説明

ネコ類において骨関節炎を診断するための方法および組成物

ネコ類において骨関節炎を診断するための方法、組成物およびキットを開示する。本発明方法は、身体試料、好ましくは血液試料において、骨関節炎に差示発現するバイオマーカーである少なくとも1つのバイオマーカーの差示発現を検出することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、ネコ類における新規な骨関節炎バイオマーカーの同定、ならびにそれに関連する診断のための方法、組成物およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 関節炎、より具体的には骨関節炎(OA)はヒトおよび愛玩動物に一般的に起きる変性性関節疾患である。OAは、プロテオグリカンおよびコラーゲンの減損による進行性の関節軟骨変質、ならびに新規骨の増殖を伴い、これに付随して滑膜内における変動性炎症反応が起きる。それはイヌが罹患する関節および筋骨格の疾患のうち最も一般的な形態であるが、ネコもこの状態になる可能性がある。
【0003】
[0003] ネコ類のOAは、主に10歳以上の高齢のネコ類が罹患する疾患である。この疾患に罹患した動物は特徴的に、跳躍回数が減少し、その跳躍の高さが低下し、または全く跳躍しなくなり、階段の昇り降りを避け、排泄箱の使用が減る傾向にある。OAを伴うネコは、なつきにくくなるように思われ、その睡眠−覚醒パターンの変化を示し、毛づくろいに問題が生じる可能性もある。ネコにおけるOAの管理は他の種における治療計画と同様であり、環境改善、肥満症の治療、管理された適度の運動、痛みの抑制、および外科処置が含まれる。
【0004】
[0004] 環境改善は、跳躍または階段昇りの必要がない場所に飼料ボウルおよび排泄皿を置くことから始まる。給餌場所または排泄箱への小さなスロープを作ってもよい。この試みは、大きな上下跳躍を少なくし、適度の運動を促し、ネコが日常活動を維持するのに障害となるコースに直面しない環境を作るために、ペットの飼い主が行なう。環境改善がこの疾患の進行速度を遅らすわけではない。
【0005】
[0005] OAを伴う過体重のネコは、体重管理が有益となる可能性がある。減量は罹患した関節に対する圧迫および痛みを軽減するであろう。過体重または肥満症のネコにおける減量はOAにより起きる痛みを軽減する助けになる可能性はあるが、この疾患の進行を止めるわけではない。
【0006】
[0006] 他の種において安全である投薬計画が必ずしもネコにおいて安全であるとは限らないので、ネコにおける痛みの抑制は問題である。多くの製薬会社がネコにおいて痛みの治療のために非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の評価を行なっているが、アスピリンがネコにおいて安全な長期投薬が確立された唯一のNSAIDである。痛みおよび炎症を軽減するためにコルチコステロイド類が用いられているが、それらの使用はOAを進行させる場合がある。NSAIDは痛みの軽減を助ける可能性があるが、OAの進行を変えることはないであろう。
【0007】
[0007] ネコにおいてOAに伴う痛みを軽減するために栄養補助剤(nutraceutical)が用いられている。組み合わせてまたは個別に用いられるコンドロイチン硫酸および塩酸グルコサミンが、ネコにおいて治療計画として採用されている。これらの栄養補助剤がOAの進行を変えることを示す公表された臨床試験はない。ヒトにおける最近のデータは、重篤なOAを伴うヒトにおいてコンドロイチンおよびグルコサミンが痛みの軽減を補助する可能性があることを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[0008] 前記の方法は、ある観点においては症状軽減をもたらすために有用であるが、基礎病理を治療していないことは明らかであるので、疾患管理に完全に有効というわけではない。実際に、改善された治療方法だけでなく、OAを伴う動物の臨床進行をモニターし、さらにはOAを伴う動物および遺伝的にOAを発症する素因をもつ可能性があるけれどもまだこの疾患の臨床徴候を何ら示してはいない動物を診断するための、改善された方法も求められている。現在は、動物においてOAの診断を確認するために広範なX線撮影検査を行なわなければならず、これらの検査は顕性の関節および組織の損傷をもつ動物を同定するために有用であるにすぎない。したがって、ネコ類においてOAを検出するための簡単な診断検査法、およびOAを伴う動物の臨床進行をモニターするための改善された方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[0009] 本発明は、ネコ類におけるOAに関する新規バイオマーカーの同定、およびインビボにおけるこれらのOAバイオマーカーに関する遺伝子発現の特徴的なパターンに基づいて関節炎の動物を検出するための方法に関する。具体的に本発明方法は、身体試料、好ましくは血液試料において、対照発現レベルと比較した少なくとも1つのバイオマーカーの差示発現(differential expression)を検出することを含み、その際、そのバイオマーカーの差示発現が検出されたことによりOAを伴う動物が特異的に同定される。したがってこの方法は、正常動物または対照動物に由来する細胞と比較してOAにおいて差示発現する少なくとも1つのバイオマーカーの検出に依存する。
【0010】
[0010] 本発明のバイオマーカーは、ネコ類のOAにおいて差示発現するタンパク質および/または核酸である。1観点において、特に重要なバイオマーカーには本発明中で図1〜7に挙げるバイオマーカーが含まれる。
【0011】
[0011] バイオマーカー発現は、多様な方法を用いてタンパク質または核酸のレベルで評価することができる。したがって、他の観点において本発明は、ネコ類の試料においてOAバイオマーカータンパク質の発現を検出するために抗体を利用する方法に関する。この観点の本発明においては、目的とする特異的なOAバイオマーカーに対する少なくとも1種類の抗体を使用する。他の観点においては、核酸ベースの技術により発現レベルを検出することもでき、これにはたとえばハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術、およびRT−PCR(定量RT−PCRを含む)が含まれる。質量分析、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、またはLuminex Xmap(登録商標)ビーズ技術も、タンパク質または核酸の両方のレベルで発現レベルを検出するために使用できる。
【0012】
[0012] 本発明においてはさらに変性性関節疾患の身体特性および形態特性を検出できる伝統的な診断法と組み合わせて本発明方法を使用しうることが考慮される。したがって、たとえば、OAの診断を確証するために、動物の血液試料から得た細胞におけるOAバイオマーカーに関する遺伝子の差示発現の解明を一般的な診断法(たとえばX線撮影法)と組み合わせることができる。
【0013】
[0013] さらに他の観点において、本発明は、本発明のOAバイオマーカーをコードする核酸またはそのフラグメントに特異的にハイブリダイズする1以上の核酸プローブを含む組成物に関する。
【0014】
[0014] 他の観点において、本発明は、本発明のOAバイオマーカーの遺伝子によりコードされるポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む組成物に関する。
[0015] 本発明は、ネコ類においてOAを診断するためのキットであって、本発明のOAバイオマーカーの発現を検出するために使用できる構成要素を含むキットにも関する;構成要素には本明細書に記載する組成物およびマイクロアレイが含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
[0016] 本明細書において、本発明はネコ類のOAを診断する方法における本明細書に開示するOAバイオマーカーおよび組成物の使用に関するものであることも考慮される。
[0017] 他の観点において、本発明はネコ類において骨関節炎を治療または改善する能力について試験しうる生物活性食餌成分または他の天然化合物(以下、”成分”と表記する)を同定するための下記を含む方法に関するものであることも本明細書において考慮される:(a)図1〜7に開示する1以上の骨関節炎バイオマーカーのRNAまたはタンパク質産物を発現することができる細胞を被験成分と接触させ;(b)被験成分と接触した細胞において産生されたRNAおよび/または産物の量を測定し;そして(c)被験成分と接触した細胞におけるRNAおよび/またはタンパク質産物の量を、被験成分と接触させていない対応する対照細胞中に存在する同じRNAまたはタンパク質産物の量と比較し;その際、対照における量と比較してRNAまたはタンパク質産物の量が変化している場合、その成分はネコ類において骨関節炎を治療または改善する能力について試験すべき成分であると同定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】[0018] 図1は、p値が<0.001でありかつ発現レベルが>2.0の変化倍率を示すという選択基準に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。図1に関して、また図2〜6関しても、平均比率が>1である場合はその遺伝子はOAにおいてアップレギュレートされており、正の変化倍率とみされる。これに対し、平均比率が<1である場合はその遺伝子はOAにおいてダウンレギュレートされており、負の変化倍率とみなされる。
【図2】[0019] 図2は、p値が<0.001でありかつ発現レベルが>1.5の変化倍率を示すという選択基準に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。
【図3】[0020] 図3は、p値が<0.001でありかつ発現レベルが>1.3の変化倍率を示すという選択基準に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。
【図4】[0021] 図4は、p値が<0.01でありかつ発現レベルが>2.0の変化倍率を示すという選択基準に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。
【図5】[0022] 図5は、p値が<0.01でありかつ発現レベルが>1.5の変化倍率を示すという選択基準に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。
【図6】[0023] 図6は、p値が<0.01でありかつ発現レベルが>1.3の変化倍率を示すという選択基準に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。
【図7】[0024] 図7は、qRT−PCRを用いたネコ類のデータの分析に基づいて同定した、ネコ類のOAバイオマーカーを開示する。
【図8】[0025] 図8は、異なる食餌を与えた正常なネコおよび関節炎のネコにおけるTGF−ベータの相対量を開示する。図8および図9〜11に関して、指示した”j/d”および”シニア”は、それぞれWO2007/002837 A2およびWO2006/074089 A2に開示された異なる量のオメガ−3脂肪酸を含有する食餌を表わす。
【図9】[0026] 図9は、j/dおよびシニア食餌を与えた正常なネコおよび関節炎のネコにおけるIL−1アルファの相対量を示す。
【図10】[0027] 図10は、EPAおよびDHA含量の高い食餌を与えたネコにおけるNTxの濃度を示す。濃度は一般的なELISA法を用いて検出される。
【図11】[0028] 図11は、EPAおよびDHA含量の高い食餌を与えたネコにおけるCTX−IIの濃度を示す。濃度は一般的なELISA法を用いて検出される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[0029] 本発明は、ネコ類において骨関節炎を同定または診断するための組成物および方法を提供する。これらの方法は、骨関節炎において選択的に過剰発現または発現低下する特異的バイオマーカーの差示発現を検出することを含む。この方法で、本発明のバイオマーカーはOAを伴う動物と伴わない動物を識別することができる。本発明においては、OAを発症する素因をもつ可能性がある動物、またはOAを伴うけれどもまだ形態的または身体的な変化が顕性になってはいない動物を同定しうることも考慮される。骨関節炎を診断するためのこれらの方法は、ネコ類からの組織または体液試料中の骨関節炎の指標となる少なくとも1つのバイオマーカーの差示発現を検出することを伴う。具体的態様においては、抗体と免疫細胞化学的技術、または核酸プローブとハイブリダイゼーション技術を用いて、目的とするバイオマーカーの発現を検出する。本発明方法を実施するためのキットがさらに提供される。
【0018】
[0030] ”骨関節炎の診断”は、たとえばOAまたはそれに対する遺伝的素因の存在の診断または検出、その疾患の進行および療法介入の有効性のモニタリング、ならびに骨関節炎の指標となる細胞または試料の同定または検出を含むものとする。骨関節炎の診断、検出および同定という用語は、本明細書中で互換性をもって用いられる。”骨関節炎”は、骨端の関節表面を形成する関節軟骨の変性を特徴とする状態を表わし、後期においては、関節内および関節周囲の周辺組織、たとえば骨、筋肉、靭帯、半月板および滑膜の随伴変化がこれに含まれる場合がある。そのような身体変化は、痛み、腫張、関節機能の虚弱さおよび喪失によって顕性となる。
【0019】
[0031] OAは種々のグレードまたは病期に分類されている。1期は、軟骨細胞代謝が変化し、このためたとえばメタロプロテイナーゼなどの軟骨マトリックス分解酵素が増加することを特徴とする。軟骨マトリックスの破壊に対抗するのに十分なレベルのプロテアーゼインヒビターが合成される。2期は、軟骨表面が侵食され、このため滑液中のプロテオグリカンおよびコラーゲンフラグメントの濃度が検出可能なほど上昇することを特徴とする。3期では、軟骨の分解生成物のため滑膜が慢性的に炎症する。滑膜中のマクロファージがサイトカインを産生し、これらが組織の直接破壊または軟骨細胞の刺激により軟骨に損傷を与えて、さらにメタロプロテイナーゼが産生される可能性がある。炎症性分子がこの病期に損傷を引き起こす可能性もある。身体は関節を安定化しようとするため、関節に生じた損傷が骨増殖増大の引き金となり、これにより関節の正常な機械的および構造的特徴が変化する。
【0020】
[0032] 前記に述べたように、本発明方法は将来OAを発症する素因のあるネコ類を同定しうることが考慮される。これらの動物において、関節組織の形態変化に依存する一般的な方法では一般にこれらの疾患動物は療法介入が必要であるものとしては同定されないので、本発明方法は特に有用になりうると考えられる。本明細書に開示するOAバイオマーカーのハプロタイプマーカーおよび一塩基多型(SNP)の使用は、これに関して特に有用な可能性がある。これらの場合、後期OAに付随するさらに衰弱性の症状または身体損傷を防ぐ手段として、予防措置または他の療法を開始することができる。
【0021】
[0033] さらに、本発明において、本発明に開示するOAバイオマーカーはOAを伴うネコ類の同定に有用となりうるが、これらのOAバイオマーカーは療法介入のために有用な標的となりうることも考慮される。たとえば本発明においては、ネコ類において病的な身体変化が顕性になる前に(または身体変化が起きた後ですら)、本発明において提示する図1〜7に記載するバイオマーカーのうち1以上の発現を変化させることにより、たとえばOAにおいて過剰発現する遺伝子の発現レベルを低下させることにより、および/またはOAにおいて発現低下する遺伝子の発現を増大させることにより、療法上の有益性を達成しうることも考慮される。後記の実施例に詳述する若干のバイオマーカーの場合、その必要があるネコ類にEPAおよび/またはDHA含量の高い配合物を投与することによりこれを達成できる。
【0022】
[0034] さらに、細胞をインビトロで被験成分に曝露し、前記OAバイオマーカーのうち1以上の遺伝子発現の変化をアッセイすることにより、ネコ類においてOAを治療または改善するために有用となりうる成分を同定しうることが考慮される。そのようなインビトロアッセイ法は当業者に慣用されており、常法に従って実施できる。ネコ類の細胞の初代培養物、および種々のネコ類組織、たとえば血液、腎臓、脳、舌または肺から分離した細胞系を使用できる。インビトロ分析のためのネコ類細胞は、たとえばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、バージニア州マナッサス)から販売されている。OAバイオマーカーの発現に影響を与える可能性を示す候補成分を、次いでさらに実験するためのリストに載せることができる;これには後記の実施例に記載するようなペットフード配合物の成分が含まれる。
【0023】
[0035] 特定の機序に限定することを意図するわけではないが、本発明においてネコ類における骨関節炎の遺伝子型フィンガープリントは個別の遺伝子、すなわちバイオマーカーの差示発現により特徴付けることができると考えられる。これらのOAの分子バイオマーカーを分子診断アッセイ方式に用いると、現在行なわれている方法と比較してOAの検出を改善することができる。したがって、特定の態様において、骨関節炎の診断法はバイオマーカーの差示発現を検出することを含み、その際、バイオマーカーの差示発現は、OAに原因または作用として関連または付随する生化学的経路における撹乱の指標となりうる。さらに他の態様において、これらの方法は1以上のOAバイオマーカー、たとえば本発明において図1〜7に示すバイオマーカーのサブセットの差示発現を検出することを含む。この方法で、本発明方法は骨関節炎を伴う動物の同定を可能にするだけでなく、遺伝的にOAを発症する素因をもつ可能性がある動物を同定することもできる。
【0024】
[0036] 本明細書に開示する方法は、一般的な診断検査法と比較して優れた骨関節炎検出法を提供する。”OAを診断するための一般的方法”は当業者に慣用されており、X線、磁気共鳴イメージング、または超音波の使用が含まれる。本発明の特定の観点において、本発明方法の精度はOAの存在を検出するために用いられる一般的なX線または磁気共鳴検査法と同等またはそれ以上である。
【0025】
[0037] 本発明のバイオマーカーには、遺伝子およびタンパク質、ならびにそのバリアントおよびフラグメントが含まれる。そのようなバイオマーカーには、そのバイオマーカーをコードする核酸配列の完全配列もしくは部分配列またはそのような配列の相補体を含むポリヌクレオチド、たとえばDNAが含まれる。バイオマーカーポリヌクレオチドには、目的とするいずれかの核酸配列の完全配列または部分配列を含むRNAも含まれる。バイオマーカータンパク質は、本発明のDNAバイオマーカーによりコードされる、またはそれらに対応するタンパク質である。バイオマーカータンパク質は、本明細書に開示するいずれかのバイオマーカータンパク質またはポリペプチドの完全または部分アミノ酸配列を含む。
【0026】
[0038] ”バイオマーカー”は、組織または細胞におけるその発現レベルが正常または健全な細胞または組織のものと比較して変化するいずれかの遺伝子またはタンパク質である。本発明のバイオマーカーは、骨関節炎を伴うネコ類において差示発現する。”骨関節炎において差示発現する”とは、目的とするバイオマーカーの遺伝子発現レベルが、骨関節炎を伴うかまたはその素因をもつ対象において、対照となる対象、すなわちその状態を伴わないかまたはその状態を伴う素因をもたない対象におけるレベルと比較してアップまたはダウンレギュレートされることを表わすものとする。本発明において、本発明のバイオマーカーの検出は、OAを伴う対象の同定を可能にするだけでなく、遺伝的にこの状態を発症する素因をもつ動物を理想的には身体症状が顕性になる前に同定する手段も提供しうることが考慮される。可能であれば、それらの早期検出により疾患動物のケアを改善し、疾病関連の不可逆的な関節損傷を予防できると思われる。
【0027】
[0039] ある態様において、本明細書に開示する骨関節炎診断法は、ネコ類における骨関節炎をスクリーニングするための一次手段として実施できる。そのようなネコ類を日常的な身体評価の一部としてスクリーニングすることができる。それの雌親および/または雄親の病歴に基づいてそのネコ類がOAの遺伝的素因をもつ可能性があることを情報が示しているという理由で、あるいは観察された行動パターンの変化に基づいてそのネコ類はその状態を伴う疑いがあるという理由で、本発明方法に従ってネコ類をスクリーニングすることもできる。本発明方法は、ネコ類のOAを診断するための一般的方法、たとえばX線またはMRIと併せて、臨床検査の一部として採用することもできる;そのような一般的方法が決定的でない場合、あるいは一般的方法に基づく診断を確認することが望まれる場合。
【0028】
[0040] 本発明のバイオマーカーには、本明細書において前記に定めたように骨関節炎において選択的に差示発現するいずれかのポリヌクレオチドまたはタンパク質が含まれる。骨関節炎の指標となるいかなるバイオマーカーも本発明に使用できるが、特定の態様においてバイオマーカーには本発明において図1〜7に示すバイオマーカーのうちいずれか1以上またはそのサブセットが含まれる。
【0029】
[0041] 本発明方法は骨関節炎の検出のために疾患動物試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを検出する必要があるが、本発明においては数種類以上のバイオマーカーを用いて本発明を実施しうることが考慮される。したがって、ある態様においては1以上のバイオマーカー、より好ましくは2以上の相補的バイオマーカーを使用する。”相補的”とは、身体試料中のバイオマーカーの組合わせを検出すると、バイオマーカーのうち1つだけを用いた場合に同定されるより大きな割合の症例において骨関節炎の同定に成功することを表わすものとする。したがって、ある場合には少なくとも2つのバイオマーカーを用いることによって、より正確な骨関節炎の判定を行なうことができる。したがって、少なくとも2つのバイオマーカーを用いる場合、個別のバイオマーカータンパク質に対する少なくとも2種類の抗体を用いて本明細書に開示する診断法を実施することができる。たとえば、抗体または核酸プローブを同時または連続的に身体試料と接触させることができる。
【0030】
[0042] 特定の態様において、本発明の診断法は、疾患ネコから血液試料を採集し、その試料を目的バイオマーカーに特異的な少なくとも1種類の抗体と接触させ、そして抗体結合を検出することを含む。抗体結合の検出により測定して本発明のバイオマーカーの差示発現を示す試料は、骨関節炎について陽性とみなされる。特定の態様において身体試料は、ネコ類から常法により、たとえば密度勾配分離法、たとえばFicol−hypaque法により、もしくは細胞調製管(CPT(商標)管)(Becton Dickinsonから)を用いて、または当業者に慣用される他の方法により得られる、血液試料である。
【0031】
[0043] ”身体試料”とは、バイオマーカーの発現を検出できるいずれかの細胞、組織または体液試料を表わすものとする。そのような身体試料の例には血液、リンパ液、尿、生検材料および塗抹標本が含まれるが、これらに限定されない。身体試料はネコ類から種々の手法で得ることができ、これにはたとえばある領域の掻き取りまたは拭いによるもの、または体液を吸引するための針の使用によるものが含まれる。種々の身体試料を採集するための方法は当技術分野で周知である。特定の態様において、身体試料は血球を含む。
【0032】
[0044] 本発明のOAバイオマーカーを同定または検出するための当技術分野で利用できるいかなる方法も本発明に含まれる。本発明のバイオマーカーの差示発現は、核酸レベルまたはタンパク質レベルで検出できる。前記のように、差示発現を判定するために、検査すべき身体試料を、健全な対象に由来する対応する身体試料と比較することができる。すなわち、”正常な”発現レベルは、骨関節炎に罹患していないかまたはその素因をもたない被験ネコ類の細胞におけるバイオマーカーの発現レベルである。対照と比較した関節炎動物におけるバイオマーカーの発現比率が知られているある場合には、正常との直接比較なしにそのバイオマーカーの差示発現を明らかにすることができる。
【0033】
[0045] 本発明のバイオマーカーを検出する方法は、バイオマーカーの量または存在を核酸またはタンパク質のレベルで測定するいずれかの方法を含む。そのような方法は当技術分野で周知であり、ウェスタンブロット法、ノーザンブロット法、サザンブロット法、ELISA、免疫沈降法、免疫蛍光法、フローサイトメトリー法、免疫細胞化学的方法、核酸ハイブリダイゼーション法、核酸逆転写法、および核酸増幅法が含まれるが、これらに限定されない。特定の態様においては、タンパク質レベルで、たとえば特定のバイオマーカータンパク質に対する抗体を用いてバイオマーカーの差示発現を検出する。これらの抗体は種々の方法、たとえばウェスタンブロット法、ELISA、免疫沈降法、または免疫細胞化学的方法に使用できる。さらに、X線または磁気共鳴を用いる一般的な診断イメージングからのデータを取得して、免疫細胞化学または核酸プローブハイブリダイゼーションの情報と比較することができる。この方法で、バイオマーカーの検出は一般的な診断法による結果を確認し、あるいは一般的な方法からのデータが決定的でない場合に明確にすることができる。
【0034】
[0046] 1態様においては、バイオマーカータンパク質に特異的な抗体を用いて身体試料中のバイオマーカーの差示発現を検出する。この方法は、対象から身体試料を入手し、その身体試料を骨関節炎において選択的に差示発現するバイオマーカーに対する少なくとも1種類の抗体と接触させ、そして抗体結合を検出して、そのバイオマーカーが試料中で同様に差示発現しているかを判定することを含む。本発明の好ましい観点は、対象からの血液試料を用いて骨関節炎を診断するための免疫細胞化学的方法を提供する。
【0035】
[0047] 好ましい免疫細胞化学的方法においては、当業者に慣用される方法を用いて対象から血液試料を採集する。たとえば、本明細書に示す実施例に記載するように、核酸の単離が望まれる場合はPAXgene血液RNA管(PAX gene血液RNA単離に使用するためのもの)も使用できる。血液試料を直ちにアッセイし、または後に分析するために当業者に慣用される適切な条件下で保存することができる。
【0036】
[0048] あるいは、目的とするバイオマーカーに対する抗体、特にモノクローナル抗体を対象からの血液試料と共にインキュベートすることができる。前記のように、場合によっては疾患動物試料中の1より多いバイオマーカーを検出することによってより正確な骨関節炎の診断を得ることができるのは当業者に認識されるであろう。したがって、特定の態様においては、2つの異なるバイオマーカーに対する少なくとも2種類の抗体を用いて骨関節炎を検出する。1種類より多い抗体を用いる場合、これらの抗体を単一試料に、連続的に個別の抗体試薬として、または同時に抗体カクテルとして添加することができる。あるいは、個々の抗体それぞれを同一の疾患動物からの別個の試料に添加し、得られたデータをプールしてもよい。特定の態様において、抗体カクテルは数種類の抗体を含むことができ、その際、それらの抗体はたとえば図1〜7に開示するOAバイオマーカーのサブセットに結合する。
【0037】
[0049] 用語”抗体”または”抗体類”には、天然形態の抗体、ならびに組換え抗体、たとえば一本鎖抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体ならびに多重特異性抗体、ならびに以上のすべてのフラグメントおよび誘導体であって少なくとも抗原結合部位をもつフラグメントおよび誘導体が広く含まれる。完全な構造をもつ抗体、および抗原に結合しうる抗体フラグメントがこの定義に含まれる。抗体誘導体は、抗体に結合したタンパク質または化合物部分を含むことができる。
【0038】
[0050] ”抗体フラグメント”は、無傷抗体の一部、好ましくは無傷抗体の抗原結合領域または可変部を含む。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFvフラグメント;ディアボディー(diabody);線状抗体(Zapata et al. (1995) Protein Eng. 8(10):1057 1062);一本鎖抗体分子;および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が含まれる。抗体をパパイン消化すると、それぞれが1つの抗原結合部位をもつ”Fab”フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントと、残りの”Fc”フラグメントが生成する。ペプシンで処理するとF(ab’)フラグメントが得られ、これは2つの抗原結合部位をもち、なお抗原を架橋することができる。差示発現する1以上の遺伝子のエピトープを特異的に認識しうる抗体の製造方法を本明細書に記載する。そのような抗体にはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化またはキメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーにより産生されるフラグメント、抗イディオタイプ(抗−Id)抗体、および前記のいずれかのエピトープ結合フラグメントを含めることができるが、これらに限定されない。
【0039】
[0051] 差示発現する遺伝子に対する抗体を産生させるために、差示発現する遺伝子のタンパク質またはその一部を注射することにより種々の宿主動物を免疫化することができる。そのような宿主動物にはウサギ、マウス、ラットおよびニワトリが含まれるが、これらは数例にすぎず、これらに限定されない。免疫応答を増強するために宿主の種に応じて種々のアジュバントを使用でき、これにはフロイントアジュバント(完全および不完全)、鉱物ゲル、たとえば水酸化アルミニウム、界面活性物質、たとえばリゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール類、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、キーホールリンペット(スカシガイ、keyhole limpet)ヘモシアニン、ジニトロフェノール、および有用な可能性のあるヒトアジュバント、たとえばBCG(カルメット−ゲラン杆菌(bacille Calmette−Guerin))ならびにコリネバクテリウム−パルヴム(Corynebacterium parvum)が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
[0052] ポリクローナル抗体は、抗原、たとえば標的遺伝子の産物またはその抗原機能性誘導体で免疫化した動物の血清に由来する抗体分子の不均一集団である。ポリクローナル抗体の産生のためには、たとえば前記の宿主動物を、同様に前記のアジュバントを補充した差示発現する遺伝子の産物の注射により免疫化することができる。
【0041】
[0053] 特定の抗原に対する均一な抗体集団であるモノクローナル抗体は、連続細胞培養系により抗体分子を産生させるいずれかの技術で得ることができる。これらにはKohler and Milsteinのハイブリドーマ技術(1975, Nature 256:495-497;およびU.S.Pat.No.4,376,110)、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al., 1983, Immunology Today 4:72; Cole et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026-2030)、およびEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al., 1985, Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)が含まれるが、これらに限定されない。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD、およびそのサブクラスを含むいずれの免疫グロブリンクラスのものであってもよい。本発明のmAbを産生するハイブリドーマはインビトロまたはインビボで培養できる。
【0042】
[0054] さらに、”キメラ抗体”の製造のために開発された技術(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81:6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature, 312:604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314:452-454)であって、適切な抗原特異性をもつマウス抗体分子に由来する遺伝子を適切な生物活性をもつヒト抗体分子に由来する遺伝子と共にスプライシングすることによる技術を使用できる。キメラ抗体は異なる部分が異なる種に由来する分子、たとえばネズミmAbに由来する可変部または超可変部とヒト免疫グロブリン定常部をもつ分子である。
【0043】
[0055] あるいは、一本鎖抗体の製造に関して記載された技術(U.S.Pat.No.4,946,778; Bird, 1988, Science 242:423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;およびWard et al., 1989, Nature 334:544-546)を、差示発現遺伝子−一本鎖抗体の製造に適合させることができる。一本鎖抗体は、Fv部の重鎖および軽鎖フラグメントをアミノ酸橋で架橋して一本鎖ポリペプチドにすることにより形成される。
【0044】
[0056] より好ましくは、”ヒト化抗体”の製造に有用な技術を、本明細書に開示するポリペプチド、フラグメント、誘導体および機能均等物に対する抗体の製造に適合させることができる。そのような技術は当業者に周知であり、たとえばU.S.Patent Nos.5,932,448;5,693,762;5,693,761;5,585,089;5,530,101;5,910,771;5,569,825;5,625,126;5,633,425;5,789,650;5,545,580;5,661,016;および5,770,429に開示されている;それらの開示内容全体を本明細書に援用する。
【0045】
[0057] 特異的エピトープを認識する抗体フラグメントは、既知の技術により作成できる。たとえば、そのようなフラグメントには下記のものが含まれるが、これらに限定されない:抗体のペプシン消化により製造できるF(ab’)フラグメント、およびF(ab’)フラグメントのジスルフィド橋の還元により製造できるFabフラグメント。あるいは、Fab発現ライブラリーを構築して(Huse et al., 1989, Science, 246:1275-1281)、希望する特異性をもつモノクローナルFabフラグメントを迅速かつ容易に同定することができる。検出の容易さのため特に好ましいのはサンドイッチアッセイ法であり、それについては多数の変法があり、それらのすべてを本発明方法に使用できる。具体的にはElisa法を使用でき、これには当業者に慣用される標準、サンドイッチおよびマイクロフォーマットElisaが含まれる。
【0046】
[0058] ある場合には、非標識抗体を固体支持体に固定化し、被験試料をこの結合した分子と接触させる。抗体−抗原の二元複合体を形成するのに十分な期間の適切なインキュベーション期間後、次いで検出可能な信号を誘導しうるレポーター分子で標識した第2抗体を添加してインキュベートし、抗体−抗原−標識抗体の三元複合体の形成に十分な期間をおく。反応しなかった物質をいずれも洗浄除去し、抗原の存在を信号の観察により測定し、または既知量の抗原を含有する対照試料との比較により定量することができる。変法には、結合した抗体に試料と抗体を同時に添加する同時アッセイ法、または標識抗体と被験試料をまず結合させ、インキュベートし、そして表面結合した非標識抗体に添加するアッセイ法が含まれる。これらの技術は当業者に周知であり、微小な変更が可能なことは自明であろう。
【0047】
[0059] このタイプのアッセイ法に最も一般的に用いられるレポーター分子は、酵素、発蛍光団−または放射性核種−含有分子である。酵素免疫アッセイの場合、酵素を通常はグルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩により第2抗体に結合させる。しかし、容易に認識されるように、広範な異なる結合方法があり、それらは当業者に周知である。一般に用いられる酵素には、特に西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼおよびアルカリホスファターゼが含まれる。特異的酵素と共に使用する基質は、一般にその対応する酵素で加水分解された際に検出可能な色の変化を生じるように選択される。たとえば、リン酸p−ニトロフェニルはアルカリホスファターゼコンジュゲートとの使用に適切であり;ペルオキシダーゼコンジュゲートには1,2−フェニレンジアミンまたはトルイジンが一般に用いられる。蛍光原基質も使用でき、これらは上記の色素原基質ではなく蛍光生成物を生成する。分光光度法を用いて血清試料中の抗原の存在を評価することもできる。
【0048】
[0060] あるいは、蛍光化合物、たとえばフルオレセインおよびローダミンを、抗体の結合能を変化させずに抗体に化学結合させることができる。蛍光標識抗体は特定波長の光の照射により活性化されると光エネルギーを吸収し、これにより分子の励起状態が誘導され、続いてより長い特徴的な波長の光が発せられる。この発光は光学顕微鏡で視覚検出できる特徴的な色として現われる。免疫蛍光法およびEIA法は共に当技術分野できわめて良く確立されており、本発明方法に特に好ましい。しかし、他のレポーター分子、たとえば放射性同位体、化学発光分子または生物発光分子も使用できる。要求される用途に適合するように操作を変更する方法は当業者に自明であろう。
【0049】
[0061] 本発明の免疫細胞化学的方法における抗体染色の検出に関して、当技術分野には、生物試料中の複数の分子種(たとえばバイオマーカータンパク質)の量を定量測定するためのビデオ顕微鏡検査およびソフトウェア法もあり、その場合、存在する分子種はそれぞれ特異的な色をもつ代表的な色素マーカーにより指示される。そのような方法は、当技術分野で熱量測定分析法としても知られている。これらの方法では、目的とする特定のバイオマーカーの存在を視覚指示するために生物試料を染色した後に、ビデオ顕微鏡検査を用いて生物試料のイメージを得る。これらの方法のうちあるもの、たとえばU.S.7,065,236(本明細書に援用する)に開示されたものは、存在する分子種それぞれの相対量を代表的な有色色素マーカーの存在に基づいて測定するためのイメージングシステムおよび関連ソフトウェアの使用を開示している;相対量は、イメージングシステムおよび関連ソフトウェアにより測定されるそれらの有色色素マーカーの光学濃度または透過率値によりそれぞれ指示される。これらの技術は、染色した生物試料中の分子種それぞれの相対量を、それの構成カラーパーツに”分解”した単一のビデオイメージにより定量測定する方法を提供する。
【0050】
[0062] 本発明を実施するために用いる抗体は、目的とするバイオマーカータンパク質に対して高い特異性をもつように選択される。抗体を作成する方法および適切な抗体を選択する方法は当技術分野で既知であり、前記に述べたが、本発明ではある態様において特異的バイオマーカータンパク質に対する市販の抗体を用いて本発明を実施しうることも考慮される。
【0051】
[0063] 本発明方法を実施するために用いる個々の抗体の濃度が、結合時間、バイオマーカータンパク質に対する抗体の特異性、および身体試料の調製方法などの要因に応じて異なる可能性があることは、当業者に認識されるであろう。さらに、複数の抗体を用いる場合、必要な濃度は試料に抗体を適用する順序(すなわち、同時にカクテルとして、または逐次個々の抗体試薬として)によって影響を受ける可能性がある。さらに、希望する信号−対−ノイズ比を得るためには、目的とするバイオマーカーへの抗体結合を視覚化するのに用いる検出化学も最適化しなければならない。
【0052】
[0064] 他の態様においては、目的とするバイオマーカーの発現を核酸レベルで検出する。核酸ベースの発現評価方法は当技術分野で周知であり、たとえば身体試料におけるバイオマーカーmRNAのレベルの測定が含まれる。多くの発現検出方法に、単離されたRNAが用いられる。本明細書中で用いる”RNA”には、全RNAおよびmRNAが含まれる。mRNAの単離を妨げないいずれかのRNA単離技術を、血球からのRNA精製に使用できる(たとえば、Ausubel et al., ed., (1987 1999) Current Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons, ニューヨーク)を参照)。さらに、当業者に周知の技術、たとえばU.S.Pat.No.4,843,155に記載された技術を用いて、多数の組織試料を容易に処理することができる。
【0053】
[0065] 用語”プローブ”は、具体的に目標とする標的生体分子、たとえばOAバイオマーカーによりコードされるかまたはそれに対応するヌクレオチド転写体またはタンパク質に選択的に結合しうる、いずれかの分子を表わす。プローブは当業者が合成することができ、または適切な生体標本から誘導することができる。プローブは標識するために特別に設計することができる。プローブとして使用できる分子の例にはRNA、DNA、タンパク質、抗体、および有機分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
[0066] 単離したmRNAをハイブリダイゼーションアッセイまたは増幅アッセイに使用でき、これにはサザン分析またはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析、およびプローブアレイが含まれるが、これらに限定されない。mRNAレベルを検出するための1方法は、単離したmRNAを、検出する遺伝子によりコードされるmRNAにハイブリダイズしうる核酸分子(プローブ)と接触させることを伴う。核酸プローブは、たとえば全長cDNAまたはその一部、たとえば少なくとも7、15、30、50、100、250または500ヌクレオチドの長さであって緊縮条件下で本発明のバイオマーカーをコードするmRNAまたはゲノムDNAに特異的にハイブリダイズするのに十分なオリゴヌクレオチドであってもよい。mRNAとプローブのハイブリダイゼーションは、そのバイオマーカーが発現していることの指標となる。
【0055】
[0067] 1態様においては、単離したmRNAをアガロースゲル上で走行させ、mRNAをゲルからニトロセルロースなどの膜に移すことにより、mRNAを固体表面に固定化し、そしてプローブと接触させる。当業者は既知のmRNA検出方法を本発明のバイオマーカーがコードするmRNAのレベルを検出する際に使用するために容易に適合させることができる。
【0056】
[0068] 別態様においては、OAバイオマーカーに対するプローブ(1以上)を固体表面に固定化し、mRNAをこれらのプローブと接触させる。本発明において考慮するように、遺伝子チップ(たとえば高密度オリゴヌクレオチドアレイ)、マイクロアレイ(たとえば、スライドガラスにプリントしたcDNAアレイまたはオリゴヌクレオチドアレイ)、マクロアレイ(たとえば、遺伝子をプリントしたPVDF膜)、およびビーズベースのアレイ(たとえばIlluminaビーズベースのマイクロアレイ)が、特に本発明方法に使用できる可能性のあるアッセイプラットホームである。したがって、本発明の1態様においてはバイオマーカーの発現を検出するためにマイクロアレイを用い、そのような方法は多数の異なる遺伝子の発現レベルを検出するのに有用である。マイクロアレイ技術、たとえばAffymetrixから販売されているものが当業者に慣用されている。本発明においては、本明細書に開示するOAバイオマーカーの発現を検出するために設計したマイクロアレイまたは”チップ”を本発明方法に使用するために作製しうることが考慮される。本明細書中で用いる”マイクロアレイ”はすべてのアレイプラットホーム技術を含むものとし、これにはたとえば遺伝子チップまたはビーズアレイを含めることができ、ビーズ、ゲル、ポリマー表面、繊維、たとえばファイバーオプチックス、ガラスまたは他の適切な支持体上のペプチドまたは核酸、たとえばRNA,DNA,cDNA,PCR産物またはESTを含めることができる。
【0057】
[0069] 試料中のバイオマーカーmRNAのレベルを測定するための別法は、核酸またはオリゴヌクレオチドの増幅のプロセス、たとえばRT−PCR(定量、すなわちqRT−PCRを含む)、リガーゼ連鎖反応(Barany (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:189 193)、自己持続型配列複製(Guatelli et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:1874 1878)、転写増幅システム(Kwoh et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1173 1177)、Q−Beta Replicase(Lizardi et al. (1988) Bio/Technology 6:1197)、ローリングサークル複製、または他のいずれかの核酸増幅方法によるもの、続いて、当業者に周知の技術を用いる増幅分子の検出を伴う。核酸分子がきわめて小数存在する場合、これらの検出方式はそのような分子の検出に特に有用である。本発明の特定の観点においては、バイオマーカー発現を定量RT−PCRにより評価する。
【0058】
[0070] RNAバイオマーカー発現レベルは、常法により、たとえば膜ブロット法(たとえばノーザン、サザン、ドットなどのハイブリダイゼーション分析に用いるもの)、またはマイクロウェル、試料試験管、ゲル、ビーズまたは繊維(または結合した核酸を含むいずれかの固体支持体)を用いてモニターすることができる。バイオマーカー発現検出法には溶液中の核酸プローブを用いるものも含めることができる。
【0059】
[0071] 本発明方法を実施するためのキットも本発明において考慮される。”キット”とは、ネコ類におけるOAの差示発現を検出するのに必要な成分を収容したいずれかの加工品(たとえばパッケージまたは容器)を表わすものとする。それらのキットは、たとえば本発明のバイオマーカーの発現を特異的に検出するための少なくとも1つの試薬、たとえば抗体、核酸プローブなどを含むことができる。本発明において考慮するように、本発明のキットは単一タイプの成分(たとえば抗体または核酸プローブなどの試薬)の診断用途を目標とすることができ、あるいは異なるタイプの成分を含むことができ、それぞれの相対量が異なり大部分の成分がいずれか1タイプから構成されてもよく、または試薬が等量であってもよい。本発明のキットは、本発明のOAバイオマーカーまたはそれらのバイオマーカーのサブセットに特異的な1以上の核酸を含むマイクロアレイを含むこともできる。キットは、本発明方法を実施するためにユニットとして販売促進、配送または販売することができる。さらにキットには、キットおよびそれの使用方法について述べたパッケージ挿入物を収容することができる。
【0060】
[0072] 特定の態様においては、本発明の免疫細胞化学的方法を実施するためのキットが提供される。そのようなキットは手動および自動による免疫細胞化学的技術(たとえば細胞染色)の両方に適合する。これらのキットは、目的とするバイオマーカーに対する少なくとも1種類の抗体、バイオマーカーへの抗体結合を検出するための化学物質、および対染色剤(counterstain)を含む。抗原−抗体結合を検出するいずれかの化学物質を本発明の実施に際して使用できる。ある態様において、検出用化学物質は二次抗体に結合した標識ポリマーを含む。たとえば、抗原−抗体結合部位における色素原の付着を触媒する酵素に結合した二次抗体を備えていてもよい。そのような酵素およびそれらを抗体結合の検出に使用する技術は当技術分野で周知である。
【0061】
[0073] 他の態様において、本発明のキットはさらに、少なくとも2つまたはそれ以上の別個のバイオマーカーの発現を特異的に検出するための少なくとも2種類またはそれ以上の試薬、たとえば抗体を含む。各抗体は個々の試薬として、または目的とする異なるバイオマーカーに対するすべての抗体を含む抗体カクテルとしてキット内に備えられていてもよい。さらに、キット試薬のいずれかまたはすべてを、それらを外部環境から保護する容器、たとえば密閉容器に入れて提供することができる。
【0062】
[0074] 本発明に従って使用する試薬の活性および適正な使用を評価するために、陽性対照および/または陰性対照をキットに収容してもよい。対照には、組織切片、スライドガラス上に固定した細胞など、目的とするバイオマーカーの存在について陽性または陰性であることが分かっている試料を含めることができる。対照の設計および使用は標準的であり、当業者が日常的になしうる範囲のものである。
【0063】
[0075] 他の態様においては、ネコのOAを同定するためのキットであって、バイオマーカーの差示発現を核酸レベルで検出することを含むキットが提供される。そのようなキットは、たとえばバイオマーカー核酸またはそのフラグメントに特異的に結合する少なくとも1つの核酸プローブを含む。特定の態様において、キットは、別個のバイオマーカー核酸とハイブリダイズする少なくとも2種類またはそれ以上の核酸プローブを含み、さらにOAバイオマーカーをコードする核酸を含むマイクロアレイを含むことができる。
【0064】
[0076] 本明細書に記載する発明は、特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されないことが考慮される;これらは変更できるからである。本明細書中で用いる専門用語は特定の態様を記述するためのものにすぎず、決して本発明の範囲を限定するためのものではないことも理解すべきである。
【0065】
[0077] 別途定義しない限り、本明細書中で用いたすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味をもつ。本明細書に記載したものと類似または同等な方法および物質はいずれも本発明の実施または試験に使用できるが、好ましい方法、デバイスおよび物質をここに記載する。前記のすべての刊行物を、それらの刊行物中に報告された、本発明に関して使用できる物質および方法を記載および開示する目的で本明細書に援用する。
【0066】
[0078] 本発明を実施する際には、多数の分子生物学的技術を使用できる。これらの技術は周知であり、たとえばCurrent Protocols in Molecular Biology, Volumes I, IIおよびIII, 1997 (F. M. Ausubel ed.); Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor,ニューヨークに説明されている。
【0067】
[0079] 本明細書および付随する特許請求の範囲で用いる単数形には、そうでないことが状況から明らかに示されない限り複数指示が含まれる。たとえば”抗体”という指示は1以上の抗体およびその均等物の指示であるなど。
【0068】
[0080] 以下の実施例は説明のためのものにすぎず、限定のためのものではない。
【実施例】
【0069】
実施例1
対照ネコと比較した骨関節炎を伴うネコにおける遺伝子発現
[0081] 関節炎ではないネコおよび骨関節炎(OA)を伴うネコを用いて試験を実施して、関節炎ではないネコとOAを伴うネコの間にある遺伝子発現の差異を判定する。1試験では、これら2グループ間のベースライン比較を行なって、関節炎ではないネコとOAを伴うネコの間にある遺伝子発現の差異を判定する。第2の試験では、他のグループの関節炎ではないネコおよびOAを伴うネコを用い、ただし、すべての正常動物とすべてのOA動物のベースライン比較のほかに、食餌がこの疾患の進行を減衰させる能力について経時試験する。第2試験から得られた試料を用いて定量リアルタイムPCR試験も実施する。
【0070】
[0082] 本明細書に示す試験に関して、OAを伴うネコを先に公表された方法に従ってグレード付けする;すなわち、関節炎ではないすべてのネコは関節が正常と思われることを示す”グレード0”であり、OAを伴うネコは1(わずかな靭帯付着部増殖体(enthesophyte)またはわずかな骨増殖体が存在する)または2(より顕著な靭帯付着部増殖体および骨増殖体が存在する)のグレードをもつ。重篤なOA(グレード3)を伴うネコはこの試験に含まれない。
【0071】
[0083] ここに示す試験においては、ネコからPAXgene(商標)RNA試験管を用いて全血を採取し、全血試料からPAXgene(商標)RNA単離キットを用いて下記に詳述する方法に従って全RNAを単離する。
【0072】
[0084] PAXgene(商標)血液RNA単離:PAXgene(商標)血液RNA試験管およびPAXgene(商標)血液RNAキット(Qiagen)を合わせて用いて、下記に示すようにネコ類から得た全血から細胞内RNAを単離および精製する(PAXgene(商標)血液RNAキットハンドブック、PreAnalytix、2005年6月も参照)。要約すると、Vacutainer(登録商標)針を用いてPAXgene(商標)血液RNA試験管内へ血液を直接採集し、次いで遠心、洗浄および精製の工程を数回行ない、最終的に高品質のRNAを得る。次いでRNAを品質管理工程下に置き、次いでその後、定量リアルタイムPCR分析、および/またはAffymetrixプラットホーム上に作成した注文生産商品のネコ類遺伝子チップを用いるマイクロアレイ分析に使用する。
【0073】
[0085] アッセイ調製物:PAXgene(商標)試験管(血液を入れたもの)をアッセイ開始前に最低2時間、室温でインキュベートする。試験管が凍結しており、凍結前に2時間インキュベートしない場合、それらをさらに2時間、室温に置いて融解させる必要があろう。PAXgene(商標)試験管をそれぞれ8〜10回反転した後、1回目の遠心を行なう。最初に緩衝液BR4(緩衝液はPAXgene(商標)血液RNAキットと共に収容されている)を用いる場合、4体積の96〜100%エタノールを濃厚緩衝液に添加して作業溶液を得る。2つの加熱ブロックをアッセイ開始前に予熱しておく:65℃および55℃。DNアーゼI原液を調製する(RNアーゼを含まないDNアーゼセットがPAXgene(商標)血液RNAキットと共に収容されている)。固体DNアーゼI酵素を、キットと共に提供されるRNアーゼを含まない水550μLに溶解する。蓋を外す際にDNアーゼIを失わないように注意する。試験管の反転によって穏やかに混合する。渦撹拌または遠心しない。DNアーゼI酵素と緩衝液RDD(キット構成要素)の混合物を調製する(バッチ当たり処理する試料の数に十分な体積)。各試料に70μLの緩衝液RDDおよび10μLのDNアーゼIが必要である(すなわち、20の試料には1.4mLの緩衝液RDDと200μLのDNアーゼIのカクテルが必要であろう)。このカクテルは、必要になるまで2〜8℃に保存すべきである。再構成した酵素は2〜8℃で最高6週間有効である。
【0074】
[0086] 試料の保存:PAXgene(商標)試験管(血液を入れたもの)は処理前に室温で最高3日間保存できる。PAXgene(商標)血液RNA試験管と共に提供される製品挿入物によれば、細胞RNAプロフィールはこれらの条件下で最高3日間安定である。ただし、これは種間で異なる可能性がある。PAXgene(商標)試験管を4℃で最高5日間保存することもできる。長期保存が必要な場合、PAXgene(商標)試験管を−20℃または−70℃で最高6カ月間保存することができる。試験管をゆるいワイヤラックに直立させて凍結すべきである。試験管を−70℃で保存する場合、まず−20℃で凍結させ、次いで−70℃に移すことを推奨する。試験管をフリーザーから取り出した際、それらを室温(22℃を超えない温度)で融解すべきである。アッセイを進める前に、各試験管を10回反転させるべきである。
【0075】
[0087] 全血からのRNAの単離:PAXgene(商標)血液RNA試験管を4000×gで10分間遠心する。デカントにより上清を分離して廃棄する。PAXgene(商標)試験管の縁に残っている余分な上清を吸い取る。RNアーゼを含まない水4mLをペレットに添加し、新しいHemogardクロージャーで蓋をする。渦撹拌によりペレットを再懸濁し、次いで4000×gで10分間遠心する。デカントにより上清を分離して廃棄する。PAXgene(商標)の縁に残っている余分な上清を吸い取る。360μLの緩衝液BR1(キット構成要素)をペレットに添加し、ペレットが完全に再懸濁されるまで穏やかにピペッティングする。試料を無菌の1.5mLミクロ遠心管に移し、300μLの緩衝液BR2(キット構成要素)および40μLのプロテイナーゼKを添加する(試料に添加する前に緩衝液BR2とプロテイナーゼKを混合してはならない)。渦撹拌により試験管をそれぞれ十分に混合し、55℃に予熱したサーモミキサーに入れる。試験管をそれぞれ1400rpmで10分間、インキュベート/振とうする。2mLの採集管に入れたQIAshredderスピンカラムに、溶解物をピペットで添加する。14,000rpmで3分間遠心する。フロースルー画分の上清を無菌の1.5mLミクロ遠心管に移す。350μLの96〜100%エタノールを添加し、ピペッティングによって穏やかに混合する。2mLの採集管に入れたPAXgene(商標)スピンカラムに700μLの試料を添加し、14,000rpmで1分間遠心する。PAXgene(商標)スピンカラムを新たな2mLの採集管に移し、フロースルー画分および古い採集管を廃棄する。残りの体積の試料をPAXgene(商標)スピンカラムに添加する。14,000rpmで1分間遠心する。
【0076】
[0088] 上記のスピンカラムの遠心からの古い採集管およびフロースルーを廃棄する。PAXgene(商標)スピンカラムを新たな2mLの採集管に入れる。350μLの緩衝液BR3(キット構成要素)をPAXgene(商標)スピンカラムに入れ、14,000rpmで1分間遠心する。フロースルーおよび採集管を廃棄する。カラムを新たな2mLの採集管に入れ、80μLのDNアーゼI/緩衝液RDDカクテル(”アッセイ調製物”を参照)をカラムメンブレンに直接添加し、室温で15分間インキュベートする。さらに350μLの緩衝液BR3をPAXgene(商標)スピンカラムに添加する。14,000rpmで1分間遠心する。PAXgene(商標)スピンカラムを新たな2mLの採集管に移し、古い採集管およびフロースルーを廃棄する。
【0077】
[0089] 500μLの緩衝液BR4(キット構成要素)をPAXgene(商標)スピンカラムに添加する。14,000rpmで1分間遠心する。PAXgene(商標)スピンカラムを新たな2mLの採集管に入れ、古い採集管およびフロースルーを廃棄する。さらに500μLの緩衝液BR4をPAXgene(商標)スピンカラムに添加する。14,000rpmで3分間遠心してスピンカラムメンブレンを乾燥させる。採集管およびフロースルーを廃棄し、カラムを別の2mLの採集管に入れる。試料を再び14,000rpmでさらに1分間遠心してスピンカラムメンブレンをさらに乾燥させる。フロースルーおよび採集管を廃棄する。PAXgene(商標)スピンカラムを1.5mLの採集管に移す。40μLの緩衝液BR5(キット構成要素)をPAXgene(商標)スピンカラムメンブレンに直接添加する。14,000rpmで1分間遠心する。PAXgene(商標)スピンカラムを取り出し、1.5mL採集管内の溶出液をピペットで同じPAXgene(商標)スピンカラムに添加する。PAXgene(商標)スピンカラムを同じ1.5mL溶離管へ戻し、14,000rpmで1分間遠心する。最終溶出液を65℃で5分間インキュベートし、直ちに氷上で冷却する。最終RNA試料を後に使用するために−80℃で保存する。
【0078】
実施例2
遺伝子チップ分析
[0090] 注文生産商品のネコ類遺伝子チップ(Affymetrix)を用いて、OAを伴うネコおよび伴わないネコ(10匹の正常動物および10匹の関節炎動物)におけるベースライン遺伝子発現を評価する。前記に示したように、一般法を用い、製造業者の指示に従って、2グループ間のベースライン比較を求めるために遺伝子チップ分析を実施して、関節炎ではないネコとOAを伴うネコの間にある遺伝子発現の差異を判定する。
【0079】
[0091] 遺伝子チップの粗データをロバストマルチアレイ平均(Robust Multiarray Average)(RMA)基準化アルゴリズム(Irizarry, et al., Biostatistics 2003 Vol 4, Page 249-264)により基準化し、次いでサポートベクターマシーン(Support Vector Machine)(SVM)アルゴリズム(Partek Genomic Suite,Version 6)を用いて統計分析して、関節炎の動物と関節炎ではない動物を識別しうる遺伝子発現の差異を判定する。OAバイオマーカーを同定する遺伝子は、下記に従うp値カットオフおよび変化倍率(FC)に基づいて選択される:p値<0.001をもち、かつ>2.0、>1.5または>1.3の変化倍率を示す遺伝子;およびp値<0.01をもち、かつ>2、>1.5または>1.3の変化倍率を示す遺伝子。こうして同定されたネコ類OAバイオマーカーのリストを本発明において図1〜6に示す。
【0080】
[0092] これらの試験からの結果は、遺伝子発現を用いて正常なネコとOAを伴うネコを識別できることを指摘する。差示発現する遺伝子のリストには、細胞表面マーカー、受容体および他のシグナル伝達分子として作用する配列が含まれる。
【0081】
実施例3
ネコ類の関節炎において食餌が遺伝子発現に与える影響
[0093] この試験では、正常なネコおよび関節炎のネコから単離したRNAを用いて定量リアルタイムPCRアッセイを行なう。関節炎の動物と正常な動物の間のベースライン比較のほか、食餌の影響も判定する。具体的には、当業者に慣用される標準的な動物栄養試験法に従って、関節炎のネコと正常なネコに、炎症性疾患に対処するのに有用であると報告されている成分、たとえばオメガ−3脂肪酸などの多不飽和脂肪酸を含有する被験食、たとえばWO 2007/002837 A2に記載のもの(”j/d”)およびWO 2006/074089 A2に記載のもの(”シニア”)を与え、次いで動物における遺伝子発現の変化をqRT−PCRにより分析する。OA血清マーカーも一般的方法(ELISA)によりアッセイする。
【0082】
[0094] RT−PCRに関して、Taqmanプローブ技術を用い、すべての分析をApplied Biosystems 7500リアルタイムPCRマシーンにより実施する。データを製造業者が提供する配列検出ソフトウェアパッケージ、バージョン1.2.2.により分析する。
【0083】
[0095] qRT−PCRを用いる正常なネコと関節炎のネコのベースライン比較により、下記のものが検出される;プロテアーゼおよび軟骨破壊に関連するOAバイオマーカー遺伝子:カスパーゼ1、カスパーゼ3、MMP2、MMP16、MMP1のインヒビター、MMP2のインヒビター、MMP3のインヒビター、システインプロテアーゼ、PUMP−1およびプロゲステロン依存性タンパク質、ならびに炎症に関連する遺伝子:IFN−ガンマ;TGF−ベータ;MIP−1アルファ;IL−1アルファ;IL−1ベータ;IL−2;IL−6およびIL−10。データは、IL−1およびTGF−ベータが関節炎の動物と関節炎ではない動物の間で有意に異なることも指摘する(図8および9を参照)。IL−1は実験動物において関節炎病変を誘導することが知られている。この結果は遺伝子チップ分析により確認される(データを示していない)。
【0084】
[0096] 一般的なELISA法を用いて、I型コラーゲン(NTx、図10を参照)およびII型コラーゲン(CTX−II、図11を参照)のペプチドの血中濃度も動物において測定し、データは高レベルのEPAおよびDHAを含有する食餌を与えたネコがこれらのOAマーカーの循環濃度の顕著な低下を示すことを指摘する。
【0085】
[0097] 上記の関節炎の動物と関節炎ではない動物に関する栄養試験から得た臨床データは、食餌介入が若干のOAバイオマーカーの発現に影響を及ぼしうることを指摘する。具体的には、高濃度のn−3脂肪酸DHA(0.3%)またはDHAおよびEPA(それぞれ0.3%および0.46%)を含有する食餌は、OA血清マーカーであるコラーゲンI(NTx)およびコラーゲンIIのフラグメント(CTX−II)を減少させることができるが、TGF−ベータのレベルに対しては影響をもたない。TGF−ベータに関しては、このタンパク質は関節炎において防御的な役割を果たすので、変化のないことが望まれるであろう。さらに、定量リアルタイムPCR分析により、IL−1の発現もDHAおよびEPAを含有する食餌を投与した動物において劇的に低下することが明らかになる;このタンパク質は既知の関節原分子であるので、これは望ましい。したがって、n−3脂肪酸であるEPAおよびDHA(TG油に基づく)に富む食餌を与えるとIL−1、NTxおよびCTX−IIの発現を低下させうることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネコ類において骨関節炎を診断するための方法であって、下記の:
(a)ネコ類からの身体試料において、図1〜7に示す1以上のバイオマーカーのタンパク質産物のレベルを測定し;そして
(b)そのネコ類からの身体試料におけるタンパク質産物のレベルを、骨関節炎を伴わない対照ネコ類におけるレベルと比較し、その際、その個体と対照の間のそれらのタンパク質産物の差示発現はそのネコ類における骨関節炎の指標となる、
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
タンパク質産物のレベルを、抗体またはそのフラグメントを用いて測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
身体試料が血液試料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ネコ類において骨関節炎を診断するための方法であって、下記の:
(a)ネコ類の身体試料から核酸を単離し;
(b)ネコ類からの身体試料において、図1〜7に示す1以上のバイオマーカーをコードする核酸のレベルを判定し;そして
(c)そのネコ類からの身体試料における核酸のレベルを、骨関節炎を伴わない対照ネコ類におけるレベルと比較し、その際、その個体と対照の間のその核酸の差示発現はそのネコ類における骨関節炎の指標となる、
ことを含む、前記方法。
【請求項6】
定量RT−PCRの使用を含む方法を用いて核酸のレベルを測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
マイクロアレイの使用を含む方法を用いて核酸のレベルを測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
マイクロアレイが、図1〜7のバイオマーカーのうち1以上に対応するRNA、DNA、cDNA、PCR生成物、またはESTからなる群から選択される複数の単離されたポリヌクレオチドを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
身体試料が血液試料である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
核酸がRNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種類またはそれ以上の単離されたポリヌクレオチドを含む組成物であって、単離されたポリヌクレオチドがそれぞれ図1〜7に示すバイオマーカーをコードする核酸に選択的にハイブリダイズし、前記組成物がネコ類からの身体試料において少なくとも1種類またはそれ以上のバイオマーカーの発現レベルを判定することができる、前記組成物。
【請求項12】
単離されたポリヌクレオチドがRNAである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1種類またはそれ以上の抗体を含む組成物であって、抗体がそれぞれ図1〜7に示すバイオマーカーから選択されるバイオマーカーのタンパク質産物に選択的に結合し、前記組成物がネコ類からの身体試料において少なくとも1種類またはそれ以上のバイオマーカーの発現レベルを判定することができる、前記組成物。
【請求項14】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
方法が自動的に実施される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
方法が、ネコ類において骨関節炎を診断するための一般的な方法の使用と併せて実施される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
方法が、ネコ類において骨関節炎を診断するための一次手段として実施される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ネコ類において骨関節炎を診断するためのキットであって、
(a)図1〜7のバイオマーカーのうち1以上に対応するRNA、DNA、cDNA、PCR生成物、またはESTからなる群から選択される複数の単離されたポリヌクレオチドを含むマイクロアレイ;および/または
(b)少なくとも1種類またはそれ以上の抗体を含む組成物であって、抗体がそれぞれ図1〜7に示すバイオマーカーのタンパク質産物に選択的に結合する組成物
を含み、構成要素(a)または(b)がキットの大部分の構成要素を構成することができる、前記キット。
【請求項19】
ネコ類において骨関節炎を治療または改善する能力について試験すべき成分を同定するための方法であって、下記の:
(a)図1〜7に開示する1以上の骨関節炎バイオマーカーのRNAまたはタンパク質産物を発現することができる細胞を被験成分と接触させ;
(b)被験成分と接触した細胞において産生されたRNAおよび/または産物の量を測定し;そして
(c)被験成分と接触した細胞におけるRNAおよび/またはタンパク質産物の量を、被験成分と接触させていない対応する対照細胞中に存在する同じRNAまたはタンパク質産物の量と比較し;その際、対照における量と比較してRNAまたはタンパク質産物の量が変化している場合、その成分はネコ類において骨関節炎を治療または改善する能力について試験すべき成分であると同定される、
ことを含む、前記方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図5−6】
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【図5−7】
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【図5−8】
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【図5−9】
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【図5−10】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図6−6】
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【図6−7】
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【図6−8】
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【図6−9】
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【図6−10】
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【図6−11】
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【図6−12】
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【図6−13】
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【図6−14】
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【図6−15】
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【図6−16】
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【図6−17】
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【図6−18】
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【図6−19】
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【図6−20】
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【図6−21】
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【図6−22】
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【図6−23】
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【図6−24】
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【図6−25】
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【図6−26】
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【図6−27】
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【図6−28】
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【図6−29】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−526299(P2010−526299A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506638(P2010−506638)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/062225
【国際公開番号】WO2008/137549
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(502329223)ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド (138)
【Fターム(参考)】