説明

ノニオン界面活性剤

【課題】起泡性、乳化分散性等の界面活性能に優れ、従来の界面活性剤よりも低濃度の配合で済むため環境への負荷が低減化され、低刺激性で、生分解性に優れる、洗浄剤、乳化剤、分散剤、可溶化剤、加脂剤、帯電防止剤、防塵剤、湿潤・浸透剤等のさまざまな用途に有用な、ノニオン界面活性剤を提供する。
【解決手段】本発明は、炭素数10〜26のジヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基と、少なくとも一方のヒドロキシル基とに、合計で2〜150モルのエチレンオキシドが付加重合したノニオン界面活性剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノニオン界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンオキシドを脂肪酸のカルボキシル基に付加したポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のノニオン界面活性剤は、洗浄性、浸透性、乳化性などの界面活性能が優れ、臭気が少なく、毒性、刺激性が低く安全性に優れている。このため、脂肪酸の種類と親水性オキシエチレンの鎖長の組み合わせの異なる化合物が、家庭用、工業用の洗剤原料、乳化剤、パール剤、溶剤、ワックス、増粘剤、潤滑剤、帯電防止剤、消泡剤、レベリング剤等、広く用いられている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本油化学会編 界面と界面活性剤−基礎から応用まで−;42〜46ページ
【非特許文献2】角田光雄監修 界面活性剤の機能と利用技術;148〜149ページ
【非特許文献3】日本油化学会編 界面活性剤評価・試験法;19〜25ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにポリオキシエチレン脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤は、種々の応用分野で利用されているが、その場合、一般的に、水への溶解性が高い方が性能を発揮しやすい。しかし、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤は、脂肪酸の炭素鎖長が長くなればなるほど、水溶性は低下してくることから、対応してエチレンオキシドの付加モル数を多くしなければならない。しかし、カルボキシル基へのエチレンオキシド付加モル数を多くした場合、常温において、ペースト状あるいは、ロウ状固体となり、計量時等の取り扱いが容易でない等の問題があった。
本発明は上記の課題を解決すべくなされたもので、従来のポリオキシエチレン脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤のように、カルボキシル基へのエチレンオキシド付加モル数を多くしなくても、アルキル鎖中の2つのヒドロキシル基にもポリオキシエチレン基を導入することにより、臨界ミセル濃度が低く、ハンドリングしやすいノニオン界面活性剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、炭素数10〜26のジヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基と、少なくとも一方のヒドロキシル基とに、合計で2〜150モルのエチレンオキシドが付加重合したノニオン界面活性剤、を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のノニオン界面活性剤は、起泡性、乳化分散性等の界面活性能に優れ、従来の界面活性剤よりも低濃度の配合で済むため環境への負荷が低減化される。また低刺激性で、生分解性に優れる分子構造であり、ジヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基と、2つのヒドロキシル基の少なくとも一方に、エチレンオキシドを付加させた構造としたことにより、ヒドロキシル基がない脂肪酸のカルボキシル基にエチレンオキシドを付加させた場合に比べ、エチレンオキシド付加モル数の調整によって活性剤の性状を容易に制御することができるため、洗浄剤、乳化剤、分散剤、可溶化剤、加脂剤、帯電防止剤、防塵剤、湿潤・浸透剤等のさまざまな用途に容易に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のノニオン界面活性剤は、二重結合を一個有する不飽和脂肪酸の二重結合を酸化してヒドロキシル基を導入して得られる、下記一般式(1)で示されるジヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基と、2つのヒドロキシル基の少なくとも一方とに、エチレンオキシドを付加重合させて得ることができる。不飽和脂肪酸の二重結合部分にヒドロキシル基を導入した一般式(1)で示されるジヒドロキシ脂肪酸は、例えば9−オクタデセン酸(例えばオレイン酸)等の不飽和脂肪酸に、過酸化水素とギ酸等の有機酸とから得られる有機過酸化物を反応させて二重結合を酸化して得たジヒドロキシ体およびオキシアセトキシ体の混合物を、水酸化ナトリウム等のアルカリで処理してジヒドロキシ体の塩とし、その後酸処理することにより得ることができる。
【0008】
【化1】

【0009】
但し、一般式(1)中の、R1−CH−CH−R2は炭素数9〜25のアルキル基を示す。
【0010】
上記不飽和脂肪酸は、二重結合を分子内に1つ含有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸で、例えば、カプロレイン酸等のデセン酸(C’10)、ウンデセン酸(C’11)、ラウロレイン酸等のドデセン酸(C’12)、トリデセン酸(C’13)、ミリストレイン酸等のテトラデセン酸(C’14)、ペンタデセン酸(C’15)、パルミトレイン酸等のヘキサデセン酸(C’16)、ヘプタデセン酸(C’17)、オレイン酸、エライジン酸等のオクタデセン酸(C’18)、ノナデセン酸(C’19)、ゴンドイン酸等のエイコセン酸(C’20)、ヘンエイコセン酸(C’21)、エルカ酸等のドコセン酸(C’22)、トリコセン酸(C’23)、セラコレイン酸等のテトラコセン酸(C’24)、ペンタコセン酸(C’25)、ヘキサコセン酸(C’26)等が挙げられるが、パルミトレイン酸等のヘキサデセン酸(C’16)、オレイン酸、エライジン酸等のオクタデセン酸(C’18)、ゴンドイン酸等のエイコセン酸(C’20)、エルカ酸等のドコセン酸(C’22)、セラコレイン酸等のテトラコセン酸(C’24)等が好ましい。
【0011】
本発明のノニオン界面活性剤は、一般式(1)で示されるジヒドロキシ脂肪酸に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等の酸触媒、水酸化カリウム等のアルカリ触媒の存在下で、50〜200℃でエチレンオキシドを付加させることにより得られる。本発明のノニオン界面活性剤は、一般式(1)のジヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基と、ヒドロキシル基の少なくとも一方へのエチレンオキシド付加モル数は合計で2〜150モルであるが2〜50モルが好ましい。本発明のノニオン界面活性剤は、一般式(1)で示されるジヒドロキシ脂肪酸に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等の酸触媒、水酸化カリウム等のアルカリ触媒の存在下で、50〜200℃でエチレンオキシドを2〜150モル付加させる方法、出発物質としてモノエン脂肪酸のエチレンオキシド付加体を用い、この二重結合を開環し、ジヒドロキシ体とした後、エチレンオキシドを導入する方法等により得ることができる。
【実施例】
【0012】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0013】
実施例1
2−ドデセン酸(100g、0.50モル)とギ酸(194g、5.0モル)を反応容器に入れ攪拌を行い、40℃にて、30%過酸化水素(60.0g、0.53モル)を滴下した。滴下終了後、6時間攪拌を行った。その後水洗を行い、水酸化ナトリウムにより処理した後、室温下塩酸にて、酸処理を行った。その後、エタノールにより再結晶化を行い、2,3−ジヒドロキシドデカン酸(112g、0.48モル)を得た。次に、1Lオートクレーブに、2,3−ジヒドロキシドデカン酸(50g、0.22モル)、触媒として0.12gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を投入し、系内を窒素置換したのち、80℃、減圧下で10分脱水を行なった。脱水終了後、2,3−ジヒドロキシドデカン酸1モルに対してエチレンオキシド30モルを反応温度100℃、内圧0.49MPaの条件でオートクレーブに導入した。圧力が低下して一定になるまで同温度で30分熟成し、冷却後に反応物を得た。酸吸着剤(キョーワード500:協和化学製)を反応物に対して1%使用し、窒素雰囲気下、80℃、1時間吸着処理後、そのまま保留粒子径4μmの濾紙を使用して加圧ろ過し、ノニオン界面活性剤を得た。
【0014】
実施例2
9−オクタデセン酸(100g、0.35モル)とギ酸(136g、3.5モル)を反応容器に入れ攪拌を行い、40℃にて、30%過酸化水素(42.1g、0.37モル)を滴下した。滴下終了後、6時間攪拌を行った。その後水洗を行い、水酸化ナトリウムにより処理した後、室温下塩酸にて、酸処理を行った。その後、エタノールにより再結晶化を行い、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸(108g、0.34モル)を得た。次に、1Lオートクレーブに、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸(50g、0.16モル)、触媒として0.12gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を投入し、系内を窒素置換したのち、80℃、減圧下で10分脱水を行なった。脱水終了後、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸1モルに対してエチレンオキシド10モルを反応温度100℃、内圧0.49MPaの条件でオートクレーブに導入した。圧力が低下して一定になるまで同温度で30分熟成し、冷却後に反応物を得た。酸吸着剤(キョーワード500:協和化学製)を反応物に対して1%使用し、窒素雰囲気下、80℃、1時間吸着処理後、そのまま保留粒子径4μmの濾紙を使用して加圧ろ過し、ノニオン界面活性剤を得た。
【0015】
実施例3
13−ドコセン酸(100g、0.30モル)とギ酸(114g、3.0モル)を反応容器に入れ攪拌を行い、40℃にて、30%過酸化水素(35.1g、0.31モル)を滴下した。滴下終了後、6時間攪拌を行った。その後水洗を行い、水酸化ナトリウムにより処理した後、室温下塩酸にて、酸処理を行った。その後、エタノールにより再結晶化を行い、13,14−ジヒドロキシドコサン酸(105g、0.28モル)を得た。1Lオートクレーブに、13,14−ジヒドロキシドコサン酸(50g、0.13モル)、触媒として0.12gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を投入し、系内を窒素置換したのち、80℃、減圧下で10分脱水を行なった。脱水終了後、13,14−ジヒドロキシドコサン酸1モルに対してエチレンオキシド5モルを反応温度100℃、内圧0.49MPaの条件でオートクレーブに導入した。圧力が低下して一定になるまで同温度で30分熟成し、冷却後に反応物を得た。酸吸着剤(キョーワード500:協和化学製)を反応物に対して1%使用し、窒素雰囲気下、80℃、1時間吸着処理後、そのまま保留粒子径4μmの濾紙を使用して加圧ろ過し、ノニオン界面活性剤を得た。
【0016】
実施例4
9−オクタデセン酸(10g、0.035モル)とギ酸(13.6g、0.35モル)を反応容器に入れ攪拌を行い、40℃にて、30%過酸化水素(4.2g、0.037モル)を滴下した。滴下終了後、6時間攪拌を行った。その後水洗を行い、水酸化ナトリウムにより処理した後、室温下塩酸にて、酸処理を行った。その後、エタノールにより再結晶化を行い、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸(10g、0.031モル)を得た。次に、1Lオートクレーブに、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸(5g、0.016モル)、触媒として0.012gの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を投入し、系内を窒素置換したのち、80℃、減圧下で10分脱水を行なった。脱水終了後、9,10−ジヒドロキシオクタデカン酸1モルに対してエチレンオキシド120モルを反応温度100℃、内圧0.49MPaの条件でオートクレーブに導入した。圧力が低下して一定になるまで同温度で30分熟成し、冷却後に反応物を得た。酸吸着剤(キョーワード500:協和化学製)を反応物に対して1%使用し、窒素雰囲気下、80℃、1時間吸着処理後、そのまま保留粒子径4μmの濾紙を使用して加圧ろ過し、ノニオン界面活性剤を得た。
【0017】
比較例1
1Lオートクレーブに、ドデカン酸(50g、0.25モル)、触媒として0.05gの水酸化カリウムを投入し、系内を窒素置換したのち、120℃、減圧下で5分脱水を行なった。脱水終了後、ドデカン酸1モルに対してエチレンオキシド30モルを反応温度180℃、内圧0.49MPaの条件でオートクレーブに導入した。圧力が低下して一定になるまで同温度で30分熟成し、80℃まで冷却後、水酸化カリウムと当量の酢酸で中和し、ノニオン界面活性剤を得た。
【0018】
比較例2
1Lオートクレーブに、オクタデカン酸(50g、0.18モル)、触媒として0.05gの水酸化カリウムを投入し、系内を窒素置換したのち、120℃、減圧下で5分脱水を行なった。脱水終了後、オクタデカン酸1モルに対してエチレンオキシド10モルを反応温度180℃、内圧0.49MPaの条件でオートクレーブに導入した。圧力が低下して一定になるまで同温度で30分熟成し、80℃まで冷却後、水酸化カリウムと当量の酢酸で中和し、ノニオン界面活性剤を得た。
【0019】
実施例1〜4で得られた本発明のノニオン界面活性剤と、比較例1〜2のポリオキシエチレン脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤について界面活性能の試験及び溶解性試験を行った。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
※1溶解性試験
種々のノニオン界面活性剤の1gに1%水溶液となるよう水を加え、25℃において、1分間攪拌を行い、溶液の状態を目視にて確認する。
【0022】
※2表面張力
種々の濃度のノニオン界面活性剤水溶液(精製水を使用)を調製し、25℃における表面張力をウィルヘルミー型表面張力計にて白金プレート法により求め、表面張力/濃度・関係図を作成し、その屈曲点より臨界ミセル濃度(cmc)と、臨界ミセル形成濃度における表面張力(γcmc)を求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10〜26のジヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基と、少なくとも一方のヒドロキシル基とに、合計で2〜150モルのエチレンオキシドが付加重合したノニオン界面活性剤。

【公開番号】特開2011−12191(P2011−12191A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158323(P2009−158323)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)