説明

ノロウイルスを不活化する性能を備えた繊維又は繊維製品及びその製造方法

【課題】本発明は、ノロウイルスを不活化する性能を備えた繊維又は繊維製品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のノロウイルスを不活化する性能を備えた繊維又は繊維製品は、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸と架橋剤とを付着させ、熱処理した後、ソーピングを行うことにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルスを不活化する性能を備えた繊維又は繊維製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物による食中毒の発生が増加しており、特にノロウイルスによる食中毒は2005年〜2006年にかけて集団発生が多数報告されている。2005年には大阪府下のホテルでノロウイルスによる集団食中毒が発生し、その際、空調機やカーペット等からノロウイルスが検出されている。ノロウイルスは一般の消毒剤では死活しないために、現状では85℃で1分間加熱するか、又は高濃度の次亜塩素酸ナトリウムで処理して死活させる必要がある。
【0003】
しかしながら、ノロウイルス感染者から排泄された嘔吐物や下痢便が飛び散った床、カーペット、寝具類等の装飾品を高濃度の次亜塩素酸ナトリウムで処理すると、装飾品の材質が劣化したり、漂白作用により色があせたりするのが避けられない。また、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムは刺激性が高く、これを直接手で触れることはできず、しかも処理を行う際に塩素ガスが発生する等、作業環境が悪くなり、作業者の健康に悪影響を与えかねない。
【0004】
更に、ノロウイルスに感染した人が排泄した下痢便等に含まれるノロウイルスは、下水処理施設を通して河川や海に流入する。しかしながら、通常の下水処理施設で行われる活性汚泥法ではノロウイルスは死活せず、海に流入したノロウイルスは、カキ等の二枚貝の中に取り込まれ濃縮され、新たな集団感染の原因になるとも言われている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、ポリヘキサメチレンビグナイト系化合物を不織布等の繊維集合体に含浸させて、繊維集合体にノロウイルスを不活化する性能を付与する技術が開示されている。
【0006】
上記のような現状において、特許文献1及び特許文献2の技術とは別に、ノロウイルスを不活化する性能を備えた新たな繊維又は繊維製品の開発が要望されている。
【特許文献1】特開2006−340949
【特許文献2】特開2007−45732
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ノロウイルスを不活化する性能を備えた繊維又は繊維製品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸と架橋剤とを付着させ、熱処理した後、ソーピングを行うことにより、所望の繊維又は繊維製品が得られることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
本発明は、下記項1〜6に示すセルロース系繊維又は繊維製品及びその製造方法を提供する。
項1.セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸と架橋剤とを付着させ、熱処理した後、ソーピングを行うことにより、ノロウイルスを不活化する性能を備えたセルロース系繊維又は繊維製品を製造する方法。
項2.タンニン酸が加水分解型ガロタンニン、加水分解型エラジタンニン及び縮合型タンニンから選ばれた少なくとも1種である、項1に記載の方法。
項3.タンニン酸の付着量がセルロース系繊維又は繊維製品に対して0.1〜20重量%である、項1に記載の方法。
項4.架橋剤がポリカルボン酸である、項1に記載の方法。
項5.架橋剤の付着量がセルロース系繊維又は繊維製品に対して0.1〜40重量%である、項1に記載の方法。
項6.項1〜5のいずれかに記載の方法で得られる、ノロウイルスを不活化する性能を備えたセルロース系繊維又は繊維製品。
【0010】
本発明のセルロース系繊維又は繊維製品には、優れたノロウイルスを不活化する性能が付与されている。
【0011】
本発明のセルロース系繊維又は繊維製品は、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸と架橋剤とを付着させ、熱処理した後、ソーピングを行うことにより製造される。
【0012】
本発明において、セルロース系繊維とは、セルロース質からなる繊維を含む繊維である。セルロース質からなる繊維とは、天然セルロース繊維(綿、カポック、亜麻、苧麻、大麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻等)、セルロース再生繊維(ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン等)、これらの混紡品のほか、これら繊維の一次加工品(例えば、糸、ニット、織物、編物、不織布等)をも含む意味であり、特に木綿の場合は、原綿そのもの、苛性マーセル化した木綿、液体アンモニアで処理した木綿等も含まれる。
【0013】
本発明においては、上記セルロース系繊維に、非セルロース系合成繊維を混紡、交撚、混編させることもできる。上記非セルロース系合成繊維としては、例えば、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリアミド、液晶ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、スパンデックス等の公知のものを広く例示でき、中でも、ポリエステル、ポリアミド、アクリル及びポリプロピレンが好ましく、ポリエステルが特に好ましい。
【0014】
上記セルロース系繊維に上記合成繊維を混紡する場合、混紡割合は特に限定されないが、ノロウイルスを不活化する性能と、混紡繊維及び繊維製品の特徴である繊維強度等の合成繊維の性能との兼ね合いから、通常、上記合成繊維が全繊維中に1〜80重量%、好ましくは20〜66重量%の割合で混紡するのがよい。
【0015】
また、セルロース系繊維を含む繊維製品としては、上記繊維を更に加工したもの、例えば、布団側生地、布団カバー、布団綿、布団(敷布団、掛け布団)、毛布、タオルケット、寝衣(パジャマ、ネグリジェ等)、シーツ、枕、枕カバー等の寝装品、タオル、ハンカチ、衣料、スリッパ、カーペット、マット、カーテン、椅子張り地、壁布、フロア外張り、インテリア製品等が挙げられ、中でも布団側生地、布団カバー、毛布、タオルケット、寝衣、シーツ、枕、枕カバー、タオル、カーテンから選ばれた1種が好ましく挙げられ、特に老人ホーム入居者用、介護施設入居者用、入院患者用等の繊維製品が好ましく挙げられる。
【0016】
本発明の方法では、先ずセルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸と架橋剤とを付着させる。
【0017】
本発明の方法で用いられるタンニン酸としては、公知のものを広く例示でき、例えば、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物は、水に溶解し易く、水溶液は酸性を示す。また、該化合物は、アルコール、アセトン、グリセリン等に良好な可溶性を示し、石油エーテル、無水エーテル、クロロホルム等に不溶性である。
【0018】
【化1】

【0019】
[式中、R1は、同一又は異なって、水素原子又は下記一般式(2)で表される官能基を示す。]
【0020】
【化2】

【0021】
[式中、Aは、同一又は異なって、水素原子又は下記一般式(3)で表される官能基を示す。]
【0022】
【化3】

【0023】
タンニン酸は、没食子、五倍子等の植物タンニンに由来し、一般にガロイル没食子酸と称されることもある。また、タンニンの加水分解で生じることから「タンニン酸」の用語はタンニン自体を指称することもある。没食子及び五倍子から得られるタンニン酸は、加水分解により没食子酸と微量のグルコースとを生じる。
【0024】
本発明において用いられるタンニン酸は、例えば、没食子、五倍子等を温湯で抽出して、抽出液を蒸発乾固して得たもの、また、これらを有機溶媒で抽出し、精製したもの等、公知の抽出方法によって得られるものであり、具体的には、加水分解型ガロタンニン、加水分解型エラジタンニン及び縮合型タンニンから選ばれた少なくとも1種が好ましく用いられる。本発明においては、例えば、商品名「タンニン酸AL」(富士化学工業株式会社製)等の市販のものを用いることができる。
【0025】
本発明の方法で用いられる架橋剤としては、下記に示す各種化合物を例示できる。
【0026】
i)エステル結合(−COO−)を介してタンニン酸とセルロース質系繊維又は繊維製品とを結合させることができる化合物
上記化合物として、分子中にカルボキシル基を2個以上、又は酸無水物基を1個以上有するポリカルボン酸が挙げられる。このようなポリカルボン酸としては、公知のものを広く使用でき、各種の脂肪族ポリカルボン酸、脂環族ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸等が例示できる。なお、これらのポリカルボン酸は、水酸基、ハロゲン基、カルボニル基、炭素−炭素二重結合を有していても差し支えない。
【0027】
例えば、分子中にカルボキシル基を2個有するポリカルボン酸としては、飽和脂肪族ジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
【0028】
具体的には、飽和脂肪族ジカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、プロピルマロン酸、ブチルマロン酸、ヘプチルマロン酸、ジプロピルマロン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、チオジプロピオン酸、チオマレイン酸等が例示できる。
【0029】
不飽和脂肪族ジカルボン酸として、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサジエン二酸(ムコン酸)、ドデカジエン二酸等が例示できる。
【0030】
芳香族ジカルボン酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ホモフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、メチルフタル酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドリンデンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、カルボキシメチル安息香酸、トリフルオロメチルフタル酸、アゾキシベンゼンジカルボン酸、ヒドラゾベンゼンジカルボン酸、スルホイソフタル酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、ピリジンジカルボン酸、ケリダム酸、ピラジンジカルボン酸等が例示できる。
【0031】
脂環式ジカルボン酸として、ヘット酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ピペリジン−2,3−ジカルボン酸(ヘキサヒドロキノリン酸)、ピペリジン−2,6−ジカルボン酸(ヘキサヒドロジピコリン酸)、ピペリジン−3,4−ジカルボン酸(ヘキサヒドロシンコメロン酸)等が例示できる。
【0032】
本発明においては、ポリカルボン酸として、分子中にカルボキシル基を少なくとも3個有するポリカルボン酸が好ましく使用される。
【0033】
例えば、分子中にカルボキシル基を少なくとも3個有するポリカルボン酸としては、脂肪族トリカルボン酸、脂肪族テトラカルボン酸、脂肪族ペンタカルボン酸、脂肪族ヘキサカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、カルボン酸ポリマー等が例示できる。
【0034】
具体的には、脂肪族トリカルボン酸として、トリカルバリル酸、アコニチン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、クエン酸、1,2,3−ブタントリカルボン酸等が例示できる。
【0035】
脂肪族テトラカルボン酸として、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸とマレイン酸のエン付加物、エチレンジアミン四酢酸、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジフタル酸、エポキシ化コハク酸二量化物等が例示できる。
【0036】
脂肪族ペンタカルボン酸として、ジエチレントリアミン五酢酸等が例示できる。
【0037】
脂肪族ヘキサカルボン酸として、トリエチレンテトラミン六酢酸等が例示できる。
【0038】
芳香族ポリカルボン酸として、トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等が例示できる。
【0039】
カルボン酸ポリマーとして、アクリル酸重合物、クロトン酸重合物、マレイン酸重合物、イタコン酸(又は無水イタコン酸)重合物、アクリル酸・メタアクリル酸共重合物、アクリル酸・(無水)マレイン酸共重合物、メタアクリル酸・(無水)マレイン酸共重合物、アクリル酸・イタコン酸共重合物、アクリル酸・3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸共重合物、(無水)マレイン酸・α−メチルスチレン共重合物、(無水)マレイン酸・スチレン共重合物(スチレンと無水マレイン酸よりディールス・アルダー反応とエン反応によって生じたテトラカルボン酸を含む)、(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル共重合物、アクリル酸・3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸・アクリル酸アルキル共重合物、メタアクリル酸・(無水)マレイン酸・メタアクリル酸アルキル共重合物、(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル・メタアクリル酸アルキル共重合物、(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物、アクリル酸・(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物、メタアクリル酸・(無水)マレイン酸・アクリル酸2−エチルヘキシル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル・スチレン共重合物等が例示できる。
【0040】
本発明においては、上記ポリカルボン酸はそれぞれ単独で、又は2種以上を混合して使用することができるが、作業性が良好であることから、上記ポリカルボン酸の中でも、トリカルバリル酸、アコニチン酸、クエン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の水溶性のポリカルボン酸が好ましく用いられ、特に効果が優れていることから、水溶性で四塩基酸の1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が好ましく用いられる。
【0041】
なお、架橋剤としてポリカルボン酸を用いる場合は触媒を用いることが好ましい。触媒としては、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、トリリン酸カリウム等の各種リン酸塩、又は炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の各種炭酸塩が好ましく用いられる。また、オルソリン酸、次亜リン酸、亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ピロ亜リン酸、又はそれらの中性塩又は酸性塩も用いることができる。
【0042】
ii)アセタール結合(−OCH2O−)によりタンニン酸とセルロース系繊維又は繊維製品とを結合させることができる化合物
上記化合物として、分子内にアルデヒド基を有するアルデヒド化合物等が挙げられる。このようなアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、ジアルデヒド(グリオキザール)等が例示できる。
【0043】
iii)エーテル結合(−O−)によりタンニン酸とセルロース系繊維又は繊維製品とを結合させることができる化合物
上記化合物として、N−メチロール化合物、分子内にエポキシ基(グリシジル基)やビニル基を有する化合物等が挙げられる。
【0044】
例えば、N−メチロール化合物としては、ジメチロール尿素及びそのメチル化物、ジメチロールエチレン尿素及びそのメチル化物、ジメチロールウロン及びそのメチル化物、ジメチロールトリアゾン及びそのメチル化物、ジメチロールプロピレン尿素及びそのメチル化物、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、メチル化ジメチロールジメトキシエチレン尿素、1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシエチレン尿素及びそのメチル化物、ジメチロール−4−メトキシ−5,5−ジメチルプロピレン尿素及びそのメチル化物、ジメチロールアルキルカーバメイト及びそのメチル化物、テトラメチロールグリオキザールモノウレイン及びそのメチル化物等が挙げられる。これらの中でも、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素が好ましい。市販品としては、商品名「スミテックスレジン」シリーズ(住友化学工業社製)、商品名「リケンレジン」シリーズ(三木理研社製)等が挙げられる。
【0045】
なお、架橋剤としてN−メチロール化合物を用いる場合には、触媒を用いることが好ましい。このような触媒としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム 、塩基性塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、ホウフッ化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、ホウフッ化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム等の各種金属塩類(結晶水含有物も含む)、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の強酸のアンモニウム塩類、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの塩酸塩等の各種アルカノールアミンの酸性塩及びこれらの混合物等が例示できる。
【0046】
分子内にエポキシ基(グリシジル基)を有する化合物としては、脂肪族エポキシ化合物、ジグリシジル化合物、トリグリシジル化合物、ポリグリシジル化合物、脂環式エポキシ化合物、異節環状型エポキシ化合物、活性ビニル化合物の他、ビスフェノールA−エピクロルヒドリン化合物、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル化合物及びそのエチレンオキシド付加物又はプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル化合物、水素化ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル化合物、水素化ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル化合物等が例示できる。
【0047】
上記脂肪族エポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化オレイルオレート等が例示できる。
【0048】
上記ジグリシジル化合物としては、下記一般式(4)で表されるジグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0049】
【化4】

【0050】
[式中、R2は−O−R3−O−又は−O(R4O)n−を示す。ここでR3は炭素数2〜12の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基を示す。R4は−CH2CH2−、−CH2−CH(CH3)−又は−(CH24−を示し、nは4〜50の整数を示す。]
一般式(4)で表されるジグリシジルエーテルの具体例としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(n=4〜50)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(n=4〜50)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ジグリシジルポリシロキサン等が挙げられる。
【0051】
トリグリシジル化合物としては、例えば、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0052】
ポリグリシジル化合物としては、例えば、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリシジルポリシロキサン等が挙げられる。
【0053】
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等が挙げられる。
【0054】
異節環状型エポキシ化合物としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0055】
本発明においては、上記一般式(4)で表されるジグリシジルエーテルの中でも、R3がエチレングリコール系、ポリエチレングリコール系及びグリセリン系であるものが好ましく用いられる。市販品としては、商品名「デナコールEX」シリーズ(ナガセ化成工業社製)等が挙げられる。
【0056】
活性ビニル化合物としては、分子内にジアクリロイル基を有する化合物、分子内にジメタクリロイル基を有する化合物、分子内にトリアリル基を有する化合物、分子内にテトラアリル基を有する化合物、分子内にペンタアリル基を有する化合物等が挙げられる。
【0057】
分子内にジアクリロイル基を有する化合物としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=3〜50)、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物ジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート等が例示できる。
【0058】
分子内にジメタクリロイル基を有する化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート(n=3〜50)、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物ジメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ヘキサヒドロフタル酸ジアリル、ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン、1,1’−ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸ジアリル、ジアリルクロレンデート、N,N−メチレンビスアクリルアミド等が例示できる。
【0059】
分子内にトリアリル基を有する化合物としては、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアクリレートとそのエチレンオキシド変性物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリアリルトリメリテート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリメタアリルイソシアヌレート等が例示できる。
【0060】
分子内にテトラアリル基を有する化合物としては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が例示できる。
【0061】
分子内にペンタアリル基を有する化合物としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が例示できる。
【0062】
活性ビニル化合物としては、分子内にジアクリロイル基を有する化合物や分子内にジメタクリロイル基を有する化合物が好ましく、特にポリエチレングリコールジアクリレート(n=3〜50)やポリエチレングリコールジメタクリレート(n=3〜50)が好ましい。
【0063】
iv)ウレタン結合(−NCOO−)によりタンニン酸とセルロース系繊維又は繊維製品とを結合させることができる化合物
上記化合物として、ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物等のほか、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
【0064】
ジイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が例示できる。
【0065】
トリイソシアネート化合物としては、トリフェニルメタントリイソシアネート等が例示できる。
【0066】
ポリイソシアネート化合物としては、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が例示できる。
【0067】
上記ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等は、活性イソシアネート基がブロック剤によりブロックされたものであってもよい。ブロック剤としては、例えば、オキシム(アセトオキシム、シクロヘキサノンオキシム)、ラクタム(ε−カプロラクタム)、ジエチルマロネート、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、重亜硫酸塩等が挙げられる。
【0068】
本発明においては、ジイソシアネート化合物が好ましく用いられ、特にヘキサメチレンジイソシアネートが好ましく用いられる。市販品としては、商品名「エラストロンシリーズ」(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0069】
本発明においては、上記架橋剤の中でもポリカルボン酸が好ましく用いられる。なお、上記架橋剤は1種単独で、あるいは2種以上混合して使用することもできる。
【0070】
次に、本発明のセルロース系繊維又は繊維製品にノロウイルスを不活化する性能を付与する方法について説明する。
【0071】
本発明においては、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸及び架橋剤を付着させ、熱処理を行い、次いでソーピングを行い、更に必要に応じて水洗を行う。
【0072】
セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸及び架橋剤を付着させる方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、コーティング法等の従来公知の方法を採用することができ、中でもセルロース系繊維又は繊維製品をタンニン酸及び架橋剤を含有する処理液中に浸漬する、いわゆる浸漬法が好ましく採用される。
【0073】
以下、浸漬法について詳細に説明する。
【0074】
処理液中のタンニン酸濃度及び架橋剤濃度は、処理液の絞り率と、必要とする各成分の付着量から算出した濃度に設定すればよい。例えば、タンニン酸の好ましい付着量は、セルロース系繊維又は繊維製品に対して0.1〜20重量%であり、より好ましくは1〜10重量%である。
【0075】
架橋剤の好ましい付着量は、セルロース系繊維又は繊維製品に対して0.1〜40質量%であり、より好ましくは1〜15重量%である。例えば、ポリカルボン酸を用いる場合は、セルロース系繊維又は繊維製品に対して、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0076】
本発明においては、通常、タンニン酸濃度0.1〜20重量%、架橋剤濃度0.1〜20重量%の処理液を用いることが好ましく、タンニン酸濃度1〜10重量%、架橋剤濃度1〜10重量%の処理液を用いることがより好ましい。
【0077】
本発明においては、上記所定濃度のタンニン酸、架橋剤及び必要に応じて触媒を含む一つの処理液を用いてもよく、各成分をそれぞれ別個に含む処理液を用いてもよい。
【0078】
上記処理液は、中和剤として適当なアルカリ又は塩を添加することにより、pH1〜6、好ましくはpH2〜5に調整されていることが好ましい。処理液のpHを上記範囲内に調整することにより、セルロース質からなる繊維を含む繊維又は繊維製品に効率よくノロウイルスを不活化する性能を付与することができる。
【0079】
上記中和剤としては、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等の各種ナトリウム塩が例示できる。また、上記ナトリウム塩に代わり、カリウム塩、アンモニウム塩、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の揮発性の低級アミンの塩も使用できる。これらの中和剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
上記中和剤の添加量は、使用するタンニン酸及び架橋剤の溶解量や種類によって適宜設定できるが、通常、処理液中の濃度として0.1〜10重量%であることが好ましい。
【0081】
上記処理液を構成する溶媒は有機溶媒を用いることもできるが、安全性やコスト等の点から水を用いることが好ましい。処理液の形態は、所定の効果が得られる限り特に限定されず、溶液の形態であってもよく、乳化液の形態であってもよいが、処理効率及び安全性の点から水溶液であることが好ましい。
【0082】
セルロース系繊維又は繊維製品に対する上記処理液の浸透速度は充分に速いので、浸漬時間や浴温度に特に制限はないが、通常、浸漬時間0.1〜300秒、浴温10〜40℃で行われる。また、絞りは加工する製品によって異なり、それぞれに適当な絞り方法、絞り率が採用できる。通常、絞り率は30〜200%で行うことが好ましい。
【0083】
浸漬、絞りを行った後、乾燥を行う。乾燥は40〜150℃で行い、時間は温度に応じて設定すればよい。
【0084】
本発明の方法では、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸及び架橋剤を付着させた後、熱処理を行う。
【0085】
熱処理の条件は、通常、100〜250℃、好ましくは120〜200℃で、処理時間は20秒〜1時間である。
【0086】
本発明の方法では、熱処理を行った後、ソーピングを行うことが必須である。ソーピング処理を行うことにより、セルロース系繊維又は繊維製品に格段に優れたノロウイルスを不活化する性能を付与することができる。
【0087】
ソーピング処理の条件は、特に限定されないが、例えば、アニオン又はノニオン界面活性剤を用い、温度条件は20℃ 〜60℃程度、pHは3〜10程度、好ましくは中性付近がよい。ソーピングの際に用いられる装置としては、例えば、オープンソーパー、ジェットウインス、バイブロワッシャー等の公知のソーピング装置が挙げられる。また、ソーピング処理は、ドラム型染色機、ウインス型染色機、液流染色機等を用いて行ってもよい。
【0088】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、モノもしくはジアルキルスルホコハク酸エステルジもしくはモノナトリウム、ポリオキシエチレンモノもしくはジアルキルスルホコハク酸エステルジもしくはモノナトリウム 、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸ザルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム等が挙げられる。
【0089】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールEO付加物、脂肪酸E O付加物、ポリプロピレングリコールEO付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタンモノラウレートEO付加物、ソルビタンモノオレートEO付加物、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル、ラウリン酸モノエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0090】
これらの界面活性剤は、1種単独で又は2種以上混合して使用される。
【0091】
セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸及び架橋剤を付着させる別の態様として、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸を付着させ、乾燥した後、気相ホルマリン加工処理することもできる(タンニン酸を付着させて乾燥した後、縫製等により繊維製品とし、最後に気相ホルマリン加工処理してもよい)。
【0092】
上記気相ホルマリン加工処理は、ホルマリンを吸着させるために適度な水分率に調節した後、セルロース系繊維又は繊維製品にホルムアルデヒドガスを吸着させ、熱処理してホルムアルデヒドを架橋せしめればよい。
【0093】
なお、気相ホルマリン加工処理においては触媒が必要であるが、気相処理の前に予めセルロース系繊維又は繊維製品に触媒溶液をパディングしておいてもよく、触媒溶液又は液化している触媒を気化又はミスト化してセルロース系繊維又は繊維製品に吸着させてもよく、セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸を付着させる際に、触媒を一緒に吸着させておいてもよい。
【0094】
上記触媒としては、塩化水素ガス、亜硫酸ガス等のガス、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸、グリコール酸、マレイン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、蓚酸等の有機酸等が例示できる。また、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、ホウフッ化亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、ホウフッ化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム等の各種金属塩類(結晶水含有物も含む)、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の強酸のアンモニウム塩類、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの塩酸塩等の各種アルカノールアミンの酸性塩及びこれらの混合物等のルイス酸も触媒として使用可能である。
【0095】
ホルムアルデヒドガスを吸着させた後、セルロース系繊維又は繊維製品を熱処理して架橋反応を行う際の条件は、100〜180℃で0.5〜10分間である。
【0096】
この場合も、熱処理後、ソーピング処理を行う。ソーピング処理の条件は、上記と同様である。
【0097】
このようにして、ノロウイルス不活化活性を備えたセルロース系繊維又は繊維製品を製造することができる。
【0098】
本発明のセルロース系繊維又は繊維製品の用途を、以下に示す。
・空調機用フィルター、掃除機用集塵フィルター、下水処理用フィルター、海産物養殖用フィルター;
・汚物処理用ティッシュ、手拭き用ウェットティッシュ、トイレットペーパー;
・カーペット、ラグ、寝具類(布団、シーツ、カバー、毛布、タオルケット、枕、、ベッドマット、パジャマ等)、座布団、座布団カバー、クッション、クッションカバー、ソファ、ぬいぐるみ、カーテン、暖簾、壁紙、トイレマット、便座カバー、風呂マット、台所マット、エプロン、タオル、ふきん、雑巾、紙オムツ、布オムツ、オムツカバー、肌着、パンツ、手袋、サポーター、マスク、白衣、手術着、三角巾、食品産業用ユニフォーム、学童用制服、布製カバン、麻袋、畳表、介護用衣類、一般衣類;
【発明の効果】
【0099】
本発明の方法で得られるセルロース系繊維又は繊維製品は、格段に優れたノロウイルスを不活化する性能を備えている。それ故、本発明のセルロース系繊維又は繊維製品を、カーペット、寝具類、タオル、空調機フィルター等に使用することによって、ノロウイルス感染患者からの感染拡大を抑制することができる。また、本発明のセルロース系繊維又は繊維製品は、食品産業用のユニフォーム、エプロン、ふきん、マスク、手袋等にも活用できる。
【0100】
また、下水処理後、河川や海に排水する前に、下水処理水を本発明のセルロース系繊維又は繊維製品を用いたフィルターを通すことにより、ノロウイルスを不活化でき、河川や海へのノロウイルスの流入を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0101】
以下に実施例及び比較例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。なお、下記において単に「%」とあるのは「重量%」を意味する。
【0102】
実施例1
目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行った。次いで、処理後の綿織物を、タンニン酸(タンニン酸AL)5重量%、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸3重量%及び次亜リン酸ナトリウム1.5重量%を含む水溶液に浸漬し、マングルで絞り(絞り率60%)、100℃で乾燥し、160℃で2分間熱処理を行った。更に、熱処理後の綿織物を、ノニオン界面活性剤(ソフタノール90、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、日本触媒製)0.05重量%を含む水溶液を使用して40℃で5分間ソーピングを行い、次に5分間水洗することにより、本発明の綿織物を得た。
【0103】
比較例1
目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行った。次いで、処理後の綿織物を、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸3重量%及び次亜リン酸ナトリウム1.5重量%を含む水溶液に浸漬し、マングルで絞り(絞り率60%)、100℃で乾燥し、160℃で2分間熱処理を行った。熱処理後の綿織物を、ノニオン界面活性剤(ソフタノール90、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、日本触媒製)0.05重量%を含む水溶液を使用して40℃で5分間ソーピングを行い、次に5分間水洗することにより、綿織物を得た。
【0104】
比較例2
目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行った。次いで、処理後の綿織物を、ノニオン界面活性剤(ソフタノール90、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、日本触媒製)0.05重量%を含む水溶液を使用して40℃で5分間ソーピングを行い、次に5分間水洗することにより、綿織物を得た。
【0105】
比較例3
目付150g/m2の綿織物を精練し、漂白し、シルケット処理を行った。次いで、処理後の綿織物を、タンニン酸(タンニン酸AL)5重量%、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸3重量%及び次亜リン酸ナトリウム1.5重量%を含む水溶液に浸漬し、マングルで絞り(絞り率60%)、100℃で乾燥し、160℃で2分間熱処理を行うことにより、綿織物を得た。
【0106】
試験例1(ノロウイルスに対する抗ウイルス効果)
ノロウイルスは人体の中でしか増殖できないので、実際のノロウイルスを用いて試験が出来ない。そのため、ノロウイルスの代替ウイルスであるネコカリシウイルスを用いて効果を調べた。なお、ノロウイルスはカリシウイルス科に属することから、ネコカリシウイルスが代替ウイルスとして使用されている。
【0107】
試験方法は、次の通りである。即ち、18mm角の試験布を3枚重ね、1.5mlのマイクロチューブに入れた。5%ウマ血清を含むウイルス液0.1mlをしみ込ませ室温で10分間感作させた。希釈液(イーグルMEM液)1mlを加え、ミキサーで強く攪拌した後、希釈液を吸い取り、ウイルスを回収し、ウイルス感染価(TCID50/50μl)を求めた。結果を下記表に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
上記実施例1で得られた綿織物を50回洗濯を繰り返し行った綿織物についても、上記と同様の抗ウイルス試験を行ったところ、実施例1で得られた綿織物と同様の優れた抗ウイルス効果を有していることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維又は繊維製品にタンニン酸と架橋剤とを付着させ、熱処理した後、ソーピングを行うことにより、ノロウイルスを不活化する性能を備えたセルロース系繊維又は繊維製品を製造する方法。
【請求項2】
タンニン酸が加水分解型ガロタンニン、加水分解型エラジタンニン及び縮合型タンニンから選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タンニン酸の付着量がセルロース系繊維又は繊維製品に対して0.1〜20重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
架橋剤がポリカルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
架橋剤の付着量がセルロース系繊維又は繊維製品に対して0.1〜40重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られる、ノロウイルスを不活化する性能を備えたセルロース系繊維又は繊維製品。

【公開番号】特開2009−174095(P2009−174095A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14956(P2008−14956)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】