説明

ネスト型変調器

【課題】信号電極を含む変調電極の回路配置を簡素化すると共に、駆動電圧の低減化を実現可能なネスト型変調器を提供する。
【解決手段】電気光学効果を有する材料からなる基板20と、基板上に形成された光導波路と、光導波路を導波する光波を変調する変調電極とを含み、光導波路が主マッハツェンダ型導波路1と2つの分岐導波路に設けられた副マッハツェンダ型導波路2,3を有し、変調電極は副マッハツェンダ型導波路の副分岐導波路に対し設けられているネスト型変調器において、各副マッハツェンダ型導波路の同じ側の副分岐導波路の一部に分極反転領域46,47を形成し、変調電極が、信号電極と接地電極とから形成され、各副マッハツェンダ型導波路に対し、単一の導入信号電極40,43から分岐する信号電極41,44を2つの副分岐導波路に作用するよう配置すると共に、分岐した信号電極を合流して導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主マッハツェンダ型導波路の2つの分岐導波路に副マッハツェンダ型導波路を組み込んだネスト型変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信技術や光計測技術において、主マッハツェンダ型導波路(以下、「主MZ型導波路」という)の2つの分岐導波路に副マッハツェンダ型導波路(以下、「副MZ型導波路」という)を組み込んだネスト型変調器の一種であるSSB(Single Side Band、単側波帯)変調器が利用されている。これは、以下の特許文献1にも開示されているように、例えば、主MZ型導波路1に周波数ωの光波を導入すると共に、2つの副MZ型光導波路2,3に、単一周波数のRF信号(周波数Ω)RFと該信号をヒルベルト変換した信号RFとを印加し、主MZ型導波路及び各副MZ型導波路に印加するDCバイアスDC,DC,DCを調整することにより、主MZ型導波路から出射する変調光(周波数ω+nΩの離散的スペクトル。nは整数)の特定スペクトルを抑圧することを可能とするものである(図1参照)。また、ネスト型変調器には、図1のDCバイアスDCの代わりにRF信号RFを印加するFSK変調器や、DQPSK変調器などがある。
【0003】
しかしながら、図2のように、ネスト型変調器の基板としてXカット板を利用した場合には、基板10上の各副MZ型導波路2,3の副分岐導波路11,12及び13,14に対し、変調電極である信号電極を15,16の位置に形成し、さらに接地電極を17,18,19の位置に形成することとなる。なお、図2は、図1のネスト型変調器の一点鎖線Aにおける断面図を示す。
図2の場合には、副MZ型導波路毎に単一の信号電極を形成するだけであるため、比較的構造がシンプルなものとなる利点があるものの、導波路と信号電極間が離間するため、駆動電圧が高くなるという欠点を有している。
【0004】
これに対し、図3のように、ネスト型変調器の基板としてZカット板を利用した場合には、基板20上の各副MZ型導波路2,3の副分岐導波路21,22及び23,24に対し、信号電極26,27,28,29を各副分岐導波路に近接位置することが可能となるため、駆動電圧の低減を実現することが可能となる。なお、25は、バッファ層を示す。
しかしながら、各副MZ型導波路2,3に対し、常に2つの信号電極を確保する必要があり、信号電極の取り回しなどが煩雑化する上、各副分岐導波路に対して逆位相の変調信号を印加することが必要であるため、信号電極の作用部までの長さを調整することが、大変難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−245750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述した問題を解決し、信号電極を含む変調電極の回路配置を簡素化すると共に、駆動電圧の低減化を実現可能なネスト型変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明では、電気光学効果を有する材料からなる基板と、該基板上に形成された光導波路と、該光導波路を導波する光波を変調する変調電極とを含み、該光導波路が主マッハツェンダ型導波路と該主マッハツェンダ型導波路の2つの分岐導波路に設けられた副マッハツェンダ型導波路とを有し、該変調電極は該副マッハツェンダ型導波路の副分岐導波路に対し設けられているネスト型変調器において、各副マッハツェンダ型導波路の同じ側の副分岐導波路の一部に分極反転領域を形成し、該変調電極が、信号電極と接地電極とから形成され、各副マッハツェンダ型導波路に対し、単一の導入信号電極から分岐する信号電極を2つの副分岐導波路に作用するよう配置すると共に、分岐した信号電極を合流して導出することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載のネスト型変調器において、前記分岐した信号電極が形成する電界が該副分岐導波路に作用する作用長は、該副マッハツェンダ型導波路毎に等しく設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明では、請求項1又は2に記載のネスト型変調器において、該基板はニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムからなるZカット板であり、該分岐した信号電極は該副分岐導波路上を通過するよう設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明により、各副マッハツェンダ型導波路の同じ側の副分岐導波路の一部に分極反転領域を形成し、変調電極が信号電極と接地電極とから形成され、各副マッハツェンダ型導波路に対し、単一の導入信号電極から分岐する信号電極を2つの副分岐導波路に作用するよう配置すると共に、分岐した信号電極を合流して導出するため、各副MZ型導波路に導入する信号電極が単一となり、電極の取り回しが簡素化できる。しかも、各副MZ型導波路においては基板の分極反転と分岐した信号電極により、各副分岐導波路毎に信号電極を設ける場合と同様に、効率的な変調動作が実現でき、駆動電圧の低下を達成することができる。
【0011】
請求項2に係る発明により、分岐した信号電極が形成する電界が副分岐導波路に作用する作用長は、副マッハツェンダ型導波路毎に等しく設定されているため、副分岐導波路の一部に分極反転領域を形成すると共に、導入された信号電極を分岐して各副分岐導波路に作用する信号電極を形成するだけで、各副MZ型導波路内の2つの副分岐導波路に、逆位相状態で変調強度の等しい光変調を容易に実現することが可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明により、基板はニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムからなるZカット板であり、分岐した信号電極は副分岐導波路上を通過するよう設定されているため、基板の分極反転が容易に実現できると共に、極めて変調効率の高いネスト型変調器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ネスト型変調器の原理を示す図である。
【図2】従来のXカット板を用いたネスト型変調器の断面図である。
【図3】従来のZカット板を用いたネスト型変調器の断面図である。
【図4】本発明のネスト型変調器を示す平面図である。
【図5】本発明のネスト型変調器を示す断面図である。
【図6】本発明のネスト型変調器に形成する分極反転領域の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るネスト型変調器について、以下に詳細に説明する。
図4は、本発明に係るネスト型変調器の概略平面図であり、図5は、図4の一点鎖線Bにおける断面図を示す。
基板20は、電気光学効果を有する基板であり、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料から構成され、具体的には、これら単結晶材料の、Xカット板、Yカット板、及びZカット板から構成され、特に、光導波路デバイスとして構成されやすく、かつ異方性が大きいという理由から、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウムを用いることが好ましい。また、後述する分極反転の形成し易さを考慮して、図5ではZカット板を利用する例を示す。
【0015】
基板20上には、主MZ型導波路1の2つの分岐導波路に副MZ型導波路2,3を組み込んだ形状の光導波路が形成されており、これらの光導波路は、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、変調電極を構成する信号電極(40〜45)や該信号電極を取り巻く接地電極(50〜54)並びにDCバイアスを印加するDCバイアス電極(不図示)などは、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層25を設けることや、信号電極が形成する電界が効率的に導波路に印加されるようにリッジ構造を設けることも可能である。
【0016】
図5に示すように、副分岐導波路21〜24の内、各副MZ型導波路のいずれか一方の副分岐導波路22,23の一部には、基板の分極反転領域46,47が形成されている。基板結晶内の自発分極方向は、図5において基板20内に示す矢印の方向で示している。
なお、分極反転を形成する領域については、図4の領域に限らず、例えば、図6(a)〜(d)に示すように、ネスト型変調器を構成する主MZ型導波路1及び副MZ型導波路2,3に対し、各種の分極反転領域60〜65を選択することが可能である。図6(d)においては、分極反転領域65を形成し、主MZ型導波路の一部66に同一のDCバイアスやRF信号を印加することにより、バイアス電圧や駆動電圧の低減を図ることが可能となる。
【0017】
次に、本発明に係るネスト型変調器の信号電極の形状について説明する。
各副MZ型導波路2,3の副分岐導波路21〜24に対し、単一の信号電極40,43を各々に導入すると共に、該導入信号電極40,43から分岐する信号電極41,44(図5では、41−1と41−2並びに44−1と44−2)を、各副MZ型導波路2,3の2つの副分岐導波路(図5では、21と22並びに23と24)に作用するよう、各副分岐導波路上に配置する。さらに、各副MZ型導波路に対し、分岐された信号電極(41−1と41−2並びに44−1と44−2)は合流され、導出電極42,45を介して、終端器に接続されている。なお、上記合流を行わず、分岐した信号電極の状態で、直接、終端器に接続するよう構成することも可能である。
このような信号電極の形状により、各副MZ型導波路に導入する信号電極が単一であるため、電極の取り回しなどの回路配置が簡素化できる。
【0018】
本発明に係るネスト型変調器においては、上述した分極反転の形成及び分岐した信号電極の形状により、各副MZ型導波路における2つの副分岐導波路に逆位相で同一の変調強度を有する変調信号を印加することができ、副分岐導波路毎に信号電極を設ける場合と同様に、効率的な変調動作が実現でき、駆動電圧の低下を達成することができる。特に、分岐した信号電極が形成する電界が副分岐導波路に作用する作用長を、副MZ型導波路毎に等しく設定することにより、各副MZ型導波路内の2つの副分岐導波路を伝播する光波に対し、常に、逆位相状態で変調強度の等しい光変調を実現することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上のように、本発明によれば、信号電極を含む変調電極の回路配置を簡素化すると共に、駆動電圧の低減化を実現可能なネスト型変調器を提供することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 主MZ型導波路
2,3 副MZ型導波路
20 基板
40,43 導入信号電極
41,44 分岐した信号電極
42,45 導出信号電極
46,47 分極反転領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料からなる基板と、該基板上に形成された光導波路と、該光導波路を導波する光波を変調する変調電極とを含み、該光導波路が主マッハツェンダ型導波路と該主マッハツェンダ型導波路の2つの分岐導波路に設けられた副マッハツェンダ型導波路とを有し、該変調電極は該副マッハツェンダ型導波路の副分岐導波路に対し設けられているネスト型変調器において、
各副マッハツェンダ型導波路の同じ側の副分岐導波路の一部に分極反転領域を形成し、
該変調電極が、信号電極と接地電極とから形成され、
各副マッハツェンダ型導波路に対し、単一の導入信号電極から分岐する信号電極を2つの副分岐導波路に作用するよう配置すると共に、分岐した信号電極を合流して導出することを特徴とするネスト型変調器。
【請求項2】
請求項1に記載のネスト型変調器において、前記分岐した信号電極が形成する電界が該副分岐導波路に作用する作用長は、該副マッハツェンダ型導波路毎に等しく設定されていることを特徴とするネスト型変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のネスト型変調器において、該基板はニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムからなるZカット板であり、該分岐した信号電極は該副分岐導波路上を通過するよう設定されていることを特徴とするネスト型変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−80251(P2013−80251A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−281359(P2012−281359)
【出願日】平成24年12月25日(2012.12.25)
【分割の表示】特願2006−302327(P2006−302327)の分割
【原出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】