説明

ノイズ低減装置およびこれを備えた電力変換装置

【課題】スイッチング素子のオン/オフ動作によってアースに漏洩する電流を低減することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】インバータ回路4の出力電流を検出する電流検出器31〜33と、インバータ回路4の動作によりアースに漏洩する電流を打消すための補償電流を流すノイズ低減回路9とを備え、ノイズ低減回路9は、インバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6のオン/オフ状態を制御する信号と電流検出器31〜33で検出する電流の極性とによってトランジスタTr1とTr2を駆動することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器の動作に起因してアースに漏洩するコモンモード電流を低減するためのノイズ低減装置およびこれを備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、3相誘導電動機を3相インバータにより駆動するシステムに適用されるノイズ低減装置を示しており、例えば特許文献1に記載された発明と実質的に同じノイズ低減装置である。
【0003】
図6において、1は交流電源、2はダイオードをブリッジ構成にしてなる整流回路、3はコンデンサ、4は電力変換器の一例としてIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子Q1〜Q6およびこれらに逆並列接続されたダイオードD1〜D6からなるインバータ回路、5はその筐体がアースに接続されインバータ回路4の負荷として駆動される誘導電動機、6は直流電源、7は環状コアからなる零相変流器等の漏洩電流検出器、8はインバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6をPWM制御するための制御信号を生成するインバータ制御回路、9はノイズ低減回路、10はノイズ低減制御回路である。上記において、ノイズ低減装置は、漏洩電流検出器7、ノイズ低減回路9およびノイズ低減制御回路10から構成されている。
【0004】
整流回路2は、その交流入力端子が交流電源1の交流出力端子に接続される。一方、整流回路2の正側出力端子はインバータ回路4の正側入力端子と接続される。この接続点をPとする。また、整流回路2の負側出力端子はインバータ回路4の負側入力端子と接続される。この接続点をNとする。
【0005】
コンデンサ3は、整流回路2の出力端子P,N間に接続され、交流電源1の電圧を全波整流した整流回路2の出力電圧を平滑する。ここで、整流回路2とコンデンサ3とで構成される電源を第1の直流電源とする。
【0006】
インバータ回路4は、入力端子Pと入力端子Nとの間に直列接続されたスイッチング素子Q1とQ4とからなるU相アーム、スイッチング素子Q2とQ5とからなるV相アーム、スイッチング素子Q3とQ6とからなるW相アームとで構成される。ここで、スイッチング素子Q1とQ4との接続中点をU端子とし、スイッチング素子Q2とQ5との接続中点をV端子とし、スイッチング素子Q3とQ6との接続中点をW端子とする。
【0007】
制御回路8は、PWM変調された制御信号によってインバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフ制御する。スイッチング素子Q1〜Q6のオン/オフ動作により、第1の直流電源の出力は、インバータ回路4によって所望の交流電圧に変換され、誘導電動機5に供給される。
【0008】
ノイズ低減回路9は、第2の直流電源Vd、第2の直流電源Vdの電圧V2を2分割するとともにその接続中点がインバータ回路4の負側入力端子Nに接続されたコンデンサC2,C3、第2の直流電源Vdの出力電圧V2が動作電圧として印加されアースに漏洩する電流を打消すための補償電流が流れる電流制御用素子としてのトランジスタTr1,Tr2、およびTr1とTr2の接続中点とアースとの間に接続されるコンデンサC1とを備えている。コンデンサC1とアースとの接続点をEとする。なお、トランジスタTr1はNPN型、トランジスタTr2はPNP型トランジスタである。
【0009】
ところで、誘導電動機5の巻線と筐体との間には、図6に破線で示すように浮遊容量Csが存在する。そのため、インバータ回路4から誘導電動機5の巻線に矩形波状のパルス電圧が印加されると、浮遊容量Csを充放電するパルス状の電流I1が、誘導電動機5の巻線とアースとの間で流れる。図6において、ノイズ低減回路9が機能しない場合には、このパルス状の電流I1はアースに流れる漏洩電流Ioとなる。
【0010】
例えば、誘導電動機5の巻線電圧が筐体の電圧に対してステップ的に上昇すると、誘導電動機5の巻線からアースに向かって漏洩電流Io(=I1)が流れる。一方、誘導電動機5の巻線電圧がステップ的に下降すると、アースから誘導電動機5の巻線に向かって漏洩電流Io(=I1)が流れる。
【0011】
この漏洩電流Ioは、アースおよび直流電源6を経てインバータ回路4の入力端子に戻る。この漏洩電流Ioがアースに流れるとノイズ電流となって、感電や漏電ブレーカを誤動作させる原因になるので、これを除去する必要がある。
【0012】
そこで、特許文献1に開示されているノイズ低減装置では、漏洩電流Ioがインバータ回路4に戻る経路に漏洩電流検出器7を設けて、漏洩電流Ioを検出している(図6参照。)。ノイズ低減制御回路10は、スイッチング素子Q1〜Q6の制御信号に基づいて生成された信号と漏洩電流検出器7が検出する信号とを加算して、トランジスタTr1,Tr2を駆動するための制御信号を生成する。スイッチング素子Q1〜Q6の制御信号に基づいて生成されるトランジスタTr1,Tr2の制御信号は、インバータ回路4の上アームであるスイッチング素子Q1〜Q3の制御信号は減算し、下アームであるスイッチング素子Q4〜Q6の制御信号は加算することにより得られる。
【0013】
ノイズ低減制御回路10が生成する制御信号Sは、ベース信号増幅器Ampで増幅された上でトランジスタTr1,Tr2の両ベース端子(制御端子)に与えられる。トランジスタTr1とトランジスタTr2は、制御信号Sに従って互いに逆に動作し、漏洩電流I1を打消すような電流I2を注入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3650314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特許文献1に開示されている技術によれば、ノイズ低減制御回路10は、インバータ回路4の上アームであるスイッチング素子Q1〜Q3の制御信号は減算し、下アームであるスイッチング素子Q4〜Q6の制御信号は加算して、ノイズ低減回路9のトランジスタTr1,Tr2を駆動するための制御信号Sを生成する。
【0016】
しかしながら、スイッチング素子Q1〜Q6の制御信号Sが変化するタイミングとインバータ回路4の出力端子U〜Wの電圧が変化するタイミングとは必ずしも一致しない。
以下に、図7〜図10を用いて、インバータ回路4のU相に流れる電流の極性が正のときと負のとき(図7参照。)で、インバータ回路4のU相アームを構成するスイッチング素子Q1とQ4のオン/オフ動作と出力端子Uの電圧との関係がどのようになるかを説明する。
【0017】
まず、U相電流の極性が正のとき(インバータ回路4側から誘導電動機5に向かって電流が流れるとき)、U相のスイッチング素子Q1とQ4の制御信号には図8に示す4つの期間(期間1〜期間4)が存在する。期間1はスイッチング素子Q1がオンし、スイッチング素子Q4がオフしている期間である。期間3は逆にスイッチング素子Q4がオンし、スイッチング素子Q1がオフしている期間である。また、期間2と期間4とは、スイッチング素子Q1,Q4が同時にオンしないように設けられている休止期間であり、スイッチング素子Q1,Q4のいずれもがオフしている期間である。
【0018】
次に、図9(a)〜(d)により、期間1〜期間4のときに、正極性のU相電流が流れる経路と出力端子Uの電圧との関係を具体的に説明する。図9(a)期間1のときは、スイッチング素子Q1がオンしているため、スイッチング素子Q1を経由して入力端子Pから誘導電動機5に向かってU相電流が流れる。図9(b)期間2のときは、スイッチング素子Q1,Q4がオフしているため、ダイオードD4を経由して入力端子Nから誘導電動機5に向かってU相電流が流れる。図9(c)期間3のときは、スイッチング素子Q1がオフしているため、U相電流はダイオードD4を経由して入力端子Nから誘導電動機5に向かって流れる。図9(d)期間4のときは、スイッチング素子Q1,Q4がオフしているため、期間2のときと同様、U相電流はダイオードD4を経由して入力端子Nから誘導電動機5に向かって流れる。
【0019】
すなわち、U相電流の極性が正のとき、出力端子Uの電圧が入力端子Pの電圧となるのは、スイッチング素子Q1がオンしている期間1のときのみである。したがって、U相電流の極性が正のときは、期間4から期間1に移行するときに、出力端子Uの電圧が入力端子Nの電圧から入力端子Pの電圧に変化する。また、期間1から期間2に移行するときに、出力端子Uの電圧が入力端子Pの電圧から入力端子Nの電圧に変化する。この電圧の変化は、スイッチング素子Q1のオン/オフ動作にのみ同期している。
【0020】
一方、期間2から期間3に移行するときおよび期間3から期間4に移行するときは、スイッチング素子Q4のオン/オフ動作に関係なく、出力端子Uの電圧は入力端子Nの電圧となり、電圧の変化は生じない。
【0021】
次に、U相電流の極性が負のとき(誘導電動機5側からインバータ回路4に向かって電流が流れるとき)も同様に、U相のスイッチング素子Q1とQ4の制御信号には図8に示す4つの期間が存在する。図10(a)〜(d)により、期間1〜期間4のときに負極性のU相電流が流れる経路と、出力端子Uの電圧の関係を具体的に説明する。
【0022】
図10(a)期間1のときは、スイッチング素子Q4がオフしているため、ダイオードD1を経由して誘導電動機5から入力端子Pに向かってU相電流が流れる。図10(b)期間2のときは、スイッチング素子Q1,Q4がオフしているため、期間1と同様、U相電流はダイオードD1を経由して誘導電動機5から入力端子Nに向かって流れる。図10(c)期間3のときは、スイッチング素子Q4がオンしているため、U相電流はスイッチング素子Q4を経由して誘導電動機5から入力端子Nに向かって流れる。図10(d)期間4のときは、スイッチング素子Q1,Q4がオフしているため、期間2のときと同様、U相電流はダイオードD1を経由して誘導電動機5から入力端子Nに向かって流れる。
【0023】
すなわち、U相電流の極性が負のとき、出力端子Uの電圧が入力端子Nの電圧となるのは、スイッチング素子Q4がオンしている期間3のときのみである。したがって、U相電流の極性が負のときは、期間2から期間3に移行するときに、出力端子Uの電圧が入力端子Pの電圧から入力端子Nの電圧に変化する。また、期間3から期間4に移行するときに、出力端子Uの電圧が入力端子Nの電圧から入力端子Pの電圧に変化する。この電圧の変化は、スイッチング素子Q4のオン/オフ動作にのみ同期している。
【0024】
一方、期間4から期間1に移行するときおよび期間1から期間2に移行するときは、スイッチング素子Q1のオン/オフ動作に関係なく、出力端子Uの電圧は入力端子Pの電圧となり、電圧の変化は生じない。
【0025】
以上のとおり、出力端子Uの電圧の変化タイミングは、U相のスイッチング素子Q1とQ4の制御信号の変化タイミングと一致しない場合がある。同様に、V相およびW相の出力端子V,Wの電圧の変化タイミングも、スイッチング素子の制御信号の変化タイミングと一致しない場合がある。
【0026】
すなわち、特許文献1に開示されているノイズ低減制御回路10によって生成されるトランジスタTr1,Tr2の制御信号Sには、スイッチング素子Q1〜Q6の制御信号のうち回路の電圧変動に影響しないタイミングで変化する信号も含まれている。したがって、誘導電動機5からアースに漏洩電流Ioが流れないタイミングでも、トランジスタTr1,Tr2が動作をする場合がある。トランジスタTr1,Tr2のこのような動作はノイズ電流を低減する上で不要なものであり、逆にノイズ電流を発生させてしまうという問題がある。
【0027】
本発明は、このような従来のノイズ低減装置が有している問題を解決しようとするものであり、回路電圧の変動に同期したタイミングでノイズ低減回路の電流制御用素子を制御して、アースに漏洩する電流を低減することができるノイズ低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するために、本発明によって提供されるノイズ低減装置は、電力変換器が出力する電流の極性と、電力変換器を構成するスイッチング素子をオン/オフ制御するための制御信号と、に基づいて、アースに漏洩する電流を打消すための補償電流を注入するタイミングを定めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、電力変換装置の出力ラインの電圧が変動するタイミングでアースに漏洩する電流を打消すための補償電流を注入することができるので、効果的にノイズ電流を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の第1の実施形態を説明するための図である。
【図2】図1に示したノイズ低減制御回路の一例を説明するためのブロック図である。
【図3】本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の他の実施形態を説明するための図である。
【図4】本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の他の実施形態を説明するための図である。
【図5】本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の他の実施形態を説明するための図である。
【図6】従来のノイズ低減装置を備えた電力変換装置を説明するための図である。
【図7】電力変換装置のU相出力電流を示す図である。
【図8】電力変換装置のスイッチング素子の制御信号の関係を説明するための図である。
【図9】(a)期間1のときに正極性のU相電流が流れる経路を示す図、(b)期間2のときに正極性のU相電流が流れる経路を示す図、(c)期間3のときに正極性のU相電流が流れる経路を示す図、(d)期間4のときに正極性のU相電流が流れる経路を示す図である。
【図10】(a)期間1のときに負極性のU相電流が流れる経路を示す図、(b)期間2のときに負極性のU相電流が流れる経路を示す図、(c)期間3のときに負極性のU相電流が流れる経路を示す図、(d)期間4のときに負極性のU相電流が流れる経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図1と図2を参照して詳細に説明する。なお、図1と図2において、図6に示した電力変換装置およびノイズ低減装置と共通する構成要素には同符号を付している。
【0032】
図1は、本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の実施形態を説明するための図である。図1において、符号1〜5および符号8,9を付した構成要素は、図6の構成要素と同じであるので、その説明を省略する。一方、図1の電力変換装置は、インバータ回路4の3相出力電流を検出する電流検出器31,32,33とノイズ低減制御回路20とを備えるところが相違している。
【0033】
図1において、ノイズ低減制御回路20は、インバータ制御回路8から入力されるスイッチング素子Q1〜Q6の制御信号G1〜G6と、電流検出器31〜33から入力されるインバータ回路4の3相出力電流とを用いて、ノイズ低減回路9のトランジスタTr1,Tr2の制御信号Sを生成する。
【0034】
図2は、ノイズ低減制御回路20の一例を説明するためのブロック図である。図2において、インバータ制御回路8はインバータ回路4の制御信号G1〜G6を生成するものであり、U,V,W相のPWM(パルス幅変調)制御部81〜83と制御信号生成部84〜86とから構成されている。
【0035】
U相制御信号生成部84は、U相PWM制御部81から出力される信号に基づいて、インバータ回路4のU相を構成するスイッチング素子Q1とQ4の制御信号G1とG4を生成する。U相制御信号生成部84の出力信号は、インバータ回路4のスイッチング素子をオンするときHighであり、オフするときはLowである。制御信号G4は制御信号G1を反転した関係にある。ただし、スイッチング素子Q1とQ4とが同時にオンしないよう、両信号の間には休止期間が設けられている。
【0036】
V相制御信号生成部85とW相制御信号生成部86は、スイッチング素子Q2とQ5およびスイッチング素子Q3とQ6の制御信号を、U相制御信号生成部84と同様に生成する。
【0037】
一方、ノイズ低減制御回路20は、電流極性判定部201、論理反転演算子211〜213、論理積演算子(AND)221〜226および制御信号生成部231とで構成される。
【0038】
まず、U相の電流極性判定部201は、例えば、電流検出器31から入力されるU相の電流信号Iuと基準値0[A]との大小比較をして、U相電流の極性を判定する。電流極性判定部201は、電流極性を判定した結果、U相電流が0[A]よりも大きいときは「1」を出力し、小さいときは「0」を出力する。
【0039】
論理反転演算子211は、電流極性判定部201から入力される信号に対し、「1」と「0」とを反転した信号を生成する。
論理積演算子221は、スイッチング素子Q1の制御信号G1と電流極性判定部201の出力信号との間で論理積演算を行い、その結果を出力する。一方、論理積演算子222は、スイッチング素子Q4の制御信号G4と電流極性判定部201から入力される信号を論理反転演算子211で反転した信号との間で論理積演算を行い、その結果を出力する。
【0040】
以上の論理演算により、論理積演算子221の出力信号は、インバータ回路4のU相電流が正極性の期間において、スイッチング素子Q1の制御信号がオンのときにのみ「1」となり、それ以外の期間のときは「0」となる。また、論理積演算子222の出力信号は、インバータ回路4のU相電流が負極性の期間において、スイッチング素子Q4の制御信号がオンのときにのみ「1」となり、それ以外の期間のときは「0」となる。
【0041】
V相電流とV相スイッチング素子Q2,Q5の制御信号G2,G5との間でも同様の演算処理が行われる。また、W相電流とW相スイッチング素子Q3,Q6の制御信号G3,G6との間でも同様の演算処理が行われる。それぞれの演算結果は、論理積演算子223〜226から出力される。
【0042】
すなわち、V相用論理積演算子223の出力信号は、インバータ回路4のV相電流が正極性の期間において、スイッチング素子Q2の制御信号がオンのときにのみ「1」となり、それ以外の期間のときは「0」となる。また、論理積演算子224の出力信号は、インバータ回路4のV相電流が負極性の期間において、スイッチング素子Q5の制御信号がオンのときにのみ「1」となり、それ以外の期間のときは「0」となる。
【0043】
また、W相用論理積演算子225の出力信号は、インバータ回路4のW相電流が正極性の期間において、スイッチング素子Q3の制御信号がオンのときにのみ「1」となり、それ以外の期間のときは「0」となる。また、論理積演算子226の出力信号は、インバータ回路4のW相電流が負極性の期間において、スイッチング素子Q6の制御信号がオンのときにのみ「1」となり、それ以外の期間のときは「0」となる。
【0044】
制御信号生成部231は、論理積演算子221,223,225から出力される信号は減算し、論理積演算子222,224,226から出力される信号は加算して出力する。
制御信号生成部231から出力される信号が、ノイズ低減回路9のトランジスタTr1とTr2を制御するための信号Sとなる。
【0045】
以上の論理演算により、ノイズ低減制御回路20は、インバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6がオン/オフ動作をすることによって誘導電動機5に生じる電圧変動のタイミングと一致するタイミングで変化する制御信号Sを出力することができる。
【0046】
図1に戻って、ノイズ低減制御回路20により生成された制御信号Sが変化するタイミングは、インバータ回路4の出力端子U,V,Wの電圧変動のタイミング、すなわち、誘導電動機5からアースに流れる漏洩電流I1が発生するタイミングと一致している。よってノイズ低減回路9のトランジスタTr1とTr2とは、誘導電動機5からアースに流れる漏洩電流I1が発生するタイミングで動作し、漏洩電流I1を打消すための補償電流I2をE点に注入することができる。
【0047】
次に、インバータ回路4から誘導電動機5に向かって正極性のU相電流が流れているときを例にとって、ノイズ低減回路9がどのようにして誘導電動機5からアースに漏洩する電流Ioを低減することができるのかを説明する。
【0048】
インバータ回路4から誘導電動機5に向かって正極性のU相電流が流れているときに、スイッチング素子Q1がオフ状態からオン状態に変化すると、U相アームの出力端子Uの電圧は0[V]から第1の直流電源の電圧V1[V]に変化する。このとき、誘導電動機5からアースに向かって漏洩電流I1が流れる。一方、ノイズ低減制御回路20から出力される制御信号Sは、論理積演算子221が出力する信号「1」が減算された値に、ステップ的に変化する。
【0049】
制御信号Sが変化すると、ノイズ低減回路9のトランジスタTr1とTr2の動作状態が変化し、その接続中点の電圧が制御信号Sに対応する電圧までステップ的に低下する。トランジスタTr1とTr2の接続中点の電圧がステップ的に低下すると、その変化のタイミングでE点からノイズ低減回路9に向かって補償電流I2が流れる。
【0050】
ここで、補償電流I2が電流I1と同じになるように制御することで、誘導電動機5からアースに向かって漏洩する電流I1はすべてノイズ低減回路9側に流れるため、アースに漏洩する電流Ioを低減することができる。なお、補償電流I2が流れる方向およびその大きさは、トランジスタTr1とTR2の接続中点の電圧、すなわち制御信号Sを制御することによって可能である。
【0051】
次に、図3〜図6を参照して、本発明に係る他の実施形態を説明する。
図3は、本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の他の実施形態を説明するための図である。図3において、符号1〜5,8,31〜33を付した構成要素は、図1の構成要素と同じであるので、その説明を省略する。一方、図3の電力変換装置は、ノイズ低減回路9aとノイズ低減制御回路20とからなるノイズ低減装置を備える点で、図1の電力変換装置と相違している。
【0052】
ノイズ低減回路9aは、第2の直流電源Vd、第2の直流電源Vdの電圧V2を2分割するコンデンサC2,C3、第2の直流電源Vdの出力電圧V2が動作電圧として印加されノイズ補償電流が流れる電流制御用素子としてのトランジスタTr1,Tr2、トランジスタTr1とTr2の接続中点にその一端が接続されたコンデンサC1、一次巻線の一端がコンデンサC1の他端と接続され、一次巻線の他端がコンデンサC2,C3の接続中点に接続されるとともに、二次巻線の一端が誘導電動機5の筐体とアースとの接続点Eに接続され、二次巻線の他端が第1の直流電源の負側出力端子Nに接続される変圧器T1とを備えている。
【0053】
次に、図4は、本発明に係るノイズ低減装置を備えた電力変換装置の他の実施形態を説明するための図である。図4の実施形態は、図3に示した実施形態のノイズ低減回路9aをノイズ低減回路9bとする点で相違する。具体的には、ノイズ低減回路9aの第2の直流電源Vdを整流回路Rfで構成する点で相違する。整流回路Rfの交流入力端子は交流電源1の交流出力端子に接続され、交流電源1の電圧を整流して直流電圧2とする構成としている。この直流電源2の電圧V2が、電流制御用素子Tr1,Tr2の動作電圧となる。
【0054】
また、図5は、図3に示した実施形態のノイズ低減回路9aをノイズ低減回路9cとする点で相違する。具体的には、ノイズ低減回路9aのコンデンサC2,C3からなる第2のコンデンサ直列回路の両端がインバータ回路4の入力端子P,Nに接続されている点で相違する。このように構成することにより、整流回路2が出力する電圧V1が、電流制御用素子Tr1,Tr2の動作電圧となる。
【0055】
図4,図5に示した実施形態において、電流制御用素子Tr1,Tr2の動作電圧を作る構成が図3の実施形態と異なるが、その他の構成要素およびその動作は図3に示した構成要素と同じであり、図3の実施形態と同様、誘導電動機5からアースに漏洩する電流Ioを低減することができる。
【0056】
また、電流制御用素子Tr1,Tr2の動作電源となる第2の直流電源を上述した方式以外の他の方式で作る構成としても、同様に、誘導電動機5からアースに漏洩する電流Ioを低減することができるのは明らかである。
【0057】
上記実施形態に対してより好ましい実施の形態は、変圧器T1の二次巻線の他端が第1の直流電源のN側端子とコンデンサを介して接続されるものである。コンデンサを介して変圧器T1の二次巻線の他端と第1の直流電源のN側端子とを接続すれば、変圧器T1の2次側に直流または低周波の電流が流れることによって、変圧器T2が飽和するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・交流電源、2・・・整流回路、3・・・コンデンサ、4・・・インバータ回路、5・・・誘導電動機、6・・・直流電源、7・・・漏洩電流検出器、8・・・インバータ制御回路、9,9a,9b,9c・・・ノイズ低減回路、10,20・・・ノイズ低減制御回路、31〜33・・・電流検出器、41,42・・・コンデンサ、81・・・U相PWM制御部、82・・・V相PWM制御部、83・・・W相PWM制御部、84・・・U相制御信号生成部、85・・・V相制御信号生成部、86・・・W相制御信号生成部、201〜203・・・電流極性判定部、211〜213・・・論理反転演算子、221〜226・・・論理積演算子、231・・・制御信号生成部、Amp・・・ベース信号増幅器、C1〜C3・・・コンデンサ、Cs・・・浮遊容量、D1〜D6・・・ダイオード、Q1〜Q6・・・スイッチング素子、Rf・・・整流回路、T1・・・変圧器、Tr1,Tr2・・・トランジスタ、Vd・・・第2の直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の直流電源の正側端子と負側端子との間に直列接続された複数のスイッチング素子をオン/オフ制御することにより交流電力を出力する3相電力変換器と、前記スイッチング素子をオン/オフ制御するための制御信号を生成する電力変換器制御回路と、を備えて、筐体がアースに接続された負荷に前記交流電力を給電する電力変換装置を対象とし、
前記スイッチング素子のオン/オフ動作により前記負荷の筐体からアースに漏洩する電流を低減するために、前記負荷の筐体とアースとの接続点に補償電流を注入するノイズ低減装置であって、
前記電力変換器が出力する電流の極性と、
前記制御信号のうち前記出力電流を流す相を構成する前記スイッチング素子をオン/オフ制御するための制御信号と、
に基づいて、前記補償電流を注入するタイミングを定めることを特徴とするノイズ低減装置。
【請求項2】
前記補償電流が注入されるタイミングは、
前記電力変換器が正極性の電流を出力している期間において、前記第1の直流電源の正側端子に接続された前記スイッチング素子を非導通状態から導通状態にするために前記スイッチング素子の制御信号が変化する第1のタイミングと、
前記電力変換器が正極性の電流を出力している期間において、前記第1の直流電源の正側端子に接続された前記スイッチング素子を導通状態から非導通状態にするために前記スイッチング素子の制御信号が変化する第2のタイミングと、
前記電力変換器が負極性の電流を出力している期間において、前記第1の直流電源の負側端子に接続された前記スイッチング素子を非導通状態から導通状態にするために前記スイッチング素子の制御信号が変化する第3のタイミングと、
前記電力変換器が負極性の電流を出力している期間において、前記第1の直流電源の負側端子に接続された前記スイッチング素子を導通状態から非導通状態にするために前記スイッチング素子の制御信号が変化する第4のタイミングと、
であることを特徴とする請求項1に記載のノイズ低減装置。
【請求項3】
第1の直流電源の正側端子と負側端子との間に直列接続された複数のスイッチング素子をオン/オフ制御することにより筐体がアースに接続された負荷に交流電力を給電する3相電力変換器と、
前記スイッチング素子をオン/オフ制御するための制御信号を生成する電力変換器制御回路と、
前記3相電力変換器の出力電流を検出する電流検出器と、
前記負荷の筐体からアースに漏洩する電流を低減するためのノイズ低減装置と、
を備え、
前記ノイズ低減装置は、
前記補償電流を供給するための第2の直流電源と、
前記第2の直流電源の正・負出力端子間に直列に接続され、その接続中点が前記電力変換器の負側入力端子に接続されたコンデンサ直列回路と、
前記第2の直流電源の正・負出力端子間に直列に接続され、前記補償電流を流す電流制御素子と、
その一端が前記直列接続された電流制御素子の接続中点に接続され、その他端が前記負荷の筐体とアースとの接続点に接続されたコンデンサと、
前記電力変換器制御回路が生成する制御信号と前記電流検出器が検出する3相電力変換器の出力電流の極性とに基づいて、前記電流制御素子の制御信号を生成するノイズ低減制御回路と、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
第1の直流電源の正側端子と負側端子との間に直列接続された複数のスイッチング素子をオン/オフ制御することにより負荷に交流電力を給電する3相電力変換器と、
前記スイッチング素子をオン/オフ制御するための制御信号を生成する電力変換器制御回路と、
前記3相電力変換器の出力電流を検出する電流検出器と、
前記負荷の筐体からアースに漏洩する電流を低減するためのノイズ低減装置と、
を備え、
前記ノイズ低減装置は、
前記補償電流を供給するための第2の直流電源と、
前記第2の直流電源の正・負出力端子間に直列に接続されたコンデンサ直列回路と、
前記第2の直流電源の正・負出力端子間に直列に接続され、前記補償電流を流す電流制御素子と、
前記直列接続された電流制御素子の接続中点にその一端が接続されたコンデンサと、
一次巻線の一端が前記コンデンサの他端と接続され、一次巻線の他端が前記コンデンサ直列回路の接続中点に接続されるとともに、その二次巻線の一端が前記負荷の筐体とアースとの接続点に接続され、二次巻線の他端が前記第1の直流電源の負側端子に接続される変圧器と、
前記電力変換器制御回路が生成する制御信号と前記電流検出器が検出する3相電力変換器の出力電流の極性とに基づいて、前記電流制御素子の制御信号を生成するノイズ低減制御回路と、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置であって、前記変圧器の二次巻線の他端は、コンデンサを介して、前記第1の直流電源の負側端子に接続されることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−90470(P2012−90470A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236395(P2010−236395)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】