説明

ノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルム

【課題】 透明性、耐薬品性、光学特性に優れ、ガラス転移温度が高く、吸水率が低く、線膨張率が低く、一般溶剤に溶解するノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムを提供する。
【解決手段】 炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の繰返し単位(a)並びに炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の水素の一部を、炭素数が2以下の官能基のみで又は炭素数が2以下の官能基及び炭素数が2以下の炭化水素基のみで置換した構造を有するノルボルネン化合物単量体の繰り返し単位(b)のみからなり、繰返し単位(a)/繰返し単位(b)のモル比が70/30〜98/2の範囲内にあり、重量平均分子量が30万〜70万であり、数平均分子量が8万〜35万であるノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン化合物付加重合体からなる寸法安定性に優れたフィルムに関する。より詳しくは、ノルボルネン化合物付加重合体からなる使用環境温度及び湿度が変動しても寸法変化の小さいフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ等の光学部品、液晶表示素子、カラーフィルターやEL表示素子基板等のディスプレイ基板、バックライト、導光板等の光学材料の分野では、従来、無機ガラスが一般的に用いられている。しかし、無機ガラスには、割れやすい、柔軟性に欠ける、比重が大きい、加工性が悪い等の欠点があり、近年の軽量化、小型・高密度化の要求に応えるには不充分であり、従って、透明樹脂による代替が強く求められている。
透明樹脂を光学材料用途に用いるに当っては、透明性以外にも耐熱性、耐薬品性、低吸水性等の面において非常に高い性能が求められている。例えば、表示素子基板の製造においては、金属又は金属酸化物薄膜を積層させる工程で高温での加工が必要であるが、熱による基板の変形や吸水による寸法変動等が大きな問題となる。ところが、従来、光学材料に用いられているアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂は、耐熱性が低く吸水性が大きいという欠点を有していて満足すべきものではなかった。
【0003】
このため、透明性、耐熱性、耐薬品性、低吸水性及び光学特性を満足させる樹脂として環状オレフィン付加重合体が提案され、この重合体を用いた液晶表示基板材料が提案されている(特許文献1)。
環状オレフィン付加重合体、特に、ポリノルボルネンは、ガラス転移温度が250℃以上と高いので、高温加工時の耐熱変形性に優れた材料である。しかも、ポリノルボルネンは吸湿性が極めて低いので使用環境での湿度変化に対する寸法安定性に優れ、更に、線膨張率が55ppm程度と低いので熱変動に対する寸法安定性に優れるという特徴を有している。
しかしながら、ポリノルボルネンは、一般溶剤に対する溶解性が低いため、キャスト法によるフィルム成形ができないという問題点があった。
【0004】
このため、ポリノルボルネンの改良策が種々検討されており、(1)エチレン等のα−オレフィンとの付加共重合体(特許文献2)、(2)直鎖状炭化水素基を有する置換ノルボルネンとの付加共重合体(特許文献3)、(3)特定の環状飽和炭化水素基を有するノルボルネン化合物との付加共重合体(特許文献4)、及び(4)極性基を有するノルボルネン化合物との付加重合体(特許文献5及び6)等が提案されている。
しかしながら、(1)のノルボルネン/エチレン共重合体については、ガラス転移温度が200℃以上の重合体を製造するのは困難で、しかも線膨張率が70〜100ppm程度に高くなるという問題点があった。(2)の直鎖状炭化水素基を有する置換ノルボルネンとの付加共重合体も同様に、ガラス転移温度の低下と線膨張率の上昇という問題点を有している。また、(3)の特定の環状飽和炭化水素基を有するノルボルネン化合物との付加共重合体は、そのような特定のノルボルネン化合物の合成が面倒で実用的でない上、必ずしも一般溶剤に対する溶解性が改善されるとは限らない。更に、(4)の極性基を有するノルボルネン共重合体としては、極性基として長鎖エステル基やシリル基を有するノルボルネン化合物との共重合体が例示されているが、吸水性が高くなるという問題点があり、また線膨張率も大きく上昇するという課題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−61026号公報
【特許文献2】特開平6−202091号公報
【特許文献3】特開平8−198919号公報
【特許文献4】特開2004−51949号公報
【特許文献5】特表平11−505880号公報
【特許文献6】特開2002−114826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、ノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムであって、透明性、耐薬品性及び光学特性は勿論のこと、耐熱性及び寸法安定性にも優れるフィルム及びその用途を提供することにあり、更に詳しくは、ノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムであって、ガラス転移温度が高く、吸水率が低く、線膨張率が低く、一般溶剤に溶解するフィルム及びその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、無置換のノルボルネン化合物単量体の繰返し単位と特定の置換基を有するノルボルネン化合物単量体との繰返し単位とを含有してなるノルボルネン化合物付加重合体のフィルムが、耐熱性及び低吸水性を維持したまま、一般溶剤への溶解性に優れ、更に低い線膨張性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、下記繰返し単位(a)及び繰返し単位(b)のみからなり、繰返し単位(a)と繰返し単位(b)とのモル比[(a)/(b)]が70/30〜98/2の範囲内にあり、重量平均分子量が300,000〜700,000であり、数平均分子量が80,000〜350,000であるノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムが提供される。
繰返し単位(a):炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の繰返し単位。
繰返し単位(b):炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の水素の一部を、炭素数が2以下の官能基のみで又は炭素数が2以下の官能基及び炭素数が2以下の炭化水素基のみで置換した構造を有するノルボルネン化合物単量体の繰り返し単位。
本発明のフィルムにおいて、ノルボルネン化合物付加重合体が、繰返し単位(a)として2−ノルボルネン単量体又はテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン単量体の繰返し単位を有するノルボルネン付加重合体であることが好ましい。
本発明のフィルムは、好適には、70ppm/℃以下の線膨張率を有する。
本発明のフィルムは、好適には、0.1重量%以下の吸水率を有する。
【0009】
また、本発明のフィルムは、透明導電膜が積層されたものであってもよい。
また、本発明のフィルムは、ガスバリア膜が積層されたものであってもよい。
本発明のフィルムは、光学用フィルムとして好適である。
また、本発明のフィルムは、表示素子用部材として好適である。
なお、本発明において、「フィルム」とは、厳密にはその厚さで区別される「フィルム」及び「シート」の双方を、含む概念である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、透明性及び光学特性のほか、耐熱性及び一般溶剤への溶解性に優れ、更に吸水率及び線膨張率が低いので、光学材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔ノルボルネン化合物付加重合体〕
本発明のフィルムを得るためのノルボルネン化合物付加重合体は、下記繰返し単位(a)及び繰返し単位(b)のみからなり、繰返し単位(a)と繰返し単位(b)とのモル比[(a)/(b)]が70/30〜98/2の範囲内にあるノルボルネン化合物付加重合体である。
【0012】
〔繰返し単位(a)〕
繰返し単位(a)は、炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の繰返し単位である。
このような繰返し単位(a)としては、例えば、一般式(1)で示される繰返し単位を挙げることができる。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、一般式(1)において、R〜Rは、水素原子か炭素数が1〜20の炭化水素基であり、炭素数が1〜20の炭化水素基であるときは、互いに結合して置換基を有しない環構造を形成している。mは0〜2の整数である。
ここで、環構造の具体例としては、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環、シクロオクタン環、シクロオクテン環、ノルボルナン環等の環及びこれらの環が複数個縮合した多環構造が含まれる。
【0015】
繰返し単位(a)は、一般式(2)で示されるノルボルネン化合物(A)を付加重合することにより得られる。
【0016】
【化2】

【0017】
ここで、R〜R及びmは、一般式(1)におけると同様である。
【0018】
このようなノルボルネン化合物(A)の具体例としては、2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ−9−エン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ−4,9−ジエン、トリシクロ[8.2.1.02,9]トリデカ−11−エン、トリシクロ[8.2.1.02,9]トリデカ−5,11−ジエン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(「1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレン」ともいう。)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(「1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセン」ともいう。)、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10]ペンタデカ−12−エン、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10]ペンタデカ−5,12−ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10]ペンタデカ−12−エン等が挙げられる。
【0019】
なかでも、耐熱性、低吸水性及び低線膨張率のバランスの観点から、ノルボルネン環以外には不飽和結合を有しない2−ノルボルネン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ−9−エン、トリシクロ[8.2.1.02,9]トリデカ−11−エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10]ペンタデカ−12−エン及びペンタシクロ[9.2.1.14,7.02,10]ペンタデカ−12−エンが好ましく、2−ノルボルネン及びテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンが特に好ましい。
【0020】
〔繰返し単位(b)〕
繰返し単位(b)は、炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の水素の一部を、炭素数が2以下の官能基のみで又は炭素数が2以下の官能基及び炭素数が2以下の炭化水素基のみで置換した構造を有するノルボルネン化合物単量体の繰り返し単位である。
ここで、炭素数が2以下の官能基とは、官能基自体の炭素数が2以下のもののほか、炭素数が2以下の炭化水素基の水素をそれ自体の炭素数が2以下の官能基で置換した構造を有する基であって全炭素数が2以下のもの及びそれ自体の炭素数が2以下の官能基の水素を炭素数が2以下の炭化水素基で置換した構造を有する基であって全炭素数が2以下のものをも包含する概念である。
このような繰返し単位(b)の例としては、例えば、一般式(3)で示される繰返し単位を挙げることができる。
【0021】
【化3】

【0022】
ここで、一般式(3)において、R〜Rは、水素原子、炭素数が2以下の官能基又は炭素数が1か2の炭化水素基であり、しかもR〜Rのうちの少なくとも1つは、炭素数が1か2の官能基である。nは0〜2の整数である。
【0023】
炭素数が1か2の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、メチリデン基、エチリデン基、ビニル基及びビニリデン基を挙げることができる。
【0024】
炭素数が2以下の官能基の具体例としては、水酸基、メルカプト基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシカルボニル基、アセトキシ基、エポキシエチル基、アセチル基;シアノ基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基等を挙げることができる。
【0025】
繰返し単位(b)は、一般式(4)で示されるノルボルネン化合物(B)を付加重合することにより得られる。
【0026】
【化4】

【0027】
ここで、R〜R及びnは、一般式(3)におけると同様である。
【0028】
このようなノルボルネン化合物(B)の具体例としては、5−メトキシ−2−ノルボルネン、5−エトキシ−2−ノルボルネン、5,6−ジメトキシ−2−ノルボルネン等の炭素数が2以下のアルコキシ基を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン等のメトキシカルボニル基を有するノルボルネン類;5−アセトキシ−2−ノルボルネン等のアセトキシ基を有するノルボルネン類;5−エポキシエチル−2−ノルボルネン等のエポキシエチル基を有するノルボルネン類;5−アセチル−2−ノルボルネン等のアセチル基を有するノルボルネン類;5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−シアノ−2−ノルボルネン等のシアノ基を有するノルボルネン類;5−(N,N−ジメチルアミノ)−2−ノルボルネン等のN,N−ジメチルアミノ基を有するノルボルネン類;5−メチルチオ−2−ノルボルネン、5−エチルチオ−2−ノルボルネン等の炭素数が2以下のアルキルチオ基を有するノルボルネン類;9−メトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9,10−ジメトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等の炭素数が2以下のアルコキシ基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチル−9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のメトキシカルボニル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−アセトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のアセトキシ基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−エポキシエチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のエポキシエチル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−アセチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のアセチル基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−シアノテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチル−9−シアノテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のシアノ基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−(N,N−ジメチルアミノ)−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等のN,N−ジメチルアミノ基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類;9−メチルチオテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチルチオテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等の炭素数が2以下のアルキルチオ基を有するテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン類を挙げることができる。
【0029】
本発明においては、上記繰返し単位(b)における官能基の炭素数が2以下であることが必須である。
炭素数が2を超える官能基(例えば、トリエトキシシリル基)を置換基として有するノルボルネン化合物単量体の繰返し単位を有するものを用いると、吸水率及び線膨張率が大きくなる。
【0030】
本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体における繰返し単位(a)と繰返し単位(b)とのモル比[(a)/(b)]は、(a)/(b)=70/30〜98/2の範囲内にあることが必要であり、好ましくは75/25〜98/2、より好ましくは80/20〜98/2の範囲内である。繰返し単位(a)の比率が、この範囲より低いと吸水率が高くなり、逆に、この範囲より高いと溶解性が悪くなる。
【0031】
本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定して得られるポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が、300,000〜700,000であり、数平均分子量が80,000〜350,000であることが必要である。
重量平均分子量又は数平均分子量が上記上限を超えると、フィルムが溶媒に溶解しなくなる。逆に、重量平均分子量又は数平均分子量が上記下限より低いと、フィルムがクラックを発生しやすくなる。
重量平均分子量は、350,000〜650,000の範囲内にあることが好ましい。
また、数平均分子量は、100,000〜300,000の範囲内にあることが好ましい。
【0032】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、好適には、70ppm/℃以下、より好ましくは68ppm/℃、更に好ましくは65ppm/℃の線膨張率を有する。
【0033】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、好適には、0.1重量%以下、より好ましくは0.08重量%以下、更に好ましくは0.06重量%以下の吸水率を有する。
【0034】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、一般溶剤に対する溶解性に優れる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素;クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;等に可溶である。
従って、ノルボルネン化合物付加重合体をこれらの溶剤の溶液として、これから容易にフィルムを形成することができる。
【0035】
〔ノルボルネン化合物付加重合体の製造〕
本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体を得るためには、一般式(2)で表されるノルボルネン化合物(A)及び一般式(4)で示されるノルボルネン化合物(B)を必須成分とするノルボルネン化合物単量体混合物を、重合触媒の存在下に付加重合させればよい。
【0036】
本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体を得るための重合触媒は、特に限定されない。
具体例としては、特表平11−505880号公報記載の[6−メトキシノルボルネン−2−イル−5−パラジウム(シクロオクタジエン)]ヘキサフルオロホスフェート等の重合触媒;国際公開第2000/20472号パンフレット記載の(アリル)パラジウムクロリドダイマー/トリシクロヘキシルホスフィン/リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート・2.5エーテル等の重合触媒;特開2001−098035号公報記載の(フェニル)パラジウムビス(トリフェニルホスフィン)イオダイド/メチルアルミノキサン等の重合触媒;等の第10族遷移金属触媒からなる重合触媒を好適なものとして挙げることができる。
【0037】
上記の方法で得られたノルボルネン化合物付加重合体にオレフィン性不飽和結合が存在することがあるが、このオレフィン性不飽和結合を水素化したものも、また、好適に使用することができる。
【0038】
上記水素化反応は、一般的に知られている方法、即ち、水素化触媒存在下で水素と接触させて行なえばよい。
水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウム等の第8〜10族遷移金属又はその化合物をカーボン、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、珪藻土等の多孔性担体に担持した固体触媒;コバルト、ニッケル、パラジウム等の第4〜10族金属の有機カルボン酸塩、β−ジケトン化合物と有機アルミニウム又は有機リチウムとの組合せ;ルテニウム、ロジウム、イリジウム等の錯体等の均一触媒;等が用いられる。
【0039】
付加重合反応及び/又は水素化反応の後、触媒を除去することが好ましい。
触媒の除去方法としては、シリカ、アルミナ、活性炭等の吸着剤により吸着除去する方法;イオン交換樹脂により除去する方法;キレート剤を加えて触媒残渣を不溶化させてろ過する方法;重合体溶液を多量のメタノール、アセトン等の貧溶媒に添加して凝固する方法;等を挙げることができる。
【0040】
付加重合反応後のノルボルネン化合物付加重合体の回収は、重合体溶液から直接溶剤を除去する方法、上記メタノール等の貧溶媒で凝固・分離する方法等の公知の方法により行なうことができる。また、重合反応後の溶液や触媒除去後の溶液をそのままキャスト成形に用いて成形品を製造してもかまわない。
【0041】
〔ノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルム〕
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、光学部品、電気絶縁部品、電気・電子部品、電子部品封止剤、医療用器材、包装材料等とすることができる。
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、ノルボルネン化合物付加重合体のみからなるものであってもよく、ノルボルネン化合物重合体と他の透明樹脂(例えば、環状オレフィン付加重合体、水素化された環状オレフィン開環重合体、α−オレフィンと環状オレフィンとの付加共重合体、結晶性のα−オレフィン重合体、更にゴム状のエチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、水素化されたブタジエン重合体、水素化されたブタジエン・スチレンブロック共重合体、水素化されたイソプレン重合体等)との任意の割合の混合物からなるものであってもよい。
【0042】
ノルボルネン化合物付加重合体からなる本発明のフィルムを形成するに際し、必要に応じて各種の添加剤を配合しても構わない。
このような添加剤としては、充填材、酸化防止剤、蛍光体、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤等が挙げられる。
【0043】
充填材としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属の酸化物等を例示することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等を例示することができる。
蛍光体は、光を受けて励起し、励起波長よりも長い波長の光を発光するものであり、例えば、光学素子を封止する場合に、光学素子が発光する青色領域から紫外線領域の波長を受けて、可視領域の波長を発光させるのに用いられる。
これらの添加剤の配合方法は、特に限定されない。
ノルボルネン化合物付加重合体からなる本発明のフィルムを得るには、公知の成形方法によればよい。
【0044】
本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体は、有機溶媒に容易に溶解する。従って、その有機溶媒溶液を、スチールベルトやキャリアーフィルム等の上に塗工又は流延し、その後、乾燥工程を経て成形品を得る溶液キャスト法により、フィルムとすることができる。
【0045】
本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体の有機溶媒溶液をガラスクロス等の織布又は不織布に含浸後、乾燥して、織布又は不織布を含むフィルムとすることもできる。
また、有機溶媒で本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体を膨潤させた後、押出機で溶媒を蒸発させながら、該重合体をフィルムに成形・加工することもできる。
【0046】
また、本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体の有機溶媒溶液を型内に流し込んだ後、溶媒を蒸発させて成形することもできる。更に、有機溶媒溶液を特定の部品や基材に付着させた後、溶媒を蒸発させて成形することもできる。
更に、本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体を他の熱可塑性樹脂と配合した重合体ブレンド組成物とし、これから、溶融押出機等を使用する溶融押出法により、フィルムとすることもできる。
【0047】
フィルムの厚さは、使用目的によって選択できるが、通常、1〜1,000μm、好ましくは2〜500μmである。フィルムの厚さがこの範囲内であるとき、フィルム形成に要する時間が短く、得られるフィルムは強度に優れている。
【0048】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、全光線透過率が、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上であるので、光学用材料及び表示素子用部材として好適に使用することができる。
【0049】
〔透明導電膜積層フィルム〕
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、透明導電膜を積層したもの(「透明導電膜積層フィルム」ということがある。)であってもよい。
具体的には、無機酸化物、無機窒化物又は無機硫化物等の無機物(例えば、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、硫化カドミウム、硫化亜鉛、セレン化亜鉛等)を用いて、真空製膜法(例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法)等の製膜法により、透明導電膜を積層する。
透明導電膜の膜厚は、50〜4,000Åの範囲内で適宜選択することが可能である。
【0050】
本発明の透明導電膜積層フィルムは、全光線透過率が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上であるので、光学用材料及び表示素子用部材として好適に使用することができる。
【0051】
本発明の透明導電膜積層フィルムにおいて、ノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムと透明導電膜との間に、フィルムの平滑性や透明導電膜との密着性向上を目的として、接着層を設けてもよい。接着層は、樹脂ワニスを塗布し乾燥により溶剤を除去することで得られる。この際、溶剤除去後に成膜性を有する樹脂、即ち固形の樹脂を添加したワニスが均一塗布という観点から好ましい。このための樹脂の具体例としては、エポキシジアクリレート、ウレタンジアクリレート、ポリエステルジアクリレート等のいわゆるアクリルプレポリマー等の光硬化性樹脂;o−クレゾールノボラック型、ビスフェノール型のエポキシ系や、ウレタン系、アクリル系、尿素系、メラミン系、不飽和ポリエステル系の熱硬化性樹脂;電子線硬化性樹脂;等が挙げられる。これらのうち、生産性及びコストの点から光硬化性樹脂が好ましい。
上記硬化樹脂被膜を形成させる方法としてはグラビアコート法、リバースロールコート法、キスロールコート法等があるが、いずれの方法を用いてもよい。
【0052】
本発明の透明導電膜積層フィルムは、透明導電膜とは反対側にガスバリア層を有していてもよい。ガスバリア層は、無機材料で形成しても有機材料で形成してもよい。使用可能な無機材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化インジウム等を、有機材料としてはポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド等を挙げることができる。
ガスバリア層の膜厚は、無機材料の場合100〜2,000Å、有機材料の場合は500〜10,000Åにすることが望ましい。
これらの無機材料は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、抵抗加熱法、CVD法等の公知の手段により製膜することができる。また、有機材料の場合は、これを溶剤に溶解し、前記のようなコーティング法によって塗布して乾燥することにより製膜することができる。
また、フィルムとガスバリア層との間に接着層を設けてもよい。
更に、ガスバリア層上に、これを保護するための保護コート層を積層してもよい。保護コート層は、前記接着層と同様の方法によって製膜することが好ましい。
【0053】
〔カラーフィルター〕
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルム又は本発明の透明導電膜積層フィルムからなるカラーフィルター用基板の上にカラーフィルター層を積層することにより、カラーフィルターを得ることができる。積層方法としては、公知の顔料分散法、染色法、電着法、印刷法、転写法等を用いることができる。
例えば、顔料分散法では、カラーフィルター用基板上に、スパッタリング法又は真空蒸着法を用いて、金属クロム、酸化クロム、窒化クロム等のクロム化合物、ニッケルとタングステン合金等の金属遮光膜によりブラックマトリックスを形成し、次いで、赤色の顔料を分散させた感光性樹脂組成物(カラーレジスト)をスピンコート法、ワイヤーバー法、フローコート法、ダイコート法、ロールコート法、スプレーコート法等により全面に塗布し、マスクを介して露光し、露光後に現像を行い、赤色画素を形成する。同様の手順で、青色及び緑色の画素についても塗布、露光及び現像を行い、3色の画素を形成させる。なお、3色の画素を形成する順番には、特に決まりはなく、任意に選択される。各画素間のブラックマトリックス部が凹(へこ)みとなる場合は、平滑化のために表面をエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等の透明樹脂で被覆して保護膜を形成してもよい。また、ブラックマトリックスを形成する際にも、上記した顔料分散法を採用してもよい。具体的には、黒色顔料を分散させた感光性樹脂(ブラックレジスト)を塗布、露光及び現像してもよい。
【0054】
カラーレジスト及びブラックレジストの組成物の構成成分並びに塗布、露光及び現像の方法には、例えば、特開2004−56151号公報、特開2004−347831号公報等に記載されている構成成分及び各方法を用いることができる。また、印刷法についても公知の方法を用いることができ、例えば、特開平6−347637号公報、特開平11−326622号公報及び特開2004−333971号公報に記載のインク及び印刷方法を用いることができる。
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、レジスト、インク、現像液等の薬品に対して高い耐性を有するので、カラーフィルター積層工程で、基板が変形したり、クラックが発生したりすることがない。
【0055】
カラーフィルター用基板及びブラックマトリックス形成基板には、接着性等の表面物性改良のため、必要に応じ、コロナ放電処理、オゾン処理、シランカップリング剤やウレタン系樹脂等の各種樹脂の薄膜形成処理等を行なってもよい。各種樹脂の薄膜形成処理を行なう場合、その膜厚は、通常、0.01〜10μm、好ましくは0.05〜5μmの範囲である。
【0056】
上記のカラーフィルターは、液晶表示装置のカラーフィルターとして使用することができ、更に、カラーディスプレー、液晶表示装置等の部品の一部として使用することもできる。
【0057】
〔光学部品〕
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、カラーフィルター用基板のほか、導光板、保護フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、CD、MD、DVD等の光学記録基板、TFT用基板、液晶表示基板、有機EL表示基板等や光伝送用導波路、光学レンズ類、封止材等の光学部品として、好適に使用することができる。
なかでも、表示素子用部材、具体的には、カラーフィルター用基板、導光板、保護フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、TFT用基板、液晶表示基板、有機EL表示基板等に好適に用いることができる。
【0058】
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、光学部品のほか、電気絶縁部品、電気・電子部品、電子部品封止剤、医療用器材、及び包装材料にも使用することができる。
【0059】
〔電気絶縁部品〕
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、耐熱性に優れ、線膨張率が小さいため、半田付け工程によって、熱変形することがなく、熱劣化による機械的特性の低下がないので、電気絶縁部品として最適である。
電気絶縁部品としては、電線・ケーブルの被覆材料、コンピューター、プリンター、複写機等のOA機器の絶縁材料、フレキシブルプリント基板の絶縁部品等を挙げることができるが、特に、フレキシブルプリント基板として好適に用いられる。
【0060】
〔電気・電子部品〕
電気・電子部品としては、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーション・フィルム、洗浄容器、パイプ、チューブ等や、半導体素子、光学素子(発光ダイオード等)の封止材、集積回路の封止材、オーバーコート材等に用いられる。
【0061】
〔電子部品封止材〕
本発明のノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、吸水率が低く、耐熱性、透明性及び電気特性に優れるので、電子部品の封止材として有用である。電子部品としては、CPU、DRAM等の半導体チップを含む集積回路部品;ダイオード、トランジスタ、発光素子(LED等)等の半導体部品;抵抗器、コンデンサ、インダクタ、セラミックフィルター、サーミスタ等の一般電子部品を挙げることができる。中でも、青色LED素子、紫外発光LED素子や白色LED素子等のLED素子封止材、特にこれらの面実装型LEDの封止材として好ましい。
【0062】
電子部品の封止方法は、本発明に使用するノルボルネン化合物付加重合体の有機溶媒溶液を封止したい電子部品に付着させて溶媒を蒸発除去することによって行なうことができる。この際、従来の封止方法である、トランスファー成形法、ポッティング法又はコーティング法等を用いることができる。トランスファー成形法の場合には、少量の有機溶媒を含有するノルボルネン化合物付加重合体固形分を加熱軟化後、電子部品が装着された金型に注入して成形し、少量の溶剤を蒸発除去する。ポッティング法の場合は、封止したい電子部品に高粘度のノルボルネン化合物付加重合体溶液を充填して乾燥させる。コーティング法においては、封止したい電子部品、特に電子基板等にノルボルネン化合物付加重合体溶液を、ロールコート法、カーテンコート法、スクリーン印刷法、スピンコート法、ディッピング法等の方法でコートし、溶媒を蒸発除去する。
【0063】
〔医療用器材〕
医療用器材としては、薬品容器、アンプル、シリンジ、輸液用バッグ、サンプル容器、試験管、採血管、滅菌容器、パイプ、チューブ等に用いられる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
また、実施例及び比較例中の試験及び評価は以下の方法で行った。
【0065】
(1)重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)
テトラヒドロフラン又はクロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定する。
(2)重合体の共重合比
H−NMR測定により求める。
(3)吸水率
フィルム片を23℃の水中に24時間浸漬させた後の重量変化より求める。
(4)ガラス転移温度(Tg)
動的粘弾性で測定される貯蔵弾性率E’の屈曲点の温度で測定する。動的粘弾性の測定は、DMS6100(セイコーインスツルメント社製)を用い、測定周波数が10Hz、昇温速度が5℃/分、加振モードが単一波形、加振振幅が5.0μmのものを用いて貯蔵弾性率E’の屈曲点の温度を測定する。
【0066】
(5)線膨張率
TMA(Thermal Mechanical Analysis)/SDTA840(メトラー・トレド社製)を用い、試験片形状として膜厚100μm、縦15.4mm、横5.95mmにしたフィルム片を直立、固定し、プローブにより、1g重の荷重をかける。フィルムの熱履歴を除去するため、室温から300℃まで5℃/minで一旦昇温した後、室温まで降温して、再度、室温から5℃/minで昇温して、30℃〜250℃間のフィルム片の伸びの傾きから線膨張率を求める。
(6)全光線透過率
膜厚100μmのフィルムについて、紫外・可視分光計(JASCO社製、商品名「V−550」)を用いて、波長400から700nmの範囲で測定する。
(7)フィルム強度(折り曲げ時の割れ発生の有無)
トルエン溶液から調製した厚さ100μmのフィルムを中央で折り曲げて重ね合わせた時の折り曲げ部分の割れ発生の有無で、フィルム強度を評価した。
【0067】
(実施例1)
(ノルボルネン化合物付加重合体(A)の合成)
窒素置換したガラス反応器に、(アリル)パラジウム(トリシクロヘキシルホスフィン)クロリド0.77部及びリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート1.14部を入れ、続けてトルエン2部を加え触媒液を調製した。
次いで、窒素置換した攪拌機付きの耐圧ガラス反応器に、2−ノルボルネン(NB;分子量=94)1,650部、5−アセトキシ−2−ノルボルネン(NBOAc;分子量=152)300部、分子量調整剤としてスチレン405部及び重合溶媒としてトルエン7,200部を仕込み、上記の触媒液を添加して重合を開始した。60℃で1.5時間反応させた後、重合反応液を多量のメタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、50℃で18時間減圧乾燥して共重合体(A)1,550部を得た。
得られた共重合体(A)はトルエン、クロロホルム等に可溶であった。共重合体(A)の数平均分子量(以下、「Mn」と略称することがある。)は157,000、重量平均分子量(以下、「Mw」と略称することがある。)は403,000、共重合体(A)中のNB単位/NBOAc単位組成比は、95/5(モル/モル)であった。共重合体(A)の特性の評価結果を表1に示す。
共重合体(a)の10重量%トルエン溶液を調製して、これを平坦なポリテトラフルオロエチレンシート上に流延し、室温で24時間、空気気流下において、トルエンを蒸発除去した後、80℃で24時間、真空乾燥して、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
(ノルボルネン化合物付加重合体(B)の合成)
窒素置換した攪拌機付きの耐圧ガラス反応器に、2−ノルボルネン(NB;分子量=94)1,650部、9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(TCDMA;分子量=218)688部、分子量調整剤としてスチレン430部及び重合溶媒としてトルエン7,200部を仕込み、実施例1で使用したと同様の触媒液を添加して重合を開始した。60℃で2.5時間反応させた後、重合反応液を多量のメタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、50℃で18時間減圧乾燥して共重合体(B)2,100部を得た。
得られた共重合体(B)はトルエン、クロロホルム等に可溶であった。共重合体(B)のMnは217,000、Mwは564,000、共重合体(B)中のNB単位/TCDMA単位組成比は、85/15(モル/モル)であった。共重合体(B)の特性の評価結果を表1に示す。
この共重合体(B)から、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
(ノルボルネン化合物付加重合体(C)の合成)
5−アセトキシ−2−ノルボルネン(NBOAc;分子量=152)300部に代えて5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン(NBMMA;分子量=166)324部を使用するほかは、実施例1と同様にして、共重合体(C)1,780部を得た。
得られた共重合体(C)はトルエン、クロロホルム等に可溶であった。共重合体(C)のMnは192,000、Mwは504,000、共重合体(C)中のNB単位/NBMAA単位組成比は、92/8(モル/モル)であった。共重合体(C)の特性の評価結果を表1に示す。
この共重合体(C)から、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
(ノルボルネン化合物付加重合体(D)の合成)
窒素置換した攪拌機付きの耐圧ガラス反応器に、2−ノルボルネン(NB;分子量=94)1,200部、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレン(MTHF;分子量=182)1,160部、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン(NBMA;分子量=152)970部分子量調整剤としてスチレン521部及び重合溶媒としてトルエン7,700部を仕込み、実施例1で使用したと同様の触媒液を添加して重合を開始した。60℃で2時間反応させた後、重合反応液を多量のメタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、50℃で18時間減圧乾燥して共重合体(D)3,020部を得た。
得られた共重合体(D)はトルエン、クロロホルム等に可溶であった。共重合体(D)のMnは179,000、Mwは409,000、共重合体(D)中のNB単位/MTHF単位/NBMA単位組成比は、58/25/17(モル/モル/モル)であった。共重合体(D)の特性の評価結果を表1に示す。
この共重合体(D)から、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
(ノルボルネン化合物付加重合体(E)の合成)
窒素置換したガラス反応器に、N,N’−ビス−(2−メチルフェニル)ベンズアミジネートニッケル(トリフェニルホスフィン)クロリド8.2部及びアルミニウム分が9.0%であるメチルアルミノキサンのトルエン溶液825部を入れ、続けてトルエン500部を加え触媒液を調製した。
次いで、窒素置換した攪拌機付きの耐圧ガラス反応器に、2−ノルボルネン2,360部、重合溶媒としてトルエン4,000部を仕込み、上記の触媒液を添加して重合を開始し、60℃で1時間反応させたところ、重合体が析出して重合溶液は固化した。固化した重合反応液を多量のメタノール中に入れ、細かく砕いて、濾別洗浄後、50℃で18時間減圧乾燥して重合体(E)2,300部を得た。得られた重合体(E)はトルエン、クロロホルム等に不溶であったため、分子量を測定できなかった。重合体(E)の特性の評価結果を表1に示す。
また、重合体(E)は、溶剤に溶解しないので、フィルムを作成することができなかった。
【0072】
(比較例2)
(ノルボルネン化合物付加重合体(F)の合成)
単量体量を2−ノルボルネン(NB;分子量=94)550部及び5−アセトキシ−2−ノルボルネン(NBOAc;分子量=152)900部に変更した以外は実施例1と同様にしてノルボルネン化合物の重合を行い、共重合体(F)360部を得た。得られた共重合体(F)は、トルエン、クロロホルムに可溶であった。共重合体(F)のMnは86,000、Mwは255,000、共重合体(F)中のNB単位/NBOAc単位組成比は、66/34(モル/モル)であった。共重合体(F)の特性の評価結果を表1に示す。
この共重合体(F)から、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0073】
(比較例3)
(ノルボルネン化合物付加重合体(G)の合成)
窒素置換した攪拌機付きの耐圧ガラス反応器に、2−ノルボルネン(NB;分子量=94)2,400部、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン(NBSET、分子量=256)1,280部、分子量調整剤としてスチレン521部及び重合溶媒としてトルエン8,600部を仕込み、実施例1で使用したと同様の触媒液を添加して重合を開始した。60℃で3時間反応させた後、重合反応液を多量のメタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、50℃で18時間減圧乾燥して共重合体(G)3,100部を得た。
得られた共重合体(G)はトルエン、クロロホルム等に可溶であった。共重合体(G)のMnは211,000、Mwは514,000、共重合体(G)中のNB単位/NBSET単位組成比は、85/15(モル/モル)であった。共重合体(G)の特性の評価結果を表1に示す。
この共重合体(G)から、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0074】
(比較例4)
(ノルボルネン化合物付加重合体(H)の合成)
スチレン量を200部とした以外は実施例1と同様にしてノルボルネン化合物の重合を行い、共重合体(H)1,900部を得た。
得られた共重合体(H)は、トルエン、クロロホルムに膨潤するが、完全に溶解しなかった。共重合体(H)の可溶部分のMnは433,000、Mwは1,210,000、共重合体(H)中のNB単位/NBOAc単位組成比は、91/9(モル/モル)であった。共重合体(H)の特性の評価結果を表1に示す。
また、重合体(H)は、溶剤に膨潤するのみで溶解しないので、フィルムを作成することができなかった。
【0075】
(比較例5)
(ノルボルネン化合物付加重合体(I)の合成)
スチレン量を1,200部とした以外は実施例1と同様にしてノルボルネン化合物の重合を行い、共重合体(I)1,080部を得た。
得られた共重合体(I)は、トルエン、クロロホルムに可溶であった。共重合体(I)のMnは48,000、Mwは121,000、共重合体(I)中のNB単位/NBOAc単位組成比は、94/6(モル/モル)であった。共重合体(I)の特性の評価結果を表1に示す。
この共重合体(I)から、実施例1と同様にして、膜厚100μmのフィルムを得た。
得られたフィルム片のガラス転移温度、吸水率及び線膨張率を測定した結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1の脚注
*1:2−ノルボルネン
*2:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレン
*3:5−アセトキシ−2−ノルボルネン
*4:9−メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン
*5:5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン
*6:5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン
*7:5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン
【0078】
表1の結果から、繰返し単位(a):炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の繰返しのみからなるポリノルボルネンからはフィルムを形成することができないことが分かる(比較例1)。
また、繰返し単位(a)の比率が本発明で規定する範囲よりも低いと、吸水率が高くなることが分かる(比較例2)。
また、繰返し単位(b)に代えて、炭素数2を超える官能基を有するノルボルネン化合物単量体の繰返し単位を有するノルボルネン化合物付加共重合体からは、吸水率が高く、線膨張率も高いフィルムしか得られないことが分かる(比較例3)。
更に、ノルボルネン化合物付加重合体の分子量が本発明で規定する範囲を上に外れるときは、フィルムを形成することができず(比較例4)、下に外れるときは、フィルム強度に劣る(比較例5)ことが分かる。
これに対して、本発明の要件を満足する、ノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルムは、ガラス転移温度が高く、吸水率が低く、線膨張率が低く、フィルム強度にも優れていることが分かる(実施例1〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記繰返し単位(a)及び繰返し単位(b)のみからなり、繰返し単位(a)と繰返し単位(b)とのモル比[(a)/(b)]が70/30〜98/2の範囲内にあり、重量平均分子量が300,000〜700,000であり、数平均分子量が80,000〜350,000であるノルボルネン化合物付加重合体からなるフィルム。
繰返し単位(a):炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の繰返し単位。
繰返し単位(b):炭素及び水素のみから構成されており全ての炭素が縮合環骨格の構成に関与しているノルボルネン化合物単量体の水素の一部を、炭素数が2以下の官能基のみで又は炭素数が2以下の官能基及び炭素数が2以下の炭化水素基のみで置換した構造を有するノルボルネン化合物単量体の繰り返し単位。
【請求項2】
ノルボルネン化合物付加重合体が、繰返し単位(a)として2−ノルボルネン単量体又はテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン単量体の繰返し単位を有するノルボルネン付加重合体である請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
線膨張率が70ppm/℃以下である請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
吸水率が0.1重量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
透明導電膜が積層されたものである請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
ガスバリア膜が積層されたものである請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
光学用フィルムである請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
表示素子用部材である請求項7に記載のフィルム。

【公開番号】特開2007−197623(P2007−197623A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20138(P2006−20138)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】