説明

ノルボルネン誘導体およびその製造方法

【課題】電子材料、光学材料等として良好な物性を有するノルボルネン系重合体を製造するための前駆体モノマーとして好適に用いられる新規なノルボルネン誘導体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されることを特徴とするノルボルネン誘導体;


(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖を表す.)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にノルボルネン系重合体はその脂環構造に起因して良好な光学特性のみならず、高耐熱性・低吸湿性を有することが知られている。また近年、側鎖に様々な官能基を導入する技術が検討され、所望の化学的特性を付与することが可能となり、半導体用途やディスプレイ用途などの電子・光学材料分野への展開が数多く検討されている。(例えば、特許文献1、2参照。)
【0003】
一方、電子・光学材料用途が拡大するにつれて、より高性能な電子・光学特性が要求され、ノルボルネン系重合体の更なる高機能化が必要とされている。このため、目的とする官能基をいかにしてノルボルネン系重合体骨格に導入させるかが重要な課題の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002―504577号公報
【特許文献2】特許第3952135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子材料、光学材料等として良好な物性を有するノルボルネン系重合体を製造するための前駆体モノマーとして好適に用いられる新規なノルボルネン誘導体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明[1]〜[4]により達成される。
[1]下記一般式(1)で表されることを特徴とするノルボルネン誘導体;
【化1】

(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖であって、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有していてもよい。また、Rは水素原子もしくは、酸・塩基を用いた加水分解反応により水素原子に置換可能な原子または基である。)
[2]上記一般式(1)において、Xが、
CR−CR
で表される上記[1]に記載のノルボルネン誘導体。
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子もしくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖の炭化水素基である。ただし、R〜Rがすべて水素原子である場合を除く。)
[3]上記一般式(1)において、Xが、
CH−CH(CH) 又は、
C(CH−CH
から選ばれるいずれかで表される上記[1]又は[2]に記載のノルボルネン誘導体。
[4]上記[1]ないし[3]のいずれかに記載のノルボルネン誘導体の製造方法であって、
ジシクロペンタジエンに下記一般式(2)で表される化合物を反応させることを特徴とする、ノルボルネン誘導体の製造方法。
CH=CH−X−COOR (2)
(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖であって、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有していてもよい。また、Rは水素原子もしくは、酸・塩基を用いた加水分解反応により水素原子に置換可能な原子または基である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のノルボルネン誘導体は、重合性官能基を有するため、従来の電子材料、光学材料等に新規な特性を容易に組み込むことができるものである。また、当該化合物の重合体は、電子材料、光学材料等として良好な物性を有するものと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得たノルボルネン誘導体のH−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例2で得たノルボルネン誘導体のH−NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0010】
まず、本発明のノルボルネン誘導体について説明する。
本発明のノルボルネン誘導体は、下記一般式(1)で表されるものである。
【化1】

(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖であって、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有していてもよい。また、Rは水素原子もしくは、酸・塩基を用いた加水分解反応により水素原子に置換可能な原子また
は基である。)
【0011】
一般式(1)で表される本発明のノルボルネン誘導体において、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖である。このような炭化水素鎖としては、例えばトリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、ジメチルエチレン基、スチレン基、ノニレン基、デシレン基などが挙げられる。これらの中でも、好ましくはメチルエチレン基、ジメチルエチレン基である。
【0012】
上記炭化水素鎖は、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有することができる。このような連結基としては、例えば、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、イミノ基(−NH−)などが挙げられる。
【0013】
また、上記ノルボルネン誘導体において、Rは水素原子もしくは、酸・塩基を用いた加水分解反応により水素原子に置換可能な原子または基である。
このような原子又は基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、
ヘキシル基、ベンジル基などが挙げられる。これらの中でも、好ましくはメチル基、エチル基、tert−ブチル基である。
【0014】
本発明のノルボルネン誘導体においては、一般式(1)におけるXが、
CR−CR
で表されるものを適用することができる。
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子もしくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖の炭化水素基である。ただし、R〜Rがすべて水素原子である場合を除く。)
上記R〜Rの炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖の炭化水素基としては例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
【0015】
また、本発明のノルボルネン誘導体においては、一般式(1)におけるXが、
CH−CH(CH) 又は、
C(CH−CH
から選ばれるいずれかで表されるものを適用することができる。
【0016】
次に、本発明のノルボルネン誘導体の製造方法(以下、単に「製造方法」ということがある)について説明する。
本発明の製造方法は、上記に説明した本発明のノルボルネン誘導体の製造方法であって、ジシクロペンタジエンに下記一般式(2)で表される化合物を反応させることを特徴とする。
CH=CH−X−COOR (2)
(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖であって、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有していてもよい。また、Rは水素原子もしくは酸・塩基を用いた加水分解反応により、水素原子に置換可能な原子または基である。)
【0017】
上記一般式(2)において、X及びRとしては、上記一般式(1)において説明したものと同じものを適用することができる。
【0018】
本発明の製造方法において、ジシクロペンタジエンと一般式(2)で表される化合物の反応は、ディールスアルダー反応であり、一般的なディールスアルダー反応の反応条件を
採用することができる。
具体的には、ジシクロペンタジエン1モルに対し、一般式(2)で表される化合物を、0.1〜10.0モル程度混合し、窒素雰囲気下で、反応温度を180〜260℃程度とすればよい。反応圧力は、特に限定されないが、通常、0.4〜20MPa程度とすることが反応を速やかに進行させることができるため好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常30分間〜24時間程度で反応は完結する。
得られた反応物を、例えば減圧蒸留などの公知の方法で精製することにより、本発明のノルボルネン誘導体が得られる。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
<R,R=CH、R,R=H、R=CHで表されるノルボルネン誘導体の合成>
温度計・圧力計・攪拌機を備えた耐圧反応容器に3,3−ジメチル−4−ペンテン酸メチル103.3g(0.726モル)、ジシクロペンタジエン16.0g(0.121モル)を仕込み、230℃まで加熱昇温し、4時間反応させ、反応粗生成物を得た。得られた粗生成物を減圧蒸留装置にて蒸留し、圧力0.79kPa、留出温度72−82℃の留分を採取することにより、無色液体5.12gを得た。収率は10.2重量%、GC純度(ガスクロマトグラフィー測定による純度)は74.2%であった。
【0021】
実施例1で得られた無色液体について、測定したH−NMRを図1に示す。
この結果から、得られた無色液体は目的とする3−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル)−3,3−ジメチルプロピオン酸メチルであることが確認された。
【0022】
実施例2
<R〜R=H、R=CH、R=CHCHで表されるノルボルネン誘導体の合成>
温度計・圧力計・攪拌機を備えた耐圧反応容器に2‐メチル−4−ペンテン酸エチル103.1g(0.726モル)、ジシクロペンタジエン16.0g(0.121モル)を仕込み、230℃まで加熱昇温し、2時間反応させ、反応粗生成物を得た。得られた粗生成物を減圧蒸留装置にて蒸留し、圧力0.79kPa、留出温度81−83℃の留分を採取することにより、無色液体36.30gを得た。収率は72.0重量%、GC純度(ガスクロマトグラフィー測定による純度)は91.7%であった。
【0023】
実施例2で得られた無色液体について、測定したH−NMRを図2に示す。
この結果から、得られた無色液体は目的とする3−(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル)−2−メチルプロピオン酸エチルであることが確認された。
【0024】
(1)収率の算出方法
以下の計算式にて収率を算出した。
収率(重量%)=100×(ノルボルネン誘導体の実収量;g)/(ノルボルネン誘導体の理論収量;g)=(ノルボルネン誘導体の実収量;g)/[(ノルボルネン誘導体の分
子量;g/mol)×(ジシクロペンタジエンの物質量;mol)×2]
(2)純度の測定方法
精製後のノルボルネン誘導体の10重量%アセトン溶液を試料としてガスクロマトグラフィーにて測定し、以下の計算式にて純度を算出した。
純度(%)=100×(ノルボルネン誘導体由来のピーク面積値)/(溶媒以外の検出ピ
ーク面積値の総和)
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のノルボルネン誘導体より合成される重合体は、耐熱性、透明性、低吸湿性等に優れた特性を有し、電子材料、光学材料等に利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするノルボルネン誘導体;
【化1】

(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖であって、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有していてもよい。また、Rは水素原子もしくは、酸・塩基を用いた加水分解反応により水素原子に置換可能な原子または基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、Xが、
CR−CR
で表される請求項1に記載のノルボルネン誘導体。
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子もしくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖の炭化水素基である。ただし、R〜Rがすべて水素原子である場合を除く。)
【請求項3】
前記一般式(1)において、Xが、
CH−CH(CH) 又は、
C(CH−CH
から選ばれるいずれかで表される請求項1又は2に記載のノルボルネン誘導体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のノルボルネン誘導体の製造方法であって、
ジシクロペンタジエンに下記一般式(2)で表される化合物を反応させることを特徴とする、ノルボルネン誘導体の製造方法。
CH=CH−X−COOR (2)
(式中、Xは炭素数3〜10の置換または非置換の炭化水素鎖であって、内部に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる原子を含む連結基を有していてもよい。また、Rは水素原子もしくは、酸・塩基を用いた加水分解反応により水素原子に置換可能な原子または基である。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−73974(P2011−73974A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223658(P2009−223658)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】