説明

ネラメキサン放出調節マトリックス錠

本発明は、アルツハイマー型認知症および神経因性疼痛などの疾患および状態を患っている患者の継続治療に役立つネラメキサンの新規経口放出調節剤形を提供する。本組成物は、1日2回レジメンで投与した場合に、または1日1回レジメンで投与した場合でさえ、比較的小さな変動を持つネラメキサンの定常状態血漿中濃度を達成するのに適した薬物放出プロフィールを持つ。本剤形は、場合により矯味のために被覆される、放出調節マトリックス錠として設計することができる。本発明はさらに、アルツハイマー型認知症および神経因性疼痛などの状態を治療する治療方法であって、上述の剤形の投与を伴う方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬剤形、特に経口投与に適した放出調節剤形に関する。もう一つの態様として本発明は、活性化合物ネラメキサンの新規用途、およびそのような用途が関わる治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−アミノ−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンとも呼ばれるネラメキサンは、経口活性型1-アミノシクロヘキサンクラスの一構成要素であり、さまざまな疾患、とりわけアルツハイマー病および神経因性疼痛を含む一定の神経学的疾患の治療に役立つことが見出されている。この化合物とその誘導体は、米国特許第6,034,134号および同第6,071,966号に詳しく開示されており、これらの特許の内容は参照により本明細書に組み入れられる。ネラメキサンの治療作用は、神経細胞のN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体における過剰なグルタミン酸の効果の阻害に関係すると考えられており、そのため、この化合物はNMDAアンタゴニストまたはNMDA受容体アンタゴニストとも分類される。より具体的に述べると、ネラメキサンは、学習および記憶に関連する神経経路において不可欠な役割を果たす神経伝達物質であってアルツハイマー病にも関与すると考えられているグルタミン酸の異常な伝達に関連する興奮毒性効果を、選択的に遮断すると考えられる低〜中親和性非競合的NMDA受容体アンタゴニストであると思われる。
【0003】
ネラメキサンは経口投与後に治療的に有効であると思われる。臨床試験では即放性剤形の形態で経口投与されうる。ネラメキサンは、典型的には、治療的に有効な血漿中濃度が維持されることを保証するために、継続治療中、少なくとも1日2回は投与される。
【0004】
放出調節固形経口剤形は、長期間にわたる活性成分の調節放出を可能にすることで、治療的に有効な血漿中レベルを同様に長い時間間隔にわたって維持し、かつ/または活性成分の他の薬物動態特性を調整しようとするものである。即放性固形剤形は、短期間(例えば60分以内)で活性成分の大半または全てを放出させ、薬物の迅速な吸収を可能にする。例えば薬剤の一部を直ちに放出してから、長期間にわたって放出するなどといった、より具体的な治療目標を達成する目的で、放出速度の一つ以上の組み合わせを達成するには、多相放出プロフィール(即ち、少なくとも一つの即放性製剤と少なくとも一つの放出調節製剤とを含有する組成物)を使用することができる。しかし、活性成分の放出速度の調整は、持続的な有効血中レベル濃度が一貫して達成されるであろうこと、または薬理学的効果が薬物の放出だけに基づくであろうことを、必ずしも保証するわけではない。
【0005】
低い投与頻度、例えば1日1回の投薬は、大半の継続的薬物治療にとって望ましいことがわかっている。患者コンプライアンスと投薬頻度を調べる多くの試験で、これら二つのパラメータ間に負の相関関係が見出された。特に、認知症を患っている患者にとって、毎日数回の投薬を要求する治療レジメンを固守することは困難である可能性がある。
【0006】
N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニストに関する調節放出の一般方法が、米国特許第6,194,000号に記述されている。この方法でも、最終製剤に到達するために、即時放出構成成分と放出調節構成成分とが製造される。この特許には、被覆されたコア(そのコーティングは有機溶媒に基づく系を用いる任意の適切なコーティングである)からなるペレット(ビーズではない)が開示されている。しかし、全てのNMDAアンタゴニストが同じように作用するわけではなく、この特許はネラメキサンを含有する組成物を具体的には開示していない。
【0007】
現在は、即放性錠剤を使って1日2回というネラメキサンの投薬レジメンが使用されている。患者コンプライアンスは薬物服用頻度が増加するにつれて低下するので、これは望ましくない可能性がある。さらにまた、即放性錠剤の投与は、吸収速度が速いため、有害事象の頻度も高くなりうる。疼痛治療の場合、余計な不快を伴わずに疼痛緩和を維持することが極めて重要である。したがって、目標とする期間にわたって確実にゆっくりと吸収される、ネラメキサンまたはネラメキサンの薬学的に許容できる塩を含有する1日1回型の放出調節製剤は、現在、絶えず必要とされている。
【0008】
一定のアルツハイマー型認知症患者の治療に役立つと思われるネラメキサンの投与に適した放出調節剤形は必要とされているものの、そのような剤形については記載がなく、開発にも成功していない。ネラメキサンは幅広いpH域にわたって水性媒質に高い溶解性を持つので、ネラメキサン用の放出調節剤形の開発には困難が伴う。特に、1日1回投与に適し、認容性の高い、ネラメキサンの放出調節剤形が必要とされている。さらにまた、ロバスト(robust)であり、かつ消化の状態または剤形の消化管通過に依存しない溶出挙動を示すネラメキサンの放出調節剤形も必要とされている。
【0009】
以下の説明、実施例、および特許請求の範囲に開示する本発明は、これらの必要性および他の必要性に対処するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
第1の態様において、本発明は、アルツハイマー病(軽度、中等度または重度アルツハイマー型認知症を含む)および他の障害の治療に役立つことが見出された新規NMDAアンタゴニスト、ネラメキサンの経口投与用剤形を提供する。本剤形は放出調節特徴を持ち、継続治療的投薬レジメンに適している。高い血漿中濃度ピークが回避される。
【0011】
長期間にわたる活性成分の遅放は、投薬開始時および定常状態でのピーク濃度の低下につながると共に、吸収速度の低下につながる。吸収速度の低下は、溶出速度が吸収より遅い場合に達成されるので、溶出が律速的ステップになる。吸収の減速は、活性成分の認容性を改善すると期待することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
さらなる実施態様において、本発明の剤形は、少なくとも一つの放出制御賦形剤と、場合により1種以上のさらなる薬学的に許容できる賦形剤とによって形成されるマトリックス内に分散された活性成分を含む錠剤として設計される。本剤形は、そこに組み込まれた活性化合物の10〜70重量%の用量分率に対して、少なくとも約1時間の溶出時間を示す。
【0013】
さらにまた、本発明は、ネラメキサンならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる水性媒質への溶解性が高い活性化合物の治療上有効な量と、少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含み、活性化合物量の50重量%の分率に対して、少なくとも約1時間の溶出時間を特徴とするインビトロ活性化合物放出プロフィールが達成されるように賦形剤の含量が選択される、経口放出調節剤形を提供する。
【0014】
もう一つの態様によれば、本発明は、少なくとも一つの放出制御賦形剤を含み、溶出媒質のpHには実質的に依存しないインビトロ薬物溶出プロフィールが達成されるように放出制御賦形剤が選択される、ネラメキサンの経口放出調節剤形を提供する。
【0015】
さらなる態様では、圧縮錠剤の形態をしたネラメキサンの経口放出調節剤形が提供される。この錠剤は、錠剤の硬度には実質的に依存しない薬物溶出プロフィールが達成されるように選択される少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含む。
【0016】
さらなる態様では、圧縮錠剤の形態をしたネラメキサンの経口放出調節剤形が提供される。この錠剤は、広範囲にわたる溶出媒質の撹拌には実質的に依存しない薬物溶出プロフィールが達成されるように選択される少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含む。
【0017】
さらにもう一つの態様では、1日1回投与時に定常状態において低いネラメキサン血漿中濃度の変動指数を示す、ネラメキサンの経口放出調節剤形が提供される。特に変動指数は約0.4以下である。
【0018】
さらにまた、本発明の剤形の1日2回投与または1日1回投与を伴うネラメキサンの用途および治療方法も提供される。本方法は軽度、中等度、もしくは重度アルツハイマー型認知症、または神経因性疼痛の治療に役立ちうる。さらに、本方法は、糖尿病性神経因性疼痛、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、過敏性腸症候群、食欲障害、肥満、過食症、自閉症、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、双極性障害、耳鳴り、真菌症、または乾癬の治療にも役立ちうる。
【0019】
さらにまた、本方法は、認知障害、例えば認知症、神経変性認知症、軽度、中等度および重度アルツハイマー型認知症、パーキンソン認知症、AIDS認知症、統合失調症、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、コルサコフ症候群、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、自閉症、大脳皮質基底核変性認知症を含む大脳皮質基底核変性症、ルイス体疾患(Lewis body disease)、軽度認知障害、炎症もしくは感染による認知症、多発性硬化症、または筋萎縮性側索硬化症に関連する状態の治療にも役立ちうる。
【0020】
本発明のさらなる態様は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲に基づいて自明になるだろう。
【0021】
本発明は、水性媒質への溶解性が高い活性化合物の治療上有効な量と、少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含む経口放出調節剤形を提供する。活性化合物はネラメキサンならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる。速度制御賦形剤の含量は、剤形中に存在する活性化合物量の10〜70重量%、例えば50重量%の分率に対して、少なくとも約1時間の溶出時間を特徴とするインビトロ薬物放出プロフィールが達成されるように選択される。
【0022】
ネラメキサンは、本発明によれば、その薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体のいずれの形態でも使用することができ、本明細書におけるネラメキサンへの言及はいずれも、そのような塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体も指すと理解すべきである。
【0023】
本発明の一実施態様では、ネラメキサンが、その塩の一つ、例えば一般に十分な水溶性を持つ塩の一つの形態で、本発明の剤形に組み込まれる。
【0024】
潜在的に好適なネラメキサンの塩として、酸付加塩、例えば塩酸、メチルスルホン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、炭酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p-アミノサリチル酸、2-フェノキシ安息香酸、および2−アセトキシ安息香酸を使って製造されるものが挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0025】
ネラメキサンの治療有効用量は、例えば治療しようとする具体的状態、患者の体重、患者の状態、投薬レジメンなどの因子を考慮して定められる。現在のところ、約5〜約150mg、例えば約5mg〜約120mg又は約5mg〜100mgのネラメキサンまたはネラメキサンの塩(例えばメシル酸ネラメキサン)という累積経口1日量が、ネラメキサンが有用であると思われる状態の少なくとも一部の治療に関して、治療的に有効であると考えられる。約10mg〜約90mgのネラメキサンまたはネラメキサンの塩(例えばメシル酸ネラメキサン)という累積経口1日量は、さらに好ましいだろう。
【0026】
さらにまた、約5mg〜約50mg、例えば5mg、6.25mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mg、17.5mg、20mg、22.5mg、25mg、27.5mg、30mg、32.5mg、35mg、37.5mg、40mg、42.5mg、45mg、47.5mg及び50mgのメシル酸ネラメキサンまたは等モル量のネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体(例えば塩酸ネラメキサン)という累積1日量は、治療的に有効であると同時に、過剰な副作用も避けられる。さらにまた、約5mg〜約40mgまたは約10mg〜約30mgのメシル酸ネラメキサンまたは等モル量のネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体という累積1日量も、有用でありうる。ここに挙げた活性化合物の量および範囲は、認知障害および認知障害に関連するさらなる状態(例えば認知症;神経変性認知症;軽度、中等度、もしくは重度アルツハイマー型認知症;パーキンソン認知症;AIDS認知症;統合失調症;注意欠陥症候群;注意欠陥多動障害;コルサコフ症候群;脳血管性認知症;前頭側頭型認知症;自閉症;大脳皮質基底核変性認知症を含む大脳皮質基底核変性症;ルイス体疾患;軽度認知障害;炎症または感染による認知症;多発性硬化症;または筋萎縮性側索硬化症)を含む状態を治療または軽減するのに役立つ。放出調節固形経口剤形が1日2回投与用である場合は、上記の活性成分量を半分にすることができる。他の状態の治療においては、より低い用量またはより高い用量も、適当であり、治療的に有効でありうる。
【0027】
本明細書にいう放出調節剤形とは、1.0〜7.2のpH域を持つ典型的緩衝液を溶出媒質として使用し、一般に是認されている確立された方法、例えば米国薬局方USP28または欧州薬局方EP5に準拠するインビトロ溶出試験などに従って決定した場合に、組み込まれた活性化合物が実質的に約15分より長く24時間より短い期間にわたって(典型的には少なくとも4〜12時間の期間にわたって)ゆっくり放出される剤形である。この定義は放出プロフィールの形状には依存しない。すなわち、直線であるか、一次速度論、二次速度論または時間の平方根(square root of time)速度論に従う曲線であるか、シグモイドであるかなどを問わない。したがって、調節放出(modified release)は、持続放出(extended release)、長期放出(prolonged release)、徐放(sustained release)、遅放(slow release)、および関連する薬物放出特徴に関する類似の表現を包含すると理解すべきである。
【0028】
ある実施態様において、本発明の剤形は、少なくとも約6時間かけてネラメキサンを非線形的に放出する製剤であり、放出速度は時間の経過と共に低下する。もう一つの実施態様では、ネラメキサンが少なくとも6時間かけて実質上線形的に放出される。組み込まれた活性化合物用量の50重量%が放出されるのに要する溶出時間は、典型的には少なくとも1時間であり、少なくとも1.5時間であってもよい。
【0029】
もう一つの実施態様では、組み込まれた活性化合物用量の40重量%が放出されるのに要する溶出時間が、典型的には少なくとも1時間であり、少なくとも1.5時間であっても良い。
【0030】
もう一つの実施態様では、組み込まれた活性化合物用量の60重量%が放出されるのに要する溶出時間が、典型的には少なくとも1時間であり、少なくとも1.5時間であっても良い。
【0031】
もう一つの実施態様では、組み込まれた活性化合物用量の10〜70重量%が放出されるのに要する溶出時間が、約1〜8時間である。
【0032】
さらなる実施態様では、放出が非線形であり、組み込まれた活性化合物用量の50重量%が放出されるのに要する溶出時間が、約1〜5時間、又は約1〜4時間、又は約1.5〜3時間である。これに対し、放出プロフィールが実質上線形であるならば、用量の50重量%に関する溶出時間は、少なくとも約2時間、または少なくとも約3時間、例えば約4時間〜約8時間である。
【0033】
本発明の一実施態様では、インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の50重量%の分率に対して、約1時間〜約3時間の範囲の溶出速度を特徴とする。
【0034】
1日2回の投薬、そして特に1日1回の投薬に適した非線形放出プロフィールはさらに、活性化合物量の約50重量%〜約95重量%の範囲の用量分率に対して、4時間の溶出時間を特徴とする。
【0035】
もう一つの実施態様では、放出された用量分率が、4時間後に、約65重量%〜約95重量%の範囲にある。もう一つの実施態様では、放出された用量分率が、4時間後に、約55重量%〜約85重量%の範囲にある。あるいは、放出された用量分率は、4時間後に、約70重量%〜約85重量%の範囲にある。このような放出挙動は、1日1回投与であっても、定常状態においてネラメキサンの治療的血漿中濃度を達成し、それを維持するのに役立つことがわかった。
【0036】
もう一つの実施態様では、6時間の溶出時間後に、約75重量%〜約95重量%の範囲(例えば約80重量%〜約90重量%の範囲)の用量分率が放出される。
【0037】
上述のような薬物放出プロフィールを示す放出調節剤形は、ネラメキサンによる継続治療、例えば、軽度、中等度または重度アルツハイマー型認知症、および神経因性疼痛から選ばれる状態および障害を患っている患者の継続治療に、とりわけ適していることがわかった。さらにまた、糖尿病性神経因性疼痛、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、過敏性腸症候群、食欲障害、肥満、過食症、自閉症、双極性障害、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、耳鳴り、真菌症および乾癬などの状態も、上述の薬物放出プロフィールを示す放出調節剤形によって治療できる可能性がある。
【0038】
本剤形は、継続的な1日2回又は1日1回投与を伴う治療的投薬レジメンには、とりわけ有用である。
【0039】
本明細書にいう継続治療とは、少なくとも約2週間という時間枠にわたる、多くの場合、少なくとも約1ヶ月にわたる、規則的治療の期間と理解される。本発明の剤形は、活性成分ネラメキサンを認容性の高い形で患者に与え、わずかな変動しか伴わずに治療的に有効な定常状態血漿中レベルをもたらすので、数ヶ月、さらには数年にわたる継続治療にも適している。
【0040】
本明細書でいうところの1日2回及び1日1回投薬レジメンは、ほぼ規則的な時間間隔で行われる活性化合物の反復投与を伴う。典型的には、投与時刻の日間差は、数時間を超えない。特に1日1回投薬レジメンの場合、わずかな変動を伴う比較的均等な血漿プロフィールは、毎日の投与時刻が例えば常に朝または常に夕方というように類似していて、ある日と次の日との差が3時間または4時間を超えない場合にのみ達成される。
【0041】
本明細書にいう定常状態とは、投与後の活性化合物の平均血漿中濃度が先の投与後の平均血漿中濃度と類似するほど十分な長期間にわたって、規則的投薬レジメンが守られていることを意味する。同様に、ピーク血漿中濃度およびトラフ血漿中濃度も、先の投薬後の各濃度と類似する。
【0042】
定常状態に到達するまでの時間は、主として活性成分の消失半減期に依存する。同じ時間間隔で反復投薬すると、典型的には、4消失半減期後に、平均定常状態血漿中濃度の約93〜94%である平均血漿中濃度がもたらされる。同じ個体内でさえかなりの生物学的変動性があることを考えると、4〜5半減期後には、血漿中濃度は事実上、定常状態血漿中濃度と同じであると想定しうる。
【0043】
本発明の剤形の用途は1日1回投与による継続治療を含みうる。ネラメキサンの即放性製剤の1日1回投与は、高いピークレベルによる副作用のリスクを増加させかつ/または治療レベルに満たないトラフ濃度しか達成されないリスクを増加させうる血漿中濃度変動をもたらす。従来の製剤を使ったこの1日1回レジメンによれば、血漿中濃度の変動指数は0.4〜0.5の領域にあり、これは即放性製剤による1日2回投薬レジメンの場合の約2倍の高さである。
【0044】
本明細書にいう変動指数は、平均血漿中濃度と比較したピーク濃度とトラフ濃度の間の変動を表現する:
【0045】
【数1】

上記式中、IFは変動指数であり、css(max)は定常状態におけるピーク血漿中濃度であり、css(min)は定常状態におけるトラフ血漿中濃度であり、css(av)は定常状態における平均(mean又はaverage)血漿中濃度である。現在のところ、約0.45より大きい変動指数は、ネラメキサンによる継続治療では、あまり有用でないと考えられている。本発明によれば、剤形からのネラメキサンの放出プロフィールは、継続的な1日1回治療中に定常状態で約0.45を上回らない変動指数を与えるように調整され、これは、本明細書に記載する指針に従い、(一つまたは複数の)放出制御賦形剤の性質、グレード、および相対量について、適当な選択を行うことによって達成される。典型的には、変動指数は継続的な1日1回治療中、約0.4を上回らない。さらなる実施態様では、本発明の剤形によって達成される変動指数が、ここでも同じ治療レジメンを適用した場合に、約0.38を上回らず、さらには約0.35を上回らない。
【0046】
本発明の剤形の放出挙動は、さまざまな手段によって、例えば数タイプの剤形設計および製剤戦略によって達成することができる。薬物放出がどの機序によって制御されるかは、重大な問題ではないと考えられる。例えば薬物放出は、拡散障壁を通した(例えばポリマー薄膜を通した)ネラメキサンの拡散によって、もしくはマトリックスを通した拡散によって、もしくは活性化合物がその中に包埋もしくは分散されているマトリックスの浸食によって、またはこれらの機序の二つ以上の組み合わせによって、制御することができる。
【0047】
例えば剤形は、コーティングが拡散障壁として機能して、長期薬物放出をもたらす、被覆された固形単一ユニット剤形、例えばコート錠として、設計し製剤することができる。この場合、コーティングは、少なくとも一つの放出制御賦形剤を含有し、その品質および量は上述の放出特性が達成されるように選択される。
【0048】
本明細書にいう賦形剤は、薬学的に許容できる生理学的に不活性な、剤形の成分である。放出制御賦形剤は、剤形または製剤からの活性化合物の放出速度を実質的に低下させる能力を持つ賦形剤である。放出調節特徴が達成されるように錠剤のコーティングを設計する場合、コーティング中の放出制御賦形剤は、典型的には、水不溶性ポリマーである。潜在的に好適なポリマーは、医薬製剤分野の当業者には広く知られている。そのようなポリマーの例として、アルギネート、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、メタクリル酸エステルコポリマー、ポリオキシエチレンオキシドポリマー、ゼイン、ポリ酢酸ビニル-ポリビニルピロリドンコポリマーなどが挙げられる。ポリマーは有機溶液または水性分散液として用意し、通常の被覆装置を使って、錠剤上に噴霧することができる。コーティング溶液またはコーティング分散液は、典型的には、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、ヒマシ油、モノグリセリドおよびジグリセリドなどの可塑剤も含有するだろう。さらなる随意の賦形剤の例は、顔料、香料、甘味料、乳白剤、および付着防止剤である。
【0049】
しかし、典型的な一実施態様によれば、本発明の剤形は、活性成分がその中に包埋または分散されていて、活性成分がそこから長期間にわたってゆっくりと放出される、固形放出調節マトリックスとして設計される。この場合、放出調節コーティングは必要なく、マトリックス中に少なくとも一つの放出制御賦形剤が含まれる。
【0050】
このマトリックスは、典型的には、生理学的温度の水性媒質中で迅速に崩壊しない。マトリックスからの活性化合物の放出は、マトリックスを通した活性化合物の拡散によって、もしくはマトリックスの浸食によって、またはその両方によって制御されうる。
【0051】
ある実施態様では、圧縮錠剤になるように、マトリックスが設計される。マトリックス型錠剤が迅速に崩壊するのではなく調節型の活性化合物放出を達成するように、これは、好ましくは水不溶性の脂質およびロウ、水不溶性ポリマー、ならびに水膨潤性ポリマーからなる群より選択される少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含む。マトリックス中に二つ以上の放出制御賦形剤が存在する場合は、異なる化合物サブグループに属する賦形剤を組み合わせることも可能である。
【0052】
放出制御性の賦形剤または賦形剤混合物は、上述した放出特徴を達成するのに十分な量で選択される。固形マトリックス中の賦形剤の典型的含量は、そのタイプに依存して、約10重量%〜約80重量%である。
【0053】
好適な放出制御水不溶性ポリマーとして、例えばエチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、メタクリル酸エステルコポリマー、ゼイン、ポリ酢酸ビニル、およびポリ酢酸ビニル-ポリビニルピロリドンコポリマーが挙げられる。好適な放出制御脂質およびロウとして、例えばミツロウ、天然または合成モノ-、ジ-およびトリ-グリセリド、ならびに中鎖および長鎖脂肪酸、例えば硬化植物油、カルナウバワックス、石油ワックス、微結晶ワックス、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、脂肪酸と脂肪族アルコールのエステルなどが挙げられる。マトリックスの製剤に同様に使用しうる薬学的に許容できる水不溶性ポリマー、脂質およびロウのさらなる例は、製剤分野の当業者にはよく知られている。
【0054】
マトリックスの親水性(浸食性もしくは非浸食性)または疎水性に依存して、マトリックスは、胃液と接触した時に、対象が消化状態(digestive state)にある間、胃における保持を助長するのに十分な大きさのサイズにまで膨潤する材料であることができる。拡散に基づくこれらのマトリックスの他に、マトリックスは浸食型であってもよい。消化状態は食物摂取によって誘導され、上部消化管(GI管)の運動パターンの迅速且つ顕著な変化で始まる。この変化は、胃が起こす収縮の振幅の減少と、幽門開口部の部分的に閉じた状態への減少とからなる。結果として、液体と小さな粒子は部分的に開いた幽門を通過できるが、幽門よりも大きい不消化粒子は押し戻されて胃内に保持されるという、篩い分け過程が起こる。言い換えると、生物学的液体がマトリックスを通って移動し、活性成分を溶解し、その活性成分が、放出速度を同時に調整するマトリックスを通した拡散によって放出される。したがって、本発明のこの実施態様における制御放出マトリックスは、胃内に押し戻されて胃内に保持されるのに十分な大きさのサイズにまで膨潤することができ、薬物の長期放出を腸ではなく胃内で引き起こすものとして選択される。胃における滞留時間を引き延ばすことになるサイズにまで膨潤する経口剤形の開示は、米国特許第5,007,790号、同第5,582,837号、および同第5,972,389号、ならびに国際(PCT)特許出願WO 98/55107号及びWO 96/26718号パンフレットに見出される。この段落で言及した文書はそれぞれ参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0055】
そのような実施態様では、固形マトリックスが、水膨潤性ポリマーの群から選ばれる放出制御剤を含む水膨潤性親水性マトリックスとして設計される。好適なマトリックス形成ポリマーは、水溶性または水不溶性であることができる。好適なポリマーは、水性媒質と接触させた時にかなりの量の水を吸収し、典型的にはそれが水性ゲルの形成をもたらす。水性ゲルの強度はポリマーのタイプおよび量、ならびにマトリックス中の他の化合物の存在に依存する。薬物放出は、三次元ポリマーゲルネットワーク内の水性マイクロポアまたはマイクロチャネルを通した活性化合物の拡散によっても、マトリックスの最表層ゲル層の継続的浸食または崩壊によっても起こりうる。
【0056】
通常、親水性放出調節マトリックスにおけるゲル形成は、錠剤の外側の領域で始まり、コアに向かってゆっくり進行する過程である。したがって、薬物放出中のそのようなマトリックスには、いくつかのゾーンまたは層、すなわち水和されていないコア領域、コア領域を取り囲む中間ゲル層、および浸食されつつある外側の領域が、共存しているだろうと考えられる。ただしこれらの考察は理論モデルとしてのみ評価すべきであり、本願における特許請求の内容の範囲を限定するものであると解釈してはならない。
【0057】
本発明において好適な水膨潤性ポリマーには、セルロースポリマーおよびその誘導体、例えば限定するわけではないがメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、および微結晶セルロース、多糖およびその誘導体、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレングリコール、キトサン、アルギネート、カラギーン(carrageen)、ガラクトマンナン、トラガカント、寒天、アラビアゴム、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン、カルボキシメチルアミロペクチン、キトサン、無水マレイン酸コポリマー、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、メタクリルレートコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン酢酸ビニルコポリマー、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリウレタンヒドロゲル、架橋ポリアクリル酸およびその誘導体、ならびにこれらのポリマーのいずれかの混合物などがある。
【0058】
さらなる例は、上に列挙したポリマーのコポリマー(ブロックコポリマーおよびグラフトポリマーを含む)である。コポリマーの具体例は、BASF Corporationの化成品部門(米国ミシガン州ワイアンドット)から入手可能なポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロックコポリマー、PLURONIC(登録商標)およびTECTONIC(登録商標)である。さらなる例は、一般に「Super Slurper」と呼ばれていて、Illinois Corn Growers Association(米国イリノイ州ブルーミントン)から入手することができる、加水分解デンプンポリアクリロニトリルグラフトコポリマーである。
【0059】
上述の水膨潤性ポリマーの中には、非イオン性セルロースエーテルなどの非イオン性ポリマーとみなしうるものがある。そのようなポリマーの一例は、ヒプロメロースとも呼ばれるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)であり、これを単独で使用することも、他のポリマーと組み合わせて使用することもできる。
【0060】
驚いたことに、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、他の放出制御賦形剤を添加しなくても、メシル酸ネラメキサンなどの高水溶性型ネラメキサンがそこから長期間にわたって放出される膨潤性マトリックスを形成する能力を持つことを発見した。これは、単一の水膨潤性ポリマー(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースのみ)に基づいて、実質的に水溶性の活性剤を含む放出調節マトリックスを製剤することは困難であるという一般的な考えとは対照的である。
【0061】
本発明では、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの異なるグレードとして、HPMC2208、HPMC2906及びHPMC2910が挙げられる。これらのグレードは、メチル(またはメトキシル)基とヒドロキシプロピル(またはヒドロキシプロポキシル)基の両方に関して、その置換度が異なっている。HPMC2208では、セルロースの元のヒドロキシル基の平均約22%(範囲:19〜24%)が反応してメトキシル基になっており、平均約8%(範囲:7〜12%)が反応してヒドロキシルプロポキシル基になっている。HPMC2906は約29%のメトキシル基と約6%のヒドロキシプロポキシル基とを含み、HPMC2910は約29%のメトキシル基と約10%のヒドロキシプロポキシル基とを含む。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの典型的グレードは、例えばMethocel K 100M CRとして市販されているようなHPMC2208である。このグレードのMethocelは、20℃の2重量%水溶液で約100,000cPという見掛け粘度が示すように、比較的高い分子量も、その特徴である。
【0062】
所望の放出特徴を達成するのに必要な水膨潤性ポリマーの相対量は、なかんずく、選択したポリマーのタイプおよびグレード、薬物放出に影響を及ぼす他の賦形剤の有無、および所望するマトリックスの薬物負荷量に依存する。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの場合、活性化合物に対するこのポリマーの比は、典型的には、約10:1〜約1:10の範囲から選択され、約5:1〜約1:5であることができる。Methocel K 100M CRなどの高粘度HPMCを主要放出制御賦形剤として選択する場合、HPMCと活性化合物の間の典型的な比は、約4:1〜約1:4又は約2:1〜約1:2である。例えば、約50mgというメシル酸ネラメキサンの用量に適応するようにマトリックスを設計する場合、Methocel K 100M CRの含量は、この実施態様によれば、約5mg〜約100mg、又は約12.5mg〜約200mgの領域にある。
【0063】
原薬および水膨潤性ポリマーを、製錠助剤と呼ばれることもある乾燥結合剤または圧縮助剤、増量剤(filler)、希釈剤、又は充填剤(bulking agent)のクラスから選ばれるさらなる賦形剤と組み合わせることが有用であることも見出した。そのような賦形剤は、圧縮後のマトリックスの内部結合力を増加させる能力を持つ。それらは、通常、高度の塑性変形能を持つ。薬物溶出または薬物放出に対するそれらの影響は比較的わずかでありうる。この賦形剤カテゴリーの好適な構成要素の例として、無水ラクトース、ラクトース一水和物、リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、スクロース、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶セルロース、およびラクトースと微結晶セルロースの共加工(co−processed)混合物(例えばCellactoseとして市販されているもの)が挙げられる。典型的な乾燥結合剤は、市販されているAvicel PHなどの微結晶セルロースである。
【0064】
本発明の実行にはさまざまなタイプの微結晶セルロースが適している。市販されている製品グレードは、主に粒径および水分含量が異なり、マトリックスの製造方法に応じて選択すべきである。例えば、Avicel PH 102及び他の一定のAvicelグレードは、直接圧縮によるマトリックス錠の製造に、とりわけ適していることがわかった。
【0065】
本発明の剤形における乾燥結合剤または圧縮助剤の含量は、例えば乾燥結合剤または圧縮助剤のタイプおよびグレード、水膨潤性ポリマーのタイプ、グレード、および量、活性化合物負荷量、圧縮性に影響を及ぼす他の賦形剤の存在などといった、さまざまな製剤基準に従って選択される。含量は、典型的には、マトリックスの重量に対して少なくとも約10重量%、多くの場合、少なくとも約15重量%である。さらなる実施態様では、含量が約15重量%〜約60重量%、例えば約15重量%〜約50重量%である。
【0066】
マトリックス中の水膨潤性ポリマーと乾燥結合剤または圧縮助剤の比は、典型的には、約6:1〜1:6、例えば約5:1〜1:5、特定の実施態様では、それぞれ約3:1〜約1:3、及び約2:1〜1:2である。もう一つの実施態様では、水膨潤性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロース、特にMethocel K 100M CRであり、乾燥結合剤または圧縮助剤が微結晶セルロースであって、それらはマトリックス中に約2:1〜約1:2の比で存在し、マトリックス中の両賦形剤の総含量は約50重量%〜約85重量%、例えば約60重量%〜約75重量%である。
【0067】
上記のように、圧縮マトリックス、すなわち圧縮マトリックス錠として設計されることは、本剤形の一実施態様である。そのような錠剤の製造には、さまざまな方法が利用可能であり、さまざまな方法が適しているが、典型的な方法は、湿式または乾式造粒によって製造される顆粒の圧縮、および粉末混合物の圧縮体への直接圧縮である。どちらの方法も当業者にはよく知られている。
【0068】
湿式造粒法では、活性化合物および賦形剤の大半ならびに液状の結合剤溶液を含む成分を計量し、諸成分を混合し、それらを凝集させ、それらを湿式篩分し、それらを乾燥し、それらを乾式篩分し、潤滑し、得られた混合物を錠剤に圧縮する。湿式造粒の利点として、粉末の粘着性および圧縮性の改善、圧縮に適した良好な粒径分布、粉塵および空気汚染の減少、ならびに構成成分の分離の防止が挙げられる。
【0069】
乾式造粒では、諸成分を計量し、混合し、ローラー圧縮などによって圧縮した後、分割または篩分する。篩分した顆粒を潤滑し、錠剤へと圧縮する。凝集のために液状の結合剤溶液を使用しないので、乾式に造粒される粉末混合物は、少なくとも一つの乾燥結合剤、例えば微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、またはラクトースと微結晶セルロースの共加工混合物を含まなければならない。乾式造粒法の利点の一つは、加工中に水を加えることがなく、顆粒を乾燥させるための加熱も必要ないので、この方法が、水分感受性成分または熱感受性成分などといった感受性物質の加工に好適でありうるという点である。
【0070】
直接圧縮では、前もって造粒することなく、粉末混合物を錠剤に圧縮する。この方法は、顆粒の製造に関わる一続きの工程ステップを回避するので、潜在的に対費用効果が高く、感受性活性化合物の加工にも適している。有用な錠剤強度を得るために、通常は、乾燥結合剤または圧縮助剤が製剤中に存在することが、要求されるか、または望ましい。しかし直接圧縮は必ずしも可能とは限らないだろう。例えば粉末混合物には、打錠機上で十分な製品流れ(product flow)を示さないもの、または適切な錠剤物理特徴を与えないものもあるので、これらの場合は造粒の使用が好ましい。
【0071】
水膨潤性ポリマー、乾燥結合剤または圧縮助剤、およびネラメキサンの水溶性塩、ならびに場合によりさらなる賦形剤からなる粉末混合物は、直接圧縮に適していることがわかった。典型的には、上記三つの構成成分(すなわち水膨潤性ポリマー、乾燥結合剤、およびネラメキサン塩)が、粉末混合物の少なくとも約75重量%に相当し、随意のさらなる賦形剤は約25重量%以下に相当する。もう一つの実施態様では、水膨潤性ポリマー(または水膨潤性ポリマーの混合物)、乾燥結合剤または圧縮助剤(またはこのクラスの二つ以上の構成要素の混合物)、および活性化合物が、全体として、マトリックス製剤の少なくとも約85重量%、例えば約85重量%〜約99.9重量%、または約90重量%〜約99.5重量%に相当する。さらにもう一つの実施態様では、それらがマトリックスの約95重量%〜約99重量%を構成する。
【0072】
もう一つの実施態様によれば、本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、例えばMethocel K 100M CR、微結晶セルロース、例えばAvicel PH 102、およびメシル酸ネラメキサンを含む粉末混合物の直接圧縮を伴う。典型的には、これら三つの構成成分は、それぞれが、圧縮されてマトリックスを形成する粉末の約10重量%〜約50重量%に相当する。もう一つの実施態様では、メシル酸ネラメキサンと、他の二つの構成成分を合わせたものとの比が、約1:1〜約1:5、より好ましくは約1:1〜約1:3、例えば約1:2である。
【0073】
粉末混合物は1種以上のさらなる賦形剤を含みうる。さらなる賦形剤には、潤滑剤クラスの構成要素、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、鉱油、硬化植物油、およびポリエチレングリコール;ならびに流動促進剤(glidant)クラスの構成要素、例えばコロイド状二酸化ケイ素、デンプン、ステアリン酸カルシウムまたはステアリン酸マグネシウム、およびタルクなどがある。
【0074】
潤滑剤は、典型的には、マトリックスの重量に対して、約0.1重量%〜約2重量%のレベルで使用される。代表的な潤滑剤は、多少の流動促進特性も持つステアリン酸マグネシウムである。ステアリン酸マグネシウムを選択する場合、有用な含量範囲は約0.2重量%〜約1.5重量%、特に約0.25重量%〜約1重量%である。
【0075】
同様に、流動促進剤の量は、例えば約5重量%未満など、比較的低レベルに選択すべきである。代表的な流動促進剤には、コロイド状二酸化ケイ素およびタルクなどがある。これらの流動促進剤の一方または両方を組み込む場合、マトリックス中の流動促進剤含量は、典型的には、約0.25重量%〜約2.5重量%、又は約0.5重量%〜約1.5重量%の範囲にある。
【0076】
そのようなマトリックス剤形は、驚いたことに、極めて有利な錠剤特性を示すことが見出された。例えば、活性化合物の放出プロフィールは、少なくとも広範囲にわたる実用上有用な圧縮力においては、圧縮力に比較的依存しないことがわかった。Methocel K 100M CR、Avicel PH 102、メシル酸ネラメキサン、ステアリン酸マグネシウムおよびコロイド状ケイ素の混合物は、約5kN〜約21kNの範囲の主圧縮力を使って、標準的なロータリー打錠機で製錠することができた。得られた錠剤はその引張強さが約30N〜約100Nとかなり変動し、圧縮力が高いほど硬い錠剤がもたらされた。しかし、これらの錠剤の溶出プロフィールは、最も硬い錠剤を同じ組成の最も柔らかい錠剤と比較した場合でさえ、実質的に類似していたことから、著しくロバストな製剤が示された。特に、約40N〜約80Nの硬度範囲内では、溶出プロフィールが錠剤の硬度または引張強さに実質上依存しないことが見出された。引張強さは、約30Nから約500Nまで、例えば約40Nから約300Nまで、または約50Nから約200Nまで変動しうる。さらにまた、フィルムコート錠の引張強さは、120Nを上回りうる。
【0077】
本発明の錠剤のもう一つの著しく有利な特徴は、メシル酸ネラメキサンが、pH依存的な溶出挙動が予想されうるネラメキサンの酸付加塩であるのに対して、上記のマトリックスは、溶出媒質のpHには比較的依存せずに、活性化合物を放出することである。
【0078】
本明細書で使用する「比較的依存しない」および「実質的に依存しない」という用語は、二つの錠剤またはマトリックスのインビトロ放出プロフィールの間に、薬物溶出の初期相(0〜1時間)後の任意の時点で、組み込まれた用量の約10%を上回る相違がないことを意味する。
【0079】
さらにもう一つの実施態様によれば、本発明の剤形は、典型的には味の悪い活性化合物を矯味するために、糖コーティングまたはポリマーコーティングなどのコーティングで被覆された圧縮マトリックスとして設計される。
【0080】
本明細書にいう矯味コーティングは、放出調節マトリックスの薬物放出プロフィールに実質的に影響を及ぼさないコーティングである。言い換えると、おそらく薬物放出の初期相を除けば、非被覆マトリックスから放出される用量分率と、同じように処方され加工された矯味コーティングを持つマトリックスから放出される用量分率との間には、どの時点においても実質的な相違はないだろう。ここでも、実質的な相違とは、マトリックスに組み込まれた活性化合物の用量の10%以上の相違と理解される。矯味コーティングが薬物放出プロフィールの形状に及ぼす最大の影響は、薬物放出の初期相、例えば最初の15分間または30分間に起こり、それは放出調節剤形の全体的放出特徴には関係しないと考えられる。
【0081】
典型的には、マトリックスのコーティングはポリマー薄膜コーティングである。矯味に適した薄膜組成物は製剤分野では広く知られており、それらはさまざまなタイプのポリマーに基づきうる。典型的には、矯味コーティングは、活性化合物が投与中に唾液と直接接触するのを防ぎ、薬剤が嚥下された後は迅速に溶解または崩壊する。
【0082】
そのようなコーティング用の好適なポリマーとして、例えば陽イオン性メタクリレートコポリマー、例えばpH5を上回る水性媒質(例えば唾液)には不溶であるが、酸性媒質(例えば胃液)では溶解するジメチルアミノエチルメタクリレート-メチルメタクリレートコポリマー(DMA−MMA)が挙げられる。他の潜在的に好適なポリマーとして、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、DMA−MMA以外のメタクリル酸コポリマー、ポリビニルアルコール-ポリエチレングリコールコポリマー、エチルアクリレート-メチルメタクリレートコポリマー、ポリビニルアルコール、カラギーナン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0083】
コーティング組成物は、コーティングの性質またはその加工性を改善するために、さらなる賦形剤、例えば可塑剤、安定剤、顔料、着色剤、分散剤、界面活性剤、糖類、増量剤、付着防止剤、水蒸気透過性調整剤などのクラスから選ばれる1種以上の賦形剤を含んでもよい。市販されているコーティング組成物は、多くの場合、1種以上の薄膜形成ポリマーと少なくとも一つのさらなる賦形剤とのプレミックスに相当する。有用な市販コーティング組成物として、Sepifilmの水溶性グレード、例えばSepifilm 002、Sepifilm 003、Sepifilm 752、Sepifilm LP 770を含むSepifilm LPグレード;Kollicoatの水溶性グレード、Kollicoat IR及びKollicoat Protect;さらにまたOpadry、Instacoatのほとんど全てのグレード、LustreClear、などの製品が挙げられる。
【0084】
矯味コーティングは他の機能も持ちうる。例えば、このコーティングは潜在的に、マトリックス錠の機械的安定性、さらには化学的安定性を改善し、錠剤の外観、患者への訴求、嚥下可能性および他の特徴も改善しうる。
【0085】
コーティングは、任意の従来技法および従来装置により、例えばパンコーティングまたは流動層コーティングなどによって、マトリックスに適用することができる。典型的には、分散または溶解した薄膜形成ポリマーと随意のさらなる賦形剤とを含む水性、水アルコール性、または有機性の液を、錠剤コア上のコーティング組成物を乾燥させるために温風の連続流下で、前もって形成された錠剤コア(場合により脱塵したもの)上に、噴霧し、沈着させる。
【0086】
本発明によれば、ネラメキサンまたはその薬学的に許容できる塩をヒトまたは動物対象に1日1回投与するための放出調節剤形が提供される。本発明のネラメキサン製剤は、CNS疾患の治療、例えば限定するわけではないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、AIDS認知症、神経因性疼痛、糖尿病性神経因性疼痛、脳虚血、てんかん、緑内障、肝性脳症、多発性硬化症、脳卒中、うつ病、遅発性ジスキネジア、筋萎縮性側索硬化症、過敏性腸症候群、食欲障害、過食症、自閉症、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、双極性障害、耳鳴り、真菌症、乾癬、マラリア、ボルナウイルス、およびC型肝炎の治療に適している。その治療にネラメキサンが適している病変は、当技術分野では他にも開示されている。特に興味深いのは不断の疼痛緩和をもたらす能力である。したがって本発明はさらに、ヒトまたは動物対象におけるCNS障害の治療的または予防的治療の方法であって、その対象に本発明の剤形を投与することを含む方法も提供する。
【0087】
「治療上有効な量」とは、ある状況、障害または状態を治療するために哺乳動物に投与された場合に、そのような治療を達成するのに十分であるような化合物の量を意味する。「治療上有効な量」は、化合物、疾患およびその重症度、治療される哺乳動物の年齢、体重、身体状態および応答性に依存して変動するだろう。本発明によれば、ある実施態様において、ネラメキサンの治療上有効な量は、アルツハイマー病またはパーキンソン病を含むCNS障害の治療に有効な量である。もう一つの実施態様では、治療上有効な量は、神経因性疼痛または他の有痛状態、例えば内臓過敏の治療に有効な量である。他の用途として、認知症およびうつ病の治療が挙げられるが、これらに限るわけではない。薬理作用のための薬物の有効量、したがって錠剤の力価は、疾患そのものに依存する。
【0088】
本明細書で使用する用語「治療する」は、ここでは、例えば疼痛、アルツハイマー病、血管性認知症、またはパーキンソン病などといった、対象における疾患の少なくとも一つの症状を緩和または軽減することを表すために用いられる。「治療する」という用語は、与えられた刺激(例えば圧力、組織傷害、低温など)に呼応して対象が経験する疾患の症状発現の強度および/または持続時間を緩和または軽減することを意味しうる。例えば認知症に関して「治療する」という用語は、認知障害(例えば記憶および/または見当識の障害)もしくは全体的機能(日常生活動作、ADL)の障害を緩和もしくは軽減すること、および/またはADLもしくは認知障害の進行性の劣化を減速または逆転することを意味しうる。本発明において用語「治療する」は、ある疾患を抑止し、その発症(すなわちその疾患の臨床症状発現までの期間)を遅延させ、かつ/またはその疾患を進展もしくは悪化させるリスクを低下させることも意味する。「保護する」という用語は、本明細書においては、対象における疾患の進展または継続または増悪を、予防、遅延もしくは治療すること、または適宜、それらの全てを意味するために用いられる。本発明において、認知症は、CNS障害、例えば限定するわけではないが、アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患、ダウン症候群、および脳血管性認知症(VaD)に関連する。
【0089】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに例示するが、以下の実施例が本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【0090】
実施例
実施例1:ネラメキサン放出調節マトリックス錠の製造
約25mg又は50mg又は75mg又は100mgのメシル酸ネラメキサンを含むマトリックス錠を以下のように製造する。適当量のメシル酸ネラメキサン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ここではMethocel K 100M CR)、微結晶セルロース(MCC、ここではAvicel PH 102)、ステアリン酸マグネシウムおよびコロイド状二酸化ケイ素(SiO2、ここではAerosil 200)を計量し、自由落下調合機(free fall blender)(Bohle PTM 200)を使って調合する。あるいは、適当量のメシル酸ネラメキサン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウムおよびコロイド状二酸化ケイ素を篩分してから、自由落下調合機を使って調合する。各バッチに関する適当量は、表1に記載の投薬単位あたりの目標含量に応じて算出する。粉末調合物の光学的特徴づけにより、薄片、塊または分離傾向のような均一性の欠如がないことが示される。調合物はいずれも良好な粉末流動特性を示し、易流動性である。全ての調合物のかさ密度およびタップ密度に有意差はない。
【0091】
【表1】

通常のロータリー打錠機を使用し、約10〜20kNの主圧縮力を適用して、両凸のマトリックス錠へと、粉末を個別に圧縮する。例えば、製造後に、メシル酸ネラメキサンの平均含量は、全てのバッチに関して、50mg製剤の場合で47.5〜52.5mg/錠剤、例えば50〜52mg/錠剤であり、欧州薬局方および米国薬局方の要件を満たす含量均一性を持つことが見出される。
【0092】
実施例2:ネラメキサン放出調節マトリックス錠のコーティング
実施例1に従って製造したマトリックス錠を、気流制御付きの有孔または非有孔標準パンコーターを使って、Sepifilm LP 770 whiteの白色水溶性コーティング組成物で被覆する。コーティングに先だって錠剤を計量し、脱塵する。次に、1.0mmノズルを使ってコーティング分散液を錠剤上に噴霧する。コーティング時の錠剤コアの温度は34〜39℃である。入口温度は59〜64℃であり、噴霧速度は約40〜53g/分である。錠剤の重量増加が約4%になるまで、噴霧を続ける。コート錠の光学的外観は極めて良好である。粘着は無いように見え、表面は滑らかで、光沢があり、亀裂または損傷もなく極めて均一である。
【0093】
実施例3:放出調節マトリックス錠からの薬物放出
錠剤を実施例1に従って製造し、USP XXVIIに準拠したバスケット型溶出装置、100rpmの撹拌速度、および溶出媒質としてpH6.8のリン酸緩衝液を使って、その薬物放出プロフィールを決定する。ある時間間隔で、溶出媒質の試料を採取し、そのネラメキサン含量について分析する。製剤A〜Dについて結果を表2に要約する。
【0094】
【表2】

これらの結果は、マトリックス錠中の水膨潤性ポリマーの相対的含量を変化させるだけで本発明の剤形の薬物放出プロフィールを微調整しうる様子を示している。
【0095】
実施例4:異なる引張強さを持つネラメキサンマトリックス錠の製造
製剤B(表1)と同じ質的および量的組成を持つネラメキサン放出調節マトリックス錠を実施例1に従って、ただし主圧縮力だけは変化させて、製造する。あるバッチの錠剤(B−soft)は、約5kNという弱い力で圧縮し、もう一つのバッチ(B−hard)は、約21kNという強い力で圧縮する。その結果生じる錠剤の硬度または引張強さは著しく異なる。すなわち、バッチB−softの錠剤が33〜38Nの範囲の硬度を持つのに対して、バッチB−hardは85〜96Nの範囲の硬度を持つ。
【0096】
実施例5:異なる引張強さを持つネラメキサン錠剤からの薬物放出
実施例4に従って製造した錠剤を、実施例3で述べたように、その薬物放出特性について試験する。著しくロバストな製剤を証明する結果を表3に要約する。
【0097】
【表3】

実施例6:ネラメキサンマトリックス錠からのpH非依存的薬物放出
製剤Bに従うネラメキサン放出調節マトリックス錠を実施例1で述べたように製造する。次に、錠剤を実施例2で述べたようにフィルムコートする。そのフィルムコート錠の薬物放出プロフィールを、バスケット型装置および100rpmの撹拌速度を使って、pH1.2、pH4.5及びpH7.4で調べる。
【0098】
放出プロフィールの形状は極めて類似していて、プロフィール間には小さな相違しか観察されないことから、広い範囲のpH値にわたって、著しくロバストな製剤およびその極めて低いpH依存性が示される。実際、二つのpH条件間で、任意の時点において、放出された用量分率に観察された最も大きな差は、わずか6%である。結果を表4に要約する。
【0099】
【表4】

実施例7:ネラメキサンマトリックス錠で達成可能な血漿プロフィールの計算
数人のボランティアに即放性製剤中の25mgメシル酸ネラメキサンの1回量を投与した後に、ネラメキサン血漿中濃度を経時的に決定する。血漿中濃度プロフィールから、平均吸収速度定数および平均排出速度定数を算出する。これらのデータを使って、定常状態における予想ネラメキサン血漿中濃度プロフィールを、以下の治療レジメンについて算出する:(a)即放性製剤としての25mgメシル酸ネラメキサンの1日2回投与、(b)即放性製剤としての50mgメシル酸ネラメキサンの1日1回投与、および(c)実施例1の製剤Bの形態をした50mgメシル酸ネラメキサンの1日1回投与。シミュレートされた血漿プロフィールから、それぞれの変動指数を算出する。
【0100】
治療レジメン(a)は約0.22の変動指数を伴い、レジメン(b)は約0.47の変動指数を伴い、レジメン(c)は約0.33の変動指数を伴うことがわかる。これらの結果は、レジメン(a)および(c)は副作用のリスクおよび治療レベルに満たないトラフ濃度のリスクに関して許容できると考えられるが、レジメン(b)はそうでないという事実を反映している。レジメン(a)は血漿中濃度の小さな変動しか伴わないが、これは1日2回の投薬を必要とし、少なくとも継続治療にとっては、1日1回レジメン(c)より利便性が低いと考えられる。
【0101】
本発明は、本明細書に記載する具体的実施態様によってその範囲を限定されるものではない。事実、本明細書に記載した実施態様の他にも、さまざまな本発明の変更形態が、上述の説明および添付の図面から、当業者には明白になるだろう。そのような変更形態は、本願の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0102】
さらにまた、全ての値は概数であり、説明のための記載であると理解すべきである。
【0103】
本願の至るところで特許、特許出願、刊行物、製品説明書、およびプロトコールに言及するが、それらの開示内容は、あらゆる目的で、その全てが、参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネラメキサン、その異性体、ならびにその水溶性かつ薬学的に許容できる塩、溶媒和物、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる活性化合物の治療上有効な量と、少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含む経口放出調節剤形であって、活性化合物量の約10〜約70重量%の分率(fraction)に関して少なくとも約1時間の溶出時間を特徴とするインビトロ活性化合物放出プロフィールが達成されるように、上記賦形剤の含量が選択される、上記剤形。
【請求項2】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の40重量%の分率に対して、少なくとも約1時間の溶出時間を特徴とする、請求項1記載の剤形。
【請求項3】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の50重量%の分率に対して、少なくとも約1時間の溶出時間を特徴とする、請求項1記載の剤形。
【請求項4】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の60重量%の分率に対して、少なくとも約1時間の溶出時間を特徴とする、請求項1記載の剤形。
【請求項5】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の約10〜約70重量%の分率に対して、約1〜約8時間の範囲の溶出時間を特徴とする、請求項1記載の剤形。
【請求項6】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の50重量%の分率に対して、約1時間〜約3時間の範囲の溶出時間を特徴とする、請求項1記載の剤形。
【請求項7】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の約50重量%〜約95重量%の範囲の分率に対して、4時間の溶出時間を特徴とする、請求項1記載の剤形。
【請求項8】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の約65重量%〜約95重量%の範囲の分率に対して、4時間の溶出時間を特徴とする、請求項7記載の剤形。
【請求項9】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の約55重量%〜約85重量%の範囲の分率に対して、4時間の溶出時間を特徴とする、請求項7記載の剤形。
【請求項10】
インビトロ活性化合物放出プロフィールが、活性化合物量の約70重量%〜約85重量%の範囲の分率に対して、4時間の溶出時間を特徴とする、請求項9記載の剤形。
【請求項11】
活性化合物がメシル酸ネラメキサンである、請求項1〜10のいずれか1つに記載の剤形。
【請求項12】
活性化合物の治療上有効な量が、メシル酸ネラメキサンの場合に約5mg〜約150mgの範囲にあるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、請求項1〜11のいずれか1つに記載の剤形。
【請求項13】
活性化合物の治療上有効な量が、メシル酸ネラメキサンの場合に約5mg〜約100mgの範囲にあるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、請求項12記載の剤形。
【請求項14】
活性化合物の治療上有効な量が、メシル酸ネラメキサンの場合に約5mg〜約50mgであるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、請求項13記載の剤形。
【請求項15】
活性化合物の治療上有効な量が、メシル酸ネラメキサンの場合に約5mg〜約40mgであるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、請求項14記載の剤形。
【請求項16】
活性化合物の治療上有効な量が、メシル酸ネラメキサンの場合に約10mg〜約30mgの範囲にあるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、請求項15記載の剤形。
【請求項17】
活性化合物の治療上有効な量が、メシル酸ネラメキサンの場合に5mg、6.25mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mg、17.5mg、20mg、22.5mg、25mg、27.5mg、30mg、32.5mg、35mg、37.5mg、40mg、42.5mg、45mg、47.5mg及び50mgから選ばれるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、請求項14記載の剤形。
【請求項18】
少なくとも一つの放出制御賦形剤と、場合により1種以上のさらなる賦形剤によって形成される固形マトリックス内に、活性化合物が分散される、請求項1〜18のいずれか1つに記載の剤形。
【請求項19】
固形マトリックス中の放出制御賦形剤の含量が約10重量%〜約80重量%の範囲にある、請求項18記載の剤形。
【請求項20】
乾燥結合剤、潤滑剤、および流動促進剤から選ばれる1種以上の賦形剤をさらに含む、請求項18記載の剤形。
【請求項21】
乾燥結合剤がラクトース、ラクトース一水和物、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、スクロース、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、および微結晶セルロースから選ばれる、請求項20記載の剤形。
【請求項22】
潤滑剤がステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、鉱油、硬化植物油、およびポリエチレングリコールから選ばれる、請求項20記載の剤形。
【請求項23】
流動促進剤がコロイド状二酸化ケイ素、デンプン、ステアリン酸カルシウムまたはステアリン酸マグネシウム、およびタルクから選ばれる、請求項20記載の剤形。
【請求項24】
固形マトリックスが圧縮錠剤の形態である、請求項18記載の剤形。
【請求項25】
圧縮錠剤が直接圧縮錠剤である、請求項24記載の剤形。
【請求項26】
圧縮錠剤が矯味コーティングで被覆される、請求項24記載の剤形。
【請求項27】
コーティングがポリマー性である、請求項26記載の剤形。
【請求項28】
溶出媒質のpHに実質的に依存しないインビトロ活性化合物溶出プロフィールが達成されるように、放出制御賦形剤が選択される、請求項1〜27のいずれか1つに記載の剤形。
【請求項29】
放出制御賦形剤が水膨潤性ポリマーである、請求項1〜28のいずれか1つに記載の剤形。
【請求項30】
水膨潤性ポリマーがメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、アルギネート、カラギーン、ガラクトマンナン、トラガカント、寒天、アラビアゴム、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン、カルボキシメチルアミロペクチン、キトサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、メタクリレートコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン酢酸ビニルコポリマー、およびそれらの混合物から選ばれる、請求項29記載の剤形。
【請求項31】
水膨潤性ポリマーが非イオン性セルロースエーテルである、請求項29記載の剤形。
【請求項32】
水膨潤性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項31記載の剤形。
【請求項33】
活性化合物と水膨潤性ポリマーとの重量比が約10:1〜約1:10の範囲にある、請求項29記載の剤形。
【請求項34】
活性化合物と水膨潤性ポリマーとの重量比が約4:1〜約1:4の範囲にある、請求項33記載の剤形。
【請求項35】
活性化合物と水膨潤性ポリマーとの重量比が約2:1〜約1:2の範囲にある、請求項34記載の剤形。
【請求項36】
活性化合物が圧縮錠剤の形態をしたマトリックス中に分散され、そしてこの圧縮錠剤の硬度には実質的に依存しないインビトロ活性化合物溶出プロフィールが達成されるように放出制御賦形剤が選択され、そして上記の硬度が約40N〜約80Nの範囲内にある、請求項1〜35のいずれか1つに記載の剤形。
【請求項37】
ネラメキサンならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる活性化合物の治療上有効な量と、少なくとも一つの放出制御賦形剤とを含む経口放出調節剤形であって、1日1回投与時に定常状態で約0.4以下であるネラメキサン血漿中濃度の変動指数が達成されるように放出制御賦形剤が選択される剤形。
【請求項38】
軽度、中等度、もしくは重度アルツハイマー型認知症、神経因性疼痛、糖尿病性神経因性疼痛、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、過敏性腸症候群、食欲障害、過食症、肥満、自閉症、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、双極性障害、耳鳴り、真菌症、または乾癬治療用の、請求項1〜36のいずれか1つに記載の経口放出調節剤形を製造するための、ネラメキサンならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる活性化合物の使用。
【請求項39】
1日1回投与に適し、その1日1回投与が定常状態で約0.4以下というネラメキサン血漿中濃度の変動指数を達成する経口放出調節剤形を製造するための、ネラメキサンならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる活性化合物の使用。
【請求項40】
剤形が、軽度、中等度、もしくは重度アルツハイマー型認知症、神経因性疼痛、糖尿病性神経因性疼痛、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、過敏性腸症候群、食欲障害、肥満、過食症、自閉症、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、双極性障害、耳鳴り、真菌症、または乾癬の治療用である、請求項39の使用。
【請求項41】
1日1回投与に適した経口放出調節剤形を製造するための、ネラメキサンならびにその薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグおよび誘導体から選ばれる活性化合物の治療上有効な量の使用であって、この活性化合物の治療上有効な量が、認知障害に関連する状態の治療に関して、メシル酸ネラメキサンの場合に約5mg〜約50mgの範囲にあるか、またはネラメキサン、ネラメキサンの他の薬学的に許容できる塩、溶媒和物、異性体、コンジュゲート、プロドラッグもしくは誘導体の場合に等モル量である、上記の使用。
【請求項42】
軽度、中等度、もしくは重度アルツハイマー型認知症、および神経因性疼痛、糖尿病性神経因性疼痛、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、過敏性腸症候群、食欲障害、肥満、過食症、自閉症、注意欠陥症候群、注意欠陥多動障害、双極性障害、耳鳴り、真菌症、または乾癬から選ばれる状態に苦しむ、ヒトを含む動物生体を治療する方法であって、そのヒトを含む動物生体に、請求項1〜37のいずれか1つに記載の剤形を投与する段階を含む方法。
【請求項43】
剤形が軽度、中等度、もしくは重度アルツハイマー型認知症、または神経因性疼痛の治療用である、請求項42記載の方法または請求項38もしくは請求項40記載の使用。
【請求項44】
認知障害に関連する状態に苦しむ、ヒトを含む動物生体を治療する方法であって、そのヒトを含む動物生体に、請求項14〜17のいずれか1つに記載の剤形を投与する段階を含む方法。
【請求項45】
認知障害に関連する状態が、認知症;神経変性認知症;軽度、中等度および重度アルツハイマー型認知症;パーキンソン認知症;AIDS認知症;統合失調症;注意欠陥症候群;注意欠陥多動障害;コルサコフ症候群;脳血管性認知症;前頭側頭型認知症;自閉症;大脳皮質基底核変性症;ルイス体疾患;軽度認知障害;炎症もしくは感染による認知症;多発性硬化症;または筋萎縮性側索硬化症から選ばれる、請求項44記載の方法または請求項41記載の使用。

【公表番号】特表2009−517420(P2009−517420A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542654(P2008−542654)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011438
【国際公開番号】WO2007/062815
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(397045220)メルツ・ファルマ・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシヤフト・アウフ・アクティーン (31)
【Fターム(参考)】