ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法
【課題】ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法を提供する。
【解決手段】全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法
【解決手段】全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネフローゼ症候群とは、内皮細胞、基底膜、有足細胞からなる腎糸球体濾過障壁を通って血漿タンパク質が尿に大量に排泄され、血中タンパク質が減少する結果、細胞外液が血中から組織間に移行して浮腫を来たす、腎臓疾患群の総称である。
【0003】
最近の研究により、糸球体の有足細胞に存在するネフリンがネフローゼ症候群に関与するタンパク質の1種であることが明らかとなっている(例えば、非特許文献1〜6参照)。これまでに、腎糸球体の上皮細胞間のスリット膜分子の以上によりネフローゼ症候群が発症すると考えられている。しかし、糸球体の有足細胞や濾過障壁におけるネフローゼ症候群発症の分子機序が解明されていない。そのため、ネフローゼ症候群を発症した有用なモデル動物が存在せず、医薬の開発などにおいてネフローゼ症候群モデル動物が求められている。
【0004】
これまでに、ネフリンが先天性(Finnish type)ネフローゼ症候群に関係することが知られている(例えば、非特許文献7参照)。さらに、腎移植後の先天性ネフローゼ症候群の患者の体内で生成される抗ネフリン抗体は、移植した腎臓を介して大量のタンパク尿が生成されることが明らかになっている(例えば、非特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dorit B.Donoviel,et al.,Molecular and Cellular Biology,Vol.21,p.4829-4836,2001
【非特許文献2】Lorenz Sellin,et al.,The FASEB Journal,Vol.17,p.115-117,2003
【非特許文献3】Shih NY,et al.,Science,Vol.286,p.312-315,1999
【非特許文献4】Winn MP,et al.,Science,Vol.308,p.1801-1804,2005
【非特許文献5】Reiser J,et al.,Nat.Genet.,Vol.37,p.739-44,2005
【非特許文献6】Michaud JL,et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,Vol.14,p.1200-1211,2003
【非特許文献7】Kestila M,et al.,Mol.Cell,Vol.1,p.575-82,1998.
【非特許文献8】Patrakka Jaakko,et al.,Transplantation,Vol.73,p.394-403,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題に鑑み、本発明者等は、鋭意検討を行った。その結果、腎糸球体の上皮細胞間のネフリンのみを損傷することでタンパク尿を排泄し、ネフローゼ症候群が発症することを見出した。そして、腎糸球体の上皮細胞間のネフリンは、全長ネフリンcDNAに対するポリクローナル抗体を投与することで異常が生じ、その結果ネフリンが損傷することを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至った。
【0008】
本発明の課題は、以下の手段によって達成された。
(1)全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(2)前記全長ネフリンをコードするDNAが下記(a)〜(h)のいずれかのDNAである、前記(1)項記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(e)配列番号3に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(f)配列番号3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(g)配列番号4に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(h)配列番号4に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(3)前記抗体が、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入し、該非ヒト動物の血清から回収して得られた、前記(1)又は(2)項記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(4)前記抗体の抗原認識部位が、ネフリンのフィブロネクチンtypeIIIドメインである、前記(1)〜(3)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(5)全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを表面に固着させた担体を用いて、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入する、前記(3)又は(4)項記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(6)腎臓以外の器官は正常に機能する、前記(1)〜(5)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(7)前記抗体を投与してから一定時間経過後、腎臓の機能が正常に戻りネフローゼ症候群が改善される、前記(1)〜(6)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(8)モデル動物がラットである、前記(1)〜(7)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(9)全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを導入する非ヒト動物がウサギである、前記(1)〜(8)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(10)前記(1)〜(9)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法で作製された、ネフローゼ症候群モデル動物。
(11)前記(10)項記載のネフローゼ症候群モデル動物に被験物質を投与し、前記モデル動物におけるタンパク尿の生成量を解析し、生成量を抑制する被験物質を選択する、ネフローゼ症候群の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒトの全長ネフリンの構造を模式的に示す概略図である。
【図2】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図3】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与した別のラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図4】実施例において、ネフリンの8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインに対するIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図5】実施例において、ネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図6】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体投与前のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図7】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して30分後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図8】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して1時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図9】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して2時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図10】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図11】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して8時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図12】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3日後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図13】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して9日後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図14】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して15日後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図15】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体投与前のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して30分後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して1時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して2時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図19】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図20】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して8時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図21】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3日後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図22】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して9日後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図23】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して15日後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図24】本発明で用いる抗体が認識するネフリンの部位を検討した試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法は、全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む。
【0012】
本発明における「ネフリン」の構造について、ヒトのネフリンを例に、図1に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、ネフリンは、N末端からC末端に向かって、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメイン(extracellular immunoglobulin(Ig)-like domain)、細胞外ドメインの膜貫通領域近傍にあるフィブロネクチンtypeIIIドメイン(fibronectin type III domain、FN III)、膜貫通ドメイン(transmembrane domain、TM)、及び細胞質ドメインを含むタンパク質である。なお、図1に示すヒトのネフリンは、ネフリン遺伝子より合成されたネフリンが、N末端側のシグナルペプチドにより導かれて小胞体に移動し、免疫グロブリン様細胞外ドメインに糖鎖が付加した、成熟ネフリンを模式的に示すものである。図1に示すように、ヒトの成熟ネフリンは、N末端側のシグナルペプチドが切断され、免疫グロブリン様細胞外ドメインに糖鎖(図1中、黒六角形で示す)が付加している。
本発明において、「全長ネフリン」とは、前記8つの免疫グロブリン様細胞外ドメイン、フィブロネクチンtypeIIIドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインからなるタンパク質であり、N末端側のシグナルペプチドにより小胞体に移動したのち免疫グロブリン様細胞外ドメインに糖鎖が付加するものを意味する。
本発明における、全長ネフリンのアミノ酸配列及び全長ネフリン遺伝子の全塩基配列は、Hiroshi Kawachi,et al.,Kidney International,Vol.57,p.1949-1961,2000;Holzman L.B.,et al.,Kidney Int.,Vol.56,p.1481-1491,1999;Kestilae M.,et al.,Mol.Cell,Vol.1,p.575-582,1998;Gerth V.E.,et al.,Dev.Dyn.,Vol.233,p.1131-1139,2005などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
【0013】
後述の実施例でも示すように、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインに対する抗体を非ヒト動物に投与しても腎機能は何ら変化せず、ネフローゼ症候群モデル動物を作成することはできないのに対し、全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することにより、ネフローゼ症候群モデル動物を作成することができる。
【0014】
本発明における全長ネフリンをコードするDNAは、下記(a)〜(h)のいずれかのDNAであることが好ましい。
(a)配列番号1に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(e)配列番号3に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(f)配列番号3に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(g)配列番号4に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(h)配列番号4に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
【0015】
配列番号1〜4に記載の塩基配列について、詳細に説明する。
<配列番号1>
配列番号1は、Wister系ラットの全長ネフリンcDNAの塩基配列を示す。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜105番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は115〜2859番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2863〜3147番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3235〜3297番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3298〜3756番目の塩基配列である。
<配列番号2>
配列番号2は、ハツカネズミ(Mus musculus)の全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を示す(Kidney Int.,56(4),p.1481-1491,1999参照)。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜105番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は115〜2859番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2863〜3147番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3235〜3297番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3298〜3768番目の塩基配列である。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒト(Homo sapiens)の全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を示す(Mol.Cell,1(4),p.575-582,1998)参照)。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜66番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は79〜2817番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2821〜3105番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3166〜3228番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3229〜3723番目の塩基配列である。
<配列番号4>
配列番号4は、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を示す(Dev.Dyn.,233(3),p.1131-1139,2005参照)。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜75番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は76〜2760番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2761〜3036番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3124〜3198番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3199〜3714番目の塩基配列である。
【0016】
本発明における全長ネフリンをコードするDNAは、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNAが好ましい。また、全長ネフリンをコードするDNAは、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列又はその相補配列からなるDNAであってもよく、相同性が85%以上であることがさらに好ましく、相同性が90%以上であることがさらに好ましく、相同性が95%以上であることがさらに好ましく、相同性が99%以上であることが特に好ましい。また、全長ネフリンをコードするDNAには、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列において1又は数個、好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1から350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個の塩基の欠失、置換、挿入又は付加されており、かつ全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNAも包含される。また、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列に、適当な塩基配列を付加してもよい。
塩基配列の相同性については、Lipman-Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0017】
全長ネフリンをコードするDNAを作成する方法は特に制限されず、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、PCR、化学合成、これらの組合せ等、通常の方法に従うことができる。
【0018】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。本発明において、前記抗体はポリクローナル抗体が好ましい。
【0019】
抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE等のいずれかのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくはIgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとIgGがより好ましい。
【0020】
本発明に用いる抗体の作成方法に特に制限はないが、全長ネフリンをコードするDNAを含む発現ベクターを非ヒト動物に導入し、該非ヒト動物の血清から抗体を回収する方法が好ましい。
前記方法で用いる、全長ネフリンをコードするDNAを組み込むベクターに特に制限はないが、哺乳動物細胞で発現可能なベクター、例えば、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターを有するpAP3neoベクター(商品名、タカラバイオ社製)、サイトメガロウイルスプロモーターを有するpTARGETベクター(商品名、プロメガ社製)等が好ましい。
【0021】
全長ネフリンをコードするDNAを組み込むベクターを非ヒト動物に投与して免疫する際には、当該ベクターを適当な担体と結合して使用することもできる。本発明に用いることができる担体としては特に制限はないが、金属微粒子が好ましく、金微粒子及びタングステン微粒子が好ましく、金微粒子がより好ましい。前記金属微粒子の平均粒径に特に制限はないが、0.6〜1.6μmが好ましく、0.8〜1.2μmがより好ましく、1.0μmが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いる抗体は、通常の製造方法によって作製することができ、例えば、哺乳動物に免疫することにより作成することができる。具体的には、ポリクローナル抗体を作製する場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマ、ウシ等、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマ、ウサギ等免疫することが好ましい。モノクローナル抗体を作製する場合、マウス、ラット、ハムスター等に免疫することが好ましい。本発明においては、全長ネフリンをコードするDNAを組み込むベクターをウサギに導入して免疫し、抗体を作製することが好ましい。
【0023】
本発明に用いる抗体は、非ヒト動物に抗原を投与して免疫感作を行い、該動物から血液を採取し、採取した血液から抗体を分離・精製することにより得ることができる。
免疫感作は、通常の免疫感作の方法に従い、例えば抗原を1回以上投与することにより行うことができる。例えば、3〜30日(好ましくは7〜14日)間隔で3〜8回抗原を投与することが好ましい。また、抗原の投与量も適宜選択でき、0.1〜50μg/匹/回が好ましく、30〜50μg/匹/回がより好ましい。抗原の投与経路も特に限定されず、皮下投与、皮内投与、腹膜腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等を適宜選択することができるが、静脈内、腹膜腔内又は皮下に注射することにより投与することが好ましい。
【0024】
免疫感作した非ヒト動物を、例えば0.5〜1ケ月間飼育した後、該非ヒト動物の血清を耳静脈等から少量サンプリングし、抗体価を測定する。抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の投与を適当回数実施する。最後の投与から0.5〜1ケ月後に免疫感作した哺乳動物から通常の方法により血液を採取して、該血液を、例えば遠心分離、硫酸アンモニウム又はポリエチレングリコールを用いた沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の通常の方法によって分離・精製することにより、所望の抗体を得ることができる。
【0025】
上記のように作製した抗体を投与する非ヒト動物としては特に制限はないが、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等の非ヒト哺乳動物を好ましく例示することができる。このうち、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等の齧歯目動物が好ましく、実験動物としての汎用性や利便性を考慮してラット及びマウスがさらに好ましく、生理学的検討が行い易いことからラットが特に好ましい。ラットを用いる場合、6〜12週齢のものが好ましい。
【0026】
抗体の投与量は、20〜100mg/kgが好ましく、25〜80mg/kgがより好ましい。抗体の投与経路に特に制限はなく、腹腔内、髄腔内、静脈内、動脈内、皮下があげられる。
【0027】
本発明の製造方法により得られるネフローゼ症候群モデル動物は、全長ネフリンcDNAに対する抗体を投与することにより、腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる。また、該モデル動物は、腎臓以外の器官は正常に機能するため、抗体を投与してから一定期間が経過した後、ネフローゼ症候群が治癒・改善する。さらに、本発明の製造方法は、ネフローゼ症候群モデル動物を再現性よく製造することができる。したがって、本発明によれば、ネフローゼ症候群発症の機序の解明に寄与するネフローゼ症候群モデル動物を提供することができ、ネフローゼ症候群の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法等、当該疾患の治療・予防に有用な手段を提供することができる。
【0028】
本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸など);脂質、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど;あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。
【0029】
被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。本発明のモデル動物に被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、気管内投与、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。
また、被験物質を投与した前記モデル動物におけるタンパク尿の生成量の測定方法についても特に制限はなく、通常の方法で測定することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
(1)全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAの作製
Wister系ラットの全長ネフリンcDNA(配列番号1に記載の塩基配列)に、制限酵素EcoRI認識部位を5’末端側に、制限酵素NotI認識部位を3’末端側にそれぞれ付加したcDNA(配列番号5に記載の塩基配列)をタカラカスタムサービス社に合成依頼し、購入した。
【0032】
合成した全長ネフリンcDNAを鋳型として用いてPCRを行い、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインのみをコードし、制限酵素EcoRI認識部位を5’末端側に、制限酵素NotI認識部位を3’末端側にそれぞれ有するネフリンの細胞外ドメインcDNA(配列番号6に記載の塩基配列)を作製した。なお、PCRに用いた3’-プライマーは、制限酵素NotIで切断される塩基配列及び終止コドンを含むように設計し、5’-プライマーは上流に制限酵素EcoRIで切断される塩基配列を有するように設計した。
得られたPCR産物に対して制限酵素NotIを添加して37℃エアーインキュベーター内に1晩静置した後、さらにEcoRIを添加して37℃ウォーターバスで1時間インキュベートし、PCR産物の制限酵素処理を行った。制限酵素処理産物の反応溶液をアガロースゲルで電気泳動し、ゲルから制限酵素処理産物を精製し、全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAを得た。
【0033】
(2)ネフリン発現ベクター及びネフリンの細胞外ドメイン発現ベクターの作製
前記全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAをそれぞれ、予め制限酵素NotI及びEcoRIで処理した、SV40プロモーターを有するpAP3neoベクター(商品名、タカラバイオ社製)と混合し、SV40プロモーターの下流に全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAをそれぞれ導入したネフリン発現ベクター及びネフリンの細胞外ドメイン発現ベクターを作製した。
前記2種の発現ベクターをそれぞれEscherichia coli JM109コンピテントセル(タカラバイオ社製)に使用説明書に従って導入した。2日間培養し、QIAGEN Plasmid Maxi Kit(商品名、キアゲン社製)を用いてプラスミドを回収した。なお、DYEnamic ET Terminator Cycle Sequencing Kit(商品名、アマシャムバイオサイエンス社製)を用いてシーケシングを行うことで、回収したプラスミドが所望の構造を有することを確認した。
【0034】
(3)IgG抗体の作製
回収した2種のプラスミドをそれぞれ平均粒径1.0μmの金微粒子(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)の表面に使用説明書従って固着させた。
遺伝子銃を用いて、プラスミドが固着した金微粒子を、標準的な飼育室環境で2週間飼育した各グループ2〜3匹のニュージーランドホワイトラビット(雌、体重:2〜3kg、チャールス・リバー・ブリーディング・ラボラトリー社製)の大腿部皮下に打ち込んだ。なお、30μg/回のプラスミドを2週間ごとに4回打ち込んだ。また、コントロールとして、ネフリン遺伝子を組み込まない発現ベクターを3匹のウサギに同様に打ち込んだ。
最後のプラスミドの投与から2週後にウサギの血清を回収した。回収した血清50mLを撹拌しながら飽和硫化アンモニウムをゆっくり加え、4℃で一晩置いた。サンプルを300×gで20分遠心分離し、沈殿をMelon Gel IgG Purification Buffer(商品名、サーモサイエンティフィック社製)に溶解し、300倍容のMelon Gel IgG Purification Buffer(商品名、サーモサイエンティフィック社製)に対して透析した。得られたサンプルをMelon Gel IgG Purification Kit(商品名、サーモサイエンティフィック社製)のカラムを用いて精製し、画分を回収した。回収した画分をAmicon Ultra-15(商品名、ミリポア社製)を用いて濃縮した。濃縮したサンプルを0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)で透析し、ポリクローナルIgG抗体を作製した。
なお、ネフリンcDNAが挿入されていない発現ベクターをウサギに導入したところ、抗ネフリン抗体は産生されなかった。
【0035】
(4)IgG抗体のラットへの投与
3種のIgG抗体のPBSバッファー1mLをそれぞれ健常な8週齢Wister Kyotoラット(雌、体重:150〜170g、チャールス・リバー・ブリーディング・ラボラトリー社製、飼料の自由摂取及び自由摂水条件下で12時間毎の明暗サイクルの標準的な飼育室環境で飼育)に尾動脈から投与した。IgG抗体の投与量は、2mg、4mg、8mg又は16mgとした。
【0036】
(5)タンパク尿排泄量の測定
IgG抗体投与後1時間から15日までの、タンパク尿排泄量をビウレット法により経時的に測定した。その結果を図2〜5に示す。
図2及び3は、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。図2及び3から明らかなように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与することにより、ラットがタンパク尿を排泄するようになった。また、IgG抗体の投与量に依存して、タンパク尿の排泄量が増大した。さらに、IgG抗体投与から遅くとも12日目には、タンパク尿の排泄がほとんど見られなくなった。
これに対して、図4及び5からわかるように、ネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体、及びネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与したラットは、タンパク尿はほとんど排泄されなかった。
【0037】
(6)腎機能の確認
3種のIgG抗体をそれぞれ投与して15日後にラットの腎臓組織を採取し、腎臓の表層をホルマリン(pH7.2)で固定した。表層組織をエタノール−キシロールで脱水し、パラフィンに埋め込んだ。固定した腎臓の表層の3〜4μmをヘマトキシリン及びエオシン、又は過ヨウ素酸シッフで染色し、腎糸球体の硬化・損傷を光学顕微鏡で確認した。
その結果、全長ネフリンに対するIgG抗体、ネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体、及びネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与したラットの腎糸球体に、硬化・損傷は確認されなかった。
【0038】
また、全長ネフリンに対するIgG抗体の投与前、並びに投与して30分後、1時間後、2時間後、3時間後、8時間後、3日後、9日後及び15日後にラットの腎臓組織を採取し、Tissue-Tek O.C.T.Compound(Sakura Finetek社製)に浸し、液体窒素で凍結させた。クリオスタットを用いて3μmにスライスして凍結切片を作製し、氷冷アセトンで5分間固定した。PBSで5分間洗浄し、凍結切片をFITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)と室温で40分間反応させた。PBSで3回洗浄し、腎臓組織を蛍光顕微鏡(商品名:BX51、オリンパス社製)で観察した。その結果を図6〜14に示す。
図6〜14から明らかなように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して30分後には、ラットの腎糸球体に結合し、その結合が投与後3日後まで維持されていることがわかる。さらに、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与してから15日後には、IgG抗体の腎糸球体への結合はほとんどなくなり、腎糸球体がIgG抗体投与前の状態に戻っていることがわかる。
【0039】
さらに、全長ネフリンに対するIgG抗体の投与前、並びに投与して30分後、1時間後、2時間後、3時間後、8時間後、3日後、9日後及び15日後にラットの腎臓組織を採取し、腎臓の表層を小片に切断し、2.5%グルタルアルデヒドの0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.4)を用いて数日間4℃で前固定した。0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.4)で洗浄し、2%四酸化オスミウムの0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.4)を用いて1時間、後固定した。エタノールを用いて脱水し、n-ブチルグリシジルエーテル(商品名:QY-1、日新EM社製)で置換し、Quetol812(商品名、日新EM社製)樹脂組成物に埋め込んだ。前記樹脂組成物から80nmの超薄切片を切り出し、レイノルズ法に従い3%酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色し、電子顕微鏡(商品名:model JEX-1200EX、日本電子社製)で観察した。その結果を図15〜23に示す。
図15〜23から明らかなように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与することにより、腎糸球体の上皮細胞の足突起に異常が見られた。例えば、図17に示すように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して1時間後に、腎糸球体の上皮細胞の足突起の消失が見られた。この足突起の消失は、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3日後まで観測された。一方、図22に示すように、足突起の異常は全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して9日後には徐々に改善され、図23に示すように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して15日後には完全に足突起の異常は改善された。
これに対して、ネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体及びネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与した場合、足突起の異常は観測されなかった(図示せず)。
【0040】
(7)大腸菌産生ラットネフリンに対する家兎抗ラットネフリン抗体の抗原認識能
前記(1)で合成した全長ネフリンcDNAを鋳型として用いてPCRを行い、免疫グロブリン様細胞外ドメインの1番目及び2番目のドメイン、免疫グロブリン様細胞外ドメインの3番目及び4番目のドメイン、免疫グロブリン様細胞外ドメインの5番目及び6番目のドメイン、免疫グロブリン様細胞外ドメインの7番目及び8番目のドメイン、又はフィブロネクチンtypeIIIドメインをコードし、制限酵素EcoRI認識部位を5’末端側に、制限酵素NotI認識部位を3’末端側にそれぞれ有するcDNAをそれぞれ作製した。
得られたPCR産物に対して制限酵素EcoRI及びNotIを添加し、37℃で1時間処理し、PCR産物の制限酵素処理を行った。制限酵素処理産物の反応溶液をアガロースゲルで電気泳動し、ゲルから制限酵素処理産物を精製し、各ドメインcDNAを得た。
【0041】
前記各ドメインcDNAをそれぞれ、予め制限酵素EcoRI及びNotIで処理した、tacプロモーターを有するpGEX-5X-1ベクター(商品名、GE Healthcare Life Sciences社製)と混合し、各ドメインcDNAをそれぞれ導入したドメイン発現ベクターを作製した。
このようにして得られた発現ベクターをそれぞれ大腸菌Escherichia coli BL21(DE3)pLysSコンピテントセル(promega社製)に使用説明書に従って導入し、大腸菌を培養した後、ITPGを1mMとなるように添加して、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の1番目及び2番目のドメイン、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の3番目及び4番目のドメイン、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の5番目及び6番目のドメイン、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の7番目及び8番目のドメイン、及びフィブロネクチンtypeIIIドメインをそれぞれ発現させた。なお、発現させた各ドメインの末端には、GST(S-トランスフェラーゼ)が付加されるようにした。
大腸菌細胞の封入体を8M尿素で溶解してネフリン各ドメインのタンパク質を回収した後に、SDS-PAGE及びウエスタンブロット法により分子量分画を行い、転写膜上に付着させた。転写膜に付着しなかった各ドメインの非付着部位は、アルブミンで覆った。
【0042】
このようにして得られたタンパク質を抗原とし、各種IgG抗体と反応させ、二次抗体として抗家兎IgG-HRPを反応させた後に発色させて、前記(3)で作製した全長ネフリンに対するIgG抗体が認識するネフリンの部位について検討した。その結果を図24に示す。
レーン1では、各抗原と、抗GST抗体とを反応させた。この結果から、いずれのタンパク質もそれぞれ十分量存在していたことがわかる。
レーン2では、ネフリンをコードするDNAを含まない発現ベクターを家兎に投与して得た抗体を各抗原と反応させた。この場合、抗体はいずれの抗原にも結合しなかった。
レーン3では、前記(3)で作製したネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体を、各抗原と反応させた。この場合、抗体はいずれの抗原にも結合しなかった。
レーン4では、全長ネフリンcDNAに対する抗体を、各抗原と反応させた。この場合、抗体はフィブロネクチンtypeIIIドメインには結合したが、それ以外の免疫グロブリン様細胞外の各ドメインとは結合しなかった。
これらの結果は、本発明に用いる抗体の抗原認識部位が、ネフリンのフィブロネクチンtypeIIIドメインであることを示す。
【0043】
実施例で示すように、本発明によれば、通常よりもタンパク尿の排泄量が多い、ネフローゼ症候群を発症させたモデル動物を提供することができる。さらに、本発明の方法により得られるモデル動物は、腎機能以外の機能は正常であり、ポリクローナル抗体を投与してから一定時間経過後には腎臓の機能が正常に戻りネフローゼ症候群が改善される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネフローゼ症候群とは、内皮細胞、基底膜、有足細胞からなる腎糸球体濾過障壁を通って血漿タンパク質が尿に大量に排泄され、血中タンパク質が減少する結果、細胞外液が血中から組織間に移行して浮腫を来たす、腎臓疾患群の総称である。
【0003】
最近の研究により、糸球体の有足細胞に存在するネフリンがネフローゼ症候群に関与するタンパク質の1種であることが明らかとなっている(例えば、非特許文献1〜6参照)。これまでに、腎糸球体の上皮細胞間のスリット膜分子の以上によりネフローゼ症候群が発症すると考えられている。しかし、糸球体の有足細胞や濾過障壁におけるネフローゼ症候群発症の分子機序が解明されていない。そのため、ネフローゼ症候群を発症した有用なモデル動物が存在せず、医薬の開発などにおいてネフローゼ症候群モデル動物が求められている。
【0004】
これまでに、ネフリンが先天性(Finnish type)ネフローゼ症候群に関係することが知られている(例えば、非特許文献7参照)。さらに、腎移植後の先天性ネフローゼ症候群の患者の体内で生成される抗ネフリン抗体は、移植した腎臓を介して大量のタンパク尿が生成されることが明らかになっている(例えば、非特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dorit B.Donoviel,et al.,Molecular and Cellular Biology,Vol.21,p.4829-4836,2001
【非特許文献2】Lorenz Sellin,et al.,The FASEB Journal,Vol.17,p.115-117,2003
【非特許文献3】Shih NY,et al.,Science,Vol.286,p.312-315,1999
【非特許文献4】Winn MP,et al.,Science,Vol.308,p.1801-1804,2005
【非特許文献5】Reiser J,et al.,Nat.Genet.,Vol.37,p.739-44,2005
【非特許文献6】Michaud JL,et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,Vol.14,p.1200-1211,2003
【非特許文献7】Kestila M,et al.,Mol.Cell,Vol.1,p.575-82,1998.
【非特許文献8】Patrakka Jaakko,et al.,Transplantation,Vol.73,p.394-403,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題に鑑み、本発明者等は、鋭意検討を行った。その結果、腎糸球体の上皮細胞間のネフリンのみを損傷することでタンパク尿を排泄し、ネフローゼ症候群が発症することを見出した。そして、腎糸球体の上皮細胞間のネフリンは、全長ネフリンcDNAに対するポリクローナル抗体を投与することで異常が生じ、その結果ネフリンが損傷することを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至った。
【0008】
本発明の課題は、以下の手段によって達成された。
(1)全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(2)前記全長ネフリンをコードするDNAが下記(a)〜(h)のいずれかのDNAである、前記(1)項記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(e)配列番号3に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(f)配列番号3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(g)配列番号4に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(h)配列番号4に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(3)前記抗体が、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入し、該非ヒト動物の血清から回収して得られた、前記(1)又は(2)項記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(4)前記抗体の抗原認識部位が、ネフリンのフィブロネクチンtypeIIIドメインである、前記(1)〜(3)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(5)全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを表面に固着させた担体を用いて、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入する、前記(3)又は(4)項記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(6)腎臓以外の器官は正常に機能する、前記(1)〜(5)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(7)前記抗体を投与してから一定時間経過後、腎臓の機能が正常に戻りネフローゼ症候群が改善される、前記(1)〜(6)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(8)モデル動物がラットである、前記(1)〜(7)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(9)全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを導入する非ヒト動物がウサギである、前記(1)〜(8)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(10)前記(1)〜(9)項のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法で作製された、ネフローゼ症候群モデル動物。
(11)前記(10)項記載のネフローゼ症候群モデル動物に被験物質を投与し、前記モデル動物におけるタンパク尿の生成量を解析し、生成量を抑制する被験物質を選択する、ネフローゼ症候群の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒトの全長ネフリンの構造を模式的に示す概略図である。
【図2】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図3】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与した別のラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図4】実施例において、ネフリンの8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインに対するIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図5】実施例において、ネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。
【図6】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体投与前のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図7】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して30分後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図8】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して1時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図9】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して2時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図10】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図11】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して8時間後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図12】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3日後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図13】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して9日後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図14】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して15日後のラットの腎臓組織の凍結切片と、FITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とを反応させたときの様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図15】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体投与前のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図16】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して30分後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して1時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図18】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して2時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図19】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図20】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して8時間後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図21】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3日後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図22】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して9日後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図23】実施例において、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して15日後のラットの腎糸球体の上皮細胞の足突起の様子を示す電子顕微鏡写真である。
【図24】本発明で用いる抗体が認識するネフリンの部位を検討した試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法は、全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む。
【0012】
本発明における「ネフリン」の構造について、ヒトのネフリンを例に、図1に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、ネフリンは、N末端からC末端に向かって、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメイン(extracellular immunoglobulin(Ig)-like domain)、細胞外ドメインの膜貫通領域近傍にあるフィブロネクチンtypeIIIドメイン(fibronectin type III domain、FN III)、膜貫通ドメイン(transmembrane domain、TM)、及び細胞質ドメインを含むタンパク質である。なお、図1に示すヒトのネフリンは、ネフリン遺伝子より合成されたネフリンが、N末端側のシグナルペプチドにより導かれて小胞体に移動し、免疫グロブリン様細胞外ドメインに糖鎖が付加した、成熟ネフリンを模式的に示すものである。図1に示すように、ヒトの成熟ネフリンは、N末端側のシグナルペプチドが切断され、免疫グロブリン様細胞外ドメインに糖鎖(図1中、黒六角形で示す)が付加している。
本発明において、「全長ネフリン」とは、前記8つの免疫グロブリン様細胞外ドメイン、フィブロネクチンtypeIIIドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインからなるタンパク質であり、N末端側のシグナルペプチドにより小胞体に移動したのち免疫グロブリン様細胞外ドメインに糖鎖が付加するものを意味する。
本発明における、全長ネフリンのアミノ酸配列及び全長ネフリン遺伝子の全塩基配列は、Hiroshi Kawachi,et al.,Kidney International,Vol.57,p.1949-1961,2000;Holzman L.B.,et al.,Kidney Int.,Vol.56,p.1481-1491,1999;Kestilae M.,et al.,Mol.Cell,Vol.1,p.575-582,1998;Gerth V.E.,et al.,Dev.Dyn.,Vol.233,p.1131-1139,2005などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
【0013】
後述の実施例でも示すように、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインに対する抗体を非ヒト動物に投与しても腎機能は何ら変化せず、ネフローゼ症候群モデル動物を作成することはできないのに対し、全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することにより、ネフローゼ症候群モデル動物を作成することができる。
【0014】
本発明における全長ネフリンをコードするDNAは、下記(a)〜(h)のいずれかのDNAであることが好ましい。
(a)配列番号1に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(e)配列番号3に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(f)配列番号3に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(g)配列番号4に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(h)配列番号4に記載の塩基配列において1又は数個(好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1〜350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
【0015】
配列番号1〜4に記載の塩基配列について、詳細に説明する。
<配列番号1>
配列番号1は、Wister系ラットの全長ネフリンcDNAの塩基配列を示す。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜105番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は115〜2859番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2863〜3147番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3235〜3297番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3298〜3756番目の塩基配列である。
<配列番号2>
配列番号2は、ハツカネズミ(Mus musculus)の全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を示す(Kidney Int.,56(4),p.1481-1491,1999参照)。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜105番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は115〜2859番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2863〜3147番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3235〜3297番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3298〜3768番目の塩基配列である。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒト(Homo sapiens)の全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を示す(Mol.Cell,1(4),p.575-582,1998)参照)。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜66番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は79〜2817番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2821〜3105番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3166〜3228番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3229〜3723番目の塩基配列である。
<配列番号4>
配列番号4は、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を示す(Dev.Dyn.,233(3),p.1131-1139,2005参照)。このうち、シグナルペプチドをコードする領域は1〜75番目の塩基配列であり、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインをコードする領域は76〜2760番目の塩基配列であり、フィブロネクチンtypeIIIドメインをコードする領域は2761〜3036番目の塩基配列であり、膜貫通ドメインをコードする領域は3124〜3198番目の塩基配列であり、細胞質ドメインをコードする領域は3199〜3714番目の塩基配列である。
【0016】
本発明における全長ネフリンをコードするDNAは、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNAが好ましい。また、全長ネフリンをコードするDNAは、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列又はその相補配列からなるDNAであってもよく、相同性が85%以上であることがさらに好ましく、相同性が90%以上であることがさらに好ましく、相同性が95%以上であることがさらに好ましく、相同性が99%以上であることが特に好ましい。また、全長ネフリンをコードするDNAには、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列において1又は数個、好ましくは1〜750個、より好ましくは1〜550個、さらに好ましくは1から350個、特に好ましくは1〜200個、最も好ましくは1〜50個の塩基の欠失、置換、挿入又は付加されており、かつ全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNAも包含される。また、配列番号1〜4のいずれかに記載の塩基配列に、適当な塩基配列を付加してもよい。
塩基配列の相同性については、Lipman-Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0017】
全長ネフリンをコードするDNAを作成する方法は特に制限されず、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、PCR、化学合成、これらの組合せ等、通常の方法に従うことができる。
【0018】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。本発明において、前記抗体はポリクローナル抗体が好ましい。
【0019】
抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE等のいずれかのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくはIgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとIgGがより好ましい。
【0020】
本発明に用いる抗体の作成方法に特に制限はないが、全長ネフリンをコードするDNAを含む発現ベクターを非ヒト動物に導入し、該非ヒト動物の血清から抗体を回収する方法が好ましい。
前記方法で用いる、全長ネフリンをコードするDNAを組み込むベクターに特に制限はないが、哺乳動物細胞で発現可能なベクター、例えば、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターを有するpAP3neoベクター(商品名、タカラバイオ社製)、サイトメガロウイルスプロモーターを有するpTARGETベクター(商品名、プロメガ社製)等が好ましい。
【0021】
全長ネフリンをコードするDNAを組み込むベクターを非ヒト動物に投与して免疫する際には、当該ベクターを適当な担体と結合して使用することもできる。本発明に用いることができる担体としては特に制限はないが、金属微粒子が好ましく、金微粒子及びタングステン微粒子が好ましく、金微粒子がより好ましい。前記金属微粒子の平均粒径に特に制限はないが、0.6〜1.6μmが好ましく、0.8〜1.2μmがより好ましく、1.0μmが特に好ましい。
【0022】
本発明に用いる抗体は、通常の製造方法によって作製することができ、例えば、哺乳動物に免疫することにより作成することができる。具体的には、ポリクローナル抗体を作製する場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマ、ウシ等、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマ、ウサギ等免疫することが好ましい。モノクローナル抗体を作製する場合、マウス、ラット、ハムスター等に免疫することが好ましい。本発明においては、全長ネフリンをコードするDNAを組み込むベクターをウサギに導入して免疫し、抗体を作製することが好ましい。
【0023】
本発明に用いる抗体は、非ヒト動物に抗原を投与して免疫感作を行い、該動物から血液を採取し、採取した血液から抗体を分離・精製することにより得ることができる。
免疫感作は、通常の免疫感作の方法に従い、例えば抗原を1回以上投与することにより行うことができる。例えば、3〜30日(好ましくは7〜14日)間隔で3〜8回抗原を投与することが好ましい。また、抗原の投与量も適宜選択でき、0.1〜50μg/匹/回が好ましく、30〜50μg/匹/回がより好ましい。抗原の投与経路も特に限定されず、皮下投与、皮内投与、腹膜腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与等を適宜選択することができるが、静脈内、腹膜腔内又は皮下に注射することにより投与することが好ましい。
【0024】
免疫感作した非ヒト動物を、例えば0.5〜1ケ月間飼育した後、該非ヒト動物の血清を耳静脈等から少量サンプリングし、抗体価を測定する。抗体価が上昇してきたら、状況に応じて抗原の投与を適当回数実施する。最後の投与から0.5〜1ケ月後に免疫感作した哺乳動物から通常の方法により血液を採取して、該血液を、例えば遠心分離、硫酸アンモニウム又はポリエチレングリコールを用いた沈澱、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の通常の方法によって分離・精製することにより、所望の抗体を得ることができる。
【0025】
上記のように作製した抗体を投与する非ヒト動物としては特に制限はないが、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ及びサル等の非ヒト哺乳動物を好ましく例示することができる。このうち、ラット、マウス、モルモット、ハムスター等の齧歯目動物が好ましく、実験動物としての汎用性や利便性を考慮してラット及びマウスがさらに好ましく、生理学的検討が行い易いことからラットが特に好ましい。ラットを用いる場合、6〜12週齢のものが好ましい。
【0026】
抗体の投与量は、20〜100mg/kgが好ましく、25〜80mg/kgがより好ましい。抗体の投与経路に特に制限はなく、腹腔内、髄腔内、静脈内、動脈内、皮下があげられる。
【0027】
本発明の製造方法により得られるネフローゼ症候群モデル動物は、全長ネフリンcDNAに対する抗体を投与することにより、腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる。また、該モデル動物は、腎臓以外の器官は正常に機能するため、抗体を投与してから一定期間が経過した後、ネフローゼ症候群が治癒・改善する。さらに、本発明の製造方法は、ネフローゼ症候群モデル動物を再現性よく製造することができる。したがって、本発明によれば、ネフローゼ症候群発症の機序の解明に寄与するネフローゼ症候群モデル動物を提供することができ、ネフローゼ症候群の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法等、当該疾患の治療・予防に有用な手段を提供することができる。
【0028】
本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸など);脂質、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど;あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。
【0029】
被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。本発明のモデル動物に被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、気管内投与、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。
また、被験物質を投与した前記モデル動物におけるタンパク尿の生成量の測定方法についても特に制限はなく、通常の方法で測定することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
(1)全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAの作製
Wister系ラットの全長ネフリンcDNA(配列番号1に記載の塩基配列)に、制限酵素EcoRI認識部位を5’末端側に、制限酵素NotI認識部位を3’末端側にそれぞれ付加したcDNA(配列番号5に記載の塩基配列)をタカラカスタムサービス社に合成依頼し、購入した。
【0032】
合成した全長ネフリンcDNAを鋳型として用いてPCRを行い、8つの免疫グロブリン様細胞外ドメインのみをコードし、制限酵素EcoRI認識部位を5’末端側に、制限酵素NotI認識部位を3’末端側にそれぞれ有するネフリンの細胞外ドメインcDNA(配列番号6に記載の塩基配列)を作製した。なお、PCRに用いた3’-プライマーは、制限酵素NotIで切断される塩基配列及び終止コドンを含むように設計し、5’-プライマーは上流に制限酵素EcoRIで切断される塩基配列を有するように設計した。
得られたPCR産物に対して制限酵素NotIを添加して37℃エアーインキュベーター内に1晩静置した後、さらにEcoRIを添加して37℃ウォーターバスで1時間インキュベートし、PCR産物の制限酵素処理を行った。制限酵素処理産物の反応溶液をアガロースゲルで電気泳動し、ゲルから制限酵素処理産物を精製し、全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAを得た。
【0033】
(2)ネフリン発現ベクター及びネフリンの細胞外ドメイン発現ベクターの作製
前記全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAをそれぞれ、予め制限酵素NotI及びEcoRIで処理した、SV40プロモーターを有するpAP3neoベクター(商品名、タカラバイオ社製)と混合し、SV40プロモーターの下流に全長ネフリンcDNA及びネフリンの細胞外ドメインcDNAをそれぞれ導入したネフリン発現ベクター及びネフリンの細胞外ドメイン発現ベクターを作製した。
前記2種の発現ベクターをそれぞれEscherichia coli JM109コンピテントセル(タカラバイオ社製)に使用説明書に従って導入した。2日間培養し、QIAGEN Plasmid Maxi Kit(商品名、キアゲン社製)を用いてプラスミドを回収した。なお、DYEnamic ET Terminator Cycle Sequencing Kit(商品名、アマシャムバイオサイエンス社製)を用いてシーケシングを行うことで、回収したプラスミドが所望の構造を有することを確認した。
【0034】
(3)IgG抗体の作製
回収した2種のプラスミドをそれぞれ平均粒径1.0μmの金微粒子(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)の表面に使用説明書従って固着させた。
遺伝子銃を用いて、プラスミドが固着した金微粒子を、標準的な飼育室環境で2週間飼育した各グループ2〜3匹のニュージーランドホワイトラビット(雌、体重:2〜3kg、チャールス・リバー・ブリーディング・ラボラトリー社製)の大腿部皮下に打ち込んだ。なお、30μg/回のプラスミドを2週間ごとに4回打ち込んだ。また、コントロールとして、ネフリン遺伝子を組み込まない発現ベクターを3匹のウサギに同様に打ち込んだ。
最後のプラスミドの投与から2週後にウサギの血清を回収した。回収した血清50mLを撹拌しながら飽和硫化アンモニウムをゆっくり加え、4℃で一晩置いた。サンプルを300×gで20分遠心分離し、沈殿をMelon Gel IgG Purification Buffer(商品名、サーモサイエンティフィック社製)に溶解し、300倍容のMelon Gel IgG Purification Buffer(商品名、サーモサイエンティフィック社製)に対して透析した。得られたサンプルをMelon Gel IgG Purification Kit(商品名、サーモサイエンティフィック社製)のカラムを用いて精製し、画分を回収した。回収した画分をAmicon Ultra-15(商品名、ミリポア社製)を用いて濃縮した。濃縮したサンプルを0.2Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)で透析し、ポリクローナルIgG抗体を作製した。
なお、ネフリンcDNAが挿入されていない発現ベクターをウサギに導入したところ、抗ネフリン抗体は産生されなかった。
【0035】
(4)IgG抗体のラットへの投与
3種のIgG抗体のPBSバッファー1mLをそれぞれ健常な8週齢Wister Kyotoラット(雌、体重:150〜170g、チャールス・リバー・ブリーディング・ラボラトリー社製、飼料の自由摂取及び自由摂水条件下で12時間毎の明暗サイクルの標準的な飼育室環境で飼育)に尾動脈から投与した。IgG抗体の投与量は、2mg、4mg、8mg又は16mgとした。
【0036】
(5)タンパク尿排泄量の測定
IgG抗体投与後1時間から15日までの、タンパク尿排泄量をビウレット法により経時的に測定した。その結果を図2〜5に示す。
図2及び3は、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与したラットのタンパク尿排泄量の経時変化を示す図である。図2及び3から明らかなように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与することにより、ラットがタンパク尿を排泄するようになった。また、IgG抗体の投与量に依存して、タンパク尿の排泄量が増大した。さらに、IgG抗体投与から遅くとも12日目には、タンパク尿の排泄がほとんど見られなくなった。
これに対して、図4及び5からわかるように、ネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体、及びネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与したラットは、タンパク尿はほとんど排泄されなかった。
【0037】
(6)腎機能の確認
3種のIgG抗体をそれぞれ投与して15日後にラットの腎臓組織を採取し、腎臓の表層をホルマリン(pH7.2)で固定した。表層組織をエタノール−キシロールで脱水し、パラフィンに埋め込んだ。固定した腎臓の表層の3〜4μmをヘマトキシリン及びエオシン、又は過ヨウ素酸シッフで染色し、腎糸球体の硬化・損傷を光学顕微鏡で確認した。
その結果、全長ネフリンに対するIgG抗体、ネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体、及びネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与したラットの腎糸球体に、硬化・損傷は確認されなかった。
【0038】
また、全長ネフリンに対するIgG抗体の投与前、並びに投与して30分後、1時間後、2時間後、3時間後、8時間後、3日後、9日後及び15日後にラットの腎臓組織を採取し、Tissue-Tek O.C.T.Compound(Sakura Finetek社製)に浸し、液体窒素で凍結させた。クリオスタットを用いて3μmにスライスして凍結切片を作製し、氷冷アセトンで5分間固定した。PBSで5分間洗浄し、凍結切片をFITC標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)と室温で40分間反応させた。PBSで3回洗浄し、腎臓組織を蛍光顕微鏡(商品名:BX51、オリンパス社製)で観察した。その結果を図6〜14に示す。
図6〜14から明らかなように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して30分後には、ラットの腎糸球体に結合し、その結合が投与後3日後まで維持されていることがわかる。さらに、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与してから15日後には、IgG抗体の腎糸球体への結合はほとんどなくなり、腎糸球体がIgG抗体投与前の状態に戻っていることがわかる。
【0039】
さらに、全長ネフリンに対するIgG抗体の投与前、並びに投与して30分後、1時間後、2時間後、3時間後、8時間後、3日後、9日後及び15日後にラットの腎臓組織を採取し、腎臓の表層を小片に切断し、2.5%グルタルアルデヒドの0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.4)を用いて数日間4℃で前固定した。0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.4)で洗浄し、2%四酸化オスミウムの0.1Mカコジル酸塩緩衝液(pH7.4)を用いて1時間、後固定した。エタノールを用いて脱水し、n-ブチルグリシジルエーテル(商品名:QY-1、日新EM社製)で置換し、Quetol812(商品名、日新EM社製)樹脂組成物に埋め込んだ。前記樹脂組成物から80nmの超薄切片を切り出し、レイノルズ法に従い3%酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色し、電子顕微鏡(商品名:model JEX-1200EX、日本電子社製)で観察した。その結果を図15〜23に示す。
図15〜23から明らかなように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与することにより、腎糸球体の上皮細胞の足突起に異常が見られた。例えば、図17に示すように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して1時間後に、腎糸球体の上皮細胞の足突起の消失が見られた。この足突起の消失は、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して3日後まで観測された。一方、図22に示すように、足突起の異常は全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して9日後には徐々に改善され、図23に示すように、全長ネフリンに対するIgG抗体を投与して15日後には完全に足突起の異常は改善された。
これに対して、ネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体及びネフリン遺伝子を含まないベクターを打ち込んだニュージーランドホワイトラビットの血清から回収したIgG抗体を投与した場合、足突起の異常は観測されなかった(図示せず)。
【0040】
(7)大腸菌産生ラットネフリンに対する家兎抗ラットネフリン抗体の抗原認識能
前記(1)で合成した全長ネフリンcDNAを鋳型として用いてPCRを行い、免疫グロブリン様細胞外ドメインの1番目及び2番目のドメイン、免疫グロブリン様細胞外ドメインの3番目及び4番目のドメイン、免疫グロブリン様細胞外ドメインの5番目及び6番目のドメイン、免疫グロブリン様細胞外ドメインの7番目及び8番目のドメイン、又はフィブロネクチンtypeIIIドメインをコードし、制限酵素EcoRI認識部位を5’末端側に、制限酵素NotI認識部位を3’末端側にそれぞれ有するcDNAをそれぞれ作製した。
得られたPCR産物に対して制限酵素EcoRI及びNotIを添加し、37℃で1時間処理し、PCR産物の制限酵素処理を行った。制限酵素処理産物の反応溶液をアガロースゲルで電気泳動し、ゲルから制限酵素処理産物を精製し、各ドメインcDNAを得た。
【0041】
前記各ドメインcDNAをそれぞれ、予め制限酵素EcoRI及びNotIで処理した、tacプロモーターを有するpGEX-5X-1ベクター(商品名、GE Healthcare Life Sciences社製)と混合し、各ドメインcDNAをそれぞれ導入したドメイン発現ベクターを作製した。
このようにして得られた発現ベクターをそれぞれ大腸菌Escherichia coli BL21(DE3)pLysSコンピテントセル(promega社製)に使用説明書に従って導入し、大腸菌を培養した後、ITPGを1mMとなるように添加して、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の1番目及び2番目のドメイン、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の3番目及び4番目のドメイン、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の5番目及び6番目のドメイン、ネフリン免疫グロブリン様細胞外の7番目及び8番目のドメイン、及びフィブロネクチンtypeIIIドメインをそれぞれ発現させた。なお、発現させた各ドメインの末端には、GST(S-トランスフェラーゼ)が付加されるようにした。
大腸菌細胞の封入体を8M尿素で溶解してネフリン各ドメインのタンパク質を回収した後に、SDS-PAGE及びウエスタンブロット法により分子量分画を行い、転写膜上に付着させた。転写膜に付着しなかった各ドメインの非付着部位は、アルブミンで覆った。
【0042】
このようにして得られたタンパク質を抗原とし、各種IgG抗体と反応させ、二次抗体として抗家兎IgG-HRPを反応させた後に発色させて、前記(3)で作製した全長ネフリンに対するIgG抗体が認識するネフリンの部位について検討した。その結果を図24に示す。
レーン1では、各抗原と、抗GST抗体とを反応させた。この結果から、いずれのタンパク質もそれぞれ十分量存在していたことがわかる。
レーン2では、ネフリンをコードするDNAを含まない発現ベクターを家兎に投与して得た抗体を各抗原と反応させた。この場合、抗体はいずれの抗原にも結合しなかった。
レーン3では、前記(3)で作製したネフリンの細胞外ドメインに対するIgG抗体を、各抗原と反応させた。この場合、抗体はいずれの抗原にも結合しなかった。
レーン4では、全長ネフリンcDNAに対する抗体を、各抗原と反応させた。この場合、抗体はフィブロネクチンtypeIIIドメインには結合したが、それ以外の免疫グロブリン様細胞外の各ドメインとは結合しなかった。
これらの結果は、本発明に用いる抗体の抗原認識部位が、ネフリンのフィブロネクチンtypeIIIドメインであることを示す。
【0043】
実施例で示すように、本発明によれば、通常よりもタンパク尿の排泄量が多い、ネフローゼ症候群を発症させたモデル動物を提供することができる。さらに、本発明の方法により得られるモデル動物は、腎機能以外の機能は正常であり、ポリクローナル抗体を投与してから一定時間経過後には腎臓の機能が正常に戻りネフローゼ症候群が改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項2】
前記全長ネフリンをコードするDNAが下記(a)〜(h)のいずれかのDNAである、請求項1記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(e)配列番号3に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(f)配列番号3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(g)配列番号4に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(h)配列番号4に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
【請求項3】
前記抗体が、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入し、該非ヒト動物の血清から回収して得られた、請求項1又は2記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項4】
前記抗体の抗原認識部位が、ネフリンのフィブロネクチンtypeIIIドメインである、請求項1〜3のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項5】
全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを表面に固着させた担体を用いて、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入する、請求項3又は4記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項6】
腎臓以外の器官は正常に機能する、請求項1〜5のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項7】
前記抗体を投与してから一定時間経過後、腎臓の機能が正常に戻りネフローゼ症候群が改善される、請求項1〜6のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項8】
モデル動物がラットである、請求項1〜7のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項9】
全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを導入する非ヒト動物がウサギである、請求項1〜8のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法で作製された、ネフローゼ症候群モデル動物。
【請求項11】
請求項10記載のネフローゼ症候群モデル動物に被験物質を投与し、前記モデル動物におけるタンパク尿の生成量を解析し、生成量を抑制する被験物質を選択する、ネフローゼ症候群の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【請求項1】
全長ネフリンcDNAが誘導する抗体を非ヒト動物に投与することで腎糸球体の上皮細胞間のネフリンの異常を引き起してネフローゼ症候群を発症させる工程を含む、ネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項2】
前記全長ネフリンをコードするDNAが下記(a)〜(h)のいずれかのDNAである、請求項1記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(b)配列番号1に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(c)配列番号2に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(d)配列番号2に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(e)配列番号3に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(f)配列番号3に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
(g)配列番号4に記載の塩基配列又はその相補配列からなるDNA
(h)配列番号4に記載の塩基配列において1又は数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加されており全長ネフリンをコードする塩基配列、又はその相補配列からなるDNA
【請求項3】
前記抗体が、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入し、該非ヒト動物の血清から回収して得られた、請求項1又は2記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項4】
前記抗体の抗原認識部位が、ネフリンのフィブロネクチンtypeIIIドメインである、請求項1〜3のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項5】
全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを表面に固着させた担体を用いて、全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを非ヒト動物に導入する、請求項3又は4記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項6】
腎臓以外の器官は正常に機能する、請求項1〜5のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項7】
前記抗体を投与してから一定時間経過後、腎臓の機能が正常に戻りネフローゼ症候群が改善される、請求項1〜6のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項8】
モデル動物がラットである、請求項1〜7のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項9】
全長ネフリンをコードするDNAの塩基配列を含む発現ベクターを導入する非ヒト動物がウサギである、請求項1〜8のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載のネフローゼ症候群モデル動物の製造方法で作製された、ネフローゼ症候群モデル動物。
【請求項11】
請求項10記載のネフローゼ症候群モデル動物に被験物質を投与し、前記モデル動物におけるタンパク尿の生成量を解析し、生成量を抑制する被験物質を選択する、ネフローゼ症候群の治療及び/又は予防剤のスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
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【図19】
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【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−42693(P2013−42693A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182172(P2011−182172)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】
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