説明

ノイズ除去方法及びパルスフォトメータ

【課題】患者から測定される脈波(離散的時系列脈波データ)にアートファクトが含まれていない期間の発生時期が不規則であっても、回転によるノイズ除去処理が有効に作用するノイズ除去方法及びパルスフォトメータを実現することにある。
【解決手段】異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加するステップと、前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する信号処理に関し、特には医療の分野において、特に循環器系の診断に用いられるパルスフォトメータにおける信号処理の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号から信号成分と雑音成分に分離する方法には様々な方法が提案されている。
それらは、一般的には周波数領域や時間領域による処理が行われている。
医療現場でも、光電脈波計と言われる脈波波形や脈拍数を測定する装置、血液に含まれる吸光物質の濃度測定として、酸素飽和度SpO2の測定装置、一酸化炭素ヘモグロビンやMetヘモグロビン等の特殊ヘモグロビンの濃度の測定装置、注入色素濃度の測定装置などがパルスフォトメータとして知られている。
中でも酸素飽和度SpO2の測定装置を特にパルスオキシメータと呼んでいる。
【0003】
パルスフォトメータの原理は、対象物質への吸光性が異なる複数の波長の光を生体組織に透過又は反射させ、その透過光又は反射光の光量を連続的に測定することで得られる脈波データ信号から対象物質の濃度を求めるものである。
そしてその脈波データに雑音が混入すると、正しい濃度の計算が出来ず、誤処置につながる危険が生じる。
パルスフォトメータにおいても従来より雑音を低減するために周波数帯域を分割して信号成分に着目したり、2つの信号の相関を取るなどの方法が提案されてきた。
しかし、これらの方法は解析に時間がかかるなどの問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、特許第3270917号(特許文献1)において、異なる2つの波長の光を生体組織に照射して透過光から得られる2つの脈波信号のそれぞれの大きさを縦軸、横軸としてグラフを描き、その回帰直線を求め、その回帰直線の傾きに基づいて、動脈血中の酸素飽和度ないし吸光物質濃度を求めることを提案している。
この発明により、測定精度を高め、低消費電力化することができた。
しかし、各波長の脈波信号についての多くのサンプリングデータを用いて回帰直線ないしその傾きを求めるためには、なお多くの計算処理を要していた。
【0005】
また、本出願人は、特許第3924636号(特許文献2)においては、周波数解析を用いてはいるが、その解析においては従来技術のように脈波信号そのものを抽出するのではなく、脈波信号の基本周波数を求め、さらには精度を高めるためにその高調波周波数を用いたフィルタを用いて脈波信号をフィルタリングする方法を提案している。
【0006】
本出願人は、更に、基本周波数を求める点に関しては更なる改善策として、特許第4352315号(特許文献3)において、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減した信号処理方法を提供している。
【0007】
次に、上記特許文献3の内容について説明する。
本発明の実施の形態を説明するにあたり、動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータを例に挙げて原理を説明する。
なお、本発明の技術は、パルスオキシメータに限られず、特殊ヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビン、Metヘモグロビンなど)、血中に注入された色素などの血中吸光物質をパルスフォトメトリーの原理を用いて測定する装置(パルスフォトメータ)に適用できる。
【0008】
動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータの構成は、概略構成ブロック図である図4のようになっている。
異なる波長の光を発光する発光素子1、2は、交互に発光するように駆動回路3により駆動される。
発光素子1、2に採用する光はそれぞれ動脈血酸素飽和度による影響が少ない赤外光(例えば940[nm])、動脈血酸素飽和度の変化に対する感度が高い赤色光(例えば660[nm])がよい。
【0009】
これらの発光素子1、2からの発光は生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光して電気信号に変換される。
なお、反射光を受光するようにしてもよい。
そして、これらの変換された信号は増幅器6で増幅され、マルチプレクサ7によりそれぞれの光波長に対応したフィルタ8−1、8−2に振り分けられる。
各フィルターに振り分けられた信号はフィルタ8−1、8−2によりフィルタリングされてノイズ成分が低減され、A/D変換器9によりデジタル化される。
【0010】
デジタル化された赤外光、赤色光に対応する各信号列が、それぞれの脈波信号を形成している。
デジタル化された各信号列は処理部10に入力され、ROM12に格納されているプログラムにより処理され、酸素飽和度SpO2が測定され、その値が表示部11に表示され
る。
【0011】
<回転行列によるノイズ低減と脈波の基本周波数の演算>
先ず、血液中の吸光物質の吸光度(減光度)の変動の測定について説明する。
図10(a)及び(b)は、前記発光素子1、2からの発光された光が生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光して電気信号に変換された脈波データで、(a)は赤色光の場合を、(b)は赤外光を示している。
図10の(a)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光出力は、赤色光の直流成分(R’)と脈動成分(ΔR’)が重畳された波形となっている。
また、図10の(b)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光出力は、赤外光の直流成分(IR’)と脈動成分(ΔIR’)が重畳された波形となっている。
図5は、図10に示すような脈波において、8秒間分の、直流成分(R’、IR’)に対する脈動成分(ΔR’、ΔIR’)の比(IR=ΔIR’/IR’)をとり、さらにその8秒間分のデータの平均値をゼロに合わせたものである。
なお、図5の如き、平均値をゼロとする処理を行わなくとも演算は可能である。
図6は、図10に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフである。
【0012】
次に、A/D変換器9によってデジタル化した各波長の2つの脈波データ信号を回転行列を用いてノイズを低減する演算処理について説明する。
なお、赤外光と赤色光とは交互に発光されるため厳密には同時に発光されるものではないが、隣り合う得られた赤外光受光値と赤色光受光値を同時刻に得られたものとして扱い、所定時間分の赤外光の脈波信号と赤色光の脈波信号を2次元直交座標上に展開する。
すなわち図6のグラフを作成している。
また、脈波の直流成分に対する脈動成分の比をとることで脈拍による吸光度の脈動分が近似される。
図6のグラフに見られる推移は45度になっていないが、その理由は、赤外光脈波の脈動成分の振幅と赤色光脈波の脈動成分の振幅とに差があるため、およびノイズが重畳しているためである。
【0013】
次に、展開された脈波データに回転行列を用いて回転演算を施すこととする。
赤外光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(IR)のデータ列を、
【0014】
【数1】

【0015】
赤色光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(R)のデータ列を、
【0016】
【数2】

【0017】
とする。
同じ時刻tiに得られたIRとRとのデータを次のように行列で定義する。
すなわち、
【0018】
【数3】

【0019】
また、θ[rad]回転させる回転行列をAとすると、Aは次のように表すことができる。
【0020】
【数4】

【0021】
そうすると、SをAによりθ[rad]回転させることにより次のXが得られる。
【0022】
【数5】

【0023】
なお、回転行列Aは、上記のほか、
【0024】
【数6】

【0025】
を用いてもよい。
ここで、θを0〜9π/30[rad] までπ/30[rad]ずつ脈波データSを回転させて得られるグラフを図7に示す。
図7からわかるように、横軸ゼロ、縦軸ゼロの点(赤色光脈波と赤外光脈波との両方が平均である点)を中心として回転されており、θが9π/30[rad]のときに、横軸(X1)へ射影した領域が最小になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最大となっている。
θを9π/30[rad]よりさらにπ/2[rad]回転させ24π/30[rad] (=12π/15[rad])回転させた場合には横軸(X1)へ射影した領域が最大になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最小となることは明らかである。
【0026】
次に、θを9π/30[rad]、24π/30[rad]としたときの回転行列Aにより、測定された脈波データSが処理されてXとなった結果、どのような波形となるかを説明する。
図8は、図5に示した脈波データSを、θを9π/30[rad]として回転行列Aにより処理したXの波形を示す。
横軸へ射影した領域が最小になったX1(t i)は、
【0027】
【数7】

【0028】
一方、横軸へ射影した領域が最大になったX2(t i)は、
【0029】
【数8】

【0030】
により演算される。
図8のX1の波形からはノイズが除去されたことがわかる。
なお、脈波データSを、θを24π/30[rad]として回転行列Aにより処理した場合
には、X2の波形がノイズが除去された波形となる。
横軸へ射影した領域が最大になるX1(t i)は、
【0031】
【数9】

【0032】
一方、横軸へ射影した領域が最小になるX2(t i)は、
【0033】
【数10】

【0034】
により演算される。
このように横軸へ射影した領域が最小になるように回転角θを設定して、脈波データSを処理すれば、ノイズが抑制された脈波主成分波形を得ることができる。
【0035】
次に、脈波の基本周波数の演算について説明する。
ノイズが低減される前の図5に示した脈波信号と、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形を周波数解析して得られたスペクトルをそれぞれ図9に示す。
横軸は周波数、縦軸はスペクトルである。
ノイズが低減される前の脈波(Before-rotation)信号のスペクトルは、ノイズの周波数帯域fnのスペクトルが強くでており、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルはほとんど現れていない。
一方、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形(After-rotation)を周波数解析して得られたスペクトルでは、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルがノイズの周波数帯域fnのスペクトルと区別できるほど強く現れていることがわかり、脈波信号の基本周波数fsを求めることができる。
そして、脈波信号の基本周波数fs[Hz]が求まれば、脈拍数fs×60[回/min]を容易に求めることができる。
【0036】
このように、所定角度の回転行列を用いることにより、ノイズが低減された脈波主成分波形を得ることができ、脈波信号の基本周波数ないし脈拍数を求めることができる。
ここで、所定角度は、予め決められたものでもよく、測定期間中アダプティブに変化させてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特許第3270917号
【特許文献2】特許第3924636号
【特許文献3】特許第4352315号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
特許文献3に記載の信号処理方法によれば、図9に示す如く、ノイズが低減される前の脈波(Before-rotation)信号のスペクトルは、ノイズの周波数帯域fnのスペクトルが強くでており、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルはほとんど現れていない。
一方、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形(After-rotation)を周波数解析して得られたスペクトルでは、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルがノイズの周波数帯域fnのスペクトルと区別できるほど強く現れていることがわかり、脈波信号の基本周波数fsを求めることができる。
しかし、図9に示す如く回転による処理でノイズが除去できるのは、脈波にアーチファクトが含まれている場合であって、脈波にアーチファクトが含まれていない場合(又は二ノイズが脈波に比較して小さい場合)には回転で処理した結果が望ましくない場合があった。特に全くアーチファクトが脈波に含まれていない場合には、求めるべき脈波をアーチファクトとして削除する可能性もあった。
そもそも、脈波にアーチファクトが含まれていない場合には、回転によるノイズ除去処理を必要とはしないのであるが、患者から測定される脈波にアーチファクトが含まれていない期間の発生時期は不規則であるので、脈波にアーチファクトが含まれていない期間のみ回転によるノイズ除去処理を外すことは困難である。
また、脈波にアーチファクトが含まれていない期間には回転によるノイズ除去処理を外すことが可能であっても、そのコストは高くなる。
【0039】
本発明の目的(課題)は、患者から測定される脈波(離散的時系列脈波データ)にアーチファクトが含まれていない期間の発生時期が不規則であっても、回転によるノイズ除去処理が有効に作用するノイズ除去方法及びパルスフォトメータを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0040】
上記課題を解決するための、本発明の離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法は、異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させるに際して、附加条件を追加して回転処理するステップとを含むことを特徴とする。
【0041】
また、異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加するステップと、前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする。
【0042】
また、異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に、追加角度を附加した角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする。
【0043】
また、異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加するステップと、前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に、追加角度を附加した角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする。
【0044】
上記課題を解決するための、本発明のパルスフォトメータは、異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータであって、 前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加する追加アーチファクト附加手段と、前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させる処理手段とを具備することを特徴とする。
【0045】
また、異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータであって、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に、追加角度を附加した角度で各脈波データの平均値を中心として回転させる処理手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0046】
本発明の構成によれば、患者から測定される脈波(離散的時系列脈波データ)にアーチファクトが含まれていない期間の発生時期が不規則であっても、回転によるノイズ除去処理が有効に作用するノイズ除去方法及びパルスフォトメータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の回転によるノイズ除去処理を説明する図である。
【図2】脈波に対して、大きい追加アーチファクトを附加して、回転処理した処理結果を示す図である。
【図3】脈波に対して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に更に追加角度を附加して回転処理した処理結果を示す図である。
【図4】パルスフォトメータの概略構成を示すブロック図である。
【図5】検出された脈波を示す図である。
【図6】図10に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフである。
【図7】図4のグラフをπ/30[rad]ずつ回転させた図である。
【図8】回転角度9π/30[rad]の回転行列で処理された脈波の波形を示す図である。
【図9】図6に示すX1の波形のスペクトルを示す図である。
【図10】血液中の吸光物質の吸光度の変動の測定原理を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
次に、本発明の離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法である、異なる2つの波長の光を生体組織に照射して前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転処理するに際して、本発明特有の附加条件を追加して処理することによって、患者から測定される脈波(離散的時系列脈波データ)にアーチファクトが含まれていない場合(又はノイズが小さい場合)であっても、回転によるノイズ除去処理が有効に作用するノイズ除去方法を図1〜図3を用いて説明する。
【0049】
図1は本発明の回転によるノイズ除去処理が有効に作用することを示す図であり、横軸は時間(秒)、縦軸は大きさ(Amplitude)を示している。
図1(a)は、患者の生体組織を透過または反射した各波長(IR,R)の光を電気信号に変換した波形を示している。
図1(a)において、実線はIR(赤外)波形を、*印線はR(赤色)波形を示し、脈波には脈波の振幅に比べて小さいノイズ(アーチファクト)が含まれている。
【0050】
図1(b)は、図1(a)のIR波形に対して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転処理した波形を示している。
この回転処理は、特許文献3に記載の従来のノイズ除去処理に相当する。
この場合には、脈波にアーチファクトが含まれていない又はノイズが小さいので、回転処理を施したことによって、脈波が回転処理前よりも崩れていることが理解できる。
【0051】
図1(c)は、図1の脈波(IR波形)に対して、大きい追加アーチファクトを附加して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転処理した波形を示している。
この場合には、脈波に大きいアーチファクトが含まれているので、回転処理を施したことによって、アーチファクトのノイズが除去され脈波を認識できる。
【0052】
図1(d)は、図1のIR波形に対して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に更に追加角度を附加して、各脈波データの平均値を中心として回転処理した波形を示している。
この場合にも、脈波を所定の角度に追加角度を附加して回転処理を施したことによって、アーチファクトのノイズが除去され脈波を認識できる。
【0053】
次に、図1(c)の回転処理した結果を図2を用いて説明する。
図2は、脈波に対して、大きい追加アーチファクトを附加して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転処理した処理結果を示す図であり、横軸は信号成分の大きさ(amplitude)縦軸はノイズ成分の大きさ(amplitude)である。
【0054】
図2における(b)は脈波(IR,R)の回転処理前の観測値であり、(a)は(b)の脈波(IR,R)に比べて十分大きい振幅の追加アーチファクトを附加して、それによって定まる回転角で回転処理を実行した処理結果である。
ここで、振幅とは減光度比(φ)が1でも良く、φはアーチファクトを加える前のφと異なればよい。
(b)では脈波で決まる回転角で回転されるため、脈波の振幅が減衰する問題がある。そこで、(a)に示すように脈波の回転角と異なるアーチファクトの回転角で回転すれば、信号成分が大きく現れて脈波をより正確に認識することが可能になる。
【0055】
次に、図1(d)の回転処理した結果を図3を用いて説明する。
図3は、脈波に対して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に更に追加角度を附加して各脈波データの平均値を中心として回転処理した処理結果を示す図であり、横軸は信号成分の大きさ(amplitude)縦軸はノイズ成分の大きさ(amplitude)である。
【0056】
図3における(b)は脈波(IR,R)を通常の回転処理を実行した処理結果であり、(a)は脈波(IR,R)に通常の角度に追加角度を附加して回転処理を実行した処理結果である。
追加角度を附加して回転処理を行った結果、(a)の方が信号成分を示す横軸への投影幅が大振幅で射影され、脈波をより正確に認識することが可能になる。
【0057】
なお、図1(c)及び(d)の説明では、図1の脈波(IR波形)に対して、大きい追加アーチファクトを附加して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転処理するもの、及び図1のIR波形に対して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に更に追加角度を附加して、各脈波データの平均値を中心として回転処理するものについて説明しているが、図1の脈波(IR波形)に対して、大きい追加アーチファクトを附加しものに対して、回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に更に追加角度を附加して、各脈波データの平均値を中心として回転処理ことも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1発光素子
2発光素子
3駆動回路
4生体組織
5フォトダイオード
6変換器
7マルチプレクサ
8フィルタ
9A/D変換器
10処理部
11表示部
12ROM
13RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、
前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させるに際して、附加条件を追加して回転処理するステップと、
を含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項2】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、
前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加するステップと、
前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項3】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、
前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に、追加角度を附加した角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項4】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、
前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加するステップと、
前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に、追加角度を附加した角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項5】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、
前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータであって、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データに追加アーチファクトを附加する追加アーチファクト附加手段と、
前記追加アーチファクトを附加された離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させる処理手段と、
を具備することを特徴とするパルスフォトメータ。
【請求項6】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、
前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータであって、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを回転行列を用いてあらかじめ決められた角度又は所定条件に基づいて決められた角度に、追加角度を附加した角度で各脈波データの平均値を中心として回転させる処理手段と、
を具備することを特徴とするパルスフォトメータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−19968(P2012−19968A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160261(P2010−160261)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】