説明

ネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法

【課題】マテリアルリサイクルポリエステルを用いても網糸用に適したネット用リサイクルポリエステル繊維を、安定して製造する方法を提供すること。
【解決手段】マテリアルリサイクルポリマーを50重量%以上含有するポリエステルポリマーを溶融紡糸するにあたり、該ポリエステルポリマーを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、該ポリエステルポリマーを溶融紡糸して得た固有粘度0.7以上1.0以下の未延伸糸を、a)延伸倍率:4.3倍以上5.3倍以下、b)弛緩率:3%以上15%以下、c)熱セット温度:190℃以上250℃以下の条件にて延伸するネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法。さらには、繊維の乾熱収縮率が3〜15%であることや、引張強度が5.0〜7.5cN/dtexであること、結節強度が3.0〜4.5cN/dtexであること、繊維−繊維静摩擦係数が0.15〜0.35であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法に関するものであり、さらにはマテリアルリサイクルポリエステルを用い、網糸用に適した良好な強度特性を有するネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、近年では資源の再利用や環境問題等の面から様々な分野でのリサイクルが求められている。合成繊維の中でもポリエステル繊維は広く汎用的に使用されており、量的な面からも、資源の再利用に対する貢献度が大きいからである。このポリエステル繊維のリサイクル方法としては、回収されたポリエステル製品を解重合、再度重合して再びポリエステルポリマーを得るケミカルリサイクルや、PETボトル等を回収して洗浄、粉砕後、再溶融してポリエステルポリマーを得るマテリアルリサイクルを挙げることができる。そしてこの2つの方法の中では、リサイクルに要する工程数が少なく、コストメリットが高いために、マテリアルリサイクルの実施比率が高い。
【0003】
しかしながら、マテリアルリサイクルは一度成形品となっているものを再溶融するだけであるので、得られるポリエステルポリマーには様々な不純物を含んでいることが多く、繊維の材料として用いた場合に、製糸工程において糸切れするなど、操業不良を招くことが多かった。特に高強度を要求される産業資材に用いられるネット用途において、マテリアルリサイクルにて得られたポリエステルポリマーを使用した繊維を用いることは困難であった。工程安定性に加え、さらに網強力、耐久性といったさまざまな要求特性を満たすことは、容易ではなかったのである。
【0004】
一方、ネット用途に要求されるポリエステル繊維の諸特性については、主な特性として、網強力、耐久性、耐光性等が挙げられており、用途によっては耐衝撃吸収性や難燃性等の特性さえも必要とされる場合がある。例えば特許文献1または2には通常のポリエステルポリマーを用いた高強度のネット用繊維が示されている。しかし通常のポリエステルポリマーを用いた場合であってさえ、単純に繊維の強度を高めただけでは必ずしも結節強度の向上には結びつかないことが多かった。ネット強力の向上のためには極限まで高い延伸比で延伸を行い、高強度繊維を得る必要があるが、製造時の糸切れが多発しやすく、実質的に安定した操業生産が困難だったのである。ましてやマテリアルリサイクルポリマーを用いた場合にはなおさらであった。ネット用リサイクルポリエステル繊維の生産性に優れた製造方法としては、まだ満足のいくものは得られていなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−137255号公報
【特許文献2】特開平6−240885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、マテリアルリサイクルポリエステルを用いても網糸用に適したネット用リサイクルポリエステル繊維を、安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法は、マテリアルリサイクルポリマーを50重量%以上含有するポリエステルポリマーを溶融紡糸するネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法であって、該ポリエステルポリマーを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、該ポリエステルポリマーを溶融紡糸して得た固有粘度0.7以上1.0以下の未延伸糸を、下記a)〜c)の条件にて延伸することを特徴とする。
a)延伸倍率:4.3倍以上5.3倍以下
b)弛緩率:3%以上15%以下
c)熱セット温度:190℃以上250℃以下。
【0008】
さらには、繊維の乾熱収縮率が3%以上15%以下であることや、繊維の引張強度が5.0cN/dtex以上7.5cN/dtex以下であること、繊維の結節強度が3.0cN/dtex以上4.5cN/dtex以下であること、繊維の繊維−繊維静摩擦係数が0.15以上0.35以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マテリアルリサイクルポリエステルを用いても網糸用に適したネット用リサイクルポリエステル繊維を、安定して製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法は、マテリアルリサイクルポリマーを50重量%以上含有するポリエステルポリマーを溶融紡糸する製造方法であり、ポリエステルポリマーを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを必須条件とするものである。ここでマテリアルリサイクルポリマーの含有量は100重量%でも良いが、さらには50〜80重量%であることが好ましい。
【0011】
また、マテリアルリサイクルポリマーとその他のポリマーからなる本発明にて用いられるポリエステルポリマーは、全繰り返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステルを対象とするが、10モル%以下の範囲であれば酸成分及び/又はジオール成分の一部を他の成分で置き換えたポリエステルであってもよい。かかる共重合ポリエステルのなかでも、2官能性リン化合物をリン元素量として0.1重量%以上1.0重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以上0.7重量%以下共重合したポリエステルは、網強力を低下させることなく難燃性を向上させることができ、ネットの難燃性を確保する上で有用な要件である。好ましく用いられるリン化合物としては、例えばホスホネートやホスフィネート等を挙げることができる。より好ましいリン化合物の具体例としては、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニルなどが挙げられ、あるいは(2―カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2―カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸などが挙げられる。
【0012】
さらに上記ポリエステルには、着色剤が含有していてもよい。添加量としては3重量%以下であることが好ましい。特に着色剤としてはシアニン系、スチルベン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、キナクリドン系、ペリノン系、無機顔料等の着色剤が配合されている場合、着色されるのみでなく耐光性も向上することができるので特に好ましい。なお、本発明の目的を阻害しない範囲、例えば3重量%以下の範囲で艶消剤、耐光性向上を目的とした紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0013】
本発明の製造方法では、このようなポリエステルポリマーを溶融紡糸して得た固有粘度0.7以上1.0以下の未延伸糸を特定の条件にて延伸することを必須とする。この溶融紡糸して得たポリエステル未延伸糸の固有粘度が0.7未満の重合度の低い未延伸糸である場合、原糸のタフネスが低くなるばかりでなく、結節強度も低くなるため好ましくない。その意味からすれば固有粘度は高い方が好ましいのであるが、固有粘度が1.0を超える未延伸糸を得るためには、溶融紡糸前のポリマーの粘度をさらに高くする必要があり、その場合には溶融時の粘度が増大して製糸が困難になり、また押出機やギアポンプでの発熱が増大して分子量の低下が起こるため、生産性が大幅に低下する。本発明の製造方法では1.0以下の固有粘度の未延伸糸を用いることが必要である。
【0014】
このような高い固有粘度の、言い換えると高分子量の未延伸糸を得るためには、固相重合するなどして十分に溶融前のポリエステルの固有粘度を高めることが好ましい。本発明においてはポリエステルポリマーがリン系の化合物を含むことも好ましい態様だが、そのようなポリエステルは吸湿し易く溶融時の劣化が大きいという問題があるため、特に固相重合などの手段が有効である。
【0015】
そして本発明のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法は、下記a)〜c)の条件にて未延伸糸を延伸することを必須としている。
a)延伸倍率:4.3倍以上5.3倍以下
b)弛緩率:3%以上15%以下
c)熱セット温度:190℃以上250℃以下。
このような特定の要件にて延伸・熱セットすることにより、網糸用に適したネット用リサイクルポリエステル繊維を、安定して製造することができるようになったのである。
【0016】
本発明の製造方法における延伸倍率は4.3倍以上5.3倍以下であることが必要であり、さらには4.3倍以上5.0倍以下であることが好ましい。延伸倍率が4.3倍より小さい場合には得られる繊維の強度そのものが低くなり好ましくない。反対に延伸倍率が5.3倍より大きい場合には繊維の引張強力や高くなるものの、マテリアルリサイクルポリマーに含まれている様々な不純物が原因で糸切れが発生し易くなり、生産性が落ちるばかりではなく、最終製品の結節強度等の物性も低くなる。そのため製造された繊維では、結果として高い強力のネットを得ることができない。本発明のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法では、延伸倍率が引張強力と結節強力に対して逆方向に作用することもあり、このようにちょうどバランスされた狭い領域条件を用いて、両者の物性の性能を最大化することが重要である。
【0017】
また本発明の製造方法では、この延伸加工時の弛緩率が3%以上15%以下であることが必要である。さらには3%以上10%以下であることが好ましい。延伸加工時の弛緩率とは、最終延伸ローラーと冷却ローラーとの周速の比で定義される数値である。弛緩率が3%未満となると収縮率が高くなり、製網時や後加工時の熱による収縮が大きくなるため、網目が不均一になり、また結節部分が硬くなるため、高い強力のネットを得ることができない。逆に弛緩率が15%より大きくなると収縮率が低くなりすぎるばかりでなく、結節強力が低下する傾向にある。
【0018】
さらに延伸時の熱セット温度としては、190℃以上250℃以下の範囲に設定する必要がある。このような範囲に設定することにより、得られたリサイクルポリエステル繊維を工業ネット用に適した収縮率にすることができるのである。そして結果的にはポリエステル繊維の乾熱収縮率は3%以上15%以下であることが好ましい。ここで乾熱収縮率とは150℃における値を用いている。一般にネット用の繊維としては、乾熱収縮率が高いことが好ましい。通常、ネットの製造においては、編成後に熱処理を施し、挿入糸・鎖編糸ともに収縮させるが、この時鎖編糸のループ径は収縮により小さくなるため、比較的小さい伸びで応力が立上がり、網の強力発現に寄与することとなるからである。一方挿入糸の方は、鎖編糸が充分に引き伸ばされるまでは破断しない程度の伸度を、熱処理によって有するようになる。この結果、繊維の乾熱収縮率が3%以上15%以下である場合には、両者の強力が充分に発揮されて、最終産物である網の強力を向上することができるのである。乾熱収縮率は15%以上でも良いが、本発明のポリエステルは50重量%以上の割合でマテリアルリサイクルポリマーが添加されており、製品の熱安定性をも考慮すると15%付近が上限となる。
【0019】
本発明の製造方法にて得られるネット用リサイクルポリエステル繊維の引張強度としては5.0cN/dtex以上7.5cN/dtex以下であることが好ましい。さらには5.3cN/dtex以上6.5cN/dtex以下であることが好ましい。強度が5.0cN/dtexより低いとネット強力が不足する傾向にある。一方繊維強度を7.5cN/dtexより大きくしてもネットでの強力利用率が急激に低下するため、結局はネット強力の向上に寄与せず、いたずらに製糸性の悪化を招く結果となる傾向にある。また繊維の結節強度は3.0cN/dtex以上4.5cN/dtex以下であることが好ましい。さらには3.5cN/dtex以上であることが高い強力のネットを得る点から好ましい。ここで結節強度とは、JISL1013「7.6結節強さ」に示された結節を作った際の強度であり、順手、逆手の平均値である。
【0020】
ここで、本発明のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法は、上記のごとく溶融紡糸することによって得ることができるのであるが、紡糸口金から吐出された直後のリサイクルポリエステルポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。また、このようにして溶融ポリマー組成物を紡糸口金から吐出し成形した後、一旦巻き取らずにさらにそのまま延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。
【0021】
さらには本発明の製造方法では、延伸性を向上させるため、遅延冷却した後油剤を付与することが好ましい。油剤の成分については得られる繊維の特性を向上させるものが種々選択され用いることが可能で有る。特にネット用リサイクルポリエステルの製造方法においては、繊維の結節強度を高くし、ネット強力を向上させるために、繊維−繊維静摩擦係数が0.15以上0.35以下であることが好ましい。さらには、0.20以上0.30以下であることが好ましい。繊維−繊維静摩擦係数が0.35より大きくなると繊維の結節強度が十分発揮されず、ネット強力の向上が期待できない傾向にある。本発明では繊維−繊維静摩擦係数が低く、繊維間の平滑性が高い方が普通は好ましいが、逆に繊維−繊維静摩擦係数が0.15より小さくなると、ネットの作製工程において、繊維間が滑りやすくなり、ネット品位が悪くなる傾向にある。さらに極端に繊維−繊維静摩擦係数が小さい場合には、ネットの作製さえ困難になる場合があるため好ましくない。
【0022】
このような本発明の製造方法により得られたネット用リサイクルポリエステル繊維は、マテリアルリサイクルポリマーを50重量%以上の高い割合で添加しているにもかかわらず、網糸用に適した良好な強度特性を有し、原糸物性を最大限に、ネットとした後にさえ利用することが可能となった。本発明の製造方法においては、生産しやすく高性能なネット用リサイクルポリエステル繊維を得ることができるようになったのであり、特に安全ネットや養生メッシュ、護岸補強用ネット、土木シート等の建築資材用途分野のネット用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例をあげて本発明をより具体的に説明する。なお、実施例中の各測定値は下記方法に従った。
【0024】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノール100mlに対して、糸1.2gの割合で温度100℃で溶解し、オストワルド粘度計を用いて35℃の恒温槽内で測定した。
【0025】
(2)引張強度、破断伸度
島津製作所オートグラフS−100型の引張試験機を用い、JIS−L1013に従って、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分の条件で測定した。
【0026】
(3)結節強度
島津製作所オートグラフS−100型の引張試験機を用い、JIS−L1013に従って、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分の条件で測定した。結節強度は順手、逆手それぞれの平均値を用いた。
【0027】
(4)乾熱収縮率
JIS−L1074の乾熱収縮率B法に従い、温度150℃雰囲気下での収縮率を測定した。
【0028】
(5)ネット強力(網地強力)
仮設工業会法に準じ、糸長20cm、引張速度20cm/分で測定した。
【0029】
[実施例1〜3、比較例1、2]
マテリアルリサイクルされたポリエチレンテレフタレートが60%混合された固有粘度0.95のポリエステルチップを1軸押出機に添加して溶融混合した。このポリマーを直径0.6mmの細孔を144個有する口金を通して吐出し、遅延冷却ゾーンを経て固化させた。得られた固有粘度0.80の未延伸糸に紡糸油剤を付与させ、一旦巻き取ることなく連続して延伸工程に供給し、表1に示す各条件となるように延伸した後、弛緩処理を施し、熱固定して1700dtex/144filのポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維の物性を表1に併せて示す。このポリエステル繊維を用い、ラッセル編み機を使用し、フロント6800dtex、バック3400dtexで編成して目付け415g/mの網地とした後、180℃で1.5分間熱処理して工業ネットを得た。強伸度物性を表1に併せて示す。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マテリアルリサイクルポリマーを50重量%以上含有するポリエステルポリマーを溶融紡糸するネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法であって、該ポリエステルポリマーを構成する全繰返し単位の90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であり、該ポリエステルポリマーを溶融紡糸して得た固有粘度0.7以上1.0以下の未延伸糸を、下記a)〜c)の条件にて延伸することを特徴とするネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法。
a)延伸倍率:4.3倍以上5.3倍以下
b)弛緩率:3%以上15%以下
c)熱セット温度:190℃以上250℃以下
【請求項2】
繊維の乾熱収縮率が3%以上15%以下である請求項1記載のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
繊維の引張強度が5.0cN/dtex以上7.5cN/dtex以下である請求項1または2記載のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
繊維の結節強度が3.0cN/dtex以上4.5cN/dtex以下である請求項1〜3のいずれか1項記載のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法。
【請求項5】
繊維の繊維−繊維静摩擦係数が0.15以上0.35以下である請求項1〜4のいずれか1項記載のネット用リサイクルポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−112054(P2012−112054A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260086(P2010−260086)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】