ノイズ吸収布帛
【課題】電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れるノイズ吸収布帛を提供すること、広帯域にわたってノイズ吸収能を有するノイズ吸収布帛を提供すること、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができるノイズ吸収布帛を提供すること、並びに高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能であるノイズ吸収布帛を提供すること。
【解決手段】布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とするノイズ吸収布帛。
【解決手段】布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とするノイズ吸収布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、大画面テレビ等の電子機器、携帯電話、無線LAN等の無線通信機器等の本格的な普及によって、取り扱われる情報量が顕著に増大している。このため、これらの電子機器及び無線通信機器は、より高容量化、高集積化、高速通信化され、増大する情報量をより早く処理し、より効率よく伝送する要求がますます増えてきている。これらの要求を満たすために、LSIのクロック周波数及び電子機器で使われる伝送周波数は、より高周波側にシフトし、かつ通信機器の利用周波数もより高くなっている。
【0003】
利用周波数が高くなったことにより、電子機器から発生するノイズにより他の機器に作動不良が生じやすくなること、通信機器で利用される電波との干渉により、電子機器、通信等に不具合が生じやすくなること等が報告されている。
このため、電子部品、伝送線路等に対し、また通信システムに対し、電磁波の干渉を防ぐ目的で、いわゆるEMC対策として、電子機器から発生するノイズを吸収するノイズ吸収体の必要性が高まってきている。
【0004】
さらに、ユビキタス社会に移行し、モバイル型のパソコンが増え、携帯電話も、より小型化及び高性能化している。従って、小型化及び軽量化可能なデバイス、素材等が望まれている。
【0005】
特許文献1及び2には、軟磁性体が樹脂中に分散されたノイズ吸収シートが開示され、実用化されている。上記ノイズ吸収シートが性能を発現する原理は、樹脂中に分散させた軟磁性体が、電磁波を捕捉して磁性的に分極し、その際の磁性損失により電磁波が熱エネルギーに変換されるものである。上記軟磁性体は粉末であるため、樹脂中に混錬し、分散させる必要があるが、軟磁性体は硬度の高い粉末であるため、より高濃度で均一に、樹脂中に分散させることは難しい。また、製造されたシートは、ロールに巻き取ることが難しいため、電子デバイス等の連続生産に適していなかった。
【0006】
さらに、上記ノイズ吸収シートは、高比重の軟磁性体粉末を分散させたシートであるため、厚みも厚く、狭い場所に組み込むことが難しかった。また、上記ノイズ吸収シートのマトリックス樹脂は、使い勝手を考慮してゴム状物質が選択されてはいるが、曲率が高い場所に組み込むこと、及び折り曲げて使用することは難しかった。
【0007】
さらに、より高周波数に対応するために、軟磁性体の組成及び構造を複雑化させた粉体をノイズ吸収シートに用いることが知られている。例えば、軟磁性体の原料としてレアメタル及び/又は微少元素を用い、より複雑な化合物とすることにより、磁性を制御することも試みられているが、コストの問題が生じうる。針状、鱗片状等の軟磁性体を用いて軟磁性体の分極を高くすることも試みられているが、軟磁性体の濃度を高くし、均一なシートにすることは非常に難しく、コスト及び取扱い性に問題があった。
【0008】
また、上述の軟磁性体をはじめ、磁性体は、ある特定の周波数に対してのみ効果を奏し、広帯域のノイズを吸収することは難しいことが知られていた。
このため、種々の周波数に有効な粒子を混合して、シート化することも検討されてきた。しかし、粒子を混合すると、各粒子の効果が低減し、広帯域のノイズを吸収することが難しいこと、さらにシート化が難しいこと等の問題点があった。
【0009】
特許文献3及び4には、樹脂シートの表面に、軟磁性体又は金属が加工されたノイズ吸収シートが開示されている。しかし、上記ノイズ吸収シートは、樹脂シート、フィルム状材料の上に、軟磁性体又は金属が蒸着されているため、表面が平滑であり、より高性能化することが難しかった。従って、高性能化するために、機能を分割し、複層化し、積層化することも試みられているが、高性能化は難しく、さらに厚く使いにくいものであった。
【0010】
特許文献5及び6には、それぞれ、シート状複合磁性体及びノイズ吸収体が開示されている。しかし、特許文献5及び6に記載の物品は、いずれも平滑な表面を有するので、金属自体が有する導電性のために、電磁波の反射が強くなり、電磁波の吸収が阻害されるものであった。
特許文献3〜6に示すように、フィルム、シート等の平滑面に、磁性材料又は金属材料の層を形成すると、磁性材料又は金属材料の層が平滑になり、磁性材料又は金属材料が本来有する導電性が顕在化し、その大きな導電度により、電磁波が反射される。これらは、ノイズを吸収するよりはむしろ、電磁波の共鳴により、ノイズを増幅させるものであった。
【0011】
特許文献7には、導電性繊維を含有する層と、磁性材料を含有する層とが積層されているノイズ吸収シートが開示されている。しかし、特許文献7のノイズ吸収シートでは、ノイズ吸収能は、主に磁性材料に起因し、導電性繊維がノイズ吸収能を有するか否かは明らかではなかった。さらに、導電性繊維の割合が多く導電度が過度に大きい領域では、電磁波の反射が強くなり、吸収性能が阻害される問題があった。
【0012】
また、特許文献8では、導電性繊維を樹脂中に分散させて、特許文献1又は2に開示されている軟磁性体の代わりを担わせていた。しかし、特許文献8に用いられている導電性繊維は、一般的な材料であって、ノイズ吸収能を有するものではない。すなわち、導電性繊維をあたかも針状の軟磁性体の代替として樹脂中に分散させているため、そのノイズ吸収能は、特許文献1にあるような軟磁性体の樹脂分散シート製品には及ばなかった。また、作動原理も解明されておらず、ノイズ吸収能が全く発揮されないもの、電磁波の反射が過度に強いもの等、ノイズ吸収シートとして実用性を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−93034号
【特許文献2】特開2005−251918号
【特許文献3】特開2005−101474号
【特許文献4】特開2006−93414号
【特許文献5】特開2006−60008号
【特許文献6】特開2006−295101号
【特許文献7】特開2008−186997号
【特許文献8】特開2008−118116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、従来のノイズ吸収物品は、使い勝手、ノイズ吸収能等に問題を有するものであった。
従って、本発明は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
本発明はまた、広帯域にわたってノイズ吸収能を有するノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能であるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする上記ノイズ吸収布帛により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、
金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする、
上記ノイズ吸収布帛。
【0017】
[態様2]
上記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さい、態様1に記載のノイズ吸収布帛。
[態様3]
上記布帛が、合成長繊維から成る不織布である、態様1又は2に記載のノイズ吸収布帛。
【0018】
[態様4]
前記布帛が、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含む、態様1〜3のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様5]
上記金属が、金属蒸着法により金属加工された、態様1〜4のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【0019】
[態様6]
上記金属の厚さが2〜400nmである、態様1〜5のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様7]
上記布帛の厚みが10〜400μmであり且つ坪量が7〜300g/m2である、態様1〜6のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【0020】
[態様8]
上記布帛が、カレンダー加工された、態様1〜7のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様9]
上記布帛の平均開孔径が0.5μm〜5.0mmである、態様1〜8のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【0021】
[態様10]
上記金属が、一又は複数の、磁性を有しない金属である、態様1〜9のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様11]
上記金属が、一又は複数の、弁作用を有する金属を蒸着することにより金属加工された、態様1〜9のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様12]
態様1〜11のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛を含むノイズ吸収物品。
【発明の効果】
【0022】
本発明のノイズ吸収布帛は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れる。
本発明のノイズ吸収布帛はまた、広帯域にわたってノイズ吸収能を有する。
さらに、本発明のノイズ吸収布帛は、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができる。
さらに、本発明のノイズ吸収布帛は、高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明のノイズ吸収布帛の断面を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明のノイズ吸収布帛の一態様の断面を拡大した模式図である。
【図3】図3は、本発明のノイズ吸収布帛の導電度の勾配を説明するための図である。
【図4】図4は、金属クラスターを説明するための図である。
【図5】図5は、金属蒸着方法による、繊維上の金属の粒子の積層状態の一態様を示す模式図である。
【図6】図6は、マイクロストリップライン法を説明するための図である。
【図7】図7は、実施例1におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例4におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例6におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図10】図10は、比較例6におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図11】図11は、ループアンテナA法を説明するための模式図である。
【図12】図12は、ループアンテナB法を説明するための模式図である。
【図13】図13は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛の、ループアンテナA法による結合減衰量を示す図である。
【図14】図14は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材の、ループアンテナA法による結合減衰量を示す図である。
【図15】図15は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛の、ループアンテナB法による透過減衰量を示す図である。
【図16】図16は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材の、ループアンテナB法による透過減衰量を示す図である。
【図17】図17は、ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を示す図である。
【図18】図18は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を示す図である。
【図19】図19は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を示す図である。
【図20】図20は、ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を示す図である。
【図21】図21は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を示す図である。
【図22】図22は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のノイズ吸収布帛について具体的に説明する。
本発明のノイズ吸収布帛は、布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されている。
図1は、本発明のノイズ吸収布帛の断面を模式的に示す図である。図1のノイズ吸収布帛1は、布帛2と、金属加工された金属3とを含む。
図2は、本発明のノイズ吸収布帛の一態様の断面を拡大した模式図である。図2のノイズ吸収布帛1は、布帛2と、金属加工された金属3とを含み、金属加工された金属3は、布帛2を構成する繊維4の上に形成されている。
なお、図2では、便宜上、繊維の断面を全て真円で表現している。
【0025】
本発明のノイズ吸収布帛は、金属加工された面の表面抵抗率(Ω/□)の常用対数値が、0〜4の範囲内にある。表面抵抗率の常用対数値とは、表面抵抗率をX(Ω/□)とした場合の、log10Xの値を意味する。上記表面抵抗率の常用対数値が0未満であると、導電度が大きすぎ、電磁波が、上記ノイズ吸収布帛の表面、より正確には、金属加工された面のところで大部分が反射され、ノイズ吸収能が劣る。導電度が小さく、電磁波の反射が大きい場合には、電磁波同士の干渉が起こり、ノイズ吸収性が阻害される。
【0026】
一方、上記表面抵抗率の常用対数値が4超であると、電磁波がノイズ吸収布帛を透過し、電磁波の吸収能(捕捉能)が劣る場合がある。上記表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にある場合には、電磁波が本発明のノイズ吸収布帛の内部に適度に進入し、進入した電磁波が金属加工された金属に捕捉され、電気に変換され、さらに電気抵抗により熱エネルギーに変換されるので、ノイズ吸収能が高くなる。上記ノイズ吸収布帛の表面抵抗率の常用対数値は、0.1〜3の範囲内にあることが好ましい。
上記表面抵抗率は、三菱化学社製 低抵抗計Loresta―GP、型式MCP−T600を用い、4端子法で測定することができる。
【0027】
上記ノイズ吸収布帛は、金属が金属加工された面よりも内部の方が、導電度が小さいことが好ましい。金属加工面の導電度よりも内部の導電度を小さくするための例として、本発明のノイズ吸収布帛の内部における金属及び布帛の総量に対する金属の比率を、金属が金属加工された面のものよりも下げることが挙げられる。図3は、本発明のノイズ吸収布帛の導電度の勾配を説明するための図である。図3のノイズ吸収布帛1は、繊維4から形成される布帛2と、金属加工された金属3とを含む。図3では、内部(下方)における金属及び布帛の総量に対する金属の比率が、表面(上方)における、金属及び布帛の総量に対する金属の比率よりも低い。従って、図3のノイズ吸収布帛1は、その表面よりも内部の方が、導電度が小さい。
なお、図3では、便宜上、繊維の断面を全て真円で表現している。また、本明細書において、「導電度」とは、導電性の度合いを意味する。
【0028】
導電度の適度な勾配により、外部から進入した電磁波が、導電度の大きい部分で捕捉され、電流に変換されるが、特に内部ほど導電度が小さい、すなわち、電気抵抗値が大きいことから、電気抵抗により熱エネルギーに変換されやすくなる。これにより、効率よく電磁波を吸収し、ノイズを吸収することができる。
上記導電度の勾配は、例えば、後述の金属蒸着法により達成することができる。
【0029】
上記ノイズ吸収布帛は、上記布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されているが、上記布帛の両面に、金属が金属加工されていてもよい。
当該布帛の両面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛では、少なくとも一方の面において、上記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さいことが好ましく、そして両方の面において、上記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さいことがより好ましい。
【0030】
本発明のノイズ吸収布帛では、基材は、繊維の集合体である布帛である。基材として布帛を採用することにより、より柔軟で、可とう性に富み、電子機器に組み込む場合に、より複雑な形状を採用することができ、電子機器の筐体の中の、集積度の高い電子部品のノイズが発生する箇所に配置することができる。
なお、本明細書において、単に「布帛」と称する場合には、金属が金属加工されていないものを意味し、そして「ノイズ吸収布帛」と称する場合には、金属が金属加工されたものを意味する。
【0031】
また、基材として繊維の集合体である布帛を採用することにより、金属加工された金属が、複数の金属クラスターを含むことができる。図4は、金属クラスターを説明するための図である。図4のノイズ吸収布帛1は、布帛2と、金属加工された金属3とを含み、そして金属加工された金属3は、複数の金属クラスター5から構成されている。金属クラスター5は、それぞれ、電気抵抗値が異なり、スイッチ効果を有する場合もあり、よりノイズ吸収能が高い。
なお、図4では、図3と同様に、繊維の断面を全て真円で表現している。
上記ノイズ吸収布帛の基材として繊維の集合体である布帛を選択することにより、その交絡点はより増加し、より性能を発揮することができるようになる。
【0032】
また、布帛はその表面が平滑ではないので、金属蒸着法等により、一方向から金属を金属加工した場合には、複数の金属クラスターが形成され、ミクロ的に見ると電気抵抗値が場所によって異なる。従って、外部から進入した電磁波が、一定の導電度及び電気抵抗値を有する金属クラスターにより捕捉され、電流に変換され、次いで電気抵抗により熱エネルギーに変換されることにより、そのノイズ吸収性が発揮される。この点が、従来のフィルムやシート等の平滑表面を有するものと大きく異なる点である。すなわち、フィルムやシート等の平滑表面に、金属蒸着法等により金属を金属加工したものは、金属加工された面がより平滑になり、金属本来が有する大きな導電度が発揮されてしまい、すなわち、表面抵抗率の常用対数値が0未満になりやすく、電磁波の反射が生じやすくなる。また、フィルム、シート等は、その表面を不均一に加工すること自体が難しく、不均一に加工する場合には、コストの問題が生じうる。
【0033】
本発明に用いられる布帛は、繊維の集合体であり、繊維同士の交絡点が多く、そしてその表面が不均一である(一方向から見た場合に曲率を有する)ことから、金属蒸着等により金属加工すると、より電気的に不均一な金属クラスターが形成され、一度捕捉された電磁波が、より効率よく電気抵抗により消費されるので、本発明のノイズ吸収布帛は、非常に高いノイズ吸収能を有することができる。
【0034】
本発明に用いられる布帛は、不織布であることが好ましく、そして上記布帛を形成する繊維は、合成長繊維不織布であることが好ましい。
一般的に、織物、編物等の布帛は、繊維が、布帛の縦、横等の方向に配向している比率が高い。この場合、布帛に金属を金属加工することにより形成されたノイズ吸収布帛は、金属も一定の方向に配向し、ノイズ吸収性に一定の方向性を有する。従って、ノイズが一定の方向に由来する場合には、一定方向に配向した繊維を有する布帛、例えば、織物及び編物が好ましい。一方、一般的な電子機器のように、ノイズが種々の方向に由来する場合には、繊維が一定方向に配向していない布帛、例えば、不織布が好ましい。
【0035】
また、繊維が一定方向に配向していない方が、反射が抑制され、より高いノイズ吸収性を発揮できる。従って、本発明に用いられる布帛が不織布である態様は、より好ましい。
また、本発明のノイズ吸収布帛は、電子機器に用いられる場合に、電子部品の形状、回路線路の形状等によって、複雑な形状に打ち抜かれ、電子部品や伝送線路に貼られるか、又は電子部品の筐体に貼られること等により使用されることが多い。織物、編物等では、複雑な形状に打ち抜かれた場合に、打ち抜かれた部分の端部から繊維片が発生する場合がある。上記繊維片は、金属加工された金属を伴う場合があり、短絡し、電子部品の誤操作につながる恐れがある。
【0036】
本発明に用いられる布帛は、熱により形成された布帛であることがより好ましい。バインダーを添加して布帛を製造すると、バインダーが電子機器に移行し、誤作動させる場合がある。従って、上記布帛は、バインダーを用いず、熱により形成された合成長繊維不織布であることが好ましい。一方、布帛を作る工程の合理性の観点からも、熱による形成ができれば、コストをより低減することができるので望ましい。
本発明において、布帛を構成する繊維は、熱により布帛を形成することができる合成繊維が好ましい。また、パルプ、レーヨン繊維等の化学繊維は、その親水性のために、水分を含みやすい場合がある。含まれた水分が再放出されると、電子機器の誤作動につながるため好ましくない。
【0037】
本発明に用いられる布帛を構成する繊維の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(PET、PBT、PTT等)及びその誘導体、N6、N66、N612等のポリアミド系樹脂及びその誘導体、ポリオキシメチレンエーテル系樹脂(POM等)、PEN、PPS、PPO、ポリケトン樹脂及びPEEK等のポリケトン系樹脂、TPI等の熱可塑性ポリイミド樹脂等、並びにこれらの組み合わせから形成された繊維が挙げられる。
【0038】
上記繊維は、本発明のノイズ吸収布帛が適用される環境に応じて、適宜選択することができるが、例えば、以下のように選択することができる。
N6、N66、N612等のポリアミド系樹脂やその誘導体は、吸水率の高い樹脂であるので、他の樹脂と比較して、水分を極端に嫌う電子分内に適用することは避けることが望ましい。半田耐熱性が必要な場合や、電子部品等から出る熱による不具合が起こる可能性がある場合は、すなわち、耐熱性を必要とする電子機器では、PET系樹脂やPPS系樹脂、PEEK系樹脂から形成された繊維を用いることが好ましい。一方、誘電率、tanδ等の電気特性から判断すると、ポリオレフィン樹脂、PET系樹脂、PPS系樹脂、PPO系樹脂、PEEK系樹脂及びフッ素系樹脂が好ましい。
【0039】
上記繊維は、難燃性を有する繊維であることが好ましい。電子部品の安全性の観点から、発火により燃えにくい繊維を採用すべきだからである。
上記繊維の繊維径は、本発明のノイズ吸収布帛が適用される環境により異なるが、一般的には、50μm以下であることが好ましい。均一な繊維間距離を有する布帛を得ることができ、電磁波のもれ、例えば、透過を少なくすることができるからである。また、繊維の強度が高く、金属加工の工程や、使用される環境等において、布帛又はノイズ吸収布帛が切れる可能性が低いので、安定した加工、使用等ができる。
【0040】
本発明のノイズ吸収布帛において、布帛が、7μm以下の繊維径を有する繊維(以下、「極細繊維」と称する場合がある)の層を含むことが好ましい。極細繊維の層を含むことにより、単位体積当りの繊維の本数が増え、繊維の比表面積が大きくなることにより、その結果、金属層の比表面積も大きくなり、ノイズ吸収能がより高くなる。また、極細繊維の層を含むことにより、本発明のノイズ吸収布帛が薄くなるので、軽いこと、薄いこと、短いこと、小さいことを目指す電子機器に好適となる。また、本発明のノイズ吸収布帛が薄くなることにより、シートをしなやかに曲げることができ、同じく、電子機器への装着が簡易になり、よりノイズ吸収能を発揮しやすい。本発明に用いられる布帛は、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含むことが好ましく、そして4μm以下の繊維径を有する繊維の層を含むことがより好ましい。
【0041】
上記極細繊維の繊維径は、0.01μm以上であることが好ましく、そして0.05μm以上であることがより好ましい。
上記極細繊維は、例えば、メルトブロウン法、エレクトロスピニング法等により製造されることが好ましく、そしてメルトブロウン法により製造されることがより好ましい。
また、上述したように、本発明のノイズ吸収布帛において、繊維が一定方向に配向することなく、ランダム配向性を有することが好ましい。
極細繊維から成る布帛の場合には、布帛の強度が低い傾向があるので、極細繊維よりも太い繊維径、すなわち、7μm超の繊維径を有する繊維(以下、「一般繊維」と称する場合がある)を含む布帛と併用することが好ましい場合もある。
【0042】
本発明に用いられる布帛を構成する繊維の断面形状は、特に制限されないが、より不均一な表面を形成するために、異型糸、割繊糸等であることが好ましい。また、同様の目的で、クリンプ糸、撚糸等であることもできる。
本発明に用いられる布帛の引張強さは、特に制限されないが、金属加工の工程、ノイズ吸収布帛を使用する際の取り扱い性等から、10N/3cm以上であることが望ましい。上記引張強さが、10N以上/cmであれば、真空蒸着、スパッタリング等の金属加工の工程で、布帛が切れる、しわがよる等が生じにくく、より効率よく金属加工することができ、さらに使用上も問題ないノイズ吸収布帛を製造することができる。上記引張強さは、20N/3cm以上であることがより好ましい。
なお、上記引張強さは、試験片の幅を3cmとした以外は、JIS−L1906:2000の5.3に従って測定した値を意味する。
【0043】
本発明に用いられる布帛の厚みは、10〜400μmの範囲内にあることが好ましく、15μm〜200μmの範囲内にあることがより好ましい。上記布帛の厚みが10μm未満では、金属加工する際に、適度な強度及び腰を有せず、金属加工しにくい場合があり、そして金属加工する際に、金属が裏抜けし、装置を汚染する場合がある。さらに、打ち抜き加工されたノイズ吸収布帛の強度が弱い場合がある。また、上記布帛の厚みが400μmを超えると、金属加工する際に、腰が過度に強い場合がある。さらに、本発明のノイズ吸収布帛が厚すぎて狭い部分に挿入しにくく、曲げにくく、折りにくく、電子部品に装着しにくくなる場合がある。
上記布帛の厚みは、JIS L−1906:2000に規定の方法に従って、測定することができる。
【0044】
本発明に用いられる布帛の坪量は、7〜300g/m2の範囲内にあることが好ましく、15〜150g/m2の範囲内にあることがより好ましい。坪量が7g/m2未満では、金属加工する際に、金属が裏抜けし、装置を汚染する場合がある。さらに、本発明のノイズ吸収布帛の強度が弱く、加工、打ち抜き等の工程に用いにくくなる場合がある。坪量が300g/m2超であると、本発明のノイズ吸収布帛が過度に重くなる場合がある。坪量が7〜300g/m2の範囲内にある場合には、本発明のノイズ吸収布帛が布形状を保つことができ、取扱い性も良好である。
上記坪量は、JIS L−1906:2000に規定の方法に従って測定することができる。
【0045】
本発明に用いられる布帛は、0.5μm〜5.0mmの平均開孔径を有することが好ましく、0.5μm〜3.0μmの平均開孔径を有することがより好ましい。平均開孔径が0.5μm未満であると、間隙が小さすぎ、金属クラスター間の距離が適度に離れず、電流の流れが阻害されない。また、繊維同士が適度に離れず、すなわち、繊維同士の交絡点が増えず、スイッチング効果によってノイズ吸収性が高くならない。一方、平均開孔径が5mm超であると、間隙が大きすぎ、金属加工する際に、金属を均一に金属加工することができず、目的とする電気抵抗値が得にくい。金属加工する際に設備に不良が起こる場合もある。特に、金属加工のために物理的な蒸着方法を採用した場合には、金属が裏に抜け、設備を汚染しやすい。また、平均開孔径が1mm以下の場合には、繊維同士の交絡点が増すことになり、そのスイッチング効果により、よりノイズ吸収性を高くすることができる。従って、平均開孔径は、0.5μm〜1.0mmであることが、さらに好ましく、0.5μm〜500μmであることがさらに好ましく、そして0.5μm〜200μmであることが最も好ましい。
上記平均開孔径は、実施例に記載される方法により測定することができる。
【0046】
本発明に用いられる布帛において、その製法は特に制限されず、各種製法により製造された布帛を用いることができる。また、上記布帛には、適度な表面構造を有するために、カレンダー処理を行うことがより好ましい。カレンダー加工をすることにより、布帛の表面に、適度な凸凹が形成されるので、金属加工後に、本発明のノイズ吸収布帛が良好な導電性を有することができ、そして適度な表面抵抗値を有することができる。すなわち、繊維の集合体としての布帛が、フィルムほどには均一な表面を有せず、繊維形状を残したままフラット化されるため、金属加工後に、本発明のノイズ吸収布帛が、後述するクラスター構造を有しやすくなり、ノイズ吸収能がより高くなる。
【0047】
本発明において、「金属加工」は、金属を付着させることを意味し、具体的には、布帛上及び/又は布帛内、場合によっては、布帛を構成する繊維内に金属を付着させることができる任意の処理を意味し、例えば、物理的な金属蒸着法(蒸着:EB蒸着、イオンプレーティング、イオンスパッタリング:高周波法、マグネトロン法、対抗ターゲット型マグネトロン法等)、化学的なメッキ法(無電解メッキ、電解メッキ等)等が挙げられる。物理的な金属蒸着法は、金属の微細な粒子が、布帛上に、布帛の表面から吸着され、金属の付着状況を、蒸着条件によりコントロールすることができるので、本発明のノイズ吸収布帛において、表面と内部との導電度の勾配を形成しやすくなる。また、個々の繊維は、その表面に曲率を有することから、粒子の発生源が単一の方向である物理的な金属蒸着法を採用すると、個々の繊維上に、金属の厚さに適度な斑を生じさせやすくなるので好ましい。
【0048】
図5は、金属蒸着方法による、繊維上の金属の粒子の積層状態の一態様を示す模式図である。図5において、向かって上方から物理的な蒸着が行われた場合には、金属の粒子6が、均一化されずに繊維4の上に形成される。この場合、金属加工された金属の、厚みの厚い部分と、厚みの薄い部分とでは、電磁波の捕捉性が異なり、また、電気抵抗の観点から観察すると斑を有することから、捕捉された電磁波が、電流となり、上記部分を流れる際に電気抵抗により熱エネルギーに変わり、ノイズ吸収能が高くなると予測される。
【0049】
一方、上記金属加工のために、メッキ法を用いた場合には、布帛全体に金属がメッキされ、個々の繊維に、かなり均一に金属が積層されることから、導電度の斑を作りにくい。従って、上記金属加工としては、物理的な金属蒸着法がより好ましい。
【0050】
上記金属蒸着方法としては、特に制限されず、任意の方法を選択することができる。例えば、金属を金属加工すべき布帛を、一定の真空度を有する蒸着装置の中に置き、上記布帛を一定のスピードで送り、蒸着源で物理的に蒸着させればよい。例えば、EB蒸着法では、1EV程度のエネルギーで金属を微粒子化させ、これを布帛に物理的に吸着させる。イオンプレーティング法では、希ガスやEV蒸着法より強いエネルギーで蒸着粒子を加速させて物理吸着させることができるので、布帛のより深い方向に金属を蒸着することができる。一方、スパッタリング法では、磁界の影響でよりエネルギー的に高い堆積を行うことができ、布帛の深さ方向ばかりではなく、場合によっては、繊維内に、金属を堆積させることができる。この場合、繊維内にも導電度の勾配ができるので、ノイズ吸収能が高くなる。まとめると、EB蒸着等のマイルドな蒸着方法では、布帛及び繊維へのダメージは少ないが、繊維表面への物理的な吸着強さは弱くなる。一方、スパッタリング等の強い蒸着方法では、布帛及び繊維へのダメージは大きいが、繊維表面への物理的な吸着強度は高くなる。蒸着方法は、本発明のノイズ吸収布帛の用途に応じ、適宜選択することができる。
【0051】
本発明において、上記金属加工される金属は、導電性を有する金属であれば、特に制限されず、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、モリブデン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、銅、銀、金、プラチナ、鉛、錫及びタングステン、SUS等の合金、及びこれらの酸化物及び窒化物等の化合物、並びにそれらの混合物を挙げることができる。
【0052】
アルミニウム、タンタル等の、いわゆる、弁作用を有する金属、すなわち、酸化により、容易に表面のみに酸化皮膜が得られ、容易には金属内部に酸化層が伝播しない金属では、その表面に、導電度が若干小さい、薄い酸化皮膜が形成される。本発明のノイズ吸収布帛において、金属加工すべき金属として、上記弁作用を有する金属を採用すると、その表面及び内部において、微視的な導電度の勾配が形成され、ノイズ吸収能を向上させることができるので好ましい。また、弁作用を有する金属を採用することにより、使用中に金属の酸化が進みすぎることなく、一定の表面抵抗値を維持しやすい。酸化しやすい金属では、当初は良好な表面抵抗値を示すが、使用環境(高湿度、高温環境等)により、より酸化が進行しやすく、表面抵抗値が高くなり、本来の性能を発揮できなくなる恐れがある。また、金、銀、銅等の、導電度が非常に大きく且つ金属加工した後も均一な導電度が得られやすい金属では、金属加工の制御が難しく、フィルム、シート等と同様に、導電度が大きくなる場合がある。
【0053】
一方、本発明において、上記金属加工のために用いられる金属は、強磁性、常磁性又は軟磁性を有していても、又は有していなくともよい。この点が、従来の発明と大きく異なる点であり、本発明は、マクロ的に磁性によるノイズの吸収を目的としたものではなく、導電性によるノイズの吸収を目的としている。例えば、鉄、ニッケルパーマロイ等の金属化合物は、透磁率が高い。このため、従来技術では、これらの金属化合物を中心として、例えば、フェライト、鉄、ニッケル等の金属化合物が主に用いられてきた。従来のノイズ吸収シートでは、これらの軟磁性又は磁性を有する金属化合物の微粒子の性能により、ノイズ吸収能が発揮されていた。このため、透磁率の高さが、その性能を左右する第一の物理指標であった。
【0054】
上記の観点から、後述するが、最終製品として、磁性損失によるノイズ吸収能を発揮させる場合には、磁化率の高い金属を選ぶことが好ましい。磁化率の高い金属としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの酸化物、窒化物等の金属化合物が挙げられる。
【0055】
一方、磁性を嫌う製品の場合は、上記磁化率の高い金属以外の金属、及びその金属化合物が好ましく、特に、磁性を有しない金属、及びその酸化物、窒化物等の金属化合物が好ましい。本発明では、磁化率の高い金属を含む従来技術のノイズ吸収製品と異なり、磁性を嫌う製品にも適用することが可能な、磁性を有しない金属を含むノイズ吸収布帛がより好ましい実施形態となる。
【0056】
本発明に用いられる布帛の製造方法は、特に制限されず、一般的な織物、編物、不織布等を製造する方法により作成されうる。本発明に用いられる布帛が不織布である場合には、合成長繊維の製造方法であるスパンボンド法、メルトブロウン法、フラッシュ紡糸法等が好ましい。また、本発明に用いられる布帛が不織布である場合には、短繊維を用いた抄紙法、乾式法等を用いることもできる。本発明に用いられる布帛が不織布である場合には、合成繊維を用いて不織布を製造する方法がより好ましく、強度が高く、加工がしやすくノイズ吸収布帛を製造することができる。
【0057】
また、本発明に用いられる布帛として、極細繊維から成る不織布の層と、一般的な繊維から成る不織布の層とを積層することにより形成された積層不織布が好ましい。上記極細繊維及び一般的な繊維は、熱可塑性樹脂からなることが好ましく、極細繊維から成る不織布の層と、一般的な繊維から成る不織布の層とを、熱エンボスで一体化することにより、積層不織布の引張強さと曲げ柔軟性とを維持し、耐熱安定性を維持することができる。上記積層不織布として、スパンボンド不織布の層、メルトブロウン不織布の層、及びスパンボンド不織布の層をその順で積層し、次いでエンボスロール又は熱プレスロールで圧着することにより製造されたものが挙げられる。
【0058】
上記積層不織布として、熱可塑性合成樹脂を用いて少なくとも1層以上のスパンボンド不織布の層をコンベア上に紡糸し、その上に熱可塑性合成樹脂を用いてメルトブロウン法で、繊維径0.01〜7μmの極細繊維の不織布の層を少なくとも1層以上吹き付ける。その後、エンボスロール又はフラットロールを用いて圧着することにより一体化することにより製造された積層不織布が好ましい。
さらに、熱圧着前にメルトブロウン不織布の上に熱可塑性合成樹脂を用いた熱可塑性合成長繊維不織布を少なくとも1層以上積層し、次いで、エンボスロール又はフラットロールを用いて圧着することにより一体化することにより製造された積層不織布がより好ましい。
【0059】
上記積層不織布では、熱可塑性合成長繊維の不織布の層の上に、メルトブロウン法による極細繊維の不織布の層が直接吹き付けられているので、メルトブロウン法による極細繊維を、熱可塑性合成長繊維の不織布の層内に侵入させることができ、熱可塑性合成長繊維の不織布の層の繊維間隙を埋めることができる。このようにすれば、メルトブロウン法により極細繊維が熱可塑性合成長繊維の不織布内に侵入して固定されるため、積層不織布の構造自体の強度が向上するだけでなく、極細繊維の不織布の層の外力による移動が生じにくくなるので層間剥離しにくくなる。上記積層不織布の製法は、国際公開第2004/94136号パンフレット、国際公開第2010/126109号等に開示されている。
【0060】
スパンボンド不織布層、メルトブロウン不織布層を積層した積層不織布の場合には、3層の積層不織布、及び2層の積層不織布ともに、スパンボンド不織布層の坪量が上下合わせて1.0〜270g/m2であり、メルトブロウン不織布層の坪量が0.3〜270g/m2であり、そして全体の坪量が7〜300g/m2であることが好ましい。スパンボンド不織布層の坪量が上下合わせて3.0〜100g/m2であり、メルトブロウン不織布層の坪量が0.5〜120g/m2であり、そして全体の坪量が15〜150g/m2であることがより好ましい。
また、スパンボンド不織布層の繊維の繊維径は、好ましくは4μm〜50μm、より好ましくは5〜40μm、そしてさらに好ましくは6〜35μmである。
メルトブロウン不織布層の繊維径は、好ましくは7μm以下、より好ましくは4μm以下である。メルトブロウン不織布層の繊維径は、好ましくは0.01μm以上、そしてより好ましくは0.05μm以上である。
【0061】
本発明のノイズ吸収布帛のノイズ吸収能は、前述の従来技術とは明らかに思想が異なり、本発明のノイズ吸収布帛は、透磁率は高くなくても、極言すれば、一般的な透磁率の値をほとんど有しなくとも、高いノイズ吸収能を発揮することができる。本発明のノイズ吸収布帛は、導電度の勾配により、ノイズ吸収能を発揮する。上述のように、極細繊維を含む布帛の表面に、所望の金属加工をすることにより、金属加工された面の面積がより大きくなり、ノイズ吸収能が高くなる。
【0062】
また、ノイズとなる電磁波は、大きく分けると、電界成分と、磁界成分とに分けることができ、(近傍界と遠方界とでは、その機構は若干異なるが)、本発明のノイズ吸収布帛は、特に、電界成分に対して効果を発揮する。即ち、本発明のノイズ吸収布帛は、導電性損失により、ノイズ吸収能を発揮すると考えられる。一方、軟磁性体等を練り込んだ、磁性を有する布帛では、磁性損失により、ノイズ吸収性を発揮すると考えられる。ただし、ノイズとなる電磁波において、電界成分と磁界成分とは、表裏一体のものであるため、どちらかに効果を発揮すれば、全体的にノイズ吸収能は高くなる。
【0063】
本発明のノイズ吸収布帛において、磁性を有しない金属を用いることによる利点として、下記の事項が挙げられる。例えば、近年電子機器に使用されている装置として、磁気センサー、電子コンパス、CD、DVD等が挙げられる。磁気センサー及び電子コンパスでは、磁性を有する金属を含むものは併用できない。また、CD、DVD等の磁気により記憶媒体から情報を読み書きする装置(ピックアップ装置)では、磁気の有無により記憶がなされ、これを読み取るピックアップ装置では、ほとんどが磁気の読み取りを行っているので、これらの装置では、磁性を有する金属が近傍にあると、読み取り不良を起こしやすくなる。このため、近年使用されている、軟磁性体粒子、磁性体粒子等を含むノイズ吸収シートは、これらの装置には、用いることができなかったが、磁性を有しない金属を含むノイズ吸収布帛は、上記装置に用いられうる。
【0064】
ただし、本明細書では、磁性体によるノイズ吸収能を否定するものではなく、当然ながら、表面抵抗率が所定の範囲内にあれば、磁性体のノイズ吸収能と組み合わせて、より高いノイズ吸収能を発揮させることができる。例えば、磁性によるノイズが発生する部分では、磁性を有する金属を金属加工することで、本発明のノイズ吸収布帛をより高性能化することができる。また、本発明のノイズ吸収布帛が、軟磁性体を含む磁性シートを含むこともできる。
【0065】
本発明において、金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあれば、上記金属の厚さは、特に制限されないが、一般的に、上記金属の厚さは、2〜400nmの範囲内にあることが好ましく、5〜200nmの範囲にあることがより好ましい。上記金属の厚さが2nm未満であると、導電度が上述の範囲から外れやすい場合がある。すなわち、金属加工する際に、金属が形成されない部分が残り、表面抵抗率の常用対数値が4超となる場合がある。一方、上記金属の厚さが400nm超であると、上記金属の厚さが過度であり、電流が過度に流れる場合がある。すなわち、上記金属の厚さが過度であると、均一な層が形成され、繊維の間が埋まり、繊維同士の間隙がほとんどなくなり、スイッチング効果によるノイズ吸収能が低下しやすい。
なお、本明細書において、上記金属の厚さは、SEM写真画像等により測定できる。
【0066】
本発明のノイズ吸収布帛において、上記金属加工された金属が、複数の金属クラスターを含む場合には、当該金属クラスターは、2〜200nmの長径の相加平均値を有することが好ましく、5nm〜100nmの長径の相加平均値を有することがより好ましい。上記金属加工された金属が、不連続な、金属クラスターを有することにより、各金属クラスター間に導電度の勾配が生じやすくなる。金属クラスターの長径の相加平均値が2nm以上であれば、より効率よくノイズを吸収できる。また、金属クラスターの長径の相加平均値が200nm以下であれば、上記金属加工された金属の均一化が過度に促進されず、良好な導電度の勾配を形成することができる。極細繊維を含むノイズ吸収布帛では、上記クラスター構造を作りやすいため、より高いノイズ吸収能を示すことができる。
上記長径は、SEM型電子顕微鏡の画像から測定することができる。
【0067】
本発明のノイズ吸収布帛には、その片面又は両面に、電子機器等に実用化するために、以下の処理を行うことができる。例えば、短絡を防止するために、絶縁処理することができる。具体的には、樹脂のコーティング、樹脂のラミネート、絶縁フィルムの張り合わせ等を行うことができる。また、電子機器に張り合わせるために粘着性を付与するための処理、電子機器の筐体にセットするためのビス、ねじ穴等の設置等を行うことができる。電子機器に張り合わせるために粘着性を付与するための処理は、電子機器への固定がより簡易になるので好ましい。
【0068】
本発明のノイズ吸収布帛は、下記に示すように、電子機器等に適用して、ノイズを吸収させることができる。例えば、LSI等の電子部品に貼り付けることができ、ガラスエポキシ基盤、FPC等の回路又はその裏面に貼り付けることができ、回路上の電送線路上、電子部品が回路に装着される部位等に貼り付けることができ、コネクター部分、コネクターから、他の装置、部品等とつなげるケーブル等に貼り付けることができ、電子部品・装置を入れる筐体、保持体等の裏又は表に貼り付けることができ、又は電源線、伝送線等のケーブルに巻きつけることができる。
【0069】
また、使いやすさを考慮し、所望により、上記電子機器等に張り合わせるための粘着層(ホットメルト接着剤、一般的な粘着剤等)を、表又は裏に設けることができ、そして絶縁性が必要な場合に、上記電子機器等の表又は裏に、電気絶縁層(フィルムを貼り合わせる、ポリマーラミネート層を設けることができ、他の絶縁性材料と組み合わせる等により、電気絶縁層を形成することができる)を設けることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
測定方法及び評価方法は次の通りである。
【0071】
[(1)マイクロストリップライン(MSL)法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロストリップライン法で測定した。図6に示すように、50Ωのインピーダンスを有するマイクロストリップラインフィクチャー7(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー9(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料8の大きさは、5cm×5cmであり、これをマイクロストリップラインフィクチャー7上に置いて測定した。なお、図6において、符号10は、マイクロストリップラインを示す。
Sパラメーターの反射減衰量(S11)と、透過減衰量(S21)とを各周波数で測定し、次の式(1)からロス率を算出した。
ロス率(Ploss/Pin)=1−(S112+S212)/1 式(1)
【0072】
[(2)表面抵抗率]
三菱化学社製 低抵抗計Loresta―GP、型式MCP−T600を用い、4端子法で測定した。測定は、n=3とし、その平均値を用いた。
【0073】
[(3)ループアンテナA法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロループアンテナ法で測定した。図11に示すように、2つのマイクロループアンテナ11を有するマイクロループアンテナフィクスチャー12(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー9(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料8の大きさは、5cm×5cmであり、これを2つのマイクロループアンテナ11の上に置いて、結合減衰量を測定した。
【0074】
[(4)ループアンテナB法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロループアンテナ法で測定した。図12に示すように、2つのマイクロループアンテナ11を有するマイクロループアンテナフィクスチャー12(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー9(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料8の大きさは、5cm×5cmであり、これを2つのマイクロループアンテナ11の間に置いて、透過減衰量を測定した。
【0075】
[(5)ノイズ吸収性可視化装置(磁界強度測定)]
(株)ノイズ研究所製、プリント基板電磁波解析システム(型式:ESV−3000)を用いて測定した。測定におけるプリント基盤は、ノイズ研究所製のデモ基板を用いた。測定プローブは、ノイズ研究所製垂直磁界プローブを用いた。測定周波数は100〜400MHzとし、各測定ポイントにおける、その周波数範囲内でのピーク磁界強度の値をマッピングした。試料の大きさは、8cm×8cmであり、試料をデモ基板に貼付ける前と後との磁界強度の差異から、磁界強度減衰量を観測した。
【0076】
[(6)ノイズ吸収性可視化装置(電界強度測定)]
(株)ノイズ研究所製、プリント基板電磁波解析システム(型式:ESV−3000)を用いて測定した。測定におけるプリント基盤は、ノイズ研究所製のデモ基板を用いた。測定プローブは、ノイズ研究所製垂直磁界プローブを用いた。測定周波数は250〜700MHzとし、各測定ポイントにおける、その周波数範囲内でのピーク電界強度の値をマッピングした。試料の大きさは、8cm×8cmであり、試料をデモ基板に貼付ける前と後との電界強度の差異から、電界強度減衰量を観測した。
【0077】
[(7)透磁率測定法]
薄膜透磁率測定システム(凌和電子社製 型式PMF−3000)を用いて測定した。試料を固定するために、PET樹脂シートに両面テープ(ニチバン製 NW−5)で貼り付けて測定した。測定は、n=3とし、その平均値を用いた。
【0078】
[(8)平均開孔径(μm)]
PMI社のパームポロメーター(型式:CFP−1200AEX)を用いた。浸液にPMI社製のシルウィックを用い、試料を浸液に浸して充分に脱気し、測定した。
本測定装置は、フィルターを、あらかじめ表面張力が既知の液体に浸し、フィルターの全ての細孔を液体の膜で覆った状態からフィルターに圧力をかけ、液膜の破壊される圧力と液体の表面張力から計算された細孔の孔径を測定する。平均開孔径の算出には次の式(2)を用いた。
d=C×r/P 式(2)
(式中、d(単位:μm)はフィルターの開孔径であり、r(単位:N/m)は液体の表面張力であり、P(単位:Pa)はその孔径の液膜が破壊される圧力であり、そしてCは定数である。)
【0079】
液体に浸したフィルターにかける圧力Pを、低圧から高圧に連続的に変化させた場合の流量(濡れ流量)を測定すると、初期の圧力では最も大きな細孔の液膜でも破壊されないので、流量は0である。圧力を上げていくと、最も大きな細孔の液膜が破壊され、流量が発生する(バブルポイント)。さらに圧力を上げていくと、各圧力に応じて流量は増加し、最も小さな細孔の液膜が破壊され、乾いた状態の流量(乾き流量)と一致する。
【0080】
本測定装置では、ある圧力における濡れ流量を、同圧力での乾き流量で割った値を累積フィルター流量(単位:%)と称する。また、累積フィルター流量が50%となる圧力で破壊される液膜の孔径を、平均流量孔径と称し、これを本発明に用いられる布帛の平均開孔径とした。
本明細書において、最大孔径は、布帛をフィルターとして測定し、累積フィルター流量が50%の−2σの範囲、すなわち、累積フィルター流量が2.3%となる圧力で破壊される液膜の孔径とした。
【0081】
[(9)布帛の坪量]
布帛の坪量は、JIS L−1906:2000に規定の方法に従い、縦20cm×横25cmの試料を、試料の幅1m当たり3箇採取して質量を測定し、その平均値を単位面積当たりの質量に換算して求めた。
【0082】
[(10)布帛の厚み]
JIS L−1906:2000に規定の方法に従い、幅1m当たり10箇所の厚みを測定し、その平均値を布帛の厚みとした。荷重は9.8kPaで行った。
【0083】
[(11)繊維の径]
平均繊維径(μm):電子顕微鏡写真から、任意に繊維をピックアップし、それらの直径を写真から読み取ることにより求めた。値は、n=50の相加平均値である。
【0084】
[(12)金属の厚み]
SEM型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SEM 型式S−4800)を用い、SEM写真画像により求めた。また、金属クラスターの長径も、SEM写真画像により求めた。各値は、n=30の相加平均値を採用した。
【0085】
[(13)貼り合わせモデル試験]
5cm×5cmの試料の片面全面に両面テープを貼付した。次いで、両面テープの残りの面を、卓球で用いるピンポン玉の半球に貼付し、その状態及び貼付しやすさを、次のように判定した。
◎:貼付しやすく、貼付した状態にも不具合が観察されなかった。
○:貼付しやすいが、一部試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
△:貼付できるが、全体的に試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
×:非常に貼付しにくく、全体的に試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
【0086】
[実施例1〜38]
以下の方法により、実施例1〜38のノイズ吸収布帛を製造し、ノイズ吸収能を評価した。実施例1〜3、11〜13及び15では、旭化成せんい製のポリエステル樹脂によるスパンボンド不織布(E05050)を、布帛として用いた。蒸着は、真空蒸着装置と、熱源としてのニラコ製スタンダートボード(型式:SF−106 タングステン)とを用いて実施した。真空度5×10-5torrで、印加電圧5V、蒸着時間180秒を基本条件とした。
【0087】
上記条件を金属加工の基本条件とし、金属加工される金属の量を変化させるために、真空度、蒸着源への熱量(場合によっては、熱源への電気量)、及び蒸着時間を制御し、本発明の範囲に含まれる表面抵抗率の常用対数値を有するように調整した。一般的に、金属加工される金属が決まっている場合には、例えば、蒸着時間を変化させることにより、金属加工された金属の量を簡便に調整することができる。例えば、金属加工される金属の量を少なくする場合は、蒸着時間を低減させることができ、そして金属加工される金属の量を増す場合には、蒸着時間を増加させることができる。
【0088】
各実施例における条件を表1に示し、以下に補足する。なお、実施例1〜12及び17〜23のノイズ吸収布帛の透磁率に関して、μ’の平均値が、0.5〜6GHzの範囲において、おおよそ1.0であり、そしてμ’’の平均値が、0.5〜6GHzの範囲で、おおよそ0.0であった。
【0089】
実施例2及び3では、実施例1と蒸着時間を変え、金属の厚みを変化させた。
実施例4〜10及び17〜23では、布帛を以下に示すように変更した以外は、実施例1に従った。
実施例4:PU5040(素材:ポリプロピレン、旭化成せんい製)
実施例5:N05050(素材:ナイロン6、旭化成せんい製)
実施例6、14及び16:プレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例7:プレシゼAS080(素材:PET、旭化成せんい製)
プレシゼAS030、AS080は、表1に示すような、一般繊維としてのスパンボンド不織布の層と、極細繊維としてのメルトブロウン不織布の層と、スパンボンド不織布の層とがその順で積層された積層不織布である。
実施例8、9,10では、それぞれ、繊維径、坪量及び厚みが異なる下記の布帛を用いた以外は、実施例1に従った。
E05020、E05030、E05120(素材:PET、旭化成せんい製)
【0090】
実施例17:短繊維不織布(湿式不織布:ピュアリ040BC 素材:PET 阿波製紙社製)
実施例18:短繊維不織布(スパンレース不織布 ソンタラ8005 素材:PET デュポン社製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例19:タイベック(素材:ポリエチレン、DAFS社製)
実施例20:短繊維不織布:ユニセル メルフィット BT030EW(帝人製)
実施例21:メルトブロウン不織布:E3008(素材:PET、旭化成せんい製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例22及び23:エステル糸によるタフタを使用した。
【0091】
実施例11及び12:実施例11において、蒸着の印加電圧を7.5Vとし、そして実施例12において、蒸着の印加電圧を10Vにした以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収布帛を形成した。
【0092】
実施例13及び14:実施例13において、金属をAgに変更した以外は、実施例1に従った。実施例14において、布帛としてプレシゼAS030を用い、そして金属をAgに変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収布帛を形成した。
実施例15及び16:実施例15において、金属をNiに変更した以外は、実施例1に従った。実施例16において、布帛としてプレシゼAS030を用い、そして金属をNiに変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収布帛を形成した。
【0093】
実施例24:汎用的なポリエチレンテレフタレートをスパンボンド法により、紡糸温度300℃でフィラメントの長繊維群を移動捕集面に向けて押し出し、紡糸速度3500m/分で紡糸し、コロナ帯電で3μC/g程度帯電させて充分に開繊させて、平均繊径11μmフィラメントからなる5cm変動率15%以下の均一性を有する未結合長繊維ウェブ(以下、「ウェブ層A」と称する場合がある)を、坪量:約7.5g/m2で、捕集ネット面上に形成させた。
【0094】
次に、ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度ηsp/c 0.50)を、紡糸温度300℃、加熱エア温度320℃、吐出エア1000Nm3/hr/mの条件下で、メルトブロウン法にて紡糸して、平均繊維径1.7μmの極細繊維を、坪量:約5g/m2のランダムウェブ(以下、「ウェブ層B」と称する場合がある)として、ウェブ層Aに向けて直に噴出させた。メルトブロウンノズルからウェブ層Aの上面までの距離は、100mmとし、メルトブロウンノズル直下の捕集面における吸引を0.2kPa、そして風速を約7m/secに設定した。
【0095】
ウェブ層Bの、ウェブ層Aと反対側の面に、ポリエチレンテレフタレートの長繊維ウェブを、最初に調製したウェブ層Aと同様に開繊して、ウェブ層A/ウェブ層B/ウェブ層Aの3層の積層ウェブを調製した。
次いで、上記3層の積層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、不織布層A/不織布層B/不織布層Aの3層の積層不織布を得て、そして最初に形成されたウェブ層Aに由来する不織布層Aの上に、金属を金属加工することにより、ノイズ吸収布帛を形成した。
樹脂の押出量を変える以外は、同様の工程を経て、異なった繊維径を有する積層不織布を含むノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の組成及び繊維径を表1に示す。
実施例25〜27:表1に示すように厚み、坪量、及び繊維径を変えた以外は、実施例24と同様に作成した。
【0096】
実施例28及び29:実施例24と同様にして、ウェブ層Aとウェブ層Bとの2層の積層ウェブを形成した後、2層の積層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、ウェブ層Aに由来する不織布層Aと、ウェブ層Bに由来する不織布層Bとを有する2層の積層不織布を得て、そして不織布層Bに金属加工を実施することによりノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の性状を、表1に示す。
【0097】
実施例30〜32:ウェブ層Aを形成せず、ウェブ層Bを形成する際の樹脂の押出量を変え、繊維径を変化させた以外は、実施例24と同様にして、メルトブロウン法による不織布層Bを含むノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の性状を、表1に示す。
実施例33及び34:ウェブ層Bを形成せず、ウェブ層Aを形成する際の樹脂の押出量を変え、繊維径を変化させた以外は、実施例24と同様にして、スパンボンド法による不織布層Aを含むノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の性状を、表1に示す。
【0098】
実施例35〜38:プレシゼAS030の上に、Finetex Technology Global Limited社製の、エレクトロスピニング法(ELSP)により形成された、極細繊維から成る不織布をさらに重ね合わせ、積層不織布を形成し、そして極細繊維から成る不織布側に、金属を金属加工することにより、積層型のノイズ吸収布帛を形成した。ELSPの坪量は、2g/m2又は1g/m2とした。上記極細繊維の素材は、実施例35及び36ではナイロン6であり、そして実施例37及び38ではPVDFであった。
なお、実施例24〜37は、実施例1と同様に実施した。
【0099】
[比較例1〜4]
金属加工される金属種、及び金属の厚さを変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収基材を製造した。
【0100】
[比較例5〜8]
布帛をフィルムに変更し、さらに、金属加工される金属種、及び金属の厚さを変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収基材を製造した。
なお、比較例5〜7では、上記フィルムとして帝人テトロンフィルム(型式G2:16μm、型式S:188μm)が用いられ、そして比較例8では、上記フィルムとして、東レ・デュポン社製型式Hタイプ:25μmが用いられた。
【0101】
[比較例9]
ノイズ吸収基材として、市販の製品(バスタレイド 型式R4N)を評価した。
実施例1〜38の結果を表1に、そして比較例1〜9の結果を表2にまとめる。さらに、実施例1、実施例4、実施例6及び比較例6のマイクロストリップライン法の測定結果を、図7〜10に示す。
【0102】
実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材の、ループアンテナA法による結合減衰量を、それぞれ、図13及び14に示す。また、実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材の、ループアンテナB法による透過減衰量を、それぞれ、図15及び16に示す。ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を図17に示し、そして実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、磁界強度マッピングの結果を、それぞれ、図18及び19に示す。また、ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を図20に示し、そして実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、電界強度マッピングの結果を、それぞれ、図21及び22に示す。
これらの結果から、本発明のノイズ吸収布帛のノイズ吸収能は、磁界抑制効果よりも、電界抑制効果によるところが大きいことが示唆される。
なお、図17〜22において、符号13は、デモ基板を意味する。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のノイズ吸収布帛は、電子機器に装着されるノイズ吸収物品に好適に利用される。例えば、電子機器の筐体に取り付け、電子部品や伝送線路の上に貼り付け等により用いることができる。
【符号の説明】
【0108】
1 ノイズ吸収布帛
2 布帛
3 金属加工された金属
4 繊維
5 金属クラスター
6 金属の粒子
7 マイクロストリップラインフィクチャー
8 試料
9 ネットワークアナライザー
10 マイクロストリップライン
11 マイクロループアンテナ
12 マイクロループアンテナフィクスチャー
13 デモ基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、大画面テレビ等の電子機器、携帯電話、無線LAN等の無線通信機器等の本格的な普及によって、取り扱われる情報量が顕著に増大している。このため、これらの電子機器及び無線通信機器は、より高容量化、高集積化、高速通信化され、増大する情報量をより早く処理し、より効率よく伝送する要求がますます増えてきている。これらの要求を満たすために、LSIのクロック周波数及び電子機器で使われる伝送周波数は、より高周波側にシフトし、かつ通信機器の利用周波数もより高くなっている。
【0003】
利用周波数が高くなったことにより、電子機器から発生するノイズにより他の機器に作動不良が生じやすくなること、通信機器で利用される電波との干渉により、電子機器、通信等に不具合が生じやすくなること等が報告されている。
このため、電子部品、伝送線路等に対し、また通信システムに対し、電磁波の干渉を防ぐ目的で、いわゆるEMC対策として、電子機器から発生するノイズを吸収するノイズ吸収体の必要性が高まってきている。
【0004】
さらに、ユビキタス社会に移行し、モバイル型のパソコンが増え、携帯電話も、より小型化及び高性能化している。従って、小型化及び軽量化可能なデバイス、素材等が望まれている。
【0005】
特許文献1及び2には、軟磁性体が樹脂中に分散されたノイズ吸収シートが開示され、実用化されている。上記ノイズ吸収シートが性能を発現する原理は、樹脂中に分散させた軟磁性体が、電磁波を捕捉して磁性的に分極し、その際の磁性損失により電磁波が熱エネルギーに変換されるものである。上記軟磁性体は粉末であるため、樹脂中に混錬し、分散させる必要があるが、軟磁性体は硬度の高い粉末であるため、より高濃度で均一に、樹脂中に分散させることは難しい。また、製造されたシートは、ロールに巻き取ることが難しいため、電子デバイス等の連続生産に適していなかった。
【0006】
さらに、上記ノイズ吸収シートは、高比重の軟磁性体粉末を分散させたシートであるため、厚みも厚く、狭い場所に組み込むことが難しかった。また、上記ノイズ吸収シートのマトリックス樹脂は、使い勝手を考慮してゴム状物質が選択されてはいるが、曲率が高い場所に組み込むこと、及び折り曲げて使用することは難しかった。
【0007】
さらに、より高周波数に対応するために、軟磁性体の組成及び構造を複雑化させた粉体をノイズ吸収シートに用いることが知られている。例えば、軟磁性体の原料としてレアメタル及び/又は微少元素を用い、より複雑な化合物とすることにより、磁性を制御することも試みられているが、コストの問題が生じうる。針状、鱗片状等の軟磁性体を用いて軟磁性体の分極を高くすることも試みられているが、軟磁性体の濃度を高くし、均一なシートにすることは非常に難しく、コスト及び取扱い性に問題があった。
【0008】
また、上述の軟磁性体をはじめ、磁性体は、ある特定の周波数に対してのみ効果を奏し、広帯域のノイズを吸収することは難しいことが知られていた。
このため、種々の周波数に有効な粒子を混合して、シート化することも検討されてきた。しかし、粒子を混合すると、各粒子の効果が低減し、広帯域のノイズを吸収することが難しいこと、さらにシート化が難しいこと等の問題点があった。
【0009】
特許文献3及び4には、樹脂シートの表面に、軟磁性体又は金属が加工されたノイズ吸収シートが開示されている。しかし、上記ノイズ吸収シートは、樹脂シート、フィルム状材料の上に、軟磁性体又は金属が蒸着されているため、表面が平滑であり、より高性能化することが難しかった。従って、高性能化するために、機能を分割し、複層化し、積層化することも試みられているが、高性能化は難しく、さらに厚く使いにくいものであった。
【0010】
特許文献5及び6には、それぞれ、シート状複合磁性体及びノイズ吸収体が開示されている。しかし、特許文献5及び6に記載の物品は、いずれも平滑な表面を有するので、金属自体が有する導電性のために、電磁波の反射が強くなり、電磁波の吸収が阻害されるものであった。
特許文献3〜6に示すように、フィルム、シート等の平滑面に、磁性材料又は金属材料の層を形成すると、磁性材料又は金属材料の層が平滑になり、磁性材料又は金属材料が本来有する導電性が顕在化し、その大きな導電度により、電磁波が反射される。これらは、ノイズを吸収するよりはむしろ、電磁波の共鳴により、ノイズを増幅させるものであった。
【0011】
特許文献7には、導電性繊維を含有する層と、磁性材料を含有する層とが積層されているノイズ吸収シートが開示されている。しかし、特許文献7のノイズ吸収シートでは、ノイズ吸収能は、主に磁性材料に起因し、導電性繊維がノイズ吸収能を有するか否かは明らかではなかった。さらに、導電性繊維の割合が多く導電度が過度に大きい領域では、電磁波の反射が強くなり、吸収性能が阻害される問題があった。
【0012】
また、特許文献8では、導電性繊維を樹脂中に分散させて、特許文献1又は2に開示されている軟磁性体の代わりを担わせていた。しかし、特許文献8に用いられている導電性繊維は、一般的な材料であって、ノイズ吸収能を有するものではない。すなわち、導電性繊維をあたかも針状の軟磁性体の代替として樹脂中に分散させているため、そのノイズ吸収能は、特許文献1にあるような軟磁性体の樹脂分散シート製品には及ばなかった。また、作動原理も解明されておらず、ノイズ吸収能が全く発揮されないもの、電磁波の反射が過度に強いもの等、ノイズ吸収シートとして実用性を有するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−93034号
【特許文献2】特開2005−251918号
【特許文献3】特開2005−101474号
【特許文献4】特開2006−93414号
【特許文献5】特開2006−60008号
【特許文献6】特開2006−295101号
【特許文献7】特開2008−186997号
【特許文献8】特開2008−118116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、従来のノイズ吸収物品は、使い勝手、ノイズ吸収能等に問題を有するものであった。
従って、本発明は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
本発明はまた、広帯域にわたってノイズ吸収能を有するノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能であるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする上記ノイズ吸収布帛により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、
金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする、
上記ノイズ吸収布帛。
【0017】
[態様2]
上記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さい、態様1に記載のノイズ吸収布帛。
[態様3]
上記布帛が、合成長繊維から成る不織布である、態様1又は2に記載のノイズ吸収布帛。
【0018】
[態様4]
前記布帛が、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含む、態様1〜3のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様5]
上記金属が、金属蒸着法により金属加工された、態様1〜4のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【0019】
[態様6]
上記金属の厚さが2〜400nmである、態様1〜5のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様7]
上記布帛の厚みが10〜400μmであり且つ坪量が7〜300g/m2である、態様1〜6のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【0020】
[態様8]
上記布帛が、カレンダー加工された、態様1〜7のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様9]
上記布帛の平均開孔径が0.5μm〜5.0mmである、態様1〜8のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【0021】
[態様10]
上記金属が、一又は複数の、磁性を有しない金属である、態様1〜9のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様11]
上記金属が、一又は複数の、弁作用を有する金属を蒸着することにより金属加工された、態様1〜9のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様12]
態様1〜11のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛を含むノイズ吸収物品。
【発明の効果】
【0022】
本発明のノイズ吸収布帛は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れる。
本発明のノイズ吸収布帛はまた、広帯域にわたってノイズ吸収能を有する。
さらに、本発明のノイズ吸収布帛は、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができる。
さらに、本発明のノイズ吸収布帛は、高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明のノイズ吸収布帛の断面を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明のノイズ吸収布帛の一態様の断面を拡大した模式図である。
【図3】図3は、本発明のノイズ吸収布帛の導電度の勾配を説明するための図である。
【図4】図4は、金属クラスターを説明するための図である。
【図5】図5は、金属蒸着方法による、繊維上の金属の粒子の積層状態の一態様を示す模式図である。
【図6】図6は、マイクロストリップライン法を説明するための図である。
【図7】図7は、実施例1におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例4におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例6におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図10】図10は、比較例6におけるマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図11】図11は、ループアンテナA法を説明するための模式図である。
【図12】図12は、ループアンテナB法を説明するための模式図である。
【図13】図13は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛の、ループアンテナA法による結合減衰量を示す図である。
【図14】図14は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材の、ループアンテナA法による結合減衰量を示す図である。
【図15】図15は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛の、ループアンテナB法による透過減衰量を示す図である。
【図16】図16は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材の、ループアンテナB法による透過減衰量を示す図である。
【図17】図17は、ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を示す図である。
【図18】図18は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を示す図である。
【図19】図19は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を示す図である。
【図20】図20は、ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を示す図である。
【図21】図21は、実施例6で形成されたノイズ吸収布帛を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を示す図である。
【図22】図22は、比較例6で形成されたノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のノイズ吸収布帛について具体的に説明する。
本発明のノイズ吸収布帛は、布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されている。
図1は、本発明のノイズ吸収布帛の断面を模式的に示す図である。図1のノイズ吸収布帛1は、布帛2と、金属加工された金属3とを含む。
図2は、本発明のノイズ吸収布帛の一態様の断面を拡大した模式図である。図2のノイズ吸収布帛1は、布帛2と、金属加工された金属3とを含み、金属加工された金属3は、布帛2を構成する繊維4の上に形成されている。
なお、図2では、便宜上、繊維の断面を全て真円で表現している。
【0025】
本発明のノイズ吸収布帛は、金属加工された面の表面抵抗率(Ω/□)の常用対数値が、0〜4の範囲内にある。表面抵抗率の常用対数値とは、表面抵抗率をX(Ω/□)とした場合の、log10Xの値を意味する。上記表面抵抗率の常用対数値が0未満であると、導電度が大きすぎ、電磁波が、上記ノイズ吸収布帛の表面、より正確には、金属加工された面のところで大部分が反射され、ノイズ吸収能が劣る。導電度が小さく、電磁波の反射が大きい場合には、電磁波同士の干渉が起こり、ノイズ吸収性が阻害される。
【0026】
一方、上記表面抵抗率の常用対数値が4超であると、電磁波がノイズ吸収布帛を透過し、電磁波の吸収能(捕捉能)が劣る場合がある。上記表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にある場合には、電磁波が本発明のノイズ吸収布帛の内部に適度に進入し、進入した電磁波が金属加工された金属に捕捉され、電気に変換され、さらに電気抵抗により熱エネルギーに変換されるので、ノイズ吸収能が高くなる。上記ノイズ吸収布帛の表面抵抗率の常用対数値は、0.1〜3の範囲内にあることが好ましい。
上記表面抵抗率は、三菱化学社製 低抵抗計Loresta―GP、型式MCP−T600を用い、4端子法で測定することができる。
【0027】
上記ノイズ吸収布帛は、金属が金属加工された面よりも内部の方が、導電度が小さいことが好ましい。金属加工面の導電度よりも内部の導電度を小さくするための例として、本発明のノイズ吸収布帛の内部における金属及び布帛の総量に対する金属の比率を、金属が金属加工された面のものよりも下げることが挙げられる。図3は、本発明のノイズ吸収布帛の導電度の勾配を説明するための図である。図3のノイズ吸収布帛1は、繊維4から形成される布帛2と、金属加工された金属3とを含む。図3では、内部(下方)における金属及び布帛の総量に対する金属の比率が、表面(上方)における、金属及び布帛の総量に対する金属の比率よりも低い。従って、図3のノイズ吸収布帛1は、その表面よりも内部の方が、導電度が小さい。
なお、図3では、便宜上、繊維の断面を全て真円で表現している。また、本明細書において、「導電度」とは、導電性の度合いを意味する。
【0028】
導電度の適度な勾配により、外部から進入した電磁波が、導電度の大きい部分で捕捉され、電流に変換されるが、特に内部ほど導電度が小さい、すなわち、電気抵抗値が大きいことから、電気抵抗により熱エネルギーに変換されやすくなる。これにより、効率よく電磁波を吸収し、ノイズを吸収することができる。
上記導電度の勾配は、例えば、後述の金属蒸着法により達成することができる。
【0029】
上記ノイズ吸収布帛は、上記布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されているが、上記布帛の両面に、金属が金属加工されていてもよい。
当該布帛の両面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛では、少なくとも一方の面において、上記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さいことが好ましく、そして両方の面において、上記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さいことがより好ましい。
【0030】
本発明のノイズ吸収布帛では、基材は、繊維の集合体である布帛である。基材として布帛を採用することにより、より柔軟で、可とう性に富み、電子機器に組み込む場合に、より複雑な形状を採用することができ、電子機器の筐体の中の、集積度の高い電子部品のノイズが発生する箇所に配置することができる。
なお、本明細書において、単に「布帛」と称する場合には、金属が金属加工されていないものを意味し、そして「ノイズ吸収布帛」と称する場合には、金属が金属加工されたものを意味する。
【0031】
また、基材として繊維の集合体である布帛を採用することにより、金属加工された金属が、複数の金属クラスターを含むことができる。図4は、金属クラスターを説明するための図である。図4のノイズ吸収布帛1は、布帛2と、金属加工された金属3とを含み、そして金属加工された金属3は、複数の金属クラスター5から構成されている。金属クラスター5は、それぞれ、電気抵抗値が異なり、スイッチ効果を有する場合もあり、よりノイズ吸収能が高い。
なお、図4では、図3と同様に、繊維の断面を全て真円で表現している。
上記ノイズ吸収布帛の基材として繊維の集合体である布帛を選択することにより、その交絡点はより増加し、より性能を発揮することができるようになる。
【0032】
また、布帛はその表面が平滑ではないので、金属蒸着法等により、一方向から金属を金属加工した場合には、複数の金属クラスターが形成され、ミクロ的に見ると電気抵抗値が場所によって異なる。従って、外部から進入した電磁波が、一定の導電度及び電気抵抗値を有する金属クラスターにより捕捉され、電流に変換され、次いで電気抵抗により熱エネルギーに変換されることにより、そのノイズ吸収性が発揮される。この点が、従来のフィルムやシート等の平滑表面を有するものと大きく異なる点である。すなわち、フィルムやシート等の平滑表面に、金属蒸着法等により金属を金属加工したものは、金属加工された面がより平滑になり、金属本来が有する大きな導電度が発揮されてしまい、すなわち、表面抵抗率の常用対数値が0未満になりやすく、電磁波の反射が生じやすくなる。また、フィルム、シート等は、その表面を不均一に加工すること自体が難しく、不均一に加工する場合には、コストの問題が生じうる。
【0033】
本発明に用いられる布帛は、繊維の集合体であり、繊維同士の交絡点が多く、そしてその表面が不均一である(一方向から見た場合に曲率を有する)ことから、金属蒸着等により金属加工すると、より電気的に不均一な金属クラスターが形成され、一度捕捉された電磁波が、より効率よく電気抵抗により消費されるので、本発明のノイズ吸収布帛は、非常に高いノイズ吸収能を有することができる。
【0034】
本発明に用いられる布帛は、不織布であることが好ましく、そして上記布帛を形成する繊維は、合成長繊維不織布であることが好ましい。
一般的に、織物、編物等の布帛は、繊維が、布帛の縦、横等の方向に配向している比率が高い。この場合、布帛に金属を金属加工することにより形成されたノイズ吸収布帛は、金属も一定の方向に配向し、ノイズ吸収性に一定の方向性を有する。従って、ノイズが一定の方向に由来する場合には、一定方向に配向した繊維を有する布帛、例えば、織物及び編物が好ましい。一方、一般的な電子機器のように、ノイズが種々の方向に由来する場合には、繊維が一定方向に配向していない布帛、例えば、不織布が好ましい。
【0035】
また、繊維が一定方向に配向していない方が、反射が抑制され、より高いノイズ吸収性を発揮できる。従って、本発明に用いられる布帛が不織布である態様は、より好ましい。
また、本発明のノイズ吸収布帛は、電子機器に用いられる場合に、電子部品の形状、回路線路の形状等によって、複雑な形状に打ち抜かれ、電子部品や伝送線路に貼られるか、又は電子部品の筐体に貼られること等により使用されることが多い。織物、編物等では、複雑な形状に打ち抜かれた場合に、打ち抜かれた部分の端部から繊維片が発生する場合がある。上記繊維片は、金属加工された金属を伴う場合があり、短絡し、電子部品の誤操作につながる恐れがある。
【0036】
本発明に用いられる布帛は、熱により形成された布帛であることがより好ましい。バインダーを添加して布帛を製造すると、バインダーが電子機器に移行し、誤作動させる場合がある。従って、上記布帛は、バインダーを用いず、熱により形成された合成長繊維不織布であることが好ましい。一方、布帛を作る工程の合理性の観点からも、熱による形成ができれば、コストをより低減することができるので望ましい。
本発明において、布帛を構成する繊維は、熱により布帛を形成することができる合成繊維が好ましい。また、パルプ、レーヨン繊維等の化学繊維は、その親水性のために、水分を含みやすい場合がある。含まれた水分が再放出されると、電子機器の誤作動につながるため好ましくない。
【0037】
本発明に用いられる布帛を構成する繊維の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(PET、PBT、PTT等)及びその誘導体、N6、N66、N612等のポリアミド系樹脂及びその誘導体、ポリオキシメチレンエーテル系樹脂(POM等)、PEN、PPS、PPO、ポリケトン樹脂及びPEEK等のポリケトン系樹脂、TPI等の熱可塑性ポリイミド樹脂等、並びにこれらの組み合わせから形成された繊維が挙げられる。
【0038】
上記繊維は、本発明のノイズ吸収布帛が適用される環境に応じて、適宜選択することができるが、例えば、以下のように選択することができる。
N6、N66、N612等のポリアミド系樹脂やその誘導体は、吸水率の高い樹脂であるので、他の樹脂と比較して、水分を極端に嫌う電子分内に適用することは避けることが望ましい。半田耐熱性が必要な場合や、電子部品等から出る熱による不具合が起こる可能性がある場合は、すなわち、耐熱性を必要とする電子機器では、PET系樹脂やPPS系樹脂、PEEK系樹脂から形成された繊維を用いることが好ましい。一方、誘電率、tanδ等の電気特性から判断すると、ポリオレフィン樹脂、PET系樹脂、PPS系樹脂、PPO系樹脂、PEEK系樹脂及びフッ素系樹脂が好ましい。
【0039】
上記繊維は、難燃性を有する繊維であることが好ましい。電子部品の安全性の観点から、発火により燃えにくい繊維を採用すべきだからである。
上記繊維の繊維径は、本発明のノイズ吸収布帛が適用される環境により異なるが、一般的には、50μm以下であることが好ましい。均一な繊維間距離を有する布帛を得ることができ、電磁波のもれ、例えば、透過を少なくすることができるからである。また、繊維の強度が高く、金属加工の工程や、使用される環境等において、布帛又はノイズ吸収布帛が切れる可能性が低いので、安定した加工、使用等ができる。
【0040】
本発明のノイズ吸収布帛において、布帛が、7μm以下の繊維径を有する繊維(以下、「極細繊維」と称する場合がある)の層を含むことが好ましい。極細繊維の層を含むことにより、単位体積当りの繊維の本数が増え、繊維の比表面積が大きくなることにより、その結果、金属層の比表面積も大きくなり、ノイズ吸収能がより高くなる。また、極細繊維の層を含むことにより、本発明のノイズ吸収布帛が薄くなるので、軽いこと、薄いこと、短いこと、小さいことを目指す電子機器に好適となる。また、本発明のノイズ吸収布帛が薄くなることにより、シートをしなやかに曲げることができ、同じく、電子機器への装着が簡易になり、よりノイズ吸収能を発揮しやすい。本発明に用いられる布帛は、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含むことが好ましく、そして4μm以下の繊維径を有する繊維の層を含むことがより好ましい。
【0041】
上記極細繊維の繊維径は、0.01μm以上であることが好ましく、そして0.05μm以上であることがより好ましい。
上記極細繊維は、例えば、メルトブロウン法、エレクトロスピニング法等により製造されることが好ましく、そしてメルトブロウン法により製造されることがより好ましい。
また、上述したように、本発明のノイズ吸収布帛において、繊維が一定方向に配向することなく、ランダム配向性を有することが好ましい。
極細繊維から成る布帛の場合には、布帛の強度が低い傾向があるので、極細繊維よりも太い繊維径、すなわち、7μm超の繊維径を有する繊維(以下、「一般繊維」と称する場合がある)を含む布帛と併用することが好ましい場合もある。
【0042】
本発明に用いられる布帛を構成する繊維の断面形状は、特に制限されないが、より不均一な表面を形成するために、異型糸、割繊糸等であることが好ましい。また、同様の目的で、クリンプ糸、撚糸等であることもできる。
本発明に用いられる布帛の引張強さは、特に制限されないが、金属加工の工程、ノイズ吸収布帛を使用する際の取り扱い性等から、10N/3cm以上であることが望ましい。上記引張強さが、10N以上/cmであれば、真空蒸着、スパッタリング等の金属加工の工程で、布帛が切れる、しわがよる等が生じにくく、より効率よく金属加工することができ、さらに使用上も問題ないノイズ吸収布帛を製造することができる。上記引張強さは、20N/3cm以上であることがより好ましい。
なお、上記引張強さは、試験片の幅を3cmとした以外は、JIS−L1906:2000の5.3に従って測定した値を意味する。
【0043】
本発明に用いられる布帛の厚みは、10〜400μmの範囲内にあることが好ましく、15μm〜200μmの範囲内にあることがより好ましい。上記布帛の厚みが10μm未満では、金属加工する際に、適度な強度及び腰を有せず、金属加工しにくい場合があり、そして金属加工する際に、金属が裏抜けし、装置を汚染する場合がある。さらに、打ち抜き加工されたノイズ吸収布帛の強度が弱い場合がある。また、上記布帛の厚みが400μmを超えると、金属加工する際に、腰が過度に強い場合がある。さらに、本発明のノイズ吸収布帛が厚すぎて狭い部分に挿入しにくく、曲げにくく、折りにくく、電子部品に装着しにくくなる場合がある。
上記布帛の厚みは、JIS L−1906:2000に規定の方法に従って、測定することができる。
【0044】
本発明に用いられる布帛の坪量は、7〜300g/m2の範囲内にあることが好ましく、15〜150g/m2の範囲内にあることがより好ましい。坪量が7g/m2未満では、金属加工する際に、金属が裏抜けし、装置を汚染する場合がある。さらに、本発明のノイズ吸収布帛の強度が弱く、加工、打ち抜き等の工程に用いにくくなる場合がある。坪量が300g/m2超であると、本発明のノイズ吸収布帛が過度に重くなる場合がある。坪量が7〜300g/m2の範囲内にある場合には、本発明のノイズ吸収布帛が布形状を保つことができ、取扱い性も良好である。
上記坪量は、JIS L−1906:2000に規定の方法に従って測定することができる。
【0045】
本発明に用いられる布帛は、0.5μm〜5.0mmの平均開孔径を有することが好ましく、0.5μm〜3.0μmの平均開孔径を有することがより好ましい。平均開孔径が0.5μm未満であると、間隙が小さすぎ、金属クラスター間の距離が適度に離れず、電流の流れが阻害されない。また、繊維同士が適度に離れず、すなわち、繊維同士の交絡点が増えず、スイッチング効果によってノイズ吸収性が高くならない。一方、平均開孔径が5mm超であると、間隙が大きすぎ、金属加工する際に、金属を均一に金属加工することができず、目的とする電気抵抗値が得にくい。金属加工する際に設備に不良が起こる場合もある。特に、金属加工のために物理的な蒸着方法を採用した場合には、金属が裏に抜け、設備を汚染しやすい。また、平均開孔径が1mm以下の場合には、繊維同士の交絡点が増すことになり、そのスイッチング効果により、よりノイズ吸収性を高くすることができる。従って、平均開孔径は、0.5μm〜1.0mmであることが、さらに好ましく、0.5μm〜500μmであることがさらに好ましく、そして0.5μm〜200μmであることが最も好ましい。
上記平均開孔径は、実施例に記載される方法により測定することができる。
【0046】
本発明に用いられる布帛において、その製法は特に制限されず、各種製法により製造された布帛を用いることができる。また、上記布帛には、適度な表面構造を有するために、カレンダー処理を行うことがより好ましい。カレンダー加工をすることにより、布帛の表面に、適度な凸凹が形成されるので、金属加工後に、本発明のノイズ吸収布帛が良好な導電性を有することができ、そして適度な表面抵抗値を有することができる。すなわち、繊維の集合体としての布帛が、フィルムほどには均一な表面を有せず、繊維形状を残したままフラット化されるため、金属加工後に、本発明のノイズ吸収布帛が、後述するクラスター構造を有しやすくなり、ノイズ吸収能がより高くなる。
【0047】
本発明において、「金属加工」は、金属を付着させることを意味し、具体的には、布帛上及び/又は布帛内、場合によっては、布帛を構成する繊維内に金属を付着させることができる任意の処理を意味し、例えば、物理的な金属蒸着法(蒸着:EB蒸着、イオンプレーティング、イオンスパッタリング:高周波法、マグネトロン法、対抗ターゲット型マグネトロン法等)、化学的なメッキ法(無電解メッキ、電解メッキ等)等が挙げられる。物理的な金属蒸着法は、金属の微細な粒子が、布帛上に、布帛の表面から吸着され、金属の付着状況を、蒸着条件によりコントロールすることができるので、本発明のノイズ吸収布帛において、表面と内部との導電度の勾配を形成しやすくなる。また、個々の繊維は、その表面に曲率を有することから、粒子の発生源が単一の方向である物理的な金属蒸着法を採用すると、個々の繊維上に、金属の厚さに適度な斑を生じさせやすくなるので好ましい。
【0048】
図5は、金属蒸着方法による、繊維上の金属の粒子の積層状態の一態様を示す模式図である。図5において、向かって上方から物理的な蒸着が行われた場合には、金属の粒子6が、均一化されずに繊維4の上に形成される。この場合、金属加工された金属の、厚みの厚い部分と、厚みの薄い部分とでは、電磁波の捕捉性が異なり、また、電気抵抗の観点から観察すると斑を有することから、捕捉された電磁波が、電流となり、上記部分を流れる際に電気抵抗により熱エネルギーに変わり、ノイズ吸収能が高くなると予測される。
【0049】
一方、上記金属加工のために、メッキ法を用いた場合には、布帛全体に金属がメッキされ、個々の繊維に、かなり均一に金属が積層されることから、導電度の斑を作りにくい。従って、上記金属加工としては、物理的な金属蒸着法がより好ましい。
【0050】
上記金属蒸着方法としては、特に制限されず、任意の方法を選択することができる。例えば、金属を金属加工すべき布帛を、一定の真空度を有する蒸着装置の中に置き、上記布帛を一定のスピードで送り、蒸着源で物理的に蒸着させればよい。例えば、EB蒸着法では、1EV程度のエネルギーで金属を微粒子化させ、これを布帛に物理的に吸着させる。イオンプレーティング法では、希ガスやEV蒸着法より強いエネルギーで蒸着粒子を加速させて物理吸着させることができるので、布帛のより深い方向に金属を蒸着することができる。一方、スパッタリング法では、磁界の影響でよりエネルギー的に高い堆積を行うことができ、布帛の深さ方向ばかりではなく、場合によっては、繊維内に、金属を堆積させることができる。この場合、繊維内にも導電度の勾配ができるので、ノイズ吸収能が高くなる。まとめると、EB蒸着等のマイルドな蒸着方法では、布帛及び繊維へのダメージは少ないが、繊維表面への物理的な吸着強さは弱くなる。一方、スパッタリング等の強い蒸着方法では、布帛及び繊維へのダメージは大きいが、繊維表面への物理的な吸着強度は高くなる。蒸着方法は、本発明のノイズ吸収布帛の用途に応じ、適宜選択することができる。
【0051】
本発明において、上記金属加工される金属は、導電性を有する金属であれば、特に制限されず、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、モリブデン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、銅、銀、金、プラチナ、鉛、錫及びタングステン、SUS等の合金、及びこれらの酸化物及び窒化物等の化合物、並びにそれらの混合物を挙げることができる。
【0052】
アルミニウム、タンタル等の、いわゆる、弁作用を有する金属、すなわち、酸化により、容易に表面のみに酸化皮膜が得られ、容易には金属内部に酸化層が伝播しない金属では、その表面に、導電度が若干小さい、薄い酸化皮膜が形成される。本発明のノイズ吸収布帛において、金属加工すべき金属として、上記弁作用を有する金属を採用すると、その表面及び内部において、微視的な導電度の勾配が形成され、ノイズ吸収能を向上させることができるので好ましい。また、弁作用を有する金属を採用することにより、使用中に金属の酸化が進みすぎることなく、一定の表面抵抗値を維持しやすい。酸化しやすい金属では、当初は良好な表面抵抗値を示すが、使用環境(高湿度、高温環境等)により、より酸化が進行しやすく、表面抵抗値が高くなり、本来の性能を発揮できなくなる恐れがある。また、金、銀、銅等の、導電度が非常に大きく且つ金属加工した後も均一な導電度が得られやすい金属では、金属加工の制御が難しく、フィルム、シート等と同様に、導電度が大きくなる場合がある。
【0053】
一方、本発明において、上記金属加工のために用いられる金属は、強磁性、常磁性又は軟磁性を有していても、又は有していなくともよい。この点が、従来の発明と大きく異なる点であり、本発明は、マクロ的に磁性によるノイズの吸収を目的としたものではなく、導電性によるノイズの吸収を目的としている。例えば、鉄、ニッケルパーマロイ等の金属化合物は、透磁率が高い。このため、従来技術では、これらの金属化合物を中心として、例えば、フェライト、鉄、ニッケル等の金属化合物が主に用いられてきた。従来のノイズ吸収シートでは、これらの軟磁性又は磁性を有する金属化合物の微粒子の性能により、ノイズ吸収能が発揮されていた。このため、透磁率の高さが、その性能を左右する第一の物理指標であった。
【0054】
上記の観点から、後述するが、最終製品として、磁性損失によるノイズ吸収能を発揮させる場合には、磁化率の高い金属を選ぶことが好ましい。磁化率の高い金属としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、及びそれらの酸化物、窒化物等の金属化合物が挙げられる。
【0055】
一方、磁性を嫌う製品の場合は、上記磁化率の高い金属以外の金属、及びその金属化合物が好ましく、特に、磁性を有しない金属、及びその酸化物、窒化物等の金属化合物が好ましい。本発明では、磁化率の高い金属を含む従来技術のノイズ吸収製品と異なり、磁性を嫌う製品にも適用することが可能な、磁性を有しない金属を含むノイズ吸収布帛がより好ましい実施形態となる。
【0056】
本発明に用いられる布帛の製造方法は、特に制限されず、一般的な織物、編物、不織布等を製造する方法により作成されうる。本発明に用いられる布帛が不織布である場合には、合成長繊維の製造方法であるスパンボンド法、メルトブロウン法、フラッシュ紡糸法等が好ましい。また、本発明に用いられる布帛が不織布である場合には、短繊維を用いた抄紙法、乾式法等を用いることもできる。本発明に用いられる布帛が不織布である場合には、合成繊維を用いて不織布を製造する方法がより好ましく、強度が高く、加工がしやすくノイズ吸収布帛を製造することができる。
【0057】
また、本発明に用いられる布帛として、極細繊維から成る不織布の層と、一般的な繊維から成る不織布の層とを積層することにより形成された積層不織布が好ましい。上記極細繊維及び一般的な繊維は、熱可塑性樹脂からなることが好ましく、極細繊維から成る不織布の層と、一般的な繊維から成る不織布の層とを、熱エンボスで一体化することにより、積層不織布の引張強さと曲げ柔軟性とを維持し、耐熱安定性を維持することができる。上記積層不織布として、スパンボンド不織布の層、メルトブロウン不織布の層、及びスパンボンド不織布の層をその順で積層し、次いでエンボスロール又は熱プレスロールで圧着することにより製造されたものが挙げられる。
【0058】
上記積層不織布として、熱可塑性合成樹脂を用いて少なくとも1層以上のスパンボンド不織布の層をコンベア上に紡糸し、その上に熱可塑性合成樹脂を用いてメルトブロウン法で、繊維径0.01〜7μmの極細繊維の不織布の層を少なくとも1層以上吹き付ける。その後、エンボスロール又はフラットロールを用いて圧着することにより一体化することにより製造された積層不織布が好ましい。
さらに、熱圧着前にメルトブロウン不織布の上に熱可塑性合成樹脂を用いた熱可塑性合成長繊維不織布を少なくとも1層以上積層し、次いで、エンボスロール又はフラットロールを用いて圧着することにより一体化することにより製造された積層不織布がより好ましい。
【0059】
上記積層不織布では、熱可塑性合成長繊維の不織布の層の上に、メルトブロウン法による極細繊維の不織布の層が直接吹き付けられているので、メルトブロウン法による極細繊維を、熱可塑性合成長繊維の不織布の層内に侵入させることができ、熱可塑性合成長繊維の不織布の層の繊維間隙を埋めることができる。このようにすれば、メルトブロウン法により極細繊維が熱可塑性合成長繊維の不織布内に侵入して固定されるため、積層不織布の構造自体の強度が向上するだけでなく、極細繊維の不織布の層の外力による移動が生じにくくなるので層間剥離しにくくなる。上記積層不織布の製法は、国際公開第2004/94136号パンフレット、国際公開第2010/126109号等に開示されている。
【0060】
スパンボンド不織布層、メルトブロウン不織布層を積層した積層不織布の場合には、3層の積層不織布、及び2層の積層不織布ともに、スパンボンド不織布層の坪量が上下合わせて1.0〜270g/m2であり、メルトブロウン不織布層の坪量が0.3〜270g/m2であり、そして全体の坪量が7〜300g/m2であることが好ましい。スパンボンド不織布層の坪量が上下合わせて3.0〜100g/m2であり、メルトブロウン不織布層の坪量が0.5〜120g/m2であり、そして全体の坪量が15〜150g/m2であることがより好ましい。
また、スパンボンド不織布層の繊維の繊維径は、好ましくは4μm〜50μm、より好ましくは5〜40μm、そしてさらに好ましくは6〜35μmである。
メルトブロウン不織布層の繊維径は、好ましくは7μm以下、より好ましくは4μm以下である。メルトブロウン不織布層の繊維径は、好ましくは0.01μm以上、そしてより好ましくは0.05μm以上である。
【0061】
本発明のノイズ吸収布帛のノイズ吸収能は、前述の従来技術とは明らかに思想が異なり、本発明のノイズ吸収布帛は、透磁率は高くなくても、極言すれば、一般的な透磁率の値をほとんど有しなくとも、高いノイズ吸収能を発揮することができる。本発明のノイズ吸収布帛は、導電度の勾配により、ノイズ吸収能を発揮する。上述のように、極細繊維を含む布帛の表面に、所望の金属加工をすることにより、金属加工された面の面積がより大きくなり、ノイズ吸収能が高くなる。
【0062】
また、ノイズとなる電磁波は、大きく分けると、電界成分と、磁界成分とに分けることができ、(近傍界と遠方界とでは、その機構は若干異なるが)、本発明のノイズ吸収布帛は、特に、電界成分に対して効果を発揮する。即ち、本発明のノイズ吸収布帛は、導電性損失により、ノイズ吸収能を発揮すると考えられる。一方、軟磁性体等を練り込んだ、磁性を有する布帛では、磁性損失により、ノイズ吸収性を発揮すると考えられる。ただし、ノイズとなる電磁波において、電界成分と磁界成分とは、表裏一体のものであるため、どちらかに効果を発揮すれば、全体的にノイズ吸収能は高くなる。
【0063】
本発明のノイズ吸収布帛において、磁性を有しない金属を用いることによる利点として、下記の事項が挙げられる。例えば、近年電子機器に使用されている装置として、磁気センサー、電子コンパス、CD、DVD等が挙げられる。磁気センサー及び電子コンパスでは、磁性を有する金属を含むものは併用できない。また、CD、DVD等の磁気により記憶媒体から情報を読み書きする装置(ピックアップ装置)では、磁気の有無により記憶がなされ、これを読み取るピックアップ装置では、ほとんどが磁気の読み取りを行っているので、これらの装置では、磁性を有する金属が近傍にあると、読み取り不良を起こしやすくなる。このため、近年使用されている、軟磁性体粒子、磁性体粒子等を含むノイズ吸収シートは、これらの装置には、用いることができなかったが、磁性を有しない金属を含むノイズ吸収布帛は、上記装置に用いられうる。
【0064】
ただし、本明細書では、磁性体によるノイズ吸収能を否定するものではなく、当然ながら、表面抵抗率が所定の範囲内にあれば、磁性体のノイズ吸収能と組み合わせて、より高いノイズ吸収能を発揮させることができる。例えば、磁性によるノイズが発生する部分では、磁性を有する金属を金属加工することで、本発明のノイズ吸収布帛をより高性能化することができる。また、本発明のノイズ吸収布帛が、軟磁性体を含む磁性シートを含むこともできる。
【0065】
本発明において、金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあれば、上記金属の厚さは、特に制限されないが、一般的に、上記金属の厚さは、2〜400nmの範囲内にあることが好ましく、5〜200nmの範囲にあることがより好ましい。上記金属の厚さが2nm未満であると、導電度が上述の範囲から外れやすい場合がある。すなわち、金属加工する際に、金属が形成されない部分が残り、表面抵抗率の常用対数値が4超となる場合がある。一方、上記金属の厚さが400nm超であると、上記金属の厚さが過度であり、電流が過度に流れる場合がある。すなわち、上記金属の厚さが過度であると、均一な層が形成され、繊維の間が埋まり、繊維同士の間隙がほとんどなくなり、スイッチング効果によるノイズ吸収能が低下しやすい。
なお、本明細書において、上記金属の厚さは、SEM写真画像等により測定できる。
【0066】
本発明のノイズ吸収布帛において、上記金属加工された金属が、複数の金属クラスターを含む場合には、当該金属クラスターは、2〜200nmの長径の相加平均値を有することが好ましく、5nm〜100nmの長径の相加平均値を有することがより好ましい。上記金属加工された金属が、不連続な、金属クラスターを有することにより、各金属クラスター間に導電度の勾配が生じやすくなる。金属クラスターの長径の相加平均値が2nm以上であれば、より効率よくノイズを吸収できる。また、金属クラスターの長径の相加平均値が200nm以下であれば、上記金属加工された金属の均一化が過度に促進されず、良好な導電度の勾配を形成することができる。極細繊維を含むノイズ吸収布帛では、上記クラスター構造を作りやすいため、より高いノイズ吸収能を示すことができる。
上記長径は、SEM型電子顕微鏡の画像から測定することができる。
【0067】
本発明のノイズ吸収布帛には、その片面又は両面に、電子機器等に実用化するために、以下の処理を行うことができる。例えば、短絡を防止するために、絶縁処理することができる。具体的には、樹脂のコーティング、樹脂のラミネート、絶縁フィルムの張り合わせ等を行うことができる。また、電子機器に張り合わせるために粘着性を付与するための処理、電子機器の筐体にセットするためのビス、ねじ穴等の設置等を行うことができる。電子機器に張り合わせるために粘着性を付与するための処理は、電子機器への固定がより簡易になるので好ましい。
【0068】
本発明のノイズ吸収布帛は、下記に示すように、電子機器等に適用して、ノイズを吸収させることができる。例えば、LSI等の電子部品に貼り付けることができ、ガラスエポキシ基盤、FPC等の回路又はその裏面に貼り付けることができ、回路上の電送線路上、電子部品が回路に装着される部位等に貼り付けることができ、コネクター部分、コネクターから、他の装置、部品等とつなげるケーブル等に貼り付けることができ、電子部品・装置を入れる筐体、保持体等の裏又は表に貼り付けることができ、又は電源線、伝送線等のケーブルに巻きつけることができる。
【0069】
また、使いやすさを考慮し、所望により、上記電子機器等に張り合わせるための粘着層(ホットメルト接着剤、一般的な粘着剤等)を、表又は裏に設けることができ、そして絶縁性が必要な場合に、上記電子機器等の表又は裏に、電気絶縁層(フィルムを貼り合わせる、ポリマーラミネート層を設けることができ、他の絶縁性材料と組み合わせる等により、電気絶縁層を形成することができる)を設けることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
測定方法及び評価方法は次の通りである。
【0071】
[(1)マイクロストリップライン(MSL)法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロストリップライン法で測定した。図6に示すように、50Ωのインピーダンスを有するマイクロストリップラインフィクチャー7(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー9(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料8の大きさは、5cm×5cmであり、これをマイクロストリップラインフィクチャー7上に置いて測定した。なお、図6において、符号10は、マイクロストリップラインを示す。
Sパラメーターの反射減衰量(S11)と、透過減衰量(S21)とを各周波数で測定し、次の式(1)からロス率を算出した。
ロス率(Ploss/Pin)=1−(S112+S212)/1 式(1)
【0072】
[(2)表面抵抗率]
三菱化学社製 低抵抗計Loresta―GP、型式MCP−T600を用い、4端子法で測定した。測定は、n=3とし、その平均値を用いた。
【0073】
[(3)ループアンテナA法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロループアンテナ法で測定した。図11に示すように、2つのマイクロループアンテナ11を有するマイクロループアンテナフィクスチャー12(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー9(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料8の大きさは、5cm×5cmであり、これを2つのマイクロループアンテナ11の上に置いて、結合減衰量を測定した。
【0074】
[(4)ループアンテナB法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロループアンテナ法で測定した。図12に示すように、2つのマイクロループアンテナ11を有するマイクロループアンテナフィクスチャー12(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー9(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料8の大きさは、5cm×5cmであり、これを2つのマイクロループアンテナ11の間に置いて、透過減衰量を測定した。
【0075】
[(5)ノイズ吸収性可視化装置(磁界強度測定)]
(株)ノイズ研究所製、プリント基板電磁波解析システム(型式:ESV−3000)を用いて測定した。測定におけるプリント基盤は、ノイズ研究所製のデモ基板を用いた。測定プローブは、ノイズ研究所製垂直磁界プローブを用いた。測定周波数は100〜400MHzとし、各測定ポイントにおける、その周波数範囲内でのピーク磁界強度の値をマッピングした。試料の大きさは、8cm×8cmであり、試料をデモ基板に貼付ける前と後との磁界強度の差異から、磁界強度減衰量を観測した。
【0076】
[(6)ノイズ吸収性可視化装置(電界強度測定)]
(株)ノイズ研究所製、プリント基板電磁波解析システム(型式:ESV−3000)を用いて測定した。測定におけるプリント基盤は、ノイズ研究所製のデモ基板を用いた。測定プローブは、ノイズ研究所製垂直磁界プローブを用いた。測定周波数は250〜700MHzとし、各測定ポイントにおける、その周波数範囲内でのピーク電界強度の値をマッピングした。試料の大きさは、8cm×8cmであり、試料をデモ基板に貼付ける前と後との電界強度の差異から、電界強度減衰量を観測した。
【0077】
[(7)透磁率測定法]
薄膜透磁率測定システム(凌和電子社製 型式PMF−3000)を用いて測定した。試料を固定するために、PET樹脂シートに両面テープ(ニチバン製 NW−5)で貼り付けて測定した。測定は、n=3とし、その平均値を用いた。
【0078】
[(8)平均開孔径(μm)]
PMI社のパームポロメーター(型式:CFP−1200AEX)を用いた。浸液にPMI社製のシルウィックを用い、試料を浸液に浸して充分に脱気し、測定した。
本測定装置は、フィルターを、あらかじめ表面張力が既知の液体に浸し、フィルターの全ての細孔を液体の膜で覆った状態からフィルターに圧力をかけ、液膜の破壊される圧力と液体の表面張力から計算された細孔の孔径を測定する。平均開孔径の算出には次の式(2)を用いた。
d=C×r/P 式(2)
(式中、d(単位:μm)はフィルターの開孔径であり、r(単位:N/m)は液体の表面張力であり、P(単位:Pa)はその孔径の液膜が破壊される圧力であり、そしてCは定数である。)
【0079】
液体に浸したフィルターにかける圧力Pを、低圧から高圧に連続的に変化させた場合の流量(濡れ流量)を測定すると、初期の圧力では最も大きな細孔の液膜でも破壊されないので、流量は0である。圧力を上げていくと、最も大きな細孔の液膜が破壊され、流量が発生する(バブルポイント)。さらに圧力を上げていくと、各圧力に応じて流量は増加し、最も小さな細孔の液膜が破壊され、乾いた状態の流量(乾き流量)と一致する。
【0080】
本測定装置では、ある圧力における濡れ流量を、同圧力での乾き流量で割った値を累積フィルター流量(単位:%)と称する。また、累積フィルター流量が50%となる圧力で破壊される液膜の孔径を、平均流量孔径と称し、これを本発明に用いられる布帛の平均開孔径とした。
本明細書において、最大孔径は、布帛をフィルターとして測定し、累積フィルター流量が50%の−2σの範囲、すなわち、累積フィルター流量が2.3%となる圧力で破壊される液膜の孔径とした。
【0081】
[(9)布帛の坪量]
布帛の坪量は、JIS L−1906:2000に規定の方法に従い、縦20cm×横25cmの試料を、試料の幅1m当たり3箇採取して質量を測定し、その平均値を単位面積当たりの質量に換算して求めた。
【0082】
[(10)布帛の厚み]
JIS L−1906:2000に規定の方法に従い、幅1m当たり10箇所の厚みを測定し、その平均値を布帛の厚みとした。荷重は9.8kPaで行った。
【0083】
[(11)繊維の径]
平均繊維径(μm):電子顕微鏡写真から、任意に繊維をピックアップし、それらの直径を写真から読み取ることにより求めた。値は、n=50の相加平均値である。
【0084】
[(12)金属の厚み]
SEM型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SEM 型式S−4800)を用い、SEM写真画像により求めた。また、金属クラスターの長径も、SEM写真画像により求めた。各値は、n=30の相加平均値を採用した。
【0085】
[(13)貼り合わせモデル試験]
5cm×5cmの試料の片面全面に両面テープを貼付した。次いで、両面テープの残りの面を、卓球で用いるピンポン玉の半球に貼付し、その状態及び貼付しやすさを、次のように判定した。
◎:貼付しやすく、貼付した状態にも不具合が観察されなかった。
○:貼付しやすいが、一部試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
△:貼付できるが、全体的に試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
×:非常に貼付しにくく、全体的に試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
【0086】
[実施例1〜38]
以下の方法により、実施例1〜38のノイズ吸収布帛を製造し、ノイズ吸収能を評価した。実施例1〜3、11〜13及び15では、旭化成せんい製のポリエステル樹脂によるスパンボンド不織布(E05050)を、布帛として用いた。蒸着は、真空蒸着装置と、熱源としてのニラコ製スタンダートボード(型式:SF−106 タングステン)とを用いて実施した。真空度5×10-5torrで、印加電圧5V、蒸着時間180秒を基本条件とした。
【0087】
上記条件を金属加工の基本条件とし、金属加工される金属の量を変化させるために、真空度、蒸着源への熱量(場合によっては、熱源への電気量)、及び蒸着時間を制御し、本発明の範囲に含まれる表面抵抗率の常用対数値を有するように調整した。一般的に、金属加工される金属が決まっている場合には、例えば、蒸着時間を変化させることにより、金属加工された金属の量を簡便に調整することができる。例えば、金属加工される金属の量を少なくする場合は、蒸着時間を低減させることができ、そして金属加工される金属の量を増す場合には、蒸着時間を増加させることができる。
【0088】
各実施例における条件を表1に示し、以下に補足する。なお、実施例1〜12及び17〜23のノイズ吸収布帛の透磁率に関して、μ’の平均値が、0.5〜6GHzの範囲において、おおよそ1.0であり、そしてμ’’の平均値が、0.5〜6GHzの範囲で、おおよそ0.0であった。
【0089】
実施例2及び3では、実施例1と蒸着時間を変え、金属の厚みを変化させた。
実施例4〜10及び17〜23では、布帛を以下に示すように変更した以外は、実施例1に従った。
実施例4:PU5040(素材:ポリプロピレン、旭化成せんい製)
実施例5:N05050(素材:ナイロン6、旭化成せんい製)
実施例6、14及び16:プレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例7:プレシゼAS080(素材:PET、旭化成せんい製)
プレシゼAS030、AS080は、表1に示すような、一般繊維としてのスパンボンド不織布の層と、極細繊維としてのメルトブロウン不織布の層と、スパンボンド不織布の層とがその順で積層された積層不織布である。
実施例8、9,10では、それぞれ、繊維径、坪量及び厚みが異なる下記の布帛を用いた以外は、実施例1に従った。
E05020、E05030、E05120(素材:PET、旭化成せんい製)
【0090】
実施例17:短繊維不織布(湿式不織布:ピュアリ040BC 素材:PET 阿波製紙社製)
実施例18:短繊維不織布(スパンレース不織布 ソンタラ8005 素材:PET デュポン社製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例19:タイベック(素材:ポリエチレン、DAFS社製)
実施例20:短繊維不織布:ユニセル メルフィット BT030EW(帝人製)
実施例21:メルトブロウン不織布:E3008(素材:PET、旭化成せんい製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例22及び23:エステル糸によるタフタを使用した。
【0091】
実施例11及び12:実施例11において、蒸着の印加電圧を7.5Vとし、そして実施例12において、蒸着の印加電圧を10Vにした以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収布帛を形成した。
【0092】
実施例13及び14:実施例13において、金属をAgに変更した以外は、実施例1に従った。実施例14において、布帛としてプレシゼAS030を用い、そして金属をAgに変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収布帛を形成した。
実施例15及び16:実施例15において、金属をNiに変更した以外は、実施例1に従った。実施例16において、布帛としてプレシゼAS030を用い、そして金属をNiに変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収布帛を形成した。
【0093】
実施例24:汎用的なポリエチレンテレフタレートをスパンボンド法により、紡糸温度300℃でフィラメントの長繊維群を移動捕集面に向けて押し出し、紡糸速度3500m/分で紡糸し、コロナ帯電で3μC/g程度帯電させて充分に開繊させて、平均繊径11μmフィラメントからなる5cm変動率15%以下の均一性を有する未結合長繊維ウェブ(以下、「ウェブ層A」と称する場合がある)を、坪量:約7.5g/m2で、捕集ネット面上に形成させた。
【0094】
次に、ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度ηsp/c 0.50)を、紡糸温度300℃、加熱エア温度320℃、吐出エア1000Nm3/hr/mの条件下で、メルトブロウン法にて紡糸して、平均繊維径1.7μmの極細繊維を、坪量:約5g/m2のランダムウェブ(以下、「ウェブ層B」と称する場合がある)として、ウェブ層Aに向けて直に噴出させた。メルトブロウンノズルからウェブ層Aの上面までの距離は、100mmとし、メルトブロウンノズル直下の捕集面における吸引を0.2kPa、そして風速を約7m/secに設定した。
【0095】
ウェブ層Bの、ウェブ層Aと反対側の面に、ポリエチレンテレフタレートの長繊維ウェブを、最初に調製したウェブ層Aと同様に開繊して、ウェブ層A/ウェブ層B/ウェブ層Aの3層の積層ウェブを調製した。
次いで、上記3層の積層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、不織布層A/不織布層B/不織布層Aの3層の積層不織布を得て、そして最初に形成されたウェブ層Aに由来する不織布層Aの上に、金属を金属加工することにより、ノイズ吸収布帛を形成した。
樹脂の押出量を変える以外は、同様の工程を経て、異なった繊維径を有する積層不織布を含むノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の組成及び繊維径を表1に示す。
実施例25〜27:表1に示すように厚み、坪量、及び繊維径を変えた以外は、実施例24と同様に作成した。
【0096】
実施例28及び29:実施例24と同様にして、ウェブ層Aとウェブ層Bとの2層の積層ウェブを形成した後、2層の積層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、ウェブ層Aに由来する不織布層Aと、ウェブ層Bに由来する不織布層Bとを有する2層の積層不織布を得て、そして不織布層Bに金属加工を実施することによりノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の性状を、表1に示す。
【0097】
実施例30〜32:ウェブ層Aを形成せず、ウェブ層Bを形成する際の樹脂の押出量を変え、繊維径を変化させた以外は、実施例24と同様にして、メルトブロウン法による不織布層Bを含むノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の性状を、表1に示す。
実施例33及び34:ウェブ層Bを形成せず、ウェブ層Aを形成する際の樹脂の押出量を変え、繊維径を変化させた以外は、実施例24と同様にして、スパンボンド法による不織布層Aを含むノイズ吸収布帛を形成した。得られたノイズ吸収布帛の性状を、表1に示す。
【0098】
実施例35〜38:プレシゼAS030の上に、Finetex Technology Global Limited社製の、エレクトロスピニング法(ELSP)により形成された、極細繊維から成る不織布をさらに重ね合わせ、積層不織布を形成し、そして極細繊維から成る不織布側に、金属を金属加工することにより、積層型のノイズ吸収布帛を形成した。ELSPの坪量は、2g/m2又は1g/m2とした。上記極細繊維の素材は、実施例35及び36ではナイロン6であり、そして実施例37及び38ではPVDFであった。
なお、実施例24〜37は、実施例1と同様に実施した。
【0099】
[比較例1〜4]
金属加工される金属種、及び金属の厚さを変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収基材を製造した。
【0100】
[比較例5〜8]
布帛をフィルムに変更し、さらに、金属加工される金属種、及び金属の厚さを変更した以外は、実施例1に従って、ノイズ吸収基材を製造した。
なお、比較例5〜7では、上記フィルムとして帝人テトロンフィルム(型式G2:16μm、型式S:188μm)が用いられ、そして比較例8では、上記フィルムとして、東レ・デュポン社製型式Hタイプ:25μmが用いられた。
【0101】
[比較例9]
ノイズ吸収基材として、市販の製品(バスタレイド 型式R4N)を評価した。
実施例1〜38の結果を表1に、そして比較例1〜9の結果を表2にまとめる。さらに、実施例1、実施例4、実施例6及び比較例6のマイクロストリップライン法の測定結果を、図7〜10に示す。
【0102】
実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材の、ループアンテナA法による結合減衰量を、それぞれ、図13及び14に示す。また、実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材の、ループアンテナB法による透過減衰量を、それぞれ、図15及び16に示す。ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による磁界強度マッピングの結果を図17に示し、そして実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、磁界強度マッピングの結果を、それぞれ、図18及び19に示す。また、ノイズ吸収布帛を貼付ける前のデモ基板の、ノイズ吸収性可視化装置による電界強度マッピングの結果を図20に示し、そして実施例6のノイズ吸収布帛及び比較例6のノイズ吸収基材を貼付けた後のデモ基板の、電界強度マッピングの結果を、それぞれ、図21及び22に示す。
これらの結果から、本発明のノイズ吸収布帛のノイズ吸収能は、磁界抑制効果よりも、電界抑制効果によるところが大きいことが示唆される。
なお、図17〜22において、符号13は、デモ基板を意味する。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のノイズ吸収布帛は、電子機器に装着されるノイズ吸収物品に好適に利用される。例えば、電子機器の筐体に取り付け、電子部品や伝送線路の上に貼り付け等により用いることができる。
【符号の説明】
【0108】
1 ノイズ吸収布帛
2 布帛
3 金属加工された金属
4 繊維
5 金属クラスター
6 金属の粒子
7 マイクロストリップラインフィクチャー
8 試料
9 ネットワークアナライザー
10 マイクロストリップライン
11 マイクロループアンテナ
12 マイクロループアンテナフィクスチャー
13 デモ基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、
金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする、
前記ノイズ吸収布帛。
【請求項2】
前記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さい、請求項1に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項3】
前記布帛が、合成長繊維から成る不織布である、請求項1又は2に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項4】
前記布帛が、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項5】
前記金属が、金属蒸着法により金属加工された、請求項1〜4のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項6】
前記金属の厚さが2〜400nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項7】
前記布帛の厚みが10〜400μmであり且つ坪量が7〜300g/m2である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項8】
前記布帛が、カレンダー加工された、請求項1〜7のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項9】
前記布帛の平均開孔径が0.5μm〜5.0mmである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項10】
前記金属が、一又は複数の、磁性を有しない金属である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項11】
前記金属が、一又は複数の、弁作用を有する金属を蒸着することにより金属加工された、請求項1〜9のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛を含むノイズ吸収物品。
【請求項1】
布帛の少なくとも一方の面に、金属が金属加工されたノイズ吸収布帛であって、
金属加工された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする、
前記ノイズ吸収布帛。
【請求項2】
前記金属が金属加工された面における導電度よりも、内部における導電度が小さい、請求項1に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項3】
前記布帛が、合成長繊維から成る不織布である、請求項1又は2に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項4】
前記布帛が、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項5】
前記金属が、金属蒸着法により金属加工された、請求項1〜4のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項6】
前記金属の厚さが2〜400nmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項7】
前記布帛の厚みが10〜400μmであり且つ坪量が7〜300g/m2である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項8】
前記布帛が、カレンダー加工された、請求項1〜7のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項9】
前記布帛の平均開孔径が0.5μm〜5.0mmである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項10】
前記金属が、一又は複数の、磁性を有しない金属である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項11】
前記金属が、一又は複数の、弁作用を有する金属を蒸着することにより金属加工された、請求項1〜9のいずれか1つに記載のノイズ吸収布帛。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛を含むノイズ吸収物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−146696(P2011−146696A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279491(P2010−279491)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】
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