説明

ノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド

【課題】
ドライブリング、ドライブレバー、ノズルリングおよびノズルバーンのいずれにも適用可能なフェライト系耐熱ステンレス鋼を提供するものである。
【解決手段】
ノズルベーン式のターボチャージャーを構成する材料のうち、少なくとも一部が質量%で、C:0.08%以下、Si:0.2〜3.0%、Mn:0.2〜2.0%、Cr:12.0〜20.0%、Nb:0.8%以下、N:0.04%以下を含有し、かつ
Nb−8(C+N)≧0.10 (1)
Cr+Si+Mn≧14.0 (2)
の各式を満足するようにこれらの成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼で作成されているノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイドアッセンブリ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウェストゲイト式のターボチャージャーはエンジンの出力改善を主体としていたが、近年開発されたノズルベーン式ターボチャージャーは、出力改善もさることながら、排気ガスのクリーン化にも寄与するため、特にディーゼルエンジンに搭載されるようになった。
【0003】
ノズルベーン式のターボチャージャーの排気ガイドアッセンブリは、主にステンレス鋼が使用されているが、個々の部品によって要求特性が異なる。
図1に代表的なノズルベーン式のターボチャージャーの排気ガイドアッセンブリを示す。各部品は以下の特性が要求される。
1 ドライブリング、2ドライブレバー:
排気圧をコントロールするために、アクチュエータと連動してノズルベーンの開度を制度よく調節させる。使用環境は温度が600℃程度に上昇するため、高温強度および耐高温酸化性が重要となる。
3 ノズルリング―1、5 ノズルリング―2:
排気ガスの誘導を兼ね、約800℃の高温化にさらされるため、高温強度と耐酸化性が要求される。
4 ノズルベーン:
排気ガス経路の断面積をコントロールし、タービンの回転数を制御するため、約800℃の排気ガス温度にさらされる。このため、排気ガスの脈動圧力に耐えられるための高温強度および高温化でスムーズに稼動するための耐高温酸化性が要求される。
【0004】
これらの要求特性から、一般的にはいずれの部品もSUS310Sに代表されるオーステナイト系耐熱ステンレス鋼が用いられる。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は熱膨張係数が大きいため、加熱―冷却を繰り返し受ける部位をスムーズに稼動させるために使用環境を想定した寸法管理が求められる。また、オーステナイト系ステンレス鋼を加熱―冷却すると、高温で生成した酸化スケールとの間の熱膨張差が大きいため、冷却時に酸化スケールの剥離現象が顕著となり寸法制度の悪化が懸念される。このため、特開2002−332862に開示されるような高合金や、特開平6−10114に開示されるようなクロマイジング処理(表面にCrを拡散浸透させる処理)などを施して高温強度と耐酸化性および耐熱性を両立させているのが現状である。
オーステナイト系耐熱鋼はNiなどを多量に含有するため、フェライト系ステンレス鋼に比べて大幅なコストアップとなり、さらには、クロマイジング処理などの表面処理を施すことにより著しいコスト上昇を招いている。
【特許文献1】特開2002−332862
【特許文献2】特開平6−10114
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ドライブリング、ドライブレバー、ノズルリングおよびノズルバーンのいずれにも適用可能なフェライト系耐熱ステンレス鋼を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、質量%で、C:0.08%以下、Si:0.2〜3.0%、Mn:0.2〜2.0%、Cr:12.0〜20.0%、Nb:0.8%以下、N:0.04%以下を含有し、かつ
Nb−8(C+N)≧ 0.10 (1)
Cr+Si+Mn ≧ 14.0 (2)
の各式を満足するようにこれらの成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼で作成されていることを特徴とする、ノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイドである。
さらにTi,Zr,AlおよびVの1種又は2種を合計で0.05〜0.8%、Mo,Cu,およびWの1種又は2種を合計で0.05〜4.0%、Ni,Coの1種又は2種を合計で0.5〜5.0%、REMおよびCaの1種又は2種以上を合計で0.01〜0.2%を含有させることもできる。
なお、本発明で言う「排気ガイド」とは、ノズルベーン式ターボチャージャーのドライブリング、ドライブレバー、ノズルリングまたはノズルベーンのいずれかを構成するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コストアップに繋がるクロマイジング処理を行うことなく、高温強度と耐高温酸化性、使用中の寸法変化の少ないノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイドアッセンブリとして要求される材料特性のうち、熱膨張係数を小さく抑えるためにはフェライト系ステンレス鋼を適用することが好ましい。そこで、要求特性を満足するべく種々の実験を行った。フェライト系ステンレス鋼はCr含有量が多くなるにしたがって高温酸化特性が向上するが、高Crになるにしたがって加工性が低下する。そこで、低Cr鋼の高温酸化特性を改善すべく実験を重ねた結果、低Cr鋼においてもSiおよびMnを複合添加し、Crとの合計で14質量%以上とすることで高温酸化特性を維持できるとともに、高温での摺動性も確保できることが明らかとなった。
【0009】
一方、高温強度に関して、フェライト系ステンレス鋼の高温強度を改善すべく種々の実験を行った。低CrのSiおよびMn複合添加鋼においてNbを添加すると高温強度を著しく改善するとともに、高温での耐摩耗性も確保できることが明らかとなった。その必要量(いずれも質量%)は、
Nb−8(C+N) (1)
の式において、0.10以上が必要であることを見出した。この理由は、Nbの炭窒化物の分散も高温強度および耐高温磨耗性に有効ではあるが、さらに固溶Nbの量が0.1質量%以上が必要であることによる。
【0010】
また、Ti,Zr,Mo,Cu,W,NiおよびCoの添加についても、各元素の固溶量にしたがって高温強度を上昇させることが明らかとなった。さらに、Al,REMおよびCaについても、高温酸化性を改善するとともに、高温での摺動性も確保できることを明らかにし、本発明に至った。
以下本発明における限定理由を詳細に述べる。
【0011】
C:0.08%以下
Cはフェライト系ステンレス鋼において高温強度を上昇させるが、Nbとの複合添加においては、Nb炭化物を生成しNb固溶量を低下させ、逆に高温強度を低下させる。したがって、0.08%以下とする。
Si:0.2〜3.0%
本発明において重要な元素であり、添加するにしたがって高温酸化特性を改善させる。しかし、過剰な添加はフェライト相を硬質化させ、加工性を悪化させる。したがって、0.2〜3.0%とする。
【0012】
Mn:0.2〜2.0%
Mnも本特許において重要な元素であり、Siと同様に添加することで高温酸化特性、特に耐スケール剥離性を改善させる。しかし、過剰に添加すると高温でオーステナイト相の生成を助長するため、0.2〜2.0%とする。
Cr:12.0〜20.0%
Crは高温における耐酸化特性を安定させる。しかし、過剰に添加すると製造性及び加工性を阻害する。したがって、本発明では12.0〜20.0%とする。
さらに、Crと共にSiおよびMnを複合添加することでさらに高温酸化特性が改善される。その範囲は、Cr,Si, Mnの合計で14以上である。
【0013】
Nb:0.8%以下 および Nb−8(C+N)≧0.10
Nbも本発明において重要な元素であり、CやNを炭窒化物として固定し、鋼中に微細分散析出することで高温強度を上昇させるとともに、炭窒化物を生成しなかったNbは固溶して固溶強化を起こすことにより高温強度を上昇させる効果があるため、下限はNb−8(C+N)≧0.1(いずれも質量%)とする。しかし、過剰の添加は熱間加工性や表面品質特性を阻害するので、Nb含有量の上限は0.8%とする。
【0014】
Ti,Zr,Al,V:1種又は2種以上の合計で0.05〜0.8%
Ti,ZrおよびVはCやNを炭窒化物として固定し、鋼中に微細分散析出することで高温強度を上昇させる。また、Alは高温酸化特性を改善する。しかし、何れも過剰に添加すると熱間加工性や表面品質特性を阻害する。したがって、1種又は2種以上の合計で0.05〜0.8%とする。
Mo,Cu,W:1種又は2種の合計で0.5〜5.0%
Mo,CuおよびWも高温強度を改善する。しかし、過剰な添加は熱間加工性を阻害するため、1種又は2種の合計で0.5〜5.0%とする。
【0015】
REM,Ca:1種又は2種以上の合計で0.01〜0.2%
REMおよびCaはAlと同様に高温の耐酸化性を向上させる。しかし、過剰に添加すると低温靭性などの低下により製造性が悪化する。したがって、1種又は2種以上の合計で0.01〜0.2%とする。
【0016】
これら以外の残部は実質的にFeで構成すればよいが、一般にステンレス鋼への混入が許容される元素として以下のようなものを挙げることができる。許容範囲も併せて示す。
P:0.04%以下、S:0.03%以下好ましくは0.005%以下、Ni:0.6%以下好ましくは0.25質量%以下。
【実施例】
【0017】
表1に本発明例および比較例における供試鋼の化学成分およびNb−8(C+N)、Cr+Mn+Si他の計算値を示す。これらの鋼は、30kgの真空溶解で溶製した。得られた鋼魂はφ15mmの丸棒および30mmtの板に鍛造し、丸棒は800〜1100℃の溶体化処理を施した。板は熱間圧延で4mmtの熱延板とし、焼鈍後、1.5mmtまでの冷間圧延と800〜1100℃の最終焼鈍を施して冷延焼鈍板とした。
【0018】
【表1】

【0019】
得られた丸棒は、5mm角×50mm長さの熱膨張測定用試験片に加工後、室温から700℃までの平均熱膨張係数を求めた。また、平行部φ10mmの高温引張り試験片に加工後、JISG056に準拠した700℃の高温引張り試験を実施し、0.2%耐力を測定した。
【0020】
一方、冷延焼鈍板は、高温酸化試験は全面を#400研磨し、大気+60℃飽和水蒸気の雰囲気において900℃で25分加熱―室温で10分冷却を1000サイクル施し、試験前と試験後の質量変化を表面積で除した。また、高温摺動性は10mm×20mmの試験片に加工後、表面に#600研磨を施し、700℃に加熱後0.1N/mmの圧力をかけ、ストロークを1mm、速度を1mm/秒の摺動を1万回実施し、試験後の摺動面の粗さを測定した。粗さは、Raで評価し、0.5μm未満をA、0.5〜1.0μmをB、1.0μmを超えるものをCとして判定した。
【0021】
これらの評価結果を表2に示す。B1は熱膨張係数が小さいものの、Nb−8(C+N)の値が0.1未満であるため高温強度が低く、Cr+Si+Mnの値が14未満のため高温酸化特性および高温摺動性が劣る。また、B2もNbが添加されていないため高温強度が低く、高温酸化特性および高温摺動性も劣ることがわかる。さらに、B3〜B5はオーステナイト系のため高温強度は高いものの熱膨張係数が高く、B3およびB5は高温酸化特性および高温摺動性も劣る。
【0022】
【表2】

【0023】
一方、発明鋼のA1〜A10鋼は、熱膨張係数が小さく、Nb−8(C+N)の値が0.1以上であるため高温強度も高く、さらに、Cr+Si+Mnの値が14以上のため高温酸化特性および高温摺動性が優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、ドライブリング、ドライブレバー、ノズルリングおよびノズルベーンのいずれも適用可能なフェライト系耐熱ステンレス鋼を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ノズルベーン式ターボチャージャーの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ドライブリング
2 ドライブレバー
3 ノズルリング―1
4 ノズルベーン
5 ノズルリング―2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルベーン式により排気ガイドの過給量を自在に調整するためのノズルベーン式ターボチャージャーであって、ターボチャージャーを構成する材料のうち、少なくとも一部が質量%で、C:0.08%以下、Si:0.2〜3.0%、Mn:0.2〜2.0%、Cr:12.0〜20.0%、Nb:0.8%以下、N:0.04%以下を含有し、かつ
Nb−8(C+N)≧ 0.10 (1)
Cr+Si+Mn ≧ 14.0 (2)
の各式を満足するようにこれらの成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼で作成されていることを特徴とする、ノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。
【請求項2】
さらにTi,Zr,AlおよびVの1種又は2種を合計で0.05〜0.8%を含有していることを特徴とする、請求項1に記載のノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。
【請求項3】
さらにMo,Cu,およびWの1種又は2種を合計で0.05〜4.0質量%含有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。
【請求項4】
さらにNi,Coの1種又は2種を合計で0.5〜5.0%含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。
【請求項5】
さらにREMおよびCaの1種又は2種以上を合計で0.01〜0.2%を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。
【請求項6】
当該部材はドライブリング、ドライブレバー、ノズルリングまたはノズルベーンのいずれかを構成するものである、請求項1〜5に記載のノズルベーン式ターボチャージャーの排気ガイド。


【図1】
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【公開番号】特開2013−64201(P2013−64201A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−269408(P2012−269408)
【出願日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【分割の表示】特願2007−202426(P2007−202426)の分割
【原出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】