説明

ノズルに撥水性をもたせた液体用容器

【課題】本発明の目的は従来の薬液容器をそのまま使用し、水溶液の一滴重量を小さく調整し且つバラつきを抑える効果を持つ薬液容器を提供することにある。これにより、粘性のあるものや表面張力が強い水溶液で見られた不具合が改善されると期待される。
【解決手段】本発明の薬液容器はキャップ内側のノズル先端封止部に撥水性のある物質を塗布し、閉栓する。その後ノズル側に転写されることにより得られるものである。閉栓することで、ノズル先端の撥水性を持たせることが可能であるため、使用毎に効果を持続することができ、一滴重量に影響が出難く、一滴量のコントロールが容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉栓する事でノズルに撥水性をもたせる液体用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の医薬品における液体用容器には、薬液を少量収量できる小型容器によって、点鼻薬、点耳薬、点眼液、消毒液、水虫薬、うがい薬など様々な製品が処方または販売されている。中でも一回の投与量が微量である薬液容器において、水溶液の一滴重量は、より正確であることが望ましく、ノズルの材質及び形状や薬液の組成に依存する傾向が高い。水溶性薬液において粘性がある場合には、ノズルを繰り返し使う事で液切れが悪くなり、液垂れも生じやすくなっていた。
【0003】
容器内側に撥水性を持たせて、残液を少なくするという考えはあったが、一滴量に関しては装着ノズル形状に依存していた(特許文献1)。
【0004】
そこで、液切れを良くしたり、液垂れが起こりにくい安定した薬液容器としてノズル形状を検討していたが、一度でも液垂れが起こるとノズル外側が濡れて一滴重量が増加してしまうなど、機能の面で課題が解消できなかった。
【0005】
また、撥水性のある物質に注目しノズル部材に練り込むという検討も行なったが、液切れの効果が弱く、逆に撥水性のある物質のもつ潤滑性が副作用として働き、ノズルが外れやすくなり改善できなかった。
【0006】
この改善策として、撥水性のある物質をノズル先端に塗りつける事を試したところ、効果が見られたが、ノズル先端に塗りつけた撥水性のある物質が他の場所への汚染してしまうので、生産ラインでの仕様に問題が生じた。
【0007】
前述したような撥水性のある物質としては、PDMS(ポリジメチルシロキサン=ジメチルポリシロキサン)、食品添加用シリコーン消泡剤などが挙げられ、安全性の高い、医薬品や医療器具に用いられるものが著名である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公開2006−87665
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「シリコーンの安全性資料集」シリコーン工業会出版物 1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、ノズルやキャップなど液体用容器の形状を変更する必要がなく、生産ラインで簡便にノズルに撥水性をもたせ、一定の滴下量を継続して排出可能な液体用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、液体用容器のキャップ内側のノズル先端封止部にオイル状シリコーンなどの撥水性のある物質を塗布し、閉栓することで、ノズルに撥水性をもたせることができ、内容物の粘度に関係なく、一定の滴下量を長期間継続することができ、最終量まで排出可能な液体用容器を得ることができる。
【0012】
本発明に用いられる撥水性のある物質とは、シリコーン、グリース、椿油、鯨油のようなものが挙げられる。中でもシリコーンが好ましく、シリコーンはオイル状、変性オイル状、粉末状がより好ましく、オイル状のジメチルポリシロキサン(例えば、信越化学工業製、東レ・ダウコーニング製)は純度(精製度)が高く、医薬品、医療用具に用いる場合に安全性の面で特に好ましい。
【0013】
本発明に用いられるシリコーンとしては、工業用規格、化粧品規格、医薬品規格などが挙げられる。中でも純度(精製度)が高く、安全性のデータも豊富な医薬品規格が好ましい。
【0014】
本発明に用いられるシリコーンとしては、粘性を持つものが好ましい。中でも20〜1,000cStのものがより好ましく、100〜350cStのものが塗布のし易さや安全性データが充実しているという理由で特に好ましい。例えば、Dow Corning 360 Medical Fluid 100 cSt、Dow Corning 360 Medical Fluid 350 cSt(東レ・ダウコーニング社製)、KF-96A-100cs、KF-96A-200cs(信越化学工業社製)などが挙げられる。
【0015】
本発明に用いられる液体用容器の用途としては、化粧用、食品用、医薬品用容器があげられる。中でも医薬品用容器が好ましく、医薬品用容器の中でも水性、油性、エマルジョンなどの液体を充填する薬液容器がより好ましく、薬液容器の中でも内容量が少なく、一滴の滴下量を正確にコントロールすることを必要とする点眼容器が特に好ましい。
【0016】
本発明に用いられる液体用容器は、手指による押圧と解除により同容器に設けたノズルより投与するものと、容器に内蔵したポンプによる押し出しにより投与するものとが含まれる。また、本発明に用いられる液体用容器の大きさや形状としては、一滴の滴下量を正確にコントロールすることを必要とする1mL 〜50mL容量の小型容器が好ましい。
【0017】
本発明に用いられる液体用容器の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられる。中でもポリプロピレン(PP)が比較的様々な薬液に対する反応性が低いので好ましい。
【0018】
本発明に用いられるノズルの材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられる。中でも高密度ポリエチレン(HDPE)の硬度がノズルに適しており、好ましい。
【0019】
本発明には、液体用容器のキャップ内側のノズル先端封止部に撥水性のある物質を塗布し、閉栓する作業を必要とする。この作業は発明の効果が得られる方法であれば、特に限定する必要はないが、機械によって行なってもよいし、人によって行なってもよい。機械によって行なう場合には、武蔵エンジニアリング社製塗布機:JETMASTERなどによって塗布及び閉栓作業を行なうことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の薬液容器は通常使用されているものが流用可能で、キャップの内側に撥水性のある物質を塗布し、閉栓するのみで得られる。キャップの内側は運搬時等でも形状上、同じ部材同士で容易に触れることは無いので汚染の防止につながる。ノズル側も巻き閉め工程まで撥水性のある物質と隔離されているので、通常と同様の工程で生産できる。撥水性を持たせたノズルでは、液切れが良くなり、液垂れも起き難くなる。また、閉栓することで、ノズル先端の撥水性を持たせることが可能であるため、使用毎に効果を持続することができ、一滴重量に影響が出難く、一滴量のコントロールが容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、一般的な点眼容器の断面図を示す。
[試験例1]
【0022】
本発明において、「液体用容器のキャップ内側のノズル先端封止部に撥水性のある物質を塗布し」とは、図3で示す格子線箇所に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】点眼容器の平面図及び断面図である。
【図2】点眼容器キャップの平面図及び断面図である。
【図3】点眼容器キャップの底面図である。
【0024】
図3で示す格子線箇所は、ノズル先端封止部またはキャップボス部と呼ばれる箇所である。キャップ内側のノズル先端封止部に50〜300μLの東レ・ダウコーニング社製 Dow Corning
360 Medical Fluid 100 cStを武蔵エンジニアリング社製塗布機:JETMASTERによって塗布する。次に点眼容器ノズルがノズル先端形状に合わせ凹部を持つキャップ内側に収まることによって、つまり、閉栓することによって、ノズル先端に適度なオイル状シリコーンがコーティングされて、撥水効果を得ることが可能となる。
【0025】
[試験例2]
本発明の液体用容器による効果を次に示す。
【0026】
試験例1に示したような塗布及び閉栓によって、撥水性をもたせたノズルを備えた点眼容器に3 mLの蒸留水を充填し、実施例1とした。
試験例1のような塗布を行なわず、通常の点眼容器に3 mLの蒸留水を充填し、比較例1とした。
実施例1及び比較例1をそれぞれ連続的に滴下し、充填した蒸留水を全て滴下した。1滴の重量と総滴数を測定した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果から、実施例1では、比較例1よりも一滴重量のバラつきが抑えられ、また一滴重量の平均値も低いことから、総滴下数が多かった。従って、本発明である実施例によって、一定の滴下量を持続でき、長く投与することが可能であることが明らかになった。
【0029】
[試験例3]
試験例1に示したような塗布及び閉栓によって、撥水性をもたせたノズルを備えた点眼容器に、リズモンTG点眼薬(わかもと製薬株式会社製)を3.2mL充填し、実施例2とした。
試験例1に示したような塗布を行なわず、通常の点眼容器にリズモンTG点眼薬(わかもと製薬株式会社製)を3.2mL充填し、比較例2とした。
実施例2及び比較例2をそれぞれ連続的に滴下し、充填した水溶液(薬液)を滴下した。実施例2と比較例2の40滴までの1滴の重量と、総滴数を測定した。
結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2の結果から、実施例2は比較例2と一滴重量のバラつきに関しては同程度であったが、一滴重量の平均値が著しく低く抑えられ、この効果で総滴下数も著しく増加した。従って、本発明である実施例によって、水溶液を用いた場合でも安定して滴下量を持続でき、長く投与することが可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によって、ノズルやキャップなど液体用容器の形状を変更する必要がないため、現行で使用している液体用容器においてただちに適用することが可能である。生産工程で簡便にノズルに撥水性をもたせることが可能であるため、一定の滴下量を継続して排出可能な液体用容器を提供できる。
【符号の説明】
【0033】
1 ノズル
2 キャップ
3 点眼容器(本体)














【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップ内側のノズル先端封止部に撥水性のある物質を塗布した液体用容器。
【請求項2】
水溶性、油性、エマルジョン薬液を充填する薬液容器である請求項1記載の液体用容器。
【請求項3】
樹脂製ポリマーを材質とする容器である請求項1記載の液体用容器。
【請求項4】
高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレート
からなる群から選ばれる少なくとも1つを材質とする容器である請求項1記載の液体用容器。
【請求項5】
撥水性のある物質がオイル状シリコーンである請求項1記載の液体用容器。
【請求項6】
オイル状シリコーンの粘度が20〜1,000cStの範囲である請求項1記載の液体用容器。
【請求項7】
オイル状シリコーンを液体用容器のキャップ内側のノズル先端封止部に塗布することによって撥水効果を得る方法。
【請求項8】
オイル状シリコーンを液体用容器のキャップ内側のノズル先端封止部に塗布することによって、水溶液の滴下量を継続的に一定とする方法。

















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−105339(P2011−105339A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261605(P2009−261605)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】