説明

ネブライザ

【課題】本発明が解決しようとする問題点は、大気圧下で有機溶媒に含まれるイオン化試薬入りサンプルを霧化し微細化することにより、中性分子の導入を極小とし、効率よくイオンを生成し、質量分析装置に導入すること目的としたイオン化霧化装置を提供することである。
【解決手段】本発明においては、ネブライザヘッドとサンプル溶液用キャピラリの構造に特徴を有し、ネブライザヘッドは、高圧力場を作り出すためステンレススチールで製作し、キャピラリ先端は、内面をテーパ加工とし、外側に向かって広げるフレア加工を施し、キャピラリ出口をネブライザヘッドよりも後退させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料を質量分析装置に導入する前段において、該液体試料を霧状にして気化してイオン化する大気圧イオン化装置(ネブライザ)に関し、特に、該装置のノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の大気圧イオン化法としては、ICP―MS(誘導結合プラズマによってイオン化された原子を質量分析することで、元素の同定・定量を行う方法)において、液体試料をネブライザで霧化して高温(6000K〜10000K)のICP中に導入し、試料を原子化、さらにイオン化させるものが知られている。また、エレクトロスプレーイオン化において、試料液体がキャピラリ先端に向かいながら高電圧によって電荷分離を生じ、先端付近で窒素気流にさらされて溶媒が蒸発し、イオン化させることも知られている。しかし、どちらの場合も、電場の作用によりイオン化している。一方サーモスプレーイオン化やコールドスプレーイオン化は、外部電圧を印加せずに、サンプル溶液を加熱することだけによりイオン化する方法も知られている。
【0003】
また、ブライザの先端部の構造については、内側微小管、又はニードルを機械的に安定させて、制御可能な均一液滴サイズを確保するために、微小管の出口端がネブライザ・アセンブリと同じ端部に位置させたものが知られている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、加圧気体を移送する外筒と、液体を移送する内筒と、前記外筒の内周面、または前記内筒の外周面のいずれかの少なくとも3箇所に形成され、前記外筒と内筒とを同心円状で、かつ先端同士がほぼ一致するように位置決めしたものが知られている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−517353号公報
【特許文献2】特開2006−198480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の大気圧下でのイオン化技術は、高電圧電場、コロナ放電、高周波電場、ペニングイオン化、誘電体バリア放電、レーザ、高低温場など多種にわたるが、それぞれに多くのエネルギー、複雑で高価なシステムが必要である。本発明が解決しようとする問題点は、大気圧下で有機溶媒に含まれるイオン化試薬入りサンプルを霧化し微細化することにより、中性分子の導入を極小とし、効率よくイオンを生成し、質量分析装置に導入することを目的としたイオン化霧化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、ネブライザヘッドとサンプル溶液用キャピラリの構造に特徴を有し、ネブライザヘッドは、高圧力場を作り出すためステンレススチールで製作し、キャピラリ先端は、内面をテーパ加工とし、外側に向かって広げるフレア加工を施し、キャピラリ出口をネブライザヘッドよりも後退させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、キャピラリ出口先端の形状が内面テーパ加工してあるため、サンプル溶液とガスとの会合時間を最短とすることを特徴とする。
【0009】
また、キャピラリ出口先端の形状がフレア加工してあるため、外側を通るガスが管路に沿って進んでくるが、ここで圧縮され管出口においてサンプル溶液に乱流を与えることにより効率よく脱溶媒を促すことを可能としている。
【0010】
さらに、キャピラリ出口をネブライザヘッドHよりもやや後退させることにより、負圧が生まれ前記内面テーパ加工およびフレア加工との相乗効果によりサンプル溶液により大きな運動エネルギーを与えることを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ネブライザの断面図
【図2】本発明に係るネブライザヘッドおよびその先端拡大図
【図3】霧化(ネブライズ)の様子
【図4】フレアテーパキャピラリ(φ0.35Xφ0.25)
【図5】ネブライザにキャピラリをセットした状態の図
【図6】キャピラリのオフセット量の相違による種々のパラメータの分布図
【図7】従来品と本発明品とのイオンカウントの比較図
【図8】従来品と本発明品とのトータルイオン時間変動の比較図
【図9】従来品のネブライザ先端拡大図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
図1は、ネブライザの断面図である。ネブライザは、ネブライザ本体BとネブライザヘッドHからなり、ネブライザ本体Bは、ネブライザガス導入口G、サンプル溶液導入用キャピラリCを有し、ネブライザ本体Bの先端にネブライザヘッドHが設けられている。ネブライザヘッドHの先端C1からは、サンプル溶液がネブライザガスによりせん断され脱溶媒され、イオン化分子が高速で噴射する。
【0013】
ここで、図9に、従来のネブライザの先端部を示す。この図9は、上記特許文献2の図2に示されているものである。この図から明らかなように、従来のネブライザの先端は、その中に収納されているキャピラリの先端と同じ位置に調整されている。
【0014】
次に、本願発明に係るネブライザの先端及びキャピラリの先端の拡大図を図2に示す。
【0015】
キャピラリの出口先端(CT)の内面にテーパ加工が施してある。これにより、サンプル溶液とネブライザガスとの会合時間を最短とすることが可能である。
【0016】
キャピラリの出口先端(CT)にフレア加工が施してある(図2の先端拡大図において、キャピラリの先端がわずかに、外側へ広げられていることが見て取れる)。これにより、外側を通るキャピラリガスが管路に沿って進んでくるが、ここで圧縮され管出口でサンプル溶液に乱流を与えることにより効率よく脱溶媒を促すことができる。
【0017】
キャピラリ出口をネブライザヘッドHよりもやや後退させることにより、負圧が生まれテーパ加工およびフレア加工との相乗効果により、サンプル溶液により大きな運動エネルギーを与えている。
【0018】
上記キャピラリの後退長さ(OF)は、ネブライザヘッドに設けられたキャピラリを通すための貫通孔の内径H1の1割(10%)から2倍程度が良い。好ましくは、上記内径H1と同等か、少し前へ出すことで最大のイオン量を得ることができ、ヘッド先端近く(上記内径H1の1割以下)や上記内径H1の2倍以上であると発生するイオンは減少する。
【0019】
また、ネブライザヘッドの上記貫通孔の内径は、H2、H1と段階的に細くすることにより、効率よくキャピラリガスを圧縮することができ、また加工上、機械工作を容易にしている。
【0020】
図3は、ネブライザヘッド貫通孔から、サンプル溶液が霧化され、イオン化されて吹き出している様子を示している。
【0021】
図4は、キャピラリの先端の様子を示している。内面にテーパが施され、外方へわずかに広げられている様子が窺える。
【0022】
図5は、キャピラリがネブライザヘッドの貫通孔に挿入されている様子を示している。
【0023】
図6に、キャピラリのオフセット量の相違によるトータルイオンカウントの分布図を示す。上段には、キャピラリオフセット量が0mmの場合を示している。これは、従来品に相当する。この図から明らかなように、オフセット量が0mmの場合には、トータルイオンカウントは、キャピラリの中心においては、周辺に比べて1/3程度に落ちている。
【0024】
図6の中段には、キャピラリの貫通孔内径が0.40mmの時に、0.2mm後退させた場合のトータルイオンカウントを示している。この場合には、キャピラリの中心においても、トータルイオンカウントは、かなり増加しており、周辺に比べて2割減少程度である。
【0025】
図6の下段には、キャピラリの貫通孔内径が0.40mmの時に、0.3mm後退させた場合のトータルイオンカウントを示している。この場合には、キャピラリの中心において、トータルイオンカウントは、最も高く、周辺に行くに従い、減少している。
【0026】
後退量が上記貫通孔と等しい程度までは、上記図6の下段と同じ傾向を示し、後退量を多くしていくと次第にトータルイオンカウントが減少していくことを確認した。したがって、キャピラリの後退量は、キャピラリを通すための貫通孔の内径H1の1割から2倍程度が良く、好ましくは、上記内径H1と同等か、上記内径より少し少ない程度後退させることで最大のイオン量を得ることができる。
【実施例1】
【0027】
本発明に係るネブライザにより霧化したサンプルを質量分析器に導入した際の相対検出感度を以下の表1に示す。相対感度について、基準としたのは創研工業製のネブライザタイプAである。サンプルによっては検出感度が10倍以上得られたものもあり、本発明による効果を表している。
【表1】

【0028】
図7には、サンプルをコレステロール(0.1mM)、イオン化試薬LiTFPB(0.1mM)、ジクロロメタン溶媒における本発明のネブライザと従来のネブライザにおけるイオンカウントの比較をしたグラフを示す。シグナル感度は、本発明の方がピーク値779の2M+Liのピークで11.6(449496/38823)倍程良好であった。また、ノイズレベルは、1600〜1610チャンネルのホワイトノイズ成分の平均値がそれぞれ219と112であったので、ほぼ半減した。よってS/N比(4031/177)で見ると本発明のネブライザは従来品より23倍良好であった。
【0029】
図8に、サンプルをコレステロール(0.1mM)、イオン化試薬LiTFPB(0.1mM)、ジクロロメタン溶媒における本発明のネブライザと従来のネブライザにおけるトータルイオンカウントの1.5分間時間変動を示す。前の結果からも分かるように、全イオンの感度は105から107へとおよそ100倍となり、安定度に至っては、相対誤差である変動係数が7.9%から1.3%へと減少し、きわめて安定していることが確認された。

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のネブライザは、大気圧下で有機溶媒に含まれるイオン化試薬入りサンプルを霧化し微細化することにより、中性分子の導入を極小とし、効率よくイオンを生成し、質量分析装置に導入することができるので、ネブライザを利用するすべての装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
B ネブライザ本体
C キャピラリ
C1 キャピラリ先端の外径
CT キャピラリ出口先端
F キャピラリコネクタ
G ネブライザガス導入口
H ネブライザヘッド
H1 ネブライザヘッドの貫通孔の先端内径
H2 ネブライザヘッドの貫通孔のH1より内側(奥)の内径
OF キャピラリ先端のネブライザ先端からの後退量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネブライザ本体及びネブライザヘッドからなるネブライザにおいて、該ネブライザ本体は、ネブライザガス導入口、サンプル溶液導入用キャピラリを有し、該ネブライザ本体の先端にネブライザヘッドが設けられており、該ヘッドには、上記キャピラリを導入する貫通孔が設けられており、該キャピラリの出口先端の内面にはテーパが設けられていることを特徴とするネブライザ。
【請求項2】
請求項1に記載のネブライザにいて、上記キャピラリの出口先端にはフレア加工が施されていることを特徴とするネブライザ。
【請求項3】
請求項1に記載のネブライザにおいて、上記キャピラリの出口先端は、上記ネブライザヘッドの先端より、後退していることを特徴とするネブライザ。
【請求項4】
請求項3において、上記後退している量は、上記貫通孔の内径の10%から200%であることを特徴とするネブライザ。
【請求項5】
請求項4において、上記後退している量は、上記貫通孔の内径の50%から150%であることを特徴とするネブライザ。
【請求項6】
請求項1において、上記貫通孔の内径は、出口に向かうに従い、段階的に細くなっていることを特徴とするネブライザ。
【請求項7】
請求項1において、上記貫通孔の内径は、出口に向かうに従い、連続的に細くなっていることを特徴とするネブライザ。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−223730(P2010−223730A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70847(P2009−70847)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】