ノズル及び薬剤散布器
【課題】薬剤散布をより効率的に行うことが可能なノズル及び薬剤散布器を提供する。
【解決手段】セルトレイ(育苗箱)の全幅と略同一の幅を有して複数個の孔5が一列で配列されたノズル部6を備えるノズル1を容器2のノズル接続管3に接続して薬剤散布器31を構成した。したがって、薬剤散布器31を一方向へ移動させるだけで、セルトレイに収容された野菜苗に薬剤を均一に散布することが可能になり、薬剤散布作業を大幅に効率化することができる。
【解決手段】セルトレイ(育苗箱)の全幅と略同一の幅を有して複数個の孔5が一列で配列されたノズル部6を備えるノズル1を容器2のノズル接続管3に接続して薬剤散布器31を構成した。したがって、薬剤散布器31を一方向へ移動させるだけで、セルトレイに収容された野菜苗に薬剤を均一に散布することが可能になり、薬剤散布作業を大幅に効率化することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、セルトレイに収容された苗に薬剤を散布するためのノズル及び該ノズルを備える薬剤散布器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、セルトレイ(育苗箱)に収容された苗に薬剤を散布するための先行技術として、特許文献1に記載の農薬粒剤散布容器が知られている。この農薬粒剤散布容器は、農薬粒剤(薬剤)が収容される容器本体と、該容器本体の上部開口に取り付けられて農薬粒剤を流出させるための孔が直線状に少なくとも一列で配列された円形の蓋とを有しており、農薬粒剤を散布する場合には、容器をセルトレイ上方で傾けた状態で、水平方向へ一定の速度で移動させることにより、セルトレイに収容された苗に農薬粒剤を均一に散布するようにしたものである。しかしながら、この農薬粒剤散布容器では、蓋の直径がセルトレイの幅に対して小さいため、容器をセルトレイの幅方向へ数回移動させることから、移動距離が長くなり、散布作業の効率化が困難であるとともに、散布面積が広い場合には、作業者への負担が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平07−28082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、薬剤散布をより効率的に行うことが可能なノズル及び薬剤散布器を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のノズルは、薬剤を収容する容器の接続口に接続されて、前記容器に収容された薬剤を散布するノズルであって、前記容器の接続口に接続される接続管と、前記ノズルの幅方向へ延びて、前記接続管を通して導入された薬剤を流出させるための複数個の孔が少なくとも一列で配列されたノズル部と、前記接続管と前記ノズル部との間に設けられて、前記接続管から前記ノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに高さが縮小される中空部を有する胴部と、を有することを特徴とする。
また、上記課題を解決するため、本発明の薬剤散布器は、上記ノズルを備えることを特徴とする。
【0006】
以下の説明において、便宜上、ノズルのノズル部側を前側、接続管側を後側、接続管の軸線方向を前後方向と各々規定する。なお、前後方向と薬剤の流下方向とは、実質上、同一方向であり、両者を必要に応じて使い分ける。また、ノズルの幅方向(以下、単に幅方向という)と孔の配列方向も、実質上、同一方向であり、これについても両者を必要に応じて使い分ける。さらに、前後方向と幅方向との両方に垂直な方向を上下方向あるいは高さ方向と規定し、両者を必要に応じて使い分ける。
【0007】
ノズル部は、例えば、幅方向に長く且つ高さ方向に短い長方形に形成される。ノズル部の幅方向の長さは、例えば、セルトレイ(育苗箱)の幅に対応させて設定する。また、ノズル部は、前後方向に緩やかに湾曲させることができる。さらに、ノズル部に配列される孔は、通常、一列で十分であるが、必要に応じて、複数列で配列することができる。そして、ノズル部に配列される孔の形状及び大きさは、散布される薬剤に応じて適宜設定することができ、例えば、円形、楕円形、多角形あるいは幅方向に渡って全域に延びるスリット形状とすることができる。また、孔の間隔(ピッチ)は、均一である必要はなく、一般に、ノズル部の幅方向両側に配置された孔から流出される薬剤の量に対して、ノズル部の中央に配置された孔からより多量の薬剤が流出される傾向があることから、ノズル部の幅方向両側に配置された孔の間隔に対して、ノズル部の中央に配置された孔の間隔を大きく設定することができる。同じ理由から、ノズル部の中央に配置された孔の直径に対して、幅方向両側に配置される孔の直径を大きく設定することができる。
【0008】
本発明のノズルは、耐薬品性等、必要とされる性能を有する合成樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂(エラストマ)により構成することが望ましい。また、ノズルは、射出成形、射出ブロー成形、ブロー成形等の成形手段によって直接、製品形状に成形することも可能であるが、展開された形状の成形体を成形しておいて、後で組み立てて製品形状とすることができる。この場合、接続管を円筒形として、例えば、接続管の軸線を含む平面(軸平面)によって接続管及び胴部を上下方向(高さ方向)に2つの半殻体に半割して、各半殻体をノズル部との間の各連結部を展開軸として展開することにより、ノズルの成形体を得ることができる。この成形体において、ノズル部の幅方向両側に、断面が三角形に形成されて相互に対向する一対の側壁を設けておいて、各半殻体を各展開軸(連結部)の回りに回転させることにより、三角形の一対の側壁の、一辺の端面を一方の半殻体の端面に密着させるとともに、他辺の端面を他方の半殻体の端面に密着させるように構成することができる。
【0009】
本発明のノズルは、胴部の幅方向両側の側壁に、2つの半殻体の合わせ面(半割面)に沿って複数個の留め具が配設されており、これらの留め具を留め付けて、2つの半殻体を各々の半割面が密着された状態で保持(締結)することにより、2つの半殻体間からの液漏れを防ぐことができる。留め具は、先行技術から適宜に選択することができ、例えば、一方の半殻体の側壁の外側面に突起を設け、他方の半殻体の側壁の外側面に門形のバックルを設け、突起にバックルを係合させることで留め付けるように構成することができる。そして、留め具をノズルと一体成形することで、部品点数ならびに製造コストの増加を抑止することができる。
【0010】
本発明のノズルは、一方の半殻体の凸部を他方の半殻体の相対する凹部に係合させて2つの半殻体を相対位置決めさせる位置決め手段を有する。位置決め手段は、例えば、一方の半殻体にその半割面に沿って所定間隔で配設された複数個の凸部と、他方の半殻体にその半割面に沿って配設された複数個の凹部とによって構成することができる。そして、各半殻体とノズル部との間の可撓性を有する各連結部を折り曲げて変形させることにより各半殻体を各展開軸の回りに回転させ、位置決め手段の各凸部を相対する各凹部に係合させる。これにより、2つの半殻体が相対位置決めされて、一方の半殻体の半割面と他方の半殻体の半割面とを一致させることができる。なお、留め具同様、位置決め手段をノズルと一体成形することで、部品点数ならびに製造コストの増加を抑止することができる。
【0011】
本発明のノズルは、胴部の内側に、接続管からノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに相互の間隔が縮小される一対の流入側(後側)対向面と、一側が一対の流入側対向面に接続されるとともに他側がノズル部に接続されて、幅が一定に形成されるとともに相互の間隔が一定である一対の流出側(前側)対向面とが形成されている。なお、一対の流入側対向面は、必ずしも平面である必要はなく、曲面を含んで構成することができる。そして、一対の流入側対向面または一対の流出側対向面には、接続管からノズル部へ向けて流下する薬剤の流れを孔の配列方向へ拡散させるための壁状の拡散部が配置される。これにより、接続管から流入された薬剤を胴部内で幅方向へ拡散させて、薬剤をノズル部の孔配列方向(幅方向)の全域に亘って均一に分配することができる。なお、拡散部の形状ならびに配置は、適宜に設定することができる。例えば、一対の流出側対向面の各々に、各半殻体の側壁と同じ高さの拡散板(拡散部)を、ノズルの内側の全幅に亘って、前後方向(接続管の軸線方向)へ所定間隔で交互に配設することができる。
【0012】
本発明のノズルは、円筒形の接続管の外周面に1条の雄ねじが形成されており、この雄ねじには、一端にフランジを有する円筒形の接続部材の他端側の内周面に形成された雌ねじが螺合される。そして、接続部材を予め貫通させておいた環状の固定部材の内周面に形成された雌ねじを、容器の接続口の外周面に形成された雄ねじに螺合して締め付けることにより、接続部材のフランジが容器の接続口端面に押し付けられて、ノズルが容器に取り付けられる。本発明の薬剤散布器では、ノズルと容器との間、より詳細には、ノズルに装着された接続部材のフランジと容器の接続口端面との間に、板に複数の孔を穿孔して形成されたスクリーン部材が介在されており、このスクリーン部材によって、容器からノズルへ流れる薬剤の流量を制御することができる。これにより、薬剤が大流量で容器からノズルへ流れ込むことを防いで拡散部を効果的に作用させることができ、薬剤をノズル幅方向の全域に亘ってより均一に散布することが可能になる。
【0013】
本発明の薬剤散布器の容器は、略円錐状に形成された市販のオイルジョッキと比較して寸胴に形成されており、上部の後ろ側部分には薬剤注入口が開口している。この薬剤注入口は、市販のオイルジョッキのオイル注入口が左右両側(ノズル幅方向)に大きく切り込まれた形状であるのに対し、水平面に対して傾斜した一平面上に開口されている、言い換えると、水平面に対して傾斜した一平面で切り取られたように開口している。これにより、容器の上部の容量を確保することができ、容器を比較的勢いよく傾けた場合であっても、薬剤が薬剤注入口の左右からこぼれ落ちてしまうようなことがない。
【0014】
本発明の薬剤散布器の容器は、薬剤注入口近傍から底部近傍へ亘って上下に延びる把手を有する。市販のオイルジョッキ等では、把手が容器の上部にのみ設けられており、作業者は、握る位置を下方へずらすことができず、容器を傾けた時にバランスをとるのが困難である。そこで、本発明の薬剤散布器では、把手を容器の上部から底部まで延長させたことにより、容器を傾けた時にバランスがとり易くなり、作業者の負担を軽減することができる。
【0015】
本発明のノズル及び該ノズルを備える薬剤散布器によって散布される薬剤は、例えば、液体農薬製剤及び固体農薬製剤とすることができる。液体農薬製剤は、原液の状態あるいは水によって数倍〜10000倍に希釈されたものを使用する。一方、固体農薬製剤は、水によって数倍〜10000倍に希釈されたものを使用する。希釈にあたって、容器に液体あるいは固体の農薬製剤を投入後、水を注入して、その後、攪拌して均一に希釈させてもよいし、容器に水を注入後、液体あるいは固体の農薬製剤を投入して、その後、攪拌して均一に希釈させてもよい。
【0016】
液体農薬製剤として、例えば、液剤(soluble concentrate)、乳剤(emulsifiable concentrate)、懸濁剤(suspension concentrate)、乳濁剤(concentrated emulsion)、サスポエマルジョン(suspoemulsion)、マイクロエマルジョン(microemulsion)等を使用することができる。液体農薬製剤は、農薬活性成分と液体担体とを含有して、さらに、必要に応じて、界面活性剤、浸透剤、展着剤、増粘剤、凍結防止剤、結合剤、固結防止剤、崩壊剤、消泡剤、防腐剤、分解防止剤等を含有させることができる。また、固体農薬製剤として、例えば、水和剤(wettable powder)及び水溶剤(water soluble powder)の粉末状製剤、顆粒水和剤(water dispersible granule)及び顆粒水溶剤(water soluble granule)の粒状製剤等を使用することができる。固体農薬製剤は、農薬活性成分と固体担体とを含有して、さらに、必要に応じて、界面活性剤、浸透剤、展着剤、増粘剤、凍結防止剤、結合剤、固結防止剤、崩壊剤、消泡剤、防腐剤、分解防止剤等を含有させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薬剤散布をより効率的に行うことが可能なノズル及び薬剤散布器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態のノズルの平面図である。
【図2】本実施形態のノズルの右側面図である。
【図3】本実施形態のノズルの正面図である。
【図4】本実施形態のノズルの背面図である。
【図5】本実施形態のノズルを展開した成形体の平面図である。
【図6】本実施形態のノズルを展開した成形体の右側面図である。
【図7】図3におけるA−A断面図である。
【図8】本実施形態の容器の斜視図である。
【図9】本実施形態の接続部材の正面図である。
【図10】本実施形態の薬剤散布器の斜視図である。
【図11】本実施形態の薬剤散布器の背面図である。
【図12】本実施形態の薬剤散布器を使用してセルトレイに散水している状態を示す図である。
【図13】本実施形態の散水試験の説明図であって、3枚のセルトレイが縦に並べられた状態を示す図である。
【図14】本実施形態の散水試験の説明図であって、セルの底部の排水用穴が粘着テープによって閉塞された状態を示す図である。
【図15】本実施形態の散水試験の説明図であって、セルトレイにおける各セルのロケーションを示す図である。
【図16】本実施形態の散水試験の説明図であって、(A)は本実施形態の薬剤散布器を使用してセルトレイに散水した場合の試験結果を示す図表であり、(B)は市販の典型的なジョウロを使用してセルトレイに散水した場合の試験結果を示す図表である。
【図17】本実施形態の散水試験の説明図であって、標本として取り出された試験結果に対応するセルのロケーションを図15に対応させて示す図である。
【図18】本実施形態の散水試験の説明図であって、表1をグラフで表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。ここでは、セルトレイ41(育苗箱、図12参照)に収容された野菜苗に液体農薬製剤(薬剤)を散布するための薬剤散布器31(図10及び図11参照)、及びこの薬剤散布器31のノズル接続管3(接続口)に接続されるノズル1を説明する。なお、以下の説明において、便宜上、図1における下側を前側及び図1における上側を後側と規定、すなわち、図1における上下方向(図2における左右方向)をノズル1の前後方向と規定する。さらに、図1における左右方向をノズル1の幅方向、図2〜図4における上下方向をノズル1の高さ方向あるいは上下方向とそれぞれ規定する。
【0020】
図1〜図4に示されるように、ノズル1は、ノズル1の後部に設けられる接続管4と、ノズル1の前部に設けられて複数個(本実施形態では37個)の孔5が一列で配列されるノズル部6と、ノズル部6と接続管4との間に設けられる中空の胴部7と、によって構成されている。接続管4は、円筒形に形成されており、その外周面には1条の雄ねじ8が形成されている。図3に示されるように、ノズル部6は、高さ方向(図3における上下方向)に対して幅方向(図3における左右方向)が長い長方形に形成されている。なお、この長方形の長辺、すなわち、ノズル部6の幅は、セルトレイ41に対応して設定されており、本実施形態では、300mm(幅)×450mm(全長)のセルトレイ41に合わせて300mmに設定されている。
【0021】
胴部7は、略長方形に形成されて上下方向(図2における上下方向)に平行に配置される一対の前壁9、10と、該一対の前壁9、10に接続されて後方(図1における上方向)へ向けて幅を縮小させながら延びて接続管4に円滑に接続される一対の後壁11、12と、幅方向(図1における左右方向)両側に配置されて一対の前壁9、10と一対の後壁11、12とを接続する一対の側壁13、14と、を有する。図2及び図4に示されるように、各側壁13、14は、一対の後壁11、12と接続されている部分が、後方へ向けて高さが逓増されるように形成されている。
【0022】
図5及び図6に示されるように、ノズル1は、接続管4及び胴部7が、側壁13、14の高さの1/2で、接続管4の軸線を含む軸平面によって2つの半殻体15、16に半割されている。また、ノズル1は、各半殻体15、16を、各半割面15a、16aで、各半殻体15、16とノズル部6とを連結する各連結部17、18(展開軸)の回りに展開した成形体によって構成されている。なお、ノズル1は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂(エラストマ)によって形成される。
【0023】
半殻体15の図5における中心線CLに対して左側の部分及び半殻体16の図5における中心線CLに対して右側の部分には、複数個(本実施形態では、それぞれ7個)の凸部19(位置決め手段)が、半割面15a及び16aに沿って所定間隔で配設されており、半殻体16の図5における中心線CLに対して左側の部分及び半殻体15の図5における中心線CLに対して右側の部分には、各凸部19に対応する凹部20(位置決め手段)が配設されている。そして、各半殻体15、16を、ノズル部6との間の可撓性を有する各連結部17、18で折り曲げて各展開軸の回りに回転させ、各凸部19を相対する各凹部20に係合(嵌合)させることにより、2つの半殻体15、16が相対位置決めされる、すなわち、半殻体15の半割面15aと半殻体16の半割面16aとが一致(整合)するように構成されている。
【0024】
また、胴部7の幅方向両側の各側壁13、14に、より詳細には、各側壁13、14のうち、一対の前壁9、10に接続されている左右両側の2箇所、及び一対の後壁11、12に接続されている左右両側の2箇所の全部で4箇所に、留め具21が配設がされており、これら留め具21を留め付けることにより、2つの半殻体15、16が、各々の半割面15a、16aを密着させた状態で保持(締結)される構造になっている。なお、留め具21は、先行技術のファスニングを適宜に選択することができ、本実施形態では、上側の半殻体15の左右両側の側壁13、14の外側面に突起21aを設け、下側の半殻体16の左右両側の側壁13、14の外側面に門形のバックル21bを設け、各突起21aに相対する各バックル21bを係合させることにより、留め具21が留め付けられるように構成されている。なお、各留め具21は、ノズル1と一体に成形されている。
【0025】
図6に示されるように、上述した成形体(ノズル1の展開体)は、ノズル部6の幅方向両側に、断面が三角形に形成されて内側面が相互に対向する一対の側壁25、26を有している。この成形体を各連結部17、18で折り曲げて、各半殻体15、16を各連結部17、18(展開軸)の回りに回転させることにより、側壁25、26の一辺の端面25a、26aが、上側の半殻体15の各端面15bに密着し、且つ、側壁25、26の他辺の端面25b、26bが、下側の半殻体16の各端面16bに密着されるように構成されている。
【0026】
図1及び図7に示されるように、胴部7の各半殻体15、16の一対の前壁9、10の内側面9a、10a(流出側対向面)には、各半殻体15、16の側壁13、14と同じ高さで、且つ、前壁9、10の全幅に亘って延びる壁状に形成された複数枚の拡散板22(拡散部)が配設されている。これら拡散板22は、一対の前壁9、10の内側面9a、10aの各々に、前後方向(図7における左右方向)へ所定間隔で交互に配置されており、本実施形態では、内側面9a(上側)に1枚、内側面10a(下側)に2枚の全部で3枚の拡散板22が設けられている。これにより、薬剤は、接続管4からノズル部6に至る過程で、胴部7の内部に上下交互に配設された拡散板22によって、ノズル部6の全幅に亘って均一に拡散される構造になっている。
【0027】
図8に示されるように、容器2は、略円筒状に形成された寸胴の胴部32と、従来比(例えば、市販の典型的なオイルジョッキとの比較)で扁平に形成された頭部33とを有しており、頭部33には、ノズル接続管3(接続口)と薬剤注入口34とが設けられている。薬剤注入口34は、頭部の後部寄りに配置されており、水平面に対して傾斜した一平面上に開口されている、言い換えると、水平面に対して傾斜した一平面で切り取られたように開口している。また、容器2は、薬剤注入口34の後部直下から底部に亘って上下に延びる把手35を有する。なお、把手35の内側は、手の滑りを防止するために波状に形成されている。
【0028】
薬剤散布器31は、略円筒形に形成された図9に示される接続部材27を附属する。接続部材27は、一側(図9における上側)の端部内周面に、ノズル1の接続管4の雄ねじ8が螺合される雌ねじ28が形成され、また、他側(図9における下側)の端部にはフランジ30が形成されている。そして、本実施形態の薬剤散布器31では、接続部材27を予め貫通させておいた固定リング36(固定部材、図10参照)の内周面に形成された雌ねじ(図示省略)が、容器2のノズル接続管3(接続口)の外周面に形成された雄ねじ37に螺合されて締め付けられることにより、接続部材27のフランジ30が容器2のノズル接続管3の端面に押し付けられて、ノズル1が容器2に取り付けられる構造になっている。
【0029】
また、本実施形態の薬剤散布器31では、ノズル1と容器2との間、より詳細には、ノズル1に装着された接続部材27のフランジ30と容器2のノズル接続管3の端面との間に、図11に示されるスクリーン部材38が介在されている。このスクリーン部材38は、円板に複数の孔39が穿孔されており、孔39の直径と数量とを選択することにより、容器2からノズル1へ流れる薬剤の流量が制御される構造になっている。
【0030】
本実施形態の作用を説明する。まず、図5及び図6に示される成形体(ノズル1の展開体)を各連結部17、18で折り曲げて各半殻体15、16を各展開軸の回りに内方へ90°回転させて、位置決め手段の各凸部19を相対する各凹部20に係合させる。これにより、2つの半殻体15、16が相対位置決めされ、半殻体15の半割面15aと半殻体16の半割面16aとが一致(整合)する。次に、各突起21aに相対する各バックル21bを係合させて、各留め具21を留め付ける。これにより、半殻体15と半殻体16とが締結され、半殻体15の半割面15aと半殻体16の半割面16aとが液密に密着される。このようにして成形体を組み立てることで、接続管4の外周面には1条の雄ねじ8が形成される。
【0031】
次に、このようにして組み立てられたノズル1の接続管4の雄ねじ8を、固定リング36(固定部材)を貫通させた接続部材27の雌ねじ28に螺合して締め付ける。そして、ノズル1と容器2との間、より詳細には、ノズル1に装着された接続部材27のフランジ30と容器2のノズル接続管3(接続口)の端面との間にスクリーン部材39を介在させて、容器2のノズル接続管3の外周面に形成された雄ねじ37に、固定リング36の内周面に形成された雌ねじを螺合して、該固定リング36を締め付ける。これにより、図10及び図11に示されるように、ノズル1が容器2に取り付けられて薬剤散布器31が得られる。
【0032】
このようにして得られた薬剤散布器31を用いてセルトレイ41(育苗箱、図12参照)に収容された野菜苗に薬剤(液体農薬製剤)を散布する場合、まず、容器2の把手35を適当な位置で持って、薬剤散布器31を傾けるとともに一方向へ移動させながら、容器2に収容された薬剤を散布する。ここで、容器2からノズル1へ流入した薬剤は、下流のノズル部6に至る過程で、各拡散板22(拡散部)によって幅方向両側に拡散し、ノズル部6の幅方向全域に亘って均一に、言い換えると、ノズル部6の各孔5に均一に分配される。
【0033】
[セルトレイ(育苗箱)への散水試験]
図12に示されるように、本実施形態の薬剤散布器31を使用してセルトレイ41に散水した場合の、セルトレイ41の各セル収容部42に収容された各セル43(育苗ポット、図14参照)への注水量と、市販の典型的なジョウロ(以下、単にジョウロという、図示省略)を使用してセルトレイ41に散水した場合の、セルトレイ41の各セル収容部42に収容された各セル43への注水量と、を比較する試験を実施した。試験には、図15に示される縦8列×横16列のセルトレイを使用した。試験は、図13に示されるように、3枚のセルトレイ41を縦に連続させて並べて実施した。また、試験は、薬剤散布器31とジョウロとをセルトレイの縦方向へ移動、すなわち、図15における左側から右側へ一方向へ移動させて、1.5Lの水(セルトレイ41の3枚分に相当する水)を散水することにより行われた。
【0034】
そして、縦に並べられた3枚のセルトレイ41のうち、中央に配置されたセルトレイ41の横第1列(図15におけるA列、以下同様)、横第4列(B列)、横第7列(C列)、横第10列(D列)、横第13列(E列)及び横第16列(F列)の各セル収容部42にセル43をセットして、各セル43における注水量を測定した測定結果を散水量の試験結果とした。なお、散水量の試験結果は、薬剤散布器31、ジョウロの各々において、散水を3回実施した時の平均値を採用した。また、図14に示されるように、セルトレイ41に収容された各セル43は、底部が粘着テープ等のシール部材44によってシールされており、これにより、散水された水が底部に溜まるようになっている。また、前述したように、薬剤散布器31のノズル部6の幅は、300mm(幅)×450mm(全長)のセルトレイ41に合わせて300mmに設定されている。
【0035】
図16の(A)は、本実施形態の薬剤散布器31を使用してセルトレイ41に散水した場合の試験結果を示す図表である。他方、図16の(B)は、比較対象としてのジョウロを使用してセルトレイ41に散水した場合の試験結果を示す図表である。なお、図16における1〜8及びA〜Fは、図15における1〜8及びA〜Fに対応する。図16の(B)に示されるように、ジョウロによる散水では、特に、A〜E列(図15参照)において、セルトレイ41の幅方向(図15における上下方向)中央に配置された各セル43、すなわち、縦第4列及び縦第5列(図15参照)のセル収容部42に収容された各セル43への注水量(0 〜1.9 ml)が、セルトレイ41の幅方向両側に配置された各セル43、すなわち、縦第1列及び縦第8列のセル収容部42に収容された各セル43への注水量(3.0 〜4.0 ml)に対して顕著に少なくなっており、散水量がセルトレイ41の幅方向で大きくばらついている、言い換えると、散水量がセルトレイ41の幅方向中央で少なく且つ幅方向両側で多くなる傾向であることが理解できる。
【0036】
これに対して、図16の(A)に示されるように、薬剤散布器31による散水では、図16の(B)に示されるジョウロによる散水と比較して、セルトレイ41の幅方向への散水量のばらつき、すなわち、散水量の偏倚が大幅に改善されていることが解る。特に、ジョウロによる散水では、セルトレイ41の幅方向中央に配置された各セル43への注水量が0 〜1.9 mlと著しく少なかったが、薬剤散布器31による散水では、注水量が0 〜1.9 mlであるセル43は皆無である。このように、薬剤散布器31による散水では、セルトレイ41の幅方向(横方向、図15における上下方向)及び長さ方向(縦方向、図15における左右方向)の全域に亘って、散水量(各セル43への注水量)のばらつきを解消することが可能になり、セルトレイ41に収容された各セル43へ均一な量で注水することができる。
【0037】
【表1】
表1は、本実施形態の薬剤散布器31による散水の試験結果及びジョウロによる散水の試験結果の平均と標準偏差とを示している。なお、薬剤散布器31による散水の試験結果とジョウロによる散水の試験結果とは、各々、セルトレイ41の幅方向(図15及び図17における上下方向)に略対称である(例えば、セルトレイ41の図17におけるA1に対応する位置に配置されたセル43への注水量とA8に対応する位置に配置されたセル43への注水量とは略等しい)。
【0038】
そこで、表1は、薬剤散布器31による散水の試験結果によって構成される母集団及びジョウロによる散水の試験結果によって構成される母集団から、各々、セルトレイ41の縦第1列(図17におけるA1、B1、C1、D1、E1、F1)、縦第2列(図17におけるA2、B2、C2、D2、E2、F2)、縦第3列(図17におけるA3、B3、C3、D3、E3、F3)及び縦第4列(図17におけるA4、B4、C4、D4、E4、F4)の試験結果を標本として取り出して薬剤散布器31の標本集団及びジョウロの標本集団とし、各標本集団の平均と標準偏差とを算出した結果を示すものである。
【0039】
そして、表1及び図18から、薬剤散布器31による散水は、ジョウロによる散水と比較して、セル43当りの注水量(平均μ)が多く、且つ、セル43間における注水量のばらつき(標準偏差σ)が小さいことが解る。また、取り出された標本を用いて、有意水準5%でt検定を実施した結果、本実施形態の薬剤散布器31による散水の試験結果と比較対象としての典型的なジョウロによる散水の試験結果とは、有意な差があると結論付けることができた。なお、t検定に用いられる指標tは、既存の表計算ソフトウェアによって算出することができる。
【0040】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、薬剤散布器31を一方向へ移動させるだけで、セルトレイに収容された野菜苗に、薬剤を均一に散布することができるので、薬剤散布作業を大幅に効率化することができ、且つ作業者の負担を軽減することができる。さらに、容器2の把手35を薬剤注入口34の近傍から底部の近傍へ亘って設けたことにより、作業者は、必要に応じて握る位置を調節することが可能になり、その結果、容器2を傾けた時のバランスがとり易くなり、作業者の負担を軽減することができる。
また、ノズル1を展開した成形体を成形してノズル1を製造するので、例えば、拡散板22(拡散部)の形状及び配置を自由に設定する等、設計の自由度を拡大することができる。これにより、薬剤をノズル部6の幅方向全域に亘って、言い換えると、薬剤をノズル部6の各孔5に均一に行き渡らせるようにノズル1を構成することができる。さらに、留め具21と位置決め手段(凸部10及び凹部20)とをノズル1と一体成形することで、部品点数及び製造コストの増加を抑止することができる。
また、ノズル1と容器2との間、より詳細には、ノズル1に装着された接続部材27のフランジ30と容器2のノズル接続管3(接続口)の端面との間にスクリーン部材38を介在させたので、容器2からノズル1へ流れる薬剤の流量を制御することができる。これにより、薬剤が大流量で容器2からノズル1へ流れ込むことを防いで、拡散板22を効果的に作用させることができ、薬剤をノズル幅方向の全域に亘ってより均一に散布することが可能になる。
また、容器2の薬剤注入口34を水平面に対して傾斜した一平面上に開口させた、言い換えると、水平面に対して傾斜した一平面で切り取ったように開口させたので、容器2の上部の容量を確保することができ、容器2を比較的勢いよく傾けてしまった場合であっても、薬剤が薬剤注入口34の左右からこぼれ落ちることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ノズル、2 容器、3 ノズル接続管(接続口)、4 接続管、5 孔、6 ノズル部、7 胴部、15,16 半殻体、15a,16a 半割面、22 拡散板(拡散部)、31 薬剤散布器、34 薬剤注入口、35 把手、38 スクリーン部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、セルトレイに収容された苗に薬剤を散布するためのノズル及び該ノズルを備える薬剤散布器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、セルトレイ(育苗箱)に収容された苗に薬剤を散布するための先行技術として、特許文献1に記載の農薬粒剤散布容器が知られている。この農薬粒剤散布容器は、農薬粒剤(薬剤)が収容される容器本体と、該容器本体の上部開口に取り付けられて農薬粒剤を流出させるための孔が直線状に少なくとも一列で配列された円形の蓋とを有しており、農薬粒剤を散布する場合には、容器をセルトレイ上方で傾けた状態で、水平方向へ一定の速度で移動させることにより、セルトレイに収容された苗に農薬粒剤を均一に散布するようにしたものである。しかしながら、この農薬粒剤散布容器では、蓋の直径がセルトレイの幅に対して小さいため、容器をセルトレイの幅方向へ数回移動させることから、移動距離が長くなり、散布作業の効率化が困難であるとともに、散布面積が広い場合には、作業者への負担が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平07−28082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、薬剤散布をより効率的に行うことが可能なノズル及び薬剤散布器を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のノズルは、薬剤を収容する容器の接続口に接続されて、前記容器に収容された薬剤を散布するノズルであって、前記容器の接続口に接続される接続管と、前記ノズルの幅方向へ延びて、前記接続管を通して導入された薬剤を流出させるための複数個の孔が少なくとも一列で配列されたノズル部と、前記接続管と前記ノズル部との間に設けられて、前記接続管から前記ノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに高さが縮小される中空部を有する胴部と、を有することを特徴とする。
また、上記課題を解決するため、本発明の薬剤散布器は、上記ノズルを備えることを特徴とする。
【0006】
以下の説明において、便宜上、ノズルのノズル部側を前側、接続管側を後側、接続管の軸線方向を前後方向と各々規定する。なお、前後方向と薬剤の流下方向とは、実質上、同一方向であり、両者を必要に応じて使い分ける。また、ノズルの幅方向(以下、単に幅方向という)と孔の配列方向も、実質上、同一方向であり、これについても両者を必要に応じて使い分ける。さらに、前後方向と幅方向との両方に垂直な方向を上下方向あるいは高さ方向と規定し、両者を必要に応じて使い分ける。
【0007】
ノズル部は、例えば、幅方向に長く且つ高さ方向に短い長方形に形成される。ノズル部の幅方向の長さは、例えば、セルトレイ(育苗箱)の幅に対応させて設定する。また、ノズル部は、前後方向に緩やかに湾曲させることができる。さらに、ノズル部に配列される孔は、通常、一列で十分であるが、必要に応じて、複数列で配列することができる。そして、ノズル部に配列される孔の形状及び大きさは、散布される薬剤に応じて適宜設定することができ、例えば、円形、楕円形、多角形あるいは幅方向に渡って全域に延びるスリット形状とすることができる。また、孔の間隔(ピッチ)は、均一である必要はなく、一般に、ノズル部の幅方向両側に配置された孔から流出される薬剤の量に対して、ノズル部の中央に配置された孔からより多量の薬剤が流出される傾向があることから、ノズル部の幅方向両側に配置された孔の間隔に対して、ノズル部の中央に配置された孔の間隔を大きく設定することができる。同じ理由から、ノズル部の中央に配置された孔の直径に対して、幅方向両側に配置される孔の直径を大きく設定することができる。
【0008】
本発明のノズルは、耐薬品性等、必要とされる性能を有する合成樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂(エラストマ)により構成することが望ましい。また、ノズルは、射出成形、射出ブロー成形、ブロー成形等の成形手段によって直接、製品形状に成形することも可能であるが、展開された形状の成形体を成形しておいて、後で組み立てて製品形状とすることができる。この場合、接続管を円筒形として、例えば、接続管の軸線を含む平面(軸平面)によって接続管及び胴部を上下方向(高さ方向)に2つの半殻体に半割して、各半殻体をノズル部との間の各連結部を展開軸として展開することにより、ノズルの成形体を得ることができる。この成形体において、ノズル部の幅方向両側に、断面が三角形に形成されて相互に対向する一対の側壁を設けておいて、各半殻体を各展開軸(連結部)の回りに回転させることにより、三角形の一対の側壁の、一辺の端面を一方の半殻体の端面に密着させるとともに、他辺の端面を他方の半殻体の端面に密着させるように構成することができる。
【0009】
本発明のノズルは、胴部の幅方向両側の側壁に、2つの半殻体の合わせ面(半割面)に沿って複数個の留め具が配設されており、これらの留め具を留め付けて、2つの半殻体を各々の半割面が密着された状態で保持(締結)することにより、2つの半殻体間からの液漏れを防ぐことができる。留め具は、先行技術から適宜に選択することができ、例えば、一方の半殻体の側壁の外側面に突起を設け、他方の半殻体の側壁の外側面に門形のバックルを設け、突起にバックルを係合させることで留め付けるように構成することができる。そして、留め具をノズルと一体成形することで、部品点数ならびに製造コストの増加を抑止することができる。
【0010】
本発明のノズルは、一方の半殻体の凸部を他方の半殻体の相対する凹部に係合させて2つの半殻体を相対位置決めさせる位置決め手段を有する。位置決め手段は、例えば、一方の半殻体にその半割面に沿って所定間隔で配設された複数個の凸部と、他方の半殻体にその半割面に沿って配設された複数個の凹部とによって構成することができる。そして、各半殻体とノズル部との間の可撓性を有する各連結部を折り曲げて変形させることにより各半殻体を各展開軸の回りに回転させ、位置決め手段の各凸部を相対する各凹部に係合させる。これにより、2つの半殻体が相対位置決めされて、一方の半殻体の半割面と他方の半殻体の半割面とを一致させることができる。なお、留め具同様、位置決め手段をノズルと一体成形することで、部品点数ならびに製造コストの増加を抑止することができる。
【0011】
本発明のノズルは、胴部の内側に、接続管からノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに相互の間隔が縮小される一対の流入側(後側)対向面と、一側が一対の流入側対向面に接続されるとともに他側がノズル部に接続されて、幅が一定に形成されるとともに相互の間隔が一定である一対の流出側(前側)対向面とが形成されている。なお、一対の流入側対向面は、必ずしも平面である必要はなく、曲面を含んで構成することができる。そして、一対の流入側対向面または一対の流出側対向面には、接続管からノズル部へ向けて流下する薬剤の流れを孔の配列方向へ拡散させるための壁状の拡散部が配置される。これにより、接続管から流入された薬剤を胴部内で幅方向へ拡散させて、薬剤をノズル部の孔配列方向(幅方向)の全域に亘って均一に分配することができる。なお、拡散部の形状ならびに配置は、適宜に設定することができる。例えば、一対の流出側対向面の各々に、各半殻体の側壁と同じ高さの拡散板(拡散部)を、ノズルの内側の全幅に亘って、前後方向(接続管の軸線方向)へ所定間隔で交互に配設することができる。
【0012】
本発明のノズルは、円筒形の接続管の外周面に1条の雄ねじが形成されており、この雄ねじには、一端にフランジを有する円筒形の接続部材の他端側の内周面に形成された雌ねじが螺合される。そして、接続部材を予め貫通させておいた環状の固定部材の内周面に形成された雌ねじを、容器の接続口の外周面に形成された雄ねじに螺合して締め付けることにより、接続部材のフランジが容器の接続口端面に押し付けられて、ノズルが容器に取り付けられる。本発明の薬剤散布器では、ノズルと容器との間、より詳細には、ノズルに装着された接続部材のフランジと容器の接続口端面との間に、板に複数の孔を穿孔して形成されたスクリーン部材が介在されており、このスクリーン部材によって、容器からノズルへ流れる薬剤の流量を制御することができる。これにより、薬剤が大流量で容器からノズルへ流れ込むことを防いで拡散部を効果的に作用させることができ、薬剤をノズル幅方向の全域に亘ってより均一に散布することが可能になる。
【0013】
本発明の薬剤散布器の容器は、略円錐状に形成された市販のオイルジョッキと比較して寸胴に形成されており、上部の後ろ側部分には薬剤注入口が開口している。この薬剤注入口は、市販のオイルジョッキのオイル注入口が左右両側(ノズル幅方向)に大きく切り込まれた形状であるのに対し、水平面に対して傾斜した一平面上に開口されている、言い換えると、水平面に対して傾斜した一平面で切り取られたように開口している。これにより、容器の上部の容量を確保することができ、容器を比較的勢いよく傾けた場合であっても、薬剤が薬剤注入口の左右からこぼれ落ちてしまうようなことがない。
【0014】
本発明の薬剤散布器の容器は、薬剤注入口近傍から底部近傍へ亘って上下に延びる把手を有する。市販のオイルジョッキ等では、把手が容器の上部にのみ設けられており、作業者は、握る位置を下方へずらすことができず、容器を傾けた時にバランスをとるのが困難である。そこで、本発明の薬剤散布器では、把手を容器の上部から底部まで延長させたことにより、容器を傾けた時にバランスがとり易くなり、作業者の負担を軽減することができる。
【0015】
本発明のノズル及び該ノズルを備える薬剤散布器によって散布される薬剤は、例えば、液体農薬製剤及び固体農薬製剤とすることができる。液体農薬製剤は、原液の状態あるいは水によって数倍〜10000倍に希釈されたものを使用する。一方、固体農薬製剤は、水によって数倍〜10000倍に希釈されたものを使用する。希釈にあたって、容器に液体あるいは固体の農薬製剤を投入後、水を注入して、その後、攪拌して均一に希釈させてもよいし、容器に水を注入後、液体あるいは固体の農薬製剤を投入して、その後、攪拌して均一に希釈させてもよい。
【0016】
液体農薬製剤として、例えば、液剤(soluble concentrate)、乳剤(emulsifiable concentrate)、懸濁剤(suspension concentrate)、乳濁剤(concentrated emulsion)、サスポエマルジョン(suspoemulsion)、マイクロエマルジョン(microemulsion)等を使用することができる。液体農薬製剤は、農薬活性成分と液体担体とを含有して、さらに、必要に応じて、界面活性剤、浸透剤、展着剤、増粘剤、凍結防止剤、結合剤、固結防止剤、崩壊剤、消泡剤、防腐剤、分解防止剤等を含有させることができる。また、固体農薬製剤として、例えば、水和剤(wettable powder)及び水溶剤(water soluble powder)の粉末状製剤、顆粒水和剤(water dispersible granule)及び顆粒水溶剤(water soluble granule)の粒状製剤等を使用することができる。固体農薬製剤は、農薬活性成分と固体担体とを含有して、さらに、必要に応じて、界面活性剤、浸透剤、展着剤、増粘剤、凍結防止剤、結合剤、固結防止剤、崩壊剤、消泡剤、防腐剤、分解防止剤等を含有させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薬剤散布をより効率的に行うことが可能なノズル及び薬剤散布器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態のノズルの平面図である。
【図2】本実施形態のノズルの右側面図である。
【図3】本実施形態のノズルの正面図である。
【図4】本実施形態のノズルの背面図である。
【図5】本実施形態のノズルを展開した成形体の平面図である。
【図6】本実施形態のノズルを展開した成形体の右側面図である。
【図7】図3におけるA−A断面図である。
【図8】本実施形態の容器の斜視図である。
【図9】本実施形態の接続部材の正面図である。
【図10】本実施形態の薬剤散布器の斜視図である。
【図11】本実施形態の薬剤散布器の背面図である。
【図12】本実施形態の薬剤散布器を使用してセルトレイに散水している状態を示す図である。
【図13】本実施形態の散水試験の説明図であって、3枚のセルトレイが縦に並べられた状態を示す図である。
【図14】本実施形態の散水試験の説明図であって、セルの底部の排水用穴が粘着テープによって閉塞された状態を示す図である。
【図15】本実施形態の散水試験の説明図であって、セルトレイにおける各セルのロケーションを示す図である。
【図16】本実施形態の散水試験の説明図であって、(A)は本実施形態の薬剤散布器を使用してセルトレイに散水した場合の試験結果を示す図表であり、(B)は市販の典型的なジョウロを使用してセルトレイに散水した場合の試験結果を示す図表である。
【図17】本実施形態の散水試験の説明図であって、標本として取り出された試験結果に対応するセルのロケーションを図15に対応させて示す図である。
【図18】本実施形態の散水試験の説明図であって、表1をグラフで表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。ここでは、セルトレイ41(育苗箱、図12参照)に収容された野菜苗に液体農薬製剤(薬剤)を散布するための薬剤散布器31(図10及び図11参照)、及びこの薬剤散布器31のノズル接続管3(接続口)に接続されるノズル1を説明する。なお、以下の説明において、便宜上、図1における下側を前側及び図1における上側を後側と規定、すなわち、図1における上下方向(図2における左右方向)をノズル1の前後方向と規定する。さらに、図1における左右方向をノズル1の幅方向、図2〜図4における上下方向をノズル1の高さ方向あるいは上下方向とそれぞれ規定する。
【0020】
図1〜図4に示されるように、ノズル1は、ノズル1の後部に設けられる接続管4と、ノズル1の前部に設けられて複数個(本実施形態では37個)の孔5が一列で配列されるノズル部6と、ノズル部6と接続管4との間に設けられる中空の胴部7と、によって構成されている。接続管4は、円筒形に形成されており、その外周面には1条の雄ねじ8が形成されている。図3に示されるように、ノズル部6は、高さ方向(図3における上下方向)に対して幅方向(図3における左右方向)が長い長方形に形成されている。なお、この長方形の長辺、すなわち、ノズル部6の幅は、セルトレイ41に対応して設定されており、本実施形態では、300mm(幅)×450mm(全長)のセルトレイ41に合わせて300mmに設定されている。
【0021】
胴部7は、略長方形に形成されて上下方向(図2における上下方向)に平行に配置される一対の前壁9、10と、該一対の前壁9、10に接続されて後方(図1における上方向)へ向けて幅を縮小させながら延びて接続管4に円滑に接続される一対の後壁11、12と、幅方向(図1における左右方向)両側に配置されて一対の前壁9、10と一対の後壁11、12とを接続する一対の側壁13、14と、を有する。図2及び図4に示されるように、各側壁13、14は、一対の後壁11、12と接続されている部分が、後方へ向けて高さが逓増されるように形成されている。
【0022】
図5及び図6に示されるように、ノズル1は、接続管4及び胴部7が、側壁13、14の高さの1/2で、接続管4の軸線を含む軸平面によって2つの半殻体15、16に半割されている。また、ノズル1は、各半殻体15、16を、各半割面15a、16aで、各半殻体15、16とノズル部6とを連結する各連結部17、18(展開軸)の回りに展開した成形体によって構成されている。なお、ノズル1は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂(エラストマ)によって形成される。
【0023】
半殻体15の図5における中心線CLに対して左側の部分及び半殻体16の図5における中心線CLに対して右側の部分には、複数個(本実施形態では、それぞれ7個)の凸部19(位置決め手段)が、半割面15a及び16aに沿って所定間隔で配設されており、半殻体16の図5における中心線CLに対して左側の部分及び半殻体15の図5における中心線CLに対して右側の部分には、各凸部19に対応する凹部20(位置決め手段)が配設されている。そして、各半殻体15、16を、ノズル部6との間の可撓性を有する各連結部17、18で折り曲げて各展開軸の回りに回転させ、各凸部19を相対する各凹部20に係合(嵌合)させることにより、2つの半殻体15、16が相対位置決めされる、すなわち、半殻体15の半割面15aと半殻体16の半割面16aとが一致(整合)するように構成されている。
【0024】
また、胴部7の幅方向両側の各側壁13、14に、より詳細には、各側壁13、14のうち、一対の前壁9、10に接続されている左右両側の2箇所、及び一対の後壁11、12に接続されている左右両側の2箇所の全部で4箇所に、留め具21が配設がされており、これら留め具21を留め付けることにより、2つの半殻体15、16が、各々の半割面15a、16aを密着させた状態で保持(締結)される構造になっている。なお、留め具21は、先行技術のファスニングを適宜に選択することができ、本実施形態では、上側の半殻体15の左右両側の側壁13、14の外側面に突起21aを設け、下側の半殻体16の左右両側の側壁13、14の外側面に門形のバックル21bを設け、各突起21aに相対する各バックル21bを係合させることにより、留め具21が留め付けられるように構成されている。なお、各留め具21は、ノズル1と一体に成形されている。
【0025】
図6に示されるように、上述した成形体(ノズル1の展開体)は、ノズル部6の幅方向両側に、断面が三角形に形成されて内側面が相互に対向する一対の側壁25、26を有している。この成形体を各連結部17、18で折り曲げて、各半殻体15、16を各連結部17、18(展開軸)の回りに回転させることにより、側壁25、26の一辺の端面25a、26aが、上側の半殻体15の各端面15bに密着し、且つ、側壁25、26の他辺の端面25b、26bが、下側の半殻体16の各端面16bに密着されるように構成されている。
【0026】
図1及び図7に示されるように、胴部7の各半殻体15、16の一対の前壁9、10の内側面9a、10a(流出側対向面)には、各半殻体15、16の側壁13、14と同じ高さで、且つ、前壁9、10の全幅に亘って延びる壁状に形成された複数枚の拡散板22(拡散部)が配設されている。これら拡散板22は、一対の前壁9、10の内側面9a、10aの各々に、前後方向(図7における左右方向)へ所定間隔で交互に配置されており、本実施形態では、内側面9a(上側)に1枚、内側面10a(下側)に2枚の全部で3枚の拡散板22が設けられている。これにより、薬剤は、接続管4からノズル部6に至る過程で、胴部7の内部に上下交互に配設された拡散板22によって、ノズル部6の全幅に亘って均一に拡散される構造になっている。
【0027】
図8に示されるように、容器2は、略円筒状に形成された寸胴の胴部32と、従来比(例えば、市販の典型的なオイルジョッキとの比較)で扁平に形成された頭部33とを有しており、頭部33には、ノズル接続管3(接続口)と薬剤注入口34とが設けられている。薬剤注入口34は、頭部の後部寄りに配置されており、水平面に対して傾斜した一平面上に開口されている、言い換えると、水平面に対して傾斜した一平面で切り取られたように開口している。また、容器2は、薬剤注入口34の後部直下から底部に亘って上下に延びる把手35を有する。なお、把手35の内側は、手の滑りを防止するために波状に形成されている。
【0028】
薬剤散布器31は、略円筒形に形成された図9に示される接続部材27を附属する。接続部材27は、一側(図9における上側)の端部内周面に、ノズル1の接続管4の雄ねじ8が螺合される雌ねじ28が形成され、また、他側(図9における下側)の端部にはフランジ30が形成されている。そして、本実施形態の薬剤散布器31では、接続部材27を予め貫通させておいた固定リング36(固定部材、図10参照)の内周面に形成された雌ねじ(図示省略)が、容器2のノズル接続管3(接続口)の外周面に形成された雄ねじ37に螺合されて締め付けられることにより、接続部材27のフランジ30が容器2のノズル接続管3の端面に押し付けられて、ノズル1が容器2に取り付けられる構造になっている。
【0029】
また、本実施形態の薬剤散布器31では、ノズル1と容器2との間、より詳細には、ノズル1に装着された接続部材27のフランジ30と容器2のノズル接続管3の端面との間に、図11に示されるスクリーン部材38が介在されている。このスクリーン部材38は、円板に複数の孔39が穿孔されており、孔39の直径と数量とを選択することにより、容器2からノズル1へ流れる薬剤の流量が制御される構造になっている。
【0030】
本実施形態の作用を説明する。まず、図5及び図6に示される成形体(ノズル1の展開体)を各連結部17、18で折り曲げて各半殻体15、16を各展開軸の回りに内方へ90°回転させて、位置決め手段の各凸部19を相対する各凹部20に係合させる。これにより、2つの半殻体15、16が相対位置決めされ、半殻体15の半割面15aと半殻体16の半割面16aとが一致(整合)する。次に、各突起21aに相対する各バックル21bを係合させて、各留め具21を留め付ける。これにより、半殻体15と半殻体16とが締結され、半殻体15の半割面15aと半殻体16の半割面16aとが液密に密着される。このようにして成形体を組み立てることで、接続管4の外周面には1条の雄ねじ8が形成される。
【0031】
次に、このようにして組み立てられたノズル1の接続管4の雄ねじ8を、固定リング36(固定部材)を貫通させた接続部材27の雌ねじ28に螺合して締め付ける。そして、ノズル1と容器2との間、より詳細には、ノズル1に装着された接続部材27のフランジ30と容器2のノズル接続管3(接続口)の端面との間にスクリーン部材39を介在させて、容器2のノズル接続管3の外周面に形成された雄ねじ37に、固定リング36の内周面に形成された雌ねじを螺合して、該固定リング36を締め付ける。これにより、図10及び図11に示されるように、ノズル1が容器2に取り付けられて薬剤散布器31が得られる。
【0032】
このようにして得られた薬剤散布器31を用いてセルトレイ41(育苗箱、図12参照)に収容された野菜苗に薬剤(液体農薬製剤)を散布する場合、まず、容器2の把手35を適当な位置で持って、薬剤散布器31を傾けるとともに一方向へ移動させながら、容器2に収容された薬剤を散布する。ここで、容器2からノズル1へ流入した薬剤は、下流のノズル部6に至る過程で、各拡散板22(拡散部)によって幅方向両側に拡散し、ノズル部6の幅方向全域に亘って均一に、言い換えると、ノズル部6の各孔5に均一に分配される。
【0033】
[セルトレイ(育苗箱)への散水試験]
図12に示されるように、本実施形態の薬剤散布器31を使用してセルトレイ41に散水した場合の、セルトレイ41の各セル収容部42に収容された各セル43(育苗ポット、図14参照)への注水量と、市販の典型的なジョウロ(以下、単にジョウロという、図示省略)を使用してセルトレイ41に散水した場合の、セルトレイ41の各セル収容部42に収容された各セル43への注水量と、を比較する試験を実施した。試験には、図15に示される縦8列×横16列のセルトレイを使用した。試験は、図13に示されるように、3枚のセルトレイ41を縦に連続させて並べて実施した。また、試験は、薬剤散布器31とジョウロとをセルトレイの縦方向へ移動、すなわち、図15における左側から右側へ一方向へ移動させて、1.5Lの水(セルトレイ41の3枚分に相当する水)を散水することにより行われた。
【0034】
そして、縦に並べられた3枚のセルトレイ41のうち、中央に配置されたセルトレイ41の横第1列(図15におけるA列、以下同様)、横第4列(B列)、横第7列(C列)、横第10列(D列)、横第13列(E列)及び横第16列(F列)の各セル収容部42にセル43をセットして、各セル43における注水量を測定した測定結果を散水量の試験結果とした。なお、散水量の試験結果は、薬剤散布器31、ジョウロの各々において、散水を3回実施した時の平均値を採用した。また、図14に示されるように、セルトレイ41に収容された各セル43は、底部が粘着テープ等のシール部材44によってシールされており、これにより、散水された水が底部に溜まるようになっている。また、前述したように、薬剤散布器31のノズル部6の幅は、300mm(幅)×450mm(全長)のセルトレイ41に合わせて300mmに設定されている。
【0035】
図16の(A)は、本実施形態の薬剤散布器31を使用してセルトレイ41に散水した場合の試験結果を示す図表である。他方、図16の(B)は、比較対象としてのジョウロを使用してセルトレイ41に散水した場合の試験結果を示す図表である。なお、図16における1〜8及びA〜Fは、図15における1〜8及びA〜Fに対応する。図16の(B)に示されるように、ジョウロによる散水では、特に、A〜E列(図15参照)において、セルトレイ41の幅方向(図15における上下方向)中央に配置された各セル43、すなわち、縦第4列及び縦第5列(図15参照)のセル収容部42に収容された各セル43への注水量(0 〜1.9 ml)が、セルトレイ41の幅方向両側に配置された各セル43、すなわち、縦第1列及び縦第8列のセル収容部42に収容された各セル43への注水量(3.0 〜4.0 ml)に対して顕著に少なくなっており、散水量がセルトレイ41の幅方向で大きくばらついている、言い換えると、散水量がセルトレイ41の幅方向中央で少なく且つ幅方向両側で多くなる傾向であることが理解できる。
【0036】
これに対して、図16の(A)に示されるように、薬剤散布器31による散水では、図16の(B)に示されるジョウロによる散水と比較して、セルトレイ41の幅方向への散水量のばらつき、すなわち、散水量の偏倚が大幅に改善されていることが解る。特に、ジョウロによる散水では、セルトレイ41の幅方向中央に配置された各セル43への注水量が0 〜1.9 mlと著しく少なかったが、薬剤散布器31による散水では、注水量が0 〜1.9 mlであるセル43は皆無である。このように、薬剤散布器31による散水では、セルトレイ41の幅方向(横方向、図15における上下方向)及び長さ方向(縦方向、図15における左右方向)の全域に亘って、散水量(各セル43への注水量)のばらつきを解消することが可能になり、セルトレイ41に収容された各セル43へ均一な量で注水することができる。
【0037】
【表1】
表1は、本実施形態の薬剤散布器31による散水の試験結果及びジョウロによる散水の試験結果の平均と標準偏差とを示している。なお、薬剤散布器31による散水の試験結果とジョウロによる散水の試験結果とは、各々、セルトレイ41の幅方向(図15及び図17における上下方向)に略対称である(例えば、セルトレイ41の図17におけるA1に対応する位置に配置されたセル43への注水量とA8に対応する位置に配置されたセル43への注水量とは略等しい)。
【0038】
そこで、表1は、薬剤散布器31による散水の試験結果によって構成される母集団及びジョウロによる散水の試験結果によって構成される母集団から、各々、セルトレイ41の縦第1列(図17におけるA1、B1、C1、D1、E1、F1)、縦第2列(図17におけるA2、B2、C2、D2、E2、F2)、縦第3列(図17におけるA3、B3、C3、D3、E3、F3)及び縦第4列(図17におけるA4、B4、C4、D4、E4、F4)の試験結果を標本として取り出して薬剤散布器31の標本集団及びジョウロの標本集団とし、各標本集団の平均と標準偏差とを算出した結果を示すものである。
【0039】
そして、表1及び図18から、薬剤散布器31による散水は、ジョウロによる散水と比較して、セル43当りの注水量(平均μ)が多く、且つ、セル43間における注水量のばらつき(標準偏差σ)が小さいことが解る。また、取り出された標本を用いて、有意水準5%でt検定を実施した結果、本実施形態の薬剤散布器31による散水の試験結果と比較対象としての典型的なジョウロによる散水の試験結果とは、有意な差があると結論付けることができた。なお、t検定に用いられる指標tは、既存の表計算ソフトウェアによって算出することができる。
【0040】
この実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、薬剤散布器31を一方向へ移動させるだけで、セルトレイに収容された野菜苗に、薬剤を均一に散布することができるので、薬剤散布作業を大幅に効率化することができ、且つ作業者の負担を軽減することができる。さらに、容器2の把手35を薬剤注入口34の近傍から底部の近傍へ亘って設けたことにより、作業者は、必要に応じて握る位置を調節することが可能になり、その結果、容器2を傾けた時のバランスがとり易くなり、作業者の負担を軽減することができる。
また、ノズル1を展開した成形体を成形してノズル1を製造するので、例えば、拡散板22(拡散部)の形状及び配置を自由に設定する等、設計の自由度を拡大することができる。これにより、薬剤をノズル部6の幅方向全域に亘って、言い換えると、薬剤をノズル部6の各孔5に均一に行き渡らせるようにノズル1を構成することができる。さらに、留め具21と位置決め手段(凸部10及び凹部20)とをノズル1と一体成形することで、部品点数及び製造コストの増加を抑止することができる。
また、ノズル1と容器2との間、より詳細には、ノズル1に装着された接続部材27のフランジ30と容器2のノズル接続管3(接続口)の端面との間にスクリーン部材38を介在させたので、容器2からノズル1へ流れる薬剤の流量を制御することができる。これにより、薬剤が大流量で容器2からノズル1へ流れ込むことを防いで、拡散板22を効果的に作用させることができ、薬剤をノズル幅方向の全域に亘ってより均一に散布することが可能になる。
また、容器2の薬剤注入口34を水平面に対して傾斜した一平面上に開口させた、言い換えると、水平面に対して傾斜した一平面で切り取ったように開口させたので、容器2の上部の容量を確保することができ、容器2を比較的勢いよく傾けてしまった場合であっても、薬剤が薬剤注入口34の左右からこぼれ落ちることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ノズル、2 容器、3 ノズル接続管(接続口)、4 接続管、5 孔、6 ノズル部、7 胴部、15,16 半殻体、15a,16a 半割面、22 拡散板(拡散部)、31 薬剤散布器、34 薬剤注入口、35 把手、38 スクリーン部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を収容する容器の接続口に接続されて、前記容器に収容された薬剤を散布するノズルであって、前記容器の接続口に接続される接続管と、前記ノズルの幅方向へ延びて、前記接続管を通して導入された薬剤を流出させるための複数個の孔が少なくとも一列で配列されたノズル部と、前記接続管と前記ノズル部との間に設けられて、前記接続管から前記ノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに高さが縮小される中空部を有する胴部と、を有することを特徴とするノズル。
【請求項2】
前記接続管及び前記胴部は、前記接続管の軸平面を含む平面によって前記ノズルの高さ方向へ2つの半殻体に半割されており、各半殻体が前記ノズル部の両側に展開された成形体で成形されることを特徴とする請求項1に記載のノズル。
【請求項3】
前記胴部の外側壁面に、前記2つの半殻体を各々の半割面が密着された状態で保持する複数個の留め具が配設されることを特徴とする請求項2に記載のノズル。
【請求項4】
一方の半殻体の凸部を他方の半殻体の相対する凹部に係合させることで、前記2つの半殻体を相対位置決めさせる位置決め手段を有することを特徴とする請求項2又は3に記載のノズル。
【請求項5】
前記留め具及び前記位置決め手段は、前記2つの半殻体と一体成形されることを特徴とする請求項3又は4に記載のノズル。
【請求項6】
前記接続管から前記ノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに相互の間隔が縮小される一対の流入側対向面と、一側が前記一対の流入側対向面に接続されるとともに他側が前記ノズル部に接続されて、幅が一定に形成されるとともに相互の間隔が一定である一対の流出側対向面と、が前記胴部の内側に形成されており、前記一対の流入側対向面または前記一対の流出側対向面に、前記ノズルの幅方向へ延びて前記接続管から前記ノズル部へ向けて流下する薬剤の流れを前記ノズルの幅方向へ拡散させる壁状の拡散部が配設されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノズル。
【請求項7】
前記拡散部は、前記ノズルの全幅に形成されており、前記一対の流出側対向面の各々に、前記接続管の軸線方向へ所定間隔で交互に配設されることを特徴とする請求項6に記載のノズル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のノズルを有することを特徴とする薬剤散布器。
【請求項9】
前記容器から前記ノズルへ流れる薬剤の流量を制御するスクリーン部材を有することを特徴とする請求項8に記載の薬剤散布器。
【請求項10】
前記容器は、寸胴に形成されており、上部に、一平面上に開口する薬剤注入口が設けられることを特徴とする請求項8又は9に記載の薬剤散布器。
【請求項11】
前記容器は、前記薬剤注入口の近傍から底部の近傍へ亘って上下に延びる把手を有することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の薬剤散布器。
【請求項1】
薬剤を収容する容器の接続口に接続されて、前記容器に収容された薬剤を散布するノズルであって、前記容器の接続口に接続される接続管と、前記ノズルの幅方向へ延びて、前記接続管を通して導入された薬剤を流出させるための複数個の孔が少なくとも一列で配列されたノズル部と、前記接続管と前記ノズル部との間に設けられて、前記接続管から前記ノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに高さが縮小される中空部を有する胴部と、を有することを特徴とするノズル。
【請求項2】
前記接続管及び前記胴部は、前記接続管の軸平面を含む平面によって前記ノズルの高さ方向へ2つの半殻体に半割されており、各半殻体が前記ノズル部の両側に展開された成形体で成形されることを特徴とする請求項1に記載のノズル。
【請求項3】
前記胴部の外側壁面に、前記2つの半殻体を各々の半割面が密着された状態で保持する複数個の留め具が配設されることを特徴とする請求項2に記載のノズル。
【請求項4】
一方の半殻体の凸部を他方の半殻体の相対する凹部に係合させることで、前記2つの半殻体を相対位置決めさせる位置決め手段を有することを特徴とする請求項2又は3に記載のノズル。
【請求項5】
前記留め具及び前記位置決め手段は、前記2つの半殻体と一体成形されることを特徴とする請求項3又は4に記載のノズル。
【請求項6】
前記接続管から前記ノズル部へ向けて幅が拡大されるとともに相互の間隔が縮小される一対の流入側対向面と、一側が前記一対の流入側対向面に接続されるとともに他側が前記ノズル部に接続されて、幅が一定に形成されるとともに相互の間隔が一定である一対の流出側対向面と、が前記胴部の内側に形成されており、前記一対の流入側対向面または前記一対の流出側対向面に、前記ノズルの幅方向へ延びて前記接続管から前記ノズル部へ向けて流下する薬剤の流れを前記ノズルの幅方向へ拡散させる壁状の拡散部が配設されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のノズル。
【請求項7】
前記拡散部は、前記ノズルの全幅に形成されており、前記一対の流出側対向面の各々に、前記接続管の軸線方向へ所定間隔で交互に配設されることを特徴とする請求項6に記載のノズル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のノズルを有することを特徴とする薬剤散布器。
【請求項9】
前記容器から前記ノズルへ流れる薬剤の流量を制御するスクリーン部材を有することを特徴とする請求項8に記載の薬剤散布器。
【請求項10】
前記容器は、寸胴に形成されており、上部に、一平面上に開口する薬剤注入口が設けられることを特徴とする請求項8又は9に記載の薬剤散布器。
【請求項11】
前記容器は、前記薬剤注入口の近傍から底部の近傍へ亘って上下に延びる把手を有することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の薬剤散布器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−157347(P2012−157347A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114625(P2011−114625)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
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