説明

ネットワークシステムおよびネットワーク故障回避方法

【課題】複数回線の同時故障発生時のパケットロスを回避するための信頼性の高いネットワークシステムを提供する。
【解決手段】L2スイッチは、リンクアグリゲーションで束ねられた複数の回線を介して、複数のL3スイッチに接続される所定のL2スイッチまたはそれに接続されるユーザ端末を宛先とし、かつ回線ごとに異なる識別子を有する監視パケットを送信し、応答パケットを受信しその応答パケットの識別子から複数の回線のうち監視パケットが到達した回線と、監視パケットが到達しない回線を判別し、監視パケットが到達しない回線に接続されるL3スイッチから他のL2スイッチまでの経路での故障を検知し、故障の検知により、所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、リンクアグリゲーションの転送フレーム振り分け処理の対象外とし、監視パケットが到達した回線のみから送信するように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザ端末を収容するL2スイッチ(レイヤ2スイッチ)と、L2スイッチを束ねるL3スイッチ(レイヤ3スイッチ)により構成され、リンクアグリゲーションを用いた冗長構成をとるネットワークシステムにおいて、L3スイッチに接続される複数回線の同時故障に対するユーザ端末間の通信の信頼性を高めるネットワークシステムおよびネットワーク故障回避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景となるネットワークシステムの物理構成、論理構成、およびユーザ通信経路について図5を参照して説明する。
【0003】
(ネットワークシステムの物理構成)
図5において、ユーザ端末11はL2スイッチ21に接続され、ユーザ端末12はL2スイッチ22に接続され、ユーザ端末13はL2スイッチ23に接続される。ここでは簡単のため、L2スイッチ1台につき、ユーザ端末1台が接続される構成であるが、L2スイッチには複数のユーザ端末が接続されていてもよい。L2スイッチ21は、回線1および回線2を介してL3スイッチ31およびL3スイッチ32の両方に接続される。同様に、L2スイッチ22は、回線3および回線4を介してL3スイッチ31およびL3スイッチ32の両方に接続され、L2スイッチ23は、回線5および回線6を介してL3スイッチ31およびL3スイッチ32の両方に接続される。回線7は、L3スイッチ31とL3スイッチ32を接続するための回線であって、L3スイッチ31およびL3スイッチ32間で直接接続する回線であっても、ルータ等のネットワーク装置を介してL3スイッチ31およびL3スイッチ32を接続する仮想的な回線であってもよい。
【0004】
(ネットワークシステムの論理構成)
L2スイッチ21から見て、L3スイッチ31およびL3スイッチ32は、物理的には異なる回線である回線1および回線2を介して接続される2台の装置であるが、リンクアグリゲーション41(非特許文献1)を用いた装置冗長接続技術により、それぞれ論理的に1本の回線、1台の装置として動作する。同様に、回線3および回線4を束ねたリンクアグリゲーション42を構成することで、L2スイッチ22から見て、L3スイッチ31およびL3スイッチ32は論理的に1台のL3スイッチとして認識される。また、回線5および回線6を束ねたリンクアグリゲーション43を構成することで、L2スイッチ23から見て、L3スイッチ31およびL3スイッチ32は論理的に1台のL3スイッチとして認識される。
【0005】
(ネットワークシステムのユーザ通信経路)
リンクアグリゲーション41,42,43上では、それぞれロードバランスにより通信帯域の負荷分散を行う。ロードバランスにおける転送フレームの出力先回線は、フロー単位や宛先単位等、任意の転送フレーム振り分けルールに基づき、L2スイッチ21,22,23のそれぞれの内部処理によって決定される。上記ロードバランスを行った際、ユーザ端末11からユーザ端末12への通信経路は、図5に示すユーザ通信経路51およびユーザ通信経路52の2パターン、および図示しない2パターンが存在する。
【0006】
(1) ユーザ通信経路51:ユーザ端末11→L2スイッチ21→回線1→L3スイッチ31→回線3→L2スイッチ22→ユーザ端末12
(2) ユーザ通信経路52:ユーザ端末11→L2スイッチ21→回線2→L3スイッチ32→回線4→L2スイッチ22→ユーザ端末12
【0007】
(3) ユーザ通信経路51’(図示せず):ユーザ端末11→L2スイッチ21→回線1→L3スイッチ31→回線7→L3スイッチ32→回線4→L2スイッチ22→ユーザ端末12
(4) ユーザ通信経路52’(図示せず):ユーザ端末11→L2スイッチ21→回線2→L3スイッチ32→回線7→L3スイッチ31→回線3→L2スイッチ22→ユーザ端末12
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE802.1AX IEEE Standard for Local and metropolitan area networks Link Aggregation
【非特許文献2】Request for Comments: 792 Internet Control Message Protocol
【非特許文献3】Request for Comments: 1442 Structure of Management Information for version 2 of the Simple Network Management Protocol
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(複数回線の同時故障とユーザ通信不能のメカニズム)
図5のネットワークシステムにおいて、L3スイッチに接続される複数回線の同時故障によりユーザ間の通信が不能となるメカニズムについて図6を参照して説明する。
【0010】
図6において、L2スイッチ21にL3スイッチ31およびL3スイッチ32が接続される場合、例えばその一方のL3スイッチ31の先の複数の回線3および回線7が同時に故障すると、L3スイッチ31からL2スイッチ22に対する転送フレームは不達になってしまう。すなわち、L2スイッチ21は、L3スイッチ31からの転送フレームの到達性が失われたことを認識できないため、ユーザ端末11からユーザ端末12への通信において、リンクアグリゲーション41の転送フレーム振り分けルールに基づき、L2スイッチ21が一部の転送フレームをL3スイッチ31へ転送すると、転送されたフレームはL3スイッチ31において宛先不明パケットとして破棄される。
【0011】
(従来技術での課題解決方法およびその弊害)
図6に示すような複数回線の同時故障に対して、ダイナミックルーティングにより装置冗長化を行うことで、複数回線の同時故障時の通信不能を回避することはできる。しかし、ネットワーク装置間でダイナミックルーティング設定するには、L2スイッチをL3スイッチで置き換える必要があり、ネットワーク設計の複雑化や必要となる装置設定の増加等、運用性の低下が懸念される。また、L2スイッチに比べ、L3スイッチは一般的に高価であるため、L2スイッチで構成するネットワークよりも導入コストが高くなるという弊害が生じる。
【0012】
本発明は、上記の課題に対して、リンクアグリゲーションを用いてL2スイッチ−L3スイッチ間を装置冗長接続としたネットワークシステムにおいて、複数回線の同時故障発生時のパケットロスを回避するための信頼性の高いネットワークシステムおよびネットワーク故障回避方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、それぞれ複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチとを備え、複数のL2スイッチのそれぞれと複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムにおいて、L2スイッチは、リンクアグリゲーションで束ねられた複数の回線を介して、複数のL3スイッチに接続される所定のL2スイッチまたはそれに接続されるユーザ端末を宛先とし、かつ回線ごとに異なる識別子を有する監視パケットを送信する手段と、複数のL3スイッチを介して監視パケットを受信したときに、監視パケットを送信したL2スイッチを宛先とし、監視パケットに含まれる識別子を有する応答パケットを送信する手段と、応答パケットを受信し、その応答パケットの識別子から複数の回線のうち監視パケットが到達した回線と、監視パケットが到達しない回線を判別し、監視パケットが到達しない回線に接続されるL3スイッチから他のL2スイッチまでの経路での故障を検知する手段と、故障の検知により、所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、監視パケットが到達した回線のみから送信するように設定する手段とを備える。
【0014】
第2の発明は、それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、それぞれ複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチとを備え、複数のL2スイッチのそれぞれと複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムにおいて、L3スイッチは、自身に直接接続された回線の故障を検知するとともに、複数のL3スイッチを相互に接続する回線が仮想回線の場合に、所定のL3スイッチを宛先とする監視パケットを送信し、その応答信号の受信の有無に応じてその仮想回線の故障を検知する手段と、複数のL2スイッチのうち所定のL2スイッチにフレームを転送する冗長化された回線および仮想回線のすべてが故障と検知されたときに、所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対して当該故障を通知する手段とを備え、L2スイッチは、故障の通知により、所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、故障を通知しないL3スイッチに接続される回線のみから送信するように設定する手段を備える。
【0015】
第2の発明のネットワークシステムにおいて、L3スイッチからの故障を通知する手段は、マネージメントプロトコルを使って故障状態を通知するか、故障そのものを通知せずにリモート接続プロトコルを使い、所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対してフレームを転送する回線を切り替えるための設定変更を行う構成である。
【0016】
第2の発明のネットワークシステムにおいて、L3スイッチの故障を通知する手段は、ネットワーク情報を管理する端末を介して所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに通知する構成である。
【0017】
第3の発明は、それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、それぞれ複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチとを備え、複数のL2スイッチのそれぞれと複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムのネットワーク故障回避方法において、L2スイッチは、リンクアグリゲーションで束ねられた複数の回線を介して、複数のL3スイッチに接続される所定のL2スイッチまたはそれに接続されるユーザ端末を宛先とし、かつ回線ごとに異なる識別子を有する監視パケットを送信し、複数のL3スイッチを介して監視パケットを受信したときに、監視パケットを送信したL2スイッチを宛先とし、監視パケットに含まれる識別子を有する応答パケットを送信し、応答パケットを受信し、その応答パケットの識別子から複数の回線のうち監視パケットが到達した回線と、監視パケットが到達しない回線を判別し、監視パケットが到達しない回線に接続されるL3スイッチから他のL2スイッチまでの経路での故障を検知し、故障の検知により、所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、監視パケットが到達した回線のみから送信するように設定する。
【0018】
第4の発明は、それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、それぞれ複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチとを備え、複数のL2スイッチのそれぞれと複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムのネットワーク故障回避方法において、L3スイッチは、自身に直接接続された回線の故障を検知するとともに、複数のL3スイッチを相互に接続する回線が仮想回線の場合に、所定のL3スイッチを宛先とする監視パケットを送信し、その応答信号の受信の有無に応じてその仮想回線の故障を検知し、複数のL2スイッチのうち所定のL2スイッチにフレームを転送する冗長化された回線および仮想回線のすべてが故障と検知されたときに、所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対して当該故障を通知することとし、L2スイッチは、故障の通知により、所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、故障を通知しないL3スイッチに接続される回線のみから送信するように設定する。
【0019】
第4の発明のネットワーク故障回避方法において、L3スイッチからの故障の通知は、マネージメントプロトコルを使って故障状態を通知するか、故障そのものを通知せずにリモート接続プロトコルを使い、所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対してフレームを転送する回線を切り替えるための設定変更を行う。
【0020】
第2の発明のネットワーク故障回避方法において、L3スイッチからの故障の通知は、ネットワーク情報を管理する端末を介して所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに通知する。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、冗長化されたL3スイッチに対し、L2スイッチがリンクアグリゲーションを介して冗長接続されたネットワークシステムにおいて、ユーザ間の通信が不能となる故障パターンをL2スイッチが検知し、当該故障パターンの検知を契機として出力先回線の切り替えを行うことで、複数回線の同時故障時にもユーザ通信を継続することができる。L2スイッチの機能拡張はソフトウェア拡張で行うことができるため、L2スイッチを用いたまま通信不能による運用性低下を回避するとともに、L3スイッチを新規に導入するよりも低コストでネットワークシステムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1の自律検知方式による故障パターンの検知処理例を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の自律検知方式による故障検知時の故障回避処理例を示す図である。
【図3】本発明の実施例2の故障通知方式による故障パターンの検知処理例を示す図である。
【図4】本発明の実施例2の故障通知方式による故障検知時の故障回避処理例を示す図である。
【図5】ネットワークシステムの物理構成、論理構成、ユーザ通信経路を説明する図である。
【図6】ユーザ間の通信が不能になるメカニズムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ユーザ間の通信不能を回避するために、L2スイッチがまずユーザ間の通信が不能となる故障パターンを検知し、その故障パターンの検知を契機に、ユーザ端末への到達性を失ったL3スイッチに対するフレーム転送を停止し、到達性を失っていないL3スイッチへフレームの転送先切り替えることを特徴とする。この故障パターンの検知方法として、本発明ではL2スイッチが自身で当該故障パターンを検知する自律検知方式と、L3スイッチ等の他の装置が当該故障パターンを検知してL2スイッチに通知す故障通知方式が存在する。それぞれの方式を実施例1、実施例2として以下に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の実施例1の自律検知方式による故障パターンの検知処理例を示す。なお、ネットワークシステムの物理構成、論理構成、ユーザ通信経路については、図5に示すネットワークシステムと同様とする。
【0025】
図1において、L2スイッチ21は、L3スイッチ31からL2スイッチ22へのフレーム到達性、およびL3スイッチ22からL2スイッチ22へのフレーム到達性を確認するため、送信元をL2スイッチ21、宛先をL2スイッチ22とするプローブパケットを送信する。プローブパケットとしては、L3スイッチを跨いだ到達性監視となるため、例えば非特許文献2に示すICMP(Internet Control Message Protocol )等のL3監視パケットを利用する。
【0026】
通常のL2スイッチは、リンクアグリゲーションを構成する物理回線を区別せず、L3監視パケットはロードバランスによって、回線1または回線2のどちらかから送信されるが、本発明によるL2スイッチ21では、回線1および回線2の両方に対し、送信元をL2スイッチ21、宛先をL2スイッチ22とするL3監視パケットを送信する。ここで、L2スイッチ21は、回線1と回線2から送信するL3監視パケットに付加する識別子情報をそれぞれ分けて管理する。例えば、L3監視パケットとしてICMP Pingを用いる場合は、ICMPフィールドの中の識別子フィールドを利用する。
【0027】
故障が発生していなければ、L3監視パケットは通信経路61および通信経路62を介してL2スイッチ22へ到達する。そして、L2スイッチ22は、通信経路61および通信経路62を介して転送されたL3監視パケットを受信し、その識別子情報を含む応答パケットをそれぞれ生成し、送信元をL2スイッチ22、宛先をL2スイッチ21としてそれぞれ送信する。L2スイッチ21は、L2スイッチ22からの応答パケットを受信してそれぞれの識別子を確認することで、L3スイッチ31およびL3スイッチ32からL2スイッチ22までのフレーム到達性があることを確認する。L2スイッチ21におけるL3監視パケットの送信動作は、任意の時間間隔で定期的に実施してもよいし、ネットワーク運用者が手動で実施してもよい。
【0028】
ここで、L2スイッチ21は、回線1と回線2から送信したL3監視パケットに対し、片方にのみ応答があった場合、回線1と回線2から送信したL3監視パケットの識別子情報と、L2スイッチ22からの応答パケットの識別子情報と対応付けることによって、どちらの回線から送信したL3監視パケットに対する応答かを把握することができる。例えば、回線3と回線7の同時故障により、L3スイッチ31からL2スイッチ22への転送フレームの到達性が失われた場合は、回線1から送信したL3監視パケットに対する応答パケットを受信することができない。また、回線4と回線7の同時故障により、L3スイッチ32からL2スイッチ22への転送フレームの到達性が失われた場合は、回線2から送信したL3監視パケットに対する応答パケットを受信することができない。このように、L2スイッチ21は、回線1および回線2から送信したL3監視パケットに対して片方にのみ応答があった場合、ユーザ間の通信が不能となる故障パターンが発生していることを検知することができる。
【0029】
なお、実施例1では、L2スイッチ21からのL3監視パケットの宛先をL2スイッチ22としたが、ユーザ端末12を宛先としてもよい。L3監視パケットの宛先をユーザ端末12とした場合、L3監視パケットに対する応答パケットの送信元はユーザ端末12となる。
【0030】
このようにしてL2スイッチ21がユーザ間の通信が不能となる故障パターンの発生を検知すると、当該故障経路を回避するようにフレーム転送先の切り替え動作を行う。なお、通常のL2スイッチは、ロードバランスで出力回線を決定する転送フレーム振り分けが装置の内部処理によって実行されるため、特定のフレームの出力先回線を明示的に指定することはできない。
【0031】
本発明によるL2スイッチには、指定された宛先情報を持つ転送フレームを、ロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、どの回線から出力するかを明示的に指定できる機能を持たせる。例えば、L2スイッチ22またはユーザ端末12を宛先とし、回線1から送信したL3監視パケットに対する応答がなかった場合には、ユーザ端末12を宛先とする転送フレームを、ロードバランス時の転送フレーム振り分けルールの対象外とするという対応関係は、事前設定情報としてL2スイッチ21に設定しておく。
【0032】
図2は、本発明の実施例1の自律検知方式による故障検知時の故障回避処理例を示す。 図2において、L2スイッチ21は、回線1および回線2から送信したL3監視パケットに対し、回線1から送信したL3監視パケットに対する応答パケットが得られない場合、L3スイッチ31に接続される回線3および回線7の両方に故障が発生していると判断する。この判断をしたL2スイッチ21は、ユーザ端末12を宛先とする転送フレームを、ロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、応答パケットを受信できた回線2からのみ転送フレームを送信し、ユーザ端末11からユーザ端末12への通信は、ユーザ通信経路52のみで転送される。
【0033】
なお、L2スイッチ21において、同様にしてL3スイッチ31およびL3スイッチ32からL2スイッチ23までの経路が正常と確認できた場合、L2スイッチ23に接続されるユーザ端末13を宛先とするフレームは、ロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象となり、回線1または回線2からL3スイッチ31またはL3スイッチ32のどちらかに送信される。すなわち、ユーザ端末12を宛先とするフレーム以外は、ロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象となり、回線1または回線2のどちらかから送信される。
【実施例2】
【0034】
図3は、本発明の実施例2の故障通知方式による故障パターンの検知処理例を示す。なお、ネットワークの物理構成、論理構成、ユーザ通信経路については、図5に示すネットワークと同様とする。
【0035】
図3において、故障通知方式では、まずL3スイッチにおいて、L3スイッチ自身からL2スイッチまでの到達性監視を行う。L3スイッチ31からL2スイッチ22へのフレーム到達性を確認するためには、回線3と回線7を監視する必要がある。L3スイッチ31から見て、回線3は直接接続されている回線であるため、プローブパケットを用いることなく回線3上の故障の有無を監視することができる。同様に、回線7が物理回線であり、L3スイッチ31とL3スイッチ32が回線7を介して直接接続されている場合、L3スイッチ31は、プローブパケットを用いることなく、回線7上の故障の有無を監視することができる。一方、回線7が仮想回線であり、L3スイッチ31−L3スイッチ32間がスイッチやルータ等、複数のネットワーク装置を介して接続されている場合は、L3スイッチ31からL3スイッチ32へのフレーム到達性を確認するためには、送信元をL3スイッチ31、宛先をL3スイッチ32とするプローブパケットを送信する必要がある。プローブパケットとしては、実施例1と同様のL3監視パケットとそれに対する応答パケットが利用できる。プローブパケットの送信動作は、任意の時間間隔で定期的に実施してもよいし、ネットワーク運用者が手動で実施してもよい。
【0036】
同様に、L3スイッチ31からL2スイッチ23への転送フレーム到達性については、L3スイッチ31が回線5および回線7を監視することにより確認する。また、L3スイッチ32からL2スイッチ22への転送フレーム到達性については、L3スイッチ32が回線4および回線7を監視することにより確認する。L3スイッチ32からL2スイッチ23への転送フレーム到達性については、L3スイッチ32が回線6および回線7を監視することにより確認する。
【0037】
ここで、回線3および回線7に同時に故障が発生した場合、L3スイッチ31からL2スイッチ22への転送フレームの到達性が失われるので、L3スイッチ31はユーザ間の通信が不能となる故障パターンであると判定し、L2スイッチ21およびL2スイッチ23へ当該故障パターンが発生したことを通知する。故障を通知する方法としては2つのパターン存在する。
【0038】
第1のパターンは、例えば非特許文献3に示すSNMP(Simple Network Management Protocol)等のマネージメントプロトコルを使って回線3および回線7の故障状態を伝える方法である。第2のパターンは、故障そのものは通知せず、TELNET等のリモート接続プロトコルを使い、L2スイッチ21においてフレーム転送先を切り替えるための設定変更を行う方法がある。L3スイッチ31からL2スイッチ21への故障通知経路については、通知経路71のようにL3スイッチ31からL2スイッチ21へ直接通知してもよいし、通知経路72のようにネットワーク情報を管理する端末であるネットワーク管理端末81を介して通知してもよい。
【0039】
図4は、本発明の実施例2の故障通知方式による故障検知時の故障回避処理例を示す。 図4において、L2スイッチ21は、実施例1と同様に、指定された宛先情報を持つ転送フレームをロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、出力回線を明示的に選択する機能を持つ。L2スイッチ21は、L3スイッチ32またはネットワーク管理端末81からの故障通知を契機に、ユーザ端末12を宛先とするフレームを回線2からのみ送信し、ユーザ端末11からユーザ端末12への通信は、ユーザ通信経路52のみで転送される。
【0040】
宛先情報がユーザ端末12以外のフレームは、ロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象となり、回線1または回線2のどちらかから送信される。回線3と回線7に故障が発生したときに、ユーザ端末12を宛先とする転送フレームを回線2から送信するという対応関係は、事前にL2スイッチ21に設定しておくか、L3スイッチ31またはネットワーク管理端末81に事前設定しておき、問題となる故障発生時にL2スイッチ21に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1,2,3,4,5,6,7 回線
11,12,13 ユーザ端末
21,22,23 L2スイッチ
31,32,33 L3スイッチ
41,42,43 リンクアグリゲーション
51,52 ユーザ通信経路
61,62 通信経路
71,72 通知経路
81 ネットワーク管理端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、
それぞれ前記複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチと
を備え、前記複数のL2スイッチのそれぞれと前記複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに前記複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムにおいて、
前記L2スイッチは、
前記リンクアグリゲーションで束ねられた複数の回線を介して、前記複数のL3スイッチに接続される所定のL2スイッチまたはそれに接続されるユーザ端末を宛先とし、かつ回線ごとに異なる識別子を有する監視パケットを送信する手段と、
前記複数のL3スイッチを介して前記監視パケットを受信したときに、前記監視パケットを送信した前記L2スイッチを宛先とし、前記監視パケットに含まれる識別子を有する応答パケットを送信する手段と、
前記応答パケットを受信し、その応答パケットの識別子から前記複数の回線のうち前記監視パケットが到達した回線と、前記監視パケットが到達しない回線を判別し、前記監視パケットが到達しない回線に接続される前記L3スイッチから前記他のL2スイッチまでの経路での故障を検知する手段と、
前記故障の検知により、前記所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、前記リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、前記監視パケットが到達した回線のみから送信するように設定する手段と
を備えたことを特徴とするネットワークシステム。
【請求項2】
それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、
それぞれ前記複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチと
を備え、前記複数のL2スイッチのそれぞれと前記複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに前記複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムにおいて、
前記L3スイッチは、
自身に直接接続された回線の故障を検知するとともに、前記複数のL3スイッチを相互に接続する回線が仮想回線の場合に、所定のL3スイッチを宛先とする監視パケットを送信し、その応答信号の受信の有無に応じてその仮想回線の故障を検知する手段と、
前記複数のL2スイッチのうち所定のL2スイッチにフレームを転送する冗長化された回線および仮想回線のすべてが故障と検知されたときに、所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対して当該故障を通知する手段と
を備え、
前記L2スイッチは、
前記故障の通知により、前記所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、前記リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、前記故障を通知しないL3スイッチに接続される回線のみから送信するように設定する手段
を備えたことを特徴とするネットワークシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のネットワークシステムにおいて、
前記L3スイッチからの故障を通知する手段は、マネージメントプロトコルを使って故障状態を通知するか、故障そのものを通知せずにリモート接続プロトコルを使い、前記所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対してフレームを転送する回線を切り替えるための設定変更を行う構成である
ことを特徴とするネットワークシステム。
【請求項4】
請求項2に記載のネットワークシステムにおいて、
前記L3スイッチの故障を通知する手段は、ネットワーク情報を管理する端末を介して前記所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに通知する構成である
ことを特徴とするネットワークシステム。
【請求項5】
それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、
それぞれ前記複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチと
を備え、前記複数のL2スイッチのそれぞれと前記複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに前記複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムのネットワーク故障回避方法において、
前記L2スイッチは、
前記リンクアグリゲーションで束ねられた複数の回線を介して、前記複数のL3スイッチに接続される所定のL2スイッチまたはそれに接続されるユーザ端末を宛先とし、かつ回線ごとに異なる識別子を有する監視パケットを送信し、
前記複数のL3スイッチを介して前記監視パケットを受信したときに、前記監視パケットを送信した前記L2スイッチを宛先とし、前記監視パケットに含まれる識別子を有する応答パケットを送信し、
前記応答パケットを受信し、その応答パケットの識別子から前記複数の回線のうち前記監視パケットが到達した回線と、前記監視パケットが到達しない回線を判別し、前記監視パケットが到達しない回線に接続される前記L3スイッチから前記他のL2スイッチまでの経路での故障を検知し、
前記故障の検知により、前記所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、前記リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、前記監視パケットが到達した回線のみから送信するように設定する
ことを特徴とするネットワーク故障回避方法。
【請求項6】
それぞれ1以上のユーザ端末が接続される複数のL2スイッチと、
それぞれ前記複数のL2スイッチが接続される複数のL3スイッチと
を備え、前記複数のL2スイッチのそれぞれと前記複数のL3スイッチとの間の回線がリンクアグリゲーションにより束ねられ、さらに前記複数のL3スイッチが相互に接続された構成のネットワークシステムのネットワーク故障回避方法において、
前記L3スイッチは、
自身に直接接続された回線の故障を検知するとともに、前記複数のL3スイッチを相互に接続する回線が仮想回線の場合に、所定のL3スイッチを宛先とする監視パケットを送信し、その応答信号の受信の有無に応じてその仮想回線の故障を検知し、
前記複数のL2スイッチのうち所定のL2スイッチにフレームを転送する冗長化された回線および仮想回線のすべてが故障と検知されたときに、所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対して当該故障を通知することとし、
前記L2スイッチは、
前記故障の通知により、前記所定のL2スイッチに接続されるユーザ端末を宛先とする転送フレームは、前記リンクアグリゲーションのロードバランス時の転送フレーム振り分け処理の対象外とし、前記故障を通知しないL3スイッチに接続される回線のみから送信するように設定する
ことを特徴とするネットワーク故障回避方法。
【請求項7】
請求項6に記載のネットワーク故障回避方法において、
前記L3スイッチからの故障の通知は、マネージメントプロトコルを使って故障状態を通知するか、故障そのものを通知せずにリモート接続プロトコルを使い、前記所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに対してフレームを転送する回線を切り替えるための設定変更を行う
ことを特徴とするネットワーク故障回避方法。
【請求項8】
請求項6に記載のネットワーク故障回避方法において、
前記L3スイッチからの故障の通知は、ネットワーク情報を管理する端末を介して前記所定のL2スイッチ以外のL2スイッチに通知する
ことを特徴とするネットワーク故障回避方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−46164(P2013−46164A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181712(P2011−181712)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】