブスプリングを動作させることを特徴とする請求項1に記載のネガティブスプリング式緊急ブレーキ。
【請求項3】
前記緊急停止指令信号を受けた際の大気開放バルブの動作後に、前記加圧ブレーキ開放用バルブの加圧制御を加圧時間が漸減するパルス制御としたことを特徴とする請求項2に記載のネガティブスプリング式緊急ブレーキ。
【請求項4】
前記カムシャフトの先端部と補助ピストンとの間に、補助シリンダにおけるネガティブスプリングの動作時にのみ、前記カムシャフトがブレーキ動作方向に連動・牽引される連動部を形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のネガティブスプリング式緊急ブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−19478(P2013−19478A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153470(P2011−153470)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】