説明

ノイズ吸収布帛

【課題】電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れたノイズ吸収布帛を提供する。
【解決手段】布帛2の繊維に、導電性ポリマー3が付着しているノイズ吸収布帛1であって、前記ノイズ吸収布帛1の少なくとも1面の表面抵抗率の常用対数値を、0〜4の範囲に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛の繊維に、導電性ポリマーが付着し、特定の表面抵抗率を有するノイズ吸収布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、大画面テレビ等の電子機器、携帯電話、無線LAN等の無線通信機器等の本格的な普及によって、取り扱われる情報量が顕著に増大している。このため、これらの電子機器及び無線通信機器は、より高容量化、高集積化、高速通信化され、増大する情報量をより早く処理し、より効率よく伝送する要求がますます増えてきている。これらの要求を満たすために、LSIのクロック周波数及び電子機器で使われる伝送周波数は、より高周波側にシフトし、かつ通信機器の利用周波数もより高くなっている。
【0003】
利用周波数が高くなったことにより、電子機器から発生するノイズにより他の機器に動作不良が生じやすくなること、通信機器で利用される電波との干渉により、電子機器、通信等に不具合が生じやすくなること等が報告されている。
このため、電子部品、伝送線路等に対し、また通信システムに対し、電磁波の干渉を防ぐ目的で、いわゆるEMC対策として、電子機器から発生するノイズを吸収するノイズ吸収体の必要性が高まってきている。
【0004】
さらに、ユビキタス社会に移行し、モバイル型のパソコンが増え、携帯電話も、より小型化及び高性能化してきている。従って、小型化及び軽量化可能なデバイス、素材等が望まれている。
【0005】
特許文献1及び2には、軟磁性体が樹脂中に分散されたノイズ吸収シートが開示され、実用化されている。上記ノイズ吸収シートが性能を発現する原理は、樹脂中に分散させた軟磁性体が、電磁波を捕捉して磁性的に分極し、その際の磁性損失により電磁波が熱エネルギーに変換されるものである。上記軟磁性体は粉末であるため、樹脂中に混錬し、分散させる必要があるが、軟磁性体は硬度の高い粉末であるため、より高濃度で均一に、樹脂中に分散させることは難しい。また、製造されたシートは、ロールに巻き取ることが難しいため、電子デバイス等の連続生産に適していなかった。
【0006】
さらに、上記ノイズ吸収シートは、高比重の軟磁性体粉末を分散させたシートであるため、厚みも厚く、狭い場所に組み込むことが難しかった。また、上記ノイズ吸収シートのマトリックス樹脂は、使い勝手を考慮してゴム状物質が選択されてはいるが、曲率が高い場所に組み込むこと、及び折り曲げて使用することは難しかった。
【0007】
さらに、より高周波数に対応するために、軟磁性体の組成及び構造を複雑化させた粉体をノイズ吸収シートに用いることが知られている。例えば、軟磁性体の原料としてレアメタル及び/又は微少元素を用い、より複雑な化合物とすることにより、磁性を制御することも試みられているが、コストの問題が生じうる。針状、鱗片状等の軟磁性体を用いて軟磁性体の分極を高くすることも試みられているが、軟磁性体の濃度を高くし、均一なシートにすることは非常に難しく、コスト及び取扱い性に問題があった。
【0008】
また、軟磁性体が樹脂中に分散されたノイズ吸収シートは、特定の周波数のノイズを吸収するが、広帯域のノイズを吸収することは難しい。このため、種々の周波数に対して効果を発揮する粒子を混合し、シート化する検討もなされているが、シート化するためには、添加しうる粒子の量に限界があり、広帯域でノイズ吸収能を発揮することは難しかった。
【0009】
特許文献3及び4には、樹脂シートの表面に、軟磁性体又は金属が加工されたノイズ吸収シートが開示されている。しかし、上記ノイズ吸収シートは、樹脂シート、フィルム状材料の上に、軟磁性体又は金属が蒸着されているため、表面が平滑であり、より高性能化することが難しかった。従って、高性能化するために、機能を分割し、複層化し、積層化することも試みられているが、高性能化は難しく、さらに厚く使いにくいものであった。
【0010】
特許文献5及び6には、それぞれ、シート状複合磁性体及びノイズ吸収体が開示されている。しかし、特許文献5及び6に記載の物品は、いずれも平滑な表面を有するので、金属自体が有する導電性のために、電磁波の反射が強くなり、電磁波の吸収が阻害されるものであった。
特許文献3〜6に示すように、フィルム、シート等の平滑面に、磁性材料又は金属材料の層を形成すると、磁性材料又は金属材料の層が平滑になり、磁性材料又は金属材料が本来有する導電性が顕在化し、その大きな導電度により、電磁波が反射される。これらは、ノイズを吸収するよりはむしろ、電磁波の共鳴により、ノイズを増幅させるものであった。
【0011】
特許文献7には、導電性繊維を含有する層と、磁性材料を含有する層とが積層されているノイズ吸収シートが開示されている。しかし、特許文献7のノイズ吸収シートでは、ノイズ吸収能は、主に磁性材料に起因し、導電性繊維がノイズ吸収能を有するか否かは明らかではなかった。さらに、導電性繊維の割合が多く導電度が過度に大きい領域では、電磁波の反射が強くなり、吸収能が阻害される問題があった。
【0012】
また、特許文献8には、特許文献1又は2に開示されている軟磁性体の代わりに、導電性繊維を樹脂中に分散させたノイズ抑制シートが記載されている。しかし、特許文献8に用いられている導電性繊維は、一般的な材料であって、ノイズ吸収能を有するものではない。すなわち、導電性繊維をあたかも針状の軟磁性体の代替として樹脂中に分散させているため、そのノイズ吸収能は、特許文献1にあるような軟磁性体の樹脂分散シート製品には及ばなかった。また、作動原理も解明されておらず、ノイズ吸収能が全く発揮されないもの、電磁波の反射が過度に強いもの等、ノイズ吸収シートとして実用性を有するものではなかった。
【0013】
さらに、特許文献9には、繊維シートにポリピロール又はポリチオフェンをコーティングさせた電波吸収体が提案されているが、シートを複数層重ねる、金属箔を積層する等により、電磁波の反射減衰量(S11)が大きく、吸収能が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−93034号
【特許文献2】特開2005−251918号
【特許文献3】特開2005−101474号
【特許文献4】特開2006−93414号
【特許文献5】特開2006−60008号
【特許文献6】特開2006−295101号
【特許文献7】特開2008−186997号
【特許文献8】特開2008−118116号
【特許文献9】特開2010−80911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、従来のノイズ吸収物品は、使い勝手、ノイズ吸収能等に問題を有するものであった。
従って、本発明は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。また、そのノイズ吸収効果は、より広帯域に有効なノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
本発明はまた、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能であるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、布帛の繊維に、導電性ポリマーが付着しているノイズ吸収布帛であって、上記ノイズ吸収布帛の少なくとも1面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲にあることを特徴とするノイズ吸収布帛により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
【0017】
[態様1]
布帛の繊維に、導電性ポリマーが付着しているノイズ吸収布帛であって、
上記ノイズ吸収布帛の少なくとも1面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲にあることを特徴とする、
上記ノイズ吸収布帛。
【0018】
[態様2]
導電性ポリマーの溶液を布帛にコーティングするか、又は導電性ポリマーの前駆体を布帛にコーティングし、上記前駆体を重合することにより形成された、態様1に記載のノイズ吸収布帛。
[態様3]
上記布帛が、合成長繊維から成る不織布である、態様1又は2に記載のノイズ吸収布帛。
【0019】
[態様4]
上記布帛が、7.0μm以下の繊維径を有する繊維を含む、態様1〜3のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様5]
上記布帛が、第1層及び第2層の、少なくとも2つの層を有する積層された布帛であり、第1層が、10〜50μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層であり、第2層が、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層である、態様1〜4のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
【0020】
[態様6]
上記布帛が、第1層、第2層及び第3層の、少なくとも3つの層を、その順番で有する積層された布帛であり、第1層及び第3層が、10〜50μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層であり、第2層が、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層である、態様1〜5のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
【0021】
[態様7]
上記布帛が、10〜50μmの繊維径を有する繊維と、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維とが混合された布帛である、態様1〜4のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様8]
上記布帛の厚みが10〜200μmであり且つ坪量が7〜150g/m2である、態様1〜7のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
【0022】
[態様9]
カレンダー加工された、態様1〜8のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様10]
1GHzにおける反射減衰量(S11)が、0.2以下である、態様1〜9のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
【0023】
[態様11]
平均開孔径が0.5μm〜5.0mmである、態様1〜10のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
[態様12]
上記導電性ポリマーが、アニリン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、及びピロール系ポリマーから成る群から選択される、態様1〜11のいずれか一つに記載のノイズ吸収布帛。
【発明の効果】
【0024】
本発明のノイズ吸収布帛は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れる。また広帯域のノイズに効果がある。
本発明のノイズ吸収布帛はまた、柔らかく、柔軟性に富み且つ薄く、電子部品、筐体等の入り組んだ部分に、曲げる、折る等により組み込むことができる。
さらに、本発明のノイズ吸収布帛は、高価な軟磁性体を用いることなく、簡易に且つ安定して生産でき、安価且つ高性能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のノイズ吸収布帛の断面の模式図である。
【図2】図2は、本発明のノイズ吸収布帛の実施形態の1つの断面を拡大した模式図である。
【図3】図3は、本発明のノイズ吸収布帛の導電度の、厚さ方向の勾配を説明するための図である。
【図4】図4は、導電性ポリマーのクラスターを説明するための、ノイズ吸収布帛の断面図である。
【図5】図5は、グラビア印刷法により形成された、繊維上の導電性ポリマーを示す模式図である。
【図6】図6は、マイクロストリップライン法を説明するための図である。
【図7】図7は、実施例1で得られたノイズ吸収布帛1のマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例18で得られたノイズ吸収布帛18のマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例25で得られたノイズ吸収布帛25のマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【図10】図10は、比較例1で得られた比較用シート1のマイクロストリップライン法による測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のノイズ吸収布帛について具体的に説明する。
本発明のノイズ吸収布帛は、布帛の繊維に、導電性ポリマーが付着している。
図1は、本発明のノイズ吸収布帛の断面の模式図である。図1に示されるノイズ吸収布帛1は、布帛2と、布帛に付着している導電性ポリマー3とを含む。
【0027】
図2は、本発明のノイズ吸収布帛の実施形態の1つの断面を拡大した模式図である。図2に示されるノイズ吸収布帛1は、布帛2と、導電性ポリマー3とを含み、導電性ポリマー3は、布帛2を構成する繊維4に付着している。
なお、図2では、理解を助けるために、全ての繊維が、紙面の手前から奥に向かって配向するように記載され、そして繊維の断面が全て真円で表現されている。
【0028】
本発明のノイズ吸収布帛は、当該ノイズ吸収布帛の少なくとも1面の表面抵抗率(Ω/□)の常用対数値が、0〜4の範囲にある。表面抵抗率の常用対数値とは、表面抵抗率をX(Ω/□)とした場合の、log10Xの値を意味する。上記表面抵抗率の常用対数値が0未満であると、導電度が大きすぎ、電磁波の大部分が、上記面のところで反射され、ノイズ吸収性に劣る場合がある。導電度が小さく、電磁波の反射が大きい場合には、電磁波同士の干渉が起こり、ノイズ吸収性が阻害される。
【0029】
一方、上記表面抵抗率の常用対数値が4超であると、電磁波がノイズ吸収布帛を透過し、電磁波の吸収能(捕捉能)が劣る場合がある。上記表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にある場合には、電磁波が本発明のノイズ吸収布帛の内部に適度に進入し、進入した電磁波が、繊維に付着している導電性ポリマーに捕捉され、電気に変換され、さらに導電性ポリマーの電気抵抗により熱エネルギーに変換されるので、ノイズ吸収能が高くなる。上記ノイズ吸収布帛の表面抵抗率の常用対数値は、0.1〜3の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
本発明のノイズ吸収布帛において、表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲にある面は、導電性ポリマーの形成方法等によって異なるが、例えば、図1及び図2に示されるような実施形態では、ノイズ吸収布帛1の上面が、上記表面抵抗率を有することができる。
なお、上記表面抵抗率は、三菱化学社製 低抵抗計Loresta―GP、型式MCP−T600を用い、4端子法で測定することができる。
【0031】
上記ノイズ吸収布帛は、当該ノイズ吸収布帛の表面よりも、その厚さ方向の内部の方が、導電度が小さいことが好ましい。表面の導電度よりも厚さ方向の内部の導電度を小さくするための例として、本発明のノイズ吸収布帛の、厚さ方向の内部における導電性ポリマーの、布帛に対する比率を、表面における導電性ポリマーの、布帛に対する比率よりも下げることが挙げられる。
なお、本明細書において、「布帛」と称する場合には、導電性ポリマーを含まない、布帛そのものを意味するが、「ノイズ吸収布帛」と称する場合には、布帛そのものと、導電性ポリマーとの両方を含むものを意味する。
【0032】
図3は、本発明のノイズ吸収布帛の導電度の、厚さ方向の勾配を説明するための図であり、ノイズ吸収布帛の断面を拡大した模式図である。図3では、上下方向が、ノイズ吸収布帛の厚さ方向に相当し、そしてノイズ吸収布帛の厚さ方向の下の部分は省略されている。
図3に示されるノイズ吸収布帛1は、繊維4から形成される布帛2と、導電性ポリマー3とを含む。図3に示されるノイズ吸収布帛1では、内部(下方)における導電性ポリマーの、布帛に対する比率が、表面(上方)における導電性ポリマーの、布帛に対する比率よりも低い。従って、図3のノイズ吸収布帛1では、その表面よりも、厚さ方向の内部の方が、導電度が小さい。
【0033】
なお、図3では、理解を助けるために、全ての繊維が、紙面の手前から奥に向かって配向するように記載され、そして繊維の断面が全て真円で表現されている。
導電度の適度な勾配により、外部から進入した電磁波が、導電度の大きい部分で捕捉され、電流に変換されるが、特に内部ほど導電度が小さい、すなわち、電気抵抗値が大きいことから、電気抵抗により熱エネルギーに変換されやすくなる。これにより、効率よく電磁波を吸収し、ノイズを吸収することができる。
上記導電度の勾配は、例えば、後述のグラビア印刷法により、布帛の1つの面に、導電性ポリマーを印刷することにより達成することができる。
【0034】
本発明のノイズ吸収布帛では、ノイズ吸収布帛の少なくとも1面において、表面における導電度よりも、厚さ方向の内部における導電度が小さいことが好ましく、そしてノイズ吸収布帛の両面において、表面における導電度よりも、厚さ方向の内部における導電度が小さいことがより好ましい。
ノイズ吸収布帛の両面において、表面における導電度よりも、厚さ方向の内部における導電度が小さいことは、例えば、グラビア印刷法により、布帛の両面に、導電性ポリマーを印刷することにより達成することができる。
【0035】
本発明のノイズ吸収布帛では、繊維の集合体である布帛が、基材として採用されている。基材として布帛を採用することにより、より柔軟で、可とう性に富み、電子機器に組み込む場合に、より複雑な形状を形成ことができ、電子機器の筐体の中の、集積度の高い電子部品のノイズが発生する箇所に配置することができる。
【0036】
また、基材として繊維の集合体である布帛を採用することにより、ノイズ吸収布帛が、複数の導電性ポリマーのクラスターを含むことができる。図4は、導電性ポリマーのクラスターを説明するための、ノイズ吸収布帛の断面図である。図4に示されるノイズ吸収布帛1は、布帛2と、導電性ポリマー3とを含み、そして導電性ポリマー3は、複数の導電性ポリマーのクラスター5から構成されている。導電性ポリマーのクラスター5は、それぞれ、当該断面以外の場所、すなわち、紙面に対して高さ方向に異なるいずれかの場所において、他のクラスターと電気的に繋がって、巨大なネットワークを形成し、スイッチ効果を有しているため、ノイズ吸収能が高い。図4の符号5’は、各クラスターの電気的接点を示している。
【0037】
また、布帛はその表面が平滑ではないので、グラビア印刷法等により、布帛の表面に導電性ポリマーをコーティングすると、コーティングされた導電性ポリマーの量に勾配が生じ、ミクロ的に見ると場所によって電気抵抗値が異なることとなる。従って、外部から進入した電磁波が、一定の導電度及び電気抵抗値を有する導電性ポリマーにより捕捉され、電流に変換され、次いで電気抵抗により熱エネルギーに変換されることにより、そのノイズ吸収性が発揮される。この点が、従来のフィルムやシート等の平滑表面を有するものと大きく異なる点である。
【0038】
すなわち、フィルム、シート等の平滑な表面に、グラビア印刷法等により導電性ポリマーをコーティングすると、平滑な導電性ポリマーの層が形成され、導電性ポリマーが有する大きな導電度が発揮されてしまい、表面抵抗率の常用対数値が0未満になりやすく、電磁波の反射が生じやすくなる。
また、フィルム、シート等は、その表面を不均一に加工すること自体が難しく、不均一に加工する場合には、コストの問題が生じうる。
【0039】
本発明に用いられる布帛は、繊維の集合体であり、繊維同士の交絡点が多く、そしてその表面が不均一である(一方向から見た場合に曲率を有する)ことから、例えば、グラビア印刷等により導電性ポリマーを布帛にコーティングすると、より電気的に不均一な導電性ポリマー層が形成され、一度捕捉された電磁波が、より効率よく電気抵抗により消費されるので、本発明のノイズ吸収布帛は、非常に高いノイズ吸収能を有することができる。
【0040】
本発明に用いられる布帛は、不織布であることが好ましく、そして上記布帛を形成する繊維は、合成長繊維であることが好ましい。
一般的に、織物、編み物等は、繊維が、布帛の厚さ方向及び/又は平面方向に配向している割合が高いので、織物、編み物等の布帛から形成されたノイズ吸収布帛は、導電性ポリマーが、繊維と同一の方向に配向し、ノイズの吸収性に方向性を有する。従って、織物、編み物等の布帛から形成されたノイズ吸収布帛は、特定の方向性を有するノイズを吸収する場合に有用である。
【0041】
一方、不織布では、繊維が、不織布の厚さ方向及び平面方向に配向していないことが多いので、不織布から形成されたノイズ吸収布帛は、繊維同様に配向性を有せず、ノイズの吸収性に方向性を有しにくい。一般的な電子機器では、種々の場所からノイズが発生し、ノイズに方向性が少ない場合が多いので、一般的な電子機器向けには、布帛として不織布が用いられたノイズ吸収布帛が好ましい。
また、導電性ポリマーの配向性が少ない方が、ノイズ吸収布帛に到達したノイズを、特定方向に反射させる割合が低くなり、より高いノイズ吸収性を発揮することができる。従って、上記観点から、布帛として不織布を採用したノイズ吸収布帛が好ましい。
【0042】
本発明のノイズ吸収布帛に用いられる布帛は、熱により形成された布帛であることが好ましい。バインダーを添加して形成された布帛の場合には、バインダーが電子機器に移行し、機器を誤作動させる場合が考えられるからである。また、コストの観点からも、熱により形成された布帛であることが好ましい。
【0043】
また、本発明のノイズ吸収布帛に用いられる布帛は、熱により形成された、合成長繊維から成る布帛であることがより好ましい。本発明のノイズ吸収布帛は、電子機器に用いられる場合に、電子部品の形状、回路線路の形状等によって、複雑な形状に打ち抜かれ、電子部品、伝送線路等に貼付されるか、又は適切なサイズにカットされ、電子部品の筐体に貼付されること等により用いられることが考えられるが、導電性ポリマーが付着した繊維片が、短絡して、電子機器を誤作動させることを防止するためである。
【0044】
本発明で、布帛を構成する繊維は、熱により布帛を形成することができる合成繊維が好ましい。親水性が高いパルプ、レーヨン繊維等の化学繊維は、水分を含みやすく、電子機器の誤作動につながるため好ましくない場合がある。
本発明に用いられる布帛を構成する繊維の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(PET、PBT、PTT等)及びその誘導体、N6、N66、N612等のポリアミド系樹脂及びその誘導体、ポリオキシメチレンエーテル系樹脂(POM等)、PEN、PPS、PPO、ポリケトン樹脂及びPEEK等のポリケトン系樹脂、TPI等の熱可塑性ポリイミド樹脂等、並びにこれらの組み合わせから形成された繊維が挙げられる。
【0045】
上記繊維は、本発明のノイズ吸収布帛が適用される環境に応じて、適宜選択することができるが、例えば、以下のように選択することができる。
N6、N66、N612等のポリアミド系樹脂やその誘導体は、吸水率の高い樹脂であるので、他の樹脂と比較して、水分を極端に嫌う電子部品内に適用することは避けることが望ましい。半田耐熱性が必要な場合や、電子部品等から出る熱による不具合が起こる可能性がある場合は、すなわち、耐熱性を必要とする電子機器では、PET系樹脂、PPS系樹脂、PEEK系樹脂等から形成された繊維を用いることが好ましい。一方、誘電率、tanδ等の電気特性から判断すると、ポリオレフィン樹脂、PET系樹脂、PPS系樹脂、PPO系樹脂、PEEK系樹脂及びフッ素系樹脂が好ましい。
【0046】
上記繊維は、難燃性を有する繊維であることが好ましい。電子部品の安全性の観点から、発火により燃えにくい繊維を採用すべきだからである。
上記繊維の繊維径は、本発明のノイズ吸収布帛が適用される環境により異なるが、一般的には、繊維径は50μm以下であることが好ましい。均一な繊維間距離を有する布帛を得ることができ、電磁波のもれ、例えば、透過を少なくすることができるからである。また、繊維径が50μm以下であれば、繊維の強度が高く、導電性ポリマーを付着させる工程、使用される環境等で、布帛又はノイズ吸収布帛が破断することなく、安定して、加工、使用等ができる。
【0047】
本発明のノイズ吸収布帛において、布帛が、7.0μm以下の繊維径を有する繊維(以下、「極細繊維」と称する場合がある)を含むことが好ましい。極細繊維を含むことにより、一定体積あたりの布帛の繊維の本数が増え、繊維の比表面積が増えることにより、導電性ポリマーの比表面積も増え、ノイズ吸収能がより高くなる。また、極細繊維を含むことにより、ノイズ吸収布帛を薄くすることができるので、軽薄短小を目指す電子機器に好適である。また、薄くなることにより、ノイズ吸収布帛をしなやかに曲げることができるので、電子機器に装着しやすくなり、ノイズ吸収能をより発揮しやすい。上記極細繊維は、4.0μm以下の繊維径を有することがより好ましい。また、上記極細繊維の繊維径は、0.01μm以上であることが好ましく、そして0.05μm以上であることがより好ましい。
【0048】
上記極細繊維を含む布帛は、強度が低下する傾向があるため、極細繊維よりも繊維径の太い繊維と併用することが好ましい。併用の形態としては、繊維径の異なる布帛の層を積層した、積層型の布帛、繊維径の異なる複数の繊維を混合した単一型の布帛、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0049】
上記積層型の布帛としては、第1層及び第2層の、少なくとも2つの層を有する積層された布帛であり、第1層が、10〜50μmの繊維径を有する繊維(以下、「一般繊維」と称する場合がある)から成る不織布の層であり、第2層が、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層であるものが、好ましい実施形態として挙げられる。また、上記積層型の布帛として、第1層、第2層及び第3層の、少なくとも3つの層を、第1層、第2層及び第3層の順で有する積層された布帛であり、第1層及び第3層が、10〜50μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層であり、第2層が、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る布帛の層であるものが、好ましい実施形態としてあげられる。
【0050】
上記積層型の布帛としては、4層以上のモノも挙げられ、10〜50μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層を「S」とし、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層を「M」とした場合に、SMMS、SMMMS等、第1層と、最下層とをSとし、その間の層にMを複数積層させたものが挙げられる。
【0051】
上記極細繊維の製造方法としては、特に制限されないが、メルトブロウン法及びエレクトロスピニング法が好ましく、そしてメルトブロウン法がより好ましい。
上記極細繊維を含む繊維の断面形状は、特に制限されないが、より不均一な表面を形成するために、異型糸、割繊糸等を採用することが好ましい。また、同様の目的で、クリンプ糸、撚糸等を採用することもできる。
【0052】
本発明に用いられる布帛は、導電性ポリマーを付着させる工程、使用時にノイズ吸収布帛に必要な強度等を考慮すると、約10N/3cm以上の引張強度を有することが好ましく、約20N/3cm以上の引張強度を有することがより好ましい。上記引張強度が、約10N/3cm未満であると、グラビア印刷等により、導電性ポリマーをコーティングする際に、布帛が破断する、しわがよる等の問題が生じる場合があり、そして使用時に破断する場合がある。
なお、上記引張強度において、「/3cm」は、試験片の幅が、3cmであることを意味し、試料のサイズが3cm×約30cmである点以外は、JIS L1906:2000の「5.3 引張強さ及び伸び率」の「5.3.1 標準時」に従って測定することができる。
【0053】
本発明に用いられる布帛の厚みは、約10〜約200μmの範囲内にあることが好ましく、そして約15μm〜約150μmの範囲内にあることがより好ましい。上記布帛の厚みが約10μm未満では、例えば、導電性ポリマーを布帛にコーティングする際に、適度な強度及び腰を有せず、コーティングしにくい場合があり、導電性ポリマーが裏抜けし、装置を汚染する場合があり、そして形成されたノイズ吸収布帛の強度が弱い場合がある。また、上記布帛の厚みが約200μmを超えると、例えば、導電性ポリマーを布帛にコーティングする際に、腰が過度に強くなる場合があり、そして形成されるノイズ吸収布帛が厚すぎて、狭い部分に挿入しにくく、曲げにくく、折りにくく、電子部品に装着しにくくなる場合がある。
上記布帛の厚みは、JIS L−1906:2000の「5.方法」の「5.1 厚さ」に規定される方法に従って、測定することができる。
【0054】
本発明に用いられる布帛の坪量は、約7〜約150g/m2の範囲内にあることが好ましく、そして約15〜約100g/m2の範囲内にあることがより好ましい。坪量が約7g/m2未満では、例えば、導電性ポリマーを布帛にコーティングする際に、導電性ポリマーが裏抜けし、装置を汚染する場合がある。さらに、本発明のノイズ吸収布帛の強度が弱く、加工、打ち抜き等の工程の際に破断する場合がある。坪量が約150g/m2超であると、本発明のノイズ吸収布帛が過度に重くなる場合がある。坪量が約7〜約150g/m2の範囲内にある場合には、本発明のノイズ吸収布帛が形状を保つことができ、そして取扱い性も良好である。
上記坪量は、JIS L−1906:2000の「5.方法」の「5.2 単位面積当りの質量」に規定される方法に従って測定することができる。
【0055】
本発明に用いられる布帛は、約0.5μm〜約5.0mmの平均開孔径を有することが好ましく、約0.5μm〜約3.0μmの平均開孔径を有することがより好ましく、約0.5μm〜約1.0mmの平均開孔径を有することがさらに好ましく、約0.5μm〜約500μmの平均開孔径を有することがさらにいっそう好ましく、そして約0.5μm〜約200μmの平均開孔径を有することが最も好ましい。
【0056】
平均開孔径が約0.5μm未満であると、間隙が小さすぎ、導電性ポリマー層の距離が適度に離れず、電流の流れが阻害されない。また、繊維同士が適度に離れず、すなわち、繊維同士の交絡点が増えず、スイッチング効果によってノイズ吸収性が高くならない。一方、平均開孔径が約5.0mm超であると、間隙が大きすぎ、例えば、導電性ポリマーを布帛にコーティングする際に、導電性ポリマーを均一にコーティングすることができず、所望の電気抵抗値が得にくくなる。また、導電性ポリマーを布帛にコーティングする際に設備に不良が起こる場合もある。また、平均開孔径が約1.0mm以下の場合には、繊維同士の交絡点が増すことになり、そのスイッチング効果により、よりノイズ吸収性を高くすることができる。
上記平均開孔径は、実施例に記載される方法により測定することができる。
【0057】
本発明に用いられる布帛において、その製法は特に制限されず、各種製法により製造することができる。また、上記布帛が、適度な表面構造を有するように、布帛にカレンダー加工を行うことが好ましい。カレンダー加工をすることにより、布帛が、その表面に適度に凸凹を有するため、導電性ポリマーを付着させた後に、良好な導電性を得ることができ、適度な表面抵抗値を得やすくなる。
【0058】
本発明のノイズ吸収布帛において、「布帛の繊維に、導電性ポリマーが付着している」とは、布帛の繊維の表面及び/又は内部に導電性ポリマーが存在することを意味し、例えば、物理的なコーティング法、例えば、導電性ポリマーの溶液、例えば、ポリマーとドーパント等とが結合した重合体の微粒子が分散している導電性ポリマー分散水溶液、又は導電性ポリマー溶液等を用いた、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、バーコート法、Dip−Nip法、又は重合法、例えば、導電性ポリマーの前駆体であるモノマーを、酸化剤、酸化重合触媒等と共に布帛に含浸させ、重合を行う、酸化重合法等が挙げられる。
【0059】
物理的なコーティング法としては、グラビア印刷法及びスクリーン印刷法が好ましい。布帛の片面から、導電性ポリマーの坪量を制御しながら導電性ポリマーを布帛にコーティングし、表面と内部との導電度の勾配を形成しやすいからである。また、繊維は、その断面が円形であるため、グラビア印刷法又はスクリーン印刷法により導電性ポリマーを、布帛にコーティングすると、個々の繊維の上の、導電性ポリマーの厚さに分布を生じさせることができるので好ましい。
【0060】
図5は、グラビア印刷法により形成された、繊維上の導電性ポリマーを示す模式図である。図5において、向かって上方からグラビア印刷が行われた場合には、導電性ポリマー3が、繊維4の上に形成されるが、導電性ポリマー3の厚さは、場所によって異なる。この場合、コーティングされた導電性ポリマー3の、厚みの厚い部分と、厚みの薄い部分とでは、電磁波の捕捉性が異なり、また、電気抵抗の観点から観察すると斑を有することから、捕捉された電磁波が電流となり、上記部分を流れる際に電気抵抗により熱エネルギーに変わり、ノイズ吸収能が高くなると予測される。
【0061】
本発明において、布帛の繊維に付着している導電性ポリマーは、導電性を有するものであれば、特に制限されないが、例えば、アニリン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、ピロール系ポリマー、フェニレンビニレン系ポリマー、フェニレンスルフィド系ポリマー等が挙げられる。
【0062】
上記導電性ポリマーの具体例としては、アニリン系ポリマー、例えば、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等、チオフェン系ポリマー、例えば、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等、ピロール系ポリマー、例えば、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)等、フェニレンビニレン系ポリマー、例えば、ポリ(p−フェニレンビニレン、ポリ(2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン等、並びにフェニレンスルフィド系ポリマー、例えば、ポリ(p−フェニレンスルフィド)が挙げられ、ポリアニリン、ポリチオフェン及びポリ(3,4−ジオキシチオフェン)ポリピロールが、導電性が高いために、導電性を制御しやすい観点から好ましい。
【0063】
本発明に用いられる布帛は、特に制限されず、一般的な織物、編み物、不織布等を採用することができる。本発明に用いられる布帛として、例えば、スパンボンド法、メルトブロウン法、フラッシュ紡糸法等により形成された、合成長繊維から成る不織布、抄紙法、乾式法等により形成された短繊維から成る不織布等を挙げることができる。強度が高く、加工性に優れ、ノイズ吸収布帛のハンドリングにも優れる、合成繊維から形成された不織布が好ましい。
【0064】
また、本発明に用いられる布帛として、極細繊維から成る不織布の層と、一般繊維から成る不織布の層とを積層することにより形成された積層された不織布が好ましい。上記極細繊維及び一般繊維は、熱可塑性樹脂からなることが好ましく、極細繊維から成る不織布の層と、一般繊維から成る不織布の層とを、熱エンボスで一体化することにより、積層不織布の引張強さと曲げ柔軟性とを維持し、耐熱安定性を維持することができる。上記積層不織布として、スパンボンド不織布の層、メルトブロウン不織布の層、及びスパンボンド不織布の層をその順で積層し、次いでエンボスロール又は熱プレスロールで圧着することにより製造されたものが挙げられる。
【0065】
上記積層された不織布として、熱可塑性合成樹脂を用いて少なくとも1層以上のスパンボンド不織布の層をコンベア上に紡糸し、その上に熱可塑性合成樹脂を用いてメルトブロウン法で、極細繊維の不織布の層を少なくとも1層以上吹き付ける。その後、エンボスロール又はフラットロールを用いて圧着することにより一体化することにより製造された積層された不織布が好ましい。
さらに、熱圧着前にメルトブロウン不織布の上に熱可塑性合成樹脂を用いた熱可塑性合成長繊維不織布を少なくとも1層以上積層し、次いで、エンボスロール又はフラットロールを用いて圧着することにより一体化することにより製造された積層不織布がより好ましい。
【0066】
上記積層不織布では、熱可塑性合成長繊維の不織布の層の上に、メルトブロウン法による極細繊維の不織布の層が直接吹き付けられているので、メルトブロウン法による極細繊維を、熱可塑性合成長繊維の不織布の層内に侵入させることができ、熱可塑性合成長繊維の不織布の層の繊維間隙を埋めることができる。このようにすれば、メルトブロウン法により極細繊維が熱可塑性合成長繊維の不織布内に侵入して固定されるため、積層不織布の構造自体の強度が向上するだけでなく、極細繊維の不織布の層の外力による移動が生じにくくなるので層間剥離しにくくなる。上記積層不織布の製法は、国際公開第2004/94136号パンフレット、国際公開第2010/126109号等に開示されている。
【0067】
スパンボンド不織布層、メルトブロウン不織布層を積層した、積層された不織布の場合には、3層の積層された不織布、及び2層の積層された不織布ともに、スパンボンド不織布層の坪量が上下合わせて約1.0〜約270g/m2であり、メルトブロウン不織布層の坪量が約0.3〜約270g/m2であり、そして全体の坪量が約7〜約300g/m2であることが好ましい。スパンボンド不織布層の坪量が上下合わせて約3.0〜約100g/m2であり、メルトブロウン不織布層の坪量が約0.5〜約120g/m2であり、そして全体の坪量が約15〜約150g/m2であることがより好ましい。
【0068】
本発明のノイズ吸収布帛のノイズ吸収能は、前述の従来技術とは明らかに思想が異なり、本発明のノイズ吸収布帛は、透磁率は高くなくても、極言すれば、一般的な透磁率の値をほとんど有しなくとも、高いノイズ吸収能を発揮することができる。本発明のノイズ吸収布帛は、導電度の勾配により、ノイズ吸収能を発揮する。上述のように、極細繊維を含む布帛の繊維に、導電性ポリマーを付着させることにより、導電性ポリマーの表面積がより大きくなり、ノイズ吸収能が高くなる。
【0069】
本発明のノイズ吸収布帛において、磁性を有しない導電性ポリマーを用いる利点として、下記の事項が挙げられる。例えば、近年電子機器に使用されている装置として、磁気センサー、電子コンパス、CD、DVD等があげられるが、磁気センサー及び電子コンパスでは、磁性を有するものは併用できない。また、CD、DVD等の磁気による記憶媒体から情報を読み書きする装置(ピックアップ装置)では、磁気の有無により記憶がなされ、これを読み取るピックアップ装置では、ほとんどが磁気の読み取りを行っているので、これらの装置では、磁性を有する物が近傍にあると、読み取り不良を起こしやすくなる。このため、近年使用されている、軟磁性体粒子、磁性体粒子等を含むノイズ吸収シートは、これらの装置では、用いることができなかったが、磁性を有しない導電性ポリマーを含むノイズ吸収布帛は、上記装置に用いられうる。
【0070】
本発明のノイズ吸収布帛には、その片面又は両面に、電子機器等に実用化するために、以下の処理を行うことができる。例えば、短絡を防止するために、絶縁処理することができる。具体的には、樹脂のコーティング、樹脂のラミネート、絶縁フィルムの張り合わせ等を行うことができる。また、電子機器に張り合わせるために粘着性を付与するための処理、電子機器の筐体にセットするためのビス、ねじ穴等の設置等を行うことができる。電子機器に張り合わせるために粘着性を付与するための処理は、電子機器への固定がより簡易になるので好ましい。
【0071】
本発明のノイズ吸収布帛は、下記のように、電子機器等に適用して、ノイズを吸収させることができる。例えば、LSI等の電子部品に貼り付けることができ、ガラスエポキシ基盤、FPC等の回路又はその裏面に貼り付けることができ、回路上の電送線路上、電子部品が回路に装着される部位等に貼り付けることができ、コネクタ部分、コネクタから、他の装置、部品等とつなげるケーブル等に貼り付けることができ、又は電子部品・装置を入れる筐体、保持体の裏又は表に貼り付けることができ、又は電源線、伝送線のケーブル等に巻きつけることができる。
【0072】
また、使いやすさを考慮し、所望により、上記電子機器等に張り合わせるための粘着層(ホットメルト接着剤、一般的な粘着剤等)を、表又は裏に設けることができ、そして絶縁性が必要な場合に、上記電子機器等の表又は裏に、電気絶縁層(フィルムを貼り合わせる、ポリマーラミネート層を設けることができ、他の絶縁性材料と組み合わせる等により、電気絶縁層を形成することができる)を設けることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
測定方法及び評価方法は次の通りである。
【0074】
[(1)マイクロストリップライン(MSL)法]
IEC規格62333−2に準じて、マイクロストリップライン法で測定した。図6に示すように、50Ωのインピーダンスを有するマイクロストリップラインフィクチャー6(マイクロウェブファクトリー社製)と、ネットワークアナライザー8(アジレント・テクノロジー社製 型式N5230C)とを用い、Sパラメーター法により測定した。ノイズ吸収布帛の試料7の大きさは、5cm×5cmであり、これをマイクロストリップラインフィクチャー6上に置いて測定した。なお、図6において、符号9は、マイクロストリップラインを示す。
Sパラメーターの反射減衰量(S11)と、透過減衰量(S21)とを各周波数で測定し、次の式(1)からロス率を算出した。
ロス率(Ploss/Pin)=1−(S112+S212)/1 式(1)
【0075】
[(2)表面抵抗率]
三菱化学社製 低抵抗計Loresta―GP、型式MCP−T600を用い、4端子法で測定した。測定は、n=3とし、その平均値を採用した。
【0076】
[(3)平均開孔径(μm)]
PMI社のパームポロメーター(型式:CFP−1200AEX)を用いた。浸液にPMI社製のシルウィックを用い、試料を浸液に浸して充分に脱気し、測定した。
本測定装置は、フィルターを、あらかじめ表面張力が既知の液体に浸し、フィルターの全ての細孔を液体の膜で覆った状態からフィルターに圧力をかけ、液膜の破壊される圧力と液体の表面張力から計算された細孔の孔径を測定する。平均開孔径の算出には次の式(2)を用いた。
d=C×r/P 式(2)
(式中、d(単位:μm)はフィルターの開孔径であり、r(単位:N/m)は液体の表面張力であり、P(単位:Pa)はその孔径の液膜が破壊される圧力であり、そしてCは定数である。)
【0077】
液体に浸したフィルターにかける圧力Pを、低圧から高圧に連続的に変化させた場合の流量(濡れ流量)を測定すると、初期の圧力では最も大きな細孔の液膜でも破壊されないので、流量は0である。圧力を上げていくと、最も大きな細孔の液膜が破壊され、流量が発生する(バブルポイント)。さらに圧力を上げていくと、各圧力に応じて流量は増加し、最も小さな細孔の液膜が破壊され、乾いた状態の流量(乾き流量)と一致する。
【0078】
本測定装置では、ある圧力における濡れ流量を、同圧力での乾き流量で割った値を累積フィルター流量(単位:%)と称する。また、累積フィルター流量が50%となる圧力で破壊される液膜の孔径を、平均流量孔径と称し、これを本発明に用いられる布帛の平均開孔径とした。
本明細書において、最大孔径は、布帛をフィルターとして測定し、累積フィルター流量が50%の−2σの範囲、すなわち、累積フィルター流量が2.3%となる圧力で破壊される液膜の孔径とした。
【0079】
[(4)布帛の坪量]
布帛の坪量は、JIS L−1906:2000の「5.方法」の「5.2 単位面積当りの質量」に規定の方法に従い、縦20cm×横25cmの試料を、試料の幅1m当たり3箇採取して質量を測定し、その平均値を単位面積当たりの質量に換算して求めた。
【0080】
[(5)布帛の厚み]
JIS L−1906:2000の「5.方法」の「5.1 厚さ」に規定の方法に従い、幅1m当たり10箇所の厚みを測定し、その平均値を布帛の厚みとして用いた。荷重は9.8kPaで行った。
【0081】
[(6)繊維の径]
平均繊維径(μm):電子顕微鏡写真から、任意に繊維をピックアップし、それらの直径を写真から読み取ることにより求める。n=50の相加平均値を、平均繊維径として採用する。
【0082】
[(7)導電性ポリマーの坪量]
導電性ポリマーが付着する前の布帛の坪量BW0を、「(4)布帛の坪量」に記載の方法に従って測定する。次いで、布帛の繊維に、導電性ポリマー付着しているノイズ吸収布帛の坪量BW1を、「(4)布帛の坪量」に記載の方法に従って測定する。BW1からBW0を引くことにより、導電性ポリマーの坪量を算出する。
【0083】
[(8)貼り合わせモデル試験]
5cm×5cmの試料の片面全面に両面テープを貼付する。次いで、両面テープの残りの面を、卓球で用いるピンポン玉の半球に貼付し、その状態及び貼付しやすさを、次のように判定した。
◎:貼付しやすく、貼付した状態にも不具合が観察されなかった。
○:貼付しやすいが、一部試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
△:貼付できるが、全体的に試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
×:非常に貼付しにくく、全体的に試料の突起、皺、シートの破れ等が観察された。
【0084】
[実施例1]
以下の方法により、実施例1〜19のノイズ吸収布帛を製造し、ノイズ吸収能を測定した。
[導電性ポリマーの製造]
和光純薬工業社製エーロゾルOT(ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム、純度75%以上)144gを、トルエン4Lに添加し、攪拌してエーロゾルOT溶解させ、窒素気流下の30Lの攪拌器に、エーロゾルOTの溶液を入れ、次いで、当該溶液に、150gのアニリンを添加し、攪拌することによりアニリンを溶解させた。冷媒により攪拌器を冷却し、1N塩酸12Lを、上記攪拌器に添加した。
【0085】
次いで、攪拌機内の溶液の温度を−3℃に冷却した状態で、214gの過硫酸アンモニウムを1N塩酸4Lに溶解した溶液を、滴下ロートで、3時間10分かけて攪拌器に滴下した。滴下の開始から、18時間30分間、攪拌器内の溶液の温度を、0℃±1℃に、攪拌しながら保持した。次いで、攪拌器にトルエン8Lを添加し、溶液温度を19℃に上昇させ、静置した。静置により2相に分離した溶液の水相(下相)を、攪拌器の下部から抜き取り、ポリアニリン含有トルエン溶液を得た。
【0086】
次いで、上記トルエン溶液に、イオン交換水4Lを加え、攪拌した後、静置し、水相を分離した。この操作を再度行った後、1N塩酸水溶液4Lで同様にトルエン溶液を洗浄し、静置後、酸性水溶液を分離して、ポリアニリンのトルエン溶液を回収した。当該トルエン溶液に含まれる若干の不溶物を#5Cの濾紙により除去した。次いで、トルエン溶液をエバポレーターに移し、60℃の湯浴で加温し、減圧することにより、揮発分を蒸発留去し、208gのポリアニリンを得た。
【0087】
上記ポリアニリン1gを、18mLのトルエンに再度溶解させ、次いで、m−クレゾール2mLを添加し、ポリアニリン溶液の原液を得た。上記ポリアニリン溶液の原液1mLに、トルエン99mLを加え、0.5g/Lの濃度のポリアニリン溶液を調製した(特許文献:特開2007−73498号公報参照)。
グラビア印刷法を用いて、旭化成せんい製PETスパンボンド不織布、E05050にポリアニリンを付着させた。グラビア版は、導電性ポリマー溶液の塗布量が100g/m2となるように調整した。グラビア印刷の後、布帛を80℃で5分間乾燥させることにより、ノイズ吸収布帛1を得た。基材は、旭化成せんい製PETスパンボンド不織布、E05050を用いた。ノイズ吸収布帛1の特性を、表1に示す。また、ノイズ吸収布帛1のマイクロストリップライン法による測定結果を、図7に示す。
【0088】
[実施例2〜5]
実施例2〜5では、実施例1とグラビア版を変え、導電性ポリマーの塗布量を変化させることにより、ノイズ吸収布帛2〜5を得た。ノイズ吸収布帛2〜5の特性を、表1に示す。
【0089】
[実施例6〜17]
実施例6〜17では、布帛を以下に示すように変更した以外は、実施例1に従い、ノイズ吸収布帛6〜17を得た。ノイズ吸収布帛6〜17の特性を、表1に示す。
実施例6:PU5040(素材:ポリプロピレン、旭化成せんい製)
実施例7:N05050(素材:ナイロン6、旭化成せんい製)
実施例8:プレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例9:プレシゼAS080(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例10:E05020(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例11:E05030(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例12:E05120(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例13:短繊維不織布(湿式不織布:ピュアリ040BC 素材:PET 阿波製紙社製)
実施例14:短繊維不織布(スパンレース不織布 ソンタラ8005 素材:PET デュポン社製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例15:メルトブロウン不織布 E3008(素材:PET、旭化成せんい製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例16及び17:エステル糸によるタフタを使用した。
【0090】
[実施例18]
布帛を、プレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)に変更し、グラビア版を変え、塗布量を変化させた以外は、実施例1に記載の方法に従って、ノイズ吸収布帛18を製造した。ノイズ吸収布帛18の特性を、表1に示す。また、ノイズ吸収布帛18のマイクロストリップライン法による測定結果を、図8に示す。
【0091】
[実施例19]
以下に記す化学重合法により、布帛上に導電性ポリマーを形成した。先ず、モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(1部)と、酸化剤となるp−トルエンスルホン酸第二鉄(2部)と、溶剤となるノルマルブタノール(4部)とを含む溶液に、旭化成せんい製PETスパンボンド不織布、E05050を浸漬して引き上げた後、100℃に保持することによって、重合を進行させ、ポリエチレンジオキシチオフェンの導電性高分子が含侵された、ノイズ吸収布帛19を得た。ノイズ吸収布帛19の特性を表1に示す。
【0092】
[実施例20]
布帛をプレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)に変更した以外は、実施例19に記載の方法に従って、ノイズ吸収布帛20を得た。ノイズ吸収布帛20の特性を表1に示す。
【0093】
[実施例21]
ポリアニリンを、200メッシュのスクリーンを用いたスクリーン印刷法により付着させ、布帛を80℃で10分間乾燥させた以外は、実施例1に従い、ノイズ吸収布帛21を得た。ノイズ吸収布帛21の特性を表1に示す。
【0094】
[実施例22及び23]
実施例22〜23については、スクリーンのメッシュを150、100に変えた以外は、実施例21に記載の方法に従って、それぞれ、ノイズ吸収布帛22及び23を得た。ノイズ吸収布帛22及び23の特性を表1に示す。
【0095】
[実施例24〜28]
実施例24〜28では、布帛を、以下のものに変更した以外は、実施例21に記載の方法に従って、それぞれ、ノイズ吸収布帛24〜28を得た。ノイズ吸収布帛24〜28の特性を表1に示す。また、実施例25で得られたノイズ吸収布帛25のマイクロストリップライン法による測定結果を、図9に示す。
実施例24:プレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例25:プレシゼAS080(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例26:E05020(素材:PET、旭化成せんい製)
実施例27:短繊維不織布(スパンレース不織布 ソンタラ8005 素材:PET デュポン社製)をカレンダー加工し、使用した。
実施例28:メルトブロウン不織布:E3008(素材:PET、旭化成せんい製)をカレンダー加工し、使用した。
【0096】
[実施例29]
汎用的なポリエチレンテレフタレートを、スパンボンド法により、紡糸温度300℃でフィラメントの長繊維群が移動捕集面に向くように押し出し、紡糸速度3500m/分で紡糸し、コロナ帯電で3μC/g程度帯電させて充分に開繊させ、平均繊径12μmのフィラメントからなる、5cm変動率15%以下の均一性を有する未結合長繊維ウェブ(以下、「ウェブ層A」と称する場合がある)を、坪量:約7.5g/m2で、捕集ネット面上に形成させた。
【0097】
次に、ポリエチレンテレフタレート(溶融粘度ηsp/c 0.50)を、紡糸温度300℃、加熱エア温度320℃、吐出エア1000Nm3/hr/mの条件下で、メルトブロウン法にて紡糸して、平均繊維径1.7μmの極細繊維を、坪量:約5g/m2のランダムウェブ(以下、「ウェブ層B」と称する場合がある)として上記形成の長繊維ウェブに向けて直に噴出させた。メルトブロウンノズルからウェブ層Aの上面までの距離を、100mmとし、メルトブロウンノズル直下の捕集面における吸引を0.2kPa、風速約7m/secに設定した。
【0098】
ウェブ層Bの、ウェブ層Aと反対側の面に、ポリエチレンテレフタレートの長繊維ウェブを、最初に調製したウェブ層Aと同様に開繊して、ウェブ層A/ウェブ層B/ウェブ層Aの3層の積層ウェブを調製した。
次いで、上記3層の積層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、不織布層A/不織布層B/不織布層Aの3層の積層不織布を得て、そして最初に形成されたウェブ層Aに由来する不織布層Aの上に、ポリアニリンを、200メッシュのスクリーンを用いたスクリーン印刷法により付着させ、布帛を80℃で10分間乾燥させ、ノイズ吸収布帛29を形成した。ノイズ吸収布帛29の特性を表1に示す。
【0099】
[実施例30及び31]
実施例30及び31では、ポリエチレンテレフタレートの押し出し量を変化させ、不織布層A及び不織布層Bの繊維径を変化させた以外は、実施例29と同様にして、それぞれ、ノイズ吸収布帛30及び31を形成した。ノイズ吸収布帛30及び31の特性を表1に示す。
【0100】
[実施例32〜34]
実施例29と同様にして、ウェブ層Aとウェブ層Bとの2層の積層ウェブを形成した後、2層の積層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、ウェブ層Aに由来する不織布層Aと、ウェブ層Bに由来する不織布層Bとを有する2層の積層不織布を得て、そして不織布層Bの上に、ポリアニリンを、200メッシュのスクリーンを用いたスクリーン印刷法により付着させ、布帛を80℃で10分間乾燥させ、ノイズ吸収布帛32〜34を形成した。ノイズ吸収布帛32〜34の特性を表1に示す。
【0101】
[実施例35〜37]
実施例29において、ウェブ層Aを形成せずに、ウェブ層Bのみの単層ウェブを形成した後、当該単層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、単層不織布を得た。さらに、押し出し量を変化させることにより繊維径を変化させた単層不織布を作製し、それぞれの単層不織布の上に、ポリアニリンを、200メッシュのスクリーンを用いたスクリーン印刷法により付着させ、布帛を80℃で10分間乾燥させ、ノイズ吸収布帛35〜37を形成した。ノイズ吸収布帛35〜37の特性を表1に示す。
【0102】
[実施例38及び39]
実施例29において、ウェブ層Bを形成せずに、ウェブ層Aのみの単層ウェブを形成した後、単層ウェブを、2つのフラットロールの間に通して熱圧着させ、単層不織布を得た。さらに、押し出し量を変化させることにより繊維径を変化させた単層不織布を作製し、それぞれの単層不織布の上に、ポリアニリンを、200メッシュのスクリーンを用いたスクリーン印刷法により付着させ、布帛を80℃で10分間乾燥させ、ノイズ吸収布帛38及び39の特性を表1に示す。
【0103】
[実施例40〜43]
プレシゼAS030(素材:PET、旭化成せんい製)の上に、Finetex Technology Global Limited社製の、エレクトロスピニング法(ELSP)により形成された、極細繊維から成る不織布を重ね合わせ、積層された不織布を形成し、そして極細繊維から成る不織布の側に、ポリアニリンを、200メッシュのスクリーンを用いたスクリーン印刷法により付着させ、布帛を80℃で10分間乾燥させ、ノイズ吸収布帛40〜43を形成した。ノイズ吸収布帛40〜43の特性を表1に示す。
なお、ELSPの加工量は、2g/m2又は1g/m2とした。上記極細繊維の素材は、実施例40及び41ではナイロン6であり、そして実施例42及び43ではPVDFであった。
【0104】
[実施例44]
導電性ポリマーを、信越ポリマー製PEDOT(セルプジータ)に変更した以外は、実施例21に記載の方法に従って、ノイズ吸収布帛44を形成した。ノイズ吸収布帛44の特性を表1に示す。
[実施例45]
布帛を、プレシゼAS030に変更した以外は、実施例44に記載の方法に従って、ノイズ吸収布帛45を形成した。ノイズ吸収布帛44の特性を表1に示す。
【0105】
[実施例46]
導電性ポリマーを付着させる方法を、グラビア印刷法から、Dip−Nip法に変更し、乾燥方法を、75℃で7分間とした以外は、実施例1に記載の方法に従って、ノイズ吸収布帛46を形成した。ノイズ吸収布帛46の特性を表1に示す。
[実施例47]
布帛を、プレシゼAS030に変更した以外は、実施例46に記載の方法に従って、ノイズ吸収布帛47を形成した。ノイズ吸収布帛47の特性を表1に示す。
【0106】
[比較例1]
グラビア版を変え、導電性ポリマーの塗布量を変化させた以外は実施例1に従って、比較用シート1を形成した。比較用シート1の特性を表2に示す。また、比較用シート1のマイクロストリップライン法による測定結果を、図10に示す。
[比較例2〜4]
スクリーン印刷法による印刷の回数を変更した以外は、実施例22に従って、比較用シート2〜4を形成した。比較用シート2〜4の特性を表2に示す。
【0107】
[比較例5〜7]
比較例5〜7では、布帛を、PETフィルムに変更した以外は、実施例1、22及び46に記載の方法に従って、それぞれ、比較用シート5〜7を形成した。比較用シート5〜7の特性を表2に示す。
なお、PETフィルムは、帝人テトロンフィルム(型式G2:16μm、型式S:188μm)である。
【0108】
[比較例8]
PETフィルムを、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、型式Hタイプ:25μm)に変更した以外は、実施例22に従って、比較用シート8を形成した。比較用シート8の特性を表2に示す。
[比較例9]
市販の製品(バスタレイド 型式R4N)を、比較用シート9として用いた。比較用シート9の特性を表2に示す。
【0109】
[比較例10]
特開2010−80911号公報に従い、次に示す電波吸収体を作製した。三菱製紙株式会社製、ワイパーWO−ME150不織布(坪量:150g/m2、厚み:0.45mm、ポリエステル極細繊維100%、幅:50cm、及び長さ:300cm)に、過硫酸アンモニウムを12質量%、ナフタレンスルホン酸14質量%の水溶液(pH0.2)に浸漬し、マングルにて過剰の溶液を除去した。
【0110】
その後、浸漬したWO−ME150不織布を、平坦に広げた状態で反応室に入れ、ドラフト内に設置したエバポレーターからピロールの蒸気を室内に充満させ、10分間放置してピロールの気相重合を行った。反応終了後、ピロールを気相重合させたWO−ME150不織布を反応室から取出し、10Lの蒸留水で3回洗浄し、マングルにて水切りした後、105℃で1時間乾燥した。得られた不織布を30×30cmの大きさにカットし、得られた不織布10枚を日東電工(株)製の両面接着テープ(No.5000NS)で貼り合わせ、比較用シート10を形成した。比較用シート10の特性を表2に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【符号の説明】
【0116】
1 ノイズ吸収布帛
2 布帛
3 導電性ポリマー
4 繊維
5 導電性ポリマーのクラスター
5’ 各クラスターの電気的接点
6 マイクロストリップラインフィクチャー
7 試料
8 ネットワークアナライザー
9 マイクロストリップライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の繊維に、導電性ポリマーが付着しているノイズ吸収布帛であって、
前記ノイズ吸収布帛の少なくとも1面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲にあることを特徴とする、
前記ノイズ吸収布帛。
【請求項2】
導電性ポリマーの溶液を布帛にコーティングするか、又は導電性ポリマーの前駆体を布帛にコーティングし、前記前駆体を重合することにより形成された、請求項1に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項3】
前記布帛が、合成長繊維から成る不織布である、請求項1又は2に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項4】
前記布帛が、7.0μm以下の繊維径を有する繊維を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項5】
前記布帛が、第1層及び第2層の、少なくとも2つの層を有する積層された布帛であり、第1層が、10〜50μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層であり、第2層が、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項6】
前記布帛が、第1層、第2層及び第3層の、少なくとも3つの層を、その順番で有する積層された布帛であり、第1層及び第3層が、10〜50μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層であり、第2層が、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維から成る不織布の層である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項7】
前記布帛が、10〜50μmの繊維径を有する繊維と、0.01〜7.0μmの繊維径を有する繊維とが混合された布帛である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項8】
前記布帛の厚みが10〜200μmであり且つ坪量が7〜150g/m2である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項9】
カレンダー加工された、請求項1〜8のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項10】
1GHzにおける反射減衰量(S11)が、0.2以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項11】
平均開孔径が0.5μm〜5.0mmである、請求項1〜10のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。
【請求項12】
前記導電性ポリマーが、アニリン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、及びピロール系ポリマーから成る群から選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載のノイズ吸収布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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