説明

ノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルスの検出方法

【課題】ノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルスの検出方法の提供。
【解決手段】シリカゲルを含むノロウイルス検出用材料を得て、試料に含まれる夾雑物を該材料に吸着させることによるノロウイルスの検出方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルスの検出方法に関する。更に詳しくは、カキなどの食品、河川水、下水処理水、海水などの環境水中に含まれるノロウイルスを検出するためのノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルスの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、非細菌性急性胃腸炎を引き起こすウイルスの一種であり、カキなどの貝類による食中毒の原因になることや、ノロウイルスに感染したヒトの糞便や嘔吐物、またはこれらが乾燥したものからの塵埃を介して経口感染することが知られている。これらの危険を避けるために、カキなどの食品や、河川水、下水処理水、海水などの環境水等に、ノロウイルスがどれだけ含まれているかを調べることが重要である。
【0003】
ノロウイルスの検出にあたり、検出に用いる試料を超遠心やポリエチレングリコール法などによって濃縮し、ノロウイルス粒子と阻害物質を分ける技法が多用されている。しかし、複雑な混成物からなる試料中から、ノロウイルスを効率的に取り出すことは困難である。この方法を用いたノロウイルスの検出には、試料に含まれるノロウイルスの遺伝子をPCR等によって増幅することで行われるのがほとんどであるが(非特許文献1、2)、ノロウイルスの遺伝子増幅時にこれらの夾雑物がPCR反応を阻害し、ノロウイルスの検出を妨げる要因となっている。
【0004】
そこで、未精製の試料中より、夾雑物の影響を受けずにノロウイルスを検出する方法として、抗原抗体反応を利用したELISA法が開発されている。しかし、この方法によるノロウイルスの検出感度は1gあたり10の7乗以上のウイルス密度が必要であり、1gあたり10の1〜2乗程度の汚染レベルを監視する必要がある食品、あるいは1mL中に10の1乗以下の汚染レベルが問題となる海水試料等には適用できないという問題があった。
【0005】
本発明者らはこのような問題を解決するために、シリカゲルを含むノロウイルス検出用材料を本発明において開発した。シリカゲルは、その吸着性能を利用して乾燥剤や、吸着剤として様々な分野に利用されており、近年では、吸着の対象物質に応じて、適したシリカゲルが開発されている。
【0006】
例えば、魚の飼育のために、細孔径範囲2〜100Å(0.2〜10nm)のシリカゲルと細孔径範囲50〜500Å(5〜50nm)のシリカゲルとを混合して、アンモニア・硝酸化合物・硫黄化合物を吸着する魚飼育濾過剤が開発されている(例えば、特許文献1)。また、触媒、触媒担体、クロマトグラフ分離吸着剤等に使用するために、細孔容積が0.8〜1.8ml/gであり、比表面積が20〜500m2/gであり、さらに平均細孔径が80〜1000Å(8〜100nm)の耐熱性や耐水性、強度等の物理的性質の優れたシリカゲルの製法なども開発されている(例えば、特許文献2)。しかし、ノロウイルスの検出感度を高めるために適切なシリカゲルや、そのシリカゲルを用いるノロウイルス検出用材料の開発はされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−228635号公報
【特許文献2】特公平7−64543号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松山幸彦 海水中ノロウイルスのLAMP法による直接検出 平成20年度日本水産学会春季大会 2008 3 28発表平成20年度日本水産学会春季大会講演要旨集, p.202−202, 2008 3
【非特許文献2】松山幸彦 マガキ漁場付近の海水中ノロウイルスの鉛直出現特性 平成20年度 日本水産学会中国・四国支部大会 2008 11 23発表 平成20年度日本水産学会中国・四国支部大会講演要旨集, p.26−26, 2008 11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルスの検出方法の提供を課題とする。更に詳しくは、カキなどの食品、河川水、下水処理水、海水などの環境水中に含まれるノロウイルスを検出するためのノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルスの検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ノロウイルスの検出にあたり、シリカゲルを含むノロウイルス検出用材料で、試料に含まれる夾雑物を該材料に吸着させることにより、ノロウイルスの検出率を5倍以上に高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明のノロウイルス検出用材料は、カキなどの食品や、河川水、下水処理水、海水などの環境水等を試料としたノロウイルスの検出においても有効に利用することができる。
【0011】
即ち、本発明は次の(1)〜(5)のノロウイルス検出用材料または該材料を用いるノロウイルスの検出方法に関する。
(1)細孔容積が0.2〜2.5ml/g、比表面積が20〜900m2/g、平均細孔径が1〜1000nmであるシリカゲルを含むノロウイルス検出用材料。
(2)細孔容積が1.0〜1.8ml/g、比表面積が100〜700m2/g、平均細孔径が5〜50nmであるシリカゲルを含むノロウイルス検出用材料。
(3)上記(1)または(2)に記載のノロウイルス検出用材料を用いるノロウイルス検出方法。
(4)試料に含まれる夾雑物を上記(1)または(2)に記載のノロウイルス検出材料に吸着させ、ノロウイルス検出のための前処理を行う上記(3)に記載のノロウイルス検出方法。
(5)上記(4)に記載の前処理を行った後の試料を用い、該試料に含まれるノロウイルスのRNAを鋳型として、PCR法によって増幅させることによる上記(3)に記載のノロウイルス検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のノロウイルス検出用材料を使用して、食品や環境水などの試料中の夾雑物を該材料に吸着させることにより、PCRの増幅効率を向上することができる。これによって調製された試料を検出に用いることにより、食品や環境水などの試料中に低濃度にしか含まれていないノロウイルスについても感度良く検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】破砕状シリカゲルの製造方法の一例を示した図である。
【図2】球状シリカゲルの製造方法の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の「ノロウイルス検出用材料」とは、試料に含まれるノロウイルスを検出するために、試料に含まれる夾雑物を吸着させるための材料のことをいう。本発明の「ノロウイルス検出用材料」は、細孔容積が0.2〜2.5ml/g、比表面積が20〜900m2/g、平均細孔径が1〜1000nmであるシリカゲルを含むものであればいずれのものであってもよく、さらに、細孔容積が1.0〜1.8ml/g、比表面積が100〜700m2/g、平均細孔径が5〜50nmであるシリカゲルを含むものであることが好ましい。
【0015】
本発明の「ノロウイルス検出用材料」に含まれるシリカゲルは、ノロウイルス検出において、試料に含まれる夾雑物を吸着させ、この試料を用いて試料中のノロウイルスを検出できるシリカゲルであればどのような形状のものであってもよく、例えば、破砕状シリカゲル、球状シリカゲルなどが挙げられる。
【0016】
このようなシリカゲルは、市販のものを用いることもでき、また、従来知られているシリカゲルの製造方法によって独自に製造したものを用いることもできる。例えば、湿式法のゲル化法により製造された球状、または破砕状のシリカゲルであって、原料としてアルカリ金属ケイ酸塩と、鉱酸との中和反応により合成されるシリカゲルや、アルカリ金属ケイ酸塩と、鉱酸との中和反応によれば湿式法の沈降法により得られるシリカゲルのほかにケイ酸アルキルエステルを加水分解してゲル化させる方法によって得られるシリカゲル等が挙げられる。
【0017】
このうち、破砕状シリカゲルの製造方法としては、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液と無機酸を混合して攪拌し、中和反応によりシリカゾルを生成する。続いてシリカゾルをゲル化し、シリカヒドロゲルを得た後、水洗して可溶性塩を除去する。これを一般的な箱型乾燥機のほか流動層乾燥機、噴霧乾燥器、気流乾燥機、減圧乾燥器等を使用することにより乾燥し、シリカキセロゲルとした後、機械式粉砕装置、気流式粉砕装置等乾式粉砕機の他、湿式粉砕機などを使用して粉砕することにより粒度調整を行なう、等の方法が挙げられる。破砕状シリカゲルの製造方法の一例を図1に示した。
【0018】
また、球状シリカゲルは、上記と同様にシリカヒドロゾルを製造し、続いて例えば次のような方法によって製造することができる。
(1)予めpHの調整されているシリカゾルを、これとは非親和性の油のような媒体中に懸濁させ、懸濁中にゲル化させる方法。
(2)シリカゾルを噴霧してシリカヒドロゲルとする方法、すなわちシリカゾルを空気中に一定の流速で飛散させて液滴化した後、ゲル化させる方法。
(1)または(2)によって得られた球状シリカヒドロゲルに含まれている可溶性塩は水洗によって除去し、これを箱型乾燥装置、回転乾燥装置等により乾燥する。
シリカヒドロゲルの球状化は前記の他、シリカヒドロゲルを湿式粉砕処理した後、シリカヒドロゲルと水のスラリーを噴霧乾燥することにより得られる。またシリカキセロゲルを粉砕した微粉末シリカゲルを水に分散したスラリーを噴霧乾燥してもよい。スラリーはバインダーを使用してもよいし、pHを調整し噴霧しやすい粘度に調製してもよい。さらに造粒装置等により球状化することも出来る。球状シリカゲルの製造方法の一例を図2に示した。
【0019】
これらのシリカゲルの製造方法において、使用する原料は、アルカリ金属ケイ酸塩としてはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸アンモニウム等が挙げられ、鉱酸としては硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられるが、工業的にはケイ酸ナトリウムと硫酸が好ましいがいずれを用いてもよい。
【0020】
本発明の「ノロウイルス検出用材料」は、これらのシリカゲルそのものを「ノロウイルス検出用材料」とすることもでき、シリカゲルに加えて、さらに、ケイソウ土、パーライト等のろ過助剤等を含むものであっても良い。
本発明の「ノロウイルス検出用材料」は、そのまま、またはカラム等に詰めた形状で、ノロウイルスの検出方法に用いることができる。本発明の「ノロウイルス検出用材料」を含むカートリッジカラム、シリンジフィルター、フィルターチップまたはディスク等は、例えば「ノロウイルス検出器材」として用いることができる。
なお、本発明の「ノロウイルス検出用材料」は、ノロウイルス以外のアデノウイルスやポリオウイルス等のウイルスにおいても、試料に含まれる夾雑物を吸着させることで、試料中のウイルスの検出感度の向上のために用いることができる。
【0021】
本発明の「ノロウイルス検出用材料」を用いる試料としては、ノロウイルスの存在が予測される物質であればいずれのものでもよいが、例えばカキなどの食品や、河川水、下水処理水、海水などの環境水等が挙げられる。
これらの試料に含まれる夾雑物としては、試料に含まれるノロウイルスの検出感度を下げる物質であればいずれの物質も該当するが、例えば、粘液や腐植酸などの多糖類、タンパク質、色素、グリコーゲン等が挙げられる。
タンパク質については、従来、蛋白分解酵素(プロナーゼなど)や、SDSやtween 20などのタンパク質変成剤などで、試料から除く方法が行われているが、カキや環境水に適応しても良好な検出率を得られておらず、本発明の「ノロウイルス検出用材料」の方が高い効率でタンパク質を除くことができ好ましい。
【0022】
本発明の「ノロウイルス検出方法」は、本発明の「ノロウイルス検出用材料」を用いてノロウイルスを検出する方法であればいずれの方法も該当する。本発明の「ノロウイルス検出用材料」を用いて試料に含まれる夾雑物を吸着させ、ノロウイルス検出のための前処理を行い、この前処理後の試料を用いて試料中のノロウイルスのRNAを鋳型として、PCR法によって増幅させることにより、ノロウイルスを検出する方法であることが好ましい。
本発明において行うPCR法は、RT−PCR法、リアルタイムPCR法等のいずれの方法であってもよく、LoopampノロウイルスGI検出試薬キットやLoopamp
ノロウイルスGII検出試薬キット等の市販のキットを用いて行ってもよい。
本発明の「ノロウイルス検出方法」においてはさらに、増幅されたノロウイルスのRNAを用いて、ノロウイルスを特定する対象配列を検出することも含むことができる。ノロウイルスを特定する対象配列としては、公開されているノロウイルスの配列情報(例えば、参考文献参照)に基づいて設計されたプライマーなどが挙げられる。
参考文献:Kageyama et al. (2003) J. Clin. Microbiol. 41: 1548−1557
【0023】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
ノロウイルス検出用材料
1.シリカゲルの調製
ケイ酸ソーダ(SiO2:20重量%)に硫酸(12N)を混合機中で反応させ、過剰酸濃度1Nのシリカヒドロゾルを調製した。これを室温にて放置しゲル化させた。得られたシリカヒドロゲルをpH7.5、水温40℃で水洗し、硫酸ナトリウムを除去した後、pH2−8、温度20−100℃の水中で水熱処理した。このシリカヒドロゲルを80−100℃で3時間、箱型乾燥装置(田葉井製作所製 SAFETY OVEN SHPS−212)で乾燥してシリカゲルとしたのち、粉砕機(ホソカワミクロン(株)製マイクロACMパルベライザー)により粒度調整を行い、破砕状シリカゲルとして微粒子シリカゲルAまたは微粒子シリカゲルBを得た。
【0025】
比較として、ケイ酸ソーダ(SiO2濃度20重量%)と無機酸とを混合容器内に連続的に送り込み容器内で反応して生成したシリカゾルを、これとは非親和性の油のような媒体中に懸濁させ、懸濁中にゲル化させた生成した球状のシリカヒドロゲルを水洗し、可溶性塩を除去した後、80−100℃で3時間、箱型乾燥装置で乾燥して、球状シリカゲルとして微粒子シリカゲルCを得た。
【0026】
物性の測定
本発明における各物性は下記により求めた。
比表面積は簡便窒素吸着法(柴田科学器工業(株)製迅速表面積測定装置SA−1000)により測定した。細孔容積は窒素吸着法により求めた。
平均細孔径(nm)は次式により求めた。
平均細孔径=4,000×細孔容積/比表面積
【0027】
2.シリカゲルの物性値
上記にて調製した微粒子シリカゲルA〜Cのそれぞれの物性を表1に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
3.ノロウイルス検出用材料の作製
上記1.で製造した微粒子シリカゲルAまたはBをそのまま本発明のノロウイルス検出用材料とした。
【実施例2】
【0030】
ノロウイルスの検出方法
実施例1で作製したノロウイルス検出用材料を用いて試料に含まれるノロウイルスを検出した。
【0031】
1.試料の調製
1)海水試料
中国または九州各地の河口付近で採取した海水(採取:2008年1月〜2009年2月)を、それぞれ0.45ないしは0.7ミクロンのフィルターでろ過し、200〜2000mL用いて、加圧(0.1kg/cm2)しながら限外ろ過膜(分画分子量100,000)で限外ろ過した。これにより、海水中に含まれるウイルス画分が濃縮された海水試料1〜7をそれぞれ5〜18mLを得た。
このように調製した海水試料を、調製当日にノロウイルスの検出に用いないで保存する場合には、採取した段階の海水にクロロホルムを適宜添加することで、数週間以上冷蔵保存が可能であり、ノロウイルスの検出に用いることができる。
なお、限外ろ過は、ノロウイルスの限外ろ過膜への非特異的吸着を防止するために、0.05%の牛血清アルブミンに1分間浸して膜面をブロッキングしてから用いた。また、ノロウイルスは安定なウイルスなので、室温で濃縮を行った。
【0032】
ノロウイルスの検出にあたり、上記で調製した海水試料1〜7について、ノロウイルス検出用材料として微粒子シリカゲルA、比較として微粒子シリカゲルCまたはケイソウ土(商品名ケイソウ土、荷電型,046−28181(和光純薬興行株式会社))を試水の量に応じてそれぞれ0.01−0.02gの範囲で添加して1分間攪拌して混合した。これを0.2μmのシリンジフィルターでろ過して、微粒子シリカゲルA、微粒子シリカゲルCまたはケイソウ土を除去した。
このろ過液および未処理の海水試料(コントロール)を、それぞれ分画分子量200,000の簡易型限外ろ過器(アドバンテック社製、USY−20)に供してすべて通水し、ノロウイルスを膜上に捕捉した。
【0033】
2)マガキ中腸腺試料
全10個体の生鮮養殖マガキの中腸腺を摘出し、8倍容のリン酸緩衝液(pH 7.4)を加えてブレンダーで攪拌して乳剤とした。この乳剤を12,000 rpmで5分間遠心分離し、上清を0.45μmのフィルターでろ過してウイルス画分を含むマガキ中腸腺試料を得た。
このように調製したマガキ中腸腺試料は、海水試料と同様に、乳剤とした段階でクロロホルムを適宜添加することにより、数週間以上冷蔵保存が可能であり、ノロウイルスの検出に用いることができる。
【0034】
ノロウイルスの検出にあたり、上記で調製したウイルス画分1.0mLに、ノロウイルス検出用材料として微粒子シリカゲルBまたは比較として微粒子シリカゲルCを0.2g添加して1分間攪拌して混合した後、12,000rpmで1分間遠心分離して上清を得た。この上清560μLまたは未処理のマガキ中腸腺試料(コントロール)を分画分子量20万の限外ろ過器(USY−20)に供して残液量をゼロとし、フィルター上にウイルス画分を捕捉させた。
【0035】
2.ノロウイルスの検出
上記1)および2)において膜上に捕捉された各ウイルス画分からウイルス由来のRNAを抽出した。
即ち、0.14 mLのDPEC処理水を添加して膜上に補足されたウイルスを懸濁したのち、RNA抽出キット(QIamp Viral RNA Mini Kit;キアゲン社製)を用いてウイルスの遺伝子を抽出した。抽出されたRNA溶液の最終容量は0.05mLであり、海水試料1〜7における濃縮係数はそれぞれ4,000−10,000倍であり、マガキ中腸腺試料における濃縮係数は32倍であった。
【0036】
RNA溶液のうち、0.0025〜0.004 mLを用い、RT−LAMP法によるノロウイルス検出キットを用いてノロウイルスの検出を行った。ノロウイルスの検出には、Genotype I型(以下、GIと示す)のノロウイルスを検出するLoopampノロウイルスGI検出試薬キットおよびLoopampノロウイルスGII検出試薬キッ
ト(以下、GIIと示す)(いずれも栄研化学株式会社)を用い、常法に従って反応試薬を混合し、反応温度は63℃で、70分間測定を行い、0.1秒間隔で吸光度のデータを記録した。テラメックス社製のリアルタイム濁度計(LA−200)で検出を行った。この検出方法では、試料中にノロウイルスが存在すると、明瞭な濁度の上昇が認められる。
なお、海水試料5〜7より得たRNA溶液は、1倍(1/1)、5倍(1/5)または10倍(1/10)となるように希釈したものを用いて同様に検出を行った。
【0037】
3.結果
本発明のノロウイルス検出用材料を用い、検出されたノロウイルスGIおよびGIIについて、ノロウイルスの検出時間および検出されたノロウイルスのRNA量を調べた(表2〜5)。
その結果、表2、3および5に示すように、海水試料およびカキ中腸試料において、本発明のノロウイルス検出用材料(微粒子シリカゲルA)を用いて処理することにより、未処理のもの(コントロール)や比較として用いた微粒子シリカゲルCまたはケイソウ土で処理したものと比べて、短い時間でノロウイルスが検出でき、検出できるノロウイルスのRNA量も多いことが確認できた。
また、表4に示すように、海水試料を希釈した場合においても、本発明のノロウイルス検出用材料(微粒子シリカゲルA)で処理したものは、5倍希釈した試料を用いた場合でもノロウイルスが検出できた。比較としてケイソウ土で処理したものは、5倍希釈ではノロウイルスがほとんど検出できておらず、検出時間も長いことから、本発明のノロウイルス検出用材料(微粒子シリカゲルA)を用いて処理することにより、未処理のもの(コントロール)や比較として用いたケイソウ土で処理したものと比べて、5倍以上検出感度が高められることが確認できた。
これらの結果より、本発明のノロウイルス検出材料を用いることにより、試料に含まれる夾雑物を高い吸着率で吸着させ、取り除くことにより、ノロウイルスの検出感度が高められることが確認された。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のノロウイルス検出用材料および該材料を用いるノロウイルス検出方法は、食品の分析機関や河川水、下水処理水、海水などの環境水を管理する下水処理場等において、幅広く利用することができる。また、大学や研究所などのノロウイルスを試料として試験・研究を行う機関においても、有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔容積が0.2〜2.5ml/g、比表面積が20〜900m2/g、平均細孔径が1〜1000nmであるシリカゲルを含むノロウイルス検出用材料。
【請求項2】
細孔容積が1.0〜1.8ml/g、比表面積が100〜700m2/g、平均細孔径が5〜50nmであるシリカゲルを含むノロウイルス検出用材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のノロウイルス検出用材料を用いるノロウイルス検出方法。
【請求項4】
試料に含まれる夾雑物を請求項1または2に記載のノロウイルス検出材料に吸着させ、ノロウイルス検出のための前処理を行う請求項3に記載のノロウイルス検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載の前処理を行った後の試料を用い、該試料に含まれるノロウイルスのRNAを鋳型として、PCR法によって増幅させることによる請求項3に記載のノロウイルス検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−155919(P2011−155919A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20833(P2010−20833)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度地域イノベーション創出研究開発事業(海水製氷システムを用いた広島かきを夏場でも生食できる研究開発)(産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】