説明

ネットワークレーダシステム

【課題】 従来のネットワークレーダシステムでは複数レーダを管理・制御する為に中央処理系の存在を前提としていた。この為、1箇所の中央処理装置の過負荷による性能劣化と機器障害によるダウン、また当該中央処理系に繋がるデータ伝送回線へのデータ集中度が各レーダ装置とを結ぶ他のデータ伝送回線に比し高く、システム全体としてバランスに欠け、ネットワーク障害に対する脆弱性の問題があった。
【解決手段】 レーダ装置10に複数レーダ管理制御サブシステム20を付置し、また各種のデータを表示する表示装置22とデータ蓄積装置23が接続される。これら一連のシステムによりレーダサブシステム200を構成し、通信制御装置30を介してネットワーク60へ接続し、これらレーダサブシステム200の集合体がネットワークレーダシステム100を構成する。さらに、隣接レーダサブシステム同士をネットワーク予備回線50で接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は複数のレーダ装置をネットワークにより相互に接続し、互いにデータを共有するなどしてレーダリソースの有効利用を図り、システム全体としてレーダ機能・性能を最大限に発揮するようにしたネットワークレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば航空機等の移動物体その他を探知・追尾するレーダ装置は主に単体(レーダ装置1台)で使用されることが多かった。しかし、単体使用では、観測条件の悪化、例えばクラッタ等の発生により当該レーダ装置の使用が不能に陥る場合もあり、その欠点を解消する為に、例えば特許第3469151号に示される様に、複数のレーダ装置をネットワーク化し、その中央に管理制御装置を設けて、当該レーダ群の管理制御をリアルタイムで実施する方法が提案された。
【0003】
【特許文献1】特許第3469151号、特開2000-28705
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のネットワークレーダシステムでは、複数のレーダを管理・制御するために中央処理系(中央処理装置とも言う)の設置が必須条件である。この結果、中央処理装置が過負荷になりやすく、これによりネットワークレーダシステム全体の性能劣化と機器障害によるダウンが生じやすい。また当該中央処理系に繋がるデータ伝送回線のデータ集中度が、各レーダ装置とネットワークとを結ぶデータ伝送回線に比し高く、ネットワークシステム全体としてバランスに欠け、ネットワーク障害に対する脆弱性を持ってしまうという課題があった。
【0005】
この発明は、複数レーダの制御・管理を行う中央処理系の過負荷を軽減し、障害に対する耐性の向上、ネットワーク構造のボトルネックを解消したネットワークレーダシステム提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のネットワークレーダシステムは、電磁波パルスを発射し、対象で反射した前記電磁波パルスを受信して、前記対象の少なくとも距離、方位をデータ化し出力するとともに、外部からの指令に基づき管理/制御されるレーダ装置と、
複数の前記レーダ装置に通信線を介して接続され、複数の前記レーダ装置から出力された前記データを処理するとともに、前記複数のレーダ装置に対して前記指令を出力する複数レーダ管理制御装置とを含むレーダサブシステム、
複数の前記レーダサブシステムを相互に接続する前記通信線を有するネットワークとを備えたのである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によるネットワークレーダシステムは、可用性が向上し、機器障害に対する耐性が向上する。また、レーダシステム全体の動作、リソース状況が把握できる為、レーダシステム全体のより効率的な運用が可能となる。また、同時にネットワーク構成が一極集中から分散形態となる為、ネットワーク障害に対する耐性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1のネットワークレーダシステムに関し図面1〜3を参照しながら説明する。
【0009】
図1は,この発明の実施の形態1に関わるネットワークレーダシステムの構成を示す概念図である。なお,各図中の同一符号は,同一または相当部分を表す。図1において、10はレーダ装置本体で、パルス状電磁波の放出により対象目標物からの反射波を得て、その位置、速度等を計測する。20は当該レーダ装置10に付置される複数レーダ管理制御サブシステムであり、当該レーダ装置10の管理制御を行う。さらに、他のレーダ装置に付置される同等の複数レーダ管理制御装置と共同動作により当該レーダ装置の集合体であるネットワークレーダシステム100全体の管理制御を担う。30はレーダ装置10の集合体を形成する為にネットワーク60と接続するための通信制御装置である。40は通信制御装置30とネットワーク60とを結び、データ伝送を行う為のネットワーク回線である。50は隣接レーダ装置とのデータ伝送を行う為のネットワーク予備回線であるが、説明は実施の形態6で説明する。60はレーダ装置10の集合体を形成するためのネットワークである。
【0010】
次に、図1のネットワークレーダシステム100の構成、動作について、理解を助けるため、従来のネットワークレーダシステムと対比しながら説明する。図2は特許第3469151号に示された複数レーダ連携システムに、一部、当然必要な機器を追加した類似の構成概念図である。ここで21は複数レーダ管理制御システムで各レーダ装置10からのデータを処理し、処理結果に応じて複数のレーダ装置10の管理、制御を行うものである。22はネットワーク化されたレーダ装置群の動作状況、管理制御状況の現況並びに過去履歴を示す表示装置である。23は各レーダ装置から送付されるデータ並びに複数レーダ管理制御システム21の動作履歴等を記録するデータ蓄積装置である。41は各レーダ装置10からのデータ及び各レーダ装置への管理制御信号が流れるネットワークメイン回線である。42は各レーダ装置とネットワークとを繋ぐネットワークサブ回線である。この構成の欠点は複数レーダ管理制御システム21が中央に設置されている為、障害発生時にはレーダシステム全体が停止し、可用性の観点から機器障害に対する脆弱性を有する点である。また、複数レーダ管理制御システム21は中央処理を行うという構成の性質上、比較的高性能なシステムとならざるを得ずコスト的にも問題であった。さらに、データ流通量の観点からネットワークメイン回線41とネットワークサブ回線42との間には極端な非対称性が存在し、ネットワークメイン回線41への負荷集中並びに保守上の特別な留意が必要となるという課題があった。
【0011】
図1による詳細説明の前に図3によりネットワークレーダシステムを構成するレーダサブシステムの構成について説明する。10は従来通りのレーダ装置である。特徴的なのは当該レーダ装置に従来は付置されていなかった複数レーダ管理制御サブシステム20を有することである。さらに当該複数レーダ管理制御サブシステムに付随し、各種のデータを表示する表示装置22とデータ蓄積装置23が接続される。また、ネットワーク60への接続には通信制御装置30を介する。以上、これらの装置群によりレーダサブシステム200が構成される。但し、図1では煩雑を避ける為、表示装置22とデータ蓄積装置23の表示を省略している。これらレーダサブシステム200の集合体がネットワークレーダシステム100を構成する。
次に動作について再度、図1により説明する。例えば8台のレーダサブシステムによりネットワークレーダシステム100が構成され、各レーダサブシステム200は各々のレーダ覆域を担当し目標の探知、追尾を行う。ここで、各々のレーダサブシステムで探知した目標データはネットワーク60を通じ、すべての複数レーダ管理制御サブシステム20により追尾の処理が分散的になされ結果が表示装置22に表示される。また、すべての複数レーダ管理制御サブシステム20に接続されるデータ蓄積装置23に分散蓄積される。つまり、目標に対する処理をすべての複数レーダ管理制御サブシステムで行うため、個々のサブシステムは必ずしも高性能なシステムである必要はない。ここにコスト的な利点が生じる。さらに、当該ネットワークレーダシステム全体の動作、運用状況をすべてのレーダサブシステム設置場所にて監視が可能であるため、運用者同士の意思疎通が容易となりネットワークレーダシステム全体の運用効率の向上が望める。
【0012】
実施の形態2.
図1により、例えば8台のレーダサブシステム200によりネットワークレーダシステム100が構成され、各レーダサブシステム200は各々のレーダ覆域を担当し目標の探知、追尾を行う。ここで、各々のレーダサブシステムで探知した目標データはネットワーク60を通じ、すべての複数レーダ管理制御サブシステム20により追尾の処理が分散的になされ結果が表示装置22に表示される。例えば8台の複数レーダ管理制御サブシステム20が、あたかも1台の図2における複数レーダ管理制御システム21のごとく動作する。
また、すべての複数レーダ管理制御サブシステム20に接続されるデータ蓄積装置23に分散蓄積される。ここでも上記と同様、例えば8台のデータ蓄積装置23が全体として図2における1台のデータ蓄積装置23として動作する。
この様な構成の利点は必ずしも高性能なシステムである必要はないということである。
【0013】
実施の形態3.
また、図1により、例えばあるレーダ装置10の担当覆域において、大量のクラッタ等のレーダ観測阻害要因が生じ、レーダ観測できない状況に陥った場合を考える。つまり、1台のレーダ装置10の能力が観測条件に対し、著しく損なわれた場合である。このような状況のもとでは、当該レーダ装置10の運用はネットワークレーダシステム全体としてはもはや意味をなさない。そこで、当該レーダ装置10に繋がる複数レーダ管理制御サブシステム20は、当該レーダ装置10の運用は不可能である旨の通報を他の複数レーダ管理制御サブシステム20に通報後、当該レーダ装置10の運用を停止する。この措置によりネットワークレーダシステム全体として無駄なリソースの消費を避けることが出来る。
但し、このような動作の前提条件として当該レーダ装置10の担当覆域が両側に隣接するレーダ装置10の担当覆域とオーバラップし、互いに補完できる状況にあることは当然、言うまでも無い。
【0014】
実施の形態4.
実施の形態3で述べたように特定の条件下では当該レーダ装置10の運用を停止したが、当該レーダ装置10に繋がる複数レーダ管理制御サブシステム20には何ら問題は無く、引き続き運用可能である。つまり、図1における例えば8台の複数レーダ管理制御サブシステム20は通常通り、1台の複数レーダ管理制御システムとして動作し、7台のレーダ装置10の管理制御を実行する。これにより、ネットワークレーダシステムの複数レーダ管理制御システムはパフォーマンスを低下することなくシステムの運用が可能である。
【0015】
実施の形態5.
特定の複数レーダ管理制御サブシステム20に障害が発生し、運用の継続が困難になった場合を考える。このままでは、当該複数レーダ管理制御サブシステム20に繋がるレーダ装置10の運用にも支障をきたすことになる。このような問題を避けるために例えば8台の複数レーダ管理制御サブシステム20をネットワーク化し分散処理される利点が生じる。つまり、例えば7台の複数レーダ管理制御サブシステム20により8台のレーダ装置10の処理を行う。当然、複数レーダ管理制御サブシステム20はこのような事態も想定し、必要十分な性能を有するものであることは言うまでもない。いわゆる、フォールトトレラントシステムとして作用させるため、多少の障害に対して耐性を持たせシステムパフォーマンスの低下を避けるものである。このため、ネットワークレーダシステムの運用を継続しつつ、障害の発生した当該複数レーダ管理制御サブシステム20の修理または交換が可能となる。
【0016】
さらに同様にデータ蓄積装置23に障害が発生した場合においても、事情は同様である。例えば、8台のデータ蓄積装置23がネットワーク化され、すべてに同一情報およびデータ破損に備えたデータ復元情報であるパリティ情報と共に記録する。こうすることにより、特定のデータ蓄積装置23に障害が発生した場合においても、例えば他の7台のデータ蓄積装置23に記録されたデータとパリティ情報により、障害の発生したデータ蓄積装置23を修理または交換することにより、元のデータを自動的に復元することが可能となる。
【0017】
実施の形態6.
次に、レーダサブシステム200とネットワーク60を繋ぐネットワーク回線40に障害が発生した場合を考える。図1及び図4について説明する。ネットワークレーダシステム100において特定のレーダサブシステムと運用上最も密接な関係を有するのは、当該レーダサブシステム200の両側の隣接した2つのレーダサブシステムである。それ以外のレーダサブシステムとの連携の頻度は比較的少ない。
そこで、ネットワーク回線40に障害により当該レーダサブシステムがネットワークレーダシステム100から孤立することを避けるため、図4に示す如く隣接した2つのレーダサブシステムの通信制御装置30との間にネットワーク予備回線50を設置した。図1にも示す様に当然、隣接レーダサブシステムはさらに隣接するレーダサブシステムと接続され、ネットワークレーダシステム100全体としてはループ状のネットワーク予備回線50が形成される。
以上の構成により、ネットワーク回線40に障害によりレーダサブシステムのネットワークレーダシステムからの孤立を避けることが出来る。
【0018】
実施の形態7.
上記実施の形態6では隣接レーダサブシステムと直接結ぶネットワーク予備回線50によりループ状の回線を構成し、ネットワーク回線40の障害発生に耐性を持たせた。しかし、図5に示すようにネットワーク回線40を多重化した多重化ネットワーク回線43を用いた構成としても実施の形態6と同等の効果が得られることは当然のことである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明のネットワークレーダシステムは移動体を追尾するレーダだけでなく、気象観測用(雨、雪、雲、などの観測用)の各種レーダとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1のネットワークレーダシステムの構成を示す構成図である。
【図2】図1の構成を従来複数レーダ連携システムと対比して説明するための従来の構成を示す概念図である。
【図3】本発明のレーダ装置のサブシステムの構成を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施例における特徴的な部分を示す概念図である。
【図5】本発明の別の実施例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0021】
10 レーダ装置、 20 複数レーダ管理制御サブシステム、
21 複数レーダ管理制御システム、 22 レーダシステム運用状態表示装置、
23 データ蓄積装置、 30 通信制御装置、
40 ネットワーク回線、 41 ネットワークメイン回線、
42 ネットワークサブ回線、 43 多重化ネットワーク回線、
50 ネットワーク予備回線、 60 ネットワーク、
100 ネットワークレーダシステム、
200 ネットワークレーダサブシステム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波パルスを発射し、対象で反射した前記電磁波パルスを受信して、前記対象の少なくとも距離、方位をデータ化し出力するとともに、外部からの指令に基づき管理/制御されるレーダ装置と、
複数の前記レーダ装置に通信線を介して接続され、複数の前記レーダ装置から出力された前記データを処理するとともに、前記複数のレーダ装置に対して前記指令を出力する複数レーダ管理制御装置とを含むレーダサブシステム、
複数の前記レーダサブシステムを相互に接続する前記通信線を有するネットワークとを含むことを特徴とするネットワークレーダシステム。
【請求項2】
前記複数レーダ管理制御装置は、前記ネットワーク回線を通じ、互いにレーダ装置状態を交換して前記ネットワークレーダシステム全体の動作状況を表示するとともに、当該複数レーダ管理制御装置を管理、制御し、さらに前記データを交換、蓄積、処理することを特徴とする請求項1記載のネットワークレーダシステム。
【請求項3】
前記複数レーダ管理制御装置は、付設した前記レーダ装置の機能がレーダ観測に不適となった場合、その旨を他のレーダ装置付設の複数レーダ管理制御装置に知らせ、当該レーダ装置を前記ネットワークレーダシステムより切り離すことを特徴とする請求項2記載のネットワークレーダシステム。
【請求項4】
前記複数レーダ管理制御装置は、当該レーダ装置が前記ネットワークレーダシステムより切り離された後も、他の前記処理を継続して行うことを特徴とする請求項3記載のネットワークレーダシステム。
【請求項5】
前記レーダ装置に付設された前記複数レーダ管理制御装置に障害が生じた場合、他の複数レーダ管理制御装置が当該レーダ装置の前記処理を継続して行うことを特徴とする請求項3記載のネットワークレーダシステム。
【請求項6】
レーダ装置サブシステムは、前記ネットワークに接続する伝送路に加えて、少なくとも1つ以上の隣接レーダサブシステムとの間に迂回データ伝送路を有することを特徴とする請求項1記載のネットワークレーダシステム。
【請求項7】
レーダサブシステムは、前記ネットワークとの間に多重化したデータ伝送路を備えたことを特徴とする請求項1記載のネットワークレーダシステム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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