説明

ノロウイルス感染を予防するための散布剤

【課題】
ノロウイルスの感染を予防する効果が高く、安全性に優れ且つ実用性の高いノロウイルス感染の予防剤の提供を課題とする。
【解決手段】
ヒノキチオールの金属錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のアルコール溶液を含むノロウイルス感染を予防するための散布剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルス感染を予防するための散布剤に関するものであり、詳細には、ヒノキチオールの金属錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のアルコール溶液を含むノロウイルス感染を予防するための散布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、ここ数年で患者数が急激に増加しているウイルスであり、近年では食中毒事件のうち、ノロウイルスによる食中毒患者数は最も多くなっている。
非特許文献1によると、ノロウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられている。
(1)患者のノロウイルスが大量に含まれる糞便や吐物から人の手等を介して二次感染した場合。
(2)家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合。
(3)食品取扱者が感染しており、その者を介して汚染した食品を、食べた場合。
(4)汚染されていた二枚貝を、生あるいは充分に加熱調理しないで食べた場合。
(5)ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合。
ノロウイルスは体に取り込まれてから1ないし2日で吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱といった症状がみられ、免疫力の弱い乳幼児や高齢者は重症化しやすいので注意が必要である。
【0003】
ホテルなどの共同施設においては、ノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例も知られており、時間が経っても、患者の吐物、糞便やそれらにより汚染された床には感染力のあるウイルスが残っている可能性があるといわれている。
床等に飛び散った患者の吐物や糞便を処理するときは、これらの中のウイルスが飛び散らない様に静かにふき取り、拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウムで浸すように床を拭き取り、その後水拭きするとされている。
【0004】
しかし、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐物や糞便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理することが重要である。
【0005】
他方、飲食店などにおいては、施設の厨房等多人数の食事の調理、配膳等をする部署へ感染者の使用した食器類や吐物が付着した食器類を下膳する場合、注意が必要である。可能であれば食器等は、厨房に戻す前に、食後すぐに次亜塩素酸ナトリウム液に充分浸し、消毒することが必要である。また、それらの洗浄処理をした場所等も、次亜塩素酸ナトリウムで消毒することを要する。
【0006】
さらに、ノロウイルスは感染力が強く、環境(ドアノブ、カーテン、リネン類、日用品等)からもウイルスが検出されることから、感染者が発生した場合、消毒が必要な場合次亜塩素酸ナトリウムを使用することが推奨されている。
【0007】
以上のように、ノロウイルスを除去する薬剤としては、現在のところ、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)溶液を用いた拭き取りによる消毒及びそれ以上の濃度での洗浄、漬浸等が推奨されている。しかしながら、患者の吐物及びその汚染物の処理に対して推奨されている塩素濃度約500ppmないし1000ppmの次亜塩素酸ナトリウムを用いると、消毒処理後のカーペットの色落ち、漂白が問題となる。また、次亜塩素
酸ナトリウム特有の臭気が残存したり、家具調度品の金属部分が腐食するという問題から、除菌処理後に充分な薬物の拭き取りを要する。さらに、次亜塩素酸ナトリウム溶液を調製する必要があるという点で、薬剤の取り扱いの簡便性に欠ける。
【0008】
特許文献1は、ノロウイルスの不活化効果を目的とする消毒液を開示している。しかしながら、特許文献1に係る製品は肌に優しく安全な繊維製品からなる消毒用製品であって、広範な公共施設の消毒用製品としての効果を開示していない。
【0009】
一方、幅広い抗菌性を有し、天然素材で安全性が高い物質としてヒノキチオールが知られている。しかし、ヒノキチオールは、水溶化が困難であり、紫外線に弱いという欠点を有しているため、溶解性が高いアルコールに混ぜて使用されるのが一般的であり、歯磨き、ヘアートニック等に使用されるに留まっている。
また、天然ヒノキチオールは食品添加物に指定されているにも拘らず、上記の理由等により、梅干のカビの予防程度にしか使用されていない。
【0010】
【非特許文献1】品川邦汎等、“ノロウイルスに関するQ&A“最終改定日平成19年12月20日厚生労働省、(平成20年3月24日検索)、インターネット<URL:http://www.mhlw.go.jp/topics/shokuchu/kanren/yobou/040204−1.html>
【特許文献1】特開2007−45732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ノロウイルスの感染を予防する効果が高く、安全性に優れ且つ実用性の高いノロウイルス感染の予防剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安全性に優れる天然素材であるヒノキチオールの金属錯体を含むアルコール溶液を、ノロウイルスの感染が想定される場所に散布することにより、効果的にノロウイルスの感染を予防し得ることを見い出し、本発明を完成させた。また、本発明の散布剤は経済性にも優れ、実用性の高い薬剤となり得る。
【0013】
即ち、本発明は、
(1)ヒノキチオールの金属錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のアルコール溶液を含むノロウイルス感染を予防するための散布剤、
(2)前記ヒノキチオールの金属錯体がヒノキチオール亜鉛錯体である(1)に記載の散布剤、
(3)前記ヒノキチオールの金属錯体において2種以上の金属が使用される(1)に記載の散布剤、
(4)前記金属が亜鉛、銅、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である(3)に記載の散布剤、
(5)アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含む(1)ないし(4)の何れか1項に記載の散布剤、
(6)グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む(1)ないし(5)の何れか1項に記載の散布剤、
(7)固化、凝固又はゲル化可能な高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤である、(1)ないし(6)の何れか1項に記載の散布剤、
(8)高分子化合物は発泡性物質の作用により形成された泡を固化、凝固又はゲル化させるものである(7)に記載の散布剤、
(9)ノロウイルス感染を予防する方法であって、(1)ないし(6)の何れか1つに記載の散布剤をノロウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法、
(10)散布方法が、空気中への噴霧である(9)に記載の方法、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のノロウイルス感染を予防するための散布剤は、少量のヒノキチオールの金属錯体の使用により、ノロウイルスに対し十分高い死滅効果又は抑制効果を示し、ノロウイルスの感染を有効に予防することができるため、安全性が高く、また、実用性の高い薬剤となり得る。
特に、本発明のヒノキチオールの金属錯体は、少量でも上記の抗ウイルス作用が高いため、使用するヒノキチオールの量を削減でき、また、散布方法を噴霧により行うことで更に使用量を削減することができる。この際、金属錯体に含まれる金属も微量となる為に環境だけでなく、例えば、オフィス、教室、保育園及び幼稚園などの乳幼児及び児童が集まる施設、トイレ、病院、電車、ホテル及び飲食店のような多人数が集まる施設、乗用車、家庭内等に直接噴霧することも問題とはならない。
更に、本発明のノロウイルス感染を予防するための散布剤は、人への安全な予防散布剤としての使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の、ノロウイルス感染を予防するための散布剤は、ヒノキチオールの金属錯体のアルコール含有率40ないし80%のアルコール溶液を含む。
【0016】
本発明に使用するヒノキチオールは、タイワンヒノキ、ヒバ、アスナロ等の原料植物に由来する精油から抽出された天然物でもよく、化学合成品でもよい。また、市販品のヒノキチオールをそのまま用いてもよい。原料植物としては、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記精油としてはヒバ油が好ましい。化学合成品も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0017】
ヒノキチオールの金属錯体としては、ヒノキチオールと、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、スズ、コバルト、チタン、バナジウム、ビスマスなどとの金属錯体が挙げられる。ヒノキチオールと金属との割合は、特に限定されるものではないが、通常、ヒノキチオール:金属のモル比が2:1のもの、あるいは3:1のものが好ましく用いられる。最も好ましくはヒノキチオール:金属のモル比が2:1である。以下にヒノキチオール亜鉛錯体の構造式を示す。
【化1】

【0018】
これらのヒノキチオールの金属錯体は、1種類だけ単独で含有されていてもよいし、2種類以上併用してもよく、2種以上の金属が使用されるのが好ましい。
【0019】
また、好ましくは、前記金属は銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である。
更に好ましくは、ヒノキチオール亜鉛錯体である。
【0020】
本発明の実施態様の1つとして、ヒノキチオール亜鉛錯体は以下の方法により製造できる。
ヒノキチオールのメチルアルコール溶液に当量の水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、40−50℃の水浴上で1.5時間反応させる(ヒノキチオールナトリウム塩の合成)。さらに、この反応液に0.5当量の塩化亜鉛のメチルアルコール溶液を1.6時間かけて滴下する(ヒノキチオール亜鉛錯体の合成)。5時間反応後、室温まで冷却し減圧濾過し、メチルアルコールで洗浄を繰り返す。洗浄後、減圧下で乾燥しヒノキチオール亜鉛錯体を得る。
【0021】
また、ヒノキチオールの金属錯体は、耐光性がヒノキチオールよりも優れているので、耐候性が要求される場合には、特に好ましく用いることができる。
更に、ヒノキチオールの金属錯体は、ヒノキチオールよりも低い濃度(例えば、1/10程度の濃度)で同等の効果を示すことから経済的な面からも好ましい。
【0022】
ヒノキチオールの金属錯体は、媒体1000gに対して、50μgないし100g、好ましくは、0.1gないし80g、より好ましくは、0.5ないし50gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、アルコール含有率40ないし80%となるアルコール(水溶液)である。
【0023】
水溶液に使用する水は、水道水でも脱イオン水や蒸留水等の精製水でも使用できるが、脱イオン水等の精製水を使用するのが好ましい。
アルコール溶液に使用するアルコールは、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。好ましいアルコールはエタノールである。
【0024】
本発明のノロウイルス感染を予防するための散布剤は、アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含むこともできる。
【0025】
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を厚搾抽出法で抽出し、熱を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバーロインを用いてもよい。アロエ抽出物には、アロインやバーバーロインの他、アロエ‐エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。
【0026】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。
【0027】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で、その時にしぼり出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広
く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β−アミリン・フリーデン)の他、リグニン残渣、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
【0028】
ドクダミは、日本、タイワン、中国、ヒマラヤ、ジャワに分布し、山野や庭などに見られる多年草である。ドクダミの抽出物は、熊笹と同様に、低温高圧圧搾抽出法という方法で抽出する。ドクダミ抽出物には、クエルシトリン(quercitrin)、アフゼニン(afzenin)、ハイぺリン(hyperin)、ルチン、クロロゲン酸、β−シトステロール、cisおよびtrans-N-(4-ヒドロキシスチリル)が含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
【0029】
前記抽出物としては、アロエ、緑茶、熊笹及びドクダミの抽出物から選択される1種類だけを用いてもよいが、2種類以上を併用することが好ましく、より好ましくは上記4種の抽出物を全て含む。
【0030】
前記抽出物を添加する際の配合量は、ヒノキチオールの金属錯体の1質量部に対して、1ないし4質量部使用するのが好ましく、より好ましくは、1.2ないし3.5質量部の範囲である。
また、添加する際の各抽出物の配合量は以下の通りである。
例えば、アロエの抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし10g、より好ましくは、0.5ないし2.5gの割合で添加される。
例えば、緑茶の抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし5g、より好ましくは、0.2ないし2gの割合で添加される。
例えば、熊笹の抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
例えば、ドクダミの抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、アルコール含有率40ないし80%となるアルコール(水溶液)である。
【0031】
本発明のノロウイルス感染を予防するための散布剤は、グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むこともできる。
【0032】
グリセリンとしては、グリセリンおよびグリセリンの各種誘導体が挙げられる。
界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル類、キラヤサポニン等が挙げられる。これらを含有することにより、ヒノキチオール濃度を10質量%にまで高めた水溶液とすることができる。
また、上記のような添加物を使用することなく高濃度のヒノキチオール金属錯体溶液とすることができる。
【0033】
前記水溶液又はアルコール溶液中には更に、柿の葉、松、杉、あま茶づる、シソ、ワサビ、アカネ、ウメ、ニンニク、ペパーミント、ヨモギ、サンショウ、ダイオウ、アザミ、ハッカ、ビワ、ムラサキ、ラベンダー、レモングラス、及びレンギョウの抽出成分、ハチミツより抽出されるプロポリス等を含有してもよい。これらは、ヒノキチオール金属錯体の殺菌力を損なうことなく、水に対するヒノキチオール金属錯体の溶解度を高めることができる。
【0034】
上記に加え、さらに必要に応じて、従来使用されている添加剤、例えば金属石鹸、動物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸等の薬効剤、色素、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤等を適宜配合することもできる。
【0035】
本発明のノロウイルス感染を予防するための散布剤の好ましい態様としては、以下が挙げられる。
0.01ないし5%のヒノキチオール亜鉛錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のエタノール溶液(水溶液)。より好ましくは0.02ないし5%のヒノキチオール亜鉛錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のエタノール溶液(水溶液)。最も好ましくは0.05ないし5%のヒノキチオール亜鉛錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオール銅錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールアルミニウム錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールビスマス錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のエタノール溶液(水溶液)。
【0036】
本発明はまた、ノロウイルス感染を予防する方法であって、前記散布剤をノロウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法に関する。
ノロウイルスの感染が想定される場所としては、ノロウイルスが多く存在しそうな場所であれば特に特定しないが、例えば、オフィス、教室、保育園及び幼稚園などの乳幼児及び児童が集まる施設、トイレ、病院、電車、ホテル及び飲食店のような多人数が集まる施設、乗用車、家庭内等が考えられる。
【0037】
また、散布方法としては、薬剤を均一に散布し得る方法であれば特に限定されないが、噴霧器による噴霧で、特に、マイクロミストができる噴霧器による噴霧する方法が挙げられる。
本発明の散布方法に使用される噴霧器としては、アルコール溶液を安全に噴霧し得る噴霧器であれば、特に限定されない。例えば、液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスの圧力を利用して噴霧する噴霧器が挙げられる。
【0038】
本発明の方法は、噴霧器を用い、ノロウイルスがいそうな空中や付着しそうな場所に本発明の散布剤を噴霧することにより、抗ウィルス効果を得ることができる。ヒノキチオールの金属錯体は分子量が小さいためにマイクロミスト液とともに長時間空中にただようことが解っており、これにより、ヒノキチオール金属錯体は超微粒子になって煙霧化し、散布空間内の全体に渡って隅々まで万遍に侵入でき、また散布状態も均一化し、長期に亘って抗ウイルス効果を示すことが期待でき、また、これにより、使用する薬量を削減することも可能となる。
特に、上記の噴霧器を使用した場合は、液化炭酸ガスの気化ガスを利用して噴霧するため、散布剤との化学反応を生じることがなく、薬液の性質変化のおそれがない。更に、特に薬液の容器とは別の液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスを利用して噴霧するものであるため、噴霧のためのガス容量が大きく、薬液容器を取換え補給することにより、長時間の継続的な噴霧が可能になり、噴霧能力が最後まで低下することもない。
【0039】
本発明のその他の好ましい実施態様として、本発明の薬剤は、高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込むことにより消毒するような製剤とすることが挙げられる。
さらに、本発明の薬剤は、高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充
填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込み、そして、対象箇所を包み込んだ泡がその後に固化、凝固又はゲル化することにより、対象箇所の汚物の除去作業を容易にするような消毒を行う製剤とすること挙げられる。
さらにまた、その他の本発明の好ましい散布方法としては、本発明の薬剤を、高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込むことにより消毒する方法が挙げられる。
さらにまた、その他の本発明の好ましい散布方法としては、本発明の薬剤を、高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込むことにより消毒し、そして、対象箇所を包み込んだ泡がその後に固化、凝固又はゲル化することにより、対象箇所の汚物の除去作業を容易にする消毒方法が挙げられる。
【0040】
高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込むことにより消毒するような本発明の製剤として、その組成は特に限定されるものではないが、界面活性剤、発泡調節剤等を含有させることが挙げられる。
高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込み、そして、対象箇所を包み込んだ泡がその後に固化、凝固又はゲル化することにより、対象箇所の汚物の除去作業を容易にするような消毒を行う本発明の製剤として、その組成は特に限定されるものではないが、界面活性剤、発泡調節剤や、発泡後に固化、凝固又はゲル化するための高分子化合物等を含有させることが挙げられる。
【0041】
高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤として容器に充填し、本発明の薬剤を含む消毒剤が噴射された対象箇所で発泡し泡でウイルスを包み込み、そして、対象箇所を包み込んだ泡がその後に固化、凝固又はゲル化することにより、対象箇所の汚物の除去作業を容易にするような消毒を行う本発明の製剤として、その組成は特に限定されるものではないが、界面活性剤、発泡調節剤や、発泡後に固化、凝固又はゲル化するための高分子化合物等を含有させることが挙げられる。
【0042】
また、本発明に用いる発泡後に固化、凝固又はゲル化するための高分子化合物は、製剤が発泡した後に固化、凝固又はゲル化するものであれば、特に限定されるものではないが、代表的なものとしてアクリル樹脂等が挙げられ、アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等のアルキルエステル及びこれらから成る重合体をベースとするアクリル系樹脂などが挙げられる。また、使用後の廃棄処理を容易にすることを考慮して非粘着性樹脂を用いるのが好ましい。
【0043】
また、エアゾール方式等の噴霧容器に充填する場合には噴射剤として汎用される液化ガスに溶解する樹脂を用いるのが好適である。
上記態様の本発明の製剤において、好ましい製剤の形態は、ガス式エアゾール方式、空気圧搾ポンプ式等が挙げられる。ガス式エアゾール方式、空気圧搾ポンプ等の容器については、特開平11−349932号公報、特開2007−261688号公報等多数の刊行物に於いて記載されており、この開示は、それらの全部及び全ての目的を、参照としてここに取り込まれる。
【0044】
上記のように噴射後に泡状となり、その後固化、凝固又はゲル化するような製剤の形をとる本発明の薬剤の使用は、ノロウイルス感染者の吐物に対して噴射し、その吐物を泡で包み込みことで、吐物の乾燥を防止してノロウイルスの空中への拡散を防ぎ、泡中で抗ウイルス効果を発揮させ、さらに後の除去作業を安全かつ容易にすることを可能とする。
【実施例】
【0045】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
【0046】
製造例1:ヒノキチオール亜鉛錯体の製造
ヒノキチオール(大阪有機化学工業製)32.8g (0.2mol)を溶解させたメチルアルコール150gに10%水酸化ナトリウム水溶液83.7gを約30分かけて滴下し、40−50℃の水浴上で1.5時間反応させた(ヒノキチオールナトリウム塩の合成)。さらに、この反応液に約12%塩化亜鉛(キシダ化学一級品)メチルアルコール溶液113.6gを1.6時間かけて滴下した(ヒノキチオール亜鉛錯体の合成)。5時間反応後、室温まで冷却しヌッチェで減圧濾過を行い、メチルアルコール30gで2回洗浄した。洗浄後、減圧下で6時間乾燥(50℃/0.133kPa)させ、淡黄色粉末状のヒノキチオール亜鉛錯体37.1gを得た。
【0047】
実施例1:ヒノキチオール亜鉛錯体のノロウイルスに対する抗ウイルス効果
1.検体
製造例1で得たヒノキチオール亜鉛錯体を消毒用エタノール溶液(76.9%〜81.4vol%)に溶解し、0.2%ヒノキチオール亜鉛錯体のpH2.61及びpH5.18の溶液を調製し、それぞれ被検溶液A及びBとした。
2.試験目的
上記で調製した検体の、ノロウイルス(ネコカリシウイルス(FCV)F−9株ATCC VR−782)に対する不活性化試験を行った。
3.試験概要
検体にネコカリシウイルス液を添加・混合して作用液とした。室温で60分間転倒混和を行い、作用後に作用液のウイルス感染価を測定した。尚、対照として消毒用エタノール溶液及びリン酸緩衝液(PBS)を用いた。
4.試験方法
1)試験ウイルス:ネコカリシウイルス(FCV)F−9株ATCC VR−782
2)使用細胞:CRFK細胞(ネコ腎由来株化細胞JCRB9035)
3)ウイルス液
ネコ腎由来株化細胞(CRFK)JCRB9035にネコカリシウイルス(FCV)F−9株ATCC VR−782を感染させ、充分に増殖が認められたところで遠心分離し上澄を得、これをウイルス液とした。
4)試験操作
上記ウイルス液10μLに190μLの薬剤を混和後、所定時間に一部をサンプリングして、その反応を停止した。
5)ウイルス感染価の測定
反応液中のウイルス力価を96穴マイクロプレートに培養したCRFK細胞の細胞変性効果から50%組織培養感染価(TCID50)として求め、その指数減少を評価した。
結果を表1に纏めた。
【0048】
【表1】

【0049】
上記の成績から、ヒノキチオールの亜鉛錯体を用いた場合、混和後時間まもなく50%組織培養感染価(TCID50)の指数減少値で表されるCRFK細胞の細胞変性効果が認められ、これにより、本発明の被験溶液Aはネコカリシウイルスに対する高い死滅効果又は抑制効果が得られることが確認された。これにより、ノロウイルスについても死滅効果又は抑制効果が得られることが予測される。
【0050】
実施例2:散布剤の噴霧試験
噴霧器を用いて噴霧した際のヒノキチオール(金属錯体)の散布・残存状態を評価するために、以下の試験を行った。
製造例にて合成したヒノキチオール亜鉛錯体の1%溶液を、液化炭酸ガスボンベの圧力を利用して噴霧する噴霧器(シャットノクサス(登録商標)、新耕産業(株)社製)を用いて部屋内に噴霧し、部屋内で無作為に選ばれた4箇所における噴霧前と噴霧後の採菌による一般生菌、黄色ブドウ球菌及び真菌の菌数の減少度合いを、ヒノキチオール金属錯体の散布・残存状態の評価とした。噴霧は、おおよそ10m3当りに、1%ヒノキチオール
亜鉛錯体溶液40mLを部屋内にまんべんなく噴霧し、20分後に採菌した。
結果を表2に纏めた。
【0051】
【表2】

【0052】
表2から、液化炭酸ガスボンベの圧力を利用する噴霧器による噴霧により、何れの採菌箇所においても細菌の繁殖が抑えられており、このことより、ヒノキチオール亜鉛錯体が部屋内において、まんべんなく散布・残存していることが判った。
上記の噴霧試験結果は、実施例1において実証されたノロウイルスに対する抗ウイルス効果が、噴霧により部屋内でもまんべんなく発揮されるであろうことを明確に示すもので
ある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、本発明の実施形態の1つである泡を吐出するためのノズルを示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態の1つであるエアゾール容器の静止状態を示す概略断面図である。
【図3】図3は、図2のエアゾール容器の作動状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1:容器本体
2:装着キャップ
10:泡吐出ポンプ
11:シリンダ部材
13:空気用シリンダ
14:液用シリンダ
20:作動部材
21:ピストンガイド
22:コイルスプリング
23:ステム
24:ノズルヘッド
25:液用ピストン
26:ポペット
27:空気用ピストン
31:混合室
33:弁座
34:弁体
36:ジェットリング
37a,37b:メッシュリング
41:ノズル
42:ステム
43:スプリング
44:ステムラバー
45:マウンティングキャップ
46:容器本体
47:ガスケット
48:ガイドブッシュ
49:タンク
50:ハウジング
51:ディップチューブ
52:ホール
53:定量室
54:形状安定部材
15:ステム孔
56:連通ホール
57:噴射孔
58:形状安定部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオールの金属錯体を含むアルコール含有率40ないし80%のアルコール溶液を含むノロウイルス感染を予防するための散布剤。
【請求項2】
前記ヒノキチオールの金属錯体がヒノキチオール亜鉛錯体である請求項1に記載の散布剤。
【請求項3】
前記ヒノキチオールの金属錯体において2種以上の金属が使用される請求項1に記載の散布剤。
【請求項4】
前記金属が亜鉛、銅、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である請求項3記載の散布剤。
【請求項5】
アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含む請求項1ないし4の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項6】
グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1ないし5の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項7】
固化、凝固又はゲル化可能な高分子化合物及び発泡性物質を含有する製剤である、請求項1ないし6の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項8】
高分子化合物は発泡性物質の作用により形成された泡を固化、凝固又はゲル化させるものである請求項7に記載の散布剤。
【請求項9】
ノロウイルス感染を予防する方法であって、請求項1ないし6の何れか1つに記載の散布剤をノロウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法。
【請求項10】
散布方法が、空気中への噴霧である請求項9記載の方法。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−274971(P2009−274971A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125864(P2008−125864)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(393028036)丸石製薬株式会社 (20)
【出願人】(501382063)株式会社ジェイシーエス (14)
【Fターム(参考)】