説明

ノリの品種判別法及びそれに用いるプライマー

【課題】種苗登録した品種の育成者権を保護するため、客観的で効率的なノリの品種判別方法及びそれに用いるプライマーを提供する。
【解決手段】被検試料中のDNAを鋳型として、配列番号(2n−1)及び2n(nは1〜18の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの全18種類を用いて増幅処理し、得られる各プライマーセット毎の増幅産物パターンを、予め作成された既知品種のパターンと照合するノリの品種判別法及びこれに用いるプライマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマノリ属ノリの品種判別方法及びそれに用いるプライマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノリの品種は外部形態では判別が困難であるため、品種の区別はあいまいな点が多かった。このため、これまで新規品種を種苗登録しても真の意味で育成者権を保護することは、困難であった。
【0003】
現在、実際に漁場で使用されているアマノリ属養殖品種約75品種の内、入手可能品種として、スサビノリ種55品種、アサクサノリ種13品種の合計68品種を用いて、これらの品種に該当するかどうかを判別できれば、ノリ養殖品種のほとんどを区別できることになる。
ところで、DNAの塩基配列比較やPCR‐RFLP分析などの分子生物学的手法の進歩により、スサビノリ種とアサクサノリ種の判別が容易となってきた(非特許文献1〜5)。また、しかしながら、これらの方法では、DNAシーケェンサー等、大掛かりな装置を用いる必要があり、また品種レベルでの判別はできていなかった。
また、アオノリ属の海藻であるか否かを決定する方法も提案されているが(特許文献1)、アマノリ属はアオノリ属とは判別に使用できるDNAが全く異なり、またこの方法も品種レベルでの判別方法までは提案していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−304604号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kunimoto et al. J. Appl. Phycol.,11,203‐209(1999)
【非特許文献2】Kunimoto et al. J. Appl. Phycol.,15,337‐343(2003)
【非特許文献3】Niwa et al. J. Phycol.,41,294‐304(2005)
【非特許文献4】Niwa et al. Phycol. Res.,53,296‐302(2005)
【非特許文献5】Niwa et al. Aquaculture,274,126‐131(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、アマノリ属の品種レベルでの判別方法がなかった点であり、本発明の目的は、種苗登録した品種の育成者権を保護するため、客観的で効率的なノリの品種判別方法及びそれに用いるプライマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、次のとおりである。
(1)被検試料中のDNAを鋳型として、配列番号(2n−1)及び2n(nは1〜18の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの全18種類を用いて増幅処理し、得られる各プライマーセット毎の増幅産物パターンを、予め作成された既知品種のパターンと照合するノリの品種判別法。
(2)被検試料中のDNAを鋳型として、配列番号(2m−1)及び2m(mは1〜73の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの全73種類を用いて増幅処理し、得られる各プライマーセット毎の増幅産物パターンを、予め作成された既知品種のパターンと照合するノリの品種判別法。
(3)上記増幅処理がPCR法で、増幅産物のパターンが電気泳動によるパターンである上記(1)又は(2)に記載のノリの品種判別法。
(4)被検試料中のDNAを鋳型として増幅処理し、得られる増幅産物のパターンからノリ品種を判別するプライマーとして用いられる、配列番号(2m−1)及び2m(mは1〜73の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの少なくとも1種類からなるノリの品種判別用プライマー。
(5)被検試料中のDNAを鋳型として、増幅処理し、得られる増幅産物のパターンを照合するノリの品種判別法にプライマーとして用いられる、配列表の配列番号(2n−1)及び2n(nは1〜18の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの少なくとも18種類を含むノリの品種判別用プライマーキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明のノリの品種判別法は、現在漁場で用いられているノリ養殖品種をDNAにより客観的かつ簡便に判別することができ、ノリ製品の適正な表示等の科学的根拠となりうる情報を提供できる。また、新規に種苗登録した品種の育成者権を保護するための科学的根拠となりうる情報を提供でき、育成者が登録した品種の第三者による無断使用を証明することで、育成者の知的財産権を適正に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例2の被検試料のDNAを18種類のプライマーセットを用いてPCR法により増幅処理した増幅産物の電気泳動パターンを示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の被検試料は、アマノリ属に属するノリであれば、養殖ノリ、野生ノリのいずれでもよい。本発明では、まず、被検試料からDNAを抽出するが、このDNAは、胞子、糸状体、葉状体のいずれから抽出してもよいが、一般には保存が糸状体でなされているので、この糸状体から抽出することが好ましい。この抽出は、分子生物学の分野で慣用されている手法にしたがって行い、必要に応じて精製し、供試試料として調製すればよい。たとえば、市販の植物などからのDNA抽出キットISOPLANT II(NIPPON GENE Co. Ltd.)などを用いると簡便である。
【0011】
次に、この抽出されたDNAを鋳型として、プライマーを用いて増幅処理を行うが、この場合、プライマーとしては、表1a〜表1cに示した塩基配列又はそれに対応する相補的な塩基配列を有するものが用いられる。この場合、配列番号の(2m−1)のフォワード側の塩基配列及び配列番号2mのリバース側の塩基配列、あるいはこれらの相補的な塩基配列を1組のプライマーセットとして用いる。なお、mは1〜73の整数である。
【0012】
後述するように、このうちの表1aの配列番号の(2n−1)のフォワード側の塩基配列及び配列番号2nのリバース側の塩基配列、あるいはこれらの相補的な塩基配列を1組とするプライマーセット18種類を用いることにより、スサビノリ種の55品種、アサクサノリ種の13品種の合計68品種のどの品種に該当するかを判別できる。なお、nは1〜18の整数である。したがって、少なくともこの18種類のプライマーセットは、アマノリ属のノリ品種判別用プライマーキットとすることができる。
ところで、表4から明らかなように、配列番号17及び18のプライマーセットでは、P−13品種しか増幅パターンが見られないため、P−13品種かどうかの確認を行いたいときは、このプライマーセットのみを用いればよい。同様に、例えば、P−1品種かどうかを確認したいときには、配列番号3及び4、配列番号25及び26並びに配列番号33及び34の3種類のプライマーセットを、P−2の品種では、配列番号25及び26のプライマーセットをそれぞれ選択して用い、これらのすべてで増幅パターンが得られれば、確認できる。しかし、これは外部形態等で品種を予測できた場合の最終確認的な判別に用いることができる方法である。
【0013】
また、表1a〜表1cのプライマーセット73種類を用いることにより、上記68品種のどれに該当するか、また新品種であるかどうかを、より正確に判別できる。
後述の表4a〜表4dの増幅パターンに該当する品種がない場合、被検試料は新品種と判別される。このような場合、後述したように、18種類のプライマーセットを選定したのと同様の方法、すなわち、この増幅パターンを、表4a〜表4dの他の品種間の増幅パターンと比較して、異なるプライマーセットを選定し、これを上記18種類のプライマーセットに追加し、新たなアマノリ属のノリ品種判別用プライマーキットとすることができる。新品種が見出されるごとに、これを繰り返すことにより、ノリ品種判別用プライマーキットを充実させることができる。
なお、この表1a〜表1cのプライマーセット73種類は、アマノリ属のノリ品種に対し特異的な増幅が認められ、しかも増幅の安定性が高く、ノリ品種判別用プライマーとして、極めて優れたものである。

【0014】
【表1a】

【0015】
【表1b】

【0016】
【表1c】

【0017】
上記プライマーを用いたDNAの増幅は、公知のDNA増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)などを用いることができる。また、この増幅を行う際の反応液の組成やサイクリングの条件は、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様などに合わせて適宜選定するとよい。
本発明の方法では、このようにして得られたDNA増幅産物の有無を、例えば、電気泳動法などに供して、そのパターンに基いて識別する。すなわち、判別を行いたい品種から得られたDNA増幅産物を、予め作製した表1a〜表1cに示したプライマーとスサビノリ種55品種、アサクサノリ種13品種から抽出、調製されたDNA増幅産物による表4a〜表4d、または表5に示したDNA増幅有無のバンドパターンと比較して、品種の判別を行なう。
【実施例1】
【0018】
(プライマーの設計)
元株保有機関から分与された起源の明らかなスサビノリ種55品種、アサクサノリ種13品種の合計68品種のノリを単藻化し、表2に示す条件で室内培養を行った。
【0019】
【表2】

この培養により得られたフリー糸状体を液体窒素で凍結して粉砕後、ISOPLANTII(NIPPON GENE Co. Ltd.)を用いて、プロトコールにしたがって、DNAを抽出し、精製した。
次に、約600種類の10塩基からなるRAPDプライマーを、一部は市販品を、他は通常のオリゴヌクレオチド合成法にしたがって調製し、上記により得られたDNAをi-Cyclerサーマルサイクラー(BIO-RAD社製)を用いて、表3に示した条件でPCR法により増幅した。
【0020】
【表3】

【0021】
増幅後の断片を、2%アガロースゲルで、1×TAEバッファーを用いて電気泳動し、泳動後に、エチジウムブロマイドにより染色し、紫外線により比較判別して、品種特異的な断片450種類を選定した。この450種類の品種特異的増幅断片をTOPO TAクローニングキット(Invitrogen社製)を用いて、それぞれクローニングを行い、このクローニング産物の塩基配列を解読し、品種判別用プライマー候補400種類を設計した。
この品種判別用プライマー候補400種類を用いて、上記と同様の方法により、68品種のノリのDNAをPCR法により増幅し、品種特異的増幅が認められ、かつ増幅の安定性が高い表1a〜表1cに示した塩基配列を有する73種類のプライマーセットをノリ品種判別用プライマーに選定した。
【0022】
(品種の判定用パターン)
上記73対のプライマーと68品種のノリDNAの増幅断片の有無の関係を表4a〜表4dに示した。それぞれのプライマーにおいて、増幅断片が観察された場合を+で表し、それ以外は空欄のままとした。この表から明らかなように、この73対のプライマーのいずれかを用いると、被検試料がアマノリ属の68品種に該当するか否かを判定できることが分かる。
なお、本発明に関するノリ68品種の品種名称と品種記号との対応表は(独)水産総合研究センター西海区水産研究所が管理し、照合のための68品種の基準株の保存・培養を継続している。

【0023】
【表4a】

【0024】
【表4b】

【0025】
【表4c】

【0026】
【表4d】

【0027】
次に、上記表4a〜表4dのパターンから、68品種間でパターンの異なるプライマーを選択すると、表4に示す18種類のプライマーセットが選定される。すなわち、68品種のノリを判別するためには、この表5の18種類のプライマーセットの全てを用いれば、どの品種に該当するかを判別できる。また、被検試料の品種がかなり絞り込める場合は、該当しそうな品種で増幅が認められるプライマーセットを数種類組み合わせて用いることにより、より少ない増幅操作で、その品種を判別できることが分かる。なお、この18種類の増幅断片塩基のサイズを表6に示した。
【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【実施例2】
【0030】
判別を依頼されたノリを表2の条件で室内培養し、得られたフリー糸状体を液体窒素で凍結・粉砕し、ISOPLANTIIを用いて、プロトコールにしたがって、DNAを抽出し、精製した。
次に、表1aに示した塩基配列を有するプライマーセット18種類、及びPCR増幅の成否のチェック用として表7に示した塩基配列を有するポジティブコントロール用プライマー1(配列番号147,148:増幅断片長1938塩基)、プライマー2(配列番号149,150:増幅断片長1341塩基)を用い、上記により得られたDNAをi-Cyclerサーマルサイクラーを用いて、表8に示した条件でPCR法により増幅した。増幅後の断片を、表5に示す配列番号順に、2%アガロースゲルで、1×TAEバッファーを用いて電気泳動し、泳動後に、エチジウムブロマイドにより染色し、紫外線照射下に増幅パターンを観察した。図1に示すように、増幅断片が観察されたプライマーは、左から12、13、17、18番目に位置する配列番号23及び24、25及び26、33及び34並びに35及び36であったので、表5のパターンから、被検試料は品種P−5であることが判別された。
【0031】
【表7】

【0032】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のノリの品種判別法は、現在漁場で用いられているノリ養殖品種をDNAにより客観的かつ簡便に判別することができ、ノリ製品の適正な表示等の科学的根拠となりうる情報を提供できるため、産業上有用である。また、新規に種苗登録した品種の育成者権を保護するための科学的根拠となりうる情報を提供でき、育成者が登録した品種の第三者による無断使用を証明することで、育成者の知的財産権を適正に保護することができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0034】
1〜18 表1aの配列番号(2n−1)及び2n(nは1〜18の整数)の塩基配列 或いはその相補的な塩基配列を有するプライマーセットによる増幅の有無
19 ポジティブコントロール1
20 ポジティブコントロール2
21 増幅された特異的断片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中のDNAを鋳型として、配列番号(2n−1)及び2n(nは1〜18の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの全18種類を用いて増幅処理し、得られる各プライマーセット毎の増幅産物パターンを、予め作成された既知品種のパターンと照合することを特徴とするノリの品種判別法。
【請求項2】
被検試料中のDNAを鋳型として、配列番号(2m−1)及び2m(mは1〜73の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの全73種類を用いて増幅処理し、得られる各プライマーセット毎の増幅産物パターンを、予め作成された既知品種のパターンと照合することを特徴とするノリの品種判別法。
【請求項3】
上記増幅処理がPCR法で、増幅産物のパターンが電気泳動によるパターンである請求項1又は2に記載のノリの品種判別法。
【請求項4】
被検試料中のDNAを鋳型として増幅処理し、得られる増幅産物のパターンからノリ品種を判別するプライマーとして用いられる、配列番号(2m−1)及び2m(mは1〜73の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの少なくとも1種類からなるノリの品種判別用プライマー。
【請求項5】
被検試料中のDNAを鋳型として、増幅処理し、得られる増幅産物のパターンを照合するノリの品種判別法にプライマーとして用いられる、配列表の配列番号(2n−1)及び2n(nは1〜18の整数)の塩基配列或いはその相補的な塩基配列を有する1組のプライマーセットの少なくとも18種類を含むノリの品種判別用プライマーキット。




【図1】
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【公開番号】特開2011−130690(P2011−130690A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291682(P2009−291682)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、漁場環境・水産資源持続的利用型技術開発委託事業のうち水産物の原産地判別手法等の技術開発事業(産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】