説明

ノイズフィルタ

【課題】フィルタ特性改善のために追加したリアクトルが、電力変換装置のようなノイズ源に対しても飽和することがなく、かつ接地コンデンサがスナバコンデンサとして動作しないようにする。
【解決手段】電源と、ノイズ発生源としての例えば電力変換装置との間に、コモンモードノイズに対して逆結合され同一コアに巻線を同数巻いたリアクトル8を、接地コンデンサ3,4に直列接続されるように挿入することにより、掲記課題の解決を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置から発生したノイズが商用電源側に伝わらないように抑制するノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、一般的なノイズフィルタ構成例を示す。
同図において、1は相間に接続される相間コンデンサ、2は2つの巻線を図示のような極性で同一コアに同じ数だけ巻いたコモンモードチョーク、3,4は各相とグランド間に接続される接地コンデンサである。なお、端子P1,P2はノイズフィルタの一次側、S1,S2はノイズフィルタの二次側をそれぞれ示す。
【0003】
図3において、例えば商用電源を一次側とし、PWMインバータを二次側として設置すると、PWMインバータと接地との間に発生するコモンモードノイズは、接地コンデンサ3,4を介してバイパスされ、さらにコモンモードチョーク2によって商用電源側に流れ込むのが抑制される。また、コモンモードチョーク2の漏れインダクタンスと相間コンデンサ1によって、ノーマルモードノイズが商用電源側に流れ込むのが抑制される。
【0004】
図3のようなノイズフィルタでは、接地コンデンサ3,4を含む配線が長くなると、その分のインダクタンスがフィルタ特性を悪化させるため、配線は可能な限り短いことが望ましい。
しかし、装置サイズの制約や熱問題など、構造上の制約から、接地コンデンサ3,4を各相の近くに配置できず、配線が長くなってしまう場合がある。
【0005】
また、特許文献1に示されるように、ノイズフィルタの例として直流中間回路に接地コンデンサを接続する場合がある。
図4は特許文献1に基づくノイズフィルタの構成例で、101は商用電源、102は整流回路、103は直流中間回路の電圧を平滑化する電解コンデンサ、104は電力変換装置、105は電力変換装置104によって駆動される負荷である。3,4は接地コンデンサである。
一般に、各相の接地コンデンサとノイズ源はできる限り近付けて配置したほうが、ノイズを良好に低減することができる。つまり、図4において、各相の接地位置から電力変換装置104までの配線の長さを短縮し、できる限り電力変換装置104の近くに設置するのが望ましい。
【0006】
近年、スナバコンデンサを設けない半導体電力変換装置が増加して来ている。これは、シミュレーション技術を活用した構造設計技術(配線インダクタンスの低減技術)の発達や、電解コンデンサの特性改善により実現できるようになったからである。
しかしながら、この場合、上述のように図4の接地コンデンサ3,4のラインを最短にして配線インダクタンスが小さくなると、接地コンデンサ3,4がスナバコンデンサとして動作してしまうという問題が顕在化して来た。このことから、接地ラインの配線を故意に長くして、配線インダクタンスを持たせるなどして、この問題を回避させる必要がある。
【0007】
この種の半導体電力変換装置は、以上のような理由から、接地ラインを最短にできず、そのため配線インダクタンスがフィルタ特性を悪化させてしまう。このような影響を回避するため、積極的にリアクトルを追加して対処する例が、例えば特許文献2で提案されている。これは、図3に示すノイズフィルタの接地ラインにリアクトルを挿入したもので、配線が長くなることへの対策ではないが、配線の影響でノイズ悪化が生じることに対する対策の1つと言える。
【0008】
図5は特許文献2に開示されたもので、図示のように接地コンデンサ3,4にリアクトル5,6を直列接続して構成される。この構成ではコンデンサ3とリアクトル5、およびコンデンサ4とリアクトル6とがそれぞれ直列共振回路となる。そのため、接地コンデンサ3,4のキャパシタンスをC、リアクトル5,6のインダクタンスをLとすると、共振周波数f0は次の(1)式で表わされる。
0=1/2π√(L・C)…(1)
直列共振回路では、共振周波数f0においてインピーダンスが低くなるため、配線の影響で悪化した対策すべき周波数に共振周波数f0を合わせることで、コモンモードノイズ成分を接地コンデンサ3,4とリアクトル5,6を介してバイパスし、影響を回避できる。
【0009】
また、他の例として示す図6のように、接地コンデンサ3,4の接続中点から接地するラインにリアクトル7を挿入しても、同様の効果が得られることは容易に想像できる。そして、図6の例では接地コンデンサ3,4がコモンモードノイズに対し並列接続とみなすことができることから、接地コンデンサ3,4のキャパシタンスをC、リアクトル7のインダクタンスをL1とすると、共振周波数f1は次の(2)式で表わされる。
1=1/2π√(2L1・C)…(2)
つまり、配線の影響で悪化した対策すべき周波数に共振周波数f1を合わせることで、図6の構成においても影響を回避することができる。
【0010】
【特許文献1】特開平10−313571号公報
【特許文献2】特開2001−201140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ノイズの発生源が電力変換装置の場合、大量のノイズが流出するため、図5,図6に示す従来のノイズフィルタでは、新に追加したリアクトルのコアが飽和して、過熱するおそれがある。また、飽和した場合は特性が非線形となるため、フィルタの周波数特性を理論的に計算することが難しく、所望のフィルタ特性を得ることが困難となる。
また、図6の構成では図4で説明したように、場合によっては接地コンデンサ3,4がスナバコンデンサとして動作してしまい、コンデンサが過熱するという問題がある。
【0012】
したがって、この発明の課題は、フィルタ特性改善のために追加したリアクトルが、電力変換装置のように多くのノイズを流出するノイズ源に対しても飽和せず、かつ、直流中間回路を接地コンデンサを介して接地した場合でも、接地コンデンサがスナバコンデンサとして動作しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するため、請求項1の発明は、商用電源とこの商用電源によって動作する電力変換装置との間に挿入され、前記電力変換装置から発生するノイズが前記商用電源に影響を及ぼさないように抑制するノイズフィルタであって、一次側が前記商用電源に接続され二次側が前記電力変換装置に接続されるコモンモードチョークと、このコモンモードチョークの一次側の相間を接続する相間コンデンサと、前記コモンモードチョークの二次側の各相を接地する接地コンデンサとを備えたノイズフィルタにおいて、
前記接地コンデンサと直列接続となるようにそれぞれリアクトルを挿入するとともに、各リアクトルはコモンモードノイズの向きに対して互いに逆結合となるようにすることを特徴とする。
【0014】
上記請求項2の発明は、商用電源とこの商用電源によって動作する電力変換装置との間に挿入され、前記電力変換装置から発生するノイズが前記商用電源に影響を及ぼさないように抑制するノイズフィルタであって、一次側が前記商用電源に接続され二次側が前記電力変換装置に接続されるコモンモードチョークと、このコモンモードチョークの一次側の相間を接続する相間コンデンサと、前記コモンモードチョークの二次側の各相を接地する接地コンデンサとを備えたノイズフィルタにおいて、
コモンモードノイズに対して順結合される第1リアクトルと第2リアクトルを、前記接地コンデンサとそれぞれ直列接続となるように挿入するとともに、前記第1リアクトルおよび第2リアクトルに対して逆結合となるリアクトルを、前記接地コンデンサが互いに接続される中点から接地に至るラインに挿入したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、コモンモードノイズに対して逆結合されたリアクトルを、各相を接地する接地コンデンサと直列接続となるように挿入したので、コモンモードノイズに対するリアクトルのコアの飽和を防止できる。その結果、フィルタ周波数特性の演算が容易になる。さらに、ノーマルモードノイズに対してインピーダンスが高くなるため、接地コンデンサがスナバコンデンサとして動作することが防止される。
【0016】
請求項2の発明によれば、コモンモードノイズに対して順結合されたリアクトルを、各相を接地する接地コンデンサと直列接続となるように挿入するとともに、接地コンデンサと接地までの間に、前記リアクトルとは逆結合のリアクトルを挿入したので、コモンモードノイズに対するリアクトルのコアの飽和を防止でき、フィルタ周波数特性の演算が容易になる。さらに、ノーマルモードノイズに対してリアクトルのコアが飽和し難くなり、フィルタ周波数特性の演算が容易になるだけでなく、漏れリアクトルにより接地コンデンサがスナバコンデンサとして動作することが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1はこの発明の実施の形態を示す構成図である。同図において、図3と同じものには同じ番号を付して、その説明を省略する。
図1に示すように、巻線が同一コアに同一巻数巻かれ、コモンモードノイズに対し逆結合されたリアクトル8を、接地コンデンサ3,4と直列接続となるように挿入して構成される。
【0018】
上記のように構成することで、コモンモード成分に対しては、リアクトル8のコア内部の磁束が各相の間で互いに打ち消すため、ノイズフィルタの特性に与える影響が少ないという利点がある。また、コモンモードノイズに対しコアが飽和し難いため、リアクトルの周波数特性は凡そ線形となり、フィルタ周波数特性の理論計算がし易くなる。さらに、ノーマル成分に対しては、各リアクトルの磁束がコア内で互いに足されるため、インダクタンスが大きくなり、接地コンデンサ3,4がスナバコンデンサとして動作することが防止される。
【0019】
図2に別の実施例を示す。ここでも、図3と同じものには同じ番号を付して、その説明を省略する。図3の従来例と異なる点は、各相から接地コンデンサ3,4に接続されるラインと、接地コンデンサ3,4の中点を接地するラインに、図示のような極性で同一コアに巻線を同一巻数巻いたリアクトル9を設けた点である。つまり、各相から接地コンデンサ3,4に接続される2つのリアクトル91,92は、コモンモード成分に対しては順結合で、接地コンデンサ3,4の中点を接地するラインのリアクトル93は、リアクトル91,92に対して逆結合となっている。
【0020】
図2のようにすることで、コモンモード成分に対しては、リアクトル9のコア内部の磁束が2つのリアクトル91,92で発生する磁束が打ち消しあうため、コアに与える影響が少なくコアが飽和し難くなる。
また、ノーマル成分に対しては、2つのリアクトル91,92の磁束が互いに打ち消すためコアが飽和し難く、リアクトル91,92の漏れインダクタンスによって接地コンデンサ3,4がスナバコンデンサとして動作することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態を示す構成図
【図2】この発明の別の実施の形態を示す構成図
【図3】一般的なノイズ抑制装置例を示す構成図
【図4】第1の従来例を示す構成図
【図5】第2の従来例を示す構成図
【図6】図5の変形例を示す構成図
【符号の説明】
【0022】
1…相間コンデンサ、2…コモンモードチョーク、3,4…接地コンデンサ、8,9,91〜93…リアクトル、P1,P2…ノイズフィルタの一次側端子、S1,S2…ノイズフィルタの二次側端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源とこの商用電源によって動作する電力変換装置との間に挿入され、前記電力変換装置から発生するノイズが前記商用電源に影響を及ぼさないように抑制するノイズフィルタであって、一次側が前記商用電源に接続され二次側が前記電力変換装置に接続されるコモンモードチョークと、このコモンモードチョークの一次側の相間を接続する相間コンデンサと、前記コモンモードチョークの二次側の各相を接地する接地コンデンサとを備えたノイズフィルタにおいて、
前記接地コンデンサと直列接続となるようにそれぞれリアクトルを挿入するとともに、各リアクトルはコモンモードノイズの向きに対して互いに逆結合となるようにすることを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項2】
商用電源とこの商用電源によって動作する電力変換装置との間に挿入され、前記電力変換装置から発生するノイズが前記商用電源に影響を及ぼさないように抑制するノイズフィルタであって、一次側が前記商用電源に接続され二次側が前記電力変換装置に接続されるコモンモードチョークと、このコモンモードチョークの一次側の相間を接続する相間コンデンサと、前記コモンモードチョークの二次側の各相を接地する接地コンデンサとを備えたノイズフィルタにおいて、
コモンモードノイズに対して順結合される第1リアクトルと第2リアクトルを、前記接地コンデンサとそれぞれ直列接続となるように挿入するとともに、前記第1リアクトルおよび第2リアクトルに対して逆結合となるリアクトルを、前記接地コンデンサが互いに接続される中点から接地に至るラインに挿入したことを特徴とするノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−154435(P2010−154435A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332664(P2008−332664)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】