説明

ネットワークの設計を支援するための方法および装置

【課題】ECUの統合化やネットワークの最適化を支援するための技術を提供する。
【解決手段】設計支援装置が、ノード間の通信量に相関のある尺度で類似度を定義し、前記複数のノードにおける全てのノードの組み合わせについて類似度を算出するステップと、前記算出した類似度を用いてn次元の主座標分析を行い、前記複数のノードそれぞれのn次元座標を算出するステップと、前記算出したn次元座標に基づいてクラスタリングを行い、前記複数のノードを複数のグループ(クラスタ)に分割するステップと、前記クラスタリングの結果を出力するステップと、を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークの設計を支援するための技術に関し、特に車載ネットワークの最適設計を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の電子化が進み、車両内にはさまざまな機能をもつ多数のECU(Electronic
Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されるようになっている。これら複数のEC
Uは車載ネットワーク(車載LAN)に接続され、互いに情報を交換している(たとえば特許文献1、2参照)。また最近では、カーナビゲーションシステムや通信端末などを車載ネットワークに接続するものも提案されている。なお車載ネットワークの規格としては、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、MO
ST(Media Oriented Systems Transport)、FlexRayなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−279915号公報
【特許文献2】特開2007−28411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子制御の対象や機能の増加に伴って、ECUの数およびネットワークの規模が増大している。車種によっては1台の車の中に百個以上のECUが搭載されているものもある。しかし、ECUやワイヤハーネスの設置空間には限りがあり、またコスト的な制約もあることから、最近では、ECUの統合化やネットワークの最適化などが求められるようになってきている。とはいえ、これを実現するには、ネットワーク上に存在するすべてのノード間の関係を考慮した上でネットワークを設計する必要がある。従前はデザイナ(設計者)が試行錯誤的に車載ネットワークの設計を行っているのが実情であるため、ネットワークの大規模化により最適な設計が困難となっていた。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ECUの統合化やネットワークの最適化を支援するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明では、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の第一態様は、複数のノードから構成されるネットワークの設計を支援するための方法であって、コンピュータが、ノード間の通信量に相関のある尺度で類似度を定義し、前記複数のノードにおける全てのノードの組み合わせについて類似度を算出するステップと、前記算出した類似度を用いてn次元の主座標分析を行い、前記複数のノードそれぞれのn次元座標を算出するステップと、前記算出したn次元座標に基づいてクラスタリングを行い、前記複数のノードを複数のグループ(クラスタ)に分割するステップと、前記クラスタリングの結果を出力するステップと、を実行することを特徴とする。
【0008】
ここで「ノード」とは、ECU等の物理的なノードに限らず、ECUで実行されている一つの機能(プログラム、タスク)のような論理的なノードも含む概念である。またノード間の「類似度」は、ノード間の通信量に相関のある尺度、すなわち、ノード間の通信量が大きければ類似度が高く、通信量が小さかったりノード間の通信が不能である場合(ネ
ットワークが接続されていないなどの物理的な制約がある場合も含む)には類似度が低くなるような尺度となるように定義すればよい。また「n」は、1≦n≦N(N:ノードの総数)を満たす整数である。
【0009】
上述した主座標分析により得られるn次元座標は、ノード間の類似度、すなわちノード間の通信量の大小を反映した値となり、類似度が高いほどn次元空間上のノード間の距離は近くなる。それゆえ、クラスタリングにより、通信量の大きいノード同士が同じグループ(クラスタ)になるような分類が行われる。このようなクラスタリング結果をネットワークの設計者に提示することにより、効率的なネットワークの設計が容易となる。
【0010】
また、コンピュータに、前記グループに対してサブネットを割り当てたネットワークの設計案を作成し出力するステップを実行させることも好ましい。さらに、コンピュータに、前記グループに含まれる複数のノードを単一のノードに置き換えたネットワークの設計案を作成し出力するステップを実行させることも好ましい。このような設計案を自動的に生成し、設計者に提示することにより、ネットワーク設計のさらなる効率化を図ることができる。
【0011】
また、コンピュータに、前記複数のノードのそれぞれのn次元座標がプロットされたn次元空間を表示するステップを実行させることも好ましい。これにより、ノード間の関係を可視化することができる。このようにノード間の関係を可視化するだけでも、設計者にネットワーク設計のヒントや気付きを与えることができ、開発効率の向上を期待できる。
【0012】
なお、本発明は、上記の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムや、そのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体として捉えることもできる。また本発明は、上記の各ステップを実現する機能手段を備えるネットワークの設計支援装置(設計支援システム)として捉えることもできる。なお上記機能手段およびステップの各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ECUの統合化やネットワークの最適化を支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、ネットワークの設計支援装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、設計支援装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図3は、設計情報の一例を模式的に示した表である。
【図4】図4は、分析結果の出力例を示す図である。
【図5】図5は、ネットワークの設計案の出力例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0016】
(設計支援装置の構成)
図1は、ネットワークの設計支援装置の機能構成を示すブロック図である。この設計支援装置は、車載システムのネットワーク設計を支援するためのシステムであり、設計者に対して車載ネットワークの設計に有益な参考情報を提供することを目的とするものである。
【0017】
ここで車載システムとは車両内に搭載される電子制御システムをいい、互いにネットワークで接続された複数のECU、電子機器(たとえばカーナビゲーションシステム)など
から構成されるものである。ECUの機能としては様々なものがあり、代表的なものとしては、エンジン制御、ABS制御、変速機制御、センサシステム、エアバッグシステム、プリクラッシュシステムなどがある。
【0018】
設計支援装置は、その機能として、設計情報取得部1、類似度算出部2、主座標分析部3、クラスタ分析部4、結果出力部5を備えている。この設計支援装置は、CPU、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(HDDなど)、表示装置、入力装置(キーボードやマウスなど)、通信IFなどを備えた汎用のコンピュータシステムにより構成可能であり、上述した各機能はCPUが補助記憶装置等に格納されたプログラムを読み込み実行することにより実現されるものである。
【0019】
(処理フロー)
図2のフローチャートに沿って、設計支援装置の各機能および処理について詳しく説明する。
【0020】
まずステップS10において、設計情報取得部1が、分析対象とする車載システムの設計情報を取得する。設計情報には、車載システムを構成する各ノード(ECU、電子機器など)の通信状況を示す情報が含まれている。図3は設計情報の一例を模式的に示したものであり、この例では、送信ノード、送信ノードから送信されたデータの通信周期およびデータ量、そのデータの受信ノードといった情報が含まれている。なお図3では、○が付いている箇所がデータを受信する受信ノードを示しており、自ノードは必ず通信があるものとしている。たとえば2行目は、ノード2からノード3に対して50msecの周期で2ビットのデータが送信されていることを意味している。このような設計情報は、既存の車載システムの通信ログから生成してもよいし、シミュレーションにより仮想的に生成することもできる。
【0021】
ステップS11において、類似度算出部2が、設計情報を元にノード間の類似度を算出する。ノード間の類似度とは、ノード間の通信量に相関のある尺度であり、本実施形態ではノード間でやり取りされたデータ量をその通信周期で除した値を類似度と定義する。図3の例では、ノード2と他のノードとの類似度は以下のように求められる。ただし、rijは、ノードiからノードjへの類似度を示している(i=1,2,…,N;j=1,2,…,N;Nはノードの総数)。
【数1】

ここで、ノード2から複数種類の送信がある場合には、図3に示す設計情報の中に、ノード2を送信ノードとする行が複数存在することとなる。その場合は、各行について上記のように類似度を計算した後、それらをノードの組毎に合算すればよい。
【0022】
すべてのノードの組み合わせについて類似度rijを算出したら、続いて、類似度算出部2は類似度rijを要素とする類似度行列Rを作成する。ここで、類似度行列を対称行列とするため、下記式のように類似度行列Rを求める。
【数2】

【0023】
次に、ステップS12において、主座標分析部3が、ノード間の類似度を用いて、類似度を反映したノードの空間配置を求める。この処理には、主座標分析を用いる。すなわち、まず主座標分析部3は、類似度行列Rより固有値λと固有ベクトルvを求める。ここで固有ベクトルv
【数3】

と置くと、ノードiの座標は、以下の通り求まる。
【数4】

【0024】
このような主座標分析により得られる座標は、ノード間の類似度、すなわちノード間の通信量の大小を反映した値となり、類似度が高いほど座標空間上のノード間の距離は近くなる。
【0025】
なお、本実施形態ではN次元の座標を求めているが、場合に応じて、Nよりも少ない次元数で主座標分析を行うことも好ましい。たとえば、固有値の大きいものから順にn個(1≦n≦N)の要素のみを用いて、n次元の座標を求めればよい。nの値は固定でもよいし(たとえば、座標系の表示の便宜から、n=2またはn=3に固定する)、類似度行列から求めた固有値・固有ベクトルに基づいて適応的にnの値を変えてもよい。後者の一例としては、固有値から求まる累積寄与率を用いて閾値処理を行い、閾値以下の固有値に関連する部分を無視する、といった手法が考えられる。
【0026】
次に、ステップS13において、クラスタ分析部4が、n次元座標に基づいてクラスタリングを行い、N個のノードを複数のグループ(クラスタ)に分割する。このクラスタリング処理によって、関連性の高い(つまり互いの通信量が大きい)ノード同士が同じグループになるような分類が行われる。なおクラスタリングの手法としてはK平均法など種々の手法が知られており、ここではそのいずれの手法を利用してもよい。
【0027】
最後に、ステップS14において、結果出力部5が分析結果を出力する。図4は分析結果の出力例を示している。図4の例は、60個のノードから構成された車載ネットワークの設計情報を分析した結果である。主座標分析では3個の固有値を採用して、3次元座標を算出した。これをK平均法によりクラスタリングしたところ、図4に示すように、60個のノードが3つのグループ(クラスタ)に分類されたことがわかる。
【0028】
設計者は、このような分析結果を参考にすることで、ネットワークの設計を効率的に行うことが可能である。たとえば、図4の分析結果にしたがって、各グループにサブネットを設定したり、各ノードの物理的な配置を決定したり、同じグループ内の通信帯域を大きくする、といった改良が考えられる。また、同一のグループに含まれる複数のノード(ECU)を統合し、単一のノード(ECU)で置き換えるといった設計変更を行うこともで
きる。
【0029】
(変形例)
上記実施形態は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0030】
たとえば、分析結果の出力形式は図4の例に限られない。たとえば、クラスタリングを行わず、単に、複数のノードがプロットされたn次元空間を表す画像を表示するだけでもよい。これにより、ノード間の関係の強さ(通信の多さ、少なさ)を可視化できる。ノード間の関係を可視化したものを提示するだけでも、設計者にネットワーク設計のヒントや気付きを与えることができ、開発効率の向上を期待できる。また、グラフィカルな表示ではなく、単純に、グループ(クラスタ)別にノード一覧を出力するだけでもよい。分析結果の出力先に関しても、たとえば分析結果を表示装置に出力してもよいし、印刷装置でプリントアウトしてもよいし、あるいはデジタルデータを外部のコンピュータなどに出力してもよい。
【0031】
また、単にクラスタリング結果などを出力するだけでなく、結果出力部5がネットワークの設計案(改良案)を自動で作成し出力することも好ましい。たとえば、結果出力部5が、それぞれのグループに対してサブネットを割り当てたり、グループ内の複数の近接ノードを一つの統合ノードに置き換えたりした、ネットワークの構成例を作成し出力することができる(図5参照)。このような設計案を提示することで、ネットワーク設計のさらなる効率化が期待できる。
【0032】
また、上記実施形態では、ECUのような物理ノードの設計情報を用いる例を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限らない。たとえば、ECUで実行されている機能(プログラム、タスク、アプリケーションということもできる)を一つのノードとして捉えることもできる。この場合も上記実施形態と同様、論理ノード間の通信量などから論理ノード間の類似度を算出し、主座標分析およびクラスタリングを行うことにより、論理ノードレベルでのグループ分けを行うことができる。さらに、論理ノードレベルの分析結果を用いて物理ノードレベルの設計を行うこともできる。すなわち、論理ノードレベルの分析で得られた各グループを一つの物理ノードに設定し、その物理ノードごとの通信量を計算する。そして、物理ノードごとの通信量から類似度を計算して、主座標分析およびクラスタリングを実行し、サブネット分割を行うのである。このように、本発明は、ノードや通信量をどのレベルで分析するかにより、ネットワークの各層(物理層、データリンク層、アプリケーション層など)における最適な設計が可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…設計情報取得部
2…類似度算出部
3…主座標分析部
4…クラスタ分析部
5…結果出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノードから構成されるネットワークの設計を支援するための方法であって、
コンピュータが、
ノード間の通信量に相関のある尺度で類似度を定義し、前記複数のノードにおける全てのノードの組み合わせについて類似度を算出するステップと、
前記算出した類似度を用いてn次元の主座標分析を行い、前記複数のノードそれぞれのn次元座標を算出するステップと、
前記算出したn次元座標に基づいてクラスタリングを行い、前記複数のノードを複数のグループに分割するステップと、
前記クラスタリングの結果を出力するステップと、
を実行することを特徴とするネットワークの設計支援方法。
【請求項2】
前記グループに対してサブネットを割り当てたネットワークの設計案を作成し出力するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載のネットワークの設計支援方法。
【請求項3】
前記グループに含まれる複数のノードを単一のノードに置き換えたネットワークの設計案を作成し出力するステップを更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載のネットワークの設計支援方法。
【請求項4】
前記複数のノードのそれぞれのn次元座標がプロットされたn次元空間を表示するステップを更に備えることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のネットワークの設計支援方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のネットワークの設計支援方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項6】
複数のノードから構成されるネットワークの設計を支援するための装置であって、
ノード間の通信量に相関のある尺度で類似度を定義し、前記複数のノードにおける全てのノードの組み合わせについて類似度を算出する類似度算出手段と、
前記類似度算出手段により算出した類似度を用いてn次元の主座標分析を行い、前記複数のノードそれぞれのn次元座標を算出する主座標分析手段と、
前記主座標分析手段により算出したn次元座標に基づいてクラスタリングを行い、前記複数のノードを複数のグループに分割するクラスタリング手段と、
前記クラスタリングの結果を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とするネットワークの設計支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−205109(P2010−205109A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51660(P2009−51660)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】