ノズルごとの吐出量の計測方法、電気光学装置の製造方法
【課題】正確且つ適正に液滴の吐出量を計測可能なノズルごとの吐出量の計測方法、これを用いた電気光学装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】本適用例のノズルごとの吐出量の計測方法は、吐出ヘッドにおける複数のノズルの配置に対応して設けられ、一対の電極のうちの一方の電極を有する複数の膜形成領域のそれぞれにノズルから機能性材料を含む液体を液滴として予め定められた吐出回数で吐出する試験吐出工程と、膜形成領域に吐出された液体を固化して機能性材料からなる機能膜を形成する機能膜形成工程と、機能膜を覆うように一対の電極のうちの他方の電極を形成する電極形成工程と、膜形成領域ごとの機能膜の電気特性を一対の電極を介して計測する計測工程と、計測された電気特性の結果に基づいて、機能膜の膜厚を求める膜厚算出工程と、求められた機能膜の膜厚に基づいて、液滴のノズルごとの吐出量を求める吐出量算出工程と、を備えた。
【解決手段】本適用例のノズルごとの吐出量の計測方法は、吐出ヘッドにおける複数のノズルの配置に対応して設けられ、一対の電極のうちの一方の電極を有する複数の膜形成領域のそれぞれにノズルから機能性材料を含む液体を液滴として予め定められた吐出回数で吐出する試験吐出工程と、膜形成領域に吐出された液体を固化して機能性材料からなる機能膜を形成する機能膜形成工程と、機能膜を覆うように一対の電極のうちの他方の電極を形成する電極形成工程と、膜形成領域ごとの機能膜の電気特性を一対の電極を介して計測する計測工程と、計測された電気特性の結果に基づいて、機能膜の膜厚を求める膜厚算出工程と、求められた機能膜の膜厚に基づいて、液滴のノズルごとの吐出量を求める吐出量算出工程と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出におけるノズルごとの吐出量の計測方法、これを用いた電気光学装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)装置などの電気光学装置の製造方法として液滴吐出法が採用されている。液滴吐出法は、基板上に設けられた膜形成領域にインクジェットヘッドなどの吐出ヘッドのノズルから機能性材料を含む液体を液滴として吐出し、吐出された液体を乾燥させ固化することにより上記機能性材料からなる機能膜を形成する方法である。
機能膜としては、例えば、液晶装置では画素を構成するカラーフィルターであり、有機EL装置では発光層である。
【0003】
上記吐出ヘッドは一般的に複数のノズルを有し、ノズルごとに1回の吐出における液滴の吐出量は必ずしも一定でなく、ばらつきを有している。それゆえに、ノズルごとの吐出量のばらつきに起因した塗布むらが生ずると、例えば、カラーフィルターでは色むらとなり、発光層では発光むらを招くおそれがあった。
【0004】
この問題を解決するために、ノズルごとの吐出量を特定する方法として、例えば特許文献1には、着弾した液滴の上方からレーザー光を照射して表面からの反射レーザー光を観測することにより、液滴の体積を測定する方法が記載されている。
また、特許文献2には、着弾した液滴に光を照射し、液滴から発した蛍光または燐光を検出して液滴の吐出量を測定する方法が記載されている。
この他にも、画素上に液滴を吐出して形成された薄膜について、画素電流から体積を測定する方法(特許文献3)や、着弾後の液滴をある程度乾燥させ、体積が安定した状態で画像認識により液滴の体積を測定する方法(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−121401号公報
【特許文献2】特開2007−179880号公報
【特許文献3】特開2007−326003号公報
【特許文献4】特開2008−298690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、上記のような機能膜に求められる膜の均一性は年々高まっており、例えば有機EL装置における発光層の発光むらを改善するには、ノズルごとの吐出量のばらつきを的確に測定可能であることが求められ、従来の方法では、困難であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例のノズルごとの吐出量の計測方法は、液体を複数のノズルのそれぞれから吐出可能な吐出ヘッドにおける前記液体のノズルごとの吐出量の計測方法であって、前記吐出ヘッドにおける前記複数のノズルの配置に対応して設けられ、一対の電極のうちの一方の電極を有する複数の膜形成領域のそれぞれに前記ノズルから機能性材料を含む前記液体を液滴として予め定められた吐出回数で吐出する吐出工程と、前記膜形成領域に吐出された前記液体を固化して前記機能性材料からなる機能膜を形成する機能膜形成工程と、前記機能膜を覆うように前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する電極形成工程と、前記膜形成領域ごとに前記一対の電極間に挟まれた前記機能膜の電気特性を前記一対の電極を介して計測する計測工程と、計測された前記電気特性の結果に基づいて、前記機能膜の膜厚を求める膜厚算出工程と、求められた前記機能膜の膜厚に基づいて、前記液滴の前記ノズルごとの吐出量を求める吐出量算出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
機能膜の膜厚は、膜形成領域に吐出された機能性材料を含む液体の量によって決まり、当該液体の量は、ノズルから吐出された液滴の吐出量と吐出回数の積として求められる。
この方法によれば、機能膜の膜厚と電気特性とが相関関係を有する場合、計測工程で膜形成領域ごとに形成された機能膜の電気特性を計測した結果から当該機能膜の膜厚を求めることができる。複数の膜形成領域の配置は、吐出ヘッドにおける複数のノズルの配置に対応している。それゆえに、吐出量算出工程では、膜形成領域ごとに形成された機能膜の膜厚からノズルごとに吐出された液滴の吐出量を求めることができる。したがって、機能性材料を含む液体の量および液滴の吐出量としての体積や重量を直接計測して求めずに、機能膜として実際に求められる電気特性に基づいて間接的に計測して求めるので、適正な計測結果によりノズルごとの吐出量を特定することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記複数のノズルから同じ吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、複数のノズルから同じ吐出タイミングで液滴を吐出した場合のノズルごとの吐出量を求めることができる。つまり、ノズル間の電気的または機械的なクロストークを反映した吐出量を求めることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記複数のノズルのうち隣り合うノズルから異なる吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、複数のノズルの隣り合うノズルから異なる吐出タイミングで液滴を吐出した場合のノズルごとの吐出量を求めることができる。つまり、ノズル間の電気的または機械的なクロストークを排除した状態の吐出量を求めることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記液滴の吐出回数を変えて吐出を行うことを特徴とする。
この方法によれば、液滴の吐出回数を異ならせたときのノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0013】
[適用例5]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記計測工程おける前記機能膜の電気特性の計測に際して、前記機能膜の電気抵抗が前記一対の電極を含む配線抵抗よりも高くなる前記機能膜の膜厚設定に基づいて、前記液滴の吐出回数を規定することが好ましい。
この方法によれば、計測工程における機能膜の電気特性の計測を適正に行うことができる。
【0014】
[適用例6]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、異なる環境条件下で前記ノズルから前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、例えば温度や湿度など環境条件の変化によるノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0015】
[適用例7]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出ヘッドは、前記液体を前記液滴として前記ノズルから吐出させる吐出手段としての圧電素子を有し、前記吐出工程では、前記ノズルごとの前記圧電素子に印加する駆動波形を変えて前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、圧電素子に印加される駆動波形を変えたときのノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0016】
[適用例8]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電圧を印加したときの前記機能膜を流れる電流を計測することを特徴とする。
この方法によれば、機能膜の電気特性としての一定電圧印加時の電流変化に基づいて、ノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0017】
[適用例9]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電流を流したときの前記機能膜に印加された電圧を計測することを特徴とする。
この方法によれば、機能膜の電気特性としての一定電流を流したときの電圧変化に基づいて、ノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0018】
[適用例10]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記機能性材料が正孔輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が正孔注入性を有することが好ましい。
この方法によれば、正孔輸送性を有する機能膜の電気特性を適正に計測することができる。
【0019】
[適用例11]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記機能性材料が電子輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が電子注入性を有することが好ましい。
この方法によれば、電子輸送性を有する機能膜の電気特性を適正に計測することができる。
【0020】
[適用例12]本適用例の電気光学装置の製造方法は、基板上の膜形成領域に機能膜を有する電気光学装置の製造方法であって、上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法を用い、求められた前記ノズルごとの吐出量の情報から前記ノズルごとに前記吐出量が所定の値となるように、前記ノズルごとに設けられた吐出手段の駆動条件を補正する補正工程と、前記ノズルから前記膜形成領域に機能性材料を含む液体を液滴として補正された前記吐出量で所定の回数吐出する塗布工程と、前記膜形成領域に塗布された前記液体を固化して前記機能膜を形成する機能膜形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
この方法によれば、上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法を用いているので、吐出ヘッドから吐出される液滴の吐出量がノズルごとに適正な状態で求められる。これに基づいて、補正工程では、液滴の吐出量がノズルごとに所定の値(ねらいの値)となるように補正され、塗布工程では、補正された吐出量でノズルから液滴が吐出される。したがって、機能膜形成工程では、膜形成領域ごとにばらつきが抑制された状態で機能膜を形成することができる。つまり、所望の電気光学特性を有する電気光学装置を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は吐出ヘッドを示す概略斜視図、(b)は吐出ヘッドのノズル面におけるノズルの配置を示す概略平面図。
【図2】吐出ヘッドの吐出手段に印加される駆動波形を示すタイミングチャート。
【図3】ノズルごとの吐出量の計測方法を示すフローチャート。
【図4】(a)〜(d)はノズルごとの吐出量の計測方法を説明する概略図。
【図5】(a)および(b)はノズルごとの吐出量の計測方法を説明する概略図。
【図6】実施例1における液体量の変化率と電流値の変化率との関係を示すグラフ。
【図7】実施例1におけるノズルごとの電流値の変化率を示すグラフ。
【図8】実施例1におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフ。
【図9】実施例2における液体量の変化率と電圧値の変化率との関係を示すグラフ。
【図10】実施例2におけるノズルごとの電圧値の変化率を示すグラフ。
【図11】実施例2におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフ。
【図12】有機EL装置を示す概略正面図。
【図13】有機EL装置の要部概略断面図。
【図14】有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図15】(a)〜(d)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図16】(e)〜(h)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0024】
(第1実施形態)
<吐出ヘッド>
まず、本実施形態のノズルごとの吐出量の計測方法が適用される吐出ヘッドの一例について、図1および図2を参照して説明する。図1(a)は吐出ヘッドを示す概略斜視図、同図(b)は吐出ヘッドのノズル面におけるノズルの配置を示す概略平面図、図2は吐出ヘッドの吐出手段に印加される駆動波形を示すタイミングチャートである。
【0025】
図1(a)に示すように、本実施形態の吐出ヘッド50は、所謂2連のものであり、2連の接続針54を有する液体の導入部53と、導入部53に積層されたヘッド基板55と、ヘッド基板55上に配置され内部に液体のヘッド内流路が形成されたヘッド本体56とを備えている。接続針54は、液体供給機構に配管を経由して接続され、液体をヘッド内流路に供給する。ヘッド基板55には、フレキシブルフラットケーブル(図示省略)を介して外部駆動回路に接続される2連のコネクター58が設けられている。
【0026】
ヘッド本体56は、吐出手段としての圧電素子で構成されたキャビティを有する加圧部57と、ノズル面51aに2つのノズル列52a,52bが相互に平行に形成されたノズルプレート51とを有している。
【0027】
図1(b)に示すように、2つのノズル列52a,52bは、それぞれ複数(180個)のノズル52がピッチP1でほぼ等間隔に並べられており、互いにピッチP1の半分のピッチP2ずれた状態でノズル面51aに配設されている。この場合、ピッチP1は、およそ141μmである。よって、ノズル列52cに直交する方向から見ると360個のノズル52がおよそ70.5μmのノズルピッチで配列した状態となっている。また、ノズル52の径は、およそ27μmである。
【0028】
吐出ヘッド50は、外部駆動回路から電気信号としての駆動信号が圧電素子に印加されると加圧部57のキャビティの体積変動が起こり、これによるポンプ作用でキャビティに充填された液体が加圧され、ノズル52から液体を液滴として吐出することができる。
【0029】
吐出ヘッド50における吐出手段は、圧電素子に限らない。アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、充填された液体を加熱してノズル52から液滴として吐出させる電気熱変換素子(サーマル方式)でもよい。
【0030】
図2に示すように、複数のノズル52に対応して配設された吐出手段としての圧電素子には、ラッチ信号LATのタイミングでラッチされたノズル52ごとのON/OFFデータ(吐出データ)に従い、3つの駆動波形PL1,PL2,PL3のうちから1つが選択されて供給される。そして、駆動波形が供給されるタイミングで、ノズル52から液滴が吐出される。なお、各駆動波形は、圧電素子に供給されることで規定量の液滴が吐出されるように設計されている。
【0031】
駆動波形の選択は、駆動波形の供給タイミングを規定する制御信号CH1〜CH3により行われる。すなわち、制御信号CH1によって第1系統のタイミングの駆動波形PL1が、制御信号CH2によって第2系統のタイミングの駆動波形PL2が、制御信号CH3によって第3系統のタイミングの駆動波形PL3がそれぞれ選択される。
【0032】
本実施形態では、隣り合うノズル52に対応する圧電素子に、駆動波形の供給タイミングの系統(ラッチ信号LATを基準とした相対的な序列)を個々に対応づけることにより、吐出タイミングの重複が起こりえないように駆動波形を印加することが可能である。このような駆動波形の駆動手段(圧電素子)に対する印加の方法を時分割駆動という。時分割駆動により、電気的または機械的なクロストークが好適に低減され、クロストークに起因するノズル52間の吐出特性(液滴の吐出量や吐出速度など)のバラツキが相対的に緩和される。
また、各系統のタイミングは周期的となっているため、吐出条件が各吐出タイミング間で一様となり、液滴の吐出量を主走査方向(吐出ヘッド50と被吐出物とを相対的に移動させて吐出する場合の移動方向)に対して安定化させることができる。
また、ラッチ信号LATの1周期内(1ラッチ内)において、3つの駆動波形PL1,PL2,PL3が発生するので、同一の圧電素子に1ラッチ内で3つの駆動波形PL1,PL2,PL3を印加すれば、同一ノズル52から吐出タイミングを変えて3滴の液滴を吐出することができる。
さらに、1ラッチ内の3つの駆動波形PL1,PL2,PL3をそれぞれ別の圧電素子に印加すれば、3つのノズル52から液滴を異なる吐出タイミングで吐出することができる。すなわち、3つのノズル52が時分割駆動される。
また、駆動波形PL1,PL2,PL3において、振幅の幅(実質的には中間電位との間の電位差すなわち駆動電圧)や波形の勾配などをそれぞれ変えることによって、ノズル52から吐出される液滴の吐出量を異ならせることが可能である。言い換えれば、同一ノズル52の圧電素子に異なる形状の駆動波形PL1,PL2,PL3のうち1つを選択して印加すれば液滴の吐出量の補正が可能である。
以降、ノズル52の圧電素子に駆動波形を印加することを、ノズル52に駆動波形を印加すると表現する。
【0033】
このような吐出ヘッド50を用いて、機能性材料を含む液体を液滴として膜形成領域に吐出して機能膜を形成する方法は、液滴吐出法(インクジェット法)と呼ばれている。
吐出ヘッド50には、前述したように複数のノズル52が設けられており、各ノズル52に同一の駆動波形を印加して液滴を吐出させたときの液滴の吐出量(体積または重量)は、ノズル52ごとに必ずしも一定しているわけでなくばらつきを有している。
例えば、複数の膜形成領域に対して、それぞれ異なるノズル52から液滴を吐出すると、膜形成領域ごとに塗布された液体の総量(以降、液体量と呼ぶ)が異なることがある。液体量が膜形成領域ごとに異なれば、当然ながら膜形成領域ごとに形成された機能膜の膜厚も異なってしまう。膜形成領域ごとに機能膜の膜厚ばらつきが許容範囲内ならば問題がないが、許容範囲を超えて膜厚が薄くなったり、厚くなったりすると、機能膜における所望の特性が得られないおそれがある。
それゆえに、従来は、例えば、ノズル52から吐出された液体の体積や重量を直接計測して、ノズル52ごとの液滴の吐出量のばらつきを求めていた。ところが、上記吐出ヘッド50のノズル52から吐出される1つの液滴の体積は、pl(ピコリットル)を単位とするものである。よって、直接計測することは計測器の計測精度に依存するので、実際には数百〜数千あるいは数万回の吐出を行って、吐出された液体量を計測し、その計測結果を吐出回数で除することにより吐出回数が1回あたり(すなわち1滴あたり)の液滴の吐出量を求めていた。しかしながら、複数回に亘って吐出を繰り返すうちに液体から溶媒が蒸発して液体の体積または重量が変化すると、吐出時の液滴の吐出量を正確に求めることは困難であった。
そこで、発明者は、ノズル52ごとの液滴の吐出量をより正確にまた適正に求める計測方法を開発したので、本発明について実施形態を参照して説明する。
【0034】
<ノズルごとの吐出量の計測方法>
本実施形態のノズルごとの吐出量の計測方法について、図3〜図5を参照して説明する。図3はノズルごとの吐出量の計測方法を示すフローチャート、図4(a)〜(d)および図5(a)および(b)はノズルごとの吐出量の計測方法を説明する概略図。
【0035】
図3に示すように、本実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法は、評価用基板準備工程(ステップS1)と、試験吐出工程(ステップS2)と、機能膜形成工程(ステップS3)と、電極形成工程(ステップS4)と、機能膜の電気特性を計測する計測工程(ステップS5)と、機能膜の膜厚算出工程(ステップS6)と、ノズル52ごとの吐出量を算出する吐出量算出工程(ステップS7)とを備えている。
【0036】
ステップS1の評価用基板準備工程では、図4(a)および(b)に示すように、評価用基板1を準備する。評価用基板1は、例えばガラス基板であって、その表面に吐出ヘッド50における複数のノズル52の配置(図1(b)参照)と同じ位置関係で配置された複数の一方の電極としての第1電極2と、第1電極2に接続する配線5と、第1電極2の外縁を覆うと共に第1電極2上に開口する開口部3aを有する下層隔壁3と、下層隔壁3上に設けられ第1電極2上に開口する開口部4aを有する上層隔壁4と、を備えている。
【0037】
第1電極2は、例えばITOなどの透明導電膜や金属または合金、あるいはこれら導電膜の積層構造を用いることができる。また、複数のノズル52の数に相当する数の第1電極2が評価用基板1上に設けられている。
【0038】
第1電極2に接続された配線5は、第1電極2と同じ材料および構造または第1電極2よりも低抵抗な配線材料を用いることができる。第1電極2に対して電圧を印加するために、一方の端部が評価用基板1の1辺部側に引き出されて略等間隔で配列し、導体面が露出することにより外部接続用の端子を構成している。
【0039】
下層隔壁3は、絶縁材料からなり、機能性材料を含む液体に対して親液性を示すことが望ましく、例えば無機絶縁材料であるシリコンの酸化物などを用いる。
下層隔壁3の形成方法としては、開口部3aに相当する部分をマスキングして無機絶縁材料を蒸着する法や、無機絶縁材料を含む液体を塗布して乾燥・焼成する液相法などが挙げられる。下層隔壁3の厚みは、およそ50nm〜100nmである。
【0040】
上層隔壁4は、同じく絶縁材料からなり、機能性材料を含む液体を保持する開口部4aを形成する観点から、撥液性を示すことが望ましく、例えば有機絶縁材料を用いる。
上層隔壁4の形成方法としては、上記有機絶縁材料を含む感光性樹脂材料をスピンコートなどにより全面に塗布して、これを露光・現像することにより開口部4aを形成する方法が挙げられる。上層隔壁4の厚みは、およそ1.0μm〜2.0μmである。
【0041】
第1電極2の平面的な外形は、この場合、略円形であるがこれに限定されるものではない。一方で機能性材料を含む液体が保持される開口部4a(開口部3aを含む)は、液体が開口部4aに塗布されたときに万遍なく行き渡ることを考慮して平面的な開口形状が円形もしくは楕円形であることが望ましい。この場合、開口部3aの大きさはおよそφ25μm、開口部4aの大きさはおよそφ30μmである。すなわち、第1電極2の平面的な大きさはφ25μmよりも大きい。
また、前述したように第1電極2は吐出ヘッド50における複数のノズル52の平面的な配置に対応して配置されているので、千鳥に配置された複数の第1電極2の列方向における配置ピッチはおよそ70.5μmである。そして、ステップS2へ進む。
【0042】
ステップS2の試験吐出工程(吐出工程)では、図4(c)に示すように、評価用基板1と吐出ヘッド50とを対向配置して、ノズル52から機能性材料を含む液体10を液滴として膜形成領域としての開口部4aに吐出する。このときの対向配置された吐出ヘッド50と評価用基板1との距離、つまりノズル面と上層隔壁4との距離は、およそ1.0mmである。開口部4aに吐出する液体10の液体量は、液滴の吐出量と吐出回数とによって決まる。開口部4aが平面的に円形となっているので、開口部4aに吐出された液体10は、むらなく行き渡る。このようにして各開口部4aに対して対応するそれぞれのノズル52から液体10が塗布される。なお、第1電極2上が液体10に対して親液性を有していることが望ましいので、液体10を吐出する前に、第1電極2の表面を親液化する表面処理を施してもよい。親液化処理の方法としては例えば酸素を処理ガスとするプラズマ処理が挙げられる。
また、上層隔壁4が液体10に対して撥液性を有していることが望ましいので、上層隔壁4に撥液性を施す表面処理を上記親液化処理の後に実施してもよい。撥液化処理の方法としては例えばフッ素を含む処理ガスを用いるプラズマ処理や撥液剤が形成されたフィルムをラミネート処理により上層隔壁4上に転写する方法などが挙げられる。このような撥液化処理によれば、有機絶縁材料からなる上層隔壁4の表面を選択的に撥液化できる。なお、上層隔壁4自体が撥液性を有する材質である場合には本撥液処理は必要ない。そして、ステップS3へ進む。
【0043】
ステップS3の機能膜形成工程では、図4(d)に示すように、開口部4aに塗布された液体10から溶媒成分を除去し、これを固化して機能膜11を形成する。固化の方法としては、各開口部4aに液体10が塗布された評価用基板1を真空下で溶媒除去する方法や、ホットプレート上に載置して加熱する方法が挙げられる。また、ランプから赤外線を照射するランプアニールなどの方法を用いてもよい。そして、ステップS4へ進む。
【0044】
ステップS4の電極形成工程では、図5(a)および(b)に示すように、各開口部4aに形成されたそれぞれの機能膜11を覆うように一対の電極のうちの他方の電極である第2電極6を形成する。第2電極6は、個々に独立して設けられた第1電極2に対して共通電極としての機能を果たすように、平面的に上層隔壁4の少なくとも一部を覆って設けられている。なお、平面的に上層隔壁4の全面を覆うように第2電極6を設けてもよい。
第2電極6を形成する材料としては、配線5と同様に低抵抗な配線材料を用いる。そして、ステップS5へ進む。
【0045】
ステップS5の計測工程では、図5(a)および(b)に示すように、各開口部4aに形成された機能膜11のそれぞれについて電気特性を計測する。具体的には、第1電極2と第2電極6との間に一定電圧を印加して機能膜11を流れる電流を計測する方法と、第1電極2と第2電極6との間に電圧を印加して、機能膜11に一定の電流が流れたときの電圧を計測する方法とが挙げられる。詳細については、後述する実施例において述べる。電流または電圧の計測は、従来の計測機器を用いて行うことができる。そして、ステップS6へ進む。
【0046】
ステップS6の膜厚算出工程では、機能膜11の膜厚と電気特性との関係を予め実測して求めた情報を基にして、計測工程で得られた機能膜11の電気特性の結果から機能膜11の膜厚を算出して求める。そして、ステップS7へ進む。
【0047】
ステップS7の吐出量算出工程では、膜厚算出工程で得られた機能膜11の膜厚情報から、液体10の液滴の吐出量Eaを算出する。機能膜11の膜厚tが分かれば、開口部4aにおける機能膜11の体積Vを算出できる。つまり、開口部4aの平面積sに膜厚tを乗じたものが体積Vとなる。体積Vに機能性材料の比重dを乗ずれば機能膜11の重量Wを求めることができる。液体10における固形分である機能性材料の含有量c(wt%)が判明しているので、重量Wを該含有量cで除すれば開口部4aに吐出された液体10の体積すなわち液体量VLを求めることができる。液体量VLを試験吐出工程における液滴の吐出回数nで除すれば吐出量Eaを求めることができる。数式で表せば次の通りである。
【0048】
Ea=VL/n・・・・(1)
VL=W/c・・・・・(2)
W=V×d・・・・・・(3)
V=t×s・・・・・・(4)
したがって、数式(1)に数式(2)〜(4)を代入すると、
Ea=(t×s×d)/(c×n)・・・・(5)となる。
【0049】
上記計測方法によれば、機能膜11の電気特性を計測することにより、機能膜11の膜厚を特定して、結果的にノズル52ごとの吐出量Eaを求めることができる。前述したように複数のノズル52の吐出量Eaは必ずしも一定ではなくばらつきを有している。
また、実際に液滴吐出法を用いて電気光学装置の機能膜を形成する場合には、機能性材料を含む液体の吐出条件などによってノズル52の吐出量Eaがばらつくことが考えられる。したがって、より実際の機能膜の形成条件を考慮して試験吐出を行うことが望ましい。
【0050】
具体的には、電気光学装置において機能膜が形成される膜形成領域の大きさや形状は様々であり、吐出ヘッド50の複数のノズル52のうちどのノズル52を用いて液体の吐出を行うかは、膜形成領域に対する吐出ヘッド50の相対的な主走査による。
【0051】
よって、上記形成条件の1つは、複数のノズル52から液滴を吐出する吐出タイミングに関する。すなわち、複数のノズル52から同時に(同じ吐出タイミングで)液滴を吐出する場合と、隣り合うノズル52から異なる吐出タイミングで液滴を吐出する場合とに大別できる。
【0052】
より具体的には、試験吐出工程において、各ノズル52に対して同じ吐出タイミングで同じ駆動波形を印加して所定の吐出回数で液滴を吐出させ、形成された機能膜11の電気特性を計測して液滴の吐出量Eaを求めると、複数のノズル52における電気的および機械的なクロストークを考慮したノズル52ごとの吐出量Eaのばらつきを検出できる。
さらには、同時に液滴を吐出するノズル52の数を変えることにより、吐出ヘッド50の駆動における負荷の違いによるノズル52の吐出量Eaのばらつきも検出可能である。
【0053】
また、試験吐出工程において、複数のノズル52のうち隣り合うノズル52に異なる吐出タイミングで同じ駆動波形を印加して所定の吐出回数で液滴を吐出させ、形成された機能膜11の電気特性を計測して液滴の吐出量Eaを求めると、複数のノズル52における電気的および機械的なクロストークの影響を低減したノズル52ごとの吐出量Eaのばらつきを検出できる。
【0054】
また、上記形成条件の他の1つは、吐出回数nである。1つのノズル52からほぼ連続的に液滴を吐出するのか、間欠的に液滴を吐出するのかによっても液滴の吐出量Eaがばらつくことがある。吐出回数nを変えると開口部4aにおける機能膜11の膜厚が変動することになるが、吐出回数nを変えて形成した機能膜11の電気特性を計測することで、吐出回数nに起因するノズル52ごとの吐出量Eaのばらつき、言い換えれば吐出量Eaの安定性を評価できる。
【0055】
また、上記形成条件の他にも次のような吐出量Eaのばらつきに結びつく因子を考慮して、試験吐出を行うことが望ましい。
上記因子としては、ノズル52に印加される駆動波形の違い(つまり1つのノズル52に異なる波形の駆動波形を印加してみる)、液滴を吐出するときの温度や湿度などの環境条件などの違いが挙げられる。
このように個々の因子を変えるだけでなく、複数の因子を組み合わせて評価し、実際に機能膜を形成する条件を考慮して、ノズル52ごとの吐出量Eaのばらつきを総合的(多面的)に特定することが望ましい。
【0056】
なお、ノズル52から吐出される液体に含まれる機能性材料の種類や溶媒などの構成が異なれば、液体の粘度やチクソ性などが変化して、液滴の吐出量Eaにも影響を及ぼすことは言うまでもない。したがって、液体ごとにノズル52ごとの吐出量Eaを求める。
【0057】
次に、実施例を挙げてより具体的に説明する。実施例1は電気特性として一定電圧を印加したときの第1電極2と第2電極6とに挟まれた機能膜11を流れる電流を計測して、ノズル52の吐出量Eaを求めたものである。
【0058】
(実施例1)
液体は、溶媒としてのテトラメチルベンゼンに、青色発光材料(TFB;poly(2,7-(9,9-di-n-octylfluorene)-alt-(1,4-phenylene-((4-sec-butylphenyl)imino-1,4-phenylene))))を1.0wt含んだものを用いた。評価用基板1における第1電極2はITO(Indium Tin Oxde)を用いて形成した。TFBは正孔輸送性を有するため、正孔輸送層としても用いられている。それゆえに、一対の電極のうち少なくとも一方の電極は正孔注入性を有する材料を用いることが、TFBからなる機能膜の電気特性を正確且つ適正に計測する観点で望ましい。ITOは正孔注入性を有している。また、正孔注入性を有する導電膜材料はこれに限らず、仕事関数が4.5evよりも大きな導電膜材料が好ましく、例えばIZO(Indium Zinc Oxide)でもよい。また、一方の電極が仕事関数が4.5evよりも大きくなるように表面処理(O2プラズマ処理、UVオゾン処理)を施してもよい。
【0059】
試験吐出工程(ステップS2)では、評価用基板1への親液及び撥液処理を施した後、複数のノズル52のそれぞれに同じ吐出タイミングで同じ駆動波形を印加し、評価用基板1の各開口部4aに上記液体を液滴として吐出した。吐出回数nは5回である。機能膜形成工程では、吐出された上記液体を真空乾燥により固化させることにより、開口部4aにおいておよそ80nmの膜厚の機能膜11を形成した。計測工程では、各開口部4aに形成された機能膜11に一定電圧を印加したときの電流値を計測した。
【0060】
図6は実施例1における液体量の変化率と電流値の変化率との関係を示すグラフ、図7は実施例1におけるノズルごとの電流値の変化率を示すグラフ、図8は実施例1におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフである。
【0061】
図6における液体量および電流値の変化率は、複数の評価用基板1を作成し、機能膜11の膜厚(すなわち液体量)と電流値とを実際に計測した結果に基づいて、膜厚の平均値を100%として表したものである。
図6に示すように、機能膜11の膜厚が平均値(この場合は、およそ80nm)に対して80%〜120%の範囲で変化すると、一定電圧を印加したときの電流値が膜厚の平均値に対しておよそ50%〜200%の範囲で変化することが分かる。つまり、実施例1の液体における開口部4aに吐出された液体量と機能膜11の電流値とは相関関係を有している。これは、実施例1の機能膜11における電気特性の1つを示すものである。
【0062】
図6に示した相関関係に対して、上記したように、試験吐出工程で複数のノズル52のそれぞれから液滴を5回の吐出回数で吐出し、形成された各開口部4aごとの機能膜11における電流値を計測した結果を示すものが図7である。各開口部4aごとの機能膜11とはつまり複数のノズル52に対応するものであって、図7では各ノズル52に与えられたノズルNoが横軸となっている。縦軸の電流値はそれぞれの機能膜11の電流値の測定結果の平均値を100%として、ノズルNoごとの変化率として示されている。
【0063】
前述したように電気特性(電流値)の計測結果から図6の相関関係を基に、ノズルNoに対応する機能膜11の膜厚すなわち液体量を求めることができる。そして、図8に示すようにノズルNoごとの液体量から液滴の吐出量を求めることができる。
【0064】
図8によれば、複数のノズル52における吐出量は、平均値の100%を基準とすると、およそ−3%〜+8%の範囲でばらついている。特にノズル列の両端側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して大きく、ノズル列の中央側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して小さくなる傾向を有していることが分かる。このような吐出量の傾向は、吐出ヘッド50における複数のノズル52のそれぞれに繋がる液体の流路の構造に起因していると考えられる。
【0065】
(実施例2)
実施例2は、実施例1に対して、計測工程における電気特性を異ならせたものでる。具体的には、電気特性として第1電極2と第2電極6とに挟まれた機能膜11を流れる電流が一定の値になったときの印加電圧を計測して、ノズル52の吐出量を求めたものである。
【0066】
図9は実施例2における液体量の変化率と電圧値の変化率との関係を示すグラフ、図10は実施例2におけるノズルごとの電圧値の変化率を示すグラフ、図11は実施例2におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフである。
【0067】
図9における液体量および電圧値の変化率は、複数の評価用基板1を作成し、機能膜11の膜厚(すなわち液体量)と電圧値とを実際に計測した結果に基づいて、膜厚の平均値を100%として表したものである。
図9に示すように、機能膜11の膜厚が平均値(この場合は、およそ80nm)に対して80%〜120%の範囲で変化すると、機能膜11に一定電流を流したときの電圧値が膜厚の平均値に対しておよそ94%〜106%の範囲で変化することが分かる。つまり、実施例2の液体(実施例1と同じ)における開口部4aに吐出された液体量と機能膜11の電圧値とは相関関係を有している。これは、当該機能膜11における電気特性の他の1つを示すものである。
【0068】
図9に示した相関関係に対して、上記したように、試験吐出工程で複数のノズル52のそれぞれから液滴を5回の吐出回数で吐出し、形成された各開口部4aごとの機能膜11における電圧値を計測した結果を示すものが図10である。各開口部4aごとの機能膜11とはつまり複数のノズル52に対応するものであって、図10では各ノズル52に与えられたノズルNoが横軸となっている。縦軸の電圧値はそれぞれの機能膜11の電圧値の測定結果の平均値を100%として、ノズルNoごとの変化率として示されている。
【0069】
前述したように電気特性(電圧値)の計測結果から図9の相関関係を基に、ノズルNoに対応する機能膜11の膜厚すなわち液体量を求めることができる。そして、図11に示すように、ノズルNoごとの液体量から液滴の吐出量を求めることができる。
【0070】
図11によれば、複数のノズル52における吐出量は、平均値の100%を基準とすると、およそ−4%〜+6%の範囲でばらついている。また、実施例1で求められた吐出量のばらつき傾向と同様に、ノズル列の両端側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して大きく、ノズル列の中央側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して小さくなる傾向を有していることが分かる。
【0071】
実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2における液体量(膜厚)と電圧値との相関関係の方が、液体量(膜厚)と電流値との相関関係に比べて、上記膜厚の変化範囲では、よりリニア(直線的)な相関関係であることが分かる。
【0072】
本実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法によれば、評価用基板1の開口部4aに液滴吐出法を用いて形成された機能膜11の電気特性を計測することにより、機能膜11を形成する際に用いられたノズル52の吐出量を求めることができる。
当該吐出量は、ノズル52から吐出される液体の液滴の体積であって、吐出された液滴の体積を例えば画像処理などの方法を用いて直接計測する場合に比べて、液滴からの溶媒の蒸発による体積の変動や、被吐出物に着弾した後の液滴の形状ばらつきなどの影響を受けずに、正確且つ適正に液滴の体積を求めることができる。
【0073】
なお、上記ノズル52ごとの吐出量の計測方法を適用するには、機能膜11における膜厚と電気特性との間に何らかの相関関係を有することが前提である。また、当該相関関係を導くことが可能な膜厚となるように液体における機能性材料の含有量や液滴の吐出回数を設定することが必要である。
さらには、計測工程において機能膜11の電気特性を計測する計測回路を構成する第1電極2と配線5および第2電極6を含む配線抵抗が、機能膜11自体の電気抵抗よりも十分に低くなるように、当該電極や配線を形成しておくことが重要である。言い換えれば、機能膜11自体の電気抵抗が当該電極や配線の配線抵抗よりも高くなるように、膜厚を設定してもよい。これにより、配線抵抗の影響を小さくして、より正確に機能膜11の電気特性を計測できる。
【0074】
(第2実施形態)
次に、上記ノズル52ごとの吐出量の計測方法を適用した電気光学装置の製造方法について説明する。本実施形態では電気光学装置として複数の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を有する有機EL装置を例に挙げて説明する。
【0075】
<有機EL装置>
まず、本実施形態の電気光学装置としての有機EL装置について説明する。図12は有機EL装置を示す概略正面図、図13は有機EL装置の要部概略断面図である。
【0076】
図12に示すように、本実施形態の有機EL装置100は、R(赤)、G(緑)、B(青)、3色の発光画素107を備えた素子基板101と、素子基板101に所定の間隔を置いて対向配置された封止基板102とを備えている。封止基板102は、複数の発光画素107が設けられた発光領域106を封着するように、高い気密性を有する封着剤を用いて素子基板101に接合されている。
【0077】
発光画素107は、後述する発光素子としての有機EL素子112(図13参照)を備えるものであって、同色の発光が得られる発光画素107が、図面上の縦方向に配列した所謂ストライプ方式となっている。なお、実際には、発光画素107は微細なものであり、図示の都合上拡大して現している。
【0078】
素子基板101は、封止基板102よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、発光画素107を駆動する2つの走査線駆動回路部103と1つのデータ線駆動回路部104が設けられている。走査線駆動回路部103、データ線駆動回路部104は、例えば、電気回路が集積されたICとして素子基板101に実装してもよいし、当該駆動回路部103,104を素子基板101の表面に直接形成してもよい。
【0079】
素子基板101の端子部101aには、これらの駆動回路部103,104と外部駆動回路とを接続するための中継基板105が実装されている。中継基板105は、例えば、フレキシブル回路基板などを用いることができる。
【0080】
図13に示すように、有機EL装置100において、有機EL素子112は、画素電極としての陽極131と、陽極131を区画する隔壁部133と、陽極131上に形成された有機膜からなる発光層を含む機能層132とを有している。また、機能層132を介して陽極131と対向するように形成された共通電極としての陰極134を有している。
【0081】
隔壁部133は、アクリルまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、発光画素107を構成する陽極131の周囲を一部覆って、複数の陽極131をそれぞれ区画するように設けられている。
【0082】
陽極131は、素子基板101上に形成されたTFT素子108の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極131の下層(平坦化層128側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層132における発光を封止基板102側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極131自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0083】
陰極134は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0084】
本実施形態の有機EL装置100は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極131と陰極134との間に駆動電流を流して機能層132で発光した光を上記反射層で反射させて封止基板102側から取り出す。したがって、封止基板102は透明なガラスなどからなる基板を用いる。また、素子基板101は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナなどのセラミックス、ステンレススチールなどの金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0085】
素子基板101には、有機EL素子112を駆動する回路部111が設けられている。すなわち、素子基板101の表面にはSiO2を主体とする下地保護層121が下地として形成され、その上にはシリコン層122が形成されている。このシリコン層122の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層123が形成されている。
【0086】
また、シリコン層122のうち、ゲート絶縁層123を挟んでゲート電極126と重なる領域がチャネル領域122aとされている。なお、このゲート電極126は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層122を覆い、ゲート電極126を形成したゲート絶縁層123の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層127が形成されている。
【0087】
また、シリコン層122のうち、チャネル領域122aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域122cが設けられる一方、チャネル領域122aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域122bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域122cは、ゲート絶縁層123と第1層間絶縁層127とにわたって開孔するコンタクトホール125aを介して、ソース電極125に接続されている。このソース電極125は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域122bは、ゲート絶縁層123と第1層間絶縁層127とにわたって開孔するコンタクトホール124aを介して、ソース電極125と同一層からなるドレイン電極124に接続されている。
【0088】
ソース電極125およびドレイン電極124が形成された第1層間絶縁層127の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層128が形成されている。この平坦化層128は、アクリル系やポリイミド系などの、耐熱性絶縁性樹脂によって形成されたもので、TFT素子108やソース電極125、ドレイン電極124などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0089】
そして、陽極131が、この平坦化層128の表面上に形成されると共に、該平坦化層128に設けられたコンタクトホール128aを介してドレイン電極124に接続されている。すなわち、陽極131は、ドレイン電極124を介して、シリコン層122の高濃度ドレイン領域122bに接続されている。陰極134は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子108により、上記電源線から陽極131に供給され陰極134との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部111は、所望の有機EL素子112を発光させカラー表示を可能としている。
【0090】
なお、有機EL素子112を駆動する回路部111の構成は、これに限定されるものではない。
【0091】
機能層132は、有機膜からなる正孔注入層、中間層、発光層を含む複数の薄膜層からなり、陽極131側からこの順で積層されている。本実施形態において、これらの薄膜層は液滴吐出法(インクジェット法)を用いて成膜されている。
【0092】
正孔注入層の材料としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などのポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)や、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体を用いてもよい。
【0093】
中間層は、正孔注入層と発光層との間に設けられ、発光層に対する正孔の輸送性(注入性)を向上させると共に、発光層から正孔注入層に電子が浸入することを抑制するために設けられている。すなわち、発光層における正孔と電子との結合による発光の効率を改善するものである。中間層の材料としては、例えば、正孔輸送性が良好なトリフェニルアミン系ポリマーを含んだものが挙げられる。
【0094】
発光層の材料としては、例えば、赤色、緑色、青色の発光が得られるポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)などを用いることができる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリンなどの低分子材料をドープしてもよい。
【0095】
このような有機EL素子112を有する素子基板101は、透明な熱硬化型エポキシ樹脂などを封着部材として用いた封着層135を介して透明な封止基板102と隙間なくベタ封止されている。
【0096】
本実施形態の有機EL装置100は、後述する有機EL素子112の製造方法を用いて製造されており、発光層がほぼ一定の膜厚を有しているため、異なる発光色が得られる機能層132R,132G,132Bにおいてそれぞれ所望の発光特性が得られる。
【0097】
なお、本実施形態の有機EL装置100は、トップエミッション型に限定されず、共通電極としての陰極134を反射機能を有する不透明なAl(アルミニウム)などの導電材料を用いて成膜し、有機EL素子112の発光を陰極134で反射させて、素子基板101側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0098】
<有機EL装置の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL装置の製造方法について図14〜図16を参照して説明する。図14は有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図15(a)〜(d)および図16(e)〜(h)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。
【0099】
図14に示すように、本実施形態の有機EL装置の製造方法は、隔壁部形成工程(ステップS11)と、隔壁部が形成された基板に表面処理を施す表面処理工程(ステップS12)と、正孔注入層形成工程(ステップS13)と、中間層形成工程(ステップS14)と、発光層形成工程(ステップS15)と、陰極形成工程(ステップS16)と、有機EL素子が形成された素子基板101と封止基板102とを接合する封止基板接合工程(ステップS17)とを少なくとも備えている。なお、素子基板101上に回路部111(図13参照)を形成する工程や回路部111に電気的に接続した陽極131を形成する工程は、公知の製造方法を用いればよく、本実施形態では詳細の説明は省略する。したがって、図15(a)〜(d)および図16(e)〜(h)では、回路部111の図示を省略している。
【0100】
ステップS11の隔壁部形成工程では、図15(a)に示すように、陽極131の周囲の一部を覆って陽極131ごとを区画するように隔壁部133を形成する。形成方法としては、例えば、陽極131が形成された素子基板101の表面に、感光性のフェノール樹脂またはポリイミド樹脂をおよそ1μm〜3μm程度の厚みで塗布する。塗布方法としては、転写法、スリットコート法などが挙げられる。そして、発光画素107の形状に対応したマスクを用いて露光し、現像することにより複数の隔壁部133を形成することができる。以降、隔壁部133により区画された発光画素107の領域を膜形成領域Eと呼ぶ。なお、第1実施形態において説明したように、隔壁部133の下方に、陽極131の外縁部を覆う無機絶縁材料からなる下層隔壁を形成してもよい。そして、ステップS12へ進む。
【0101】
ステップS12の表面処理工程では、隔壁部133が形成された素子基板101の表面に親液処理と撥液処理とを施す。まず、酸素を処理ガスとするプラズマ処理を行い、主に無機材料からなる陽極131の表面に親液処理を施す。次に、CF4などのフッ素系ガスを処理ガスとするプラズマ処理を行い、有機材料からなる隔壁部133の表面にフッ素を導入して撥液処理を施す。そして、ステップS13へ進む。
【0102】
ステップS13の正孔注入層形成工程では、まず、図15(b)に示すように、正孔注入輸送層形成材料を含む液体70を膜形成領域Eに塗布する。液体70は、例えば、溶媒としてジエチレングリコールと水(純水)とを含んでおり、正孔注入層形成材料としてPEDOT/PSSを重量比で0.5%程度含んだものを用いた。粘度がおよそ20mPa・s以下となるように溶媒の割合が調整されている。
液体70を塗布する方法としては、第1実施形態において説明した液体(インク)を液滴として複数のノズル52から吐出可能な吐出ヘッド50を用いる。吐出ヘッド50とワークである素子基板101とを対向させ、吐出ヘッド50から液体70を吐出する。吐出された液体70は、液滴として親液処理された陽極131に着弾して濡れ拡がる。また、乾燥後の正孔注入層の膜厚がおよそ50nm〜70nmとなるように、膜形成領域Eの面積に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0103】
乾燥工程では、素子基板101を例えばランプアニールなどの方法で加熱することにより、液体70の溶媒成分を乾燥させて除去し、図15(c)に示すように膜形成領域Eの陽極131上に正孔注入層132aを形成する。なお、本実施形態では、各膜形成領域Eに同一材料からなる正孔注入層132aを形成したが、後に形成される発光層に対応して正孔注入層132aの材料を発光色ごとに変えてもよい。そしてステップS14へ進む。
【0104】
ステップS14の中間層形成工程では、図15(d)に示すように、中間層形成材料を含む液体80を膜形成領域Eに付与する。
液体80は、例えば、溶媒としてテトラメチルベンゼンを含み、中間層形成材料として、前述したトリフェニルアミン系ポリマーを重量比で0.1%程度含んだものを用いた。粘度はおよそ6mPa・sである。
液体80を塗布する方法としては、液体70を塗布する場合と同様に、吐出ヘッド50を用いる。乾燥後の中間層の膜厚がおよそ10nm〜20nmとなるように、膜形成領域Eの面積に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0105】
乾燥工程では、素子基板101を例えばランプアニールなどの方法で加熱することにより、液体80の溶媒成分を乾燥させて除去し、図16(e)に示すように膜形成領域Eの正孔注入層132a上に中間層132cを形成する。そしてステップS15へ進む。
【0106】
ステップS15の発光層形成工程では、図16(f)に示すように、発光層形成材料を含む液体90R,90G,90Bをそれぞれ対応する膜形成領域Eに塗布する。
液体90R,90G,90Bは、例えば、溶媒としてテトラメチルベンゼンを含んでおり、発光層形成材料としてPFを重量比で0.7%含んだものを用いた。粘度はおよそ14mPa・sである。
液体90R,90G,90Bを塗布する方法は、液体90R,90G,90Bをそれぞれ異なる吐出ヘッド50に充填して吐出する方法である。
発光層の成膜にあたり、液体90R,90G,90Bを膜形成領域Eに吐出ムラなく、且つ必要量を安定的に吐出することができる第1実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法を用いた。
すなわち、予めノズル52ごとの吐出量のばらつきを求め、ノズル52ごとの吐出量が所定の値(例えば平均値)となるようにノズル52に印加する駆動波形を補正する補正工程を行う。駆動波形の補正方法としては、図2に示した波形の中間電位を基準として最大電位や最小電位を変える方法や、最大電位や最小電位を基準として中間電位を変える方法、波形の電位変化における急峻性を変える方法などがある。そして、吐出量が補正された液滴を各ノズル52から吐出している。乾燥後の発光層の膜厚がおよそ80nmとなるように、膜形成領域Eの面積に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0107】
本実施形態における吐出された液体90R,90G,90Bの乾燥工程は、一般的な加熱乾燥に比べて溶媒成分を比較的均一に乾燥可能な減圧乾燥法を用いている。膜形成領域Eに満遍なく必要量の液体90R,90G,90Bが塗布されているので、図16(g)に示すように、乾燥後に形成された発光層132r,132g,132bは膜形成領域Eごとにほぼ一定の膜厚を有する。そして、ステップS16へ進む。
【0108】
ステップS16の陰極形成工程では、図16(h)に示すように、隔壁部133と各機能層132R,132G,132Bとを覆うように陰極134を形成する。これにより有機EL素子112が構成される。
陰極134の材料としては、ITOとCa、Ba、Alなどの金属やLiFなどのフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層132R,132G,132Bに近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいITOを形成するのが好ましい。また、陰極134の上にSiO2、SiNなどの保護層を積層してもよい。このようにすれば、陰極134の酸化を防止することができる。陰極134の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法などが挙げられる。特に機能層132R,132G,132Bの熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。そして、ステップS17へ進む。
【0109】
ステップS17の封止基板接合工程では、有機EL素子112が形成された素子基板101に透明な封着層135を塗布して、透明な封止基板102と隙間なくベタ封止する(図13参照)。さらに封止基板102の外周領域において水分や酸素などの進入を防ぐ接着層を設けて接合することが望ましい。
【0110】
以上のような有機EL素子112の製造方法によれば、液滴吐出法により成膜された機能層132R,132G,132Bは、ほぼ一定の膜厚の発光層132r,132g,132bを有している。したがって、発光層132r,132g,132bの成膜ムラに起因する輝度ムラが低減された有機EL装置100を歩留まりよく製造することができる。
【0111】
このようにして製造された有機EL装置100は、所望の発光特性が実現され、見映えのよいカラー表示が可能である。
【0112】
なお、有機EL装置100における上記ノズル52ごとの吐出量の計測方法の適用は、機能膜としての発光層132r,132g,132bの形成に限定されるものではない。例えば、トリフェニルアミン系ポリマーを用いた中間層132cの形成についても適用可能である。
【0113】
また、中間層132cや発光層132r,132g,132b以外では、発光層132r,132g,132bと陰極134との間に電子輸送性を有する電子輸送層を形成する場合にも適用可能である。
【0114】
発光材料を含め電子輸送性の強い材料を含む液体におけるノズル52ごとの吐出量の計測方法においては、評価用基板1における一対の電極のうち少なくとも一方は、電子注入性を有する導電性材料を用いることが好ましい。例えば、第2電極6は、アルミニウムなどの低抵抗配線材料を主体とした導電膜と、該導電膜の電子輸送層に面する側に電子注入性を有するアルカリ金属やアルカリ土類金属、これらの酸化物、フッ化物(例えばLiF)、塩化物、有機物との化合物を形成した構造とする。これにより、適正な状態で電子輸送層の電気特性を計測できる。
【0115】
なお、本実施形態における液体70を膜形成領域Eに吐出して形成される正孔注入層132aは、正孔注入層形成材料としてPEDOT/PSSを用いているため、高い導電性を示すことから、電気抵抗が発光層132r,132g,132bに比べて著しく低く、正孔注入層132aの膜厚が多少ばらついても相関的な電気特性の値を計測することが難しい。つまり、有機EL素子112での実用膜厚領域(100nm以下)では正確な電流差を検知することが難しい。従って、このような材料について膜厚ばらつきを電気特性の値で計測する場合には、より厚膜化する必要がある。膜厚は例えば1μm以上が望ましい。また、このような導電性正孔注入材料を吐出する吐出ヘッド50のノズル52ごとの吐出量補正については、他の材料を用いた評価結果を代用しても良い。一方で、正孔注入層132aの膜厚が多少ばらついても発光層132r,132g,132bの輝度に与える影響が少なくて済むという特徴を有している。
【0116】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0117】
(変形例1)上記第1実施形態におけるノズル52ごとの吐出量の計測方法において、評価用基板1の構成は、これに限定されない。例えば、第1電極2は、透明性を有するITOに限らず、不透明な配線5と一体形成してもよい。また、評価用基板1における第1電極2の平面的な位置は、図4(a)に示すように、中央部から外れた位置であることに限定されない。すなわち、機能膜11の電気特性の計測を適正に行えるような配線5の配線抵抗を考慮した位置に形成すればよい。さらには、下層隔壁3を省いて、上層隔壁4だけの隔壁構造としてもよい。
【0118】
(変形例2)上記第2実施形態における電気光学装置としての有機EL装置100の構成は、これに限定されない。例えば、発光画素107に対応して封止基板102側にR(赤)、G(緑)、B(青)、三色のカラーフィルターを設ける。そして、素子基板101の機能層132は、白色発光が得られる発光層を有する構成とする。このような構成としてもフルカラーの表示が可能である。
【0119】
(変形例3)上記第2実施形態における電気光学装置としての有機EL装置100は、カラー表示が可能な表示装置に限定されない。例えば、機能層132における発光を白色などの単色とすることで、照明装置として用いることも可能である。
【0120】
(変形例4)上記第1実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法を適用可能な電気光学装置は、上記第2実施形態の有機EL装置100に限定されない。機能膜として膜厚と電気特性とに相関関係を有するものであればよく、例えばダイオードやトランジスターの導電膜や半導体膜を形成する場合などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
2…一対の電極のうちの一方の電極としての第1電極、4a…膜形成領域としての開口部、6…一対の電極のうちの他方の電極としての第2電極、11…機能膜、50…吐出ヘッド、52…ノズル、70,80,90R,90G,90B…機能性材料を含む液体、100…電気光学装置としての有機EL装置、132r,132g,132b…機能膜としての発光層、E…膜形成領域、Ea…吐出量。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出におけるノズルごとの吐出量の計測方法、これを用いた電気光学装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)装置などの電気光学装置の製造方法として液滴吐出法が採用されている。液滴吐出法は、基板上に設けられた膜形成領域にインクジェットヘッドなどの吐出ヘッドのノズルから機能性材料を含む液体を液滴として吐出し、吐出された液体を乾燥させ固化することにより上記機能性材料からなる機能膜を形成する方法である。
機能膜としては、例えば、液晶装置では画素を構成するカラーフィルターであり、有機EL装置では発光層である。
【0003】
上記吐出ヘッドは一般的に複数のノズルを有し、ノズルごとに1回の吐出における液滴の吐出量は必ずしも一定でなく、ばらつきを有している。それゆえに、ノズルごとの吐出量のばらつきに起因した塗布むらが生ずると、例えば、カラーフィルターでは色むらとなり、発光層では発光むらを招くおそれがあった。
【0004】
この問題を解決するために、ノズルごとの吐出量を特定する方法として、例えば特許文献1には、着弾した液滴の上方からレーザー光を照射して表面からの反射レーザー光を観測することにより、液滴の体積を測定する方法が記載されている。
また、特許文献2には、着弾した液滴に光を照射し、液滴から発した蛍光または燐光を検出して液滴の吐出量を測定する方法が記載されている。
この他にも、画素上に液滴を吐出して形成された薄膜について、画素電流から体積を測定する方法(特許文献3)や、着弾後の液滴をある程度乾燥させ、体積が安定した状態で画像認識により液滴の体積を測定する方法(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−121401号公報
【特許文献2】特開2007−179880号公報
【特許文献3】特開2007−326003号公報
【特許文献4】特開2008−298690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、上記のような機能膜に求められる膜の均一性は年々高まっており、例えば有機EL装置における発光層の発光むらを改善するには、ノズルごとの吐出量のばらつきを的確に測定可能であることが求められ、従来の方法では、困難であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例のノズルごとの吐出量の計測方法は、液体を複数のノズルのそれぞれから吐出可能な吐出ヘッドにおける前記液体のノズルごとの吐出量の計測方法であって、前記吐出ヘッドにおける前記複数のノズルの配置に対応して設けられ、一対の電極のうちの一方の電極を有する複数の膜形成領域のそれぞれに前記ノズルから機能性材料を含む前記液体を液滴として予め定められた吐出回数で吐出する吐出工程と、前記膜形成領域に吐出された前記液体を固化して前記機能性材料からなる機能膜を形成する機能膜形成工程と、前記機能膜を覆うように前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する電極形成工程と、前記膜形成領域ごとに前記一対の電極間に挟まれた前記機能膜の電気特性を前記一対の電極を介して計測する計測工程と、計測された前記電気特性の結果に基づいて、前記機能膜の膜厚を求める膜厚算出工程と、求められた前記機能膜の膜厚に基づいて、前記液滴の前記ノズルごとの吐出量を求める吐出量算出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
機能膜の膜厚は、膜形成領域に吐出された機能性材料を含む液体の量によって決まり、当該液体の量は、ノズルから吐出された液滴の吐出量と吐出回数の積として求められる。
この方法によれば、機能膜の膜厚と電気特性とが相関関係を有する場合、計測工程で膜形成領域ごとに形成された機能膜の電気特性を計測した結果から当該機能膜の膜厚を求めることができる。複数の膜形成領域の配置は、吐出ヘッドにおける複数のノズルの配置に対応している。それゆえに、吐出量算出工程では、膜形成領域ごとに形成された機能膜の膜厚からノズルごとに吐出された液滴の吐出量を求めることができる。したがって、機能性材料を含む液体の量および液滴の吐出量としての体積や重量を直接計測して求めずに、機能膜として実際に求められる電気特性に基づいて間接的に計測して求めるので、適正な計測結果によりノズルごとの吐出量を特定することができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記複数のノズルから同じ吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、複数のノズルから同じ吐出タイミングで液滴を吐出した場合のノズルごとの吐出量を求めることができる。つまり、ノズル間の電気的または機械的なクロストークを反映した吐出量を求めることができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記複数のノズルのうち隣り合うノズルから異なる吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、複数のノズルの隣り合うノズルから異なる吐出タイミングで液滴を吐出した場合のノズルごとの吐出量を求めることができる。つまり、ノズル間の電気的または機械的なクロストークを排除した状態の吐出量を求めることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記液滴の吐出回数を変えて吐出を行うことを特徴とする。
この方法によれば、液滴の吐出回数を異ならせたときのノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0013】
[適用例5]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、前記計測工程おける前記機能膜の電気特性の計測に際して、前記機能膜の電気抵抗が前記一対の電極を含む配線抵抗よりも高くなる前記機能膜の膜厚設定に基づいて、前記液滴の吐出回数を規定することが好ましい。
この方法によれば、計測工程における機能膜の電気特性の計測を適正に行うことができる。
【0014】
[適用例6]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出工程では、異なる環境条件下で前記ノズルから前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、例えば温度や湿度など環境条件の変化によるノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0015】
[適用例7]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記吐出ヘッドは、前記液体を前記液滴として前記ノズルから吐出させる吐出手段としての圧電素子を有し、前記吐出工程では、前記ノズルごとの前記圧電素子に印加する駆動波形を変えて前記液滴を吐出することを特徴とする。
この方法によれば、圧電素子に印加される駆動波形を変えたときのノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0016】
[適用例8]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電圧を印加したときの前記機能膜を流れる電流を計測することを特徴とする。
この方法によれば、機能膜の電気特性としての一定電圧印加時の電流変化に基づいて、ノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0017】
[適用例9]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電流を流したときの前記機能膜に印加された電圧を計測することを特徴とする。
この方法によれば、機能膜の電気特性としての一定電流を流したときの電圧変化に基づいて、ノズルごとの吐出量のばらつきを検出できる。
【0018】
[適用例10]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記機能性材料が正孔輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が正孔注入性を有することが好ましい。
この方法によれば、正孔輸送性を有する機能膜の電気特性を適正に計測することができる。
【0019】
[適用例11]上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法において、前記機能性材料が電子輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が電子注入性を有することが好ましい。
この方法によれば、電子輸送性を有する機能膜の電気特性を適正に計測することができる。
【0020】
[適用例12]本適用例の電気光学装置の製造方法は、基板上の膜形成領域に機能膜を有する電気光学装置の製造方法であって、上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法を用い、求められた前記ノズルごとの吐出量の情報から前記ノズルごとに前記吐出量が所定の値となるように、前記ノズルごとに設けられた吐出手段の駆動条件を補正する補正工程と、前記ノズルから前記膜形成領域に機能性材料を含む液体を液滴として補正された前記吐出量で所定の回数吐出する塗布工程と、前記膜形成領域に塗布された前記液体を固化して前記機能膜を形成する機能膜形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
この方法によれば、上記適用例のノズルごとの吐出量の計測方法を用いているので、吐出ヘッドから吐出される液滴の吐出量がノズルごとに適正な状態で求められる。これに基づいて、補正工程では、液滴の吐出量がノズルごとに所定の値(ねらいの値)となるように補正され、塗布工程では、補正された吐出量でノズルから液滴が吐出される。したがって、機能膜形成工程では、膜形成領域ごとにばらつきが抑制された状態で機能膜を形成することができる。つまり、所望の電気光学特性を有する電気光学装置を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は吐出ヘッドを示す概略斜視図、(b)は吐出ヘッドのノズル面におけるノズルの配置を示す概略平面図。
【図2】吐出ヘッドの吐出手段に印加される駆動波形を示すタイミングチャート。
【図3】ノズルごとの吐出量の計測方法を示すフローチャート。
【図4】(a)〜(d)はノズルごとの吐出量の計測方法を説明する概略図。
【図5】(a)および(b)はノズルごとの吐出量の計測方法を説明する概略図。
【図6】実施例1における液体量の変化率と電流値の変化率との関係を示すグラフ。
【図7】実施例1におけるノズルごとの電流値の変化率を示すグラフ。
【図8】実施例1におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフ。
【図9】実施例2における液体量の変化率と電圧値の変化率との関係を示すグラフ。
【図10】実施例2におけるノズルごとの電圧値の変化率を示すグラフ。
【図11】実施例2におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフ。
【図12】有機EL装置を示す概略正面図。
【図13】有機EL装置の要部概略断面図。
【図14】有機EL装置の製造方法を示すフローチャート。
【図15】(a)〜(d)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【図16】(e)〜(h)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0024】
(第1実施形態)
<吐出ヘッド>
まず、本実施形態のノズルごとの吐出量の計測方法が適用される吐出ヘッドの一例について、図1および図2を参照して説明する。図1(a)は吐出ヘッドを示す概略斜視図、同図(b)は吐出ヘッドのノズル面におけるノズルの配置を示す概略平面図、図2は吐出ヘッドの吐出手段に印加される駆動波形を示すタイミングチャートである。
【0025】
図1(a)に示すように、本実施形態の吐出ヘッド50は、所謂2連のものであり、2連の接続針54を有する液体の導入部53と、導入部53に積層されたヘッド基板55と、ヘッド基板55上に配置され内部に液体のヘッド内流路が形成されたヘッド本体56とを備えている。接続針54は、液体供給機構に配管を経由して接続され、液体をヘッド内流路に供給する。ヘッド基板55には、フレキシブルフラットケーブル(図示省略)を介して外部駆動回路に接続される2連のコネクター58が設けられている。
【0026】
ヘッド本体56は、吐出手段としての圧電素子で構成されたキャビティを有する加圧部57と、ノズル面51aに2つのノズル列52a,52bが相互に平行に形成されたノズルプレート51とを有している。
【0027】
図1(b)に示すように、2つのノズル列52a,52bは、それぞれ複数(180個)のノズル52がピッチP1でほぼ等間隔に並べられており、互いにピッチP1の半分のピッチP2ずれた状態でノズル面51aに配設されている。この場合、ピッチP1は、およそ141μmである。よって、ノズル列52cに直交する方向から見ると360個のノズル52がおよそ70.5μmのノズルピッチで配列した状態となっている。また、ノズル52の径は、およそ27μmである。
【0028】
吐出ヘッド50は、外部駆動回路から電気信号としての駆動信号が圧電素子に印加されると加圧部57のキャビティの体積変動が起こり、これによるポンプ作用でキャビティに充填された液体が加圧され、ノズル52から液体を液滴として吐出することができる。
【0029】
吐出ヘッド50における吐出手段は、圧電素子に限らない。アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、充填された液体を加熱してノズル52から液滴として吐出させる電気熱変換素子(サーマル方式)でもよい。
【0030】
図2に示すように、複数のノズル52に対応して配設された吐出手段としての圧電素子には、ラッチ信号LATのタイミングでラッチされたノズル52ごとのON/OFFデータ(吐出データ)に従い、3つの駆動波形PL1,PL2,PL3のうちから1つが選択されて供給される。そして、駆動波形が供給されるタイミングで、ノズル52から液滴が吐出される。なお、各駆動波形は、圧電素子に供給されることで規定量の液滴が吐出されるように設計されている。
【0031】
駆動波形の選択は、駆動波形の供給タイミングを規定する制御信号CH1〜CH3により行われる。すなわち、制御信号CH1によって第1系統のタイミングの駆動波形PL1が、制御信号CH2によって第2系統のタイミングの駆動波形PL2が、制御信号CH3によって第3系統のタイミングの駆動波形PL3がそれぞれ選択される。
【0032】
本実施形態では、隣り合うノズル52に対応する圧電素子に、駆動波形の供給タイミングの系統(ラッチ信号LATを基準とした相対的な序列)を個々に対応づけることにより、吐出タイミングの重複が起こりえないように駆動波形を印加することが可能である。このような駆動波形の駆動手段(圧電素子)に対する印加の方法を時分割駆動という。時分割駆動により、電気的または機械的なクロストークが好適に低減され、クロストークに起因するノズル52間の吐出特性(液滴の吐出量や吐出速度など)のバラツキが相対的に緩和される。
また、各系統のタイミングは周期的となっているため、吐出条件が各吐出タイミング間で一様となり、液滴の吐出量を主走査方向(吐出ヘッド50と被吐出物とを相対的に移動させて吐出する場合の移動方向)に対して安定化させることができる。
また、ラッチ信号LATの1周期内(1ラッチ内)において、3つの駆動波形PL1,PL2,PL3が発生するので、同一の圧電素子に1ラッチ内で3つの駆動波形PL1,PL2,PL3を印加すれば、同一ノズル52から吐出タイミングを変えて3滴の液滴を吐出することができる。
さらに、1ラッチ内の3つの駆動波形PL1,PL2,PL3をそれぞれ別の圧電素子に印加すれば、3つのノズル52から液滴を異なる吐出タイミングで吐出することができる。すなわち、3つのノズル52が時分割駆動される。
また、駆動波形PL1,PL2,PL3において、振幅の幅(実質的には中間電位との間の電位差すなわち駆動電圧)や波形の勾配などをそれぞれ変えることによって、ノズル52から吐出される液滴の吐出量を異ならせることが可能である。言い換えれば、同一ノズル52の圧電素子に異なる形状の駆動波形PL1,PL2,PL3のうち1つを選択して印加すれば液滴の吐出量の補正が可能である。
以降、ノズル52の圧電素子に駆動波形を印加することを、ノズル52に駆動波形を印加すると表現する。
【0033】
このような吐出ヘッド50を用いて、機能性材料を含む液体を液滴として膜形成領域に吐出して機能膜を形成する方法は、液滴吐出法(インクジェット法)と呼ばれている。
吐出ヘッド50には、前述したように複数のノズル52が設けられており、各ノズル52に同一の駆動波形を印加して液滴を吐出させたときの液滴の吐出量(体積または重量)は、ノズル52ごとに必ずしも一定しているわけでなくばらつきを有している。
例えば、複数の膜形成領域に対して、それぞれ異なるノズル52から液滴を吐出すると、膜形成領域ごとに塗布された液体の総量(以降、液体量と呼ぶ)が異なることがある。液体量が膜形成領域ごとに異なれば、当然ながら膜形成領域ごとに形成された機能膜の膜厚も異なってしまう。膜形成領域ごとに機能膜の膜厚ばらつきが許容範囲内ならば問題がないが、許容範囲を超えて膜厚が薄くなったり、厚くなったりすると、機能膜における所望の特性が得られないおそれがある。
それゆえに、従来は、例えば、ノズル52から吐出された液体の体積や重量を直接計測して、ノズル52ごとの液滴の吐出量のばらつきを求めていた。ところが、上記吐出ヘッド50のノズル52から吐出される1つの液滴の体積は、pl(ピコリットル)を単位とするものである。よって、直接計測することは計測器の計測精度に依存するので、実際には数百〜数千あるいは数万回の吐出を行って、吐出された液体量を計測し、その計測結果を吐出回数で除することにより吐出回数が1回あたり(すなわち1滴あたり)の液滴の吐出量を求めていた。しかしながら、複数回に亘って吐出を繰り返すうちに液体から溶媒が蒸発して液体の体積または重量が変化すると、吐出時の液滴の吐出量を正確に求めることは困難であった。
そこで、発明者は、ノズル52ごとの液滴の吐出量をより正確にまた適正に求める計測方法を開発したので、本発明について実施形態を参照して説明する。
【0034】
<ノズルごとの吐出量の計測方法>
本実施形態のノズルごとの吐出量の計測方法について、図3〜図5を参照して説明する。図3はノズルごとの吐出量の計測方法を示すフローチャート、図4(a)〜(d)および図5(a)および(b)はノズルごとの吐出量の計測方法を説明する概略図。
【0035】
図3に示すように、本実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法は、評価用基板準備工程(ステップS1)と、試験吐出工程(ステップS2)と、機能膜形成工程(ステップS3)と、電極形成工程(ステップS4)と、機能膜の電気特性を計測する計測工程(ステップS5)と、機能膜の膜厚算出工程(ステップS6)と、ノズル52ごとの吐出量を算出する吐出量算出工程(ステップS7)とを備えている。
【0036】
ステップS1の評価用基板準備工程では、図4(a)および(b)に示すように、評価用基板1を準備する。評価用基板1は、例えばガラス基板であって、その表面に吐出ヘッド50における複数のノズル52の配置(図1(b)参照)と同じ位置関係で配置された複数の一方の電極としての第1電極2と、第1電極2に接続する配線5と、第1電極2の外縁を覆うと共に第1電極2上に開口する開口部3aを有する下層隔壁3と、下層隔壁3上に設けられ第1電極2上に開口する開口部4aを有する上層隔壁4と、を備えている。
【0037】
第1電極2は、例えばITOなどの透明導電膜や金属または合金、あるいはこれら導電膜の積層構造を用いることができる。また、複数のノズル52の数に相当する数の第1電極2が評価用基板1上に設けられている。
【0038】
第1電極2に接続された配線5は、第1電極2と同じ材料および構造または第1電極2よりも低抵抗な配線材料を用いることができる。第1電極2に対して電圧を印加するために、一方の端部が評価用基板1の1辺部側に引き出されて略等間隔で配列し、導体面が露出することにより外部接続用の端子を構成している。
【0039】
下層隔壁3は、絶縁材料からなり、機能性材料を含む液体に対して親液性を示すことが望ましく、例えば無機絶縁材料であるシリコンの酸化物などを用いる。
下層隔壁3の形成方法としては、開口部3aに相当する部分をマスキングして無機絶縁材料を蒸着する法や、無機絶縁材料を含む液体を塗布して乾燥・焼成する液相法などが挙げられる。下層隔壁3の厚みは、およそ50nm〜100nmである。
【0040】
上層隔壁4は、同じく絶縁材料からなり、機能性材料を含む液体を保持する開口部4aを形成する観点から、撥液性を示すことが望ましく、例えば有機絶縁材料を用いる。
上層隔壁4の形成方法としては、上記有機絶縁材料を含む感光性樹脂材料をスピンコートなどにより全面に塗布して、これを露光・現像することにより開口部4aを形成する方法が挙げられる。上層隔壁4の厚みは、およそ1.0μm〜2.0μmである。
【0041】
第1電極2の平面的な外形は、この場合、略円形であるがこれに限定されるものではない。一方で機能性材料を含む液体が保持される開口部4a(開口部3aを含む)は、液体が開口部4aに塗布されたときに万遍なく行き渡ることを考慮して平面的な開口形状が円形もしくは楕円形であることが望ましい。この場合、開口部3aの大きさはおよそφ25μm、開口部4aの大きさはおよそφ30μmである。すなわち、第1電極2の平面的な大きさはφ25μmよりも大きい。
また、前述したように第1電極2は吐出ヘッド50における複数のノズル52の平面的な配置に対応して配置されているので、千鳥に配置された複数の第1電極2の列方向における配置ピッチはおよそ70.5μmである。そして、ステップS2へ進む。
【0042】
ステップS2の試験吐出工程(吐出工程)では、図4(c)に示すように、評価用基板1と吐出ヘッド50とを対向配置して、ノズル52から機能性材料を含む液体10を液滴として膜形成領域としての開口部4aに吐出する。このときの対向配置された吐出ヘッド50と評価用基板1との距離、つまりノズル面と上層隔壁4との距離は、およそ1.0mmである。開口部4aに吐出する液体10の液体量は、液滴の吐出量と吐出回数とによって決まる。開口部4aが平面的に円形となっているので、開口部4aに吐出された液体10は、むらなく行き渡る。このようにして各開口部4aに対して対応するそれぞれのノズル52から液体10が塗布される。なお、第1電極2上が液体10に対して親液性を有していることが望ましいので、液体10を吐出する前に、第1電極2の表面を親液化する表面処理を施してもよい。親液化処理の方法としては例えば酸素を処理ガスとするプラズマ処理が挙げられる。
また、上層隔壁4が液体10に対して撥液性を有していることが望ましいので、上層隔壁4に撥液性を施す表面処理を上記親液化処理の後に実施してもよい。撥液化処理の方法としては例えばフッ素を含む処理ガスを用いるプラズマ処理や撥液剤が形成されたフィルムをラミネート処理により上層隔壁4上に転写する方法などが挙げられる。このような撥液化処理によれば、有機絶縁材料からなる上層隔壁4の表面を選択的に撥液化できる。なお、上層隔壁4自体が撥液性を有する材質である場合には本撥液処理は必要ない。そして、ステップS3へ進む。
【0043】
ステップS3の機能膜形成工程では、図4(d)に示すように、開口部4aに塗布された液体10から溶媒成分を除去し、これを固化して機能膜11を形成する。固化の方法としては、各開口部4aに液体10が塗布された評価用基板1を真空下で溶媒除去する方法や、ホットプレート上に載置して加熱する方法が挙げられる。また、ランプから赤外線を照射するランプアニールなどの方法を用いてもよい。そして、ステップS4へ進む。
【0044】
ステップS4の電極形成工程では、図5(a)および(b)に示すように、各開口部4aに形成されたそれぞれの機能膜11を覆うように一対の電極のうちの他方の電極である第2電極6を形成する。第2電極6は、個々に独立して設けられた第1電極2に対して共通電極としての機能を果たすように、平面的に上層隔壁4の少なくとも一部を覆って設けられている。なお、平面的に上層隔壁4の全面を覆うように第2電極6を設けてもよい。
第2電極6を形成する材料としては、配線5と同様に低抵抗な配線材料を用いる。そして、ステップS5へ進む。
【0045】
ステップS5の計測工程では、図5(a)および(b)に示すように、各開口部4aに形成された機能膜11のそれぞれについて電気特性を計測する。具体的には、第1電極2と第2電極6との間に一定電圧を印加して機能膜11を流れる電流を計測する方法と、第1電極2と第2電極6との間に電圧を印加して、機能膜11に一定の電流が流れたときの電圧を計測する方法とが挙げられる。詳細については、後述する実施例において述べる。電流または電圧の計測は、従来の計測機器を用いて行うことができる。そして、ステップS6へ進む。
【0046】
ステップS6の膜厚算出工程では、機能膜11の膜厚と電気特性との関係を予め実測して求めた情報を基にして、計測工程で得られた機能膜11の電気特性の結果から機能膜11の膜厚を算出して求める。そして、ステップS7へ進む。
【0047】
ステップS7の吐出量算出工程では、膜厚算出工程で得られた機能膜11の膜厚情報から、液体10の液滴の吐出量Eaを算出する。機能膜11の膜厚tが分かれば、開口部4aにおける機能膜11の体積Vを算出できる。つまり、開口部4aの平面積sに膜厚tを乗じたものが体積Vとなる。体積Vに機能性材料の比重dを乗ずれば機能膜11の重量Wを求めることができる。液体10における固形分である機能性材料の含有量c(wt%)が判明しているので、重量Wを該含有量cで除すれば開口部4aに吐出された液体10の体積すなわち液体量VLを求めることができる。液体量VLを試験吐出工程における液滴の吐出回数nで除すれば吐出量Eaを求めることができる。数式で表せば次の通りである。
【0048】
Ea=VL/n・・・・(1)
VL=W/c・・・・・(2)
W=V×d・・・・・・(3)
V=t×s・・・・・・(4)
したがって、数式(1)に数式(2)〜(4)を代入すると、
Ea=(t×s×d)/(c×n)・・・・(5)となる。
【0049】
上記計測方法によれば、機能膜11の電気特性を計測することにより、機能膜11の膜厚を特定して、結果的にノズル52ごとの吐出量Eaを求めることができる。前述したように複数のノズル52の吐出量Eaは必ずしも一定ではなくばらつきを有している。
また、実際に液滴吐出法を用いて電気光学装置の機能膜を形成する場合には、機能性材料を含む液体の吐出条件などによってノズル52の吐出量Eaがばらつくことが考えられる。したがって、より実際の機能膜の形成条件を考慮して試験吐出を行うことが望ましい。
【0050】
具体的には、電気光学装置において機能膜が形成される膜形成領域の大きさや形状は様々であり、吐出ヘッド50の複数のノズル52のうちどのノズル52を用いて液体の吐出を行うかは、膜形成領域に対する吐出ヘッド50の相対的な主走査による。
【0051】
よって、上記形成条件の1つは、複数のノズル52から液滴を吐出する吐出タイミングに関する。すなわち、複数のノズル52から同時に(同じ吐出タイミングで)液滴を吐出する場合と、隣り合うノズル52から異なる吐出タイミングで液滴を吐出する場合とに大別できる。
【0052】
より具体的には、試験吐出工程において、各ノズル52に対して同じ吐出タイミングで同じ駆動波形を印加して所定の吐出回数で液滴を吐出させ、形成された機能膜11の電気特性を計測して液滴の吐出量Eaを求めると、複数のノズル52における電気的および機械的なクロストークを考慮したノズル52ごとの吐出量Eaのばらつきを検出できる。
さらには、同時に液滴を吐出するノズル52の数を変えることにより、吐出ヘッド50の駆動における負荷の違いによるノズル52の吐出量Eaのばらつきも検出可能である。
【0053】
また、試験吐出工程において、複数のノズル52のうち隣り合うノズル52に異なる吐出タイミングで同じ駆動波形を印加して所定の吐出回数で液滴を吐出させ、形成された機能膜11の電気特性を計測して液滴の吐出量Eaを求めると、複数のノズル52における電気的および機械的なクロストークの影響を低減したノズル52ごとの吐出量Eaのばらつきを検出できる。
【0054】
また、上記形成条件の他の1つは、吐出回数nである。1つのノズル52からほぼ連続的に液滴を吐出するのか、間欠的に液滴を吐出するのかによっても液滴の吐出量Eaがばらつくことがある。吐出回数nを変えると開口部4aにおける機能膜11の膜厚が変動することになるが、吐出回数nを変えて形成した機能膜11の電気特性を計測することで、吐出回数nに起因するノズル52ごとの吐出量Eaのばらつき、言い換えれば吐出量Eaの安定性を評価できる。
【0055】
また、上記形成条件の他にも次のような吐出量Eaのばらつきに結びつく因子を考慮して、試験吐出を行うことが望ましい。
上記因子としては、ノズル52に印加される駆動波形の違い(つまり1つのノズル52に異なる波形の駆動波形を印加してみる)、液滴を吐出するときの温度や湿度などの環境条件などの違いが挙げられる。
このように個々の因子を変えるだけでなく、複数の因子を組み合わせて評価し、実際に機能膜を形成する条件を考慮して、ノズル52ごとの吐出量Eaのばらつきを総合的(多面的)に特定することが望ましい。
【0056】
なお、ノズル52から吐出される液体に含まれる機能性材料の種類や溶媒などの構成が異なれば、液体の粘度やチクソ性などが変化して、液滴の吐出量Eaにも影響を及ぼすことは言うまでもない。したがって、液体ごとにノズル52ごとの吐出量Eaを求める。
【0057】
次に、実施例を挙げてより具体的に説明する。実施例1は電気特性として一定電圧を印加したときの第1電極2と第2電極6とに挟まれた機能膜11を流れる電流を計測して、ノズル52の吐出量Eaを求めたものである。
【0058】
(実施例1)
液体は、溶媒としてのテトラメチルベンゼンに、青色発光材料(TFB;poly(2,7-(9,9-di-n-octylfluorene)-alt-(1,4-phenylene-((4-sec-butylphenyl)imino-1,4-phenylene))))を1.0wt含んだものを用いた。評価用基板1における第1電極2はITO(Indium Tin Oxde)を用いて形成した。TFBは正孔輸送性を有するため、正孔輸送層としても用いられている。それゆえに、一対の電極のうち少なくとも一方の電極は正孔注入性を有する材料を用いることが、TFBからなる機能膜の電気特性を正確且つ適正に計測する観点で望ましい。ITOは正孔注入性を有している。また、正孔注入性を有する導電膜材料はこれに限らず、仕事関数が4.5evよりも大きな導電膜材料が好ましく、例えばIZO(Indium Zinc Oxide)でもよい。また、一方の電極が仕事関数が4.5evよりも大きくなるように表面処理(O2プラズマ処理、UVオゾン処理)を施してもよい。
【0059】
試験吐出工程(ステップS2)では、評価用基板1への親液及び撥液処理を施した後、複数のノズル52のそれぞれに同じ吐出タイミングで同じ駆動波形を印加し、評価用基板1の各開口部4aに上記液体を液滴として吐出した。吐出回数nは5回である。機能膜形成工程では、吐出された上記液体を真空乾燥により固化させることにより、開口部4aにおいておよそ80nmの膜厚の機能膜11を形成した。計測工程では、各開口部4aに形成された機能膜11に一定電圧を印加したときの電流値を計測した。
【0060】
図6は実施例1における液体量の変化率と電流値の変化率との関係を示すグラフ、図7は実施例1におけるノズルごとの電流値の変化率を示すグラフ、図8は実施例1におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフである。
【0061】
図6における液体量および電流値の変化率は、複数の評価用基板1を作成し、機能膜11の膜厚(すなわち液体量)と電流値とを実際に計測した結果に基づいて、膜厚の平均値を100%として表したものである。
図6に示すように、機能膜11の膜厚が平均値(この場合は、およそ80nm)に対して80%〜120%の範囲で変化すると、一定電圧を印加したときの電流値が膜厚の平均値に対しておよそ50%〜200%の範囲で変化することが分かる。つまり、実施例1の液体における開口部4aに吐出された液体量と機能膜11の電流値とは相関関係を有している。これは、実施例1の機能膜11における電気特性の1つを示すものである。
【0062】
図6に示した相関関係に対して、上記したように、試験吐出工程で複数のノズル52のそれぞれから液滴を5回の吐出回数で吐出し、形成された各開口部4aごとの機能膜11における電流値を計測した結果を示すものが図7である。各開口部4aごとの機能膜11とはつまり複数のノズル52に対応するものであって、図7では各ノズル52に与えられたノズルNoが横軸となっている。縦軸の電流値はそれぞれの機能膜11の電流値の測定結果の平均値を100%として、ノズルNoごとの変化率として示されている。
【0063】
前述したように電気特性(電流値)の計測結果から図6の相関関係を基に、ノズルNoに対応する機能膜11の膜厚すなわち液体量を求めることができる。そして、図8に示すようにノズルNoごとの液体量から液滴の吐出量を求めることができる。
【0064】
図8によれば、複数のノズル52における吐出量は、平均値の100%を基準とすると、およそ−3%〜+8%の範囲でばらついている。特にノズル列の両端側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して大きく、ノズル列の中央側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して小さくなる傾向を有していることが分かる。このような吐出量の傾向は、吐出ヘッド50における複数のノズル52のそれぞれに繋がる液体の流路の構造に起因していると考えられる。
【0065】
(実施例2)
実施例2は、実施例1に対して、計測工程における電気特性を異ならせたものでる。具体的には、電気特性として第1電極2と第2電極6とに挟まれた機能膜11を流れる電流が一定の値になったときの印加電圧を計測して、ノズル52の吐出量を求めたものである。
【0066】
図9は実施例2における液体量の変化率と電圧値の変化率との関係を示すグラフ、図10は実施例2におけるノズルごとの電圧値の変化率を示すグラフ、図11は実施例2におけるノズルごとの吐出量の変化率を示すグラフである。
【0067】
図9における液体量および電圧値の変化率は、複数の評価用基板1を作成し、機能膜11の膜厚(すなわち液体量)と電圧値とを実際に計測した結果に基づいて、膜厚の平均値を100%として表したものである。
図9に示すように、機能膜11の膜厚が平均値(この場合は、およそ80nm)に対して80%〜120%の範囲で変化すると、機能膜11に一定電流を流したときの電圧値が膜厚の平均値に対しておよそ94%〜106%の範囲で変化することが分かる。つまり、実施例2の液体(実施例1と同じ)における開口部4aに吐出された液体量と機能膜11の電圧値とは相関関係を有している。これは、当該機能膜11における電気特性の他の1つを示すものである。
【0068】
図9に示した相関関係に対して、上記したように、試験吐出工程で複数のノズル52のそれぞれから液滴を5回の吐出回数で吐出し、形成された各開口部4aごとの機能膜11における電圧値を計測した結果を示すものが図10である。各開口部4aごとの機能膜11とはつまり複数のノズル52に対応するものであって、図10では各ノズル52に与えられたノズルNoが横軸となっている。縦軸の電圧値はそれぞれの機能膜11の電圧値の測定結果の平均値を100%として、ノズルNoごとの変化率として示されている。
【0069】
前述したように電気特性(電圧値)の計測結果から図9の相関関係を基に、ノズルNoに対応する機能膜11の膜厚すなわち液体量を求めることができる。そして、図11に示すように、ノズルNoごとの液体量から液滴の吐出量を求めることができる。
【0070】
図11によれば、複数のノズル52における吐出量は、平均値の100%を基準とすると、およそ−4%〜+6%の範囲でばらついている。また、実施例1で求められた吐出量のばらつき傾向と同様に、ノズル列の両端側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して大きく、ノズル列の中央側に位置するノズル52から吐出された液滴の吐出量が平均値に対して小さくなる傾向を有していることが分かる。
【0071】
実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2における液体量(膜厚)と電圧値との相関関係の方が、液体量(膜厚)と電流値との相関関係に比べて、上記膜厚の変化範囲では、よりリニア(直線的)な相関関係であることが分かる。
【0072】
本実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法によれば、評価用基板1の開口部4aに液滴吐出法を用いて形成された機能膜11の電気特性を計測することにより、機能膜11を形成する際に用いられたノズル52の吐出量を求めることができる。
当該吐出量は、ノズル52から吐出される液体の液滴の体積であって、吐出された液滴の体積を例えば画像処理などの方法を用いて直接計測する場合に比べて、液滴からの溶媒の蒸発による体積の変動や、被吐出物に着弾した後の液滴の形状ばらつきなどの影響を受けずに、正確且つ適正に液滴の体積を求めることができる。
【0073】
なお、上記ノズル52ごとの吐出量の計測方法を適用するには、機能膜11における膜厚と電気特性との間に何らかの相関関係を有することが前提である。また、当該相関関係を導くことが可能な膜厚となるように液体における機能性材料の含有量や液滴の吐出回数を設定することが必要である。
さらには、計測工程において機能膜11の電気特性を計測する計測回路を構成する第1電極2と配線5および第2電極6を含む配線抵抗が、機能膜11自体の電気抵抗よりも十分に低くなるように、当該電極や配線を形成しておくことが重要である。言い換えれば、機能膜11自体の電気抵抗が当該電極や配線の配線抵抗よりも高くなるように、膜厚を設定してもよい。これにより、配線抵抗の影響を小さくして、より正確に機能膜11の電気特性を計測できる。
【0074】
(第2実施形態)
次に、上記ノズル52ごとの吐出量の計測方法を適用した電気光学装置の製造方法について説明する。本実施形態では電気光学装置として複数の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を有する有機EL装置を例に挙げて説明する。
【0075】
<有機EL装置>
まず、本実施形態の電気光学装置としての有機EL装置について説明する。図12は有機EL装置を示す概略正面図、図13は有機EL装置の要部概略断面図である。
【0076】
図12に示すように、本実施形態の有機EL装置100は、R(赤)、G(緑)、B(青)、3色の発光画素107を備えた素子基板101と、素子基板101に所定の間隔を置いて対向配置された封止基板102とを備えている。封止基板102は、複数の発光画素107が設けられた発光領域106を封着するように、高い気密性を有する封着剤を用いて素子基板101に接合されている。
【0077】
発光画素107は、後述する発光素子としての有機EL素子112(図13参照)を備えるものであって、同色の発光が得られる発光画素107が、図面上の縦方向に配列した所謂ストライプ方式となっている。なお、実際には、発光画素107は微細なものであり、図示の都合上拡大して現している。
【0078】
素子基板101は、封止基板102よりも一回り大きく、額縁状に張り出した部分には、発光画素107を駆動する2つの走査線駆動回路部103と1つのデータ線駆動回路部104が設けられている。走査線駆動回路部103、データ線駆動回路部104は、例えば、電気回路が集積されたICとして素子基板101に実装してもよいし、当該駆動回路部103,104を素子基板101の表面に直接形成してもよい。
【0079】
素子基板101の端子部101aには、これらの駆動回路部103,104と外部駆動回路とを接続するための中継基板105が実装されている。中継基板105は、例えば、フレキシブル回路基板などを用いることができる。
【0080】
図13に示すように、有機EL装置100において、有機EL素子112は、画素電極としての陽極131と、陽極131を区画する隔壁部133と、陽極131上に形成された有機膜からなる発光層を含む機能層132とを有している。また、機能層132を介して陽極131と対向するように形成された共通電極としての陰極134を有している。
【0081】
隔壁部133は、アクリルまたはポリイミドなどの絶縁性を有する感光性樹脂からなり、発光画素107を構成する陽極131の周囲を一部覆って、複数の陽極131をそれぞれ区画するように設けられている。
【0082】
陽極131は、素子基板101上に形成されたTFT素子108の3端子のうちの1つに接続しており、例えば、透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)を厚さ100nm程度に成膜した電極である。なお、図示省略したが、陽極131の下層(平坦化層128側)に、絶縁層を介してAlからなる反射層が設けられている。当該反射層は、機能層132における発光を封止基板102側に反射するものである。また、当該反射層はAlに限定されず、発光を反射する機能(反射面)を有していればよい。例えば、絶縁性の有機材料あるいは無機材料を用いて凹凸を有する反射面を形成する方法、陽極131自体を反射機能を有する導電材料で構成し、表面層にITO膜を形成する方法などが挙げられる。
【0083】
陰極134は、同じく、ITOなどの透明電極材料により形成されている。
【0084】
本実施形態の有機EL装置100は、いわゆるトップエミッション型の構造となっており、陽極131と陰極134との間に駆動電流を流して機能層132で発光した光を上記反射層で反射させて封止基板102側から取り出す。したがって、封止基板102は透明なガラスなどからなる基板を用いる。また、素子基板101は、透明基板および不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナなどのセラミックス、ステンレススチールなどの金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0085】
素子基板101には、有機EL素子112を駆動する回路部111が設けられている。すなわち、素子基板101の表面にはSiO2を主体とする下地保護層121が下地として形成され、その上にはシリコン層122が形成されている。このシリコン層122の表面には、SiO2および/またはSiNを主体とするゲート絶縁層123が形成されている。
【0086】
また、シリコン層122のうち、ゲート絶縁層123を挟んでゲート電極126と重なる領域がチャネル領域122aとされている。なお、このゲート電極126は、図示しない走査線の一部である。一方、シリコン層122を覆い、ゲート電極126を形成したゲート絶縁層123の表面には、SiO2を主体とする第1層間絶縁層127が形成されている。
【0087】
また、シリコン層122のうち、チャネル領域122aのソース側には、低濃度ソース領域および高濃度ソース領域122cが設けられる一方、チャネル領域122aのドレイン側には低濃度ドレイン領域および高濃度ドレイン領域122bが設けられて、いわゆるLDD(Light Doped Drain)構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域122cは、ゲート絶縁層123と第1層間絶縁層127とにわたって開孔するコンタクトホール125aを介して、ソース電極125に接続されている。このソース電極125は、電源線(図示せず)の一部として構成されている。一方、高濃度ドレイン領域122bは、ゲート絶縁層123と第1層間絶縁層127とにわたって開孔するコンタクトホール124aを介して、ソース電極125と同一層からなるドレイン電極124に接続されている。
【0088】
ソース電極125およびドレイン電極124が形成された第1層間絶縁層127の上層には、例えばアクリル系の樹脂成分を主体とする平坦化層128が形成されている。この平坦化層128は、アクリル系やポリイミド系などの、耐熱性絶縁性樹脂によって形成されたもので、TFT素子108やソース電極125、ドレイン電極124などによる表面の凹凸をなくすために形成された公知のものである。
【0089】
そして、陽極131が、この平坦化層128の表面上に形成されると共に、該平坦化層128に設けられたコンタクトホール128aを介してドレイン電極124に接続されている。すなわち、陽極131は、ドレイン電極124を介して、シリコン層122の高濃度ドレイン領域122bに接続されている。陰極134は、GNDに接続されている。したがって、スイッチング素子としてのTFT素子108により、上記電源線から陽極131に供給され陰極134との間で流れる駆動電流を制御する。これにより、回路部111は、所望の有機EL素子112を発光させカラー表示を可能としている。
【0090】
なお、有機EL素子112を駆動する回路部111の構成は、これに限定されるものではない。
【0091】
機能層132は、有機膜からなる正孔注入層、中間層、発光層を含む複数の薄膜層からなり、陽極131側からこの順で積層されている。本実施形態において、これらの薄膜層は液滴吐出法(インクジェット法)を用いて成膜されている。
【0092】
正孔注入層の材料としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などのポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)や、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体を用いてもよい。
【0093】
中間層は、正孔注入層と発光層との間に設けられ、発光層に対する正孔の輸送性(注入性)を向上させると共に、発光層から正孔注入層に電子が浸入することを抑制するために設けられている。すなわち、発光層における正孔と電子との結合による発光の効率を改善するものである。中間層の材料としては、例えば、正孔輸送性が良好なトリフェニルアミン系ポリマーを含んだものが挙げられる。
【0094】
発光層の材料としては、例えば、赤色、緑色、青色の発光が得られるポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)などを用いることができる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリンなどの低分子材料をドープしてもよい。
【0095】
このような有機EL素子112を有する素子基板101は、透明な熱硬化型エポキシ樹脂などを封着部材として用いた封着層135を介して透明な封止基板102と隙間なくベタ封止されている。
【0096】
本実施形態の有機EL装置100は、後述する有機EL素子112の製造方法を用いて製造されており、発光層がほぼ一定の膜厚を有しているため、異なる発光色が得られる機能層132R,132G,132Bにおいてそれぞれ所望の発光特性が得られる。
【0097】
なお、本実施形態の有機EL装置100は、トップエミッション型に限定されず、共通電極としての陰極134を反射機能を有する不透明なAl(アルミニウム)などの導電材料を用いて成膜し、有機EL素子112の発光を陰極134で反射させて、素子基板101側から取り出すボトムエミッション型の構造としてもよい。
【0098】
<有機EL装置の製造方法>
次に、本実施形態の有機EL装置の製造方法について図14〜図16を参照して説明する。図14は有機EL装置の製造方法を示すフローチャート、図15(a)〜(d)および図16(e)〜(h)は有機EL装置の製造方法を示す概略断面図である。
【0099】
図14に示すように、本実施形態の有機EL装置の製造方法は、隔壁部形成工程(ステップS11)と、隔壁部が形成された基板に表面処理を施す表面処理工程(ステップS12)と、正孔注入層形成工程(ステップS13)と、中間層形成工程(ステップS14)と、発光層形成工程(ステップS15)と、陰極形成工程(ステップS16)と、有機EL素子が形成された素子基板101と封止基板102とを接合する封止基板接合工程(ステップS17)とを少なくとも備えている。なお、素子基板101上に回路部111(図13参照)を形成する工程や回路部111に電気的に接続した陽極131を形成する工程は、公知の製造方法を用いればよく、本実施形態では詳細の説明は省略する。したがって、図15(a)〜(d)および図16(e)〜(h)では、回路部111の図示を省略している。
【0100】
ステップS11の隔壁部形成工程では、図15(a)に示すように、陽極131の周囲の一部を覆って陽極131ごとを区画するように隔壁部133を形成する。形成方法としては、例えば、陽極131が形成された素子基板101の表面に、感光性のフェノール樹脂またはポリイミド樹脂をおよそ1μm〜3μm程度の厚みで塗布する。塗布方法としては、転写法、スリットコート法などが挙げられる。そして、発光画素107の形状に対応したマスクを用いて露光し、現像することにより複数の隔壁部133を形成することができる。以降、隔壁部133により区画された発光画素107の領域を膜形成領域Eと呼ぶ。なお、第1実施形態において説明したように、隔壁部133の下方に、陽極131の外縁部を覆う無機絶縁材料からなる下層隔壁を形成してもよい。そして、ステップS12へ進む。
【0101】
ステップS12の表面処理工程では、隔壁部133が形成された素子基板101の表面に親液処理と撥液処理とを施す。まず、酸素を処理ガスとするプラズマ処理を行い、主に無機材料からなる陽極131の表面に親液処理を施す。次に、CF4などのフッ素系ガスを処理ガスとするプラズマ処理を行い、有機材料からなる隔壁部133の表面にフッ素を導入して撥液処理を施す。そして、ステップS13へ進む。
【0102】
ステップS13の正孔注入層形成工程では、まず、図15(b)に示すように、正孔注入輸送層形成材料を含む液体70を膜形成領域Eに塗布する。液体70は、例えば、溶媒としてジエチレングリコールと水(純水)とを含んでおり、正孔注入層形成材料としてPEDOT/PSSを重量比で0.5%程度含んだものを用いた。粘度がおよそ20mPa・s以下となるように溶媒の割合が調整されている。
液体70を塗布する方法としては、第1実施形態において説明した液体(インク)を液滴として複数のノズル52から吐出可能な吐出ヘッド50を用いる。吐出ヘッド50とワークである素子基板101とを対向させ、吐出ヘッド50から液体70を吐出する。吐出された液体70は、液滴として親液処理された陽極131に着弾して濡れ拡がる。また、乾燥後の正孔注入層の膜厚がおよそ50nm〜70nmとなるように、膜形成領域Eの面積に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0103】
乾燥工程では、素子基板101を例えばランプアニールなどの方法で加熱することにより、液体70の溶媒成分を乾燥させて除去し、図15(c)に示すように膜形成領域Eの陽極131上に正孔注入層132aを形成する。なお、本実施形態では、各膜形成領域Eに同一材料からなる正孔注入層132aを形成したが、後に形成される発光層に対応して正孔注入層132aの材料を発光色ごとに変えてもよい。そしてステップS14へ進む。
【0104】
ステップS14の中間層形成工程では、図15(d)に示すように、中間層形成材料を含む液体80を膜形成領域Eに付与する。
液体80は、例えば、溶媒としてテトラメチルベンゼンを含み、中間層形成材料として、前述したトリフェニルアミン系ポリマーを重量比で0.1%程度含んだものを用いた。粘度はおよそ6mPa・sである。
液体80を塗布する方法としては、液体70を塗布する場合と同様に、吐出ヘッド50を用いる。乾燥後の中間層の膜厚がおよそ10nm〜20nmとなるように、膜形成領域Eの面積に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0105】
乾燥工程では、素子基板101を例えばランプアニールなどの方法で加熱することにより、液体80の溶媒成分を乾燥させて除去し、図16(e)に示すように膜形成領域Eの正孔注入層132a上に中間層132cを形成する。そしてステップS15へ進む。
【0106】
ステップS15の発光層形成工程では、図16(f)に示すように、発光層形成材料を含む液体90R,90G,90Bをそれぞれ対応する膜形成領域Eに塗布する。
液体90R,90G,90Bは、例えば、溶媒としてテトラメチルベンゼンを含んでおり、発光層形成材料としてPFを重量比で0.7%含んだものを用いた。粘度はおよそ14mPa・sである。
液体90R,90G,90Bを塗布する方法は、液体90R,90G,90Bをそれぞれ異なる吐出ヘッド50に充填して吐出する方法である。
発光層の成膜にあたり、液体90R,90G,90Bを膜形成領域Eに吐出ムラなく、且つ必要量を安定的に吐出することができる第1実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法を用いた。
すなわち、予めノズル52ごとの吐出量のばらつきを求め、ノズル52ごとの吐出量が所定の値(例えば平均値)となるようにノズル52に印加する駆動波形を補正する補正工程を行う。駆動波形の補正方法としては、図2に示した波形の中間電位を基準として最大電位や最小電位を変える方法や、最大電位や最小電位を基準として中間電位を変える方法、波形の電位変化における急峻性を変える方法などがある。そして、吐出量が補正された液滴を各ノズル52から吐出している。乾燥後の発光層の膜厚がおよそ80nmとなるように、膜形成領域Eの面積に応じた必要量を液滴として吐出した。そして乾燥工程へ進む。
【0107】
本実施形態における吐出された液体90R,90G,90Bの乾燥工程は、一般的な加熱乾燥に比べて溶媒成分を比較的均一に乾燥可能な減圧乾燥法を用いている。膜形成領域Eに満遍なく必要量の液体90R,90G,90Bが塗布されているので、図16(g)に示すように、乾燥後に形成された発光層132r,132g,132bは膜形成領域Eごとにほぼ一定の膜厚を有する。そして、ステップS16へ進む。
【0108】
ステップS16の陰極形成工程では、図16(h)に示すように、隔壁部133と各機能層132R,132G,132Bとを覆うように陰極134を形成する。これにより有機EL素子112が構成される。
陰極134の材料としては、ITOとCa、Ba、Alなどの金属やLiFなどのフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層132R,132G,132Bに近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいITOを形成するのが好ましい。また、陰極134の上にSiO2、SiNなどの保護層を積層してもよい。このようにすれば、陰極134の酸化を防止することができる。陰極134の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法などが挙げられる。特に機能層132R,132G,132Bの熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。そして、ステップS17へ進む。
【0109】
ステップS17の封止基板接合工程では、有機EL素子112が形成された素子基板101に透明な封着層135を塗布して、透明な封止基板102と隙間なくベタ封止する(図13参照)。さらに封止基板102の外周領域において水分や酸素などの進入を防ぐ接着層を設けて接合することが望ましい。
【0110】
以上のような有機EL素子112の製造方法によれば、液滴吐出法により成膜された機能層132R,132G,132Bは、ほぼ一定の膜厚の発光層132r,132g,132bを有している。したがって、発光層132r,132g,132bの成膜ムラに起因する輝度ムラが低減された有機EL装置100を歩留まりよく製造することができる。
【0111】
このようにして製造された有機EL装置100は、所望の発光特性が実現され、見映えのよいカラー表示が可能である。
【0112】
なお、有機EL装置100における上記ノズル52ごとの吐出量の計測方法の適用は、機能膜としての発光層132r,132g,132bの形成に限定されるものではない。例えば、トリフェニルアミン系ポリマーを用いた中間層132cの形成についても適用可能である。
【0113】
また、中間層132cや発光層132r,132g,132b以外では、発光層132r,132g,132bと陰極134との間に電子輸送性を有する電子輸送層を形成する場合にも適用可能である。
【0114】
発光材料を含め電子輸送性の強い材料を含む液体におけるノズル52ごとの吐出量の計測方法においては、評価用基板1における一対の電極のうち少なくとも一方は、電子注入性を有する導電性材料を用いることが好ましい。例えば、第2電極6は、アルミニウムなどの低抵抗配線材料を主体とした導電膜と、該導電膜の電子輸送層に面する側に電子注入性を有するアルカリ金属やアルカリ土類金属、これらの酸化物、フッ化物(例えばLiF)、塩化物、有機物との化合物を形成した構造とする。これにより、適正な状態で電子輸送層の電気特性を計測できる。
【0115】
なお、本実施形態における液体70を膜形成領域Eに吐出して形成される正孔注入層132aは、正孔注入層形成材料としてPEDOT/PSSを用いているため、高い導電性を示すことから、電気抵抗が発光層132r,132g,132bに比べて著しく低く、正孔注入層132aの膜厚が多少ばらついても相関的な電気特性の値を計測することが難しい。つまり、有機EL素子112での実用膜厚領域(100nm以下)では正確な電流差を検知することが難しい。従って、このような材料について膜厚ばらつきを電気特性の値で計測する場合には、より厚膜化する必要がある。膜厚は例えば1μm以上が望ましい。また、このような導電性正孔注入材料を吐出する吐出ヘッド50のノズル52ごとの吐出量補正については、他の材料を用いた評価結果を代用しても良い。一方で、正孔注入層132aの膜厚が多少ばらついても発光層132r,132g,132bの輝度に与える影響が少なくて済むという特徴を有している。
【0116】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0117】
(変形例1)上記第1実施形態におけるノズル52ごとの吐出量の計測方法において、評価用基板1の構成は、これに限定されない。例えば、第1電極2は、透明性を有するITOに限らず、不透明な配線5と一体形成してもよい。また、評価用基板1における第1電極2の平面的な位置は、図4(a)に示すように、中央部から外れた位置であることに限定されない。すなわち、機能膜11の電気特性の計測を適正に行えるような配線5の配線抵抗を考慮した位置に形成すればよい。さらには、下層隔壁3を省いて、上層隔壁4だけの隔壁構造としてもよい。
【0118】
(変形例2)上記第2実施形態における電気光学装置としての有機EL装置100の構成は、これに限定されない。例えば、発光画素107に対応して封止基板102側にR(赤)、G(緑)、B(青)、三色のカラーフィルターを設ける。そして、素子基板101の機能層132は、白色発光が得られる発光層を有する構成とする。このような構成としてもフルカラーの表示が可能である。
【0119】
(変形例3)上記第2実施形態における電気光学装置としての有機EL装置100は、カラー表示が可能な表示装置に限定されない。例えば、機能層132における発光を白色などの単色とすることで、照明装置として用いることも可能である。
【0120】
(変形例4)上記第1実施形態のノズル52ごとの吐出量の計測方法を適用可能な電気光学装置は、上記第2実施形態の有機EL装置100に限定されない。機能膜として膜厚と電気特性とに相関関係を有するものであればよく、例えばダイオードやトランジスターの導電膜や半導体膜を形成する場合などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
2…一対の電極のうちの一方の電極としての第1電極、4a…膜形成領域としての開口部、6…一対の電極のうちの他方の電極としての第2電極、11…機能膜、50…吐出ヘッド、52…ノズル、70,80,90R,90G,90B…機能性材料を含む液体、100…電気光学装置としての有機EL装置、132r,132g,132b…機能膜としての発光層、E…膜形成領域、Ea…吐出量。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を複数のノズルのそれぞれから吐出可能な吐出ヘッドにおける前記液体のノズルごとの吐出量の計測方法であって、
前記吐出ヘッドにおける前記複数のノズルの配置に対応して設けられ、一対の電極のうちの一方の電極を有する複数の膜形成領域のそれぞれに前記ノズルから機能性材料を含む前記液体を液滴として予め定められた吐出回数で吐出する吐出工程と、
前記膜形成領域に吐出された前記液体を固化して前記機能性材料からなる機能膜を形成する機能膜形成工程と、
前記機能膜を覆うように前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する電極形成工程と、
前記膜形成領域ごとに前記一対の電極間に挟まれた前記機能膜の電気特性を前記一対の電極を介して計測する計測工程と、
計測された前記電気特性の結果に基づいて、前記機能膜の膜厚を求める膜厚算出工程と、
求められた前記機能膜の膜厚に基づいて、前記液滴の前記ノズルごとの吐出量を求める吐出量算出工程と、
を備えたことを特徴とするノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項2】
前記吐出工程では、前記複数のノズルから同じ吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項3】
前記吐出工程では、前記複数のノズルのうち隣り合うノズルから異なる吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項4】
前記吐出工程では、前記液滴の吐出回数を変えて吐出を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項5】
前記吐出工程では、前記計測工程おける前記機能膜の電気特性の計測に際して、前記機能膜の電気抵抗が前記一対の電極を含む配線抵抗よりも高くなる前記機能膜の膜厚設定に基づいて、前記液滴の吐出回数を規定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項6】
前記吐出工程では、異なる環境条件下で前記ノズルから前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項7】
前記吐出ヘッドは、前記液体を前記液滴として前記ノズルから吐出させる吐出手段としての圧電素子を有し、
前記吐出工程では、前記ノズルごとの前記圧電素子に印加する駆動波形を変えて前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項8】
前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電圧を印加したときの前記機能膜を流れる電流を計測することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項9】
前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電流を流したときの前記機能膜に印加された電圧を計測することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項10】
前記機能性材料が正孔輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が正孔注入性を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項11】
前記機能性材料が電子輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が電子注入性を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項12】
基板上の膜形成領域に機能膜を有する電気光学装置の製造方法であって、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法を用い、
求められた前記ノズルごとの吐出量の情報から前記ノズルごとに前記吐出量が所定の値となるように、前記ノズルごとに設けられた吐出手段の駆動条件を補正する補正工程と、
前記ノズルから前記膜形成領域に機能性材料を含む液体を液滴として補正された前記吐出量で所定の回数吐出する塗布工程と、
前記膜形成領域に塗布された前記液体を固化して前記機能膜を形成する機能膜形成工程と、を備えたことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項1】
液体を複数のノズルのそれぞれから吐出可能な吐出ヘッドにおける前記液体のノズルごとの吐出量の計測方法であって、
前記吐出ヘッドにおける前記複数のノズルの配置に対応して設けられ、一対の電極のうちの一方の電極を有する複数の膜形成領域のそれぞれに前記ノズルから機能性材料を含む前記液体を液滴として予め定められた吐出回数で吐出する吐出工程と、
前記膜形成領域に吐出された前記液体を固化して前記機能性材料からなる機能膜を形成する機能膜形成工程と、
前記機能膜を覆うように前記一対の電極のうちの他方の電極を形成する電極形成工程と、
前記膜形成領域ごとに前記一対の電極間に挟まれた前記機能膜の電気特性を前記一対の電極を介して計測する計測工程と、
計測された前記電気特性の結果に基づいて、前記機能膜の膜厚を求める膜厚算出工程と、
求められた前記機能膜の膜厚に基づいて、前記液滴の前記ノズルごとの吐出量を求める吐出量算出工程と、
を備えたことを特徴とするノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項2】
前記吐出工程では、前記複数のノズルから同じ吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項3】
前記吐出工程では、前記複数のノズルのうち隣り合うノズルから異なる吐出タイミングで前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項4】
前記吐出工程では、前記液滴の吐出回数を変えて吐出を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項5】
前記吐出工程では、前記計測工程おける前記機能膜の電気特性の計測に際して、前記機能膜の電気抵抗が前記一対の電極を含む配線抵抗よりも高くなる前記機能膜の膜厚設定に基づいて、前記液滴の吐出回数を規定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項6】
前記吐出工程では、異なる環境条件下で前記ノズルから前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項7】
前記吐出ヘッドは、前記液体を前記液滴として前記ノズルから吐出させる吐出手段としての圧電素子を有し、
前記吐出工程では、前記ノズルごとの前記圧電素子に印加する駆動波形を変えて前記液滴を吐出することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項8】
前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電圧を印加したときの前記機能膜を流れる電流を計測することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項9】
前記計測工程では、前記一対の電極間に一定電流を流したときの前記機能膜に印加された電圧を計測することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項10】
前記機能性材料が正孔輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が正孔注入性を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項11】
前記機能性材料が電子輸送性を有する材料である場合、前記一対の電極のうちのいずれか一方が電子注入性を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法。
【請求項12】
基板上の膜形成領域に機能膜を有する電気光学装置の製造方法であって、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のノズルごとの吐出量の計測方法を用い、
求められた前記ノズルごとの吐出量の情報から前記ノズルごとに前記吐出量が所定の値となるように、前記ノズルごとに設けられた吐出手段の駆動条件を補正する補正工程と、
前記ノズルから前記膜形成領域に機能性材料を含む液体を液滴として補正された前記吐出量で所定の回数吐出する塗布工程と、
前記膜形成領域に塗布された前記液体を固化して前記機能膜を形成する機能膜形成工程と、を備えたことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−243340(P2011−243340A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112890(P2010−112890)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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