説明

ノズル及び分散装置

【課題】分散効率の低下を抑制できるとともにキャビテーション、エロージョンの発生をも防止できるノズル及び分散装置を得る。
【解決手段】セラミックスラリーをジェット流Aとして通過させて凝集粒子を分散させるためのノズル17及び該ノズル17を備えた分散装置。ノズル17は凝集粒子を分散させる領域Cに内径が異なる分散開口部17c,17dを有し、分散開口部17c,17dの内径はジェット流Aの流れに沿って段階的に大きく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル及び分散装置、特に、セラミックスラリーを製造する際に、凝集粒子を分散させるためのノズル及び該ノズルを備えた分散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスラリーを製造する際に凝集粒子を分散させために、特許文献1に記載の分散装置が知られている。この分散装置では、ノズルに凝集粒子を含むセラミックスラリーを高速でジェット流として通過させることにより、凝集粒子に伸縮応力を作用させ、分散させている。
【0003】
図4に示すように、この種のノズル50は、セラミックスラリーのジェット流Aの上流側から先細のテーパ部51、小径のストレート部52、大径の開口部53が形成されている。ジェット流Aはノズル50を高速で通過することにより、伸縮応力を受け、凝集粒子が分散することになる。
【0004】
しかしながら、開口部53はストレート部52の10〜100倍の内径を有しているため、ストレート部52から大径の開口部53に出たジェット流Aの周囲に旋回流Bが発生するという問題点を有していた。旋回流Bの発生によって分散に寄与するエネルギーが減少し、分散効率が低下する。
【0005】
そこで、図5に示すノズル50のように、凝集粒子を分散させる領域Cを比較的小径の開口部53とすることが考えられる。しかし、この場合でも、開口部53を出たジェット流Aが大きく減圧されることによって出口部分aでキャビテーション(気泡、空洞)が発生し、その崩壊時に発生する高圧でノズル50にエロージョン(壊食)が生じる。
【0006】
また、図6に示すノズル50のように、分散領域Cにおいて開口部53を下流側に広がったテーパ状とすることも考えられる。この場合では、旋回流の発生を抑えることは可能であるが、テーパ状の内壁面近傍で圧力損失が発生し、やはり、分散に寄与するエネルギーが減少し、分散効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006−098091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、分散効率の低下を抑制できるとともにキャビテーション、エロージョンの発生をも防止できるノズル及び分散装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の第1の形態であるノズルは、
セラミックスラリーをジェット流として通過させて凝集粒子を分散させるためのノズルであって、
ジェット流を噴き出す噴き出し開口部と、該噴き出し開口部の下流側であって凝集粒子を分散させる領域に内径が異なる複数の分散開口部を有し、該複数の分散開口部の内径はジェット流の流れに沿って段階的に大きく形成されていること、
を特徴とする。
【0010】
本発明の第2の形態である分散装置は、
セラミックスラリーの凝集粒子を分散させる分散ユニットを備えた分散装置において、
前記分散ユニットは、セラミックスラリーをジェット流として通過させるノズルを備え、
前記ノズルはジェット流を噴き出す噴き出し開口部と、該噴き出し開口部の下流側であって凝集粒子を分散させる領域に内径が異なる複数の分散開口部を有し、該複数の分散開口部の内径はジェット流の流れに沿って段階的に大きく形成されていること、
を特徴とする。
【0011】
前記ノズル及び分散装置において、ジェット流の下流側であって凝集粒子を分散させる領域には複数の分散開口部がジェット流の流れに沿って内径が段階的に大きく形成されているため、換言すれば、ジェット流の流路(凝集領域)は階段状に複数回に分けて拡大されているため、流路が1段で拡大している従来例に比べて、ジェット流の周囲に発生する旋回流が抑制され、分散効率の低下を抑制できる。しかも、流路内での減圧が段階的に行われるため、キャビテーションの発生が抑制され、ノズルにエロージョンが生じることもなく、ノズルの寿命が長くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セラミックスラリーの凝集粒子を分散させる効率の低下を抑制できるとともにキャビテーション、エロージョンの発生をも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る分散装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】前記分散装置を構成する分散ユニットを示す断面図である。
【図3】前記分散ユニットに搭載されているノズルを示す断面図である。
【図4】従来のノズルの第1例を示す断面図である。
【図5】従来のノズルの第2例を示す断面図である。
【図6】従来のノズルの第3例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るノズル及び分散装置の実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
(分散装置、図1参照)
分散装置1は、図1に示すように、セラミックスラリーを投入する投入タンク10と、プレポンプ11と、セラミックスラリーに高圧をかけるシリンダーポンプ13と、セラミックスラリーの凝集粒子を分散させる分散ユニット15と、セラミックスラリーを冷却するための熱交換器20と、排出タンク21とで構成されている。シリンダポンプ13の入口側及び出口側には逆止弁12,14が配置されている。投入タンク10とプレポンプ11との間の流路にはスラリーの有無や気泡の混入を検出するセンサ(図示しない)が設置されている。さらに、排出タンク21から投入タンク10へはスラリーを搬送する循環ライン22が設置されている。プレポンプ11はダイヤフラムポンプ、ギアポンプ、ターボポンプなどである。
【0016】
以上の構成からなる分散装置1における処理手順の概略を説明する。(1)セラミックスラリーを投入タンク10に投入する。(2)プレポンプ11を駆動して、投入タンク10から排出タンク21までの流路をスラリーで満たし、流路容積分のスラリーを初期排出する。(3)シリンダーポンプ13を駆動してスラリーを加圧し、スラリーを分散ユニット15へ供給する。(4)分散ユニット15では以下に説明するようにスラリーはジェット流として噴流し、凝集粒子が分散される。(5)分散ユニット15から流出したスラリーは高温であり、熱交換器20にて冷却される。(6)冷却後のスラリーは排出タンク21へ排出される。(7)必要であれば、スラリーは排出タンク21から再び投入タンク10へ循環され、分散処理が再度実行される。(8)分散処理が終了すると、投入タンク10へ溶媒を投入し、プレポンプ11にて投入タンク10から排出タンク21までの流路に残ったスラリーを排出タンク21に戻す。使用されるセラミックスラリーの粘度は10〜1000mPa・sであり、処理圧力は10〜500MPaである。
【0017】
(分散ユニット及びノズル、図2、図3参照)
分散ユニット15は、図2に示すように、スラリーのジェット流Aの上流側から接続管16、ノズル17、背圧調整管18を同軸上に接続固定したものである。接続管16はテーパ状の導入部16aと大径のストレート部16bとを備えている。ノズル17は、先細のテーパ部17aと小径のストレート部(噴き出し開口部)17bと第1分散開口部17cと第2分散開口部17dとジェット流Aの下流側に広がったテーパ状の接続部17eとを備えている。背圧調整管18はストレート部18aとジェット流Aの下流側に広がったテーパ部18bとを備えている。
【0018】
接続管16のテーパ部16aの開口角度は60°であり、ストレート部16bはノズル17のテーパ部17aの開口径よりも大きな内径とされている。背圧調整管18は、外周に形成したテーパ部18cをノズル17のテーパ状の接続部17eに嵌合されており、ストレート部18aはノズル17の出口部分よりも若干小さくかつストレート部17bよりも大きい内径を有し、ノズル17の出口部分に背圧を与えることで、接続部17eのa部分(図3参照)に発生するキャビテーションを抑制する。
【0019】
ノズル17に関して、凝集粒子を分散させる領域Cに形成された第1分散開口部17c及び第2分散開口部17dはストレート形状であり、第1分散開口部17cの内径はストレート部(噴き出し開口部)17bの内径よりも大きく、第2分散開口部17dの内径は第1分散開口部17cの内径よりも大きい。それぞれ、ジェット流Aの上流側の内径の3倍以下とされている。具体的には、図3に示すように、ストレート部17bの内径d1は0.6mmであり、第1分散開口部17cの内径d2は0.8mmであり、第2分散開口部17dの内径d3は1.6mmである。
【0020】
以上の構成からなる分散ユニット15において、接続管16から流入したセラミックスラリーはノズル17のテーパ部17aで圧縮されてストレート部17bから噴き出し、高速のジェット流Aとしてノズル17を通過する。そして、第1分散開口部17c、第2分散開口部17dを通過することにより圧縮が開放される。これにて、スラリー内の凝集粒子に伸縮応力が作用し、凝集粒子が分散する。
【0021】
ノズル17にはジェット流Aの流れに沿って内径が段階的に大きくなる第1分散開口部17c及び第2分散開口部17dが形成されているため、換言すれば、ジェット流Aの流路(分散領域C)は階段状に複数回に分けて拡大されているため、流路が1段で拡大している従来例に比べて、ジェット流Aの周囲に発生する旋回流が抑制され、分散効率の低下を抑制できる。しかも、流路内での減圧が段階的に行われるため、キャビテーションの発生が抑制され、ノズル17にエロージョンが生じることもなく、ノズル17の寿命が長くなる。
【0022】
前述のように、第1分散開口部17c及び第2分散開口部17dの内径は上流側の内径の3倍以下とされている。3倍を超えるとジェット流Aの周辺に発生する旋回流の抑制効果が薄れ、分散に寄与するエネルギーが減少する。特に、第2分散開口部17dの内径が3倍を超えると、段差部でキャビテーションが発生しやすくなり、ノズル17の内壁のエロージョン(壊食)につながる。
【0023】
(他の実施例)
なお、本発明に係るノズル及び分散装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できる。
【0024】
特に、セラミックスラリーの流路の構成は任意である。前記実施例において、ノズルにはストレート部の下流側に2段階に広がる第1分散開口部及び第2分散開口部を設けているが、3段階以上に広がる分散開口部を設けてもよい。また、セラミックスラリーを加圧するシリンダーポンプは一つのみ図示しているが、処理圧力の脈動を抑制するため、2以上のシリンダーポンプを並列に配置してもよい。さらに、流路に設けたスラリーを検出するためのセンサとしては、光学センサ、近接センサ、超音波センサ、コリオリ式センサなど種々の形式のものを使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上のように、本発明は、ノズル及び分散装置に有用であり、特に、セラミックスラリーの凝集粒子を分散させる効率の低下を抑制できるとともにキャビテーション、エロージョンの発生をも防止できる点で優れている。
【符号の説明】
【0026】
1…分散装置
15…分散ユニット
17…ノズル
17b…ストレート部(噴き出し開口部)
17c…第1分散開口部
17d…第2分散開口部
A…ジェット流
C…分散領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスラリーをジェット流として通過させて凝集粒子を分散させるためのノズルであって、
ジェット流を噴き出す噴き出し開口部と、該噴き出し開口部の下流側であって凝集粒子を分散させる領域に内径が異なる複数の分散開口部を有し、該複数の分散開口部の内径はジェット流の流れに沿って段階的に大きく形成されていること、
を特徴とするノズル。
【請求項2】
前記複数の分散開口部の内径はジェット流の上流側の内径の3倍以下であること、を特徴とする請求項1に記載のノズル。
【請求項3】
セラミックスラリーの凝集粒子を分散させる分散ユニットを備えた分散装置において、
前記分散ユニットは、セラミックスラリーをジェット流として通過させるノズルを備え、
前記ノズルはジェット流を噴き出す噴き出し開口部と、該噴き出し開口部の下流側であって凝集粒子を分散させる領域に内径が異なる複数の分散開口部を有し、該複数の分散開口部の内径はジェット流の流れに沿って段階的に大きく形成されていること、
を特徴とする分散装置。
【請求項4】
前記複数の分散開口部の内径はジェット流の上流側の内径の3倍以下であること、を特徴とする請求項3に記載の分散装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−161390(P2011−161390A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28550(P2010−28550)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】