説明

ネックブレース

ネックブレース(10)は、2つの脚部(14)と、それらの間の間隙(18)とを有し、2つの脚部(14)は、着用者の首(11)の両側および胴(13)の前面に沿って延びる。肩張出し部(20)と、各脚部(14)から側方に延びる胸張出し部(25)とは、着用者の肩(21)の領域と胸(13)の領域のそれぞれで、ハーネスの肩ストラップ(23)の下で支持される。肩張出し部(20)と胸張出し部(25)の間には、各脚部(14)の下側に凹部(26)が形成され、着用者の胸(13)の上方に隆起している梁部(27)が形成される。各脚部(14)と対応する胸張出し部(25)とは、溝部(30)を形成し、溝部には、ハーネスの肩ストラップ(23)の一つが捕らえられて受容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拘束用のハーネスおよびヘルメットの着用時に、首および上部頸椎の損傷を防止するための保護装具に関する。特に、本発明は、頭および首の拘束具ないしはネックブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車レースや同様の活動に参加する運転者により装着される多くのネックブレース(neck brace)が開発されている。これらの活動において、運転者は、運転者の肩に架けられる肩ストラップを有する4点式、5点式または6点式のハーネスなどのハーネスにより座席に固定される。
【0003】
これらのネックブレースのうち、現在最も有名であり、かつ広範に使用されている装具は、HANS(登録商標)デバイスである。このネックブレースは、運転者の肩ストラップの下で胸に架けられて延び、首すじに交差して延びる2つの張出し部を有する。2つの張出し部は、首の後ろの上向き張出し部と、この張出し部からヘルメットへと上向きに延びるストラップまたは繋ぎ紐(tether)とを伴っている。急激な減速時(事故時など)において、ヘルメットを被せられた頭は、胴に対して前向きに移動し易くなり、この動きは、繋ぎ紐により制限される。
【0004】
他にも、Safety Solutions(登録商標)などにより同様の装具が開発されており、ヘルメットと運転者の首の後ろにある上向きの張出し部との間に延びる紐を用いて、運転者の肩の後ろの所定位置に固定される強固な装具が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの装具のいずれも、側面衝撃時には運転者の首を適切に保護しない。また、HANSデバイスは、運転者の胸に不快感を及ぼし(このために分厚い詰め物を必要とする。)、衝撃中に肩ストラップの下から外れ易い。本発明は、これらの欠陥に対処する改良されたネックブレースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、堅い本体部を備えるネックブレースであって、該本体部が、着用者の首の両側で側方に延び、かつ着用者の胴の前面に沿って延びるように形成されて構成される2つの脚部であり、それらの間に間隙を形成するように相隔てられる2つの脚部と、着用者の両肩の辺りに、着用者により着用されるハーネスの肩ストラップの下で支えられるように形成されて構成される肩張出し部と、当該ネックブレースの脚部のそれぞれから側方に延びる胸張出し部であり、着用者の胸の辺りに、ハーネスの肩ストラップの下で支えられるように形成されて構成される胸張出し部とを形成するネックブレースにおいて、当該ネックブレースの脚部のそれぞれによって、肩張出し部と胸張出し部の間で、脚部の下側に凹部が形成され、肩張出し部と胸張出し部の間に延びる脚部の一部によって、着用者の胸の上方に隆起する梁部が形成されることを特徴とするネックブレースが提供される。
【0007】
用語「堅い(stiff)」は、荷重に晒されると、変形に対して十分に抵抗して荷重を伝達する本体部を意味している。よって、この用語は、完全に剛な本体部を含み、ある程度変形しても、荷重の伝達に十分に抵抗する本体部をも含む。この用語は、荷重を伝達するよりもむしろ、衝撃荷重を変形により主に吸収する本体部を含まない。
【0008】
当該ネックブレースの脚部のそれぞれおよび対応する胸張出し部によって、ハーネスの肩ストラップの一つを受容可能な溝部が形成されてもよく、この場合、溝部が、胸張出し部により肩ストラップの下側で画定され、着用者の胸の上方に延びる当該ネックブレースの脚部の一部により肩ストラップの内側で画定され、かつ当該ネックブレースの脚部の他部により肩ストラップの上方で画定されてもよい。
【0009】
当該ネックブレースは、当該ネックブレースの本体部と、当該ネックブレースの着用者により着用されるヘルメットとに取り付け可能な少なくとも一つの繋ぎ紐を含んでもよい。
【0010】
肩張出し部のそれぞれが、直立翼構造の形状で、肩張出し部の外端に直立案内構造を有してもよい。
【0011】
本発明をより理解するため、かつ本発明を実施する方法を示すために、本発明は、非限定的に、添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るネックブレースの上面および前面を示す斜視図である。
【図2】図1のネックブレースの側面を少し上方から示す斜視図である。
【図3】ハーネスおよびヘルメットを着用している運転者の肩上で使用されている、図1および図2のネックブレースの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照すると、本発明に係るネックブレースが参照番号10により全体的に示されている。
【0014】
ネックブレース10は、ガラス強化ポリマなどの剛性材からなる概ねU字形の本体部12を有する。本体部は、かなり剛性が高いが、快適性のために曲げ荷重により僅かに屈曲可能であることが望ましく、衝撃荷重を伝達するのに十分な程度に堅くあるべきである反面、衝撃荷重を変形により吸収する程度まで柔軟であるべきではない。
【0015】
本体部12は、首11の両側で概ね平行に延び、かつネックブレース10の着用者の胸13の前面に沿って延びる2つの脚部14を有する。2つの脚部14は、それらの後端で、着用者の首11の後ろに延びるアーチ構造17により接続される。アーチ部17の上方には、段構造15が存在し、その上方には、着用者の首の後ろで上向きに延びる後壁16が存在する。後壁16は、着用者がヘルメットと後壁の間の間隙を伴ってヘルメット19を着用できるように、着用者の頭の後ろに十分隔てられて存在する。
【0016】
2つの脚部14の間には、ネックブレース10の前面に開放される間隙または凹部18が形成される。ネックブレース10は、本体部12の前面開放構造によって、着用者の首11の後ろから着用者に対して装着可能となる。
【0017】
本体部12は、着用者の各肩21の上方で側方に延びる2つの肩張出し部20を有する。各肩張出し部20は、アーチ部17と一体に形成されるが、アーチ部よりも僅かに前方に配置される。各肩張出し部は、着用者により着用されるハーネスの肩ストラップ23を支持するのに十分な幅を有する上面22を形成し、かつ肩21になじむ下面を有する。上面22の位置(orientation)は、通常使用時における肩ストラップ23の下面の位置と概ね一致する。各肩張出し部20の外端には、通常使用時において肩張出し部からの肩ストラップの滑り落ち(または肩ストラップの下からの肩張出し部の脱け出し)を防止するために、肩ストラップ23の外側で上向きに延びる直立案内構造24または「翼」が存在する。上面22および翼24は、これらの構造が稜角で形成される場合に荷重作用時(肩ストラップ23が翼を外側に押す場合など)に生じうる応力集中を防止するために、湾曲した態様で合わせられることが望ましい。
【0018】
各脚部14は、それに対応する肩張出し部20の辺りから概ね前向きに延び、胴または胸13の前面に向けて下向きに湾曲し、側方の胸張出し部25に延びる。肩張出し部20と胸張出し部25の間では、肩張出し部と胸張出し部の間に延びる脚部の一部によって、胸13の上方に隆起している梁部(beam)27を形成するために、脚部14の下側によって凹部26を形成する。胸13の上方での梁部27の隆起は、鎖骨の辺りでの胸の締付けを防止する。よって、ネックブレース10の通常使用時における不快感を改善し、事故時に胸13上にあるネックブレースの衝撃により生じる胴の損傷を改善する。
【0019】
各胸張出し部25は、着用者の胸13の前面と概ね一直線をなす強固な板状をなし、対応する肩ストラップ23の下に延びる。胸張出し部25は、肩ストラップ23の全幅に亘って十分に延びることが望ましい。
【0020】
各脚14は、着用者の首11の後ろの段部15と概ね一直線をなし、かつ肩張出し部20の辺りで、肩張出し部20の上方で脚部の上部に沿って前向きに延び、梁部27に沿って脚部の前部に延びる堅固な板状をなす突縁(flange)28を有する。突縁28は、脚部14の上部から外側に向けて延び、肩ストラップ23の上方に延び、かつ肩21および胸13の上方に隔てられており、突縁の上面は、衝撃面を形成する。
【0021】
胸張出し部25の辺りでは、各脚部14は、胸張出し部25の内端と突縁28の内端との間で胸13の上方に延びる壁を形成する。壁29は、胸張出し部25の上面、壁29の外面および突縁28の下面により溝部30を画定するように、突縁28と胸張出し部25を相隔てる。肩ストラップ23は、胸の辺りで溝部30の内部で延びる(胸張出し部25の下側の同様な表面と、脚部の内側および上側の形状とによって画定される溝部30を画定していれば、胸張出し部25の形状および胸の辺りの脚部14の前部の形状が前述した形状と異なってもよい。)。
【0022】
溝部30は、胸の領域から、後ろ向きに突縁28の下側で肩の領域まで延びると見なされる。肩の領域では、溝部30は、その内側でアーチ部17に隣接し、その下側で肩張出し部20に隣接し、その外側で翼24に隣接する
【0023】
ネックブレース10は、ヘルメット19の各側およびアーチ部17に取り付けられる2つの繋ぎ紐31を有する。本体部12とヘルメット19の間で延びる、他にも様々な繋ぎ紐の配置が可能である。
【0024】
通常使用時において、着用者に対するネックブレース10、ヘルメット19および肩ストラップ23の位置は、前述した通りである。繋ぎ紐31は、着用者による頭の自由な動きを可能にする十分な緩みを有すること(またはアーチ部17への取付きをずらせること)が好ましい。ヘルメット19の後面は、後壁16から前方に隔てられ、ヘルメットの下面は、突縁28の衝撃面の上方に隔てられる。肩ストラップ23は、肩張出し部20を肩21に堅く保持し、かつ胸張出し部25を胸13に堅く保持する。
【0025】
着用者の体が事故時における急激な減速による衝撃などに晒されると、着用者の上体は、肩ストラップ23を含むハーネスにより大幅に拘束されるが、頭および首11は、ハーネスにより拘束されることがない。肩ストラップ23は、通常使用時において引張り状態にあり、この引張りは、通常、肩ストラップの引張りによって着用者の肩21および胸13に対してネックブレース10を所定位置に維持するのに十分となるように、側面衝撃時または前面衝撃時に増加する。
【0026】
このような衝撃時(特に側面衝撃時)において、しばしば、肩張出し部20および/または胸張出し部25から肩ストラップ23が勢いで引き抜かれ易くなり、または肩ストラップに対する位置からネックブレース10が勢いで引き出され易くなる。いずれの場合も、ネックブレース10と肩ストラップ23の間の相対移動を防止しない限り、ネックブレースは、外れてしまい機能しなくなる。しかし、肩ストラップ23は、溝部30に捕われて保持され、特に壁29は、肩ストラップ23に対する脚部14の前部の側方移動を防止する(この点に関して、各壁29は、2つの壁の組合せ効果により、いずれかの側への滑動を防止するように、対応する肩ストラップ23の内向きのずれを防止することが理解される。)。同様に、翼24は、肩の領域において肩ストラップ23に対するネックブレースの側方移動を防止する。
【0027】
事故時において、ネックブレース10に対するヘルメット19の動きは、繋ぎ紐31が緊張し、かつヘルメットの更なる動きを制限する程度までは許容される。このヘルメットの動き制限は、首の過度の動きを抑制し、よって首11および上部頸椎の損傷を改善または防止し、事故時におけるネックブレース10の外れを防止するのに役立つ前述した帯溝部30の構成によって、本方法による首および脊椎骨の保護効果を大幅に向上させる。
【0028】
ヘルメット19から繋ぎ紐31に及ぶ衝撃荷重、および続いて繋ぎ紐からアーチ部17に及ぶ衝撃荷重は、首11ではなく、荷重経路を通じて着用者の体に伝達される必要がある。脚部14の主要な目的の一つは、これらの力のいくらかを着用者の胸13に伝達することにある。繋ぎ紐31からの衝撃荷重は、前面衝撃時にはネックブレース10に前向きの勢いを一般に及ぼし、脚部14の前端に胸13により作用する反対の荷重は、脚部14の長さにより規定されるモーメントアームと相まって、繋ぎ紐により作用する勢いに対する抵抗を大いに助長する。しかし、これらの力が鎖骨の辺りで着用者の胸に作用するならば、不快感、打撲および/または骨折を生じる場合がある。これらの好ましからざる結果は、凹部26の辺りにおける胸より上方の梁部の隆起によって防止される。
【0029】
背面衝撃時(または前面衝撃に続く反作用時)において、ヘルメット19は、後方に移動可能であり、後壁16に衝撃を及ぼし、ネックブレース10に後向きの勢いを及ぼし、胸張出し部25上の肩ストラップ23の下向き荷重およびモーメントアームとして作用する脚部14(特に梁部27)により抵抗を受ける。
【0030】
側面衝撃において、ヘルメット19(および頭)の側方移動は、後壁により防止されず、繋ぎ紐31は、前面衝撃時の場合ほど効果的ではない(正面衝撃時および側面衝撃時における繋ぎ紐31の効果は、それらの位置に大きく依存するが、これらの2つの状況では効果の間に概ねトレードオフの関係が存在する。)。結果として、ヘルメット19は、側方衝撃時に側方に傾くことができ、ヘルメットの下面は、突縁28の衝撃面に衝撃を及ぼす。首の過度の側方移動は、よって防止され、衝撃荷重は、ネックブレースを通じて着用者の体に伝達される。胸の領域へ向けて前向きに脚部13に沿って突縁28を延長すると、頭の過度の移動の防止を助長する。これは、事故時において肩ストラップ23が緊張すると、ネックブレース10は、着用者の体に対して後退し易くなるとともに、着用者の体に対してネックブレースが後向きに移動した場合でも、ヘルメットの側方移動からの衝撃を受けるために、突縁28の前向きの拡張によって、突縁28の一部をヘルメットの側方の所定位置に留めることが確実となるためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堅い本体部(12)を備えるネックブレース(10)であって、
前記本体部が、
着用者の首(11)の両側で側方に延び、かつ前記着用者の胴(13)の前面に沿って延びるように形成されて構成される2つの脚部(14)であり、それらの間に間隙(18)を形成するように相隔てられる2つの脚部(14)と、
前記着用者の両肩(21)の辺りに、前記着用者により着用されるハーネスの肩ストラップ(23)の下で支えられるように形成されて構成される肩張出し部(20)と、
当該ネックブレースの前記脚部(14)のそれぞれから側方に延びる胸張出し部(25)であり、前記着用者の胸(13)の辺りに、前記ハーネスの前記肩ストラップ(23)の下で支えられるように形成されて構成される胸張出し部(25)と
を形成するネックブレースにおいて、
当該ネックブレースの前記脚部(14)のそれぞれによって、前記肩張出し部(20)と前記胸張出し部(25)の間で、前記脚部(14)の下側に凹部(26)が形成され、前記肩張出し部(20)と前記胸張出し部(25)の間に延びる前記脚部(14)の一部によって、前記着用者の胸(13)の上方に隆起する梁部(27)が形成されることを特徴とする、ネックブレース。
【請求項2】
当該ネックブレース(10)の前記脚部(14)のそれぞれおよび対応する前記胸張出し部(25)によって、前記ハーネスの前記肩ストラップ(23)の一つを受容可能な溝部(30)が形成され、前記溝部(30)が、前記胸張出し部(25)により前記肩ストラップ(23)の下側で画定され、前記着用者の胸(13)の上方に延びる当該ネックブレースの前記脚部(14)の一部(29)により前記肩ストラップ(23)の内側で画定され、かつ当該ネックブレースの前記脚部(14)の他部(28)により前記肩ストラップ(23)の上方で画定されることを特徴とする、請求項1に記載のネックブレース。
【請求項3】
当該ネックブレースの前記本体部(12)と、当該ネックブレースの前記着用者により着用されるヘルメット(19)とに取り付け可能な少なくとも一つの繋ぎ紐(31)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のネックブレース。
【請求項4】
前記肩張出し部(20)のそれぞれが、前記肩張出し部(20)の外端に直立案内構造(24)を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のネックブレース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−509702(P2012−509702A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537006(P2011−537006)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055365
【国際公開番号】WO2010/061348
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(507399852)エクシード ホールディングス クロース コーポレーション (2)